説明

太陽電池用封止材、太陽電池保護シート及び太陽電池モジュールの製造方法

【課題】 本発明は、太陽電池モジュールの製造にあたって架橋工程を必要とすることなく太陽電池素子を連続的に封止して太陽電池モジュールを効率良く製造することができる太陽電池用封止材を提供する。
【解決手段】 本発明の太陽電池用封止材は、所定のエチレン−グリシジルメタクリレート共重合体及びエチレン−エチルアクリレート−無水マレイン酸共重合体からなる群から選ばれた少なくとも一種の共重合体100重量部と、R1Si(OR23で示されるシラン化合物0.1〜15重量部とを含有していることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽電池用封止材、太陽電池保護シート及び太陽電池モジュールの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコンやセレンの半導体ウエハからなる太陽電池モジュールは、光が照射されると電流を生じる機能を有するシリコン半導体素子やセレン半導体素子のウエハをインターコネクターを用いて直接又は並列に接続してなる太陽電池素子の上下面に太陽電池用封止材を積層し、この太陽電池用封止材の上面に透明保護材を、下面に裏面保護材を重ね合わせて得られた積層体を減圧下で脱気しながら加熱し、太陽電池素子の上下面に保護材を太陽電池用封止材を介して積層一体化させることによって製造されている。又、シリコンや化合物半導体などからなる太陽電池素子を薄膜状に基板上に積層させてなる構造を含む太陽電池においても、太陽電池素子を封止するために同様の太陽電池用封止材が用いられている。
【0003】
このような太陽電池モジュールに用いられる太陽電池用封止材としては、例えば、特許文献1に、有機過酸化物を含有するエチレン共重合体からなる太陽電池モジュール用保護シートにおいて、有機過酸化物として、ジアルキルパーオキサイド(A)と、アルキルパーオキシエステル及びパーオキシケタールからなる群より選ばれる少なくとも一種の過酸化物(B)を、(A)/(B)の重量比が10/90〜90/10の割合で配合したものを用いることを特徴とする太陽電池モジュール用保護シートが提案されている。
【0004】
上記太陽電池モジュール用保護シートは、エチレン共重合体から形成され、耐熱性を付与するために有機過酸化物を含有しており、太陽電池素子上に太陽電池モジュール用保護シートを重ね合わせて積層シートを形成した後、この積層シートを真空ラミネートすることによって厚み方向に押圧しながら加熱することにより、太陽電池モジュール用保護シート中の有機過酸化物を分解してエチレン共重合体を架橋させて耐熱性を付与すると共に、太陽電池素子と太陽電池モジュール用保護シートとを一体化して太陽電池モジュールを製造している。
【0005】
従って、太陽電池モジュール用保護シートの架橋が不均一に行われると、太陽電池モジュール用保護シートの耐熱性が部分的に不充分となり、得られる太陽電池モジュールの耐久性が低下するという問題を生じる。
【0006】
このような問題が生じるのを防止するため、太陽電池素子上に太陽電池モジュール用保護シートを重ね合わせた状態の積層シートを搬送状態において加熱するのではなく、積層シートを予め所望形状に切断した上で、積層シートを静止状態にて真空ラミネートによって厚み方向に圧力を加えて数分から十数分かけて仮接着した後、有機過酸化物が分解する温度まで加熱して数十分〜1時間かけて本接着しており、太陽電池モジュールの製造効率が低いという問題点を生じている。
【0007】
又、上記太陽電池モジュール用保護シートは、耐熱性を付与するために有機過酸化物によって架橋しているが、太陽電池モジュール用保護シートの製造時に有機過酸化物が分解して太陽電池モジュール用保護シートの製膜ができなくなり或いは太陽電池モジュール用保護シートの接着性が低下するという問題点や、有機過酸化物に起因した分解生成物が接着界面に生じて太陽電池モジュール用保護シートの接着性が低下するという問題点を生じている。
【0008】
