説明

太陽電池モジュール用充填材シート

【課題】本発明は、太陽電池モジュール用充填材シートの品質状態の確認を簡便にできる太陽電池モジュール用充填材シートの品質検査方法を提供することを主目的とするものである。
【解決手段】本発明は、シラン変性樹脂を有し、かつ架橋剤およびシラノール縮合触媒を実質的に含まない太陽電池モジュール用充填材シートの品質検査方法であって、上記太陽電池モジュール用充填材シートを示差走査熱量計で2回測定し、1回目の測定で、上記シラン変性樹脂におけるシロキサン基の生成可能温度以上まで昇温させ、2回目の測定で、上記シラン変性樹脂の融点以上まで昇温させ、上記1回目の測定および上記2回目の測定により得られる上記シラン変性樹脂の融点での吸熱量の比を用いて判断することを特徴とする太陽電池モジュール用充填材シートの品質検査方法を提供することにより上記課題を解決するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽電池モジュールに用いられる太陽電池モジュール用充填材シートに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、環境問題に対する意識の高まりから、クリーンなエネルギー源としての太陽電池が注目されている。
太陽電池素子は単結晶シリコン基板や多結晶シリコン基板を用いて作製することが多いため太陽電池素子は物理的衝撃に弱く、また屋外に太陽電池を取り付けた場合に雨などからこれを保護する必要がある。また、太陽電池素子1枚では発生する電気出力が小さいため、複数の太陽電池素子を直並列に接続して、実用的な電気出力が取り出せるようにする必要がある。このため複数の太陽電池素子を接続し透明基板および充填材で封入して太陽電池モジュールを作製することが通常行われている。このような太陽電池モジュールとしては、通常、透明前面基板、太陽電池モジュール用充填材シート、太陽電池素子、太陽電池モジュール用充填材シートおよび裏面保護シート等を順次積層し、これらを真空吸引して加熱圧着するラミネーション法等を利用して製造されるものが用いられる。
【0003】
ここで、上記太陽電池モジュール用充填材シートとしては、上記透明前面基板と上記太陽電池素子との接着、および上記太陽電池素子と上記裏面保護シートとの接着を十分な密着強度で発揮する接着力が要求され、さらに上記太陽電池素子の保護の観点から、耐久性、耐候性、耐熱性、耐光性、耐水性等の諸特性に優れた樹脂からなることが求められるため、近年では、ガラス等の無機材料と優れた接着性を発揮するアルコキシシリル基を有するシラン化合物、なかでもエチレン性不飽和シラン化合物と、他の重合用樹脂とを重合させてなるシラン変性樹脂が用いられている(特許文献1)。
【0004】
また、上記シラン変性樹脂が有するアルコキシシリル基は、水の存在下で、容易に加水分解され、シラノール基となり、さらに上記シラノール基は、加熱等により容易に縮合反応しシロキサン基を生成することが知られている。つまり、水が存在すると、上記太陽電池素子等との接着に関与するアルコキシシリル基が、シロキサン基として消費され、接着性が低下することになる。このような接着性が低下した太陽電池モジュール用充填材シートを用いて太陽電池モジュールを製造した場合には、上記太陽電池モジュールを構成する部材間の密着強度が不十分となり、起電力が低下する等の不具合が生じる恐れがある。
【0005】
ところが、このような接着性の低下の有無を確認する方法は、これまでに開示されておらず、上記確認をする方法としては、実際に太陽電池モジュールを製造した後、上記太陽電池モジュール用充填材シートを他の部材から剥離し、剥離強度を測定する方法しかなく、非常に手間がかかり、大きなコストがかかるといった問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−214641号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記問題点に鑑みてなされたものであり、太陽電池モジュール用充填材シートの品質状態の確認を簡便にできる太陽電池モジュール用充填材シートの品質検査方法を提供することを主目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために本発明は、シラン変性樹脂を有し、かつ架橋剤およびシラノール縮合触媒を実質的に含まない太陽電池モジュール用充填材シートの品質検査方法であって、上記太陽電池モジュール用充填材シートを示差走査熱量計で2回測定し、1回目の測定で、上記シラン変性樹脂におけるシロキサン基の生成可能温度以上まで昇温させ、2回目の測定で、上記シラン変性樹脂の融点以上まで昇温させ、上記1回目の測定および上記2回目の測定により得られる上記シラン変性樹脂の融点での吸熱量の比を用いて判断することを特徴とする太陽電池モジュール用充填材シートの品質検査方法を提供する。
【0009】
本発明によれば、上記太陽電池モジュール用充填材シートを示差走査熱量計で2回測定し、1回目の測定で、上記シラン変性樹脂におけるシロキサン基の生成可能温度以上まで昇温させ、2回目の測定で、上記シラン変性樹脂の融点以上まで昇温させ、上記1回目の測定および上記2回目の測定により得られる上記シラン変性樹脂の融点での吸熱量の比を用いて判断することで、上記太陽電池モジュール用充填材シートの品質を確認することができるため、太陽電池モジュールを構成する他の部材と共に積層し、真空ラミネーション等の手段により太陽電池モジュールを製造した後、剥離強度を測定する従来の方法と比較して、簡便に、かつ短時間で品質の確認をすることができる。さらに太陽電池モジュールを構成する他の部材が不要であるため、低コストで確認することが可能となる。
【0010】
本発明においては、上記シラン変性樹脂が、エチレン性不飽和シラン化合物と、重合用樹脂とをグラフト重合もしくは共重合させてなるものであって、上記重合用樹脂がポリエチレンであることが好ましい。上記シラン変性樹脂を構成する重合用樹脂が、ポリエチレンであることにより、加熱時に、異臭の発生や、太陽電池モジュールを構成する電極等の腐食を生ずる恐れのある熱分解物を発生することがないからである。
【0011】
本発明においては、上記1回目の測定および上記2回目の測定が示す上記シラン変性樹脂の融点での吸熱量の比が、0.9以上である場合、上記太陽電池モジュール用充填材シートは、接着可能状態であると判断することができる。上記1回目の測定および上記2回目の測定が示す上記シラン変性樹脂の融点での吸熱量の比が、0.9以上である場合、上記太陽電池モジュール用充填材シートは、加熱時においても、フリーのアルコキシシリル基を十分量有し、十分な接着性を発揮するためである。そのため、このような太陽電池モジュール用充填材シートを用いて太陽電池モジュールを形成した場合には、上記太陽電池モジュールを構成する部材を十分な密着強度で積層することができるからである。
