説明

太陽電池モジュール用変換効率向上部材及び太陽電池モジュール

【課題】太陽電池モジュールに入射した光のうち、感度波長の光を有効に取り込む光閉じ込め機能と、不要な赤外光を遮断する熱線遮蔽機能とを兼ね備える変換効率向上部材、及びそれを使用した太陽電池モジュールを提供する。
【解決手段】樹脂と、無機微粒子とを含む樹脂組成物からなる、無機微粒子層を含むシート状の太陽電池モジュール用変換効率向上部材であって、前記無機微粒子層における前記樹脂単独の場合のJIS K7136におけるヘイズ値が20%以下であり、前記無機微粒子は、シートの平面方向に沿って略配向する鱗片状フィラーであり、その長径の平均粒子径が10μmを超えて80μm未満である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽電池モジュール用の変換効率向上部材に関し、さらに詳しくは、太陽電池素子の感度波長の光を有効に取り込みつつ、不要な赤外光(熱線)を遮断する熱線遮蔽効果を有する部材及びそれを使用した太陽電池モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境問題に対する意識の高まりから、クリーンなエネルギー源としての太陽電池が注目されている。一般に、太陽電池を構成する太陽電池モジュールは、受光面側から、透明前面基板、充填材、太陽電池素子、充填材及び背面保護シートが順に積層された構成であり、太陽光が上記太陽電池素子に入射することにより発電する機能を有している。
【0003】
このような太陽電池モジュールを使用して効率良く電力を得るためには、太陽電池モジュールの内部に存在する太陽電池素子に感度のある近紫外域から近赤外域が主体の光(感度波長光)を効率良く利用させることが重要である。しかしながら、太陽電池モジュールに照射された感度波長光の一部は、太陽電池素子に到達して利用される前に、反射によって太陽電池モジュールの外部へと放出される。このような反射は、太陽電池モジュールの表面(透明前面基板の表面)で発生するばかりでなく、太陽電池素子の表面でも発生し、太陽電池モジュールの光から電力への変換効率を低下させる一因となる。このため、太陽電池素子の表面で反射した感度波長光を太陽電池モジュールの中に閉じ込めて、太陽電池モジュールに入射した感度波長光が太陽電池モジュールの外部へと放出されるのを防止する検討が行われている。
【0004】
例えば、特許文献1には、マトリックス樹脂中に、当該マトリックス樹脂よりも屈折率が高い散乱粒子を分散させることにより、透過率が70%以上、かつヘイズ値が58〜90%である太陽電池用光散乱膜が記載されている。このような太陽電池用光散乱膜を使用することにより、太陽電池素子の表面で反射した感度波長光を光散乱膜の内部で散乱させて、その進行方向を再度太陽電池素子に向けることが可能になる。このような作用により、太陽電池モジュールに入射した感度波長光が太陽電池モジュールの内部に閉じ込められ、それにより感度波長光の利用効率が向上し、光から電力への変換効率を向上させることができる。
【0005】
一方、これとは別の課題として、感度波長光より長波長側の赤外光である熱線は、特に結晶系の太陽電池素子において発熱による発電効率の低下要因となるため、これを可能な限り遮断することが望まれている。このような観点から、例えば、特許文献2及び3には、1200〜3000nmの波長領域の赤外線を遮蔽する透過波長選択剤を樹脂中に分散させた太陽電池封止材が提案されている。そして、この太陽電池封止材において、透過波長選択剤として粒径1μmの無機微粒子の超微粉末を使用するとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−16555号公報
【特許文献2】特開2006−190865号公報
【特許文献3】特開2006−190867号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、樹脂と無機微粒子とからなる系においては、一般に上記2つの課題は相反する要求である。例えば、特許文献2及び3に記載された太陽電池封止材において、確かに樹脂中に透過波長選択剤(無機微粒子)が存在することにより、熱線である赤外線の太陽電池素子への到達が抑制されることになるが、これと同時に、透過波長選択剤(無機微粒子)による感度波長光の散乱を生じ、感度波長光が遮蔽されることにもなる。実際、このような太陽電池封止材において、透過波長選択剤(無機微粒子)の添加量が少ないと、十分な赤外線遮蔽効果が発現されず、一方で、十分な赤外線発現効果が得られる程度まで透過波長選択剤(無機微粒子)を添加すると、感度波長光が遮蔽されて発電効率が低下する結果となる。このように、感度波長光を有効に取り込みつつ、熱線を遮断することは困難であった。
【0008】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、太陽電池モジュールに入射した光のうち、不要な熱線を遮断する熱線遮蔽機能と、感度波長の光を有効に取り込む機能とを兼ね備える変換効率向上部材、及びそれを使用した太陽電池モジュールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、ベースとなる樹脂シートのヘイズ値と、添加する無機微粒子の粒子径及び形状とを特定の組合せとすることにより、上記課題が解決されることを見出し、本発明を完成するに至った。具体的には、本発明は以下のものを提供する。
【0010】
(1)本発明は、樹脂と、無機微粒子とを含む樹脂組成物からなる無機微粒子層を含むシート状の太陽電池モジュール用変換効率向上部材であって、前記無機微粒子層における前記樹脂単独の場合のJIS K7136におけるヘイズ値が20%以下であり、前記無機微粒子は、シートの平面方向に沿って略配向する鱗片状フィラーであり、その長径の平均粒子径が10μmを超えて80μm未満であることを特徴とする太陽電池モジュール用変換効率向上部材である。
【0011】
(2)また本発明は、前記無機微粒子を、0.005質量%から0.5質量%含有する(1)記載の太陽電池モジュール用変換効率向上部材である。
【0012】
(3)また本発明は、前記無機微粒子がシランカップリング剤で処理されたものである(1)又は(2)記載の太陽電池モジュール用変換効率向上部材である。
【0013】
(4)また本発明は、(1)から(3)いずれか記載の太陽電池モジュール用変換効率向上部材がシート状部材であり、該シート状部材が太陽電池素子の受光面側に配置される太陽電池モジュールである。
【0014】
(5)また、本発明は、前記シート状部材が太陽電池モジュールにおける太陽電池素子の受光面側に配置される充填材である(4)記載の太陽電池モジュールである。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、太陽電池モジュールに入射した光のうち、不要な熱線を遮断する熱線遮蔽機能と、感度波長の光を有効に取り込む機能とを兼ね備える変換効率向上部材、及びそれを使用した太陽電池モジュールが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の太陽電池モジュールの層構成の一例を示す断面図である。
【図2】実施例7の太陽電池モジュール用変換効率向上部材の断面を3次元計測X線コンピュータ断層撮影装置で観察した画像の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明について、樹脂と無機微粒子とを含む樹脂組成物、太陽電池モジュール用変換効率向上部材、太陽電池モジュールの順に詳細に説明する。
【0018】
<樹脂組成物>
本発明の太陽電池モジュール用変換効率向上部材は、樹脂と、無機微粒子とを含む樹脂組成物からなる。この樹脂組成物をシート状に成型することにより太陽電池モジュール用変換効率向上部材における無機微粒子層が形成される。太陽電池モジュール用変換効率向上部材が無機微粒子層のみからなる場合は、この樹脂組成物がシート状に成型されることにより太陽電池モジュール用変換効率向上部材となる。以下、樹脂組成物を構成する樹脂、無機微粒子、その他含有できる化合物、につき順次説明する。
【0019】
[樹脂]
本発明の太陽電池モジュール用変換効率向上部材で使用される樹脂は、無機微粒子層における樹脂単独の場合のヘイズ値(JIS K7136)が20%以下である。「無機微粒子層における樹脂単独の場合」とは、太陽電池モジュール用変換効率向上部材に含まれる無機微粒子層の厚さで無機微粒子を含まない樹脂単独のシートを作製した場合、という意味である。すなわち、例えば厚さAμmの太陽電池モジュール用変換効率向上部材が無機微粒子層のみで構成されている場合、そこで使用されている樹脂のみを使用して厚さAμmのシートを作製すると、そのシートは、JIS K7136におけるヘイズ値が20%以下となる、という意味である。なお、本願において、「樹脂単独」とは、樹脂組成物から無機微粒子を除いた樹脂混合物を意味する。具体的には、「樹脂単独」である樹脂には、後に説明する「その他含有できる化合物」等や、耐候性を付与する等のために添加されるマスターバッチ等が含まれてもよい。
