説明

天然アロフェンの精製方法および精製装置

【課題】湿式で天然アロフェンを抽出することにより、吸着性能に優れた天然アロフェンを高濃度にかつ工業的に安定して抽出する。
【解決手段】アロフェンを含む原材料(風化軽石)Aをホッパ1に入れ、これに硬水成分を含まない軟水Bをジェット水として吹付けて一次的に破砕し、続いて解砕機4により原材料Aと軟水Bとをさらに混合攪拌および解砕して、粒子が分散する原泥水を得る。そして、前記原泥水を沈降槽5に供給して所定時間静置し、ストークス則に従って目的粒径(2μm以下)のアロフェンが分散する上澄水Cを採水し、中間滞留水Dについては、これを回収して解砕機4へ戻して再び沈降処理する。上澄水Cは、天然アロフェンを高濃度に含んでいるので、そのまま液状アロフェンとして製品化でき、所望により、これに凝集材を加えて脱水機8で脱水してペースト状アロフェンFとし、さらに、乾燥機15で乾燥して粉末状アロフェンHとすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アロフェンを含む降下性火山噴出物の風化物から天然アロフェンを工業的に抽出するための精製方法および精製装置に関する。
【背景技術】
【0002】
塩基性ケイ酸アルミニウムであるアロフェン単体は、5nm程度の多孔質球形構造となっており、その開口縁部および中空内部に正負両極性に帯電した反応基が存在することから、重金属をはじめ、様々な物質の吸着性能を有することが知られている。ところで、天然アロフェンは、降下性火山噴出物の風化物、特に風化軽石に多く含まれており、従来一般には、これら降下性火山噴出物の風化物を原材料として、例えば、これに水酸化カルシウムを加えて浄化材として用い(例えば、特許文献1参照)、あるいはこれを造粒してそのまま吸着材として用いる(例えば、特許文献2参照)ようにしていた。
【0003】
しかるに、風化軽石にはアロフェン以外にも吸着性能のない多くの物質が含まれており、前記したように単に降下性火山噴出物の風化物を他の物質と混合し、または造粒しただけでは、アロフェンの吸着性能を十分に発揮させることができない、という問題があった。
【0004】
そこで最近、降下性火山噴出物の風化物から天然アロフェンを抽出することが種々検討されており、例えば、特許文献3には、アロフェン系火山灰土壌を乾燥して水分7%以下に、好ましくは5%以下に調整した後、不純物を壊さない程度に圧縮空気により粉砕して気流中に分散させ、分級点が20〜65μm、好ましくは20〜40μmで乾式気流分級することにより不純物を分離して組成式lAl23・mSiO2・nFe23(l:m:n=1:1.1〜1.4:0.05〜0.15)で表される化学組成比を有するアロフェンを高収率で分離精製することが提案されている。
【特許文献1】特開平5−137905号公報
【特許文献2】特開平6−154594号公報
【特許文献3】特開平7−291617号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、アロフェンは、200℃以上の高温に晒されると分子構造が変化してしまうため、その乾燥には低温乾燥が必要になり、工業的に大量処理にするには、天日乾燥が妥当となる。しかしながら、風化軽石で代表される降下性火山噴出物の風化物は、保水性がよく、その含水比が100%程度となっており、これを、上記したように水分7%以下に、好ましくは5%以下に天日乾燥しようとすると、回収率によっては精製量の数倍〜数十倍の土を乾燥させなければならず、広大なヤードが必要になって処理コストの増大が避けられないようになる。なお、原材料の含水比が高いままで乾式で取扱うと、容易に粘着質の泥状となって、機材に付着してしまうため、実質その分級は不可能になる。
【0006】
