説明

安定性の良い金属コロイドとその用途

【課題】液の安定性が良く、高濃度であって粘度変化および色調の変化が少ない金属コロイドとその用途を提供する。また、様々な基材上に容易に金属鏡面光沢領域を形成できる金属コロイドとその用途を提供する。
【解決手段】本発明の金属コロイド粒子の製造方法は、水又は有機溶媒からなる分散媒に分散して金属コロイドを形成する金属コロイド粒子の製造方法の改良であり、その特徴ある構成は、非水系において、金属化合物と所定の保護前駆体と所定のキレート剤とを混合し、混合物中の金属化合物を還元剤の存在下で還元し、脱塩することにより、分子中に窒素を含む炭素骨格を有する保護剤が窒素又は窒素を含む原子団をアンカーとして金属粒子表面に配位修飾され、保護剤にはアルコキシシリル基又はシラノール基のいずれか一方又はその双方の官能基が分子構造に含まれた金属コロイド粒子を得るところにある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はコロイド液が長期間安定であり、薄膜化に適する金属コロイドとその用途に関する。更に本発明は様々な基材上に容易に金属鏡面光沢領域を形成できる金属コロイドとその用途に関する。本発明の金属コロイドからなる薄膜はプラズマディスプレイパネルのカラーフィルターや自動車用着色ランプなど様々な用途に好適に用いることができる。
【背景技術】
【0002】
金属コロイドはその粒子径や金属種に応じた特有の発色を有するので、これを光学フィルターとして利用した光学分析用測定チップが知られている(例えば、特許文献1参照。)。この測定チップに用いられている金属コロイドは、予め金属コロイドを製造し、このコロイド分散液にシランカップリング剤を混合してコロイド表面にアミノ基を官能基として導入したものである。ところが、このように、予め金属コロイドを形成し、その後に表面保護剤をコロイド表面に導入する場合、既に金属コロイド表面に存在している付着物によって保護剤の導入が不十分になる場合がある。また、金属コロイド等を水系で合成しているので表面保護剤が加水分解等の影響を受け、コロイドの安定性が低下する。さらに、この金属コロイドに導入されるアミノ基はタンパク質や酵素などに対する官能基として用いられており、従って、アミノ基は外側に位置し、保護剤のシロキサン結合側がコロイド表面に位置している。このため、コロイド粒子の表面性状によっては保護剤とコロイド粒子表面との密着性が不十分になり、金属コロイド膜が不安定である。
【0003】
この他に、導電性インクや導電性被膜の材料として用いられる金属コロイドとして、有機成分を含む高導電性の金属コロイド水溶液が知られている(例えば、特許文献2参照。)。しかし、この金属コロイドも水系反応によって生成されるものであり、また、金属コロイドを形成した後に有機成分を混合したものであり、上記と同様の問題がある。
【0004】
また、金属コロイドを塗料組成物やガラスの着色剤として利用することも従来から知られている。例えば、高分子量顔料分散剤の存在下で金属化合物を還元して金属コロイドを製造することが知られている(例えば、特許文献3参照。)。しかし、この方法もその主な具体例は水系反応によって金属コロイドを生成させるものであり、上記と同様の問題がある。さらに、共存する高分子保護コロイドは顔料分散剤であり、シランカップリング剤からなる保護剤をコロイド粒子表面に結合させるものではない。
【0005】
さらに、塩化金酸と保護高分子とを混合して金コロイドを生成させる方法において、金属粒子表面とは逆側の末端ないし側鎖部にアミノ基を有する保護高分子を用いる製造方法が知られているが(例えば、特許文献4参照。)、この方法は一般に用いられる水素化ホウ素ナトリウムなどの還元剤を使用せずに金コロイドを生成させることを意図しており、保護高分子の還元作用を利用している。しかし、この場合には保護剤が高分子であるため有機鎖が多く、耐熱性が不十分である。
【0006】
また、従来より金粉と称して販売及び使用されてきた金インキは、偏平状黄金分粉末(銅−亜鉛合金粉)の表面に炭素数16〜22の飽和脂肪酸で処理され、平版印刷に使用されてきた。しかし、平版印刷用インキは高粘度であるため、グラビア印刷に用いる低粘度には適していない問題があった。そこで平版印刷においてもグラビア印刷のような鏡面光沢感が得られ、表面が平滑ではない紙においても、平滑な紙と同様の効果が発揮できる方策として、平均粒径10μm以下の片状黄銅金属粉100重量部に対し、0.1〜2重量部の炭素数14〜22の飽和脂肪酸と、0.1〜2重量部の炭素数14〜22の脂肪酸アミドが混合、被覆された金インキ用金粉が開示されている(例えば、特許文献5参照。)。この特許文献5では、機械粉砕法等で製造した平均粒径10μm以下の金粉に飽和脂肪酸と脂肪酸アミドを上記所定量混合した金インキを印刷用インキとして使用すると、金属間の強い優れた鏡面光沢膜が得られる。
【0007】
また、アミノ基含有アルコキシシランを使用し、熱処理によってシリカ膜を有する金属コロイドを製造する方法も知られている(例えば、非特許文献1及び2参照。)。
【0008】
しかし、この方法で用いるアミノ基含有シランは原料の塩化金酸からのコロイド生成を促進させるために用いられており、保護剤として用いているわけではない。また、この方法は熱処理によってコロイド化させるために、温度によって生成するコロイドの性状が異なり、安定した透過吸収性能を得ることができず、しかも、アルコキシド中に原料から混入する酸等によってゾルゲル液の加水分解が早まり液の寿命が短くなる傾向があり、さらに液が不安定である。
【特許文献1】特開平6−160737号公報
【特許文献2】特開2001−325831号公報
【特許文献3】特開平11−80647号公報
【特許文献4】特開2000−160210号公報
【特許文献5】特開2001−19872号公報
【非特許文献1】Extended Abstracts of 66th Fall Meeting of the Chemical Society of Japan、322頁
【非特許文献2】Proc SPIE Sol-gel Optics III、vol2288、130頁-139頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