つまり、太陽電池素子は精密部品であるため、太陽電池モジュールの製造時や使用時において、太陽電池モジュール用保護シートからガスが発生し、太陽電池の電池性能が低下するといった問題を生じる虞れがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平11−26791号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、太陽電池モジュールの製造にあたって架橋工程を必要とすることなく太陽電池素子を連続的に封止して太陽電池モジュールを効率良く製造することができる太陽電池用封止材及びこれを用いた太陽電池保護シート、並びに、太陽電池モジュールの製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の太陽電池用封止材は、グリシジルメタクリレート成分の含有量が5〜10重量%であるエチレン−グリシジルメタクリレート共重合体及びエチルアクリレート成分の含有量が2〜20重量%で且つ無水マレイン酸成分の含有量が0.5〜10重量%であるエチレン−エチルアクリレート−無水マレイン酸共重合体からなる群から選ばれる少なくとも一種の共重合体100重量部と、R1Si(OR23で示されるシラン化合物0.1〜15重量部とを含有していることを特徴とする。但し、R1は、3−グリシドキシプロピル基〔3−(グリシジルオキシ)プロピル基〕又は2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチル基〔2−(3,4−エポキシシクロヘキサン−1−イル)エチル基〕を示し、R2は、炭素数が1〜3であるアルキル基を示す。
【0012】
本発明の太陽電池用封止材を構成しているエチレン−グリシジルメタクリレート共重合体におけるグリシジルメタクリレート成分の含有量は、少ないと、太陽電池の太陽電池素子を太陽電池用封止材によって封止して太陽電池モジュールを製造する際に、太陽電池用封止材の接着性が低下して太陽電池素子の封止が不充分となり、多いと、太陽電池用封止材の製造時にゲル化を生じ、その結果、押出機に高負荷が加わり、太陽電池用封止材を継続的に押出すことができなかったり、或いは、太陽電池用封止材の表面にブツが発生する虞れがあるので、5〜10重量%に限定され、7〜9重量%が好ましい。又、エチレン−グリシジルメタクリレート共重合体におけるエチレン成分の含有量は、上記と同様の理由で、90〜95重量%に限定され、91〜93重量%が好ましい。なお、上記エチレン−グリシジルメタクリレート共重合体は、従来から公知の重合法を用いて製造することができる。
【0013】
又、本発明の太陽電池用封止材では、上記エチレン−グリシジルメタクリレート共重合体の代わりに、所定のエチルアクリレート成分量及び無水マレイン酸成分量を有するエチレン−エチルアクリレート−無水マレイン酸共重合体を用いてもよく、上記エチレン−グリシジルメタクリレート共重合体とエチレン−エチルアクリレート−無水マレイン酸共重合体とを併用してもよい。
【0014】
エチレン−エチルアクリレート−無水マレイン酸共重合体中におけるエチルアクリレート成分の含有量は、少ないと、太陽電池用封止材の柔軟性が低下し、太陽電池用封止材を用いた太陽電池素子の封止に高温加熱が必要となり、多いと、太陽電池用封止材の柔軟性が過度となり、室温においても粘着性が発現することによって太陽電池用封止材の取扱性が低下するので、2〜20重量%に限定され、3〜20重量%が好ましく、6〜20重量%がより好ましい。
【0015】
又、エチレン−エチルアクリレート−無水マレイン酸共重合体中における無水マレイン酸の含有量は、少ないと、エチレン−エチルアクリレート−無水マレイン酸共重合体の極性が低下して、太陽電池用封止材の接着性が低下する一方、多いと、太陽電池用封止材の柔軟性が低下し、又は、エチレン−エチルアクリレート−無水マレイン酸共重合体の流動性が低下して太陽電池用封止材の接着性が低下するので、0.5〜10重量%に限定され、1〜6重量%が好ましく、2〜5重量%がより好ましい。
【0016】
