説明

孔食抑制剤及び孔食抑制方法

【課題】冷却水系など水系に接する銅管等の銅系部材に対し、少量の薬剤の添加で、銅系部材表面に孔食の抑制に有効な耐食性及び耐久性に優れる皮膜を形成し、これにより、孔食の発生を確実に抑制して、機器の安定稼動の維持と寿命延長などを図る。
【解決手段】銅系部材と接する水系に添加することにより、該銅系部材表面に耐食性及び耐久性に優れる皮膜を形成する。孔食抑制剤は、1位と3位が窒素原子で、2位、4位及び5位が炭素原子で構成された含窒素不飽和5員環であって、該含窒素不飽和5員環の2位の炭素原子に疎水基が置換している化合物を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水に接した銅系部材の孔食抑制技術に係り、詳しくは、冷却水系などの水系に接する銅管等の銅系部材に対し、薬剤を用いて孔食の発生を効果的に抑制する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
銅は熱伝導性に優れる特性を有し、空調機器や熱交換器などの伝熱管などに広く使用されているが、このような用途に用いられる銅系部材にあっては、腐食による孔食が問題となっている。特に、最近の機器は高効率化が進んでおり、熱交換器に用いられる銅管の肉厚が非常に薄くなっていることから、孔食の発生は銅管の貫通漏洩につながる危険性が高い。このため、銅系部材に孔食を発生させないことが、機器の安定稼動に不可欠である。
【0003】
従来、冷却水系などの水系に接触する銅管等の銅系部材の孔食を抑制するために、トリルトリアゾール、ベンゾトリアゾール、メルカプトベンゾチアゾールといったアゾール系の銅用防食剤を水系に添加する水処理が行われている。アゾール系銅用防食剤は、水系に接する銅系部材に対して優れた腐食抑制効果を発揮することから、広く適用されている(例えば特許文献1,2)。しかしながら、これらアゾール系銅用防食剤を添加した場合においても、銅系部材に孔食が発生し、漏水トラブルが発生する場合があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5−222555号公報
【特許文献2】特開平6−212459号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記従来の問題点を解決し、冷却水系等の水系に接触する銅管等の銅系部材の孔食をより確実に抑制する孔食抑制剤及び孔食抑制方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、疎水基で置換されたイミダゾール環を有する特定の化合物が、水系の銅系部材の孔食を有効に抑制し得ることを見出した。
【0007】
本発明はこのような知見に基いて達成されたものであり、以下を要旨とする。
【0008】
本発明(請求項1)の銅系部材の孔食抑制剤は、銅系部材と接する水系に添加することにより、該銅系部材表面に耐食性及び耐久性に優れる皮膜を形成する孔食抑制剤において、該孔食抑制剤が、1位と3位が窒素原子で、2位、4位及び5位が炭素原子で構成された含窒素不飽和5員環であって、該含窒素不飽和5員環の2位の炭素原子に疎水基が置換している化合物(以下、この化合物を「疎水基置換含窒素不飽和複素環化合物」と称す。)を含むことを特徴とするものである。
【0009】
請求項2の銅系部材の孔食抑制剤は、請求項1において、前記疎水基置換含窒素不飽和複素環化合物がイミダゾール系化合物、イミダゾリン系化合物、イミダゾリニウム塩系化合物及びイミダゾリウム塩系化合物よりなる群から選ばれる1種又は2種以上であることを特徴とするものである。
【0010】
請求項3の銅系部材の孔食抑制剤は、請求項1又は2において、前記疎水基が炭素数6〜18のアルキル基であることを特徴とするものである。
【0011】
請求項4の銅系部材の孔食抑制剤は、請求項1ないし3のいずれか1項において、更にアゾール系銅用防食剤を含むことを特徴とするものである。
【0012】
