説明

媒体液注入用カテーテル

【課題】患者の安全性と慰安が増す血管造影用カテーテルを提供する。
【解決手段】カテーテル壁に形成される複数の長軸開口は、遠位端16におけるチューブ表面の放射方向の拡張を可能にするので、チューブ状カテーテルの中間部は、収納モードにおける位置から放射状に外方に向かって機能位置に移動する。この拡張位置において、中間部は、遠位端周辺に拡張翼34を形成し、チューブ状カテーテル内の腔所を暴露し、造影剤、その他の液を、この長軸性開口を通じて心内部位に放出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療装置、特に、血管造影用カテーテルに関する。血管造影用カテーテルは、治療または診断目的のために、ヒトまたは動物の血管系に経皮的に挿入される長い、細い、肉薄の管である。
【背景技術】
【0002】
診断用カテーテルの多くは、遠位端近傍に、様々の形の、一連の側孔を持ち、また同時にその遠位部先端に開放孔を持つ。この開放孔によって、カテーテルは、血管内に設置された中空のカニューレを貫通して血管系に挿入されたワイヤに被さりながら、このワイヤに案内されることが可能になる。この比較的小さい側孔と、末端孔により、X線不透過造影剤が、遠位端周辺の血流へ注入され、それによって、X線フィルム、または、その他の画像媒体上に、腔所または血管(血管造影図)の輪郭像を創成することが可能になる。診断用血管造影行程において、通常、造影剤は、動力注入器により高速で注入される。造影剤は、カテーテル遠位端の末端孔および側孔から強制的に放出させられる。
【0003】
血管造影用カテーテルの末端孔およびそれより小さい側孔から強制的に造影剤を放出することに伴う問題点は明らかである。強制的な放出は、噴射(ジェット)効果を招く。末端孔のジェット効果は、カテーテルの巻戻しを引き起こすから、カテーテルを、腔所または血管、例えば、大動脈内の所望の位置から変位させることになる。カテーテルのジェット流はまた、危険な合併症、すなわち、造影剤の内皮下注入を招く可能性があり、その場合、血管壁に形成されたジェットのトンネルは、場合によって、急性の血管閉塞を招き、また、左心室のような腔所の場合には、内皮に重大な傷害をもたらす可能性がある。染料が、左心室のような腔所に注入される場合、末端孔、または、側孔からのジェット流はまた、正規の時期より早い(未熟)心室収縮(PVC)や、心室性頻脈(3個以上のPVCから成る集団)、および、患者の生命を危機に陥れるその他の不整脈を引き起こす可能性があり、十分な不透明性を確保するためにX線暴露時間の延長を余儀なくさせ、さらに、ジェット流現存中に撮影された血管造影像には、原因不明の腔所不透明化を招くことがある。
【0004】
既知のカテーテルの末端孔および側孔から、圧力下に造影剤を放出することに起因するまた別の厄介事として、血管造影画像を生成するのに適量とされる以上の量の造影剤が必要とされるということがある。現在市販の血管造影用カテーテルは、ヒトの心室の至適輪郭を得るために、50〜55mlもの大量の造影剤を必要とする。現在市販の造影剤は、アナフィラキシーや腎不全のような、侵害性の、全身アレルギー反応を引き起こす可能性がある。さらには、造影剤の使用量は、この造影剤の注入に要する時間を決めるから、好ましい血管造影図の入手の確率と同時に、危険なX線暴露に要する時間にも影響する。従って、当該分野において、心臓血管造影法に使用される造影剤の量を低下させようとの要求が存在する。
【0005】
急速噴射血管造影法のために現在使用されるカテーテルの多くは、その遠位端に、円形ループ、すなわち、「ブタ尾」を持つように構成されている。このブタ尾形カテーテルは、複数の側孔を備えているが、この側孔を通じて、腔所内の所期位置において、造影剤の僅かに約40%が放出されるに過ぎない。カテーテルの、このループ状末端は、ある程度、内皮下注入の確率を低下させるけれども、末端開放孔は、約40%の造影剤が、この孔を通じて外に出ていくことを可能にする。末端孔から排出される造影剤は、血管・腔所不透過のための至適位置から離れた所に、造影剤の強力なジェットを形成する。心臓血管造影法におけるブタ尾カテーテルの限界を克服するために、このブタ尾形態に対して種々の修正が試みられてきた。例えば、カテーテルの遠位部に鋭角の屈曲部を設け、軸に多数の孔を加えるというのがそれである。いずれもジェット効果を抑制するためである。しかし、これらの修正は、開放末端孔を備えるカテーテルの使用に伴う問題点を十分満足いくほど解決していない。
【0006】
既知の血管造影用カテーテル遠位端近傍に位置する、より小さい側孔は、壁として欠陥を持つ。このような側孔は、腔所の不透過に必要な集塊を形成するには不充分な量の造影剤しか通過させないから、血管造影図において腔所の輪郭を十分に描くのに必要な時間が延長されることになる。X線暴露が長引くということは、患者の生命を危機に陥れ、十分な血管造影図結果が得られる確率を減少させる。さらに、側孔は、圧力ジェットの原因となり、これが、前述したようなPVCやその他の不整脈を引き起こすことがあり得る。
