説明

子宮筋腫細胞増殖抑制剤

【課題】低侵襲性で長期的投与が可能であり、かつ副作用がない又は弱い新規子宮筋腫治療薬の開発と提供を目的とする。
【解決手段】ビグアナイド系薬剤を有効成分として含有する子宮筋腫細胞増殖抑制剤、又はそれを有効成分として含有する医薬組成物を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、子宮筋腫細胞増殖抑制剤及びそれを含有する医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
子宮筋腫は、子宮を構成する子宮筋層に発生する良性腫瘍で、生殖年齢女性の約25〜50%に認められる。癌のように転移や周辺組織を破壊する可能性は低いものの、発生部位によっては不正出血、月経困難症、圧迫症状、不妊症等の原因となることから、罹患女性のQOL(クオリティー・オブ・ライフ:Quality of Life)を著しく低下させてしまうという問題がある。子宮筋腫は、極めてありふれた疾患でありながら、その病態生理や発症機序については、エストロジェンを介する細胞増殖シグナル伝達機構が関与していること以外は不明な点が多く、有効、かつ長期投与の可能な治療薬は未だに開発されていない。
【0003】
現在行なわれている子宮筋腫の主な治療方法は、手術療法と薬物療法に大別できる(非特許文献1)。
手術療法における標準的な治療方法は、子宮全摘出手術である。この方法は、再発の可能性がない根治療法ではあるが、妊娠を希望する患者に適用できないことや、女性の象徴として重要な臓器である子宮を失うことから患者に与える喪失感や心理的ショックが大きいという問題がある。一方、子宮温存療法として、子宮筋腫核のみを摘出する筋腫核手術がある。この方法は、妊娠を希望する患者にも適用できるという利点があるが、小さな筋腫核を完全に除去できない場合があり、再発の可能性が高いという問題がある。他の子宮温存療法として、子宮動脈塞栓術(uterine artery embolization: UAE)や集束超音波法(focused ultrasound surgery:FUS)が、新たに開発されている。子宮動脈塞栓術は、子宮筋腫に血液供給をする子宮動脈中にゼラチンスポンジ等の塞栓物質を注入し、子宮筋腫を壊死させる治療法である(非特許文献1)。筋腫の成長を阻止し、縮小させることができるため月経過多や筋腫による圧迫は改善されるが、妊娠を希望する患者や塞栓物質や造影剤に対して重篤なアレルギーを有する患者には適用できず、また、術後に下腹部痛を伴うという問題がある。集束超音波法は、MRIで病巣を確認しながら超音波発信装置から放出される超音波エネルギーにより子宮筋腫を焼却する治療法である(非特許文献1)。侵襲性が極めて低く、副作用をほとんど伴わないという利点を有するが、発生位置や大きさ等により適用可能な筋腫が制限されるという問題がある。
【0004】
薬物療法で使用される薬剤として、現在我が国で使用が可能なものにGnRHアゴニストがある。GnRHアゴニストは、黄体化ホルモン(LH:Lutenizing Hormone)及び卵胞刺激ホルモン(FSH:Follicle Stimulating Hormone)の分泌を促進するGnRH(ゴナドトロピン放出ホルモン:Gonadotropin-Releasing Hormone)の作動剤である。LHやFSHは、卵巣に作用して、エストロゲンの分泌を促進する。子宮筋腫は、通常、閉経後に縮小することから、エストロゲンの量に依存して増殖することが知られている(非特許文献1)。本剤を投与すると過剰なGnRHの作用によりLHやFSHの分泌が逆に抑制される結果、卵巣からのエストロゲンの分泌が抑制され、子宮筋腫の増殖を抑えることが可能となる。しかし、この薬剤は、卵巣機能欠落症状(更年期症状)や骨量減少(骨粗鬆症)等の副作用を伴い、効果も一過的であること等から、閉経までの逃げ込み療法として使用されているに過ぎない。さらに他の薬剤として、選択的プロゲステロン受容体モジュレーターやアロマターゼ阻害剤が現在臨床治験の段階にある(非特許文献1)が、これらもGnRHアゴニストと同様に、エストロゲンの分泌又は作用の抑制により子宮筋腫細胞増殖を抑制する薬剤であり、卵巣機能欠落症状や骨量減少等の副作用を伴うため長期にわたる使用はできない。
【0005】
以上のように、現在公知の子宮筋腫治療法は、いずれも治療法として十分とは言い難い。それ故、新たな治療方法又は治療剤を用いた薬物療法の開発が求められている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】鈴木光明、吉村泰典編、産婦人科:専門医にきく最新の臨床 子宮筋腫、2007年、中外医学社
