説明

安定なリチウムカソード材料のためのナノ粒子ドープ前駆体

チタンをドープされたリチウムコバルト酸化物粉末の前駆体化合物であって、15μmより大きなd50を有する二次粒径を有する1つまたはそれより多くのいずれかの焼結されていない凝集されたコバルト酸化物、水酸化物、およびオキシ水酸化物粉末からなり、前記凝集されたコバルト酸化物、水酸化物およびオキシ水酸化物粉末は、TiO2を前記凝集粉末内で均質に分布したナノ粒子の形態で含み、0.1〜0.25mol%のTi含有率を有する、前記前駆体化合物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノ粒子金属酸化物、金属ハロゲン化物、金属アニオンまたは元素の金属成分を用いて均質にドープされた材料を有する、異種金属の沈殿析出によって得られる、二次電池用カソード材料のための前駆体に関する。
【0002】
Ni−CdおよびNi−MH充電式電池と比較して、Liイオン電池は、主にそれらのより高い3.6Vの作動電圧による、高められたエネルギー密度を誇っている。1991年にSONYによってそれらが商業化されて以来、Liイオン電池は体積エネルギー密度が連続的に増加してきていることがわかる。これは、一定の体積の電池においてより活性な電極材料を用意して、電池の設計を最適化することによって初めに実現された。後の取り組みは電極のエネルギー密度の改善に集中していた。高密度の電極活物質を使用することは、この目標を達成するための他の手段である。LiCoO2は未だに正電極材料として市販のLiイオン電池の大多数のために使用され続けているので、この材料の非常に密な種類が求められている。
【0003】
WO2009/003573号において、かかる高密度LiCoO2材料が開示されている。それは、著しい過剰Liなく、且つ、15μmより大きいd50、0.2m2/g未満のBETを有する、比較的粗い粉砕された電気化学的に活性なLiCoO2粉末を提供する。上述の粒径は明らかに一次粒径であり、且つ、該粒子は凝集または凝固せず、アグリゲート化もしない。
【0004】
しかしながらこの材料は、充電式リチウム電池における様々な制限を示す。1つの基本的な制限は、表面積の問題に起因する。レート特性の向上(即ち、高出力)は、表面積を増大させることによって対処することができ、なぜなら、固体状態のリチウムの拡散距離を減少でき、その結果、レート特性が改善されるからである。しかしながら、大きな表面積は、電解質と帯電したカソードとの間で望ましくない副反応が起こる面積を増加させる。前記の副反応は、乏しい安全性、高められた電圧での乏しいサイクリング安定性、および高められた温度での帯電したカソードの乏しい貯蔵特性についての理由である。さらには、大表面積の材料は、体積エネルギー密度を減少させる低い充填密度を有する傾向がある。
【0005】
最近の知見は、限定されずにMg、Ti、Zr、CrおよびAlを含む種々の元素を用いてドーピングされたLiCoO2カソード材料が、改善されたサイクル寿命、安定性、性能および安全特性を有する製品をもたらすことを示している。LiCoO2のためのTiドーピングの利点は、US6277521号内に記載されている。
【0006】
二次電池において使用するための大半のカソード材料について、それらの製造にはしばしば特定の前駆体が使用される。該前駆体を、その際、リチウム源と共に焼成してカソード材料を製造する。従って、カソード材料に容易に変換できる前駆体を製造することが重要である。前駆体が他の元素で容易にドープされ、且つ、該前駆体を直接的に、追加的な加工段階なくカソード材料製造のために使用できる場合、さらにより有益である。同時係属中の出願WO2009/074311号において、カソード前駆体材料を製造するための様々な方法が議論され、中でも、沈殿析出、共沈、噴霧乾燥、噴霧熱分解、物理的混合、配合、さらにスラリーの使用が議論された。それらの方法の全ては、良好に均質なドーピングを達成することにおいて、特にTiO2ナノ粒子などの材料を使用するTiドーピングについて、深刻な問題を有している。
【0007】
初めに述べた通り、LiCoO2の本質的な特徴は、その高い密度である。その結晶密度は他のカソード材料よりも高い、即ち5.05g/cm3であり、且つ、LiCoO2は、たとえ粒子が比較的大きく且つ緻密であるとしても、良好な性能を示す。大きく且つ緻密な粒子は、良好に充填され、従って高密度の電極を実現することを可能にする。高密度の電極は、より多量の活性なLiCoO2を、市販の電池の限定された空間内に入れ込むことを可能にする。従って、高密度のLiCoO2は、最終的な市販のリチウム電池の高い体積密度に直接的に関連する。高密度を達成するために好ましい形態は、緻密な(ほぼモノリシックで、凝集していない)粒子である。典型的な粒径(D50)は、少なくとも10または15μmですらあり、且つ、典型的にはそれは25μm未満である。
【0008】
かかるモノリシックなLiCoO2を製造するための2つの主な製造経路がある。第一の経路において、比較的小さな粒子を有するコバルト源(例えばCo34)を、リチウム源(例えばLi2CO3)と混合し、且つ、充分に高い温度で充分に過剰なリチウムと共に焼成する。焼結の間、小さいCo34粒子を互いに焼結し、且つ、粒子が成長し所望のサイズ分布になる。第二の選択的な経路においては、コバルト源の比較的大きく且つ密な粒子が使用される。焼結の間、粒子は独立して焼結する傾向がある。粒子内部は高密度化されるが、しかし粒子間での焼結はあまりない。TiドープLiCoO2を製造するためにそれらの標準的な方法を適用する場合、問題が起きる。
【0009】
