説明

宇宙用テザー

【課題】軽量でありながら収容時の空間占有率が低く且つ微小隕石やデブリ等に容易に切断されにくい宇宙用テザーを提供する。
【解決手段】糸を撚りながら網状に編んでゆき、撚り糸と撚り糸との交差部を無結節とし、なお且つ網目を等長の菱形状ではなく、不等長の網目とすることで弛みを形成する。なお、弛みの程度であるが、例えば5%程度である。ここで、5%とは、(弛んだ撚り糸部の長さ−通常の撚り糸部の長さ)÷(通常の撚り糸部の長さ)=0.05ということである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、宇宙用テザー、特に、軽量でありながら収容時の空間占有率が低く且つ微少隕石やデブリ等に対し耐性を有する宇宙用テザーに関するものである。
【背景技術】
【0002】
テザーとは、地球を周回する宇宙機から伸展する紐のことであり、その利用方法は、二機の宇宙機がテザーによって接続された上でそのテザーを切断することによりその宇宙機の運動量を変換する運動量変換テザーとして、或いはテザーに誘導起電力または外部電源により電流を流しながら地磁場との相互作用によって推力(ローレンツ力)を発生させる導電性テザーとしての利用方法がある(例えば、特許文献1を参照。)。
一般に、テザーは、数km〜数十kmというような長い長さで使用されるため、宇宙空間においては微小隕石やデブリに衝突する危険性を有している。また、テザーが細い一本の線では、短時間のうちにデブリ等に衝突し切断される可能性がある。テザーは切断されてしまうとミッションを実行できないので、ミッションが終了するまでデブリ等に切断されずに生存していること、つまり容易に切断されないことが求められる。ところで、テザーの径を太くすることにより、微小隕石やデブリの衝突に対し切断されにくい構造とすることが容易に考え付く。しかし、テザーの径を太くすると体積および重量が増加するため、宇宙機に収容する際にスペースを占有し、或いはペイロードの寸法および重量が厳しく制限されるロケット等の宇宙輸送システムに対して不利となる。最悪の場合、宇宙機やロケットに搭載することが出来なくなる。
その一方で、テザーの径を太くするのではなく、微小隕石やデブリの衝突に対し切断されにくいダブルラインのテザーや、テープ状のテザーなども検討されている。しかし、いずれも製作が困難であり、さらにテザーが一平面上に存在するため、その平面内方向の速度を持つデブリにより切断される確率が依然として無視できないなどの問題がある(例えば、非特許文献1を参照。)。
【0003】
【特許文献1】特開2004−98959号公報
【非特許文献1】C.Pardini et a1.,"Assessing the Vulnerability to Debris Impacts of Electrodynamic Tethers during Typical De-Orbiting Missions",4th European Conference on Space Debris,2005
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前述した通り、テザーは、宇宙空間においては微小隕石やデブリに衝突する危険性を有し、テザーの径が小さい場合、テザーは微小隕石やデブリの衝突により短時間で容易に切断されることとなる。それを防ぐために、テザーの径を太くしたり、テザーをダブルラインやテープ状に構成したりすることによりテザーを頑丈にすることが検討されている。
しかし、テザーの径を太くすることは、体積および重量が増加し、結果として、宇宙機への収容およびロケットへの搭載に対し不利となる問題がある。また、テザーをダブルラインやテープ状にして構成することは、製作上の問題に加え、テザーが一平面上に存在するため、その平面内方向の速度を持つデブリにより切断される確率が依然として無視できないなどの問題がある。
そこで、本発明は、上記実情に鑑み創案されたものであって、軽量でありながら収容時の空間占有率が低く且つ微少隕石やデブリ等に対し耐性を有する宇宙用テザーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記目的を達成するため、請求項1に記載の宇宙用テザーは、テザー本体を成す糸が部分的に弛みながら網状に編まれて構成されていることを特徴とする。
