説明

太陽電池用表面保護シート

【課題】長期間の使用時における太陽電池モジュールの出力の低下を抑止することができる太陽電池用表面保護シートを提供する。
【解決手段】ポリアミドイミドフィルムと、ポリアミドイミドフィルムの一方の表面上に形成された無機酸化物膜とを備え、波長が300nm以上350nm以下である場合、特に325nmである光の吸収率が1%以上20%以下である太陽電池用表面保護シートである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽電池用表面保護シートに関し、特に、長期間の使用時における太陽電池モジュールの出力の低下を抑止することができる太陽電池用表面保護シートに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、資源の有効利用や環境汚染の防止等の観点から、太陽光を直接電気エネルギに変換する太陽電池モジュールが注目されており、開発が進められている。
【0003】
太陽電池モジュールは、一般に、図15の模式的断面図に示すように、受光面側透明保護部材としてのガラス基板101と、裏面側保護部材102との間にインターコネクタ105により直列に接続されたシリコン太陽電池セル104がエチレンビニルアセテート(EVA)樹脂103中に封止された構成を有している。
【0004】
ここで、太陽電池モジュールの受光面側に設置される受光面側透明保護部材としては、太陽光の紫外線に対する耐久性に優れることがまず第一に要求されるが、加えて、湿気または水の透過による太陽電池モジュール内部の導線や電極における錆の発生を抑止するために、防湿性に優れることが極めて重要な要件となる。そのため、太陽電池モジュールの受光面側に設置される受光面側透明保護部材としては、従来からガラス板が用いられている。
【0005】
しかしながら、ガラス板は耐光性および防湿性に優れる反面、重量が大きいという問題があり、また、衝撃に弱く割れやすいという欠点がある。
【0006】
そこで、たとえば特許文献1には、太陽電池モジュールの受光面側に設置される受光面側透明保護部材として太陽電池用表面保護シートを用いる技術が開示されており、特許文献1の太陽電池用表面保護シートの構成を図16の模式的断面図に示す。
【0007】
ここで、特許文献1の太陽電池用表面保護シート201は、太陽電池モジュールの受光面側から透明高耐光フィルム202、接着シート203および透明高防湿フィルム204がこの順序で配置された構成となっている。また、特許文献1には、透明高耐光フィルム202として、ポリエチレンナフタレートからなる基材樹脂に紫外線吸収剤を練り込んだ樹脂組成物からなるフィルムを用い、紫外線吸収剤として、2−ヒドロキシ−4−オクトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−メトキシ−5−スルフォベンゾフェノン等のベンゾフェノン系;2−(2’−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール等のベンゾトリアゾール系;フェニルサルシレート、p−t−ブチルフェニルサルシレート等のヒンダートアミン系紫外線吸収材を用いて、通常の場合、紫外線吸収剤は基材樹脂に対して1〜20重量%程度配合される旨が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2000−174296号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1の太陽電池用表面保護シート201のように、透明高耐光フィルム202に紫外線吸収剤を練り込んだポリエチレンナフタレートを用いた場合には、透明高耐光フィルム202の下層となる透明高防湿フィルム204に紫外線が透過するのを防止することができるが、透明高耐光フィルム202が太陽光の紫外線を吸収することによって、透明高耐光フィルム202の太陽光の透過率が徐々に低下していくことがわかった。
【0010】
したがって、特許文献1に記載の太陽電池用表面保護シート201を用いて太陽電池モジュールを作製した場合には、太陽光の紫外線により、透明高耐光フィルム202の太陽光の透過率が徐々に低下するため、太陽電池モジュールの出力も同時に低下するという問題があった。
【0011】
上記の事情に鑑みて、本発明の目的は、長期間の使用時における太陽電池モジュールの出力の低下を抑止することができる太陽電池用表面保護シートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、ポリアミドイミドフィルムと、ポリアミドイミドフィルムの一方の表面上に形成された無機酸化物膜とを備え、波長が300nm以上350nm以下である光の吸収率が1%以上20%以下である太陽電池用表面保護シートである。
【0013】
また、本発明は、ポリアミドイミドフィルムと、ポリアミドイミドフィルムの一方の表面上に形成された無機酸化物膜とを備え、波長325nmの光の吸収率が1%以上20%以下である太陽電池用表面保護シートである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、長期間の使用時における太陽電池モジュールの出力の低下を抑止することができる太陽電池用表面保護シートを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の太陽電池用表面保護シートの一例の模式的な断面図である。
【図2】本発明の太陽電池用表面保護シートの他の一例の模式的な断面図である。
【図3】本発明の太陽電池用表面保護シートを用いて太陽電池モジュールを作製する方法の一例の工程の一部を図解する模式的な断面図である。
【図4】本発明の太陽電池用表面保護シートを用いて太陽電池モジュールを作製する方法の一例の工程の他の一部を図解する模式的な断面図である。
【図5】本発明の太陽電池用表面保護シートを用いて太陽電池モジュールを作製する方法の一例の工程の他の一部を図解する模式的な断面図である。
【図6】(a)および(b)は、ポリエチレンナフタレートフィルムに25日相当分の紫外線を照射する前と照射した後におけるポリエチレンナフタレートフィルムの光の波長と透過率との関係を示す図である。