また、原材料の粉砕に圧力をかけすぎる場合にも、アロフェンの分子構造が変化するが、上記したように乾式で圧縮空気により粉砕する場合は、強い圧潰、衝撃などを伴うため、アロフェンが変質してしまう危険がある。
【0007】
さらに、アロフェンの吸着性能を十分に発揮させるには、粒径を2.0μm以下にするのが望ましい、といわれているが、乾式気流分級では、上記したように分級点20〜40μmが限度であり、このような分級精度では、不純物が多量に残ってしまい、所望の吸着性能を確保することが困難となる。
【0008】
なお、風化軽石には、アロフェンの前駆物質から枝分かれしたイモゴライトが存在し、風化軽石の表面を覆っている。このイモゴライトは、アロフェンと同様の反応基をもって吸着性能を有しており、したがって、このイモゴライトがアロフェンと共存していても、吸着性能の面では大きな影響はない、ただし、イモゴライト単体は、チューブ状となっており、その反応基は両端開口縁部および中空内部に存在するだけとなる。すなわち、イモゴライトは、多孔質球形構造の開口縁部および中空内部に反応基が存在するアロフェンに比べて、外部物質との接触反応面積が小さくなっており、その分、イモゴライトの吸着性能は、アロフェンに比べて劣るものとなっている。したがって、精製物の吸着性能を最大限に発揮させるには、予め風化軽石からイモゴライトを分離したうえで、天然アロフェンを抽出するのが望ましいが、現在までにその点を考慮した精製法はない。
【0009】
本発明は、上記した技術的背景に鑑みてなされたもので、その課題とするところは、湿式で天然アロフェンを抽出することにより上記した乾式による天然アロフェン抽出における諸問題を解消し、もって吸着性能に優れた天然アロフェンを高濃度にかつ工業的に安定して抽出することができる精製方法および精製装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明に係る天然アロフェンの精製方法は、アロフェンを含む降下性火山噴出物の風化物からなる原材料と硬水成分を含まない軟水とを混合攪拌しながら原材料を解砕して原泥水を製造し、次いで、前記原泥水を沈降槽に供給して所定時間静置し、しかる後、前記沈降槽内の上澄水を採水することを特徴とする。
【0011】
降下性火山噴出物の風化物からなる原材料は、前記したように高含水(含水比100%程度)となっており、これに水を加えながら解砕すると、容易に泥水となる。ここで、解砕とは、解して細かく砕くことを意味しており、この解砕を湿式で行うことで、アロフェンの分子構造を変化させる原因となる温度上昇、圧力上昇が抑えられる。一方、この解砕時に加える水にCa、Mg等の硬水成分が含まれていると、原泥水中における粒子の分散が阻害されるが、本発明では、硬水成分を含まない軟水を用いているので、前記した分散障害を排除できる。
【0012】
上記のように製造した原泥水は沈降槽に供給して静置することにより分級される。この場合、原泥水中の分散粒子は、ストークス則に従って沈降するが、ストークス則によれば、アロフェンの比重をもった目標粒径の粒子の沈降量を算出できる。したがって、沈降槽内における分級の目標粒径を2.0μmに設定し、所定時間静置後、前記沈降量に相当する深さ分の上澄水を採水すれば、目標粒径2.0μm以下の天然アロフェンを高濃度に含む液状製品が得られることになる。ただし、沈降槽に原泥水を供給した際の攪拌で、沈降槽内の中間滞留水に目標粒径以下のアロフェン粒子が存在するので、この中間滞留水を回収して、解砕用の軟水に混ぜて原材料と混合攪拌すれば、回収率を大幅に増やすことができる。
【0013】
本天然アロフェンの精製方法は、上記のように採水し上澄水をそのまま液状アロフェンとして製品化できるが、この上澄水に凝集材を添加した後、脱水機により固液分離するようにしてもよいものである。この場合は、脱水機による固液分離により天然アロフェンを高濃度に含むペースト状固形物が得られ、ペースト状アロフェンとして製品化できる。
