説明

天然の塩代替物

ヒトの食事中のNaClのかなりの部分に代用する塩代替物、及びその製造方法を提供する。該代替物は、天然物質のみを含む脱風味し退色させたトマト漿液から製造され、トマトに由来する固形物を含む透明の液体であってよく、さらに、減少した糖含有量を有しうる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脱風味し退色させたトマト漿液を含む、食品において使用するための天然の塩代替物に関する。該代替物は、食品の官能特性を低下させることなくヒトの食事中のNaClのかなりの部分に代用することができる。
【背景技術】
【0002】
米国の成人人口の約4分の1が高血圧を患っている。高い血圧は心臓血管疾患及び他の疾患の危険性の増加と関連しており、その管理はライフスタイルの改善と組み合わせた適切な投薬療法を必要とする。ナトリウム摂取の制限はライフスタイルの変更に重要な役割を果たす。ある場合には、減量を伴った食事性ナトリウムの制限が、薬物療法を不必要にさえし得る(The Merck Manual 17th Ed.,1999,1634頁)。世間一般に推奨されている食事性ナトリウムの1日の限度は約2.5グラムであるが、米国の成人は通常4から6グラムを摂取している。したがって、塩化ナトリウム代替物を、食品の官能特性に負の影響を及ぼすことなく、少なくとも部分的に食塩に代用することが求められている。
【0003】
塩化ナトリウム(NaCl)を塩化カリウム(KCl)に置き換えることが最も簡単なように思われるが、KClは苦味を与えるため、更なる成分の添加によって苦味を抑える必要がある。米国特許第5,626,904号及び米国特許第6,541,050号には、マグネシウム塩及び硫酸塩をKClにそれぞれ添加した純粋に無機の混合物が記載されている。米国特許第4,963,387号及びEP766927では、乳清由来のKCl成分及びマグネシウム塩をそれぞれカルボン酸と混ぜている。WO05/086566ではKClの後味をポリエチレングリコールで隠しているが、米国特許出願第2006/24422号ではアスパルテーム誘導体で隠している。
【0004】
また、KClを含まない食塩代用組成物も記載されている。米国特許第4,066,799号ではグルタメートと組み合わせたグリシンアミドが開示されており、EP813820ではトレハロース、米国特許第6,013,298号ではグルコン酸ナトリウムが開示されている。WO05/006881では口内の塩受容体に作用する際の人工アゴニストとしての種々な化学物質が提案されている。
【0005】
上記物質の欠点として、合成化学物質又は人工混合物を含む添加物に消費者を晒すことが挙げられ、これが医学的問題又は規制の問題につながる場合がある。これらの物質は、いくつかはより高濃度で毒性である場合があり、いくつかはアレルギーを誘発する場合があり、ある種の対象はこれらの物質の一部(例えば、トレハロース)に不耐性を示す。したがって、本発明の目的は、天然物質を含む塩代替物を提供することである。
【0006】
本発明の別の目的は、食品において使用するための、非毒性及び非アレルギー性であろう食塩用代替物を提供することである。
【0007】
本発明の他の目的及び利点は、説明が進むにつれて明らかになるであろう。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、脱風味し退色させたトマト漿液(DDTS)を含む、食品において使用するための天然の塩代替物を提供する。該塩代替物は、処理されたトマト漿液から本質的に成り、トマトに由来する溶解性固形物を3.0重量%から80重量%の濃度で含む。一実施形態において、代替物は、本質的には透明の液体であってよく、トマト固形物の重量及び食品の重量を基準にして0.5重量%から6重量%の濃度で食品において使用される。好ましい実施形態において、本発明の代替物は、トマト由来の固形物を3.5重量%から80重量&、好ましくは55重量%から75重量%含む液体である。本発明の別の態様において、代替物は、脱風味し退色させたトマト漿液に由来する溶解性固形物を含む粉末である。本発明の一態様において、塩代替物は、化学的、生化学的又は他の処理、例えば、発酵、分離、又は酵素反応若しくは他の反応を含む方法によって得られる、出発物質と比較して減少したより低い糖含有量を有する。好ましい方法は、食用酵母を用いて発酵する工程を含む。
【0009】