【0007】
追加の側孔を設けることは、血管に注入される造影剤の容量を増す一方で、圧力ジェットを拡散させることにはなるが、そのような増加は、カテーテルチューブの本管よりも、遠位領域の強度が下がる原因となることがある。このように強度が下がってしまったために、最近市販のいくつかの血管造影カテーテルに対して医師から不満の声が上がっている。すなわち、医師達は、臨床的使用時に、ブタ尾先端を動脈弁に貫通させようとすると、側孔のある遠位先端域が場合によって屈曲することがあることを報告している。
【0008】
従って、遠位端近くのカテーテルの剛性を下げることなく、また、PVCや、心室性頻脈、その他の不整脈を誘発することなしに、短時間に血管造影用カテーテルから流出される造影剤の集塊容量を増大させることが望ましい。また、不透過血管内部に造影剤集塊を形成するのに必要な造影剤の量を減少させることも望ましい。
【発明の開示】
【0009】
本発明は、心内カテーテル用を意図したものである。カテーテルは、末端開孔バルブ手段と、遠位端近傍に変形可能な翼を備えていることが好ましい。この末端孔バルブ手段は、好ましくないジェット効果を抑制し、かつ、好適な血管造影画像結果を得るのに必要な造影剤の量と放射の量とを下げるように働く。遠位端近くの変形可能は翼は、低圧下でありながら、造影剤の高速侵入を促進するように働く。これによって、腔所の不透過が最適なものとなり、患者の安全性と慰安が増す。
【0010】
従って、本発明の一つの目的は、遠位端近傍の肉薄壁に、複数の、外周上に隔てられた、長軸に延びるスリットを備えた、中空・肉薄チューブの形をしたカテーテルを提供することである。これらのスリットは、このスリットの近傍に、複数の、長軸に伸びる、屈曲可能な、中間部分を形成する。この屈曲可能な中間部分は、チューブから延びる複数の翼を形成することが可能であり、それによって、遠位端近くのチューブの開放スリットを通じて、管路から、液の放出を実現する。
【0011】
本発明のもう一つの目的は、遠位端に翼状形を保つように製造時に形成された、屈曲性中間部分を提供することである。チューブに対して密閉的にフィットして、チューブを、その長さが最大になるように、その幅が最小になるように潰し、さらに、翼をチューブの壁と水平に並ぶ位置に帰するまで圧縮するような寸法を持つ、取り外し可能な外部カニューレを取り込むことが可能である。
【0012】
本発明のさらにもう一つの目的は、ガイドワイヤまたはその他の装置を含み、かつ、その上を滑走可能なカテーテルであって、それによって、カテーテル遠位端の血管への侵入が促進される、そのようなカテーテルを提供することである。このカテーテルはさらに、主要管路の遠位端に密閉的にフィットするバルブを含み、ガイドワイヤのチューブとバルブの通過時に、バルブが開放するようになっていてもよい。別法として、カテーテルはさらに、チューブの遠位端において主要管路を少なくとも部分的に閉鎖するためのバルブを擁していてもよい。このバルブは、管路内部に発生する液圧の力に暴露されると屈曲する、複数の弾性縁片から成る。
【0013】
本発明の装置は、翼形成の可能な、複数の外周上に隔てられた中間部分に加えて、末端孔バルブ手段を含むものであるが、この装置は、極めて曲がりくねった心内処置に用いても、巻戻りに対するカテーテルの抵抗を著明に低下させることなく、血管または腔所の望ましい不透過実現の確率を増し、圧力ジェット効果による心臓不整脈・心臓内傷害の数を減少させ、腔所や血管の至適不透過に必要な造影剤の量や、放射量を低下させる。
【0014】
開示は、本発明を自ら実行した著者が最善と考える形態を以下に記載することによって為されるが、本発明の、さらに他の目的や利点について、当業者には、その開示が進むにつれて自ずから明らかとなろう。以下の説明から了知されるように、本発明において、本発明から逸脱することなく、その他の実施態様も可能であり、また、そのいくつかの細部については、様々の明白なやり方で修正が可能である。従って、図や説明は、例示的な性格のものと見なすべきで、限定的と見なしてはならない。
【0015】
本発明の前述の特質や局面およびその他の特質や局面は、添付の図面と関連付けながら、以下の詳細な説明を読むことによってさらに明らかになるであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
図1に示す本発明のカテーテル10は、心室12に設置される。図に示すように、カテーテルは、左心室に設置される。ただし、このカテーテルは、同じぐらい簡単に右心室14、または、その他のいずれの心内腔所、または、部位にも設置することが可能である。
