説明

大豆ペプチド含有納豆およびその製造方法

【課題】糸引きが強く、味がよく、また品質が全体的に向上した納豆を製造するための方法を提供する。
【解決手段】本発明の「大豆ペプチド含有納豆」の製造方法の一つの態様は、原料大豆を水に浸漬する工程と、上記浸漬工程により得られた浸漬大豆を蒸煮する工程と、上記蒸煮工程により得られた蒸煮大豆に納豆菌および大豆ペプチドを添加する工程と、上記添加工程により得られた大豆を発酵させる工程とを含むことを特徴とする。前記大豆ペプチドは、原料大豆100重量部に対して0.01〜20.0重量部の範囲で添加されることが好ましい。また、本発明の製造方法において、納豆菌および大豆ペプチドの添加は、納豆菌および大豆ペプチドの混合液を用いて行われることが好適である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大豆ペプチド含有納豆およびその製造方法に関する。より詳しくは、納豆を製造する際の発酵工程の前に大豆ペプチドを添加することにより得られる大豆ペプチド含有納豆およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
納豆は、従来からご飯に付け合せる副食品として広く食されており、特に近年、栄養価の高い健康自然食品として注目され、多くの消費者の支持を集めている。そして、納豆の製造においては、消費者がおいしいと感じる納豆を製造することが常に求められている。
【0003】
かかる納豆の製造方法として、例えば、特許文献1(特開2006−21799号公報)には、食感、糸引き、風味などにバランスよく優れたおいしい納豆を製造するために好適な新規な納豆用容器や、当該納豆用容器を用いた納豆の製造方法および当該製造方法により得られる良質の納豆に関する発明が開示されている。
【0004】
また、特許文献2(特開2002−27937号公報)には、納豆の発酵工程終了後に当該納豆に調味料を添加し、発酵温度以上の温度で加熱保持することや、納豆の発酵工程終了後に当該納豆を、気密性を有する容器または袋に充填して密封した後、発酵温度以上の温度で加熱保持すること等を特徴とする、風味および保存性に優れた納豆の製造方法が開示されている。
【0005】
一方、大豆タンパク質の酵素分解物である大豆ペプチドは、摂取することにより、いわゆる善玉コレステロールの増加、エネルギー代謝の促進、筋肉疲労の予防や筋肉の増強、血圧上昇の抑制などの効果を有すると言われている。しかし、このような大豆ペプチドは、通常の納豆等の大豆発酵食品にはごく少量しか含有されていない。
【特許文献1】特開2006−21799号公報
【特許文献2】特開2002−27937号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、納豆の糸引き、味、食感、匂い等の品質を向上させることのできる納豆の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、納豆の発酵工程の前に大豆ペプチドを添加した場合、驚くべきことに、糸引きが強く、味がよく、その他の品質も全体的に向上した納豆が得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
かかる本発明の「大豆ペプチド含有納豆」の製造方法は、典型的には以下の2つの態様を有する。
1番目の態様(以下「第1態様」とよぶ。)は、原料大豆を水に浸漬する工程と、上記浸漬工程により得られた浸漬大豆を蒸煮する工程と、上記蒸煮工程により得られた蒸煮大豆に納豆菌および大豆ペプチドを添加する工程と、上記添加工程により得られた大豆を発酵させる工程とを含むことを特徴とする。
【0009】
また、2番目の態様(以下「第2態様」とよぶ。)は、原料大豆を水に浸漬する工程と、
上記浸漬工程により得られた浸漬大豆に大豆ペプチドを添加する工程と、上記添加工程により得られた大豆を蒸煮する工程と、上記蒸煮工程により得られた蒸煮大豆に納豆菌を植菌する工程と、上記植菌工程により得られた大豆を発酵させる工程とを含むことを特徴とする。
【0010】
本発明における大豆ペプチドは、上記1番目および2番目のいずれの態様であっても、原料大豆100重量部に対して0.01〜20.0重量部の範囲で添加されることが好ましい。また、本発明の製造方法の第1態様における納豆菌および大豆ペプチドの添加は、納豆菌および大豆ペプチドの混合液を用いて行われることが好適である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の製造方法によれば、納豆の糸引き、味、食感、匂いといった納豆そのものの特徴をよい方向に向上させることができる。さらに、納豆の日持ちを延ばす、具体的には、納豆が劣化する時の特有の現象であるチロシンの析出を抑制することもできる。また、そのような製造方法により得られる大豆ペプチド含有納豆を食することにより、大豆ペプチドやナットウキナーゼを豊富に摂取することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の大豆ペプチド含有納豆の製造原料、製造方法等について、順次詳細に説明する。