本発明(請求項5)の銅系部材の孔食抑制方法は、銅系部材と接する水系に孔食抑制剤を添加することにより、該銅系部材表面に耐食性及び耐久性に優れる皮膜を形成する孔食抑制方法において、該孔食抑制剤が、1位と3位が窒素原子で、2位、4位及び5位が炭素原子で構成された含窒素不飽和5員環であって、該含窒素不飽和5員環の2位の炭素原子に疎水基が置換している化合物(以下、この化合物を「疎水基置換含窒素不飽和複素環化合物」と称す。)を含むことを特徴とするものである。
【0013】
請求項6の銅系部材の孔食抑制方法は、請求項5において、前記疎水基置換含窒素不飽和複素環化合物がイミダゾール系化合物、イミダゾリン系化合物、イミダゾリニウム塩系化合物及びイミダゾリウム塩系化合物よりなる群から選ばれる1種又は2種以上であることを特徴とするものである。
【0014】
請求項7の銅系部材の孔食抑制方法は、請求項5又は6において、前記疎水基が炭素数6〜18のアルキル基であることを特徴とするものである。
【0015】
請求項8の銅系部材の孔食抑制方法は、請求項5ないし8のいずれか1項において、前記水系に前記疎水基置換含窒素不飽和複素環化合物と共にアゾール系銅用防食剤を添加することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、冷却水系など水系に接する銅管等の銅系部材に対し、少量の薬剤の添加で、銅系部材表面に孔食の抑制に有効な耐食性及び耐久性に優れる皮膜を形成することができ、これにより、孔食の発生を確実に抑制して、機器の安定稼動の維持と寿命延長を図ることができる。
特に本願の孔食抑制剤及び孔食抑制方法は、酸化剤が存在する水系において、従来のアゾール系銅用防食剤では抑制し得ない孔食を有効に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】実施例1〜3と比較例1〜3の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0019】
[作用機構]
本発明においては、銅系部材と接触する水系に、特定の疎水基置換含窒素不飽和複素環化合物を添加することにより、銅系部材の表面に耐食性及び耐久性に優れる皮膜を形成して孔食の抑制を図るが、本発明に係る孔食抑制の作用機構については以下のように考えられる。
【0020】
一般に、腐食反応は金属の溶出反応(アノード反応)と酸化剤の還元反応(カソード反応)が対になって進行する。例えば、冷却水のようなpH中性から弱アルカリ性の環境では、水中の溶存酸素が酸化剤としてカソード反応の担い手になる。
【0021】
従来のアゾール系銅用防食剤は、腐食反応における金属の溶出反応(アノード反応)を抑制する効果に優れており、良好な全面腐食抑制効果を示す。しかしながら、何らかの原因(例えば酸化剤の過剰添加など)によりアゾール系銅用防食剤よりなる防食皮膜が局部的に破壊されると、皮膜の破壊された部分からの銅の溶出をアゾール系銅用防食剤が抑えきれない結果、皮膜破壊部が局部的なアノードとなり、孔食が発生して進行する。
【0022】
従って、このような孔食を抑制するためには、カソード反応抑制効果に優れる防食皮膜を形成することが有効であるが、本発明に係る疎水基置換含窒素不飽和複素環化合物により銅系部材表面に形成された皮膜は、カソード反応抑制効果に優れる特性を有する。このため、酸化剤が存在する状況においても、従来品に比べて優れた耐食、耐久性を維持し、孔食の発生をより一層効果的に抑制することが可能である。
【0023】
[疎水基置換含窒素不飽和複素環化合物]
本発明の孔食抑制剤において有効成分として用いる疎水基置換含窒素不飽和複素環化合物とは、1位と3位が窒素原子で、2位、4位及び5位が炭素原子で構成された含窒素不飽和5員環であって、該含窒素不飽和5員環の2位の炭素原子に疎水基が置換している化合物である。
【0024】
このような疎水基置換含窒素不飽和複素環化合物としては特に制限はないが、以下に示すイミダゾール環、イミダゾリン環、イミダゾリニウムカチオン環、イミダゾリウムカチオン環等の含窒素不飽和5員環の2位の炭素原子に疎水基Rが置換された、イミダゾール系化合物、イミダゾリン系化合物、イミダゾリニウム塩系化合物、イミダゾリウム塩系化合物が好ましい。
【0025】
【化1】