更に、ナノサイズの金粒子を分子量の小さい保護剤により保護した金コロイドは、室温乾燥において黄金色の金属光沢が発現することが知られている。この場合の保護剤としては、炭素数1〜8のクエン酸、アジピン酸、リンゴ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸等の脂肪酸、モノメチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、モノエチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、モノプロピルアミン、イソプロピルアミン、モノブチルアミン、セカンダリーブチルアミン、ターシャリーブチルアミン、モノペンチルアミン、モノヘキシルアミン等のアミン等が挙げられる。しかし、上記保護剤を用いた金コロイドの場合、コロイド液に含有するメタル濃度は5wt%程度が上限であり、それ以上の濃度では凝集化やゲル化が起こり、安定性が極めて悪いため高濃度化ができない問題があった。例えば、金属に金を用いた金属コロイドを塗布及び自然乾燥して黄金光沢を出すには、紙のような繊維性の基材に対しては少なくとも金メタル含有濃度が20wt%以上必要である。低分子量の保護剤で保護した金属コロイドを安定性を無視して高濃度化した場合、塗布面に金属光沢は発現するものの、金の黄金光沢にはほど遠く、しかも密着性が極めて悪いため触れると簡単に剥がれてしまう問題がある。
【0010】
この問題を改善するために、金属コロイドに高分子バインダ等を添加した場合は、ナノサイズの金属粒子が表面プラズマ共鳴によるプラズモン発色(SPR:Surface Plasma)を生じ、赤から赤紫色に着色されてしまうため、黄金光沢は発現しない。
【0011】
本発明の目的は、従来の金属コロイドないしその製造方法における上記問題を解決したものであり、コロイド液が長期間安定であり、薄膜化に適する金属コロイドとその用途を提供することにある。
【0012】
本発明の別の目的は、様々な基材上に容易に金属鏡面光沢領域を形成できる金属コロイドとその用途を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
請求項1に係る発明は、水又は有機溶媒からなる分散媒に分散して金属コロイドを形成する金属コロイド粒子の製造方法の改良である。その特徴ある構成は、非水系において、金属化合物と保護前駆体であるγ-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-β(アミノエチル)γ-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-β(アミノエチル)γ-アミノプロピルメチルトリメトキシシラン又はN-β(アミノエチル)γ-アミノプロピルメチルトリエトキシシランとキレート剤であるアセチルアセトンとを混合し、混合物中の金属化合物を還元剤の存在下で還元し、脱塩することにより、分子中に窒素を含む炭素骨格を有する保護剤が窒素又は窒素を含む原子団をアンカーとして金属粒子表面に配位修飾され、保護剤にはアルコキシシリル基又はシラノール基のいずれか一方又はその双方の官能基が分子構造に含まれた金属コロイド粒子を得るところにある。
【0014】
請求項2に係る発明は、水又は有機溶媒からなる分散媒に分散して金属コロイドを形成する金属コロイド粒子の製造方法の改良である。その特徴ある構成は、非水系において、金属化合物と保護前駆体である2-アミノエタノール、2,2'-イミジノジエタノール、2,2',2''-ジメチルアミノエタノール、2-ジメチルアミノエタノール又は2-アミノ-1-ブタノールとを混合し、混合物中の金属化合物を還元剤の存在下で還元し、脱塩することにより、分子中に窒素を含む炭素骨格を有する保護剤が窒素又は窒素を含む原子団をアンカーとして金属粒子表面に配位修飾され、保護剤にはハイドロキシアルキル基が分子構造に含まれた金属コロイド粒子を得るところにある。
【0015】
保護剤が窒素又は窒素を含む原子団をアンカーとして金属粒子表面に対して強固に結合しているため、高い安定性が得られる。また保護剤の分子構造中に含まれる請求項1のアルコキシシリル基又はシラノール基、請求項2のハイドロキシアルキル基は反応性が高く、あらゆる基材に対して化学結合をする。また、金属粒子同士は自発的に自己組織化して最密充填を行い、反応性の官能基との間で縮合反応する。従って、請求項1及び2に係る金属コロイド粒子を用いた金属コロイドを基材表面に塗布して得られる塗布膜は強度が高く、粒子間で有機−無機ハイブリッドバルク化するものと考えられる。
【0016】
請求項3に係る発明は、請求項1に係る発明であって、保護前駆体として、2-アミノエタノール、2,2'-イミジノジエタノール、2,2',2''-ジメチルアミノエタノール、2-ジメチルアミノエタノール又は2-アミノ-1-ブタノールを併せて用いることにより、保護剤の分子中にハイドロキシアルキル基が更に含まれた金属コロイド粒子を得る金属コロイド粒子の製造方法である。
【0017】
請求項4に係る発明は、請求項1ないし3いずれか1項に係る発明であって、保護剤の分子中にアルキルシリル基を更に含む金属コロイド粒子の製造方法である。
【0018】
請求項5に係る発明は、請求項1又は2に係る発明であって、窒素を含む原子団がアミノ基、アミド原子団及びイミド原子団からなる群より選ばれた少なくとも1種である金属コロイド粒子の製造方法である。
【0019】
請求項6に係る発明は、請求項1ないし5いずれか1項に係る発明であって、コロイド粒子径が100nm以下であり、その形状が球状あるいは多角状を有する粒状粒子である金属コロイド粒子の製造方法である。
【0020】
請求項7に係る発明は、請求項1に係る発明であって、加熱基準温度下での色調の変化が2%以下である金属コロイド粒子の製造方法である。
【0021】
請求項8に係る発明は、請求項1ないし7いずれか1項に係る発明であって、金属粒子が金、銀、白金、パラジウム、ルテニウム、ロジウム、銅、ニッケル及びイリジウムからなる群より選ばれた1種又は2種以上である金属コロイド粒子の製造方法である。
【0022】
請求項9に係る発明は、請求項6に係る発明であって、粒子径が0.1nm以上〜60nm以下である金属コロイド粒子の製造方法である。
