説明

安定状態評価装置、安定状態評価方法及び安定状態評価プログラム

【課題】複数の構造物が積み重ねられて構成された構造体における当該複数の構造物の安定状態を簡易かつ高精度に評価することのできる安定状態評価装置、方法及びプログラムを得る。
【解決手段】複数の構造物が積み重ねられて構成された構造体における当該複数の構造物のうちの安定状態の評価対象とする評価対象構造物50に対し、インパルス・ハンマー16により打撃力を与えたときの加速度応答を示す加速度応答情報を加速度計14により取得し、PC12により、取得した加速度応答情報により示される加速度振幅の最大値である最大加速度振幅値及び当該加速度応答情報により示される加速度応答の1秒当たりの振動数の平均値である平均振動数の少なくとも一方を導出し、導出した最大加速度振幅値及び平均振動数の少なくとも一方と所定閾値との比較を行い、比較結果に基づいて評価対象構造物50の安定状態を判定し、判定結果をディスプレイにより表示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、安定状態評価装置、安定状態評価方法及び安定状態評価プログラムに係り、より詳しくは、複数の構造物が積み重ねられて構成された構造体における各構造物の安定状態を評価する安定状態評価装置、安定状態評価方法及び安定状態評価プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
現存するコンクリート・ブロック積み擁壁には、老朽化したものが多く見られる。また、城壁の石垣の多くは建設後数百年が経過し、石の抜け落ちや、はらみ出しといった不具合を生じているものが多く、補修工事が数多く実施されている。
【0003】
従って、このようなコンクリート・ブロック積み擁壁、城壁等といった、コンクリート・ブロックやモルタル・ブロック、石材等の構造物が積み重ねられて構成された構造体における当該構造物の安定状態を評価することは重要であり、従来、当該構造物の安定状態を評価するための技術として以下に示すものがあった。
【0004】
まず、特許文献1には、増水時における基礎の健全性を簡便に評価できるブロック状構造物の健全度評価方法を提供することを目的として、ブロック状構造物の上端付近の2箇所に設置したセンサを用いて、前記ブロック状構造物の挙動データを取得する工程と、前記挙動データに基づいて、特定の鉛直方向成分の軌跡を図示する工程と、前記軌跡の形状から、前記ブロック状構造物の基礎の健全度を評価する工程とを有する技術が開示されている。
【0005】
また、特許文献2には、ブロック状構造物の転倒に対する健全度を評価する場合に、短い一定時間の常時微動を測定するだけで、当該構造物の転倒に対する健全度を評価するのに必要な値を求める装置を提供することを目的として、対象とする構造物の上端面に転倒に対する健全度を評価したい方向に測線をとり、その測線の両端2箇所に水平方向と鉛直方向の常時微動を計測するセンサを置き、短い一定時間の常時微動を測定し、測定した常時微動を利用して、ブロック状構造物の転倒に対する健全度を評価するR値など、その構造物の転倒に対する健全度を評価する値を求める装置であって、振動を検出するセンサと、検出した振動データをA/D変換して記録するA/D変換・記録部と、A/D変換した振動データから、その構造物の転倒に対する健全度を評価する処理部と、求めた健全度を出力する出力部とを有する技術が開示されている。
【0006】
また、特許文献3には、ブロック状構造物の転倒に対する健全度を評価する方法を提供することを目的として、ブロック状構造物上で常時微動を測定し、測定した常時微動の波形の水平方向成分と垂直方向成分により、全体の振動のなかに占めるロッキング振動の寄与率を求め、求めたロッキング振動の寄与率を用いて、任意の位置におけるロッキング振動の程度を求め、求めたロッキング振動の程度が1を越えたことをもって、該ブロック状構造物が転倒に対して不安定な状態にあると評価する技術が開示されている。
【0007】
更に、特許文献4には、橋脚等のブロック状構造物の振動波形について、水平方向と垂直方向の振動波形の相関を示す数値を求めることにより、該構造物の健全度を診断することを目的として、健全度を診断しようとする構造物の端部の常時微動を測定することにより、同じ時間の水平方向成分と垂直方向成分の振動波形を得て、該振動波形について、相関係数等の相関を示す数値を求めることにより、該構造物の基礎との結合状況を知ることができ、これにより構造物の健全度を診断することができる技術が開示されている。
【特許文献1】特開2005−283361号公報
【特許文献2】特開平9−15106号公報
【特許文献3】特開平8−5522号公報
【特許文献4】特開平6−313735号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記特許文献1〜特許文献4の各特許文献に開示されている技術では、その対象とする構造物が橋梁の橋脚等といった単一のブロック状構造物とされているため、複数の構造物が積み重ねられて構成された構造体における当該構造物を評価の対象とすることはできない、という問題点があった。
【0009】