【0017】
図2を見ると、遠位端16と、その反対側に近位端18を持つ、本発明のカテーテル10が示される。標準的接合19が、カテーテルを、動力注入器(図示せず)のような圧力下の液供給源に接続を可能にする。
【0018】
図3、図4に示すように、カテーテルの遠位端16は、その外径24が、血管から心臓へ貫通させるのに十分な程に細い、全体が中空で、屈曲性を持つチューブ部分20から成る。チューブ20は、プラスチック、または、ダクロン商品材料等の屈曲性材料から形成されるが、できれば、以下に述べる理由によって、「一定性」または「形状記憶性」材料から形成されることが好ましい。これらの図、また、図5、6に示すように、チューブ20は、外径24よりも小さな直径の、内部貫通孔22を持つ。これは、その内部を、ガイドワイヤ26または放射線不透過造影剤(図示せず)が通過する通路50を形成する。遠位端16は、図に示すように、普通に直線的であってもよいし、現在使用される血管造影用カテーテルのものと同様の、円形ブタ尾形に形成されていてもよい。従って、本発明の原理は、心室画像法に広く使用されるブタ尾形カテーテルにも適用が可能である。
【0019】
再び図3を参照すると、遠位端16の近傍領域は、完全に反転位置にある。外周上に隔てられたスリット30は、部分的に、遠位端近くのチューブ部分20の長さにそって延び、チューブ20の長さが最大になり、直径が最小になる時点で、密閉的に閉鎖する。スリット30間に定められるのは、中間部32である。チューブ20が、カテーテル10を設置中、図3に示す完全に延びきった位置にあることを確保するために、本図ならびに図5に示す取り外し可能な鞘28を、チューブ20の周囲に密閉的に付着させ、それによって、チューブを強制的に、図に示すように、長さが最大になり、直径が最小になるようにするようにしてもよい。
【0020】
図4、7および図8において、遠位端16の近傍領域は、完全に拡張された位置にある。これは、その材料であるプラスチックの「記憶」によるものである。中間部32は、変形して拡張翼34(または単に翼または翼34)に囲まれ、空間はチューブ20内の腔36を形成する。
【0021】
別様の実施態様において、鞘28は取り除いてもよい。この場合、通常、動脈または静脈の中に設置される短い鞘(図示せず)であれば、翼を潰すのに十分であって、それによって、カテーテルはその動脈や静脈内に導入される。カテーテルは、動脈または静脈に入って後、必要な程度にまで拡張することになる。
【0022】
図5Aに示すさらに別の実施態様において、複数の内部環状肋部21’が、遠位端近くの内部貫通孔22’内部に形成される。ここで特に注記すると、図5の好ましい実施態様の対応部を持つ構造は、プライム(’)で示すこととする。内部肋部21’,21’,21’は、内部貫通孔22’に沿って等間隔で配置され、ガイドワイヤ26’の外径よりもやや小さい内径23’を持つことが好ましい。この肋部21’(環状の突出部)は、造影剤の軸流に逆らう流動制限体として働く。同時に、この肋部は、開放スリット(図示せず)を通過する造影剤の放射流を促進する。
【0023】
操作のある実施例において、鞘28に覆われたチューブ20を含む、カテーテル10は、経皮的に患者に挿入され、血管(図示せず)から、図1にもっとも明らかに示すように、大動脈に98に向けられる。次に、遠位端16は、例えば、左心室12に位置付けられる。鞘28を近位端18の方に滑らせて、遠位端から遠ざけると、チューブ20は、図4、7および図8に示すような拡張位置を取る。近位端18からカテーテル10に強制的に注入された造影剤は、障害なく腔36を経過して、所期の心臓内腔所に、造影剤の集塊を形成する。図7は、造影剤が、腔36から流出するところをはっきりと示している。
【0024】
カテーテル10に組み込まれるものとしてさらに、図9、9Aに示すバルブ40がある。バルブ40は、チューブ20のために用いられたものと同じ材料から成ることが好ましいが、後述するやり方でバルブ機能を実現するのに十分な弾性を持つものであれば、どのような材料から形成されていてもよい。カテーテル10を、ガイドワイヤ26を用いて血管内に挿入する場合、ガイドワイヤの端がバルブ縁片42に嵌合するや否や、弾性を持つ縁片42は、管路22内部の液圧の力を受けて撓み、ガイドワイヤ26の通過を許し、その状態を、ワイヤを引きぬくまで持続する。ガイドワイヤ26を引き抜くと、バルブ40は閉鎖し、さらに、図9、9Aに示すように閉鎖状態を持続する。これによって、チューブ20を貫通する全ての液体が、腔36を通じて放出されるようになる。図9には三つの等しい片が示してあるが、さらに大きい、または、さらに小さい片部材も使用可能であることを理解しなければならない。例えば、二つの片を形成する、遠位端16における単一スリットでも十分である。バルブ40の追加は、効果的血管造影法に必要な造影剤の量を減少させ、末端孔ジェットや、その付随効果を取り除く。