更に、エチレン−エチルアクリレート−無水マレイン酸共重合体中におけるエチレンの含有量は、少ないと、太陽電池用封止材の押出成形性又は熱融着工程での弾性率変化が明確に現れず、加熱温度条件を決定し難くなるなどの生産工程上、扱い難いものになることがある一方、多いと、太陽電池用封止材の接着性が低下することがあるので、70〜97.5重量%、74〜96重量%が好ましく、75〜92重量%がより好ましい。
【0017】
上記エチレン−エチルアクリレート−無水マレイン酸共重合体は、例えば、高圧ラジカル重合法、溶液重合法、乳化重合法などの汎用の重合方法を用いて製造することができ、反応速度や分離精製の容易さから高圧ラジカル重合法を用いて製造することが好ましい。
【0018】
具体的には、例えば、フランス特許第1323379号公報には、エチレン、エチルアクリレート及び無水マレイン酸を所定重量割合で含有するモノマー混合物をラジカル重合開始剤の存在下で1000〜3000バール(1.0×108〜3.0×108Pa)の圧力及び170〜280℃の温度下にて重合させてエチレン−エチルアクリレート−無水マレイン酸共重合体を製造できることが記載されている。
【0019】
そして、エチレン−グリシジルメタクリレート共重合体における示差走査熱量分析により測定した吸熱曲線の最大ピーク温度(Tm)は、低いと、太陽電池用封止材の耐熱性が低下し、高いと、太陽電池の太陽電池素子を太陽電池用封止材によって封止して太陽電池モジュールを製造する際に太陽電池用封止材の加熱時間が長くなって、太陽電池モジュールの生産性が低下し又は太陽電池用封止材の加熱不足によって太陽電池素子の封止が不充分となるので、75〜125℃が好ましく、80〜110℃がより好ましい。本発明において、合成樹脂における示差走査熱量分析による吸熱曲線は、JIS K7121に規定されている測定方法に準拠して測定される。
【0020】
又、エチレン−エチルアクリレート−無水マレイン酸共重合体における示差走査熱量分析により測定した吸熱曲線の最大ピーク温度(Tm)は、低いと、太陽電池用封止材の耐熱性が低下し、高いと、太陽電池の太陽電池素子を太陽電池用封止材によって封止して太陽電池モジュールを製造する際に太陽電池用封止材の加熱時間が長くなって、太陽電池モジュールの生産性が低下し又は太陽電池用封止材の加熱不足によって太陽電池素子の封止が不充分となるので、75〜125℃が好ましく、80〜110℃がより好ましい。
【0021】
そして、エチレン−グリシジルメタクリレート共重合体のメルトフローレイトは、低いと、太陽電池用封止材の押出成形性が低下することがあり、高いと、太陽電池用封止材の押出成形性が低下して太陽電池用封止材の厚み精度が低下することがあるので、1〜50g/10分が好ましく、2〜10g/10分がより好ましい。なお、エチレン−グリシジルメタクリレート共重合体のメルトフローレイトは、ASTM D1238に準拠して荷重2.16kgにて測定された値をいう。
【0022】
又、エチレン−エチルアクリレート−無水マレイン酸共重合体のメルトフローレイトは、低いと、太陽電池用封止材の押出成形性が低下することがあり、高いと、太陽電池用封止材の押出成形性が低下して太陽電池用封止材の厚み精度が低下するので、1〜50g/10分が好ましく、2〜10g/10分がより好ましい。なお、エチレン−エチルアクリレート−無水マレイン酸共重合体のメルトフローレイトは、ASTM D1238に準拠して荷重2.16kgにて測定された値をいう。
【0023】
エチレン−グリシジルメタクリレート共重合体における30℃での粘弾性貯蔵弾性率は、高いと、太陽電池用封止材の柔軟性が低下して取扱性が低下し、又は、太陽電池の太陽電池素子を太陽電池用封止材によって封止して太陽電池モジュールを製造する際に太陽電池用封止材を急激に加熱する必要が生じることがあるので、2×108Pa以下が好ましく、低過ぎると、太陽電池用封止材が室温にて粘着性を発現して太陽電池用封止材の取扱性が低下することがあるので、1×107〜1.5×108Paがより好ましい。
【0024】