第一の方法は基本的には失敗に終わる。TiO2、小さい粒子のCo34、およびリチウム源の混合物が焼結される場合、我々にとって未知で意外なメカニズムによって、粒子間の焼結は非常に抑制される。結果として、ずっしりと凝集された粒子からなる高い表面積のLiCoO2が達成される。先述の好ましい形態は、非現実的に高い焼結温度、またはよりいっそう多くの過剰Liを適用した後にのみ実現される。よりいっそう高い焼結温度は、コスト(設備投資、ライブライム、およびエネルギー使用)を著しく増加する。よりいっそう多くの過剰Liは、乏しい性能をもたらす。
【0010】
TiドープLiCoO2を製造するための第二の明らかな方法は、以下の通りである:比較的密なコバルト前駆体(例えば、大きな粒径を有するCo(OH)2)、リチウム源(例えばLi2CO3)およびチタン源(例えばTiO2)を混合し、次に焼結する。この場合(TiO2が粒子内部で良好に分布しない)、不均一な最終生成物が見られる。その理由は、焼結の間、TiO2の移動度が常に乏しく、混合物内のどこでも、いくつかのTiO2粒子が凝集し、最終のLiCoO2がよりいっそう高いTiO2濃度を有する領域を示すことである。結果として、低いドーピングレベル(0.1〜0.5mol%)でのTiO2ドーピングは有効ではない。より高いレベルでは、利点が見られるが、しかし、Tiの移動度が乏しいために、LiCoO2粒子の内部に基本的にTiがなく、且つ、Tiドーピングの完全な利点が達成されないと想定される。
【0011】
高密度TiO2ドープLiCoO2を製造するための第三の方法は、2段階焼成である。第一の焼成において、好ましい形態を有するLiCoO2前駆体が製造される。このLiCoO2前駆体を、典型的には少なくとも0.75mol%且つ2mol%未満でTiO2と混合する(より低いドーピングレベルは有効ではなく、その理由は、第二の方法におけるものと同じであり、いかなるTiO2凝集もTiO2の豊富な領域を引き起こし、不均質な最終的なLiCoO2をもたらす)。焼結後、LiCoO2コアにTiO2がなく、且つ、Tiドーピングの完全な利点が達成されないと想定される。
【0012】
他方で、US2007/0264573号A1において、炭酸Mgの水溶液、AlおよびTiラクテート溶液を、Co水酸化物スラリーと混合し、且つ、湿式ボールミリング後、該スラリーを噴霧乾燥して顆粒化する。それらの前駆体顆粒を、炭酸Liと混合し、且つ、1000℃で焼結してLi Co−Mg−Al−Ti酸化物が得られる。かかる噴霧乾燥作業が120℃未満の温度で行われることが一般に知られているので、且つ、Tiラクテートがかかる温度で結晶化する、かなり安定な化合物なので(200℃を超える温度で分解して二酸化Tiを形成するだけなので)、該噴霧乾燥された前駆体は、前駆体内で均質に分布されたナノ粒子の形態のTiO2を含有しない。
【0013】
さらにCN1982219号Aにおいては、Al、Ti、Mgおよび/またはCrをドープされたLi Co−Ni−Mn酸化物が同時析出によって得られる一方で、CN101279771号Aにおいては、Mg、Alおよび/またはTi源を硝酸コバルト溶液中で混合し、それが、ドープされたコバルト水酸化物として沈殿析出されることを述べることができる。
【0014】
高いレート特性を有し、高い充電電圧での延長されたサイクリングの間、高い安定性を示し、且つ、特に高いペレット密度を有するカソード材料の製造方法のために準備することが現在の目的である。高温貯蔵特性も改善されるべきである。これは、金属水酸化物またはオキシ水酸化物材料中で均質に分布したドーパントにおける、上述の問題を乗り越える前駆体の使用によって達成できる。
【0015】
第一の態様から見ると、本発明は、リチウムイオン電池において正電極活物質として使用するためのチタンドープリチウムコバルト酸化物粉末の前駆体化合物であって、15μmより大きなd50を有する二次粒径を有する、1つまたはそれより多くのいずれかの焼結されていない凝集されたコバルト酸化物、水酸化物およびオキシ水酸化物粉末からなり、前記凝集されたコバルト酸化物、水酸化物およびオキシ水酸化物粉末は、TiO2を前記凝集粉末内で均質に分布したナノ粒子の形態で含み、Ti含有率は0.1〜0.25mol%のTi含有率を有する、前記前駆体化合物を提供できる。
【0016】
1つの実施態様において、リチウムコバルト酸化物粉末はさらにMgをドーピング元素として含み、Mg含有率は0.1〜2mol%である。他の実施態様において、TiO2ナノ粒子は、≧5nm且つ≦200nmの範囲の大きさを有し、且つ、さらに他の実施態様においては10〜50nmである。
【0017】
「凝集」によって、二次粉末粒子が、軽度〜中度の力を印加されることによって、例えばソフトミリングを用いて、それらの一次粒子に分解されると理解される。それに対して、「アグリゲート化」粉末(「硬い凝集」:とも称する)は、分解のために過度の力を必要とするか、または一次粒子へと分解できない。
【0018】
第二の態様から見ると、本発明は、リチウムイオン電池における正電極活物質として使用するためのリチウムコバルト酸化物粉末の製造における先述の前駆体化合物の使用であって、前記前駆体とリチウム源との焼成により、前記リチウムコバルト酸化物粉末がTi含有率0.1〜0.25mol%を有する、前記使用を提供できる。1つの実施態様において、リチウムコバルト酸化物粉末は、10μmより大きなd50、且つ、他の実施態様においては15μmより大きなd50を有し、且つ、両方の実施態様において、0.25m2/g未満または0.20m2/g未満の比表面積(BET)を有する。
【0019】
第三の態様から見ると、本発明は、先述のリチウムコバルト粉末を製造するための単独の焼成方法であって、以下の段階
・ 先述の前駆体化合物を提供する段階、
・ 前記前駆体化合物とLi源、好ましくは炭酸リチウムとを、Li対Co比R1.04〜1.07に従って混合する段階、
・ 前記混合物を、960℃〜1020℃の温度Tでの単独の焼成を用いて焼成する段階
