説明

太陽電池パネル、太陽電池パネルの帯電抑制方法及び人工衛星搭載用太陽光発電装置

【課題】カバーガラス表面の帯電を抑制するものでありながら、カバーガラス表面の導電層を不要にし、製造コストを抑えるとともに、カバーガラス表面の導電層に起因する耐久性や発電性能の低下を防止する。
【解決手段】支持ベースとなる絶縁層2と、絶縁層2上に互に間隙10を介して配列される複数の太陽電池セル3と、太陽電池セル3同士を接続するインタコネクタ4と、太陽電池セル3上に積層され、表面が導電層を備えない露出状態のカバーガラス5と、カバーガラス5の端面、太陽電池セル3、インタコネクタ4及び絶縁層2に接触するように間隙10に充填される高抵抗導電性接着剤6と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カバーガラス表面の帯電を抑制する太陽電池パネル、太陽電池パネルの帯電抑制方法及び人工衛星搭載用太陽光発電装置に関する。
【背景技術】
【0002】
人工衛星搭載用太陽光発電装置に用いられる太陽電池パネルは、軌道上の真空環境下において、太陽電池アレイの周辺に、絶縁シート(絶縁体)、太陽電池セル/インタコネタク(導体)、カバーガラス(絶縁体)で構成される三重点を形成する。
軌道上においては、太陽活動が活発でサブストームが発生したとき、しばしばカバーガラスの表面が帯電することが知られている。
カバーガラスの表面が帯電すると、上記の三重点で頻繁に放電が発生し、太陽電池セルの性能劣化、アレイ間での持続放電の発生とそれに伴う絶縁シートの焼損、アレイ回路の地絡による発生電力の低下、といった問題が発生する可能性がある。
【0003】
図2は、参考例に係る太陽電池パネルの断面図である。
この図に示されるように、カバーカラスの表面に導電層(導電性コーティング)を備える太陽電池パネルが知られている(例えば、特許文献1〜3参照)。
さらに、特許文献1、2に示される太陽電池パネルでは、セル間の間隙に導電性接着剤を充填し、また、特許文献3に示される太陽電池パネルでは、パネルの端面に導電性接着剤を塗布している。
このように構成された太陽電池パネルによれば、太陽電池パネルの表面全体が導電層や導電性接着剤で覆われることになるので、カバーガラス表面の帯電自体を防止することが可能になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平02−177576号公報
【特許文献2】特表2004−506329号公報
【特許文献3】特表2001−516513号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記のような帯電防止構造を有する太陽電池パネルでは、以下に示すような問題点があった。
第一の問題点は、製造コストが上昇することである。
その理由は、カバーガラスの表面全体に導電性コーティングなどで導電層を形成する必要があるからである。
第二の問題点は、耐久性が低下する可能性があることである。
その理由は、カバーガラスの表面に形成される導電層の耐久性が、カバーガラス表面の耐久性に比して劣る場合があるからである。特に、カバーガラスの表面と端面とがなす角部に形成された導電層は、物体との接触により損傷や摩耗が発生しやすい。
第三の問題点は、発電性能が低下する可能性があることである。
その理由は、カバーガラスの表面に形成される導電層の透光性が、カバーガラス表面の透光性に比して劣る場合があるからである。特に、計時的な劣化により透光性が低下する導電層の場合、発電性能の低下が顕著となる。
【0006】
本発明の目的は、上述した課題である、カバーガラス表面の帯電を抑制するものでありながら、カバーガラス表面の導電層を不要にして、製造コストを抑えることができるだけでなく、カバーガラス表面の導電層に起因する耐久性や発電性能の低下も防止することができる太陽電池パネル、太陽電池パネルの帯電抑制方法及び人工衛星搭載用太陽光発電装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため本発明の太陽電池パネルは、支持ベースとなる絶縁層と、前記絶縁層上に互に間隙を介して配列される複数の太陽電池セルと、前記太陽電池セル同士を接続するインタコネクタと、前記太陽電池セル上に積層され、表面が導電層を備えない露出状態のカバーガラスと、前記カバーガラスの端面、前記太陽電池セル、前記インタコネクタ及び前記絶縁層に接触するように前記間隙に充填される高抵抗導電性接着剤と、を備える構成としてある。
