説明

太陽電池モジュール用封止材組成物

【課題】絶縁性に優れた太陽電池モジュール用封止材、及びこれを用いた太陽電池モジュールを得る。
【解決手段】この太陽電池モジュール用封止材組成物は、(a1)密度が、0.91−0.93g/cm、(a2)MFRが、0.01−100g/10分、(a3)2000炭素当たりの全二重結合数が0.8個以下、(a4)2000炭素当たりの末端ビニル数が0.3個以下、の(a1)から(a4)の条件を満たす高圧法低密度ポリエチレンを100質量部、有機過酸化物を0.01〜3質量部、シランカップリング剤を0.01〜2質量部、を含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽電池封止材、及びこれを用いた太陽電池モジュールに関し、更に詳しくは、絶縁性に優れた太陽電池モジュール用封止材組成物、太陽電池モジュール用封止材及びこれを用いた太陽電池モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
太陽電池モジュールは平面状の素子に導電性金属で配線を施し、前面透明保護材と背面保護材からなる保護材で挟むように素子を配置し、前面及び/又は背面を太陽電池封止材でラミネートしてパッケージ化したものである。このため太陽電池封止材としては、太陽電池モジュール製造時には、保護材や素子等の各種部材との接着性と、面方向の寸法安定性と、厚み方向の形状追随性が必要とされる。また太陽電池封止材としては、太陽電池モジュール使用時には、太陽光を透過する透明性と、素子を物理的に保護する柔軟性と、各種部材との接着性と、発電時の発熱に耐える耐熱性と、発電時の電圧に耐える絶縁性と、これらの特性の耐久性が必要とされている。この太陽電池封止材のベース樹脂としては、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)や、エチレン−メタクリル酸共重合体(EMAA)もしくはそのアイオノマー、等が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭58−60579号公報
【特許文献2】特開2000−186114号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
太陽電池モジュールの発電効率は年々向上しており、発電出力の向上に伴い、封止材には従来以上の高い絶縁性が求められるようになっている。
【0005】
ここで、特許文献1のEVA封止材においては、EVAに極性基が存在するため絶縁性に劣るという問題と、加水分解により酢酸が発生して素子や電極を腐食させるという問題がある。
【0006】
また、特許文献2のEMAA系封止材においても、やはり酸性の極性基モノマーが含有されるため、親水性が大きく絶縁性に劣るという問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記の課題を解決するために鋭意検討を行い、所定の物性を備える高圧法低密度ポリエチレン(以下、単に高圧法LDPEともいう)をベース樹脂として用いることにより、従来以上の高い絶縁性を備えた太陽電池封止材、及びこれを用いた太陽電池モジュールを提供することが可能となることを見出し、本発明を完成するに至った。具体的には、本発明は以下のものを提供する。
【0008】
(1) 下記(a1)〜(a4)の条件を満たす高圧法低密度ポリエチレンを100質量部、有機過酸化物を0.01〜3質量部、シランカップリング剤を0.01〜2質量部、を含有する太陽電池モジュール用封止材組成物。
(a1)密度が、0.91から0.94g/cm
(a2)190℃におけるMFRが、0.01から100g/10分
(a3)2000炭素当たりの全二重結合数が0.8個以下
(a4)2000炭素当たりの末端ビニル数が0.3個以下
【0009】
(2) 更に、炭素−炭素二重結合及び/又はエポキシ基を有する多官能モノマーを0.01から2質量部含有する、(1)記載の太陽電池モジュール用封止材組成物。
【0010】