【図7】(a)および(b)は、ポリエチレンナフタレートフィルムの光の波長と透過率との関係を示す図である。
【図8】(a)および(b)は、ポリエチレンナフタレートフィルムの光の波長と反射率との関係を示す図である。
【図9】(a)および(b)は、図7および図8の結果をもとにしてポリエチレンナフタレートフィルムの吸収率を計算した結果を示す図である。
【図10】(a)および(b)は、条件1〜条件6のそれぞれの太陽電池用表面保護シートの反射率と光の波長との関係を示す図である。
【図11】(a)および(b)は、条件1〜条件6のそれぞれの太陽電池用表面保護シートの透過率と光の波長との関係を示す図である。
【図12】図10および図11から算出した条件1〜条件6のそれぞれの太陽電池用表面保護シートの吸収率と光の波長との関係を示す図である。
【図13】(a)は太陽電池モジュールの一例の模式的な平面図であり、(b)は(a)に示す太陽電池モジュールの模式的な断面図である。
【図14】条件1〜条件6のそれぞれの太陽電池用表面保護シートを用いて作製した太陽電池モジュールに3000日相当分の擬似太陽光を照射したときの太陽電池モジュールの出力の割合と太陽電池用表面保護シートの波長380nmの光の吸収率との関係を示す図である。
【図15】従来の太陽電池モジュールの一例の模式的な断面図である。
【図16】特許文献1に記載の従来の太陽電池用表面保護シートの構成を示す模式的な断面図である。
【図17】(a)および(b)は、ポリアミドイミドフィルムの光の波長と透過率との関係を示す図である。
【図18】(a)および(b)は、ポリアミドイミドフィルムの光の波長と反射率との関係を示す図である。
【図19】(a)および(b)は、図17および図18の結果をもとにしてポリアミドイミドフィルムの吸収率を計算した結果を示す図である。
【図20】(a)および(b)は、条件13の太陽電池用表面保護シートの反射率と光の波長との関係を示す図である。
【図21】(a)および(b)は、条件13の太陽電池用表面保護シートの透過率と光の波長との関係を示す図である。
【図22】図20および図21から算出した条件13の太陽電池用表面保護シートの吸収率と光の波長との関係を示す図である。
【図23】(a)は太陽電池モジュールの一例の模式的な平面図であり、(b)は(a)に示す太陽電池モジュールの模式的な断面図である。
【図24】条件11〜条件13のそれぞれの太陽電池用表面保護シートを用いて作製した太陽電池モジュールに3000日相当分の擬似太陽光を照射したときの太陽電池モジュールの出力の割合と太陽電池用表面保護シートの波長325nmの光の吸収率との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について説明する。なお、本発明の図面において、同一の参照符号は、同一部分または相当部分を表わすものとする。
【0017】
図1に、本発明の太陽電池用表面保護シートの一例の模式的な断面図を示す。ここで、太陽電池用表面保護シート1は、ポリエチレンナフタレートフィルム2と、そのポリエチレンナフタレートフィルム2の一方の表面上に形成された無機酸化物膜3とを有している。そして、太陽電池用表面保護シート1全体における波長350nm以上400nm以下の光の吸収率が1%以上20%以下、特に波長380nmの光の吸収率が1%以上20%以下であることを特徴とする。
【0018】
本発明者は、上記の構成の太陽電池用表面保護シート1を太陽電池セルの受光面側に設置して太陽電池モジュールを作製した場合には、太陽電池モジュールを太陽光の紫外線に長期間曝したときでも、太陽電池モジュールの出力の低下が抑えられることを見いだし、本発明を完成するに至ったものである。
【0019】
ここで、ポリエチレンナフタレートフィルム2としては、従来から公知のポリエチレンナフタレートフィルムを用いることができ、具体的には、帝人デュポンフィルム株式会社製のテオネックスQ65FAフィルム等を用いることができる。
【0020】
また、ポリエチレンナフタレートフィルム2の厚さは25μm以上100μm以下であることが好ましく、50μm以上75μm以下であることがより好ましい。ポリエチレンナフタレートフィルム2の厚さが25μm以上100μm以下である場合、特に50μm以上75μm以下である場合には、地球周回軌道上5年間分の放射線照射による当該太陽電池モジュールの最大出力値の劣化量を5%程度に抑制することができ、かつポリエチレンナフタレートフィルム2の厚さが増大することによる太陽電池モジュールの質量の増加を抑えることができる傾向にある。
【0021】
また、無機酸化物膜3としては、たとえば、太陽光の紫外線に対する反射率が高い少なくとも1層以上の酸化物膜を用いることができるが、なかでも酸化ケイ素膜と酸化チタン膜との積層体、または酸化ケイ素膜と酸化タンタル膜との積層体を用いることが好ましい。無機酸化物膜3として、酸化ケイ素膜と酸化チタン膜との積層体、または酸化ケイ素膜と酸化タンタル膜との積層体を用いた場合には、太陽電池用表面保護シート1における太陽光の透過率の低下を抑止できる傾向が大きくなるため、太陽電池モジュールを太陽光の紫外線に長期間曝したときでも、太陽電池モジュールの出力の低下を抑止することができる傾向が大きくなる。
【0022】
なお、酸化ケイ素膜と酸化チタン膜との積層体は、酸化ケイ素膜と酸化チタン膜とが交互に積層された構成のものであればよく、その積層体を構成する酸化ケイ素膜および酸化チタン膜はそれぞれ少なくとも1層あればよい。
【0023】
また、酸化ケイ素膜と酸化タンタル膜との積層体も、酸化ケイ素膜と酸化タンタル膜とが交互に積層された構成のものであればよく、その積層体を構成する酸化ケイ素膜および酸化タンタル膜はそれぞれ少なくとも1層あればよい。
【0024】
また、無機酸化物膜3の最も外側の表面(すなわち、ポリエチレンナフタレートフィルム2から離れている方の無機酸化物膜3の表面;以下「最表面」という。)には酸化ケイ素膜が位置していることが好ましい。この場合には、原子状酸素の照射に起因する太陽電池用表面保護シート1の劣化を抑えることができるため、太陽電池用表面保護シート1の太陽光の透過率の低下を抑止できる傾向が大きくなる。
【0025】
