説明

姿勢・移動軌跡検出装置、検出方法、プログラムおよび記録媒体

【課題】物体に装着したセンサノードからのデータを利用して物体の姿勢および移動軌跡を検出する。
【解決手段】姿勢・移動軌跡検出装置1は、物体が運動しているアクティビティ区間の前後の静止区間のセンサデータから物体の姿勢を静止区間の各々について推定する静止姿勢推定部13と、物体の姿勢に基づいてアクティビティ区間の各時刻における物体の姿勢を補間により推定する運動姿勢推定部14と、アクティビティ区間の各時刻について運動姿勢推定部14が推定した物体の姿勢における重力加速度を推定する重力加速度推定部15と、アクティビティ区間の各時刻についてセンサデータと重力加速度とから、外力により生じる物体の加速度を推定する運動加速度推定部16と、物体の加速度からアクティビティ区間における物体の移動速度および移動量を求める移動軌跡推定部17とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばカップや歯ブラシといった3次元空間中で自由に姿勢変化および移動可能な物体を対象とし、これらの物体に装着したセンサノードからセンサデータを受信して、物体の姿勢や移動軌跡を検出する姿勢・移動軌跡検出装置、検出方法、プログラムおよび記録媒体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、物体の移動軌跡を検出するには、GPS(Global Positioning System )や超音波、赤外線、微弱電波を利用したビーコンシステムによる測位と、コンピュータビジョンによる画像解析が利用されてきた。
また、物体の姿勢の検出に関しては、前述のコンピュータビジョンによる画像解析に加えて、地磁気を測定する方位センサによる磁北の方向の検出や加速度センサにより重力加速度を測定することによる鉛直方向の検出が利用されてきた(例えば非特許文献1参照)。この検出方法は、磁北と鉛直といった平行でない2つのベクトルの方向を観測することができれば、物体の3次元姿勢を決定できるという原理による。
【0003】
【非特許文献1】星貴之,篠田裕之,「リアルタイムに形状計測可能な布状デバイス」,第8回計測自動制御学会システムインテグレーション部門講演会(SI2007),p.977−978,2007
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、GPSによる測位は、GPSの電波が受信できない室内の物体には適用できないという問題点があった。
また、ビーコンシステムおよびコンピュータビジョンによる検出では、観測対象の物体を囲むように空間中にビーコン送信機またはカメラを設置する必要があり、日常的な生活環境への設置が難しいという問題点があった。
【0005】
一方、方位センサや加速度センサは小型化が進んでおり、例えばカップや歯ブラシといった生活環境中に存在する小型の物体にこれらのセンサを装着することが可能である。さらには、バーコードやRF−IDタグのように生産時または出荷時にセンサを物体に埋め込むことも考えられる。これらのセンサを利用して、物体の姿勢に加えて移動軌跡を検出することが可能となれば、前述のGPSやビーコンシステム、コンピュータビジョンを利用した測位における設置の問題を回避できる。
【0006】
特に、加速度センサの利用は、物体の移動に関わる外力を検出できることから、物体の移動軌跡の検出には適していると考えられる。しかしながら、加速度センサで測定できる加速度は、地球上で鉛直方向に働く重力加速度と物体の移動に関わる外力との合力となるため、重力加速度と外力を分離する必要がある。
設置方向が固定された物体(例えば、かならず地表面に対して水平に設置され、その姿勢を保ったまま運動する物体)においては、測定される重力加速度を固定して考えることができるため、加速度の測定値から所定の重力加速度を減ずることで移動に関わる外力を求めることができる,しかしながら、カップや歯ブラシなどのように自由に移動させることのできる物体においてはこの仮定は成立せず、測定値からただちに重力加速度を除いた外力を求めることは難しい。
【0007】
