安定性が向上したFc結合性タンパク質

【課題】 医薬品、臨床検査薬、バイオセンサー、アフィニティーリガンド(分離剤)などの用途に使用可能なFc結合性タンパク質の、化学修飾による安定化方法を提供すること。
【解決手段】 Fc結合性タンパク質を化学修飾して負電荷を有する解離基を導入することで、アルカリ環境下における安定性が向上したFc結合性タンパク質を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、免疫グロブリン分子のFc領域に特異的に結合する活性を有し、医薬品、臨床検査薬、バイオセンサー、アフィニティーリガンド(分離剤)などの用途に使用可能な、Fc結合性タンパク質であって、従来のFc結合性タンパク質と比較し、安定性が向上したタンパク質に関する。
【背景技術】
【0002】
Fc結合性タンパク質の一つであるFcレセプターは、免疫グロブリン分子のFc領域に結合する一群の分子である。Fcレセプターはその結合する免疫グロブリンの種類によって分類されており、IgGのFc領域に結合するFcγレセプター、IgEのFc領域に結合するFcεレセプター、IgAのFc領域に結合するFcαレセプター等がある(非特許文献1)。また各レセプターは、その構造の違いによりさらに細かく分類され、Fcγレセプターの場合、FcγRI、FcγRII、FcγRIIIの存在が報告されている(非特許文献1)。
【0003】
Fcγレセプターの一つであるFcγRIは単球とマクロファージ中で発現しており、好中球ではγインターフェロンにより誘導的に発現される(非特許文献1)。また、FcγRIはIgG(免疫グロブリンG)に対する結合親和性が高く、その平衡解離定数(Kd)は10−8M以下である(非特許文献2)。FcγRIは、細胞外領域、細胞膜貫通領域、細胞質内領域に区分されるが、IgGとの結合は、IgGのFc領域とFcγRIの細胞外領域で起こり、その後細胞質へとシグナルが伝達される。FcγRIはIgGとの結合に直接関わる分子量約42000のα鎖と、γ鎖の2種類のサブユニットによって構成されており、γ鎖は細胞膜と細胞外領域との境界で共有結合することでホモダイマーを形成している(非特許文献3)。
【0004】
ヒトFcγRIのアミノ酸配列、および遺伝子配列(配列番号1)はExPASy(Primary accession number:P12314)などの公的データベースに公表されている。また、ヒトFcγRIの構造上の機能ドメイン、細胞膜を貫通するためのシグナルペプチド配列、細胞膜貫通領域の位置についても同様に公表されている。図1にヒトFcγRIの構造略図を示す。なお、図中のアミノ酸番号は配列番号1に記載のアミノ酸番号に対応する。すなわち、配列番号1のアミノ酸番号1のメチオニン(Met)から292のヒスチジン(His)までがシグナル配列および細胞外領域、配列番号1のアミノ酸番号293のバリン(Val)から374のスレオニン(Thr)までが細胞膜貫通領域および細胞内領域とされている。
【0005】
FcγRIは、近年になり見出された予想外の免疫抑制的な生物学的特性により、自己免疫疾患または自己免疫症候群、移植物の拒絶および悪性リンパ増殖の領域における医薬として注目を浴びつつある(非特許文献2)。また、FcγRIの機能である抗体の吸着能は各種抗体検出用のバイオセンサーや抗体精製用クロマトグラフィーゲルの捕捉機能を担うタンパク質(リガンド)としても利用することができる。
【0006】
FcγRI生産については、遺伝子組換え技術を用いた、大腸菌(特許文献1)、バチルス属細菌(特許文献2)、酵母(特許文献3)、麹菌(特許文献4)、および動物細胞(非特許文献3)による生産が報告されている。また工業的なFcγRI精製に関しては、FcγRIを発現する大腸菌の培養液からクロマトグラフィーにより精製する方法(特許文献5)が報告されている。しかしながらFcγRIを産業利用目的で利用する場合、その物理的安定性が低いことが問題となっていた。特にFcγRIをバイオセンサーやアフィニティクロマトグラフィー用リガンドとして用いる場合は、長期間の繰り返し使用や、アルカリ性溶液による使用後に付着した不純物の洗浄が必須となるが、前記繰り返し使用や前記洗浄により、抗体結合能が失われることが問題となっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特表2004−530419号公報
【特許文献2】特開2009−201403号公報
【特許文献3】特開2011−072246号公報
【特許文献4】特開2011−200203号公報
【特許文献5】特開2011−126827号公報
【特許文献6】特開2011−206046号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】J.V.Ravetch等,Annu.Rev.Immunol.,9,457,1991
【非特許文献2】Toshiyuki Takai,Jpn.J.Clin.Immunol.,28,318,2005
【非特許文献3】A.Paetz等,Biochem.Biophys.Res.Commun.,338,1811,2005
【非特許文献4】K.So−Hee等,J. Mol.Biotechnol.,17,1670,2007
【非特許文献5】B.F.Shaw等,Protein Sci.,17,1446,2008
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