【0012】
本発明においては、上記1回目の測定が、150℃以上まで昇温し、かつ上記2回目の測定が、上記シラン変性樹脂の融点より高く、さらに比熱が一定となる温度まで昇温することが好ましい。上記1回目の測定が、150℃以上まで昇温することにより、水の存在下でシラノール基となった上記シラン変性樹脂が有するアルコキシシリル基同士を十分に縮合させてシロキサン基とすることができるからである。したがって、上記太陽電池モジュール用充填材シートが、吸湿しているが、未だ、シロキサン基を生成していない場合、すなわち吸湿状態であることを確実に確認することができるためである。
また、2回目の測定においては、上記シラン変性樹脂の融点より高く、さらに比熱が一定となる温度まで昇温し、上記シラン変性樹脂の融点での吸熱量が測定できるものとすれば十分であり、それ以上昇温させても、測定時間が増加するだけであるからである。
【0013】
本発明は、上述した太陽電池モジュール用充填材シートの品質検査方法を用いて太陽電池モジュール用充填材シートの品質検査をする検査工程と、裏面保護シート、上記太陽電池モジュール用充填材シート、太陽電池素子、上記太陽電池モジュール用充填材シート、および透明前面基板をこの順で積層し、加熱圧着することで太陽電池モジュールを形成する太陽電池モジュール積層工程とをこの順で実施することを特徴とする太陽電池モジュールの製造方法を提供する。
【0014】
本発明によれば、上述した太陽電池モジュール用充填材シートの品質検査方法を用いて太陽電池モジュール用充填材シートの品質検査をする検査工程を有することにより、吸湿状態となっている太陽電池モジュール用充填材シートを用いることによって、裏面保護シート、上記太陽電池モジュール用充填材シート、太陽電池素子、上記太陽電池モジュール用充填材シート、および透明前面基板等の太陽電池モジュールの部材間の密着性が低く、起電力が低いといった問題を有する太陽電池モジュールが製造されるのを防ぐことができ、品質の向上を図ることができる。また、上記太陽電池モジュールを構成する部材を無駄に消費することを防ぐことができるため、生産コストの低減を図ることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明は、太陽電池モジュール用充填材シートの品質状態の確認を簡便にできる太陽電池モジュール用充填材シートの品質検査方法を提供できるといった効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】実施例1において作製した太陽電池モジュール用充填材シートの初期段階でのDSC測定結果を示すグラフである。
【図2】実施例1において作製した太陽電池モジュール用充填材シートの常温常湿保存後でのDSC測定結果を示すグラフである。
【図3】実施例1において作製した太陽電池モジュール用充填材シートの高温高湿保存後でのDSC測定結果を示すグラフである。
【図4】実施例2において作製した太陽電池モジュール用充填材シートの初期段階でのDSC測定結果を示すグラフである。
【図5】実施例2において作製した太陽電池モジュール用充填材シートの常温常湿保存後でのDSC測定結果を示すグラフである。
【図6】実施例2において作製した太陽電池モジュール用充填材シートの高温高湿保存後でのDSC測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明は、太陽電池モジュール用充填材シートの品質検査方法および、それを用いた太陽電池モジュールの製造方法に関するものである。
以下、本発明の太陽電池モジュール用充填材シートの品質検査方法およびそれを用いた太陽電池モジュールの製造方法について詳細に説明する。
【0018】
A.太陽電池モジュール用充填材シートの品質検査方法
まず、本発明の太陽電池モジュール用充填材シートの品質検査方法について説明する。本発明の太陽電池モジュール用充填材シートの品質検査方法は、シラン変性樹脂を有し、かつ架橋剤およびシラノール縮合触媒を実質的に含まない太陽電池モジュール用充填材シートの品質検査方法であって、上記太陽電池モジュール用充填材シートを示差走査熱量計で2回測定し、1回目の測定で、上記シラン変性樹脂におけるシロキサン基の生成可能温度以上まで昇温させ、2回目の測定で、上記シラン変性樹脂の融点以上まで昇温させ、上記1回目の測定および上記2回目の測定により得られる上記シラン変性樹脂の融点での吸熱量の比を用いて判断することを特徴とするものである。
【0019】
本発明によれば、上記太陽電池モジュール用充填材シートを示差走査熱量計で2回測定し、1回目の測定で、上記シラン変性樹脂におけるシロキサン基の生成可能温度以上まで昇温させ、2回目の測定で、上記シラン変性樹脂の融点以上まで昇温させ、上記1回目の測定および上記2回目の測定により得られる上記シラン変性樹脂の融点での吸熱量の比(2回目の吸熱量/1回目の吸熱量)を用いて判断することで、上記太陽電池モジュール用充填材シートの品質を確認することができるため、太陽電池モジュールを構成する他の部材と共に積層し、真空ラミネーション等の手段により太陽電池モジュールを製造した後、剥離強度を測定する従来の方法と比較して、簡便に、かつ短時間で品質の確認をすることができる。さらに太陽電池モジュールを構成する他の部材が不要であるため、低コストで確認することが可能となる。
【0020】
ここで、上記太陽電池モジュール用充填材シートを示差走査熱量計で測定した際の、1回目の測定および2回目の測定が示す上記シラン変性樹脂の融点での吸熱量の比を測定することによって、上記太陽電池モジュール用充填材シートの品質を確認できる理由としては、以下のように推測している。
すなわち、上記太陽電池モジュール用充填材シートがシラン変性樹脂を有するものである場合において、上記太陽電池モジュール用充填材シートが有する優れた接着性は、上記シラン変性樹脂が有するアルコキシシリル基の存在によるものである。ところが、このようなアルコキシシリル基は、水の存在下で、容易に加水分解され、シラノール基となり、さらに上記シラノール基は、加熱等により容易に縮合反応しシロキサン基を生成することが知られている。つまり、水が存在すると、上記太陽電池素子等との接着に関与するアルコキシシリル基が、シロキサン基として消費され、接着性が低下することが知られている。
ここで、上記太陽電池モジュール用充填材シートに含まれるシラン変性樹脂がシロキサン基を有し、架橋構造を形成している場合、上記シラン変性樹脂は、結晶構造を形成しにくいものとなる。そのため、太陽電池モジュール用充填材シートが吸湿してしまっている場合には、1回目の測定時に上記シラン変性樹脂におけるシロキサン基の生成可能温度以上まで昇温させることで、2回目の測定が示す上記シラン変性樹脂の融点での吸熱量が、1回目のものに比べて少ないものとなり、1回目の測定および2回目の測定結果の比を用いて評価することができる。