【0014】
本天然アロフェンの精製方法はまた、上記のようにして得られたペースト状固形物中の間隙水を有機溶剤と置換させて、またはフリーズドライにより昇華させて粉末化してもよいものである。このように間隙水を除去する場合は、間隙水の表面張力上昇による強力な分子間結合力が発生しないので、吸着性能力に優れた天然アロフェンを高濃度に含む粉末状アロフェンとして製品化できる。
【0015】
上記課題を解決するため、本発明に係る天然アロフェンの精製装置は、アロフェンを含む降下性火山噴出物の風化物からなる原材料と硬水成分を含まない軟水とを混合攪拌しながら原材料を解砕して原泥水を得る解砕機と、該解砕機で得た原泥水を受容れて分級させる沈降槽と、該沈降槽の上澄水を採水する採水手段とを備えていることを特徴とし、これにより天然アロフェンを高濃度に含む液状アロフェンを製造することができる。
【0016】
本精製装置は、所望により上記沈降槽の後段に、採水手段により採水された沈降槽内の上澄水を受容れて脱水する脱水機を設置すると共に、該脱水機と前記沈降槽との間に、採水手段により脱水機に送られる上澄水に凝集材を添加する凝集材添加手段を配置することができ、この場合は、天然アロフェンを高濃度に含むペースト状固形物を得ることができる。
【0017】
本精製装置はまた、所望により上記脱水機により分離されたペースト状固形物中の間隙水を昇華させて、粉末とするフリーズ乾燥機を備えた構成としてもよく、この場合は、十分に性能を発揮できる状態の天然アロフェンを高濃度に含む粉末を得ることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る天然アロフェンの精製方法および精製装置によれば、湿式方式により吸着性能に優れた天然アロフェンを高濃度にかつ工業的に安定して抽出することができる。また、泥水状、ペースト状、粉末等の様々な形態で抽出できるので、抽出されたアロフェンは多方面に便利に利用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明を実施するための最良の形態を添付図面も参照して説明する。
【0020】
図1は、本発明の一つの実施形態としての天然アロフェンの精製工程とこの精製工程で用いる装置構成とを示したものである。本精製工程においては、はじめにアロフェンを含む降下性火山噴出物の風化物からなる原材料Aをホッパ1に投入し、このホッパ1内の原材料Aに対して、軟水貯留槽2よりポンプ圧送された、硬水成分を含まない軟水Bを噴射ノズル3からジェット水として吹付けて原材料Aを一次的に破砕する。この破砕により原材料Aが軟水Bと混合して泥水となり、続いてこの泥水は解砕機4に送られる。解砕機4内において、原材料Aと軟水Bとはさらに混合攪拌されると共に、原材料Aがさらに細かく破砕され、これによって粒子が分散した原泥水が連続に製造される。この原泥水は沈殿槽5へ連続供給され、そこでバッチ式に沈降処理される。
【0021】
ここで、降下性火山噴出物の風化物からなる原材料Aは、アロフェンを含んでいれば、その種類を問わないが、アロフェンを多く含む風化軽石を選択するのが望ましい。この風化軽石は、通常火口近くに層をなして存在しているので、その採取が容易である。この場合、風化軽石の由来を調べ、風化軽石の埋蔵量、アロフェンの含有量を事前に調査して、埋蔵量、含有量の多い地域から採取するのが望ましい。ホッパ1内への原材料Aの供給は、バックホウ等の重機、あるいはコンベヤ等の搬送手段を利用して行うのが望ましい。これは、風化軽石を気中で乱すと容易に粘着質の泥状となって、機材に付着してしまうためである。
【0022】