(3) 前記有機過酸化物の1分間半減温度が100〜230℃である、(1)又は(2)記載の太陽電池モジュール用封止材組成物。
【0011】
(4) 前記シランカップリング剤の重合性官能基が、ビニル基、スチリル基、(メタ)アクリル基、エポキシ基より選択される1以上である、(1)から(3)のいずれかに記載の太陽電池モジュール用封止材組成物。
【0012】
(5) 前記多官能モノマーがアリレート又は(メタ)アクリレートである、(2)から(4)のいずれかに記載の太陽電池モジュール用封止材組成物。
【0013】
(6) (1)から(5)のいずれかに記載の太陽電池モジュール用封止材組成物を成形してなり、ASTM−D149による絶縁破壊電圧が85kV/mm以上である太陽電池モジュール用封止材。
【0014】
(7) (6)に記載の太陽電池モジュール用封止材を用いた太陽電池モジュール。
【0015】
(8) 下記(a1)〜(a4)の条件を満たす高圧法低密度ポリエチレンを100質量部、第1の有機過酸化物を0.01〜3質量部、シランカップリング剤を0.01〜2質量部、を含有する太陽電池モジュール用封止材組成物を溶融混錬してシラン変性樹脂を得る工程と、
(a1)密度が、0.91から0.94g/cm
(a2)190℃におけるMFRが、0.01から100g/10分
(a3)2000炭素当たりの全二重結合数が0.8個以下
(a4)2000炭素当たりの末端ビニル数が0.3個以下
前記シラン変性樹脂と第2の有機過酸化物とを含む組成物を溶融成形するシート化工程と、
を備える太陽電池モジュール用封止材の製造方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、絶縁性に優れた太陽電池モジュール用封止材、及びこれを用いた太陽電池モジュールを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の太陽電池モジュール用封止材を用いた太陽電池モジュールについて、その層構成の一例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明に係る太陽電池モジュール用封止材組成物(以下、単に封止材組成物ともいう)、太陽電池モジュール用封止材(以下、単に封止材ともいう)及び太陽電池モジュールの順に詳細に説明する。
【0019】
<封止材組成物>
本発明に用いられる封止材組成物は、所定の物性を有する高圧法LDPEと、有機過酸化物と、シランカップリング剤と、を所定の割合で含有する。以下、上記必須成分について説明した後、その他の樹脂、その他の成分について説明する。
【0020】
[高圧法LDPE]
本発明に用いられる高圧法LDPEは、下記(a1)〜(a4)の条件を満たす。
(a1)密度が、0.91から0.94g/cm
(a2)MFRが、0.01から100g/10分
(a3)2000炭素当たりの全二重結合数が0.8個以下
(a4)2000炭素当たりの末端ビニル数が0.3個以下
【0021】
ポリエチレン樹脂には、上記の高圧法LDPEの他、高密度ポリエチレン(HDPE)、直鎖低密度ポリエチレン(LLDPE)、等があるが、本発明においては高圧法LDPEが好ましい。これは、高圧法LDPEが、透明性と柔軟性が良好であるというだけでなく、HDPEやLLDPEと異なり重合用の金属触媒を含有する懸念がないため、高い絶縁性が期待できるからである。
【0022】
(a1):高圧法LDPEの密度は、透明性と柔軟性の点から、0.91から0.94g/cmが好ましく、0.91から0.93g/cmが更に好ましい。0.91未満であると、透明性と柔軟性には優れるが融点が低くなり耐熱性に劣るので好ましくなく、0.94を超えると透明性と柔軟性に劣るので好ましくない。
【0023】
(a2):高圧法LDPEのMFRは、0.01から100g/10分が好ましく、0.03から50g/10分が更に好ましく、0.1から30g/10分が特に好ましい。0.01g/10分未満であるとラミネート加工性が不良となり、100g/10分を超えるとシート成形性が不良となるので好ましくない。なお、MFRの値はJIS K7210:1999の、190℃、荷重2.16kgにおける測定値である。