前述したFcγRIが有する問題点を解消するために、FcγRIを構成するアミノ酸の一部を他のアミノ酸に置換することで、耐熱性、耐酸性、耐アルカリ性を向上させる取組みが行なわれている(特許文献6)。しかしながら、構成アミノ酸の置換によるタンパク質の安定性向上に関する、一般的な理論は確立されていない。そのため、アミノ酸置換をランダムに導入した変異体のライブラリーの中から効果的なものをスクリーニングし、効果的な変異を組み合わせて安定性を向上させていく必要があり、多大な労力と研究時間を要する問題があった。
【0010】
一方、別のタンパク質の安定化法として化学修飾による方法が知られている。例えば、ポリエチレングリコール等の親水性高分子を結合させタンパク質分子の親水性を向上させることによりプロテアーゼ耐性を向上させる方法(非特許文献4)や、無水酢酸によりリジン残基をアセチル化し正電荷を中和することで正味の負電荷を増加させ界面活性剤耐性を向上させる方法(非特許文献5)が知られている。しかしながら、FcγRIをはじめとするFc結合性タンパク質については、化学修飾による安定化方法は知られていなかった。
【0011】
そこで、本発明は、医薬品、臨床検査薬、バイオセンサー、アフィニティーリガンド(分離剤)などの用途に使用可能なFc結合性タンパク質の、化学修飾による安定化方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を鑑みてなされた本発明は、以下の発明を包含する。
【0013】
(1)Fc結合性タンパク質を化学修飾して負電荷を有する解離基を導入することで、化学修飾前と比較し安定性が向上した、前記タンパク質。
【0014】
(2)負電荷を有する解離基がカルボキシル基である(1)に記載のタンパク質。
【0015】
(3)カルボキシル基の導入が無水コハク酸による処理である、(2)に記載のタンパク質。
【0016】
(4)Fc結合性タンパク質に対し10等量以上の無水コハク酸で処理した、(3)に記載のタンパク質。
【0017】
(5)Fc結合性タンパク質が、
(A)配列番号1に記載のアミノ酸配列のうち少なくとも16番目のグルタミンから289番目のバリンまでのアミノ酸を含むタンパク質、または
(B)配列番号1に記載のアミノ酸配列のうち少なくとも16番目のグルタミンから289番目のバリンまでのアミノ酸を含み、かつ前記アミノ酸のうちの一つ以上が他のアミノ酸に置換、挿入または欠失したタンパク質、
である、(1)から(4)のいずれかに記載のタンパク質。
【0018】
(6)安定性の向上がアルカリ環境下における安定性の向上である、(1)から(5)のいずれかに記載のタンパク質。
【0019】
(7)アルカリ環境下が0.1mol/L以下の水酸化ナトリウム水溶液環境下である、(6)に記載のタンパク質。
【0020】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0021】
本発明のタンパク質を得るのに用いるFc結合性タンパク質は、必ずしもFc結合性タンパク質の全領域でなくてもよく、Fc結合性タンパク質を構成するアミノ酸のうち、少なくとも免疫グロブリン(FcγRIの場合はIgG)のFc領域に結合する本来の機能を発現し得る領域のアミノ酸を含んでいればよい。本発明におけるFc結合性タンパク質の一例として、
(A)配列番号1に記載のアミノ酸配列のうち少なくとも16番目のグルタミンから289番目のバリンまでのアミノ酸を含むタンパク質や、
(B)配列番号1に記載のアミノ酸配列のうち少なくとも16番目のグルタミンから289番目のバリンまでのアミノ酸を含み、かつ前記アミノ酸のうちの一つ以上が他のアミノ酸に置換、挿入または欠失したタンパク質、
があげられる。前記(B)の具体例として、配列番号1に記載のアミノ酸配列のうち少なくとも16番目から289番目までのアミノ酸を含み、かつ以下の(1)から(168)のいずれかに記載のアミノ酸置換を1つ以上含むFc結合性タンパク質があげられる(特許文献6)。
(1)配列番号1の20番目のスレオニンがプロリンに置換
(2)配列番号1の25番目のスレオニンがリジンに置換
(3)配列番号1の38番目のスレオニンがアラニンまたはセリンに置換
(4)配列番号1の46番目のロイシンがアルギニンまたはプロリンに置換
(5)配列番号1の62番目のアラニンがバリンに置換
(6)配列番号1の63番目のスレオニンがイソロイシンに置換
(7)配列番号1の69番目のセリンがフェニルアラニンまたはスレオニンに置換
(8)配列番号1の71番目のアルギニンがヒスチジンに置換
(9)配列番号1の77番目のバリンがアラニンまたはグルタミン酸に置換
(10)配列番号1の78番目のアスパラギンがアスパラギン酸に置換
(11)配列番号1の94番目のアスパラギン酸がグルタミン酸に置換
(12)配列番号1の100番目のイソロイシンがバリンに置換
(13)配列番号1の110番目のセリンがアスパラギンに置換
(14)配列番号1の114番目のフェニルアラニンがロイシンに置換
(15)配列番号1の125番目のヒスチジンがアルギニンに置換
(16)配列番号1の131番目のロイシンがアルギニンまたはプロリンに置換
(17)配列番号1の149番目のトリプトファンがロイシンに置換
(18)配列番号1の156番目のロイシンがプロリンに置換
(19)配列番号1の160番目のイソロイシンがメチオニンに置換
(20)配列番号1の163番目のアスパラギンがセリンに置換
(21)配列番号1の195番目のアスパラギンがスレオニンに置換