図2に、本発明の太陽電池用表面保護シートの他の一例の模式的な断面図を示す。ここで、太陽電池用表面保護シート1は、ポリエチレンナフタレートフィルム2と、そのポリエチレンナフタレートフィルム2の一方の表面上に形成された無機酸化物膜3との間に、有機化合物膜4が設置されていることに特徴がある。図2に示す太陽電池用表面保護シート1においても、太陽電池用表面保護シート1全体における波長350nm以上400nm以下の光の吸収率が1%以上20%以下、特に波長380nmの光の吸収率が1%以上20%以下であることを特徴としている。
【0026】
このように、ポリエチレンナフタレートフィルム2と無機酸化物膜3との間に有機化合物膜4を設置することによって、太陽光に長期間曝されること等の理由により太陽電池用表面保護シート1の温度が上昇した場合でも、ポリエチレンナフタレートフィルム2と無機酸化物膜3との熱膨張係数差に起因する無機酸化物膜3の割れの発生および無機酸化物膜3のポリエチレンナフタレートフィルム2からの剥離の発生を有効に抑止することができる傾向にある。
【0027】
ここで、有機化合物膜4としては、たとえば、放射線硬化性樹脂に放射線を照射することによって硬化させたもの等を用いることができる。なお、放射線とは、たとえば、赤外線、可視光線、紫外線およびX線、電子線、α線、β線、γ線等の電離放射線を意味しており、通常は紫外線等の光を用いることができる。
【0028】
また、放射線硬化性樹脂としては、ポリオールアクリレート系樹脂、ポリエステルアクリレート系樹脂、ウレタンアクリレート系樹脂、エポキシアクリレート系樹脂等の多官能アクリレート系放射線硬化性樹脂を用いることができる。なお、放射線硬化性樹脂には、必要に応じて、従来から公知の光重合開始剤および/または光増感剤が添加されていてもよい。また、放射線硬化性樹脂には、必要に応じて、たとえば、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、シランカップリング剤、塗面改良剤、熱重合禁止剤、レベリング剤、界面活性剤、着色剤、保存安定剤、可塑剤、滑剤、離型剤、溶媒、フィラー、老化防止剤、濡れ性改良剤等の少なくとも1種の従来から公知の添加剤が添加されていてもよい。
【0029】
ポリオールアクリレート系樹脂としては、従来から公知のものを用いることができ、たとえば、トリメチロールプロパントリアクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、アルキル変性ジペンタエリスリトールペンタアクリレート等の樹脂を挙げることができる。これらの樹脂には従来から公知の光反応開始剤および/または光増感剤が添加され得る。
【0030】
ポリエステルアクリレート系樹脂としては、従来から公知のものを用いることができ、たとえば、ポリエステルポリオールに2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート等の水酸基を有するアクリレート系のモノマーを反応させることによって得たもの等を用いることができる。
【0031】
ウレタンアクリレート系樹脂としては、従来から公知のものを用いることができ、たとえば、一般にポリエステルポリオールにイソシアネートモノマー、もしくはプレポリマーを反応させて得られた生成物に更に2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート等の水酸基を有するアクリレート系のモノマーを反応させることによって得たもの等を用いることができる。
【0032】
エポキシアクリレート系樹脂としては、従来から公知のものを用いることができ、たとえば、エポキシアクリレートをオリゴマーとし、これに反応性希釈剤、光反応開始剤を添加し、反応させたもの等を用いることができる。
【0033】
また、有機化合物膜4の膜厚は1μm以上10μm以下であることが好ましく、3μm以上6μm以下であることがより好ましい。有機化合物膜4の膜厚を1μm以上10μm以下とした場合、特に3μm以上6μm以下とした場合には、太陽電池用表面保護シート1の温度が150℃程度の高温に上昇した場合でも、ポリエチレンナフタレートフィルム2と無機酸化物膜3との熱膨張係数差に起因する無機酸化物膜3の割れの発生を有効に抑止し、太陽電池用表面保護シート1の透過率の低下を抑止できる傾向にある。
【0034】
上記の構成の太陽電池用表面保護シート1は、たとえば以下のようにして製造することができる。
【0035】
まず、市販のポリエチレンナフタレートフィルムを適当なサイズに切り出すことによって、ポリエチレンナフタレートフィルム2を用意する。次に、ポリエチレンナフタレートフィルム2の一方の表面上にアプリケータでポリオールアクリレート系樹脂を5μm程度の厚さに塗工し、塗工したポリオールアクリレート系樹脂を75℃の温度で10分間熱風乾燥した後に、高圧水銀ランプ8W/cmを用いて20cmの高さから5m/minのコンベア速度で紫外線照射を行なうことによってポリオールアクリレート系樹脂を硬化する。これにより、ポリエチレンナフタレートフィルム2の表面上にポリオールアクリレート系樹脂が硬化してなる有機化合物膜4が形成される。なお、ポリオールアクリレート系樹脂の代わりに、ポリエステルアクリレート系樹脂、ウレタンアクリレート系樹脂、エポキシアクリレート系樹脂等の多官能アクリレート系放射線硬化性樹脂を用いることもできる。なお、図1に示す太陽電池用表面保護シート1を作製する場合には、有機化合物膜4を形成する必要がないことは言うまでもない。
【0036】
次に、ポリエチレンナフタレートフィルム2の一方の表面上に無機酸化物膜3を形成する。また、ポリエチレンナフタレートフィルム2の表面上に上記の多官能アクリレート系放射線硬化性樹脂が硬化してなる有機化合物膜4を形成する場合には、その有機化合物膜4の表面上に無機酸化物膜3を形成する。無機酸化物膜3としては、たとえば蒸着法またはスパッタ法等により、酸化ケイ素膜と酸化チタン膜との積層体、または酸化ケイ素膜と酸化タンタル膜との積層体により形成することが好ましい。一般に、上記の積層体の各層の膜厚等を適宜調整することにより、反射する光の波長域の大きさ、反射する光の波長の中心(最も反射率が高くなる光の波長)を変化させることができるため、太陽電池用表面保護シート1の全体における波長350nm以上400nm以下の光の吸収率を1%以上20%以下、特に波長380nmの光の吸収率を1%以上20%以下に調節することが可能になる。