【0023】
請求項10に係る発明は、請求項1ないし9いずれか1項に記載の方法により得られた金属コロイド粒子を水系又は非水系の溶媒に所定の割合で混合及び分散させたことを特徴とする金属コロイドである。
【0024】
請求項11に係る発明は、請求項1ないし9いずれか1項に記載の方法により得られた金属コロイド粒子をゾルゲル溶液に所定の割合で混合させたことを特徴とする金属コロイドである。
【0025】
請求項12に係る発明は、請求項11に係る発明であって、上記ゾルゲル溶液がシリカ、チタニア、ジルコニア、アルミナ、酸化タンタル及び酸化ニオブからなる群より選ばれた少なくとも1種の化合物を形成する溶液である金属コロイドである。
【0026】
請求項13に係る発明は、請求項1ないし9いずれか1項に記載の金属コロイド粒子を水系又は非水系の溶媒に所定の割合で混合及び分散させて金属コロイドを調製し、この金属コロイドを用いて成膜したことを特徴とする金属コロイド薄膜である。
【0027】
請求項14に係る発明は、請求項1ないし9いずれか1項に記載の金属コロイド粒子をゾルゲル溶液に混合して金属コロイドを調製し、金属コロイドを用いて成膜したことを特徴とする金属コロイド薄膜である。
【0028】
請求項15に係る発明は、請求項14に係る発明であって、上記ゾルゲル溶液がシリカ、チタニア、ジルコニア、アルミナ、酸化タンタル及び酸化ニオブからなる群より選ばれた少なくとも1種の化合物を形成する溶液である金属コロイド薄膜である。
【0029】
請求項16に係る発明は、請求項10ないし12いずれか1項に記載の金属コロイドを基材表面に塗布して形成させたことを特徴とする金属コロイド含有塗膜である。
【0030】
請求項17に係る発明は、請求項16に係る発明であって、基材がガラス、プラスチック、金属、木材、タイルを含むセラミック、セメント、コンクリート、石、繊維、紙及び皮革からなる群より選ばれた材質である金属コロイド含有塗膜である。
【0031】
請求項18に係る発明は、請求項10ないし12いずれか1項に記載の金属コロイド又は請求項13ないし15いずれか1項に記載の金属コロイド薄膜を基材表面に有する透明材料である。
【0032】
請求項19に係る発明は、基材表面に形成した請求項13ないし15いずれか1項に記載の金属コロイド薄膜をフィルター層とするカラーフィルターである。
【0033】
請求項20に係る発明は、請求項14又は15記載の金属コロイド薄膜を透明基材表面に有するディスプレイパネルである。
【0034】
請求項21に係る発明は、請求項14又は15記載の金属コロイドからなる耐熱性塗料である。
【0035】
請求項22に係る発明は、請求項14又は15記載の金属コロイドによって着色された自動車用ランプである。
【発明の効果】
【0036】
本発明の金属コロイド粒子の製造方法は、水又は有機溶媒からなる分散媒に分散して金属コロイドを形成する金属コロイド粒子の製造方法の改良であり、その特徴ある構成は、非水系において、金属化合物と保護前駆体であるγ-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-β(アミノエチル)γ-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-β(アミノエチル)γ-アミノプロピルメチルトリメトキシシラン又はN-β(アミノエチル)γ-アミノプロピルメチルトリエトキシシランとキレート剤であるアセチルアセトンとを混合し、混合物中の金属化合物を還元剤の存在下で還元し、脱塩することにより、分子中に窒素を含む炭素骨格を有する保護剤が窒素又は窒素を含む原子団をアンカーとして金属粒子表面に配位修飾され、保護剤にはアルコキシシリル基又はシラノール基のいずれか一方又はその双方の官能基が分子構造に含まれた金属コロイド粒子を得るところにある。また、非水系において、金属化合物と保護前駆体である2-アミノエタノール、2,2'-イミジノジエタノール、2,2',2''-ジメチルアミノエタノール、2-ジメチルアミノエタノール又は2-アミノ-1-ブタノールとを混合し、混合物中の金属化合物を還元剤の存在下で還元し、脱塩することにより、分子中に窒素を含む炭素骨格を有する保護剤が窒素又は窒素を含む原子団をアンカーとして金属粒子表面に配位修飾され、保護剤にはハイドロキシアルキル基が分子構造に含まれた金属コロイド粒子を得るところにある。本発明の金属コロイドは、上記方法により得られた金属コロイド粒子を水系又は非水系の溶媒に所定の割合で混合及び分散させ、あるいは本発明の方法により得られた金属コロイド粒子をゾルゲル溶液に所定の割合で混合させたことを特徴とする。保護剤が窒素又は窒素を含む原子団をアンカーとして金属粒子表面に強固に結合しているので、コロイド溶液が極めて安定であり、高濃度の金属コロイドを得ることができ、また粘度変化および色調の変化が少ない。さらに膜強度の大きな薄膜を形成することができる。従って、本発明の金属コロイドを用いた薄膜はカラーフィルターやディスプレーパネルなど光学材料として好適である。また、本発明の金属コロイドからなる耐熱性塗料、および本発明の金属コロイドによって着色された自動車用ランプを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0037】
以下、本発明を実施形態に基づいて具体的に説明する。
【0038】
本発明の第1の金属コロイド粒子の製造方法は、水又は有機溶媒からなる分散媒に分散して金属コロイドを形成する金属コロイド粒子の製造方法であり、その特徴ある構成は、金属コロイド粒子が、分子中に窒素を含む炭素骨格を有する保護剤が窒素又は窒素を含む原子団をアンカーとして金属粒子表面に配位修飾し、保護剤がアルコキシシリル基又はシラノール基のいずれか一方又はその双方の官能基を分子構造に含むところにある。保護剤が窒素又は窒素を含む原子団をアンカーとして金属粒子表面に対して強固に結合しているため、高い安定性が得られる。またアルコキシシリル基又はシラノール基のいずれか一方又はその双方の官能基は反応性に富み、あらゆる基材に対して化学結合をする。また、金属粒子同士は自発的に自己組織化して最密充填を行い、反応性の官能基との間で縮合反応する。従って、本第1の製造方法により得られる金属コロイド粒子を用いた金属コロイドを基材表面に塗布して得られる塗布膜は強度が高く、粒子間で有機−無機ハイブリッドバルク化するものと考えられる。
