説明

太陽光増幅器

【課題】 この発明は、集光器の先端部を楔形状とした太陽光増幅器の改良に関する。
【解決手段】 集光器が、30度以下の楔角の先端部を有する透明材料の楔形状を構成する一面を反射面とし、前記楔形状を構成する他面を太陽光の入射面とし、該入射面に、垂直または楔の先端部側に傾斜させた太陽光を入射させたとき、前記反射面で反射した反射光が前記入射面を放出面として直接に出射させ、または入射面での全反射を介して出射させてなり、前記入射角より大きい屈折角で出射させて、太陽光の光束密度を増加させることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、集光器の先端部を楔形状とした太陽光増幅器の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の太陽光集光装置は凸レンズを用いたものや、凹面鏡を用いたものがある。 大型の凸レンズをそのまま用いるとレンズの重量が大きくなり、レンズの価格が高くなるだけでなく、それを支えるフレームの強度も必要になるため、装置の大型化や費用の増大は避けられなかった。
図7に示す特許特許第2653368号の太陽熱調理器では、薄型のフレネルレンズ11のどちらか一方の面を凸形状とし、他方を凹ませたものが開示されている。
こうすることにより大型で薄く軽量でかつ高剛性のレンズを実現させている。 レンズが軽量化されることで、それを支えるフレーム12や太陽光追尾装置も小型、軽量化が可能になり、大型で効率的な集光装置を実現している。
但し、このようにレンズ本体を軽量化したところで、レンズを受光部の上部に配置せざるを得ず、レンズが大きくなればレンズの焦点距離も長くなることから、装置の全高を低くできず、強風や地震時の安全確保に問題が残る。
一方、図8に示す特許第3143682号のソーラークッカーには、折りたたみ式凹面鏡21を用いた集光装置が開示されている。
本方式では大型の反射板22を地面近くに配置できるので、風や地震の影響は上部に配置される受光器に限定される。
それでも、大型の反射板の場合には焦点距離が長くなるため、反射板と受光部を一体化するためのフレームを小型化することに限度がある。
これらに共通する問題点としては、焦点距離がレンズや反射板の大きさに依存し、大型の装置の場合には立体的に大きなスペースが必要となる。
また、これらが交差する光の交点すなわち焦点から離れた位置になるほど光の密度が低下し、焦点距離以上はなれると光は集光前の光の密度以下に拡散する点が挙げられる。
【特許文献1】特許第2653368号
【特許文献2】特許第3143682号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
この発明は上記実情に鑑みてなされたもので、その主たる課題は、焦点のない高光束密度平行光を発生する太陽光増幅器を提供することにある。
この発明の別の課題は、水を短時間で加熱することができる太陽光増幅器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記課題を解決するために、請求項1の発明では、
集光器と受光器とからなる太陽光増幅器において、
集光器が、30度以下の楔角の先端部を有する透明材料の楔形状を構成する一面を反射面とし、前記楔形状を構成する他面を太陽光の入射面とし、
該入射面に、楔の先端部側に傾斜させた太陽光を入射させたとき、前記反射面で反射した反射光が前記入射面で全反射するか入射角より大きい屈折角で透過させることで太陽光の光束密度を増加させることを特徴とする。
請求項2の発明では、
集光器が第1の集光器と第2の集光器とからなっており、
第2の集光器の楔先端辺が、第1の集光器の楔先端辺および第1の入射面から外側に出てくる光軸に対して垂直となるように組合せ、