本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、物体に装着したセンサノードからのセンサデータを利用して、物体の姿勢および移動軌跡を検出することができる姿勢・移動軌跡検出装置、検出方法、プログラムおよび記録媒体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、センサノードが装着された物体の姿勢および移動軌跡を検出する姿勢・移動軌跡検出装置において、センサノードから受信したセンサデータに基づいて物体が運動しているアクティビティ区間を検出するアクティビティ検出手段と、前記アクティビティ区間が検出されたときに、このアクティビティ区間の前後の静止区間を探索する静止区間探索手段と、前記アクティビティ区間の前後の静止区間のセンサデータから物体の姿勢を静止区間の各々について推定する静止姿勢推定手段と、前記アクティビティ区間の前後の静止区間における物体の姿勢に基づいて、前記アクティビティ区間の各時刻における物体の姿勢を補間により推定する運動姿勢推定手段と、前記アクティビティ区間の各時刻について前記運動姿勢推定手段が推定した物体の姿勢における重力加速度を推定する重力加速度推定手段と、前記アクティビティ区間の各時刻について前記センサデータと前記重力加速度推定手段が推定した重力加速度とから、外力により生じる物体の加速度を推定する運動加速度推定手段と、この運動加速度推定手段が推定した物体の加速度から前記アクティビティ区間における物体の移動速度および移動量を求める移動軌跡推定手段とを備えることを特徴とするものである。
【0009】
また、本発明の姿勢・移動軌跡検出装置の1構成例において、前記運動姿勢推定手段は、前記補間を行う際に、前記静止姿勢推定手段が推定した3軸の姿勢のパラメータにそれぞれ独立にジャーク最小原理を適用し、前記アクティビティ区間の各時刻における物体の3軸の姿勢のパラメータを計算することを特徴とするものである。
また、本発明の姿勢・移動軌跡検出装置の1構成例において、前記センサデータは、3軸の加速度観測値と3軸の方位観測値とを含むことを特徴とするものである。
【0010】
また、本発明の姿勢・移動軌跡検出方法は、センサノードから受信したセンサデータに基づいて物体が運動しているアクティビティ区間を検出するアクティビティ検出手順と、前記アクティビティ区間を検出したときに、このアクティビティ区間の前後の静止区間を探索する静止区間探索手順と、前記アクティビティ区間の前後の静止区間のセンサデータから物体の姿勢を静止区間の各々について推定する静止姿勢推定手順と、前記アクティビティ区間の前後の静止区間における物体の姿勢に基づいて、前記アクティビティ区間の各時刻における物体の姿勢を補間により推定する運動姿勢推定手順と、前記アクティビティ区間の各時刻について前記運動姿勢推定手順で推定した物体の姿勢における重力加速度を推定する重力加速度推定手順と、前記アクティビティ区間の各時刻について前記センサデータと前記重力加速度推定手順で推定した重力加速度とから、外力により生じる物体の加速度を推定する運動加速度推定手順と、この運動加速度推定手順で推定した物体の加速度から前記アクティビティ区間における物体の移動速度および移動量を求める移動軌跡推定手順とを備えることを特徴とするものである。
【0011】
また、本発明の姿勢・移動軌跡検出プログラムは、センサノードから受信したセンサデータに基づいて物体が運動しているアクティビティ区間を検出するアクティビティ検出手順と、前記アクティビティ区間を検出したときに、このアクティビティ区間の前後の静止区間を探索する静止区間探索手順と、前記アクティビティ区間の前後の静止区間のセンサデータから物体の姿勢を静止区間の各々について推定する静止姿勢推定手順と、前記アクティビティ区間の前後の静止区間における物体の姿勢に基づいて、前記アクティビティ区間の各時刻における物体の姿勢を補間により推定する運動姿勢推定手順と、前記アクティビティ区間の各時刻について前記運動姿勢推定手順で推定した物体の姿勢における重力加速度を推定する重力加速度推定手順と、前記アクティビティ区間の各時刻について前記センサデータと前記重力加速度推定手順で推定した重力加速度とから、外力により生じる物体の加速度を推定する運動加速度推定手順と、この運動加速度推定手順で推定した物体の加速度から前記アクティビティ区間における物体の移動速度および移動量を求める移動軌跡推定手順とを、コンピュータに実行させることを特徴とするものである。