本発明は上記問題点を解消するためになされたものであり、複数の構造物が積み重ねられて構成された構造体における当該複数の構造物の安定状態を、簡易かつ高精度に評価することのできる安定状態評価装置、安定状態評価方法及び安定状態評価プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
ここで、本発明の原理を説明する。
【0011】
本発明の発明者らは、まず、図14に示されるモルタル・ブロックを用いたモデルを作製して、コンクリート・ブロックや石材が、拘束度が高い状態(安定性が高い状態)で積み重ねられている状態を再現した実験(以下、「実験A」という。)を行った。
【0012】
具体的には、同図に示されるように、各々が直接接触した状態でモルタル・ブロックを3段に積み重ね、下から2段目のモルタル・ブロックに鉄球を打撃させ、その際のブロックの振動波形(加速度波形)を加速度計により計測した。このとき、鉄球は、鉛直方向から30°の角度まで振り上げて自由落下させることで、各計測での打撃力が極力均一となるようにした。また、加速度の計測は、モルタル・ブロックの表面に作業員の手で加速度計を接触させた状態(接着剤による接着は実施していない状態)で実施した。
【0013】
以上の条件で、3回の計測を行うことによって得られた加速度波形、及び当該加速度波形をフーリエ変換することにより得られた1秒当たりの振動数(以下、単に「振動数」という。)のスペクトルを図15に示す。ここで、同図では、加速度の最大値と平均振動数の値も示した。なお、上記平均振動数は、一例として同図右端のグラフで示されるように、加速度応答情報により示される加速度スペクトルの積算値を均等に2分割したときの境界となる振動数(加速度スペクトルの面積を均等に2分割する振動数)であるものとした。また、ここでは、同図に示されるように、1000Hz付近の振動数において加速度が収束しているため、上記積算値を2分割する加速度スペクトル(上記面積を2分割する加速度スペクトル)の適用範囲を、振動数が0Hzから1000Hzまでの範囲としている。
【0014】
振動数のスペクトルは、約100Hzと約600Hzの2つの位置にピークが見られ、1回は約100Hzで最大値を示し、残りの2回は約600Hzで最大値を示した。
【0015】
加速度が最大値を示す振動数を代表値として取り扱うと、計測毎に約100Hz又は約600Hzとなり、値が大きく異なってしまう可能性がある。よって、振動数が1000Hz以下の領域で上述したように平均振動数を定義し、これを振動数の代表値として取り扱うこととした。3回の計測波形及び平均振動数は、よく一致しており、計測の再現性が高いことが判明した。
【0016】
次に、加速度計を接着材によりモルタル・ブロックに接着し、同様の計測を行った結果を図16に示す。この場合も、3回の計測波形及び平均振動数は、よく一致しており、計測の再現性が高いことが判明した。また、図15と図16の計測結果を比較すると、よく類似していることが判明した。
【0017】
次に、本発明の発明者らは、図17に示されるモルタル・ブロックを用いたモデルを作製して、コンクリート・ブロックや石材が、はらみ出す等して、拘束度が低い状態(安定性が低い状態)で積み重ねられている状態を再現した実験(以下、「実験B」という。)を行った。
【0018】
具体的には、同図に示されるように、各ブロック間に、梱包材として市販されている、空気を閉じ込めたエアシート(気泡緩衝材:粒径10mm,高さ4mm)を介在(挿入)させた状態でモルタル・ブロックを3段に積み重ね、下から2段目のモルタル・ブロックに鉄球を打撃させ、その際のブロックの振動波形(加速度波形)を加速度計により計測した。このとき、鉄球は、鉛直方向から30°の角度まで振り上げて自由落下させることで、各計測での打撃力が極力均一となるようにし、加速度の計測を、モルタル・ブロックの表面に作業員の手で加速度計を接触させた第1の状態(接着剤による接着は実施していない状態)と、モルタル・ブロックの表面に加速度計を接着させた第2の状態の2種類の状態で実施した。
【0019】
上記第1の状態を適用して3回の計測を行うことによって得られた加速度波形、及び当該加速度波形をフーリエ変換することにより得られた振動数のスペクトルを図18に示す。また、上記第2の状態を適用して、3回の計測を行うことによって得られた加速度波形、及び当該加速度波形をフーリエ変換することにより得られた振動数のスペクトルを図19に示す。なお、図18、図19ともに、加速度の最大値と平均振動数の値も示した。
【0020】
この結果、図18及び図19ともに再現性が高く、両者のデータは、よく類似しており、計測の再現性が高いことが判明した。
【0021】
以上の実験A及び実験Bの各計測の結果、図15に示される計測結果と図16に示される計測結果がよく類似していること、図18に示される計測結果と図19に示される計測結果がよく類似していることから、加速度計は必ずしもブロックに接着する必要はなく、接着させずに接触させた状態で計測可能であることが判明した。
【0022】
また、実験Aの結果と実験Bの結果は大きく異なっており、次の2つの特徴があることが判明した。