【0025】
本発明の、前述の「新規」、すなわち、デサイカテーテルの比較上の利点を例示するために、いくつかの実施例を以下に紹介する。
【0026】
実施例1−新規カテーテルによる左心室血管造影図
図10A、10B、10C、10D、11および12は、本発明の操作を示す一連の画像と、従来カテーテルに対する量的比較とを示す。図10A〜10Dに示す実施態様において、末端孔バルブは含まれておらず、あるいは、その点に関しては、後述するいずれの実施例においても同様である。これが、前述の図において、造影剤が、カテーテルの遠位端から放出されるところが示される理由である。
【0027】
図10Aは、本発明の実施態様、すなわち、血管造影用カテーテルを、大動脈を通じて、イヌ心臓の左心室に設置した場合のX線透視図を示す。カテーテルは、屈曲性の中間部を含み、これが、周囲を取り巻く鞘を解放すると、拡張して翼を形成する。造影剤は、腔と末端孔から流れ出し、末端孔の周囲に放射線不透過の集塊を形成する。図10B、10Cは、造影剤の流出が持続するにつれて、集塊が次第に増大するところを示す。図10Dは、造影剤が、左心室容積全体に拡散して、同心室内部の完全な輪郭を明示したところを示す。心室全体に造影剤が均等に分布していること、および、カテーテルのこの好ましい実施態様によって与えられる輪郭が明瞭なことに注意されたい。
【0028】
図11、12は、本発明のカテーテルのある実施態様を、従来のブタ尾カテーテルに対する効果的性能に関して行った比較を示す。このグラフデータの入手元である血管造影図を得るために使用されたカテーテルは、同じ直径を持っていた。特定的に言うと、フレンチ8号の直径であった。動力注入器を用いて、1秒8ccの割りで、15ccの造影剤を注入した。両カテーテルとも、イヌ左心室の頂部に設置した。これは、造影剤の最適拡散を実現するのに好適な設置位置である。図11は、本発明の実施態様による、心室の実効占拠の時間変化を表すグラフである。図12は、従来のブタ尾カテーテルによって創出された同じ情報を示す。グラフの線より下を占める全面積は、ほぼ同一条件下における、二つの装置の有効比較に関して、一つの値を与える。従来カテーテルに比較した場合、本発明によって、より多くの心室面積がカバーされたことが明らかに見て取れる。
【0029】
実施例2−ブタ尾カテーテルによる左心室血管造影図
図15A〜15Dまでは、左心室の4枚の連続写真であるが、これらは、15mlのレノグラフィン(Renograffin)造影染料が、毎秒8mlの割りでブタ尾カテーテルによって注入されるところを示す。
【0030】
図15Aは、染料が、ブタ尾カテーテルを通じて左心室へ注入されるところを示す。末端孔から強力な染料ジェットが、左心室壁の内部(膜状)区画にぶつかるのが見られる。このジェット効果は、正常の時期よりも早い(未熟)心室収縮(PVC)、または、心室性頻脈(VT)を招き、そのために、血管造影図は、左心室容量や、躯出画分の計算用には役立たなくなる。染料の大部分は、左心室頂部には注入されず、ブタ尾カテーテルよりも上部(前外側)および下部(膜部)に注入される。染料は、頂部から大動脈基部まで、上下方向に左心室を暗黒化しない。この最初の画像において、染料は既に大動脈基部に向かって移動するのが見られる。
【0031】
図15Bの写真は、末端孔ジェットが、膜状壁を打ち続けるところを示す。染料は、ブタ尾の上方を、前方底部領域と大動脈基部に向かって移動する。左心房から僧帽弁(後方底部分節)を通って流入する血液は、染料との若干の混合を招くので、そのため、心臓の後方底部と前外側分節の輪郭がかすかながら示される。
【0032】
図15Cは、ごく少量の染料が、ブタ尾上の末端孔と側孔のジェットから、左心室の壁内部に注入されるところを示す。これは、ブタ尾ループの周囲に見られる、三角形の、比較的暗い影である。僧帽弁と左心室流出領域近くの後方底部分節は、ごく少量の染料しか含まず、従って、この領域の輪郭はやっと不透過しているに過ぎない。さらに、大動脈基部も僅かにしか視認されない。なぜならば、若干の染料は左心室から躯出されるが、それらも十分には左心室を暗黒化しないからである。
【0033】
図15Dの写真は、ほとんど全ての染料が左心室に注入されたところを示す。左心室全体は依然として十分暗黒化されていない。僧帽弁と左心室流出路近傍の後方底部分節中の染料はこれらの領域を十分暗黒化しない。相当量の染料が大動脈基部に躯出され、大動脈基部は、前の写真と比べると、その輪郭がさらに濃く描かれるようになる。左心室全体が十分に暗黒化されていないので、これは、左心室容量や、躯出分画を定量するための理想的な血管造影図とはならない。この左心室を暗黒化するには660msec(20コマ)を要した。
【0034】
実施例3−心尖近くに設置した、新規カテーテル対ブタ尾カテーテルの比較を示す時間・濃度曲線付き左心室血管造影図
