説明

夾雑物捕捉装置

【課題】装置を複雑にすることなく、捕捉された夾雑物を円滑に排出する。
【解決手段】流体管路1の底部3に開閉自在の排出口8を設け、その排出口8の下流側に袋状フィルタ10を設ける。その袋状フィルタ10の底部14に紐5の一端を繋いで、その紐5の他端を前記排出口8から流体管路1外へ引き出し、その他端に排水圧を受けて前記紐5を排水方向へと引く受圧部20を設ける。前記排出口8を開放することにより紐5が引かれて前記袋状フィルタ10は排出口8に近づき、下流側へ膨らんでいた袋状フィルタ10が上流側へ反転して、夾雑物の付着した内側面12が排出口に近づく。このため、排水の吸引力により夾雑物はフィルタから離脱しやすくなり、夾雑物を円滑に除去して管外へ排出できるようになる。排出口8からの水の排水により紐5を引くことができるのでフィルタの洗浄が簡単であり、また、底部3に沈降した夾雑物を同時に排出できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、流水中の夾雑物を捕捉し排出するため流体管路に設けられる夾雑物捕捉装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
水道管等の流体管路には、その管路内を流れる水に含まれる夾雑物(異物)を捕捉し、その捕捉した夾雑物を、適宜の時期に管外へ排出できるようにした夾雑物捕捉装置が設けられる。
【0003】
例えば、特許文献1に記載の夾雑物捕捉装置は、管路の途中に拡径部を設けて分離槽とし、その分離槽の前後の管路には、その内径が分離槽に近づくにつれて徐々に大きくなるディフューザ部を設けている。
前記分離槽内に、管路の管軸方向を横断する向きの網状体(フィルタ)が吊して設けられており、夾雑物は、比重の小さなものがその網状体で捕捉されるとともに、比重の大きなものが分離槽内で沈降するようになっている。また、装置下方に設けた排出口を開けば、捕捉、沈降した夾雑物が流水とともに管外へ排出される。
【0004】
なお、特許文献2には、流体中のスラリーを捕捉する濾過器の技術が開示されている。この濾過器は、管路に袋状フィルタを取り付け、その管路内に濾液を旋回させながら導入して前記袋状フィルタを膨らませ、その膨らんだ袋状フィルタによって夾雑物(スラリー)を捕捉するものである。夾雑物は、旋回流の作用によりフィルタの中央部に集中して捕捉される。
【特許文献1】実開平5−51413号公報
【特許文献2】特公昭62−49090号公報(第5頁第10図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1に記載の夾雑物捕捉装置において、網状体は分離槽内の上方に設けられ、すべての水流がその網状体を通過するわけではない。このため、分離槽に沈降しない比重の小さな夾雑物が網状体下方を通過して下流側へ流れ出すおそれがある。また、既に捕捉された夾雑物が、フィルタから脱落して下流側へ流れ出すおそれもあるので、好ましくない。また、フィルタに付着した夾雑物は、分解洗浄等により除去する必要があるので、メンテナンスが面倒である。
【0006】
また、上記特許文献2に記載の濾過器によれば、管路内上方のフィルタに近接して逆洗用排出口を設けているので、装置の構造が複雑である。装置の構造が複雑になれば、その装置の製造、維持管理コストが上昇するので好ましくない。
さらに、この濾過器では、底部に排出口がないので、比重の大きな夾雑物を効率的に排出できない。比重の大きな夾雑物は、管路底部に沈殿するからである。したがって、比重の大きな夾雑物を効率的に捕捉するためには、特許文献1のごとく、管底部にも排出口を設ける必要がある。排出口を複数設けることは、さらに構造を複雑にするので好ましくない。
【0007】