更に、エチレン−グリシジルメタクリレート共重合体における100℃での粘弾性貯蔵弾性率は、高いと、太陽電池用封止材の接着性が低下することがあるので、5×106Pa以下が好ましく、低過ぎると、太陽電池の太陽電池素子を太陽電池用封止材によって封止して太陽電池モジュールを製造する際に太陽電池用封止材が押圧力によって大きく流動して太陽電池用封止材の厚みの不均一化が大きくなることがあるので、4×104〜4×106Paがより好ましい。
【0025】
又、エチレン−エチルアクリレート−無水マレイン酸共重合体における30℃での粘弾性貯蔵弾性率は、高いと、太陽電池用封止材の柔軟性が低下して取扱性が低下し、又は、太陽電池の太陽電池素子を太陽電池用封止材によって封止して太陽電池モジュールを製造する際に太陽電池用封止材を急激に加熱する必要が生じることがあるので、2×108Pa以下が好ましく、低過ぎると、太陽電池用封止材が室温にて粘着性を発現して太陽電池用封止材の取扱性が低下することがあるので、1×107〜1.5×108Paがより好ましい。
【0026】
更に、エチレン−エチルアクリレート−無水マレイン酸共重合体における100℃での粘弾性貯蔵弾性率は、高いと、太陽電池用封止材が接着性を発現し難くなることがあるので、5×106Pa以下が好ましく、低過ぎると、太陽電池の太陽電池素子を太陽電池用封止材によって封止して太陽電池モジュールを製造する際に太陽電池用封止材が押圧力によって大きく流動して太陽電池用封止材の厚みの不均一化が大きくなるとなることがあるので、1×104〜4×106Paがより好ましい。
【0027】
なお、本発明において、合成樹脂の粘弾性貯蔵弾性率は、JIS K6394に準拠した動的性質試験方法によって測定された値をいう。
【0028】
そして、太陽電池用封止材には、R1Si(OR23で示されるシラン化合物が含有されている。シラン化合物中におけるR1は、下記化学式(1)で示される3−グリシドキシプロピル基又は下記化学式(2)で示される2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチル基を示し、R2は、炭素数が1〜3であるアルキル基を示している。
【0029】
【化1】

【0030】
【化2】

【0031】
上記R2としては、炭素数が1〜3であるアルキル基であれば、特に限定されず、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基が挙げられ、メチル基が好ましい。
【0032】
1Si(OR23で示されるシラン化合物としては、例えば、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリプロポキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリプロポキシシランなどが挙げられ、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシランが好ましい。
【0033】
太陽電池用封止材中におけるR1Si(OR23で示されるシラン化合物の含有量は、少ないと、太陽電池用封止材の接着性が低下し、多いと、太陽電池用封止材の接着性がかえって低下するので、共重合体100重量部に対して0.1〜15重量部に限定され、0.4〜1.5重量部が好ましい。
【0034】
なお、太陽電池用封止材には、その物性を損なわない範囲内において、光安定剤、紫外線吸収剤、熱安定剤などの添加剤が含有されていてもよい。
【0035】
そして、太陽電池用封止材の一面にフッ素樹脂シートを積層一体化して太陽電池保護シートとして用いられてもよい。このようなフッ素樹脂シートを構成するフッ素樹脂としては、ポリテトラフルオロエチレン、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニル、ペルフルオロアルコキシフッ素樹脂、四フッ化エチレン−六フッ化プロピレン共重合体、エチレン−四フッ化エチレン共重合体、エチレン−クロロトリフルオロエチレン共重合体などが挙げられ、ポリフッ化ビニリデンが好ましい。
【0036】
