説明

嫌気性アンモニア酸化装置の運転方法

【課題】嫌気性アンモニア酸化装置における長期にわたる運転安定性を向上させることができると共に、運転開始時や負荷変動時、失活から運転の立ち上げ時において簡易且つ短時間で定常運転に移行できる嫌気性アンモニア酸化装置の運転方法を提供する。
【解決手段】嫌気性アンモニア酸化装置10において、原水配管20からのアンモニア性廃水は、原水ポンプ22の駆動により分配器12に送られ、第1配管24及び第2配管26を介して亜硝酸型の硝化槽14と嫌気性アンモニア酸化槽18とに分配される。硝化槽14の処理水は、第3配管28により第2配管26と合流して嫌気性アンモニア酸化槽18へ送られる。第2配管26には調整タンク16が設けられ、嫌気性アンモニア酸化槽18への流入量が調整される。嫌気性アンモニア酸化槽18の処理水は、分流器32により一部は第4配管34から排出され、残りは嫌気性アンモニア酸化槽18へ返送される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は嫌気性アンモニア酸化装置の運転方法に係り、特に嫌気性アンモニア酸化法を活用して原水中のアンモニアを除去するための嫌気性アンモニア酸化装置の運転方法に関する。
【背景技術】
【0002】
下水や産業廃水に含有する窒素成分は、湖沼の富栄養化の原因になること、河川の溶存酸素の低下原因になること等の理由から、窒素成分を除去する必要がある。下水や産業廃水に含有する窒素成分は、アンモニア性窒素、亜硝酸性窒素、硝酸性窒素、有機性窒素が主たる窒素成分である。
【0003】
従来、この種の廃水は、窒素濃度が低濃度であれば、イオン交換法での除去や塩素、オゾンによる酸化も用いられているが、中高濃度の場合には生物処理が採用されており、一般的には以下の条件で運転されている。
【0004】
生物処理では好気硝化と嫌気脱窒による硝化・脱窒処理が行われており、好気硝化では、アンモニア酸化細菌(Nitrosomonas,Nitrosococcus,Nitrosospira,Nitrosolobusなど)と亜硝酸酸化細菌(Nitrobactor,Nitrospina,Nitrococcus,Nitrospira など)によるアンモニア性窒素や亜硝酸性窒素の酸化が行われる一方、嫌気脱窒では、従属栄養細菌(Pseudomonas denitrificans など)による脱窒が行われる。
【0005】
また、好気硝化を行なう硝化槽は負荷0.2〜0.3kg−N/m3 /日の範囲で運転され、嫌気脱窒の脱窒槽は負荷0.2〜0.4kg−N/m3 /日の範囲で運転される。下水の総窒素濃度30〜40mg/Lを処理するには、硝化槽で6〜8時間の滞留時間、脱窒槽で5〜8時間が必要であり、大規模な処理槽が必要であった。また無機質だけを含有する産業廃水では、硝化槽や脱窒槽は先と同様の負荷で設計されるが、脱窒に有機物が必要で、窒素濃度の3〜4倍濃度のメタノールを添加していた。このためイニシャルコストばかりでなく、多大なランニングコストを要するという問題もある。
【0006】
これに対し、最近、嫌気性アンモニア酸化法による窒素除去方法が注目されている(例えば、特許文献1)。この嫌気性アンモニア酸化法は、アンモニアを水素供与体とし、亜硝酸を水素受容体として、嫌気性アンモニア酸化細菌によりアンモニアと亜硝酸とを以下の反応式により同時脱窒する方法である(Strous M et al.(1998)Appl.Microbio.Biotechnol.Vol.50,P.589-596を参照) 。
【0007】
(化1)
1.0 NH4 +1.32NO 2 +0.066HCO 3 +0.13H+ →1.02N 2 +0.26NO 3 +0.066CH2 O 0.5 N 0.15+2.03H2 O
この方法によれば、アンモニアを水素供与体とするため、脱窒で使用するメタノール等の使用量を大幅に削減できることや、汚泥の発生量を削減できる等のメリットがあり,今後の窒素除去方法として有効な方法であると考えられている。