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、低侵襲性で長期的投与が可能であり、かつ副作用がない又は弱い新規子宮筋腫治療薬の開発と提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明者らは、子宮筋腫細胞の増殖を抑制し得る新規薬剤の探索を行なった。その結果、ビグアナイド系薬剤の一種であるメトホルミンに子宮筋腫細胞の増殖抑制効果があることを見出した。メトホルミンは、血糖降下作用を示す糖尿病治療薬として知られている(加来浩平ほか:糖尿病49(5):325,2006)。また、近年では、乳癌抑制効果やPCOS(多嚢胞性卵巣症候群)における排卵障害の抑制効果等の新たな作用も見出されている(Mol Cancer Ther.2010; 9(5) 1092-9)(Ann NY Acad Sci.2010; 1205(1):192-8)。しかし、メトホルミンをはじめとするビグアナイド系薬剤の子宮筋腫細胞に対する増殖抑制効果については、これまで知られていなかった。本発明は、上記新たな知見に基づいて完成されたものであり、以下を提供するものである。
(1)ビグアナイド系薬剤を有効成分として含有する子宮筋腫細胞増殖抑制剤。
(2)ビグアナイド系薬剤がメトホルミン、その誘導体又は薬学的に許容されるそれらの塩である、(1)に記載の子宮筋腫細胞増殖抑制剤。
(3)(1)又は(2)に記載の子宮筋腫細胞増殖抑制剤を有効成分として含有する医薬組成物。
【発明の効果】
【0009】
本発明の子宮筋腫細胞増殖抑制剤又はそれを含有する医薬組成物によれば、低侵襲性で副作用がない又は極めて弱い長期投与の可能な新規子宮筋腫治療・予防薬を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】メトホルミンによる子宮筋腫細胞に特異的な細胞増殖抑制活性を示す図である。Aは子宮筋腫モデルの培養細胞株ELT-3細胞を、またBは子宮頸癌由来の培養細胞株HeLa細胞の増殖を、それぞれ示している。
【図2】メトホルミン処理8週目のヒト子宮筋腫移植片における組織学的構築を示す図である。この図では、HE染色により移植切片の核を染色している。
【図3】メトホルミン処理8週目のヒト子宮筋腫移植片における増殖細胞率を示す図である。
【図4】メトホルミン処理8週目のヒト子宮筋腫移植片におけるアポトーシス細胞率を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下で、本発明の実施形態について詳細に説明をする。
1.子宮筋腫細胞増殖抑制剤
1−1.構成
本発明の第1の実施形態は、子宮筋腫細胞増殖抑制剤である。本発明の抑制剤は、ビグアナイド系薬剤を有効成分として含有することを特徴とする。
【0012】
本明細書において「子宮筋腫細胞(の)抑制」とは、子宮筋腫細胞の増殖を阻害又は抑制することをいう。それ故、「子宮筋腫細胞(の)抑制」は、その増殖の阻害又は抑制に基づく、子宮筋腫細胞のアポトーシス、並びに子宮筋腫の退縮又は消失による子宮筋腫の治療、発生した子宮筋腫への成長の抑制、及び子宮筋腫細胞の発生の予防を含むものとする。
【0013】
「ビグアナイド系薬剤」は、インスリン分泌を介さずに、肝臓からの糖新生を抑制する一方、末梢組織でのブドウ糖の取り込みを促進し、消化管での糖の吸収を抑制する作用を有する薬剤であり、2型糖尿病(インスリン非依存型糖尿病)治療薬、特に肥満型糖尿病治療薬として利用されている。ビグアナイド系薬剤の重篤な副作用としては、乳酸アシドーシスが知られている。しかし、本発明のビグアナイド系薬剤は、当該副作用の発現率が極めて低く、かつ他の副作用もほとんどないか、あっても下痢や吐き気、腹痛程度の軽微な化合物とする。そのような性質を有する本発明のビグアナイド系薬剤として特に好ましい化合物は、例えば、メトホルミン、その誘導体又は薬学的に許容されるそれらの塩が挙げられる。
【0014】
「メトホルミン」とは、前述のように、ビグアナイド系薬剤の一種であって、古くから血糖降下剤として知られる化合物である。メトホルミンは、乳酸アシドーシスを発現することが極めて稀とされており、また他の副作用もほとんどないことから安全性の高い化合物と考えられている。それ故、例えば、英国では一日維持用量として750〜1500mg、また一日最大用量として3000mgの高用量処方が認められている。メトホルミンの生理学的機能は、AMPK(AMP-activated protein kinase)を活性化することが知られているが、詳細な作用機序については未だ不明な点が多い。
【0015】
「その誘導体」とは、メトホルミンから化学的に誘導される反応性誘導体であって、人体内において前記メトホルミンと同様の作用効果を示す化合物をいう。人体に対する副作用がないか又はほとんど認められない薬学的に非毒性の化合物が好ましい。前記誘導体は、メトホルミンのプロドラッグを含むこともできる。「プロドラッグ」とは、生理学的条件下で化学変化を受けることにより活性形態に変換される化合物をいう。例えば、本実施形態の場合であれば、投与前はメトホルミンとは異なる構造の非活性型化合物として存在し、投与後に生体内で、例えば、消化管内で消化酵素の作用によって、メトホルミン又は薬学的に非毒性の活性型メトホルミン誘導体に変換される化合物をいう。