本発明は、食塩代替物の製造方法であって、i)いたんでいないトマトを選択して洗浄し、洗浄したトマトを圧搾し、例えば50から90℃で加熱し、圧搾されたトマトをふるいにかけて1mmを超える粒子を除去することにより、粗製絞り汁から皮及び種を除去し、果肉を絞り汁から分離することにより、果肉の少ない絞り汁を得る工程;ii)果肉の少ない絞り汁を精密濾過によって清澄化させることにより、澄んだトマト漿液を得る工程;iii)前記澄んだ漿液を吸着物質、例えば樹脂、活性炭、及び他を用いて処理することにより、典型的なトマトの味及び色を有さない漿液(脱風味し退色させたトマト漿液)を得る工程;並びにiv)任意選択で、脱風味し退色させたトマト漿液(DDTS)をイオン交換カラムに通すことによって処理することにより、DDTSを脱酸する工程を含み、これにより液体食塩代替物を得る方法に関する。本発明の好ましい実施形態において、前記方法は、前記DDTS又は脱酸されたDDTSから水を除去し、最大で80重量%の絞り汁中の固形物濃度を得る工程をさらに含む。前記本発明による方法は、一実施形態において、DDTS又は脱酸されたDDTSを、例えば90から120℃の温度で約20から40秒間低温殺菌する工程をさらに含む。前記濃縮工程は、例えば、真空下、40から70℃の温度で実施してもよい。本発明の別の態様において、前記液体代替物を乾燥する更なる工程が含まれ、これにより粉末の天然の食塩代替物を得る。前記乾燥工程は、凍結乾燥、噴霧乾燥、流動床乾燥、又は任意の他の適切な乾燥形態を含むことができる。
【0010】
本発明の好ましい実施形態において、塩代替物の製造方法は、例えば、食用酵母を用いて処理することによって、糖含有量を減少させる工程をさらに含む。該糖減少工程は、工程i)からiv)、即ち、絞り汁から果肉を分離する工程、絞り汁を清澄化させる工程、吸着剤を用いて処理する工程、及び脱酸工程のいずれかに続いてよい。前記低い糖含有量を減少させる工程は、任意の栄養的に許容可能な形態の酵素を用いてトマトの絞り汁又は漿液を処理する工程を含むことができる。
【0011】
エンハンサー又は共力剤として作用するある種の添加物が代替物の官能特性及び嗅覚特性を改善することが見出されており、また、本発明の一部である。酵母抽出物は有用な添加物である。一実施形態において、本発明の方法は、酵母抽出物を、塩代替物の生成における中間体に、又は最終生成物に導入する工程も含む。酵母抽出物を、絞り汁から果肉を分離する工程の後の粗製絞り汁に添加してもよく、前記抽出物を、濃縮工程又は乾燥の前又は後に、澄んだトマト漿液に、又はDDTSの生成における任意の他の中間体に添加してもよい。
本発明は、さらに、DDTSを含む食品を対象とする。本発明により、上記DDTSを含む原液が提供される。本発明によるDDTSは、溶液又は懸濁液であってよく、又は、例えば粉末形態の固形物であってよい。本発明はまた、記載のようにDDTSを他の成分と共に、例えば、塩、繊維、スパイス、ハーブ、細胞抽出物等から選択されるアイテムと共に含む食品添加物も提供する。好ましい添加物は酵母抽出物である。
【0012】
本発明の上記及び他の特徴及び利点は、以下の実施例により、また、添付の図面を参照してより容易に明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の塩代替物の製造方法の工程を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
驚くべきことに、ここで、脱風味し退色させたトマト漿液(DDTS)は食品中の食塩に代用することができ、食品中の塩量のかなりの部分に代用することができることが見出された。
【0015】
さらに、トマト漿液の限外濾過、並びに色、典型的なトマト味、及び最終的には酸味の残りを除去する吸着剤及び任意選択でイオン交換カラムを用いる処理を含む新規の方法によって調製されるため、塩の一部分をDDTSで置き換えることによって食品の官能特性に負の影響を及ぼさないことがここで見出された。このように、天然の、低塩の、普遍的な塩代替物が提供される。
【0016】
