説明

嫌気性処理方法及び嫌気性処理装置

【課題】グラニュール汚泥を保持する反応槽にパルプ製造工程から排出された蒸発凝縮水を導入して嫌気性処理するに当たり、反応槽でのグラニュールの解体、流出を抑制する。
【解決手段】反応槽からの処理水について、波長380〜780nmの範囲の可視光の吸光度を測定し、この測定値に基いて、反応槽への被処理水の導入流量、栄養剤の添加量、高分子凝集剤の添加量のいずれか1以上を制御する。反応槽からの処理水について、波長380〜780nmの範囲の可視光の吸光度を測定することにより、処理水に含まれる懸濁物質(SS)量を迅速に検知することができ、このSS濃度の変化に応じて、必要な制御を行うことにより、グラニュール汚泥の解体、流出を防止することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グラニュール汚泥が保持されたメタン発酵反応槽に、パルプ製造工程で排出された蒸発凝縮水を導入して嫌気性処理を行う方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
有機物含有水の嫌気性処理方法として、高負荷処理が可能なUASB(Upflow Anaerobic Sludge Blanket)法、及びUASB法よりさらに高負荷処理が可能なEGSB(Expanded Granular Sludge Bed)法が知られている。
【0003】
これらUASB法、EGSB法では、嫌気性微生物が粒状化したグラニュール汚泥を用いており、反応槽内で嫌気性微生物を含む汚泥をグラニュール状に維持、増殖させる。グラニュール汚泥を用いる生物処理法は、担体に微生物を保持させる固定床や流動床と比較して、高い汚泥保持濃度が得られるため、高負荷運転が可能である。また、グラニュール汚泥は、微生物濃度が高く、沈降性に優れるため、処理水と汚泥との固液分離も容易である。さらに、すでに稼働中の反応槽内のグラニュール汚泥を余剰汚泥として抜き出して、新設する反応槽内に投入すれば、新設した反応槽を短期間で立ち上げて安定した処理を行えるなどの利点をも有するため、最も効率的な嫌気性処理方法として認識されている。
【0004】
グラニュール汚泥を用いるUASB法等において、有機物含有水を安定的かつ良好に処理する最大のポイントは、反応槽内においてグラニュール汚泥を維持、増殖させることである。反応槽内にグラニュール汚泥を維持、増殖させることができないと、処理性能は徐々に低下し、やがて処理不能に陥ることもある。
【0005】
グラニュール汚泥は、酢酸資化性のMethanosaeta属の微生物が骨格となって形成され、水素資化性メタン菌、酢酸生成細菌、酸生成細菌等が共存する一種の生態系を構成している。これらの微生物の中でも酸生成細菌は、糖質、脂質、タンパク等を分解し、粘質物を産出することから細菌同士の結合力を強める働きをする。よって、糖基質の培養液を用いれば、最も強度の強いグラニュール汚泥が形成される。
【0006】
ところで、紙を製造する製紙工程は、パルプ化工程、紙化工程、塗工加工工程、及び仕上工程に大別できる。例えば、パルプ化工程では主として木材を原料とし、これを機械的方法、化学的方法、又はその両方で処理して繊維を抽出しパルプ原料を得る。紙化工程では、パルプ化工程で製造されたパルプ原料をリファイナーと呼ばれる機械で叩解し、薬品等を加えて抄紙する。塗工加工工程では、塗料を抄紙して乾燥させた紙原体に塗布し、艶出し等の仕上げを行い、これを仕上工程で断裁して製品が得られる。
【0007】
こうした製紙工程では、様々な性状の廃液が排出される。
例えば、パルプ化工程で製造されるパルプとしては、原料を化学的に処理して繊維を抽出する化学パルプが一般的であり、特に、クラフト法により製造された化学パルプ(クラフトパルプ)が製造されることが多い。クラフトパルプは、アルカリと硫化ナトリウムとを含む薬液中で木材を砕片化したチップを加熱(蒸解)して得られる。この蒸解により得られた液体(蒸解液)は、蒸留されてアルカリ分が回収される。蒸解液の蒸留に伴い、蒸発凝縮水(エバポレータ・コンデンセート又はエバポレータドレン)と呼ばれる廃液が発生する。