【0039】
具体的に例示すると、本発明の製造方法により得られる金属コロイド粒子は、保護剤がアミノ基を含むアルコキシシランからなり、この保護剤がアミノ基の窒素をアンカーとして金属粒子表面に結合した構造を有する。アルコキシシランからなる保護剤の一端がアミノ基の窒素をアンカーとして金属粒子表面に結合していることによって、金属粒子表面に対しては保護剤が強固に結合され、安定性の良い金属コロイド液が得られる。また保護剤の他端に位置する反応性の高い官能基がコロイド最表面となるため、基材との密着性に優れる。この保護剤がアミノ基の窒素をアンカーとして金属粒子表面に結合していることは、例えばNMR、GPC、TG−DTA、FT−IR、XPS、TOF−SIMS等の分析手段などによって確認することができる。なお、本発明の第1の金属コロイド粒子の製造方法では、保護剤の分子中にハイドロキシアルキル基を更に含んでもよい。
【0040】
本発明の第2の金属コロイド粒子の製造方法は、水又は有機溶媒からなる分散媒に分散して金属コロイドを形成する金属コロイド粒子の製造方法の改良であり、その特徴ある構成は、金属コロイド粒子は、分子中に窒素を含む炭素骨格を有する保護剤が窒素又は窒素を含む原子団をアンカーとして金属粒子表面に配位修飾し、保護剤がハイドロキシアルキル基を分子構造に含むところにある。この第2の製造方法により得られる金属コロイド粒子は、保護剤が窒素又は窒素を含む原子団をアンカーとして金属粒子表面に結合していることによって、金属粒子表面に対して保護剤が強固に結合され、安定性の良い金属コロイド粒子が得られ、保護剤に含まれるハイドロキシアルキル基も上述したアルコキシシリル基、シラノール基のように反応性の官能基であり、このハイドロキシアルキル基が金属コロイドの最表面となるため、基材との密着性に優れる。
【0041】
また本発明の第1及び第2の金属コロイド粒子の製造方法では、保護剤の分子中にアルキルシリル基を更に含んでもよい。保護剤中の窒素を含む原子団としては、アミノ基、アミド原子団及びイミド原子団からなる群より選ばれた少なくとも1種が挙げられる。金属コロイド粒子のコロイド粒子径は100nm以下であり、その形状が球状あるいは多角状を有する粒状粒子である。本発明の第1及び第2金属コロイド粒子の製造方法では、非水系において、分子中に窒素を含む炭素骨格を有する保護剤と金属化合物とを混合し、還元剤の存在下で金属化合物を還元することによって、窒素又は窒素を含む原子団をアンカーとして保護剤を金属粒子表面に結合している。
【0042】
本発明の金属コロイド粒子の製造方法における、具体的な製法の一例としては、非水系において、アミノ基を含むアルコキシシランと金属化合物とを混合し、還元剤の存在下で金属化合物を還元することによって、アミノ基の窒素をアンカーとして上記アルコキシシランからなる保護剤が金属粒子表面に結合した金属コロイド粒子を得ることができる。
【0043】
アミノ基を含むアルコキシシランの存在下で非水系の還元反応によって金属コロイド粒子を生成させる。非水系とは金属化合物の水溶液中で金属還元を行わずに、アミノ基含有アルコキシシランやアルコールなどの有機溶液中で金属化合物の金属還元を行うことを云う。従来の製造方法のように、水溶液中の還元反応によって金属コロイド粒子を生成させた後にアミノ基含有アルコキシシランを結合させる方法では、水中にアルコキシシランが曝されるため、加水分解の影響によって置換反応が進まない場合や、たとえ置換反応が進んでも、その後の加水分解によって安定性が損なわれ、本発明の金属コロイド粒子を得るのは難しい。
【0044】
β-ジケトンなどのキレート剤を用い、アミノ基を含むアルコキシシランがキレート剤によってキレート配位させた金属コロイド粒子は加水分解反応を遅延させる効果があり、さらに安定性が増す。
【0045】
アルコキシシランは、1個または2個のアミノ基を含有し、かつnが1以上〜3以下の有機鎖(−CH2−)nを有するものが好ましい。3個以上のアミノ基を有するアルコキシシランは有機鎖が長くなり、その結果、焼成後の色安定性に問題が発生するだけでなく、一般に合成が困難であり、高価である。また、有機鎖のnが3以上の場合にも有機鎖が長くなり熱安定性が減少する。
【0046】
具体的には、本発明で用いるアミノ基を有するアルコキシシランとしては、例えば、γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ-アミノプロピルトリエトキシシランなどが挙げられる。これらの保護剤(アミノ基含有アルコキシシラン)の量は金属量に対してモル比で2倍から40倍であればよい。
【0047】
金属粒子の金属種は、例えば、金、銀、白金、パラジウム、ルテニウム、ロジウム、銅、ニッケル及びイリジウムからなる群より選ばれた1種または2種以上が挙げられる。これらの金属粒子を生成させる金属化合物としては、塩化金酸、シアン化金カリウム、塩化銀、硝酸銀、硫酸銀、シアン化銀、塩化白金酸、テトラクロロヘキサアミン白金、硝酸パラジウム、塩化パラジウム、塩化イリジウム酸、塩化イリジウム、塩化ルテニウム、硝酸ルテニウム、塩化ロジウム、硝酸ロジウム、硫酸ニッケル、塩化ニッケルなどの金属塩を用いることができる。
【0048】
還元剤としては、水素化ホウ素ナトリウム、トリメチルアミンボラン、ジメチルアミンボラン、ターシャリーブチルアミンボラン、2級アミン、3級アミンなどを用いることができる。
【0049】
本発明の製造方法で得られる金属コロイド粒子は、保護剤がアミノ基の窒素をアンカーとして金属粒子表面に結合しているので金属コロイド液が安定であり、例えば、後述の実施例に示すように、初期粘度20/Cpに対して、80日以内の粘度が25〜30/Cp以下であり、初期粘度に対する粘度変化(80日以内の経時粘度/初期粘度)が1.5以下(実施例では1.25〜1.50)である。
【0050】