【0021】
このような吸熱量の変化を測定し、その比を評価することにより、上記太陽電池モジュール用充填材シートの接着性に係る品質状態が確認できるのである。
例えば、上記1回目の測定および上記2回目の測定により得られる上記シラン変性樹脂の融点での吸熱量の比(2回目の吸熱量/1回目の吸熱量)が、大きい場合には、上記シラン変性樹脂が、吸湿しておらず、かつシロキサン基の生成量が少ないものであり、太陽電池モジュール形成時においても接着性を有している品質状態(以下、接着可能状態とする。)であると判断することができる。
また、上記1回目の測定および上記2回目の測定により得られる上記シラン変性樹脂の融点での吸熱量の比(2回目の吸熱量/1回目の吸熱量)が、小さい場合には、上記シラン変性樹脂が、吸湿しているものの、未だシロキサン基の生成には至っていないが、太陽電池モジュール形成時には接着性を失う品質状態(以下、吸湿状態とする。)であると判断することができる。
【0022】
以下、本発明の太陽電池モジュール用充填材シートの品質検査方法について説明する。
【0023】
1.太陽電池モジュール用充填材シート
本発明に用いられる太陽電池モジュール用充填材シートは、シラン変性樹脂を有し、かつ架橋剤およびシラノール縮合触媒を実質的に含まないものである。
なお、本発明に用いられる太陽電池モジュール用充填材シートは、既にアルコキシシリル基がシロキサン基として消費されていないものを対象とするものである。アルコキシシリル基が消費されたものであるか否かはゲル分率もしくは剥離強度を測定することにより決定する。
【0024】
(1)シラン変性樹脂
本発明に用いられるシラン変性樹脂としては、アルコキシシリル基を有するものであれば特に限定されるものではない。このようなシラン変性樹脂としては、例えば、エチレン性不飽和シラン化合物と、重合用樹脂とをグラフト重合もしくは共重合させたものを用いることができる。
本発明においては、なかでも、グラフト重合したものを用いることが好ましく、さらには、重合用樹脂を主鎖とし、エチレン性不飽和シラン化合物を側鎖としてグラフト重合したものが好ましい。接着力に寄与するアルコキシシリル基の自由度が高くなるため、上記太陽電池モジュール用充填材シートの接着力をより強固にすることができるからである。
なお、上記共重合の方法としては、例えば、ランダム共重合、交互共重合、およびブロック共重合等を挙げることができる。
【0025】
(a)エチレン性不飽和シラン化合物
本発明に用いられるエチレン性不飽和シラン化合物としては、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリプロポキシシラン、ビニルトリイソプロポキシシラン、ビニルトリブトキシシラン、ビニルトリペンチロキシシラン、ビニルトリフェノキシシラン、ビニルトリベンジルオキシシラン、ビニルトリメチレンジオキシシラン、ビニルトリエチレンジオキシシラン、ビニルプロピオニルオキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、または、ビニルトリカルボキシシランを挙げることができる。
【0026】
本発明に用いられるシラン変性樹脂における、上記エチレン性不飽和シラン化合物の含有量としては、後述する重合用樹脂100重量部に対して0.001重量部〜0.4重量部の範囲内であることが好ましく、特に0.01重量部〜0.3重量部の範囲内であることが好ましい。上記範囲より少ないと、上記太陽電池モジュール用充填材シートの接着性が不十分になる恐れがあるからである。上記範囲より多くても、接着性が変わらないからである。
【0027】
本発明に用いられるエチレン性不飽和シラン化合物は、1種類のみを単体で用いても良く、2種類以上を用いてもよい。
【0028】
(b)重合用樹脂
本発明に用いられる重合用樹脂としては、上記エチレン性不飽和シラン化合物と重合することができるものであれば、特に限定されるものではなく、例えば、ポリエチレン、エチレン‐ビニルアルコール共重合体、エチレン‐不飽和カルボン酸エステル共重合体、エチレン‐不飽和カルボン酸共重合体および、上記エチレン‐不飽和カルボン酸共重合体をナトリウムや亜鉛などの金属の塩で分子間結合したアイオノマーなどを挙げることができる。
【0029】
本発明においては、上記重合用樹脂のなかでもポリエチレンを好ましく用いることができる。上記シラン変性樹脂を構成する重合用樹脂が、ポリエチレンであることにより、加熱時に、異臭の発生や、太陽電池モジュールを構成する電極等の腐食を生ずる恐れのある熱分解物を発生することがないからである。
【0030】
また、本発明に用いられるポリエチレンとしては、高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレンのいずれも好適に用いることができるが、なかでも、密度が低いものを用いることが好ましい。密度が低いポリエチレンは、一般的に側鎖を多く含有しているため、上記エチレン性不飽和シラン化合物をグラフト重合しやすく、接着性に優れたものとすることができるからである。より具体的には、密度が0.850g/cm〜0.960g/cmの範囲内であるものが好ましく、特に0.865g/cm〜0.930g/cmの範囲内であるものが好適に用いられる。
【0031】
また、上記重合用樹脂の融点は、80℃〜110℃であることが好ましい。上記太陽電池モジュール用充填材シートを用いた太陽電池モジュールの製造時において、成形性に優れるからである。
なお、融点の測定方法としては、プラスチックの転移温度測定方法(JISK7121)に準拠し、示差走査熱量計による分析で行う。なお、その際、融点ピークが2つ以上存在する場合は高い温度の方を融点とする。
【0032】
なお、本発明においては、上記ポリエチレンの1種類を単体として用いても良く、また、2種類以上を混合して用いても良い。
【0033】
(c)シラン変性樹脂
本発明に用いられるシラン変性樹脂の融点としては、上記太陽電池モジュール用充填材シートを安定に成形し、所望の接着性を発揮することができるものであれば特に限定されるものではないが、上記太陽電池モジュール用充填材シートを用いた太陽電池モジュールの製造時において、成形性に優れる点から、80℃〜110℃の範囲内のものが好ましく用いられる。
なお、融点の測定は、上記重合用樹脂の融点の測定方法と同様の方法を用いることができる。
【0034】
