安定な金ナノクラスタを含む、方法、組成物および物品
本発明は、一般に金ナノクラスタ、および特に蛍光金ナノクラスタに関する。本金ナノクラスタは、例えばタンパク質または安定剤で、安定させることができる。場合により、本金ナノクラスタは、サンプル中の第二水銀イオンの存在、不在、および/または濃度を判定するための方法または物品に使用することができる。一部の実施形態において、本発明は、組成物を提供する。第一の実施形態において、組成物は、複数の金ナノクラスタと、タンパク質または安定剤とを含み、この場合の金ナノクラスタは、少なくとも1%の量子収率で約630nmと約700nmの間の波長で蛍光を放出することができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本出願は、同時係属中の2008年8月5日に出願された米国仮特許出願第61/129,994号に対して、米国特許法§119(e)の下で、優先権の主張をする。この仮特許出願の内容は本明細書に参照として援用される。
【0002】
発明の分野
本発明は、一般に金ナノクラスタ、および特に蛍光金ナノクラスタに関する。本金ナノクラスタは、例えばタンパク質または安定剤で、安定させることができる。場合により、本金ナノクラスタは、サンプル中の第二水銀イオンの存在、不在、および/または濃度を判定するための方法または物品に使用することができる。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
貴金属ナノクラスタ(nanocluster:NC)は、概して、数個から数十個の金属原子から成り、一般に1nm未満のサイズである。金属ナノクラスタ中の自由電子の空間拘束によって、個別のおよびサイズを合せることができる電子遷移を生じさせることができ、その結果、発光および固有荷電特性などの分子様特性をもたらすことができる。寸法が大きく(例えば、おおよそ3から100nm)、毒性金属種(例えば、カドミウム、鉛)を含有することがある半導体量子ドット(quantum dots:QDs)とは対照的に、貴金属ナノクラスタは、それらの超微細サイズおよび非毒性のため、様々な用途(例えば、センシング)にとって魅力的である。多くの用途で、例えば第二水銀イオンの検出に、使用することができるだろう、赤外線または近赤外線を放出する蛍光金ナノクラスタを合成する方法および技術の開発は、興味深い。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
第二水銀イオン(Hg2+)の日常的検出は、環境および人間の健康に対するその有害作用のため、水生生態系での環境モニタリングに重要である。過去数年間に、第二水銀イオンの検出用の幾つかの光学センサシステムが、小有機分子(発蛍光団または発色団)、生体分子(タンパク質、抗体、オレゴヌクレオチド、DNA酵素など)、および様々な材料(高分子材料または無機材料)に基づいて開発された。しかし、これらのシステムの多くは、単純性、感度、選択性に関して制約があり、および/または実際の用途が限定される(例えば、水生生態系に不適合)。
【0005】
従って、改善された方法および材料が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
発明の要旨
一部の実施形態において、本発明は、組成物を提供する。第一の実施形態において、組成物は、複数の金ナノクラスタと、タンパク質または安定剤とを含み、この場合の金ナノクラスタは、少なくとも1%の量子収率で約630nmと約700nmの間の波長で蛍光を放出することができる。
【0007】
一部の実施形態において、本発明は、方法を提供する。第一の実施形態によると、複数の金ナノクラスタを形成するための方法は、金原子前駆体の複数の分子とタンパク質の複数の分子とを含む反応混合物を形成する工程(この場合、金原子前駆体の分子のタンパク質の分子に対する比率は、少なくとも約5:1である)、前記反応混合物のpHを約11より大きくなるように調整する工程、および前記反応混合物を適する温度で十分な時間維持して、少なくとも1つのタンパク質分子によって安定化された複数の金ナノクラスタを形成する工程を含み、この場合の金ナノクラスタは、約2nm未満の平均直径を有する。
【0008】
もう1つの実施形態において、第二水銀イオンを検出する方法は、複数の金ナノクラスタとタンパク質または安定剤とを含む組成物を生じさせる工程、第二水銀イオンを含有する疑いのあるサンプルに前記組成物を曝露する工程、および前記サンプルが第二水銀イオンを含むかどうかを判定する工程を含む。さらにもう1つの実施形態において、第二水銀イオンを検出する方法は、複数の金ナノクラスタ(該金ナノクラスタは、少なくとも1%の量子収率で約630nmと約700nmの間の波長で第一の蛍光強度を有する)を生じさせる工程、第二水銀イオンを含有する疑いのあるサンプルを前記ナノクラスタに曝露し、蛍光強度の変化を判定する工程、および前記サンプルが第二水銀イオンを含有するかどうかを前記蛍光強度の変化に基づいて判定する工程を含む。
【0009】
場合により、第二水銀イオンを検出する方法は、式Au25を有する複数の安定化金ナノクラスタを含む組成物を生じさせる工程、第二水銀イオンを含有する疑いのあるサンプルに前記組成物を曝露する工程、および前記サンプルが第二水銀イオンを含むかどうかを判定する工程を含む。
【0010】
一部の実施形態において、本発明は、物品を提供する。場合により、サンプル中の第二水銀イオンの存在または不在を判定するための物品は、基質と、該基質と会合している組成物とを含み、この場合の組成物は、金ナノクラスタとタンパク質または安定剤とを含む。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、本発明の非限定的実施形態による、ウシ血清アルブミンと会合している金ナノクラスタ(BSA−Au−NC)の形成の略図を示すものである。
【図2】図2Aは、1つの実施形態による、(上部)可視光および(下部)UV線のもとでのBSA(1)粉末および(2)水溶液、ならびにBSA−Au−NC(3)水溶液および(4)粉末の写真を示すものである。図2Bは、(i)BSAおよび(ii)BSA−Au−NCの水溶液の光学吸収(断続線)および光電子放出(実線、λex=470nm)スペクトルを示すものである。挿入図は、BSA−Au−NCについての約480nmでの弱い吸収ピークを示すものである。
【図3】図3は、非限定的実施形態による、37℃でのHAuCl4およびBSAを含む反応混合物についての光電子放出スペクトル(λex=470nm)の時間発展を示すものである。
【図4】図4Aは、(iii)BSA−Au−NC中のAu 4fのXPSスペクトル、ならびに図4Bは、(iv)BSAおよび(v)BSA−Au−NCのMALDI−TOF質量スペクトルを示すものである。図4Cは、非限定的実施形態による、空気中でのBSA−Au−NC粉末のTGA分析を示すものである。
【図5】図5は、BSA−Au−NCの代表TEM画像を示すものである。
【図6】図6は、非限定的実施形態による、(i、または黒色)BSAおよび(ii、または灰色)BSA−Au−NCの(A)DLSヒストグラム、(B)フーリエ変換赤外(Fourier−transform infrared:FTIR)スペクトル、(C)ゼータ電位の結果、ならびに(D)遠UV円偏光二色性(circular dichroism:CD)スペクトルを示すものである。(A)中の挿入図は、(ii)BSA(FITC色素で標識したもの)および(i)BSA−Au−NCの(UV線下での)電気泳動データを示すものである。
【図7】図7は、(0)BSA、(1)最適化条件下で合成したBSA−Au−NC、(2)NaBH4を用いて合成したBSA−Au−NC、(3)NaOHなしで合成したBSA−Au−NC、(4)100℃で合成したBSA−Au−NC、および(5)低BSA濃度で合成したBSA−Au−NCについての(A)可視光および(B)紫外線のもとでの写真、(C)光学吸収スペクトル、ならびに(D)光電子放出スペクトル(λex=470nm)を示すものである。
【図8】図8は、NaOHなしで合成したBSA−Au−NCの代表TEM画像を示すものである。
【図9】図9は、(A)光電子放出スペクトル(λex=470nm)、ならびに(B)Hg2+イオン(50mM)の(1)不在および(2)存在下でのBSA−Au−NC(20mM)についてのUV線のもとでの写真、ならびに(C)BSA−Au−NCの蛍光消光に基づくHg2+センシングの略図を示すものである。
【図10】図10は、(A)BSA−Au−NCにより封鎖されたHgイオンおよび(B)NaBH4によって還元された封鎖HgイオンについてのXPS Hg 4fスペクトルを示すものである。
【図11】図11は、Hg2+イオンの存在下でのBSA−Au−NCの代表TEM画像を示すものである。
【図12】図12は、(A)ポリスチレンビーズに結合させたBSA−Au−NCの略図、および(B)ポリスチレンビーズに結合させたBSA−Au−NCの代表蛍光画像を示すものである。
【図13】図13は、50mMの様々な金属イオンの存在下でのBSA−Au−NC水溶液(20mM)についての(A)UV線のもとでの写真、および(B)λex=470nmでの相対蛍光(I/I0)を示すものである。
【図14】図14Aは、異なるHg2+濃度の存在下でのBSA−Au−NC(20nM)の光電子放出スペクトル(λex=470nm)、および図14Aは、Hg2+濃度の関数としてのBSA−Au−NCの相対蛍光(I/I0)を示すものである。図14Cは、1〜20nMのHg2+についての線形検出範囲を示すものである。
【図15】図15Aは、BSA−Au−NCを有するテストストリップの、該テストストリップを50mMの様々な金属イオンの溶液に浸漬した後の、UV線のもとでの写真を示すものである。図15Bは、Hg2+の溶液に浸漬したテストストリップの(UV線のもとでの)写真を示すものである。
【図16】図16は、(i)BSA、(ii)ヒト血清アルブミンおよび(iii)リゾチームを使用して合成したAu−NCの水溶液の光電子放出(λex=470nm)スペクトルを示すものである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
詳細な説明
これらの添付の図面に関連して考えれば、以下の詳細な説明から本発明の他の態様、実施形態および特徴が明らかになるであろう。これらの添付の図は、略図であり、正確な尺度で描くことを意図したものではない。当業者が本発明を理解できるようにするために図示が必要でない場合には、わかりやすさのために、すべての図においてすべての成分の名を表示しておらず、本発明の各実施形態のすべての成分の名を表示してもいない。参照により本明細書に援用されているすべての特許出願および特許は、それら全体が参照により援用されている。矛盾する場合には、定義を含めて本明細書が支配することとなる。
【0013】
本発明は、一般に、金ナノクラスタを含む方法、組成物および物品に関する。場合により、本金ナノクラスタは、蛍光性であり、および高い量子収率で赤色エネルギーを放出する。本金ナノクラスタは、例えば本明細書に記載するようなタンパク質または安定剤によって、安定させることができる。本発明の一部の態様は、例えば水銀の検出のための、本金ナノクラスタを含む用途に関する。
【0014】
一部の実施形態において、金ナノクラスタは、複数の金原子を含む。用語「ナノクラスタ」は、本明細書において用いられる場合、当該技術分野におけるその通常の意味が与えられたものであり、数個から数十個の金属原子を含むクラスタを指す。場合により、ナノクラスタは、ほぼ約2個と約30個の間の会合した金原子を含むことがある。特別な場合、ナノクラスタは、約25個の金原子を含む。当業者は、ナノクラスタが含む金属原子の近似数を決定する方法(例えば、質量分光法)を知っているであろう。場合により、ナノクラスタは、ゼロより高い酸化状態の金原子(例えば、Au+、Au+3)を少なくとも1個含むことがある。このゼロより高い酸化状態の少なくとも1個の金原子の存在は、本明細書に記載するような第二水銀イオンの検出のための金ナノクラスタの用途において、重要な特徴であり得る。
【0015】
一部の実施形態において、本発明の金ナノクラスタは、発光性であり得る。発光材料は、特定量の電磁放射線を吸収して、その材料に励起状態構造を実現させるおよび場合により放射線を放出させることができる材料を指す。放出される放射線が、発光であり得、この場合、「発光」は、紫外線または可視放射の放出と定義する。発光の特定のタイプとして、可視放射の吸収と放出の間の時間間隔が10−12から10−7秒にわたる「蛍光」が挙げられる。場合により、光源への露光により、本発明の金ナノクラスタは蛍光エネルギーを放出することができる。当業者に公知の方法を用いてその放出蛍光エネルギーを検出することができる。場合により、その放出蛍光エネルギーの強度および/または波長がサンプルについての情報を与え、それを、本明細書において説明するように分析することができる。
【0016】
一部の実施形態において、金ナノクラスタは、約700nmと約630nmの間、約680nmと約640nmの間、約675nmと約650nmの間、または約640nm、約650nm、約660nm、約670nm、約680nm、約690nmもしくは日光の波長で、光を放出するおよび/またはλmax放出(例えば、最大放出の波長)を有することがある。すなわち、一部の実施形態において、前記金ナノクラスタは、UV線のもとで赤色エネルギーを放出するおよび/または赤色に見えることがある。しかし、場合により、前記ナノクラスタは、近IR領域(例えば、約700nmと約1400nmの間)または他の可視光波長領域(例えば、約400nmと約630nmの間)で光を放出するおよび/またはλmax放出を有することがある。当業者は、複数の金ナノクラスタの放出光および/またはλmax放出を判定するための方法および技術を知っているであろう。例えば、蛍光分光法を用いて、金ナノクラスタを分析することができる。そのような分析では、金ナノクラスタを光源(例えば、紫外線)に露光し、この光が一定の分子内の電子を励起させ、その結果、より低いエネルギーの光(例えば、可視光)が放出される。
【0017】
一部の実施形態では、金ナノクラスタを含む組成物の量子収率を決定することができる。量子収率は、その組成物によって吸収される光子の、その組成物によって蛍光により放出される光子に対する比率である。一部の実施形態において、金ナノクラスタを含む組成物は、少なくとも約1%、少なくとも約2%、少なくとも約3%、少なくとも約4%、少なくとも約5%、少なくとも約6%、少なくとも約7%、少なくとも約8%、少なくとも約9%、少なくとも約10%、またはそれ以上の量子収率で、エネルギーを放出するおよび/またはλmax放出を有することがある。場合により、量子収率は、約4%、約5%、約6%、約7%、約8%、約9%、約10%、または約3%と約10%の間、約4%と約9%の間、もしくは約5%と約8%の間である。当業者は、組成物の量子収率を決定する方法を知っているであろう。一部の実施形態において、前記金ナノクラスタは、少なくとも1%の量子収率で約630nmと約700nmの間の波長で、または本明細書に記載する値の任意の他の組み合わせで、蛍光を放出する(またはλmax放出を有する)ことがある。
【0018】
場合により、ナノクラスタは、約0.1nmと約2nmの間、約0.1nmと約1nmの間、約0.1nmと約0.5nmの間、約0.5nmと約1nmの間、またはこれらに類するnmの平均直径を有することがある。一部の事例では、前記ナノクラスタは、約2nm未満、約1.5nm未満、約1nm未満、約0.5nm未満、約0.1nm未満、またはこれらに類するnmの平均直径を有することがある。ナノクラスタ集団の「平均直径」は、本明細書において用いられる場合、そのナノクラスタの直径の算術平均である。当業者は、ナノクラスタ集団の平均直径を決定する方法および技術、例えばレーザー光散乱、動的光散乱(または光子相関分光法)、透過電子顕微検査(transmisson electron microscopy:TEM)などの使用、を知っているであろう。
【0019】
一部の実施形態において、前記ナノクラスタは、多分散であることもあり、実質的に単分散であることもあり、または単分散である(例えば、直径の均一な分布を有する)こともある。複数のナノクラスタは、該ナノクラスタが、それらの小滴の約10%、約5%、約4%、約3%、約2%、約1%、またはそれ以下より多くが該ナノクラスタ全部についての平均直径の約20%、約30%、約50%、約75%、約80%、約90%、約95%、約99%、またはそれ以上より大きいまたは小さい直径を有さないような直径の分布を有する場合、実質的に単分散である。一部の実施形態において、前記ナノクラスタは、実質的に球形である。しかし、他の実施形態において、前記ナノクラスタは、球形、三角柱、立方体、板(例えば、三角形、正方形、円形、長方形の板)、またはこれらに類するものをはじめとする様々な形状を含むことがある。
【0020】
一部の実施形態では、金ナノクラスタを、例えば、タンパク質および/または安定剤と会合させ、それによって金ナノクラスタとタンパク質および/または安定剤とを含む組成物を形成することにより、安定させることができる。場合により、前記タンパク質は、本明細書において説明するように、金ナノクラスタの形成を助長することもある。前記会合は、例えば、金ナノクラスタとタンパク質または安定剤との(例えば、タンパク質の残基と金原子またはイオンとの)少なくとも1つの相互作用の形成を含むことがある。場合により、前記相互作用は、イオン結合、共有結合(例えば、炭素−炭素、炭素−酸素、酸素−ケイ素、硫黄−硫黄、リン−窒素、炭素−窒素、金属−酸素、または他の共有結合)、水素結合(例えば、ヒドロキシル、アミン、カルボキシル、チオール、および/または同様の官能基間の水素結合)、供与結合(例えば、金属イオンと単座または多座配位子との錯化またはキレート化)、ファンデルワールス相互作用、ならびにこれらに類するものであり得る。一部の実施形態において、前記相互作用は、共有結合ではない。安定化金ナノクラスタを合成するための方法および適するタンパク質または安定剤を決定するための方法を本明細書において説明する。
【0021】
一部の実施形態において、本発明は、金ナノクラスタを合成するための方法を提供する。場合により、方法は、タンパク質と金原子前駆体とを含む反応混合物を形成する工程、その後、その反応混合物のpHを調整する工程を含む。前記反応混合物を、本明細書において説明するように、適する温度で十分な期間にわたって維持して複数の金ナノクラスタを形成することができる。形成された金ナノクラスタを、本明細書に記載するような1つ以上の特性(放出される蛍光の波長、量子収率、平均直径など)によって特性づけすることができる。
【0022】
理論により拘束されることを望まないが、タンパク質の存在が金ナノクラスタの形成を助長することもある。一例として、あるタンパク質分子は、複数の金イオンを(例えば、金イオンとチロシンなどのタンパク質に含まれる残基との会合により)封鎖し、その結果、そのタンパク質の中に複数の金イオンを捕捉することができる。このとき、そのタンパク質がそれらの金イオンを分子の金原子に還元する場合があり、および(例えば、金原子はタンパク質の中に捕捉されているため)金原子の互いの近接が金ナノクラスタを形成させる場合がある。一部の事例では、それぞれのタンパク質が、同数の金イオンと会合する可能性が高いだろうという理由で、形成される複数の金ナノクラスタは、実質的に単分散、または単分散であり得る。一部の実施形態において、少なくとも1つ(例えば、1つ、2つ、3つ、4つなど)のタンパク質分子は、金ナノクラスタの形成後にその金ナノクラスタと会合したままである(例えば、それによって、安定化金ナノクラスタを形成する)ことがある。場合により、少なくとも1つのタンパク質の少なくとも一部を、本明細書に記載するような安定剤で置き換えることができる。
