説明

孔版印刷用のエマルジョンインキ

【課題】食品の近傍で使用される印刷物のインキ或いはまた食品へ直に印刷を行い、食品と一緒に食することができる孔版印刷用のエマルジョンインキの提供。
【解決手段】被印刷体上での画像形成のために、食用樹脂、食用油脂、エタノール、および必要に応じて食用色素その他の食用物や水またはアンモニア水で構成された孔版印刷用のエマルジョンインキであって、エマルジョンインキが食用色素を含まない場合、被印刷体上に形成された画像の反射濃度が0.3以下になるように、エマルジョンインキの分散質として食用樹脂を使用することを特徴とする上記孔版印刷用のエマルジョンインキ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、孔版印刷を用いて簡便迅速に被印刷体上へ画像形成を行うエマルジョンインキに関するもので、特に、食品の近傍で使用される印刷物のインキ或いはまた食品へ直に印刷を行い、食品と一緒に食することができる孔版印刷用のエマルジョンインキに関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に食品の近傍で使用される印刷物のインキ、或いはまた、食品へ直に印刷を行い食品と共に一緒に食することができるインキとしては、可食性インキ(例:東洋インキ製造株式会社製のリオフレッシュ1377)が使用されてきた。この可食性インキは食用とされる天然物等を原料としており食用としての安全性は優れている。しかしながら印刷するとなると、食用としての特徴と要件を考慮するため、主にはインキ組成上の理由から印刷方式として大規模な機械設備を必要とするグラビア印刷、あるいは印刷できる絵柄サイスに比較して作業する作業場が他の印刷方式より広く必要とするスクリーン印刷によらなければならない。したがって印刷の際には、例えば食品の説明に食品の近傍に添付する小さな説明書であっても通常の印刷と同様に印刷版を作成する必要が生じてしまし、この必要となる版を作成するには印刷製版工程が必要で且つ製版作業時間も通常の商業印刷の大規模な印刷部数に使用される印刷版の作業時間と同等となる。またこれらの印刷準備に要する作業と作業時間も同様である。
【0003】
更に、これらの印刷物を作成する設備は、衛生管理上の観点から、印刷会社においては使用する製版設備や印刷機を専用の設備として運用する必要があり同一の製版設備や印刷機械で様々な印刷の仕事に対応して、その結果として、印刷物の製造コストを引き下げるという、印刷が本来目指すところ即ち印刷がそのメリットを発揮する安価な大量複製と矛盾する問題点を、食品の近傍で使用する印刷物の作成もしくは食用に供する印刷物の作成において抱え込んでしまうことになる。
【0004】
これらの問題に対処するために、便宜的な方法として、簡易なスクリーン印刷機や卓上型のパッド印刷機による印刷があり実際にも一部の用途向けに行われ、印刷物の作成に要する時間はグラビア印刷等より長時間となるものの食用に供する印刷を行う占有設備としての設備価格は大型の印刷設備より低く、生産性が低く印刷された画像品質も通常の印刷方式より劣るものの、印刷物の製造コストを引き下げる方法として利用されている。
【0005】
しかし、これらの方法による印刷の生産性は製版設備や印刷機のそもそもの目的からして著しく低く、しかし製版作業は大規模な印刷方法と概ね同様で手間がかかり、製版する際の図案や文字の作成にも同様であって、結果として、可食性インキを使用して印刷本来のメリットを得るには、経済的な負担を我慢して大規模な設備の専用化するか、あるいは低い画像品質に我慢して印刷準備には手間と時間をかけて簡易な印刷を行う、いずれかを選択することとなり多様な印刷需要に迅速な対応が難しいという問題点がある。
