説明

天然皮革製品

【課題】天然皮革に取着された金属部品の防錆効果が確実に得られ、その金属部品の錆による腐食や変色を従来よりも長期間に渡って防止することが可能な天然皮革製品を提供する。
【解決手段】本発明の天然皮革製品は、金属部品(4,5,13,14)が取着された天然皮革製品(1,11)であって、前記製品(1,11)を構成する天然皮革の少なくとも一部に、防錆処理が施されてなることに特徴を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属部品が取着された特に天然皮革製品に関するものであり、詳しくは、金属部品に対する優れた防錆効果を備えた天然皮革製品に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、牛、豚、羊、ワニ等から得られる天然の皮革は、衣類、財布、バック、靴、装飾品などの様々な製品に用いられており、その需要は拡大している。このような天然皮革は、一般的に図3に示したような工程で順番に処理を行うことにより製造されている。
【0003】
通常、動物から剥皮した原皮は、腐敗が進まないように塩漬けされて保存されている。このため、先ず準備工程として、原皮をドラムに入れて水漬け処理(ステップ1(図3では、ステップをSと略記している))を行うことによって、原皮に含まれる塩分や付着している汚物を除去するとともに、原皮に水分を補給して生皮の状態に戻す。
【0004】
続いて、フレッシング処理(ステップ2)を行って、原皮に付着している肉片や脂肪分を取り除いた後、脱毛処理(ステップ3)を行う。この脱毛処理では、フレッシング処理された皮を石灰乳に浸漬することによりアルカリで膨潤させて、皮のコラーゲン繊維をほぐすとともに、毛や表皮などを分解して除去する。その後、脱灰・酵解処理(ステップ4)を行って、前述の脱毛処理において皮中に入り込んで残存している石灰を取り除くとともに、酵素により皮を柔らかくする。
【0005】
次に、なめし工程が行われる。このなめし工程では、先ず浸酸処理(ステップ5)にて皮を酸に浸漬し、皮をクロムなめし剤が浸透し易い酸性の状態に調整する。その後、酸性状態の皮にクロムなめし処理(ステップ6)を行うことにより、クロムなめし剤が皮に浸透してクロムなめし剤と皮中のコラーゲン繊維とを結合させる。これにより、コラーゲン繊維の構造が安定化して、耐久性のある革(皮革)が得られる。更に、この得られた皮革を絞って水分を除いた後、皮革の肉面を刃ロールで削って一定の厚さに調節するシェービング処理(ステップ7)が行われる。
【0006】
前記シェービング処理された皮革は、天然タンニンや合成タンニンのなめし剤を用いて再なめし処理(ステップ8)が施され、皮革に対してその用途に応じた種々の特性が与えられる。更に、中和処理(ステップ9)にて皮革内部の酸をアルカリにより中和して、皮革に染料や加脂剤が均一に浸透するように調整し、その後、染色・加脂処理(ステップ10)にて、染料を用いて革を所望の色に染め、また、精製された生油や合成加脂などの加脂剤を用いて革の柔軟性や豊満性などの感触についての特性を与える。
【0007】
前記染色・加脂処理を行った後、自然乾燥や熱風乾燥などの乾燥処理(ステップ11)を行うことにより、皮革を乾かして染料や加脂剤を固着させる。その後、味入れ処理(ステップ12)にて皮革に適度な水分を与えて、もみほぐし易い状態にし、更に、ステーキング処理(ステップ13)にて皮革を機械によりもみほぐすことにより、皮革に柔軟性や弾力性を与える。
【0008】
次に、張り乾燥処理(ステップ14)にて、皮革が縮まないように皮革を張った状態で平らに乾かして水分を除去し、更に、塗装処理(ステップ15)にてロールコータ塗装やスプレー塗装を行うことにより、外観の美しさを色と艶で調整するとともに、革の耐久性を得るように塗料などで銀面を塗布する。その後、品質検査や計量などが行われて天然皮革が得られる。
【0009】
ところで、上述のような天然皮革は、衣類や財布などの天然皮革製品に使用されており、これらの天然皮革製品には、金属からなるスライドファスナー、ボタン、スナップボタン、コキ、ナス環、バックルなどのファスニング部品が取り付けられているものがある。しかしながら、上述のような製造工程中の多くの処理(例えば、浸酸処理など)は酸性液中で行われており、製造工程の途中で中和処理が行われるものの、皮革の耐久性や風合いなどを維持するために、製造される天然皮革は酸成分を含んだ酸性の状態に保たれている。