(1)ブロックの拘束度が高い実験Aは、拘束度が低い実験Bに比較して、加速度波形の最大振幅値(以下、「最大加速度振幅値」という。)が小さい。(実験Aでは3〜4m/s程度であるのに対し、実験Bでは4〜6m/s程度。)
(2)ブロックの拘束度が高い実験Aは、拘束度が低い実験Bに比較して、平均振動数が大きい。(実験Aでは400Hz〜600Hz程度であるのに対し、実験Bでは200〜300Hz程度。)
以上の実験結果を踏まえ、次に、本発明の発明者らは、図20に模式的に示される試験モデルを作製した。
【0023】
同図に示されるように、この試験モデルは、35個のモルタル・ブロックを5段積み上げて石垣を模擬したものであり、最下段はコンクリート・スラブに石膏にて固定した。また、ブロックNo.1〜6の6個のブロックの下部にはエアシートを挿入し、石垣の拘束度が低い条件を再現した。これらの拘束度が低いブロックの安定状態が、上述した最大加速度振幅値及び平均振動数によって判定可能か否かを確認することが本試験の目的である。なお、モルタル・ブロックは、エアシートが下部に挿入されたものを除いて、幅15cm、高さ12.5cm、奥行き30cm、質量12.9kgのものを使用し、エアシートが下部に挿入されたものについては、高さ11.5cmのものを使用した。また、エアシートは、市販の梱包材(ビニール製のシートに空気を閉じ込めたもの)を高さ1cmとなるように使用した。
【0024】
試験は、モデル境界部(最下段、最上段、側部)を除いたブロックNo.1〜12の12個のモルタル・ブロックを各々インパルス・ハンマーで打撃し、そのときの加速度応答を計測することにより実施した。なお、同図におけるブロックNo.1〜12の各ブロックのブロックNo.の下に記した数値は、上記インパルス・ハンマーにより付与された打撃力(単位:N(ニュートン))である。
【0025】
次に、本発明の発明者らは、図21に模式的に示されるように、上記エアシートを、砂(ここでは、豊浦標準砂)を詰めたビニール袋(以下、「砂袋」という。)に置き換え、その上部の6個のブロック(ブロックNo.13〜18)に対して同様の試験を実施した。ここで、砂袋を挿入したのは、エアシートに比較して拘束度が高く、ブロック同士が接触している場合に比較して拘束度が低い条件でのデータを取得することが目的である。なお、同図におけるブロックNo.13〜18の各ブロックのブロックNo.の下に記した数値も、図20と同様に、インパルス・ハンマーにより付与された打撃力(単位:N(ニュートン))である。
【0026】
図22には、以上の2種類の試験モデルによる試験により得られた打撃力と最大加速度振幅値の関係を示すグラフが示されている。なお、同図では、ブロックの下部にエアシートが設けられており、拘束度が低いもの(ブロックNo.1〜6:●)、ブロックの下部に介在物がなく拘束度が高いもの(ブロックNo.7〜12:▲)、及びブロックの下部に砂袋が設けられており、拘束度が中程度のもの(ブロックNo.13〜18:■)の各拘束度別に異なるマークで示した。
【0027】
同図に示されるように、拘束度が低いブロックNo.1〜6の各ブロックの最大加速度振幅値は5.8〜7.7m/s、拘束度が高いブロックNo.7〜12の各ブロックの最大加速度振幅値は0.9〜3.8m/sで大きく異なっており、両者の違いが明瞭に確認できる。よって、最大加速度振幅値により拘束度が低いブロックを特定でき、相対的に、これらのブロックの安定状態が悪い、と判断することができる。
【0028】
一方、図23には、上記2種類の試験モデルによる試験により得られた打撃力と平均振動数の関係を示すグラフが示されている。なお、ここでは、上記平均振動数を、一例として図15に示されるように、加速度応答情報により示される加速度スペクトルの積算値を均等に2分割したときの境界となる振動数(加速度スペクトルの面積を均等に2分割する振動数)、と定義した。また、ここでは、同図に示されるように、1000Hz付近の振動数において加速度が収束しているため、上記積算値を2分割する加速度スペクトル(上記面積を2分割する加速度スペクトル)の適用範囲を、振動数が0Hzから1000Hzまでの範囲としている。
【0029】
同図に示されるように、拘束度が低いブロックNo.1〜6のブロックは、打撃力が大きいほど平均振動数が大きくなる傾向が見られるものの、他のブロックについては、このような傾向は見られない。
【0030】
拘束度が低いブロックNo.1〜6の各ブロックの平均振動数は98〜159Hz、拘束度が高いブロックNo.7〜12の各ブロックの平均振動数は202〜267Hzで大きく異なっており、両者の違いが明瞭に確認できる。よって、平均振動数により拘束度が低いブロックを特定でき、相対的に、これらのブロックの安定状態が悪い、と判断することができる。
【0031】
一方、図24には、図22及び図23に示した最大加速度振幅値及び平均振動数を正規化し、合算したものを縦軸にプロットしたグラフが示されている。なお、ここでは、上記正規化として、最大加速度振幅値については最大値が1となり、最小値が0となる正規化を適用し、平均振動数については最大値が0となり、最小値が1となる正規化を適用している。例えば、最大加速度振幅値の最大値が8m/sで、最小値が1m/sであり、5m/sを正規化する場合、(5−1)/(8−1)≒0.57となる。また、例えば、平均振動数の最大値が300Hzで、最小値が100Hzであり、200Hzを正規化する場合、(300−200)/(300−100)=0.50となる。