本発明に用いられるシラン変性樹脂の製造方法としては、所望量のアルコキシシリル基を有したシラン変性樹脂を得ることができるものであれば特に限定されるものではなく、例えば、上記エチレン性不飽和シラン化合物と、上記重合用樹脂とを、ラジカル重合開始剤と共に、加熱溶融混合する方法を挙げることができる。上記加熱溶融混合方法としては、所望の温度条件等で加熱溶融混合できるものであれば特に限定されるものではなく、押出機等の公知の加熱溶融混合装置を用いることができる。また、上記シラン変性樹脂の製造方法における加熱温度としては、用いるエチレン性不飽和シラン化合物等の材料によって異なるものであるが、150℃〜300℃の範囲内であることが好ましく、180℃〜270℃の範囲であることが好ましい。上記シラン変性樹脂は、加熱によりシラノール基部分が架橋しゲル化しやすいためである。
【0035】
上記ラジカル重合開始剤としては、例えば、ジイソプロピルベンゼンヒドロパーオキサイド、2,5‐ジメチル‐2,5‐ジ(ヒドロパーオキシ)ヘキサン等のヒドロパーオキサイド類;ジ‐t‐ブチルパーオキサイド、t‐ブチルクミルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、2,5‐ジメチル‐2,5‐ジ(t‐ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5‐ジメチル‐2,5‐ジ(t‐パーオキシ)ヘキシン‐3等のジアルキルパーオキサイド類;ビス‐3,5,5‐トリメチルヘキサノイルパーオキサイド、オクタノイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、o‐メチルベンゾイルパーオキサイド、2,4‐ジクロロベンゾイルパーオキサイド等のジアシルパーオキサイド類;t‐ブチルパーオキシアセテート、t‐ブチルパーオキシ‐2‐エチルヘキサノエート、t‐ブチルパーオキシピバレート、t‐ブチルパーオキシオクトエート、t‐ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、t‐ブチルパーオキシベンゾエート、ジ‐t‐ブチルパーオキシフタレート、2,5‐ジメチル‐2,5‐ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、2,5‐ジメチル‐2,5‐ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキシン‐3等のパーオキシエステル類;メチルエチルケトンパーオキサイド、シクロヘキサノンパーオキサイド等のケトンパーオキサイド類等の有機過酸化物、または、アゾビスイソブチロニトリル、アゾビス(2,4‐ジメチルバレロニトリル)等のアゾ化合物等が挙げられる。
【0036】
上記ラジカル重合開始剤の含有量としては、上記エチレン性不飽和シラン化合物と上記重合用樹脂とを重合させることができるものであれば特に限定するものではないが、上記エチレン性不飽和シラン化合物および上記重合用樹脂の混合物中に、0.001質量%〜1質量%含まれることが好ましい。上記範囲未満では、上記エチレン性不飽和シラン化合物と上記重合用樹脂とのラジカル重合が起こりにくいからである。
【0037】
(2)太陽電池モジュール用充填材シート
本発明に用いられる太陽電池モジュール用充填材シートは上記シラン変性樹脂を有し、かつ架橋剤およびシラノール縮合触媒を実質的に含まないものである。上記架橋剤は、上記シラン変性樹脂間の架橋反応を促進するものあり、上記シラノール縮合触媒は、シラノール基間の縮合反応を促進するものであるため、後述する示差走査熱量計で測定する際に、品質の確認が困難となる可能性があるからである。
【0038】
ここで、上記架橋剤を実質的に含まないとは、具体的には有機過酸化物、アゾビスイソブチロニトリル、アゾビス(2,4‐ジメチルバレロニトリル)等の架橋剤の含有量が、上記太陽電池モジュール用充填材シートを構成する全樹脂100重量部に対して、0.05重量部以下である場合をいい、より好ましくは0.03重量部以下であることが好ましく、なかでも0重量部であることが好ましい。
【0039】
上記シラノール縮合触媒を実質的に含まないとは、具体的には、ジブチル錫ジアセテート、ジブチル錫ジラウレート、ジブチル錫ジオクテート、ジオクチル錫ジラウレートといったシラノール縮合触媒が、上記太陽電池モジュール用充填材シートを構成する全樹脂100重量部に対して、0.05重量部以下である場合をいい、より好ましくは0.03重量部以下であることが好ましく、なかでも0重量部であることが好ましい。
【0040】
本発明に用いられる太陽電池モジュール用充填材シートは、必要に応じて、その他添加物を有するものであってもよい。このようなその他添加物としては、例えば添加用樹脂や、他の添加剤を含むものであっても良い。
【0041】
本発明に用いられる添加用樹脂としては、上述したシラン変性樹脂と均一に混合することができるものであれば特に限定されるものではなく、本発明に用いられる太陽電池モジュール用充填材シートの用途等に応じて適宜設定されるものであるが、上記重合用樹脂と主鎖の構成が同種類のものであることが好ましく、なかでも上記重合用樹脂と同一のものを用いることが好ましい。主鎖の構成を同種類とすることで、上記シラン変性樹脂との相溶性を優れたものとすることができ、同一とすることでコストダウンを図ることができるからである。
【0042】
本発明において、上記添加用樹脂の含有量は、上記シラン変性樹脂100重量部に対し、125重量部〜9900重量部の範囲内が好ましく、特に140重量部〜2000重量部の範囲内が好ましい。上記範囲よりも多いと、上記太陽電池モジュール用充填材シートにおける上記シラン変性樹脂の含有量が少なくなり、接着性が不十分なものとなったり、上記太陽電池モジュール用充填材シートの品質の確認を精度よく行えない可能性があるからである。
【0043】
本発明に用いられる他の添加剤としては、例えば光安定剤、紫外線吸収剤、または、熱安定剤等を挙げることができる。
【0044】
上記光安定剤としては、上記太陽電池モジュール用充填材シート中の光劣化開始の活性種を捕捉し、光酸化を防止するものである。具体的には、ヒンダードアミン系化合物、ヒンダードピペリジン系化合物、およびその他等から選択される1種類または2種類以上を組み合わせたものを使用することができる。
【0045】
上記紫外線吸収剤としては、太陽光中の有害な紫外線を吸収して、分子内で無害な熱エネルギーへと変換し、上記太陽電池モジュール用充填材シート中の光劣化開始の活性種が励起されるのを防止するものである。具体的には、ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、サルチレート系、アクリルニトリル系、金属錯塩系、ヒンダードアミン系、および、超微粒子酸化チタン(粒子径:0.01μm〜0.06μm)あるいは超微粒子酸化亜鉛(粒子径:0.01μm〜0.04μm)等の無機系等の紫外線吸収剤からなる群から選択される少なくとも1種類のものを使用することができる。