(22)配列番号1の199番目のスレオニンがセリンに置換
(23)配列番号1の206番目のアスパラギンがリジン、セリンまたはスレオニンに置換
(24)配列番号1の207番目のロイシンがプロリンに置換
(25)配列番号1の218番目のロイシンがバリンに置換
(26)配列番号1の240番目のアスパラギンがアスパラギン酸に置換
(27)配列番号1の248番目のロイシンがセリンに置換
(28)配列番号1の283番目のロイシンがヒスチジンに置換
(29)配列番号1の285番目のロイシンがグルタミンに置換
(30)配列番号1の17番目のバリンがグリシンまたはグルタミン酸に置換
(31)配列番号1の19番目のスレオニンがイソロイシンに置換
(32)配列番号1の20番目のスレオニンがイソロイシンに置換
(33)配列番号1の25番目のスレオニンがメチオニンまたはアルギニンに置換
(34)配列番号1の27番目のグルタミンがプロリンまたはリジンに置換
(35)配列番号1の35番目のグルタミンがロイシン、メチオニンまたはアルギニンに置換
(36)配列番号1の36番目のグルタミン酸がグリシンに置換
(37)配列番号1の41番目のロイシンがメチオニンに置換
(38)配列番号1の42番目のヒスチジンがロイシンに置換
(39)配列番号1の44番目のグルタミン酸がアスパラギン酸に置換
(40)配列番号1の45番目のバリンがアラニンに置換
(41)配列番号1の46番目のロイシンがアラニン、アスパラギン、アスパラギン酸、グルタミン、グリシン、ヒスチジン、リジン、セリンまたはトリプトファンに置換
(42)配列番号1の47番目のヒスチジンがグルタミン、ロイシンまたはアスパラギンに置換
(43)配列番号1の49番目のプロリンがセリンまたはアラニンに置換
(44)配列番号1の50番目のグリシンがアルギニンまたはグルタミン酸に置換
(45)配列番号1の51番目のセリンがアラニン、スレオニン、ロイシン、プロリンまたはバリンに置換
(46)配列番号1の52番目のセリンがグリシンに置換
(47)配列番号1の53番目のセリンがロイシン、スレオニンまたはプロリンに置換
(48)配列番号1の55番目のグルタミンがアルギニンに置換
(49)配列番号1の57番目のフェニルアラニンがチロシンに置換
(50)配列番号1の58番目のロイシンがアルギニンに置換
(51)配列番号1の60番目のグリシンがアスパラギン酸に置換
(52)配列番号1の61番目のスレオニンがアラニンまたはセリンに置換
(53)配列番号1の62番目のアラニンがグルタミン酸に置換
(54)配列番号1の63番目のスレオニンがロイシン、フェニルアラニンに置換
(55)配列番号1の64番目のグルタミンがプロリン、ヒスチジン、ロイシン、リジンに置換
(56)配列番号1の65番目のスレオニンがアラニンまたはバリンに置換
(57)配列番号1の66番目のセリンがスレオニンに置換
(58)配列番号1の67番目のスレオニンがアラニンまたはセリンに置換
(59)配列番号1の69番目のセリンがアラニンに置換
(60)配列番号1の70番目のチロシンがヒスチジンまたはフェニルアラニンに置換
(61)配列番号1の71番目のアルギニンがチロシンに置換
(62)配列番号1の73番目のスレオニンがアラニンまたはセリンに置換
(63)配列番号1の74番目のセリンがフェニルアラニンに置換
(64)配列番号1の76番目のセリンがアスパラギンに置換
(65)配列番号1の77番目のバリンがアスパラギン酸またはリジンに置換
(66)配列番号1の78番目のアスパラギンがセリンまたはグリシンに置換
(67)配列番号1の80番目のセリンがアラニンに置換
(68)配列番号1の84番目のアルギニンがセリンに置換
(69)配列番号1の88番目のグリシンがセリンに置換
(70)配列番号1の89番目のロイシンがグルタミンまたはプロリンに置換
(71)配列番号1の90番目のセリンがグリシンに置換
(72)配列番号1の92番目のアルギニンがシステインまたはロイシンに置換
(73)配列番号1の96番目のイソロイシンがバリンまたはリジンに置換
(74)配列番号1の97番目のグルタミンがロイシンまたはリジンに置換
(75)配列番号1の101番目のヒスチジンがロイシンに置換
(76)配列番号1の102番目のアルギニンがセリンまたはロイシンに置換
(77)配列番号1の103番目のグリシンがアスパラギン酸またはセリンに置換
(78)配列番号1の111番目のセリンがアラニンに置換
(79)配列番号1の114番目のフェニルアラニンがアラニン、イソロイシン、メチオニン、プロリン、スレオニンまたはバリンに置換
(80)配列番号1の115番目のスレオニンがイソロイシンまたはフェニルアラニンに置換
(81)配列番号1の118番目のグルタミン酸がアスパラギン酸に置換
(82)配列番号1の121番目のアラニンがスレオニンまたはバリンに置換
(83)配列番号1の128番目のリジンがアルギニンまたはグリシンに置換
(84)配列番号1の129番目のアスパラギン酸がグリシンに置換
(85)配列番号1の131番目のロイシンがグルタミンに置換
(86)配列番号1の133番目のチロシンがヒスチジンまたはアルギニンに置換
(87)配列番号1の134番目のアスパラギンがセリンに置換
(88)配列番号1の137番目のチロシンがフェニルアラニンに置換
(89)配列番号1の138番目のチロシンがヒスチジンに置換
(90)配列番号1の139番目のアルギニンがヒスチジンに置換
(91)配列番号1の140番目のアスパラギンがアスパラギン酸に置換