を含む方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】図1aおよびb: 0.25mol%のTiおよび0.5mol%のMgを有する試料のSEM顕微鏡写真(倍率2000倍): 図1a: 試料LC0193 (左)、および図1b: LC0227 (右)
【図2】図2aおよびb: 0.75mol%のTiおよび0.5mol%のMgを有する試料のSEM顕微鏡写真(倍率5000倍): 図2a: 試料LC0199 (左)、および図2b: LC0233 (右)
【図3】図3: Tiを含まず、且つ0.5mol%のMgを有する試料のSEM顕微鏡写真: 試料LC0190 (左)およびLC0223 (右)
【図4】図4: ドープされていないLiCoO2の電気化学性能: 試料LC0189。左: 種々のレート、(左から右に)3C、C(1時間での放電)、C/2、C/10での放電プロファイル(それぞれの場合、カソード容量(mAh/g)に対する電圧(V)を示す); 中間: 容量(mAh/g)に対する安定性(電圧(V) −右から左に:サイクル7、31(両方C/10で)、8、32(1Cで)); 右: 減衰(サイクル数に対する容量(mAh/g) −円を伴う線: 充電; 星印を伴う線: 放電)
【図5】図5: 0.25mol%のTiを有するLiCoO2の電気化学性能: 試料LC0192(図4に記載された実験)
【図6】図6aおよびb: 0.25mol%のTiおよび可変のMgを有する試料のSEM顕微鏡写真(倍率2000倍): 図6a: 試料LC0322 (左)、および図6b: LC0329 (右)
【図7】図7: 0.25mol%のTiを有するLiCoO2の電気化学性能: 試料LC0189(図4に記載された実験)
【図8】図8: 2mol%のMgを有するLiCoO2の電気化学性能: 試料LC0329(図4に記載された実験)
【図9】図9aおよびb(上および下): 0.2mol%のTiを有するLiCoO2の電気化学性能: 試料LC0315(図9a)および316(図9b)(図4に記載された実験)
【図10】図10: 平均粒径D50(μm)の関数としてのペレット密度(g/cm3
【図11】図11aおよびb: 1Cでの延長されたサイクリングの間の放電電圧プロファイル(容量に対する電池電圧): 11a: 試料LC0214 (0.25mol% Ti); 11b: 試料LC0207 (無Ti)。それぞれ右から左に: 2、50、100、200、300および500サイクル。
【0021】
先述の種類の前駆体を使用する二次電池用のカソード材料は、安定性の向上の他に、高い容量およびエネルギー密度を示すことができ、且つ、それらは必要な出力の要請を満たし、そのことは該カソード活物質自体および全体としての電池が充分に高いレート特性を有することを意味する。
【0022】
本発明の重要な側面は、ナノ粒子をドープされた沈殿析出物の新規の種類の前駆体を提供できることである。その意味で、第一の実施態様において、ドーパントを、通常はそれが安定ではない材料中に組み込むための方法を提供できる。他の実施態様において、沈殿析出材料を、例えば限定されずにMgO、Cr23、ZrO2、Al23またはTiO2および任意の一般的な金属材料酸化物、金属ハロゲン化物、金属化合物または元素金属ナノ粒子を含む不溶性のドーパントを用いてドープするための方法を提供できる。さらに他の実施態様において、通例は不自然なドーパント元素を、後で最終材料中に組み込まれ得る前駆体中に導入するための方法を提供できる。
【0023】
例えば、TiO2は前駆体化合物の二次粒子内で良好に分散されるので、拡散距離は短く、且つこの前駆体を用いて製造された二次電池用のカソード材料、例えばLiCoO2は均質である。TiO2の豊富な領域は、EDXを用いた分析では検出されない。良好に分布されたTiのために、0.1〜0.25mol%のわずかなドーピング量で既にTiドーピングの完全な利点がもたらされる。さらには、まだ完全には理解されていないメカニズムによって、意外にも、低いTiドーピングレベルでペレット密度の著しい増加が引き起こされることが観察される。これは非常に望ましい効果であり、なぜなら、市販のリチウム電池の体積エネルギー密度を増加させるからである。他の特定の側面、例えば優れたレート能力および高電圧でのより良好な安定性を以下で説明する。
【0024】
二次粒子へと凝集される一次粒子から構成されている、粒状のドーパント材料を、先述の前駆体であるホスト材料中で均質に分布するために使用される方法の例は、以下の段階を含んでよい:
・ ホスト材料の前駆体溶液を含む第一のフローを提供する段階、
・ 沈殿剤を含む第二のフローを提供する段階、
・ 錯化剤を含む第三のフローを提供する段階、
・ 前記第一のフロー、第二のフローおよび第三のフローの1つまたはそれより多くにおいて、または前記粒状ドーパント材料の懸濁液からなる第四のフローにおいてのいずれかで、ある量の不溶性の粒状ドーパント材料を提供する段階、および
・ 前記第一のフロー、第二のフロー、および第三のフロー、および存在する場合、前記第四のフローを混合し、それにより前記ホスト材料と前記ドーパントとを沈殿析出させる段階。この方法は、同時係属中の出願PCT/EP2008/010489号内で既に詳述された。
【0025】
この例の方法において、前駆体の溶液は好ましくは金属塩水溶液であり、且つ、ドーパント材料の懸濁液は、安定剤懸濁液を含む、水中の懸濁液である。1つの実施態様において、粒状のドーパント材料は安定化されたナノ粒子、例えば金属または金属酸化物からなり、且つ、該前駆体は、金属硝酸塩、塩化物、ハロゲン化物、および硫酸塩粉末の1つまたは混合物のいずれかである。他の実施態様において、ドーパント材料はMgO、Cr23、ZrO2、Al23、およびTiO2の1つまたはそれより多くのいずれかであり、且つ、≧5nm且つ≦200nmの範囲の大きさを有する。