前記第1の集光器の第1入射面からは入射角より大きい屈折角で透過させ、第1の楔先端辺に垂直な方向のみ光束を狭めて密度を増加させた光を前記第2の集光器の第2入射面に入射させ、第2反射面で反射させた反射光を第2入射面で全反射させるか第2入射角より大きい屈折角で第2入射面から透過させ、第1の集光器の第1の楔先端辺と垂直方向にある第2の集光器の第2の楔先端辺と垂直な方向の光束を狭めて光束の断面形状を2方向とも狭めることにより太陽光の光束密度を増幅させることを特徴とする。
また、請求項3の発明では、
太陽光増幅器が、略矩形な容器の底面を反射面とし、
前記底面をその一辺を軸に30度以内で傾斜させた容器内に透明材料としての水を充填し水平に維持された水の上面を入射面としてなり、
太陽光を垂直または底の浅い方向に傾けて前記入射面より入射させ、反射面で反射した反射光が前記入射面で全反射するか入射角より大きい屈折角で透過させることで太陽光の光束密度を増加させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0005】
この発明は簡単で小型な構造でありながら、反射面で反射した太陽光が太陽光の入射面から透過されるときに透明材料によって全反射に近い条件で屈折するか、全反射するため、集光器の近くまたは内部で太陽光を集光できる。
また、全反射に近い条件で屈折させた光は平行を保ったままで光束密度を限りなく大きくできるだけでなく、入射角の制御により用途に応じて必要な強度の光を発生させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
以下に、この発明の太陽光増幅器の実施例1について図面を参照しながら説明する。
【実施例1】
【0007】
この太陽光増幅器1は、集光器5と受光器8とからなっている。
集光器5は、図1に示すように、30度以下の楔角θ0からなる先端部2を有するブロック状の透明材料(例えばガラスやプラスチックなど)であって、前記先端部2の楔形状を構成する一面に反射材料を接合またはコーティングして内向きの反射面3とし、前記楔形状を構成する他方の面を水平面として太陽光の入射面4とした構成からなっている。
【0008】
該入射面4から太陽光L1が入射すると、入射光L2は反射面3で反射し、その反射光L3は前記入射面4に到着し、最初に入射した角度θ1より大きな屈折角θ4で出射するか全反射する。
【0009】
このうち、反射光L3が入射面4を透過する場合は、入射面4と反射面3の傾斜を利用して当初の入射角θ1より大きい屈折角θ4で出射光L4を透過させることができる。
このとき太陽光は地上ではほぼ平行な光であるから、屈折した出射光L4も平行となるが、入射角θ1と透過時の屈折角θ4との差があることから、光束密度は変化する。
【0010】
本実施例では、集光器5の先端部2の楔角θ0に応じた最適の入射角θ1を選んで、透過時の屈折角θ4が全反射しない構成としており、かつ90度に限りなく近づけることができる。
すなわち、入射面4を透過した出射光の光束密度は限りなく大きくなるが、平行状態を保つことができるので、受光器8の位置の自由度が広がる。
【0011】
これにより受光器8の遠方に集光器5を設置でき、複数の受光器8に交代で一個の集光器5から強い光を提供したり、その逆も可能となる。
入射面4から太陽光を入射させ、反射面3で反射させた後、再び入射面4側から放射させる。
このとき反射光L3は光軸部を除いて反射面の傾斜角θ3の2倍の角度で傾斜するため、光の入射面4すなわち放出面と傾斜して通過する。
【0012】
この出射光L4の強度は以下のように先端部2の楔角θ0と入射角θ1の関数で表され、全反射しない入射角θ1の自由度を大きくするためには、前記楔角θ0は5度以上、15度以下が望ましい。
ここで、集光器5の屈折率をRI、先端部2の楔角をθ0、入射角をθ1とする最初の屈折角(θ2)は、数1であらわされる。
【数1】

