説明

天然不飽和脂肪酸から9−アミノノナン酸またはこれらのエスエルを合成するための方法

本発明は9−アミノノナン酸またはこれらのエステルを天然不飽和脂肪酸から合成するための方法であって、少なくとも1つの天然脂肪酸のメタセシスの工程および酸化的開裂による酸化工程を含む方法に関する。前記合成法は広範に入手可能な再生可能な出発物質を用い、従って、経済的である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、天然不飽和脂肪酸から9−アミノノナン酸またはこのエステルを合成するための方法であって、天然脂肪酸のメタセシスの少なくとも1つの段階および酸化的開裂による酸化の段階を含む方法を対象とする。
【背景技術】
【0002】
ポリアミド産業では、2つのアミド官能基−CO−NH−を隔てるメチレン鎖(−CH−)の長さによって特徴付けられる、通常ナイロンとして知られる、長鎖ω−アミノ酸からなるあらゆる種類のモノマーが用いられる。従って、ナイロン6、ナイロン6,6、ナイロン6,10、ナイロン7、ナイロン8、ナイロン9、ナイロン11、ナイロン13などが公知である。
【0003】
これらのモノマーは、例えば、出発物質としてCからCオレフィン、シクロアルカンまたはベンゼンを用いるが、ヒマシ油(ナイロン11)、エルカ(erucic)またはレスケロール油(lesquerolic oil)(ナイロン13)なども用いる、化学合成経路によって製造される。
【0004】
環境に関する現在の開発はエネルギーおよび化学の分野において有利である再生資源を起源とする天然出発物質の使用をもたらした。これが、幾つかの研究でこれらのモノマーの製造において脂肪酸/エスエルを出発物質として用いる方法を工業的に開発することが取りあげられている理由である。
【0005】
このタイプのアプローチには僅か2、3の工業的な例があるのみである。脂肪酸を出発物質として用いる工業的プロセスの希な例の1つはヒマシ油から抽出されるリシノール酸から11−アミノウンデカン酸を製造するものであり、これはRilsan 11(登録商標)の合成の基礎を形成する。この方法は、Editions Technip(1986)に見られるA.Chauvelらによる研究「Les Procedes de Petrochimie」[Petrochemical Processes]に記載される。11−アミノウンデカン酸は数段階で得られる。第1は、メチルリシノリエートを生成する、塩基性媒体中でのヒマシ油のメタノリシスからなり、このメチルリシノリエートは、次に、一方ではヘプタンアルデヒドを得、他方ではメチルウンデシリネートを得るため、熱分解に処される。後者は加水分解によって酸形態に変換される。続いて、形成された酸は臭化水素酸化に処されてω−臭素化酸をもたらし、これがアミノ化によって11−アミノウンデカン酸に変換される。
【0006】
本発明の方法はナイロン9に相当する9−アミノノナン酸または9−アミノアゼライン酸の合成を対象とする。この特定のモノマーに関しては、この2.9章(381から389頁)がナイロン9に充てられている、研究「n−Nylons,Their Synthesis,Structure and Properties」,1997,published by J.Wiley and Sonsを挙げることができる。この論文はこの調製および主題に関して行われた研究を要約する。そこでは、381頁で、Pelargon(登録商標)の商品化をもたらした、旧ソビエト連邦によって開発された方法が挙げられている。そこでは、384頁で、ダイズ油を起源とするオレイン酸を出発物質として用いる、日本において開発された方法も挙げられている。対応する記述は、この第15部がポリアミドに充てられ、および279頁でこのような方法の存在を述べる、A.Ravveによる研究「Organic Chemistry of Macromolecules」(1967)Marcel Dekker,Inc.を参照する。
【0007】
この主題に関する技術の現状を十分に提供するため、E.H.Prydeらによって1962年から1975年にJournal of the American Oil Chemists’Societyにおいて公開された多くの論文−「Aldehydic Materials by the Ozonization of Vegetable Oils」Vol.39,pages 496−500;「Pilot Run,Plant Design and Cost Analysis for Reductive Ozonolysis of Methyl Soyate」Vol.49,pages 643−648およびR.B.Perkins et al.「Nylon−9 from Unsaturated Fatty Derivatives:Preparation and Characterization」JAOCS,Vol.52,pages 473−477を挙げるべきである。これらの論文の最初のものは、498頁で、日本人著者H.OtsukiおよびH.Funahashiによって実施された従来の研究をも参照することに注意するべきである。
【0008】
植物油からの「ナイロン9」の合成を対象とするこの技術の現状を要約するため、メタノリシスによって油から抽出されるオレイン酸エスエルに適用される下記の簡素化反応機構を記述することができる:
還元的オゾン分解
C−(CH−CH=CH−(CH−COOCH+(O,H)→
HOC−(CH−COOCH+HC−(CH−COH
還元的アミノ化
HOC−(CH−COOCH+(NH,H)→HN−(CH−COOCH+H
加水分解
NC−(CH−COOCH+HO→HN−(CH−COOH+CHOH
【0009】
しかしながら、反応の観点からは非常に魅力的であるこの経路は、第1段階の最中の長鎖アルデヒド(合計で9炭素原子)の生成からなる重大な経済的欠点を示し、このアルデヒドは、特にポリアミドに関連するポリマー産業において、実用面で価値を回復することができない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】「Les Procedes de Petrochimie」[Petrochemical Processes]by A.Chauvel et al.which appeared in Editions Technip(1986)
【非特許文献2】「n−Nylons,Their Synthesis,Structure and Properties」,1997,published by J.Wiley and Sons
【非特許文献3】A.Ravve「Organic Chemistry of Macromolecules」(1967)Marcel Dekker,Inc.