【0023】
特定の例では、金原子前駆体を含む(例えば、Au(III)イオンを含む)溶液を、ウシ血清アルブミン(bovin serum albumin:BSA)を含む溶液に添加して、反応混合物を形成することがある。この実施形態において、BSA分子は、金イオンを封鎖し、それらを捕捉することができる(例えば、図1参照)。反応混合物のpHを11より高くなるように調整することにより、BSA分子の還元能力を活性化することができる。捕捉された金イオンを還元して金ナノクラスタを形成することができ、この場合の金ナノクラスタは、BSA分子によって安定化されている。
【0024】
場合により、タンパク質と金原子前駆体とを含む反応混合物を形成することがある。タンパク質の溶液を、金原子前駆体の溶液に添加することもあり、または金原子前駆体の溶液をタンパク質の溶液に添加することもある。場合により、タンパク質と金原子前駆体を固体として混合し、その後、溶剤を添加することがある。反応に干渉しない任意の適する溶剤(例えば、水)で溶液を形成することができる。前記溶液は、約0.1Mと約10Mの間、約0.5Mと約5Mの間、約0.5Mと約2Mの間、または約1M、約2M、約3M、約4M、もしくはこれらに類するMのモル濃度を有することがある。
【0025】
一部の実施形態において、金原子前駆体の分子のタンパク質の分子に対する比率は、ナノ粒子と比較してナノクラスタの形成を可能にする方法の重要な特徴である。理論により拘束されることを望まないが、この比率は、タンパク質分子に対する金原子前駆体分子の数および凝集に影響するため、重要な特徴であるとみなされる(例えば、表1に示す結果を参照のこと)。
【0026】
さて、金原子前駆体の分子のタンパク質の分子に対する適切な比率を決定する方法を、さらに詳細に説明しよう。一部の実施形態において、金原子前駆体分子のタンパク質の分子に対する適切な比率は、そのタンパク質中のシステインおよびチロシン残基の比率を決定することによって、決定することができる。一部の実施形態において、タンパク質に含まれるシステインおよびチロシン残基の金原子前駆体の数に対する比率は、約1:1と約50:1の間、約1:1と約25:1の間、約5:1と約15:1の間、またはそれらの中の任意の範囲である。特定の実施形態において、前記比率は、約10:1である。システインおよびチロシン残基の比率から、金原子前駆体の分子のタンパク質の分子に対する比率を決定することができる。例えば、システインおよびチロシン残基の金原子前駆体に対する比率が10:1になるように選択し、そのタンパク質が50個のシステインおよびチロシン残基を含む場合、金原子前駆体のタンパク質に対する分子の比率は、約5:1である。場合により、金原子前駆体の分子のタンパク質の分子に対する比率は、少なくとも約3:1、少なくとも約5:1、少なくとも約6:1、少なくとも約7:1、少なくとも約8:1、少なくとも約9:1、少なくとも約10:1、少なくとも約12:1、少なくとも約15:1、少なくとも約20:1またはそれ以上である。場合により、前記比率は、約5:1と約20:1の間、約8:1と約15:1の間、およびこれらに類するものである。
【0027】
本発明での使用に適するタンパク質としては、複数(例えば、少なくとも約5、10、15、20、30、40、50など)のシステインおよび/またはチロシン残基を含むタンパク質が挙げられる。タンパク質の非限定的な例としては、ウシ血清アルブミン(BSA)、ヒト血清アルブミン、リゾチーム、およびこれらに類するものが挙げられる。
【0028】
本明細書において用いられる場合の金原子前駆体は、ゼロより高い酸化状態の金(例えば、Au+、Au+3)を含む、および(例えば、そのタンパク質によって)還元されて金原子を形成することができる、前駆物質を指す。当業者は、適切な金原子前駆体、例えばHAuCl4、AuCl3およびAuBr3、を知っているであろう。場合により、金原子前駆体は、水和されている(例えば、水を含む)ことがある。
【0029】
金原子前駆体とタンパク質とを含む反応混合物を形成した後、その反応混合物のpHを、例えばその反応混合物への塩基の添加によって、調整することができる。前記塩基は、前記反応混合物の形成の直後、または約1分、約2分、約3分、約5分、約10分、もしくはこれらに類する時間の後、添加することができる。前記塩基は、任意の適する塩基(例えば、NaOH)であってよく、ならびに前記塩基を任意の適切なモル濃度(例えば、約0.1M、約0.5M、約1M、約2M)および量で添加して、望みどおりにpHを調整することができる。場合により、添加する塩基の量は、前記反応混合物のpHが少なくとも約10.5、少なくとも約11、少なくとも約11.5、少なくとも約12、少なくとも約13、またはそれ以上になるように調整されるような量であり得る。場合により、前記反応混合物のpHは、約11と約14の間、約12と約14の間、またはこれらに類するものであり得る。理論により拘束されることを望まないが、一部の実施形態において、前記反応混合物のpHは、本発明の重要な特徴であり得る。前記反応混合物のpHは、タンパク質に含まれる残基(例えば、アスパラギン酸およびグルタミン酸残基中のカルボキシル基、システイン中のチオール基、リシン中のアミン基、など)のプロトン化または脱プロトン化に影響を及ぼし、その結果、そのタンパク質の構造および反応性に影響を及ぼすからである(例えば、表1に示す結果を参照のこと)。
【0030】
選択したレベルに前記反応混合物のpHを調整した後、その反応混合物を適する温度で十分な期間にわたって維持して、複数の金ナノクラスタを形成することができる。前記反応混合物をこの期間の間、かき混ぜる(例えば、攪拌する、振盪する)こともある。当業者は、適切な反応温度および反応時間を決めることができるであろう。例えば、タンパク質の分解または失活が起こらないように、その温度を選択することができる。もう1つの例として、妥当な時間量の範囲内で(例えば、約48時間未満、約24時間未満、約12時間未満など)反応が進行するように、反応の温度を選択することができる。場合により、制限反応物の少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、少なくとも約99%、またはそれ以上が消費されるまで、反応を行うことができる。当業者に公知の方法および/または技術(例えば、光電子放出スペクトル、核磁気共鳴など)を用いて、その反応の進行を判定することができる。
【0031】
一部の実施形態では、前記反応混合物を周囲温度で、周囲温度より上で、または周囲温度より下で維持することがある。場合により、前記反応は、周囲温度より高い温度、例えば、約30℃で、約35℃で、約37℃で、約40℃で、約50℃で、約60℃で、約80℃で、約100℃で、またはそれ以上で維持することがある。場合により、前記反応を約30℃と約40℃の間、約25℃と約40℃の間、約25℃と約50℃の間、約30℃と約100℃の間、またはこれらに類する温度で行うことがある。
【0032】
前記反応混合物を適する温度で、約0時間と48時間の間、約2時間と約24時間の間、約4時間と約18時間の間、約8時間と約12時間の間、または約1時間、約2時間、約4時間、約8時間、約12時間、約18時間、約24時間、約36時間、または約48時間、またはそれ以上維持することがある。
【0033】
一部の実施形態において、少なくとも1つのタンパク質分子と会合している金ナノクラスタの形成後、前記少なくとも1つのタンパク質分子のうちの1つ以上を安定剤で置き換えることができる。場合により、前記タンパク質分子の本質的にすべてを安定剤によって置き換えることができる。一部の実施形態では、安定剤の複数の分子を、タンパク質安定化金ナノクラスタを含む溶液に供給することがあり、この場合、前記安定剤は、前記タンパク質と比較して前記金ナノクラスタに対するほうが大きな親和性を有する。それ故、それぞれの金ナノクラスタと会合しているタンパク質分子の少なくとも一部分を、少なくとも1つの安定剤の分子によって置き換えることができる。場合により、前記少なくとも1つの安定剤は、タンパク質の置換後、金ナノクラスタと会合したままであることがある。例えば、一部の実施形態では、システインまたはグルタチオンなどの化学的キャッピング剤を使用して、タンパク質分子を抽出することができる。安定剤と金ナノクラスタの会合後、安定剤によって安定している金ナノクラスタからタンパク質分子を、例えば濾過、洗浄および/または遠心分離によって、分離することができる。
【0034】
前記ナノクラスタを任意の期間保管することができ、または本明細書において論じる用途のうちの1つに直ちに使用することができる。前記ナノクラスタは、保管1ヶ月につき10%以下の機能喪失、または保管1ヶ月につき5%以下、またはさらに2%、の機能喪失で、少なくとも約1日、少なくとも約2日、少なくとも約5日、少なくとも約10日、少なくとも約1ヶ月、少なくとも約3ヶ月、少なくとも約6ヶ月、または少なくとも約1年間、保管することができる。本明細書に記載するようなナノクラスタは、様々な条件下で保管することができる。一部の事例において、前記ナノクラスタは、周囲条件で、および/または空気雰囲気下で保管されることがある。他の事例において、前記ナノクラスタは、真空下で保管されることがある。さらに他の事例において、前記ナノクラスタは、凍結乾燥されることがある。
【0035】
本明細書に記載するような金ナノクラスタは、様々なシステム/装置に含めることができ、および/または特定用途のための様々な方法に使用することができる。例えば、ターゲット環境中の化学種を定性的におよび/または定量的に判定するために使用することができる電気または化学センシング装置において前記金ナノクラスタを使用することができる。すなわち、前記金ナノクラスタは、前記化学種と相互作用できるので、それらの金ナノクラスタの特性の変化を判定して、サンプル中に存在する種の存在、不在および/または量を判定することができる。もう1つの例として、前記金ナノクラスタを触媒におよび/または生物学的用途において用いることもできる。
【0036】
一部の実施形態において、本発明は、サンプル中の第二水銀イオン(Hg+2)を定性的におよび/または定量的に判定するための方法および/またはシステムを提供する。水銀は、広範囲に及ぶ汚染物質であり、Hg+2は、高い細胞毒性を有する腐食性および発癌性物質である。Hg+2の検出方法は、環境サンプルの分析に特に有用である。場合により、第二水銀イオンを含有する疑いのあるサンプルへの曝露前および後に、複数の金ナノクラスタの特性(例えば、蛍光)を判定することがある。その特性の変化を判定し、それによって、その分析物がそのサンプル中に存在するかどうかを定量的に(例えば、校正曲線との比較により)または定性的に(例えば、その特性の増加もしくは減少により)判定することができる。
【0037】
一部の実施形態では、水銀イオン(Hg+2)の存在を、複数の金ナノクラスタの特性のオン/オフ分析により定量的に判定することができる。場合により、前記検出メカニズムは、水銀イオンが不在である場合に複数の金ナノクラスタが蛍光放出(または他の測定可能な特性)を生じさせることができる、「ターンオフ」検出メカニズムであることもある。第二水銀イオンが存在する場合、複数の金ナノクラスタは、少なくとも1つの第二水銀イオンと相互作用することができるので、実質的に低減された蛍光放出(もしくは他の測定可能な特性)が観察されるまたは蛍光放出(もしくは他の測定可能な特性)が観察されない消光状態すなわち暗い状態が発生し得る。
【0038】
一部の実施形態において、第二水銀イオンを検出する方法は、複数の金ナノクラスタを(例えば、本明細書に記載するように)生じさせる工程、および第一の蛍光強度(または他の測定可能な特性)を判定する工程を含む。その後、前記複数の金ナノクラスタを、第二水銀イオンを含有するまたは含有する疑いのあるサンプルに曝露することができ、第二の蛍光強度を判定することができる。そのサンプル中の第二水銀イオンの存在、不在、および/または濃度を、第一と第二の蛍光(または他の測定可能な特性)間の差を判定することによって、判定することができる。一部の実施形態では、第一と第二の蛍光強度間の差を相対蛍光(例えば、第一の蛍光強度で割った第二の蛍光強度)として判定することができる。その相対蛍光を校正曲線と比較して、サンプル中の第二水銀イオンの濃度を決定することができる。
【0039】
当業者は、材料(例えば、金ナノクラスタを含む組成物)の蛍光を判定するための方法および技術を知っているであろう。一部の実施形態では、第一の波長の光によって材料を励起させることができ、その材料は、より低いエネルギーの第二の波長(例えば、より長い波長)のエネルギーを放出することができる。場合により、本明細書に記載するような材料および組成物を、約300nm未満、約300nmと約500nmの間、約400nmと約500nmの間、または約420nm、約430nm、約440nm、約450nm、約460nm、約470nm、約480nm、約490nm、またはこれらに類するnmの波長を有する光に露光することがある。特定の実施形態において、前記光は、約470nmの波長を有する。前記組成物は、本明細書に記載するような(例えば、約630nmと約700nmの間の)波長を有するエネルギーを放出することができる。
【0040】
場合により、前記方法は、複数の金ナノクラスタとタンパク質および/または安定剤とを含む組成物を生じさせる工程、第二水銀イオンを含有する疑いのあるサンプルに前記組成物を曝露する工程、および前記サンプルが第二水銀イオンを含むかどうかを(例えば、前記組成物の少なくとも1つの特性の変化を判定することにより)判定する工程を含むことがある。
【0041】
本発明の方法は、低濃度レベルでのサンプル中の第二水銀イオンの検出を可能にすることができる。最近の理論研究は、閉殻金属原子間の分散力が特異的であり、強力であり、および特に、これらの相互作用がHg2+(4f145d10)およびAu+(4f145d10)などの重イオンを伴うとき、相対論的効果によって大いに拡大されることを示唆している。理論により拘束されることを望まないが、本明細書に記載するようなAu−NCの表面は少量のAu+を含み、それがHg2+との強い特異的な相互作用を可能にし、その結果、低い検出限界をもたらすと考えられる。一部の実施形態において、本明細書に記載する方法は、約50nM未満、約25nM未満、約10nM未満、約5nM未満、約1nM未満、約0.5nM未満、約0.1nM未満、または約10nM、約5nM、約1nM、約0.5nM、約0.1nM、もしくはこれらに類するnMの、サンプル中の第二水銀イオンの検出限界を有することができる。
【0042】
場合により、第二水銀イオンを検出するための方法および物品は、第二水銀イオンに特異的であることがある。すなわち、前記方法および物品は、他の金属イオン、例えば、Ag+、Cu2+、Zn2+、Mg2+、K+、Na+、Ni2+、Mn2+、Fe3+、Cd2+、Pt4+、Pd2+、Co2+、Pb2+、およびCa2+イオンより第二水銀イオンを特異的に検出することができる。この特異性は、サンプルを環境源から採取する場合(例えば、サンプルが他の金属イオンを含有する可能性が高い場合)、有利である。場合により、Hg+2以外の少なくとも金属イオンへの曝露に基づく前記金ナノクラスタまたは組成物の蛍光強度(または他の特性)の変化は、約30%未満、約20%未満、約15%未満、約10%未満、約5%未満、約3%未満、約1%未満などである。加えて、第二水銀イオンを検出するための方法および物品は、サンプル中に含有されることがある様々なアニオン(例えば、Cl−、NO3−、SO42−、PO43−、および緩衝剤(例えば、2−(4−(2−ヒドロキシエチル)−1−ピペラジニル)エタンスルホン酸))に対して強いだろう。
【0043】
一部の実施形態では、サンプル中の第二水銀イオンの存在、不在、および/または濃度を判定するための物品を提供することができる。場合により、前記物品は、基質および組成物を含むことがあり、前記組成物は前記基質と会合している。前記組成物は、金ナノクラスタと、タンパク質または安定剤(例えば、本明細書に記載するようなもの)とを含むことがある。
【0044】
一部の実施形態において、前記物品は、第二水銀イオンを含む疑いのある溶液に曝露することができるテストストリップである場合がある。前記テストストリップは、第二水銀イオンへの曝露に基づき蛍光放出(または他の特性)の変化を有することができる組成物(例えば、金ナノクラスタとタンパク質または安定剤とを含むもの)を含むことができる。一部の実施形態において、前記蛍光放出(または他の特性)の変化によって、第二水銀イオンがサンプル(例えば、本明細書に記載するもの)中に存在するかどうかを定量的におよび/または定性的に判定することができる。前記テストストリップは、任意の適するサイズおよび/または形状(例えば、正方形、長方形、円形など)であり得る。場合により、前記テストストリップのサイズは、一般に使用される実験用ガラス器具(例えば、試験管)の口にうまく入れることができるようなサイズだろう。
【0045】
場合により、サンプル中の第二水銀イオンの存在、不在および/または濃度を判定するための少なくとも1つのテストストリップとカラー(または他の特性)リファレンスとを含むキットを提供することができる。場合により、第二水銀イオンを含有する疑いのあるまたは含有するサンプルへの曝露後にテストストリップの色を比較するために、そのカラーリファレンス上に与えられている色を用いることがある。場合により、テストストリップの蛍光色(例えば、UV線のもとで観察されるテストストリップの色)を比較するために、そのカラーリファレンスの色を用いることがある。第二水銀イオンを含有するまたは含有する疑いのあるサンプルにテストストリップを曝露した後、そのテストストリップの色をカラーリファレンスと比較して、第二水銀イオンの存在もしくは不在を判定することができ、および/またはサンプル中の第二水銀イオンの近似的濃度を判定することができる。例えば、テストストリップが定性的に機能する事例では、カラーリファレンスは、第二水銀イオンを含まないサンプルへの曝露に基づき、テストストリップの色を示すことがある。従って、サンプルへの曝露後にそのテストストリップが、カラーリファレンスとは異なる色を有する場合、そのサンプルは水銀を含む。テストストリップが定量的に機能する事例では、カラーリファレンスは、それぞれの色がサンプル中の第二水銀イオンの近似的濃度と符合する、複数の色を示すことがある。従って、サンプルへの曝露後、テストストリップの色を比較し、カラーリファレンス上の最も近い色と照合し、それによってサンプル中の第二水銀イオンの近似的濃度を示すことができる。当業者は、カラーリファレンスの適切な色(単数または複数)を決定する方法および技術(例えば、第二水銀を含むサンプルの様々な既知濃度にテストストリップを曝露することによる)を知っているであろう。前記キットは、使用のための説示をさらに含むことがある。カラーリファレンスは、テストストリップから完全に独立して提示されることもあり、またはテストストリップに付随することもある。
