説明

大腸菌を用いた酵素反応方法

【課題】界面活性剤や有機溶媒等で細胞を用いることなく大腸菌内に酵素の基質を取り込ませて該細胞内で酵素反応を生じさせる。
【解決手段】本発明に係る酵素反応方法は、好熱菌の酵素の遺伝子を含む大腸菌を、大腸菌の通常の酵素が活性を失い、かつポリリン酸の細胞透過性が得られる条件で、加熱して該大腸菌の細胞膜を破壊した状態で、該細胞内に前記酵素の基質であって、加熱後の細胞壁を透過する基質を透過させて、該酵素と該基質とを反応させ、該酵素が、70℃,10分間の処理で活性が消滅しないものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はバイオプロセスに於いて、大腸菌を用いてリン酸化反応を生じさせる方法であって、更に具体的には、大腸菌内でポリリン酸とポリリン酸キナーゼを使って任意の物質をリン酸化する方法である。
【背景技術】
【0002】
生物反応の多くは自由エネルギー変化が正であり、本来自発的には起こらない。しかし、生体エネルギーであるアデノシン三リン酸(ATP)の加水分解が共役することにより、全体の自由エネルギー変化が負になり、自発的に反応が起こるようになることが知られている(ATPの共役反応)。
【0003】
酵素を触媒とした物質の工業的生産が可能となっている。しかし、自由エネルギー変化が正であったり、ATPを利用したリン酸化工程を含む場合、ATPを再生する反応(ATP再生系)が必要である。
【0004】
容易に化学合成でき,食品添加物としても利用されているポリリン酸はATPと同じ高エネルギーリン酸結合を持つ物質で、ポリリン酸をリン酸供与体としたATP再生系が構築されている。例えば、ポリリン酸をリン酸供与体としてAcinetobacter johnsonii由来のポリリン酸:AMPリン酸転移酵素によってADPに変換され、生成した2分子のADPは大腸菌由来のアデニル酸キナーゼによって1分子のATPとAMPに変換される(非特許文献1参照)。この再生系を利用し、ガラクトキナーゼによるガラクトース1−リン酸の合成に成功している。
【0005】
上記非特許文献1に記載の反応方法では、利用される酵素は微生物や組み換え大腸菌から取り出され、精製された酵素が使われている。しかし、この精製工程は煩雑な作業を必要とすることから、大腸菌の中に存在するポリリン酸キナーゼ(ポリリン酸をリン酸供与体としてADPをATPに変換する酵素)を細胞の中から取り出さずに利用する方法も知られている(非特許文献2参照)。即ち、細胞を界面活性剤等で処理し、細胞膜を破砕することにより、ポリリン酸の細胞内への透過を可能にしている。その後、ポリリン酸を添加して、細胞内へ取り込ませ、細胞の中でATPを再生させている。
【0006】
この非特許文献2に記載の方法では、ポリリン酸によるATP再生系を利用して、ジペプチドを大腸菌内で直接かつ不可逆的に結合させる新製法を開発している。この方法により、安価で大量にジペプチドが供給できるようになっている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】生物工学会誌Vol.80, No.12, Page590 (2002)
【非特許文献2】バイオサイエンスとインダストリーVol.63, No.8, Page555-556 (2005)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、非特許文献2に記載の方法に於いても、いくつかの問題点が残されている。即ち、ポリリン酸を細胞内へ取り込ませるために、界面活性剤や有機溶媒等で細胞を処理する必要がある。この作業は本来細胞内に取り込まないポリリン酸を細胞の中に取り込ませるために必要な工程である。しかしながら、界面活性剤は不純物として生産物に混入すると、問題を引き起こす物質である。
【0009】
また、細胞の中にはポリリン酸を加水分解する酵素が存在したり、反応を行わせる上で副産物を生成する酵素が多数存在するという問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る酵素反応方法は、好熱菌の酵素の遺伝子を含む大腸菌を、大腸菌の通常の酵素が活性を失い、かつポリリン酸の細胞透過性が得られる条件で、加熱して該大腸菌の細胞膜を破壊した状態で、該細胞内に前記酵素の基質であって、加熱後の細胞壁を透過する基質を透過させて、該酵素と該基質とを反応させ、該酵素が、70℃,10分間の処理で活性が消滅しないものであることを特徴としている。