【0037】
以上により、図1または図2に示す太陽電池用表面保護シート1を製造することができる。なお、上記の無機酸化物膜3が形成されている側を太陽電池用表面保護シート1の受光面側として用いることができる。
【0038】
ここで、図1または図2に示す太陽電池用表面保護シート1のポリエチレンナフタレートフィルム2の裏面側(受光面側と反対側)となる表面に酸化ケイ素膜を形成することが好ましい。この場合には、ポリエチレンナフタレートフィルム2の裏面側における太陽光の反射を抑止することができるとともに、後述するシリコーン樹脂との接着性が向上する傾向にある。
【0039】
以下に、図3〜図5の模式的断面図を参照して、上記のようにして作製した太陽電池用表面保護シート1を用いて太陽電池モジュールを作製する方法の一例について説明する。
【0040】
まず、上記のようにして作製した太陽電池用表面保護シート1を用意し、図3に示すように、太陽電池用表面保護シート1の裏面側の表面にシリコーン樹脂5を塗布する。ここで、シリコーン樹脂5は、たとえば、ローラー等でシリコーン樹脂5とローラーを馴染ませ、そのローラーを用いて太陽電池用表面保護シート1の裏面側の表面上に塗布することが好ましい。この場合には、シリコーン樹脂5をほぼ均一な厚さで、かつ薄く塗布することができる傾向にある。なお、本発明においては、ローラーを用いた方法以外の方法により、シリコーン樹脂5を塗布してもよい。また、シリコーン樹脂5としては、従来から公知のシリコーン樹脂を用いることができ、たとえば、ダウコーニング社製のDC93−500、同じくダウコーニング社製のSYLGARD184等を用いることができる。
【0041】
次に、図4に示すように、太陽電池用表面保護シート1のシリコーン樹脂5を塗布した側の表面と太陽電池ストリング6の受光面を貼り合わせる。ここで、太陽電池ストリング6は、太陽電池セル7の複数が導電性のインターコネクタ8により接続された構成となっている。
【0042】
ここで、太陽電池用表面保護シート1と太陽電池ストリング6との貼り合わせは、たとえば、シリコーン樹脂5を塗布した太陽電池用表面保護シート1の表面上に太陽電池ストリング6を置いた状態で真空チャンバに入れ、真空チャンバを真空引きすることにより、シリコーン樹脂5と太陽電池ストリング6との間の気泡を除去することにより行なうことができる。
【0043】
また、太陽電池ストリング6とシリコーン樹脂5を塗布した太陽電池用表面保護シート1との貼り合わせ自体を真空チャンバ内で行なうことにより、上記と同様に、シリコーン樹脂5と太陽電池ストリング6との間の気泡を除去することが可能である。
【0044】
次に、シリコーン樹脂5を加熱して硬化させることによって、太陽電池用表面保護シート1と太陽電池ストリング6とを接着させる。ここで、シリコーン樹脂5は、オーブンを用いて加熱してもよく、ヒーターを用いて加熱してもよい。また、シリコーン樹脂5の加熱温度および加熱時間はそれぞれ適宜設定することが可能であるが、シリコーン樹脂5としてたとえばダウコーニング社製のDC93−500またはダウコーニング社製のSYLGARD184を用いた場合には加熱温度は100℃程度に設定され、加熱時間は1時間程度に設定される。
【0045】
次に、図5に示すように、上記と同様の手順で、太陽電池ストリング6の裏面側に裏面フィルム9をシリコーン樹脂5によって接着する。ここで、裏面フィルム9としては、受光面側の太陽電池用表面保護シート1と同一の材料を用いることができる。
【0046】
以上の工程により、太陽電池用表面保護シート1を用いた太陽電池モジュールが作製される。
【0047】
なお、上記において、太陽電池モジュール6を構成する太陽電池セル7としては、たとえば従来から公知の化合物半導体太陽電池を用いることができ、この化合物半導体太陽電池はたとえば以下のようにして作製することができる。なお、本発明において、太陽電池セル7は化合物半導体太陽電池に限定されず、シリコン太陽電池等の他の太陽電池であってもよいことは言うまでもない。
【0048】
まず、Si、GeまたはGaAs等からなる半導体基板の表面上に複数の種類の異なる化合物半導体層をエピタキシャル成長させる。ここで、半導体基板の表面上には、たとえば、pn接合を含む太陽電池層と、第2電極を接続するためのコンタクト層とを含む構成となるように化合物半導体層を順次エピタキシャル成長させることができる。
【0049】
次に、フォトリソグラフィ法により、上記の化合物半導体層の表面の必要な部分にのみマスクを形成した後に、マスクが形成されていない部分をエッチングする。その後、マスクは除去される。
【0050】
続いて、太陽電池層の受光面を構成するコンタクト層に、たとえば、通常のフォトリソグラフィ法、蒸着法、リフトオフ法、シンター法等により第1電極を形成する。第1電極は、たとえば、銀(Ag)等の導電性材料から構成することができる。また、第1電極の形状は、たとえば櫛形状にすることができるが、その他、櫛形状以外にも、太陽電池セル7として機能できる全ての電極形状を採用することができる。
【0051】
次に、半導体基板を所定の形状となるように複数に分割した後に、半導体基板の裏面に、たとえば、通常のフォトリソグラフィ法、蒸着法、リフトオフ法、シンター法等により第2電極を形成する。ここで、第2電極は、たとえば、銀(Ag)等の導電性材料から構成することができる。第2電極の形状は、太陽電池セル7として機能できる全ての電極形状を採用することができる。
【0052】
以上により、太陽電池モジュール6を構成する太陽電池セル7が作製される。ここで、太陽電池セル7の切り出しは、たとえば、通常のダイシング法またはスクライブ法により必要部分の一単位の太陽電池セル7の外周部に切れ目をいれ、通常のエキスパンド法あるいはブレイク法により太陽電池セル7を切り出すことにより行なうことができる。
【0053】
そして、上記のようにして作製された1つの太陽電池セル7の受光面に形成された第1電極と、他の1つの太陽電池セル7の裏面に形成された第2電極とをインターコネクタ8を介して電気的に接続することによって太陽電池ストリング6が作製される。ここで、インターコネクタ8は、第1電極および第2電極のそれぞれとたとえば通常のスポット溶接法により溶接されることによってこれらの電極とそれぞれ接続される。インターコネクタ8はたとえば銀(Ag)等の導電性材料からなり、インターコネクタ8の形状は、太陽電池セル7の外周部より外側に引き出すことが可能な形状であることが好ましい。