【0046】
前記組成物を任意の適する基質と会合させて、本発明によるテストストリップを生じさせることができる。一部の実施形態において、前記基質材料は、前記金ナノクラスタと会合しているまたは前記組成物に含まれているタンパク質または安定剤と会合することができる材料を含むことがある。基質の非限定的な例としては、セルロース系および非セルロース系材料、例えば、ニトロセルロース;紙;綿、レーヨン、麻、ジュートなどの材料から製造された天然または合成繊維、糸およびヤーン;竹繊維;酢酸セルロース;カルボキシメチル化溶剤紡糸セルロース繊維;またはこれらの組み合わせなどが挙げられる。一部の実施形態において、前記基質は、ポリマー、例えばポリエステル、ポリアミド、ポリアクリルアミド、ポリアセテートなど、またはそれらの組み合わせを含むことがある。前記基質は、多孔質である場合もあり、または無孔質である場合もある。例えば、前記組成物を前記基質の表面にコーティングすることができ、またはそれに含浸させることができる。前記基質は、軟質である場合があり、および/または硬質である場合がある。
【0047】
本発明のテストストリップを作製する際、当業者に公知の技術を用いて適する基質に組成物を塗布することができる。本発明の実施形態において、テストストリップの作製は、基質に塗布することができるコーティング可能な液体組成物を調製する工程を含む。一般に、前記液体組成物は、複数のBSA会合金ナノクラスタを溶剤に添加することによって調製する。その基質を使用前に(例えば、周囲温度で、高温で、真空下で)乾燥させることができる。一部の実施形態では、追加の成分(例えば、界面活性剤、結合剤など)が存在することがある。
【0048】
任意の適する源からサンプルを採取することができる。一部の実施形態において、前記サンプルとしては、化学的サンプル、水サンプル、抽出物、環境サンプル(例えば、環境源からのもの)、食品などを挙げることができる。一部の実施形態において、前記サンプルは、第二水銀イオンを含有するまたは含有する疑いがある場合がある。前記サンプルをその源から採取したそのままで使用することもあり、またはそのサンプルの少なくとも1つの特性を変性するように前処理することもある。前処理方法は、濾過、蒸留、濃縮、緩衝成分の不活性化、および/または試薬の添加を含む場合がある。一部の実施形態では、前記サンプルを(例えば、第二水銀イオンの濃度が高すぎて、校正曲線またはカラーリファレンスとの単純比較によって判定できない場合)希釈することもあり、または濃縮することもある。
【0049】
次の参考文献は、参照により本明細書に援用されている:Yingらによる「Protein/peptide−mediated synthesis of highly fluorescent metal nanoclusters」と題する2008年8月5日出願の米国特許仮出願番号61/129,994。
【0050】
本発明のこのおよび他の態様は、後続の実施例を考慮することによってさらに正しく理解されることであろう。この後続の実施例は、本発明のある特定の実施形態を例証するためのものであり、特許請求の範囲によって定義する本発明の範囲を制限するためのものではない。
【実施例】
【0051】
(実施例1)
以下の実施例は、本発明の一部の実施形態に従って、金ナノクラスタの合成および特性を説明するものである。
【0052】
具体的には、この実施例は、生理温度(37℃)で赤色発光(λemmax=640nm、量子収率(quantum yield:QY)約6%)を有するAu−NCの調製のための、一般的な市販タンパク質、ウシ血清アルブミン(BSA)のバイオミネラリゼーション能力に基づく、単純でワンポットの「環境にやさしい(green)」合成経路を説明するものである。この実施例では、Au(III)イオンをBSA水溶液に添加する。BSA分子は、場合により、Auイオンを封鎖し、それらを捕捉した(図1)。反応混合物のpHを約12に調整することにより、BSA分子の還元能力を活性化した;捕捉されたイオンが漸進的に還元されてBSA結合金ナノクラスタ(BSA−Au−NC)をインサイチューで形成した。調製したそのままのBSA−Au−NCは、(マトリックス支援レーザー脱離/イオン化−飛行時間型(matrix−assist laser desorption/ionization−time of flight:MALDI−TOF)質量分析から明らかなように)約25個の金原子から成り、およびBSA−Au−NCとしてBSA分子内で安定化されていた(図1)。この実施形態において、BSA−Au−NCは、水溶性であり、緩衝剤安定性であり、強酸/塩基および濃塩(1M NaCl)などの過酷な条件の溶液中でさえ安定であった。この合成法は、良好なバッチ間再現性で容易にグラム量に規模拡大することができ、調製したそのままのBSA−Au−NCを凍結乾燥後に粉末として保管することができた。この方法論の良好な生体適合性および多大な環境的/費用的優位性に加えて、Au−NC上のBSAコーティング層は機能的配位子での合成後表面改質も助長した。
【0053】
典型的な合成では、HAuCl4水溶液(5mL、10mM、37℃)をBSA溶液(5mL、50mg/mL、37℃)に激しく攪拌しながら添加した。2分経過した後、NaOH溶液(0.5mL、1M)を導入し、その混合物を37℃で12時間インキュベートした。その溶液の色が淡黄色から淡褐色に、そしてその後、濃褐色に変化した(図2A)。具体的には、図2Aは、(上部)可視光および(下部)UV線のものでのBSA(1)粉末および(2)水溶液、ならびにBSA−Au−NC(3)水溶液および(4)粉末の写真を示すものである。図2Bは、(i)BSAおよび(ii)BSA−Au−NCの水溶液の光学吸収(断続線)および光電子放出(実線、λex=470nm)スペクトルを示すものである。図2B中の挿入図は、BSA−Au−NCについての約480nmでの弱い吸収ピークを示すものである。この反応は、蛍光発生の経時的測定によって確認したところ、約12時間で完了した(図3)。具体的には、図3は、37℃でのHAuCl4およびBSAを含む反応混合物についての光電子放出スペクトル(λex=470nm)の時間発展を示すものである。
【0054】
BSA−Au−NCの濃褐色溶液は、UV線(約365nm)のもとで強い赤色蛍光を放出した(図2A、下部、3)。対照的に、対照BSA溶液は、可視光のもとでの色が薄黄色であり(図2A、上部、2)、UV線のもとで、アミノ酸残基(トリプトファン、チロシン(Tyr)およびフェニルアラニン)中の芳香族基に特有であるピークブルー蛍光を放出した(図2A、下部、2)。蛍光Au−NCは、約480nmおよび約640nmで、それぞれ、吸収および放出ピークを示した(図2B)。そのフォトルミネッセンス量子収率(QY)は、約6%であった(470nmレーザーを使用してフルオレセインで校正)。
【0055】
BSA−Au−NCの酸化状態を、X線光電子分光法(X−ray photoelectron spectroscopy:XPS)によって判定した。Au 4f7/2スペクトルにデコンボリューション処理を施して、84.0eVおよび85.1eVの結合エネルギーで中心に配置された2つの別個の成分(図4Bにおける、それぞれ、線iiおよび線i)にした。これらは、それぞれAu(0)およびAu(I)に割り当てることができるものであった。具体的には、図4は、(A)(iii)BSA−Au−NC中のAu 4fのXPSスペクトル、ならびに(B)(iv)BSAおよび(v)BSA−Au−NCのMALDI−TOF質量スペクトルを示すものである。
【0056】
チオール保護BSA−Au−NCについて前の構造研究で説明したように、Auコアの表面に存在する少量のAu(I)(約17%)は、ナノクラスタの安定化を助長した。調製したそのままのBSA−Au−NCは、BSAモノマー中の(35個のシステイン(Cys)残基からの)35個のチオール基の存在を考えると、同様の構造を有するだろう。BSA−Au−NCは、約640nmでの光電子放出ピークを有し、これは、球形ジェリウムモデルに基づくAu25クラスタの存在を示す。調製したそのままのAu−NCのサイズをMALDI−TOF質量分光法によってさらに確認した。その明確なタンパク質構造が、MALDI−TOF質量分光法での封入ナノクラスタサイズの分析を可能にした。AuCl4―を伴わないBSAのスペクトルは、BSA分子量に対応するm/z約66kDaに1つのピークを示した(図4B)。調製したそのままのBSA−Au−NCは、約5kDaのピークシフトを示し、Au−NCの25個の金原子がこの一因になると考えられた。BSA−Au−NCの熱重量(TGA)分析によっても裏付けとなる証拠が得られた(図4C)。具体的には、図4Cは、空気中でのBSA−Au−NC粉末のTGA分析を示すものである。25個の原子を有するAu−NCは、非常に安定であると報告されており、それは、閉殻と幾何学的寄与の両方を伴う最も一般的な磁性クラスタサイズに相当した。
【0057】
広いpH範囲(3〜12)の溶液中、および様々な緩衝溶液(例えば、50mMのHEPES緩衝液(pH7.65))中、および高濃度の塩(例えば、1MのNaCl)を有する溶液中のBSA−Au−NCについて、蛍光特性の明らかな差は観察されなかった。溶剤を凍結乾燥によって除去することができ、BSA−Au−NCを少なくとも2か月間、固体状態(図2A、4)で保管し、必要に応じて再分散させることができた。タンパク質との(例えば、BSA中の35個のCys残基による)Au−S結合とタンパク質の嵩高さに起因する立体保護作用との組み合わせによって、BSA−Au−NCを安定させることができた可能性もある。BSA−Au−NCの高い安定性は、インビトロおよびインビボバイオイメージング用途でのそれらの使用を大いに容易にできる。BSA分子へのAu−NC(約0.8nm)の封入(図5における代表TEM画像参照)は、BSA足場構造に対して殆ど影響を及ぼさない(図6参照)。具体的には、図6は、(i、または黒色)BSAおよび(ii、または灰色)BSA−Au−NCの(A)DLSヒストグラム、(B)フーリエ変換赤外(FTIR)スペクトル、(C)ゼータ電位の結果、ならびに(D)遠UV円偏光二色性(CD)スペクトルを示すものである。(A)中の挿入図は、(ii)BSA(FITC色素で標識したもの)および(i)BSA−Au−NCの(UV線下での)電気泳動データを示すものである。
【0058】
分子レベルでBSA分子がどのようにして蛍光Au−NCを「バイオミネラライズする」のか明らかではなかったが、幾つかの啓示的実験観察があった。理論により拘束されることを望まないが、タンパク質の担当残基による封入Auイオンのインサイチュー還元とNaOHの添加の両方が、一部の実施形態では、BSA−Au−NCの形成にとって重要であった。外来還元剤、水素化ホウ素ナトリウム(NaBH4)、を前記BSA−Au−NC合成と同じ反応溶液に添加することによって、対照実験を行った。結果として生ずるBSA−Au−NCは、非常に弱い赤色蛍光を放出した(QY約0.1%、表1および図7)。具体的には、図7は、(0)BSA、(1)最適化条件下で合成したBSA−Au−NC、(2)NaBH4を用いて合成したBSA−Au−NC、(3)NaOHなしで合成したBSA−Au−NC、(4)100℃で合成したBSA−Au−NC、および(5)低BSA濃度(2.5mg/mL)で合成したBSA−Au−NCについての(A)可視光および(B)紫外線のもとでの写真、(C)光学吸収スペクトル、ならびに(D)光電子放出スペクトル(λex=470nm)を示すものである。最近の研究により、TyrまたはTyr残基を含有する特注ペプチドが、そのフェノール基によりAu(III)またはAg(I)イオンを還元できることは証明されており;それらの還元能力を、その反応pHをTyrのpKa(約10)より上に調整することによって大きく向上させることができる。NaOHの添加も必要であり、これが無いと、不規則または板様形態を有する大きなナノ粒子(>20nm)しか得られず(NaOHなしで合成したBSA−Au−NCの代表TEM画像を示す図8を参照のこと)、これらのナノ粒子は、蛍光を示さなかった。反応温度は、高いQYを有する蛍光Au−NCの合成における重要な考慮事項であった。異なる温度(25、37および100℃)で反応を行い、25℃ではAu−NCが非常にゆっくりと形成され;12時間の反応後でさえクラスタは検出されなかった。生理温度(37℃)での反応は、妥当な還元動態を示した。反応は12時間以内に完了し、高いQY(約6%)を有するBSA−Au−NCが得られた。反応温度を100℃に上昇させると、反応速度は急上昇した。反応は数分以内に完了したが、調製したそのままのBSA−Au−NCは、比較的低いQY(約0.5%、表1および図7参照)を有した。BSA濃度のAu前駆体に対する比率は重要であった。固定Au前駆体濃度(5mM)で、高いBSA濃度(10〜25mg/mL)(約20から50mMのアミノ酸残基の濃度を伴う)がAu−NCの有効な保護に必要とされた。Au前駆体濃度を一定(5mM)に保ちながらBSA濃度を2.5mg/mLに低下させると、蛍光を有さない大きなナノ粒子が生じた(表1および図7)。
【0059】
【表1】
表1において、BSA−Au−NCのQYは、470nm励起下でBSA−Au−NCおよびリファレンス(塩基性エタノール中のフルオレセイン溶液、QY=97%)の積分蛍光強度を測定することによって決定した。スペクトル測定のためにBSA−Au−NCを脱イオン水で希釈して、470nmで約0.1の吸収を生じさせた。
【0060】
要約すると、この実施例は、一般的なタンパク質を使用してAu前駆体をインサイチューで封鎖して還元することによる、赤色発光を有するAu−NCの新規調製方法を例証するものである。調製したそのままのBSA−Au−NCは、溶液(水溶液または緩衝液)中でも、固体形態でも安定であった。この発光Au−NCは、約25個の金原子(Au25)から成るものであった。高いQYを有するBSA−Au−NCを誘導するように実験条件を最適化した。プロトコルおよび生成物は、蛍光BSA−Au−NCの単純で「環境にやさしい」生産方法を提供するためばかりでなく、タンパク質/ペプチドとAuイオンの相互作用(バイオミネラリゼーションまたは生物模倣型鉱物形成(biomimetic mineralization))をタンパク質−Au−NCの生成に向けて用いることができることを具現するためにも、重要である。
【0061】
(実施例2)
以下の実施例は、実施例1において調製し、使用した金ナノクラスタに関する追加の実験情報を説明するものである。
【0062】
すべての化学薬品は、Sigma−Aldrichから購入し、受け取ったそのままで使用した。Ultrapure Millipore water(18.2M)を使用した。
【0063】
赤色蛍光Au−NCの合成。すべてのガラス器具を王水(HCl:HNO3 体積比=3:1)で洗浄し、エタノールおよび超純水ですすいだ。典型的な実験では、HAuCl4水溶液(5mL、10mM、37℃)をBSA溶液(5mL、50mg/mL、37℃)に激しく攪拌しながら添加した。2分後、NaOH溶液(0.5mL、1M)を導入し、激しく攪拌しながら37℃で12時間、反応を進行させた。
【0064】
材料特性づけ。吸収および光電子放出スペクトルは、それぞれ、Agilent 8453 UV−可視分光計およびJobin Yvon Horiba Fluorolog蛍光分光計を用いて得た。BSA−Au−NC水溶液およびBSA水溶液のDLS分析は、BI−200SMレーザー光散乱システム(Brookhaven Instruments Corporation)を用いて行った。元素分析は、ELAN 9000/DRC ICP−MSシステムを用いて行った。BSAおよびBSA−Au−NCの分子量は、Bruker Daltonics Autoflex II TOF/TOFシステムでのMALDI−TOF質量分析法を用いて分析した。透過電子顕微鏡検査(TEM)およびXPSは、それぞれ、200kVでFEI Tecnai TF−20電界放出型高解像度透過電子顕微鏡を用いて、およびVG ESCALAB MKII分光計を用いて行った。外来炭素を使用してXPSPEAKソフトウェア(バージョン4.1)によりAu 4fコアレベルのナロー・スキャンXPSスペクトルにデコンボリューション処理を施して、C1s(284.5eV)の結合エネルギーを校正した。
【0065】
(実施例3)
以下の実施例は、本発明の非限定的実施形態による、金ナノクラスタを使用する第二水銀イオン(Hg+2)の検出を説明するものである。第二水銀イオン(Hg2+)の日常的検出は、環境および人間の健康に対するその有害作用のため、水生生態系における環境モニタリングの重要な側面である。
【0066】
理論により拘束されることを望まないが、最近の理論研究は、閉殻金属原子間の分散力が非常に特異的であり、強力であり、および特に、これらの相互作用がHg2+(4f145d10)およびAu+(4f145d10)などの重イオンを伴うとき相対論的効果によって大いに拡大されることを示唆している。従って、Hg2+−Au+相互作用の利用は、Hg2+検出における無標識アプローチにとって魅力的である。実施例1において説明したように、タンパク質をテンプレートにする方法を用いて金ナノクラスタ(BSA−Au−NC)を合成した。調製したそのままのBSA−Au−NCは、約25個の金原子(Au25)から成り、強い赤色蛍光(λemmax=640nm)を放出した。このクラスタコアの表面は、Hg2+と強い特異的な相互作用を有することができる、少量(約17%)のAu+によって安定化されている。この実施例では、図9に示すような、好金属性Hg2+−Au+相互作用に依存してBSA−Au−NCの蛍光を消光するHg2+の検出技術を提供する。図9は、(C)高親和性好金属性Hg2+−Au+結合の結果として生ずるAu−NCの蛍光消光に基づくHg2+センシングの略図、ならびにHg2+イオン(50mM)の(1)不在および(2)存在下でのAu−NC(20mM)についてのUV線のもとでの(A)光電子放出スペクトル(λex=470nm)および(B)写真を示すものである。この一段法は、単純であり、迅速であり、ならびに高い選択性および感度を有する。さらに、それをペーパー・テスト・ストリップとして(下に示すように)用いて、日常的なHg2+モニタリングを助長することができる。
【0067】
実施例4において説明する手順に従って、蛍光BSA−Au−NCを合成し、精製した。Hg2+イオン(50mM)をAu−NC水溶液(約20mM)に添加すると、光電子放出スペクトル(図9A)においても明らかであるように、BSA−Au−NCの赤色蛍光(図9B、1)は、数秒以内に完全に消光した(図9B、2)。このBSA−Au−NCの蛍光消光は、Hg2+とAu+の相互作用のためであった。Hg2+イオンの存在下でBSA−Au−NC溶液に強い還元剤(例えば、水素化ホウ素ナトリウム)を添加することにより、BSA−Au−NCの赤色蛍光を一部回復することができた(図9Aおよび9B、3)。理論により拘束されることを望まないが、水素化ホウ素ナトリウムは、Hg2+をHg0に還元すると考えられ、および後者Hg0は、Au+とのより弱い結合エネルギーを有するので、従って、蛍光Au−NCに対するより低い消光効率を有すると考えられる。Hgの酸化状態を、X線光電子分光法(XPS)によって確認した(図10)。具体的には、図10は、(A)BSA−Au−NCにより封鎖されたHgイオンおよび(B)NaBH4によって還元された封鎖HgイオンについてのXPS Hg 4fスペクトルを示すものである。