【0032】
図24において、縦軸の値が大きいほど(2に近づくほど)、拘束度が低く、安定状態が悪いものと判断できる。拘束度が中程度の砂袋が介在されているブロックについては、打撃力が大きいほど、正規化した最大加速度振幅値及び平均振動数の合算値が大きくなる傾向が見られるものの、他のブロックでは、このような傾向は見られない。
【0033】
同図における縦軸の値は、拘束度が低いブロックについては1.37〜1.96、拘束度が中程度のブロックについては0.85〜1.42、拘束度が高いブロックについては0.21〜0.78と値が異なっており、3種類の拘束度の違いが確認できる。このため、エアシートを介在させたものが最も安定状態が悪く、砂袋を介在させたものの安定状態は中程度であり、何も介在させなかったものが最も安定状態が良いものと判断できる。
【0034】
ところで、以上の試験では、ある力Fでモルタル・ブロックを打撃した際の加速度振幅aを利用して評価を行っている。モルタル・ブロックを打撃する力Fと加速度振幅aとの関係を厳密に定式化することは困難であるが、ここでは両者には次の(1)式で示す関係があるものと仮定している。
【0035】
F=m×a+α
=M×a (1)
ここで、Fはモルタル・ブロックを打撃する力を、mはモルタル・ブロックの質量を、aはモルタル・ブロックの加速度振幅を、αは打撃したモルタル・ブロックが、周辺のブロックから受ける力の合力を、Mは見かけのモルタル・ブロックの質量を、各々表す。なお、上記合力αは、拘束条件により値が異なり、今回の試験では、エアシートを挟んだ場合に値が小さく、エアシートがない場合に値が大きい。また、上記見かけのモルタル・ブロックの質量Mは、モルタル・ブロックから受ける合力αの影響を考慮し、モルタル・ブロックの質量mを補正した質量である。
【0036】
すなわち、図25に示すように、エアシートが介在して上下のブロックからの拘束度が小さいブロックを打撃した場合には、当然上下のブロックから受ける力は小さい。これに対して、エアシートを介在しない場合には上下のブロックから受ける力は大きい。よって、合力αの値は、エアシートを介在した条件に比較して介在しない条件の方が大きくなり、その結果、(1)式の見かけの質量Mは大きくなる。すなわち、エアシートを介在した条件では、打撃したブロック単体が振動するのに対して、介在しない条件では周辺のブロックも一緒に振動する。このため、エアシートを介在したブロックと介在しないブロックを同じ力で打撃すると、見かけの質量Mが小さい、エアシートを介在した条件の方が、介在しない条件に比較して加速度振幅αの値が大きくなる。
【0037】
図22に示したように、エアシートを介在したブロックの最大加速度振幅値は5.8〜7.7m/s、エアシートを介在しないブロックの最大加速度振幅値は0.9〜3.8m/sで、拘束条件が異なる両者で値が大きく異なっている。これは、拘束条件の違いにより、両者で見かけの質量Mの値が大きく異なることが原因と考えられる。
【0038】
上記(1)式によると、拘束条件が一定、すなわち、合力αが一定で打撃力が大きくなると、最大加速度振幅値aの値は大きくなる。しかしながら、図22では、エアシートを介在した条件とエアシートを介在しない条件のそれぞれの条件で、最大加速度振幅値が大きくばらついており、打撃力が大きくなると最大加速度振幅値も大きくなるという明瞭な相関関係は見られなかった。これらの条件で、拘束条件は厳密には一定ではなく異なっており、また、打撃力も異なっている。打撃力と最大加速度振幅値に明瞭な相関関係が見られなかったのは、最大加速度振幅値は、打撃力よりも拘束条件によって決まる見かけの質量Mの影響を強く受けるためと考えられる。
【0039】
また、図23に示したように、最大加速度振幅値と同様に、平均振動数も拘束条件によって大きく異なる傾向を示している。平均振動数も加速度振幅と同様に、(1)式のように拘束条件の影響をうけて変化するものと考えられ、打撃力よりも拘束条件に大きく依存するものと考えられる。
【0040】
モルタル・ブロック積み擁壁やコンクリート・ブロック積み擁壁は、ほぼ均一な寸法のブロックを積み上げることにより構築されている。一方、石垣は、一般に石材の寸法がばらついており、そのばらつきはモルタル・ブロック積み擁壁やコンクリート・ブロック積み擁壁よりも大きい。よって、石垣に適用する場合には、(1)式におけるブロックの質量mの違いが見かけの質量Mに影響を及ぼし、評価結果に悪影響を及ぼすことが考えられる。これを確認する目的で、図26に示すように、寸法(質量)が1倍及び2倍のモルタル・ブロックをほぼ同一の力で打撃した際の最大加速度振幅値や平均振動数を計測した。この計測結果を表1に示す。
【0041】
【表1】