【0016】
「薬学的に許容されるそれらの塩」とは、メトホルミン又はその誘導体の塩であって、それらの化合物の特定の置換基に基づいて、塩基又は酸を用いて調製された薬学的に非毒性の活性化合物をいう。使用した塩基又は酸により酸付加塩と塩基性付加塩とに分類できる。
【0017】
「酸付加塩」としては、例えば、塩酸塩、硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩、炭酸塩、炭酸水素塩、過塩素酸塩等の無機酸塩、酢酸塩、プロピオン酸塩、乳酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、酒石酸塩、リンゴ酸塩、クエン酸塩、アスコルビン酸塩等の有機酸塩、メタンスルホン酸塩、イセチオン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、p−トルエンスルホン酸塩等のスルホン酸塩、アスパラギン酸塩、グルタミン酸塩等の酸性アミノ酸等が挙げられる。本実施形態においては、具体例として、メトホルミン塩酸塩が挙げられる。
【0018】
「塩基性付加塩」としては、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩、カルシウム塩、マグネシウム塩等のアルカリ土類金属塩、トリメチルアミン塩、トリエチルアミン塩、ジシクロヘキシルアミン塩、エタノールアミン塩、ジエタノールアミン塩、トリエタノールアミン塩、ブロカイン塩等の脂肪族アミン塩、N,N-ジベンジルエチレンジアミン等のアラルキルアミン塩、ピリジン塩、ピコリン塩、キノリン塩、イソキノリン塩等の複素環芳香族アミン塩、アルギニン塩、リジン塩等の塩基性アミノ酸塩、テトラメチルアンモニウム塩、テトラエチルアモニウム塩、ベンジルトリメチルアンモニウム塩、ベンジルトリエチルアンモニウム塩、ベンジルトリブチルアンモニウム塩、メチルトリオクチルアンモニウム塩、テトラブチルアンモニウム塩等の第4級アンモニウム塩、アンモニウム塩等が挙げられる。
【0019】
本実施形態の子宮筋腫細胞増殖抑制剤は、ビグアナイド系薬剤、好ましくはメトホルミン、その誘導体、又は薬学的に許容されるそれらの塩(以下を「メトホルミン等」とする)を有効成分として一以上包含する。二以上のビグアナイド系薬剤を含む場合、ビグアナイド系薬剤の組合せは、特に限定しない。また、本実施形態の子宮筋腫細胞増殖抑制剤は、ビグアナイド系薬剤以外の子宮筋腫細胞に対して増殖抑制効果を有する薬剤を包含することもできる。このような薬剤として、例えば、GnRHアゴニスト、選択的プロゲステロン受容体モジュレーター阻害剤又はアロマターゼ阻害剤が挙げられる。
【0020】
本実施形態の子宮筋腫細胞増殖抑制剤は、そのまま若しくは適当な溶媒に溶解して利用することができる。溶媒には、例えば、水、エタノール、プロピレングリコール、エトキシ化イソステアレルアルコール、ポリオキシ化イソステアレルアルコール及びポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類が挙げられる。このような溶媒は、滅菌済みであることが望ましく、必要に応じて血液と等張に調整されていることが好ましい。
【0021】
1−2.有効量
本実施形態の子宮筋腫細胞増殖抑制剤の有効量について説明をする。本明細書において「有効量」とは、有効成分である子宮筋腫細胞増殖抑制剤がその機能を発揮する上で必要な量、すなわち、子宮筋腫細胞の増殖を抑制する上で必要な量であって、かつそれを投与する被験者に対して有害な副作用をほとんど又は全く付与しない量をいう。本実施形態における子宮筋腫細胞増殖抑制剤がビグアナイド系薬剤以外の子宮筋腫細胞増殖抑制効果を有する薬剤を含有しない場合には、子宮筋腫細胞増殖抑制剤の有効量は、実質的にビグアナイド系薬剤の有効量と同量となる。この有効量は、投与する被験者の情報及び投与経路等の様々な条件によって変化し得る。ここで、「被験者の情報」とは、子宮筋腫の重症度(筋腫の数や大きさ)、全身の健康状態、年齢、体重、人種、被験者の薬剤感受性、併用医薬の有無及び治療に対する耐性等を含む。また、「投与経路」とは、子宮筋腫細胞増殖抑制剤が投与される経路であって、経口、組織内経路(皮下経路、筋肉内経路、静脈内経路等)、経皮経路又は直腸経路が挙げられる。
【0022】
子宮筋腫細胞増殖抑制剤の有効量は、上記のように被験者の情報及び投与経路等の条件によって変わり得るが、通常は、一日あたり、1〜100mg/kg体重、1.5〜80mg/kg体重、2〜50mg/kg体重、2.5〜30mg/kg体重又は3〜20mg/kg体重の範囲であればよい。
【0023】
1−3.効果
本実施形態の子宮筋腫細胞増殖抑制剤は、前述のように、その有効成分であるビグアナイド系薬剤、好ましくはメトホルミン等の副作用が弱いことから、比較的多量に、また長期にわたって投与が可能である。さらに、ビグアナイド系薬剤は、経口投与が可能であることから、侵襲性の低い子宮筋腫細胞増殖抑制用医薬組成物を提供できる。