【0054】
そして、それぞれの太陽電池ストリング6の終端には、バスバーが通常のスポット溶接法により溶接されて、太陽電池ストリング6同士が並列に接続されることになる。
【0055】
本発明の太陽電池用表面保護シート1は、ポリエチレンナフタレートフィルム2と、ポリエチレンナフタレートフィルム2の片面に紫外線を反射する機能を有する無機酸化物膜3が形成されており、太陽電池用表面保護シート1の波長350nm以上400nm以下の光の吸収率が1%以上20%以下、特に波長380nmの光の吸収率が1%以上20%以下であることから、太陽電池用表面保護シート1の太陽光の透過率の低下を抑制することができるため、この太陽電池用表面保護シート1を用いて作製した太陽電池モジュールを長期間使用した場合における太陽電池モジュールの出力の低下を抑止することができる。したがって、本発明の太陽電池用表面保護シート1を用いて作製した太陽電池モジュールは、長期間紫外線に曝されてもその発電量が劣化しにくくなり、高耐久性の太陽電池モジュールとすることができる。
【0056】
また、無機酸化物膜3として、酸化ケイ素膜と酸化チタン膜との積層体、または酸化ケイ素膜と酸化タンタル膜との積層体を用いた場合には、太陽電池用表面保護シート1における太陽光の透過率の低下を抑止できる傾向が大きくなるため、太陽電池モジュールを太陽光の紫外線に長期間曝したときでも、太陽電池モジュールの出力の低下を抑止することができる傾向が大きくなる。
【0057】
また、無機酸化物膜3の最表面に酸化ケイ素膜を位置させることによって、原子状酸素の照射に起因する太陽電池用表面保護シート1の劣化を抑止することができるため、太陽電池用表面保護シート1における太陽光の透過率の低下を抑止することができ、太陽電池モジュールの出力の低下を抑止することができる傾向が大きくなる。
【0058】
また、ポリエチレンナフタレートフィルム2と無機酸化物膜3との間に有機化合物膜4を設置することによって、太陽光に長期間曝されること等の理由により太陽電池用表面保護シート1の温度が上昇した場合でも、ポリエチレンナフタレートフィルム2と無機酸化物膜3との熱膨張係数差に起因して発生する応力を有機化合物膜4で緩和することができるため、無機酸化物膜3の割れの発生および無機酸化物膜3の剥離の発生を有効に抑止することができる傾向にある。したがって、この太陽電池用表面保護シート1を用いて作製した太陽電池モジュールは、厳しい温度差がある厳しい環境下に曝された場合でも、高耐久性のものとすることができ、出力の低下を抑止することができる傾向が大きくなる。
【0059】
また、本発明の太陽電池用表面保護シート1のポリエチレンナフタレートフィルム2の裏面側(受光面側と反対側)となる表面に酸化ケイ素膜を形成した場合には、ポリエチレンナフタレートフィルム2の裏面側における太陽光の反射を抑止することができるとともにシリコーン樹脂5との接着性が向上する傾向にある。この接着性を向上させることにより太陽電池モジュール内への水分の染み込みを抑えることができるため、太陽電池モジュールが高湿度環境下に曝された場合でも高耐久性のものとすることができ、出力の低下を抑止することができる傾向が大きくなる。
【実施例】
【0060】
図6(a)および図6(b)に、ポリエチレンナフタレートフィルムに25日相当分の紫外線を照射する前と照射した後におけるポリエチレンナフタレートフィルムの光の波長と透過率との関係を示す。ここで、紫外線の照射は、ハロゲンランプのスペクトルを太陽光のスペクトルに擬似的に模し、200倍に集光して行なった。
【0061】
図6(a)および図6(b)に示すように、ポリエチレンナフタレートフィルムに紫外線を照射することにより、波長380〜600nmの光の透過率(%)が大きく低下している。これは、紫外線の照射によりポリエチレンナフタレートフィルムが黄変したためと考えられる。したがって、太陽電池用表面保護シートとしてポリエチレンナフタレートフィルムのみを用いた場合には、太陽電池モジュールを長期間使用するにしたがってポリエチレンナフタレートフィルムの光の透過率が低下し、太陽電池モジュールの出力が低下するものと考えられる。
【0062】
実際に、太陽電池用表面保護シートとして25日相当分の紫外線の照射前と照射後のポリエチレンナフタレートフィルムを用いてそれぞれ太陽電池セルを作製して紫外線の照射前後の太陽電池セルの出力の変化を確認したが、紫外線の照射前と比較して照射後の太陽電池セルの出力は約22%低下した。
【0063】
ポリエチレンナフタレートフィルムが黄変するメカニズムを解明するため、まず最初に、ポリエチレンナフタレートフィルムの光の透過率と反射率とを測定した。ここで、ポリエチレンナフタレートフィルムの透過率と反射率の測定には、日本分光株式会社製の絶対反射率測定装置ARN−475型を用いた。ポリエチレンナフタレートフィルムの透過率と反射率の測定において用いられた光の波長は300nm〜1500nmとした。図7(a)および図7(b)に、ポリエチレンナフタレートフィルムの光の波長と透過率との関係を示し、図8(a)および図8(b)に、ポリエチレンナフタレートフィルムの光の波長と反射率との関係を示す。
【0064】
図7および図8の結果をもとにして、ポリエチレンナフタレートフィルムの吸収率を計算した結果を図9(a)および図9(b)に示す。ここで、吸収率は、下記の式(1)により定義される。
【0065】
吸収率(%)=100(%)−透過率(%)−反射率(%) …(1)
図9(a)および図9(b)に示すように、ポリエチレンナフタレートフィルムの吸収率は波長380nm付近で最も高くなることがわかる。
【0066】