製造原料
本発明の納豆の原料となる大豆としては、一般的な納豆の製造に用いられる場合と同様のものを用いることができ、例えば、均質の小粒ないし極小粒の丸大豆などが好適である。乾燥した大豆を挽き割って皮を取り除いたひきわり大豆を使用してもよい。また、本発明における納豆菌としては、例えば市販の納豆菌液として市販されているものなど、公知慣用の納豆菌を用いることができる。
【0013】
一方、本発明で用いられる「大豆ペプチド」とは、大豆タンパク質の酵素分解物である。本発明においては、大豆ペプチドの調製・入手方法は特に限定されるものではない。例えば、大豆を脱脂して脱脂豆乳を製造した後、これをそのままタンパク質分解酵素により処理するか、あるいはさらに大豆タンパク質を分離してこれを酵素処理することにより得ることができる。また、精製した大豆ペプチドも市販されており、例えば、不二製油社製「ハイニュート」などの商品が挙げられる。
【0014】
製造方法
本発明の製造方法は、原料の大豆を水に浸漬する工程(浸漬工程)に続いて、蒸煮、大豆ペプチドの添加および納豆菌の添加(植菌)のための工程を経た後、納豆菌および大豆ペプチドが添加された蒸煮大豆を発酵させる工程(発酵工程)を含むものであり、また、必要に応じてその他の工程を含んでいてもよい。
【0015】
本発明における「蒸煮、大豆ペプチドの添加および納豆菌の添加(植菌)のための工程」としては、例えば、以下の第1および第2態様が典型的なものとして挙げられる。
本発明の第1態様では、浸漬工程に続いて蒸煮工程を行った後に、大豆ペプチドおよび納豆菌を添加して、発酵工程を行う。一方、本発明の第2態様では、浸漬工程に続いて、大豆ペプチドを添加してから蒸煮工程を行い、その後植菌して、発酵工程を行う。
【0016】
このような本発明の大豆ペプチド含有納豆の製造方法を図1(第1態様)および図2(第2態様)のフローチャートに例示するが、本発明の製造方法はこれらの態様に限定されるものではなく、本発明による効果が得られる範囲において改変することができる。以下、本発明の製造方法における各工程について順次説明する。
【0017】
・浸漬工程
原料の大豆を水に浸漬する工程において、水への浸漬時間は、大豆が水を十分に吸収するよう、使用する大豆または水温に応じて適宜調整することができる。一般的には、常温の水に1時間以上、好ましくは10時間以上浸漬させることにより、大豆は十分に膨潤する。
【0018】
・蒸煮工程・大豆ペプチドおよび納豆菌の添加工程
本発明における浸漬大豆を蒸煮する工程では、使用する大豆の種類に応じた方法および条件を採用することができる。一般的には、蒸煮は、100℃以上の温度、0.5〜3k
g/cm2の圧力で、1分〜2時間かけて行われる。より具体的には、例えば、5分間の
熱交換により温度を125℃まで上昇させ、次いで5分間の加圧により圧力を1kg/cm2まで高め、この圧力を保持したまま3.5分間蒸煮した後、1分間かけて減圧すればよい。
【0019】
また、本発明における大豆ペプチドの添加量は、原料大豆1kgに対して、通常は0.01〜500g、好ましくは0.1〜200g、特に好ましくは1.0〜80gの割合である。このような範囲で大豆ペプチドを添加することにより、納豆の糸引きや味等の品質の向上が良好なものとなる。
【0020】
一方、本発明における納豆菌の添加(植菌)については、従来の納豆を製造する場合と同様の方法、添加量等の条件に従って、市販の納豆菌液を用いるなどして行うことができる。
【0021】
本発明では、蒸煮方法や、大豆ペプチドおよび納豆菌を添加する方法は特に制限されるものではなく、公知の技術を適宜利用することができる。
本発明の第1態様は、蒸煮工程の後に、大豆ペプチドおよび納豆菌を添加する工程を行うものである。そして、大豆ペプチドおよび納豆菌(または市販の納豆菌液)を含有する混合液を調製した後にこれを蒸煮大豆に添加する方法を、好適な手段として採用することができる。
【0022】
上記の混合液を調製して用いる場合、その添加量は、原料大豆1kgに対して、通常25〜100mL、好ましくは50〜75mLの割合である。混合液の添加量が少なすぎると納豆菌や大豆ペプチドを蒸煮大豆全体に均一に添加することができず、逆に多すぎると、水分量が過多となり発酵工程等において不具合が生じるおそれがある。
【0023】
このような混合液は、例えば、上述のような原料大豆に応じた所定の量の水(温水または冷水、好ましくは50〜80℃の温水)に、同じく上述のような所定の量の大豆ペプチドと、納豆菌(例えば、水の0.01〜1体積%程度)を添加し、十分に撹拌、混合するようにして調製すればよい。なお、大豆ペプチド、納豆菌、水等を混合する順序に制限はない。
【0024】
なお、本発明の第1態様では、上述のような混合液を調製せずとも、大豆ペプチド溶液および納豆菌液を個別に用意し、それぞれの液を同時にまたは順次添加するようにしてもよい。そのような場合にも、大豆ペプチド、納豆菌、水の添加量は、上述のような条件を満たすよう適宜調整することができる。
【0025】