【0046】
また、上記熱安定剤としては、トリス(2,4‐ジ‐tert‐ブチルフェニル)フォスファイト、ビス[2,4‐ビス(1,1‐ジメチルエチル)‐6‐メチルフェニル]エチルエステル亜リン酸、テトラキス(2,4‐ジ‐tert‐ブチルフェニル)[1,1‐ビフェニル]‐4,4´‐ジイルビスホスフォナイト、および、ビス(2,4‐ジ‐tert‐ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジフォスファイト等のリン系熱安定剤;8‐ヒドロキシ‐5,7‐ジ‐tert‐ブチル‐フラン‐2‐オンとo‐キシレンとの反応生成物等のラクトン系熱安定剤を挙げることができる。また、これらを1種類または2種類以上を用いることもできる。中でも、リン系熱安定剤およびラクトン系熱安定剤を併用して用いることが好ましい。
【0047】
本発明における上記光安定剤、紫外線吸収剤、熱安定剤等の含有量としては、その粒子形状、密度等によって異なるが、太陽電池モジュール用充填材シート中、0.01質量%〜5質量%の範囲内が好ましい。
【0048】
本発明に用いられる太陽電池モジュール用充填材シートの厚みとしては、太陽電池モジュールに用いた際に、十分な接着性および強度を有するものであれば特に限定するものではないが、20μm〜1000μmの範囲内であることが好ましく、なかでも40μm〜600μmであることが好ましい。
【0049】
2.太陽電池モジュール用充填材シートの品質検査方法
本発明の太陽電池モジュール用充填材シートの品質検査方法は、上記太陽電池モジュール用充填材シートを示差走査熱量計で2回測定し、1回目の測定で、上記シラン変性樹脂におけるシロキサン基の生成可能温度以上まで昇温させ、2回目の測定で、上記シラン変性樹脂の融点以上まで昇温させ、上記1回目の測定および上記2回目の測定により得られる上記シラン変性樹脂の融点での吸熱量の比を用いて判断するものである。
【0050】
(1)示差走査熱量計の測定条件
本発明に用いられる示差走査熱量計の測定条件としては、上記太陽電池モジュール用充填材シートから採取した試料を、1回目の測定で、上記シラン変性樹脂が吸湿している場合に、シロキサン基を生成することができる温度以上まで昇温し、次いで、その試料を冷却した後、2回目の測定で、上記シラン変性樹脂の融点以上まで昇温するものであれば、特に限定されるものではない。
【0051】
測定に用いる試料の量および試料容器としては、上記示差走査熱量計を用いて精度良く、各温度での試料の吸熱量、発熱量が測定できるものであれば特に限定されるものではなく、用いる示差走査熱量計の仕様に応じて決定することができる。
【0052】
上記1回目の測定における測定開始温度としては、上記シラン変性樹脂の融点での吸熱ピークより低い温度であり、後述する「(2)融点での吸熱量の測定方法」に用いることができる程度であれば特に限定されるものではないが、例えば20℃以下であることが好ましく、なかでも−50℃〜10℃の範囲内であることが好ましい。
【0053】
上記1回目の測定における最高温度としては、上記シラン変性樹脂が吸湿している場合に、シロキサン基を生成することができる温度以上であれば、特に限定されるものではないが、150℃以上であることが好ましく、なかでも150℃〜300℃の範囲内であることが好ましく、特に150℃〜250℃の範囲内であることが好ましい。上記温度範囲とすることにより、吸湿している太陽電池モジュール用充填材シートが、シロキサン基を十分に生成させることができるからであり、上記太陽電池モジュール用充填材シートが、上記吸湿状態であることを、確実に確認することができるからである。
また、上記シラン変性樹脂の分解を防ぐことができるため、精度良く上記太陽電池モジュール用充填材シートの品質の確認ができるからである。
さらに、通常、上記シラン変性樹脂が吸湿している場合に、シロキサン基を十分に生成させることができる温度は、上記太陽電池モジュール用充填材シートに含まれるシラン変性樹脂の融点より高いものであるため、上記1回目の測定が示す融点の吸熱量の測定も十分に可能であるからである。
【0054】
上記1回目の測定における昇温速度としては、試料に温度ムラが生じない範囲内であれば特に限定されるものではなく、試料の量等にもよるが、例えば、1℃/min〜20℃/minの範囲内であることが好ましく、なかでも5℃/min〜18℃/minの範囲内であることが好ましい。上記範囲であれば試料に温度ムラを生じる恐れがなく、シロキサン基の生成を十分に行うことができるからである。
【0055】
上記1回目の測定においては、上記1回目の測定において設定した最高温度に達した後、所定の温度で保持する、保持期間を有するものとしても良く、有さないものとしてもよい。なかでも本発明においては、上記保持期間を有さないものであることが好ましい。上記シロキサン基の生成は、極めて早い速度で行われるため、上記1回目の測定において設定した最高温度に達した際に、十分に生成が進行しているからである。
【0056】
上記1回目の測定において設定した最高温度まで達した後、2回目の測定の測定を開始する温度まで、上記シラン変性樹脂の試料の温度を低下させる際の降温速度としては、上記試料に温度ムラを生じさせない範囲内であれば特に限定されるものではないが、具体的には、−1℃/min〜−20℃/minの範囲内であることが好ましく、なかでも−5℃/min〜−18℃/minの範囲内であることが好ましい。
【0057】
上記2回目の測定において、測定を開始する温度としては、上記シラン変性樹脂の融点での吸熱ピークより低い温度であり、後述する「(2)融点での吸熱量の測定方法」に用いることができる程度であれば特に限定されるものではないが、20℃以下であることが好ましく、なかでも−50℃〜10℃の範囲内であることが好ましい。
【0058】
また、上記2回目の測定において、昇温時の最高温度としては、上記シラン変性樹脂の融点以上であれば特に限定されるものではないが、上記シラン変性樹脂の融点以上であって、比熱が一定となる温度以上であることが好ましい。
上記2回目の測定においては、上記シラン変性樹脂の融点より高く、さらに比熱が一定となる温度まで昇温し、上記シラン変性樹脂の融点での吸熱量の比が測定できるものとすれば十分であり、それ以上昇温させても、測定時間が増加するだけであるからである。本発明においては、具体的には、100℃〜300℃の範囲内であることが好ましく、なかでも120℃〜250℃の範囲内であることが好ましく、特に150℃〜220℃の範囲内であることが好ましい。上記範囲とすることで、十分に上記シラン変性樹脂の融点での吸熱量の比の測定をすることができるからである。
【0059】