さらに、本発明は高濃度の金属コロイドを得ることができる。従来の方法によって得られる金属コロイド濃度は概ね1wt%以下であるが、本発明においては濃度10wt%以上の金属コロイドを得ることができる。しかも、このような高濃度の金属コロイドにおいてもコロイド液が安定であり、前述したように粘度変化が小さい。例えば、金の金属コロイドの場合、金濃度は0.1wt%〜95wt%の範囲内で安定であり、分散媒には有機溶剤でも水でも扱うことができる。金属コロイド中の金濃度は、10wt%〜60wt%の範囲内がより好ましい。
【0051】
さらに、本発明の金属コロイドないしその薄膜は優れた耐熱性を有する。具体的には、加熱基準温度、例えば300℃〜400℃前後の加熱下に400時間保持しても色調が殆ど変化しない。後述の実施例では、バインダーとしてシリカゾルに金属コロイドを添加し、スピンコートでガラス基板に成膜し、これを300℃で透過率を測定したが変化は殆ど見られなかった。
【0052】
また、本発明の金属コロイド粒子は、粒子径が例えば0.1nm以上〜60nm以下であるものは安定性に優れる。粒子径が60nmより大きいと自重によって自然沈降する現象が見られる。また粒子径が0.1nm未満では発色効果が小さくなる。
【0053】
本発明の金属コロイドは、前述した本発明の製造方法で得られる金属コロイド粒子を水系又は非水系の溶媒に所定の割合で混合及び分散させ、あるいは本発明の製造方法で得られる金属コロイド粒子をゾルゲル溶液に所定の割合で混合させたことを特徴とする。溶媒は水系でも非水系でもよく、混合割合も任意に調整できる。ゾルゲル溶液としてはシリカ、チタニア、ジルコニア、アルミナ、酸化タンタル及び酸化ニオブからなる群より選ばれた少なくとも1種の化合物を形成する溶液を用いることができる。これらのバインダーを用いることによって、バインダー中での金属の分散が均一化し、所望の特性を有効に利用することができる。例えば、金コロイドでは、その均一分散によって510nm付近での吸収を利用した赤色フィルターを実現できる。また、バインダーが耐熱性を有する場合にはその効果はより一層大きくなる。
【0054】
本発明の金属コロイド薄膜は、金属コロイドを用いて成膜することで形成することができるが、その成膜方法は特に限定されない。例えば、上記金属コロイド粒子を有機溶媒に分散した溶液、あるいはゾルゲル溶液に混合した溶液を基材表面に塗布して乾燥し、あるいは塗布乾燥後に焼成して薄膜を形成してもよい。本発明の金属コロイドを基材表面に塗布して形成させることで金属コロイド含有塗膜を得ることができる。基材としては、ガラス、プラスチック、金属、木材、タイルを含むセラミック、セメント、コンクリート、石、繊維、紙及び皮革からなる群より選ばれた材質が挙げられる。本発明の金属コロイドの用途は、例示すれば、書道、陶芸、ガラス細工、宗教や仏壇関係に用いられる金属顔料、水性及び油性ボールペン、ペン筆、万年筆、マーカー等のペンインキ、紙或いはフィルムへの印刷用インキ、ネールアート等の化粧装飾、配線材を形成する塗料などが挙げられる。印刷方法としては、平版印刷、グラビア印刷、カルトン印刷、金属印刷、フォーム印刷、両面印刷、オーバープリント、インクジェット印刷等が挙げられる。しかし上記用途に限定されるものではない。
【0055】
上記金属コロイドからなる薄膜はコロイド粒子に応じた色調と高い透明性を有するので、この薄膜を形成した透明材料はカラーフィルターや、プラズマディスプレイパネル(PDP)として利用することができる。さらに、ランプのガラス面に上記金属コロイド薄膜を設けることによって着色ランプを得ることができる。このランプは耐熱性に優れるので自動車用ランプに使用することができる。因みに、従来は耐熱性および色調に優れた着色剤が無いために、自動車用ランプの多くは透明ランプを使用し、外側に着色カバーを用いている。一方、本発明の金属コロイド薄膜は耐熱性および色調に優れるので、これを電球のガラス面に直接に塗布することによって、自動車用の着色ランプを得ることができる。このランプを用いれば外側に着色カバーを用いる必要がないのでデザインの自由度が格段に高まる。
【実施例】
【0056】
次に本発明の実施例を比較例とともに詳しく説明する。
【0057】
<実施例1>
アミノプロピルトリメトキシシラン15.76gとメタノールの混合溶液に、金濃度が2.5wt%になるように塩化金酸を溶解した溶液57gを徐々に投入した。さらに、このときアルコキシシランを安定化させるためにβジケトンとしてアセチルアセトン24gを添加した。続いて還元剤である水素化ホウ素ナトリウムをコロイドが生成して赤色を呈するまで適量添加した。これを限外濾過法によって脱塩し、濃度20wt%の金コロイドを得た。
【0058】
<実施例2>
表1に示す種類と使用量のシランカップリング剤、塩化金酸液、還元剤、および一部にβジケトンを用いた他は実施例1と同様にして金コロイドを得た。なお、従来の製造法による金コロイドを比較試料として表1に示した。これはクエン酸ナトリウムを保護剤兼用の還元剤として使用し、水系の還元反応によって金コロイドを製造した後にシラン化合物を添加したものであり、具体的には、クエン酸ナトリウム水溶液に塩化金酸の水溶液を混合し、加熱攪拌して金コロイドを形成し、この溶液にアミノプロピルトリメトキシシランを添加した金コロイド液である。
【0059】
<実施例3>
実施例1において製造した金コロイドを室温に保管して経時日数における粘度変化を調べた。この結果を図1のグラフに示した。一方、表1の比較試料の金コロイドについても同様の粘度試験を行った。この結果を図1のグラフに対比して示した。図示するように、本発明の金コロイドは水分を殆ど含まないので長期安定性に優れる。本例においては、初期粘度20/Cpに対して、80日以内の粘度が25〜30/Cp以下であり、初期粘度に対する粘度変化(80日以内の経時粘度/初期粘度)は1.25〜1.50であった。一方、従来の方法によって調製した比較試料は初期粘度が低いものの、10日経過前後からコロイド溶液の粘度が急激に上昇し、20日経過後には100/Cpに達し、粘度変化は10倍以上であった。
【0060】
<実施例4>
実施例1において得た金コロイドをシリカゾルに混合してコロイド濃度8wt%の溶液とし、これをガラス基板に塗布して成膜し、300℃で焼成して薄膜を形成した。この薄膜の鉛筆硬度を測定した。一方、表1の比較試料についても同様の薄膜を形成し、この薄膜の鉛筆硬度を測定した。これらの結果を表1に示した。本発明の金コロイド薄膜は何れも鉛筆硬度が7H以上(6Hで傷が生じない)であるのに対し、比較試料では1H以下(1Hで傷発生)であった。なお、本発明の薄膜の硬度は加熱使用後でも変化しなかった。