【0026】
前記の通り、本発明による合成手順の例において、不溶性の金属酸化物ナノ粒子の供給原料を、金属水酸化物またはオキシ水酸化物の沈殿析出の間に導入できる。金属酸化物ナノ粒子を、金属塩溶液、アルカリ土類金属水酸化物、および錯化剤と共に、反応器内に導入することも可能である。1つの実施態様において、反応物質の少なくとも2つのフローを反応器に加えることができる。少なくとも1つのフローは、基本的な組成、例えばNaOHおよび/またはNH4OHを含有し、得られる沈殿析出物のアニオンを形成し、且つ他のフローは、溶解された金属、例えばCoSO4を含有し、沈殿析出物のカチオンを形成する。フローを反応器に添加する間、ドーパントのナノサイズ粒子が反応器内に存在する。それらのナノ粒子は、好ましくは反応器に直接的に添加されるか、または選択的に、例えばナノ粒子を含有する分散された溶液の形態でフローのいずれか1つの中に供給されるが、しかし、その添加物は微細な粉末の形態であってもよい。Mgを用いて前駆体をドープするために可能な方法は、所望の量でMgを(MgSO4として)含有するCoSO4溶液のために提供することになっている。
【0027】
従って、反応器への供給フロースキームの以下の例を見出すことができる:
(1) フロー1: 沈殿剤(例えばNaOH)、フロー2: ホスト材料溶液(例えばMgドープCoSO4)、フロー3: 錯化剤(例えばNH3)の溶液、フロー4: ドーパント(例えばTiO2)のナノ分散液
(2) フロー1: 沈殿剤(例えばNaOH)、フロー2: ホスト材料溶液(例えばMgドープCoSO4)、フロー3: 錯化剤(例えばNH3)の溶液、ナノ粒子: 粉末としてフローの1つに添加、またはフロー1、2、3の1つまたはそれより多くの混合物に添加
(3) ナノ粒子が、反応器内の「出発水」または「出発アンモニア」中で分散されている、
フロー1: 沈殿剤(例えばNaOH)、フロー2: ホスト材料溶液(例えばMgドープCoSO4)、フロー3: 錯化剤(例えばNH3)の溶液。
【0028】
反応後、沈殿析出されたスラリーを収集し、そしてろ過し、且つ、その固形物を水を用いて洗浄してその後乾燥させて、ナノ粒子を用いてドープされた金属水酸化物粒子をもたらす。遷移金属イオンの沈殿析出物が、反応の間、または他の処理段階の1つの間に酸化される場合、いくつかの他の化学組成のオキシ水酸化物または酸化物が得られる。
【0029】
可溶性金属塩の選択は制限されない。硝酸塩、塩化物、ハロゲン化物および硫酸塩を含む可溶性金属塩も、用途に応じて使用できる。沈殿剤について、NaOHの他に、例えばLiOH、KOH、炭酸塩、シュウ酸塩も、金属塩をその溶液から沈殿析出させるために使用できる。錯化剤は例えば、可溶性アミン塩または分子から選択され、限定されずにNH3、エチレンジアミン四酢酸塩、ウレア、または他の公知の錯化剤を含む。沈殿析出されたホスト材料、例えばCo(OH)2は通常、水酸化物であるが、しかし、他の金属水酸化物、酸化物、オキシ水酸化物、オキシ炭酸塩、炭酸塩、またはシュウ酸塩沈殿析出物であってもよく、これはドーパントのナノ粒子と共に共沈される。
【0030】
選択されるナノ粒子は、ホスト材料の一次粒子の中で適合させることが可能な、適切な大きさであってよい。1つの例において、充分に小さいナノ粒子を提供して、ナノ粒子がCo(OH)2粒子のいたるところに埋め込まれることを可能にする。1つの実施態様において、ナノ粒子の大きさは200nm未満であり、且つ10nmより大きいが、しかしより大きいまたは小さい大きさのナノ粒子も、必要とされる複合粒子の組成および形態に応じて許容されることがある。一般に、より小さいナノ粒子は、粒子コア内部への深い拡散が想定される場合に有利であることがある。
【0031】
ナノ粒子の選択は、適切な大きさ、およびそれがはっきりと溶解しないこと、または該ナノ粒子が接触する反応混合物または供給原料溶液中で非常に不溶性であることに焦点を合わせている。
【0032】
本発明の1つの実施態様において、TiO2ナノ粒子の安定化水溶液、硫酸コバルトの水溶液、苛性および水性のアンモニアを、攪拌され且つ加熱された反応器内に導入し、そして沈殿析出された材料を収集する。従って、結晶性のTiO2ドープCo(OH)2が、先述の第二の態様において使用されるCo前駆体として製造される。
【0033】
典型的には、反応を、オーバーフロー反応器内での連続的な沈殿析出を使用して行うことができ、且つ、実験の間ずっと、pHを調整し且つモニターすることにより制御できる。実験を、pH制御をせずに、反応物質の供給速度を調整することによって実施することもできる。他の可能な反応構成を、オートクレーブ反応器またはバッチ式反応器を使用して行うことができる。連続的な沈殿析出方法は、例えば20℃〜90℃で実施されるが、しかし、より高いまたは低い温度も使用できる。反応のための溶剤の例は水であるが、しかし、他の溶剤、例えばグリコール、アルコール、酸、および塩基も使用できる。
【0034】
反応の他の例において、pH(温度補償されていない)は、10.4〜11.3の値、またはさらに10.8〜11.0で制御される。一般に、より高いpHは、より小さな二次粒子の沈殿析出をもたらす一方で、より低いpHはより大きな二次粒子の沈殿析出をもたらす。生じるTiO2ドープCo(OH)2は、5〜50μmのD50粒径体積分布値、および0.5〜2.0にわたるスパンを有することができる。1つの例において、TiO2ドープCo(OH)2の定常状態の製造は、0.9〜1.3にわたるスパンを有する6〜21μmにわたるD50粒径を生じることができる。スパンは、(D90−D10)/D50であるとして定義される。
【0035】