原材料Aとしての風化軽石は、味噌に似た性状を有しており、ホッパ1内でこれにジェット水を吹付けると容易に解泥される。したがって、ホッパ1および噴射ノズル3は解泥手段を構成する。ただし、この解泥によっても原材料Aは泥塊(ダマ)としてかなり残っており、この泥塊は、次の解砕機4内でさらに細かく破砕される。この場合、解砕機4による解砕に圧力をかけすぎると、アロフェンの分子構造が変化する危険があるので、あまり圧力のかからない解砕機を用いるのが望ましい。このような解砕機4としては、ポンプ躯体の内部に攪拌翼(ロータ)とメッシュ(ステータ)とを納めたロータステータミキサー(シルバーソン社製)がある。このロータステータミキサーにおいては、前記攪拌翼の回転による乱流と粒子間の摩擦によって原材料(泥塊)が破砕され、攪拌翼の周りのメッシュを通して排出される。この場合、該ロータステータミキサーはポンプも兼ねており、前記解泥により製造された原泥水は、解砕機4から前記沈殿槽5へ連続して圧送される。
【0023】
一方、原材料Aとしての風化軽石は、上記したホッパ1内での一次破砕(解泥)および解砕機4での本破砕(解砕)によって内部のアロフェン粒子が露出し、原泥水中に分散する。この場合、軟水BにCa、Mg等の硬水成分が含まれていると、粒子の分散が阻害される。本発明者等の実験によれば、軟水に分類される水道水を用いて原泥水をつくった場合でも、分散障害が起こることを確認している。そこで、本実施形態においては、別途水道水から硬水成分を除去する精製装置6を設置し、この精製装置6で精製した精製水を軟水Bとして前記軟水貯留槽2に貯留する。これによって硬水成分を含まない軟水Bを安定して供給できる。
【0024】
上記解砕機4において製造された原泥水は、沈殿槽5がほぼ満杯になるまで該沈殿槽5へ供給され、その後、静置される。この静置により、原泥水中の分散粒子は、ストークス則に従って沈降し、分級される。本実施形態においては、分級点2.0μmを目標粒径としており、この目標粒径のアロフェン粒子について、ストークス則に従って沈降速度を演算すると、16時間で20cmとなる。したがって、原泥水を16時間静置した後、水面から20cm深さまでの上澄水を採水すれば、2.0μmよりも大きいアロフェン粒子が含まれていないことになる。そこで、本実施形態においては、沈殿槽5内で原泥水を所定時間静置後、上澄水Cを所定深さまでポンプ7(採水手段)により採水し、これを後述の脱水機8に送るようにする。
【0025】
ところで、沈降槽5内では、静置開始時点で上記した採水深さよりも深い層に浮遊している目標粒径の粒子が存在し、この粒子はその後の静置でさらに沈降するため、上記した上澄水C下の中間滞留水Dにも、かなり多くのアロフェン粒子が含まれている。そこで、本実施形態においては、上澄水Cを採水した後、この中間滞留水Dをポンプ9により採水して、回収槽10に貯留し、さらにこの回収槽10からポンプ11により中間滞留水Dを前記解砕機4は圧送するようにしている。このように中間滞留水Dを回収して解砕機4へ送り、沈降層5で再沈降処理することで、沈降槽5による目標粒径(5μm)以下のアロフェン粒子の収率が高まり、必要によりこの回収を繰返すことで、アロフェンの収率はより一層高まるようになる。なお、回収槽10内の中間滞留水Dは、前記解砕機4に代えて噴射ノズル3へ送るようにしても、あるいは解砕機4と噴射ノズル3の双方へ送るようにしてもよい。
【0026】
本実施形態においては、沈降槽5内から採水した上澄水Cを脱水機8へ送るが、この採水した上澄水Cは、天然アロフェンを高濃度に含んでいるので、そのままで液状アロフェンとして製品化することができる。特に、アロフェンの吸着性能は、水の介在によって発揮されるので、液状アロフェンとして製品化した場合は、そのままでの使用が可能になり、有用となる。なお、沈降槽5内の沈殿物Eは、アロフェンをほとんど含んでいないので、ヤード12で天日乾燥する。ただし、この沈殿物Eは吸湿性および保水性に優れているので、園芸材料、陶器素材等として有効利用することができる。また、Si,Al,O,OHを含んでいるので、ゼオライトの材料としても有用となる。