【0008】
また、本発明の太陽電池パネルの帯電抑制方法は、支持ベースとなる絶縁層と、前記絶縁層上に互に間隙を介して配列される複数の太陽電池セルと、前記太陽電池セル同士を接続するインタコネクタと、前記太陽電池セル上に積層されるカバーガラスと、を備える太陽電池パネルが対象であり、前記カバーガラスの表面を、導電層を備えない露出状態にするとともに、前記間隙に、前記カバーガラスの端面、前記太陽電池セル、前記インタコネクタ及び前記絶縁層に接触する高抵抗導電性接着剤を充填し、前記カバーガラスの表面に帯電した電荷を、前記カバーガラスの端面と前記高抵抗導電性接着剤との接触部、及び前記カバーガラスの表面で放電させる方法としてある。
【0009】
また、本発明の人工衛星搭載用太陽光発電装置は、太陽光で発電する太陽電池パネルを備え、前記太陽電池パネルが、支持ベースとなる絶縁層と、前記絶縁層上に互に間隙を介して配列される複数の太陽電池セルと、前記太陽電池セル同士を接続するインタコネクタと、前記太陽電池セル上に積層され、表面が導電層を備えない露出状態のカバーガラスと、前記カバーガラスの端面、前記太陽電池セル、前記インタコネクタ及び前記絶縁層に接触するように前記間隙に充填される高抵抗導電性接着剤と、を備える構成としてある。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、カバーガラス表面の帯電を抑制するものでありながら、カバーガラス表面の導電層を不要にして、製造コストを抑えることができるだけでなく、カバーガラス表面の導電層に起因する耐久性や発電性能の低下も防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施形態に係る太陽電池パネルの断面図である。
【図2】参考例に係る太陽電池パネルの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る太陽電池パネルの断面図である。
この図に示す太陽電池パネル1は、人工衛星搭載用太陽光発電装置に用いられるものであって、絶縁層2と、太陽電池セル3と、インタコネクタ4と、カバーガラス5と、高抵抗導電性接着剤6とを備えて構成されている。
【0013】
絶縁層2は、太陽電池セル3の支持ベースとなる部分であり、本実施形態では、サブストレート7上に、絶縁シート8及び絶縁性接着剤9を積層して構成されている。
【0014】
太陽電池セル3は、太陽電池アレイを構成する発電素子であり、絶縁層2上に互に間隙10を介して配列されている。
【0015】
インタコネクタ4は、太陽電池セル3同士を接続する導体部品であり、例えば、断面逆U字状の連結部4aと、連結部4aの一端から外測方に延出し、一側の太陽電池セル3の下面に接続される第一接続部4bと、連結部4aの他端から外測方に延出し、他側の太陽電池セル3の上面に接続される第二接続部4cとを一体に備えて構成されている。
【0016】
カバーガラス5は、太陽電池セル3の表面を保護する絶縁体であり、絶縁性接着剤11を介して太陽電池セル3上に積層されている。カバーガラス5の表面は、導電層を備えない露出状態となっており、軌道上においては帯電する可能性がある。
【0017】
高抵抗導電性接着剤6は、硬化後に高抵抗の導電性を示す接着剤であり、カバーガラス5の端面、太陽電池セル3、インタコネクタ4及び絶縁層2に接触するようにセル間の間隙10に充填されている。
【0018】
すなわち、本発明の太陽電池パネル1では、カバーガラス5の表面を、導電層を備えない露出状態にするとともに、セル間の間隙10に、カバーガラス5の端面、太陽電池セル3、インタコネクタ4及び絶縁層2に接触する高抵抗導電性接着剤6を充填することにより、カバーガラス5の表面に帯電した電荷を、カバーガラス5の端面と高抵抗導電性接着剤6との接触部、及びカバーガラス5の表面で放電させる。
【0019】
このようにすると、カバーガラス5の表面が露出状態であるため、帯電自体は発生するが、帯電した電荷は、あらかじめ確保した経路で放電されるので、放電による太陽電池セル3の性能劣化、アレイ間での持続放電の発生とそれに伴う絶縁シート8の焼損、アレイ回路の地絡による発生電力の低下、といった問題を解消しつつ、カバーガラス5の表面に生じる帯電を抑制することができる。
【0020】