また、本発明の記録媒体は、姿勢・移動軌跡検出プログラムを記録したものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、物体が運動しているアクティビティ区間を検出し、アクティビティ区間の前後の静止区間のセンサデータから物体の姿勢を静止区間の各々について推定し、この推定した物体の姿勢に基づいて、アクティビティ区間における物体の姿勢を補間により推定することにより、物体の運動中の姿勢を求めることができる。さらに、本発明では、アクティビティ区間について推定した物体の姿勢における重力加速度を推定し、アクティビティ区間について測定されたセンサデータと重力加速度とから外力により生じる物体の加速度を推定し、この物体の加速度からアクティビティ区間における物体の移動速度および移動量を求めるようにしたので、物体の運動中に観測される重力加速度と物体の移動に関わる外力とを分離することができ、物体の運動中の移動軌跡(移動速度および移動量)を求めることができる。本発明では、ビーコンシステムやコンピュータビジョンといった手法を使用しないので、日常的な生活環境に容易に適用することができる。
【0013】
また、本発明では、運動姿勢推定手段が補間を行う際に、静止姿勢推定手段が推定した3軸の姿勢のパラメータにそれぞれ独立にジャーク最小原理を適用し、アクティビティ区間の各時刻における物体の3軸の姿勢のパラメータを計算するので、物体の運動に関与する人の手の運動を考慮して補間することができ、センサデータから物体の運動中の姿勢と移動軌跡を高精度に検出することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
[発明の原理]
本発明は、3次元空間中で自由に姿勢変化および移動が可能な物体の姿勢および移動軌跡を検出するにあたり、移動前後の静止状態における物体の姿勢を求め、移動前の静止状態と移動後の静止状態との間の物体の姿勢を補間することで移動中の物体の姿勢を推定し、推定した物体の姿勢において測定されるべき重力加速度を算出し、実際に測定された加速度から、算出した重力加速度を減ずることで外力による加速度を推定し、この推定した加速度を時間について積分することで物体の移動速度および移動量を算出して、物体の移動軌跡を推定する。
【0015】
移動前後の静止状態における物体の姿勢は、従来技術で求めることができる。物体の姿勢の補間にあたっては、数学的には一次式による補間を用いても良いのであるが、日常生活環境における物体の移動には人による行為が関与していることから、人の手の運動を近似する方法として知られているジャーク最小モデルに基づく補間式を用いることで、物体の姿勢と移動軌跡の適切な推定を実現する。
【0016】
[実施の形態]
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。図1は本発明の実施の形態に係る姿勢・移動軌跡検出装置の構成を示すブロック図である。
本実施の形態の姿勢・移動軌跡検出装置1は、サーバ10と、アクティビティ検出部11と、静止区間探索部12と、静止姿勢推定部13と、運動姿勢推定部14と、重力加速度推定部15と、運動加速度推定部16と、移動軌跡推定部17とから構成される。
【0017】
本実施の形態が想定している環境では、室内のさまざまな物体に汎用的なセンサノード2が装着されている。図2は本発明の実施の形態に係るセンサノード2の構成を示すブロック図である。センサノード2は、複数種類のセンサ20と、他のセンサノード2やサーバ10にデータを送信する通信モジュール21と、プログラムを記憶するメモリ22と、メモリ22に格納されたプログラムに従ってセンサ20や通信モジュール21を制御するプロセッサ23とから構成される。
【0018】
センサノード2のプロセッサ23は、稼動しているセンサ20の測定値を常時収集して処埋する。また、プロセッサ23は、必要に応じて、通信モジュール21を通して他のセンサノード2やサーバ10に収集したデータを送信して、処理を委ねる。プロセッサ23は、例えば一定時間ごとにデータを送信する。
【0019】
センサノード2は、3次元空間中で自由に姿勢変化および移動が可能な物体に装着されるので、センサノード2間、およびセンサノード2とサーバ10間の通信には無線通信を用いることが好ましい。無線通信としては、例えば無線LAN(Local Area Network)などを利用できる。
【0020】
物体の姿勢と移動軌跡の検出にあたっては、センサノード2に搭載されている複数種類のセンサ20のうち、地磁気を検出する方位センサと加速度を検出する加速度センサとから収集した情報を用いる。方位センサは、互いに交差する2方向ないし3方向に配されたセンサからなり、2次元ないし3次元のベクトル値として、地磁気の大きさを測定することができる。同様に、加速度センサも、2方向ないし3方向に配されたセンサからなり、2次元ないし3次元のベクトル値として、加速度の大きさを測定することができる。測定の頻度は任意であるが、現在市販されているセンサでは5ms間隔程度での測定を連続して行うことが可能である。