【特許文献1】特開2001−37467号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、この嫌気性アンモニア酸化細菌は、亜硝酸(NO 2−N)を基質とする反面、NO 2−N濃度が上昇すると活性が低下することが知られている。従って、嫌気性アンモニア酸化槽内に蓄積するNO 2−N量が増大する環境変化を起こすと、嫌気性アンモニア酸化反応の活性を低下させて、想定される処理性能が得られない結果を招くことになる。
【0009】
特に、嫌気性アンモニア酸化槽内に攪拌機構がない場合では、流れ方向に嫌気性アンモニア酸化細菌の微生物相が形成され、流入水濃度に見合ったバイオマスが形成されるので、槽内に亜硝酸が高濃度に残留しない平衡状態が保たれるが、発明者の研究により、例えば嫌気性アンモニア酸化槽内の流速が変動する等の諸々の不安定要因により適切な処理系が維持できなくなり、嫌気性アンモニア酸化装置の処理性能が低下するという欠点がある。
【0010】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたもので、嫌気性アンモニア酸化装置における長期にわたる運転安定性を向上させることができると共に、運転開始時や負荷変動時、失活から運転の立ち上げ時において簡易且つ短時間で定常運転に移行できる嫌気性アンモニア酸化装置の運転方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1に記載の発明は前記目的を達成するために、原水中のアンモニアと亜硝酸とを嫌気性アンモニア酸化細菌により同時脱窒する嫌気性アンモニア酸化槽を備えた嫌気性アンモニア酸化装置の運転方法において、前記嫌気性アンモニア酸化槽における槽内流速が一定となるように、該嫌気性アンモニア酸化槽で処理した処理水を前記嫌気性アンモニア酸化槽の入口に循環させる循環量及び/又は前記原水の原水量を調整して運転を行なうことを特徴とする。
【0012】
本発明によれば、アンモニアと亜硝酸とを嫌気性アンモニア酸化細菌によって同時脱窒する嫌気性アンモニア酸化槽では、嫌気性アンモニア酸化反応の不安定性に関して様々な要因が想定される。本願発明者は、特に嫌気性アンモニア酸化槽へ流入する流入水の流速変動が安定した処理を行なうことができない大きな要因であることに着目し、嫌気性アンモニア酸化槽の槽内流速が一定になるように、嫌気性アンモニア酸化槽で処理した処理水を嫌気性アンモニア酸化槽の入口に循環させる循環量及び/又は原水の原水量を調整して運転を行なうようにした。
【0013】
例えば、嫌気性アンモニア酸化槽への流入水(アンモニアと亜硝酸の混合水)中のNO 2−N濃度が嫌気性アンモニア酸化反応阻害を起こさないレベル(通常250mg/L以下、好ましくは200mg/L以下)であれば、嫌気性アンモニア酸化槽の流速が一定になるように原水量のみを調整することで対応可能である。しかし、嫌気性アンモニア酸化槽18内に蓄積するNO 2−N量が増大する何らかの環境変化が発生して、反応阻害を起こすレベルまで流入水中のNO 2−N濃度が高くなる場合には、原水量に対して処理水の循環量を多くして流入水を希釈しながら、嫌気性アンモニア酸化槽の流速を一定に維持する。更なる反応阻害が生じる場合には、原水の流入を停止して原水量をゼロとし、処理水(亜硝酸は略ゼロ)の循環だけで嫌気性アンモニア酸化槽の流速が一定になるように維持し、嫌気性アンモニア酸化細菌の活性が回復したら原水の流入を徐々に多くしていくことが必要である。これにより、嫌気性アンモニア酸化槽内の流速を一定にでき且つ嫌気性アンモニア酸化槽内のNO 2−N濃度の上昇による嫌気性アンモニア酸化反応の反応阻害も防止できるので、安定した定常運転を長時間行なうことができる。また、この運転方法は、嫌気性アンモニア酸化反応が比較的不安定な状態である運転開始時、負荷変動時、又は嫌気性アンモニア酸化細菌の失活後の再運転時において採用すれば、極めて短時間で定常運転に移行させることができる。
【0014】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の嫌気性アンモニア酸化装置の運転開始時、負荷変動時、又は前記嫌気性アンモニア酸化細菌の失活後からの再立ち上げ時においては、前記循環量及び/又は前記原水量を調整することにより、前記嫌気性アンモニア酸化槽へ流入するNO2 −N濃度を50〜250mg/Lの範囲に制御することを特徴とする。
【0015】