(92)配列番号1の141番目のグリシンがアスパラギン酸またはバリンに置換
(93)配列番号1の142番目のリジンがグルタミン酸またはアルギニンに置換
(94)配列番号1の144番目のフェニルアラニンがイソロイシンに置換
(95)配列番号1の147番目のフェニルアラニンがセリンに置換
(96)配列番号1の148番目のヒスチジンがアルギニンまたはグルタミンに置換
(97)配列番号1の149番目のトリプトファンがアルギニンに置換
(98)配列番号1の151番目のセリンがスレオニンに置換
(99)配列番号1の152番目のアスパラギンがスレオニン、イソロイシンまたはプロリンに置換
(100)配列番号1の154番目のスレオニンがセリンに置換
(101)配列番号1の156番目のロイシンがヒスチジンに置換
(102)配列番号1の157番目のリジンがアルギニンに置換
(103)配列番号1の159番目のアスパラギンがスレオニンまたはアスパラギン酸に置換
(104)配列番号1の160番目のイソロイシンがスレオニン、バリンまたはロイシンに置換
(105)配列番号1の161番目のセリンがスレオニンに置換
(106)配列番号1の165番目のスレオニンがメチオニンに置換
(107)配列番号1の171番目のメチオニンがスレオニンに置換
(108)配列番号1の173番目のリジンがアルギニンに置換
(109)配列番号1の174番目のヒスチジンがグルタミンに置換
(110)配列番号1の177番目のスレオニンがセリンに置換
(111)配列番号1の181番目のイソロイシンがスレオニンに置換
(112)配列番号1の182番目のセリンがスレオニン、ロイシン、バリンまたはグルタミン酸に置換
(113)配列番号1の184番目のスレオニンがセリンに置換
(114)配列番号1の190番目のプロリンがセリンに置換
(115)配列番号1の193番目のバリンがロイシンに置換
(116)配列番号1の195番目のアスパラギンがアラニンに置換
(117)配列番号1の196番目のアラニンがセリンに置換
(118)配列番号1の198番目のバリンがグリシンまたはメチオニンに置換
(119)配列番号1の199番目のスレオニンがアラニンに置換
(120)配列番号1の200番目のセリンがグリシンまたはアルギニンに置換
(121)配列番号1の202番目のロイシンがメチオニンに置換
(122)配列番号1の203番目のロイシンがヒスチジン、グルタミン、チロシン、アルギニン、プロリンに置換
(123)配列番号1の204番目のグルタミン酸がバリンに置換
(124)配列番号1の207番目のロイシンがグルタミン、ヒスチジンまたはアルギニンに置換
(125)配列番号1の209番目のスレオニンがアラニンに置換
(126)配列番号1の211番目のセリンがアルギニンまたはグリシンに置換
(127)配列番号1の213番目のグルタミン酸がバリンまたはイソロイシンに置換
(128)配列番号1の215番目のリジンがアルギニンまたはグルタミン酸に置換
(129)配列番号1の217番目のロイシンがアルギニンまたはグルタミンに置換
(130)配列番号1の218番目のロイシンがイソロイシン、メチオニンまたはリジンに置換
(131)配列番号1の219番目のグルタミンがプロリンまたはアルギニンに置換
(132)配列番号1の223番目のロイシンがアルギニン、グルタミンまたはメチオニンに置換
(133)配列番号1の224番目のグルタミンがアルギニンに置換
(134)配列番号1の225番目のロイシンがグルタミンに置換
(135)配列番号1の227番目のフェニルアラニンがイソロイシンに置換
(136)配列番号1の230番目のチロシンがヒスチジンまたはフェニルアラニンに置換
(137)配列番号1の231番目のメチオニンがリジンまたはアルギニンに置換
(138)配列番号1の233番目のセリンがグリシンまたはアスパラギンに置換
(139)配列番号1の234番目のリジンがグルタミン酸に置換
(140)配列番号1の240番目のアスパラギンがグリシンに置換
(141)配列番号1の244番目のグルタミン酸がバリンに置換
(142)配列番号1の245番目のチロシンがヒスチジンまたはグルタミン酸に置換
(143)配列番号1の246番目のグルタミンがアルギニンまたはリジンに置換
(144)配列番号1の248番目のロイシンがイソロイシンに置換
(145)配列番号1の249番目のスレオニンがアラニンまたはセリンに置換
(146)配列番号1の250番目のアラニンがバリンに置換
(147)配列番号1の251番目のアルギニンがセリンに置換
(148)配列番号1の252番目のアルギニンがヒスチジンに置換
(149)配列番号1の253番目のグルタミン酸がグリシンに置換
(150)配列番号1の257番目のロイシンがアルギニンまたはグルタミンに置換
(151)配列番号1の261番目のグルタミン酸がバリンまたはアラニンに置換
(152)配列番号1の262番目のアラニンがバリンに置換
(153)配列番号1の263番目のアラニンがセリンに置換
(154)配列番号1の264番目のスレオニンがセリンに置換
(155)配列番号1の265番目のグルタミン酸がアラニンまたはグリシンに置換
(156)配列番号1の268番目のアスパラギンがセリン、イソロイシンまたはスレオニンに置換
(157)配列番号1の270番目のロイシンがヒスチジン、アルギニンまたはバリンに置換
(158)配列番号1の271番目のリジンがアルギニンに置換
(159)配列番号1の272番目のアルギニンがグルタミンに置換