【0068】
BSA−Au−NC溶液へのHg2+イオンの添加は、BSA−Au−NCのサイズに対して殆ど影響を有さず(図11)、これにより、蛍光消光に対するBSA−Au−NC凝集の影響は排除された。図11は、約0.8nmのクラスタサイズを示す、Hg2+イオンの存在下でのBSA−Au−NCの代表TEM画像を示すものである。さらに、調製したそのままのBSA−Au−NCの凝集は、BSA−Au−NCの蛍光に対して殆ど影響を及ぼさない(図12)。図12は、(A)1−エチル−3−[3−ジメチルアミノプロピル]カルボジイミド(EDC)法によりポリスチレンビーズ(1mm)に結合させたBSA−Au−NCの略図、および(B)ポリスチレン−BSA−Au−NCの代表蛍光画像を示すものである。
【0069】
Hg2+−Au+相互作用の高い特異性が、他の環境関連金属イオンよりHg2+の検出に対するこの方法の優れた選択性をもたらした。図13Aは、BSA−Au−NCの蛍光が、50MのAg+、Cu2+、Zn2+、Mg2+、K+、Na+、Ni2+、Mn2+、Fe3+、Cd2+、Pt4+、Pd2+、Co2+、Pb2+およびCa2+イオンによって消光されなかったことを示すものである。Hg2+イオンだけが、BSA−Au−NC蛍光のほぼ100%消光をもたらした(図13B)。この検出選択性を裸眼で見えるようにすることができた(図13B)。具体的には、図13は、50mMの様々な金属イオンの存在下でのAu−NC水溶液(20mM)についての(A)UV線のもとでの写真、および(B)λex=470nmでの相対蛍光(I/I0)を示すものである。
【0070】
加えて、調製したそのままのAu−NCは、様々なアニオン(例えば、Cl−、NO3−、SO42−、およびPO43−)および緩衝剤(例えば、2−(4−(2−ヒドロキシエチル)−1−ピペラジニル)エタンスルホン酸(HEPES))に対して強く、そのため、この方法は様々な環境からのサンプルの試験に適する。Hg2+とAu+の強い結合エネルギーのため、この方法は高感度でもある。理論的には、NC表面の1個のAu+イオンとの相互作用により1個のHg2+によってBSA−Au−NCの蛍光を消光することができるだろう。このアッセイの感度を評価するために、異なる濃度(0.05〜100nM)のHg2+を、20nMのAu−NCを含有する一連の溶液に添加した。図14に示すように、BSA−Au−NCの蛍光は、Hg2+濃度の上昇に伴って低下された。Hg2+に対するBSA−Au−NCの蛍光強度は、1〜20nMのHg2+濃度範囲にわたって直線的に低下した。具体的には、図14は、(A)異なるHg2+濃度の存在下でのBSA−Au−NC(20nM)の光電子放出スペクトル(λex=470nm)、および(B)Hg2+濃度の関数としてのBSA−Au−NCの相対蛍光(I/I0)を示すものである。図14Cは、1〜20nMのHg2+についての線形検出範囲を示すものである。3のシグナル対ノイズ比でのHg2+についての検出限界(limit of detection:LOD)は、0.5nM(0.1ppb)と推定され、これは、アメリカ合衆国環境保護庁(United States Environmental Protection Agency:EPA)によって認可された飲料水中の水銀の最大レベル(2.0ppb)よりはるかに低かった。
【0071】
金ナノクラスタを使用するHg+2の検出をペーパー・テスト・ストリップ・システムに拡大した。BSA−Au−NCをニトロセルロースストリップ上に分散させた。それらはBSA足場によって封入され、ニトロセルロース膜に捕捉されるだろう。結合していないBSA−Au−NCは水ですすぎ落した。Hg2+検出に対するこのペーパー・テスト・ストリップ・システムの選択性を、50mMの濃度の様々な金属イオンの溶液にそれらのテストストリップを浸漬することによって評価した。Hg2+イオン溶液に浸漬したテストストリップだけは、UV線のもとでの色が(ニトロセルロース膜のバックグラウンドカラーである)弱い緑色であった(図15A)。具体的には、図15Aは、BSA−Au−NCを有するテストストリップの、それらのテストストリップを50mMの様々な金属イオンの溶液に浸漬した後の、UV線のもとでの写真を示すものである。すべての他のテストストリップは、BSA−Au−NCに付随する強い赤色蛍光を放出した。前記テストストリップは、図15Bに示すように、様々な濃度のHg2+イオン溶液に浸漬した後、異なる色(緑色から紫色まで)も示した(2mM(濃緑色)、200nM(紫色)、20nM(紫−桃色)、および2nM(桃色))。具体的には、図15Bは、Hg2+の溶液に浸漬したテストストリップの(UV線のもとでの)写真を示すものである。このように、それらを使用して、視覚的にHg2+イオン濃度を迅速に推定することができた。
【0072】
この実施例は、非限定的な実施形態に従って、水性媒質中の蛍光BSA−Au−NCを使用して非常に高い選択性および感度でHg2+イオンを検出する新規の簡単な方法を例証するものである。このセンシングメカニズムは、BSA−Au−NCの蛍光を有効に消光する高親和性好金属性Hg2+−Au+相互作用に基づくものであった。BSA−Au−NCは、他の金属イオンよりHg2+に対する著しく高い選択性を示し、0.5nMほども低い濃度のHg2+を検出した。このプロセスは、グリーンケミストリーを伴うので注目に値し、そしてそれをHg2+イオンの迅速な日常的モニタリングのための単純なペーパー・テスト・ストリップ・システムとして開発することができた。
【0073】
(実施例4)
以下の実施例は、実施例3において調製し、使用した金ナノクラスタに関する追加の実験情報を説明するものである。
【0074】
すべての化学薬品は、Sigma−Aldrichから購入し、受け取ったそのままで使用した。Ultrapure Millipore water(18.2MW)を使用した。
【0075】
赤色蛍光Au−NCの合成。すべてのガラス器具を王水(HCl/HNO3 体積比=3:1)で洗浄し、エタノールおよび超純水ですすいだ。典型的な実験では、HAuCl4水溶液(5mL、10mM、37℃)をBSA溶液(5mL、50mg/mL、37℃)に激しく攪拌しながら添加した。2分後、NaOH溶液(0.5mL、1M)を導入し、激しく攪拌しながら37℃で12時間、反応を進行させた。
【0076】
(実施例5)
実施例4において説明した手順を用いて、BSAの代わりにヒト血清アルブミン(human serum albumin:HSA)またはリゾチーム(LYS)を使用してAu−NCを合成した。(i)BSA、(ii)HSA、または(iii)LYSを使用して合成したAu−NCの水溶液の光電子放出(λex=470nm)スペクトルを図16に示す。
【0077】
本発明の幾つかの実施形態を本明細書において説明し、例証したが、当業者は、本明細書に記載する機能を果たすための、ならびに/または本明細書に記載する結果および/もしくは1つ以上の利点の得るための、様々な他の手段および/または構造を容易に思い浮かべることができるであろう。そのような変形および/または変更のそれぞれが、本発明の範囲内であると考える。より一般的に、本明細書に記載するすべてのパラメータ、寸法、材料および立体配置が、例示を意図したものであること、ならびに実際のパラメータ、寸法、材料および/または立体配置が、本発明の教示(単数または複数)を用いる特定の用途(単数または複数)に依存するであろうということは、当業者には容易に理解されるであろう。当業者は、本明細書に記載する本発明の特定の実施形態の多くの等価物がわかるであろうし、または常用の実験以上のものを用いることなくそれを突き止めることができるであろう。従って、上述の実施形態を単に例として提供すること、ならびに添付の特許請求の範囲およびそれらと等価のものの範囲内で、本発明を、具体的に記載するおよび特許請求の範囲に記載するものとは別様に実施できることは、理解されるはずである。本発明は、本明細書に記載する個々の特徴、システム、物品、材料、キット、および/または方法それぞれに関する。加えて、2つ以上のそのような特徴、システム、物品、材料、キット、および/または方法の任意の組み合わせは、そのような特徴、システム、物品、材料、キット、および/または方法が互いに矛盾しない場合、本発明の範囲に含まれる。
【0078】
不定冠詞「a」および「an」は、本明細書および本特許請求の範囲において用いられる場合、相反する明確な指示がない限り、「少なくとも1つ」を意味すると解釈すべきである。
【0079】
「および/または」という句は、本明細書および本特許請求の範囲において用いられる場合、そのように連接されている要素、すなわち、ある場合は接続的に存在し、および他の場合は離接的に存在する要素、の「いずれかまたは両方」を意味すると解釈すべきである。相反する明確な指示がない限り、「および/または」節によって具体的に特定される要素以外の他の要素が、それらの具体的に特定される要素に関係のあるものであろうと、関係ないものであろうと、場合によっては存在することがある。従って、非限定的例として、「Aおよび/またはB」への言及は、「含む」などの状況に応じて変更可能な言葉と共に用いられるとき、1つの実施形態ではBなしのA(場合によってはB以外の他の要素を含む);別の実施形態ではAなしのB(場合によってはA以外の他の要素を含む);さらに別の実施形態ではAとBの両方(場合によっては他の要素を含む)、などを指すことがある。
【0080】
ここで本明細書においておよび本特許請求の範囲において用いられる場合、「または」は、上で定義した「および/または」と同じ意味を有すると解釈すべきである。例えば、リスト内の項目を分けるとき、「または」または「および/または」は、包括的である、すなわち、多数の要素または要素のリストのうちの、1つより多くも含むが、少なくとも1つ、および、場合によっては、リストにない追加の項目の包含、と解釈するものとする。「の1つだけ」もしくは「の正確に1つ」または特許請求の範囲で用いられるときの「から成る」などの、そうでないと明確に示す用語だけが、多数の要素または要素のリストのうちの正確に1つの要素の包含を指すだろう。一般に、ここで用いられる場合の用語「または」は、排他性の用語、例えば「いずれか」、「の1つ」、「の1つだけ」、または「の正確に1つ」が先行するとき、排他的選択肢(すなわち、「両方ではなく、一方または他方」)を示すともっぱら解釈するものとする。特許請求の範囲において用いられているときの「から本質的に成る」は、特許法の分野で用いられているような、その通常の意味を有するものとする。
【0081】
ここで本明細書においておよび本特許請求の範囲において用いられる場合、1つ以上の要素のリストに関しての、「少なくとも1つの」という句は、その要素リスト内の任意の1つ以上の要素から選択される少なくとも1つの要素を意味するが、その要素リスト内に具体的にリストされているそれぞれのおよびすべての要素の少なくとも1つを含むとは限らず、およびその要素リスト内の要素の任意の組み合わせを除外しないと解釈すべきである。この定義は、「少なくとも1つの」という句が指す要素のリスト内の具体的に特定される要素以外の要素が、それらの具体的に特定される要素に関係のあるものであろうと、関係ないものであろうと、場合によっては存在することがあることも許容する。従って、非限定的例として、「AおよびBの少なくとも1つ」(言い換えると、「AまたはBの少なくとも1つ」、言い換えると「Aおよび/またはBの少なくとも1つ」)は、1つの実施形態では、Bが存在しない、場合によっては「1つより多くの」を含む少なくとも1つのA(および場合によってはB以外の要素を含む);別の実施形態では、Aが存在しない、場合によっては「1つより多くの」を含む少なくとも1つのB(および場合によっては、A以外の要素を含む);さらに別の実施形態では、場合によっては「1つより多くの」を含む少なくとも1つのAおよび、場合によっては「1つより多くの」を含む少なくとも1つのB(および場合によっては、他の要素を含む)、などを指すことがある。
【0082】
本特許請求の範囲において、ならびに上の本明細書において、すべての移行句、例えば、「含む」、「挙げられる」、「担持する」、「有する」、「含有する」、「伴う」、「保持する」、およびこれらに類するものは、状況に応じて変更可能である、すなわち、含むがそれらに限定されないことを意味すると解釈すべきである。「から成る」および「から本質的に成る」という移行句だけは、それぞれ、United States Patent Office Manual of Patent Examining Procedures,Section 2111.03に示されているように、排他的または半排他的移行句であるものとする。
【技術分野】
【0001】
関連出願
本出願は、同時係属中の2008年8月5日に出願された米国仮特許出願第61/129,994号に対して、米国特許法§119(e)の下で、優先権の主張をする。この仮特許出願の内容は本明細書に参照として援用される。
【0002】
発明の分野
本発明は、一般に金ナノクラスタ、および特に蛍光金ナノクラスタに関する。本金ナノクラスタは、例えばタンパク質または安定剤で、安定させることができる。場合により、本金ナノクラスタは、サンプル中の第二水銀イオンの存在、不在、および/または濃度を判定するための方法または物品に使用することができる。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
貴金属ナノクラスタ(nanocluster:NC)は、概して、数個から数十個の金属原子から成り、一般に1nm未満のサイズである。金属ナノクラスタ中の自由電子の空間拘束によって、個別のおよびサイズを合せることができる電子遷移を生じさせることができ、その結果、発光および固有荷電特性などの分子様特性をもたらすことができる。寸法が大きく(例えば、おおよそ3から100nm)、毒性金属種(例えば、カドミウム、鉛)を含有することがある半導体量子ドット(quantum dots:QDs)とは対照的に、貴金属ナノクラスタは、それらの超微細サイズおよび非毒性のため、様々な用途(例えば、センシング)にとって魅力的である。多くの用途で、例えば第二水銀イオンの検出に、使用することができるだろう、赤外線または近赤外線を放出する蛍光金ナノクラスタを合成する方法および技術の開発は、興味深い。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
第二水銀イオン(Hg2+)の日常的検出は、環境および人間の健康に対するその有害作用のため、水生生態系での環境モニタリングに重要である。過去数年間に、第二水銀イオンの検出用の幾つかの光学センサシステムが、小有機分子(発蛍光団または発色団)、生体分子(タンパク質、抗体、オレゴヌクレオチド、DNA酵素など)、および様々な材料(高分子材料または無機材料)に基づいて開発された。しかし、これらのシステムの多くは、単純性、感度、選択性に関して制約があり、および/または実際の用途が限定される(例えば、水生生態系に不適合)。
【0005】
従って、改善された方法および材料が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
発明の要旨
一部の実施形態において、本発明は、組成物を提供する。第一の実施形態において、組成物は、複数の金ナノクラスタと、タンパク質または安定剤とを含み、この場合の金ナノクラスタは、少なくとも1%の量子収率で約630nmと約700nmの間の波長で蛍光を放出することができる。
【0007】
一部の実施形態において、本発明は、方法を提供する。第一の実施形態によると、複数の金ナノクラスタを形成するための方法は、金原子前駆体の複数の分子とタンパク質の複数の分子とを含む反応混合物を形成する工程(この場合、金原子前駆体の分子のタンパク質の分子に対する比率は、少なくとも約5:1である)、前記反応混合物のpHを約11より大きくなるように調整する工程、および前記反応混合物を適する温度で十分な時間維持して、少なくとも1つのタンパク質分子によって安定化された複数の金ナノクラスタを形成する工程を含み、この場合の金ナノクラスタは、約2nm未満の平均直径を有する。
【0008】
もう1つの実施形態において、第二水銀イオンを検出する方法は、複数の金ナノクラスタとタンパク質または安定剤とを含む組成物を生じさせる工程、第二水銀イオンを含有する疑いのあるサンプルに前記組成物を曝露する工程、および前記サンプルが第二水銀イオンを含むかどうかを判定する工程を含む。さらにもう1つの実施形態において、第二水銀イオンを検出する方法は、複数の金ナノクラスタ(該金ナノクラスタは、少なくとも1%の量子収率で約630nmと約700nmの間の波長で第一の蛍光強度を有する)を生じさせる工程、第二水銀イオンを含有する疑いのあるサンプルを前記ナノクラスタに曝露し、蛍光強度の変化を判定する工程、および前記サンプルが第二水銀イオンを含有するかどうかを前記蛍光強度の変化に基づいて判定する工程を含む。
【0009】
場合により、第二水銀イオンを検出する方法は、式Au25を有する複数の安定化金ナノクラスタを含む組成物を生じさせる工程、第二水銀イオンを含有する疑いのあるサンプルに前記組成物を曝露する工程、および前記サンプルが第二水銀イオンを含むかどうかを判定する工程を含む。
【0010】
一部の実施形態において、本発明は、物品を提供する。場合により、サンプル中の第二水銀イオンの存在または不在を判定するための物品は、基質と、該基質と会合している組成物とを含み、この場合の組成物は、金ナノクラスタとタンパク質または安定剤とを含む。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、本発明の非限定的実施形態による、ウシ血清アルブミンと会合している金ナノクラスタ(BSA−Au−NC)の形成の略図を示すものである。
【図2】図2Aは、1つの実施形態による、(上部)可視光および(下部)UV線のもとでのBSA(1)粉末および(2)水溶液、ならびにBSA−Au−NC(3)水溶液および(4)粉末の写真を示すものである。図2Bは、(i)BSAおよび(ii)BSA−Au−NCの水溶液の光学吸収(断続線)および光電子放出(実線、λex=470nm)スペクトルを示すものである。挿入図は、BSA−Au−NCについての約480nmでの弱い吸収ピークを示すものである。
【図3】図3は、非限定的実施形態による、37℃でのHAuCl4およびBSAを含む反応混合物についての光電子放出スペクトル(λex=470nm)の時間発展を示すものである。
【図4】図4Aは、(iii)BSA−Au−NC中のAu 4fのXPSスペクトル、ならびに図4Bは、(iv)BSAおよび(v)BSA−Au−NCのMALDI−TOF質量スペクトルを示すものである。図4Cは、非限定的実施形態による、空気中でのBSA−Au−NC粉末のTGA分析を示すものである。
【図5】図5は、BSA−Au−NCの代表TEM画像を示すものである。
【図6】図6は、非限定的実施形態による、(i、または黒色)BSAおよび(ii、または灰色)BSA−Au−NCの(A)DLSヒストグラム、(B)フーリエ変換赤外(Fourier−transform infrared:FTIR)スペクトル、(C)ゼータ電位の結果、ならびに(D)遠UV円偏光二色性(circular dichroism:CD)スペクトルを示すものである。(A)中の挿入図は、(ii)BSA(FITC色素で標識したもの)および(i)BSA−Au−NCの(UV線下での)電気泳動データを示すものである。