【0024】
(a3):高圧法LDPEの2000炭素当たりの全二重結合数は0.8個以下である。残存する二重結合が0.8個を越えると、有機過酸化物でシランカップリング剤を高圧法LDPEにグラフトする際に、高圧法LDPE同士の部分架橋が起きてポリエチレンゲルが生成してしまい、これによる不均一性が絶縁性の悪化を招く。従って、上記の高圧法LDPEに残存する全二重結合数は、2000炭素当たり0.8個以下が好ましく、0.6個以下がより好ましく、0.4個以下が更に好ましい。
【0025】
(a4):高圧法LDPEの2000炭素当たりの末端ビニル基は、二重結合の中でも反応性が特に高いので、2000炭素当たり0.3個以下が好ましく、0.2個以下がより好ましく、0.1個以下が更に好ましい。残存する末端ビニル基が0.3個を越えると、有機過酸化物でシランカップリング剤を高圧法LDPEにグラフトする際に、高圧法LDPE同士の部分架橋が起きてポリエチレンゲルが生成してしまい、これによる不均一性が絶縁性の悪化を招く。
【0026】
なお、上記の(a3)及び(a4)は、実施例にその詳細を記載するように、密度d(g/cm)とシート厚み(cm)と赤外吸収スペクトルの吸収バンドの吸光度Aとから求めた値である。
【0027】
[有機過酸化物]
本発明における有機過酸化物は公知のものが使用でき特に限定されず、例えば公知のラジカル重合開始剤を用いることができる。ラジカル重合開始剤としては、例えば、t−アミルパーオキシー2−エチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシー2−エチルヘキサノエート、t−アミルパーオキシノルマルオクトエート、t−ブチルパーオキシー2−エチルヘキシルカーボネート、ジクミルパーオキサイド、2,5―ジメチルー2,5―ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、ジーt−ブチルパーオキサイド、1,1,3,3−テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド、t−アミルハイドロパーオキサイド等が例示できる。
【0028】
有機過酸化物の1分間半減温度は、100から230℃が好ましく、120から210℃がより好ましく、140から190℃が更に好ましい。100℃未満であると、高圧法LDPEが充分溶融する前に分解するので好ましくなく、230℃を超えると分解に時間が掛かりすぎるので好ましくない。この半減期温度は後述の実施例における表3に例示される。
【0029】
有機過酸化物の配合量としては、高圧法LDPEの100質量部に対して0.01から3質量部が好ましく、0.02から2質量部がより好ましく、0.05から1質量部が更に好ましい。0.01質量部未満であるとシランカップリング剤や上記の多官能モノマーのグラフト反応が進まず、3質量部を超えると賦形が完了する前に太陽電池封止材がゲル化するので好ましくない。
【0030】
なお、有機過酸化物は、高圧法LDPEへのシランカップリング剤のグラフト重合のために用いられるだけでなく(後述の実施例1から5参照)、必要に応じて後述の多官能モノマーを併用し、高圧法LDPEの分子量増大(後述の実施例6から9参照)、又は、高圧法LDPEの架橋の目的としても用いられる(後述の実施例10から12参照)。
【0031】
有機過酸化物を高圧法LDPEの分子量増大又は架橋の目的としても用いる場合、有機過酸化物はシランカップリング剤のグラフト重合(シラン変性)の際と、シート化工程の際の2回に分けて使用されることが好ましい。この場合、シラン変性の際には、高圧法LDPEの100質量部に対して、第1の有機過酸化物を0.01から3質量部を用いることが好ましく、0.02から2質量部がより好ましく、0.05から1質量部が更に好ましい。また、シート化工程の際には、高圧法LDPEの100質量部に対して、第2の有機過酸化物を0.005から3質量部の有機過酸化物を用いることが好ましく、0.01から2質量部がより好ましい。この場合、第1の有機過酸化物と第2の有機過酸化物とは同一でもよく異なっていてもよい。