図13Aは、新規カテーテルによる左心室造影図(毎秒8mlの割合で15mlを注入)を示す。レノグラフィン造影染料(染料)は、放出されたごく少量で、左心室から大動脈基部まで、左心室をほとんど暗黒化する一方で、大動脈基部はかろうじて暗黒化されるのみである。このカテーテルから放出される染料の大部分は、心尖に注入された。
【0035】
図11のグラフは、図13Aの心尖に四角枠でマークした領域から得られた時間・密度曲線を示す。この四角枠を、左心室外側の四角枠と比較する。X軸は経過時間を示し、Y軸は染料の密度を示す。曲線の動揺は、染料と流入血液の混合・希釈、心尖の収縮、および、染料の心室からの躯出によるものである。曲線は、関心領域(心尖)を、急速に、持続的に暗黒化しながらも滑らかである。曲線は、1.34秒で平坦になる。
【0036】
図13Bの写真は、ブタ尾カテーテルによる左心室造影図(毎秒8mlの割合で15ml注入)を示す。レノグラフィン造影染料(染料)を心尖から遠ざかるように注入した。心尖の広い領域と、心尖の上の腔は、暗黒化されなかった。さらに、相当量の染料が、左心室から大動脈基部に躯出され、大動脈基部をほぼ同じ密度で暗黒化した。
【0037】
図12のグラフは、図13Bの心尖に形成した四角枠でマークされる領域から得られた時間・密度曲線を示す。この四角枠は、左心室外部の四角枠と比較される。X軸は経過時間を示し、Y軸は染料の密度を示す。曲線の動揺は、染料と流入血液の混合・希釈、カテーテル先端から注入される染料、心尖の収縮、および、染料の心室からの躯出によるものである。この曲線の動揺は、図11の曲線(新規カテーテル)に比べるとより著明である。これは、さらに多くの量の染料が、左心室から大動脈基部へと躯出されること、および、渦流が、各拍動ごとの僧帽弁運動によって引き起こされることによる。曲線の下の面積は、新規カテーテルの場合に比べて31%少ない。
【0038】
実施例4−大動脈基部造影図および非選択的冠状動脈造影図
図14Aの写真は、ブタ尾カテーテルまたは新規カテーテルによる大動脈基部造影図であって、高密度に暗黒化された大動脈基部、および、枝分かれ血管を伴った左右の冠状動脈を示す。いずれのカテーテルにおいても、大動脈基部において、9mlと18ml(毎秒8ml)の2回の注入を実施した。四角枠を、大動脈左尖頭に設け、その最大濃度を、尖頭直上に設けたより小さい背景用四角枠と比較した。第2の四角枠を、左冠状動脈上に設け、同じ背景用四角枠を参照として最大濃度を計算した。
【0039】
図14Bのグラフは、9mlおよび18ml注入時における染料の最大濃度の比較を示す。9mlでは、新規カテーテル(“D”)とブタ尾カテーテル(“P”)の間に有意差はなかった。18mlでは、新規カテーテルの方が、約15%以上高い染料密度を示した。
【0040】
図14Cは、冠状動脈の最大不透過を示す。図は、左冠状動脈前下行枝と旋枝の、非選択的冠状動脈造影図を示す。注入は、レノグラフィン15mlを毎秒8mlの割合で大動脈基部に行った。棒グラフは、ブタ尾カテーテルまたは新規カテーテル注入による、冠状動脈内の染料の最大密度を示す。左冠状動脈前下行枝と旋枝いずれの場合においても、新規カテーテルによる暗黒化は、ブタ尾カテーテルよりも100%以上高密度であった。
【0041】
実施例5−ブタ尾カテーテルによる左心室造影図撮影時における左心室内レノグラフィン造影染料分布パターン
図16A、16Bは、左心室における造影剤の分布パターンを示す。左心室を均等に暗黒化するには、造影剤注入の理想部位は、心尖にある。染料が心尖に注入されると、左心室の暗黒化が上下方向(心尖から大動脈基部に向かって)に起こる。心尖への染料の注入は、染料の大動脈基部からの躯出を極小にし、左心室腔の暗黒化を最小の損失で実現する。
【0042】
図16Bの写真において、染料を、ブタ尾カテーテルを通じて(毎秒8mlで15ml)左心室に注入した。小さい四角は、その部の染料の密度・時間曲線を計算するための注目領域を表す。領域は以下の通りである。
心尖(尖頂部・APEX)
上部(前外側・SUPERIOR)
下部(膜状・INTERIOR)
僧帽弁(後基底・MITRAL VALVE)
大動脈基部
【0043】
図16Aを参照すると、様々な曲線があるが、それらは、染料密度対時間曲線である。もっとも低い位置にある曲線は、PVCと後PVC拍動を含む3回の心拍を示すR波曲線である。曲線は全て合わせてもごく短時間のものである。心尖曲線は遅れている。これは、染料が心尖に連続的に注入されていないことを示唆する。下部・上部曲線は、大きな動揺を伴いながら、同一の密度・時間関係を示す。これは、染料の放出と、流入する血液による希釈を示す。心尖の密度は、2.4秒で増大する。これは、染料が、後期に心尖に濃縮することを示す。1.05秒で、左心室から大動脈への、染料の大きな放出がある。この強制的、持続的心室収縮は、未熟心拍の後拍動によってもたらされたものである。
