説明

太陽電池用集光部材および太陽電池

【課題】波長変換層において臨界角以上に出射した発光成分を集光する。
【解決手段】集光装置であって、2以上の波長変換層3と、波長変換層の厚さ方向両側に、波長変換層よりも屈折率の低い低屈折率層4が積層されている。2以上の波長変換層の励起波長は、集光装置の厚さ方向の中心から外側へ向かって短波長から長波長へと順次変わるように配置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽電池に用いられる集光部材および該集光部材を用いた太陽電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境負荷の低い発電システムとして、太陽電池を用いた太陽光発電が注目されている。太陽電池の発電効率を高めるため、太陽光を太陽光発電素子の波長吸収特性に応じた波長へと変換することによって、太陽光の全波長域を有効に変換し、光電変換効率を高める技術が提案されている(たとえば文献1)。さらに、波長変換材を含んだ板状の媒体を、太陽光を吸収・集光する導光板として用いて、板の側面に太陽光発電素子を配置することで、照射面積あたりの太陽光発電素子の面積を減らすことが提案されている(たとえば、特許文献1)。これは、太陽の移動に伴って、入射光線の角度が変化する場合でも、放射される発光が等方的であるために、層内で全反射して発電素子に到達する成分が生じることを利用しているものである。さらに、各波長変換層の発光波長に応じた吸収域を有する発電素子を組み合わせることによって、太陽光全域の光を使用することが提案されている(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平2−52470
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Science vol.321 11 July 2008 226−228
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
現状では、最も標準的な太陽電池モジュールにおいて、モジュール全体のコストの半分は太陽光発電素子が占めており、また、波長吸収域が広い高効率素子については、広い面積のものを欠陥なく製造することが非常に困難であり、更に価格が高いという問題がある。
【0006】
そのため、上記のような導光板方式にすることによって、太陽光発電素子の使用量を抑えて、効率的に太陽光発電を行うことは非常に有益であると考えられる。しかしながら、従来の波長変換層は、蛍光・りん光化合物等を発光材料として使用していることから、入射光によって励起された当該化合物が発光する際には、放射方向が等方的となる。そのため、層界面の臨界角以上に出射した成分は、導光せずに層外へと漏れ出してしまい、側端の太陽光発電素子まで到達しないためエネルギーが有効に利用されない、という問題があった。
【0007】
層界面の臨界角は、積層された材料あるいは界面の空気層との屈折率の差によって決まり、例えば、ポリメチルメタクリル酸と空気の間では、界面の垂線に対して約42度となる。よって、これ以上の角度の成分は、隣接する領域に通り抜けてしまい、発電素子まで到達しない。本発明の目的は、波長変換層で得られる放射光を、その放射方向にかかわらず有効に利用できる集光部材および該集光部材を用いた太陽電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述の課題を解決するために、本発明においては、2以上の波長変換層と、前記波長変換層のそれぞれの前記厚さ方向の両側に配置され、前記波長変換層よりも屈折率が低い低屈折率層と、を有し、2以上の前記波長変換層は、励起波長が厚さ方向において中心から外側へ向かって短波長から長波長へと順次変わるように配置されていることを特徴とする集光部材が提供される。
【0009】
また、本発明においては、集光部材であって、2以上の波長変換層と、前記波長変換層のそれぞれの前記厚さ方向の両側に配置され、前記波長変換層よりも屈折率が低い低屈折率層と、を有し、2以上の前記波長変換層は、励起波長が厚さ方向において一方から他方へ向かって長波長から短波長へと順次変わるように配置されており、前記厚さ方向の他方の端面に反射層が配置されていることを特徴とする集光部材が提供される。
【0010】
本発明の一能様においては、前記反射層がテキスチャー構造を有することを特徴とする。
【0011】