沈殿析出されたTiO2ドープCo(OH)2の一次小板の大きさは、10nm〜2000nmにわたってよく、典型的な一次小板の大きさは、例えば50〜400nmである。TiO2ドープCo(OH)2のタップ密度は、0.7〜1.5g/cm3にわたってよく、且つ、例えば1.2〜1.5g/cm3である。一般に、TiO2ドープCo(OH)2二次粒子および一次粒子の厚みがより大きいと、より高いタップ密度をもたらすことができる。この材料の見かけ密度は、0.3〜1.2にわたってよく、例えば、典型的な値は0.8〜1.2g/cm3である。
【0036】
沈殿析出されたTiO2ドープCo(OH)2粉末は例えば、2つの別の層:1つはTiO2そして1つはCo(OH)2の複合物である。複合粒子は通常、Co(OH)2の一次粒子の集まりで構成されてよく、20〜500nm、例えば50〜200nmであり得る厚みを有する。TiO2ナノ粒子は、Co(OH)2の一次小板の間に噛み合わされ(lnterdigitate)且つ埋め込まれる。TiO2はCo(OH)2粒子のいたるところに埋め込まれ、且つ、単に粒子表面上にあるだけではない。
【0037】
複合二次粒子は典型的には1〜50μm、より典型的には5〜25μmにわたるD50を有してよい。典型的にはPSDが制御されるのは沈殿析出の間であるが、沈殿析出された材料が、ゲル調製を使用して調製され、その後、より小さいサイズに加工されてもよい。粉砕、ミリングまたは他の磨砕技術を含む、他の加工方法を使用して適切な大きさの粒子を製造できる。
【0038】
Li対Coの適した配合比を使用し、且つ単独の焼成段階を使用する、上記の第一の態様による凝集された前駆体の例では、最終生成物中の一次粒子がより大きく成長する一方で、二次粒子の大きさにおいてはわずかな変化しかない。特定の条件下、例えばLi対Coの配合比1.04〜1.07、且つ960〜1020℃の範囲の焼成温度で、二次構造を形成している一次粒子が実際に一緒に成長することができる。この方法において、且つ、凝集したCo(OH)2を使用して、最終的なリチウムコバルト酸化物粉末を経済的に製造できる。
【0039】
従って、前駆体生成物の例は、1つまたはそれより多くのいずれかの焼結されていない凝集粉末状コバルト酸化物、水酸化物およびオキシ水酸化物として定義でき、15μmより大きいd50を有する二次粒径を有する。1つの実施態様において、一次粒子は5μm未満のd50を有する一次粒径を有する。二次粒子は、球形状を有してよい。該コバルト酸化物は、Co34、Co23、または部分的に酸化され且つ乾燥されたCo(OH)2のいずれかであってよい。前駆体の二次粒子が、いかなる焼結された一次粒子も含有しない場合が有利であり、なぜなら、通例は、所望の結果が単独の焼成段階を使用して得られるからである。
【0040】
本発明を以下の実験の詳細によって説明できる:
Mgおよび/またはTiドープ沈殿析出水酸化物の調製
一連の合計12のコバルト水酸化物に基づく前駆体を、上述の方法を使用して、小規模試験工場の連続的な沈殿析出ラインにおいて調製する。TiO2ナノ粒子のフローを、連続的に反応器内に供給し、同時に、Mgドープ硫酸Co溶液、ナトリウム水酸化物溶液、およびNH4OHを連続的に反応器に添加する。定常状態に達した後、沈殿析出された試料を収集する。各々の調製は、1週間より長くかかる。サンプリング後、コバルトベースの水酸化物を洗浄し、そして乾燥させる。このシリーズの意図は、同様の形態を有するがしかし異なるドーピングを有する前駆体を調製することである。TiO2ドーピングレベル(Co1molあたり)は、0〜0.75mol%にわたる。Co1モルあたりのMgドーピングレベルは、0〜2mol%の間で変化する。
【0041】
ICP元素分析は、それら全ての試料について、目標組成が達成されることを立証する。それら全ての前駆体の形態が非常に類似していることを確認するために、多大な注意が払われる。全ての前駆体は、1.35〜1.45g/cm2にわたるタップ密度、および17〜21μmのD50(粒径分布、湿式法)を有する。SEMによって調査された形態は、非常に類似して見え、わずかに粗い皿形状の一次粒子からなる不規則な二次粒子を示している。TiO2含有試料は、二次粒子内で良好に分布したTiO2を有する。
【0042】
Mgおよび/またはTiドープLiCoO2の調製
36より多くの最終的なLiCoO2ベースの試料を、それらの前駆体から以下の通りに調製する:
コバルト水酸化物ベースの前駆体を、微細なLiCO3粒子と混合し、その後、乾燥空気中、1050℃で焼成し、次にミリングおよびふるいにかける。典型的な試料の量は1kgである。Li:Coのモル配合比は、1.04から1.07まで変化する。
【0043】
最終的な試料を、粒径分析(PSD、乾燥法)、BET表面積、SEM顕微鏡写真、コインセル試験、pH滴定、およびペレット密度によって調査する。選択された試料を、元素分析(ICP)、フルセル試験(市販の大きさのLiポリマー電池、安全試験、貯蔵試験およびサイクリング安定性試験を含む)、電極密度、断面EDX、DSC安全性評価等によってさらに試験する。
【0044】
LiCoO2の粒径分布を、レーザー回折を使用して測定する。レーザー回折粒子分析の標準的な分析は、回折パターンを作り出す粒子が様々な体積を有する球であると仮定する。「D50」は、サイズ−体積分布の中央値であり、即ち、より小さいサイズを有する粒子が総体積の50%をもたらす。
【0045】
相応して、「D10」および「D90」は、より小さな粒子が総体積の10%または90%をもたらす大きさである。
【0046】
LiCoO2の比表面積を、ブルナウアー・エメット・テラー(BET)の5点測定を用いて、Micromeritics Tristarを使用して測定する。
【0047】
ペレット密度は以下の通りに測定される: 3gの粉末を、直径1.292cmを有するプレス型(press from)内に充填する。圧力を30秒間印加し、その後、粉末試料の厚さを測定する。プレスされた体積と質量とを知ることにより、ペレット密度が計算される。