【0021】
静止しているときの物体の姿勢は、2つの方向ベクトルを用いることで決定することができる。例えば、1つ目の方向ベクトルとして方位センサにより検出した磁北の方向だけが与えられた場合、物体の姿勢はそれだけでは決定することができず、磁北を指すベクトルの周りの回転について自由度が残る。そこで、磁北を指すベクトルと平行でないもう1つのベクトルとして、地球上の鉛直方向を意味する重力加速度のベクトルを与えると、物体の姿勢を決定することができる。
【0022】
また、物体の姿勢に制約がある場合には、必ずしも3次元のベクトルを用いる必要はない。例えばドアなどに装着されたセンサの場合、鉛直方向への姿勢変化は考慮する必要が無いため、2次元のベクトルが検出できれば十分である。現在市販されているセンサでは、3次元の方位センサと加速度センサがパッケージ化されたものが存在するため、磁北のベクトルと重力加速度のベクトルの組を用いることが実装上は容易である。しかしながら、物体に外力が働いている場合には、重力加速度の方向の検出に工夫が必要であり、本実施の形態はその点について解決する。
【0023】
図3は本実施の形態の姿勢・移動軌跡検出装置1の動作を示すフローチャートである。前記のとおり、サーバ10は、センサノード2からのデータを受信する(図3ステップS1)。本実施の形態では、センサノード2から送信されるデータは、3軸の加速度ベクトルである加速度観測値と、3軸の地磁気ベクトルである方位観測値である。
【0024】
次に、静止時の物体の姿勢の決定に先立って、物体が静止しているか否かの判別が必要である。物体が静止状態にあるとき、方位および加速度の測定値には変化が生じないことから、センサデータに変化が生じていない時区間を静止区間とし、他方、センサデータに変化が連続して生じている時区間をアクティビティ区間とする。アクティビティ検出部11は、センサノード2から受信したセンサデータに変化が連続して生じている時区間をアクティビティ区間として検出し、それ以外の時区間を静止区間とする(図3ステップS2)。
【0025】
移動していない物体の状態変化は積極的に計算し続ける必要が無いため、物体の姿勢および移動軌跡の検出は、アクティビティ区間を対象として行う。アクティビティ区間が検出された際に、その前後の静止区間における物体の姿勢を求め、その姿勢を用いてアクティビティ区間における物体の姿勢および移動軌跡を推定する。
【0026】
物体の移動軌跡の推定にあたって、まず物体の姿勢に変化がない場合の移動軌跡の推定について考える。物体に外力が加えられた場合、物体は移動する。このときの外力の強さに応じた加速度が、この物体に装着されたセンサノード2の加速度センサによって測定される。ここで、加速度センサによる測定値は、外力による加速度に加えて、物体が存在する地点における重力加速度が重畳されたものとなる。
【0027】
物体の姿勢に変化がない場合、観測される重力加速度は移動の前後で変化しないので、物体の静止時に測定された加速度の値をその静止地点における重力加速度として、この重力加速度を物体の移動中に観測された個々の加速度測定値から減ずることで、運動に寄与する外力による加速度を算出することができる。この外力による加速度を時間について積分することで物体の速度を求めることができ、さらに物体の速度を積分することで物体の移動量を求めることができる。
【0028】
物体の姿勢に変化がある場合、その姿勢に応じて物体から見た重力加速度の方向が変化するため、静止時に測定された重力加速度の値を加速度測定値から単純に減ずることはできない。そこで、各時点における物体の姿勢を推定することで、その姿勢において加速度センサで観測されるべき重力加速度の大きさを推定し、推定した重力加速度を加速度測定値から減ずることにより、運動に寄与する外力による加速度を算出することができる。
【0029】
静止区間探索部12は、アクティビティ検出部11においてアクティビティ区間が検出されたときに、このアクティビティ区間の前後の静止区間を探索する(図3ステップS3)。ここでは、アクティビティ区間の直前に存在する静止区間をST1、アクティビティ区間の直後に存在する静止区間をST2とする。
【0030】
静止姿勢推定部13は、静止区間ST1,ST2において測定されたセンサデータからそれぞれ静止区間ST1,ST2における物体の静止時の姿勢を推定する(図3ステップS4)。ここでは、物体の姿勢のパラメータを以下のように定める。まず、物体が静止している地点における北方向をX、西方向をY、鉛直上向きをZとした空間座標系を定める。この物体に装着されたセンサノード2における3次元のxyz座標系と上述のXYZ空間座標系との関係として、x軸、y軸、z軸がそれぞれX軸、Y軸、Z軸と一致する方向をセンサノード2(物体)の基準姿勢とする。この基準姿勢から、まずz軸周りに回転角ξの回転を行ない、次いでy軸周りに回転角φの回転を行ない、x軸周りに回転角θの回転を行ったときの物体の姿勢を(θ,φ,ξ)で表わすこととする。