【0044】
このブタ尾カテーテルは、染料を均等に心尖に注入しないので、心尖から大動脈基部への上下方向において、心室を均等に暗黒化しない。このため、染料が、大動脈基部に躯出されて失われるために不均一な暗黒化が生じる。さらに、ジェット効果のために、未熟な心室収縮や心室性頻脈が生じて、このために、左心室造影図が、左心室容量や躯出画分計算のために使用できなくなる。
【0045】
実施例6−新規カテーテルによる左心室造影図撮影時における左心室内レノグラフィン造影染料分布パターン
図17A、17Bの二枚の図は、左心室における造影剤の分布パターンを示す。左心室を均一に暗黒化するために、造影剤の理想的注入部位は心尖である。染料が心尖に注入されると、左心室の暗黒化が、上下方向(心尖から大動脈基部に向かって)に起こる。心尖への染料の注入は、染料の大動脈基部からの躯出を極小にし、左心室腔の暗黒化を最小の損失で実現する。
【0046】
図17Bの写真において、染料を、ブタ尾カテーテルを通じて(毎秒8mlで15ml)左心室に注入した。小さい四角は、その部の染料の密度・時間曲線を計算するための注目領域を表す。領域は以下の通りである。
心尖(尖頂部)
上部(前外側)
下部(膜状)
僧帽弁(後基底)
大動脈基部
【0047】
染料の多くは、心尖、および、左心室の下方と上方に注入された。三つの曲線は全て大きな動揺を持たないままであった。これは、染料の大部分がこれらの領域に注入されたことを示す。心室から大動脈基部への躯出の均一であり、1.125秒後に起こった。この造影図は、左心室の暗黒化は上下方向(心尖から大動脈基部に向かって)起こっていることを示す。
【0048】
僧帽弁の曲線動揺は、右心房から流入する血液による、染料の希釈と混合による。
この新規カテーテルは、左心室を、心尖から大動脈基部まで均等に暗黒化し、しかも、暗黒化が完了する前に、著明に染料を失うこともなかった。
【0049】
実施および方法に関する各種詳細は、本発明を単に例示するためのものである。この詳細について、各種の変更が、本発明の範囲内において可能であることを了解しなければならない。従って、本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲によってのみ限定される。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】ヒト心臓の、一部を断面とした、正面立体図であって、本発明のカテーテルの遠位端が、心臓内血管、すなわち、左心室内に在るところを示す。
【図2】好ましいカテーテルの正面立体図である。
【図3】本発明による好ましいカテーテルの、一部透視図であり、最初の、非伸張部中間部分がある。
【図4】図3と同様の観点から見た図であるが、中間部は、翼を形成する、外方延長部として現れている。
【図5】好ましいカテーテルの長軸断面図であって、中間部は、最初の、非延長部にある。
【図5A】好ましいカテーテルの別の実施態様の長軸断面図であって、中間部は、最初の、非延長部にある。
【図6】好ましいカテーテルの右端立体図であって、中間部は、非延長部にある。
【図7】好ましいカテーテルの長軸断面図であって、中間部は、翼を形成する、外方延長部として現れている。
【図8】同じカテーテルの右端立体図である。
【図9】遠位端にバルブを備えた好ましいカテーテルの断片透視図である。
【図10A】血管造影行程時における、好ましい実施態様のカテーテルの一連の写真を示す。
【図10B】血管造影行程時における、好ましい実施態様のカテーテルの一連の写真を示す。
【図10C】血管造影行程時における、好ましい実施態様のカテーテルの一連の写真を示す。
【図10D】血管造影行程時における、好ましい実施態様のカテーテルの一連の写真を示す。
【図11】好ましい実施態様のカテーテルによる血管造影行程時において、血管内に形成された造影剤容量に関連するデータのグラフである。
【図12】従来のカテーテルによる血管造影行程時において、血管内に形成された造影剤容量に関連するデータのグラフである。
【図13A】新規カテーテルによる左心室血管造影図の写真である。
【図13B】ブタ尾カテーテルによる左心室血管造影図の写真である。
【図14A】高密度に不透過された大動脈基部、および、支脈を含めた左右の冠状動脈を示す写真である。
【図14B】染料密度の違いを示す、新規カテーテルとブタ尾カテーテルの比較を表わす棒グラフである。
【図14C】さらに染料密度の違いを示す、新規カテーテルとブタ尾カテーテルの比較を表わす棒グラフである。
【図15A】血管造影行程時において、ブタ尾カテーテルの、従来の方法による一連の写真を示す。
【図15B】血管造影行程時において、ブタ尾カテーテルの、従来の方法による一連の写真を示す。