【0061】
【表1】

<実施例5>
実施例4の金コロイド液について、調製直後の透過率と400時間経過後の透過率を測定した。この結果を図2(調製直後の透過率)、図3(400時間経過後)に示した。同図に示すように、380nm〜780nmの波長域において、透過率は殆ど変化しておらず、経時安定性に優れている。また、これらの試料について色度変化を調べたところ、色度座標系においてx座標の値は測定開始時0.6685および400時間経過後0.6694(変化率0.13%)であり、y座標の値は測定開始時0.3185および400時間経過後0.3176(変化率0.31%)であって変化率が極めて小さく、この点からも経時安定性に優れることが確認された。なお、他の金属のコロイドについて同様の試験を行ったところ、何れも色調の変化は2%以下であった。
【0062】
<合成1>
先ず、金属塩として塩化金酸を、保護前駆体としてγ−アミノプロピルトリエトキシシラン、キレート剤であるβジケトンとしてアセチルアセトンを、還元剤として水素化ホウ素ナトリウムをそれぞれ用意した。塩化金酸は、金メタル換算濃度で、4.0wt%になるようにエタノールに溶解して塩化金酸溶液を調製した。
【0063】
次いで、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン8.00gとアセチルアセトン13.00gに、4.0wt%塩化金酸エタノール溶液を添加して混合液を調製した。次に、この混合液にコロイドが生成して赤色を呈するまで水素化ホウ素ナトリウムを適量添加した。還元剤の添加時には、混合液の温度を60℃に保温し、混合液をマグネチックスターラーで攪拌しながら行った。還元剤の添加後は混合液を室温にまで冷却し、その後、限外濾過法によって脱塩して金の金属コロイド粒子を得た。この金属コロイド粒子を水溶媒に添加して、濃度50wt%の水媒体の金コロイドを得た。保管容器に入れた金コロイドの写真を図4に、得られた金コロイドを原子間力顕微鏡により測定した写真を図5にそれぞれ示す。図5より明らかなように、得られた金コロイドは金属コロイド粒子同士が凝集しておらず、分散性が高いことが見て取れる。
【0064】
<合成2>
合成1と同様の反応を行い、金の金属コロイド粒子を得た。この金属コロイド粒子をエタノール溶媒に添加して、濃度50wt%のエタノール溶媒の金コロイドを得た。
【0065】
<合成3>
合成1と同様の反応を行い、金の金属コロイド粒子を得た。この金属コロイド粒子をメチルエチルケトン溶媒に添加して、濃度50wt%のメチルエチルケトン溶媒の金コロイドを得た。
【0066】
<合成4>
先ず、金属塩として塩化金酸を、保護前駆体として2−アミノエタノール、アセチルアセトンを、還元剤としてジメチルアミンボランをそれぞれ用意した。塩化金酸は、金メタル換算濃度で、4.0wt%になるようにエタノールに溶解して塩化金酸溶液を調製した。
【0067】
次いで、2−アミノエタノール9.00gとアセチルアセトン12.00gに、4.0wt%塩化金酸メタノール溶液を添加して混合液を調製した。次に、この混合液にコロイドが赤色を呈するまでジメチルアミンボランを適量添加した。還元剤の添加時には、混合液の温度を60℃に保温し、混合液をマグネチックスターラーで攪拌しながら行った。還元剤の添加後は混合液を室温にまで冷却し、その後、限外濾過法によって脱塩して金の金属コロイド粒子を得た。この金属コロイド粒子を水溶媒に添加して、濃度50wt%の水媒体の金コロイドを得た。
【0068】
<合成5>
合成4と同様の反応を行い、金の金属コロイド粒子を得た。この金属コロイド粒子をメタノール溶媒に添加して、濃度50wt%のメタノール溶媒の金コロイドを得た。
【0069】
<合成6>
合成5と同様の反応を行い、金の金属コロイド粒子を得た。この金属コロイド粒子をメチルエチルケトン溶媒に添加して、濃度50wt%のメチルエチルケトン溶媒の金コロイドを得た。
【0070】
<合成7〜合成22>
次の表2に示す金属塩、保護前駆体、還元剤及び分散媒の種類をそれぞれ変更した以外は、合成1又は合成4の反応と同様にして各種金属コロイドを得た。なお、表2中の保護前駆体として、記号(A)〜(D)及び記号(ア)〜(オ)で示した化合物を表3に示す。
【0071】
【表2】

【0072】
【表3】

<実施例6>
合成1〜22でそれぞれ得られた50wt%濃度の金属コロイドを用意し、この50wt%濃度の金属コロイドを用いて5wt%、10wt%、15wt%、20wt%、25wt%、30wt%及び40wt%にそれぞれ希釈した金属コロイドをそれぞれ調製した。次に、5wt%〜50wt%濃度にそれぞれ調製した金属コロイドを用い、墨汁用の筆を用いて和紙に所定の文字を書き、自然乾燥を施した。30wt%濃度の金属コロイドを用いて表面に文字を書いた和紙の写真を図6に示す。また、図6には和紙以外の材質の紙を用い、これらの表面に文字を書いた紙の写真も併せて示す。
【0073】
濃度が30wt%以上の金属コロイドを用いた場合、書いた文字には金属の持つ本来の色調と金属鏡面光沢が現れ、文字表面を布で擦っても金属が剥がれることはなかった。濃度が25wt%以下の金属コロイドを用いた場合でも書いた文字には金属鏡面光沢が現れたが、金属の本来の色調からずれてきた感覚を受けた。上記金属コロイドを3週間室温保存し、保存した金属コロイドを用いて再度和紙に文字を書いてみたが、保存前と同様に、書いた文字には金属の持つ本来の色調と金属鏡面光沢が現れた。
【0074】
<実施例7>
実施例6で使用した5wt%〜50wt%の金属コロイドに、ポリビニルピロリドン、ポリビニルブチラール、ポリビニルアルコールを金属重量に対して5〜15%の範囲内で混合して液を調製した。次に、調製した金属コロイドを用い、墨汁用の筆を用いて和紙に所定の文字を書き、自然乾燥を施した。
【0075】
濃度が25wt%以上の金属コロイドを用いた場合、書いた文字には金属の持つ本来の色調と金属鏡面光沢が現れ、文字表面を布で擦っても金属が剥がれることはなかった。濃度が20wt%以下の金属コロイドを用いた場合でも書いた文字には金属鏡面光沢が現れたが、金属の本来の色調からずれてきた感覚を受けた。上記金属コロイドを3週間室温保存し、保存した金属コロイドを用いて再度和紙に文字を書いてみたが、保存前と同様に、書いた文字には金属の持つ本来の色調と金属鏡面光沢が現れた。