【0024】
2.医薬組成物
本発明の第2の実施形態は、医薬組成物である。以下で本実施形態の医薬組成物の構成、製造法、投与方法及び用法について説明をする。
【0025】
2−1.構成
2−1−1.有効成分
本発明の医薬組成物は、前記実施形態1の子宮筋腫細胞増殖抑制剤を有効成分として含有することを特徴とする。すなわち、本実施形態の医薬組成物は、子宮筋腫細胞の増殖を抑制し、筋腫の発症を抑制又は退縮によって、子宮筋腫を治療・予防することを目的とする。本発明の医薬組成物は、異なる前記子宮筋腫細胞増殖抑制剤を一以上含むことができる。
【0026】
さらに、実施形態の医薬組成物は、製薬上許容可能な範囲で、かつ子宮筋腫細胞増殖抑制剤を失活させない範囲において、子宮筋腫細胞増殖抑制剤とは異なる薬理作用を有する薬剤を有効成分として含有することができる。例えば、子宮筋腫細胞増殖抑制剤の有効成分であるビグアナイド系薬剤による胃腸症状を改善するための健胃薬等を含んでいてもよい。
【0027】
2−1−2.担体
本発明の医薬組成物は、さらに製薬上許容可能な担体を含むことができる。「製薬上許容可能な担体」とは、製剤技術分野において通常使用する添加剤をいう。担体は、主として医薬組成物の剤形形成を容易にし、また剤形及び薬剤効果を維持する目的で用いられる。このような担体には、例えば、賦形剤、結合剤、崩壊剤、充填剤、乳化剤、流動添加調節剤、滑沢剤等が挙げられる。添加する担体は、医薬組成物の剤形及び/又は投与方法によって異なるため、その条件、及び必要に応じて、適宜選択し、添加すればよい。
【0028】
賦形剤としては、単糖、二糖類、シクロデキストリン及び多糖類のような糖(より具体的には、限定はしないが、グルコース、スクロース、ラクトース、ラフィノース、マンニトール、ソルビトール、イノシトール、デキストリン、マルトデキストリン、デンプン及びセルロースを含む)、金属塩(例えば、塩化ナトリウム、リン酸ナトリウム若しくはリン酸カルシウム、硫酸カルシウム、硫酸マグネシウム、炭酸カルシウム)、クエン酸、酒石酸、グリシン、低、中、高分子量のポリエチレングリコール(PEG)、プルロニック、カオリン、ケイ酸、あるいはそれらの組み合わせが例として挙げられる。
【0029】
結合剤としては、トウモロコシ、コムギ、コメ、若しくはジャガイモのデンプンを用いたデンプン糊、単シロップ、グルコース液、ゼラチン、トラガカント、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、セラック及び/又はポリビニルピロリドン等が例として挙げられる。
【0030】
崩壊剤としては、前記デンプンや、乳糖、カルボキシメチルデンプン、架橋ポリビニルピロリドン、アガー、ラミナラン末、炭酸水素ナトリウム、炭酸カルシウム、アルギン酸若しくはアルギン酸ナトリウム、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ラウリル硫酸ナトリウム、ステアリン酸モノグリセリド又はそれらの塩が例として挙げられる。
【0031】
充填剤としては、前記糖及び/又はリン酸カルシウム(例えば、リン酸三カルシウム、若しくはリン酸水素カルシウム)が例として挙げられる。
【0032】
乳化剤としては、ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステルが例として挙げられる。
【0033】
流動添加調節剤及び滑沢剤としては、ケイ酸塩、タルク、ステアリン酸塩又はポリエチレングリコールが例として挙げられる。
【0034】
上記の添加剤の他、必要であれば矯味矯臭剤、可溶化剤、懸濁剤、希釈剤、界面活性剤、安定剤、吸収促進剤、増量剤、付湿剤、保湿剤、吸着剤、崩壊抑制剤、コーティング剤、着色剤、保存剤、抗酸化剤、香料、風味剤、甘味剤、緩衝剤等を含むこともできる。このような担体は、製剤技術分野において公知のものを必要に応じて適宜使用すればよい。
【0035】
2−1−3.剤形
本実施形態の医薬組成物の剤形は、抑制剤中の有効成分である子宮筋腫増殖抑制剤及び他の付加的な有効成分を不活化させない形態であれば特に限定しない。例えば、液体、固体又は半固体のいずれであってもよい。具体的な剤形としては、例えば、液剤、散剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、舌下剤、トローチ剤等の経口剤形、又は注射剤、懸濁剤、乳剤、点眼剤、点鼻剤、クリーム剤、軟膏剤、硬膏剤、シップ剤及び座剤等の非経口剤形が挙げられる。子宮筋腫増殖抑制剤の有効成分であるメトホルミン等をはじめとするビグアナイド系薬剤は経口投与が可能であることから、低侵襲性を考慮すれば、本実施形態の医薬組成物の剤形は、経口剤形が好ましい。
【0036】