【0048】
電気化学性能を、リチウムヘキサフルオライト(LiPF6)型の電解質中で、Li箔を対向電極として用いるコイン型セルにおいて、25℃で試験する。セルを4.3Vに充電し、且つ3.0Vに放電して、レート特性および容量を測定する。延長されたサイクリングの間の容量保持性を、4.5Vの充電電圧で測定する。160mAh/gの比容量が、放電レートの判定のために想定される。例えば、2Cでの放電について、320mA/gの比電流を使用する。
【0049】
レート能力を、種々の放電レートで測定する(図4左の通り):
サイクル1: C/10、2: C/5、3: C/2、4: 1C、5: 2C、6: 3C (1C=160mA/g)
安定性および減衰の測定のために(図4、中央および右)、サイクリング手順を以下の通りに継続する:
サイクル7: C/10
サイクル8: 1C
サイクル9〜30: C/4充電およびC/2放電を、4.5−3.0Vでサイクルする
サイクル31: C/10
サイクル32: 1C。
【0050】
良好な材料は少なくとも以下の特性を有するべきである:
・ BET: 小さいBET表面積、典型的には0.25m2/g未満、またはさらには0.2m2/g未満
・ SEM: 密集し、緻密な、モノリシックの二次粒子を含む粉末、従って過剰な凝集が回避される粉末が好ましい
・コインセル試験が以下を示す:
(a) レート特性が高いこと
(b) より高いレートでの放電プロファイルが矩形の形状であること
(c) 4.5Vでの延長されたサイクリング後の電圧プロファイルの変化が小さいこと
(d) 4.5Vでの延長されたサイクリング安定性の間の容量保持性が高いこと
・ ペレット密度: 可能な限り高い
・ PSD: 過剰な数の大きい粒子または小さい粒子がないか、または低スパン(=(D90−D10)/D50)および単峰性のPSD。
【0051】
非常に少量のチタン(0.5mol%よりも遙かに下)が、劇的に性能(ペレット密度、レート特性、サイクリング安定性)を、いかなる他の良い特性も犠牲にすることなく、改善するという驚くべき発見がなされる。また、Tiのドーピングレベルが0.5mol%を超える場合、好ましい形態を得ることは不可能である。該粒子は、高いBET表面を有し、且つ、強く凝集している。我々はさらに、Tiの利点がマグネシウムのドーピングレベルとは完全に独立していることを発見した。
【0052】
一般に、最良の性能は0.25mol%のTiO2ドーピングまたはそれ未満で達成される。TiO2の存在中で、追加的なマグネシウムドーピングを導入することは、レート特性を損なうことなく、容量のわずかな現象を引き起こすが、しかし、安全性能において利得が得られる。以下に、本発明の態様を実施例によって説明する。
【0053】
実施例1
0.5mol%のMgを用いてドープされた、且つ、0.25mol%の分散TiO2ナノ粒子を含有する、2つのコバルト水酸化物前駆体を使用して、6つの最終的なLiCoO2ベースの試料を調製する。
【0054】
焼結温度は1015℃であり、且つ、配合物のLi:Coモル比は1.04〜1.07の間で変化する。この比は、最終的な試料(約2〜4%だけ小さい)の実際のLi:Co比に相応しないことに注意。
【0055】
【表1】

【0056】
全ての試料は優れた性能を有する。BETは、粒径と共に減少し、且つ、ペレット密度は増加する。特に、LC0227およびLC0193が興味深い。それらは、所望の粒径、良好な電気化学性能および非常に高いペレット密度の間の最良の歩み寄りをもたらす。図1は、試料LC0227およびLC0193のSEM顕微鏡写真を示す。我々は、いくつかの端部および面で、非常に緻密な粒子を観察する。この形態は、本質的に高い密度を得るために好ましい。
【0057】
対照例2
0.5mol%のMgを用いてドープされた、0.75mol%の分散TiO2ナノ粒子を含有する、2つのコバルト水酸化物前駆体を使用して、6つの最終的なLiCoO2ベースの試料を調製する。焼結条件は実施例1の通りである。
【0058】
【表2】

【0059】
実施例1の0.25mol%のTiドープ試料との主な違いは、BETが非常に大きく、且つ、粒径がよりいっそう小さいことである。Li:Coの増加と共に、BETはあまり減少せず、且つ、粒径は著しく増加する。ペレット密度は、次に議論される通り、強い凝集のために、信頼性良く測定することができなかった。
【0060】
図2は、典型的な試料LC0199およびLC0233のSEM顕微鏡写真を示す。倍率が図1とは異なることに注意!明らかに、0.75mol%のTiを用いてドープされたそれらの試料の形態は、0.25mol%ドープの試料とは非常に異なっている。前者は、サブミクロンから5μmにわたる小さな一次微結晶と共に強く凝集し、後者は大きく且つ緻密であり、一次微結晶が約5〜20μmの大きさを有している。強い凝集は、ペレット密度が信頼性良く測定できない理由であり、なぜなら単に、印加された力の下で凝集物が崩壊(braking)し、所定の形態については非常に高すぎる結果を生じるからである。3.59の値が測定され(現実的な値はより小さい)、実施例1のものよりも遙かに下である。
【0061】
さらに6つの試料を、0.5mol%のMgをドープされ、追加的に0.5mol%のTiを含有する、コバルト水酸化物を使用して調製する。結果は、実施例1と対照例2とのものの間である; 実施例1のものよりも凝集され、より低密度且つより高いBETを明らかに示す。
【0062】
約0.25mol%より多くのTiを用いたLiCoO2のドーピングは望ましくないと結論づけられる。
【0063】
対照例3
0.5mol%のMgを用いてドープされ、分散TiO2ナノ粒子を含有しない、2つのコバルト水酸化物前駆体を使用して、6つの最終的なLiCoO2ベースの試料を調製する。焼結条件は実施例1の通りである。