【0032】
[シランカップリング剤]
シランカップリング剤としては、後述の実施例における表4に例示され、具体的には複数のアルコキシル基と少なくとも1個以上の重合性官能基を有する化合物であり、例えば、ビニル系では、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリプロポキシシラン、ビニルトリイソプロポキシシラン、ビニルトリブトキシシラン、ビニルトリペンチロキシシラン、ビニルトリフェノキシシラン、ビニルトリベンジルオキシシラン、ビニルトリメチレンジオキシシラン、ビニルトリエチレンジオキシシラン、ビニルプロピオニルオキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、ビニルトリカルボキシシランより選択される1種又は2種以上を使用することができる。
【0033】
スチリル系ではp−スチリルトリメトキシシラン等が例示でき、(メタ)アクリル系では、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシランや3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランが例示でき、エポキシ系としては、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランが例示できる。
【0034】
上記のうち、高圧法LDPEへのグラフト性があるという点で、ビニル系、スチリル系、(メタ)アクリル系シランカップリング剤が好ましい。また、加水分解性がないという点で、ビニル系、スチリル系シランカップリング剤がより好ましい。なお、他の官能基を有するシランカップリング剤を必要に応じて併用することを妨げるものではない。
【0035】
配合量としては、高圧法LDPEの100質量部に対して0.01から2質量部が好ましく、0.03から1.5質量部がより好ましく、0.05から1質量部が更に好ましい。0.01質量部未満であると接着性向上効果が小さいので好ましくなく、2質量部を超えると未反応成分が残存するので好ましくない。
【0036】
[多官能モノマー]
本発明においては、必要に応じて炭素−炭素二重結合及び/又はエポキシ基を有する多官能モノマーが用いられる。又、より好ましくは、多官能モノマーの官能基がアリル基、(メタ)アクリレート基、であるものが用いられる。
【0037】
具体的には、後述の実施例における表5に例示されるような、トリアリルイソシアヌレート(TAIC)、トリアリルシアヌレート、ジアリルフタレート、ジアリルフマレート、ジアリルマレエート等のポリアリル化合物、トリメチロールプロパントリメタクリレート(TMPT)、トリメチロールプロパントリアクリレート(TMPTA)、エチレングリコールジアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、1,4−ブタンジオールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、1,9−ノナンジオールジアクリレート等のポリ(メタ)アクリロキシ化合物、二重結合とエポキシ基を含むグリシジルメタクリレート、4−ヒドロキシブチルアクリレートグリシジルエーテル及びエポキシ基を2つ以上含有する1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテル、シクロヘキサンジメタノールジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル等のエポキシ系化合物を挙げることができる。これらは単独でもよく、2種以上を組み合わせてもよい。
【0038】
上記のなかでも、耐加水分解性に優れる点で、多官能モノマーの官能基がアリル基であるアリレート系が好ましい。
【0039】
多官能モノマーの含有量としては、高圧法LDPEの100質量部に対して0.005から2.00質量部が好ましく、0.02から1.00質量部がより好ましい。0.005質量部未満であると耐熱性が向上しないので好ましくなく、2.00質量部を超えると未反応成分が残存するので好ましくない。