【0020】
本発明の太陽電池モジュール用変換効率向上部材で使用される樹脂が上記のようなヘイズ値を有することにより、太陽電池モジュールに入射する光が樹脂によって散乱されることを抑制でき、太陽電池モジュールに入射した光を太陽電池素子まで効率よく到達させることができる。無機微粒子層における樹脂単独の場合のJIS K7136におけるヘイズ値は、18%以下であることが好ましく、15%以下であることがより好ましい。
【0021】
具体的な樹脂は上記ヘイズ値の範囲であれば特に限定されず、EVA(エチレン−酢酸ビニル共重合体)、PVB(ポリビニルブチラール)、エチレン系アイオノマー、ポリジメチルシロキサン等のシリコーン樹脂、ポリエチレン系の樹脂、α−オレフィンとエチレン性不飽和シラン化合物とをコモノマーとして共重合してなる共重合体等が例示される。
【0022】
ポリエチレン系の樹脂としては、透明性を付与する観点から、エチレンとα−オレフィンとの低密度共重合体が好ましく使用される。このような樹脂としては、メタロセン系直鎖状低密度ポリエチレンが挙げられる。メタロセン系直鎖状低密度ポリエチレンは、シングルサイト触媒であるメタロセン触媒を用いて合成されるものである。このようなポリエチレン系樹脂は、側鎖の分岐が少なく、コモノマーの分布が均一である。このため、分子量分布が狭く、密度が小さいポリエチレン系樹脂とすることができ、シートに柔軟性を付与することができる。透明性の観点からは、密度が0.870〜0.915g/cmの範囲であるメタロセン系直鎖状低密度ポリエチレンであることが好ましく、α−オレフィンが炭素数6から8であることが好ましい。
【0023】
上記ポリエチレン系の樹脂は、更に、α−オレフィンとエチレン性不飽和シラン化合物をコモノマーとして共重合してなるシラン共重合体を含むことが好ましい。このような樹脂を使用することにより、太陽電池素子11や表面側充填材12等といった部材と裏面側充填材3との接着性が得られる。シラン共重合体は、例えば、特開2003−46105号公報に記載されているものである。当該共重合体は、太陽電池モジュールの充填剤層を構成する材料であり、強度、耐久性等に優れ、かつ、耐候性、耐熱性、耐水性、耐光性、耐風圧性、耐降雹性、その他等の諸特性に優れ、さらに、太陽電池モジュ−ルを製造する加熱圧着等の製造条件に影響を受けることなく極めて優れた熱融着性を有し、安定的に、低コストで、種々の用途に適する太陽電池モジュ−ルを製造し得る。
【0024】
シラン共重合体は、少なくともα−オレフィンとエチレン性不飽和シラン化合物をコモノマーとし、必要に応じてさらにその他の不飽和モノマーをコモノマーとして共重合して得られる共重合体であり、該共重合体の変性ないし縮合体も含むものである。
【0025】
具体的には、例えば、α−オレフィンの1種ないし2種以上と、エチレン性不飽和シラン化合物の1種ないし2種以上と、必要ならば、その他の不飽和モノマーの1種ないし2種以上とを、所望の反応容器を使用し、例えば、圧力500〜4000Kg/cm位、好ましくは、1000〜4000Kg/cm位、温度、100〜400℃位、好ましくは、150〜350℃位の条件下で、ラジカル重合開始剤及び必要ならば連鎖移動剤の存在下で、同時にあるいは段階的にランダム共重合させ、さらには、必要に応じて、その共重合によって生成するランダム共重合体を構成するシラン化合物の部分を変性ないし縮合させて、α−オレフィンとエチレン性不飽和シラン化合物との共重合体又はその変性ないし縮合体を製造することができる。
【0026】
また、α−オレフィンとエチレン性不飽和シラン化合物との共重合体又はその変性ないし縮合体としては、例えば、α−オレフィンの1種ないし2種以上と、必要ならば、その他の不飽和モノマーの1種ないし2種以上とを、所望の反応容器を使用し、上記と同様に、ラジカル重合開始剤及び必要ならば連鎖移動剤の存在下で、同時にあるいは段階的に重合させ、次いで、その重合によって生成するポリオレフィン系重合体に、エチレン性不飽和シラン化合物の1種ないし2種以上をグラフト共重合させ、さらには、必要に応じて、その共重合体によって生成するグラフト共重合体を構成するシラン化合物の部分を変性ないし縮合させて、α−オレフィンとエチレン性不飽和シラン化合物との共重合体又はその変性ないし縮合体を製造することができる。
【0027】
α−オレフィンとしては、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテン、イソブチレン、1−ペンテン、2−メチル−1−ブテン、3−メチル−1−ブテン、1−ヘキセン、1−ヘプテン、1−オクテン、1−ノネン、1−デセンより選択される1種以上を使用することができる。
【0028】
エチレン性不飽和シラン化合物としては、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリプロポキシシラン、ビニルトリイソプロポキシシラン、ビニルトリブトキシシラン、ビニルトリペンチロキシシラン、ビニルトリフェノキシシラン、ビニルトリベンジルオキシシラン、ビニルトリメチレンジオキシシラン、ビニルトリエチレンジオキシシラン、ビニルプロピオニルオキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、ビニルトリカルボキシシランより選択される1種以上を使用することができる。
【0029】
その他の不飽和モノマーとしては、例えば、酢酸ビニル、アクリル酸、メタクリル酸、メチルアクリレ−ト、メチルメタクリレ−ト、エチルアクリレ−ト、ビニルアルコ−ルより選択される1種以上を使用することができる。
【0030】
ラジカル重合開始剤としては、例えば、ラウロイルパーオキシド、ジプロピオニルパーオキシド、ベンゾイルパーオキシド、ジ−t−ブチルパーオキシド、t−ブチルヒドロパーオキシド、t−ブチルパーオキシイソブチレート等の有機過酸化物、分子状酸素、アゾビスイソブチロニトリルアゾイソブチルバレロニトリル等のアゾ化合物等を使用することができる。
【0031】
連鎖移動剤としては、例えば、メタン、エタン、プロパン、ブタン、ペンタン等のパラフィン系炭化水素、プロピレン、1−ブテン、1−ヘキセン等のα−オレフィン、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、n−ブチルアルデヒド等のアルデヒド、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン、芳香族炭化水素、塩素化炭化水素等を使用することができる。
【0032】
ランダム共重合体を構成するシラン化合物の部分を変性ないし縮合させる方法、あるいは、グラフト共重合体を構成するシラン化合物の部分を変性ないし縮合させる方法としては、例えば、錫、亜鉛、鉄、鉛、コバルト等の金属のカルボン酸塩、チタン酸エステル及びキレ−ト化物等の有機金属化合物、有機塩基、無機酸、及び、有機酸等のシラノ−ル縮合触媒等を使用し、α−オレフィンとエチレン性不飽和シラン化合物とのランダム共重合体あるいはグラフト共重合体を構成するシラン化合物の部分のシラノ−ル間の脱水縮合反応等を行うことにより、α−オレフィンとエチレン性不飽和シラン化合物との共重合体の変性ないし縮合体を製造することができる。
【0033】
本発明で好ましく使用されるシラン共重合体としては、ランダム共重合体、交互共重合体、ブロック共重合体、及びグラフト共重合体のいずれであってもよいが、グラフト共重合体であることが好ましく、さらには、重合用ポリエチレンの主鎖とし、エチレン性不飽和シラン化合物が側鎖として重合したグラフト共重合体が好ましい。このようなグラフト共重合体は、接着力に寄与するシラノール基の自由度が高くなるため、接着層の接着性を向上することができるからである。
【0034】
α−オレフィンとエチレン性不飽和シラン化合物との共重合体を構成する際のエチレン性不飽和シラン化合物の含量としては、全共重合体質量に対して、例えば、0.001〜15質量%位、好ましくは、0.01〜5質量%位、特に好ましくは、0.05〜2質量%位が望ましいものである。本発明において、α−オレフィンとエチレン性不飽和シラン化合物との共重合体を構成するエチレン性不飽和シラン化合物の含量が多い場合には、機械的強度及び耐熱性等に優れているが、逆に、含量が過度になると、引っ張り伸び及び熱融着性等に劣る傾向にある。