次に、上記太陽電池用封止材の製造方法について説明する。太陽電池用封止材の製造方法は、特に限定されず、例えば、エチレン−グリシジルメタクリレート共重合体又はエチレン−エチルアクリレート−無水マレイン酸共重合体の何れか一方或いは双方と、R1Si(OR23で示されるシラン化合物と、必要に応じて添加される添加剤とを所定の重量割合にて押出機に供給して溶融、混練し、押出機からシート状に押出して太陽電池用封止材を製造する方法が挙げられる。
【0037】
そして、太陽電池用封止材の一面にフッ素樹脂シートを積層一体化させる方法としては、特に限定されず、例えば、太陽電池用封止材の一面にフッ素樹脂シートを押出ラミネートする方法、太陽電池用封止材とフッ素樹脂シートとを共押出する方法などが挙げられる。
【0038】
続いて、上記太陽電池用封止材を用いて太陽電池モジュールを製造する要領を説明する。本発明の太陽電池用封止材は、従来の太陽電池用封止材と異なり、架橋工程を必要とすることなく、太陽電池素子を封止することができる。
【0039】
特に、可撓性を有する長尺状の基板上に、シリコンや化合物半導体などからなる薄膜状の太陽電池素子が形成されてなる太陽電池の太陽電池素子の封止をロールツーロール(roll-to-roll)にて行うことができ、太陽電池モジュールの製造効率を向上させることができる。
【0040】
具体的には、図1に示したように、可撓性を有する長尺状の基板1上に、光の照射によって電気を発生させる薄膜状の太陽電池素子2が形成されてなる太陽電池Aを用意する。なお、可撓性を有する長尺状の基板1としては、特に限定されず、例えば、ポリイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルスルフォンなどの耐熱性樹脂からなるシートが挙げられる。又、薄膜状の太陽電池素子2は、単結晶シリコン、単結晶ゲルマニウム、多結晶シリコン、微結晶シリコンなどの結晶系半導体、アルモルファスシリコンなどのアモルファス系半導体、GaAs、InP、AlGaAs、CdS、CdTe、Cu2S、CuInSe2、CuInS2などの化合物半導体、フタロシアニン、ポリアセチレンなどの有機半導体などから汎用の要領で形成される。
【0041】
図2に示したように、長尺状の太陽電池Aはロール状に巻回されている一方、上記長尺状の太陽電池用封止材Bもロール状に巻回されており、太陽電池A及び太陽電池用封止材Bを巻き出し、太陽電池Aの基板1上に太陽電池用封止材Bを太陽電池素子2に対向させた状態に積層させて積層シートCとした後、この積層シートCを所定の温度に加熱された一対のロールD、D間に供給して積層シートCをその厚み方向に押圧しながら積層シートCを加熱することによって太陽電池用封止材Bを太陽電池Aの基板1上に接着一体化することにより太陽電池素子2を封止して太陽電池モジュールEを連続的に製造することができる。
【0042】
太陽電池用封止材Bの一面にフッ素樹脂シートB1が積層一体化されている太陽電池保護シートB’を用いる場合には、太陽電池Aの太陽電池素子2上に太陽電池保護シートB’をその太陽電池用封止材Bが太陽電池素子2に対向した状態に積層させることによって太陽電池モジュールEを製造することができ、太陽電池モジュールの最外層にはガスバリア性に優れたフッ素樹脂シートB1が積層一体化されているので、長期間に亘って安定的に発電し得る太陽電池モジュールを得ることができる(図3参照)。
【0043】
このように、本発明の太陽電池用封止材Bは、架橋しなくとも優れた耐熱性を有していることから、太陽電池用封止材Bの加熱を厳密に制御する必要がなく、上述のように、太陽電池Aの太陽電池素子2上に太陽電池用封止材Bを重ね合わせて加熱状態にて圧着させるという簡単な工程によって、太陽電池素子2を太陽電池用封止材Bによって確実に封止することができ、長期間に亘って安定的な太陽電池モジュールを製造することができる。
【0044】
上記では、太陽電池として、可撓性を有する基板1上に、光の照射によって電気を発生させる薄膜状の太陽電池素子2が形成されてなる太陽電池を用いた場合を説明したが、本発明の太陽電池用封止材は、上述の如き構成以外の構成を有する太陽電池の封止材としても用いることができる。このような太陽電池としては、例えば、(1)ガラス板などの可撓性を有しない基板上に光の照射によって電気を発生させる薄膜状の太陽電池素子が形成されてなる太陽電池や、(2)光が照射されると電流を生じる機能を有するシリコン半導体素子やセレン半導体素子のウエハをインターコネクターを用いて直接又は並列に接続してなる太陽電池素子を備えた太陽電池などが挙げられる。