【特許文献1】なし。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、可食性インキを使用する食品近傍で使用される印刷物の印刷、食品への直接印刷において、孔版印刷機で使用できる可食性のエマルジョンインキを提供して、大規模な設備の専用化や印刷準備に手間と時間が必要な印刷方法に頼ることなく簡単な印刷準備作業ながらも高い印刷品質を迅速で安価に提供、従来の可食性インキが抱える印刷時の問題を解決して、可食性インキの印刷での使用機会を増やすことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
孔版印刷による可食性インキの印刷を実現して、作業性に優れた孔版印刷機を利用して上記の課題を解決するため、本発明の孔版印刷用の可食性エマルジョンインキは孔版印刷機上における取扱いが通常の孔版インキと同じように容易であり、長期間に渡ってインキ本来の機能を保つことを特徴とする。
【0008】
すなわち本発明は、被印刷体上での画像形成のために、食用樹脂、食用油脂、エタノール、および必要に応じて食用色素その他の食用物や水またはアンモニア水で構成された孔版印刷用のエマルジョンインキに関する。
また本発明は、エマルジョンインキの分散質重量が分散媒の重量より多いことを特徴とする上記孔版印刷用のエマルジョンインキに関する。
また本発明は、食用色素の50%以上の粒径が5μm以下の大きさであることを特徴とする上記孔版印刷用のエマルジョンインキに関する。
また本発明は、エマルジョンインキが食用色素を含まない場合、被印刷体上に形成された画像の反射濃度が0.3以下になるように、エマルジョンインキの分散質として食用樹脂を使用することを特徴とする上記孔版印刷用のエマルジョンインキに関する。
【0009】
また本発明は、アンモニア水をエマルジョンインキの分散媒あるいは分散質とする場合、アンモニア水がインキの全重量の10%を以下であり且つインキ全重量の5%以上の水を含むことを特徴とする上記孔版印刷用のエマルジョンインキに関する。
また本発明は、エマルジョンインキで使用される食用油脂のヨウ素価が100以上であることを特徴とする上記孔版印刷用のエマルジョンインキに関する。
また本発明は、エマルジョンインキでエタノールを使用する場合、エタノールの含有量がインキの全重量の5%以上であることを特徴とする上記孔版印刷用のエマルジョンインキに関する。
【0010】
また本発明は、エマルジョンインキで食用油脂を分散媒とする場合は使用する食用の乳化剤のうち少なくとも一つのHLB値が6.0以下であり、分散媒が食用油脂でない場合は使用する乳化剤のうち少なくとも一つのHLB値が6.0以上であることを特徴とする上記孔版印刷用のエマルジョンインキに関する。
また本発明は、エマルジョンインキの分散質に食用樹脂をインキの全重量の30%を超えない範囲で含むことを特徴とする上記孔版印刷用のエマルジョンインキに関する。
さらに本発明は、エマルジョンインキの分散媒にインキの全重量の10%以下で増粘効果を示す食用物を含むことを特徴とする上記孔版印刷用のエマルジョンインキに関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の孔版印刷用のエマルジョンインキを使用すれば、従来の可食性インキでは出来なかった印刷機として小規模となる孔版印刷機の利用が可能となり、また印刷機で長期にインキを保存することができるため、この孔版印刷機を可食性インキの専用機にしたとしても、大規模な設備を使用の度に食品向け使用として洗浄して他の印刷機と別個に使用するよりも費用を安価に抑えることが可能で、また最近の孔版印刷機は卓上型コンピューターと組み合わせた印刷図案の作成機能も搭載されているため、可食性インキのための専用の製版と印刷機として専用して利用できる環境が実現することになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