【0035】
EVA樹脂としては、種類を問わないが、酢酸ビニル単位の含有率が5〜45質量%、中でも15〜40質量%の範囲であることが好ましい。EVA樹脂の酢酸ビニル単位の含有率が5質量%以上であることにより、良好な透明性が得られる。また、EVA樹脂の酢酸ビニル単位の含有率が45質量%以下であることにより、十分な強度が得られる。
【0036】
EVA樹脂を使用する場合、EVA樹脂に有機過酸化物を予め添加し、これを熱分解することで、EVA樹脂又はEVA樹脂を含む組成物に架橋構造を持たせることができる。これにより、本発明の太陽電池モジュール用変換効率向上部材の耐久性を向上させることができる。どの段階で、予め添加した有機過酸化物を熱分解し、EVA樹脂又はEVA樹脂を含む組成物に架橋構造を持たせるのかは、特に限定されない。このような熱分解のための加熱の一例として、太陽電池モジュールを作製する際の真空ラミネーションにおける加熱や、太陽電池モジュール作製後における加熱が挙げられる。
【0037】
この有機過酸化物としては、加熱によりラジカルを発生するものであれば特に限定されないが、配合時や保存時の安定性を考慮すれば、半減期10時間の分解温度が70℃以上であるものが好ましい。このような物としては、例えば、2,5−ジメチルヘキサン−2,5−ジハイドロパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン−3、ジ−t−ブチルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、a,a’−ビス(t−ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、n−ブチル−4,4−ビス(t−ブチルパーオキシ)ブタン、2,2−ビス(t−ブチルパーオキシ)ブタン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、t−ブチルパーオキシベンズエート、ベンゾイルパーオキサイド等が挙げられる。有機過酸化物の配合量は、EVA樹脂比5質量%程度までで十分である。
【0038】
EVA樹脂を使用する場合、EVA樹脂又はEVA樹脂を含む組成物の架橋度を向上させ、太陽電池モジュール用変換効率向上部材の耐久性を向上するために、架橋助剤を添加することができる。この架橋助剤としては、トリアリルイソシアヌレート、トリアリルイソシアネート等3官能の架橋助剤が例示される。架橋助剤の配合量は、EVA樹脂比10質量%程度までで十分である。
【0039】
[無機微粒子]
本発明の太陽電池モジュール用変換効率向上部材で使用される無機微粒子は、鱗片状(フレーク状)の無機微粒子であり、上記樹脂中に分散されることにより、太陽電池モジュール用変換効率向上部材の中で無機微粒子層を形成する。無機微粒子は、上記樹脂と混合されることにより樹脂組成物となり、この樹脂組成物をシート状に成型することにより無機微粒子層となる。太陽電池モジュール用変換効率向上部材が無機微粒子層のみからなる場合は、この樹脂組成物がシート状に成型されることにより太陽電池モジュール用変換効率向上部材となる。
【0040】
既に述べたように、本発明で使用される無機微粒子は鱗片状である。無機微粒子がこのような形状であることにより、この無機微粒子を含む樹脂組成物を例えば押し出し成形法によりシート状に成型したときに、無機微粒子の長手方向がシートの押し出し方向に配向する。このとき、無機微粒子の厚さ方向がシートの厚さ方向と略同一となり、無機微粒子は、シートの平面方向に沿って略配向することになる。
【0041】
このように無機微粒子がシートの平面方向に沿って略配向することにより、本発明の太陽電池モジュール用変換効率向上部材に熱線遮蔽機能が付与される。また、無機微粒子がシートの平面方向に沿って略配向することにより、太陽電池モジュール用変換効率向上部材に光閉じ込め機能が付与されることも期待される。
なお、太陽電池モジュール用変換効率向上部材に十分な熱線遮蔽機能を付与するとの観点からは、太陽電池モジュール用変換効率向上部材を構成するシートに含まれる無機微粒子のうち、シートの平面方向に対する傾きが30度以下である粒子の割合が85%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましく、95%以上であることが最も好ましい。本発明では、太陽電池モジュール用変換効率向上部材を構成するシートに含まれる無機微粒子のうち、シートの平面方向に対する傾きが30度以下である粒子の割合が85%以上であれば、「無機微粒子がシートの平面方向に沿って略配向している状態」とする。
【0042】
まず、熱線遮蔽機能について説明する。太陽電池モジュールに含まれる太陽電池素子が結晶系の場合、太陽電池素子の温度の上昇によって発電効率は著しく低下する。このため、熱線を多く含む太陽光で発電しようとすると、太陽電池素子の温度上昇が避けられず、発電効率が低下してしまうのが一般的である。このような場合、太陽電池素子よりも表面側に本発明の太陽電池モジュール用変換効率向上部材が存在すると、太陽電池素子で電力に変換される可視光及び近赤外光領域の光(すなわち、感度波長光)は太陽電池モジュールの内部へと通過する一方、不要な熱線は太陽電池モジュール用変換効率向上部材に含まれる無機微粒子によって太陽電池モジュールの外部へと反射され、太陽電池素子の温度が上昇することを抑制できる。無機微粒子がシートの平面方向に沿って略配向することにより、このような熱線遮蔽機能を効果的に発現させることができる。なお、非結晶系の太陽電池素子の場合、太陽電池素子の温度上昇による発電効率の低下はないとされるが、太陽電池素子の温度が高くなることによりその寿命が短くなる。このため、本発明の太陽電池モジュール用変換効率向上部材は、非結晶タイプの太陽電池素子にも好適に使用される。
【0043】
次に、光閉じ込め機能について説明する。太陽電池モジュールに光が入射すると、その光は太陽電池素子に吸収されて電力に変換される。このとき、太陽電池モジュールに入射した光の全てが電力に変換されるわけではなく、その一部は、太陽電池素子の表面で反射され、太陽電池モジュールの外部方向へと進行する。このような場合、太陽電池素子よりも表面側に本発明の太陽電池モジュール用変換効率向上部材が存在することにより、太陽電池素子の表面で反射された光が太陽電池モジュール用変換効率向上部材に含まれる無機微粒子によって散乱され、その光の進行方向を再び太陽電池モジュールの内部側へと向ける作用が期待される。この場合、太陽電池モジュールに入射した光は、太陽電池モジュールの内部に閉じ込められた状態となるので、効率良く利用される。無機微粒子がシートの平面方向に沿って略配向することにより、太陽電池モジュールの外部方向へ進む光を効率良く散乱させることができるので、太陽電池モジュールに入射した光の利用効率を向上させることができる。
【0044】
本発明における鱗片状の無機微粒子としては、天然マイカ(雲母)、合成マイカ、酸化チタン被覆マイカ、酸化鉄被覆マイカ等のマイカ微粒子、アルミナフレーク、酸化チタン被覆アルミナフレーク、酸化鉄被覆アルミナフレーク等のアルミナフレーク、酸化チタン被覆ガラスフレーク等のガラスフレーク等が例示される。
【0045】
これらの中でも、感度波長光に対する透明性と熱線に対する遮蔽性を両立し易いとの観点からは、鱗片状の酸化チタン被覆マイカを使用することが好ましい。その理由は、2つある。1つは、マイカ自身が感度波長域における透明性に優れる点である。そのため、マイカ粒子の表面に長波長側の波長域を反射する酸化チタンによる光学薄膜を形成することによって、感度波長の光を透過することができる一方で、熱線である赤外線を遮蔽することができる。もう1つは、鱗片状の酸化チタン被覆マイカは、樹脂組成物をシート状に加工した際に、シートの深さ方向の様々な位置に分散して存在し、かつシートの平面方向に沿って略配向することができる点である。これにより、シートを平面視した際に、鱗片状の酸化チタン被覆マイカが敷き詰められたような状態となり、少ない添加量で十分な熱線遮蔽効果を奏することができる。
【0046】
無機微粒子の平均粒子径は、10μmを超えて80μm未満である。無機微粒子の平均粒子径が10μmを超えることにより、樹脂中の無機微粒子の分散性が良好となる。また、無機微粒子の平均粒子径が80μm未満であることにより、太陽電池モジュール用変換効率向上部材に良好な熱線遮蔽機能を付与することができる。無機微粒子の平均粒子径は、15〜70μmであることが好ましく、20〜60μmであることがより好ましい。なお、ここでいう無機微粒子の平均粒子径とは、鱗片状である無機微粒子の長径(長手方向の大きさ)の粒度分布を見たときに、長径の大きさが上位50%以上である粒子の長径の平均値を意味する。