そこで、この発明は、装置を複雑にすることなく、捕捉された夾雑物を円滑に管外へ排出することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、この発明は、管路を塞いで設けた袋状フィルタの内側に紐を繋いで、その紐を管底部の排出口に向かって引くようにしたのである。このようにすれば、紐が引かれれば、袋状フィルタは排出口に近づき、排出口から水が流出することによる吸引力が、前記フィルタに付着した夾雑物に作用しやすくなる。このため、フィルタにより捕捉された夾雑物は、その吸引力によってフィルタから離脱しやすくなり、円滑に管外へ排出できる。
【発明の効果】
【0009】
この発明は、以上のようにしたので、装置を複雑にすることなく、捕捉された夾雑物を円滑に管外へ排出できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
上記手段の具体的実施形態として、流体管路の底部に開閉自在の排出口を設け、その排出口の下流側に流体管路を塞ぐフィルタを取り付けた夾雑物捕捉装置において、前記フィルタは前記流体管路の流路断面全面を塞ぐ袋状フィルタであり、その袋状フィルタ内に紐の一端を繋いでその紐の他端を前記流体管路外へ引き出し、前記他端を引くことにより前記袋状フィルタが排出口に近づくようにしたのである。
【0011】
このようにすれば、紐を引くことにより、流体の流れにより下流側へ膨らんでいた袋状フィルタが上流側へ反転して、夾雑物の付着した内側面が排出口に近づく。このため、排出口から水が流出することによる吸引力が、前記フィルタに付着した夾雑物に作用しやすくなる。この作用により、夾雑物はフィルタから離脱しやすくなり、夾雑物を円滑に除去して管外へ排出できるようになる。
【0012】
また、上記の構成において、前記袋状フィルタの開口を、前記排出口へ向けて下向きに傾けて設ければ、紐を引いて前記袋状フィルタを反転させた際の、フィルタ各部と排出口との距離に、ばらつきがなくなる。このため、フィルタ全体に亘って、より均等に夾雑物を除去しやすくなる。
【0013】
さらに、上記の構成において、前記紐の他端は、前記排出口を介して前記流体管路外へ引き出され、その紐に、前記排出口からの排水圧を受けて前記紐を排水方向へと引く受圧部を設けた構成を採用し得る。
このようにすれば、排出口からの水の排水圧により紐を引くことができるので、フィルタの洗浄が簡単である。
【0014】
また、上記の構成において、前記流体管路に拡径部を形成し、前記排出口を前記拡径部に設ければ、排出口を開放することにより、拡径部に沈降した比較的比重の重い夾雑物を排出でき、同時にフィルタに付着した夾雑物をも円滑に排出できるので、効率的に夾雑物を排出できるようになる。
【0015】
さらに、前記紐を、前記排出口又はその排出口から管外へ通じる排出管に設けた縮径部に、前記受圧部が当接することにより抜け止めされるようにすれば、受圧部と抜け止め部材を兼用でき、構造がより簡単になる。
【実施例】
【0016】
一実施例を、図1及び図2に基づいて説明する。この実施例の夾雑物捕捉装置は、水道管の流体管路1に介設された十字管7により、沈降トラップ形の拡径部2を設けたものであり、その十字管7の底部3に、管内の水を排出する排出口8が接続されている。排出口8は、排出管9及び電動弁19を介して管外に引き出され、排出された水は下水道等へ放流されるようになっている。
【0017】
前記十字管7は、図1に示すように、流体管路1の管軸方向に直交して設けた鉛直筒部の上下端部が開口しており、その開口のいずれかから鉛直筒部内にステンレス製のネット取付管6が挿入されて、前記上下端の開口をそれぞれ上蓋13と下蓋15で閉じている。その上蓋13及び下蓋15は、それぞれ十字管の上下フランジ17,18に、ボルト13a,15a及びナット13b,15bを介して固定されている。なお、前記底部3の排出口8は、この下蓋15に形成されている。
【0018】
ネット取付管6の周面には、その上下方向中程に対向する開口4a,4bを形成しており、その両開口4a,4bが、それぞれ十字管7に接続された流体管路1の上流側、下流側方向へと開口している。
【0019】
袋状フィルタ10は、開口11からフィルタ底部14に至る袋状のものであり、水を透過させ、且つ夾雑物を捕捉する性能を有するものである。その材質は、柔軟に変形可能な繊維製のものが望ましい。例えば、ナイロン、ポリエステル、ポリエチレン繊維などが挙げられる。