(160)配列番号1の277番目のグルタミン酸がバリンに置換
(161)配列番号1の279番目のグルタミンがアルギニンまたはヒスチジンに置換
(162)配列番号1の282番目のグリシンがアスパラギン酸に置換
(163)配列番号1の283番目のロイシンがプロリンに置換
(164)配列番号1の285番目のロイシンがアルギニンまたはヒスチジンに置換
(165)配列番号1の286番目のプロリンがグルタミン、アルギニンまたはグルタミン酸に置換
(166)配列番号1の287番目のスレオニンがイソロイシン、プロリン、アラニンまたはバリンに置換
(167)配列番号1の288番目のプロリンがアラニン、セリンまたはスレオニンに置換
(168)配列番号1の289番目のバリンがアラニン、アスパラギン酸、グリシン、ロイシンまたはイソロイシンに置換
本発明のタンパク質は、前述したFc結合性タンパク質を化学修飾して負電荷を有する解離基を導入することで得ることができる。前記化学修飾はFc結合性タンパク質を発現する宿主の培養液の段階で行なってもよいし、Fc結合性タンパク質を高度に精製した段階で行なってもよいし、その中間段階で行なってもよい。なおFc結合性タンパク質の精製は、遠心分離、限外ろ過、硫酸アンモニウム沈殿分画、カラムクロマトグラフィー等様々な方法を組み合わせることで、目的の純度に達するまで行なえばよい。
【0022】
本発明における負電荷を有する解離基は、カルボキシル基、硫酸基、または硝酸基等があげられるが、その中でもカルボキシル基が好ましく用いられる。本発明のタンパク質は前記解離基を有する化合物をFc結合性タンパク質に作用させることで得ることができる。前記化合物のうち、カルボキシル基を有する化合物としてはモノヨード酢酸に代表されるハロアルキル酸や無水コハク酸に代表される複数のカルボキシル基を有する酸の無水物が例示される。前記化合物で処理することにより、Fc結合性タンパク質のうち、リジン残基のアミノ基、ヒスチジン残基のイミダゾール基、システイン残基のチオール基、チロシン残基のフェノール基、セリンまたはスレオニン残基の水酸基等が、各基の反応性に応じてランダムに修飾される。化学修飾を行なうアミノ酸残基の場所については、Fc結合性タンパク質が有する抗体結合活性を失わず、かつ安定性が向上する範囲であれば、特に限定はない。化学修飾を行なう際の温度、pH、塩濃度、Fc結合性タンパク質と前記化合物との比率、反応時間等については、Fc結合性タンパク質、使用する化合物、必要な安定性等を考慮し適宜設定すればよい。無水コハク酸で処理する方法の一例として、Fc結合性タンパク質に対し10等量以上(好ましくは10から65等量、さらに好ましくは20から40等量)の無水コハク酸で、23℃で2時間、0.6M HEPES緩衝液(pH9.0)中で処理する方法があげられ、当該処理によりアルカリ性溶液(例えば、100mM以下の水酸化ナトリウム水溶液)に対する耐性が向上したFc結合性タンパク質を得ることができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明のタンパク質は、Fc結合性タンパク質を化学修飾して負電荷を有する解離基を導入することで得ることができる。本発明のタンパク質は、化学修飾のないFc結合性タンパク質と比較し、特にアルカリ環境下において、高い安定性を示す。また本発明のタンパク質は、その特徴である免疫グロブリンのFc領域への特異的結合活性は保持している。そのため本発明のタンパク質は、医薬品、臨床検査薬、バイオセンサー、またはアフィニティーリガンド(分離剤)といった様々な用途に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】ヒトFcγRIの構造を示す概略図。
【図2】無水コハク酸または無水酢酸で処理したFc結合性タンパク質の抗体結合活性をELISA法で解析した結果。図中、黒丸は無水コハク酸で処理した結果を、白丸は無水酢酸で処理した結果を、それぞれ示す。
【図3】無水コハク酸または無水酢酸で処理したFc結合性タンパク質のSDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動写真。図中、レーン1は未処理のFc結合性タンパク質の、レーン2は1.3等量の無水コハク酸または無水酢酸で処理したFc結合性タンパク質の、レーン3は2.5等量の無水コハク酸または無水酢酸で処理したFc結合性タンパク質の、レーン4は5等量の無水コハク酸または無水酢酸で処理したFc結合性タンパク質の、レーン5は10等量の無水コハク酸または無水酢酸で処理したFc結合性タンパク質の、レーン6は20等量の無水コハク酸または無水酢酸で処理したFc結合性タンパク質の、レーン7は40等量の無水コハク酸または無水酢酸で処理したFc結合性タンパク質の、レーン8は62.5等量の無水コハク酸または無水酢酸で処理したFc結合性タンパク質の、それぞれ電気泳動写真である。
【図4】無水コハク酸または無水酢酸で処理したFc結合性タンパク質のNative−ポリアクリルアミドゲル電気泳動写真。図中のレーン番号は図3と同じである。
【図5】無水コハク酸または無水酢酸で処理したFc結合性タンパク質のアルカリ性溶液(100mM水酸化ナトリウム水溶液)に対する耐性を評価した結果。図中、白丸は無水コハク酸20等量で処理したFc結合性タンパク質の、黒丸は無水コハク酸40等量で処理したFc結合性タンパク質の、白三角は無水酢酸20等量で処理したFc結合性タンパク質の、黒三角は無水酢酸40等量で処理したFc結合性タンパク質の、×は未処理のFc結合性タンパク質の、それぞれ結果である。