【0010】
このため、このような酸性の天然皮革に金属製のファスニング部品が取り付けられると、天然皮革中の酸成分の影響によって金属部品が短時間で錆び付いて腐食や変色が生じてしまい、その錆によって、ファスニング部品の機能が著しく低下したり、また、製品自体が汚れてしまうといった問題が生じていた。
【0011】
一方、特開平8−24012号公報(特許文献1)には、スライドファスナーチェーンを防錆処理することが提案されている。この特許文献1によれば、スライドファスナーチェーンが備えた銅又は銅系合金製のエレメントに防錆剤を付与してエレメント表面に防錆剤の膜を形成することにより、エレメント自体に防錆効果を与えている。このように銅又は銅系合金製のエレメント自体に防錆剤の膜を形成することにより、同エレメントに錆が発生することを抑制することができる。
【0012】
また、前記特許文献1では、スライドファスナーチェーンを防錆処理した後に水洗洗浄を行なうことによって、ファスナーテープから防錆剤を洗い流し、残留する防錆剤によりファスナーテープに変色や変質がきたすことがないようにしている。このことは、前記特許文献1では、ファスナーテープに防錆剤を積極的に付与し、そのファスナーテープに含有させた防錆剤によって、銅又は銅系合金製のエレメントの錆を抑制するという着想はなかったことを意味している。
【0013】
更に、繊維で構成された前記ファスナーテープはもとより、例えば人工皮革においては、その製造を行う際に、天然皮革を製造する場合のような酸による処理が行われることはない。また、ファスナーテープや人工皮革は、酸性の状態に保たれなくても、その耐久性や風合いなどの低下を招くこともない。このため、例えば人工皮革の皮革製品に金属部品が取り付けられても、その金属部品が短時間で錆び付くような問題は生じない。
【特許文献1】特開平8−24012号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
例えば前記特許文献1のように、金属部品に発生する錆を抑制するため、防錆処理によって金属部品の表面に防錆剤の膜を形成する場合、金属部品表面に付与した防錆剤が気化したり、経時劣化したりすることから、金属部品の防錆効果が時間の経過とともに低下するという問題があった。特に、このような金属部品が、例えば天然皮革に取り付けられた場合には、天然皮革に含まれる酸成分が気化によってしみ出すことにより、金属部品の錆の進行が更に早くなるという問題があった。
【0015】
更に、防錆処理が施された金属部品が金属製のファスニング部品である場合には、そのファスニング部品の使用中にファスニング部品に摩擦が生じる。例えば、ファスニング部品がスライドファスナーであれば、スライダーを摺動してスライドファスナーの開閉を繰り返して行うと、エレメントとスライダーとの間に摩擦が生じる。また、ファスニング部品がスナップボタンやバックルなどであれば、それらの雄部材と雌部材を脱着するときに摩擦が生じる。
【0016】
このように防錆処理が施された金属製のファスニング部品を使用することによって摩擦が生じると、金属製のエレメントやスライダー、また、金属製のスナップボタンなどの表面に形成した防錆剤の膜が磨耗して薄くなったり、剥がれたりする。このため、防錆処理が施された金属部品の防錆効果が著しく低下し、錆の発生が顕著になるという問題もあった。
【0017】
本発明は上記従来の課題に鑑みてなされたものであって、その具体的な目的は、天然皮革に取着された金属部品の防錆効果が確実に得られ、金属部品に摩擦が生じても錆の発生を防いで、その金属部品の腐食や変色を従来よりも長期間に渡って防止することが可能な天然皮革製品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記目的を達成するために、本発明により提供される天然皮革製品は、基本的な構成として、金属部品が取着された天然皮革製品であって、前記製品を構成する天然皮革の少なくとも一部に、防錆処理が施されてなることを最も主要な特徴とするものである。