上記2回目の測定における昇温速度としては、上記試料に温度ムラが生じない範囲内であれば特に限定されるものではないが、具体的には、1℃/min〜20℃/minの範囲内であることが好ましく、なかでも5℃/min〜18℃/minの範囲内であることが好ましい。
【0060】
(2)融点での吸熱量の測定方法
本発明に用いられる太陽電池モジュール用充填材シートに含まれるシラン変性樹脂の融点での吸熱量の比の測定方法としては、上記シラン変性樹脂の融点での吸熱量が精度良く計算できる方法であれば特に限定されるものではないが、例えば、上記示差走査熱量計を用いて測定することで得られた1回目の測定および2回目の測定の、DSC曲線上に示されるそれぞれの上記シラン変性樹脂の融点ピークを含む吸熱ピークの、融解を開始した開始温度および融解を終了した終了温度でのDSC曲線上の点を結ぶベースラインと、DSC曲線とによって囲まれる吸熱量を測定することにより行う。上記において、吸熱ピークがブロードであり、融解開始温度および融解終了温度の判別が困難である場合には、0℃から融点までのDSC曲線上で、0℃を起点とする直線部分を最も長くなぞるように直線を引き、DSC曲線と直線が離れる温度を開始温度、融点以上でDSC曲線が下降に転じる温度を終了温度とし、DSC曲線上の開始温度および終了温度での点を結ぶベースラインと、DSC曲線とによって囲まれる吸熱量を測定することにより行う。
また、上記吸熱量(単位:J/g)は、上記太陽電池モジュール用充填材シート1gあたりの、上記シラン変性樹脂の融点での吸熱量(単位:J)である。
なお、上記融点のピークが2以上存在する場合には、高い温度のピークを融点とする。
【0061】
本発明においては、上記太陽電池モジュール用充填材シートの品質の判断は、上記1回目の測定および2回目の測定により得られる上記シラン変性樹脂の融点の吸熱量の比の測定を1セットとして、1セットのみの測定結果で判断するものであっても良く、同一の太陽電池モジュール用充填材シートから採取した他の試料を用いて、2セット以上の測定結果を平均する等の処理を行うものであっても良い。
【0062】
また、本発明においては、上記1回目の測定および2回目の測定が示す上記シラン変性樹脂の融点での吸熱量の比を用いて、上記太陽電池モジュール用充填材シートの品質状態を確認するものである。
例えば、上記1回目の測定および2回目の測定が示す上記シラン変性樹脂の融点での吸熱量の比が大きい場合には、上記接着可能状態であると判断することができる。
また、上記1回目の測定および2回目の測定が示す上記シラン変性樹脂の融点での吸熱量の比が小さい場合には、吸湿状態であると判断することができる。
具体的には、1回目の測定および2回目の測定が示す上記シラン変性樹脂の融点での吸熱量の比が、0.89以上である場合、なかでも0.90以上である場合、特に0.91以上である場合には、上記太陽電池モジュール用充填材シートは、接着可能状態であると判断することができる。上記太陽電池モジュール用充填材シートは、加熱時においても、フリーのアルコキシシリル基を十分量有し、十分な接着性を発揮するためである。そのため、このような太陽電池モジュール用充填材シートを用いて太陽電池モジュールを形成した場合には、上記太陽電池モジュールを構成する部材を十分な密着強度で積層することができるからである。
【0063】
B.太陽電池モジュールの製造方法
次に、本発明の太陽電池モジュールの製造方法について説明する。本発明の太陽電池モジュールの製造方法は、上述した太陽電池モジュール用充填材シートの品質検査方法を用いて太陽電池モジュール用充填材シートの品質検査をする検査工程と、裏面保護シート、上記太陽電池モジュール用充填材シート、太陽電池素子、上記太陽電池モジュール用充填材シート、および透明前面基板をこの順で積層し、加熱圧着することで太陽電池モジュールを形成する太陽電池モジュール積層工程とをこの順で実施することを特徴とするものである。
【0064】
本発明によれば、上述した太陽電池モジュール用充填材シートの品質検査方法を用いて太陽電池モジュール用充填材シートの品質検査をする検査工程を有することにより、吸湿状態となっている太陽電池モジュール用充填材シートを用いることによって、裏面保護シート、上記太陽電池モジュール用充填材シート、太陽電池素子、上記太陽電池モジュール用充填材シート、および透明前面基板等の太陽電池モジュールの部材間の密着性が低く、起電力が低いといった問題を有する太陽電池モジュールが製造されるのを防ぐことができ、品質の向上を図ることができる。また、上記太陽電池モジュールを構成する部材を無駄に消費することを防ぐことができるため、生産コストの低減を図ることができる。
【0065】
本発明の太陽電池モジュールの製造方法は、検査工程と、太陽電池モジュール積層工程とを有するものである。以下、このような太陽電池モジュールの製造方法に含まれる各工程について説明する。
【0066】
1.検査工程
本発明に用いられる検査工程は、上述した太陽電池モジュール用充填材シートの品質検査方法を用いて、太陽電池モジュール用充填材シートの品質の確認を行う工程である。
上記検査工程を行うことにより、上記太陽電池モジュール用充填材シートの品質を、簡便に、かつ短時間で確認することができる。このため、上記太陽電池モジュール用充填材シートが吸湿状態であるのか、接着可能状態であるのかを、容易に判断することができ、吸湿状態であると判断された場合には、その使用を中止することにより、太陽電池モジュールを構成する部材間の密着性が低く、起電力が低い太陽電池モジュールが製造されるのを防ぐことができ、品質の向上を図ることができる。また、上記太陽電池モジュールを構成する部材を無駄に消費することを防ぐことができるため、生産コストの低減を図ることができる。
【0067】
なお、本工程に用いられる太陽電池モジュール用充填材シートおよび、太陽電池モジュール用充填材シートの品質検査方法については、上記「A.太陽電池モジュール用充填材シートの品質検査方法」の項に記載したものと同様の内容であるので、ここでの記載は省略する。
【0068】
2.太陽電池モジュール積層工程
本発明における太陽電池モジュール積層工程は、裏面保護シート、上記太陽電池モジュール用充填材シート、太陽電池素子、上記太陽電池モジュール用充填材シート、および透明前面基板をこの順で積層し、加熱圧着することで太陽電池モジュールを形成する工程である。
【0069】
(1)太陽電池素子
本工程に用いられる太陽電池素子としては、一般的な太陽電池素子を用いることができる。具体的には、単結晶シリコン型太陽電池素子、多結晶シリコン型太陽電池素子等の結晶シリコン太陽電子素子、シングル接合型あるいはタンデム構造型等からなるアモルファスシリコン太陽電池素子、ガリウムヒ素(GaAs)やインジウム燐(InP)等のIII−V族化合物半導体太陽電子素子、カドミウムテルル(CdTe)や銅インジウムセレナイド(CuInSe)等のII−VI族化合物半導体太陽電子素子、有機太陽電池素子等を用いることができる。