【0011】
本発明に係る酵素反応方法は、前記大腸菌を、60℃〜80℃で加熱することが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明を用いれば、不純物である界面活性剤を用いなくてもポリリン酸を細胞の中に透過させることができ、かつ細胞内で副産物を生成する酵素が多数存在するという問題を安全に回避できる。また、Xキナーゼのみを変えることによって、数多くの物質Xのリン酸化にも対応できる汎用宿主となる。この汎用宿主は、安価で安全なポリリン酸をリン酸化の基質として広く工業的に利用することを可能にするという効果をもたらす。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の概略反応工程図
【図2】pETPPKの構成図を示す概念図
【図3】Thermus thermophilusポリリン酸キナーゼの耐熱活性を示すグラフ
【図4】大腸菌ポリリン酸キナーゼとThermus thermophilusポリリン酸キナーゼの至適温度の比較を示すグラフ
【図5】大腸菌ポリリン酸キナーゼとThermus thermophilusポリリン酸キナーゼの耐熱性の比較を示すグラフ
【図6】pETPFKの構成を示す概念図
【図7】精製したポリリン酸キナーゼとホスホフルクトキナーゼによるフルクトース1,6二リン酸の合成反応を示すグラフ
【図8】pACYCPFKの構成を示す概念図
【図9】耐熱性ポリリン酸キナーゼとホスホフルクトキナーゼを発現する大腸菌を用いて、フルクトース1,6二リン酸の合成
【発明を実施するための形態】
【0014】
〔ポリリン酸キナーゼ〕
ポリリン酸キナーゼとはEC(enzyme commission)番号がEC2.7.4.1の酵素であり、ポリリン酸とADPからATPを合成する。ポリリン酸キナーゼの種類によっては逆反応も起こる場合があるが、本発明に於いては限定されない。
【0015】
発明者は大腸菌の通常の酵素が活性を失う70℃で10分程度の加熱処理でも、活性が維持されるポリリン酸キナーゼを見つけるために、すでに染色体DNAの配列が決定され、データベース(DDBJ)に登録されているThermus thermophilus HB27の染色体DNAの配列をもとに、大腸菌のポリリン酸キナーゼと似ている遺伝子配列を探した。その結果、Thermus thermophilusには大腸菌ポリリン酸キナーゼと約30%の相同性を有する遺伝子(番号TTC0637)を見いだした。
【0016】
ここでThermus thermophilusを選んだ理由は、この菌が好熱菌に分類されるからである。一般に好熱菌とは、至適生育温度が45℃以上の微生物であり、好熱菌の酵素は耐熱性の酵素が多いと言われている。特にThermus thermophilusは65〜85℃でも生育可能な微生物であり、目的の耐熱性ポリリン酸キナーゼを持つと期待できた。
【0017】
Thermus thermophilusのポリリン酸キナーゼ遺伝子を大腸菌に於いて発現させ、活性を測定した結果、70℃で10分程度の加熱処理では活性を失わないことを確認した。Thermus thermophilusのポリリン酸キナーゼは至適温度を70℃付近に持ち、37℃における大腸菌のポリリン酸キナーゼと同程度の比活性を持つことを確認した。これにより、高温でのATP再生系が構築できると考えられた。
【0018】
ただし、本発明に用いられるポリリン酸キナーゼは、大腸菌の通常の酵素が活性を失い、かつポリリン酸の細胞透過性が得られる加熱条件で、その活性が維持されるものであれば、その由来は特に限定されず、細菌、酵母、動物、植物など、いずれの生物であっても良い。
【0019】
〔耐熱性ポリリン酸キナーゼを発現する大腸菌〕
Thermus thermophilusのポリリン酸キナーゼ遺伝子を大腸菌に於いて発現させた後、70℃で10分程度の加熱処理を行い、遠心分離して上清と菌体を含む沈殿物に分けた。上清と沈殿物にそれぞれ、ポリリン酸とADPを加えた結果、沈殿物にポリリン酸とADPからATPを合成する活性が認められた。その結果、Thermus thermophilusのポリリン酸キナーゼ遺伝子を発現させた大腸菌を、70℃で10分程度の加熱処理に晒すことにより、ポリリン酸とADPを細胞の中に透過させることができるようになることを確認した。