上記宇宙用テザーでは、テザー本体を成す糸が部分的に弛みながら網状に編まれて構成されることで、全ての網糸が同一平面内に存在しない確率が高くなり、一個のデブリによって全ての網糸が切断される確率が大幅に低下できる。また、一本の網糸が切断されたとしても、近接する別の網糸が切断されない限りテザーとしては切断されないが、その短い範囲の網糸が切断される確率は非常に小さい。つまり、上記構成とすることにより、デブリによって全て切断されてしまう可能性を下げることとなる。結果として、テザーは、容易に切断されにくくなり微少隕石やデブリ等の外乱に対し耐性を有するようになる。また、網目は中抜きとなっているため、テザーの重量が非常に軽くなり、ロケットへの搭載に対し有利となる。
【0006】
前記目的を達成するため、請求項2に記載の宇宙用テザーは、熱または光を受けて収縮または膨張する特性が相異なる少なくとも2種類の糸で網状に編まれて構成されていることを特徴とする。
上記宇宙用テザーでは、テザーが宇宙空間で伸展され太陽からの輻射熱または紫外線を浴びた場合、テザーを構成する各々の糸は収縮するか、膨張するか、あるいは何も変化しないかの何れかの特性を示すこととなるが、テザーを構成する糸の特性は相異なっているため、結果として、テザーに部分的な弛みが生じることとなる。すなわち、上記請求項1に記載の宇宙用テザーは、製造の段階で部分的に弛んだ無結節網によって構成されているが、請求項2に記載の宇宙用テザーは、熱特性等の異なる素材が混在した弛みのない無結節網によって構成しておいて、宇宙空間で伸展後、熱や紫外線等により素材が相対的に変化することにより、部分的に弛んだ無結節網となるようにしている。
【0007】
請求項3に記載の宇宙用テザーでは、前記糸は交差部において結節されることなく編まれていることとした。
上記宇宙用テザーでは、網目を無結節網とすることで、収容された際に嵩張ることがなく、空間占有率が低くなり宇宙機への収容に対し有利となる。また、結節部における強度の低下を回避することが可能となる。
【0008】
前記目的を達成するため、請求項4に記載の宇宙用テザーの製造方法は、テザー本体を成す糸を部分的に弛ませながら網状に編むことによって製造することを特徴とする。
上記宇宙用テザーの製造方法では、上記請求項1に記載の宇宙用テザーを好適に製造することが出来る。
【0009】
前記目的を達成するため、請求項5に記載の宇宙用テザーの製造方法は、熱または光を受けて収縮または膨張する特性が相異なる少なくとも2種類の糸を網状に編むことによって製造することを特徴とする。
上記宇宙用テザーの製造方法では、上記請求項2に記載の宇宙用テザーを好適に製造することが出来る。
【0010】
請求項6に記載の宇宙用テザーの製造方法では、前記糸を交差部において結節することなく網状に編むこととした。
上記宇宙用テザーの製造方法では、上記請求項3に記載の宇宙用テザーを好適に製造することが出来る。
【発明の効果】
【0011】
本発明の宇宙用テザーによれば、テザー本体を成す糸が部分的に弛みながら網状に編まれて構成されているため、又は、熱特性または光特性が相異なる少なくとも2種類の糸が網状に編まれて、宇宙空間において伸展し太陽光等を浴びた後に部分的に弛むように構成されているため、体積および重量を大幅に増大させることなく、微少隕石やデブリ等に対し耐性を持たせることが可能となる。それに加え、網目は中抜き構造であるため、重量が大幅に軽量化され、ロケット等の宇宙輸送機への搭載に対し有利となる。更に、網を無結節網とすることで、テザーを巻き取り時の空間占有率を大幅に低下させ、結節部における強度の低下を回避する。
また、本発明の宇宙用テザーの製造方法によれば、上記宇宙用テザーを好適に製造することが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、図に示す実施の形態により本発明をさらに詳細に説明する。なお、これにより本発明が限定されるものではない。