可食性インキを紙等の被印刷体へ印刷する場合、グラビア印刷もしくはスクリーン印刷が用いられることが多い。これらの印刷を利用する場合、画像形成のための可食性インキの紙等への印刷と印刷後の紙等へのインキの固着は、エタノールのような流動性のあるインキ構成成分によって紙等への印刷を行い、被印刷体でエタノールが乾燥蒸発して食用樹脂と色素成分が印刷された紙等の表面や内部で固着乾燥することによる。印刷に際しては通常の印刷物の製造方法と同じ方法なので、インキが可食性インキであること以外は通常の印刷となんら変わることはなく、グラビア印刷機やスクリーン印刷機といった大型の印刷機とこれに伴って広い作業面積が必要となり、印刷するための印刷版の準備といった事前に準備作業も通常の印刷と全く同様に必要である。
【0013】
本発明では、可食性インキが孔版印刷用のエマルジョンインキの形態となっていて、画像形成のための印刷には孔版印刷機が使えるので、グラビア印刷やスクリーン印刷と比較して印刷に使用する設備の設置面積や作業面積が著しく少なく、また最近の孔版印刷機は一般に印刷版を作成する製版機能も備えているため、印刷版は印刷直前に孔版印刷機のこの機能を使って簡便に作成することが出来る。紙等の被印刷体への印刷には、エマルジョンインキの連続相と分散質の双方の特性を利用することが出来、例えばW/O型のエマルジョンインキの場合は連続相となる油相成分にヨウ素価が100以上の食用油脂(例えば、あまに油、紅花油、大豆油、なたね油)、乾燥を容易にするにはヨウ素価130以上が好ましく、こういった食用油脂を使用することで紙等への印刷に際して油相が乾燥、分散質の構成成分の一つである食用樹脂の乾燥とあいまって、被印刷体で良好な画像品質が達成される。乾燥には孔版印刷機の中で熱や温風を被印刷体へ送風しての乾燥であってもよく、また印刷後の熱や温風でも構わない。温風等を利用する場合は低いヨウ素価の食用油脂でも実用になるが、ヨウ素価130以上であれば短時間での乾燥に有効である。
【0014】
本発明のエマルジョンインキは、連続相となる分散媒が油相のW/O型、連続相となる分散媒が水相のO/W型のどちらであってもよく、どちらのエマルジョンインキであっても孔版印刷による画像形成は出来るが、W/O型の場合で分散質にエタノールが含まれる場合は、水やアンモニア水と分散質を混合しておくとエマルジョンインキの保存安定性を高めて長期的な保存でも乳化の安定状態が続き、その結果として、孔版印刷機上でのエマルジョンインキの保存安定性が向上する。食用油脂についてはヨウ素価が高いものが好ましいが、印刷後に熱や温風を被印刷体へ送って乾燥を行うことで実際の使用で実用になる程度までに乾燥した状態にすることができる。
【0015】
本発明ではエマルジョンインキの持つ特長の一つである保存安定性(印刷機上において乾燥し難く長期間に安定して保存が出来る)を可食性インキで実現させているため、グラビア印刷やスクリーン印刷で使われる可食性インキのように印刷する度に新しいインキを印刷機へ供給する或いはインキの乾燥を防止する措置が不要であり、印刷機上の可食性インキは画像形成を担う主な成分が分散質として連続相によって覆われているため、被印刷体となる紙等に印刷されるまでは良好な保存状態で保たれることになる。
【0016】
増粘効果を示す食用物について
本発明のエマルジョンインキは実施例および参考例の配合処方でも50cps−500cpsの粘度を示すが、孔版印刷機上での取り扱い、保存中に粘度を高く保って結果として分散媒と分散質の乳化の安定性を保つことのために増粘効果を示す食用物(例:レシチン)をエマルジョンインキへ混合して50cps−3000cpsに粘度を調整しておくのも有用である。この場合の増粘効果のために混合する食用物は、エマルジョンインキ本来の特性である色相や印刷適性あるいは乾燥性や印刷機内での保存性といったことに影響が出ない程度のインキ全重量の10%以下に抑えて混合することが好ましい。
【0017】
[実施例]
以下に、実施例により、本発明をさらに詳細に説明するが、以下の実施例は本発明の権利範囲を何ら制限するものではない。なお、実施例における「部」は「重量部」を表す。
【0018】
実施例1