【0027】
本実施形態においては、沈降槽5と脱水機8との間に凝集材添加手段13を配置し、沈降槽5から脱水機8に送られる上澄水Cに凝集材を添加するようにする。この凝集材は、脱水機8による固液分離を促進するために必要とするもので、NaCl、CaCl2をはじめ、Ba、Al、Fe、Ag等の金属塩を用いることができる。
【0028】
ここで、アロフェンは、それぞれ正負に帯電した反応基による陰・陽イオン交換容量をもち、これが吸着機構としてはたらくが、これ以外に、特定の陽イオンを介在して重金属と難溶性の化合物をつくる性質がある。したがって、特定の陽イオンと吸着対象である重金属イオンとの間の溶解度積を事前に把握し、該溶解度積の低い陽イオンで負の反応基を処理(型変換)しておくことで、特定の重金属との固定能力の大きいアロフェンが得られるようになる。すなわち、吸着対象である重金属の種類に応じて、上記したBa、Al、Fe、Ag等の中から適当な金属を選択し、その金属塩を凝集材として用いることで、特定の重金属をターゲットにしたアロフェン吸着材を精製できることになる。
【0029】
上記のように凝集材が添加された上澄水Cは、脱水機8に送られて固液分離される。この場合、脱水機8としては、処理能力が大きくかつ連続処理が可能なものを用いるのが望ましい。このような脱水機としては、例えば、遠心分離機の一つであるスクリュデカンタがある。スクリュデカンタは、高速回転する外筒内部に被処理液を導入し、遠心力で外筒内面に堆積した固形物を、外筒とわずかな回転差で回転するスクリュによって外部へ連続排出するもので、前記被処理液として前記凝集材が添加された上澄水Cを導入することで、天然アロフェンを高濃度に含む固形物Fが排出される。この固形物Fは、かなりの水分を含んでペースト状となっているが、前記したようにアロフェンの吸着性能は、水の介在によって発揮されることから、ペースト状であっても問題はなく、そのままペースト状アロフェンとして製品化できる。なお、脱水機8で分離された分離水Gは、沈殿池14でSS分を除去した後、放流する。また、この沈殿池14では、回収、再沈降の繰返しにより疲弊した回収槽5内の中間滞留水Dを処理してもよい。
【0030】
本実施形態においては、所望により、上記ペース状固形物Fを乾燥機15で脱水し、粉末Hとすることができる。この場合、加熱乾燥するとアロフェンの分子構造が変化してしまい、その上、アロフェンのアグリゲート(集合体)の間隙水の表面張力が過大となって固結してしまう。したがって、この脱水に際しては、間隙水を有機溶剤と置換させ、またはフリーズドライにより昇華させる方法を採用する必要がある。このようにして得られた粉末Hは、天然アロフェンを高濃度に含んでいるので、そのまま粉末状アロフェンとして製品化できる。粉末状アロフェンとした場合は、大きく減容化されるので、保管、運搬に要するコストが低減する。
【0031】
ここで、アロフェンの反応基には、Siに基づく反応基(シラノール基)とAlに基づく反応基(アルミノール基)とがある。このうち、シラノール基はH+を遊離しやすい性質があり、アルミノール基はH+を捕集しやすい性質がある。ケイバン比(Si/Al比)の高いアロフェンはシラノール基が勝り、ケイバン比の低いアロフェンはアルミノール基が勝る。したがって前者(Siが多め)のアロフェン懸濁液をアルカリ性にすると、アルカリのOH-によってH+の遊離が進んでアロフェン全体が負に帯電し、この結果、粒子同士が反発して分散が進む。一方、後者(Alが多め)のアロフェン懸濁液を酸性にすると、酸のH+の捕集が進んでアロフェン全体が正に帯電し、前記同様に、粒子同士が反発して分散が進む。