【0013】
図1は、本発明に係る宇宙用テザー100を示す要部説明図である。なお、図上の点線部は○部の撚り糸が連続していることを示し、●部はこれらの撚り糸の結節部を示している。
この宇宙用テザー100は、部分的に弛んだ網目を有する無結節網によって構成されている。すなわち、通常、網目は撚り糸の長さが各々等しい菱形状を呈しているが、この宇宙用テザー100では、テザー本体の一部分の網目が非菱形状を形成するように構成されている。例えば、網目を構成する3つの撚り糸の内、第2の撚り糸部20の長さL20は、第1の撚り糸部10および第3の撚り糸部30の合算和L10+L30に対して長くなるように(L20>L10+L30)して編まれている。また、撚り糸と撚り糸との交差部(図の●部)は無結節となっている。このように、テザーを無結節網とし、部分的に弛んだ網目を持たせることにより、全ての網糸が同一平面内に存在しない確率が高くなり、一個のデブリによって全ての網糸が切断される確率が大幅に低下できる。また、一本の網糸が切断されたとしても、近接する別の網糸が切断されない限りテザーとしては切断されないが、その短い範囲の網糸が切断される確率は非常に小さい。つまり、上記構成とすることにより、デブリによって全て切断されてしまう可能性を下げることとなる。
また、テザーを無結節網で構成することにより、重量が大幅に軽減し、またリール等の収容器具に収容される際に嵩張ることがなくなり空間占有率が小さくなる。
【0014】
この宇宙用テザー100の製造においては、銅、アルミおよびステンレス等の金属糸、あるいは炭素繊維等の繊維糸等の外、あらゆる材質の糸を適用することが可能である。そして、これらの糸を撚りながら網状に編んでゆき、撚り糸と撚り糸との交差部を無結節とし、なお且つ網目を等長の菱形状ではなく、不等長の網目とすることで弛みを形成する。なお、弛みの程度があるが、例えば5%程度である。ここで、5%とは、(弛んだ撚り糸部の長さ−通常の撚り糸部の長さ)÷(通常の撚り糸部の長さ)=0.05ということである。
【0015】
図2は、本発明に係る宇宙用テザー100を高度800kmでのミッションに供した場合の生存日数および生存確率の解析結果を示すグラフである。なお、デブリの分布および大きさ等は、NASA(米国航空宇宙局)が開発したデブリ解析モデル「ORDEM 2000 Debris Model」を使用した。
また 宇宙用テザー100としては、撚り糸部の弛みが5%である、部分的に弛みのある無結節網で構成されたテザーとし、一方、比較例としては、従来の直径2mmの単一テザーとした。
このグラフから、宇宙用テザー100では生存日数が350日を超える確率は80%以上であったが、対する従来テザーでは、生存日数が350日はおろか100日を超える生存確率も0%であった。つまり、従来テザーでは、100日を超えるミッションに対しては適用することができないと考えられる。また、従来のテザーでは、10日程度の生存日数に対しても生存確率は60%程度に止まることとなった。
【0016】
以上により、上記宇宙用テザー100は、部分的に弛んだ網目を有する無結節網によって構成されているため、微小隕石やデブリ等に対して容易に切断されにくい耐性を有するようになる。加えて、網目構造のため重量が大幅に軽減され、そして無結節網のためリール等の収容器具に収容される際に嵩張らずに空間占有率が小さくなる。その結果、宇宙機およびロケットへの搭載に対し有利となる。
【0017】
図3は、本発明の他の実施例に係る宇宙用テザー200を示す説明図である。なお、図の●部は撚り糸の結節部を示している。
この宇宙用テザー200は、例えば熱収縮率の異なる3本の撚り糸A40、撚り糸B50および撚り糸C60から成る無結節網によって構成されている。なお、図3の(a)に示すように、この宇宙用テザー200は、撚り糸A40が結節部において貫通せずにもとの位置に戻るために、網糸の位置は変わらない。また、製造の段階では、網目が菱形状になるように編まれてある。因みに、本実施例では、撚り糸A40として、例えば炭素繊維を、撚り糸B50および撚り糸C60として、例えばアルミ線を採用することができる。このように構成することにより、図3の(b)に示すように、宇宙用テザー200が宇宙機から伸展され、宇宙空間において、太陽光を浴びた場合、撚り糸A40は撚り糸B50および撚り糸C60に対して縮む程度が大きいため、結果として、撚り糸A40が縮んで撚り糸B50および撚り糸C60が弛むようになり、上記宇宙用テザー100と同様に、部分的に弛んだ無結節網となる。