【0045】
なお、上記(1)の構成を有する太陽電池の場合には、可撓性を有する基板1上に、光の照射によって電気を発生させる薄膜状の太陽電池素子2が形成されてなる太陽電池のときと同様に、太陽電池上に太陽電池用封止材を半導体素子に対向した状態に積層して積層シートを製造した上で、積層シートを一対のロール間に供給して加熱しながら厚み方向に押圧することによって太陽電池用封止材を太陽電池の基板の一面に積層一体化させることによって太陽電池素子を封止して太陽電池モジュールを製造することができる。
【0046】
又、上記(2)の構成を有する太陽電池の場合には、太陽電池素子3の上下面に太陽電池用封止材B、Bを配設し、この太陽電池用封止材Bの上面に透明保護材4を、下面に裏面保護材5を重ね合わせて得た積層体を減圧下で脱気しながら加熱し、太陽電池素子3の上下面に保護材4、5を太陽電池用封止材B、Bを介して積層一体化させることによって太陽電池モジュールを製造することができる(図4参照)。
【発明の効果】
【0047】
本発明の太陽電池用封止材は、上述の如き構成を有し、有機過酸化物を含有しておらず、太陽電池の太陽電池素子を封止して太陽電池モジュールを製造するにあたって架橋工程を必要としないので、太陽電池用封止材の加熱を厳密に制御する必要がなく、太陽電池用封止材を加熱した状態で太陽電池の基板に圧着させ、或いは、太陽電池素子の上下面に配設した太陽電池用封止材同士を密着させることによって、太陽電池素子の封止を確実に且つ簡単に行うことができる。
【0048】
特に、可撓性を有する基板上に薄膜状の太陽電池素子が形成されてなる太陽電池の太陽電池素子の封止を行う場合には、ロール状に巻回された太陽電池を巻き出す一方、ロール状に巻回された太陽電池用封止材を巻き出し、太陽電池の基材における太陽電池素子の形成面上に太陽電池用封止材を積層して積層シートとした上で、この積層シートを一対のロール間に供給して加熱しながら厚み方向に圧着するという簡単な要領でもって太陽電池素子の封止を行って太陽電池モジュールをロールツーロール(Roll to Roll)にて簡単に効率良く製造することができる。
【0049】
そして、本発明の太陽電池用封止材は、上述の通り、有機過酸化物を含有していないので、製造時においても押出速度の高速化を図って製造効率を向上させることができると共に、太陽電池モジュールに組み込んだ後においても太陽電池用封止材から有機過酸化物に起因したガスが発生する虞れはなく、太陽電池モジュールの電池性能を長期間に亘って高く保持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】太陽電池の一例を示した縦断面図である。
【図2】本発明の太陽電池用封止材を用いた太陽電池モジュールの製造要領の一例を示した模式図である。
【図3】本発明の太陽電池用封止材を用いた太陽電池モジュールの一例を示した模式縦断面図である。
【図4】本発明の太陽電池用封止材を用いた太陽電池モジュールの他の一例を示した模式縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0051】
以下に実施例を挙げて本発明の態様を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例にのみ限定されるものではない。
【0052】
(実施例1〜3、比較例1〜4、6)