【0031】
3軸の加速度センサと3軸の方位センサを持つセンサノード2では、各瞬間に加速度ベクトルa(t)=(ax(t),ay(t),az(t))と、地磁気ベクトルh(t)=(hx(t),hy(t),hz(t))を観測できる。物体が基準姿勢で静止しているときの加速度ベクトルをa0=(ax0,ay0,az0)、地磁気ベクトルをh0=(hx0,hy0,hz0)とする。静止姿勢における加速度は、その静止した地点での重力加速度ベクトルに相当する。
【0032】
ある時刻tにおいて物体が静止しており、センサノード2から観測値a(t)=(ax(t),ay(t),az(t))とh(t)=(hx(t),hy(t),hz(t))が得られたとする。観測地点の周辺で重力加速度ベクトルと地磁気ベクトルはほぼ一定であるから、基準姿勢での観測値a0,h0がそれぞれ時刻tにおける観測値a(t),h(t)と一致するように物体を基準姿勢から回転させると、時刻tにおける物体の姿勢パラメータ(θ(t),φ(t),ξ(t))を求めることができる。
【0033】
物体が運動しているアクティビティ区間をt1≦t≦t2とすると、静止姿勢推定部13は、アクティビティ区間の直前の静止区間ST1(正確にはアクティビティ区間の先端時刻t1における静止状態)についてこのときの観測値a(t1),h(t1)と基準姿勢での観測値a0,h0とから上記のようにして物体の姿勢パラメータ(θ(t1),φ(t1),ξ(t1))を求め、またアクティビティ区間の直後の静止区間ST2(正確にはアクティビティ区間の終端時刻t2における静止状態)について観測値a(t2),h(t2)と基準姿勢での観測値a0,h0とから物体の姿勢パラメータ(θ(t2),φ(t2),ξ(t2))を求める(図3ステップS4)。
【0034】
運動姿勢推定部14は、静止区間ST1における物体の姿勢と静止区間ST2における物体の姿勢とから補間を行うことで、アクティビティ区間の各時刻における物体の姿勢を推定する(図3ステップS5)。この補間は、数学的には1次式による補間でも十分であるが、本実施の形態においては、日常生活空間における物体の移動には人の行為が関与していることに注目し、人の手の運動の近似として知られているジャーク最小モデルに基づく補間を行う。
【0035】
ジャーク最小モデルは、人の手の運動を観測した結果として得られたもので、人は本能的にジャーク(跳度、すなわち加速度の時間微分)が最小となるような軌跡で手を動かしていることを示すものである。直感的には、人の手の運動は加速度が滑らかに変化するような軌跡を描いており、そのときの移動量は時間についての5次式として表現される。運動姿勢推定部14は、姿勢パラメータ(θ,φ,ξ)のそれぞれについて、ジャーク最小モデルによる補間を行う。
【0036】
時刻tにおける物体の位置をx(t)とする。x(t)がtについてn回微分可能であるとして、x(t)をn回微分したものをx(n)(t)と表わすことにする。これにより、時刻tにおける物体の速度はx(1)(t)、加速度はx(2)(t)、跳度はx(3)(t)と表すことができる。跳度が最小となるとき,その2回微分についてx(5)(t)=0が成り立つ。
【0037】
上記と同様に、アクティビティ区間をt1≦t≦t2とする。アクティビティ区間の先端時刻t1における静止状態および終端時刻t2における静止状態においては、速度、加速度共に0であるから、時刻t1における物体の位置をx1=x(t1)、時刻t2における物体の位置をx2=x(t2)と表すと、x(t)は以下の方程式の解として定義できる。
【0038】
(5)(t)=0 ・・・(1)
x(t1)=x1,x(1)(t1)=0,x(2)(t1)=0 ・・・(2)
x(t2)=x2,x(1)(t2)=0,x(2)(t2)=0 ・・・(3)
【0039】
この方程式の解はtに関する以下の5次式となる。
x(t)=x1+(x2−x1)(10(t/(t2−t1))3
−15(t/(t2−t1))4+6(t/(t2−t1))5) ・・(4)
【0040】