また、本発明の天然皮革製品は、前記金属部品に防錆処理が施されていることが好ましい。更に、本発明は、前記金属部品がファスニング部品である場合に特に有効に適用することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係る天然皮革製品は、金属部品が取り付け固定されており、また、天然皮革の少なくとも一部に防錆処理が施されている。
本発明者等は、天然皮革製品に取り付けられた金属部品に対する防錆効果を向上させるために、鋭意実験及び検討を重ねた結果、金属部品を腐食・変色させる要因の1つとなる天然皮革自身に防錆処理を施すことにより、金属部品の防錆効果が長期に渡って確実に得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0020】
即ち、本発明のように天然皮革自体に防錆処理が施されていることにより、同天然皮革内に防錆剤が多く含まれることになる。これにより、例えば金属部品に防錆処理が施されていなくても、防錆剤の気化により天然皮革から防錆剤がしみ出して金属部品に連続的に付与されることから、その金属部品の表面に防錆膜が安定して形成されている状態を長期間に渡って維持することができる。従って、金属部品の防錆効果が時間の経過とともに低下することはなく、金属部品の腐食や変色を従来よりも長期間に渡って防止することができる。
【0021】
それに加えて、本発明の天然皮革製品は、前記金属部品自体にも防錆処理が施されていれば、更に優れた防錆効果を得ることができ、金属部品の腐食や変色をより効果的に防止することができる。
【0022】
また、本発明の天然皮革製品において前記金属部品がファスニング部品であれば、上述のような効果をより顕著に得ることができる。ここで、本発明の天然皮革製品に取り付け固定される金属製のファスニング部品は、特に限定されるものではないが、例えばスライドファスナー、バックル、コキ、豆さし、ナス環、ボタン、スナップボタン、フックとアイを有する係脱具、ハトメなどがある。
【0023】
このような金属製のファスニング部品が取り付けられた本発明の天然皮革製品は、その使用によってファスニング部品に摩擦が生じて、ファスニング部品表面に形成した防錆膜が一時的に薄くなったり、剥がれたりしても、天然皮革から金属部品に防錆剤が連続的に付与されるため、金属部品に腐食や変色が生じる前に防錆膜を金属部品表面に新たに形成することができる。これにより、防錆効果を低下させることなく、錆の発生を長期間に渡って確実に防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら具体的に説明する。ここで、図1は、本実施形態の天然皮革製品を模式的に示した斜視図である。
【0025】
本実施形態の天然皮革製品は、天然皮革である牛革に裁断や縫製等を行って得られた財布1であり、財布1の全体に天然牛革が用いられている。この牛革製の財布1には、財布本体2に設けた小銭入れを開閉するための金属製のスライドファスナー4と、カバー体3を財布本体2に係脱するための金属製のスナップボタン5とが取り付け固定されている。
【0026】
前記スライドファスナー4は、従来から一般的に使用されている金属製のスライドファスナーであり、ファスナーエレメント4a、下止4b、上止4c、及び、スライダー4dがそれぞれ銅−亜鉛合金で構成されている。また、前記スナップボタン5についても、カバー体3に固定された雄スナップボタン5a及び財布本体2に固定された雌スナップボタン5bが、それぞれ銅−亜鉛合金で構成されている。
【0027】
なお、本発明において、前記スライドファスナー4や前記スナップボタン5等の金属製ファスニング部品の材質は特に限定されるものではなく、ファスニング部品を構成する金属としては、例えばアルミニウム合金、銅合金、亜鉛合金、鉄合金等を使用することができる。本実施形態においては、銅−亜鉛合金が強度、コスト、加工性に優れているため、スライドファスナー4の金属部分4a〜4dとスナップボタン5とに用いられている。
【0028】