【0040】
[ラジカル吸収剤]
本発明においては、樹脂の劣化を抑制するために必要に応じてラジカル吸収剤を併用する。ラジカル吸収剤としては、ヒンダードフェノール系等の酸化防止剤や、ヒンダードアミン系の耐候安定化等が例示できる。架橋温度付近でのラジカル吸収能力が高い、ヒンダードフェノール系のラジカル吸収剤が好ましい。ラジカル吸収剤の使用量は、組成物中に0.01質量%〜3質量%含まれることが好ましく、より好ましくは0.03質量部〜2.0質量部の範囲である。
【0041】
[その他の成分]
封止材組成物には、例えば、添加剤として、更にその他の成分を含有させることができる。例えば、本発明の封止材組成物から作製された封止材に耐候性を付与するための耐候剤、各種フィラー、光安定化剤、紫外線吸収剤、熱安定剤等の成分が例示される。これらの含有量は、その粒子形状、密度等により異なるものではあるが、それぞれ封止材組成物中に0.001〜5質量%の範囲内であることが好ましい。これらの添加剤を含むことにより、封止材組成物に対して、長期に亘って安定した機械強度や、黄変やひび割れ等の防止効果等を付与することができる。
【0042】
上記の光安定化剤、紫外線吸収剤、熱安定剤及び上記の酸化防止剤等は、ポリエチレン等の樹脂に分散させて耐候性マスターバッチとしてもよい。これを封止材組成物に添加することにより、封止材に良好な耐候性を付与することができる。耐候性マスターバッチは、適宜作製して使用してもよいし、市販品を使用してもよい。耐候性マスターバッチに使用される樹脂としては、本発明に用いるポリエチレンでもよく、上記のその他の樹脂であってもよい。なお、これらの光安定化剤、紫外線吸収剤、熱安定剤及び酸化防止剤は、それぞれ1種単独でも2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0043】
更に、本発明の封止材組成物に用いられる他の成分としては上記以外に、核剤、分散剤、レベリング剤、可塑剤、消泡剤、難燃剤等を挙げることができる。
【0044】
<封止材>
本発明の封止材は、上記の封止材組成物を、その融点を超える温度で溶融成形するシート化工程によって未架橋封止材を得て、その後、架橋処理工程を経て、シート状又はフィルム状の本発明の太陽電池モジュール用の封止材となる。なお、本発明におけるシート状とはフィルム状も含む意味であり両者に差はない。
【0045】
[シート化工程]
上記封止材組成物の溶融成形は、通常の熱可塑性樹脂において通常用いられる成形法、即ち、射出成形、押出成形、中空成形、圧縮成形、回転成形等の各種成形法により行われる。その際、成形温度の下限は封止材組成物の融点を超える温度であればよく、具体的に好ましい成形温度を挙げれば100℃から250℃である。
【0046】
なお、本発明においては、上記の太陽電池モジュール用封止材組成物を直接溶融成形してシート化してもよく、あらかじめ所定のマスターバッチを形成してその後にマスターバッチを溶融成形してシート化してもよい。後者の場合、上記のように第1の有機過酸化物を含む上記封止材組成物からシラン変性樹脂を得た後に、このシラン変性樹脂と第2の有機過酸化物とを含む組成物を溶融成形してシート工程でシート化してもよい。このシート化工程において、第2の有機過酸化物と、必要に応じて多官能モノマーを適量加えることにより、高圧法LDPEの分子量を増加させたり、架橋によるゲル分率の増加を図ることができ、ラミネート後の耐熱性を実用上問題ないレベルや良好なレベルにすることができる。
【0047】
[絶縁破壊電圧]
このようにして得られた本発明の封止材は、ASTM−D149による絶縁破壊電圧が85kV/mm以上であり絶縁性が高いものとなる。これは、高圧法LDPEが、LLDPEのように重合用の金属触媒成分を含まず、また、高圧法LDPEがイオン性の金属成分、有機酸成分、加水分解性のエステル成分を含まず、更に、高圧法LDPEの残存二重結合及び末端ビニル基数を少なくしたことによって生じる効果である。この点については後述する実施例において詳細に検討する。