寸法(質量)が2倍異なった場合の最大加速度振幅値の差は10%程度、平均振動数はやや大きく30%程度であった。このことから、見かけの質量Mは、mが2倍変化しても10〜30%程度しか変化しないことがわかる。図22や図23に示したように、拘束条件の違いによって、エアシートを介在した条件とエアシートを介在しない条件の最大加速度振幅値や平均振動数の値は非常に大きく異なっている。先に、打撃力に比較して拘束条件の方が計測結果に及ぼす影響が大きいことを述べたが、質量mについても同様の傾向があるものと考えられる。
【0042】
石垣を構成する石材ブロックの寸法差を2倍程度(経験上、この程度の値であると考える。)と考えると、石垣を構成する石の寸法が異なることにより、評価精度は若干低下するものの、実用上は問題ない範囲であると考えられる。
【0043】
以上の原理に基づき、請求項1記載の安定状態評価装置は、複数の構造物が積み重ねられて構成された構造体における安定状態の評価対象とする評価対象構造物に対し、打撃力を与えたときの加速度応答を示す加速度応答情報を取得する取得手段と、前記取得手段によって取得された加速度応答情報からの加速度振幅の最大値である最大加速度振幅値の導出、及び当該加速度応答情報からの加速度応答の1秒当たりの振動数の平均値である平均振動数の導出の少なくとも一方を行う導出手段と、前記導出手段によって導出された前記最大加速度振幅値及び前記平均振動数の少なくとも一方と予め定められた閾値との比較を行い、この比較の結果に基づいて前記評価対象構造物の安定状態を判定する判定手段と、前記判定手段による判定結果を示す情報を表示する表示手段と、を備えている。
【0044】
請求項1記載の安定状態評価装置によれば、複数の構造物が積み重ねられて構成された構造体における安定状態の評価対象とする評価対象構造物に対し、打撃力を与えたときの加速度応答を示す加速度応答情報が取得手段により取得される。
【0045】
ここで、本発明では、導出手段により、前記取得手段によって取得された加速度応答情報からの加速度振幅の最大値である最大加速度振幅値の導出、及び当該加速度応答情報からの加速度応答の1秒当たりの振動数の平均値である平均振動数の導出の少なくとも一方が行われ、判定手段により、前記導出手段によって導出された前記最大加速度振幅値及び前記平均振動数の少なくとも一方と予め定められた閾値との比較が行われ、この比較の結果に基づいて前記評価対象構造物の安定状態が判定される。
【0046】
そして、本発明では、前記判定手段による判定結果を示す情報が表示手段によって表示される。なお、上記表示手段による表示には、液晶ディスプレイ装置、プラズマ・ディスプレイ装置、有機ELディスプレイ装置、CRTディスプレイ装置等の各種ディスプレイ装置による可視表示の他、プリンタ装置等の画像形成装置による永久可視表示、音声合成装置等の音声出力装置による可聴表示が含まれる。
【0047】
すなわち、本発明では、前述した原理に基づき、最大加速度振幅値及び平均振動数の少なくとも一方と予め定められた閾値との比較結果に基づいて評価対象構造物の安定状態を判定しており、これによって、簡易かつ高精度に構造物の安定状態を評価できるようにしている。
【0048】
このように、請求項1記載の安定状態評価装置によれば、複数の構造物が積み重ねられて構成された構造体における安定状態の評価対象とする評価対象構造物に対し、打撃力を与えたときの加速度応答を示す加速度応答情報を取得し、取得した加速度応答情報からの加速度振幅の最大値である最大加速度振幅値の導出、及び当該加速度応答情報からの加速度応答の1秒当たりの振動数の平均値である平均振動数の導出の少なくとも一方を行い、導出した前記最大加速度振幅値及び前記平均振動数の少なくとも一方と予め定められた閾値との比較を行い、この比較の結果に基づいて前記評価対象構造物の安定状態を判定し、判定結果を示す情報を表示手段により表示しているので、前記複数の構造物の安定状態を、簡易かつ高精度に評価することができる。
【0049】
なお、本発明は、請求項2に記載の発明のように、前記構造物、又は当該構造物と同一種類の材料により構成された構造物を、当該構造物が安定しているものと見なすことのできる第1拘束度と、当該構造物が安定していないものと見なすことのできる第2拘束度の2つの拘束度を含む複数の拘束度を有するように設置することにより構成された試験モデルを用いた試験によって得られた前記閾値を予め記憶した記憶手段を更に備え、前記判定手段が、前記閾値を前記記憶手段から読み出して前記比較を行うものとしてもよい。
【0050】
ここで、本発明における試験モデルは、複数の前記構造物を積み重ねることによって構成してもよいし、前記構造物を1つのみ用いて構成してもよい。なお、図27には、構造物を1つのみ用いて構成した試験モデルの一例が示されている。
【0051】
なお、上記記憶手段には、RAM(Random Access Memory)、EEPROM(Electrically Erasable and Programmable Read Only Memory)、フラッシュEEPROM(Flash EEPROM)等の半導体記憶素子、スマート・メディア(SmartMedia(登録商標))、フレキシブルディスク、光磁気ディスク等の可搬記録媒体やハードディスク等の固定記録媒体、或いはネットワークに接続されたサーバ・コンピュータ等に設けられた外部記憶装置が含まれる。