表1に示した所定量のグリシジルメタクリレート成分及びエチレン成分を含有するエチレン−グリシジルメタクリレート共重合体100重量部と、シラン化合物として表1に示した所定量の3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(東レ・ダウコーニング社製 商品名「Z−6040」)又は3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業社製 商品名「KBM−5103」)とを含有する太陽電池用封止材用組成物を第一押出機に供給して230℃にて溶融混練する一方、ポリフッ化ビニリデン(アルケマ社製 商品名「カイナー720」)を第二押出機に供給して230℃にて溶融混練し、第一押出機と第二押出機とを共に接続させている合流ダイに太陽電池用封止材用組成物及びポリフッ化ビニリデンを供給して合流させ、合流ダイに接続させているTダイからシート状に押出して、太陽電池用封止材用組成物からなる厚みが0.2mmの太陽電池用封止材の一面に、厚みが0.03mmのポリフッ化ビニリデンシートが積層一体化されてなる長尺状の一定幅を有する太陽電池保護シートを得た。なお、エチレン−グリシジルメタクリレート共重合体のメルトフローレイト、示差走査熱量分析により測定した吸熱曲線の最大ピーク温度(Tm)、並びに、30℃及び100℃での粘弾性貯蔵弾性率を表1に示した。なお、表1において、エチレン−グリシジルメタクリレート共重合体は単に「共重合体」と表記した。但し、比較例4では、押出機に高負荷が掛かり、太陽電池用封止材を継続的に押出すことができず、太陽電池保護シートを製造することができなかった。
【0053】
実施例1及び比較例1、2、6で用いられたエチレン−グリシジルメタクリレート共重合体は、アルケマ社から商品名「ロタダーAX8840」にて市販されていた。
【0054】
(比較例5)
エチレン−グリシジルメタクリレート共重合体の代わりに、エチレン−グリシジルメタクリレート−メチルメタクリレート共重合体(エチレン成分量:68重量%、グリシジルメタクリレート成分量:8重量%、メチルメタクリレート成分量:24重量%)を用いたこと以外は実施例1と同様にして太陽電池保護シートを得た。なお、エチレン−グリシジルメタクリレート−メチルメタクリレート共重合体は、表1において便宜上「共重合体」の欄に記載した。
【0055】
(実施例4〜7、比較例7〜12)
表2に示した所定量のエチレン成分、エチルアクリレート成分及び無水マレイン酸成分を含有するエチレン−エチルアクリレート−無水マレイン酸共重合体100重量部と、シラン化合物として表2に示した所定量の3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(東レ・ダウコーニング社製 商品名「Z−6040」)又は3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業社製 商品名「KBM−5103」)とを含有する太陽電池用封止材用組成物を第一押出機に供給して230℃にて溶融混練する一方、ポリフッ化ビニリデン(アルケマ社製 商品名「カイナー720」)を第二押出機に供給して230℃にて溶融混練し、第一押出機と第二押出機とを共に接続させている合流ダイに太陽電池用封止材用組成物及びポリフッ化ビニリデンを供給して合流させ、合流ダイに接続させているTダイからシート状に押出して、太陽電池用封止材用組成物からなる厚みが0.2mmの太陽電池用封止材の一面に、厚みが0.03mmのポリフッ化ビニリデンシートが積層一体化されてなる長尺状の一定幅を有する太陽電池保護シートを得た。なお、エチレン−エチルアクリレート−無水マレイン酸共重合体のメルトフローレイト、示差走査熱量分析により測定した吸熱曲線の最大ピーク温度(Tm)、並びに、30℃及び100℃での粘弾性貯蔵弾性率を表2に示した。なお、表2において、エチレン−エチルアクリレート−無水マレイン酸共重合体は単に「共重合体」と表記した。
【0056】
実施例4及び比較例7、8、12で用いられたエチレン−エチルアクリレート−無水マレイン酸共重合体は、アルケマ社から商品名「ボンダインLX4110」にて市販されているものを用いた。実施例7で用いられたエチレン−エチルアクリレート−無水マレイン酸共重合体は、アルケマ社から商品名「ボンダインHX8140」にて市販されているものを用いた。比較例11で用いられたエチレン−エチルアクリレート−無水マレイン酸共重合体は、住友化学工業社から商品名「ボンダインAX8390」にて市販されているものを用いた。
【0057】