【0048】
<太陽電池モジュール>
図1は、本発明の封止材を用いた太陽電池モジュールについて、その層構成の一例を示す断面図である。本発明の太陽電池モジュール1は、入射光の受光面側から、透明前面基板2、前面封止材層3、太陽電池素子4、背面封止材層5、及び裏面保護シート6が順に積層されている。本発明の太陽電池モジュール1は、前面封止材層3及び背面封止材層5の少なくとも一方に上記の封止材を使用する。
【0049】
[太陽電池モジュールの製造方法]
太陽電池モジュール1は、例えば、上記の透明前面基板2、前面封止材層3、太陽電池素子4、背面封止材層5、及び裏面保護シート6からなる部材を順次積層してから真空吸引等により一体化し、その後、ラミネーション法等の成形法により、上記の部材を一体成形体として加熱圧着成形して製造することができる。
【0050】
なお、本発明の太陽電池モジュール1において、前面封止材層3及び背面封止材層5以外の部材である透明前面基板2、太陽電池素子4及び裏面保護シート6は、従来公知の材料を特に制限なく使用することができる。また、本発明の太陽電池モジュール1は、上記部材以外の部材を含んでもよい。なお、本発明の封止材は単結晶型に限らず、薄膜型その他の全ての太陽電池モジュールに適用できる。
【実施例】
【0051】
以下、実施例及び比較例により、本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。使用する樹脂、有機過酸化物、シランカップリング剤、多官能モノマーを、表1に示す。実施例及び比較例ではこの表の略号を用いる。なお、配合比率は、溶媒を除いた固形分換算の質量部である。
【0052】
高圧法LDPEは、表1に示すものを用いた。密度はJIS―K6760に従って測定し、MFRはJIS―K7210に従って190℃、2.16kgfで測定し、2000炭素当たりの全二重結合数は、密度d(g/cm)とシート厚み(cm)と赤外吸収スペクトルの吸収バンドの吸光度Aとから求めた。
末端ビニル基数=0.231/(d×t)×A(910cm−1)
ビニリデン基数=0.271/(d×t)×A(888cm−1)
トランスビニレン基数=0.328/(d×t)×A(965cm−1)
全二重結合数=末端ビニル基数+ビニリデン基数+トランスビニレン基数
【0053】
【表1】

【0054】
LLDPEは、表2に示すエチレン−ヘキセン共重合体を用いた。融点は昇温速度10℃/分のDSCデータから求め、分子量分布はGPCを用いて測定したMwとMnの比を使用した。EVAは、酢酸ビニルが33重量%、密度が0.96g/cm3、MFRが30g/10分、融点が61℃のものを用いた。
【0055】
【表2】

【0056】
有機過酸化物は表3に示すものを用いた。
【0057】
【表3】

【0058】
シランカップリング剤は表4に示すものを用いた。また、多官能モノマーとしては、表5に示すものを用いた。
【0059】
【表4】

【0060】
【表5】

【0061】
<実施例1>
表6に示すように100質量部のLD−1に、0.1質量部のPO−09と、0.5質量部のSC−1を配合し、微量の酸化防止剤を添加した後、ペレタイズしてシラン変性樹脂を得た。次に、得られたシラン変性樹脂を、短軸押出機(ダイス180℃設定)で、0.5mm厚のシートを押し出した。
【0062】
0.5mm以上のブツは、目視で確認されるブツの中から、0.5mm以上のものをカウントした。0.3mm以上のブツは、シートを偏光板に挟み、輝点として確認されるブツの中から、0.3mm以上のものをカウントした。
【0063】
絶縁破壊電圧はASTM−D149に基づいて測定し、体積固有抵抗はJIS−K6911に基づいて測定した。
【0064】
<実施例2〜5、比較例1〜4>
配合を表6(実施例2〜5)、表7(比較例1〜4)に変更した以外は実施例1と同様に行い、実施例1と同様に評価を行った結果を表6と表7に示した。
【0065】
<実施例1〜5、比較例1〜4の評価結果>