【0026】
なお、上記式中、含窒素不飽和5員環を構成する2位の炭素原子以外の原子に置換している水素原子は、他の置換基で置換されていても良い。例えば、上記イミダゾール環、イミダゾリン環、イミダゾリニウムカチオン環、イミダゾリウムカチオン環の1位の窒素原子にアルキル基、ヒドロキシアルキル基、カルボキシルアルキル基などが置換されていても良い。ここで、アルキル基、ヒドロキシアルキル基、カルボキシルアルキル基の炭素数は1〜2であることが好ましい。
【0027】
含窒素不飽和5員環の2位の炭素原子に置換される疎水基としても十分な疎水性を付与し得るものであればよく、特に制限はないが、炭素数6〜18のアルキル基が好ましい。炭素数6〜18のアルキル基は、直鎖状であっても良く、分岐鎖を有するものであっても良く、環状であっても良いが、好ましくは直鎖状アルキル基である。
このアルキル基の炭素数が5以下では疎水性が不足し、19以上では疎水性が高まりすぎて水に難溶性となる。アルキル基の炭素数は特に8〜17であることが好ましい。
【0028】
疎水基置換含窒素不飽和複素環化合物としては具体的には次のようなものが挙げられるが、以下の化合物に何ら限定されるものではない。なお、以下において、疎水基としての炭素数6〜18のアルキル基を「C〜C18アルキル」と記載する。
【0029】
2−ヘキシルイミダゾール、2−ヘプチルイミダゾール、2−オクチルイミダゾール、2−ノニルイミダゾール、2−デシルイミダゾール、2−ウンデシルイミダゾール、2−ドデシルイミダゾール、2−トリデシルイミダゾール、2−テトラデシルイミダゾール、2−ペンタデシルイミダゾール、2−ヘキサデシルイミダゾール、2−ヘプタデシルイミダゾール、2−オクタデシルイミダゾール,2−C〜C18アルキル−N−カルボキシメチル−N−ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタイン,2−C〜C18アルキル−N−ヒドロキシエチル−N−カルボキシラートメチルイミダゾリニウム塩,2−C〜C18アルキル−N,N−ビスヒドロキシエチルイミダゾリニウム塩、1−メチル−1−ヒドロキシエチル−2−C〜C18アルキル−イミダゾリウム塩
なお、上記イミダゾリニウム塩としては、塩化物塩(Cl塩)などがある。
【0030】
水系へ添加することを考慮すると、1位の窒素原子に親水性の基が付いていることが好ましい。
【0031】
これらの疎水基置換含窒素不飽和複素環化合物は、1種を単独で用いても良く、2種以上を併用しても良い。
【0032】
[処理条件]
疎水基置換含窒素不飽和複素環化合物の水系への添加濃度としては、処理対象の水質、銅系部材の表面積などにより、最適な効果を得られる濃度に調整して用いることができるが、通常1〜100mg/L、特に2〜20mg/Lの範囲とすることが好ましい。
【0033】
処理時の温度(水温)としては、本発明による効果が得られる条件であれば特に制限はないが、通常5〜50℃、望ましくは15℃〜40℃の範囲で処理を行う。処理時のpHとしては、通常4〜11の範囲で処理を行う。
【0034】
水系の流速については、本発明の効果が得られる条件であれば特に制限はないが、通常0.1〜2m/sの範囲で処理を行う。静止条件においても処理を行うことは可能であるが、この場合には、孔食抑制剤の銅系部材表面への拡散が律速となるため、添加濃度を高めるなどの措置が必要である。
【0035】
本発明においては、前記疎水基置換含窒素不飽和複素環化合物とともに、従来公知のアゾール系銅用防食剤(例えばトリルトリアゾール、ベンゾトリアゾール、メルカプトベンゾチアゾールなど)の1種又は2種以上を併用することが可能であり、カソード反応抑制効果に優れる疎水基置換含窒素不飽和複素環化合物とアノード反応抑制効果に優れるアゾール系銅用防食剤との併用により、良好な孔食抑制効果が得られる。
その他、本発明の効果を阻害しない範囲で他の水処理剤、例えば防食剤、スケール防止剤、スライム処理剤、消泡剤、界面活性剤、キレート剤などを併用することが可能である。