【0052】
特に、請求項2に記載の発明は、請求項3に記載の発明のように、前記複数の拘束度が、前記第1拘束度と前記第2拘束度との間の拘束度である第3拘束度を更に含むものとしてもよい。これにより、より高精度に前記複数の構造物の安定状態を評価することができる。
【0053】
また、請求項3に記載の発明は、請求項4に記載の発明のように、前記試験モデルにおける、前記第1拘束度となる前記構造物の設置状態が、隣接する構造物間で介在物が存在しない状態であり、前記第2拘束度となる前記構造物の設置状態が、隣接する構造物間にエアシートを介在させた状態であり、前記第3拘束度となる前記構造物の設置状態が、隣接する構造物間に砂袋を介在させた状態であるものとしてもよい。これにより、より簡易に前記複数の構造物の安定状態を評価することができる。
【0054】
ところで、一例として図22に示したように、前記最大加速度振幅値が大きいほど、各構造物の拘束度は低く、一例として図23に示したように、前記平均振動数が小さいほど、各構造物の拘束度は低くなる。
【0055】
そこで、本発明は、請求項5に記載の発明のように、前記判定手段が、前記最大加速度振幅値と前記閾値との比較を行う場合、当該最大加速度振幅値が当該閾値以上である場合に前記評価対象構造物が不安定であるものと判定し、前記平均振動数と前記閾値との比較を行う場合、当該平均振動数が当該閾値以下である場合に前記評価対象構造物が不安定であるものと判定するものとしてもよい。これにより、より簡易かつ高精度に前記複数の構造物の安定状態を評価することができる。
【0056】
ところで、一例として図24に示したように、上記最大加速度振幅値及び上記平均振動数の各々の正規化された値の合算値が大きいほど、各構造物の拘束度は低くなる。
【0057】
そこで、本発明は、請求項6に記載の発明のように、前記判定手段が、前記最大加速度振幅値及び前記平均振動数の双方と前記閾値との比較を行う場合、前記最大加速度振幅値については値が大きくなるほど大きな値となるように正規化し、前記平均振動数については値が大きくなるほど小さな値となるように正規化して、各々の正規化された値の合算値が予め定められた第1閾値以上である場合に前記評価対象構造物が不安定であるものと判定し、前記合算値が前記第1閾値より小さな値である第2閾値以下である場合に前記評価対象構造物が安定しているものと判定するものとしてもよい。これにより、より高精度に前記複数の構造物の安定状態を評価することができる。
【0058】
また、本発明は、請求項7に記載の発明のように、前記導出手段によって前記最大加速度振幅値が導出される場合は当該最大加速度振幅値の取り得る最大値を予め記憶し、前記導出手段によって前記平均振動数が導出される場合は当該平均振動数の取り得る最小値を予め記憶した第2記憶手段と、前記導出手段によって導出された前記最大加速度振幅値及び前記平均振動数の少なくとも一方を、前記第2記憶手段により記憶されている対応する前記最大値又は前記最小値で除算して得られた値に換算する換算手段を更に備え、前記判定手段は、前記換算手段によって換算されて得られた値が1に近づくほど悪化しているものと前記評価対象構造物の安定状態を判定するものとしてもよい。これにより、前記複数の構造物の安定状態を定量的に評価することができる。
【0059】
また、本発明は、前記構造物が、コンクリート・ブロック、又はモルタル・ブロック、又は石材であるものとしてもよい。これにより、より高精度に前記複数の構造物の安定状態を評価することができる。
【0060】
また、本発明は、前記打撃力が、インパルス・ハンマーにより与えられるものとされてもよい。これにより、より簡易に前記複数の構造物の安定状態を評価することができる。
【0061】
また、前述したように、本発明は、請求項8に記載の発明のように、前記平均振動数が、前記加速度応答情報により示される加速度スペクトルの積算値を均等に2分割したときの境界となる振動数であるものとしてもよい。これにより、より高精度に前記複数の構造物の安定状態を評価することができる。
【0062】
更に、前述したように、本発明は、請求項9に記載の発明のように、前記取得手段が、加速度計を前記評価対象構造物に接触させ、かつ接着させない状態で前記加速度応答情報を取得するものとしてもよい。これにより、構造物に損傷を与えることなく当該構造物の安定状態を評価することができる。
【0063】
一方、上記目的を達成するために、請求項10記載の安定状態評価方法は、複数の構造物が積み重ねられて構成された構造体における安定状態の評価対象とする評価対象構造物に対し、打撃力を与えたときの加速度応答を示す加速度応答情報を取得し、取得した加速度応答情報からの加速度振幅の最大値である最大加速度振幅値の導出、及び当該加速度応答情報からの加速度応答の1秒当たりの振動数の平均値である平均振動数の導出の少なくとも一方を行い、導出した前記最大加速度振幅値及び前記平均振動数の少なくとも一方と予め定められた閾値との比較を行い、この比較の結果に基づいて前記評価対象構造物の安定状態を判定し、判定結果を示す情報を表示手段により表示するものである。
【0064】