トマト絞り汁の分画には、遠心分離、熱処理、濃縮、及び抽出を含めた様々な順序で適用される既知の技術が用いられ、ソース又は絞り汁又は食品添加物として使用するためのペースト、懸濁液、及び溶液が得られる。処理したフラクションはしばしば再度合せ、最終生成物、例えばトマト濃縮物が得られる。一般的な問題として、望ましくない味若しくは異臭、又はそのプロセスの間に形成される香気が挙げられる。米国特許第5,229,160では、加熱されたトマト片の向流抽出を含む、トマトの香気又は風味又は色を別々に保存するフラクションが提供される。WO2005/074715では、不快な味の問題を回避し、さらに安定した色を与えるトマト濃縮物が記載されており、濃縮された漿液を遠心沈渣と再度合せることによって濃縮物を生成している。米国特許第6,890,574号には、加水分解したトマト濃縮物を食品に添加することにより食品の風味を高める方法であって、濃縮物の長時間加熱によって、又は濃縮物へのプロテアーゼの添加によって加水分解を達成する方法が記載されている。濃縮物は、生成物にトマト風味を与えないようにするために、約0.5%とごく少量で食品に添加する必要がある。
【0017】
本発明は、無色溶液であって、溶液1kgあたり300gから800gの固形物を含むトマト濃縮物の製造方法に関する。本発明の方法は、選択したトマトを洗浄し、トマトを圧搾し、加熱し、ふるいにかけて約1mmを超える粒子を除去することにより、第1の(粗製)絞り汁を得、粗製絞り汁を2つの部分、即ち濃いトマト果肉及び果肉の少ないトマト絞り汁に分画する。果肉の少ないトマト絞り汁を、例えば500kDのフィルタでの精密濾過によって清澄化し、濾液を吸着剤で処理し、任意選択で、イオン交換カラムにかけ、色及び望ましくない風味を除去する。脱色された液体を、溶液1kgあたり300gから800gの固形物濃度に達するまで水分蒸発によって濃縮することにより、天然起原の低ナトリウムの液体塩代替物を得る。生成物の保存寿命は−18℃未満の温度で少なくとも6カ月である。
【0018】
本発明は、食品中の食塩をDDTS漿液によって少なくとも部分的に置き換える方法を提供する。いくつかの実施形態において、本発明により濃縮された漿液は、0.5重量%から5重量%(食品総重量あたりのDDTS固形物の重量)の濃度で食品に添加してよく、約0.5%のNaClを置き換える。DDTSは所望の塩味を提供し、さらに、最大で5重量%の濃度であっても食品にトマト味を付与しない。
【0019】
本発明は、天然産物に由来する食塩代替物であって、いかなる不快な味も与えず、又はトマト味を与えることもなく、さらに食品の色を変えることなくいずれの食品にも使用することができる食塩代替物を提供する。したがって、食品の官能特性を低下させることなく食事性の塩を少なくするための新規の普遍的な手段を食品産業に提供する。この新規な手段は、高血圧を患う個体に非常に重要であるだけでなく、より健康なライフスタイルを求める消費者にも有用であり、健康製品の市場での需要をより高める際に望ましい製品でもある。DDTS塩代替物は、野菜製品であるため、異物である化学物質を全く含まず、菜食主義者及び完全菜食主義者にも適切である。
【0020】
本発明を以下の実施例にさらに記載及び説明する。
【実施例】
【0021】
澄んだチキンスープ中の塩代替物の官能評価
総重量820グラムの皮の無い6本のチキンのドラムスティックを8リットルの水中で10分間加熱調理して余剰の脂肪を洗い落とし、続いて水を新しいものと取り換えて90分間加熱調理し、続いて最後に布フィルタに通すことにより、澄んだチキンスープを調製した。本発明に従って調製された、60%のDDTS固形物を含む溶液の形態の塩代替物を実験に用いた。通常は濃度が0.8%の食塩をスープに用いられようが、本実験では、通常の濃度の半分の濃度の比較サンプルを調製し、また、同様の低減した濃度の食塩を本発明の代替物(DDTS)と共に含むサンプルを調製した。官能評価用の2つのサンプルを以下のように調製した。
サンプルI−塩代替物不含:0.4w/w%の高純度食卓塩をスープに添加した。
サンプルII−塩代替物含有:0.4w/w%の高純度食卓塩及び3w/w%のDDTS。
【0022】
生ずる色の相違を隠すためにブラウンシュガーを両サンプルに添加した。サンプルを試験直前に60℃に煮立てた。
【0023】
試験は、52%の女性及び48%の男性で構成される18から55歳の60名の対象を含め、テルアビブ(イスラエル)にある市場調査及び技術センターで実施した。
以下の表は、尋ねた質問、及び肯定的な回答をした参加者の割合(1回目の質問、全体で100%を超え得る)又は2つの製品のうちいずれかを好む参加者の割合(2回目及び3回目の質問、全体で100未満であるべきである)を示す。
【表1】

【0024】
本発明による代替物を含む製品が、より味が良く、好ましく、そして塩気が強いと評価されたことが分かる。
【0025】