表1に示す配合の材料を準備、まずグリセリン脂肪酸エステル、食用油脂を充分攪拌して油相(A液)を調整した。次に、食用樹脂(セラック)、イカスミ色素(日本葉緑素株式会社商品名、アイカブラック)、エタノール、プロピレングリコール、炭酸カルシウム、精製水、カプリル酸エステル、オレイン酸エステルを充分攪拌して水相(B液)を調整した。上記油相(A液)を高速攪拌しながら、水相(B液)を徐々に添加して水相を乳化させてエマルジョンインキを作成、このエマルジョンインキを孔版印刷機を用いて上質紙へ印刷して印刷物を作成した。なお実施例で使用した印刷版は孔版印刷機に搭載されている印刷版の作成機能によらず別途に作成したものを使用した。
【0019】
表−1 A液 食用油脂 44部
グリセリン脂肪酸エステル 6部
B液 イカスミ色素 10部
食用樹脂 27部
プロピレングリコール 9部
エタノール 25部
精製水 24部
炭酸カルシウム 3部
カプリル酸エステル 1部
オレイン酸エステル 1部
28%アンモニア水 1部

【0020】
参考例1
表−2に示す配合の材料を準備、上記の実施例と同様な方法で孔版印刷用のエマルジョンインキを作成、このマルジョンインキを用いて孔版印刷で印刷物を作成した。
【0021】
表−2
A液 食用油 34部
グリセリン脂肪酸エステル 6部
B液 イカスミ色素 12部
食用樹脂 32部
プロピレングリコール 10部
エタノール 30部
精製水 29部
炭酸カルシウム 4部
カプリル酸エステル 1部
オレイン酸エステル 1部
28%アンモニア水 1部

実施例と参考例で作成した孔版印刷用のエマルジョンインキは、連続相となる分散媒が油相のW/O型であり、したがって乳化剤のHLB値は6以下のものが乳化作業のし易さと安定性の観点から好ましい。乳化剤は一つだけの乳化剤だけではなく複数種を組み合わせてもよく、この組み合わせで期待される効果の一つとしては、分散質と分散媒が接触する界面の構成を乳化剤一つだけの使用より複数の使用によって複雑化させることで一層の保存安定性を図ってもよい。
【0022】
一方、油溶性の食用色素を使ってこの色素を含む油相を分散質として、水相を分散媒とするO/W型のエマルジョンインキも可能である。このO/W型を作成する場合、水相の分散媒に使用する乳化剤のHLB値は6以上が好ましく、例えばオレイン酸エステル、ステアリン酸エステル、ラウリン酸エステル、カプリン酸エステル等の非イオン界面活性剤が孔版印刷用のエマルジョンインキの乳化剤として有効である。
【0023】
乳化剤の使用量は、W/O型とO/W型で共にエマルジョンインキとなる全量の1%から10%の範囲で混合するのが好ましいが、この使用量は連続層で分散媒となる油相ないしは水相と分散質の組み合わせを考慮して設定されるべきである。また複数種の乳化剤を組み合わせ使用してエマルジョンインキを作成することも可能である。
【0024】
乳化剤のHLBは食用油脂を分散媒とする場合、HLB値が6以下のものが乳化作業性と乳化安定性から好ましくい。
アンモニア水を加えることでエマルジョンインキとしての安定性を向上させて保存時に分散質の合一の発生を抑えるようにするため、他の混合物の割合によって加える量に多少の違いはあるが、エマルジョンインキの粘度を高くすることは有効な方法である。アンモニア水をインキ成分としてエマルジョンインキの安定性を高める場合は、アンモニア水はエマルジョンインキの全量の10%以下が好ましく、この場合は水分となる精製水をエマルジョンインキの全量の5%以上含むことが好ましい。
【0025】
なおエマルジョンインキの作成に際しては、分散媒へ分散質を滴下混合することを2段階あるいは複数の段階で行うこともエマルジョンインキ作成の手段として有効である。例えば最初に約500回転/分の攪拌を用いて大き目の粒径で乳化された分散質を得、次いでホモジナイザー等の高速回転による攪拌、約5000回転/分で安定な乳化状態のエマルジョンインキを作成する方法は、作業進行や進捗管理また作成中のエマルジョンインキの乳化状態の把握といったことに有用である。
【0026】