【0008】
パルプ製造工程における蒸発凝縮水の発生量はクラフトパルプの生産量の5〜7倍程度にも達する。また、この蒸発凝縮水の有機物濃度は3,000〜10,000mg/Lで、通常の有機物含有水と異なり、メタノールを主成分(全CODCrの70質量%以上)とする有機物含有水であり、Methanosarcina属、Methanobacterium属が主たる微生物として増殖する。
【0009】
しかし、Methanosarcina属、Methanobacterium属メタン菌はグラニュール汚泥を形成しにくいことから、これらの微生物を主とする蒸発凝縮水の嫌気性処理では、汚泥中での粘生物の産出が少なくなるため、グラニュール汚泥の増殖は芳しくなく、強度も不十分となる。このため、このようなパルプ製造工程から排出された蒸発凝縮水を、グラニュール汚泥を保持する反応槽の被処理液として長期間継続して運転すると、グラニュール汚泥は解体しやすくなり、微細化した汚泥が反応槽から流出してしまい、処理効率が低下すると共に、著しい場合には処理不能となる。
【0010】
従来、蒸発凝縮水の嫌気性処理におけるグラニュール汚泥の解体を防止する方法として、反応槽に硝酸又は亜硝酸を添加する方法(特許文献1)、反応槽に製紙工程から排出された澱粉を含む澱粉含有廃液を添加する方法(特許文献2)、反応槽に糖質を添加する方法(特許文献3)が提案されている。
【0011】
また、蒸発凝縮水の高負荷嫌気性処理方法として、蒸発凝縮水に含まれる硫黄成分を除去後、高分子炭水化物と混合したものを被処理水としてメタン発酵槽で嫌気性処理を行う方法や、蒸発凝縮水のpHを低くしてメタン発酵を阻害する阻害物質を凝固させて除去した後、メタン発酵槽で嫌気性処理を行う方法が提案されている(例えば、特許文献4、5参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2008−279383号公報
【特許文献2】特開2008−279384号公報
【特許文献3】特開2008−279385号公報
【特許文献4】特許第3174364号公報
【特許文献5】特開昭61−197096号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
特許文献4,5に記載される方法は、嫌気性処理に先立ち、蒸発凝縮水の処理を必要とし、処理工程が煩雑となるという欠点がある
【0014】
特許文献1〜3に記載される方法は、蒸発凝縮水に添加剤を添加するのみで簡便にグラニュール汚泥の解体、流出を防止することができるが、グラニュール汚泥の解体傾向に係わらず、常に添加剤を所定の添加量で添加することになるため、添加剤の添加を過剰に行っている場合もある。
【0015】
反応槽内のグラニュール汚泥の解体の兆候を即時的に把握し、グラニュール汚泥解体の傾向がある場合にのみ、これらの添加剤を添加するようにすれば、このような無駄を省くことができるが、従来においては、グラニュール汚泥解体の兆候を即時的に把握する技術は提案されていなかった。
【0016】
本発明は、グラニュール汚泥が保持された反応槽に、パルプ製造工程で排出された蒸発凝縮水を導入して嫌気性処理するに当たり、グラニュール汚泥の解体の兆候を即時的に検知して、グラニュール汚泥の解体を防止するための対策を講じることにより、反応槽内のグラニュール汚泥の解体及び反応槽からの流出を未然に防ぎ、高負荷高速処理を長期に亘り安定に行う方法及び装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、反応槽からの処理水について、波長380〜780nmの範囲の可視光の吸光度を測定することにより、処理水に含まれる懸濁物質(SS)量を迅速に検知することができ、このSS濃度の変化に応じて、必要な制御を行うことにより、グラニュール汚泥の解体、流出を防止することができることを見出した。
【0018】
本発明はこのような知見に基いて達成されたものであり、以下を要旨とする。
【0019】