【図15C】血管造影行程時において、ブタ尾カテーテルの、従来の方法による一連の写真を示す。
【図15D】血管造影行程時において、ブタ尾カテーテルの、従来の方法による一連の写真を示す。
【図16A】ブタ尾カテーテルの、各種染料密度の時間曲線グラフである。
【図16B】ブタ尾カテーテルによって左心室へ注入された染料の写真である。
【図17A】図16Aと同様な、新規カテーテルにおける、各種染料密度の時間曲線グラフである。
【図17B】図16Bと同様な、新規カテーテルによって左心室へ注入された染料の写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カテーテルであって、
近位端と遠位端とを持つ長いチューブ状部材であって、
前記チューブ状部材は、チューブ長を貫通する通路を定義する肉薄壁を備え、かつ、近位および遠位開孔を形成し、
遠位端近くの前記肉薄壁を貫通して、外周上に隔てられた長軸に沿って延びる複数のスリットが、前記スリットの近傍に、前記肉薄壁から成る、外周上に隔てられた長軸に沿って延びる複数の屈曲性中間部を定義し、
前記屈曲性中間部は、通常、前記チューブから中心外方向に屈曲して延びる複数の拡張翼と、前記拡張翼同士の間に開放スリットを形成し、それによって、前記遠位端近くの前記肉薄壁において前記開放スリットを通じて通路から液の外部放出を実行し、前記通路は、前記拡張翼内の間隔に形成され、液が前記通路を通じて前記間隔の近位端から遠位端で供給される、チューブ状部材と、
取り外し可能なカニューレであって、前記複数の拡張翼が位置に戻り、前記スリットが閉鎖位置に納まるようになるまで、前記チューブを適合的に覆い、前記チューブを最大の長さで、最小の幅となるように潰すことによって前記複数の拡張翼を圧縮するような寸法にされる、カニューレと、
通常は前記通路の前記遠位端を密閉的に閉鎖するバルブであって、前記ガイドワイヤ、前記チューブとバルブを貫通する際に、前記遠位開孔を通じて前記通路から流出する液の通過を密封するように適合される、バルブと、
備えるカテーテル。
【請求項2】
カテーテルであって、
近位端と遠位端とを持つ長いチューブ状部材であって、
前記チューブ状部材は、チューブ長を貫通する通路を定義する肉薄壁を備え、かつ、近位および遠位開孔を形成し、
遠位端近くの前記肉薄壁を貫通して、外周上に隔てられた長軸に沿って延びる複数のスリットが、前記スリットの近傍に、前記肉薄壁から成る、外周上に隔てられた長軸に沿って延びる複数の屈曲性中間部を定義し、
前記屈曲性中間部は、通常、前記チューブから中心外方向に屈曲して延びる複数の拡張翼と、前記拡張翼同士の間に開放スリットを形成し、それによって、前記遠位端近くの前記肉薄壁において前記開放スリットを通じて通路から液の外部放出を実行し、前記通路は、前記拡張翼内の間隔に形成され、液が前記通路を通じて前記間隔の近位端から遠位端で供給される、チューブ状部材と、
取り外し可能なカニューレであって、前記複数の拡張翼が位置に戻り、前記スリットが閉鎖位置に納まるようになるまで、前記チューブを適合的に覆い、前記チューブを最大の長さで、最小の幅となるように潰すことによって前記複数の拡張翼を圧縮するような寸法にされる、カニューレと、
前記遠位開孔を少なくとも部分的に閉鎖するバルブ手段であって、前記通路の内部に発生する液圧力の作用に暴露されて屈曲する、複数の弾性縁片を含む、バルブ手段と、
を備えるカテーテル。
【請求項3】
カテーテルであって、
近位端と遠位端とを持つ長いチューブ状部材であって、
前記チューブ状部材は、チューブ長を貫通する通路を定義する肉薄壁を持ち、かつ、近位および遠位開孔を形成し、
遠位端近くの前記肉薄壁を貫通して、外周上に隔てられた長軸に沿って延びる複数のスリットが、前記スリットの近傍に、前記肉薄壁から成る、外周上に隔てられた長軸に沿って延びる複数の屈曲性中間部を定義し、
前記屈曲性中間部は、通常、前記チューブから中心外方向に屈曲して延びる複数の拡張翼と、前記拡張翼同士の間に開放スリットを形成し、それによって、前記遠位端近くの前記肉薄壁において前記開放スリットを通じて通路から液の外部放出を実行し、前記通路は、前記拡張翼内の間隔に形成され、液が前記通路を通じて前記間隔の近位端から遠位端で供給される、チューブ状部材と、
取り外し可能なカニューレであって、前記複数の拡張翼が位置に戻り、前記スリットが閉鎖位置に納まるようになるまで、前記チューブを適合的に覆い、前記チューブを最大の長さで、最小の幅となるように潰すことによって前記複数の拡張翼を圧縮するような寸法にされる、カニューレと、
軸流が抵抗を受けるための前記通路内の少なくとも一つの非金属製制限器と、
を備えるカテーテル。
【請求項4】
請求項3記載のカテーテルにおいて、
前記少なくとも一つの制限器は、前記通路内の前記壁において環状で中心に向かう突起を含むカテーテル。
【請求項5】