【0047】
無機微粒子の粒径が10μmを超えて80μm未満であることにより、太陽電池モジュール用変換効率向上部材に入射した感度波長光の散乱が抑制される。このため、太陽電池モジュールに入射した光のうち感度波長光を有効に取り込む機能を太陽電池モジュール用変換効率向上部材に付与することができる。
無機微粒子の粒径が10μm以下であると、赤外線の遮蔽効果を十分に得るために必要な樹脂中の無機微粒子の濃度が大きくなる。すると、樹脂中の無機微粒子濃度が増大することに伴う感度波長光の散乱効果が大きくなり、太陽電池モジュールの変換効率が低下する原因となる。他に、無機微粒子の粒径が10μm以下であると、無機微粒子が樹脂中で凝集構造を作りやすくなる。すると、樹脂中の無機微粒子による感度波長光の散乱効果が大きくなり、太陽電池モジュールの変換効率が低下する原因となる。
また、無機微粒子の粒径が80μm以上であると、赤外線の遮蔽効果を得るのに必要な樹脂中の無機微粒子の濃度は比較的小さくなるものの、粒径が大きいことによる感度波長光の遮蔽が大きくなり、太陽電池モジュールの変換効率が低下する原因となる。他に、無機微粒子の粒径が80μm以上であると、樹脂中に所定の質量の無機微粒子を添加した場合に、無機微粒子の粒子数が減少することとなる。すると、樹脂に含まれる無機微粒子と無機微粒子との間隔が広がるために、太陽電池モジュール用変換効率向上部材を通過する赤外線の量が増大し、熱線遮蔽機能が低下する傾向がある。
本発明は、10μmを超えて80μm未満という、微粒子でも粗粒子でもない粒径範囲の無機微粒子を比較的低い濃度で使用することにより、熱線の遮蔽と、感度波長光の十分な取り込みという、相反する課題を両立させる。
【0048】
なお、無機微粒子は、シランカップリング剤で処理されたものであることが好ましい。シランカップリング剤で疎水化処理された無機微粒子を使用することにより、太陽電池モジュール用変換効率向上部材の透明性が向上し、太陽電池モジュールに入射した光を効率良く太陽電池素子に到達させることができるようになる。シランカップリング剤で疎水化処理された無機微粒子を使用することにより透明性が向上する理由は、必ずしも明らかではないが、無機微粒子の樹脂に対する濡れ性が向上することにより、無機微粒子が樹脂の厚さ方向や面方向に均一に分散して無機微粒子の凝集構造による散乱が減少したり、無機微粒子の周囲に存在する空隙が減少し、この空隙に存在する空気による散乱が減少したりするためと推察される。
【0049】
樹脂組成物中の無機微粒子の添加量は、0.005質量%から0.5質量%であることが好ましい。樹脂組成物中の無機微粒子の添加量が0.005質量%以上であることにより、太陽電池モジュール用変換効率向上部材に十分な熱線遮蔽機能を付与することができる。また、太陽電池モジュール用変換効率向上部材に光閉じ込め機能が付与されることも期待される。樹脂組成物中の無機微粒子の添加量が0.5質量%以下であることにより、太陽電池モジュール用変換効率向上部材の透明性が維持され、太陽電池モジュールに入射した光を効率良く太陽電池素子に到達させることができる。ところで、樹脂組成物中の無機微粒子の添加量についての上記範囲は、通常、熱線遮蔽効果を付与するために添加される無機微粒子の量よりもかなり少ないものである。本発明では、鱗片状かつ特定の粒子径の範囲である無機微粒子を、上記のように小さな添加量の範囲で使用することによって、太陽電池モジュール用変換効率向上部材に熱線遮蔽効果を付与しつつ、感度波長光に対する透明性を維持することができる。言い換えれば、本発明の太陽電池モジュール用変換効率向上部材では、鱗片状かつ特定の粒子径の範囲である無機微粒子を、上記のように小さな添加量の範囲で使用することによって、熱線遮蔽効果と透明性という、相反する性能をともに満足させるものである。樹脂組成物中の無機微粒子の添加量は、0.01〜0.2質量%であることがより好ましい。
【0050】
[その他含有できる化合物]
樹脂組成物には、必要に応じて、上記の樹脂及び無機微粒子以外の他の化合物を含むことができる。具体的には、光安定化剤、紫外線吸収剤、熱安定剤及び酸化防止剤等の添加剤を含有することが好ましい。これらの添加剤を含むことにより、長期に渡って安定した機械強度、黄変防止、ひび割れ防止等ができる。
【0051】
光安定化剤は、樹脂組成物に含まれる樹脂の光劣化開始の活性種を補足し、光酸化を防止するものである。具体的には、ヒンダードアミン系化合物、ヒンダードピペリジン系化合物等の光安定化剤が挙げられる。
【0052】
紫外線吸収剤は、太陽光中の有害な紫外線を吸収して、分子内で無害な熱エネルギーへと変換し、樹脂組成物に含まれる樹脂の光劣化開始の活性種が励起されるのを防止するものである。具体的には、ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、サルチレート系、アクリロニトリル系、金属錯塩系、ヒンダードアミン系、及び超微粒子酸化チタン(粒子径:0.01μm〜0.06μm)もしくは超微粒子酸化亜鉛(粒子径:0.01μm〜0.04μm)等の無機系等の紫外線吸収剤が挙げられる。
【0053】
熱安定剤としては、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)フォスファイト、ビス[2,4−ビス(1,1−ジメチルエチル)−6−メチルフェニル]エチルエステル亜リン酸、テトラキス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)[1,1−ビフェニル]−4,4´−ジイルビスホスフォナイト、及びビス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジフォスファイト等のリン系熱安定剤;8−ヒドロキシ−5,7−ジ−t−ブチル−フラン−2−オンとo−キシレンとの反応生成物等のラクトン系熱安定剤等を挙げることができる。リン系熱安定剤とラクトン系熱安定剤とを併用することが好ましい。
【0054】
酸化防止剤は、樹脂組成物に含まれる樹脂の酸化劣化を防止するものである。具体的には、フェノール系、アミン系、イオウ系、リン系、及びラクトン系等の酸化防止剤が挙げられる。
【0055】
これらの光安定化剤、紫外線吸収剤、熱安定剤及び酸化防止剤は、それぞれ1種単独でも2種以上を組み合わせて用いることもできる。また、光安定化剤、紫外線吸収剤、熱安定剤及び酸化防止剤の含有量は、その粒子形状、密度等により異なるものではあるが、それぞれ樹脂組成物中に0.001質量%〜5質量%の範囲内であることが好ましい。
【0056】
さらに、本発明に用いられる他の化合物としては上記以外に、触媒、核剤、架橋剤、分散剤、レベリング剤、可塑剤、消泡剤等を挙げることができる。
【0057】
触媒としては、縮合反応を促進できるものであれば特に限定されず、例えば、ジブチル錫ジラウレート、ジブチル錫ジオクテート、ジオクチル錫ジラウレート、酢酸第1錫、オクタン酸第1錫(カブリル酸第1錫)、ナフテン酸鉛、カブリル酸鉛、2−エチルヘキサン酸鉄、ナフテン酸コバルトのような、カルボン酸塩、また、チタン酸テトラブチルエステル、チタン酸テトラノニルエステル、ビス(アセチルアセトニトリル)ジーイソプロピルチタネート等、チタン酸エステル及びキレート化物のような有機金属化合物、また、エチルアミン、ヘキシルアミン、ジブチルアミン、ピリジン等の有機塩基、さらに、無機酸及び脂肪酸等の酸等を挙げることができる。なかでもカルボン酸塩を用いることが好ましく、錫系のシラノール触媒であることがより好ましい。さらには錫系のシラノール縮合触媒のなかでも、ジブチル錫ジアセテート、ジブチル錫ジラウレート、ジブチル錫ジオクテート、ジオクチル錫ジラウレート等を用いることが好ましい。
【0058】
核剤は、小さい結晶を多数形成する作用をなし、本発明の太陽電池モジュールが、ホットスポット現象等に伴って充填材層が白濁することを防止する機能を有するものである。この核剤としては、上記機能を発現するものであれば特に限定されず、例えば、ソルビトール系核剤、カルボン酸系核剤、有機リン酸系核剤等を挙げることができる。
【0059】
ソルビトール系核剤としては、例えばジベンジリデンソルビトール、又はその誘導体が挙げられ、具体的には1,3,2,4−ジ(メリルベンジリデン)ソルビトール、1,3−クロルベンジリデン−2,4−メチルベンジリデンソルビトール、1,3,2,4−ジベンジリデンソルビトール、1,3,2,4−ジ(p−メチルベンジリデン)ソルビトール、1,3,2,4−ジ(p−エチルベンジリデン)ソルビトール、1,3:2,4−ビス−O−ジメチルベンジリデン−D−ソルビトール等を用いることができる。
【0060】