しかも、カバーガラス5の表面に生じる帯電を抑制するものでありながら、カバーガラス5の表面に形成される導電層が不要になるので、製造コストを抑えることができるだけでなく、カバーガラス5の導電層に起因する耐久性や発電性能の低下も防止することができる。
【0021】
さらに、本実施形態では、高抵抗導電性接着剤6がカバーガラス5の表面と端面とがなす角部5aに接触しないようにしている。
その理由は、カバーガラス5の表面と端面とがなす角部5aに形成された層は、物体との接触により損傷や摩耗が発生しやすいからである。
【0022】
また、本実施形態では、カバーガラス5の端面における高抵抗導電性接着剤6との接触領域Aを、カバーガラス5の端面における露出領域Bよりも広くしている。
その理由は、高抵抗導電性接着剤6がカバーガラス5の角部5aに接触することを回避しつつ、カバーガラス5と高抵抗導電性接着剤6との間の放電領域を可及的に広くできるからである。
【0023】
また、本実施形態では、インタコネクタ4の一部を高抵抗導電性接着剤6の表面から突出させている。
その理由は、セル間の間隙10に高抵抗導電性接着剤6を充填するものでありながら、インタコネクタ4の突出部(露出部)を利用し、セル間の導通テストなどを容易に実施することが可能になるからである。
【0024】
また、本実施形態では、高抵抗導電性接着剤6を、カバーガラス5の端面、太陽電池セル3及び絶縁層2に接触するように太陽電池パネル1の端面にも塗布している。
その理由は、太陽電池パネル1の端面においても、あらかじめ放電経路を確保することにより、放電による太陽電池セル3の性能劣化などを防止できるからである。
【0025】
次に、本発明の実施形態に係る太陽電池パネル1の作用(動作)について説明する。
本発明の太陽電池パネル1では、カバーガラス5の表面が導電層を備えない露出状態となっており、軌道上においては、カバーガラス5の表面が容易に帯電する状況となる。
【0026】
このとき、セル間の間隙10に高抵抗導電性接着剤6が充填されていないとすると、その部分は、真空(絶縁体)となり、太陽電池セル3の端面周辺に三重点が形成され、容易に放電が発生する状況となる。
太陽電池セル3の端面で放電が発生すると、太陽電池セル3の接合部分が損傷を受けるので、リークによる電圧発生ができなくなり、結果として太陽電池セル3の発電能力が損なわれる。また、隣接するセル間と電位差を持つ場合は、アレイ回路間で持続放電が発生する可能性がある。
【0027】
一方、本発明の太陽電池パネル1では、セル間の間隙10に、カバーガラス5の端面、太陽電池セル3、インタコネクタ4及び絶縁層2に接触する高抵抗導電性接着剤6が充填されている。
このようにすると、カバーガラス5の表面に帯電した電荷は、カバーガラス5の端面と高抵抗導電性接着剤6との接触部、及びカバーガラス5の表面で放電されることになる。
つまり、カバーガラス5の表面を露出状態とし、帯電自体を許容したとしても、帯電した電荷は、あらかじめ確保した経路で放電されるので、太陽電池セル3の端面など、性能低下のおそれがある箇所での放電を防止しつつ、帯電の抑制を図ることができる。
【0028】
以上説明したように、本実施形態によれば、支持ベースとなる絶縁層2と、絶縁層2上に互に間隙10を介して配列される複数の太陽電池セル3と、太陽電池セル3同士を接続するインタコネクタ4と、太陽電池セル3上に積層され、表面が導電層を備えない露出状態のカバーガラス5と、カバーガラス5の端面、太陽電池セル3、インタコネクタ4及び絶縁層2に接触するように間隙10に充填される高抵抗導電性接着剤6と、を備えるので、カバーガラス5の表面における帯電を抑制するものでありながら、カバーガラス5の表面に形成される導電層を不要にして、製造コストを抑えることができるだけでなく、カバーガラス5の導電層に起因する耐久性や発電性能の低下も防止することができる。
【0029】
また、高抵抗導電性接着剤6は、カバーガラス5の表面と端面とがなす角部5aに接触しないので、物体との接触により損傷や摩耗が発生しにくいものとできる。
また、カバーガラス5の端面における高抵抗導電性接着剤6との接触領域Aは、カバーガラス5の端面における露出領域Bよりも広いので、高抵抗導電性接着剤6がカバーガラス5の角部5aに接触することを回避しつつ、カバーガラス5と高抵抗導電性接着剤6との間の放電領域を可及的に広くすることができる。
【0030】