そこで、ポリエチレンナフタレートフィルムの波長380nm付近の光の吸収を抑止するために、ポリエチレンナフタレートフィルムの一方の表面にガラス製の紫外線反射フィルターに使われている従来技術を用いて紫外線反射用の無機酸化物膜を成膜して太陽電池用表面保護シートを作製した。ここで、無機酸化物膜としては、酸化ケイ素膜と酸化チタン膜とが交互にそれぞれ複数層積層された積層体を用いて、無機酸化物膜の反射光の中心波長を変えるために、酸化ケイ素膜と酸化チタン膜の膜厚を変更した条件1〜条件6の6種類の成膜を行なった。そして、条件1〜条件6のそれぞれの太陽電池用表面保護シートについて、光の反射率と透過率を測定した。図10(a)および図10(b)に、条件1〜条件6のそれぞれの太陽電池用表面保護シートの反射率の測定結果を示し、図11(a)および図11(b)に、条件1〜条件6のそれぞれの太陽電池用表面保護シートの透過率の測定結果を示す。さらに、図10および図11から算出した条件1〜条件6のそれぞれの太陽電池用表面保護シートの吸収率と光の波長との関係を図12(a)および図12(b)に示す。
【0067】
図12(a)および図12(b)から明らかなように、太陽電池用表面保護シートの無機酸化物膜における反射する光の波長の中心(最も反射率が高くなる光の波長)を350nm(条件1)から375nm(条件6)に変化させることにより、太陽電池用表面保護シート全体の波長380nmの光の吸収率は、35%(条件1)、24%(条件2)、17%(条件3)、13%(条件4)、9%(条件5)、8%(条件6)と変化させることができる。
【0068】
次に、上記のようにして作製した条件1〜条件6の太陽電池用表面保護シートを用いて図13(a)および図13(b)に示す構成の太陽電池モジュールを作製した。この太陽電池モジュールを構成する太陽電池セル7は、GaAs基板12上にたとえばMOCVD(Metal Organic Chemical Vapor Deposition)法によりエピタキシャル成長させた太陽電池層11が形成されている。
【0069】
太陽電池層11は、太陽光を受光する受光面となるn型GaAsコンタクト層と、n型GaInP層/p型GaInP層およびn型GaAs層/p型GaAs層の2つのpn接合とを含む構成となっている。また、n型GaAsコンタクト層の表面上には櫛形状のn型電極10が形成されており、GaAs基板12の裏面にはp型電極13が形成されている。
【0070】
そして、上記の構成を有する2つの太陽電池セルの一方のn型電極10とp型電極13とがインターコネクタ8で接続されて太陽電池ストリングが形成されており、この太陽電池ストリングが太陽電池用表面保護シート1の裏面の酸化ケイ素膜14と裏面フィルム9との間のシリコーン樹脂5中に封止されている。
【0071】
なお、上記のn型電極10は、従来知られているフォトリソグラフィ工程とエッチング工程を利用してn型GaAsコンタクト層の不要部分をエッチングにより除去した後、従来知られているフォトリソグラフィ工程と蒸着工程とリフトオフ工程と熱処理工程とを組み合わせてn型GaAsコンタクト層上に形成されており、その主成分は銀(Ag)である。
【0072】
続いて、太陽電池層11の必要部分を通常のフォトマスキング工程でマスク(図示せず)を形成し、不要部分をエッチングにより除去する。ここで、n型GaAs層およびp型GaAs層のエッチングにはアンモニア系のエッチング液が用いられ、n型GaInP層およびp型GaInP層のエッチングには塩酸系のエッチング液が用いられる。
【0073】
さらに、GaAs基板12の外周部を通常のダイシング法によりハーフダイスすることにより切れ目を入れておき、通常のブレイク法により所定の形状に切り出した後にGaAs基板12の裏面に銀(Ag)を主成分とするp型電極13を形成する。その後、太陽電池層11の受光面に酸化チタン膜と酸化アルミニウム膜との積層体からなる反射防止膜(図示せず)を形成して太陽電池セル7が完成する。
【0074】
そして、上記のようにして形成した太陽電池セル7を2つ用意し、1つの太陽電池セル7のn型電極10上に銀(Ag)を主成分とするインターコネクタ8の一端を溶接し、他の1つの太陽電池セル7のp型電極13上にそのインターコネクタ8の他端を溶接することによって、2つの太陽電池セル7が直列に接続された太陽電池ストリングを構成する。
【0075】
次に、シリコーン樹脂5を塗布した太陽電池用表面保護シート1と、上記で作製した太陽電池ストリングとを貼り合わせる。まず、太陽電池用表面保護シート1にシリコーン樹脂5を塗布する。
【0076】
次に、離型紙の上に上記の太陽電池ストリングを受光面が上方を向くように設置し、シリコーン樹脂5を塗布した太陽電池用表面保護シート1を太陽電池ストリング上に重ねて接着する。
【0077】
太陽電池用表面保護シート1は、ポリエチレンナフタレートフィルム2の一方の表面の直上には有機化合物膜4が形成され、有機化合物膜4の表面の直上には上記の条件1〜条件6で条件を変化させた無機酸化物膜3が形成されており、ポリエチレンナフタレートフィルム2の他方の表面には酸化ケイ素膜14が80nmの厚さで形成されている。すなわち、太陽電池用表面保護シート1としては、上記の条件1〜条件6のように無機酸化物膜3の構成がそれぞれ異なる6種類の太陽電池用表面保護シート1が形成されたことになる。
【0078】
ここで、有機化合物膜4としては、ウレタンアクリレート系樹脂に紫外線を照射して5μmの厚さに形成したものが用いられている。また、無機酸化物膜3は、酸化ケイ素膜と酸化チタン膜とを交互に積層した積層体からなり、その最表面には酸化ケイ素膜が位置した構成となっている。なお、無機酸化物膜3の構成は、上記の条件1〜条件6の条件でそれぞれ形成されており、図10の反射率および図11の透過率を示すように設計されている。また、ポリエチレンナフタレートフィルム2の他方の表面に酸化ケイ素膜14を80nmの厚さに形成する。
【0079】
続いて、シリコーン樹脂5を塗布した裏面フィルム9を上記で作製した太陽電池ストリング上に重ねて接着する。その後、脱泡処理100℃のオーブンに1時間入れシリコーン樹脂5を硬化させ、条件1〜条件6のそれぞれの無機酸化物膜3を有する6種類の太陽電池用表面保護シート1がそれぞれ貼り合わされた図13(a)および図13(b)に示す構成の太陽電池モジュールを6種類完成させる。
【0080】
そして、上記のようにして作製した6種類の太陽電池モジュールのそれぞれについて、株式会社ウシオスペックス製クセノン5kW光源装置を用いて擬似太陽光の照射を行なって紫外線照射試験を行なった。ここで、紫外線照射試験を加速させるために地球上での太陽光の200倍となるように擬似太陽光の調整を行なった。
【0081】