カルボン酸系核剤としては、例えば脂肪族カルボン酸、脂肪族ジカルボン酸、芳香族カルボン酸もしくは芳香族ジカルボン酸の金属塩、又はそれらのアルキル核置換誘導体の金属塩が挙げられ、具体的にはステアリン酸、アジピン酸もしくはセバチン酸のナトリウム塩、カルシウム塩、又はアルミニウム塩、あるいは、安息香酸のナトリウム塩又はパラ−第3ブチル−安息香酸のアルミニウム塩等を用いることができる。
【0061】
有機リン酸系核剤としては、例えばビス(2,4,8,10−テトラ−tert−ブチル−6−ヒドロキシ−12H−ジベンゾ[d,f][1,3,2]ジオキサフォスシン−6−オキシド)水酸化アルミニウム塩等が挙げられる。
【0062】
また、上記核剤としては、例えばゼオライト、シリカ、タルク、ハイドロタルサイト等を用いることもできる。これらの核剤は、単独又は混合物として使用することができる。
【0063】
上記の中でも、本発明においてはソルビトール系核剤が好適に用いられる。さらに、上記ソルビトール系核剤の中でも、1,3:2,4−ビス−O−ジメチルベンジリデン−D−ソルビトールが好ましい。
【0064】
その他、架橋剤、分散剤、レベリング剤、可塑剤等は、従来公知のものを、その効果を奏する量、適宜加えることができる。
【0065】
<太陽電池モジュール用変換効率向上部材>
次いで、当該樹脂組成物からなる太陽電池モジュール用変換効率向上部材について説明する。本発明の太陽電池モジュール用変換効率向上部材は、上記の樹脂組成物を従来公知の方法で成形加工して得られた無機微粒子層を含み、好ましくはシート状としたものである。太陽電池モジュール用変換効率向上部材が無機微粒子層のみからなる場合は、上記樹脂組成物がシート状に成型されることにより、そのシート自体が太陽電池モジュール用変換効率向上部材となる。なお、本発明におけるシート状とはフィルム状も含む意味であり両者に差はない。
【0066】
上記樹脂組成物のシート化は、通常の熱可塑性樹脂において通常用いられる成形法、すなわち、射出成形、押出成形、中空成形、圧縮成形、回転成形等の各種成形法により行われる。こうして、上記樹脂組成物をシート化又はフィルム化することにより、本発明の太陽電池モジュール用変換効率向上部材が得られる。
【0067】
本発明における太陽電池モジュール用変換効率向上部材は、厚さ100μm以上の無機微粒子層を含むシート状であればよく、無機微粒子層単独でもよく、多層の一部の層が無機微粒子層であってもよい。無機微粒子層が単層の場合の厚さは、150〜1,000μmであることが好ましく、300〜800μmであることがより好ましい。
【0068】
また、多層の場合には、各無機微粒子層の厚さは、50〜300μmであることが好ましく、多層構成の太陽電池モジュール用変換効率向上部材の全体の厚さは、150〜1,000μmであることが好ましい。なお、この場合の層構成や層比は適宜設定可能であり特に限定されない。
【0069】
無機微粒子層における無機微粒子の含有量は、0.005質量%から0.5質量%であることが好ましい。無機微粒子の含有量が0.005質量%以上であることにより、太陽電池モジュール用変換効率向上部材に十分な熱線遮蔽機能を付与することができる。また、太陽電池モジュール用変換効率向上部材に光閉じ込め機能が付与されることも期待される。無機微粒子の含有量が0.5質量%以下であることにより、太陽電池モジュール用変換効率向上部材の透明性が維持され、太陽電池モジュールに入射した光を効率良く太陽電池素子に到達させることができる。なお、ここでいう含有量は、太陽電池モジュール用変換効率向上部材が上記の多層構成の場合には、無機微粒子層のみにおける無機微粒子の含有量を意味し、無機微粒子の存在しない層は含まない。無機微粒子層における無機微粒子の含有量は、0.01〜0.2質量%であることがより好ましい。
【0070】
既に説明したように、本発明の太陽電池モジュール用変換効率向上部材に含まれる無機微粒子層は、その平面方向に沿って略配向する鱗片状フィラー(無機微粒子)が含まれる。このため、本発明の太陽電池モジュール用変換効率向上部材を太陽電池モジュールの表面側に使用することにより、その太陽電池モジュールに熱線遮蔽機能が付与される。また、太陽電池モジュールに光閉じ込め機能が付与されることも期待される。熱線遮蔽機能及び光閉じ込め機能については既に説明した通りであるので、ここでの説明は省略する。
【0071】
本発明の太陽電池モジュール用変換効率向上部材は、上述の樹脂組成物より作製されるので、上述の樹脂組成物に含まれる樹脂のみ(樹脂単独)を無機微粒子層と同じ厚さでシート化した場合のJIS K7136におけるヘイズ値が20%以下となる。その意味及び効果については既に述べた通りであるので、ここでの説明は省略する。なお、本願において、「樹脂単独」とは、樹脂組成物から無機微粒子を除いた樹脂混合物を意味する。具体的には、「樹脂単独」である樹脂には、上記「その他含有できる化合物」、「その他の樹脂」等や、耐候性を付与する等のために添加されるマスターバッチ等が含まれてもよい。
【0072】
また、上記無機微粒子層に含まれる無機微粒子は鱗片状であるので、これを含む樹脂組成物を例えば押し出し成形法によってシート状に成型したときに、無機微粒子の長手方向がシートの押し出し方向に配向する。すなわち、この無機微粒子は、平面方向に沿って略配向する鱗片状フィラーとなる。そして、その長径の平均粒子径は、10μmを超えて80μm未満である。無機微粒子層に含まれる無機微粒子がこれらの条件を満たすことによって、上記熱線遮蔽機能及び感度波長光の取り込みの程度が向上することは既に述べた通りである。
【0073】
<太陽電池モジュール>
次に、本発明の太陽電池モジュール用変換効率向上部材が使用された太陽電池モジュールについて説明する。このような太陽電池モジュールも本発明の一つである。図1は、本発明の太陽電池モジュールについて、その層構成の一例を示す断面図である。本発明の太陽電池モジュール1は、図1に示すように、入射光7の受光面側から、透明前面基板2、太陽電池モジュール用変換効率向上部材(前面充填材層)3、太陽電池素子4、背面充填材層5、及び背面保護シート6が順に積層されている。なお、ここでの太陽電池モジュール用変換効率向上部材3はシート状である。また、必要に応じて、透明前面基板2と太陽電池素子4との間に、他の前面充填材層(図示せず)を設けてもよい。
【0074】
太陽電池モジュール1は、例えば、上記の各層を形成する部材を順次積層してから真空吸引等により一体化し、その後、ラミネーション法等の成形法により、上記の各層を一体成形体として加熱圧着成形して製造することができる。
【0075】
また、太陽電池モジュール1は、通常の熱可塑性樹脂において通常用いられる成形法、例えば、Tダイ押出成形等により、太陽電池素子4の表面側及び裏面側のそれぞれに、太陽電池モジュール用変換効率向上部材3及び背面充填材層5を溶融積層して、太陽電池素子4を太陽電池モジュール用変換効率向上部材3及び背面充填材層5でサンドし、次いで、透明前面基板2及び背面保護シート6を順次積層し、次いで、これらを真空吸引等により一体化して加熱圧着する方法で製造してもよい。
【0076】
なお、本発明の太陽電池モジュール1において、太陽電池モジュール用変換効率向上部材3以外の部材である透明前面基板2、太陽電池素子4、背面充填材層5、背面保護シート6、及び必要に応じて設けられる前面充填材層(図示せず)は、従来公知の材料を特に制限なく使用することができる。また、本発明の太陽電池モジュール1は、上記部材以外の部材を含んでもよい。
【0077】
また、本発明において、太陽電池モジュール用変換効率向上部材3は、必ずしも透明前面基板2と太陽電池素子4との間にのみ用いられる必要はなく、例えば、従来公知の太陽電池モジュールにおける透明前面基板の表面に、変換効率向上部材としてさらに積層してもよい。これによれば、従来公知の太陽電池モジュールの表面に貼り付けるだけで変換効率を向上することができるので、簡便に既存の太陽電池モジュールにも対応することが可能である。
【実施例】
【0078】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0079】
<製造例>
[シラン変性樹脂の調製]
密度0.898g/cmであり、メルトマスフローレート(190℃、2160g荷重、JIS K7210−1999)が2g/10分であるメタロセン系直鎖状低密度ポリエチレン98質量部に対して、ビニルトリメトキシシラン2質量部と、ラジカル発生剤(反応触媒)としてのジクミルパーオキサイド0.1質量部とを混合し、200℃で溶融、混練し、シラン変性透明樹脂を得た
【0080】
[耐候性マスターバッチAの調製]