実施例1〜5の場合は、0.5mm以上のブツがなく、0.3mm以上のブツが10個以下と少なく、絶縁破壊電圧が90kV/mm以上と高い。比較例1と2の場合は、0.5mm以上のブツがあり、0.3mm以上のブツが10個以上と多く、絶縁破壊電圧が90kV/mm未満と低い。比較例3と4の場合は、0.5mm以上のブツがなく、0.3mm以上のブツが10個未満と少ないが、絶縁破壊電圧が90kV/mm未満と低い。
【0066】
【表6】

【0067】
【表7】

【0068】
<実施例6>
表8に示すように、90質量部のLD−1に、0.1質量部のPO−08、0.5質量部のSC−1を配合し、微量の酸化防止剤を添加した後、ペレタイズしてシラン変性樹脂を得た。
【0069】
10質量部のLD−1に、0.04質量部のM−4を加え、UV吸収剤0.25質量部(ケミプロ化成株式会社製、商品名KEMISORB12)、耐候安定剤(HALS)0.2質量部(チバ・ジャパン株式会社製、商品名Tinuvin770)、酸化防止剤0.05質量部(チバ・ジャパン株式会社製、商品名Irganox1076)、とからなる安定剤を添加した後、ペレタイズして添加剤マスターバッチ(以下MBと略記する)を得た。
【0070】
90質量部のシラン変性樹脂と、10質量部の添加剤MBを混合したものに、0.04質量部のPO−08を加え、短軸押出機(ダイス180℃設定)で、0.5mm厚のシートを押し出し、アニールし、エンボス加工を施し、シート状の太陽電池封止材を得た。
得られた太陽電池封止材を、白板ガラスに挟み、160℃に設定した真空ラミネーターにセットし、真空引きを5分、加圧を20分行い、透明性評価用の積層体と耐熱性評価用の積層体を得た。得られた太陽電池封止材を、ETFEフィルムと重ね、白板ガラスに挟み、160℃に設定した真空ラミネーターにセットし、真空引きを5分、加圧を20分行い、ETFE側の白板ガラスとETFEを除去し、太陽電池封止材の一部を白板ガラスから剥離し、接着性評価用の積層体を得た。得られた太陽電池封止材を、ETFEフィルムに挟み、更に白板ガラスに挟み、160℃に設定した真空ラミネーターにセットし、真空引きを5分、加圧を20分行い、白板ガラスとETFEフィルムを太陽電池封止材から剥がし、絶縁性評価用のシートを得た。
【0071】
透明性の評価は、スガ試験機製ヘーズメーターに、透明性評価用の積層体をセットし、JIS−K7105に従い、全光線透過率とヘイズを測定した。耐熱性の評価は、耐熱性評価用の積層体を、90度に傾け、130℃で12時間放置した後、上下のガラス板のズレを測定した。接着性の評価は、テンシロン型引張試験機に、接着性評価用の積層体をセットし、室温、50mm/分のクロスヘッド速度で、180度剥離の剥離強度を測定した。絶縁性の評価は、実施例1と同様に行った。
【0072】
<実施例7〜9、比較例5〜6>
配合を表8に変更した以外は実施例1と同様に行い、実施例6と同様に評価を行った結果を表8に示した。
【0073】
【表8】

【0074】
<実施例6〜9、比較例5〜6の評価結果>
実施例6〜9の場合、透明性、耐熱性は実用レベルであり、接着性と電気特性は良好であった。比較例5〜6の場合、透明性、耐熱性は実用レベルで、接着性は良好だが、絶縁性は絶縁破壊電圧が85kV/mm未満と低かった。
【0075】
<実施例10>
表9に示すように、90質量部のLD−1に、0.1質量部のPO−09、0.5質量部のSC−1を配合し、微量の酸化防止剤を添加した後、ペレタイズしてシラン変性樹脂を得た。10質量部のLD−1に、上記実施例6から9と同様にUV吸収剤、HALS、酸化防止剤とからなる安定剤を添加した後、ペレタイズして安定剤MBを得た。
【0076】
90質量部のシラン変性樹脂と、10質量部の安定剤MBを混合したものに、0.5質量部の多官能モノマーを加え、短軸押出機(ダイス180℃設定)で、0.5mm厚のシートを押し出し、アニールし、0.75質量部のPO−06を含浸し、エンボス加工を施し、シート状の太陽電池封止材を得た。評価は実施例6と同様にして行った。
【0077】
<実施例11〜12、比較例7〜8>
配合を表9に変更した以外は実施例10と同様に行い、実施例10と同様に評価を行った結果を表9に示した。