[1] グラニュール汚泥が保持された反応槽に、パルプ製造工程で排出された蒸発凝縮水を含む被処理水を導入して嫌気性処理を行う方法において、該反応槽からの処理水について、波長380〜780nmの範囲の可視光の吸光度を測定し、該吸光度の測定値に基いて、以下の(1)〜(3)のいずれか1以上を制御することを特徴とする嫌気性処理方法。
(1) 該反応槽への被処理水の導入流量
(2) 該反応槽への栄養剤の添加量
(3) 該反応槽への高分子凝集剤の添加量
【0020】
[2] [1]において、前記栄養剤が、硝酸、亜硝酸、糖質、塗工廃液、カルシウム化合物、及び鉄塩からなる群より選ばれる1以上を含むことを特徴とする嫌気性処理方法。
【0021】
[3] グラニュール汚泥が保持された反応槽と、該反応槽にパルプ製造工程から排出された蒸発凝縮水を含む被処理水を導入する手段と、該反応槽から処理水を取り出す手段と、該処理水の波長380〜780nmの範囲の可視光の吸光度を測定する手段と、該吸光度の測定値に基いて、以下の(1)〜(3)のいずれか1以上を制御する手段とを備えることを特徴とする嫌気性処理装置。
(1) 該反応槽への被処理水の導入流量
(2) 該反応槽への栄養剤の添加量
(3) 該反応槽への高分子凝集剤の添加量
【0022】
[4] [3]において、前記栄養剤が、硝酸、亜硝酸、糖質、塗工廃液、カルシウム化合物、及び鉄塩からなる群より選ばれる1以上を含むことを特徴とする嫌気性処理装置。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、グラニュールを形成しにくいパルプ製造工程から排出された蒸発凝縮水の嫌気性処理に当たり、形成したグラニュール汚泥の解体の兆候を即時的に検知して、グラニュール汚泥の解体防止のための的確な制御を行うことにより、反応槽内でのグラニュール汚泥の解体、反応槽からの汚泥流出を確実に防止して、高負荷高速処理を長期に亘り安定に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の嫌気性処理装置の実施の形態を示す系統図である。
【図2】本発明の嫌気性処理装置の他の実施の形態を示す系統図である。
【図3】実施例1〜3及び比較例1における反応槽内グラニュール汚泥の平均粒径の経時変化を示すグラフである。
【図4】実施例1〜3及び比較例1における反応槽内グラニュール汚泥層の汚泥界面高さの経時変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下に図面を参照して本発明の嫌気性処理方法及び嫌気性処理装置の実施の形態を詳細に説明する。
【0026】
図1,図2は本発明の嫌気性処理装置の実施の形態を示す系統図である。
【0027】
図1,図2において、1は反応槽であり、反応槽1内には、グラニュール汚泥2が充填されている。また、反応槽1の上部には、気固液分離装置(GSS)3が設けられている。GSS3の頂部は、反応槽1内の液面から突出し、このGSS3の内側に処理水取出配管13が連絡している。処理水取出配管13は処理水槽5に連絡され、処理水槽5は調整槽6と下部が連通しており、調整槽6はさらにpH調整槽7と下部が連通している。被処理水導入配管11は、調整槽6に連絡されている。pH調整槽7は、調整水導入配管8で反応槽1下部に接続されている。被処理水は、調整槽6内で、連通する処理水槽5の処理水により希釈調整され、さらにpH調整剤C(酸またはアルカリ)が添加されるpH調整槽7でpH調整され、調整水導入配管8に設けられたポンプPにより反応槽1に導入され上向流で反応槽1内を流れる。反応槽1の上部には、ガス排出配管12が接続されている。
【0028】
反応槽1内において、GSS3の内側は気固液分離部分であり、その下部はグラニュール汚泥2が展開する反応部となっている。反応部ではグラニュール汚泥2が展開してスラッジブランケットが形成される。グラニュール汚泥2は、嫌気性微生物を含む微生物が自己造粒して粒状になった汚泥であり、比較的高密度で沈降性に優れる。
【0029】