【0020】
〔加熱条件〕
加熱条件は、70℃で10分程度の加熱処理を例示するが、80℃で5分程度の加熱処理でもよい。逆に60℃の比較的低温で加熱処理する場合、時間を長くすればよい。加熱条件は、大腸菌の通常の酵素が活性を失い、かつポリリン酸の細胞透過性が得られる条件であれば、特に限定されない。
【0021】
〔Xキナーゼ〕
本発明では物質Xをリン酸化する工程を含むことを特徴とする。物質Xをリン酸化する酵素をXキナーゼとする。XキナーゼはATPを利用して物質Xをリン酸化し、ADPを生じさせる。生成したADPはポリリン酸と耐熱性ポリリン酸キナーゼによってATPへと再生される。全体の反応を考えた場合、Xキナーゼとポリリン酸キナーゼによって、物質Xをポリリン酸でリン酸化することになる。
【0022】
本発明では耐熱性ポリリン酸キナーゼを発現する大腸菌の中に導入するXキナーゼを変えることによって、あらゆる物質Xのリン酸化に対応できることを示すために、フルクトース6リン酸を物質Xとし、フルクトース6リン酸からフルクトース1,6二リン酸へ変換する工程を例示する。フルクトース1,6二リン酸は虚血性心疾患の薬として期待される物質である。この場合のXキナーゼはホスホフルクトースキナーゼであるが、物質Xとそれに対応したXキナーゼは特に限定されるものでない。
【0023】
〔ホスホフルクトースキナーゼ〕
ホスホフルクトースキナーゼとはEC2.7.1.56の酵素であり、ATPとフルクトース6リン酸からADPとフルクトース1,6二リン酸を合成する。
【0024】
発明者は大腸菌の通常の酵素が活性を失う70℃で10分程度加熱処理でも、活性が維持されるホスホフルクトースキナーゼを見つけるために、Thermus thermophilusのDNAの配列を元に、Propionibacterium freudenreichiiのホスホフルクトースキナーゼ(P29495)と相同性を有する遺伝子を探した。その結果、約28%の相同性を有する遺伝子(遺伝子番号TTC1597)を見いだした。
【0025】
ここでThermus thermophilusを選んだ理由はこの菌が好熱菌に分類されるからである。特にThermus thermophilusは65〜85℃でも生育可能な微生物であり、耐熱性のホスホフルクトースキナーゼを持つと期待できた。
【0026】
Thermus thermophilusのホスホフルクトースキナーゼ遺伝子を大腸菌に於いて発現させ、活性を測定した結果、70℃において、ATPとフルクトース6リン酸からADPとフルクトース1,6二リン酸を合成することを確認した。
【0027】
ただし、本発明に用いられるホスホフルクトースキナーゼは、大腸菌の通常の酵素が活性を失い、かつポリリン酸の細胞透過性が得られる加熱条件でも、その活性が維持されるものであれば、その由来は特に限定されず、細菌、酵母、動物、植物など、いずれの生物であっても良い。
【0028】
〔耐熱性ポリリン酸キナーゼと耐熱性ホスホフルクトースキナーゼ遺伝子を発現する大腸菌〕
Thermus thermophilusのポリリン酸キナーゼ遺伝子を保持する大腸菌にホスホフルクトースキナーゼ遺伝子を発現するプラスミドを導入した。両遺伝子を発現する大腸菌を、70℃で10分程度の加熱処理を行い、ポリリン酸とフルクトース6リン酸を加えた結果、フルクトース1,6二リン酸を生産することを確認した。
【0029】
本発明者は、これらの問題点の全て解決する方法として、好熱菌のポリリン酸キナーゼを利用するものである。即ち、好熱菌のポリリン酸キナーゼ遺伝子を導入した大腸菌を加熱処理(70℃で10分程度加熱)することにより細胞膜を破壊し、これにより界面活性剤を使用することなくポリリン酸を外部から細胞内に導入し、ATPを再生する用にしたものである。
【0030】
また、リン酸化したい物質(X)をリン酸化する酵素(以下「Xキナーゼ」と記載する。)をポリリン酸キナーゼと同時に発現させることにより、大腸菌の細胞の中でXをリン酸化させることができる。ここでXキナーゼ以外の大腸菌由来の酵素は、加熱処理によって活性が消失するので、目的のリン酸化反応だけがポリリン酸で行えるようになる。これにより、副産物を生成する酵素が多数存在するという問題が解決できることになる。