本発明の医薬組成物の剤形は、処方条件及び/又は投与方法に基づいて最終的に決定される。処方条件とは、医薬組成物を投与する被験者の情報、医薬組成物の一投与単位量(1回当たりの投与量)、及び一日当たり投与回数等をいう。また、投与方法の詳細については後述するが、通常は、経口投与と非経口投与に大別することができる。そこで、ここでは、それぞれの投与方法に適した剤形について説明をする。
【0037】
経口投与に適した剤形としては、例えば、固形剤(錠剤、丸剤、舌下剤、カプセル剤、ドロップ剤、トローチ剤を含む)、顆粒剤、粉剤、散剤又は液剤(シロップ剤、ドライシロップ剤を含む)等が挙げられる。さらに固形剤は、必要に応じ、当該分野で公知の剤殻を有する剤形、例えば、糖衣錠、ゼラチン被包錠、腸溶錠、フィルムコーティング錠、二重錠、多層錠とすることもできる。本実施形態の医薬組成物を経口投与で用いる場合には、上記いずれの剤形であってもよい。
【0038】
非経口投与に適した剤形としては、非経口投与をさらに組織内投与、局所投与及び経直腸的投与に細分できることから、それぞれの投与方法に適した剤形にすることができる。組織内投与に適した剤形としては、例えば、注射剤のような液剤が挙げられる。また、局所投与に適した剤形としては、例えば、塗布剤、点眼剤、点鼻剤及び吸引剤のような液剤、乳剤及びクリーム剤のような懸濁剤、点鼻剤及び吸引剤のような粉剤、ペースト剤、ゲル剤、軟膏剤、及び硬膏剤等を挙げることができる。さらに、経直腸的投与に適した剤形としては、例えば、坐剤としての液剤、ゲル剤又は固形剤を挙げることができる。
【0039】
上記各剤形の形状、大きさについては、それぞれの剤形において当該分野で公知の範囲内にあればよく、特に限定はしない。固形剤である錠剤を例に挙げれば、通常、最大長が3〜15mm、好ましくは5〜10mmの範囲内にあればよい。より具体的には、例えば、略球形平板形状剤型の場合、直径が5〜10mmの範囲内、かつ最大厚が2〜5mmの範囲内にあればよい。
【0040】
2−1−4.医薬組成物における子宮筋腫細胞増殖抑制剤の含有量
本実施形態の医薬組成物の有効成分である子宮筋腫細胞増殖抑制剤については、前記実施形態1で既に説明をしていることから、ここでは、医薬組成物における子宮筋腫細胞増殖抑制剤の含有量等について説明をする。
【0041】
本発明の医薬組成物における子宮筋腫細胞増殖抑制剤の含有量は、子宮筋腫細胞増殖抑制剤の種類、その有効量、使用する担体の種類、医薬組成物の剤形、及び投与方法等の様々な条件によって異なる。ここで、前記子宮筋腫細胞増殖抑制剤の種類は、例えば、有効成分であるビグアナイド系薬剤の種類に基づく。また、子宮筋腫細胞増殖抑制剤の有効量、使用する担体の種類、医薬組成物の剤形は、いずれも上記で説明した通りである。さらに、投与方法については、後述する。したがって、医薬組成物における子宮筋腫細胞増殖抑制剤の含有量の含有量は、前記各条件を勘案し、投与する被験者ごとに算出される。この量は、最終的には医師の判断によって決定される。
【0042】
個々の医薬組成物中の子宮筋腫細胞増殖抑制剤の含有量は、医薬組成物の剤型、一投与単位量、一日当たりの投与回数によって変動し得る。一般には、一日の総投与量中に子宮筋腫細胞増殖抑制剤の有効量が含有されるように調整されていれば、個々の医薬組成物中の子宮筋腫細胞増殖抑制剤の含有量は問わない。例えば、本発明の医薬組成物を錠剤のような固形剤として調製する場合、固形剤は、剤数によって子宮筋腫細胞増殖抑制剤の量を調整することが可能である。例えば、本発明の医薬組成物の薬理効果を得る上で、子宮筋腫細胞増殖抑制剤の大量投与が必要な場合には、被検体への負担軽減を考慮し一日数回に分割して投与することもできる。それ故、一日あたりに投与すべき有効量を必ずしも1錠中に全て含有させる必要はない。一投与単位で複数の錠剤を投与して、及び/又は一日の投与回数を複数回に分けて投与して、一日の総計で有効量の子宮筋腫細胞増殖抑制剤が含有されているように調整すればよい。このように分割投与できる剤形は、年齢、体重又は重症度に応じて微調節しながら適用できるので便利である。一方、本発明の医薬組成物を注射剤として調製する場合には、注射による投与は、被検体の負担や侵襲性を考慮すると、通常、一日1回が望ましいことから、一投与単位の注射剤中には前記一日あたりの有効量を全て含有するように調整することが好ましい。
【0043】
具体的な例として、例えば、ヒト成人女性(体重50kg)に本発明の医薬組成物を一日1回、錠剤形態で1錠経口投与する場合には、1錠中に子宮筋腫細胞増殖抑制剤の有効成分であるビグアナイド系薬剤、好ましくはメトホルミン等が、例えば、1μg〜200mg、5μg〜100mg、10μg〜50mg、50μg〜10mg又は1mg〜5mgの範囲で含有されていればよい。
【0044】
2−2.医薬組成物の製造法