【非特許文献4】E.H.Pryde et al.「Aldehydic Materials by the Ozonization of Vegetable Oils」,Journal of the American Oil Chemists’Society,Vol.39,pages 496−500
【非特許文献5】E.H.Pryde et al.「Pilot Run,Plant Design and Cost Analysis for Reductive Ozonolysis of Methyl Soyate」,Journal of the American Oil Chemists’Society,Vol.49,pages 643−648
【非特許文献6】R.B.Perkins et al.「Nylon−9 from Unsaturated Fatty Derivatives:Preparation and Characterization」JAOCS,Vol.52,pages 473−477
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、類似する反応プロセスに基づくものではあるが、容易に価値を回復することができる一連の化合物の合成を可能にする方法を提供することにより、この主な欠点を克服することを対象とする。
【0012】
従って、問題は、一方では上述の環境上の制約を回避し、他方では反応からの副生物による経済的障害を回避しながら実施が簡単である、非常に広範に入手し得る、従って、安価な再生出発物質から出発して式HN−(CH−COOHのω−アミノ酸(およびこのポリマー)を合成するための方法を見出す上でのものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
提供される解決法は天然長鎖不飽和脂肪酸からなる出発物質から作業することからなる。「天然脂肪酸」という用語は、藻類を含む植物または動物環境、より一般的には、植物界から生じ、従って、再生可能である酸を意味するものと理解される。この酸は酸基に対して9位に位置する(δ9)少なくとも1つのオレフィン性不飽和を含み、および分子あたり少なくとも10個、好ましくは、少なくとも14個の炭素原子を含む。
【0014】
このような酸の例として、カプロン酸(caproleic acid)(9−デセン酸)、ミリストレイン酸(シス−9−テトラデカン酸)、パルミトレイン酸(シス−9−ヘキサデカン酸)、C18酸、オレイン酸(シス−9−オクタデカン酸)、エライジン酸(トランス−9−オクタデカン酸)、リノール酸(シス,シス−9,12−オクタデカジエン酸およびシス,トランス−9,11−オクタデカジエン酸)、α−リノール酸(シス,シス,シス−9,12,15−オクタデカトリエン酸)、α−エレオステアリン酸(シス,トランス,トランス−9,11,13−オクタデカトリエン酸)またはヒドロキシル化脂肪酸リシノール酸(12−ヒドロキシ−シス−9−オクタデセン酸)およびガドレイン酸(シス−9−エイコセン酸)を挙げることができる。
【0015】
これらの様々な酸は、ヒマワリ、セイヨウアブラナ、トウゴマ、オリーブ、ダイズ、ヤシ、アボカドまたは通常のスナジグミ(sea buckthorn)のような様々な植物から抽出される植物油から生じる。
【0016】
これらは陸生または海生動物界からも生じ、後者の場合、魚または哺乳動物形態および藻類形態の両者でである。これらは、一般には、反芻動物、タラのような魚またはクジラもしくはイルカのような海生哺乳動物に由来する脂肪である。
【0017】
本発明の主題は、式RCH=CH−(CH−COOR(式中、RはHまたは、1から11個の炭素原子を含み、0から2のオレフィン性不飽和を含み、および、適切であれば、1つのヒドロキシル官能基を含む、炭化水素基のいずれかを表す。)に相当する長鎖天然不飽和脂肪酸またはエステルから一般式NH−(CH−COOR(RはHまたは、1から4個の炭素原子を含む、アルキル基のいずれかである。)のアミノ酸またはアミノエステルを合成するための方法であって、第1段階において、前記不飽和脂肪酸またはエステルをエチレンとの触媒的交差メタセシス反応に処して、少なくともこの50mol%が式CH=CH−(CH−COORに相当する、ω−不飽和酸またはエステルを形成し、次に、第2段階において、式CH=CH−(CH−COORの酸またはエステルを酸化的開裂反応に処して式CHO−(CH−COORのアルデヒド酸/エステルを形成し、次いで、最後に、生じる生成物を還元的アミノ化によって変換して式NH−(CH−COORのω−アミノ酸/エステル(本文において言及されない限り、酸は酸またはエステルと理解されるべきである。)を得ることからなる方法である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