【図7】図7は、(0)BSA、(1)最適化条件下で合成したBSA−Au−NC、(2)NaBH4を用いて合成したBSA−Au−NC、(3)NaOHなしで合成したBSA−Au−NC、(4)100℃で合成したBSA−Au−NC、および(5)低BSA濃度で合成したBSA−Au−NCについての(A)可視光および(B)紫外線のもとでの写真、(C)光学吸収スペクトル、ならびに(D)光電子放出スペクトル(λex=470nm)を示すものである。
【図8】図8は、NaOHなしで合成したBSA−Au−NCの代表TEM画像を示すものである。
【図9】図9は、(A)光電子放出スペクトル(λex=470nm)、ならびに(B)Hg2+イオン(50mM)の(1)不在および(2)存在下でのBSA−Au−NC(20mM)についてのUV線のもとでの写真、ならびに(C)BSA−Au−NCの蛍光消光に基づくHg2+センシングの略図を示すものである。
【図10】図10は、(A)BSA−Au−NCにより封鎖されたHgイオンおよび(B)NaBH4によって還元された封鎖HgイオンについてのXPS Hg 4fスペクトルを示すものである。
【図11】図11は、Hg2+イオンの存在下でのBSA−Au−NCの代表TEM画像を示すものである。
【図12】図12は、(A)ポリスチレンビーズに結合させたBSA−Au−NCの略図、および(B)ポリスチレンビーズに結合させたBSA−Au−NCの代表蛍光画像を示すものである。
【図13】図13は、50mMの様々な金属イオンの存在下でのBSA−Au−NC水溶液(20mM)についての(A)UV線のもとでの写真、および(B)λex=470nmでの相対蛍光(I/I0)を示すものである。
【図14】図14Aは、異なるHg2+濃度の存在下でのBSA−Au−NC(20nM)の光電子放出スペクトル(λex=470nm)、および図14Aは、Hg2+濃度の関数としてのBSA−Au−NCの相対蛍光(I/I0)を示すものである。図14Cは、1〜20nMのHg2+についての線形検出範囲を示すものである。
【図15】図15Aは、BSA−Au−NCを有するテストストリップの、該テストストリップを50mMの様々な金属イオンの溶液に浸漬した後の、UV線のもとでの写真を示すものである。図15Bは、Hg2+の溶液に浸漬したテストストリップの(UV線のもとでの)写真を示すものである。
【図16】図16は、(i)BSA、(ii)ヒト血清アルブミンおよび(iii)リゾチームを使用して合成したAu−NCの水溶液の光電子放出(λex=470nm)スペクトルを示すものである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
詳細な説明
これらの添付の図面に関連して考えれば、以下の詳細な説明から本発明の他の態様、実施形態および特徴が明らかになるであろう。これらの添付の図は、略図であり、正確な尺度で描くことを意図したものではない。当業者が本発明を理解できるようにするために図示が必要でない場合には、わかりやすさのために、すべての図においてすべての成分の名を表示しておらず、本発明の各実施形態のすべての成分の名を表示してもいない。参照により本明細書に援用されているすべての特許出願および特許は、それら全体が参照により援用されている。矛盾する場合には、定義を含めて本明細書が支配することとなる。
【0013】
本発明は、一般に、金ナノクラスタを含む方法、組成物および物品に関する。場合により、本金ナノクラスタは、蛍光性であり、および高い量子収率で赤色エネルギーを放出する。本金ナノクラスタは、例えば本明細書に記載するようなタンパク質または安定剤によって、安定させることができる。本発明の一部の態様は、例えば水銀の検出のための、本金ナノクラスタを含む用途に関する。
【0014】
一部の実施形態において、金ナノクラスタは、複数の金原子を含む。用語「ナノクラスタ」は、本明細書において用いられる場合、当該技術分野におけるその通常の意味が与えられたものであり、数個から数十個の金属原子を含むクラスタを指す。場合により、ナノクラスタは、ほぼ約2個と約30個の間の会合した金原子を含むことがある。特別な場合、ナノクラスタは、約25個の金原子を含む。当業者は、ナノクラスタが含む金属原子の近似数を決定する方法(例えば、質量分光法)を知っているであろう。場合により、ナノクラスタは、ゼロより高い酸化状態の金原子(例えば、Au+、Au+3)を少なくとも1個含むことがある。このゼロより高い酸化状態の少なくとも1個の金原子の存在は、本明細書に記載するような第二水銀イオンの検出のための金ナノクラスタの用途において、重要な特徴であり得る。
【0015】
一部の実施形態において、本発明の金ナノクラスタは、発光性であり得る。発光材料は、特定量の電磁放射線を吸収して、その材料に励起状態構造を実現させるおよび場合により放射線を放出させることができる材料を指す。放出される放射線が、発光であり得、この場合、「発光」は、紫外線または可視放射の放出と定義する。発光の特定のタイプとして、可視放射の吸収と放出の間の時間間隔が10−12から10−7秒にわたる「蛍光」が挙げられる。場合により、光源への露光により、本発明の金ナノクラスタは蛍光エネルギーを放出することができる。当業者に公知の方法を用いてその放出蛍光エネルギーを検出することができる。場合により、その放出蛍光エネルギーの強度および/または波長がサンプルについての情報を与え、それを、本明細書において説明するように分析することができる。
【0016】
一部の実施形態において、金ナノクラスタは、約700nmと約630nmの間、約680nmと約640nmの間、約675nmと約650nmの間、または約640nm、約650nm、約660nm、約670nm、約680nm、約690nmもしくは日光の波長で、光を放出するおよび/またはλmax放出(例えば、最大放出の波長)を有することがある。すなわち、一部の実施形態において、前記金ナノクラスタは、UV線のもとで赤色エネルギーを放出するおよび/または赤色に見えることがある。しかし、場合により、前記ナノクラスタは、近IR領域(例えば、約700nmと約1400nmの間)または他の可視光波長領域(例えば、約400nmと約630nmの間)で光を放出するおよび/またはλmax放出を有することがある。当業者は、複数の金ナノクラスタの放出光および/またはλmax放出を判定するための方法および技術を知っているであろう。例えば、蛍光分光法を用いて、金ナノクラスタを分析することができる。そのような分析では、金ナノクラスタを光源(例えば、紫外線)に露光し、この光が一定の分子内の電子を励起させ、その結果、より低いエネルギーの光(例えば、可視光)が放出される。
【0017】
一部の実施形態では、金ナノクラスタを含む組成物の量子収率を決定することができる。量子収率は、その組成物によって吸収される光子の、その組成物によって蛍光により放出される光子に対する比率である。一部の実施形態において、金ナノクラスタを含む組成物は、少なくとも約1%、少なくとも約2%、少なくとも約3%、少なくとも約4%、少なくとも約5%、少なくとも約6%、少なくとも約7%、少なくとも約8%、少なくとも約9%、少なくとも約10%、またはそれ以上の量子収率で、エネルギーを放出するおよび/またはλmax放出を有することがある。場合により、量子収率は、約4%、約5%、約6%、約7%、約8%、約9%、約10%、または約3%と約10%の間、約4%と約9%の間、もしくは約5%と約8%の間である。当業者は、組成物の量子収率を決定する方法を知っているであろう。一部の実施形態において、前記金ナノクラスタは、少なくとも1%の量子収率で約630nmと約700nmの間の波長で、または本明細書に記載する値の任意の他の組み合わせで、蛍光を放出する(またはλmax放出を有する)ことがある。
【0018】
場合により、ナノクラスタは、約0.1nmと約2nmの間、約0.1nmと約1nmの間、約0.1nmと約0.5nmの間、約0.5nmと約1nmの間、またはこれらに類するnmの平均直径を有することがある。一部の事例では、前記ナノクラスタは、約2nm未満、約1.5nm未満、約1nm未満、約0.5nm未満、約0.1nm未満、またはこれらに類するnmの平均直径を有することがある。ナノクラスタ集団の「平均直径」は、本明細書において用いられる場合、そのナノクラスタの直径の算術平均である。当業者は、ナノクラスタ集団の平均直径を決定する方法および技術、例えばレーザー光散乱、動的光散乱(または光子相関分光法)、透過電子顕微検査(transmisson electron microscopy:TEM)などの使用、を知っているであろう。
【0019】
一部の実施形態において、前記ナノクラスタは、多分散であることもあり、実質的に単分散であることもあり、または単分散である(例えば、直径の均一な分布を有する)こともある。複数のナノクラスタは、該ナノクラスタが、それらの小滴の約10%、約5%、約4%、約3%、約2%、約1%、またはそれ以下より多くが該ナノクラスタ全部についての平均直径の約20%、約30%、約50%、約75%、約80%、約90%、約95%、約99%、またはそれ以上より大きいまたは小さい直径を有さないような直径の分布を有する場合、実質的に単分散である。一部の実施形態において、前記ナノクラスタは、実質的に球形である。しかし、他の実施形態において、前記ナノクラスタは、球形、三角柱、立方体、板(例えば、三角形、正方形、円形、長方形の板)、またはこれらに類するものをはじめとする様々な形状を含むことがある。
【0020】
一部の実施形態では、金ナノクラスタを、例えば、タンパク質および/または安定剤と会合させ、それによって金ナノクラスタとタンパク質および/または安定剤とを含む組成物を形成することにより、安定させることができる。場合により、前記タンパク質は、本明細書において説明するように、金ナノクラスタの形成を助長することもある。前記会合は、例えば、金ナノクラスタとタンパク質または安定剤との(例えば、タンパク質の残基と金原子またはイオンとの)少なくとも1つの相互作用の形成を含むことがある。場合により、前記相互作用は、イオン結合、共有結合(例えば、炭素−炭素、炭素−酸素、酸素−ケイ素、硫黄−硫黄、リン−窒素、炭素−窒素、金属−酸素、または他の共有結合)、水素結合(例えば、ヒドロキシル、アミン、カルボキシル、チオール、および/または同様の官能基間の水素結合)、供与結合(例えば、金属イオンと単座または多座配位子との錯化またはキレート化)、ファンデルワールス相互作用、ならびにこれらに類するものであり得る。一部の実施形態において、前記相互作用は、共有結合ではない。安定化金ナノクラスタを合成するための方法および適するタンパク質または安定剤を決定するための方法を本明細書において説明する。
【0021】
一部の実施形態において、本発明は、金ナノクラスタを合成するための方法を提供する。場合により、方法は、タンパク質と金原子前駆体とを含む反応混合物を形成する工程、その後、その反応混合物のpHを調整する工程を含む。前記反応混合物を、本明細書において説明するように、適する温度で十分な期間にわたって維持して複数の金ナノクラスタを形成することができる。形成された金ナノクラスタを、本明細書に記載するような1つ以上の特性(放出される蛍光の波長、量子収率、平均直径など)によって特性づけすることができる。
【0022】
理論により拘束されることを望まないが、タンパク質の存在が金ナノクラスタの形成を助長することもある。一例として、あるタンパク質分子は、複数の金イオンを(例えば、金イオンとチロシンなどのタンパク質に含まれる残基との会合により)封鎖し、その結果、そのタンパク質の中に複数の金イオンを捕捉することができる。このとき、そのタンパク質がそれらの金イオンを分子の金原子に還元する場合があり、および(例えば、金原子はタンパク質の中に捕捉されているため)金原子の互いの近接が金ナノクラスタを形成させる場合がある。一部の事例では、それぞれのタンパク質が、同数の金イオンと会合する可能性が高いだろうという理由で、形成される複数の金ナノクラスタは、実質的に単分散、または単分散であり得る。一部の実施形態において、少なくとも1つ(例えば、1つ、2つ、3つ、4つなど)のタンパク質分子は、金ナノクラスタの形成後にその金ナノクラスタと会合したままである(例えば、それによって、安定化金ナノクラスタを形成する)ことがある。場合により、少なくとも1つのタンパク質の少なくとも一部を、本明細書に記載するような安定剤で置き換えることができる。
【0023】
特定の例では、金原子前駆体を含む(例えば、Au(III)イオンを含む)溶液を、ウシ血清アルブミン(bovin serum albumin:BSA)を含む溶液に添加して、反応混合物を形成することがある。この実施形態において、BSA分子は、金イオンを封鎖し、それらを捕捉することができる(例えば、図1参照)。反応混合物のpHを11より高くなるように調整することにより、BSA分子の還元能力を活性化することができる。捕捉された金イオンを還元して金ナノクラスタを形成することができ、この場合の金ナノクラスタは、BSA分子によって安定化されている。
【0024】
場合により、タンパク質と金原子前駆体とを含む反応混合物を形成することがある。タンパク質の溶液を、金原子前駆体の溶液に添加することもあり、または金原子前駆体の溶液をタンパク質の溶液に添加することもある。場合により、タンパク質と金原子前駆体を固体として混合し、その後、溶剤を添加することがある。反応に干渉しない任意の適する溶剤(例えば、水)で溶液を形成することができる。前記溶液は、約0.1Mと約10Mの間、約0.5Mと約5Mの間、約0.5Mと約2Mの間、または約1M、約2M、約3M、約4M、もしくはこれらに類するMのモル濃度を有することがある。
【0025】
一部の実施形態において、金原子前駆体の分子のタンパク質の分子に対する比率は、ナノ粒子と比較してナノクラスタの形成を可能にする方法の重要な特徴である。理論により拘束されることを望まないが、この比率は、タンパク質分子に対する金原子前駆体分子の数および凝集に影響するため、重要な特徴であるとみなされる(例えば、表1に示す結果を参照のこと)。
【0026】
さて、金原子前駆体の分子のタンパク質の分子に対する適切な比率を決定する方法を、さらに詳細に説明しよう。一部の実施形態において、金原子前駆体分子のタンパク質の分子に対する適切な比率は、そのタンパク質中のシステインおよびチロシン残基の比率を決定することによって、決定することができる。一部の実施形態において、タンパク質に含まれるシステインおよびチロシン残基の金原子前駆体の数に対する比率は、約1:1と約50:1の間、約1:1と約25:1の間、約5:1と約15:1の間、またはそれらの中の任意の範囲である。特定の実施形態において、前記比率は、約10:1である。システインおよびチロシン残基の比率から、金原子前駆体の分子のタンパク質の分子に対する比率を決定することができる。例えば、システインおよびチロシン残基の金原子前駆体に対する比率が10:1になるように選択し、そのタンパク質が50個のシステインおよびチロシン残基を含む場合、金原子前駆体のタンパク質に対する分子の比率は、約5:1である。場合により、金原子前駆体の分子のタンパク質の分子に対する比率は、少なくとも約3:1、少なくとも約5:1、少なくとも約6:1、少なくとも約7:1、少なくとも約8:1、少なくとも約9:1、少なくとも約10:1、少なくとも約12:1、少なくとも約15:1、少なくとも約20:1またはそれ以上である。場合により、前記比率は、約5:1と約20:1の間、約8:1と約15:1の間、およびこれらに類するものである。
【0027】
本発明での使用に適するタンパク質としては、複数(例えば、少なくとも約5、10、15、20、30、40、50など)のシステインおよび/またはチロシン残基を含むタンパク質が挙げられる。タンパク質の非限定的な例としては、ウシ血清アルブミン(BSA)、ヒト血清アルブミン、リゾチーム、およびこれらに類するものが挙げられる。
【0028】
本明細書において用いられる場合の金原子前駆体は、ゼロより高い酸化状態の金(例えば、Au+、Au+3)を含む、および(例えば、そのタンパク質によって)還元されて金原子を形成することができる、前駆物質を指す。当業者は、適切な金原子前駆体、例えばHAuCl4、AuCl3およびAuBr3、を知っているであろう。場合により、金原子前駆体は、水和されている(例えば、水を含む)ことがある。
【0029】
金原子前駆体とタンパク質とを含む反応混合物を形成した後、その反応混合物のpHを、例えばその反応混合物への塩基の添加によって、調整することができる。前記塩基は、前記反応混合物の形成の直後、または約1分、約2分、約3分、約5分、約10分、もしくはこれらに類する時間の後、添加することができる。前記塩基は、任意の適する塩基(例えば、NaOH)であってよく、ならびに前記塩基を任意の適切なモル濃度(例えば、約0.1M、約0.5M、約1M、約2M)および量で添加して、望みどおりにpHを調整することができる。場合により、添加する塩基の量は、前記反応混合物のpHが少なくとも約10.5、少なくとも約11、少なくとも約11.5、少なくとも約12、少なくとも約13、またはそれ以上になるように調整されるような量であり得る。場合により、前記反応混合物のpHは、約11と約14の間、約12と約14の間、またはこれらに類するものであり得る。理論により拘束されることを望まないが、一部の実施形態において、前記反応混合物のpHは、本発明の重要な特徴であり得る。前記反応混合物のpHは、タンパク質に含まれる残基(例えば、アスパラギン酸およびグルタミン酸残基中のカルボキシル基、システイン中のチオール基、リシン中のアミン基、など)のプロトン化または脱プロトン化に影響を及ぼし、その結果、そのタンパク質の構造および反応性に影響を及ぼすからである(例えば、表1に示す結果を参照のこと)。
【0030】
選択したレベルに前記反応混合物のpHを調整した後、その反応混合物を適する温度で十分な期間にわたって維持して、複数の金ナノクラスタを形成することができる。前記反応混合物をこの期間の間、かき混ぜる(例えば、攪拌する、振盪する)こともある。当業者は、適切な反応温度および反応時間を決めることができるであろう。例えば、タンパク質の分解または失活が起こらないように、その温度を選択することができる。もう1つの例として、妥当な時間量の範囲内で(例えば、約48時間未満、約24時間未満、約12時間未満など)反応が進行するように、反応の温度を選択することができる。場合により、制限反応物の少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、少なくとも約99%、またはそれ以上が消費されるまで、反応を行うことができる。当業者に公知の方法および/または技術(例えば、光電子放出スペクトル、核磁気共鳴など)を用いて、その反応の進行を判定することができる。
【0031】
一部の実施形態では、前記反応混合物を周囲温度で、周囲温度より上で、または周囲温度より下で維持することがある。場合により、前記反応は、周囲温度より高い温度、例えば、約30℃で、約35℃で、約37℃で、約40℃で、約50℃で、約60℃で、約80℃で、約100℃で、またはそれ以上で維持することがある。場合により、前記反応を約30℃と約40℃の間、約25℃と約40℃の間、約25℃と約50℃の間、約30℃と約100℃の間、またはこれらに類する温度で行うことがある。
【0032】