【0070】
また本工程に用いられる太陽電池素子としては、薄膜多結晶性シリコン太陽電池素子、薄膜微結晶性シリコン太陽電池素子、薄膜結晶シリコン太陽電池素子とアモルファスシリコン太陽電池素子とのハイブリット素子等も使用することができる。
【0071】
(2)裏面保護シート
本工程に用いられる裏面保護シートとしては、所望の耐熱性、耐光性、耐水性等の耐候性を有するものであれば特に限定されない。このような裏面保護シートとしては、例えば、絶縁性の樹脂フィルムや、金属板等が好適に用いられる。なかでも本発明においては上記絶縁性の樹脂フィルムを用いることが好ましい。
【0072】
上記絶縁性の樹脂フィルムとしては、例えば、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、環状ポリオレフィン系樹脂、フッ素系樹脂、ポリスチレン系樹脂、アクリロニトリル‐スチレン共重合体(AS樹脂)、アクリロニトリル‐ブタジエン‐スチレン共重合体(ABS樹脂)、ポリ塩化ビニル系樹脂、フッ素系樹脂、ポリ(メタ)アクリル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル系樹脂、各種のナイロン等のポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリアミドイミド系樹脂、ポリアリールフタレート系樹脂、シリコーン系樹脂、ポリスルホン系樹脂、ポリフェニレンスルフィド系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、ポリウレタン系樹脂、アセタール系樹脂、セルロース系樹脂からなるフィルムを挙げることができる。なかでも本発明においては、フッ素系樹脂、環状ポリオレフィン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリ(メタ)アクリル系樹脂、または、ポリエステル系樹脂からなるフィルムを用いることが好ましい。
【0073】
また、このような樹脂フィルムとしては2軸延伸した樹脂フィルムを用いることもできる。
【0074】
さらに、上記樹脂フィルムとしては、複数のフィルムが積層された構成を有するものであっても良い。このような複数のフィルムが積層された構成としては、例えば、無機蒸着膜を有するガスバリア性フィルムが積層された構成や、強靭性フィルムが積層された構成を例示することができる。
【0075】
本発明に用いられる裏面保護シートの厚みとしては、通常、12μm〜200μmの範囲内であることが好ましく、なかでも25μm〜150μmの範囲内であることが好ましい。
【0076】
(3)透明前面基板
本工程に用いられる透明前面基板としては、太陽光の透過性を有する基板であれば特に限定されず、例えば、ガラス板、フッ素系樹脂、ポリアミド系樹脂(各種のナイロン)、ポリエステル系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、環状ポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、アセタ−ル系樹脂、セルロ−ス系樹脂等の各種の樹脂フィルムを用いることができる。
また、本発明に用いられる透明前面基板の厚みは、所望の強度を実現できる範囲内であれば特に限定されないが、通常、12μm〜7000μmの範囲内が好ましく、特に25μm〜4000μmの範囲内が好ましい。
【0077】
(4)積層方法
本工程に用いられる積層方法は、上述した、裏面保護シート、上記太陽電池モジュール用充填材シート、太陽電池素子、上記太陽電池モジュール用充填材シート、および透明前面基板をこの順で積層し、加熱圧着し、上記裏面保護シート、上記太陽電池モジュール用充填材シート、太陽電池素子、上記太陽電池モジュール用充填材シート、および透明前面基板を十分な密着強度で密着させる方法であれば特に限定されるものではなく、一般的に公知の方法を用いることができる。このような方法としては、例えば、透明前面基板、上記太陽電池モジュール用充填材シート、太陽電池素子、上記太陽電池モジュール用充填材シート、および、裏面保護シートをこの順で積層した後、これらを一体として、真空吸引して加熱圧着するラミネーション法等を例示することができる。
【0078】
上記ラミネーション法を用いた際のラミネート温度は、通常、90℃〜230℃の範囲内であることが好ましく、特に110℃〜190℃の範囲内であることが好ましい。
【0079】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【実施例】
【0080】
以下、実施例を用いることにより、本発明をより具体的に説明する。
【0081】
[実施例1]
1.シラン変性樹脂の調製
密度0.898g/cm、190℃でのメルトマスフローレート(表中、MFRと称する)2g/10分の直鎖状低密度ポリエチレン(表中、LLDPEと称する)98重量部に対し、ビニルトリメトキシシラン2重量部、ラジカル発生剤としてジクミルパーオキサイド0.1重量部を混合し、200℃で加熱溶融撹拌し、シラン変性樹脂を得た。
【0082】
2.太陽電池モジュール用充填材シートの形成
上記シラン変性樹脂5重量部と、添加用樹脂として密度0.898g/cmの直鎖状低密度ポリエチレン95重量部と、別に作製した耐光剤、UVA、酸化防止剤入マスターバッチ5重量部(直鎖状低密度ポリエチレン85重量部に対し、ヒンダードアミン系光安定剤2.5重量部、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤7.5重量部、リン系熱安定剤5重量部を混合して溶融・加工しペレット化)とを混合し、φ25mm押出し機、300mm幅のTダイスを有するフィルム成型機のホッパに投入し、押出し温度230℃、引取り速度3m/minで厚さ300μmのシートを成膜した。上記の成膜化は、支障なく実施することができた。これら一連の操作により、太陽電池モジュール用充填材シートを得た。
【0083】
3.評価
実施例1において、太陽電池モジュール用充填材シートを作製した直後を初期段階、太陽電池モジュール用充填材シートを常温常湿下で6ヶ月保存した後である常温常湿保存後、太陽電池モジュール用充填材シートを、温度40℃、相対湿度90%雰囲気下で6ヶ月保存した後である高温高湿保存後とし、それぞれについて、(1)剥離強度、(2)シラン変性樹脂の吸熱量の比の測定、(3)発電効率の測定を行った。
【0084】
(1)剥離強度
太陽電池モジュール用充填材シートと厚さ3mmのガラス板とを、太陽電池モジュール製造用の真空ラミネーターにて150℃で15分間圧着し、剥離強度測定用サンプルを得た。次いで、上記剥離強度測定用サンプルの太陽電池モジュール用充填材シート部分に15mm幅の切り込みを入れ、テンシロン(オリエンテック製、STA−1150)にて、チャック移動速度を50mm/minとして剥離強度を測定した。