反応プロセスは、オレイン酸に適用して、以下のようにまとめることができる:
CH−(CH−CH=CH−(CH−COOH+CH=CH←→
CH=CH−(CH−COOH+CH=CH−(CH−CH
CH=CH−(CH−COOH+(酸化剤,H)→COH−(CH−COOH+HCHO
COH−(CH−COOH+(NH,H)→NH−(CH−COOH+H
は、反応2において、酸化とこれに続く還元の対を記号化する。
【0019】
形成される唯一の「副生物」は長鎖α−オレフィンおよびホルムアルデヒドである。
【0020】
エチレンとの交差メタセシス反応(エテノリシス(ethenolysis))は十分公知である条件下で行う。反応温度は、ルテニウム系触媒の存在下、大気圧で、20から100℃である。
【0021】
ルテニウム触媒は、好ましくは、下記一般式の荷電または非荷電触媒から選択され:
(X1)(X2)Ru(カルベンC)(L1)(L2)
式中:
a、b、cおよびdは整数であって、aおよびbは0、1または2に等しく、cおよびdは0、1、2、3または4に等しい;
同一であっても異なっていてもよいX1およびX2は、各々、荷電または非荷電の一または多キレート配位子を表し;例として、ハライド、スルフェート、カーボネート、カルボキシレート、アルコキシド、フェネート、アミド、トシレート、ヘキサフルオロホスフェート、テトラフルオロボレート、ビストリフリルアミド、テトラフェニルボレートおよび誘導体を挙げることができる。X1またはX2は、ルテニウム上に二座配位子(またはキレート)が形成されるように、Y1もしくはY2または(カルベンC)に結合することができる;並びに
同一であっても異なっていてもよいL1およびL2は、ホスフィン、ホスファイト、ホスホナイト、ホスフィナイト、アルシン、スチルベン、オレフィンもしくは芳香族、カルボニル化合物、エーテル、アルコール、アミン、ピリジンもしくは誘導体、イミン、チオエーテルまたは複素環カルベンのような電子供与性リガンドであり、L1またはL2は、二座配位子またはキレートが形成されるように、「カルベンC」に結合することができる。
【0022】
「カルベンC」は一般式:C_(R1)_(R2)によって表すことができ、R1およびR2は同一であるか、または異なり、例えば、水素またはあらゆる他の飽和もしくは不飽和、環状、分岐鎖もしくは直鎖、または芳香族ヒドロカルボニル基である。例として、ビニリデンRu=C=CHRまたはアレニリデンRu=C=C=CR1R2またはインデニリデンのようなルテニウムのアルキリデンまたはクムレン錯体を挙げることができる。
【0023】
イオン性液体中でのルテニウム錯体の保持の改善を可能にする官能基を配位子X1、X2、L1もしくはL2またはカルベンCの少なくとも1つにグラフト化することができる。この官能基は荷電していても、非荷電であってもよく、例えば、好ましくは、エステル、エーテル、チオール、酸、アルコール、アミン、窒素含有複素環、スルホネート、カルボキシレート、四級アンモニウム、グアニジニウム、四級ホスホニウム、ピリジニウム、イミダゾリウム、モルホリニウムまたはスルホニウムである。
【0024】
二重結合の2個の炭素上でアルデヒド官能基の形成をもたらす、二重結合に対する酸化的開裂反応もこれ自体公知である。
【0025】
これは、「Organic Chemistry」by L.G.Wade Jr.,5th edition,Chapter 8,Reactions of Alkenesに記載されるように、濃縮形態のKMnOのような強力な酸化剤により、加熱を用いて行うことができる。酸化的開裂は、特許GB 743 491に記載されるように、過酸化水素水溶液で行うことができる。Chem.Mikrobiol.Technol.Lebensm.,1,158−159(1972)におけるF.Drawertらの論文には、ヒマワリ油の照射による代替経路が記載される。さらに、Chinese Chemical Letters,Vol.5,No.2,pp 105−108,1994におけるG.S.Zhangらによる論文には、オレイン酸の対応ジオールから出発して酸化的開裂を行うことが可能であることが示される(表のEntry 29を参照)。この酸化的開裂はアンモニウムクロロクロメートを酸化剤として用いて行う。一方で、ジオールはオレイン酸のエポキシ化、次いでエポキシ架橋の加水分解によって得られる。これは過酸化水素水溶液、より具体的には、オゾンのような他の酸化剤で行うことができる。