【実施例】
【0025】
以下に実施例をあげて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲で、任意に変更が可能であることはいうまでもない。
【0026】
実施例1 Fc結合性タンパク質の調製
(A)配列番号2に記載のアミノ酸配列からなるFc結合性タンパク質をコードする、配列番号3に記載のヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドを、公知の方法(例えば特許文献1の方法)により、プラスミドpTrc99aのNcoIサイトとHindIIIサイトの間に挿入することで、発現ベクター(pTrcperBFcRm32)を作製した。なお、配列番号2のうち、1番目のメチオニンから26番目のアラニンまでがMalEシグナルペプチド、27番目のリジンから33番目のグリシンまでがリンカーペプチド、34番目のグルタミンから307番目のバリンまでがFc結合性タンパク質FcRm32のアミノ酸配列、308番目から313番目のヒスチジンがポリヒスチジンタグである。またFcRm32は、配列番号1に記載のアミノ酸配列からなるヒト天然型FcγRIのうち、16番目のグルタミンから289番目のバリンまでの領域に相当し、かつ、下記に示すアミノ酸置換を行なったFc結合性タンパク質である。
(1)配列番号1の20番目のスレオニンをプロリンに置換
(2)配列番号1の25番目のスレオニンをリジンに置換
(3)配列番号1の36番目のグルタミン酸をグリシンに置換
(4)配列番号1の38番目のスレオニンをセリンに置換
(5)配列番号1の45番目のバリンをアラニンに置換
(6)配列番号1の46番目のロイシンをプロリンに置換
(7)配列番号1の49番目のプロリンをセリンに置換
(8)配列番号1の60番目のグリシンをアスパラギン酸に置換
(9)配列番号1の63番目のスレオニンをイソロイシンに置換
(10)配列番号1の65番目のスレオニンをアラニンに置換
(11)配列番号1の69番目のセリンをスレオニンに置換
(12)配列番号1の71番目のアルギニンをヒスチジンに置換
(13)配列番号1の77番目のバリンをグルタミン酸に置換
(14)配列番号1の78番目のアスパラギンをアスパラギン酸に置換
(15)配列番号1の100番目のイソロイシンがバリンに置換
(16)配列番号1の114番目のフェニルアラニンがロイシンに置換
(17)配列番号1の133番目のチロシンをヒスチジンに置換
(18)配列番号1の139番目のアルギニンをヒスチジンに置換
(19)配列番号1の149番目のトリプトファンをアルギニンに置換
(20)配列番号1の156番目のロイシンをプロリンに置換
(21)配列番号1の160番目のイソロイシンをスレオニンに置換
(22)配列番号1の163番目のアスパラギンをセリンに置換
(23)配列番号1の173番目のリジンをアルギニンに置換
(24)配列番号1の181番目のイソロイシンをスレオニンに置換
(25)配列番号1の195番目のアスパラギンをスレオニンに置換
(26)配列番号1の203番目のロイシンをヒスチジンに置換
(27)配列番号1の206番目のアスパラギンをスレオニンに置換
(28)配列番号1の207番目のロイシンをグルタミンに置換
(29)配列番号1の231番目のメチオニンをリジンに置換
(30)配列番号1の240番目のアスパラギンをアスパラギン酸に置換
(31)配列番号1の283番目のロイシンをヒスチジンに置換
(32)配列番号1の285番目のロイシンをグルタミンに置換
(B)(A)で作製した発現ベクターpTrcperBFcRm32を用いて、公知の方法(例えば特許文献1の方法)により、大腸菌W3110株を形質転換した。
(C)形質転換体を、100mLの2×YT培地(バクトトリプトン:16g/L、酵母エキス:10g/L、塩化ナトリウム:5g/L、アンピシリン:0.1mg/L)を入れた、500mL容バッフル付三角フラスコに植菌し、30℃で16時間、毎分130回の回転速度、回転半径1インチで前培養を行なった。
(D)表1に示す培地組成のうち、酵母エキス、リン酸三ナトリウム十二水和物およびリン酸水素二ナトリウム十二水和物を投入した培地約1.4Lを3Lの発酵槽に入れ、121℃で20分間滅菌後、表1に示す残りの培地成分を添加し、さらに(A)の前培養液90mLを添加して、本培養を行なった。培養装置はエイブル社製BMS−03PIを使用し、通気した空気速度は1.8L/分に、培養温度は30℃に、pHは6.9から7.1にそれぞれ設定し、培養中におけるpHの変動は、14%アンモニア水または50%リン酸の添加により前記範囲に制御した。培養中はグルコース分析計(YSI社製2700)を用いて定期的にグルコース濃度を測定した。炭素源の供給には700g/Lのグルコースを、窒素源の供給には400g/Lの酵母エキス(オリエンタル酵母工業製)を、それぞれ使用した。供給は、炭素源の溶液と窒素源の溶液を容量比1:1で混合して行なった。エイブル社製DO(溶存酸素)電極による信号を、エイブル社製培養制御プログラムをインストールしたパーソナルコンピューターにより検出することで、本培養初期に投入したグルコース(20g/L)が消費されたことを検知し、溶存酸素濃度が40%飽和を超えた時点で流加ポンプを起動してグルコース350g/L、酵母エキス200g/Lの混合液を供給した。供給にはワトソン・マーロウ社製定量ポンプ101Uの高速型を使用した。微生物の増殖は培養液の600nmの濁度(OD600nm)により測定した。