また、本実施形態のスライドファスナー4とスナップボタン5とには、それぞれ防錆処理が施されている。この場合、スライドファスナー4とスナップボタン5とに防錆処理を行う方法は限定されないが、例えば、防錆剤を所定の濃度で添加した水溶液にスライドファスナー4及びスナップボタン5を浸漬することや、また、同水溶液をスライドファスナー4及びスナップボタン5にスプレーすることによって、防錆処理を安定して行ってスライドファスナー4とスナップボタン5に防錆効果を与えることができる。なお、スライドファスナー4とスナップボタン5の防錆処理を行う際に用いる防錆剤としては、例えば、一般的なベンゾトリアゾール(以下、BTAと略記する)、リン酸塩、ケイ酸塩、アミン塩などを使用することができる。
【0029】
更に本実施形態において、財布本体2とカバー体3とを構成する天然牛革の全体には、同牛革の製造工程中に防錆処理が施されており、牛革の内部や表面に防錆剤が付与されている。ここで、本実施形態に用いられる牛革の製造方法について説明する。本実施形態に用いられる天然牛革は、基本的に図3に示したような従来の製造工程に従って製造されるが、その製造工程中に、又は製造工程後に、牛革に対して少なくても1回の防錆処理を行うことが必要とされる。
【0030】
この防錆処理は、天然牛革に防錆剤を付与して防錆効果を発揮するものであればどのような処理であっても良いが、例えば、防錆剤を含有した水溶液に牛革を浸漬させることや、防錆剤を含有した水溶液を牛革の表面にスプレー等によって塗布することによって、天然牛革に防錆処理を行うことができる。その中でも、防錆処理は防錆剤を含有した水溶液に牛革を浸漬させて行うことが好ましく、それによって、牛革全体に防錆剤を効果的に浸透させることができる。
【0031】
この場合、天然牛革に付与する防錆剤としては、従来から一般的に用いられているBTA、リン酸塩、ケイ酸塩、アミン塩などの防錆剤を使用することができるが、その中でもBTAを用いることが好ましい。BTAは揮発性が高いため、防錆処理にてBTAが天然牛革に付与されていれば、製品(財布1)の使用中にBTAが気化してスライドファスナー4やスナップボタン5の表面に容易に付着して防錆膜を形成するため、高い防錆効果を得ることができる。
【0032】
このような防錆処理は、前述のように天然牛革の製造工程中に、又は製造工程後に、少なくても1回行われれば、どの段階で行われても良いが、例えば牛革製造工程中に行われる方が効率や作業性の点で優れている。また、牛革製造工程において、例えば塗装処理が施された後の牛革に対して防錆処理を行っても、牛革には既に塗装膜が形成されているため、防錆剤が牛革内に残留し難くなることがある。このため、防錆処理は、天然牛革の製造工程中であって、塗装処理が終了する前までに行われることが好ましい。
【0033】
一方、防錆処理で牛革に付与する防錆剤(BTA)は揮発し易いことから、防錆効果をより長く持続させるためには、一連の製造工程の中でも、より後段側で防錆処理が行われることが好ましい。更に、防錆処理を牛革の製造工程中に行う場合、作業性の向上や処理時間の短縮などから、防錆処理を牛革製造工程で行われる種々の処理の中の何れかに組み込んで行うことが好ましい。
【0034】
従って、例えば図3に示したような製造工程に従って天然牛革を製造する場合、ステップ10の染色・加脂処理を行う際に、防錆処理を同時に行うことが好ましい。具体的には、牛革に染色を行う際に、染色液に防錆剤を所定の濃度(例えば、0.05質量%以上0.5質量%以下、好ましくは、0.3質量%以上2.0質量%以下の濃度)で添加し、その染色液を用いて従来と同様の染色条件で染色を行う。これにより、防錆処理を染色と同時に効率的に行うことができ、更に、牛革全体に防錆剤を染料とともに効果的に浸透させることができる。
【0035】
またその他に、ステップ15の塗装処理を行う際に、防錆処理を同時に行うことも可能である。具体的には、牛革に塗装を行う際に、塗装剤に防錆剤を所定の濃度で添加し、その塗装剤を用いて従来と同様の塗装条件で塗装を行う。これによっても、防錆処理を塗装と同時に効率的に行うことができる。更には、防錆効果をより高めるために、ステップ10の染色・加脂処理と、ステップ15の塗装処理の両方の処理に防錆処理を組み込んで、防錆処理を2回行うことも可能である。
【0036】
また、上述のように染色・加脂処理や塗装処理に組み込んで防錆処理を行う場合には、防錆剤とともに水溶性の界面活性剤を染色液や塗装剤に添加することが好ましい。このように界面活性剤を添加することにより、皮革の濡れ性が高められるため、防錆剤を皮革内に浸透させ易くすることができる。なお、このような界面活性剤としては、例えば、リン酸エステルアミン塩、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルなどを用いることができる。