【0026】
しかしながら、酸化反応が完了することは妨げる必要がある。これは、不飽和酸の酸化が二酸を製造するための周知の合成経路であるためである。従って、反応がアルデヒド官能基で停止するような操作条件を提供する良い理由が存在する。これが、従来技術に記載される研究の間、非常に一般的には還元的オゾン分解による、酸化(オゾン化)の生成物の水素化および/または還元に注意が払われている理由である。従って、より穏やかな条件下で酸化条件を行うことができ、水素および/または穏やかな還元剤の存在下で操作することによってプロセスをより良好に制御することができる。還元的オゾン分解と呼ばれるのはこの反応である。
【0027】
オゾン分解反応は、オゾニドの形成によってマークされる「クリーゲー」反応機構(上で引用される論文「Aldehydic Materials by the Ozonization of Vegetable Oils」Vol.39,pages 496−500を参照)の解放を可能にしている主要研究の主題を形成している。
【0028】
還元的オゾン分解の第1段階は異なる溶媒媒体中で行うことができる。これを水相において行う場合、不飽和脂肪酸は油中水エマルジョンの形態で存在する。オゾン分解を脂肪エスエルに対して行う場合、アルコール型の溶媒:メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、メトキシエタノール、シクロヘキサノールまたはベンジルアルコール中で行うことができ、この脂肪エスエルに対応するアルコールR−OHを用いることが有利である。DMSOを溶媒媒体として用いることもChris Schwartz,Joseph Raible,Kyle Mott and Patrick H.Dussault,Tetrahedron,62(2006),pp.10747−10752によって提唱されている。有機酸、一般には、酢酸をアルコール溶媒媒体と組み合わせることもしばしば可能であり、この酸は、一般には、アルコールとの等分子混合物の形態で存在する。
【0029】
還元的オゾン分解の第2段階は、水素化触媒(例えば、Pd)の存在下での水素化による、またはジメチルスルフィド(DMS)のような還元剤を用いる、酢酸中で亜鉛を用いて行うことができる、オゾニドの還元からなる。
【0030】
この段階の好ましい代替実施形態は、粉末形態にある金属亜鉛の存在下または、その上、好ましくは、ジメチルスルフィド(DMS:CH−S−CH)の存在下で行うことができる、還元的オゾン分解である;これは、このDMSが還元的オゾン分解の最中に、工業的に広範に用いられる溶媒である、DMSOに変換されるためである。
【0031】
最後に、一級アミンをもたらすアルデヒド官能基の還元的アミノ化は当業者に周知である。9−アミノノナン酸を形成するために得られる9−オキソノナン酸の還元的アミノ化は多くの触媒的または酵素的方法に従って、例えば、特許出願US 5 973 208に記載される方法に従って行うことができる。
【0032】
本発明の方法の代替実施形態においては、中間段階を本発明の方法に追加することができる。このプロセスは以下のように見える(酸またはエステルから出発する。):
第1段階:脂肪酸のエテノリシス
−CH=CH−(CH−COOH+CH=CH←→
CH=CH−(CH−COOH+CH=CH−R
第2段階:例えばストリッピングにより、オレフィンを分離した後の、9−デセン酸のホモメタセシス
CH=CH−(CH−COOH+CH=CH−(CH−COOH→
COOH−(CH−CH=CH−(CH−COOH+CH=CH
第3段階:酸化的開裂(還元的オゾン分解)
COOH−(CH−CH=CH−(CH−COOH(酸化剤、H)→
2COH−(CH−COOH+H
第4段階:還元的アミノ化
2COH−(CH−COOH+(NH,H)→2NH−(CH−COOH+2H
は、反応3において、酸化とこれに続く還元の対を記号化する。
【0033】
本発明の方法において、脂肪酸はこの酸形態またはこのエステル形態のいずれかで処理することができる。メタノリシス、エステル化または加水分化による一方の形態から別のものへのまったくありふれた変化はこの方法の意味のうちにある化学変換を構成しない。
【0034】