密度0.920g/cmのチーグラー直鎖状低密度ポリエチレンを粉砕したパウダー100重量部に対して、ベンゾフェノール系紫外線吸収剤3.8重量部とヒンダードアミン系光安定化剤5重量部と、リン系熱安定化剤0.5重量部とを混合して溶融、加工し、ペレット化した耐候性マスターバッチAを得た。
【0081】
[耐候性マスターバッチBの調製]
エチレン・酢酸ビニル共重合体(EVA、酢酸ビニル単位含量28質量%、メルトマスフローレート(190℃、2160g荷重、JIS K7210−1999)15g/10分)100質量部に対して、ベンゾフェノール系紫外線吸収剤3.8重量部とヒンダードアミン系光安定化剤5重量部と、リン系熱安定化剤0.5重量部とを混合して溶融、加工し、ペレット化した耐候性マスターバッチBを得た。
【0082】
[無機微粒子コンパウンド及びアクリル微粒子コンパウンドの作製]
密度0.88g/cmのメタロセン系直鎖状低密度ポリエチレン95重量部に対して、表1に記載した無機微粒子5重量部を樹脂溶融後に混合、加工し、ペレット化することで、無機微粒子コンパウンド1〜8及びアクリル微粒子コンパウンドを作製した。なお、無機微粒子コンパウンド1〜5の作製に使用した無機微粒子は、酸化チタン被覆マイカであり、鱗片状である。また、無機微粒子コンパウンド6の作製に使用した無機微粒子は、酸化アンチモンドープの酸化スズ(ATO)であり、球形である。また、無機微粒子コンパウンドの作製に使用した無機微粒子は、酸化チタン被覆ガラスフレークであり、鱗片状である。また、無機微粒子コンパウンド8の作製に使用した無機微粒子は、ATO被覆酸化チタンであり、ほぼ球形である。さらに、以下の記載において、平均粒子径とは、粒子径分布の中で上位50%の粒子の平均粒子径を意味する。また、粒子径とは、鱗片状粒子の場合はその長径の大きさを意味し、球状粒子の場合はその直径の大きさを意味する。また、表1中、Miraval219、Miraval219wnt、solarflair870、solarflair875及びMiraval5320はメルク株式会社の商品名であり、ET−500Wは石原産業株式会社の商品名であり、T−1は三菱マテリアル株式会社の商品名である。
さらに、エチレン・酢酸ビニル共重合体(EVA、酢酸ビニル単位含量28質量%、メルトマスフローレート(190℃、2160g荷重、JIS K7210−1999)15g/10分)95質量部に対して、無機微粒子としてMiraval219wnt(商品名、メルク株式会社製)5質量部を樹脂溶融後に混合、加工し、ペレット化することで、無機微粒子コンパウンド9を得た。
以上の通り、無機微粒子コンパウンド1〜8及びアクリル微粒子コンパウンドは、オレフィン系の樹脂を含むコンパウンドであり、無機微粒子コンパウンド9は、EVA系の樹脂を含むコンパウンドである。
【0083】
ここで、無機微粒子コンパウンド5の作製に使用した無機微粒子(solarflair875、メルク株式会社製)は、市販のものを次の方法で表面処理してから使用した。
イソプロピルアルコール90質量部に市販のsolarflair875(メルク株式会社製)10質量部及びメチルトリメトキシシラン5質量部を攪拌しながら加えた後にペイントシェーカーで30分振とうし、熱線反射材の均一分散液を得た。この分散液を50℃で1時間加熱処理した後にロータリーエバポレーターでイソプロピルアルコールを除去し、表面処理された無機微粒子を作製した。この表面処理された無機微粒子を無機微粒子コンパウンド5の作製に使用した。
【0084】
【表1】

【0085】
[太陽電池モジュール用変換効率向上部材の作製]
・実施例1〜3及び比較例1(単層品、オレフィン系)
密度0.88g/cmのメタロセン系直鎖状低密度ポリエチレンをメイン樹脂として、上記シラン変性樹脂20質量部に対して、上記耐候性マスターバッチAを5質量部と、メイン樹脂及び無機微粒子コンパウンド2を併せて80質量部とを混合して混合物を作製した。このとき、メイン樹脂及び無機微粒子コンパウンド2との配合比は、混合物中の無機微粒子含有量が0.02質量%(表2参照)となるように決定した。得られた混合物を、φ150mm押出し機、1000mm幅のTダイスを有するフィルム成形機を用いて、押出し温度230℃、引き取り速度1.45m/minで押出して総厚600μmのシートに加工し、実施例1の太陽電池モジュール用変換効率向上部材を作製した。
また、表2に記載した無機微粒子コンパウンドを使用し、表2に記載した無機微粒子含有量となるように混合物を作製したこと以外は、実施例1の太陽電池モジュール用変換効率向上部材と同様の方法により、実施例2及び3並びに比較例1の太陽電池モジュール用変換効率向上部材を作製した。なお、表2に示す通り、比較例1は無機微粒子を含有しないので、比較例1を作製するにあたって無機微粒子コンパウンドは配合しなかった。また、表2において、含有する微粒子の名称に加えて「(処理品)」と記載されている場合は、その微粒子の表面がシランカップリング剤によって処理されていることを示す。このことは、以下の各表においても同様である。
【0086】
・比較例2(単層品、オレフィン系)
密度0.90g/cmのメタロセン系直鎖状低密度ポリエチレンをメイン樹脂として、上記シラン変性樹脂20質量部に対して、上記耐候性マスターバッチAを5質量部と、メイン樹脂80質量部とを混合して混合物を作製したこと以外は、実施例1〜3及び比較例1と同様にして比較例2の太陽電池モジュール用変換効率向上部材を作製した。
【0087】
・実施例14及び比較例10(単層品、EVA系)
エチレン・酢酸ビニル共重合体(EVA、酢酸ビニル単位含量28質量%、メルトマスフローレート(190℃、2160g荷重、JIS K7210−1999)15g/10分)をメイン樹脂として、上記耐候性マスターバッチBを50質量部と、メイン樹脂及び無機微粒子コンパウンド9を併せて1000質量部とを混合し、これに架橋剤として2,5−ジメチル−2,5−ジターシャリーブチルパーオキシヘキサン(商品名:ルパゾール101、アトフィナ吉富株式会社製)12.6質量部、及びシランカップリング剤としてγ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(商品名:KBM503、信越化学株式会社製)1.1質量部を混合し、含浸のため1昼夜放置して混合物を作製した。このとき、メイン樹脂及び無機微粒子コンパウンド9との配合比は、混合物中の無機微粒子含有量が0.02質量%(表2参照)となるように決定した。得られた混合物を、φ150mm押出し機、1000mm幅のTダイスを有するフィルム成形機を用いて、押出し温度150℃、引き取り速度1.45m/minで押出して総厚600μmのシートに加工し、実施例14の太陽電池モジュール用変換効率向上部材を作製した。
また、無機微粒子コンパウンド9を配合しなかったこと以外は、実施例14と同様の手順にて比較例10の太陽電池モジュール用変換効率向上部材を作製した。
【0088】
【表2】

【0089】
・実施例4〜6並びに比較例3及び5〜7(三層品、層比1:5:1、オレフィン系)
密度0.88g/cmのメタロセン系直鎖状低密度ポリエチレンをメイン樹脂として、上記シラン変性樹脂20質量部に対して、上記耐候性マスターバッチAを5質量部と、メイン樹脂80質量部とを混合して混合物Aを作製した。
また、密度0.88g/cmのメタロセン系直鎖状低密度ポリエチレンをメイン樹脂として、上記シラン変性樹脂20質量部に対して、上記耐候性マスターバッチAを5質量部と、メイン樹脂及び無機微粒子コンパウンド2を併せて80質量部とを混合して混合物Bを作製した。このとき、メタロセン系直鎖状ポリエチレン及び無機微粒子コンパウンド2との配合比は、混合物中の無機微粒子含有量が0.02質量%(表3参照)となるように決定した。
混合物Aからなる層を混合物Bからなる層が上下から挟むようにして、φ150mm押出し機、1000mm幅のTダイスを有するフィルム成形機を用いて、押出し温度230℃、引き取り速度1.45m/minで総厚約592μmの3層シートに加工し、実施例4の太陽電池モジュール用変換効率向上部材を作製した。各層の厚さは、表面からそれぞれ86μm、420μm、86μmであり、両外層(86μm)が無機微粒子を含有する。
また、使用したコンパウンド、各層の厚さ及び無機微粒子含有量が表3に記載した通りとなるように混合物A及び混合物Bを作製して3層シートに加工したこと以外は、実施例4と同様の方法により、実施例5及び6並びに比較例3及び5〜7の太陽電池モジュール用変換効率向上部材を作製した。なお、表3に示すように、実施例6の太陽電池モジュール用変換効率向上部材は、3層構造の最上層にのみ無機微粒子を含有するが、このように積層体を作製するには混合物B/混合物A/混合物Aの順に積層して3層シートに加工すればよい。また、比較例5〜7の太陽電池モジュール用変換効率向上部材は、3層構造の中間層にのみ無機微粒子を含有するが、これも同様に、混合物A/混合物B/混合物Aの順に積層して3層シートに加工すればよい。これらのことは、以下の作製方法の説明でも同様である。