前記反応混合物を適する温度で、約0時間と48時間の間、約2時間と約24時間の間、約4時間と約18時間の間、約8時間と約12時間の間、または約1時間、約2時間、約4時間、約8時間、約12時間、約18時間、約24時間、約36時間、または約48時間、またはそれ以上維持することがある。
【0033】
一部の実施形態において、少なくとも1つのタンパク質分子と会合している金ナノクラスタの形成後、前記少なくとも1つのタンパク質分子のうちの1つ以上を安定剤で置き換えることができる。場合により、前記タンパク質分子の本質的にすべてを安定剤によって置き換えることができる。一部の実施形態では、安定剤の複数の分子を、タンパク質安定化金ナノクラスタを含む溶液に供給することがあり、この場合、前記安定剤は、前記タンパク質と比較して前記金ナノクラスタに対するほうが大きな親和性を有する。それ故、それぞれの金ナノクラスタと会合しているタンパク質分子の少なくとも一部分を、少なくとも1つの安定剤の分子によって置き換えることができる。場合により、前記少なくとも1つの安定剤は、タンパク質の置換後、金ナノクラスタと会合したままであることがある。例えば、一部の実施形態では、システインまたはグルタチオンなどの化学的キャッピング剤を使用して、タンパク質分子を抽出することができる。安定剤と金ナノクラスタの会合後、安定剤によって安定している金ナノクラスタからタンパク質分子を、例えば濾過、洗浄および/または遠心分離によって、分離することができる。
【0034】
前記ナノクラスタを任意の期間保管することができ、または本明細書において論じる用途のうちの1つに直ちに使用することができる。前記ナノクラスタは、保管1ヶ月につき10%以下の機能喪失、または保管1ヶ月につき5%以下、またはさらに2%、の機能喪失で、少なくとも約1日、少なくとも約2日、少なくとも約5日、少なくとも約10日、少なくとも約1ヶ月、少なくとも約3ヶ月、少なくとも約6ヶ月、または少なくとも約1年間、保管することができる。本明細書に記載するようなナノクラスタは、様々な条件下で保管することができる。一部の事例において、前記ナノクラスタは、周囲条件で、および/または空気雰囲気下で保管されることがある。他の事例において、前記ナノクラスタは、真空下で保管されることがある。さらに他の事例において、前記ナノクラスタは、凍結乾燥されることがある。
【0035】
本明細書に記載するような金ナノクラスタは、様々なシステム/装置に含めることができ、および/または特定用途のための様々な方法に使用することができる。例えば、ターゲット環境中の化学種を定性的におよび/または定量的に判定するために使用することができる電気または化学センシング装置において前記金ナノクラスタを使用することができる。すなわち、前記金ナノクラスタは、前記化学種と相互作用できるので、それらの金ナノクラスタの特性の変化を判定して、サンプル中に存在する種の存在、不在および/または量を判定することができる。もう1つの例として、前記金ナノクラスタを触媒におよび/または生物学的用途において用いることもできる。
【0036】
一部の実施形態において、本発明は、サンプル中の第二水銀イオン(Hg+2)を定性的におよび/または定量的に判定するための方法および/またはシステムを提供する。水銀は、広範囲に及ぶ汚染物質であり、Hg+2は、高い細胞毒性を有する腐食性および発癌性物質である。Hg+2の検出方法は、環境サンプルの分析に特に有用である。場合により、第二水銀イオンを含有する疑いのあるサンプルへの曝露前および後に、複数の金ナノクラスタの特性(例えば、蛍光)を判定することがある。その特性の変化を判定し、それによって、その分析物がそのサンプル中に存在するかどうかを定量的に(例えば、校正曲線との比較により)または定性的に(例えば、その特性の増加もしくは減少により)判定することができる。
【0037】
一部の実施形態では、水銀イオン(Hg+2)の存在を、複数の金ナノクラスタの特性のオン/オフ分析により定量的に判定することができる。場合により、前記検出メカニズムは、水銀イオンが不在である場合に複数の金ナノクラスタが蛍光放出(または他の測定可能な特性)を生じさせることができる、「ターンオフ」検出メカニズムであることもある。第二水銀イオンが存在する場合、複数の金ナノクラスタは、少なくとも1つの第二水銀イオンと相互作用することができるので、実質的に低減された蛍光放出(もしくは他の測定可能な特性)が観察されるまたは蛍光放出(もしくは他の測定可能な特性)が観察されない消光状態すなわち暗い状態が発生し得る。
【0038】
一部の実施形態において、第二水銀イオンを検出する方法は、複数の金ナノクラスタを(例えば、本明細書に記載するように)生じさせる工程、および第一の蛍光強度(または他の測定可能な特性)を判定する工程を含む。その後、前記複数の金ナノクラスタを、第二水銀イオンを含有するまたは含有する疑いのあるサンプルに曝露することができ、第二の蛍光強度を判定することができる。そのサンプル中の第二水銀イオンの存在、不在、および/または濃度を、第一と第二の蛍光(または他の測定可能な特性)間の差を判定することによって、判定することができる。一部の実施形態では、第一と第二の蛍光強度間の差を相対蛍光(例えば、第一の蛍光強度で割った第二の蛍光強度)として判定することができる。その相対蛍光を校正曲線と比較して、サンプル中の第二水銀イオンの濃度を決定することができる。
【0039】
当業者は、材料(例えば、金ナノクラスタを含む組成物)の蛍光を判定するための方法および技術を知っているであろう。一部の実施形態では、第一の波長の光によって材料を励起させることができ、その材料は、より低いエネルギーの第二の波長(例えば、より長い波長)のエネルギーを放出することができる。場合により、本明細書に記載するような材料および組成物を、約300nm未満、約300nmと約500nmの間、約400nmと約500nmの間、または約420nm、約430nm、約440nm、約450nm、約460nm、約470nm、約480nm、約490nm、またはこれらに類するnmの波長を有する光に露光することがある。特定の実施形態において、前記光は、約470nmの波長を有する。前記組成物は、本明細書に記載するような(例えば、約630nmと約700nmの間の)波長を有するエネルギーを放出することができる。
【0040】
場合により、前記方法は、複数の金ナノクラスタとタンパク質および/または安定剤とを含む組成物を生じさせる工程、第二水銀イオンを含有する疑いのあるサンプルに前記組成物を曝露する工程、および前記サンプルが第二水銀イオンを含むかどうかを(例えば、前記組成物の少なくとも1つの特性の変化を判定することにより)判定する工程を含むことがある。
【0041】
本発明の方法は、低濃度レベルでのサンプル中の第二水銀イオンの検出を可能にすることができる。最近の理論研究は、閉殻金属原子間の分散力が特異的であり、強力であり、および特に、これらの相互作用がHg2+(4f145d10)およびAu+(4f145d10)などの重イオンを伴うとき、相対論的効果によって大いに拡大されることを示唆している。理論により拘束されることを望まないが、本明細書に記載するようなAu−NCの表面は少量のAu+を含み、それがHg2+との強い特異的な相互作用を可能にし、その結果、低い検出限界をもたらすと考えられる。一部の実施形態において、本明細書に記載する方法は、約50nM未満、約25nM未満、約10nM未満、約5nM未満、約1nM未満、約0.5nM未満、約0.1nM未満、または約10nM、約5nM、約1nM、約0.5nM、約0.1nM、もしくはこれらに類するnMの、サンプル中の第二水銀イオンの検出限界を有することができる。
【0042】
場合により、第二水銀イオンを検出するための方法および物品は、第二水銀イオンに特異的であることがある。すなわち、前記方法および物品は、他の金属イオン、例えば、Ag+、Cu2+、Zn2+、Mg2+、K+、Na+、Ni2+、Mn2+、Fe3+、Cd2+、Pt4+、Pd2+、Co2+、Pb2+、およびCa2+イオンより第二水銀イオンを特異的に検出することができる。この特異性は、サンプルを環境源から採取する場合(例えば、サンプルが他の金属イオンを含有する可能性が高い場合)、有利である。場合により、Hg+2以外の少なくとも金属イオンへの曝露に基づく前記金ナノクラスタまたは組成物の蛍光強度(または他の特性)の変化は、約30%未満、約20%未満、約15%未満、約10%未満、約5%未満、約3%未満、約1%未満などである。加えて、第二水銀イオンを検出するための方法および物品は、サンプル中に含有されることがある様々なアニオン(例えば、Cl−、NO3−、SO42−、PO43−、および緩衝剤(例えば、2−(4−(2−ヒドロキシエチル)−1−ピペラジニル)エタンスルホン酸))に対して強いだろう。
【0043】
一部の実施形態では、サンプル中の第二水銀イオンの存在、不在、および/または濃度を判定するための物品を提供することができる。場合により、前記物品は、基質および組成物を含むことがあり、前記組成物は前記基質と会合している。前記組成物は、金ナノクラスタと、タンパク質または安定剤(例えば、本明細書に記載するようなもの)とを含むことがある。
【0044】
一部の実施形態において、前記物品は、第二水銀イオンを含む疑いのある溶液に曝露することができるテストストリップである場合がある。前記テストストリップは、第二水銀イオンへの曝露に基づき蛍光放出(または他の特性)の変化を有することができる組成物(例えば、金ナノクラスタとタンパク質または安定剤とを含むもの)を含むことができる。一部の実施形態において、前記蛍光放出(または他の特性)の変化によって、第二水銀イオンがサンプル(例えば、本明細書に記載するもの)中に存在するかどうかを定量的におよび/または定性的に判定することができる。前記テストストリップは、任意の適するサイズおよび/または形状(例えば、正方形、長方形、円形など)であり得る。場合により、前記テストストリップのサイズは、一般に使用される実験用ガラス器具(例えば、試験管)の口にうまく入れることができるようなサイズだろう。
【0045】
場合により、サンプル中の第二水銀イオンの存在、不在および/または濃度を判定するための少なくとも1つのテストストリップとカラー(または他の特性)リファレンスとを含むキットを提供することができる。場合により、第二水銀イオンを含有する疑いのあるまたは含有するサンプルへの曝露後にテストストリップの色を比較するために、そのカラーリファレンス上に与えられている色を用いることがある。場合により、テストストリップの蛍光色(例えば、UV線のもとで観察されるテストストリップの色)を比較するために、そのカラーリファレンスの色を用いることがある。第二水銀イオンを含有するまたは含有する疑いのあるサンプルにテストストリップを曝露した後、そのテストストリップの色をカラーリファレンスと比較して、第二水銀イオンの存在もしくは不在を判定することができ、および/またはサンプル中の第二水銀イオンの近似的濃度を判定することができる。例えば、テストストリップが定性的に機能する事例では、カラーリファレンスは、第二水銀イオンを含まないサンプルへの曝露に基づき、テストストリップの色を示すことがある。従って、サンプルへの曝露後にそのテストストリップが、カラーリファレンスとは異なる色を有する場合、そのサンプルは水銀を含む。テストストリップが定量的に機能する事例では、カラーリファレンスは、それぞれの色がサンプル中の第二水銀イオンの近似的濃度と符合する、複数の色を示すことがある。従って、サンプルへの曝露後、テストストリップの色を比較し、カラーリファレンス上の最も近い色と照合し、それによってサンプル中の第二水銀イオンの近似的濃度を示すことができる。当業者は、カラーリファレンスの適切な色(単数または複数)を決定する方法および技術(例えば、第二水銀を含むサンプルの様々な既知濃度にテストストリップを曝露することによる)を知っているであろう。前記キットは、使用のための説示をさらに含むことがある。カラーリファレンスは、テストストリップから完全に独立して提示されることもあり、またはテストストリップに付随することもある。
【0046】
前記組成物を任意の適する基質と会合させて、本発明によるテストストリップを生じさせることができる。一部の実施形態において、前記基質材料は、前記金ナノクラスタと会合しているまたは前記組成物に含まれているタンパク質または安定剤と会合することができる材料を含むことがある。基質の非限定的な例としては、セルロース系および非セルロース系材料、例えば、ニトロセルロース;紙;綿、レーヨン、麻、ジュートなどの材料から製造された天然または合成繊維、糸およびヤーン;竹繊維;酢酸セルロース;カルボキシメチル化溶剤紡糸セルロース繊維;またはこれらの組み合わせなどが挙げられる。一部の実施形態において、前記基質は、ポリマー、例えばポリエステル、ポリアミド、ポリアクリルアミド、ポリアセテートなど、またはそれらの組み合わせを含むことがある。前記基質は、多孔質である場合もあり、または無孔質である場合もある。例えば、前記組成物を前記基質の表面にコーティングすることができ、またはそれに含浸させることができる。前記基質は、軟質である場合があり、および/または硬質である場合がある。
【0047】
本発明のテストストリップを作製する際、当業者に公知の技術を用いて適する基質に組成物を塗布することができる。本発明の実施形態において、テストストリップの作製は、基質に塗布することができるコーティング可能な液体組成物を調製する工程を含む。一般に、前記液体組成物は、複数のBSA会合金ナノクラスタを溶剤に添加することによって調製する。その基質を使用前に(例えば、周囲温度で、高温で、真空下で)乾燥させることができる。一部の実施形態では、追加の成分(例えば、界面活性剤、結合剤など)が存在することがある。
【0048】
任意の適する源からサンプルを採取することができる。一部の実施形態において、前記サンプルとしては、化学的サンプル、水サンプル、抽出物、環境サンプル(例えば、環境源からのもの)、食品などを挙げることができる。一部の実施形態において、前記サンプルは、第二水銀イオンを含有するまたは含有する疑いがある場合がある。前記サンプルをその源から採取したそのままで使用することもあり、またはそのサンプルの少なくとも1つの特性を変性するように前処理することもある。前処理方法は、濾過、蒸留、濃縮、緩衝成分の不活性化、および/または試薬の添加を含む場合がある。一部の実施形態では、前記サンプルを(例えば、第二水銀イオンの濃度が高すぎて、校正曲線またはカラーリファレンスとの単純比較によって判定できない場合)希釈することもあり、または濃縮することもある。
【0049】
次の参考文献は、参照により本明細書に援用されている:Yingらによる「Protein/peptide−mediated synthesis of highly fluorescent metal nanoclusters」と題する2008年8月5日出願の米国特許仮出願番号61/129,994。
【0050】
本発明のこのおよび他の態様は、後続の実施例を考慮することによってさらに正しく理解されることであろう。この後続の実施例は、本発明のある特定の実施形態を例証するためのものであり、特許請求の範囲によって定義する本発明の範囲を制限するためのものではない。
【実施例】
【0051】
(実施例1)
以下の実施例は、本発明の一部の実施形態に従って、金ナノクラスタの合成および特性を説明するものである。
【0052】
具体的には、この実施例は、生理温度(37℃)で赤色発光(λemmax=640nm、量子収率(quantum yield:QY)約6%)を有するAu−NCの調製のための、一般的な市販タンパク質、ウシ血清アルブミン(BSA)のバイオミネラリゼーション能力に基づく、単純でワンポットの「環境にやさしい(green)」合成経路を説明するものである。この実施例では、Au(III)イオンをBSA水溶液に添加する。BSA分子は、場合により、Auイオンを封鎖し、それらを捕捉した(図1)。反応混合物のpHを約12に調整することにより、BSA分子の還元能力を活性化した;捕捉されたイオンが漸進的に還元されてBSA結合金ナノクラスタ(BSA−Au−NC)をインサイチューで形成した。調製したそのままのBSA−Au−NCは、(マトリックス支援レーザー脱離/イオン化−飛行時間型(matrix−assist laser desorption/ionization−time of flight:MALDI−TOF)質量分析から明らかなように)約25個の金原子から成り、およびBSA−Au−NCとしてBSA分子内で安定化されていた(図1)。この実施形態において、BSA−Au−NCは、水溶性であり、緩衝剤安定性であり、強酸/塩基および濃塩(1M NaCl)などの過酷な条件の溶液中でさえ安定であった。この合成法は、良好なバッチ間再現性で容易にグラム量に規模拡大することができ、調製したそのままのBSA−Au−NCを凍結乾燥後に粉末として保管することができた。この方法論の良好な生体適合性および多大な環境的/費用的優位性に加えて、Au−NC上のBSAコーティング層は機能的配位子での合成後表面改質も助長した。
【0053】
典型的な合成では、HAuCl4水溶液(5mL、10mM、37℃)をBSA溶液(5mL、50mg/mL、37℃)に激しく攪拌しながら添加した。2分経過した後、NaOH溶液(0.5mL、1M)を導入し、その混合物を37℃で12時間インキュベートした。その溶液の色が淡黄色から淡褐色に、そしてその後、濃褐色に変化した(図2A)。具体的には、図2Aは、(上部)可視光および(下部)UV線のものでのBSA(1)粉末および(2)水溶液、ならびにBSA−Au−NC(3)水溶液および(4)粉末の写真を示すものである。図2Bは、(i)BSAおよび(ii)BSA−Au−NCの水溶液の光学吸収(断続線)および光電子放出(実線、λex=470nm)スペクトルを示すものである。図2B中の挿入図は、BSA−Au−NCについての約480nmでの弱い吸収ピークを示すものである。この反応は、蛍光発生の経時的測定によって確認したところ、約12時間で完了した(図3)。具体的には、図3は、37℃でのHAuCl4およびBSAを含む反応混合物についての光電子放出スペクトル(λex=470nm)の時間発展を示すものである。
【0054】
BSA−Au−NCの濃褐色溶液は、UV線(約365nm)のもとで強い赤色蛍光を放出した(図2A、下部、3)。対照的に、対照BSA溶液は、可視光のもとでの色が薄黄色であり(図2A、上部、2)、UV線のもとで、アミノ酸残基(トリプトファン、チロシン(Tyr)およびフェニルアラニン)中の芳香族基に特有であるピークブルー蛍光を放出した(図2A、下部、2)。蛍光Au−NCは、約480nmおよび約640nmで、それぞれ、吸収および放出ピークを示した(図2B)。そのフォトルミネッセンス量子収率(QY)は、約6%であった(470nmレーザーを使用してフルオレセインで校正)。
【0055】
BSA−Au−NCの酸化状態を、X線光電子分光法(X−ray photoelectron spectroscopy:XPS)によって判定した。Au 4f7/2スペクトルにデコンボリューション処理を施して、84.0eVおよび85.1eVの結合エネルギーで中心に配置された2つの別個の成分(図4Bにおける、それぞれ、線iiおよび線i)にした。これらは、それぞれAu(0)およびAu(I)に割り当てることができるものであった。具体的には、図4は、(A)(iii)BSA−Au−NC中のAu 4fのXPSスペクトル、ならびに(B)(iv)BSAおよび(v)BSA−Au−NCのMALDI−TOF質量スペクトルを示すものである。