反応槽1内での被処理水の嫌気性処理により、反応槽1で生成したガス及び増殖した汚泥を含む混合液は、GSS3の内部で気固液分離され、ガスはガス排出配管12から反応槽1外に取り出されてガスホルダ4に貯留される。また、汚泥が分離され清澄化された液分は、処理水取出配管13から処理水槽5に取り出され、処理水排出配管16を経て系外へ排出される。この処理水は、後段に設けた好気性生物処理装置(図示せず)等によりさらに処理してもよい。
【0030】
このように、反応槽1内の上昇流速を調整してグラニュール汚泥2を適度に展開させるために、処理水槽5からの処理水の一部は、循環され、被処理水と共に反応槽1に導入される。
【0031】
本発明においては、被処理水の濃度調整に主に処理水を使用するが、更に、処理水以外の市水、工水、井水、河川水、その他の処理系統の処理水等の被処理水よりも有機物濃度の低い水を希釈水として使用し、調整槽6に希釈水導入配管15から流量調節バルブ15Vを介してこの希釈水を導入するようにしてもよく、有機物濃度の安定した他の希釈水の併用で、反応槽1への導入水の有機物濃度を安定に調整することができるようになる。特に、処理水の水質が悪化した場合、処理水のみを希釈水として使用すると、処理水の循環量が増大し、反応槽での上昇流速が所定の範囲内となるように希釈水の水量を調節することが困難になることがある。このような場合には、処理水と有機物濃度の安定した他の希釈水とを併用するか、または有機物濃度の安定した他の希釈水のみを使用するのが好ましい。
【0032】
処理水槽5には、処理水の吸光度を測定し、その測定値に基いて制御信号を出力する制御装置9が設けられている。
【0033】
図1の嫌気性処理装置においては、被処理水の導入配管11に、制御装置9に連動して被処理水の導入流量を調整するためのバルブ11Vが設けられており、処理水の吸光度の測定値或いは吸光度の測定値から求められた被処理水の濁度又はSS濃度に基いて調整槽6への被処理水の導入流量が制御されるように構成されている。
【0034】
図2の嫌気性処理装置は、栄養剤又は高分子凝集剤を貯留する薬剤貯槽10を備え、この薬剤貯槽10内の薬剤を調整水導入配管8に薬注するための薬注配管14に、制御装置9に連動するバルブ14Vが設けられており、処理水の吸光度の測定値或いは吸光度の測定値から求められた被処理水の濁度又はSS濃度に基いて、反応槽1に導入される調整水への栄養剤又は高分子凝集剤の薬注量が制御されるように構成されている。
【0035】
このように処理水の吸光度を測定し、この測定値に基いて処理水の濁度、即ちSS濃度を検知し、反応槽内のグラニュール汚泥の解体の兆候を検知することができる。
即ち、前述の如く、メタノールを主体とする蒸発凝縮水を嫌気性処理すると、Methanosarcina属、Methanobacterium属メタン菌が主たる微生物として増殖する。これらのメタン菌はグラニュールを形成しにくいため、長期的に運転を継続すると、徐々にグラニュールの強度が低下し、グラニュールが解体・微細化して反応槽より流出してしまうという問題がある。グラニュールが微細化して反応槽より流出する場合、処理水中のSS濃度が通常よりも大幅に増加する。そこで、SS濃度を監視することで、グラニュール微細化の兆候を把握することができるが、このSS濃度は、処理水の濁度に相関があり、また、処理水の濁度は処理水の波長380〜780nmの範囲の可視光の吸光度に相関があることから、処理水の吸光度を測定することにより、処理水のSS濃度を検知することができる。
【0036】
本発明においては、処理水の吸光度の測定値、或いはこの測定値から求められた処理水の濁度又はSS濃度に基づいて、以下の(1)〜(3)のいずれか1以上を制御することにより、反応槽内のグラニュール汚泥の解体、流出を防止する。
(1) 反応槽への被処理水の導入流量
(2) 反応槽への栄養剤の添加量
(3) 反応槽への高分子凝集剤の添加量
【0037】
処理水の吸光度の測定、及びこの測定値に基く処理水濁度又はSS濃度の換算は短時間で行うことができるため、本発明によれば、反応槽内のグラニュール汚泥の解体の兆候を即時的に検知してグラニュール汚泥の解体を防止するための上記(1)〜(3)の制御を迅速に行うことができ、制御遅れによる汚泥流出を未然に防止することができる。