【0027】
【表1】

【0028】
(E)OD600nmが90に達したとき、すなわち培養開始10時間後に培養温度を25℃に下げ、IPTGを終濃度0.5mMとなるよう培養液に添加することで、Fc結合性タンパク質の生産誘導をかけた。
【0029】
48時間培養を行なったところ、培養液の濁度は160に達した。予め求めた濁度と菌体密度の相関式より、乾燥菌体収量は培養液1Lあたり46gと求められた。なお、グルコース濃度は、グルコースと酵母エキスの供給を開始した、培養開始8時間後から培養終了(48時間後)までの期間中、0から0.1g/Lに維持された。また、培養終了後の培養液に含まれるFc結合性タンパク質(ヒトFcγRI)の生産量を特許文献6に記載のELISA法により定量した結果、培養液1Lあたり1100mgであった。
【0030】
実施例2 FcRの精製
(A)実施例1の培養液1Lより、日立冷却遠心機CR20GIIおよびローターRPR−9−2を使用し、4℃において8000rpm、15分間の遠心分離を行ない、湿菌体250gを得た。
(B)得られた湿菌体を1Lの緩衝液A(50mMトリス塩酸緩衝液(pH8.0)−1mM EDTA−0.15M NaCl)に懸濁した後、0.3gのリゾチーム、Triton X−100の20%水溶液10mL、デオキシコール酸ナトリウムの1%水溶液10mLを順次添加し、引き続き0.3Mの硫酸マグネシウム水溶液20mLおよび250U/uLのベンゾナーゼ溶液(メルク社製)1μLを加え、4℃で一晩放置した。
(C)放置後、硫酸アンモニウム144gを加え、日立冷却遠心機CR20GIIおよびローターRPR−9−2を使用し、4℃において8000rpm、15分間の遠心分離を行ない、上清を回収した。
(D)回収した上清を、予め緩衝液B(50mMトリス塩酸緩衝液(pH8.0)−1mM EDTA−10w/v%硫酸アンモニウム)で平衡化した容量50mLのPhenylトヨパール650Mカラム(東ソー社製)に通過させることで、Fc結合性タンパク質を吸着させた。引き続きカラムに未吸着の不純物を、カラム通過液のUV吸収が十分に低下するまで緩衝液Bで洗浄し、緩衝液C(50mMトリス塩酸緩衝液(pH8.0)−1mM EDTA−20w/v%グリセロール)でFc結合性タンパク質を溶出した。
(E)溶出画分に純水を加えることで電気伝導度10mS/cmに調整後、さらに尿素を終濃度1Mになるように添加した。この溶液を、予め緩衝液D(20mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.0)−1mM EDTA−1M尿素)で平衡化した容量20mLのCMトヨパール650Mカラム(東ソー社製)に通過させることで、Fc結合性タンパク質を吸着させた。引き続きカラムに未吸着の不純物を、カラム通過液のUV吸収が十分に低下するまで緩衝液Dで洗浄し、緩衝液E(20mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.0)−1mM EDTA−1M尿素−1M NaCl)でFc結合性タンパク質を溶出した。
(F)溶出画分を緩衝液F(20mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.0))で平衡化した容量20mLのCMトヨパール650Mカラム(東ソー社製)に通過させることで、Fc結合性タンパク質を吸着させ、0から1MまでのNaClの濃度勾配溶出により溶出することにより、精製Fc結合性タンパク質約300mg(タンパク質溶液濃度3.55mg/mL)を得た。
【0031】
実施例3 Fc結合性タンパク質の無水コハク酸処理
(A)無水コハク酸をDMSOで希釈し、0から50mMの溶液を調製した。
(B)実施例2で調製したFc結合性タンパク質溶液1.08mLに、1M HEPES緩衝液(pH9.0)2.12mLを加えることで、濃度1.2mg/mL(4.0×10−5M)のFc結合性タンパク質溶液を調製した。
(C)調製したFc結合性タンパク質溶液100μLに(A)の無水コハク酸溶液5μL(Fc結合性タンパク質に対し無水コハク酸を1.3から62.5当量)加え、ディープウェルプレートマキシマイザー(タイテック社製)により、23℃で2時間、500rpmで振とうすることで処理を行なった。処理後、1Mトリス塩酸緩衝液(pH8.0)100μLを加えて23℃で1時間、500rpmで振とうすることで処理を停止した。
【0032】
反応後の残存活性を、特許文献6に記載のELISA法を用いて測定したところ、約10当量までは活性への影響は認められなかった。しかしながら、10当量を超える領域では、無水コハク酸当量(無水コハク酸濃度)依存的に活性が低下した。最も高濃度である無水コハク酸62.5当量の条件で修飾反応を行なった場合、Fc結合性タンパク質が有する抗体結合活性は処理前と比較し60から80%となった(図2の黒丸)。各濃度の無水コハク酸溶液で処理した後のFc結合性タンパク質を、SDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動を用いて分析した結果、いずれの溶液で修飾反応を行なっても同一の分子量を示すことを確認した(図3)。すなわち、Fc結合性タンパク質への無水コハク酸処理による、前記タンパク質の重合や分解は生じていないことが確認された。一方各濃度の無水コハク酸溶液で処理した後のFc結合性タンパク質を、SDS無添加のNativeポリアクリルアミドゲル電気泳動で分析した結果では、無水コハク酸10当量までは大きな変化はないものの、20から62.5当量では移動度が大きくなる現象が確認された(図4)。この現象は無水コハク酸処理によりカルボキシル基が付加され、付加されたFc結合性タンパク質の負電荷が増加したため電気泳動における移動度が大きくなったためである。すなわち、無水コハク酸処理によりカルボキシル基が導入されたことが確認された。