【0032】
本発明は、上記知見に基づき、解砕機4と沈降層5との間に薬剤注入手段(図示略)を配置し、上記した原材料Aに含まれるアロフェンの性状に応じて、解砕機4から沈降槽5へ送られる原泥水中へ酸またはアルカリを添加して、原泥水のPHを調整するようにしてもよいものである。上記した実施形態においては、原材料Aに硬水成分を含まない軟水Bを混合しているので、アロフェン粒子の分散は十分に進むが、前記したようにPH調整した場合には、アロフェン粒子の分散がより一層進み、目的粒径のアロフェン粒子をより効率よく抽出できるるようになる。
【0033】
このように、本精製方法においては、アロフェンを含む原材料Aに硬水成分を含まない軟水Bを加えて、湿式で解砕を行うので、アロフェンの分子構造が変化することはない。また、硬水成分を含まない軟水Bの使用によってアロフェン粒子の分散が進むので、沈降槽5内での静置による分級精度も向上し、アロフェンを微細粒子として高濃度に抽出できる。しかも、湿式で解砕した原泥水を沈降槽内で静置して、上澄水を採水する工程が基本となるので、工業的規模で安価に天然アロフェンを抽出できる。さらには、液状、ペースト状、粉状の各形態でアロフェンを製品化できるので、用途に適合したアロフェンを提供でき、その利用価値は大きく高まる。
【0034】
なお、上記実施形態においては、抽出する天然アロフェンの目標粒径(分級点)を2μmに設定したが、本発明における目標粒径は任意であり、2μmよりも低めに設定することができる。目標粒径を低めに設定する場合は、沈降槽5においてストークス則に基づく沈降時間と採水深度とを考慮すればよい。このように目標粒径を低めに設定した場合は、より純度の高い天然アロフェンを抽出できる。
【実施例1】
【0035】
鳥取県倉吉市周辺の大山由来の風化軽石を原材料として用い、実験室で、乳鉢を用いて原材料に純水を加えながらマサイして泥水をつくった。次に、この泥水をビーカに移し、超音波分散器にセットして超音波分散を行い、沈殿物は除去して約1000mlの原泥水(分散溶液)をつくった。その後、前記原泥水に塩酸を加えてPH4に調整し、続いて、ビーカ内で12時間静置して分級を行った。そして、12時間経過後、目標粒径を2μmに設定して、ストークス則に従って水面から所定深さの上澄水をサイフォンを利用して採水した。次に、採水した上澄水に凝集材としてのNaClを添加して凝集させ、容器底の濃縮液を採水して、これを試料瓶に取り分けて遠心分離機にかけた。遠心分離機にかけると、水とペースト状の沈殿物とに明瞭に分離するので、水のみを除き、容器に純水を加えて手でしんとうして沈殿物を水に溶解させ、続いて、この懸濁水を再び遠心分離機にかけた。これは、凝集材としてのNaClを洗浄除去するためであり、ここでは、前記洗いを3回繰返した。その後、洗いを完了したペーストを乾燥して粉末とした。そして、得られた粉末について、赤外分光分析(IR分析)およびX線分析を行った。
【0036】
図2は、IR分析の結果を示したもので、丸で囲んだ箇所にアロフェンの存在が明瞭に認められる。また、図3は、X線分析の結果を示したもので、同じく丸で囲んだ箇所にアロフェンの存在が明瞭に認められる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の一つの実施形態としての天然アロフェンの精製方法と精製装置とを示す模式図である。
【図2】本発明の実施例で得た粉末についてのIR分析結果を示すグラフである。
【図3】本発明の実施例で得た粉末についてのX線分析結果を示すグラフである。
【符号の説明】
【0038】
1 ホッパ(解泥手段)
2 軟水貯留槽
3 噴射ノズル(解泥手段)
4 解砕機
5 沈降槽
6 精製装置
7 ポンプ(採水手段)
8 脱水機(スクリュデカンタ)
10 中間滞留水回収槽
13 凝集材添加手段