本発明の別の一能様においては、太陽光が入光する入光面に反射防止層を設けたことを特徴とする。
【0012】
本発明の別の一能様においては、前記波長変換層は、蛍光化合物、りん光化合物のいずれかを含んでなることを特徴とする。
【0013】
また、本発明の別の一能様においては、前記集光部材の前記厚さ方向の一方の側に、太陽光発電素子が配置されることを特徴とする太陽電池が提供される。
【0014】
このように構成された波長変換層を集光部材として用いることで、層間の臨界角以上の角度に放射されて層内で導光し得なかった光も、隣接する層で再利用することができるようになる。結果として、従来の波長変換層に比較して太陽光発電素子へと導かれる光の量が増え、太陽光の利用効率を高めることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は、本発明に係る太陽電池の概略を表す斜視図である
【図2】図2は、本発明に係る太陽電池の断面図を表す図である。
【図3】図3は、本発明に係る太陽電池の断面図を表す図である。
【図4】図4は、本発明に係る太陽電池に用いる色素のスペクトルの例である。
【図5】図5は、本発明に係る太陽電池の断面図を表す図である。
【図6】図6は、本発明に係る太陽電池の断面図を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、本発明に係る太陽電池について説明する。
【0017】
本発明に係る集光部材を用いた太陽電池の概略図を図1に示す。本発明に係る集光部材を用いた太陽電池は、板状の積層体1(集光部材)厚さ方向と略直行する側方の端面(側端面)に太陽光発電素子2が配置された構成となっている。
【0018】
図2に図1のA−A断面図の例を示す。図2に示されたように、積層体1は波長変換層3と低屈折率層4が厚さ方向交互に積層された構造となっている。波長変換層3は、最大励起周波数と、最大発光波長とが異なる波長変換能を有する層であり、低屈折率層4は、隣接する波長変換層3よりも低い屈折率を有する層である。各層を積層するにあたっては、図2に示したように、α層を中心として外層側に向かって、β層、γ層・・・と対称に配置されている。各層の最大励起波長と最大発光波長との関係については、α層の最大励起波長をExα、最大発光波長をEmαのように表すと、Exα<Exβ<Exγ・・・となるように、また、Emα<Emβ<Emγ・・・と配置されている。低屈折率層4を挟んで隣接する層の最大発光波長と最大励起波長(例えばEmαとExβ)が近いものを組み合わせることが好ましい。さらに、発光波長域と隣接する層における励起波長域が重複することが好ましい。
【0019】
波長変換層3は、樹脂やガラスなどの透明な板あるいはフィルム基材と、フィルム基材に含有された、吸収波長に比して長い波長の光を出す(発光する)ような色素(波長変換剤)と、によって構成される。波長変換層3の基材としては、太陽光発電素子の発電に必要な光を透過させるものであればどのようなものでも良いが、ポリメチルメタクリレート、ポリカーボネート、ポリスチレン、アクリロニトリル・スチレン共重合体などや、ポリエチレンテレフタレート、ポリ塩化ビニル、ポリビニルフロライド、ポリフッ化エチレンプロピレンなどの材料を用いることができる。また、種々のガラス材料を用いることもできる。積層する波長変換層3の数は特に限定されないが、例えば、2層から11層に設計することができる。
【0020】
低屈折率層4は波長変換層3よりも屈折率が低く、太陽光発電素子に必要な光を透過させるものであればよく、波長変換層3と同様の材料やガラス材料を用いることができる。また、波長変換層3同士を空気界面を介して重ねることで、低屈折率4を空気層とすることもできる。
【0021】
このように、波長変換層3と、低屈折率層4とを積層することにより、波長変換層3内の色素から発光した光の大半は、低屈折率層4との界面で全反射されて側面方向へと導光される。
【0022】
波長変換層3の厚みは特に限定されないが、1μmから10mm程度にすることができる。低屈折率層4の厚みは、全反射層としての機能が満たせれば特に限定されないが、0.01μmから1mm程度にすることができる。各層の厚みを薄くするとモジュール全体の重量が軽くなるという利点があり、厚くすると発電素子のサイズが大きくなり、素子の配置が簡便になるという利点がある。波長変換層3と、低屈折率層4との厚みを上記範囲とすることで、モジュール全体の重量が重くなることを抑制しつつ、太陽光発電素子の配置を簡便にすることができる。