本実施形態の医薬組成物を製剤化するには、原則として当該分野で公知の一般的な方法を利用することができる。例えば、本実施形態の医薬組成物を錠剤として製造する場合には、前記実施形態1に記載の一以上の子宮筋腫細胞増殖抑制剤を薬学的に許容可能な適当な担体と共に、混合、造粒及び打錠して調製することができる。必要に応じて、得られた素錠の表面に、エタノール等の溶剤で可溶化したセラックのようなコーティング剤を噴霧器により吸着させた後、乾燥させるか、コーティング溶液に浸漬させて、その後乾燥させることによって、コート(被覆層)を形成させてもよい。このような製剤化の具体的方法については、公知の文献、例えば、Remington’s Pharmaceutical Sciences(Merck Publishing Co.,Easton,Pa.)に記載の方法に準じて行なうことができる。
【0045】
具体的な例として、本発明の医薬組成物を固形剤として調製する場合、通常、1錠重量に対して子宮筋腫細胞増殖抑制剤を50重量%〜95重量%、好ましくは60重量%〜90重量%、より好ましくは70重量%〜85重量%の範囲で含有するように製剤することが好ましい。ただし、前述のように、当該重量%が一日あたりの子宮筋腫細胞増殖抑制剤の有効量である必要はない。子宮筋腫細胞増殖抑制剤以外には、薬学的に許容可能な担体として、上記添加剤を当該分野で公知の含有率で含むことができる。
【0046】
2−3.投与方法
本実施形態の医薬組成物は、目的とする疾患の治療のために製薬上有効な量を被験者に投与することができる。
【0047】
本明細書において「製薬上有効な量」とは、本実施形態の医薬組成物に含まれる子宮筋腫増殖抑制剤の有効量である。
【0048】
本発明の医薬組成物の投与方法は、当該分野で公知の投与単位形態で投与することができる。投与単位形態には、例えば、経口投与、非経口投与が挙げられる。非経口投与は、さらに、組織内投与(例えば、皮下投与、筋肉内投与、静脈内投与等)、局所投与(例えば、経皮投与等)又は経直腸的投与に分類することができる。本実施形態の医薬組成物は、これらの投与単位形態のいずれを使用してもよい。
【0049】
本発明の医薬組成物には経口投与が好ましい。投与が容易で、侵襲性が低く、十分な効果を得られるからである。経口投与であれば、医薬組成物は、使用する投与単位形態に適した剤形、例えば、固形、粉末又は液剤で投与することが好ましい。
【0050】
また、より即時的に子宮筋腫の成長を抑制させる場合には、組織内投与を利用してもよい。注射による投与の場合、皮下投与、筋肉内投与又は血管内投与等のいずれの方法であってもよい。例えば、静脈内、動脈内、肝臓内、筋肉内(子宮又は子宮筋腫を含む)、関節内、骨髄内、髄腔内、心室内、経皮、皮下、皮内、腹腔内、鼻腔内、腸内、舌下等が挙げられる。好ましくは、子宮筋腫内投与又は血流を介した静脈内注射又は動脈内注射等の血管内注射である。
【0051】
本発明の医薬組成物の投与量は、前述のように一日投与単位(一日あたりの投与)中に総計で有効量の子宮筋腫細胞増殖抑制剤が含有されていれば、一投与単位中の投与量は、特に制限はしない。
【0052】
本発明の医薬組成物を一日あたり複数回に分けて投与する場合、その分割数は、特に制限はしないが、あまり回数が多くなると患者の負担となることから、通常は、2回/日、3回/日又は4回/日が好ましい。分割投与する場合、投与時期は、特に制限はしないが、継続的効果を得るために、通常は各投与間隔を1〜24時間、2〜12時間、3〜10時間、又は6〜8時間程度開けることが好ましい。したがって、一日2回の投与であれば、例えば、朝晩、朝昼又は昼夕とすればよい。また、一日3回の投与であれば、朝昼晩とすればよい。食前、食後のいずれに投与すべきかについては、特に制限はしない。
【0053】
2−4.用法
本発明の医薬組成物は、子宮筋腫の治療及び子宮筋腫発症予防用として使用することができる。また、ビグアナイド系薬剤は、2型糖尿病(インスリン非依存型糖尿病)治療薬、特に肥満型糖尿病治療薬としても知られていることから、本発明の医薬組成物は、肥満傾向(又は血糖値の高め)の患者を対象とした、糖尿病治療及び予防を兼ねた子宮筋腫の治療及び子宮筋腫発症予防用としても使用することができる。
【実施例】
【0054】
<実施例1:子宮筋腫モデル細胞株を用いたメトホルミンの子宮筋腫細胞増殖抑制効果の検証>
in vitroにおけるメトホルミンの子宮筋腫細胞増殖抑制効果を、ELT-3細胞を用いて検証した。ELT-3細胞は、Ekerラットより樹立された子宮平滑筋腫細胞株で、エストロゲン受容体(ER)やプロゲステロン受容体(PR)を発現し、かつ、それらのホルモンに対して感受性を示す他、形態的にも、生化学的にも、また遺伝学的にもヒトの子宮筋腫細胞に類似することから、子宮筋腫のin vitro実験系モデル細胞株として利用されている(Howe SR; Am J Pathol 1995)。また、メトホルミンの毒性試験用として子宮頸癌細胞由来のHeLa細胞に対する増殖抑制活性を同時に検証した。
【0055】
(方法)ELT-3細胞は、5%CO2下、37℃で培養した。細胞の維持継代には、10%ウシ胎児血清(FCS)(GIBCO)含有DF8培地(10%FCS+DF8培地)を用いた。DF8培地には、GIBCO製の培地を使用した。HeLa細胞も同条件で培養した。