図14に、上記の6種類の太陽電池モジュールのそれぞれに3000日相当分の擬似太陽光を照射したときの太陽電池モジュールの出力の割合と太陽電池用表面保護シートの波長380nmの光の吸収率との関係を示す。図14において、横軸は、太陽電池用表面保護シート1における波長380nmの光の吸収率(%)を示し、縦軸は、太陽電池用表面保護シート1の貼り付け前の太陽電池ストリングの出力を100(%)とした場合に対する上記の3000日相当分の擬似太陽光の照射後の太陽電池モジュールの出力の割合(%)を算出したものである。
【0082】
図14に示す結果から、3000日相当分の擬似太陽光の照射後の太陽電池モジュールの出力が太陽電池用表面保護シート1を貼り付け前の太陽電池ストリングの出力の80%以上となることが必要であるとすると、波長380nmにおける光の吸収率が20%以下である太陽電池用表面保護シート1(条件3〜条件6の無機酸化物膜3を含む太陽電池用表面保護シート1)を用いて太陽電池モジュールを作製する必要があることが確認された。
【0083】
また、別に行った実験により、波長380nmにおける光の吸収率が1%未満である太陽電池用表面保護シート1を用いて太陽電池モジュールを作製した場合には、太陽電池モジュールの出力が80%未満となるため、波長380nmにおける光の吸収率は1%以上の太陽電池用表面保護シート1を用いて太陽電池モジュールを作製する必要があることが確認された。
【0084】
また、ポリアミドイミドフィルムが黄変するメカニズムを解明するため、まず最初に、ポリアミドイミドフィルムの光の透過率と反射率とを測定した。ここで、ポリアミドイミドフィルムの透過率と反射率の測定には、日本分光株式会社製の絶対反射率測定装置ARN−475型を用いた。ポリアミドイミドフィルムの透過率と反射率の測定において用いられた光の波長は300nm〜1500nmとした。図17(a)および図17(b)に、ポリアミドイミドフィルムの光の波長と透過率との関係を示し、図18(a)および図18(b)に、ポリアミドイミドフィルムの光の波長と反射率との関係を示す。
【0085】
図17および図18の結果をもとにして、ポリアミドイミドフィルムの吸収率を計算した結果を図19(a)および図19(b)に示す。ここで、吸収率は、上記の式(1)により定義される。
【0086】
図19(a)および図19(b)に示すように、ポリアミドイミドフィルムの吸収率は波長325nm付近にピークを持つことがわかる。
【0087】
そこで、ポリアミドイミドフィルムの波長325nm付近の光の吸収を抑止するために、ポリアミドイミドフィルムの一方の表面にガラス製の紫外線反射フィルターに使われている従来技術を用いて紫外線反射用の無機酸化物膜を成膜して太陽電池用表面保護シートを作製した。ここで、無機酸化物膜としては、酸化ケイ素膜と酸化チタン膜とが交互にそれぞれ複数層積層された積層体を用いて、無機酸化物膜の反射光の中心波長を変えるために、酸化ケイ素膜と酸化チタン膜の膜厚を変更した条件11〜条件13の3種類の成膜を行なった。そして、代表的な条件13の太陽電池用表面保護シートについて、光の反射率と透過率を測定結果の一例を示した。図20(a)および図20(b)に、条件13の太陽電池用表面保護シートの反射率の測定結果を示し、図21(a)および図21(b)に、条件13の太陽電池用表面保護シートの透過率の測定結果を示す。さらに、図20および図21から算出した条件13の太陽電池用表面保護シートの吸収率と光の波長との関係を図22(a)および図22(b)に示す。
【0088】
ポリエチレンナフタレートフィルムの時と同様に、太陽電池用表面保護シートの無機酸化物膜における反射する光の波長の中心(最も反射率が高くなる光の波長)を375nm(条件11)、350nm(条件12)、325nm(条件13)に変化させることにより、太陽電池用表面保護シート全体の波長325nmの光の吸収率は、24%(条件11)、15%(条件12)、4%(条件13)と変化させることができる。
【0089】
次に、上記のようにして作製した条件11〜条件13の太陽電池用表面保護シートを用いて図23(a)および図23(b)に示す構成の太陽電池モジュールを作製した。この太陽電池モジュールを構成する太陽電池セル7は、GaAs基板12上にたとえばMOCVD(Metal Organic Chemical Vapor Deposition)法によりエピタキシャル成長させた太陽電池層11が形成されている。
【0090】
太陽電池層11は、太陽光を受光する受光面となるn型GaAsコンタクト層と、n型GaInP層/p型GaInP層およびn型GaAs層/p型GaAs層の2つのpn接合とを含む構成となっている。また、n型GaAsコンタクト層の表面上には櫛形状のn型電極10が形成されており、GaAs基板12の裏面にはp型電極13が形成されている。
【0091】
そして、上記の構成を有する2つの太陽電池セルの一方のn型電極10とp型電極13とがインターコネクタ8で接続されて太陽電池ストリングが形成されており、この太陽電池ストリングが太陽電池用表面保護シート1の裏面の酸化ケイ素膜14と裏面フィルム9との間のシリコーン樹脂5中に封止されている。
【0092】
なお、上記のn型電極10は、従来知られているフォトリソグラフィ工程とエッチング工程を利用してn型GaAsコンタクト層の不要部分をエッチングにより除去した後、従来知られているフォトリソグラフィ工程と蒸着工程とリフトオフ工程と熱処理工程とを組み合わせてn型GaAsコンタクト層上に形成されており、その主成分は銀(Ag)である。
【0093】
続いて、太陽電池層11の必要部分を通常のフォトマスキング工程でマスク(図示せず)を形成し、不要部分をエッチングにより除去する。ここで、n型GaAs層およびp型GaAs層のエッチングにはアンモニア系のエッチング液が用いられ、n型GaInP層およびp型GaInP層のエッチングには塩酸系のエッチング液が用いられる。
【0094】
さらに、GaAs基板12の外周部を通常のダイシング法によりハーフダイスすることにより切れ目を入れておき、通常のブレイク法により所定の形状に切り出した後にGaAs基板12の裏面に銀(Ag)を主成分とするp型電極13を形成する。その後、太陽電池層11の受光面に酸化チタン膜と酸化アルミニウム膜との積層体からなる反射防止膜(図示せず)を形成して太陽電池セル7が完成する。
【0095】