【0031】
好熱菌のポリリン酸キナーゼとXキナーゼの遺伝子を導入した大腸菌は、Xキナーゼのみを変えることによって数多くの物質Xのリン酸化に対応できる。好熱菌のポリリン酸キナーゼを導入した大腸菌は数多くの物質Xをリン酸化するための汎用宿主となる。本発明の概略を図1に示す。
【実施例】
【0032】
〔実施例1:耐熱性ポリリン酸キナーゼを発現するプラスミドの構築〕
先ず、Thermus thermophilusのポリリン酸キナーゼを発現する大腸菌の構築を行った。データベース(DDBJ)に登録されているThermus thermophilus HB27のDNAの配列の中からDDBJの遺伝子検索ソフトによって大腸菌のポリリン酸キナーゼと似ている配列を探した。その結果、Thermus thermophilus HB27には大腸菌ポリリン酸キナーゼと30%の相同性を有する遺伝子(TTC0637)を見いだした。
【0033】
2種のオリゴヌクレオチドプライマーGGAATTCCATATGCACCTCCTTCCCGAAGC(NdeIサイト付加、配列番号3)およびGAAGTCGACTAGCTCCAGGCGCTGGGCGT(SalIサイト付加、配列番号4)を作製し、Thermus thermophilusの染色体DNAを鋳型としてPCRを行った。反応はKOD Plus DNAポリラーゼ(タカラバイオ)を用いた。反応条件は、96℃で2分間保持した後、94℃で30秒間、59℃で30秒間、68℃で2分間の反応を10サイクル繰り返し、さらに94℃で30秒間、68℃で2分間の反応を25サイクル繰り返した。
【0034】
PCR産物および発現ベクターpET21-a(Novagen)を制限酵素NdeIおよびSalIにより37℃で2時間処理した後、アガロースゲル電気泳動を行った。ゲルから切り出したそれぞれのDNA断片をLigation High(TOYOBO)により16℃で2時間ライゲーションし、大腸菌MV1184株に形質転換した。得られたコロニーから目的のDNA断片が挿入されたプラスミドを抽出し、pETPPKを構築した。図2にpETPPKの構成を示した。
【0035】
〔実施例2:耐熱性ポリリン酸キナーゼの発現および精製〕
pETPPKによって形質転換したBL21(Rosetta) (Novagen)を、LB培地でOD600が0.5になるまで37℃で培養後、0.2mM IPTGを添加してさらに22℃で8時間培養を行った。集菌後、超音波で破砕を行い、70℃で10分間熱処理を行った。その後、遠心し、上清をHisTrap HP 1ml(アマシャムバイオサイエンス)カラムにより精製を行った。50mMのイミダゾールを含む緩衝液A(20mMリン酸ナトリウム pH7.4,0.5M NaCl,15%グリセロール)10mlで洗浄後、0.5Mイミダゾールを含む緩衝液Aで溶出した。最終的に融合タンパク質を含む1mlのフラクションを得た。
【0036】
【表1】

【0037】
〔実施例3:耐熱性ポリリン酸キナーゼの活性〕
5mMポリリン酸(シグマ社ホスフェートグラスP65)、80μMADP、50mM HEPES・KOH(pH7.2)、40mM (NH4)2SO4,4mM MgCl2 pH7.2を含む溶液を75℃に保温し、精製したポリリン酸キナーゼ(0.56mg)を添加した。経時的に溶液を分取し、合成されたATPをバイオルミネッセンスキット(ロッシュ)によって測定した。図3にThermus thermophilusのポリリン酸キナーゼによるATP合成反応を示す。75℃において、ポリリン酸とADPからATPが生成している。
【0038】
次にThermus thermophilusのポリリン酸キナーゼと大腸菌のポリリン酸キナーゼの最適温度を比較した。上述した条件で温度だけを変更して、各温度でのATP合成速度を測定した。大腸菌のポリリン酸キナーゼでは30℃〜40℃で最も活性が高く温度を上げるにつれて活性が低下した。それに対してThermusのポリリン酸キナーゼでは60〜80℃、特に70℃で最も高い活性を示すことが分かる。最適温度を図4に示す。
【0039】