【0036】
疎水基置換含窒素不飽和複素環化合物とアゾール系銅用防食剤とを併用する場合、その併用割合には特に制限はないが、疎水基置換含窒素不飽和複素環化合物:アゾール系銅用防食剤(重量比)=1:0.025〜5、特に1:0.05〜2とすることが好ましい。
【0037】
また、キレート剤等の他の水処理剤と併用する場合、その併用割合には特に制限はないが、疎水基置換含窒素不飽和複素環化合物:他の水処理剤(重量比)=1:0.1〜200、特に1:0.5〜100とすることが好ましい。
【0038】
銅系部材と接する水系に疎水基置換含窒素不飽和複素環化合物を添加することにより、銅系部材表面に耐食性、耐久性に優れる皮膜を形成する処理方法としては、疎水基置換含窒素不飽和複素環化合物を5〜100mg/Lの高濃度バッチ添加を行って短時間に皮膜を形成する方法と、0.5〜20mg/Lの低濃度処理を常に維持することで皮膜の維持(皮膜形成および皮膜破壊部の補修)を行う方法などが挙げられる。
【0039】
前者は、防食皮膜が十分に形成されていない状態の銅系部材に対し特に有効であり、例えば新設した機器を運転開始する際や、長期間運転停止した後の機器を再稼動する際などへの適用が好適である。このような場合には、銅系部材表面の表面不均一な状態を可能な限り均質化する措置を併用することが望ましく、例えばキレート剤や水溶性ポリマーなどを併用添加することが有効である。
皮膜を形成する処理に要する時間は、通常24時間で十分な効果を得ることが可能である。処理時間が24時間を超えた場合でも特に効果は阻害されない。
本発明で用いる疎水基置換含窒素不飽和複素環化合物を、水系に添加することにより形成された皮膜の性能は、当該疎水基置換含窒素不飽和複素環化合物が水系からブローなどにより排出された後にも維持される。
【0040】
後者は、防食皮膜の形成された銅系部材の皮膜を維持する場合に特に有効であり、例えば通常運転中の機器の水と接する銅系部材に対しての適用が好適である。このような事例としては、冷凍機の冷媒を冷却する目的で使用される冷却水系に対し、疎水基置換含窒素不飽和複素環化合物が常時水系に維持されるように添加し、伝熱管等として使用されている銅系部材の孔食を抑制する方法が挙げられる。
【実施例】
【0041】
以下に、実施例及び比較例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
【0042】
[実施例1〜3、比較例1〜3]
<電気化学測定による防食皮膜のカソード反応抑制効果の確認>
リン脱酸銅(C1220)製のチューブを長さ2cmに切り出し、さらに半割したものに導線を接続し、供試部(約1cm四方)以外の部分をシリコンシーラントで被覆したものを試験片として用いた。
【0043】
この試験片を表1に示す試験水1Lに浸漬し、各種の防食皮膜形成剤により防食皮膜を形成する実験を行った。防食皮膜形成剤としては、表2に示すものを表2に示す濃度で試験水に添加した。ただし、比較例1では防食皮膜形成剤無添加とした。また、実施例3において用いた「1−メチル−1−ヒドロキシエチル−2−アルキル−イミダゾリニウム塩」は塩化物塩である。以下の実施例においても同様である。水温は30℃とし、スターラー撹拌条件下で24時間処理を行った。
【0044】
撹拌を停止した後、動電位分極測定を行い、カソード分極曲線を求めた。分極測定は、ポテンショスタット(EG&G PRINCETON APPLIED RESEARCH社製Potentiostat/Galvanostat Model273A)を用い、自然浸漬電位から−500mV(飽和KCl銀塩化銀参照電極基準)までの掃引範囲にて、50mV/minの掃引速度で行った。
【0045】
カソード分極曲線を図1に示す。本発明に係る疎水基置換含窒素不飽和複素環化合物を添加した実施例1〜3では、比較例1〜3に比べ、カソード反応に伴う電流密度が低く抑えられることが確認できた。
【0046】
【表1】