従って、本発明の一実施形態において、第1段階の完了時、式ROOC−(CH−CH=CH−(CH−COORの二酸(ジエステル)を形成するために式CH=CH−(CH−COORの不飽和酸/エステルを第2段階の間にホモメタセシスに処するため、α−オレフィンを媒体から分離し、次いで、第3段階において、二酸(ジエステル)COOR−(CH−CH=CH−(CH−COORを酸化的開裂反応に処して式CHO−(CH−COORのアルデヒド酸を形成し、次いで、最後に第4段階において、生じる生成物を還元的アミノ化によって変換して式NH−(CH−COORのω−アミノ酸/エスエルを得る。
【0035】
以下で詳細に記載されるすべての機構は、説明を容易にするため、酸の合成を説明する。しかしながら、メタセシスはエステルで有効であり、媒体が一般により無水であることでさらにより有効である。同様に、スキームは酸(またはエステル)のシス異性体との反応を示す;これらの機構はまさにトランス異性体に容易に適用し得るものである。
【0036】
この反応の反応機構は下記スキーム1によって説明される。
【0037】
【化1】

【0038】
ω−オレフィン酸のホモメタセシスはスキーム2において説明される。
【0039】
【化2】

【0040】
二酸またはω−ノネン酸の還元的オゾン分解はスキーム3において説明される。
【0041】
【化3】


【0042】
還元的アミノ化はスキーム4において説明される。
【0043】
【化4】

【0044】
メタセシス反応は、たとえこれらの産業用途が比較的限られているとしても、長い間公知である。脂肪酸(エステル)の変換におけるこれらの使用に関して、Topics in Catalysis,Vol.27,Nos.1−4,February 2004(Plenum Publishing Corporation)に見られるJ.C.Molによる論文「Catalytic metathesis of unsaturated fatty acid esters and oil」を参照することができる。
【0045】
メタセシス反応の触媒は非常に多くの研究の主題および洗練された触媒系の開発を形成している。例えば、Schrockら(J.Am.Chem.Soc.,108(1986),2771)またはBassetら(Angew.Chem.Ed.Engl.,31(1992),628)によって開発されたタングステン錯体を挙げることができる。ルテニウム−ベンジリデン錯体である「グラブス」触媒(Grubbs et al.,Angew.Chem.Ed.Engl.,34(1995),2039およびOrganic Lett.,1(1999),953)がより最近現れている。これは均一触媒に関係する。アルミニウムまたはシリカ上に堆積させたルテニウム、モリブデンおよびタングステンのような金属に基づく不均一触媒も開発されている。最後に、固定化触媒、即ち、均一触媒、特に、ルテニウム−カルベン錯体のものではあるが不活性支持体上に固定化されている活性成分を有する触媒について研究が行われている。これらの研究の目的は、接触させられる反応体の間での「ホモメタセシス」のような副反応に関して、交差メタセシス反応の選択性を高めることである。これらは触媒の構造だけではなく、反応媒体および導入することができる添加物の効果にも関連する。
【0046】
本発明の方法においては、あらゆる活性および選択的メタセシス触媒を用いることができる。しかしながら、好ましくは、ルテニウム系触媒が用いられる。
【0047】
第1段階の交差メタセシス反応は、ルテニウム型のような通常のメタセシス触媒の存在下、20から100℃の温度、1から30barの圧力で行う。反応時間は、用いられる反応体の関数として、反応平衡に可能な限り近づけて到達させるために選択する。反応はエチレン圧の下で行う。
【0048】
第2段階のホモメタセシス反応は、20から100℃の温度、エチレンを連続的に引き出すことを可能にする5bar未満の圧力で行い、これは上述のものの型のルテニウム触媒で行う。
【0049】
本発明は、さらに、一般式NH−(CH−COORの再生可能な起源のアミノ酸またはアミノエステルに関し、RはHまたは1から4個の炭素原子を含むアルキル基のいずれかである。
【0050】
「再生可能な起源のアミノ酸またはアミノエステル」という用語は再生可能な起源の炭素を含むアミノ酸またはアミノエステルを意味するものと理解される。
【0051】