15 乾燥機
A 原材料(アロフェンを含む降下性火山噴出物の風化物)
B 硬水成分を含まない軟水
C 沈降槽内の上澄水(液状アロフェン)
D 沈降槽内の中間滞留水
F ペースト状固形物(ペースト状アロフェン)
H 粉末(粉末状アロフェン)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アロフェンを含む降下性火山噴出物の風化物からなる原材料と硬水成分を含まない軟水とを混合攪拌しながら原材料を解砕して原泥水を製造し、次いで、前記原泥水を沈降槽に供給して所定時間静置し、しかる後、前記沈降槽内の上澄水を採水することを特徴とする天然アロフェンの精製方法。
【請求項2】
アロフェンを含む降下性火山噴出物の風化物が、風化軽石である、請求項1に記載の天然アロフェンの精製方法。
【請求項3】
沈降槽内における分級の目標粒径を2.0μm以下に設定し、該沈降槽の上澄水の採水深さを、ストークス則に従って前記目標粒径の沈降時間から決定する、請求項1または2に記載の天然アロフェンの精製方法。
【請求項4】
沈降槽内の中間滞留水を回収して、軟水に混ぜて原材料と混合攪拌する、請求項1〜3の何れか1項に記載の天然アロフェンの精製方法。
【請求項5】
原泥水に酸またはアルカリを加えてPH調整をして、アロフェンの分散を促進させる、請求項1〜4の何れか1項に記載の天然アロフェンの精製方法。
【請求項6】
沈降槽から採水した上澄水に凝集材を添加した後、脱水機により固液分離して、ペースト状固形物とすることを特徴とする請求項1〜5の何れか1項に記載の天然アロフェンの精製方法。
【請求項7】
凝集材として、金属塩を用いる、請求項6に記載の天然アロフェンの精製方法。
【請求項8】
脱水機により分離されたペースト状固形物中の間隙水を有機溶剤と置換、またはフリーズドライにより昇華させて、粉末化することを特徴とする請求項6または7に記載の天然アロフェンの精製方法。
【請求項9】
アロフェンを含む降下性火山噴出物の風化物からなる原材料と硬水成分を含まない軟水とを混合攪拌しながら原材料を解砕して原泥水を得る解砕機と、該解砕機で得た原泥水を受容れて分級させる沈降槽と、該沈降槽の上澄水を採水する採水手段とを備えていることを特徴とする天然アロフェンの精製装置。
【請求項10】
硬水成分を含まない軟水が、別途設置した精製装置により精製されることを特徴とする請求項9に記載の天然アロフェンの精製装置。
【請求項11】
沈降槽内の中間滞留水を貯留する回収槽を設置し、該回収槽内の中間滞留水を解砕機または解泥手段へ戻すことを特徴とする請求項9または10に記載の天然アロフェンの精製装置。
【請求項12】
沈降槽の後段に、採水手段により採水された沈降槽内の上澄水を受容れて脱水する脱水機を設置すると共に、該脱水機と前記沈降槽との間に、採水手段により脱水機に送られる上澄水に凝集材を添加する凝集材添加手段を配置したことを特徴とする請求項9乃至11の何れか1項に記載の天然アロフェンの精製装置。
【請求項13】
脱水機により分離されたペースト状固形物中の間隙水を昇華させて、粉末とするフリーズ乾燥機を備えたことを特徴とする請求項12に記載の天然アロフェンの精製装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−169064(P2008−169064A)
【公開日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−2621(P2007−2621)
【出願日】平成19年1月10日(2007.1.10)
【出願人】(000211307)中国電力株式会社 (6,505)
【出願人】(504147254)国立大学法人愛媛大学 (214)
【出願人】(000222668)東洋建設株式会社 (131)
【Fターム(参考)】