【0033】
比較例1 Fc結合性タンパク質の無水酢酸処理
無水コハク酸の代わりに無水酢酸を用いた他は、実施例3と同様に実験を行なった。無水酢酸処理した場合も、約10当量までは活性への影響は認められず、10当量を超える領域では無水酢酸当量(無水酢酸濃度)依存的に活性が低下した。最も高濃度である無水酢酸62.5当量の条件で処理を行なった場合、Fc結合性タンパク質が有する抗体結合活性は処理前と比較し30から50%となった(図2の白丸)。各濃度の無水酢酸溶液で処理した後のFc結合性タンパク質を、SDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動を用いて分析した結果、いずれの溶液で修飾反応を行なっても同一の分子量を示すことを確認した(図3)。一方各濃度の無水酢酸溶液で処理した後のFc結合性タンパク質を、SDS無添加のNativeポリアクリルアミドゲル電気泳動で分析した結果では、無水酢酸10当量までは大きな変化はないものの、20から62.5当量では移動度が大きくなる現象が確認された(図4)。しかしながら、その移動度の変化は無水コハク酸処理よりは小さかった。これは無水酢酸処理による正電荷の減少が、カルボキシル基の導入による化学修飾に由来するものではなく、むしろリジン残基のアミノ基等がアセチル化されることに由来するからである。
【0034】
実施例4 無水コハク酸処理したFc結合性タンパク質の耐アルカリ性評価
(A)実施例3に記載の方法により、Fc結合性タンパク質を、タンパク質当たり20当量または40当量の無水コハク酸で処理した。処理後、0.15M NaClを含む20mMリン酸ナトリウム緩衝液で透析し、さらに0.15M NaCl水溶液で透析することで脱塩した。
(B)脱塩後の溶液に等量の200mM水酸化ナトリウム水溶液を加え、25℃で静置保温した(水酸化ナトリウム水溶液の終濃度100mM)。静置保管中は経時的に20μLずつ回収を行なった。回収液は1Mトリス塩酸緩衝液(pH8.0)180μLをそれぞれ加えて中和し、4℃に冷却した。
(C)中和した回収液を、特許文献6に記載のELISA法を用いて残存活性を測定した。
【0035】
結果を図5の白丸(20等量の無水コハク酸で処理)および黒丸(40等量の無水コハク酸で処理)に示す。無水コハク酸処理したFc結合性タンパク質は100分処理後も約50%の活性を保持した。比較のため未処理のFc結合性タンパク質を(B)と同様の処理を行ない、残存活性を測定した。結果、水酸化ナトリウム水溶液添加後、直ちに失活することが判明した(図5の×)。また比較のため、Fc結合性タンパク質を実施例3と同様な方法で、タンパク質当たり20当量または40当量の無水酢酸にて処理したものを(B)と同様の処理を行ない、残存活性を測定した。結果、図5の白三角(20等量の無水酢酸で処理)および黒三角(40等量の無水酢酸で処理)に示すように、未処理のFc結合性タンパク質と同様、水酸化ナトリウム水溶液添加後、直ちに失活することが判明した。すなわち、Fc結合性タンパク質をアセチル化する方法では、耐アルカリ性を改善することができないことがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Fc結合性タンパク質を化学修飾して負電荷を有する解離基を導入することで、化学修飾前と比較し安定性が向上した、前記タンパク質。
【請求項2】
負電荷を有する解離基がカルボキシル基である請求項1に記載のタンパク質。
【請求項3】
カルボキシル基の導入が無水コハク酸による処理である、請求項2に記載のタンパク質。
【請求項4】
Fc結合性タンパク質に対し10等量以上の無水コハク酸で処理した、請求項3に記載のタンパク質。
【請求項5】
Fc結合性タンパク質が、
(A)配列番号1に記載のアミノ酸配列のうち少なくとも16番目のグルタミンから289番目のバリンまでのアミノ酸を含むタンパク質、または
(B)配列番号1に記載のアミノ酸配列のうち少なくとも16番目のグルタミンから289番目のバリンまでのアミノ酸を含み、かつ前記アミノ酸のうちの一つ以上が他のアミノ酸に置換、挿入または欠失したタンパク質、
である、請求項1から4のいずれかに記載のタンパク質。
【請求項6】
安定性の向上がアルカリ環境下における安定性の向上である、請求項1から5のいずれかに記載のタンパク質。
【請求項7】
アルカリ環境下が0.1mol/L以下の水酸化ナトリウム水溶液環境下である、請求項6に記載のタンパク質。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−112640(P2013−112640A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−260219(P2011−260219)
【出願日】平成23年11月29日(2011.11.29)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【Fターム(参考)】