これは、化石物質から生じる物質とは異なり、再生可能な出発物質の一部を構成する物質が14Cを含むためである。生体組織(動物または植物組織)から引き出されるすべての炭素サンプルは実際には3つの同位体の混合物である:12C(約98.892%に相当する。)、13C(約1.108%)および14C(痕跡:1.2×10−10%)。生体組織の14C/12C比は大気のものと同一である。環境において、14Cは2つの優勢な形態で存在する:無機形態、即ち、二酸化炭素ガス(CO)の形態および有機形態、即ち、有機分子に組み込まれた炭素の形態。
【0052】
生体組織において、14C/12C比は代謝によって一定に保たれるが、これは炭素が環境と連続的に交換されるためである。大気中で14Cの割合が一定であるため、生物においても、これが12Cを吸収するときに14Cを吸収するため、これが生きている限り同じである。14C/12C平均比は1.2×10−12に等しい。
【0053】
12Cは安定であり、即ち、所定のサンプル中の12C原子の数は長期にわたって一定である。一方で、14Cは放射性であり、生体の炭素の各グラムは毎分13.6崩壊をもたらすのに十分な14C同位体を含む。
【0054】
半減期(即ち、Tl/2周期)は、この最後に所定の実態の放射性核または不安定粒子のあらゆる数が崩壊によって半分に減少する時間である。14Cの半減期は5730年である。
【0055】
この14Cの半減期(Tl/2)の観点から、14C含有量は植物出発物質の抽出からアミノ酸またはアミノエステルの製造まで、およびこの使用の最後までさえも、一定と見なされる。
【0056】
アミノ酸またはアミノエステルは、これが少なくとも20重量%の再生可能な起源のC、好ましくは、少なくとも50重量%の再生可能な起源のCを含む場合、部分的には、再生可能な出発物質から生じる。出願人は、アミノ酸またはアミノエスエルを、これが0.6×10−10重量%から1.2×10−10重量%の14Cを含む場合、再生可能な出発物質から生じるもの、即ち、「バイオ」であると見なす。
【0057】
現在、サンプルの14C含有量を測定するための少なくとも2つの異なる技術が存在する:
液体シンチレーション分光法によるもの:
質量分析法によるもの:サンプルをグラファイトまたはCOガスまで還元し、質量分析計で分析する。この技術は14Cイオンを12Cイオンから分離し、従って、この2つの同位体の比を決定するのにアクセラレータおよび質量分析計を用いる。
【0058】
物質の14C含有量を測定するためのこれらの方法のすべては、標準ASTM D 6866(特に、D 6866−06)および標準ASTM D 7026(特に、7026−04)に明瞭に記載される。
【0059】
本発明のアミノ酸またはアミノエステルの場合に好ましく用いられる測定法は、標準ASTM D 6866−06に記載されるシンチレーション(液体シンチレーション計数、LSC)である。
【0060】
本発明を以下の実施例によって説明する。
【実施例1】
【0061】
この実施例はパルミトレイン酸のエテノリシスの第1段階を説明する。この反応は、9−デセン酸CH=CH−(CH−COOHを得るため、30℃、大気圧、ルテニウム系触媒[RuCl(=CHPh)(IMesH)(PCy)]の存在下、過剰のエチレンを用いて行う。収率はクロマトグラフィー分析によって決定する。反応の最後に、6時間、Cα−オレフィンを真空蒸留によって分離する。
【実施例2】
【0062】
この実施例は、式COOH−(CH−CH=CH−(CH−COOHの二酸を与える、第1段階からもたらされる9−デセン酸のホモメタセシスの第2段階(任意)を説明する。
【0063】
Chen−Xi Baiらによる刊行物、Tetrahedron Letters,46(2005),7225−7228に記載されるビスピリジンルテニウム錯体触媒(8)がこの第2段階に用いられる。反応はトルエン中、50℃の温度で12時間、50kPaの圧力の下で行い、形成されるエチレンは反応の最中に抽出する。収率は90mol%である。
【実施例3】
【0064】
この実施例は、実施例1から生じる9−デセン酸の還元的オゾン分解による酸化的開裂を説明する。
【0065】
Welsbach T−408オゾン発生器によって得られるオゾンを、青色が観察されるまで、25mlのペンタン中で泡立てる。このペンタン溶液をアセトン/ドライアイス浴を用いて−70℃で保持する。0℃に冷却した5mlのペンタンに溶解した20mgのメチルエステルをこのオゾン溶液に添加する。次に、過剰のオゾンを除去し、青色を消失させる。5分後、乾燥窒素流でペンタンを蒸発させる。この段階の最中、溶液の温度は0℃未満に保持する。ペンタンを蒸発させた後、反応器に、オゾニドの溶解を可能にするためにこれを再加熱しながら、−70℃に冷却した3mlのメタノールを添加する。この透明溶液を−70℃に冷却した後、2mlのDMSを添加する。反応器を時々再加熱し、形成され得る沈殿の正しい溶解を可能にする。この溶液を−70℃で20分間維持した後、徐々に再加熱する。これを0℃で15分間維持した後、周囲温度にする。過剰のDMSを乾燥窒素流の下で蒸発させた後、真空下でメタノールを蒸発させる。9−オキソノナン酸が理論的収率に対して50mol%の収率で得られる。