【0064】
【表3】

【0065】
類似の粒径での実施例1との主な違いは、よりいっそう大きなペレット密度において見出される。図3は、試料LC0190およびLC0223のSEM顕微鏡写真を示す。該粒子は緻密であり、粒径は同等であるが、しかし、実施例1の0.25mol%のTiと比較して、形状が非常に異なる。該形状はより丸く、且つ時として凹状である。この形態はあまり好ましくなく、且つ、同一のサイズについて、よりいっそう低いペレット密度をもたらす。
【0066】
さらには、実施例1の0.25mol%のTiドープ試料のレート特性および安定性は、遙かに優れている。数値はさほど異ならないが、しかし、サイクリングの間の電圧プロファイル、およびレート特性を注意深く見ると、非常に明確な違いを示している。
【0067】
図4は、典型的なドープされていない試料の性能を示し、且つ、0.25%molのTiドープ試料と比較している。両方の試料は非常に類似したキーパラメータ(PSD、BET…)を有する。本質的に高いレートでの、0.25mol%のTiドープ試料のプロファイルは、放電の終わりにて、よりいっそう矩形であり、より急峻であり、且つ、それはサイクリングの間、より矩形のままであるのに対して、ドープされていない試料は、放電の電圧プロファイルの明らかな劣化を示す。0.25mol%ドープ試料については、減衰速度における減少も観察されるのに対して、TiO2のない試料は、容量を逃し続ける。我々は、本発明のTiドーピングをしていないLiCoO2は、より低いサイクル安定性およびより低いレート特性を有すると結論付ける。
【0068】
実施例4
ドープされていないか、または2mol%のMgを用いてドープされた、且つ、0.25mol%の分散TiO2ナノ粒子も含有する、2つのコバルト水酸化物前駆体を使用して、12の最終的なLiCoO2試料を調製する。焼結条件は実施例1の通りである。
【0069】
【表4】

【0070】
全ての試料は高いペレット密度を示す。全ての試料は、実施例1のものと同様の焼結挙動を示した。図6(試料LC0322および329のSEM)は、対照例2のように、より大きなTiドーピングについて観察された、過剰に凝集した形態が不在であることを示す。該形態は、実施例1のものと非常に類似している。図7および8は、実施例1で観察されたものと同様のサイクリング性能を示す。我々は、Mg含有率が、形態に非常にわずかな影響しか及ぼさないと結論付ける。より高いレートでの矩形の電圧が典型的であり、延長されたサイクリングの後でも矩形が残っている。しかしながら、可逆容量はMgドーピングの増加に伴いわずかに減少し、これは一般にMgドープLCOについて観察される。
【0071】
対照例5
2mol%のMgを用いてドープされた、且つ、0.5mol%の分散TiO2ナノ粒子を含有する、コバルト水酸化物前駆体を使用して、3つの最終的なLiCoO2試料を調製する。(実施例1に記載された通りの)好ましい形態は得られていない。該試料は、対照例2と類似した、過剰な凝集を示す。対照例5は、良好に制御されたTiドーピングレベルが、形態に対して重要であるが、しかし、Mgドーピングはそうではないことを立証する。
【0072】
対照例6
0.20mol%のTi(TiO2として)を、好ましい形態を有するLiCoO2試料に添加する。TiO2−乾燥被覆されたLiCoO2を、1015℃で、空気中にて加熱し、試料LC0315および316をもたらす。ペレット密度は増加しなかった。実施例1または4の試料は(同様の粒径で)、著しくより高いペレット密度を有する。図9aおよび9bは、電圧プロファイルが、実施例1および4の試料のものよりも非常に矩形ではないことを示す。この対照例は、Tiが前駆体内部で微細に分散していなければならないことを示す。それが試料の外側上に添加される場合、明らかに有益な効果が観察されるまでに、よりいっそう高いTiドーピングが必要とされる。
【0073】
対照例7
この実施例は、(この特許の複合材料とは異なる標準的な前駆体から調製された)TiドープLiCoO2が、深刻な問題を抱えることを示す。該前駆体は、コバルト1molあたり1mol%のマグネシウムを用いてドープされたCo34、Li2CO3(全ての他の実施例および対照例用に使用されたものと同じバッチ)、およびTiO2サブミクロン粉末(被覆されていない顔料)である。
【0074】
まず、一部のCo34と全てのTiO2(該TiO2は入念に予備乾燥されている)とを含有する、良好に均質化された予備配合物を調製し、この配合物を残りのCo34およびLi2CO3に添加し、且つ、混合を継続する。最終配合物は、TiO2またはLi2CO3のいかなる可視の凝集物も含有しない。最終的な配合物は、Co1molあたり0.25mol%のTiO2を含有する。
【0075】
1.054〜1.072にわたるLi:Co比を有する合計4つの配合物を使用し、1000℃での焼成でTi+MgドープLiCoO2が生じる。得られた粒径は、TiO2のない、同様のLi:Co配合比について予想されるよりも著しく小さい(10〜15μm)。比較として、同一のCo34前駆体、同一の焼成条件および同一のLi:Co配合比の使用は、24〜35μmにわたる粒径をもたらす。これは、好ましい形態(15〜20μmのPSD)を、過剰に高いLi:Co配合比または過剰に高い焼結温度を使用しないで、得ることが可能ではないことを示す。
【0076】
粒径の結果を以下の表5にまとめる:
【表5】

【0077】
その基礎をなす機構は、恐らく、以下の通りである: TiO2は、粒子間の焼結による焼結を防ぐために非常に有効であり、結果として、粒径があまり成長しない。従って、好ましい形態を有する、即ち、より大きく且つ緻密な粒子を有する、TiドープされたLiCoO2を得るためには、TiO2が、本発明において説明される通り、より大きなサイズの前駆体粒子内で微細に分散していることが必要である。