【0038】
なお、処理水の吸光度の測定には、分光光度計、濁度計、汚泥濃度計などを用いることができる。
処理水の吸光度の測定は、連続的に行ってもよく、間欠的に、例えば1〜24時間に1回の頻度で間欠的に行ってもよい。
処理水の吸光度の測定値から処理水濁度又はSS濃度を求めるには、濁度又はSS濃度既知の検水を調製し、この検水の吸光度と濁度又はSS濃度との関係から予め作製した検量線又は計算式に従って行うことができる。
また、これらの換算を行うことなく、予め処理水の吸光度とグラニュール汚泥の解体の兆候との関係を調べておき、処理水の吸光度の測定値から直接制御を行うようにすることもできる。
【0039】
以下に各制御方法について説明する。
【0040】
[反応槽への被処理水の導入流量の制御]
反応槽への被処理水の導入流量の制御を行う場合には、例えば、処理水の吸光度の測定値が増加し、処理水の濁度、即ち、SS濃度が高くなって、グラニュール汚泥の解体の兆候が検知された場合には、反応槽への被処理水の導入流量を低減して、被処理水内の微生物による汚泥の増殖阻害を防止する。
反応槽への被処理水の導入流量を低減し、グラニュール汚泥の解体傾向が改善され、被処理水の吸光度の測定値が低下し、処理水の濁度、即ちSS濃度が低くなったと判断された場合には、再び反応槽への被処理水の導入流量を元の値に戻す。
【0041】
この制御方法としては、例えば、処理水の吸光度の測定値が増加して、処理水のSS濃度が所定値以上、例えば、20%以上増加した場合には、反応槽への被処理水の導入流量を所定の範囲、例えば、5〜10%の範囲で低下させる;処理水の吸光度の測定値(或いは処理水濁度又はSS濃度)に対して被処理水の導入流量を予め設定しておき、この設定値に基いて被処理水の導入流量を制御する;といったような制御方法を採用することができる。
【0042】
[反応槽への栄養剤の添加量の制御]
反応槽への栄養剤の添加量の制御を行う場合には、例えば、処理水の吸光度の測定値が増加し、処理水の濁度、即ち、SS濃度が高くなって、グラニュール汚泥の解体の兆候が検知された場合には、反応槽に栄養剤を添加する或いは反応槽への栄養剤の添加量を増加させて反応槽内の汚泥の増殖を促進する。
また、栄養剤の添加或いはその添加量の増量で、グラニュール汚泥の解体傾向が改善され、被処理水の吸光度の測定値が低減し、処理水の濁度、即ちSS濃度が低くなったと判断される場合には、栄養剤の添加量を元の値に戻すか或いは栄養剤の添加を停止する。
【0043】
この制御方法は、例えば、処理水の吸光度の測定値が増加して、処理水のSS濃度が所定値以上、例えば、20%以上増加した場合には、栄養剤の添加量を所定の範囲、例えば5〜10%の範囲で増加させる;処理水の吸光度の測定値(或いは処理水濁度又はSS濃度)に対して栄養剤の添加量を予め設定しておき、この設定値に基いて栄養剤の添加量を制御する;といったような制御方法を採用することができる。
【0044】
栄養剤としては、硝酸、亜硝酸、糖質、塗工廃液、カルシウム化合物、及び鉄塩からなる群より選ばれる1以上を用いることができ、栄養剤の添加量は、被処理水中のCODCr濃度に対して0.01〜10質量%、特に0.02〜5質量%の範囲内とすることが好ましい。
栄養剤としての硝酸又は亜硝酸としては硝酸溶液等に限らず、被処理水等に添加されると硝酸イオン又は亜硝酸イオンを放出する物質、例えば硝酸塩又は亜硝酸塩等を用いてもよい。
また、栄養剤は、反応槽の前段で被処理水に対して添加することにより被処理水と共に反応槽に導入して添加してもよく、反応槽に直接添加してもよい。また、栄養剤は連続的に添加しても間欠的に添加してもよい。
栄養剤を間欠的に添加する場合、その添加頻度を変えることにより添加量を制御することもできる。
【0045】
[反応槽への高分子凝集剤の添加量の制御]
反応槽への高分子凝集剤の添加量の制御を行う場合には、例えば、処理水の吸光度の測定値が増加し、処理水の濁度、即ち、SS濃度が高くなって、グラニュール汚泥の解体の兆候が検知された場合には、反応槽に高分子凝集剤を添加する或いは反応槽への高分子凝集剤の添加量を増加させて反応槽内の汚泥の解体を防止する。