また、袋状フィルタ10は、流体管路1の流路断面全面を塞ぐようになっており、通過するすべての流水がこのフィルタ10を透過する。その形状は、この実施例では、流体管路1の流れ方向に対し下流側に向かうにしたがって徐々に細くなる円錐形状を採用している。
【0020】
この袋状フィルタ10が、前記ネット取付管6の下流側開口4bに取り付けられる。その取り付け方法は、図1に示すように、ネット取付管6の内側から、袋状フィルタ10が前記開口4bに挿入され、その開口11の縁11aが前記開口4bの周縁に固定される。したがって、袋状フィルタ10は、通常時は、前記開口11が上流側に向くように配置され、そのフィルタ10全体が前記排出口8よりも下流側に位置している。
すなわち、流水管路1内に図1に示す矢印Aの方向に水が流れると、袋状フィルタ10が開口11から流水を受けて、その袋状フィルタ10は下流側へと膨らみ、その内側面12に夾雑物が付着するとともに、水は矢印Bの方向へ流れていく。このとき、袋状フィルタ10は、円錐形状を成しているので、夾雑物は、円錐の先端すなわち、フィルタ底部14に溜まりやすくなる。
【0021】
その袋状フィルタ10の内側面12における底部14に、所定長さの紐5の一端を接続する。紐5の材質としては、伸びが比較的少なく、耐摩耗性の良好なものが望ましい。例えば、ナイロン、ポリエステル、ポリエチレン等の高強度、高耐摩耗のものが挙げられる。
さらに、その紐5の他端を、前記排出口8に挿入してその排出口8から管外へ通じる排出管9に設けた縮径部16に通過させる。紐5の他端は、その縮径部16と前記電動弁19との間に常に位置するようになっており、その他端に、図1に示す断面三角形の抵抗体21が設けられている。抵抗体21の材質としては、変形せず水中で沈み、且つ比較的比重の軽いものが望ましい。例えば、樹脂製とする場合には、ポリエチレン、ポリアセタール樹脂等が挙げられる。形状としては、排水方向の流体圧(排水圧)を受けることによりその流体の抵抗となり得るものであり、その流体圧により、流れ方向に沿って移動するものであることが必要である。
【0022】
この夾雑物捕捉装置の作用を説明すると、排出口8を閉じた通常の使用状態において、袋状フィルタ10は、その流体の流れにより下流側に向かって膨らんだ状態で維持され、流水は透過するとともに、例えば、塗料片のような水中を浮遊する比較的比重の小さい夾雑物がその内側面12に付着していく。
一方、砂や錆などの比重の大きな夾雑物は、管底部を転がるように移動するため、十字管7の底部3に沈降し、一時的に溜められる。
フィルタ10に夾雑物が多数付着すれば目詰まりを生じさせるので、管路1の圧力損失を増大させ、この状態で放置すればやがて下流側に所定の流量が供給できない事態も生じ得る。また、前記底部3にも多数の夾雑物が沈殿するようになる。このため、定期的に電動弁19を動作させて、夾雑物を排出させる。
【0023】
排出管9の電動弁19を動作させると、前記排出口8から管路1内の水が、ドレン排水として底部3に沈殿した夾雑物とともに管外へ排出される(図2の矢印C,D参照)。この排水により、前記排出管9内の抵抗体21の受圧部20に流体圧が作用し、抵抗体21は下流側へ移動する。その結果、前記紐5は排水方向へと引かれることになる。抵抗体21は断面三角形の傘形状としたので、流体の流れに抵抗を与え、強く紐5を引くことができる。
【0024】
紐5が排水方向へと引かれると、流体の流れにより下流側へ膨らんでいた袋状フィルタ10が上流側へ反転して、夾雑物の付着した内側面12が、図2に示すように排出口8に近づく。
このため、排出口8から水が流出することによる吸引力が、前記フィルタ10に付着した夾雑物に作用しやすくなる。この作用により、夾雑物はフィルタ10から離脱しやすくなり、夾雑物を円滑に除去して管外へ排出できるようになる。さらに、このとき、袋状フィルタ10は、円錐形状であるので、その底部14の一点に紐5を接続すれば、紐5を引いたときにフィルタ10が上流側へ反転しやすいという効果がある。
【0025】