【0047】
【表2】

【0048】
[実施例4〜10、比較例4〜6]
<防食皮膜の孔食発生抑制効果の確認>
リン脱酸銅(C1220)製のチューブを長さ2cmに切り出し、さらに半割したものに導線を接続し、供試部(約1cm四方)以外の部分をシリコンシーラントで被覆したものを試験片として用いた。この試験片を前記表1に示す試験水1Lに浸漬し、防食皮膜形成剤として表4に示すものを表4に示す濃度で添加した。ただし、比較例4では防食皮膜形成剤無添加とした。水温は30℃とし、スターラー撹拌条件下で24時間処理を行い、試験片表面に防食皮膜を形成した。
【0049】
次に、防食皮膜を形成した試験片を酸化剤として過酸化水素を添加した表3に示す水質の腐食試験液(30℃、スターラー撹拌)に浸漬し、24時間後の試験片表面の孔食発生状況を観察し、結果を表4に示した。
【0050】
【表3】

【0051】
【表4】

【0052】
表3,4より、本発明の孔食抑制剤は、酸化剤存在下での孔食抑制効果に優れることが分かる。
【0053】
[実施例11〜13、比較例7,8]
<防食皮膜の耐久性の評価>
リン脱酸銅(C1220)製のチューブを長さ2cmに切り出し、さらに半割したものに導線を接続し、供試部(約1cm四方)以外の部分をシリコンシーラントで被覆したものを試験片として用いた。この試験片を前記表3に示す試験水1Lに浸漬し、防食皮膜形成剤として表6に示すものを表6に示す濃度で添加した。ただし、比較例7は防食皮膜形成剤無添加とした。水温は30℃とし、スターラー撹拌条件下で24時間処理を行い、試験片表面に防食皮膜を形成した。
【0054】
次に、防食皮膜を形成した試験片を、表5に示す水道水(30℃、スターラー撹拌)に24時間浸漬後、再び前記表3に示す腐食試験液(30℃、スターラー撹拌)に浸漬し、24時間後の銅表面の孔食発生状況を観察することで防食皮膜の耐久性を確認した。結果を表6に示す。
【0055】
【表5】

【0056】
【表6】

【0057】
以上の結果から、本発明の処理により、銅系部材表面における孔食の発生が抑制され、耐食性及び耐久性に優れる皮膜が形成されたことが確認できた。また、本発明による処理後、疎水基置換含窒素不飽和複素環化合物が存在しない水系に一定期間浸漬された場合にも、孔食の発生が抑制される結果となり、形成された皮膜が耐久性に優れることを確認できた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅系部材と接する水系に添加することにより、該銅系部材表面に耐食性及び耐久性に優れる皮膜を形成する孔食抑制剤において、
該孔食抑制剤が、1位と3位が窒素原子で、2位、4位及び5位が炭素原子で構成された含窒素不飽和5員環であって、該含窒素不飽和5員環の2位の炭素原子に疎水基が置換している化合物(以下、この化合物を「疎水基置換含窒素不飽和複素環化合物」と称す。)を含むことを特徴とする銅系部材の孔食抑制剤。
【請求項2】
請求項1において、前記疎水基置換含窒素不飽和複素環化合物がイミダゾール系化合物、イミダゾリン系化合物、イミダゾリニウム塩系化合物及びイミダゾリウム塩系化合物よりなる群から選ばれる1種又は2種以上であることを特徴とする銅系部材の孔食抑制剤。
【請求項3】
請求項1又は2において、前記疎水基が炭素数6〜18のアルキル基であることを特徴とする銅系部材の孔食抑制剤。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項において、更にアゾール系銅用防食剤を含むことを特徴とする銅系部材の孔食抑制剤。
【請求項5】
銅系部材と接する水系に孔食抑制剤を添加することにより、該銅系部材表面に耐食性及び耐久性に優れる皮膜を形成する孔食抑制方法において、
該孔食抑制剤が、1位と3位が窒素原子で、2位、4位及び5位が炭素原子で構成された含窒素不飽和5員環であって、該含窒素不飽和5員環の2位の炭素原子に疎水基が置換している化合物(以下、この化合物を「疎水基置換含窒素不飽和複素環化合物」と称す。)を含むことを特徴とする銅系部材の孔食抑制方法。
【請求項6】
請求項5において、前記疎水基置換含窒素不飽和複素環化合物がイミダゾール系化合物、イミダゾリン系化合物、イミダゾリニウム塩系化合物及びイミダゾリウム塩系化合物よりなる群から選ばれる1種又は2種以上であることを特徴とする銅系部材の孔食抑制方法。
【請求項7】
請求項5又は6において、前記疎水基が炭素数6〜18のアルキル基であることを特徴とする銅系部材の孔食抑制方法。
【請求項8】
請求項5ないし8のいずれか1項において、前記水系に前記疎水基置換含窒素不飽和複素環化合物と共にアゾール系銅用防食剤を添加することを特徴とする銅系部材の孔食抑制方法。

【図1】
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