請求項4記載のカテーテルにおいて、
前記少なくとも一つの制限器は、複数の、互いに隔てられた、複数の肋骨状の突起を含むカテーテル。
【請求項6】
カテーテルであって、
近位端と遠位端とを持つ長いチューブ状部材であって、
前記チューブ状部材は、チューブ長を貫通する通路を備え、かつ、近位および遠位壁開孔を形成し、
遠位端近くの前記壁を貫通して、外周上に隔てられた長軸に沿って延びる複数のスリットが、前記壁において、外周上に隔てられた長軸に沿って延びる複数の屈曲性中間部を定義し、前記屈曲性中間部は、前記チューブから中心外方向に屈曲して延びる複数の拡張翼を形成することが可能であり、それによって、前記拡張翼の間に定義される開放スリットを通じて、通路から前記壁を抜けて液の外部放出を実行し、前記液は近位開孔から通路に供給される、チューブ状部材と、
通路の流れに軸流が抵抗を受けるための前記通路内の少なくとも一つの非金属製制限器と、
を備えるカテーテル。
【請求項7】
請求項6記載のカテーテルにおいて、
前記少なくとも一つの制限器は、前記通路内の前記壁において少なくとも一つの突起を含むカテーテル。
【請求項8】
請求項7記載のカテーテルにおいて、
前記少なくとも一つの制限器は、複数の、互いに隔てられた、環状肋部を含むカテーテル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図5A】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図9A】
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【図11】
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【図12】
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【図14B】
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【図14C】
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【図16A】
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【図17A】
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【図10A】
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【図10B】
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【図10C】
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【図10D】
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【図13A】
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【図13B】
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【図14A】
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【図15A】
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【図15B】
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【図15C】
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【図15D】
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【図16B】
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【図17B】
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【公開番号】特開2009−50717(P2009−50717A)
【公開日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−279934(P2008−279934)
【出願日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【分割の表示】特願2000−537594(P2000−537594)の分割
【原出願日】平成10年4月3日(1998.4.3)
【出願人】(500452754)
【Fターム(参考)】