【0078】
実施例8
図10は、粒径D50の関数としてのペレット密度を示す。上の方の点線上の試料は、0〜2mol%のMg含有率および0.25mol%のTi含有率を有する。下の方の点線上の試料は、0、0.5、および0.75mol%のTi含有率、および0.5〜2mol%のMgを有する。チタンを含まない試料で、充分に高いペレット密度を有するものはない。高いペレット密度を有する試料の中で、0.25mol%の前駆体ドーピングを有するものだけが、好ましい形態を有する。実施例8は、高められたペレット密度を得ることについての、チタンドーピングの利点を明らかに示す。
【0079】
実施例9
主にTi含有率のみ異なる、基本的に同一の試料(形態、PSD、リチウム:Co比、BET…)を、どのように調製するのかについて理解するために、0%のTiドーピング、および0.25mol%のTiドーピングを有する試料の大きなプールを分析する。追加的に、Tiドープされた試料は、著しくより高いペレット密度を有する。
【0080】
表6に特性をまとめる。
【0081】
【表6】

【0082】
フルセル試験は、延長されたサイクリング(>500サイクル)の間、Tiドープ試料の安定性の明らかな改善を示す。TiO2ドープ試料は、ドープされていないリファレンスと比較して、明らかにより少ない電圧低下(=望ましくないインピーダンス)を、特に放電の開始時に示す。同時に、容量の減衰速度は明らかに改善される。図11aおよびbは、このことを、それぞれ試料LCO214および207について例証する。
【0083】
本発明の特定の実施態様および/または詳細が上記に示され且つ記載され、本発明の原理の適用が説明される一方、この発明は、かかる原理から逸脱せずに、特許請求の範囲においてより完全に記載される通りに、または、そうでなければ当業者によって公知の通りに(任意且つ全ての等価物を含む)、具体化され得ることが理解される。
【図1a)−1b)】

【図2a)−2b)】

【図3a)−3b)】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムイオン電池内で正電極活物質として使用するためのチタンをドープされたリチウムコバルト酸化物粉末の前駆体化合物であって、15μmより大きなd50を有する二次粒径を有する1つまたはそれより多くのいずれかの焼結されていない凝集されたコバルト酸化物、水酸化物およびオキシ水酸化物粉末からなり、前記凝集されたコバルト酸化物、水酸化物およびオキシ水酸化物粉末は、TiO2を前記凝集粉末内で均質に分布したナノ粒子の形態で含み、0.1〜0.25mol%のTi含有率を有する、前記前駆体化合物。
【請求項2】
前記リチウムコバルト酸化物粉末はさらにMgをドーピング元素として含み、0.1〜2mol%のMg含有率を有することを特徴とする、請求項1に記載の前駆体化合物。
【請求項3】
前記TiO2ナノ粒子は、≧5nm且つ≦200nmの範囲の大きさ、および好ましくは10〜50nmの大きさを有することを特徴とする、請求項1または2に記載の前駆体化合物。
【請求項4】
請求項1から3までのいずれか1項に記載の前駆体化合物の、リチウムイオン電池内で正電極活物質として使用するためのリチウムコバルト酸化物粉末の製造における使用であって、前記リチウムコバルト酸化物粉末が0.1〜0.25mol%のTi含有率を有し、前記前駆体とリチウム源との焼成による、前記使用。
【請求項5】
前記リチウムコバルト酸化物粉末が、10μmより大きい、好ましくは15μmより大きいd50、および、0.25m2/g未満、および好ましくは0.20m2/g未満の比表面積(BET)を有する、請求項4に記載の使用。
【請求項6】
リチウムコバルト酸化物粉末を製造するための単独の焼成方法であって、以下の段階:
・ 請求項1から3までのいずれか1項に記載の前駆体化合物を提供する段階
・ 前記前駆体化合物とLi源、好ましくは炭酸リチウムを、Li対Coの比R1.04〜1.07に従って、混合する段階、および
・ 前記混合物を、960℃〜1020℃の温度Tでの単独の焼成を用いて焼成する段階
を含む方法。

【図4】
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【図5】
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【図6a)−6b)】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10)】
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【図11a)】
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【図11b)】
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【公表番号】特表2012−528773(P2012−528773A)
【公表日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−513490(P2012−513490)
【出願日】平成22年5月19日(2010.5.19)
【国際出願番号】PCT/EP2010/003096
【国際公開番号】WO2010/139404
【国際公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【出願人】(509126003)ユミコア ソシエテ アノニム (23)
【氏名又は名称原語表記】Umicore S.A.
【住所又は居所原語表記】Rue du Marais 31, B−1000 Brussels, Belgium
【Fターム(参考)】