請求項2によれば、嫌気性アンモニア酸化装置の特に運転開始時、負荷変動時、又は嫌気性アンモニア酸化細菌の失活後からの再立ち上げ時では、嫌気性アンモニア酸化槽内が不安定になり易く、亜硝酸が嫌気性アンモニア酸化槽内に蓄積される傾向がある。NO 2−Nが蓄積されると、定常運転へ移行させるのに多くの時間を要するばかりでなく、嫌気性アンモニア酸化細菌が失活して安定した運転を困難にする。そこで、循環量及び/又は原水量を調整することにより、嫌気性アンモニア酸化槽へ流入するNO 2−N濃度を50〜250mg/Lの範囲に調整して嫌気性アンモニア酸化反応に対する亜硝酸阻害を起こさない運転を行なうことにより、定常運転への移行に要する時間を大幅に短縮することができると共に、簡単に定常運転に移行させて安定させることができる。
【0016】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の嫌気性アンモニア酸化装置の運転開始時、負荷変動時、又は前記嫌気性アンモニア酸化細菌の失活後からの再立ち上げ時においては、前記嫌気性アンモニア酸化槽の流速の変動幅は、定常運転時に対して50%以内に制御することを特徴とする。
【0017】
請求項3によれば、嫌気性アンモニア酸化槽における槽内流速を一定化することは、嫌気性アンモニア酸化反応の安定化にとって重要であるが、槽内流速を常に誤差なく一定化することは極めて困難である。そこで、本願発明者が槽内流速に対する処理効率を調査したところ、運転開始時、負荷変動時、又は嫌気性アンモニア酸化細菌の失活後からの再立ち上げ時の各槽内流速において、定常運転時に対して50%以内の変動で抑えれば、不安定になり易い処理の安定化が可能であることが判明した。これにより、処理効率を低下させることなく槽内流速の調整を簡易化することができる。
【0018】
請求項4に記載の発明は、請求項1〜3のうち何れか1つに記載の処理水を前記嫌気性アンモニア酸化槽の入口に戻す循環比Rは、前記原水中の最大アンモニア濃度Aを用いて、次に示す数式1、R=(0.57×A)/200 …(数式1) から算出され、前記嫌気性アンモニア酸化槽における槽内流速Vは、算出された循環比Rと前記原水の流速Fを用いて、次に示す数式2、V=R×F …(数式2)から算出され、前記運転は、前記数式1で算出された算出値R以上に前記循環比を設定して行なわれることを特徴とする。
【0019】
請求項4は、嫌気性アンモニア酸化槽の槽内流速Vを決定するための好ましい決定方法を規定したもので、この槽内流速Vは処理水の循環比Rと原水流速Fとの積によって決定される。即ち、循環比Rは、原水中の最大アンモニア濃度Aを用いたR=(0.57×A)/200の式から求める。そして、V=R×Fの式から嫌気性アンモニア酸化槽内の槽内流速Vを算出する。このように数式1から算出された算出値R以上になるように循環比を設定して嫌気性アンモニア酸化装置の運転を行なうことにより、数式2から算出された算出値V以上に槽内流速が設定されて、嫌気性アンモニア酸化反応を安定して行なうことができる。
【発明の効果】
【0020】
以上説明したように本発明に係る嫌気性アンモニア酸化装置の運転方法によれば、嫌気性アンモニア酸化装置における長期にわたる運転安定性を向上させることができると共に、運転開始時や負荷変動時、失活から運転の立ち上げ時において簡易且つ短時間で定常運転に移行できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下添付図面に従って本発明に係る嫌気性アンモニア酸化装置の運転方法における好ましい実施の形態について詳説する。
【0022】
図1は、本発明の運転方法を実施する嫌気性アンモニア酸化装置の一例を示したものである。
【0023】
同図の如く、嫌気性アンモニア装置10は、主として、分配器12と、亜硝酸型の硝化槽14と、調整タンク16と、嫌気性アンモニア酸化槽18と、とから構成される。
【0024】
原水配管20を流れるアンモニア性廃水は、調整タンク16及び嫌気性アンモニア酸化槽18の間に設けられた原水ポンプ22の駆動により分配器12に送られて、分配器12により所定の分配比で2方向へ分配される。分配された一方の廃水は第1配管24を介して亜硝酸型の硝化槽14に送られ、分配された他方の廃水は第2配管26を介して嫌気性アンモニア酸化槽18へ送られる。亜硝酸型の硝化槽14で処理された第1の処理水は、第3配管28を介して第2配管26に分配された他方の廃水と合流し、調整タンク16を介して嫌気性アンモニア酸化槽18へ送られる。