【0023】
波長変換層3に含有させる色素としては、例えばPTP、アントラセン、9,10−ジフェニルアントラセンなどのポリフェニル系、BPA、DPS、スチルベン1、スチルベン3などのスチルベン系、1,4−ジスチリルベンゼンなどのスチリルベンゼン系、popop、Dimethylpopop 、PBOなどのオキサゾール系、PBDなどのオキサジアゾール系、クマリン4,151,307,311,DMACなどのクマリン系、ミカホワイトATN、4−アミノナフタル酸フェニルイミドなどのナフタルイミド系、CI Vat Blue 19、20、22などのアントラキノン系、ルミノール Red Violet 440PT 、1,5−ジフェニル−3−スチリル−2−ピラゾリンなどのピラゾリン系、2,5−ジヒドロキシ−テレフタル酸エチル、2,5−ジヒドロキシ−4−メトキシカルボニル安息香酸エチルなどのジヒドロキシテレフタレート系、ルモゲンF Red 300 などのペリレン系、ルミノール Red Violet 635Pなどのアントラキノン系、チオインジゴ Bright Pink G、チオインジゴ Scarlet Rなどのチオインジゴ系、ルミノール Bright Orange 575PTなどのナフタル酸系、ローダミン、アクリジン Redなどのキサンテン系、クマリン系、ナフトイレン系などの有機系の蛍光化合物や、CdS、CdSe、CdSe/ZnSなどの量子ドットや、ユーロピウムやテルビウムを含有した錯体化合物の蛍光も用いることができる。また、りん光化合物も用いることができる。
【0024】
色素はそれ自体、光安定なものか、紫外線吸収剤、酸化防止剤、その他の光安定化処理によって安定化される程度の安定性を持つものが好ましい。
【0025】
色素の濃度は、波長変換することができる濃度以上であれば良く、10ppmから数十%程度にすることができる。色素の種類によっては、高濃度域で発光効率が低下する効果が高い場合もあるので、化合物の種類によって適当な濃度に決定するのが好ましい。
【0026】
波長変換層3は、板あるいはフィルムなどの基材の形成時に溶解、練りこみなどによって色素を含有させたり、板あるいはフィルムなどの基材の表面にグラビア印刷、スクリーン印刷、ロールコート法などの通常の印刷方法などによって色素を含有されることにより製造することができる。また、板或いはフィルムなどの基材の表面に、色素を含んだシートを圧着や、熱による融着によって複合化させてもよい。
【0027】
波長変換層3と低屈折率層4とを積層して、積層体1を形成する方法は特に限定されるものではなく、例えば、押出し成形、インフレーション成形などの共押出し法により複数のフィルムを積層させるか接着剤層を介して複数のフィルムを積層させることにより製造することが出来る。
【0028】
図3に波長変換層内での光の進み方について示す。本発明の一実施形態に係る集光部材においては、集光部材の厚み方向中心部に位置する波長変換層3に含まれる色素の励起波長が最も短波長であり、集光部材の厚さ方向において中心部から離れるに従って、波長変換層3に含まれる色素の励起波長が長波長となっていくように、励起波長が異なる色素を含有した波長変換層3が積層されて集光部材が構成される。また、1つの波長変換層3により発光する光の波長と、隣接する波長変換層3の励起波長は、少なくとも一部が重なるように構成されている。
【0029】
一般的に、蛍光体などの色素は、どの方向から光を受けても、発光する光は等方向(全方位)に放射される。従って、中心の層に含まれる色素から発光した光は、臨界角よりも小さい角度で放射されたものは、隣接する低屈折率層の界面で全反射して伝播され(7)、それ以外の光は隣接する波長変換層βへと移動する(8)。ここで、それぞれの波長変換層での発光波長域が、隣接する波長変換層に存在する色素の吸収波長域と重なっているために、全反射されずに隣接する波長変換層3に入射した光は、隣接層の色素の励起光源として効率よく働くことになる。そして、隣接層βで発光した光のうち、臨界角よりも小さな角度で放射されたものは、さらに隣接層γにて励起光として利用され、それ以外の光は界面で全反射して伝播される。このように、波長変換層を一層だけ配置した場合では、波長変換層内部を導光せずに外部に放射されてしまう光を、隣接する層で有効活用できるために、より多くの光が側端面に配置された太陽光発電素子へと導光される。好適な例として、図4に励起・発光スペクトルの組み合わせを示す。
【0030】