【0076】
<実施例8>
先ず、ガラスコップ及び盆栽用の陶磁器、磁器製のコーヒーカップ及びポリカーボネート性のプラスチック板及び銀の指輪をそれぞれ用意した。次いで、実施例7で調製した金属コロイドを用い、ガラスコップ及び盆栽用の陶磁器にそれぞれ所定の模様を描いた。また磁器製のコーヒーカップ側面及びポリカーボネート性のプラスチック板表面にそれぞれ所定の文字を書いた。更に銀の指輪及び親指の爪にそれぞれ塗布した。合成8で得られた25wt%濃度の金コロイドを用いて側面に模様を付けたガラスコップの写真を図7に、表面に模様を付けた盆栽用の陶磁器の写真を図8及び図9に、側面に文字を書いた磁器製のコーヒーカップの写真を図10に、表面に文字を書いたポリカーボネート性のプラスチック板の写真を図11に、表面に塗布した銀の指輪の写真を図12に、表面に塗布した親指の爪の写真を図13にそれぞれ示す。
【0077】
濃度が15wt%以上の金属コロイドを用いた場合、金属の持つ本来の色調と金属鏡面光沢が現れ、表面を布で擦っても金属が剥がれることはなかった。濃度が10wt%以下の金属コロイドを用いた場合でも金属鏡面光沢は現れたが、金属の本来の色調からずれてきた感覚を受けた。上記金属コロイドを3週間室温保存し、保存した金属コロイドを用いて再度ガラスコップ、盆栽用の陶磁器、磁器製のコーヒーカップ、ポリカーボネート性のプラスチック板、銀の指輪及び親指の爪にそれぞれ文字や模様を書いてみたが、保存前と同様に、金属の持つ本来の色調と金属鏡面光沢が現れた。
【0078】
<実施例9>
100mm×100mm×2.8mmのソーダガラス板を用意し、このソーダガラス板表面を250〜500rpmで回転させて実施例6で調製した金属コロイドをスピンコーティングした。スピンコーティングを施したソーダガラス板の表裏面を図14及び図15にそれぞれ示す。図14及び図15から明らかなように、見る角度によって透過性と鏡面性を併せ持つミラーを得ることができた。
【0079】
<実施例10>
150mm×150mm×1mmのプラズマ処理済みガラスシートを用意し、合成10で得られた50wt%濃度金コロイドをインクジェットプリンターのインクタンクに入れてガラスシート上に線幅約2mm、長さ100mmの黄金光沢色の線を5本描画した。描画したガラスシートを350℃で10分間大気中焼成した後、黄金光沢色の線の電気抵抗値を測定したところ、その測定値は2.5×10-6Ω・cmであった。
【0080】
<比較例1>
先ず、保護剤兼還元剤としてクエン酸ナトリウムを用意し、このクエン酸ナトリウム45gと塩化金酸15gをイオン交換水240gに溶解して、100℃の還流下1時間攪拌した。得られた赤紫色の金属コロイドは、冷却後に限外濾過法によって脱塩することで金の金属コロイド粒子が得られた。この金属コロイド粒子を水溶媒に添加して、濃度10wt%の水媒体の金コロイドを調製した。上記合成を3回実施し、合計150gの金コロイドを得た。なお、金濃度が10wt%を越える金コロイドについても合成を施してみたが、得られた合成物は、不安定であり凝集してしまってコロイド化できていなかった。また水以外の媒体を用いた場合、得られた金属コロイドは凝集化してしまっていた。
【0081】
次いで、濃度10wt%の水媒体の金属コロイドを用い、墨汁用の筆を用いて和紙に所定の文字を書き、自然乾燥を施した。しかし、和紙に書いた文字は赤紫色に滲んで光沢が得られなかった。次に、上記金属コロイドにポリビニルアルコールを金属重量に対して5〜15%の範囲内で混合溶解して液を調製した。この混合液を用いて墨汁用の筆を用いて和紙に所定の文字を書き、自然乾燥を施した。しかし、和紙に書いた文字は赤紫色に滲んで光沢は得られなかった。
【0082】
次に、上記混合液を用い、実施例8と同様に、ガラスコップ及び盆栽用の陶磁器にそれぞれ所定の模様を描いた。また磁器製のコーヒーカップ側面及びポリカーボネート性のプラスチック板表面にそれぞれ所定の文字を書いた。更に銀の指輪及び親指の爪にそれぞれ塗布した。全ての基材において、上記混合液を一度塗った塗布表面は金属的な反射光沢が得られたが、金の色調とは違った紫色を帯びた金色を示した。また三度重ね塗りを施すことで、漸く金色らしい金属光沢が現れたが、本来の黄金からはかけ離れた色調であり、塗布表面を擦ると簡単にとれてしまった。また、ポリビニルアルコール添加液とシラン化合物A〜Cの添加液を上記金属コロイドにそれぞれ所定量混合した混合液を用いて、同様の塗布を施したが、得られた塗布表面は更に金とはかけ離れた色合いとなり、光沢も失われてしまっていた。またこの塗布表面においても擦ると簡単にとれてしまった。なお、これらの金属コロイドは2日で完全に凝集した。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】実施例3における金属コロイドの粘度変化を示すグラフ。
【図2】金属コロイド調製直後の透過率を示すグラフ。
【図3】金属コロイド調製後400時間熱負荷使用後の透過率を示すグラフ。
【図4】本発明の金属コロイドを保管容器に入れた図面代用写真。
【図5】合成1で得られた金属コロイド粒子の原子間力顕微鏡写真。
【図6】本発明の金属コロイドを用いて表面に文字を書いた和紙の図面代用写真。
【図7】本発明の金属コロイドを用いて側面に模様を付けたガラスコップの図面代用写真。
【図8】本発明の金属コロイドを用いて表面に模様を付けた盆栽用の陶磁器の図面代用写真。
【図9】本発明の金属コロイドを用いて表面に別の模様を付けた盆栽用の陶磁器の図面代用写真。
【図10】本発明の金属コロイドを用いて側面に文字を書いた磁器製のコーヒーカップの図面代用写真。
【図11】本発明の金属コロイドを用いて表面に文字を書いたポリカーボネート性のプラスチック板の図面代用写真。
【図12】本発明の金属コロイドを用いて表面に塗布した銀の指輪の図面代用写真。
【図13】本発明の金属コロイドを用いて表面に塗布した親指の爪の図面代用写真。
【図14】本発明の金属コロイドを用いて表面にスピンコーティングを施したソーダガラス板表面の図面代用写真。