本発明をいくつかの具体例に関して記載したが、多くの修飾形態及び変形形態が可能である。したがって、添付の特許請求の範囲内で、具体的な記載とは別のやり方で本発明を実施することができることが理解されよう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
脱風味し退色させたトマト漿液(DDTS)を含む、食品において使用するための天然の食塩代替物。
【請求項2】
処理されたトマト漿液から本質的に成り、トマトに由来する固形物を3.0重量%から80重量%の濃度で含む、請求項1に記載の食塩代替物。
【請求項3】
本質的には透明の液体である、請求項1に記載の食塩代替物。
【請求項4】
重量%が前記トマト固形物の重量及び前記食品の重量を基準にしており、0.5重量%から6重量%の濃度で食品において使用するための、請求項2に記載の食塩代替物。
【請求項5】
固形物を3.0重量%から80重量%含む液体である、請求項1に記載の食塩代替物。
【請求項6】
固形物を55重量%から75重量%含む液体である、請求項5に記載の食塩代替物。
【請求項7】
前記DDTSが減少したより低い糖含有量を有する、請求項1に記載の食塩代替物。
【請求項8】
前記減少した含有量が、発酵、酵素反応、及び物理的方法又は化学的方法から選択される処理によって得られる、請求項7に記載の食塩代替物。
【請求項9】
食用酵母による発酵から得られる減少したより低い糖含有量を有する、請求項1に記載の食塩代替物。
【請求項10】
脱風味し退色させたトマト漿液に由来する固形物を含む粉末である、食塩代替物。
【請求項11】
食塩代替物の製造方法であって、
i)いたんでいないトマトを選択し、洗浄し;洗浄したトマトを圧搾し、加熱し;圧搾されたトマトをふるいにかけて1mmを超える粒子を除去することにより、粗製絞り汁から皮及び種を除去し;果肉を絞り汁から分離することにより、果肉の少ないトマト絞り汁を得る工程;
ii)前記果肉の少ないトマト絞り汁を精密濾過によって清澄化させることにより、澄んだトマト漿液を得る工程;
iii)前記澄んだ漿液を、吸着物質を用いて処理することにより、典型的なトマトの味及び色を有さない漿液(脱風味し退色させたトマト漿液)を得る工程;並びに
iv)任意選択で、該脱風味し退色させたトマト漿液(DDTS)をイオン交換カラムに通すことによって処理することにより、脱酸DDTSを得る工程;
を含み、これにより液体食塩代替物を得る方法。
【請求項12】
前記DDTS又は前記脱酸DDTSから蒸発により水を除去して最大で80重量%の絞り汁中の固形物濃度を得る工程をさらに含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
乾燥工程をさらに含み、これにより粉末の食塩代替物を得る、請求項11又は12に記載の食塩代替物の製造方法。
【請求項14】
前記乾燥工程が、凍結乾燥、噴霧乾燥、及び流動床乾燥から選択される技術を含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
食用酵母を用いて処理してより低い糖量を減少させる工程をさらに含み、該処理工程が工程i)からiv)のいずれか1つに続いてよい、請求項11に記載の方法。
【請求項16】
酵母抽出物を前記絞り汁又は前記粉末に導入する工程をさらに含む、請求項11又は12に記載の方法。
【請求項17】
請求項1に記載のDDTSを含む食品。
【請求項18】
請求項1に記載のDDTSを含む原液。
【請求項19】
溶液又は懸濁液である、請求項1に記載の脱風味し退色させたトマト漿液。
【請求項20】
粉末である、請求項1に記載の脱風味し退色させたトマト漿液。
【請求項21】
請求項1に記載のDDTS並びに、塩、繊維、薬味、酵母抽出物、及びハーブから選択される少なくとも1種の別の添加物を含む食品添加物。

【図1】
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【公表番号】特表2010−514440(P2010−514440A)
【公表日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−543574(P2009−543574)
【出願日】平成19年12月10日(2007.12.10)
【国際出願番号】PCT/IL2007/001522
【国際公開番号】WO2008/078315
【国際公開日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【出願人】(509178323)ガン シュムエル フーズ リミテッド (2)
【Fターム(参考)】