反射角(θ3)は数2であらわされる。
【数2】

最後の屈折角(θ4)は数3であらわされる。
【数3】

【0013】
ここで、説明を簡単にするため、入射面の長さを1mと仮定すると、入射面に戻る有効反射面の長さと受光面を入射光の入射角θ1と平行とし、受光面の影が最も小さくなるようにした場合の受光面の高さL2と反射面の水平距離L1は、それぞれ数4、数5となり、太陽光の光束の最小断面積と受光面の面積の比である、光束密度増幅率(CR)は数6となる。
【数4】

【数5】

【数6】

【0014】
なお、入射角θ1を前述の条件より僅かに大きくすることにより、反射面3で反射した反射光L3は入射面4に戻ったところで全反射させることができる。
この全反射した光は直接、先端部2の楔角θ0の対辺6から透過するか再び反射面3で反射するかのいずれかとなる。
【0015】
このうち、再度、反射面3で反射した場合でも、最初の反射光L3に比べて反射角θ3は大きくなるため、全反射の条件は満たされたままである。
すなわち、一度入射面4で全反射した反射光L3は入射面4と反射面3の間で往復し、最後は先端部2の楔角の対辺6から出て行くことになる。
【0016】
このとき、前記楔角θ0は30度以下なので、頂角2に隣接した入射面4に比べて頂角2の対辺6は狭くなっている。
対辺6に到着する光は反射の回数や最後の反射が反射面3によるものか全反射によるものか等により一定しないものの、対辺6近くの光束密度は入射した太陽光のそれより大きくなっており、この場合の増幅率は先端部2の楔角を30度より小さくすれば増加できるが、小さくしすぎると全反射の条件が狭くなるため、5度以上が望ましい(後述の実施例4参照)。
【実施例2】
【0017】
図1では透明材料でできた集光器5が単一の楔形状をしている場合を説明したが、図2に示すように集光器5の断面が複数の楔形状を連続させた構造でもよい。
これにより、フレネルレンズと同様に、集光器5の厚みや体積を低減することにより、コストや重量も低減できる。
この場合に図2に示すように、小型の受光器8を一定の間隔で複数配置してもよく、高さに制限がない場合には高さの大きい単一の受光器8(図示せず)を光の下流側に1個配置しても良い。
その他の構成は前記実施例1に準じるので、その説明を省略する。
【実施例3】
【0018】
図1ないし図2の集光器5では太陽光を一方向にのみ圧縮した例を示したが、図3に示すように、集光器として第1の集光器5と第2の集光器(説明の便宜上、符号には「’」を付す)5’を用いてもよい。
この場合、第2の集光器5’の第2の楔先端辺の形成する面が、前記第1の集光器5の第1の楔先端辺の形成する面と垂直で、且つ第1の入射面4から外側に出てくる光軸に対して垂直となるように組合せている。
【0019】
そこで、前記第1の集光器5に設けられた第1入射面4からは入射角より大きい屈折角で透過させ、第1の楔先端辺の形成する面に垂直な方向のみ光束を狭めて密度を増加させた光束を出射させる。
この光束は前記第2の集光器5’の第2入射面4’に入射し、第2反射面3’で反射させた反射光を第2入射面4’で全反射させるか第2入射角より大きい屈折角で第2入射面4’から透過させる。
【0020】
これにより、第1の集光器5の第1の楔先端辺の形成する面と垂直方向にある第2の集光器5’の第2の楔先端辺の形成する面と垂直な方向の光束を狭めて光束の断面形状を2方向とも狭めることができ、太陽光の光束密度を増幅させる。
この場合にも集光された太陽光はほぼ平行を保っているため、前記集光器5、5’と受光器8の距離は自由に変えられるため、用途がさらに拡大できる。
その他の構成は前記実施例1に準じるので、その説明を省略する。
【実施例4】
【0021】
図4では透明な容器5aの底に反射材料を接合ないしコーティングして内向きに反射面3を形成しており、30度以内の角度で傾斜させている。
この容器5aの内部には透明な水7を透明材料として充填している。
この場合には、集光器5の楔形状の先端部2を容器5aの内部の水7が形成することになり、光の下流側となる容器5aの壁面に光により発熱する受光面8を設けている。
【0022】
即ち、この実施例の場合は、出射光だけでなく更に全反射を用いることができ、水面より下が第1受光面8a、水面より上が第2受光面8bとなっている。
前述のように全反射は先端部2の楔角の対辺6に集まるので、前記第1受光面8aに集光して加熱することができる。
【0023】
また、出射光は第2受光面8bに集光して第2受光面8bを発熱させるので、熱伝導によって水を加熱することができる。
なお、第1受光面8aを設けず透明のままとして光を透過させ、外部に設けた受光器に集光させるようにしてもよい(図示せず)。
【0024】
図5は、図4の実施例の集光器の効率を示すもので、頂角4度から20度までにおける入射角度をX軸にとり集光効率をY軸にとって、両者の関係をグラフに示したもので、水面に対する太陽の入射角が広く変化しても、反射面の角度を調整すれば高い効率を得ることが可能であることが確認できた。
図5の効率が+の場合は屈折を示し、−の場合は全反射を示す。
【0025】
この場合にも反射面3で反射させた光を水面となる入射面4で全反射させても良いが、全反射に近い条件で屈折させても良い。