運動姿勢推定部14は、以上のジャーク最小原理に基づく補間を、姿勢パラメータθ,φ,ξに対してそれぞれ独立に適用することで、時刻t1における姿勢パラメータθ(t1),φ(t1),ξ(t1)と、時刻t2における姿勢パラメータθ(t2),φ(t2),ξ(t2)とから、アクティビティ区間の時刻t(t1≦t≦t2)における姿勢パラメータθ^(t),φ^(t),ξ^(t)を求めることができる(図3ステップS5)。
【0041】
次に、重力加速度推定部15は、アクティビティ区間の各時刻について、運動姿勢推定部14が推定した物体の姿勢における重力加速度を推定する(図3ステップS6)。重力加速度推定部15は、アクティビティ区間の時刻t(t1≦t≦t2)における姿勢パラメータθ^(t),φ^(t),ξ^(t)を用いて、静止姿勢における重力加速度ベクトルa0を回転させることで、時刻tの物体の姿勢で観測されるべき重力加速度g^(t)を求めることができる。
【0042】
運動加速度推定部16は、アクティビティ区間の各時刻について、運動に寄与する外力により生じる物体の加速度を推定する(図3ステップS7)。運動加速度推定部16は、物体に装着されたセンサノード2がアクティビティ区間の時刻t(t1≦t≦t2)で観測した加速度ベクトルa(t)=(ax(t),ay(t),az(t))から、重力加速度推定部15が推定した重力加速度g^(t)を減ずることで、その瞬間の運動に関わる物体の加速度a^(t)を求めることができる。
a^(t)=a(t)−g^(t) ・・・(5)
【0043】
最後に、移動軌跡推定部17は、運動加速度推定部16が求めた物体の加速度a^(t)を時間について積分することで、アクティビティ区間における物体の移動速度v(t)および移動量x(t)を算出する(図3ステップS8)。移動軌跡推定部17は、運動加速度推定部16が求めた運動加速度a^(t)を時刻tに関して積分することで移動速度v(t)を求めることができ、さらに移動速度v(t)を積分することで移動量x(t)を求めることができる。
【0044】
【数1】

【0045】
以上のようにして、本実施の形態では、物体の運動中の姿勢および移動軌跡を求めることができる。
【0046】
なお、本実施の形態の姿勢・移動軌跡検出装置は、CPU、記憶装置および外部とのインタフェースを備えたコンピュータとこれらのハードウェア資源を制御するプログラムによって実現することができる。このようなコンピュータにおいて、本発明の姿勢・移動軌跡検出方法を実現させるための姿勢・移動軌跡検出プログラムは、フレキシブルディスク、CD−ROM、DVD−ROM、メモリカードなどの記録媒体に記録された状態で提供される。CPUは、記録媒体から読み込んだプログラムを記憶装置に書き込み、プログラムに従って本実施の形態で説明したような処理を実行する。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明は、物体に装着されたセンサノードからのセンサデータを用いて、運動中の物体の姿勢と移動軌跡を検出する技術に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明の実施の形態に係る姿勢・移動軌跡検出装置の構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の実施の形態に係るセンサノードの構成を示すブロック図である。
【図3】本発明の実施の形態に係る姿勢・移動軌跡検出装置の動作を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0049】
1…姿勢・移動軌跡検出装置、2…センサノード、10…サーバ、11…アクティビティ検出部、12…静止区間探索部、13…静止姿勢推定部、14…運動姿勢推定部、15…重力加速度推定部、16…運動加速度推定部、17…移動軌跡推定部、20…センサ、21…通信モジュール、22…メモリ、23…プロセッサ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
センサノードが装着された物体の姿勢および移動軌跡を検出する姿勢・移動軌跡検出装置において、
センサノードから受信したセンサデータに基づいて物体が運動しているアクティビティ区間を検出するアクティビティ検出手段と、
前記アクティビティ区間が検出されたときに、このアクティビティ区間の前後の静止区間を探索する静止区間探索手段と、
前記アクティビティ区間の前後の静止区間のセンサデータから物体の姿勢を静止区間の各々について推定する静止姿勢推定手段と、
前記アクティビティ区間の前後の静止区間における物体の姿勢に基づいて、前記アクティビティ区間の各時刻における物体の姿勢を補間により推定する運動姿勢推定手段と、