【0056】
メトホルミン処理の際には、上記培地に代えて、FCS及びフェノールレッド非含有で、1%のウシ血清アルブミン(BSA)(SIGMA)含有のDF8基本培地(1%BSA+DF8基本培地)下で培養した。メトホルミン(和光純薬)は、蒸留水で溶解した後、1000倍希釈(0.1% v/v)したものを用いた。
【0057】
維持継代しているELT-3細胞を96穴細胞培養用プレート(Corning)に約5000細胞/穴で播種し、10%FCS+DF8培地で一晩培養して、付着させた。翌日、培地を廃棄後、新たな培地として1%BSA+DF8基本培地を加え、さらに24時間培養した。続いて、メトホルミンを終濃度2.5mM又は5.0mMとなるように添加して再び72時間培養した後、細胞に対してMTSアッセイ(Cell Titer 96 Aqueous One Solution Cell Proliferation Assay)(Promega社製)を行なった。HeLa細胞に関しても、同様に処理をした。
細胞増殖の評価は、各細胞について3穴分の細胞数を計算し、その平均値と標準偏差を算出した。
【0058】
(結果)図1に結果を示す。図1は、ETL-3細胞(A)又はHeLa細胞(B)において、メトホルミン未処理(0.0mM)の細胞数を100%としたときの細胞増殖率を示している。この図が示すように、メトホルミンは、ELT-3細胞の増殖を量依存的に有意に抑制した。一方、HeLa細胞に対する増殖抑制効果は見られなかった。すなわち、メトホルミンは、同じ子宮組織においても悪性腫瘍である子宮頸癌細胞に対しては増殖抑制効果がなく、良性腫瘍である子宮筋腫細胞に対して増殖抑制効果を示した。これは、メトホルミンの細胞増殖抑制活性が子宮筋腫細胞に特異的であることを示唆している。
【0059】
<実施例2:ヒト子宮筋腫モデルマウスを用いたメトホルミンの子宮筋腫細胞増殖抑制効果の検証>
in vivoにおけるメトホルミンの子宮筋腫細胞増殖抑制効果を、ヒト子宮筋腫モデルマウスを用いて検証した。本実施例で用いたヒト子宮筋腫モデルマウスは、本発明者らの開発した方法によって作製したモデルマウスである。ヒト子宮筋腫由来の組織を移植したヒト子宮筋腫モデルマウスには、他にも、例えば、機能的なT細胞及びB細胞を欠失したSCIDマウスにヒト子宮筋腫組織を移植したヒト子宮筋腫モデルマウスが知られている(Hassan MH, 2008, Am J Obstet Gynecol., 199:156.e1-8)。しかし、このモデルマウスは、組織移植後2〜3週で移植細胞が変性し始め、4週で核を消失してしまうため、移植組織が生着しないという大きな問題を抱えている。また、SCIDマウスを用いた類似のヒト子宮筋腫組織移植マウスとして、MemyIモデルが開発されている(Hassan MH, 2008, Am J Obstet Gynecol., 199:156.e1-8)。このモデルマウスは、Adベクターを用いてヒト子宮筋腫由来の組織にVEGF、COX-2を強制発現させて、その組織をSCIDマウスに移植したヒト子宮筋腫モデルマウスである。移植後4週目でも移植細胞の核は消失せず、移植組織の正着が認められることから子宮筋腫のin vivo実験系として有用ではあるが、モデル動物の作製が煩雑という欠点を有する。本実施例で使用するヒト子宮筋腫モデルマウスは、ヒト子宮筋腫組織をマウスに簡便かつ安定に生着させることができる点で優れている。なお、ここで使用するヒト子宮筋腫モデルマウスのより詳細な作製方法は、特願2009-297958号に記載されているので参照されたい。
【0060】
1.実験方法
1−1.ヒト子宮筋腫モデルマウスの作製
宿主動物として8〜10週齢のNOGマウス(財団法人実験動物中央研究所)の雌個体にペントバルビタール(SIGMA社)を腹腔内投与し、麻酔をかけた。刺激反射の消失後に、後頚部を解剖用ハサミで約2mm幅に切開し、開口部から、徐放性エストロゲンペレット(60日徐放型、1.5mg錠)(Innovative Research of America社)を皮下に投与した。その後、医療用アロンアルファ(東亜合成社)を用いて切開創を閉じた。このエストロゲン投与術は、ヒト子宮筋腫組織片移植手術の5日前に行なった。
【0061】
続いて、東北大学病院産婦人科においてインフォームドコンセントを得た45歳の子宮筋腫患者から子宮筋腫核手術によって摘出された子宮筋腫を約3mm×約3mm×約2mmに裁断し、ヒト子宮筋腫組織片を調製した。
【0062】
前記エストロゲン投与した6匹のNOGマウスに麻酔をかけた後、両脇腹の体毛を剃毛し、移植部位として、剃毛した箇所をそれぞれ一箇所切開した。調製した同一患者由来のヒト子宮筋腫組織片をBDマトリゲル(BD Matrigel Basement Membrane Matrix;BD Biosciences社)に1分間浸漬した後、各マウス個体の前記両脇腹の切開創から皮下にピンセットで1個ずつ移植した。移植部位に0.5mlのBDマトリゲルをシリンジでさらに追加し、その後、切開創を医療用アロンアルファで閉創した。