また、高分子凝集剤の添加或いはその添加量の増量で、グラニュール汚泥の解体傾向が改善され、被処理水の吸光度の測定値が低減し、処理水の濁度、即ちSS濃度が低くなったと判断される場合には、高分子凝集剤の添加量を元の値に戻すか或いは高分子凝集剤の添加を停止する。
【0046】
この制御方法は、例えば、処理水の吸光度の測定値が増加して、処理水のSS濃度が所定値以上、例えば、20%以上増加した場合には、高分子凝集剤の添加量を所定の範囲、例えば5〜10%の範囲で増加させる;処理水の吸光度の測定値(或いは処理水濁度又はSS濃度)に対して高分子凝集剤の添加量を予め設定しておき、この設定値に基いて高分子凝集剤の添加量を制御する;といったような制御方法を採用することができる。
【0047】
なお、高分子凝集剤としては、反応槽内のグラニュール汚泥表面に付着することでグラニュール汚泥の強度を高めることができるものであれば、添加する凝集剤の種類は限定されず、ノニオン系、カチオン系、アニオン系、両性系など処理系に適したものが使用できる。好ましい高分子凝集剤としては、ノニオン系の凝集剤としてポリアクリルアミド、ポリエチレンオキシド等が例示できる。カチオン系としては、ポリアミノアルキルアクリレート、ポリアミノアルキルメタクリレート、ポリエチレンイミン、ハロゲン化ポリジアリルアンモニウム、キトサン、尿素−ホルマリン樹脂等が挙げられる。アニオン系としては、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリアクリルアミド部分加水分解物、部分スルホメチル化ポリアクリルアミド、ポリ(2−アクリルアミド)−2−メチルプロパン硫酸塩等が挙げられ、両性系としてアクリルアミドとアミノアルキルメタクリレートとアクリル酸ナトリウムの共重体等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
高分子凝集剤の添加濃度は0.01〜100mg/L、特に0.1〜50mg/L程度の範囲内で制御することが好ましい。
【0048】
高分子凝集剤は、反応槽の前段で被処理水に対して添加することにより被処理水と共に反応槽に導入して添加してもよく、反応槽に直接添加してもよい。また、高分子凝集剤は連続的に添加しても間欠的に添加してもよい。
高分子凝集剤を間欠的に添加する場合、その添加頻度を変えることにより添加量を制御することができる。
【0049】
なお、本発明においては、前述の(1)〜(3)の制御項目を2以上採用して行ってもよい。
栄養剤と高分子凝集剤とを添加する場合、いずれを先に反応槽に導入される被処理水に添加してもよく、同時に添加してもよい。また、一方を反応槽に導入される被処理水に、他方を反応槽に直接添加してもよく、両方を反応槽に添加してもよい。
【0050】
本発明において、嫌気性処理の条件としては、通常の条件を採用することができ、例えば、反応槽に対する有機物負荷は5〜30kg−CODCr/m/day、特に8〜20kg−CODCr/m/dayが好ましく、反応槽内には酸素を供給せずに嫌気的条件とし、温度は25〜40℃、特に30〜38℃とし、pHは6.0〜8.0とすることが好ましい。
特に、UASB方式で安定した処理を行うためには、反応槽内には平均粒径0.5〜3.0mm、好ましくは0.8〜1.5mm程度のグラニュール汚泥のブランケットを形成することが好ましく、EGSB方式の場合は、反応槽内に、平均粒径0.5〜3.0mm、好ましくは1.0〜1.5mm程度のグラニュール汚泥を安定的に保持することが好ましい。
【0051】
高さ5〜7m程度の反応槽内に高さ3〜5m程度のスラッジブランケットを展開させるUASB方式では、反応槽内の上昇流速0.3〜1.5m/hr程度で処理を行い、高さ7〜20m程度の反応槽内に、高さ5〜18m程度のスラッジブランケットを展開させるEGSB方式では、反応槽内の上昇流速2〜5m/hr程度の高速処理を行うことが好ましい。
【実施例】
【0052】