前記受光器8を熱伝導の良い素材、例えば金属等で形成すれば水面の上で受光した熱は容器5aを介して水中に容易に伝導するので、容器5a内部の水を加熱できるので、ソーラークッカーとして使用しうる。
【0026】
この場合、容器5a内部の水を直接加熱する場合には、体積に対する表面積の大きい小型の容器5aが望ましいが、傾けた容器5aの水面となる入射面4に平行な容器5aの開口端面を形成し、水面にできる容器5aの側面の影を最小にすれば容器5aは透明でなくてもよい。
【0027】
容器5aを大型にして、より出力の大きい太陽光増幅器を使用する場合には、表面積すなわち受光面積に対する水の体積が相対的に大きくなるため、少なくとも水深の最大側の側面を透明として、容器5aの外側に受光器8を配置することが望ましい(図示せず)。
【実施例5】
【0028】
図6に示す太陽光増幅器1は、集光器5の断面が複数の楔形状を連続させた構造の異なる実施例を示す。
この実施例5では、前記実施例3と異なり、2つの集光器5、5’をお互いの楔先端辺が形成する面を平行とし、その入射面4、4’が対峙するように直角に組み合わせて収差を相殺させる構成からなっている。
本実施例ではアッベ数の異なる集光器を組み合わせることで収差を吸収させて、より遠方での広範囲のスペクトル光の利用を図っている。
【0029】
図示例では、第1の集光器5はアッベ数59、増幅率2となり、第2の集光器5’ではアッベ数(逆分散率)32、増幅率6となり、効果的に光を増幅させることができる。
一方、図6とは逆に収差を利用することにより、熱に弱い太陽電池にも有効なスペクトル光だけを集中的に照射することにより、太陽電池が過熱しない範囲で発電量を増加することも可能となる。
その他の構成は前記実施例に準じるので、その説明を省略する。
この発明は上記各実施例に限定されるものではなく、この発明の要旨を変更しない範囲で種々設計変更しうること勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】実施例1の太陽光増幅器の模式図である。
【図2】楔並列型の太陽光増幅器の斜視図である。
【図3】(a)は楔直角型の太陽光増幅器の斜視図、(b)は光の集光を示す模式図である。
【図4】傾斜容器と水とからなる太陽光増幅器の斜視図である。
【図5】集光効率を示すグラフである。
【図6】(a)は収差相殺型の太陽光増幅器の斜視図、(b)は光の集光を示す模式図である。
【図7】従来例1の太陽光集光装置を示す斜視図である。
【図8】従来例2の太陽光集光装置を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0031】
1 太陽光増幅器
2 先端部
3 短鞘管
4、4’入射面
5、5’集光器
5a 容器
7 水
8 受光器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
集光器と受光器とからなる太陽光増幅器において、
集光器が、30度以下の楔角の先端部を有する透明材料の楔形状を構成する一面を反射面とし、前記楔形状を構成する他面を太陽光の入射面とし、
該入射面に、楔の先端部側に傾斜させた太陽光を入射させたとき、前記反射面で反射した反射光が前記入射面で全反射するか入射角より大きい屈折角で透過させることで太陽光の光束密度を増加させることを特徴とした太陽光増幅器。
【請求項2】
集光器が第1の集光器と第2の集光器とからなっており、
第2の集光器の楔先端辺が、第1の集光器の楔先端辺および第1の入射面から外側に出てくる光軸に対して垂直となるように組合せ、
前記第1の集光器の第1入射面からは入射角より大きい屈折角で透過させ、第1の楔先端辺に垂直な方向のみ光束を狭めて密度を増加させた光を前記第2の集光器の第2入射面に入射させ、第2反射面で反射させた反射光を第2入射面で全反射させるか第2入射角より大きい屈折角で第2入射面から透過させ、第1の集光器の第1の楔先端辺と垂直方向にある第2の集光器の第2の楔先端辺と垂直な方向の光束を狭めて光束の断面形状を2方向とも狭めることにより太陽光の光束密度を増幅させることを特徴とする請求項1に記載の太陽光増幅器。
【請求項3】
太陽光増幅器が、略矩形な容器の底面を反射面とし、
前記底面をその一辺を軸に30度以内で傾斜させた容器内に透明材料としての水を充填し水平に維持された水の上面を入射面としてなり、
太陽光を垂直または底の浅い方向に傾けて前記入射面より入射させ、反射面で反射した反射光が前記入射面で全反射するか入射角より大きい屈折角で透過させることで太陽光の光束密度を増加させることを特徴とした請求項1に記載の太陽光増幅器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−272572(P2009−272572A)
【公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−124080(P2008−124080)
【出願日】平成20年5月9日(2008.5.9)
【出願人】(390001579)プレス工業株式会社 (173)
【Fターム(参考)】