【図15】図14に対応するソーダガラス板裏面の図面代用写真。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水又は有機溶媒からなる分散媒に分散して金属コロイドを形成する金属コロイド粒子の製造方法において、
非水系において、金属化合物と保護前駆体であるγ-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-β(アミノエチル)γ-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-β(アミノエチル)γ-アミノプロピルメチルトリメトキシシラン又はN-β(アミノエチル)γ-アミノプロピルメチルトリエトキシシランとキレート剤であるアセチルアセトンとを混合し、前記混合物中の金属化合物を還元剤の存在下で還元し、脱塩することにより、分子中に窒素を含む炭素骨格を有する保護剤が窒素又は窒素を含む原子団をアンカーとして金属粒子表面に配位修飾され、前記保護剤にはアルコキシシリル基又はシラノール基のいずれか一方又はその双方の官能基が分子構造に含まれた金属コロイド粒子を得ることを特徴とする金属コロイド粒子の製造方法。
【請求項2】
水又は有機溶媒からなる分散媒に分散して金属コロイドを形成する金属コロイド粒子の製造方法において、
非水系において、金属化合物と保護前駆体である2-アミノエタノール、2,2'-イミジノジエタノール、2,2',2''-ジメチルアミノエタノール、2-ジメチルアミノエタノール又は2-アミノ-1-ブタノールとを混合し、前記混合物中の金属化合物を還元剤の存在下で還元し、脱塩することにより、分子中に窒素を含む炭素骨格を有する保護剤が窒素又は窒素を含む原子団をアンカーとして金属粒子表面に配位修飾され、前記保護剤にはハイドロキシアルキル基が分子構造に含まれた金属コロイド粒子を得ることを特徴とする金属コロイド粒子の製造方法。
【請求項3】
保護前駆体として、2-アミノエタノール、2,2'-イミジノジエタノール、2,2',2''-ジメチルアミノエタノール、2-ジメチルアミノエタノール又は2-アミノ-1-ブタノールを併せて用いることにより、保護剤の分子中にハイドロキシアルキル基が更に含まれた金属コロイド粒子を得る請求項1記載の金属コロイド粒子の製造方法。
【請求項4】
保護剤の分子中にアルキルシリル基を更に含む請求項1ないし3いずれか1項に記載の金属コロイド粒子の製造方法。
【請求項5】
窒素を含む原子団がアミノ基、アミド原子団及びイミド原子団からなる群より選ばれた少なくとも1種である請求項1又は2記載の金属コロイド粒子の製造方法。
【請求項6】
コロイド粒子径が100nm以下であり、その形状が球状あるいは多角状を有する粒状粒子である請求項1ないし5いずれか1項に記載の金属コロイド粒子の製造方法。
【請求項7】
加熱基準温度下での色調の変化が2%以下である請求項1記載の金属コロイド粒子の製造方法。
【請求項8】
金属粒子が金、銀、白金、パラジウム、ルテニウム、ロジウム、銅、ニッケル及びイリジウムからなる群より選ばれた1種又は2種以上である請求項1ないし7いずれか1項に記載の金属コロイド粒子の製造方法。
【請求項9】
粒子径が0.1nm以上〜60nm以下である請求項6記載の金属コロイド粒子の製造方法。
【請求項10】
請求項1ないし9いずれか1項に記載の方法により得られた金属コロイド粒子を水系又は非水系の溶媒に所定の割合で混合及び分散させたことを特徴とする金属コロイド。
【請求項11】
請求項1ないし9いずれか1項に記載の方法により得られた金属コロイド粒子をゾルゲル溶液に所定の割合で混合させたことを特徴とする金属コロイド。
【請求項12】
上記ゾルゲル溶液がシリカ、チタニア、ジルコニア、アルミナ、酸化タンタル及び酸化ニオブからなる群より選ばれた少なくとも1種の化合物を形成する溶液である請求項11記載の金属コロイド。
【請求項13】
請求項1ないし9いずれか1項に記載の金属コロイド粒子を水系又は非水系の溶媒に所定の割合で混合及び分散させて金属コロイドを調製し、前記金属コロイドを用いて成膜したことを特徴とする金属コロイド薄膜。
【請求項14】
請求項1ないし9いずれか1項に記載の金属コロイド粒子をゾルゲル溶液に混合して金属コロイドを調製し、前記金属コロイドを用いて成膜したことを特徴とする金属コロイド薄膜。
【請求項15】
上記ゾルゲル溶液がシリカ、チタニア、ジルコニア、アルミナ、酸化タンタル及び酸化ニオブからなる群より選ばれた少なくとも1種の化合物を形成する溶液である請求項14記載の金属コロイド薄膜。
【請求項16】
請求項10ないし12いずれか1項に記載の金属コロイドを基材表面に塗布して形成させたことを特徴とする金属コロイド含有塗膜。
【請求項17】
基材がガラス、プラスチック、金属、木材、タイルを含むセラミック、セメント、コンクリート、石、繊維、紙及び皮革からなる群より選ばれた材質である請求項16記載の金属コロイド含有塗膜。
【請求項18】
請求項10ないし12いずれか1項に記載の金属コロイド又は請求項13ないし15いずれか1項に記載の金属コロイド薄膜を基材表面に有する透明材料。
【請求項19】
基材表面に形成した請求項13ないし15いずれか1項に記載の金属コロイド薄膜をフィルター層とするカラーフィルター。
【請求項20】
請求項14又は15記載の金属コロイド薄膜を透明基材表面に有するディスプレイパネル。
【請求項21】
請求項14又は15記載の金属コロイドからなる耐熱性塗料。
【請求項22】
請求項14又は15記載の金属コロイドによって着色された自動車用ランプ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2008−156755(P2008−156755A)
【公開日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−329057(P2007−329057)
【出願日】平成19年12月20日(2007.12.20)
【分割の表示】特願2003−195574(P2003−195574)の分割
【原出願日】平成15年7月11日(2003.7.11)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】