従って、請求項10記載の安定状態評価方法によれば、請求項1記載の発明と同様に作用するので、請求項1記載の発明と同様に、前記複数の構造物の安定状態を、簡易かつ高精度に評価することができる。
【0065】
一方、上記目的を達成するために、請求項11記載の安定状態評価プログラムは、複数の構造物が積み重ねられて構成された構造体における安定状態の評価対象とする評価対象構造物に対し、打撃力を与えたときの加速度応答を示す加速度応答情報を取得する取得ステップと、前記取得ステップによって取得された加速度応答情報からの加速度振幅の最大値である最大加速度振幅値の導出、及び当該加速度応答情報からの加速度応答の1秒当たりの振動数の平均値である平均振動数の導出の少なくとも一方を行う導出ステップと、前記導出ステップによって導出された前記最大加速度振幅値及び前記平均振動数の少なくとも一方と予め定められた閾値との比較を行い、この比較の結果に基づいて前記評価対象構造物の安定状態を判定する判定ステップと、前記判定ステップによる判定結果を示す情報を表示手段により表示する表示ステップと、をコンピュータに実行させるものである。
【0066】
従って、請求項11記載の安定状態評価プログラムによれば、コンピュータに対して請求項1記載の発明と同様に作用させることができるので、請求項1記載の発明と同様に、前記複数の構造物の安定状態を、簡易かつ高精度に評価することができる。
【発明の効果】
【0067】
本発明によれば、複数の構造物が積み重ねられて構成された構造体における安定状態の評価対象とする評価対象構造物に対し、打撃力を与えたときの加速度応答を示す加速度応答情報を取得し、取得した加速度応答情報からの加速度振幅の最大値である最大加速度振幅値の導出、及び当該加速度応答情報からの加速度応答の1秒当たりの振動数の平均値である平均振動数の導出の少なくとも一方を行い、導出した前記最大加速度振幅値及び前記平均振動数の少なくとも一方と予め定められた閾値との比較を行い、この比較の結果に基づいて前記評価対象構造物の安定状態を判定し、判定結果を示す情報を表示手段により表示しているので、前記複数の構造物の安定状態を、簡易かつ高精度に評価することができる、という効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0068】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態の一例を詳細に説明する。
【0069】
[第1の実施の形態]
まず、図1を参照して、本発明が適用された安定状態評価システム10の構成を説明する。
【0070】
同図に示すように、本実施の形態に係る安定状態評価システム10は、当該システム10の中核的な役割を担うパーソナル・コンピュータ(以下、「PC」という。)12と、加速度計14と、インパルス・ハンマー16と、動ひずみアンプ18と、データ・レコーダ20と、記録・出力装置22とを備えている。
【0071】
加速度計14の加速度の計測結果を示す加速度情報を出力する出力端子、及びインパルス・ハンマー16による打撃力を示す打撃力情報を出力する出力端子は、共に動ひずみアンプ18の入力端子に接続されており、動ひずみアンプ18の出力端子はデータ・レコーダ20の入力部に接続されている。従って、上記加速度情報及び打撃力情報は動ひずみアンプ18によって所定のレベル範囲にまで増幅された後、データ・レコーダ20により記録される。
【0072】
一方、データ・レコーダ20の出力部はPC12の入力部に接続される一方、PC12の出力部は記録・出力装置22の入力部に接続されている。従って、PC12は、データ・レコーダ20に記録された加速度情報及び打撃力情報を読み出すことにより取得することができる一方、当該加速度情報及び打撃力情報に基づく各種情報を記録・出力装置22によって記録し、かつ出力することができる。なお、本実施の形態に係る安定状態評価システム10では、記録・出力装置22として、上記各種情報を記録するためのものとしてハードディスク装置が、上記各種情報を出力するためのものとしてプリンタが、各々搭載されているが、各種情報を記録ないし出力することができるものであれば、この装置に限らないことは言うまでもない。
【0073】
次に、図2を参照して、本システムにおいて特に重要な役割を有するPC12の電気系の要部構成を説明する。
【0074】
同図に示すように、本実施の形態に係るPC12は、PC12全体の動作を司るCPU(中央処理装置)12Aと、CPU12Aによる各種処理プログラムの実行時のワークエリア等として用いられるRAM12Bと、各種制御プログラムや各種パラメータ等が予め記憶されたROM12Cと、各種情報を記憶するために用いられる二次記憶部(ここでは、ハードディスク装置)12Dと、各種情報を入力するために用いられるキーボード12Eと、各種情報を表示するために用いられるディスプレイ12Fと、外部装置等との間の各種信号の授受を司る入出力I/F(インタフェース)12Gと、が備えられており、これら各部はシステムバスBUSにより電気的に相互に接続されている。
【0075】