以下に実施例及び比較例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例により何ら限定されるものではない。
【0053】
なお、以下の実施例及び比較例で用いた嫌気反応槽は、内径6cm、高さ1.2mで、GSSが設置された部分を除く反応部の容量は3L、GSS部を含めた部分の容量は4Lのものである。この反応槽内には食品工場のUASB式の反応槽から取り出したグラニュール汚泥を1.0L充填して負荷運転を開始した。
【0054】
また、処理水の吸光度の測定は、荏原実業株式会社製分光光度計「Spectro::lyser」を用いて行い、波長660nmの光の吸光度を測定した。処理水のSS濃度は、吸光度の測定値から、SS濃度既知の検水の吸光度を用いて予め作製した検量線により求めた。
この処理水の吸光度測定及びSS濃度検出は、12時間に1回の頻度で行った。
【0055】
被処理水はパルプ製造工程から排出された蒸発凝縮水であり、その水質は、CODCrとしての有機物濃度が7000mg/Lで、そのうちの、メタノール濃度は3800mg/L(CODCrとしては5700mg/L)であった。
被処理水は反応槽内での上昇流速が3m/hrとなるように処理水循環を行いながら通水し、反応槽内にグラニュール汚泥を展開させてスラッジブランケットを形成させた。反応槽内の温度は30〜35℃に維持し、pH7.0となるようにpH調整を行った。pH調整はpH調整槽にpH調整剤C(酸またはアルカリ)を添加することによって行った。この条件で、以下の実施例1〜3及び比較例1のいずれの場合も、反応槽に対する有機物負荷は10〜15kg−CODCr/m/day、汚泥負荷は0.4〜0.7kg−CODCr/kg−VSS/dayの範囲内とされた。
【0056】
<実施例1>
反応槽から取り出された処理水の吸光度の測定値からSS濃度を監視し、SS濃度の変動に合わせて反応槽へ流入する被処理水の流量を制御した。処理負荷は汚泥負荷0.4〜0.7kg−CODCr/kg−VSS/dayの範囲で制御した。
具体的には、処理水SS濃度が80mg/L以下で被処理水流量0.65L/hr、処理水SS濃度が80mg/Lを超え100mg/L以下で被処理水流量0.6L/hr、処理水SS濃度が100mg/Lを超え120mg/L以下で被処理水流量0.55L/hr、処理水SS濃度が120mg/Lを超える場合に被処理水流量0.5L/hrとした。
【0057】
この結果、グラニュール汚泥が展開されている汚泥界面については、汚泥の流出・減少による高さの急激な低下は認められず、90日間の実験期間中、処理開始時のグラニュール汚泥量以上の量を反応槽内に維持できた。また、反応槽内のグラニュール汚泥の解体・微細化に起因する平均粒径の微細化も起こらなかった。
このときの反応槽内グラニュール汚泥の平均粒径の経時変化、反応槽内汚泥界面高さの経時変化をそれぞれ図3,4に示す。
【0058】
<実施例2>
反応槽から取り出された処理水の吸光度の測定値からSS濃度を監視し、SS濃度の変動に合わせて、被処理水への硝酸ナトリウム溶液の添加量を変化させた。硝酸ナトリウム水溶液の添加量は、硝酸ナトリウム水溶液と被処理水とを混合した後の硝酸イオンの濃度(以下、単に「硝酸濃度」と称す。)が500mg/L以下となる範囲とした。
具体的には、処理水SS濃度が80mg/L以下で硝酸濃度130mg/L、処理水SS濃度が80mg/Lを超え100mg/L以下で硝酸濃度200mg/L、処理水SS濃度が100mg/Lを超え120mg/L以下で硝酸濃度250mg/L、処理水SS濃度が120mg/Lを超える場合に硝酸濃度300mg/Lとした。
【0059】
この結果、グラニュール汚泥が展開されている汚泥界面については、汚泥の流出・減少による高さの低下は認められず、90日間の実験期間中、処理開始時のグラニュール汚泥量以上の量を反応槽内に維持できた。また、反応槽内のグラニュール汚泥の解体・微細化に起因する平均粒径の微細化も起こらなかった。
このときの反応槽内グラニュール汚泥の平均粒径の経時変化、反応槽内汚泥界面高さの経時変化をそれぞれ図3,4に示す。
【0060】