【0056】
チオール保護BSA−Au−NCについて前の構造研究で説明したように、Auコアの表面に存在する少量のAu(I)(約17%)は、ナノクラスタの安定化を助長した。調製したそのままのBSA−Au−NCは、BSAモノマー中の(35個のシステイン(Cys)残基からの)35個のチオール基の存在を考えると、同様の構造を有するだろう。BSA−Au−NCは、約640nmでの光電子放出ピークを有し、これは、球形ジェリウムモデルに基づくAu25クラスタの存在を示す。調製したそのままのAu−NCのサイズをMALDI−TOF質量分光法によってさらに確認した。その明確なタンパク質構造が、MALDI−TOF質量分光法での封入ナノクラスタサイズの分析を可能にした。AuCl4―を伴わないBSAのスペクトルは、BSA分子量に対応するm/z約66kDaに1つのピークを示した(図4B)。調製したそのままのBSA−Au−NCは、約5kDaのピークシフトを示し、Au−NCの25個の金原子がこの一因になると考えられた。BSA−Au−NCの熱重量(TGA)分析によっても裏付けとなる証拠が得られた(図4C)。具体的には、図4Cは、空気中でのBSA−Au−NC粉末のTGA分析を示すものである。25個の原子を有するAu−NCは、非常に安定であると報告されており、それは、閉殻と幾何学的寄与の両方を伴う最も一般的な磁性クラスタサイズに相当した。
【0057】
広いpH範囲(3〜12)の溶液中、および様々な緩衝溶液(例えば、50mMのHEPES緩衝液(pH7.65))中、および高濃度の塩(例えば、1MのNaCl)を有する溶液中のBSA−Au−NCについて、蛍光特性の明らかな差は観察されなかった。溶剤を凍結乾燥によって除去することができ、BSA−Au−NCを少なくとも2か月間、固体状態(図2A、4)で保管し、必要に応じて再分散させることができた。タンパク質との(例えば、BSA中の35個のCys残基による)Au−S結合とタンパク質の嵩高さに起因する立体保護作用との組み合わせによって、BSA−Au−NCを安定させることができた可能性もある。BSA−Au−NCの高い安定性は、インビトロおよびインビボバイオイメージング用途でのそれらの使用を大いに容易にできる。BSA分子へのAu−NC(約0.8nm)の封入(図5における代表TEM画像参照)は、BSA足場構造に対して殆ど影響を及ぼさない(図6参照)。具体的には、図6は、(i、または黒色)BSAおよび(ii、または灰色)BSA−Au−NCの(A)DLSヒストグラム、(B)フーリエ変換赤外(FTIR)スペクトル、(C)ゼータ電位の結果、ならびに(D)遠UV円偏光二色性(CD)スペクトルを示すものである。(A)中の挿入図は、(ii)BSA(FITC色素で標識したもの)および(i)BSA−Au−NCの(UV線下での)電気泳動データを示すものである。
【0058】
分子レベルでBSA分子がどのようにして蛍光Au−NCを「バイオミネラライズする」のか明らかではなかったが、幾つかの啓示的実験観察があった。理論により拘束されることを望まないが、タンパク質の担当残基による封入Auイオンのインサイチュー還元とNaOHの添加の両方が、一部の実施形態では、BSA−Au−NCの形成にとって重要であった。外来還元剤、水素化ホウ素ナトリウム(NaBH4)、を前記BSA−Au−NC合成と同じ反応溶液に添加することによって、対照実験を行った。結果として生ずるBSA−Au−NCは、非常に弱い赤色蛍光を放出した(QY約0.1%、表1および図7)。具体的には、図7は、(0)BSA、(1)最適化条件下で合成したBSA−Au−NC、(2)NaBH4を用いて合成したBSA−Au−NC、(3)NaOHなしで合成したBSA−Au−NC、(4)100℃で合成したBSA−Au−NC、および(5)低BSA濃度(2.5mg/mL)で合成したBSA−Au−NCについての(A)可視光および(B)紫外線のもとでの写真、(C)光学吸収スペクトル、ならびに(D)光電子放出スペクトル(λex=470nm)を示すものである。最近の研究により、TyrまたはTyr残基を含有する特注ペプチドが、そのフェノール基によりAu(III)またはAg(I)イオンを還元できることは証明されており;それらの還元能力を、その反応pHをTyrのpKa(約10)より上に調整することによって大きく向上させることができる。NaOHの添加も必要であり、これが無いと、不規則または板様形態を有する大きなナノ粒子(>20nm)しか得られず(NaOHなしで合成したBSA−Au−NCの代表TEM画像を示す図8を参照のこと)、これらのナノ粒子は、蛍光を示さなかった。反応温度は、高いQYを有する蛍光Au−NCの合成における重要な考慮事項であった。異なる温度(25、37および100℃)で反応を行い、25℃ではAu−NCが非常にゆっくりと形成され;12時間の反応後でさえクラスタは検出されなかった。生理温度(37℃)での反応は、妥当な還元動態を示した。反応は12時間以内に完了し、高いQY(約6%)を有するBSA−Au−NCが得られた。反応温度を100℃に上昇させると、反応速度は急上昇した。反応は数分以内に完了したが、調製したそのままのBSA−Au−NCは、比較的低いQY(約0.5%、表1および図7参照)を有した。BSA濃度のAu前駆体に対する比率は重要であった。固定Au前駆体濃度(5mM)で、高いBSA濃度(10〜25mg/mL)(約20から50mMのアミノ酸残基の濃度を伴う)がAu−NCの有効な保護に必要とされた。Au前駆体濃度を一定(5mM)に保ちながらBSA濃度を2.5mg/mLに低下させると、蛍光を有さない大きなナノ粒子が生じた(表1および図7)。
【0059】
【表1】
表1において、BSA−Au−NCのQYは、470nm励起下でBSA−Au−NCおよびリファレンス(塩基性エタノール中のフルオレセイン溶液、QY=97%)の積分蛍光強度を測定することによって決定した。スペクトル測定のためにBSA−Au−NCを脱イオン水で希釈して、470nmで約0.1の吸収を生じさせた。
【0060】
要約すると、この実施例は、一般的なタンパク質を使用してAu前駆体をインサイチューで封鎖して還元することによる、赤色発光を有するAu−NCの新規調製方法を例証するものである。調製したそのままのBSA−Au−NCは、溶液(水溶液または緩衝液)中でも、固体形態でも安定であった。この発光Au−NCは、約25個の金原子(Au25)から成るものであった。高いQYを有するBSA−Au−NCを誘導するように実験条件を最適化した。プロトコルおよび生成物は、蛍光BSA−Au−NCの単純で「環境にやさしい」生産方法を提供するためばかりでなく、タンパク質/ペプチドとAuイオンの相互作用(バイオミネラリゼーションまたは生物模倣型鉱物形成(biomimetic mineralization))をタンパク質−Au−NCの生成に向けて用いることができることを具現するためにも、重要である。
【0061】
(実施例2)
以下の実施例は、実施例1において調製し、使用した金ナノクラスタに関する追加の実験情報を説明するものである。
【0062】
すべての化学薬品は、Sigma−Aldrichから購入し、受け取ったそのままで使用した。Ultrapure Millipore water(18.2M)を使用した。
【0063】
赤色蛍光Au−NCの合成。すべてのガラス器具を王水(HCl:HNO3 体積比=3:1)で洗浄し、エタノールおよび超純水ですすいだ。典型的な実験では、HAuCl4水溶液(5mL、10mM、37℃)をBSA溶液(5mL、50mg/mL、37℃)に激しく攪拌しながら添加した。2分後、NaOH溶液(0.5mL、1M)を導入し、激しく攪拌しながら37℃で12時間、反応を進行させた。
【0064】
材料特性づけ。吸収および光電子放出スペクトルは、それぞれ、Agilent 8453 UV−可視分光計およびJobin Yvon Horiba Fluorolog蛍光分光計を用いて得た。BSA−Au−NC水溶液およびBSA水溶液のDLS分析は、BI−200SMレーザー光散乱システム(Brookhaven Instruments Corporation)を用いて行った。元素分析は、ELAN 9000/DRC ICP−MSシステムを用いて行った。BSAおよびBSA−Au−NCの分子量は、Bruker Daltonics Autoflex II TOF/TOFシステムでのMALDI−TOF質量分析法を用いて分析した。透過電子顕微鏡検査(TEM)およびXPSは、それぞれ、200kVでFEI Tecnai TF−20電界放出型高解像度透過電子顕微鏡を用いて、およびVG ESCALAB MKII分光計を用いて行った。外来炭素を使用してXPSPEAKソフトウェア(バージョン4.1)によりAu 4fコアレベルのナロー・スキャンXPSスペクトルにデコンボリューション処理を施して、C1s(284.5eV)の結合エネルギーを校正した。
【0065】
(実施例3)
以下の実施例は、本発明の非限定的実施形態による、金ナノクラスタを使用する第二水銀イオン(Hg+2)の検出を説明するものである。第二水銀イオン(Hg2+)の日常的検出は、環境および人間の健康に対するその有害作用のため、水生生態系における環境モニタリングの重要な側面である。
【0066】
理論により拘束されることを望まないが、最近の理論研究は、閉殻金属原子間の分散力が非常に特異的であり、強力であり、および特に、これらの相互作用がHg2+(4f145d10)およびAu+(4f145d10)などの重イオンを伴うとき相対論的効果によって大いに拡大されることを示唆している。従って、Hg2+−Au+相互作用の利用は、Hg2+検出における無標識アプローチにとって魅力的である。実施例1において説明したように、タンパク質をテンプレートにする方法を用いて金ナノクラスタ(BSA−Au−NC)を合成した。調製したそのままのBSA−Au−NCは、約25個の金原子(Au25)から成り、強い赤色蛍光(λemmax=640nm)を放出した。このクラスタコアの表面は、Hg2+と強い特異的な相互作用を有することができる、少量(約17%)のAu+によって安定化されている。この実施例では、図9に示すような、好金属性Hg2+−Au+相互作用に依存してBSA−Au−NCの蛍光を消光するHg2+の検出技術を提供する。図9は、(C)高親和性好金属性Hg2+−Au+結合の結果として生ずるAu−NCの蛍光消光に基づくHg2+センシングの略図、ならびにHg2+イオン(50mM)の(1)不在および(2)存在下でのAu−NC(20mM)についてのUV線のもとでの(A)光電子放出スペクトル(λex=470nm)および(B)写真を示すものである。この一段法は、単純であり、迅速であり、ならびに高い選択性および感度を有する。さらに、それをペーパー・テスト・ストリップとして(下に示すように)用いて、日常的なHg2+モニタリングを助長することができる。
【0067】
実施例4において説明する手順に従って、蛍光BSA−Au−NCを合成し、精製した。Hg2+イオン(50mM)をAu−NC水溶液(約20mM)に添加すると、光電子放出スペクトル(図9A)においても明らかであるように、BSA−Au−NCの赤色蛍光(図9B、1)は、数秒以内に完全に消光した(図9B、2)。このBSA−Au−NCの蛍光消光は、Hg2+とAu+の相互作用のためであった。Hg2+イオンの存在下でBSA−Au−NC溶液に強い還元剤(例えば、水素化ホウ素ナトリウム)を添加することにより、BSA−Au−NCの赤色蛍光を一部回復することができた(図9Aおよび9B、3)。理論により拘束されることを望まないが、水素化ホウ素ナトリウムは、Hg2+をHg0に還元すると考えられ、および後者Hg0は、Au+とのより弱い結合エネルギーを有するので、従って、蛍光Au−NCに対するより低い消光効率を有すると考えられる。Hgの酸化状態を、X線光電子分光法(XPS)によって確認した(図10)。具体的には、図10は、(A)BSA−Au−NCにより封鎖されたHgイオンおよび(B)NaBH4によって還元された封鎖HgイオンについてのXPS Hg 4fスペクトルを示すものである。
【0068】
BSA−Au−NC溶液へのHg2+イオンの添加は、BSA−Au−NCのサイズに対して殆ど影響を有さず(図11)、これにより、蛍光消光に対するBSA−Au−NC凝集の影響は排除された。図11は、約0.8nmのクラスタサイズを示す、Hg2+イオンの存在下でのBSA−Au−NCの代表TEM画像を示すものである。さらに、調製したそのままのBSA−Au−NCの凝集は、BSA−Au−NCの蛍光に対して殆ど影響を及ぼさない(図12)。図12は、(A)1−エチル−3−[3−ジメチルアミノプロピル]カルボジイミド(EDC)法によりポリスチレンビーズ(1mm)に結合させたBSA−Au−NCの略図、および(B)ポリスチレン−BSA−Au−NCの代表蛍光画像を示すものである。
【0069】
Hg2+−Au+相互作用の高い特異性が、他の環境関連金属イオンよりHg2+の検出に対するこの方法の優れた選択性をもたらした。図13Aは、BSA−Au−NCの蛍光が、50MのAg+、Cu2+、Zn2+、Mg2+、K+、Na+、Ni2+、Mn2+、Fe3+、Cd2+、Pt4+、Pd2+、Co2+、Pb2+およびCa2+イオンによって消光されなかったことを示すものである。Hg2+イオンだけが、BSA−Au−NC蛍光のほぼ100%消光をもたらした(図13B)。この検出選択性を裸眼で見えるようにすることができた(図13B)。具体的には、図13は、50mMの様々な金属イオンの存在下でのAu−NC水溶液(20mM)についての(A)UV線のもとでの写真、および(B)λex=470nmでの相対蛍光(I/I0)を示すものである。
【0070】
加えて、調製したそのままのAu−NCは、様々なアニオン(例えば、Cl−、NO3−、SO42−、およびPO43−)および緩衝剤(例えば、2−(4−(2−ヒドロキシエチル)−1−ピペラジニル)エタンスルホン酸(HEPES))に対して強く、そのため、この方法は様々な環境からのサンプルの試験に適する。Hg2+とAu+の強い結合エネルギーのため、この方法は高感度でもある。理論的には、NC表面の1個のAu+イオンとの相互作用により1個のHg2+によってBSA−Au−NCの蛍光を消光することができるだろう。このアッセイの感度を評価するために、異なる濃度(0.05〜100nM)のHg2+を、20nMのAu−NCを含有する一連の溶液に添加した。図14に示すように、BSA−Au−NCの蛍光は、Hg2+濃度の上昇に伴って低下された。Hg2+に対するBSA−Au−NCの蛍光強度は、1〜20nMのHg2+濃度範囲にわたって直線的に低下した。具体的には、図14は、(A)異なるHg2+濃度の存在下でのBSA−Au−NC(20nM)の光電子放出スペクトル(λex=470nm)、および(B)Hg2+濃度の関数としてのBSA−Au−NCの相対蛍光(I/I0)を示すものである。図14Cは、1〜20nMのHg2+についての線形検出範囲を示すものである。3のシグナル対ノイズ比でのHg2+についての検出限界(limit of detection:LOD)は、0.5nM(0.1ppb)と推定され、これは、アメリカ合衆国環境保護庁(United States Environmental Protection Agency:EPA)によって認可された飲料水中の水銀の最大レベル(2.0ppb)よりはるかに低かった。
【0071】
金ナノクラスタを使用するHg+2の検出をペーパー・テスト・ストリップ・システムに拡大した。BSA−Au−NCをニトロセルロースストリップ上に分散させた。それらはBSA足場によって封入され、ニトロセルロース膜に捕捉されるだろう。結合していないBSA−Au−NCは水ですすぎ落した。Hg2+検出に対するこのペーパー・テスト・ストリップ・システムの選択性を、50mMの濃度の様々な金属イオンの溶液にそれらのテストストリップを浸漬することによって評価した。Hg2+イオン溶液に浸漬したテストストリップだけは、UV線のもとでの色が(ニトロセルロース膜のバックグラウンドカラーである)弱い緑色であった(図15A)。具体的には、図15Aは、BSA−Au−NCを有するテストストリップの、それらのテストストリップを50mMの様々な金属イオンの溶液に浸漬した後の、UV線のもとでの写真を示すものである。すべての他のテストストリップは、BSA−Au−NCに付随する強い赤色蛍光を放出した。前記テストストリップは、図15Bに示すように、様々な濃度のHg2+イオン溶液に浸漬した後、異なる色(緑色から紫色まで)も示した(2mM(濃緑色)、200nM(紫色)、20nM(紫−桃色)、および2nM(桃色))。具体的には、図15Bは、Hg2+の溶液に浸漬したテストストリップの(UV線のもとでの)写真を示すものである。このように、それらを使用して、視覚的にHg2+イオン濃度を迅速に推定することができた。
【0072】
この実施例は、非限定的な実施形態に従って、水性媒質中の蛍光BSA−Au−NCを使用して非常に高い選択性および感度でHg2+イオンを検出する新規の簡単な方法を例証するものである。このセンシングメカニズムは、BSA−Au−NCの蛍光を有効に消光する高親和性好金属性Hg2+−Au+相互作用に基づくものであった。BSA−Au−NCは、他の金属イオンよりHg2+に対する著しく高い選択性を示し、0.5nMほども低い濃度のHg2+を検出した。このプロセスは、グリーンケミストリーを伴うので注目に値し、そしてそれをHg2+イオンの迅速な日常的モニタリングのための単純なペーパー・テスト・ストリップ・システムとして開発することができた。
【0073】
(実施例4)
以下の実施例は、実施例3において調製し、使用した金ナノクラスタに関する追加の実験情報を説明するものである。
【0074】
すべての化学薬品は、Sigma−Aldrichから購入し、受け取ったそのままで使用した。Ultrapure Millipore water(18.2MW)を使用した。
【0075】
赤色蛍光Au−NCの合成。すべてのガラス器具を王水(HCl/HNO3 体積比=3:1)で洗浄し、エタノールおよび超純水ですすいだ。典型的な実験では、HAuCl4水溶液(5mL、10mM、37℃)をBSA溶液(5mL、50mg/mL、37℃)に激しく攪拌しながら添加した。2分後、NaOH溶液(0.5mL、1M)を導入し、激しく攪拌しながら37℃で12時間、反応を進行させた。
【0076】
(実施例5)
実施例4において説明した手順を用いて、BSAの代わりにヒト血清アルブミン(human serum albumin:HSA)またはリゾチーム(LYS)を使用してAu−NCを合成した。(i)BSA、(ii)HSA、または(iii)LYSを使用して合成したAu−NCの水溶液の光電子放出(λex=470nm)スペクトルを図16に示す。
【0077】
本発明の幾つかの実施形態を本明細書において説明し、例証したが、当業者は、本明細書に記載する機能を果たすための、ならびに/または本明細書に記載する結果および/もしくは1つ以上の利点の得るための、様々な他の手段および/または構造を容易に思い浮かべることができるであろう。そのような変形および/または変更のそれぞれが、本発明の範囲内であると考える。より一般的に、本明細書に記載するすべてのパラメータ、寸法、材料および立体配置が、例示を意図したものであること、ならびに実際のパラメータ、寸法、材料および/または立体配置が、本発明の教示(単数または複数)を用いる特定の用途(単数または複数)に依存するであろうということは、当業者には容易に理解されるであろう。当業者は、本明細書に記載する本発明の特定の実施形態の多くの等価物がわかるであろうし、または常用の実験以上のものを用いることなくそれを突き止めることができるであろう。従って、上述の実施形態を単に例として提供すること、ならびに添付の特許請求の範囲およびそれらと等価のものの範囲内で、本発明を、具体的に記載するおよび特許請求の範囲に記載するものとは別様に実施できることは、理解されるはずである。本発明は、本明細書に記載する個々の特徴、システム、物品、材料、キット、および/または方法それぞれに関する。加えて、2つ以上のそのような特徴、システム、物品、材料、キット、および/または方法の任意の組み合わせは、そのような特徴、システム、物品、材料、キット、および/または方法が互いに矛盾しない場合、本発明の範囲に含まれる。