次にThermus thermophilusのポリリン酸キナーゼと大腸菌のポリリン酸キナーゼの耐熱性を比較した。ADPを含まない上述条件において、30〜80℃の各温度で10分間保温した後に、ADPを添加してATP合成速度を測定した。加温前のATP合成速度を100%として表した。30〜40℃ではあまり差が見られず、50℃から大腸菌のポリリン酸キナーゼは大きく活性が低下し60℃以降では完全に活性が消失した。それに対しThermus thermophilusのポリリン酸キナーゼは50℃以上の温度でも活性が残っていた。各温度での熱処理後の残存活性のグラフを図5に示す。
【0040】
〔実施例4:耐熱性ホスホフルクトキナーゼ〕
Thermus thermophilusのホスホフルクトキナーゼを発現する大腸菌の構築を行った。データベース(DDBJ)に登録されているThermus thermophilus HB27のDNAの配列の中からDDBJの遺伝子検索ソフトによってPropionibacterium freudenreichiiのホスホフルクトースキナーゼ(P29495)と似ている配列を探した。その結果、Thermus thermophilusには大腸菌キナーゼと約28%の相同性を有する遺伝子(TTC1597)を見いだした。
【0041】
2種のオリゴヌクレオチドプライマーGGCCATATGAAACGCATCGGGGTGTT(NdeIサイト付加、配列番号5)およびTATAAGCTTGAGGGCCAGCACCTGCGATA(HindIIIサイト付加、配列番号6)を作製し、Thermus thermophilusの染色体DNAを鋳型としてPCRを行った。反応はKOD Plus DNAポリラーゼ(タカラバイオ)を用いた。反応条件は、94℃で2分間保持した後、94℃で15秒間、56℃で30秒間、68℃で90秒間の反応を35サイクル繰り返し、72℃で10分間保持した。
【0042】
PCR産物および発現ベクターpET21-b(Novagen)を制限酵素NdeIおよびHindIIIにより37℃2時間処理した後、アガロースゲル電気泳動を行った。ゲルから切り出したそれぞれのDNA断片をLigation High(TOYOBO)により16℃2時間ライゲーションし、大腸菌MV1184株に形質転換した。得られたコロニーから目的のDNA断片が挿入されたプラスミドを抽出し、pETPFKを構築した。図6にpETPFKの構成を示した。
【0043】
〔実施例5:耐熱性ホスホフルクトキナーゼの精製と活性〕
pETPFKで形質転換したBL21(Rosetta) (Novagen)を、2YT培地でOD600が0.5になるまで28℃で培養後、0.5mM IPTGを添加して更に7時間培養を行った。集菌後、リゾチームと超音波で破砕を行い、遠心上清をHisTrap HP1ml(アマシャムバイオサイエンス)カラムにより精製を行った。10mMのイミダゾールを含む緩衝液A(20mMリン酸ナトリウム pH7.4,0.5M NaCl,15%グリセロール)10mlで洗浄後、0.5Mイミダゾールを含む緩衝液Aで溶出した。最終的に融合タンパク質を含む1mlのフラクションを得た。
【0044】
10mMポリリン酸(シグマ社ホスフェートグラスP65)、20mMフルクトース6リン酸、5mM ADP、50mM MOPS・NaOH(pH 6.5)、25mM KCl、5mM MgCl2を含む溶液を70℃に保温し、精製したポリリン酸キナーゼ5mg、ホスホフルクトキナーゼ5mgを添加した。経時的に溶液を分取し、合成されフルクトース1,6二リン酸をExtremophiles, 3, 121-129 (1999)に記載の方法によって測定した。
【0045】
同反応に於いて、ポリリン酸キナーゼを含まない反応を対象とした。その結果、ポリリン酸キナーゼとホスホフルクトキナーゼを含む反応ではフルクトース1,6二リン酸が合成され、ポリリン酸キナーゼを含まずホスホフルクトキナーゼのみを含む反応ではフルクトース1,6二リン酸が合成されないことが分かった。また、ポリリン酸を含まない反応系でもフルクトース1,6二リン酸は合成されない。このことから、ポリリン酸によってATPが再生され、それによってフルクトース1,6二リン酸が合成されていることがわかった。精製したポリリン酸キナーゼとホスホフルクトキナーゼによるフルクトース1,6二リン酸の合成反応を図7に示す。
【0046】
〔実施例6:耐熱性ポリリン酸キナーゼとホスホフルクトキナーゼを発現する大腸菌の構築〕