孔版印刷でエマルジョンインキが使用される理由は、印刷インキとして取り扱う上での利便性にあり、特に粘度はインキの取り扱い上で重要な要件となる。孔版印刷用の可食性インキのエマルジョンインキの場合、粘度は50cps−3000cpsの範囲が印刷に適しているが、印刷方法や使用する紙種によってエマルジョンインキの最適な粘度は異なる場合があるので、エマルジョンインキの作成にあたっては印刷時の使用条件を考慮して油相と水相のバランスを調整、食用油の種類や乳化剤の使用量を選定する必要がある。
【0027】
今回、実施例と参考例で印刷に使用した印刷版は1インチあたり133線のスクリーン線数の画像と文字であったが画像のハイライト部分や文字の細線部分の再現が極めて綺麗であった。印刷後に孔版印刷で使用したエマルジョンインキの食用色素の大きさを粒度計にて測定したところ、実施例と参考例共に粒径は概ね5μm以下、1μm以下の粒径もかなり多くあることが確認された。
実施例のエマルジョンインキの処方から食用色素であるイカスミ色素だけを除いてエマルジョンインキを作成、上質紙に印刷したところ、この印刷部分の反射濃度は0.15であった。塗工紙へも同様な印刷を行ったところ、この印刷部分の反射濃度は0.10であった。食用色素によってカラー印刷の発色を鮮やする、文字の黒さを鮮明して読み易い印刷をするには、この色素が含まれない時の食用樹脂だけの印刷において出来るだけ紙の白紙部分の色合いを生かすための濃度が低いことが好ましく、とりわけ被印刷体が紙である場合なら食用色素を含まないエマルジョンインキを印刷した部分の反射濃度は0.3以下であることが実用上は好ましく、したがって食用色素を含まない印刷の濃度が一般的な紙の白色部分の濃度に近い結果であったこの結果は、印刷による文字や画像の再現上で好ましい結果である。
【0028】
[比較例]
表−3に示す配合の可食性インキを準備、このインキを用いてグラビア印刷により印刷物を作成した。
【0029】
表−3
イカスミ色素 10部
食用樹脂 25部
プロピレングリコール 3.7部
エタノール 60部
カプリル酸エステル 0.3部
オレイン酸エステル 1部

実施例と参考例で作成したエマルジョンインキによる孔版印刷物、比較例で作成したグラビアインキによるグラビア印刷の印刷物について、作業手順や作業の煩雑程度および印刷版の製版作業時間、印刷の準備時間、印刷時間、画像品質、費用等について比較評価を行い、その結果を表−4に示した。
【0030】
[実施例と参考例および比較例の結果]
印刷された画像品質については、エマルジョンインキによる孔版印刷物とグラビアインキによるグラビア印刷物はいずれも十分に実用になる綺麗な結果であった。各々のインキの安定性については、エマルジョンインキは印刷に使用したものと同じものを30日間放置してインキの状態を目視で観察した結果、実施例と参考例は共に良好な保存状態にあり再びそのまま印刷が可能であった。グラビアインキではインキが乾燥してしまい、印刷に際しては新しいインキが必要であった。
【0031】
印刷の必要な設備等について即ち印刷を利用する容易さについては、エマルジョンインキによる孔版印刷は従来の可食性インキのような大規模な機械設備が不要であり使用しかも簡便に良質の画像品質の印刷物が実施例と参考例では得られたが、一方これに対して従来の可食性インキを使った場合はグラビア印刷が必要なため孔版に比較して印刷設備が大型複雑となり且つ製版作業や印刷準備に手間が掛かり、したがって可食性インキの印刷の容易さは、本発明のエマルジョンインキを利用する孔版印刷が優れている。
【0032】
エマルジョンインキの乾燥性については、実施例のエマルジョンインキではヨウ素価130の食用油脂を使用、印刷直後に60℃の乾燥ゾーンを通過させ乾燥を行った。この乾燥を経たものを室内で積み上げて1日間保管したが未完走に起因するインキが紙の裏面へ付着するブロッキング等の発生はなく、極めて良好な乾燥状態であった。実施例では使用した乾燥ゾーンは必ずしも必要ではないが印刷後に直ちに印刷物として使用する場合には有効な手段である。乾燥条件は被印刷体の種類や構造また印刷機の周囲温度さらにインキの膜厚等で異なるので乾燥方法や温度は本発明の実施例に限定されるものではない。