【0037】
上述のようにして防錆処理を施した天然牛革が用いられている本実施形態の牛革財布1は、牛革内に防錆剤が含まれているため、牛革内から防錆剤が気化してスライドファスナー4やスナップボタン5に付着し、スライドファスナー4やスナップボタン5の表面に防錆膜を容易に形成することができる。
【0038】
このため、スライドファスナー4の使用によりファスナーエレメント4aとスライダー4dとの間に摩擦が生じても、また、スナップボタン5との係脱により雄スナップボタン5aと雌スナップボタン5bとの間に摩擦が生じても、スライドファスナー4やスナップボタン5の防錆効果は低下することなく、錆による腐食や変色の発生を長期間に渡って効果的に防止することができる。特に、本実施形態の牛革財布1は、スライドファスナー4やスナップボタン5にも予め防錆処理が施されているため、更に高い防錆効果を得ることができる。
【0039】
なお、上記実施形態の財布1は、天然皮革として牛革を用いて作製されているが、本発明はこれに限定されず、豚革や羊革などのようなその他の天然皮革を用いて形成されていても良い。また、天然皮革製品の種類も、金属部品が取着された天然皮革製品であれば財布に限定されるものではなく、例えば図2に示したような天然皮革製のキーケース、バック、ジャンパーやレザーパンツのような衣類、ベルトなどの天然皮革製品も本発明に含まれる。
【0040】
例えば、図2に示したキーケース11には、天然皮革で形成された皮革部12にスナップボタン13と、キーを保持する保持部14とが設けられており、これらのスナップボタン13と保持部14とが銅−亜鉛合金等の金属で構成されている。このキーケース11は、皮革部12の天然皮革に防錆処理が施されていることにより、金属製のスナップボタン13と保持部14に錆による腐食や変色が発生することを長期間に渡って防ぐことができる。
【0041】
また、前記実施形態の牛革財布1では、天然皮革の全体に防錆処理が施されているが、例えばスライドファスナー4やスナップボタン5の周辺領域といった天然皮革の一部分のみに防錆処理が施されていても、スライドファスナー4やスナップボタン5の防錆効果の低下を抑制して、錆による腐食や変色の発生を効果的に防止することができる。
【実施例】
【0042】
以下、実施例1〜3及び比較例1,2を示して本発明をより具体的に説明する。
(実施例1)
鞄の天然皮革として用いられる牛革を、図3に示した製造工程に従って製造する際に、ステップ10の染色・加脂処理において牛革の染色を行うと同時に防錆処理も行って、防錆剤が内部に付与された天然牛革を製造した。即ち、この実施例1では、染色・加脂処理で用いる染色液に、BTAを防錆剤として0.5質量%で添加して染色を行うことによって、牛革全体に防錆処理を行った。
【0043】
上述のようにして天然牛革を製造した後、同牛革に、スライドファスナーのファスナーチェーンを牛革に接触するように縫着して実施例1の試料を作製した。なお、この実施例1で用いたファスナーチェーンのファスナーエレメントは、銅が85%で亜鉛が15%となる丹銅材で構成されている。また、このファスナーエレメントは、牛革に縫着する前に、溶剤による脱脂処理を行ってワックスなどの油脂成分を除去したものの、ファスナーエレメント自体に防錆処理は施さなかった。
【0044】
(実施例2)
前記実施例1と同様の工程を行って防錆処理が全体に施された天然牛革を製造し、同牛革に、スライドファスナーのファスナーチェーンを、牛革に接触するように縫着して実施例2の試料を作製した。なお、この実施例2で用いたファスナーチェーンのファスナーエレメントは、前記実施例1と同様の丹銅材で構成されており、また、溶剤による脱脂処理を行って油脂成分を除去した後に、ファスナーエレメント自体にもBTAによる防錆処理を施した。
【0045】
(実施例3)
図3に示した製造工程に従って製造する際に、ステップ10の染色・加脂処理において、染色液に、BTAを防錆剤として0.5質量%で添加するとともに、リン酸エステルアミン塩を水溶性界面活性剤として0.2質量%で添加して染色を行うことにより、牛革全体に防錆処理を行った。このようにして天然牛革を製造した後、同牛革に前記実施例1と同様のファスナーチェーンを牛革に接触するように縫着して実施例3の試料を作製した。