【0063】
2.ヒト子宮筋腫移植片における組織学的構築の検証
(方法)6匹の移植マウスを2群に分け、一方の群にはメトホルミン(和光純薬)を1mg/日で連日腹腔内投与し、他方の群には、コントロールとして生理食塩水を腹腔内投与した。投与開始から8週目に各マウスにおけるヒト子宮筋腫の移植片を摘出し、組織学的検討を行った。薄層切片の調製は、摘出した組織片を10%ホルマリンで24時間処理して固定した後、パラフィン浸透を24時間行い、包理した。次に、ミクロトーム(大和光機 REM-700-AN)を用いて薄切し、薄層切片を調製した。続いて、得られた薄層切片をヘマトキシリン・エオシン(HE)(和光純薬工業)を用いて染色した。好塩基性である核は、ヘマトキシリンによって青紫色を呈することから、その存在を確認できる。
【0064】
(結果)図2に結果を示す。Aはメトホルミン未投与のコントロール個体から、またBはメトホルミン投与した個体から、それぞれ摘出されたヒト子宮筋腫の移植片のHE染色結果を示す。コントロールで観察できる無数の紡錘形状の点、及び丸い斑点は、いずれもHEで染色されたヒト子宮筋腫細胞の核である。形状の相違は、核を長軸、短軸のいずれの方向から観察しているかによる。一方、メトホルミンを投与した個体由来のヒト子宮筋腫では、コントロールと比較すると、ほとんどの細胞が脱核して変性していることがわかる。これは、組織学的に子宮筋腫細胞の増殖が阻害されていることを示している。
【0065】
3.ヒト子宮筋腫移植片における細胞増殖の評価
(方法)上記「2.ヒト子宮筋腫移植片における組織学的構築の検証」で6匹の移植マウスから摘出されたヒト子宮筋腫の移植片において細胞分裂中のヒト子宮筋腫細胞を、マウス抗ヒトKi-67モノクローナル抗体(#M 7240;Dako Cytomation社)を用いた免疫染色で検出し、ヒト子宮筋腫移植片における細胞増殖を評価した。Ki67は、分裂中の核特異的タンパク質であることから、このタンパク質の抗体染色によって分裂中の細胞の存在を確認できる。免疫染色は、ニチレイ免疫染色キット#424022、及びヒストファインSAB-PO(M)キットを用いて、添付のプロトコルに従って行った。
【0066】
(結果)図3に結果を示す。図中のKi67抗体陽性細胞の割合は、1視野当たりの全細胞に対する割合であり、各移植片につき、それぞれ4視野でカウントし、その平均値を取った。コントロール個体から摘出されたヒト子宮筋腫の移植片におけるヒト子宮筋腫細胞の増殖と比較して、メトホルミンを投与した個体から摘出されたヒト子宮筋腫の移植片におけるヒト子宮筋腫細胞は、その増殖が抑制されていることが示された。
【0067】
4.ヒト子宮筋腫移植片におけるアポトーシスの検証
(方法)上記「2.ヒト子宮筋腫移植片における組織学的構築の検証」で6匹の移植マウスから摘出されたヒト子宮筋腫の移植片においてアポトーシスを生じたヒト子宮筋腫細胞を、TUNEL染色を用いて評価した。TUNEL染色はIn Situ Cell Detection Kit(Roche Diagnostics)により行った。
【0068】
(結果)図4に結果を示す。図中のTUNEL陽性細胞の割合は、1視野当たりの全細胞に対する割合であり、各移植片当たり、それぞれ4視野でカウントしその平均値を取った。コントロール個体から摘出されたヒト子宮筋腫の移植片と比較して、メトホルミンを投与した個体から摘出されたヒト子宮筋腫の移植片では、明らかに多くのヒト子宮筋腫細胞がアポトーシスを起こしていることが示された。これは、2.ヒト子宮筋腫移植片における組織学的構築の検証の結果とも相違しない。
【0069】
以上の2〜4の結果から、メトホルミンは、in vivoにおいても、子宮筋腫細胞の増殖を抑制できることが立証された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビグアナイド系薬剤を有効成分として含有する子宮筋腫細胞増殖抑制剤。
【請求項2】
ビグアナイド系薬剤がメトホルミン、その誘導体又は薬学的に許容されるそれらの塩である、請求項1に記載の子宮筋腫細胞増殖抑制剤。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の子宮筋腫細胞増殖抑制剤を有効成分として含有する医薬組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−72077(P2012−72077A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−217281(P2010−217281)
【出願日】平成22年9月28日(2010.9.28)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】