得られた剥離強度の測定結果を表1に示す。
【0085】
(2)シラン変性樹脂の吸熱量の比の測定
それぞれの期間保存後の太陽電池モジュール用充填材シートを、示差走査熱量計で2回測定し、1回目の測定および上記2回目の測定により得られる上記太陽電池モジュール用充填材シートに含まれるシラン変性樹脂の融点での吸熱量の比(2回目の吸熱量/1回目の吸熱量)を得た。実施例1の初期段階、常温常湿保存後、高温高湿保存後における示差走査熱量計を用いて得られたDSC曲線を、それぞれ、図1〜3に示す。また、得られた吸熱量および吸熱量の比を表1に示す。
なお、測定条件としては、上記太陽電池モジュール用充填材シートから、約0.35g採取したものを測定サンプルとし、加熱速度を8℃/min、最低温度および最高温度を−10℃、200℃とし、各最低温度、最高温度での保持時間を2分とした。上記シラン変性樹脂の融点での吸熱量の測定としては、上述した方法を用いた。
【0086】
(3)発電効率の測定
それぞれの保存期間(常温常湿保存後、高温高湿保存後)後の太陽電池モジュール用充填材シートを裏面充填材シートとして使用し、厚さ3mm、縦横30cmのガラス板(透明前面基板)と、前面充填材シートとして実施例1の初期段階の厚さ300μmの太陽電池モジュール用充填材シートと、10cm角の結晶系シリコン太陽電池素子と、裏面充填材シートと、厚さ38μmのポリフッ化ビニル系樹脂シート(PVF)、厚さ30μmのアルミニウム箔、および厚さ38μmのポリフッ化ビニル系樹脂シート(PVF)からなる積層シートをアクリル系樹脂の接着剤層を介して積層した裏面保護シートとをこの順で積層し、その太陽電池素子面を上に向けて、太陽電池モジュール製造用の真空ラミネーターにて150℃で15分間圧着し、太陽電池モジュールを得た。
【0087】
それぞれの期間保存後の太陽電池モジュール用充填材シートを裏面充填材シートとして用いた太陽電池モジュールの発電効率を、それぞれ測定し初期発電効率を得た。その後、上記太陽電池モジュールを気温85℃、相対湿度85%中に1000時間保存し、発電効率をそれぞれ測定し、保存後発電効率を得た。得られた保存後発電効率を、初期発電効率を100として表2に示す。
なお、発電効率の測定は、JIS規格C8917−1998に基づいて、光起電力の出力を測定して得た。
【0088】
[実施例2]
シラン変性樹脂および添加用樹脂の配合量を、それぞれ35重量部および65重量部とし、白色化剤として酸化チタン4.1重量部を追加した以外は実施例1と同様に、太陽電池モジュール用充填材シートを作製した。次いで、作製した太陽電池モジュール用充填材シートを実施例1と同様に裏面充填材シートとして用いた以外は、実施例1と同様の評価を行った。
なお、発電効率の測定時に用いる前面充填材シートは、実施例1の初期段階の厚さ300μmの太陽電池モジュール用充填材シートを用いた。
また、実施例2の、初期段階、常温常湿保存後、高温高湿保存後における上記太陽電池モジュール様充填材シートのDSC曲線を、図4〜6に示す。
【0089】
【表1】

【0090】
【表2】

【0091】
表1、表2より、高温高湿保存後においては、太陽電池モジュール用充填材シートに含まれるシラン変性樹脂の融点での吸熱量の比(2回目の吸熱量/1回目の吸熱量)が、初期段階および常温常湿保存後のものに比べ吸熱量の比が小さかった。また剥離強度が大きく低下しており、吸湿状態であることが確認できた。また、高温高湿保存後のものを用いて作製された太陽電池モジュールは、保存後における発電効率の低下が大きいものとなった。
また、初期段階、常温常湿保存後のように、吸湿していないか、吸湿がほとんど起こらない状況下で保存した場合においては、太陽電池モジュール用充填材シートに含まれるシラン変性樹脂の融点での吸熱量の比(2回目の吸熱量/1回目の吸熱量)が大きかった。また、剥離強度が大きく、接着可能状態であることが確認できた。また、常温常湿保存後のものを用いて作製された太陽電池モジュールは、保存後における発電効率の低下が小さかった。
以上より、太陽電池モジュール用充填材シートに含まれるシラン変性樹脂の融点での吸熱量の比を測定することにより、上記太陽電池モジュール用充填材シートが吸湿状態となっているか、接着可能状態であるかを判断することができることが確認できた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シラン変性樹脂を有し、かつ架橋剤およびシラノール縮合触媒を実質的に含まない太陽電池モジュール用充填材シートであって、
前記太陽電池モジュール用充填材シートを示差走査熱量計で2回測定し、1回目の測定で、前記シラン変性樹脂におけるシロキサン基の生成可能温度以上まで昇温させ、2回目の測定で、前記シラン変性樹脂の融点以上まで昇温させ、前記1回目の測定および前記2回目の測定により得られる前記シラン変性樹脂の融点での吸熱量の比が0.9以上であることを特徴とする太陽電池モジュール用充填材シート。
【請求項2】
前記シラン変性樹脂が、エチレン性不飽和シラン化合物と、重合用樹脂とをグラフト共重合もしくは共重合させたものであることを特徴とする請求項1に記載の太陽電池モジュール用充填材シート。
【請求項3】
前記重合用樹脂が直鎖状低密度ポリエチレンであることを特徴とする請求項2に記載の太陽電池モジュール用充填材シート。
【請求項4】
架橋剤の含有量が前記太陽電池モジュール用充填材シートを構成する全樹脂100重量部に対して0.05重量部以下であることを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれかの請求項に記載の太陽電池モジュール用充填材シート。
【請求項5】
シラノール縮合触媒の含有量が前記太陽電池モジュール用充填材シートを構成する全樹脂100重量部に対して0.05重量部以下であることを特徴とする請求項1から請求項4までのいずれかの請求項に記載の太陽電池モジュール用充填材シート。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−209578(P2012−209578A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−151485(P2012−151485)
【出願日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【分割の表示】特願2007−98426(P2007−98426)の分割
【原出願日】平成19年4月4日(2007.4.4)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】