【0046】
(比較例1)
図3に示した製造工程に従って防錆処理が施されていない天然牛革を製造し、同牛革に、スライドファスナーのファスナーチェーンを、牛革に接触するように縫着して比較例1の試料を作製した。なお、この比較例1で用いたファスナーチェーンのファスナーエレメントは、前記実施例1と同様の丹銅材で構成されており、また、溶剤による脱脂処理を行って油脂成分を除去した後に、ファスナーエレメント自体にBTAによる防錆処理を施した。
【0047】
(比較例2)
前記比較例1と同様に防錆処理が施されていない天然牛革を製造し、同牛革に、スライドファスナーのファスナーチェーンを、牛革に接触するように縫着して比較例2の試料を作製した。なお、この比較例2で用いたファスナーチェーンのファスナーエレメントは、前記実施例1と同様の丹銅材で構成されており、また、溶剤による脱脂処理を行って油脂成分を除去したものの、ファスナーエレメント自体に防錆処理は施さなかった。
【0048】
そして、前記実施例1〜3及び比較例1,2で作製した各試料に対して、温度60℃、湿度85%の雰囲気中に48時間保持する暴露試験を行い、その後、各試料におけるファスナーチェーンの錆による変色の状態を、目視による観察を行って4段階で評価した。
【0049】
このとき、ファスナーチェーンの変色状態は、エレメントに変色が全く見られなかった試料をAとし、変色が殆ど見られなかった試料をBとし、エレメントが全体的に僅かに変色した試料をCとし、エレメント全体が真っ黒に変色した試料をDとして評価を行った。その評価結果を、牛革及びファスナーエレメントに対する防錆処理の有無とともに以下の表1に示す。
【0050】
【表1】

【0051】
上記表1に示したように、天然牛革に防錆処理を施した実施例1の試料は、ファスナーエレメントのみに防錆処理を施した比較例1の試料よりも防錆効果に優れていることが確認された。また、実施例2に示したように、天然牛革だけでなく、ファスナーエレメント自体にも防錆処理を施すことにより、防錆効果を更に向上させることができる。更に、実施例3に示したように、天然牛革に防錆処理を行う際に防錆剤(BTA)とともに界面活性剤(リン酸エステルアミン塩)を添加することによっても、牛革に浸透する防錆剤が増大して防錆効果を更に向上させることができることが判った。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明の実施形態となる天然皮革製品を模式的に示した斜視図である。
【図2】本発明の別の実施形態となる天然皮革製品を模式的に示した斜視図である。
【図3】天然皮革を製造する工程を示したフロー図である。
【符号の説明】
【0053】
1 牛革製財布
2 財布本体
3 カバー体
4 スライドファスナー
4a ファスナーエレメント
4b 下止
4c 上止
4d スライダー
5 スナップボタン
5a 雄スナップボタン
5b 雌スナップボタン
11 キーケース
12 皮革部
13 スナップボタン
14 保持部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属部品(4,5,13,14)が取着された天然皮革製品(1,11)であって、
前記製品(1,11)を構成する天然皮革の少なくとも一部に、防錆処理が施されてなることを特徴とする天然皮革製品。
【請求項2】
前記金属部品(4,5,13,14)に防錆処理が施されてなる請求項1記載の天然皮革製品。
【請求項3】
前記金属部品(4,5,13,14)がファスニング部品である請求項1又は2記載の天然皮革製品。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2008−163195(P2008−163195A)
【公開日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−354549(P2006−354549)
【出願日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【出願人】(000006828)YKK株式会社 (263)
【Fターム(参考)】