【実施例4】
【0066】
この実施例は、実施例2から生じるC18二酸の還元的オゾン分解による酸化的開裂を説明する。
【0067】
1mgのオレイン酸のジエステル、ジメチルオクタデク−9−エン−1,18−ジオエートをオゾンで飽和した2mlのペンタンに溶解し、−70℃に予備冷却する。窒素流の下でペンタンを蒸発させ、1mlのDMSを得られるオゾニドに添加する。30分後、過剰のDMSを窒素流の下で蒸発させる。この生成物を少量のエーテルに溶解し、分析する。
【0068】
メチル9−オキソノナノエートエステルの収率は82mol%である。
【実施例5】
【0069】
この実施例は、この方法の段階2および3(ホモメタセシスは除く。)、特に、ω−オキソノナン酸のアルデヒド官能基のアミノ還元を説明する。
【0070】
530gの9−デセン酸、1600mlのメタノールおよび35mlの濃硫酸を、還流濃縮器が乗せられた2リットル丸底フラスコ内で、還流温度で6時間加熱する。冷却することで、混合物は2つの部分に分離する:メチルデセノエートおよび過剰のメタノール。アルコールの大部分をフィルターポンプで除去した後、残りのアルコールから沈殿させることによって上清デセノエートを分離する。水をこのアルコールに添加し、エーテルで抽出を行う。このエーテル溶液およびメチルデセノエートを混合し、水、次いで重炭酸ナトリウム溶液および、最後に、水で洗浄する。硫酸ナトリウムで乾燥を行い、エーテルを蒸発させ、フィルターポンプを用いて残留するアルコールを追い出し、ベーンポンプを用いて蒸留を行う。526gのごく僅かに黄色のデセノエートが収集される。
【0071】
オゾン化酸素(Trailigaz−Welsbach製のT23オゾン発生器)を100ccの氷酢酸中の100gのデセノエートの溶液を通して100l/hの流速で通過させる。このオゾン化を7時間継続し、2%ヨウ化カリウム溶液の着色によって監視する。ヨウ素が沈殿するとき、および気体の排出口回路上に逸れたヨウ化カリウム溶液が即座に黄色に転じるとき、オゾン流を停止する。第1溶液において赤色が現れたときに直ちにオゾンを停止した場合、オゾン化しようとする溶液の液滴による氷酢酸中の臭素の溶液の脱色によって立証されるように、オゾン化は不完全である。
【0072】
オゾン化は発熱性であり、オゾン化しようとする溶液は水で冷却しなければならない。反応が完了するとき、酸素流で装置全体を30分間一掃し、とりわけ、酢酸溶液に溶解するオゾンを追い出す。この溶液を400mlのエーテルで希釈し、攪拌機および還流濃縮器を備える2リットル三首丸底フラスコに注ぎ入れる。撹拌を行い、10gの亜鉛粉末を0.5mlの水と共に一度に流し入れ、次いで90gの亜鉛を少量ずつ、および最後に、10mlの水を滴下により加える。
【0073】
亜鉛粉末および水を添加しなければならない速度は分解の強さに依存し、時折、冷却が必要になることがある。亜鉛および水の添加の後、液滴をヨウ化カリウムの溶液およびチオデンの溶液と共に撹拌したときにもはや青い着色を示さなくなるまで、混合物を還流する。
【0074】
次に、酢酸亜鉛をブフナー漏斗で濾別し、エーテルで慎重に洗浄する。この濾液および洗浄液を500mlの水と共に2回、200mlと共に1回、10%炭酸ナトリウム溶液と共に、および最後に、水と共に撹拌する。硫酸ナトリウムで乾燥を行い、エーテルを追い出し、フィルターポンプ、次いでベーンポンプで蒸留を行う。
【0075】
このようにして4つの画分を集める:軽質アルデヒドを含むトップ画分、中間画分、アルデヒドエステルに富む画分およびテール画分。
【0076】
アルデヒドエスエルの収率は75mol%である。
【0077】
50gのアルデヒドエステル、50mlの液体アンモニア、125mlのアルコールおよび6gのラネーニッケルを500mlステンレス鋼オートクレーブ内に流し込む。
【0078】