【0090】
・比較例4(三層品、層比1:5:1、オレフィン系)
密度0.90g/cmのメタロセン系直鎖状低密度ポリエチレンをメイン樹脂としたこと以外は、実施例4〜6及び比較例3と同様の手順にて、表3に記載した比較例4の太陽電池モジュール用変換効率向上部材を作製した。
【0091】
【表3】

【0092】
・実施例7〜13並びに比較例8及び9(三層品、層比1:3:1、オレフィン系)
各層の厚さを、表面からそれぞれ120μm、360μm、120μmとしたこと以外は上記の実施例4〜6並びに比較例3〜7と同様の手順にて、表4に記載された実施例7〜13並びに比較例8及び9の太陽電池モジュール用変換効率向上部材を作製した。
【0093】
・実施例15及び16並びに比較例13(三層品、層比1:3:1、EVA系)
エチレン・酢酸ビニル共重合体(EVA、酢酸ビニル単位含量28質量%、メルトマスフローレート(190℃、2160g荷重、JIS K7210−1999)15g/10分)をメイン樹脂として、上記耐候性マスターバッチBを50質量部と、メイン樹脂1000質量部とを混合し、これに架橋剤として2,5−ジメチル−2,5−ジターシャリーブチルパーオキシヘキサン(商品名:ルパゾール101、アトフィナ吉富株式会社製)12.6質量部、及びシランカップリング剤としてγ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(商品名:KBM503、信越化学株式会社製)1.1質量部を混合し、含浸のため1昼夜放置して混合物Cを作製した。
また、エチレン・酢酸ビニル共重合体(EVA、酢酸ビニル単位含量28質量%、メルトマスフローレート(190℃、2160g荷重、JIS K7210−1999)15g/10分)をメイン樹脂として、上記耐候性マスターバッチBを50質量部と、メイン樹脂及び無機微粒子コンパウンド9を併せて1000質量部とを混合し、これに架橋剤として2,5−ジメチル−2,5−ジターシャリーブチルパーオキシヘキサン(商品名:ルパゾール101、アトフィナ吉富株式会社製)12.6質量部、及びシランカップリング剤としてγ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(商品名:KBM503、信越化学株式会社製)1.1質量部を混合し、含浸のため1昼夜放置して混合物Dを作製した。このとき、メイン樹脂及び無機微粒子コンパウンド9との配合比は、混合物中の無機微粒子含有量が0.04質量%(表4参照)となるように決定した。
混合物Dからなる層が最上層となるとともに、混合物Cからなる層が中間層及び最下層となるようにして、φ150mm押出し機、1000mm幅のTダイスを有するフィルム成形機を用いて、押出し温度90℃、引き取り速度1.45m/minで総厚約600μmの3層シートに加工し、実施例15の太陽電池モジュール用変換効率向上部材を作製した。各層の厚さは、表面からそれぞれ120μm、360μm、120μmであり、最外層(120μm)が無機微粒子を含有する(表4参照)。
また、混合物Dに含まれる無機微粒子の量を0.08質量%とするとともに、無機微粒子を含む層を中間層のみとしたこと以外は実施例15と同様の手順にて、実施例16の太陽電池モジュール用変換効率向上部材を作製した(表4参照)。
さらに、混合物Dの代わりに混合物Cを使用し、3層とも無機微粒子を含まないこと以外は、実施例15と同様の手順にて、比較例13の太陽電池モジュール用変換効率向上部材を作製した(表4参照)。
【0094】
【表4】

【0095】
・実施例17及び18並びに比較例11及び12(オレフィン/EVA複合系)
上記混合物D(EVA系、0.04質量%の無機微粒子含有)をφ150mm押出し機、1000mm幅のTダイスを有するフィルム成形機を用いて、押出し温度150℃、引き取り速度1.45m/minで押出して厚さ120μmのシートEに加工するとともに、上記混合物A(オレフィン系、無機微粒子無し)をφ150mm押出し機、1000mm幅のTダイスを有するフィルム成形機を用いて、押出し温度230℃、引き取り速度1.45m/minで押出して厚さ480μmのシートFに加工した。そして、シートE及びシートFを真空ラミネーターで積層し、実施例17の太陽電池モジュール用変換効率向上部材を作製した(表5)。
同様の手順にて、表5に記載したような層構成となるように上記混合物A又はB、及び上記混合物C又はDを積層させて、実施例18並びに比較例11及び12の太陽電池モジュール用変換効率向上部材を作製した。なお、実施例18の太陽電池モジュール用変換効率向上部材を作製するには上記混合物B及びCを、比較例11及び12の太陽電池モジュール用変換効率向上部材を作製するには上記混合物A及びCをそれぞれ積層させればよい。
【0096】
【表5】

【0097】
<試験例>
[全光線透過率]
太陽電池モジュール用変換効率向上部材を15cm×15cmにカットし、15cm×15cm、厚さ3mmの青板ガラス、充填材、100μm厚のテフロン(登録商標)シートの順で積層し、太陽電池モジュールの製造用の真空ラミネータにて150℃で15分間圧着した後、テフロン(登録商標)シートを剥がしたものについて、ヘイズメーター(村上色彩技術研究所製、HM−150型)を用いてJIS K7361に従って全光線透過率を測定した。全光線透過率の測定結果を表5に示す。
【0098】
[ヘイズ値の測定]
太陽電池モジュール用変換効率向上部材を15cm×15cmにカットし、15cm×15cm、厚さ3mmの青板ガラス、充填材、100μm厚のテフロン(登録商標)シートの順で積層し、太陽電池モジュールの製造用の真空ラミネータにて150℃で15分間圧着した後、テフロン(登録商標)シートを剥がしたものについて、ヘイズメーター(村上色彩技術研究所製、HM−150型)を用いてJIS K7136に従って全光線透過率を測定した。全光線透過率の測定結果を表6に示す。
【0099】
なお、表6の「各層に含まれる微粒子の種類」において、「マイカ」とは酸化チタン被覆マイカ微粒子を意味し、「ATO」とは酸化アンチモンドープの酸化スズ微粒子を意味し、「ガラスフレーク」とは酸化チタン被覆ガラスフレークを意味し、「酸化チタン」とはATO被覆酸化チタンを意味し、「アクリル」とはアクリル微粒子を意味する。また、表6の「層構成」は、各層を構成するメイン樹脂を示し、「O」とはオレフィン系(低密度ポリエチレン、密度0.88g/cm)の樹脂であることを、「O+」とはオレフィン系(低密度ポリエチレン、密度0.90g/cm)の樹脂であることを、「E]とはEVA系の樹脂であることをそれぞれ意味する。例えば、「O」とは、メイン樹脂がオレフィン系の樹脂である層が1層存在することを意味し、「E/O」とは、メイン樹脂がEVA系の樹脂の層と、メイン樹脂がオレフィン系の樹脂の層が1層ずつ存在することを意味する。これらのことは、後に示す表7及び8でも同様である。
【0100】
【表6】

【0101】
各実施例から無機微粒子を除いた態様である比較例1、3、8、11、12及び13は、いずれもヘイズ値が20%以下であり、各実施例の太陽電池モジュール用変換効率向上部材を作製するのに使用したベース樹脂単独の場合のヘイズ値は20%以下であることがわかる。
また、実施例2と実施例3とを比較すると、シランカップリング剤により表面を疎水化処理した無機微粒子を使用することにより、ヘイズ値が小さくなることがわかる。このため、太陽電池モジュールに多くの光を取り込むという観点からは、シランカップリング剤により表面処理された無機微粒子を使用すると好ましいことがわかる。
さらに、実施例4〜6と比較例5及び6とを比較すると、無機微粒子の粒径が10μm以下又は80μm以上の場合は、ヘイズ値が著しく大きくなり、太陽電池モジュールに多くの光を取り込むという観点からは好ましくないことがわかる。
【0102】
[無機微粒子の配向状態の観察]