【0078】
【表9】

【0079】
<実施例10〜12、比較例7〜8の評価結果>
実施例10〜12の場合、透明性、耐熱性、接着性、絶縁性は良好であった。比較例7〜8の場合、透明性、耐熱性、接着性は良好だが、絶縁性は絶縁破壊電圧が85kV/mm未満と低かった。
【0080】
<比較例9>
EVA100質量部に、1.0質量部のPO−06、0.5質量部のSC−1、0.75質量部のM−6を加え、上記実施例6から9と同様にUV吸収剤と、HALSと、酸化防止剤とからなる安定剤を添加した後、短軸押出機(ダイス110℃設定)で、0.5mm厚のシートを押出し、アニールし、エンボス加工を施し、シート状の太陽電池封止材を得た。真空ラミネーターの設定温度を140℃とした以外は、実施例6と同様にして評価した。
【0081】
<比較例9の評価結果>
全光線透過率は93%、ヘイズは1.2%、耐熱性は0.0mm、接着性は34N/10mm、絶縁破壊電圧は65kV/mm、log{体積固有抵抗(Ω・cm)}は14.8であった。透明性と耐熱性と接着性は良好だが、絶縁性は不良であった。
【符号の説明】
【0082】
1 太陽電池モジュール
2 透明前面基板
3 前面封止材層
4 太陽電池素子
5 背面封止材層
6 裏面保護シート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(a1)〜(a4)の条件を満たす高圧法低密度ポリエチレンを100質量部、有機過酸化物を0.01〜3質量部、シランカップリング剤を0.01〜2質量部、を含有する太陽電池モジュール用封止材組成物。
(a1)密度が、0.91から0.94g/cm
(a2)190℃におけるMFRが、0.01から100g/10分
(a3)2000炭素当たりの全二重結合数が0.8個以下
(a4)2000炭素当たりの末端ビニル数が0.3個以下
【請求項2】
更に、炭素−炭素二重結合及び/又はエポキシ基を有する多官能モノマーを0.01から2質量部含有する、請求項1記載の太陽電池モジュール用封止材組成物。
【請求項3】
前記有機過酸化物の1分間半減温度が100〜230℃である、請求項1又は2記載の太陽電池モジュール用封止材組成物。
【請求項4】
前記シランカップリング剤の重合性官能基が、ビニル基、スチリル基、(メタ)アクリル基、エポキシ基より選択される1以上である、請求項1から3のいずれかに記載の太陽電池モジュール用封止材組成物。
【請求項5】
前記多官能モノマーがアリレート又は(メタ)アクリレートである、請求項2から4のいずれかに記載の太陽電池モジュール用封止材組成物。
【請求項6】
請求項1から5のいずれかに記載の太陽電池モジュール用封止材組成物を成形してなり、ASTM−D149による絶縁破壊電圧が85kV/mm以上である太陽電池モジュール用封止材。
【請求項7】
請求項6に記載の太陽電池モジュール用封止材シートを用いた太陽電池モジュール。
【請求項8】
下記(a1)〜(a4)の条件を満たす高圧法低密度ポリエチレンを100質量部、第1の有機過酸化物を0.01〜3質量部、シランカップリング剤を0.01〜2質量部、を含有する太陽電池モジュール用封止材組成物を溶融混錬してシラン変性樹脂を得る工程と、
(a1)密度が、0.91から0.94g/cm
(a2)190℃におけるMFRが、0.01から100g/10分
(a3)2000炭素当たりの全二重結合数が0.8個以下
(a4)2000炭素当たりの末端ビニル数が0.3個以下
前記シラン変性樹脂と第2の有機過酸化物とを含む組成物を溶融成形するシート化工程と、
を備える太陽電池モジュール用封止材の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2013−4646(P2013−4646A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−132908(P2011−132908)
【出願日】平成23年6月15日(2011.6.15)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】