【0078】
不定冠詞「a」および「an」は、本明細書および本特許請求の範囲において用いられる場合、相反する明確な指示がない限り、「少なくとも1つ」を意味すると解釈すべきである。
【0079】
「および/または」という句は、本明細書および本特許請求の範囲において用いられる場合、そのように連接されている要素、すなわち、ある場合は接続的に存在し、および他の場合は離接的に存在する要素、の「いずれかまたは両方」を意味すると解釈すべきである。相反する明確な指示がない限り、「および/または」節によって具体的に特定される要素以外の他の要素が、それらの具体的に特定される要素に関係のあるものであろうと、関係ないものであろうと、場合によっては存在することがある。従って、非限定的例として、「Aおよび/またはB」への言及は、「含む」などの状況に応じて変更可能な言葉と共に用いられるとき、1つの実施形態ではBなしのA(場合によってはB以外の他の要素を含む);別の実施形態ではAなしのB(場合によってはA以外の他の要素を含む);さらに別の実施形態ではAとBの両方(場合によっては他の要素を含む)、などを指すことがある。
【0080】
ここで本明細書においておよび本特許請求の範囲において用いられる場合、「または」は、上で定義した「および/または」と同じ意味を有すると解釈すべきである。例えば、リスト内の項目を分けるとき、「または」または「および/または」は、包括的である、すなわち、多数の要素または要素のリストのうちの、1つより多くも含むが、少なくとも1つ、および、場合によっては、リストにない追加の項目の包含、と解釈するものとする。「の1つだけ」もしくは「の正確に1つ」または特許請求の範囲で用いられるときの「から成る」などの、そうでないと明確に示す用語だけが、多数の要素または要素のリストのうちの正確に1つの要素の包含を指すだろう。一般に、ここで用いられる場合の用語「または」は、排他性の用語、例えば「いずれか」、「の1つ」、「の1つだけ」、または「の正確に1つ」が先行するとき、排他的選択肢(すなわち、「両方ではなく、一方または他方」)を示すともっぱら解釈するものとする。特許請求の範囲において用いられているときの「から本質的に成る」は、特許法の分野で用いられているような、その通常の意味を有するものとする。
【0081】
ここで本明細書においておよび本特許請求の範囲において用いられる場合、1つ以上の要素のリストに関しての、「少なくとも1つの」という句は、その要素リスト内の任意の1つ以上の要素から選択される少なくとも1つの要素を意味するが、その要素リスト内に具体的にリストされているそれぞれのおよびすべての要素の少なくとも1つを含むとは限らず、およびその要素リスト内の要素の任意の組み合わせを除外しないと解釈すべきである。この定義は、「少なくとも1つの」という句が指す要素のリスト内の具体的に特定される要素以外の要素が、それらの具体的に特定される要素に関係のあるものであろうと、関係ないものであろうと、場合によっては存在することがあることも許容する。従って、非限定的例として、「AおよびBの少なくとも1つ」(言い換えると、「AまたはBの少なくとも1つ」、言い換えると「Aおよび/またはBの少なくとも1つ」)は、1つの実施形態では、Bが存在しない、場合によっては「1つより多くの」を含む少なくとも1つのA(および場合によってはB以外の要素を含む);別の実施形態では、Aが存在しない、場合によっては「1つより多くの」を含む少なくとも1つのB(および場合によっては、A以外の要素を含む);さらに別の実施形態では、場合によっては「1つより多くの」を含む少なくとも1つのAおよび、場合によっては「1つより多くの」を含む少なくとも1つのB(および場合によっては、他の要素を含む)、などを指すことがある。
【0082】
本特許請求の範囲において、ならびに上の本明細書において、すべての移行句、例えば、「含む」、「挙げられる」、「担持する」、「有する」、「含有する」、「伴う」、「保持する」、およびこれらに類するものは、状況に応じて変更可能である、すなわち、含むがそれらに限定されないことを意味すると解釈すべきである。「から成る」および「から本質的に成る」という移行句だけは、それぞれ、United States Patent Office Manual of Patent Examining Procedures,Section 2111.03に示されているように、排他的または半排他的移行句であるものとする。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の金ナノクラスタと、
タンパク質または安定剤と
を含む組成物であって、
前記金ナノクラスタが、少なくとも1%の量子収率で約630nmと約700nmの間の波長で蛍光を放出することができる、組成物。
【請求項2】
複数の金ナノクラスタを形成するための方法であって、
金原子前駆体の複数の分子とタンパク質の複数の分子とを含む反応混合物を形成する工程(この場合、金原子前駆体の分子のタンパク質の分子に対する比率は、少なくとも約5:1である);
前記反応混合物のpHを約11より大きくなるように調整する工程;および
前記反応混合物を適する温度で十分な期間にわたって維持して、少なくとも1つのタンパク質分子によって安定化された複数の金ナノクラスタを形成する工程
を含み、
前記金ナノクラスタが、約2nm未満の平均直径を有する、方法。
【請求項3】
第二水銀イオンを検出する方法であって、
複数の金ナノクラスタとタンパク質または安定剤とを含む組成物を生じさせる工程;
第二水銀イオンを含有する疑いのあるサンプルに前記組成物を曝露する工程;および
前記サンプルが第二水銀イオンを含むかどうかを判定する工程
を含む方法。
【請求項4】
第二水銀イオンを検出する方法であって、
複数の金ナノクラスタ(該金ナノクラスタは、少なくとも1%の量子収率で約630nmと約700nmの間の波長で第一の蛍光強度を有する)を生じさせる工程;
第二水銀イオンを含有する疑いのあるサンプルを前記ナノクラスタに曝露し、前記蛍光強度の変化を判定する工程;および
前記サンプルが第二水銀イオンを含有するかどうかを前記蛍光強度の変化に基づいて判定する工程
を含む方法。
【請求項5】
第二水銀イオンを検出する方法であって、
式Au25を有する複数の安定化金ナノクラスタを含む組成物を生じさせる工程;
第二水銀イオンを含有する疑いのあるサンプルに前記組成物を曝露する工程;および
前記サンプルが第二水銀イオンを含むかどうかを判定する工程
を含む方法。
【請求項6】
サンプル中の第二水銀イオンの存在または不在を判定するための物品であって、
基質と、
前記基質と会合している組成物(この場合、該組成物は、金ナノクラスタとタンパク質または安定剤とを含む)と
を含む物品。
【請求項7】
金ナノクラスタが、約25個の金原子を含む、前記いずれかの請求項に記載の組成物、方法または物品。
【請求項8】
前記タンパク質が、ウシ血清アルブミンである、前記いずれかの請求項に記載の組成物、方法または物品。
【請求項9】
前記タンパク質が、ヒト血清アルブミンである、前記いずれかの請求項に記載の組成物、方法または物品。
【請求項10】
前記タンパク質が、リゾチームである、前記いずれかの請求項に記載の組成物、方法または物品。
【請求項11】
前記金ナノクラスタが、約2nm未満の平均直径を有する、前記いずれかの請求項に記載の組成物、方法または物品。
【請求項12】
前記金ナノクラスタが、約1nm未満の平均直径を有する、前記いずれかの請求項に記載の組成物、方法または物品。
【請求項13】
前記金ナノクラスタが、実質的に単分散である、前記いずれかの請求項に記載の組成物、方法または物品。
【請求項14】
前記金ナノクラスタが、約630nmと約700nmの間の波長で蛍光を放出することができる、前記いずれかの請求項に記載の組成物、方法または物品。
【請求項16】
前記金ナノクラスタが、少なくとも1%の量子収率で蛍光を放出することができる、前記いずれかの請求項に記載の組成物、方法または物品。
【請求項17】
前記金ナノクラスタが、少なくとも3%の量子収率で蛍光を放出することができる、前記いずれかの請求項に記載の組成物、方法または物品。
【請求項18】
前記金ナノクラスタが、約6%の量子収率で蛍光を放出することができる、前記いずれかの請求項に記載の組成物、方法または物品。
【請求項19】
少なくとも30℃で少なくとも2時間、前記反応混合物を加熱することを含む、前記いずれかの請求項に記載の方法。
【請求項20】
約37℃で少なくとも約8時間、前記反応混合物を加熱することを含む、前記いずれかの請求項に記載の方法。
【請求項21】
前記金ナノクラスタを安定させる少なくとも1つのタンパク質分子のうちの1つ以上を安定剤で置き換える工程をさらに含む、前記いずれかの請求項に記載の方法。
【請求項22】
前記安定剤が、システインまたはグルタチオンである、前記いずれかの請求項に記載の組成物、方法または物品。
【請求項23】
第二水銀イオンの検出限界が、約5nM未満である、前記いずれかの請求項に記載の方法または物品。
【請求項24】
第二水銀イオンの検出限界が、約1nM未満である、前記いずれかの請求項に記載の方法または物品。
【請求項25】
第二水銀イオンの検出限界が、約0.5nM未満である、前記いずれかの請求項に記載の方法または物品。
【請求項26】
サンプルが第二水銀イオンを含むかどうかを判定する工程が、前記組成物または金ナノクラスタの蛍光の変化を判定する工程を含む、前記いずれかの請求項に記載の方法。
【請求項27】
Ag+、Cu2+、Zn2+、Mg2+、K+、Na+、Ni2+、Mn2+、Fe3+、Cd2+、Pt4+、Pd2+、Co2+、Pb2+、またはCa2+から成る群より選択される金属イオンのうちの少なくとも1つへの曝露に基づく前記金ナノクラスタまたは組成物の蛍光強度の変化が、20%未満である、前記いずれかの請求項に記載の方法。
【請求項28】
前記サンプル中の第二水銀イオンの濃度の測定を判定することをさらに含む、前記いずれかの請求項に記載の方法。
【請求項29】
前記サンプル中の第二水銀イオンの濃度の測度が、前記組成物または金ナノクラスタの蛍光の変化に基づいて判定される、前記いずれかの請求項に記載の方法。
【請求項30】
前記サンプルが、環境源から採取される、前記いずれかの請求項に記載の方法。
【請求項31】
前記基質が、ニトロセルロースを含む、前記いずれかの請求項に記載の物品。
【請求項32】
前記反応混合物のpHが、約12より大きくなるように調整される、前記いずれかの請求項に記載の方法。
【請求項33】
前記反応混合物のpHが、その反応混合物に塩基を供給することによって調整される、前記いずれかの請求項に記載の方法。
【請求項34】
前記塩基が、NaOHである、請求項33に記載の方法。
【請求項1】
複数の金ナノクラスタと、
タンパク質または安定剤と
を含む組成物であって、
前記金ナノクラスタが、少なくとも1%の量子収率で約630nmと約700nmの間の波長で蛍光を放出することができる、組成物。
【請求項2】
複数の金ナノクラスタを形成するための方法であって、
金原子前駆体の複数の分子とタンパク質の複数の分子とを含む反応混合物を形成する工程(この場合、金原子前駆体の分子のタンパク質の分子に対する比率は、少なくとも約5:1である);
前記反応混合物のpHを約11より大きくなるように調整する工程;および
前記反応混合物を適する温度で十分な期間にわたって維持して、少なくとも1つのタンパク質分子によって安定化された複数の金ナノクラスタを形成する工程
を含み、
前記金ナノクラスタが、約2nm未満の平均直径を有する、方法。
【請求項3】
第二水銀イオンを検出する方法であって、
複数の金ナノクラスタとタンパク質または安定剤とを含む組成物を生じさせる工程;
第二水銀イオンを含有する疑いのあるサンプルに前記組成物を曝露する工程;および
前記サンプルが第二水銀イオンを含むかどうかを判定する工程
を含む方法。
【請求項4】
第二水銀イオンを検出する方法であって、
複数の金ナノクラスタ(該金ナノクラスタは、少なくとも1%の量子収率で約630nmと約700nmの間の波長で第一の蛍光強度を有する)を生じさせる工程;
第二水銀イオンを含有する疑いのあるサンプルを前記ナノクラスタに曝露し、前記蛍光強度の変化を判定する工程;および
前記サンプルが第二水銀イオンを含有するかどうかを前記蛍光強度の変化に基づいて判定する工程
を含む方法。
【請求項5】
第二水銀イオンを検出する方法であって、
式Au25を有する複数の安定化金ナノクラスタを含む組成物を生じさせる工程;
第二水銀イオンを含有する疑いのあるサンプルに前記組成物を曝露する工程;および
前記サンプルが第二水銀イオンを含むかどうかを判定する工程
を含む方法。
【請求項6】
サンプル中の第二水銀イオンの存在または不在を判定するための物品であって、
基質と、
前記基質と会合している組成物(この場合、該組成物は、金ナノクラスタとタンパク質または安定剤とを含む)と
を含む物品。
【請求項7】
金ナノクラスタが、約25個の金原子を含む、前記いずれかの請求項に記載の組成物、方法または物品。
【請求項8】
前記タンパク質が、ウシ血清アルブミンである、前記いずれかの請求項に記載の組成物、方法または物品。
【請求項9】
前記タンパク質が、ヒト血清アルブミンである、前記いずれかの請求項に記載の組成物、方法または物品。
【請求項10】
前記タンパク質が、リゾチームである、前記いずれかの請求項に記載の組成物、方法または物品。
【請求項11】
前記金ナノクラスタが、約2nm未満の平均直径を有する、前記いずれかの請求項に記載の組成物、方法または物品。
【請求項12】
前記金ナノクラスタが、約1nm未満の平均直径を有する、前記いずれかの請求項に記載の組成物、方法または物品。
【請求項13】
前記金ナノクラスタが、実質的に単分散である、前記いずれかの請求項に記載の組成物、方法または物品。
【請求項14】
前記金ナノクラスタが、約630nmと約700nmの間の波長で蛍光を放出することができる、前記いずれかの請求項に記載の組成物、方法または物品。
【請求項16】
前記金ナノクラスタが、少なくとも1%の量子収率で蛍光を放出することができる、前記いずれかの請求項に記載の組成物、方法または物品。
【請求項17】
前記金ナノクラスタが、少なくとも3%の量子収率で蛍光を放出することができる、前記いずれかの請求項に記載の組成物、方法または物品。
【請求項18】
前記金ナノクラスタが、約6%の量子収率で蛍光を放出することができる、前記いずれかの請求項に記載の組成物、方法または物品。
【請求項19】
少なくとも30℃で少なくとも2時間、前記反応混合物を加熱することを含む、前記いずれかの請求項に記載の方法。
【請求項20】
約37℃で少なくとも約8時間、前記反応混合物を加熱することを含む、前記いずれかの請求項に記載の方法。
【請求項21】
前記金ナノクラスタを安定させる少なくとも1つのタンパク質分子のうちの1つ以上を安定剤で置き換える工程をさらに含む、前記いずれかの請求項に記載の方法。
【請求項22】
前記安定剤が、システインまたはグルタチオンである、前記いずれかの請求項に記載の組成物、方法または物品。
【請求項23】
第二水銀イオンの検出限界が、約5nM未満である、前記いずれかの請求項に記載の方法または物品。
【請求項24】
第二水銀イオンの検出限界が、約1nM未満である、前記いずれかの請求項に記載の方法または物品。
【請求項25】
第二水銀イオンの検出限界が、約0.5nM未満である、前記いずれかの請求項に記載の方法または物品。
【請求項26】
サンプルが第二水銀イオンを含むかどうかを判定する工程が、前記組成物または金ナノクラスタの蛍光の変化を判定する工程を含む、前記いずれかの請求項に記載の方法。
【請求項27】
Ag+、Cu2+、Zn2+、Mg2+、K+、Na+、Ni2+、Mn2+、Fe3+、Cd2+、Pt4+、Pd2+、Co2+、Pb2+、またはCa2+から成る群より選択される金属イオンのうちの少なくとも1つへの曝露に基づく前記金ナノクラスタまたは組成物の蛍光強度の変化が、20%未満である、前記いずれかの請求項に記載の方法。
【請求項28】
前記サンプル中の第二水銀イオンの濃度の測定を判定することをさらに含む、前記いずれかの請求項に記載の方法。
【請求項29】
前記サンプル中の第二水銀イオンの濃度の測度が、前記組成物または金ナノクラスタの蛍光の変化に基づいて判定される、前記いずれかの請求項に記載の方法。
【請求項30】
前記サンプルが、環境源から採取される、前記いずれかの請求項に記載の方法。
【請求項31】
前記基質が、ニトロセルロースを含む、前記いずれかの請求項に記載の物品。
【請求項32】
前記反応混合物のpHが、約12より大きくなるように調整される、前記いずれかの請求項に記載の方法。
【請求項33】
前記反応混合物のpHが、その反応混合物に塩基を供給することによって調整される、前記いずれかの請求項に記載の方法。
【請求項34】
前記塩基が、NaOHである、請求項33に記載の方法。
【図5】
【図8】
【図11】
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図6】
【図7】
【図9】
【図10】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図8】
【図11】
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図6】
【図7】
【図9】
【図10】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公表番号】特表2011−530699(P2011−530699A)
【公表日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−522028(P2011−522028)
【出願日】平成21年8月4日(2009.8.4)
【国際出願番号】PCT/SG2009/000272
【国際公開番号】WO2010/016803
【国際公開日】平成22年2月11日(2010.2.11)
【出願人】(508201466)エージェンシー フォー サイエンス, テクノロジー アンド リサーチ (13)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年8月4日(2009.8.4)
【国際出願番号】PCT/SG2009/000272
【国際公開番号】WO2010/016803
【国際公開日】平成22年2月11日(2010.2.11)
【出願人】(508201466)エージェンシー フォー サイエンス, テクノロジー アンド リサーチ (13)
【Fターム(参考)】
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