【0025】
次に、嫌気性アンモニア酸化槽18で処理された第2の処理水の一部は、処理水配管30を介して系外へ排出されると共に、第2の処理水の残りは処理水配管30の途中に設けられた分流器32により分流されて、循環ポンプ36の駆動により第4配管34を介して再び嫌気性アンモニア酸化槽18へ返送される。これにより、処理水の循環ルートが形成される。
【0026】
第1配管24により分配器12で分配された一方の廃水が流入する亜硝酸型の硝化槽14内には、微生物を包括固定化した担体を加熱することで亜硝酸を硝酸に酸化する亜硝酸酸化細菌を殺菌し、アンモニアを亜硝酸に酸化するアンモニア酸化細菌が優先繁殖された担体が投入されている。担体を加熱処理する例として、活性汚泥等の微生物をゲル材料で包括固定化した包括担体の場合には、30〜80°Cの範囲で、好ましくは40〜70°Cの範囲で1時間〜2週間の範囲で行なうことが好ましい。そして、亜硝酸型の硝化槽14では、流入した一方の廃水中に含有されるアンモニアの略全てがアンモニア酸化細菌により亜硝酸に酸化される。これにより、嫌気性アンモニア酸化槽18には、亜硝酸型の硝化槽14で生成された亜硝酸と、第2配管26を流れる原水からのアンモニアとが略半々の割合で流入する。嫌気性アンモニア酸化槽18に流入する流入水のアンモニアと亜硝酸との濃度調整については、原水中のアンモニアを半量亜硝酸に酸化する方法が必要であり、原水の略全量を亜硝酸型の硝化槽14に導入して硝化率を制御する方法や、図1に示したように、原水を分配器12で第1配管24と第2配管26とに略半量ずつ分配し、亜硝酸型の硝化槽14で略全量を亜硝酸に酸化した後に、第2配管26に分配されたアンモニアを含む原水と合流させる方法があるが、本実施の形態では分配する方法で示してある。
【0027】
嫌気性アンモニア酸化槽18には、亜硝酸型の硝化槽14からの第1の処理水と、分配器12から分配された他方の廃水と、第4配管34からの処理水とが合流した合流水が流入する。そして、嫌気性アンモニア酸化槽18内の嫌気性アンモニア酸化細菌によって合流水中に含まれるアンモニアと亜硫酸とが同時脱窒される。
【0028】
嫌気性アンモニア酸化細菌は、その詳細は不明な点があるが例えばPlantomycete属であるといわれており、その増殖速度は0.001h-1とかなり遅いことが報告されている(例えば、Strous,M.et al.(1999),Nature, 400-446 を参照)。従って、嫌気性アンモニア酸化細菌を固定化した固定化担体を嫌気性アンモニア酸化槽18内に配設又は投入することが好ましい。
【0029】
嫌気性アンモニア酸化細菌を固定化する手段としては、主に固定床や包括固定化担体、付着固定化担体などが採用される。
【0030】
固定床は、ポリエチレンやポリエステル、ポリプロピレン、塩化ビニルなどのプラスチック素材や活性炭ファイバーなどの材料が使用されるが特に限定するものではない。固定床の形状としては、繊維状、菊花状、ハニカム状に成型したものが好ましいが、特に限定するものではない。固定床は、見かけ容積として30〜80%、好ましくは40〜70%であるものが使用される。また、空隙率としては、80%以上のものを使用することが好ましい。
【0031】
付着固定化担体は、嫌気性アンモニア酸化細菌と固定化材料とを接触させることにより、固定化材料の表面に付着固定化されて形成される。固定化材料としては、ポリビニルアルコールやアルギン酸、ポリエチレングリコール系のゲルや、セルソース、ポリエステル、ポリプロピレン、塩化ビニルなどのプラスチック担体などが使用されるが、特に限定するものではない。担体の形状としては、球形や円筒形、多孔質、立方体、スポンジ状、ハニカム状などに成形されたものを使用することが好ましく、表面に凹凸が多い材料が付着し易い。尚、微生物の自己造粒性を利用したグラニュールも本発明で使用することができる。
【0032】