<実施例3>
実施例2において、硝酸ナトリウム水溶液に代えて、カチオン系高分子凝集剤(ポリアミノアルキルアクリレート)を用い、処理水のSS濃度の変動に合わせてその添加量を変化させた。高分子凝集剤の添加量は凝集剤と被処理水とを混合した後の凝集剤の濃度(以下、単に「凝集剤濃度」と称す。)が15mg/L以下となる範囲で制御した。
具体的には、処理水SS濃度が80mg/L以下で凝集剤濃度10mg/L、処理水SS濃度が80mg/Lを超え100mg/L以下で凝集剤濃度11mg/L、処理水SS濃度が100mg/Lを超え120mg/L以下で凝集剤濃度12mg/L、処理水SS濃度が120mg/Lを超える場合に凝集剤濃度13mg/Lとした。
【0061】
この結果、グラニュール汚泥が展開されている汚泥界面については、汚泥の流出・減少による高さの低下は認められず、90日間の実験期間中、処理開始時のグラニュール汚泥量以上の量を反応槽内に維持できた。また、反応槽内のグラニュール汚泥の解体、微細化に起因する平均粒径の微細化も起こらなかった。
このときの反応槽内グラニュール汚泥の平均粒径の経時変化、反応槽内汚泥界面高さの経時変化をそれぞれ図3,4に示す。
【0062】
<比較例1>
嫌気反応槽より取り出される処理水のSS濃度の監視及び監視結果に基づくいずれの制御もしない条件で嫌気性処理を行った。
その結果、嫌気反応槽内のグラニュール汚泥は徐々に減少し、平均粒径も小さくなった。
このときの反応槽内グラニュール汚泥の平均粒径の経時変化、反応槽内汚泥界面高さの経時変化をそれぞれ図3,4に示す。
【0063】
以下の結果から、処理水の吸光度に基く反応槽への被処理水の導入流量、栄養剤の添加量又は高分子凝集剤の添加量の制御で、反応槽内でのグラニュール汚泥の解体、反応槽からの汚泥流出を確実に防止して、高負荷高速処理を長期に亘り安定に行うことができることが分かる。
【符号の説明】
【0064】
1 反応槽
2 グラニュール汚泥
3 気固液分離装置
4 ガスホルダ
5 処理水槽
6 調整槽
7 pH調整槽
9 制御装置
10 薬剤貯槽

【特許請求の範囲】
【請求項1】
グラニュール汚泥が保持された反応槽に、パルプ製造工程で排出された蒸発凝縮水を含む被処理水を導入して嫌気性処理を行う方法において、該反応槽からの処理水について、波長380〜780nmの範囲の可視光の吸光度を測定し、該吸光度の測定値に基いて、以下の(1)〜(3)のいずれか1以上を制御することを特徴とする嫌気性処理方法。
(1) 該反応槽への被処理水の導入流量
(2) 該反応槽への栄養剤の添加量
(3) 該反応槽への高分子凝集剤の添加量
【請求項2】
請求項1において、前記栄養剤が、硝酸、亜硝酸、糖質、塗工廃液、カルシウム化合物、及び鉄塩からなる群より選ばれる1以上を含むことを特徴とする嫌気性処理方法。
【請求項3】
グラニュール汚泥が保持された反応槽と、該反応槽にパルプ製造工程から排出された蒸発凝縮水を含む被処理水を導入する手段と、該反応槽から処理水を取り出す手段と、該処理水の波長380〜780nmの範囲の可視光の吸光度を測定する手段と、該吸光度の測定値に基いて、以下の(1)〜(3)のいずれか1以上を制御する手段とを備えることを特徴とする嫌気性処理装置。
(1) 該反応槽への被処理水の導入流量
(2) 該反応槽への栄養剤の添加量
(3) 該反応槽への高分子凝集剤の添加量
【請求項4】
請求項3において、前記栄養剤が、硝酸、亜硝酸、糖質、塗工廃液、カルシウム化合物、及び鉄塩からなる群より選ばれる1以上を含むことを特徴とする嫌気性処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−556(P2012−556A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−136744(P2010−136744)
【出願日】平成22年6月16日(2010.6.16)
【出願人】(000005980)三菱製紙株式会社 (1,550)
【出願人】(000001063)栗田工業株式会社 (1,536)
【Fターム(参考)】