実施例7の太陽電池モジュール用変換効率向上部材に含まれる無機微粒子(酸化チタン被覆マイカ;鱗片状)の配向状態について、3次元計測X線コンピュータ断層撮影装置(ヤマト科学株式会社製、TDM1000−IW型)を使用して観察した。測定に使用した太陽電池モジュール用変換効率向上部材の大きさは20mm×20mm×600μmであり、切断面を観察対象とした。測定視野は、太陽電池モジュール用変換効率向上部材の押し出し方向が横方向となるようにし、横方向の幅を0.741457mmとした。つまり、太陽電池モジュール用変換効率向上部材の厚さ方向が縦となる。この条件で、視野を移動しながら512枚の画像をスキャンした。その結果、スキャンした512枚の画像中に1000点を超える無機微粒子が観察され、それらのうち、水平方向(シートの平面方向)から30度以上傾いているものは3個のみだった。このことから、実施例7の太陽電池モジュール用変換効率向上部材に含まれる鱗片状の無機微粒子のうち、少なくとも95%以上の無機微粒子がシートの平面方向に略配向していることが理解される。鱗片状の無機微粒子がこのように配向したのは、押出し法でシート状に加工したためと推察される。実施例7の太陽電池モジュール用変換効率向上部材の断面を3次元計測X線コンピュータ断層撮影装置で観察した画像の一例を図2に示す。図2に示すように、鱗片状の無機微粒子は、シートの平面方向(画像の横方向)に略配向していることわかる。
【0103】
[太陽電池モジュールの作製]
実施例1〜18並びに比較例1〜13の太陽電池モジュール用変換効率向上部材を使用したときの太陽電池モジュールの変換効率の測定を行なうために、実施例1〜18並びに比較例1〜13の太陽電池モジュール用変換効率向上部材を使用して、次の方法により太陽電池モジュールを作製した。まず、厚さ3mmのガラス板(透明前面基板)と、実施例1〜18並びに比較例1〜13のいずれかの太陽電池モジュール用変換効率向上部材と、単結晶シリコンからなる太陽電池素子と、背面充填材と、厚さ85μmのアルミ箔及びポリエチレンテレフタレート樹脂系フィルムからなる積層シート(背面保護シート)とをこの順に積層した。その後、太陽電池素子面を上に向けて、太陽電池モジュールの製造用の真空ラミネータにて150℃で15分間圧着して、太陽電池モジュールを作製した。なお、背面充填材としては、無機微粒子の添加されていない比較例1の太陽電池モジュール用変換効率向上部材を使用した。
【0104】
[温度上昇抑制効果の測定]
各実施例及び各比較例の太陽電池モジュール用変換効率向上部材を使用した太陽電池モジュールのそれぞれについて、熱線カットによる温度上昇抑制効果を測定した。
測定は、太陽電池モジュールの作製時にバックシート表面からセルの裏面まで切り込みを入れて、コンパクトサーモロガーAM−8000(安立計器株式会社製)の温度測定用熱伝対をセルの裏面に貼り付けた後に切り込みの上をアルミテープで封止した後、大日本印刷株式会社王子工場の屋上に地面から5cm浮かせて設置し、日の出から日没までのセルの裏面温度を測定した。このとき、セルの裏面温度は最大時で80℃以上程度まで上昇するが、測定条件の変動に伴う誤差を打ち消すために、無機微粒子を含まない太陽電池モジュール用変換効率向上部材を使用した太陽電池モジュールの温度を標準として使用し、標準とした太陽電池モジュールの最大温度と測定対象とした太陽電池モジュールの最大温度との差を求めた。つまり、標準として使用した太陽電池モジュールは、熱線をカットするための無機微粒子を含まないので温度上昇が大きいが、測定対象とした太陽電池モジュールは、熱線をカットするための無機微粒子を含み、熱線カット効果を有するので、標準として使用した太陽電池よりも温度上昇が緩やかとなる。このため、これら両者(標準及び測定対象)の温度差が大きければ大きいほど、測定対象とした太陽電池モジュールの熱線カット効果が大きいことになる。両者の最大温度の差を表7に示す。なお、表7において、標準として使用した太陽電池モジュールには、「(標準)」と付している。また、標準の太陽電池モジュールは、単層(オレフィン系)、単層(EVA系)、三層1:5:1(オレフィン系)、三層1:3:1(オレフィン系)、三層1:3:1(EVA系)、二層(EVA/オレフィン系)及び二層(オレフィン/EVA系)のそれぞれについて用意し、これらは比較例1、10、3、8、13、11及び12にそれぞれ対応する。
【0105】
【表7】

【0106】
[発電効率の測定]
太陽電池セル単独と、各実施例及び各比較例のいずれか1つの太陽電池モジュール用変換効率向上部材を使用して組み立てた太陽電池モジュールと、のそれぞれについて、セルの裏面温度が25℃の時の短絡電流及び変換効率をソーラーシミュレータ(英弘精機株式会社製、EWXS−300S−50型)にて測定した。ここで、使用したセルは性能に多少のバラツキがあるので、各太陽電池セル単独の短絡電流と変換効率を100とした時の、それを用いたモジュールで測定した短絡電流と変換効率を算出し、短絡電流維持率(%)及び変換効率維持率(%)として評価した。つまり、これらの数値が大きいほど、太陽電池セルの表面に太陽電池モジュール用変換効率向上部材を設置した際の発電効率の低下が小さいことになる。各実施例及び各比較例について、算出された短絡電流維持率及び変換効率維持率を表8に示す。なお、表8において、無機微粒子(又はアクリル微粒子)を含まない太陽電池モジュール用変換効率向上部材を使用したモジュールを標準とし、標準としたモジュールと測定対象としたモジュールとの短絡電流維持率又は変換効率維持率の比(%)を括弧付きの数値で表す。この数値が大きいほど、無機微粒子(又はアクリル微粒子)の光散乱に伴う発電効率の低下が小さいことになる。
【0107】
【表8】

【0108】
[低照度下での太陽電池特性評価]
表6に示すように、無機微粒子の添加により若干ではあるがベース樹脂単独に対してヘイズ値の上昇が認められる。太陽電池特性の測定は、通常照度100mW/cm下で行なうが、これは平均的な晴れの日を想定した場合で、ソーラーシミュレーターを用いて擬似的に曇りや雨の日を想定した照度下での短絡電流維持率を測定した。結果を表9に示す。
【0109】
【表9】

【0110】
比較例4で使用したベース樹脂は、比較例2で使用したベース樹脂と同じであるので、ベース樹脂単独のJIS K7136におけるヘイズ値が31.9%である。このようにヘイズ値が20%を超える樹脂をベース樹脂として使用すると、短絡電流維持率及び変換効率維持率が著しく低下することが理解される(表8、実施例4〜6及び比較例4を参照)。これに対して、ベース樹脂単独のヘイズ値が20%以下である各実施例は、95%以上の変換効率維持率を示していることが理解される。
また、表7に示すように、各実施例は、直射日光照射時の温度上昇が、無機微粒子を含まない標準の太陽電池モジュール用変換効率向上部材よりも低くなることが確認される。
さらに、各比較例の太陽電池モジュール用変換効率向上部材では、直射日光照射時の温度上昇が小さいものは短絡電流維持率及び変換効率維持率が低く、短絡電流維持率及び変換効率維持率が高いものは、直射日光照射時の温度上昇が大きいことが理解される。これに対して、各実施例の太陽電池モジュール用変換効率向上部材では、直射日光照射時の温度上昇と、短絡電流維持率及び変換効率維持率とのバランスが良好であり、良好な発電効率を維持したまま直射日光照射時の温度上昇を抑制できることが理解される。
また、表9に示すように、本発明の太陽電池モジュール用変換効率向上部材を使用した太陽電池モジュールは、曇りや雨の日を想定したような低照度下においても、無機微粒子を含まない太陽電池モジュール用変換効率向上部材を使用した標準の太陽電池モジュールと比べて同等の発電効率を示すことが理解される。
【符号の説明】
【0111】
1 太陽電池モジュール
2 透明前面基板
3 太陽電池モジュール用変換効率向上部材
4 太陽電池素子
5 背面充填材層
6 背面保護シート
7 入射光

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂と、無機微粒子とを含む樹脂組成物からなる無機微粒子層を含むシート状の太陽電池モジュール用変換効率向上部材であって、
前記無機微粒子層における前記樹脂単独の場合のJIS K7136におけるヘイズ値が20%以下であり、
前記無機微粒子は、シートの平面方向に沿って略配向する鱗片状フィラーであり、その長径の平均粒子径が10μmを超えて80μm未満であることを特徴とする太陽電池モジュール用変換効率向上部材。
【請求項2】
前記無機微粒子を、0.005質量%から0.5質量%含有する請求項1記載の太陽電池モジュール用変換効率向上部材。
【請求項3】
前記無機微粒子がシランカップリング剤で処理されたものである請求項1又は2記載の太陽電池モジュール用変換効率向上部材。
【請求項4】
請求項1から3いずれか記載の太陽電池モジュール用変換効率向上部材がシート状部材であり、該シート状部材が太陽電池素子の受光面側に配置される太陽電池モジュール。
【請求項5】
前記シート状部材が、太陽電池モジュールにおける太陽電池素子の受光面側に配置される充填材である請求項4記載の太陽電池モジュール。

【図1】
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【図2】
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