また、この排出口8からの排水により、拡径部2内には乱流が生じ、袋状フィルタ10は振動する。このため、内側面12に付着した夾雑物は、その振動等により効率的にその付着面から離脱し、排出口8を介して管外へ排出できるようになる。
【0026】
電動弁19の動作により排出口8を閉じれば排水が停止し、紐5を排水方向へ引く力が作用しなくなる。このため、袋状フィルタ10は、図1に示す状態に復帰する。このとき、紐5は、逆に流体管路1の下流側に向かって引かれることになるが、紐5の他端に設けた抵抗体21の受圧部20が、前記縮径部16の周縁に当接することにより抜け止めされ、紐5の他端が排出口8から拡径部2内へ抜けてしまうことがない。
【0027】
この実施例では、前記排出口8を流体管路1に介設した拡径部2に設けたが、その排出口8は前記拡径部2以外の流体管路1の一般部に設けたものでもよい。
また、この実施例では、紐5をドレン排水の流体圧でもって排水方向へ引くようにしたが、例えば、紐5を手で引くようにした態様も考えられる。その場合、紐5を管外から手動で引くことにより、前記袋状フィルタ10が排出口8に近づくようにすればよい。
【0028】
また、前記袋状フィルタ10の開口11を、排出口8へ向けて下向きに傾斜させてもよい。このようにすれば、その袋状フィルタ10の開口11の全周に亘って、排出口8への距離が均等に近づくので、付着した夾雑物をより均等に除去できるからである。なお、いずれの場合にも、袋状フィルタ10の形状は自由であり、そのフィルタ10への紐5の接続箇所は前記フィルタ底部14に近い方が望ましい。
【0029】
また、紐5の抜け止めについては、この実施例のように抵抗体21を利用してもよいし、排出口8又は排出管9において別に設けてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】一実施例の切断正面図
【図2】図1の排水状態を示す切断正面図
【符号の説明】
【0031】
1 流水管路
2 拡径部
3 底部
4 開口
5 紐
6 ネット取付管
7 十字管
8 排出口
9 排出管
10 袋状フィルタ
11 開口
12 内側面(付着面)
13 上蓋
14 フィルタ底部
15 下蓋
16 縮径部
17,18 フランジ
19 電動弁
20 受圧部
21 抵抗体
F フィルタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体管路1の底部に開閉自在の排出口8を設け、その排出口8の下流側に前記流体管路1を塞ぐフィルタFを取り付けた夾雑物捕捉装置において、
前記フィルタFは前記流体管路1の流路断面全面を塞ぐ袋状フィルタ10であり、その袋状フィルタ10内に紐5の一端を繋いでその紐5の他端を前記流体管路1外へ引き出し、前記他端を引くことにより前記袋状フィルタ10は排出口8に近づくことを特徴とする夾雑物捕捉装置。
【請求項2】
前記袋状フィルタ10の開口11は、前記排出口8へ向けて下向きに傾けて設けられることを特徴とする請求項1に記載の夾雑物捕捉装置。
【請求項3】
前記紐5の他端は、前記排出口8を介して前記流体管路1外へ引き出され、その紐5に、前記排出口8からの排水圧を受けて前記紐5を排水方向へと引く受圧部20を設けたことを特徴とする夾雑物捕捉装置。
【請求項4】
前記流体管路1に拡径部2を形成し、前記排出口8は前記拡径部2に設けられることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の夾雑物捕捉装置。
【請求項5】
前記紐5は、前記排出口8又はその排出口8から管外へ通じる排出管9に設けた縮径部16に、前記受圧部20が当接することにより抜け止めされることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の夾雑物捕捉装置。

【図1】
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【図2】
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