前記アクティビティ区間の各時刻について前記運動姿勢推定手段が推定した物体の姿勢における重力加速度を推定する重力加速度推定手段と、
前記アクティビティ区間の各時刻について前記センサデータと前記重力加速度推定手段が推定した重力加速度とから、外力により生じる物体の加速度を推定する運動加速度推定手段と、
この運動加速度推定手段が推定した物体の加速度から前記アクティビティ区間における物体の移動速度および移動量を求める移動軌跡推定手段とを備えることを特徴とする姿勢・移動軌跡検出装置。
【請求項2】
請求項1記載の姿勢・移動軌跡検出装置において、
前記運動姿勢推定手段は、前記補間を行う際に、前記静止姿勢推定手段が推定した3軸の姿勢のパラメータにそれぞれ独立にジャーク最小原理を適用し、前記アクティビティ区間の各時刻における物体の3軸の姿勢のパラメータを計算することを特徴とする姿勢・移動軌跡検出装置。
【請求項3】
請求項1記載の姿勢・移動軌跡検出装置において、
前記センサデータは、3軸の加速度観測値と3軸の方位観測値とを含むことを特徴とする姿勢・移動軌跡検出装置。
【請求項4】
センサノードが装着された物体の姿勢および移動軌跡を検出する姿勢・移動軌跡検出方法において、
センサノードから受信したセンサデータに基づいて物体が運動しているアクティビティ区間を検出するアクティビティ検出手順と、
前記アクティビティ区間を検出したときに、このアクティビティ区間の前後の静止区間を探索する静止区間探索手順と、
前記アクティビティ区間の前後の静止区間のセンサデータから物体の姿勢を静止区間の各々について推定する静止姿勢推定手順と、
前記アクティビティ区間の前後の静止区間における物体の姿勢に基づいて、前記アクティビティ区間の各時刻における物体の姿勢を補間により推定する運動姿勢推定手順と、
前記アクティビティ区間の各時刻について前記運動姿勢推定手順で推定した物体の姿勢における重力加速度を推定する重力加速度推定手順と、
前記アクティビティ区間の各時刻について前記センサデータと前記重力加速度推定手順で推定した重力加速度とから、外力により生じる物体の加速度を推定する運動加速度推定手順と、
この運動加速度推定手順で推定した物体の加速度から前記アクティビティ区間における物体の移動速度および移動量を求める移動軌跡推定手順とを備えることを特徴とする姿勢・移動軌跡検出方法。
【請求項5】
請求項4記載の姿勢・移動軌跡検出方法において、
前記運動姿勢推定手順は、前記補間を行う際に、前記静止姿勢推定手順で推定した3軸の姿勢のパラメータにそれぞれ独立にジャーク最小原理を適用し、前記アクティビティ区間の各時刻における物体の3軸の姿勢のパラメータを計算することを特徴とする姿勢・移動軌跡検出方法。
【請求項6】
請求項4記載の姿勢・移動軌跡検出方法において、
前記センサデータは、3軸の加速度観測値と3軸の方位観測値とを含むことを特徴とする姿勢・移動軌跡検出方法。
【請求項7】
センサノードが装着された物体の姿勢および移動軌跡を検出する姿勢・移動軌跡検出装置としてコンピュータを動作させる姿勢・移動軌跡検出プログラムにおいて、
センサノードから受信したセンサデータに基づいて物体が運動しているアクティビティ区間を検出するアクティビティ検出手順と、
前記アクティビティ区間を検出したときに、このアクティビティ区間の前後の静止区間を探索する静止区間探索手順と、
前記アクティビティ区間の前後の静止区間のセンサデータから物体の姿勢を静止区間の各々について推定する静止姿勢推定手順と、
前記アクティビティ区間の前後の静止区間における物体の姿勢に基づいて、前記アクティビティ区間の各時刻における物体の姿勢を補間により推定する運動姿勢推定手順と、
前記アクティビティ区間の各時刻について前記運動姿勢推定手順で推定した物体の姿勢における重力加速度を推定する重力加速度推定手順と、
前記アクティビティ区間の各時刻について前記センサデータと前記重力加速度推定手順で推定した重力加速度とから、外力により生じる物体の加速度を推定する運動加速度推定手順と、
この運動加速度推定手順で推定した物体の加速度から前記アクティビティ区間における物体の移動速度および移動量を求める移動軌跡推定手順とを、コンピュータに実行させることを特徴とする姿勢・移動軌跡検出プログラム。
【請求項8】
請求項7記載の姿勢・移動軌跡検出プログラムを記録したことを特徴とする記録媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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