そして、上記のようにして形成した太陽電池セル7を2つ用意し、1つの太陽電池セル7のn型電極10上に銀(Ag)を主成分とするインターコネクタ8の一端を溶接し、他の1つの太陽電池セル7のp型電極13上にそのインターコネクタ8の他端を溶接することによって、2つの太陽電池セル7が直列に接続された太陽電池ストリングを構成する。
【0096】
次に、シリコーン樹脂5を塗布した太陽電池用表面保護シート1と、上記で作製した太陽電池ストリングとを貼り合わせる。まず、太陽電池用表面保護シート1にシリコーン樹脂5を塗布する。
【0097】
次に、離型紙の上に上記の太陽電池ストリングを受光面が上方を向くように設置し、シリコーン樹脂5を塗布した太陽電池用表面保護シート1を太陽電池ストリング上に重ねて接着する。
【0098】
太陽電池用表面保護シート1は、ポリアミドイミドフィルム22の一方の表面の直上には有機化合物膜4が形成され、有機化合物膜4の表面の直上には上記の条件11〜条件13で条件を変化させた無機酸化物膜3が形成されており、ポリアミドイミドフィルム22の他方の表面には酸化ケイ素膜14が80nmの厚さで形成されている。すなわち、太陽電池用表面保護シート1としては、上記の条件11〜条件13のように無機酸化物膜3の構成がそれぞれ異なる3種類の太陽電池用表面保護シート1が形成されたことになる。
【0099】
ここで、有機化合物膜4としては、ウレタンアクリレート系樹脂に紫外線を照射して5μmの厚さに形成したものが用いられている。また、無機酸化物膜3は、酸化ケイ素膜と酸化チタン膜とを交互に積層した積層体からなり、その最表面には酸化ケイ素膜が位置した構成となっている。なお、無機酸化物膜3の構成は、上記の条件11〜条件13の条件でそれぞれ形成されている。また、ポリアミドイミドフィルム2の他方の表面に酸化ケイ素膜14を80nmの厚さに形成する。
【0100】
続いて、シリコーン樹脂5を塗布した裏面フィルム9を上記で作製した太陽電池ストリング上に重ねて接着する。その後、脱泡処理100℃のオーブンに1時間入れシリコーン樹脂5を硬化させ、条件11〜条件13のそれぞれの無機酸化物膜3を有する3種類の太陽電池用表面保護シート1がそれぞれ貼り合わされた図23(a)および図23(b)に示す構成の太陽電池モジュールを3種類完成させる。
【0101】
そして、上記のようにして作製した3種類の太陽電池モジュールのそれぞれについて、株式会社ウシオスペックス製クセノン5kW光源装置を用いて擬似太陽光の照射を行なって紫外線照射試験を行なった。ここで、紫外線照射試験を加速させるために地球上での太陽光の200倍となるように擬似太陽光の調整を行なった。
【0102】
図24に、上記の3種類の太陽電池モジュールのそれぞれに3000日相当分の擬似太陽光を照射したときの太陽電池モジュールの出力を示す。図24において、横軸は、太陽電池用表面保護シート1における波長325nmの光の吸収率を示し、縦軸は、太陽電池用表面保護シート1を貼り付け前の太陽電池ストリングの出力を100(%)とした場合に対する上記の3000日相当分の擬似太陽光の照射後の太陽電池モジュールの出力の割合(%)を算出したものである。
【0103】
図24に示す結果から、3000日相当分の擬似太陽光の照射後の太陽電池モジュールの出力が太陽電池用表面保護シート1を貼り付け前の太陽電池ストリングの出力の80%以上となることが必要であるとすると、波長325nmにおける光の吸収率が20%以下である太陽電池用表面保護シート1(条件12、条件13の無機酸化物膜3を含む太陽電池用表面保護シート1)を用いて太陽電池モジュールを作製する必要があることが確認された。
【0104】
また、別に行った実験により、波長325nmにおける光の吸収率が1%未満である太陽電池用表面保護シート1を用いて太陽電池モジュールを作製した場合には、太陽電池モジュールの出力が80%未満となるため、波長325nmにおける光の吸収率は1%以上の太陽電池用表面保護シート1を用いて太陽電池モジュールを作製する必要があることが確認された。
【0105】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0106】
本発明によれば、長期間の使用時における太陽電池モジュールの出力の低下を抑止することができる太陽電池用表面保護シートを提供することができる。
【0107】
本発明の太陽電池用表面保護シートを用いた太陽電池モジュールは、たとえば宇宙用(人工衛星搭載用)太陽電池モジュールに好適に用いられる。
【符号の説明】
【0108】
1 太陽電池用表面保護シート、2 ポリエチレンナフタレートフィルム、3 無機酸化物膜、4 有機化合物膜、5 シリコーン樹脂、6 太陽電池ストリング、7 太陽電池セル、8 インターコネクタ、9 裏面フィルム、22 ポリアミドイミドフィルム、101 ガラス基板、102 裏面側保護部材、103 エチレンビニルアセテート(EVA)樹脂、104 シリコン太陽電池セル、105 インターコネクタ、201 太陽電池用表面保護シート、202 透明高耐光フィルム、203 接着シート、204 透明高防湿フィルム。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアミドイミドフィルムと、
前記ポリアミドイミドフィルムの一方の表面上に形成された無機酸化物膜とを備え、
波長が300nm以上350nm以下である光の吸収率が1%以上20%以下である、太陽電池用表面保護シート。
【請求項2】
ポリアミドイミドフィルムと、
前記ポリアミドイミドフィルムの一方の表面上に形成された無機酸化物膜とを備え、
波長325nmの光の吸収率が1%以上20%以下である、
太陽電池用表面保護シート。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【公開番号】特開2012−232598(P2012−232598A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−175917(P2012−175917)
【出願日】平成24年8月8日(2012.8.8)
【分割の表示】特願2008−308792(P2008−308792)の分割
【原出願日】平成20年12月3日(2008.12.3)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】