図5を参考に、本発明の他の実施形態に係る集光装置について説明する。本実施形態においては、集光部材の最下に反射層5が配置されている。最も励起波長が短い層(図ではα層)を反射層5とを対面させた配置としている。また、反射層5から遠くに配置される波長変換層ほど、励起波長が長波長となるように、波長変換層3が配置される。α層内から反射層に向かって通過した光は、反射層5によって反射されて上層で再利用することができるので、積層する層の数を半分にしても、図2の場合と同様の効果がある。また、積層数を少なくすることによって、全体の厚みを薄くすることができる。そのため、モジュールの重量を軽量化しつつ、側端面に配置する太陽光発電素子の使用量を更に削減することが可能である。また、上述のように厚さ方向の中心から外側に向かって励起波長が短波長から長波長に変わるように配置された場合でも、厚さ方向の一方の面に反射層5を設けても構わない。
【0031】
反射層としては、光を十分に反射できるものであれば特に限定されないが、銀やアルミニウムなどの金属薄膜やシリコンゴム、ポリエステルなどの樹脂や酸化チタン、シリカなどの無機粒子、或いは、それらを組み合わせたものをコーティングしたフィルム、エンボスフィルム、マイクロプリズムなどを用いることができる。
【0032】
α層と反射層5の間は、図2と同様の低い屈折率をもつ材料を用いた低屈折率層にすることもできるし、空気層にしてもよい。また、図6に示すように、反射面をテクスチャー構造にすることで、光が様々な方向に拡散され、導光効率を高くすることができる。
【0033】
テクスチャー構造は、光を拡散するような構造であれば特に限定されないが、反射による光量損失が少なく、光を十分に反射することができるものが好ましい。
【0034】
太陽光発電素子の種類は特に限定されないが、汎用されている結晶系シリコン、アモルファスシリコンなどの吸収波長域が限定的であるものと組み合わせると、本発明の効果が顕著となる。また、各層ごとに吸収域が異なる種類の太陽光発電素子を用いることもできる。
【0035】
波長変換層の積層化の方法については特に制約はなく、例えば、押出し成形、インフレーション成形などの共押出し法により複数のフィルムを積層させるか接着剤層を介して複数のフィルムを積層させることにより製造することが出来る。また、波長変換層は異なる物質を含む層を積層されたものに限定されるものではなく、例えば一層の板状部材において、厚さ方向に異なる物質が含まれるような構造により、吸収波長が中心から外側へ向かって短波長から長波長へと順次変わるようにされても構わない。
【符号の説明】
【0036】
1 積層体
2 太陽光発電素子
3 波長変換層
4 低屈折率層
5 反射面
6 テクスチャー構造

【特許請求の範囲】
【請求項1】
集光部材であって、
2以上の波長変換層と、
前記波長変換層のそれぞれの厚さ方向の両側に配置され、前記波長変換層よりも屈折率が低い低屈折率層と、を有し、
2以上の前記波長変換層は、前記波長変換層の励起波長が前記集光部材の前記厚さ方向の中心から外側へ向かって短波長から長波長へと順次変わるように配置されていることを特徴とする集光部材。
【請求項2】
集光部材であって、
2以上の波長変換層と、
前記波長変換層のそれぞれの厚さ方向の両側に配置され、前記波長変換層よりも屈折率が低い低屈折率層と、を有し、
2以上の前記波長変換層は、前記波長変換層の励起波長が前記集光部材の前記厚さ方向の一方から他方へ向かって長波長から短波長へと順次変わるように配置されており、
前記集光部材の前記厚さ方向の他方の端面に反射層が配置されていることを特徴とする集光部材。
【請求項3】
前記反射層がテキスチャー構造を有することを特徴とする請求項2に記載の集光部材。
【請求項4】
太陽光が入光する入光面に反射防止層を設けたことを特徴とする請求項1乃至3に記載の集光部材。
【請求項5】
前記波長変換層は、蛍光化合物、りん光化合物のいずれかを含んでなる、請求項1乃至4に記載の集光部材。
【請求項6】
請求項1乃至5に記載の集光部材と、
前記集光部材の側端面の少なくとも1つに、太陽光発電素子が配置されることを特徴とする太陽電池。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−54814(P2011−54814A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−203309(P2009−203309)
【出願日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】