上述のようにして得られた太陽電池保護シートを用いて以下の要領で太陽電池モジュールEを作製した。先ず、図1に示したような、可撓性を有するポリイミドフィルムからなる基板1上に薄膜状の太陽電池素子2が形成されてなり且つロール状に巻回されてなる太陽電池Aを用意する一方、ロール状に巻回された太陽電池保護シートB’を用意した。
【0058】
次に、図2に示したように、太陽電池A及び太陽電池保護シートB’を巻き出し、太陽電池Aの太陽電池素子2上に太陽電池保護シートB’をその太陽電池用封止材Bが太陽電池素子2に対向した状態となるように積層させて積層シートCとした後、この積層シートCを150℃に加熱された一対のロールD、D間に供給して積層シートCをその厚み方向に押圧しながら積層シートCを加熱することによって太陽電池保護シートB’の太陽電池用封止材Bを太陽電池Aの基板1上に接着一体化させることにより太陽電池素子2を封止して太陽電池モジュールEを連続的に製造し図示しない巻取り軸に巻き取った。なお、比較例3、6、9、10、12で得られた太陽電池保護シートは、太陽電池Aの基材1に接着せず、太陽電池モジュールを製造することができなかった。比較例11の太陽電池保護シートB’の太陽電池用封止材Bが室温にて粘着性を発現し、太陽電池保護シートB’の巻き出しが不安定となったので、製造雰囲気を−5℃に保持した。その結果、太陽電池Aの太陽電池素子2の太陽電池保護シートB’の太陽電池用封止材Bによる封止が不充分であった。
【0059】
得られた太陽電池モジュールについて、剥離強度及び高温高湿耐久性を下記の要領で測定し、その結果を表1、2に示した。
【0060】
(剥離強度)
得られた太陽電池モジュールにおいて、太陽電池の基板から太陽電池保護シートを剥離した際の剥離強度をJIS K6854に準拠して測定した。
【0061】
(高温高湿耐久性)
得られた太陽電池モジュールを85℃、相対湿度85%の環境下にて放置し、太陽電池モジュールの放置を開始してから、太陽電池モジュールの基板から太陽電池保護シートが剥離し始めるまでの時間を測定した。
【0062】
【表1】

【0063】
【表2】

【符号の説明】
【0064】
1 基材
2 太陽電池素子
A 太陽電池
B 太陽電池用封止材
B’ 太陽電池保護シート
C 積層シート
D ロール
E 太陽電池モジュール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
グリシジルメタクリレート成分の含有量が5〜10重量%であるエチレン−グリシジルメタクリレート共重合体及びエチルアクリレート成分の含有量が2〜20重量%で且つ無水マレイン酸成分の含有量が0.5〜10重量%であるエチレン−エチルアクリレート−無水マレイン酸共重合体からなる群から選ばれる少なくとも一種の共重合体100重量部と、R1Si(OR23で示されるシラン化合物0.1〜15重量部とを含有していることを特徴とする太陽電池用封止材。但し、R1は、3−グリシドキシプロピル基又は2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチル基を示し、R2は、炭素数が1〜3であるアルキル基を示す。
【請求項2】
請求項1に記載の太陽電池用封止材の一面にフッ素樹脂シートが積層一体化されてなることを特徴とする太陽電池保護シート。
【請求項3】
可撓性を有する長尺状の基板上に薄膜状に太陽電池素子が形成されてなる太陽電池における上記太陽電池素子上に請求項1に記載の太陽電池用封止材を連続的に積層させて積層シートを製造し、この積層シートにその厚み方向に押圧力を加えながら加熱することによって、上記太陽電池の太陽電池素子を上記太陽電池用封止材によって封止することを特徴とする太陽電池モジュールの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−176273(P2011−176273A)
【公開日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−208233(P2010−208233)
【出願日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】