包括固定化担体は、嫌気性アンモニア酸化細菌と固定化材料(モノマ、プレポリマ)を混合して、重合させることによって担体内部に包括固定化して形成される。モノマ材料としては、アクリルアミド、メチレンビスアクリルアミド、トリアクリルフォルマールなどが好ましい。プレポリマ材料としては、ポリエチレングリコールジアクリレートやポリエチレングリコールメタアクリレートが好ましく、その誘導体が多く使用される。このように形成される包括固定化担体として、球状や筒状などの包括担体、ひも状包括担体、不織布状包括担体など凹凸が多い包括担体を採用すれば、接触効率がよいため除去率を向上させることができる。
【0033】
次に、上記の如く構成された嫌気性アンモニア酸化装置10の運転方法における作用について説明する。
【0034】
原水中のアンモニア性窒素を効率よく処理するためには、嫌気性アンモニア酸化細菌によって亜硝酸とアンモニアを効率良く同時脱窒する必要がある。
【0035】
しかしながら、本願発明者の調査により、以下の3点の場合には嫌気性アンモニア酸化法による処理系が維持できずに脱窒処理ができなくなる可能性が高いことが判明した。
【0036】
(1)槽内の流速は一定だが、NO 2−Nの濃度変動幅が大きく嫌気性アンモニア酸化槽18内に蓄積されるNO 2−N濃度が100mg/L以上(厳しい見方ではNO 2−N濃度が70mg/L以上)となる場合。
【0037】
(2)嫌気性アンモニア酸化槽18へ流入する流入水中のNO 2−N濃度が250mg/L以上(厳しい見方ではNO 2−N濃度が200mg/L以上)となる場合。
【0038】
(3)嫌気性アンモニア酸化槽18に流入する流入水の流量変動が50%を超える場合。
【0039】
特に、(3)の場合については、処理系内の安定化を図る上できわめて重要な項目であることに本願発明者は気付き、これらの3点を解決する方法として以下に示す対策をとることが必要である。
【0040】
即ち、第1の条件として、定常運転時の運転において、嫌気性アンモニア酸化槽18における槽内流速Vを次のように決定する。即ち、原水中の最大アンモニア濃度Aから以下の数式1の式から循環比Rを求める。
【0041】
R=(0.57×A)/200 …(数式1)
ここで、循環比Rは、流入する流入水の流速に対する循環する流量比を表し、流入水の流速をFとすると、槽内流速Vは、以下の数式2で示した式から算出される。
【0042】
V=R×F …(数式2)
そして、嫌気性アンモニア酸化槽18の流速が数式1及び数式2から決定された槽内流速Vに一定に維持されるように、嫌気性アンモニア酸化槽18で処理された処理水を嫌気性アンモニア酸化槽18の入口に戻す循環量及び/又は原水の原水量を調整する。
【0043】
尚、上述した槽内流速Vを算出する循環比Rは、限定値としてではなく下限値として設定することが好ましい。即ち、数式1で算出された循環比Rの値以上であれば、嫌気性アンモニア酸化槽18において、槽内のNO2 −Nによって処理が阻害されることなく、安定して運転を行なうことができる。しかしながら、必要以上の槽内流速で運転を行なうことは、動力に要するコストが増大するだけである。従って、嫌気性アンモニア酸化槽18で設定される循環比は、数式1から算出された循環比Rの値、及びこの循環比Rの値を用いて数式2から算出された槽内流速Vに近い値であることが好ましい。
【0044】
第2の条件として、運転開始時や嫌気性アンモニア酸化細菌の失活後における運転再開時などの不安定要因が発生し易い場合には、嫌気性アンモニア酸化槽18内のNO 2−N−N濃度が100mg/L以下、好ましくは70mg/L以下になるように、原水ポンプ22の流速を減速させると共に循環流速を上げて嫌気性アンモニア酸化槽18内の流速を一定に維持する。
【0045】
第3の条件として、嫌気性アンモニア酸化槽18内の流速の変動幅を50%以内、好ましくは30%以内に保持する必要がある。
【0046】
これら3つの条件を満たすことにより、安定した運転を行なうことができることを本願発明者は見出した。特に、嫌気性アンモニア酸化槽18内の安定性が敏感である運転開始時や負荷変動時、失活後から再運転時においては、上述した本発明の運転方法は嫌気性アンモニア酸化槽における重要な運転方法となる。
【0047】
尚、上述した嫌気性アンモニア酸化装置10において、使用される各装置及び部材の個数、形状、及び材質等は特に限定するものではない。
【実施例】
【0048】
[実施例1]