【0033】
ヨウ素価が130から100程度の複数種の食用油を用いてそれぞれにエマルジョンインキを作成して印刷した場合の乾燥性は、被印刷体が上質紙のように表面が粗面であるものは乾燥不良であるブロッキングは発生せず見かけ上も実用になる乾燥結果を得たが塗工紙では乾燥不良があり、被印刷体の違いと乾燥条件で異なる結果が確認された。
【0034】
ヨウ素価が100以下の食用油を用いたエマルジョンインキは、紙の表面が大きな粗面の上質紙はなんとか実用に供する乾燥性であったが、しかし被印刷の種類が限定されることや乾燥条件がヨウ素価130以上のものと比べて著しく異なるので、本発明の目指すところである可食性インキを簡便に利用するという目的に合致しなかった。
【0035】
【表4】

【0036】
評価結果が示すように、実施例と参考例は印刷速度は中程度ながらも製版作業時間と印刷準備時間は短く、また印刷設備に関わる費用が大幅に廉価であるために、可食性インキによる用途である食品近傍で使用される印刷物あるいは食品への印刷において、比較例のグラビア印刷より優れている。ただし画像品質においては美術品や絵画を印刷で複製するような場合、孔版印刷の画像品質はややグラビア印刷と比較して劣るが、ただしこれは可食性インキを使用する理由の第一が可食性インキの使用そのもので、美術品や絵画の複製的な印刷は第一番の要求項目ではないので、したがって可食性インキをエマルジョンインキとして孔版印刷の利便性を活用する価値そのものに何ら影響するものではない。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
被印刷体上での画像形成のために、食用樹脂、食用油脂、エタノール、および必要に応じて食用色素その他の食用物や水またはアンモニア水で構成された孔版印刷用のエマルジョンインキ。
【請求項2】
エマルジョンインキの分散質重量が分散媒の重量より多いことを特徴とする請求項1記載の孔版印刷用のエマルジョンインキ。
【請求項3】
食用色素の50%以上の粒径が5μm以下の大きさであることを特徴とする請求項1または2記載の孔版印刷用のエマルジョンインキ。
【請求項4】
エマルジョンインキが食用色素を含まない場合、被印刷体上に形成された画像の反射濃度が0.3以下になるように、エマルジョンインキの分散質として食用樹脂を使用することを特徴とする請求項1〜3いずれか記載の孔版印刷用のエマルジョンインキ。
【請求項5】
アンモニア水をエマルジョンインキの分散媒あるいは分散質とする場合、アンモニア水がインキの全重量の10%を以下であり且つインキ全重量の5%以上の水を含むことを特徴とする請求項1〜4いずれか記載の孔版印刷用のエマルジョンインキ。
【請求項6】
エマルジョンインキで使用される食用油脂のヨウ素価が100以上であることを特徴とする請求項1〜5いずれか記載の孔版印刷用のエマルジョンインキ。
【請求項7】
エマルジョンインキでエタノールを使用する場合、エタノールの含有量がインキの全重量の5%以上であることを特徴とする請求項1〜6いずれか孔版印刷用のエマルジョンインキ。
【請求項8】
エマルジョンインキで食用油脂を分散媒とする場合は使用する食用の乳化剤のうち少なくとも一つのHLB値が6.0以下であり、分散媒が食用油脂でない場合は使用する乳化剤のうち少なくとも一つのHLB値が6.0以上であることを特徴とする請求項1〜7いずれか記載の孔版印刷用のエマルジョンインキ。
【請求項9】
エマルジョンインキの分散質に食用樹脂をインキの全重量の30%を超えない範囲で含むことを特徴とする請求項1〜8いずれか記載の孔版印刷用のエマルジョンインキ。
【請求項10】
エマルジョンインキの分散媒にインキの全重量の10%以下で増粘効果を示す食用物を含むことを特徴とする請求項1〜9いずれか記載の孔版印刷用のエマルジョンインキ。