また、インタコネクタ4の一部は、高抵抗導電性接着剤6の表面から突出するので、セル間の間隙10に高抵抗導電性接着剤6を充填するものでありながら、インタコネクタ4の突出部(露出部)を利用し、セル間の導通テストなどを容易に実施することができる。
【0031】
さらに、高抵抗導電性接着剤6は、カバーガラス5の端面、太陽電池セル3及び絶縁層2に接触するように太陽電池パネル1の端面にも塗布されるので、太陽電池パネル1の端面においても、あらかじめ放電経路を確保し、放電による太陽電池セル3の性能劣化などを防止することができる。
【0032】
以上、本発明について、実施形態を示して説明したが、本発明は、上述した実施形態にのみ限定されるものではなく、特許請求の範囲内で種々の変更が可能であることは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明は、太陽電池パネルや太陽電池パネルの帯電抑制方法として利用でき、特に、人工衛星搭載用太陽光発電装置に好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0034】
1 太陽電池パネル
2 絶縁層
3 太陽電池セル
4 インタコネクタ
5 カバーガラス
5a 角部
6 高抵抗導電性接着剤
7 サブストレート
8 絶縁シート
9 絶縁性接着剤
10 間隙
11 絶縁性接着剤
A 接触領域
B 露出領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持ベースとなる絶縁層と、
前記絶縁層上に互に間隙を介して配列される複数の太陽電池セルと、
前記太陽電池セル同士を接続するインタコネクタと、
前記太陽電池セル上に積層され、表面が導電層を備えない露出状態のカバーガラスと、
前記カバーガラスの端面、前記太陽電池セル、前記インタコネクタ及び前記絶縁層に接触するように前記間隙に充填される高抵抗導電性接着剤と、を備えることを特徴とする太陽電池パネル。
【請求項2】
前記高抵抗導電性接着剤が、前記カバーガラスの表面と端面とがなす角部に接触しない請求項1記載の太陽電池パネル。
【請求項3】
前記カバーガラス端面における前記高抵抗導電性接着剤との接触領域が、前記カバーガラス端面の露出領域よりも広い請求項2記載の太陽電池パネル。
【請求項4】
前記インタコネクタの一部が、前記高抵抗導電性接着剤の表面から突出する請求項1〜3のいずれか一項に記載の太陽電池パネル。
【請求項5】
前記高抵抗導電性接着剤が、前記カバーガラスの端面、前記太陽電池セル及び前記絶縁層に接触するように太陽電池パネルの端面に塗布される請求項1〜4のいずれか一項に記載の太陽電池パネル。
【請求項6】
支持ベースとなる絶縁層と、
前記絶縁層上に互に間隙を介して配列される複数の太陽電池セルと、
前記太陽電池セル同士を接続するインタコネクタと、
前記太陽電池セル上に積層されるカバーガラスと、を備える太陽電池パネルが対象であり、
前記カバーガラスの表面を、導電層を備えない露出状態にするとともに、前記間隙に、前記カバーガラスの端面、前記太陽電池セル、前記インタコネクタ及び前記絶縁層に接触する高抵抗導電性接着剤を充填し、前記カバーガラスの表面に帯電した電荷を、前記カバーガラスの端面と前記高抵抗導電性接着剤との接触部、及び前記カバーガラスの表面で放電させることを特徴とする太陽電池パネルの帯電抑制方法。
【請求項7】
前記高抵抗導電性接着剤を、前記カバーガラスの表面と端面とがなす角部に接触させない請求項6記載の太陽電池パネルの帯電抑制方法。
【請求項8】
太陽光で発電する太陽電池パネルを備え、
前記太陽電池パネルが、
支持ベースとなる絶縁層と、
前記絶縁層上に互に間隙を介して配列される複数の太陽電池セルと、
前記太陽電池セル同士を接続するインタコネクタと、
前記太陽電池セル上に積層され、表面が導電層を備えない露出状態のカバーガラスと、
前記カバーガラスの端面、前記太陽電池セル、前記インタコネクタ及び前記絶縁層に接触するように前記間隙に充填される高抵抗導電性接着剤と、を備えることを特徴とする人工衛星搭載用太陽光発電装置。
【請求項9】
前記高抵抗導電性接着剤が、前記カバーガラスの表面と端面とがなす角部に接触しない請求項8記載の人工衛星搭載用太陽光発電装置。

【図1】
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【図2】
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