実施例1として、図1の嫌気性アンモニア酸化装置10を用いてアンモニア性窒素含有廃水の脱窒処理試験を行なった。供試される原水としては、以下の表1に示した成分で調整された無機合成廃水を使用した。
【0049】
【表1】

また、供試される原水のNH4 −N濃度は、1000mg/L(最大アンモニア濃度)で一定条件とした。
【0050】
分配器12は、原水の57%を亜硝酸型の硝化槽14に送るように調整し、アンモニアを亜硝酸に酸化したあと、原水と混合して嫌気性アンモニア酸化槽18へと移送した。
【0051】
(亜硝酸型の硝化槽)
亜硝酸型の硝化槽14は、容積負荷を1.0kg−N/m3 /dayで運転した。充填される包括固定化担体は、60°C、1時間加熱処理して亜硝酸酸化細菌を殺菌し、予め馴養したものを用いた。その充填率は10容積%であった。このとき、嫌気性アンモニア酸化槽18の入口では、アンモニア濃度は440mg/Lであり、亜硝酸濃度は550mg/Lであった。
【0052】
(嫌気性アンモニア酸化槽)
嫌気性アンモニア酸化槽18は、嫌気性アンモニア酸化細菌を付着固定化した不織布で構成される固定床を内部に設置した。その不織布は、見かけ充填量が70%であり、空隙率が99%以上であった。そして、嫌気性アンモニア酸化槽18内における容積負荷は、2.0kg−N/m3 /dayとした。
【0053】
(循環比の計算)
上述したように、原水のNH4 −Nが1000mg/Lであるから、循環比Rは、R=(0.57×1000)/200=2.85と算出された。本試験では、R=3として処理を開始した。尚、反応リアクタは、高さ0.3mの円筒形を有する容量2Lのものが使用された。
【0054】
(実験方法及び結果)
上述した条件の嫌気性アンモニア酸化装置10おいて、1ヶ月間の安定運転を行なった後、循環比3.2から1に変動させたときの嫌気性アンモニア酸化細菌の活性について評価する実験を行なった。嫌気性アンモニア酸化細菌の活性の評価は脱窒速度を見ることで評価した。又、この嫌気性アンモニア酸化装置10では、硝化槽14のDO(溶存酸素)が嫌気性アンモニア酸化槽18へ持ち込まれることを想定し、調整タンク16でN2 ガスをパージすることにより嫌気性アンモニア酸化槽18内のDOを0.5mg/L以下に設定するようにした。
【0055】
この実験は、循環ポンプ36の流速のみを調整することにより循環比Rを変化させた。その結果を図2に示す。図2は、嫌気性アンモニア酸化槽18における循環比Rと脱窒速度との関係を示したグラフである。
【0056】
図2のグラフより、循環比Rが2.85を下回ると嫌気性アンモニア酸化細菌の失活性が著しくなり、循環比Rを2.3以下にすると活性が低下することが分かった。
【0057】
嫌気性アンモニア酸化槽18で処理された処理水中のNO 2−N濃度をゼロと仮定すると、循環により希釈された嫌気性アンモニア酸化槽18の入口におけるNO 2−N濃度は、図2に示す通り200mg/Lを超えると失活性が著しいことが理解できる。このことから、循環比Rの設定では、嫌気性アンモニア酸化槽18の入口におけるNO 2−N濃度が200mg/L以下に設定することが重要であることが明らかとなった。
【0058】
[実施例2]
実施例2も又、図1の嫌気性アンモニア酸化装置10を用いてアンモニア性窒素含有廃水の脱窒試験を行なった。各処理条件は実施例1と同様であるが、表2に示したNH4 −N濃度を500mg/Lに設定すると共に、調整タンク16におけるNH4 −N濃度とNO 2−N濃度との比が1:1.32に近づくように分配器12を調整して試験を行なった。循環比1.58として、1カ月の安定運転を行ったのち、次の実験を行った。その他の条件については実施例1と同じである。
【0059】
実験では、下記の表2に示した試験1〜7のように、供試した原水中のアンモニア濃度を600〜850mg/Lの範囲で、即ち循環比Rを1.58〜2.69の範囲で変化させた。即ち、処理水のNO 2−N濃度をゼロと仮定したときに、処理水の循環により、常に嫌気性アンモニア酸化槽18内の入口はNO 2−N濃度が200mg/L以下の条件において、嫌気性アンモニア酸化槽18内の流速を変動させた場合に、処理性能がどのように変化するかを検証した。処理性能は脱窒速度を評価した。
【0060】
【表2】