pETPPKとpETPFKは、それぞれポリリン酸キナーゼとホスホフルクトキナーゼを発現するプラスミドであるが、同じ大腸菌内では共存できない。そこで、ホスホフルクトキナーゼ遺伝子をpETベクターと共存できるpACYCプラスミドへ移した。方法は2種のオリゴヌクレオチドプライマーGAAGAATTCAATGAAACGCATCGGGGTGTT(EcoRIサイト付加、配列番号7)およびTATAAGCTTGAGGGCCAGCACCTGCGATA(HindIIIサイト付加、配列番号8)を作製し、pETPFKを鋳型としてPCRを行った。反応はKOD Plus DNAポリラーゼ(タカラバイオ)を用いた。反応条件は、96℃で2分間保持した後、94℃で30秒間、55℃で30秒間、68℃で1分間の反応を10サイクル繰り返し、更に94℃で30秒間、61℃で30秒間、68℃で1分の反応を15サイクル繰り返した。
【0047】
PCR産物および発現ベクターpACYC(Novagen)を制限酵素EcoRIおよびHindIIIにより37℃2時間処理した後、アガロースゲル電気泳動を行った。ゲルから切り出したそれぞれのDNA断片をLigation High(TOYOBO)により16℃2時間ライゲーションし、大腸菌MV1184株に形質転換した。得られたコロニーから目的のDNA断片が挿入されたプラスミドを抽出し、pACYCPFKを構築した。図8にpACYCPFKの構成を示した。
【0048】
pETPPKを保持する大腸菌BL21 (Novagen)にpACYCPFKを導入した。pETPPKとpACYCPFKを同一菌体内に持つBL21 (Novagen)を、LB培地でOD600が0.5になるまで37℃で培養後、0.2mM IPTGを添加して22℃で8時間培養を行った。
【0049】
〔実施例7:耐熱性ポリリン酸キナーゼとホスホフルクトキナーゼを発現する大腸菌を用いたフルクトース6リン酸からフルクトース1,6二リン酸の合成〕
10mMポリリン酸(シグマ社ホスフェートグラスP65)、10mMフルクトース6リン酸、5mM ADP、50mM MOPS・NaOH(pH 6.5)、25mM KCl,5mM MgCl2を含む溶液を70℃に保温し、pETPPKとpACYCPFKを同一菌体内に持つBL21(DE3)の細胞(2 x 107)を混合した。
【0050】
経時的に溶液を分取し、合成されフルクトース1,6二リン酸を前記Extremophiles, 3, 121-129 (1999)に記載の方法によって測定した。耐熱性ポリリン酸キナーゼとホスホフルクトキナーゼを発現する大腸菌を用いて、フルクトース1,6二リン酸の合成が起こることを図9に示す。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明は、安価で安全なポリリン酸をリン酸化の基質として利用するバイオプロセスに応用可能である。特に煩雑な酵素の精製を必要とせず、かつ不純物である界面活性剤を用いなくてもポリリン酸を細胞の中に透過させることができ、かつ細胞内で副産物を生成する酵素が多数存在するという問題を回避できる点で有利である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
好熱菌の酵素の遺伝子を含む大腸菌を、大腸菌の通常の酵素が活性を失い、かつポリリン酸の細胞透過性が得られる条件で、加熱して該大腸菌の細胞膜を破壊した状態で、該細胞内に前記酵素の基質であって、加熱後の細胞壁を透過する基質を透過させて、該酵素と該基質とを反応させ、該酵素が、70℃,10分間の処理で活性が消滅しないものであることを特徴とする大腸菌を用いた酵素反応方法。
【請求項2】
前記大腸菌を、60℃〜80℃で加熱することを特徴とする請求項1に記載の酵素反応方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−115184(P2011−115184A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−63063(P2011−63063)
【出願日】平成23年3月22日(2011.3.22)
【分割の表示】特願2005−341514(P2005−341514)の分割
【原出願日】平成17年11月28日(2005.11.28)
【出願人】(504136568)国立大学法人広島大学 (924)
【Fターム(参考)】