一方、本発明の第2態様は、浸漬大豆に大豆ペプチドを添加してから蒸煮し、この蒸煮工程の後に納豆菌を添加(植菌)する。
浸漬大豆に大豆ペプチドを添加する際は、前述のような所定の量の大豆ペプチドを、原
料大豆1kgに対して、通常2000〜2500mL、好ましくは2200〜2300mLの割合の量の水とよく混合し、この混合液を浸漬大豆に添加するようにすればよい。
【0026】
大豆ペプチドを添加した後の蒸煮のための条件は、前述の第1態様についての条件と同様である。さらに、植菌のための条件も前述の第1態様と同様であり、例えば、0.01〜1体積%の納豆菌を含有する植菌液を前述のような所定の量、添加すればよい。
【0027】
・発酵工程
納豆菌および大豆ペプチドが添加された蒸煮大豆を発酵させる工程では、従来の納豆を製造する際に用いられている一般的な発酵方法および条件を採用することができ、通常は、室温〜60℃で、1〜50時間かけて発酵させればよい。
【0028】
なお、上記発酵工程は、一般的には、納豆菌および大豆ペプチドが添加された蒸煮大豆を納豆容器に充填してから行われる。容器の大きさや材質は、市販する際の容器のサイズやデザイン等に応じて適宜設定することができる。
【0029】
・任意工程
本発明の製造方法は、上記発酵工程の終了後、さらに熟成させる工程等を含んでもよい。本発明における熟成工程では、従来の納豆を製造する際に用いられている一般的な熟成方法および条件を採用することができ、通常は、0〜10℃で10〜100時間程度熟成させればよい。このような熟成工程により、納豆の旨味成分が引き出され、より美味しい納豆を得ることができる。
【0030】
実施例等
以下、実施例等に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に何ら限定されるものではない。
[比較例1]
【0031】
原料となる乾燥大豆を常温の水に20時間浸漬させた後、得られた浸漬大豆を温度128℃、圧力1.8kg/cm2で40分間蒸煮した。次に、得られた蒸煮大豆1俵分に、
市販の納豆菌液(宮城野納豆菌、有限会社宮城野納豆製造所)1ccと、約80℃の温水5Lとを混合して調製した混合液(植菌用希釈納豆菌液)を添加した。その後、発泡ポリスチレン製の納豆容器に50gずつ盛り込み、約40℃で約20時間発酵させた。
【実施例1】
【0032】
原料となる乾燥大豆を常温の水に20時間浸漬させた後、得られた浸漬大豆を温度128℃、圧力1.8kg/cm2で40分間蒸煮した。次に、得られた蒸煮大豆1俵分に、
市販の納豆菌液(宮城野納豆菌、有限会社宮城野納豆製造所)1ccと、大豆ペプチド(不二製油株式会社、ハイニュート‐S)300gと、約80℃の温水5Lとを混合して調
製した混合液(植菌用希釈納豆菌液)を添加した。その後、発泡ポリスチレン製の納豆容器に50gずつ盛り込み、約40℃で約20時間発酵させた。
【0033】
(評価試験)
上記比較例1および実施例1で得られた納豆について、糸引き性、菌の被り、味、匂いおよび風味を評価した。評価基準は、比較例1を基準として、実施例1が比較例1と比べて、優れている場合には◎、若干優れている場合には○、差が無い場合には△、劣っている場合には×とした。
【0034】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の大豆ペプチド含有納豆の製造方法の第1態様の例を示す工程フローチャート
【図2】本発明の大豆ペプチド含有納豆の製造方法の第2態様の例を示す工程フローチャート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料大豆を水に浸漬する工程と、
上記浸漬工程により得られた浸漬大豆を蒸煮する工程と、
上記蒸煮工程により得られた蒸煮大豆に納豆菌および大豆ペプチドを添加する工程と、
上記添加工程により得られた大豆を発酵させる工程と
を含むことを特徴とする大豆ペプチド含有納豆の製造方法。
【請求項2】
前記添加工程における納豆菌および大豆ペプチドの添加が、納豆菌および大豆ペプチドの混合液を用いて行われることを特徴とする、請求項1に記載の大豆ペプチド含有納豆の製造方法。
【請求項3】
原料大豆を水に浸漬する工程と、
上記浸漬工程により得られた浸漬大豆に大豆ペプチドを添加する工程と、
上記添加工程により得られた大豆を蒸煮する工程と、
上記蒸煮工程により得られた蒸煮大豆に納豆菌を植菌する工程と、
上記植菌工程により得られた大豆を発酵させる工程と
を含むことを特徴とする大豆ペプチド含有納豆の製造方法。
【請求項4】
前記大豆ペプチドが、原料大豆100重量部に対して0.01〜20.0重量部の範囲で添加されることを特徴とする、請求項1または3に記載の大豆ペプチド含有納豆の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の製造方法により得られることを特徴とする、大豆ペプチド含有納豆。

【図1】
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【図2】
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