水素を100から150気圧の圧力で導入し、オートクレーブを100−110℃で4時間加熱する。冷却することで水素およびアンモニアを追い出し、内容物を吸い出し、オートクレーブをアルコールですすぐ。オートクレーブの内容物および洗浄アルコールを合わせ、ブフナー漏斗を通して濾過し、窒素の存在下で真空蒸留装置内に入れる。アルコールおよびアンモニアをフィルターポンプ、次いでベーンポンプで追い出す。この粗製着色アミノエステルを、記述される装置内でこれらを蒸留するため、滴下漏斗に入れる。
【0079】
蒸留したアミノエステル(38g)は僅かに着色している。収率は76%mol%である。
【0080】
必要に応じて、生成されたメタノールを回収するため、真空下で加熱することによってアミノエステルを直接重合し、ポリアミド−9を得ることができる。
【0081】
アミノ酸も重合させることができる。このため、アミノエステルを加水分解する。28gのアルデヒドエステルから得られるメチル9−アミノノナノエートを、長い蒸留カラムを乗せ、および1リットルの沸騰水を収容する2リットル三首丸底フラスコ内に滴下させるため、滴下漏斗に入れる。形成されるメタノールが留去されるように還流を調整し、この留去は反応の監視を可能にする;加水分解はメチルエステルで4から5時間継続する。反応が完了するとき、熱条件下で濾過を行い、水を蒸発させる。デシケーター内で乾燥させることが困難である生成物が得られる一方、湿潤生成物をアセトンで洗浄してこれをデシケーター内で乾燥させることで、20gの粗製無色アミノ酸が集められる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式NH−(CH−COOR(RはHまたは1から4個の炭素原子を含むアルキル基のいずれかである。)のアミノ酸またはアミノエステルを式RCH=CH−(CH−COOR(式中、RはHまたは1から11個の炭素原子、0から2のオレフィン性不飽和および、適切であるならば、1つのヒドロキシル官能基を含む炭化水素基のいずれかを表す。)に相当する長鎖天然不飽和脂肪酸またはエステルから合成するための方法であって、第1段階において、前記不飽和脂肪酸またはエステルをエチレンとの触媒的交差メタセシス反応に処して、少なくとも50mol%が式CH=CH−(CH−COORに相当する、ω−不飽和酸またはエステルを形成し、次に、第2段階において、式CH=CH−(CH−COORの酸またはエステルを酸化的開裂反応に処して式CHO−(CH−COORのアルデヒド酸/エステルを形成し、ならびに次いで、最後に、生じる生成物を還元的アミノ化によって変換して式NH−(CH−COORのω−アミノ酸/エステルを得ることからなる、方法。
【請求項2】
酸化的開裂を還元的オゾン分解によって行うことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
還元的オゾン分解の還元機能が金属亜鉛によってもたらされることを特徴とする、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
還元的オゾン分解の還元機能をジメチルスルフィドを用いて実施することを特徴とする、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
第1段階の完了時、式ROOC−(CH−CH=CH−(CH−COORの二酸(ジエステル)を形成するために式CH=CH−(CH−COORの不飽和酸/エステルを第2段階の間にホモメタセシスに処するため、α−オレフィンを媒体から分離し、次いで、第3段階において、二酸(ジエステル)COOR−(CH−CH=CH−(CH−COORを酸化的開裂反応に処して式CHO−(CH−COORのアルデヒド酸を形成し、ならびに次いで、最後に第4段階において、生じる生成物を還元的アミノ化によって変換して式NH−(CH−COORのω−アミノ酸/エスエルを得ることを特徴とする、請求項1から4の一項に記載の方法。

【公表番号】特表2011−527325(P2011−527325A)
【公表日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−517214(P2011−517214)
【出願日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【国際出願番号】PCT/FR2009/051370
【国際公開番号】WO2010/004220
【国際公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【出願人】(505005522)アルケマ フランス (335)
【Fターム(参考)】