【0018】
なお、宇宙用テザー200では、熱収縮率の異なる3本の撚り糸(撚り糸A40、撚り糸B50、撚り糸C60)から成る無結節網によって構成されているが、これに限定されることはなく、熱収縮特性または光収縮特性の異なる2種類以上の撚り糸から成る無結節網であれば、本発明は成立する。
【0019】
そして、上記宇宙用テザー100と同様に、微小隕石やデブリ等に対して容易に切断されにくい耐性を有するようになることに加え、網目構造のため重量が大幅に軽減され、更に無結節網のためリール等の収容器具に収容される際に嵩張らずに空間占有率が小さくなる。その結果、宇宙機およびロケットへの搭載に有利となる。
【0020】
図4は、本発明の他の実施例に係る宇宙用テザー300を示す説明図である。なお、図の●部は撚り糸の結節部を示している。
この宇宙用テザー300は、上記宇宙用テザー200と異なり、各々の撚り糸が結節部において貫通しながら無結節網を構成している。そのため、宇宙空間において、撚り糸A40が撚り糸B50および撚り糸C60に比べ相対的に縮む場合は、上記宇宙用テザー100,200と異なり歪んだテザーとなる。しかしながら、上記宇宙用テザー100,200,300は何れも無結節網に属し、長さ方向の強度に関してほとんど同じである。
【産業上の利用可能性】
【0021】
本発明の宇宙用テザーは、デブリまたはロケット上段部を減速する推進装置あるいはデブリを回収するテザー衛星を増速する推進装置に対し好適に適用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明に係る宇宙用テザーを示す要部説明図である。
【図2】本発明に係る宇宙用テザーを高度800kmでのミッションに供した場合の生存日数および生存確率の解析結果を示すグラフである。
【図3】本発明の他の実施例に係る宇宙用テザーを示す要部説明図である。
【図4】本発明の他の実施例に係る宇宙用テザーを示す要部説明図である。
【符号の説明】
【0023】
10 第1の撚り糸部
20 第2の撚り糸部
30 第3の撚り糸部
40 撚り糸A
50 撚り糸B
60 撚り糸C
100,200,300 宇宙用テザー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
テザー本体を成す糸が部分的に弛みながら網状に編まれて構成されていることを特徴とする宇宙用テザー。
【請求項2】
熱または光を受けて収縮または膨張する特性が相異なる少なくとも2種類の糸で網状に編まれて構成されていることを特徴とする宇宙用テザー。
【請求項3】
前記糸は交差部において結節されることなく編まれている請求項1又は2に記載の宇宙用テザーの製造方法。
【請求項4】
テザー本体を成す糸を部分的に弛ませながら網状に編むことによって製造することを特徴とする宇宙用テザーの製造方法。
【請求項5】
熱または光を受けて収縮または膨張する特性が相異なる少なくとも2種類の糸を網状に編むことによって製造することを特徴とする宇宙用テザーの製造方法。
【請求項6】
前記糸を交差部において結節することなく網状に編む請求項4又は5に記載の宇宙用テザーの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−131124(P2007−131124A)
【公開日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−325529(P2005−325529)
【出願日】平成17年11月10日(2005.11.10)
【出願人】(503361400)独立行政法人 宇宙航空研究開発機構 (453)
【出願人】(591018877)日東製網株式会社 (6)
【Fターム(参考)】