その結果を図3のグラフに示している。図3のグラフから、流速変動率が130%を超えると脱窒速度が低下し、更に流速変動率が150%を超えると活性が停止してしまった。このことより、嫌気性アンモニア酸化槽18の槽内流速を一定に保つことは、嫌気性アンモニア酸化反応の安定化に重要であることが判明した。
【0061】
なお、比較例1として、図1の嫌気性アンモニア酸化装置10において予め最大NH4 −N濃度を850mg/Lと想定し、廃水原水中のNH4 −N濃度を500mg/Lに、且つ循環比Rを2.42に設定して、実施例2と同様に約1ヶ月間安定運転を行なった後に、廃水原水中のNH4 −N濃度を500mg/Lから800mg/Lに上昇させる試験を行なった。その結果、比較例1では、予め循環比Rを高い値で設定されていたため、1週間後に失活することなく安定した処理性能を得ることができた。
【0062】
上述したことから、本願発明者は次のことを導き出した。即ち、実施例2に示したように、原水中のアンモニア濃度が上昇して、それに伴いNO2 −N濃度が上昇した場合に、循環比Rのみをコントロールして対応させようとしても、槽内流速Vの値が変動してしまうため、安定した運転を行なうことはできない。従って、比較例1で示したように、予め想定される範囲内で最大アンモニア濃度を設定しておき、その値に対応可能である循環比を確保しておくことが重要である。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明の運転方法を実施する嫌気性アンモニア酸化装置の構成を示した説明図
【図2】実施例1における循環比に対する脱窒速度及びNO 2−N濃度計算値の関係を示したグラフ
【図3】実施例2における嫌気性アンモニア酸化槽の流速変動率に対する脱窒速度を示したグラフ
【符号の説明】
【0064】
10…嫌気性アンモニア酸化装置、12…分配器、14…亜硝酸型の硝化槽、16…調整タンク、18…嫌気性アンモニア酸化槽、20…原水配管、22…原水ポンプ、24…第1配管、26…第2配管、28…第3配管、30…処理水配管、32…分流器、34…第4配管、36…循環ポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原水中のアンモニアと亜硝酸とを嫌気性アンモニア酸化細菌により同時脱窒する嫌気性アンモニア酸化槽を備えた嫌気性アンモニア酸化装置の運転方法において、
前記嫌気性アンモニア酸化槽における槽内流速が一定となるように、該嫌気性アンモニア酸化槽で処理した処理水を前記嫌気性アンモニア酸化槽の入口に循環させる循環量及び/又は前記原水の原水量を調整して運転を行なうことを特徴とする嫌気性アンモニア酸化装置の運転方法。
【請求項2】
前記嫌気性アンモニア酸化装置の運転開始時、負荷変動時、又は前記嫌気性アンモニア酸化細菌の失活後からの再立ち上げ時においては、前記循環量及び/又は前記原水量を調整することにより、前記嫌気性アンモニア酸化槽へ流入するNO2 −N濃度を50〜250mg/Lの範囲に制御することを特徴とする請求項1に記載の嫌気性アンモニア酸化装置の運転方法。
【請求項3】
前記嫌気性アンモニア酸化装置の運転開始時、負荷変動時、又は前記嫌気性アンモニア酸化細菌の失活後からの再立ち上げ時においては、前記嫌気性アンモニア酸化槽の流速の変動幅は、定常運転時に対して50%以内に制御することを特徴とする請求項1又は2に記載の嫌気性アンモニア酸化装置の運転方法。
【請求項4】
前記処理水を前記嫌気性アンモニア酸化槽の入口に戻す循環比Rは、前記原水中の最大アンモニア濃度Aを用いて、次に示す数式1、
R=(0.57×A)/200 …(数式1)
から算出され、
前記嫌気性アンモニア酸化槽における槽内流速Vは、算出された循環比Rと前記原水の流速Fを用いて、次に示す数式2、
V=R×F …(数式2)
から算出され、
前記運転は、前記数式1で算出された算出値R以上に前記循環比を設定して行なわれることを特徴とする請求項1〜3のうち何れか1つに記載の嫌気性アンモニア酸化装置の運転方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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