従って、CPU12Aは、RAM12B、ROM12C、及び二次記憶部12Dに対するアクセス、キーボード12Eを介した各種入力情報の取得、ディスプレイ12Fに対する各種情報の表示、及び入出力I/F12Gを介した外部装置等との間の各種情報の授受を各々行うことができる。なお、入出力I/F12Gには、前述したデータ・レコーダ20及び記録・出力装置22が電気的に接続されている。
【0076】
一方、図3には、PC12に備えられた二次記憶部12Dの主な記憶内容が模式的に示されている。同図に示すように、二次記憶部12Dには、各種データベースを記憶するためのデータベース領域DBと、各種処理を行うためのプログラム等を記憶するためのプログラム領域PGと、が設けられている。
【0077】
なお、データベース領域DBには、構造体情報データベースDB1と、計測情報データベースDB2とが含まれている。
【0078】
本実施の形態に係る構造体情報データベースDB1は、一例として図4に模式的に示されるように、構造物番号及び位置の各情報が、安定状態評価システム10により評価対象としている構造体を構成する構造物毎に記憶されるように構成されている。
【0079】
上記構造物番号情報は、評価対象とする構造体に含まれる各構造物を識別するために、当該各構造物に対し、互いに異なるものとして予め付与された情報である。
【0080】
一方、本実施の形態に係る安定状態評価システム10では、一例として図5に模式的に示されるように、評価対象とする構造体に含まれる各構造物の位置を、予め定められた基準位置(同図に示す例では、左上角点の位置)に位置する構造物の位置を原点座標(1,1)としたX−Y座標系で表現する。例えば、上記基準位置に位置する構造物の右隣に隣接する構造物の位置は(2,1)であり、上記基準位置に位置する構造物の下に隣接する構造物の位置は(1,2)である。
【0081】
上記構造体情報データベースDB1における位置情報は、このX−Y座標系により対応する構造物の位置を示す情報であり、当該データベースを参照することによって、一例として図5に示されるような、評価対象とする構造体を示す画像を模式的に再現することができる。
【0082】
一方、本実施の形態に係る計測情報データベースDB2は、一例として図6に模式的に示されるように、構造物番号、打撃力、及び加速度応答の各情報が、上記構造物毎に記憶されるように構成されている。
【0083】
上記構造物番号情報は、構造体情報データベースDB1と同一のものであり、上記打撃力情報は、インパルス・ハンマー16から出力され、動ひずみアンプ18を介してデータ・レコーダ20により記憶された打撃力を示す情報であり、上記加速度応答情報は、インパルス・ハンマー16により対応する打撃力で、対応する構造物を打撃した際に加速度計14から出力され、動ひずみアンプ18を介してデータ・レコーダ20に記録された加速度応答を示す情報である。
【0084】
ところで、図1に示されるように、本実施の形態に係る安定状態評価システム10では、複数の構造物が積み重ねられて構成された構造体(図示省略。)における当該複数の構造物のうちの安定状態の評価対象とする評価対象構造物50に対し、インパルス・ハンマー16により打撃力を与えたときの加速度応答を示す加速度応答情報を加速度計14によって取得し、取得した加速度応答情報により示される加速度振幅の最大値である最大加速度振幅値を導出し、導出した最大加速度振幅値と予め定められた閾値との比較を行い、この比較の結果に基づいて評価対象構造物50の安定状態を判定するものとされている。
【0085】
このため、安定状態評価システム10では、予め評価対象構造物50と同一種類の材料により構成された構造物を用いて図20及び図21に示した試験モデルを作製し、同図を参照して前述した手順で当該試験モデルを用いた試験を実施する。そして、当該試験によって得られた打撃力及び最大加速度振幅値を用いて、一例として図22に示したものと同様の打撃力と最大加速度振幅値の関係を示すグラフを作成し、拘束度が低い状態(エアシートを介在させた状態)で得られた最大加速度振幅値と、拘束度が高い状態(介在物がない状態)で得られた最大加速度振幅値との間の値を閾値Tとして、二次記憶部12Dの所定領域に予め記憶している。
【0086】
なお、本実施の形態に係る安定状態評価システム10では、上記試験を複数の構造物に対して行っているが、これに限らず、1つの構造物のみに対して上記試験を行うものとしてもよい。
【0087】
また、本実施の形態に係る安定状態評価システム10では、上記閾値Tとして、拘束度が低い状態で得られた最大加速度振幅値の最小値と、拘束度が高い状態で得られた最大加速度振幅値の最大値の中央の値を適用しているが、これに限らず、例えば、拘束度が低い状態で得られた最大加速度振幅値の最小値を適用したり、拘束度が低い状態で得られた最大加速度振幅値の最小値と、拘束度が高い状態で得られた最大加速度振幅値の最大値との差分に対して0超1未満の値を乗算して得られた値を、拘束度が低い状態で得られた最大加速度振幅値の最小値から減算した値を適用する形態等、拘束度が低い状態で得られた最大加速度振幅値の最小値と、拘束度が高い状態で得られた最大加速度振幅値の最大値の中間の値であれば、如何なる値も適用することができる。
【0088】
更に、上記グラフは必ずしも必要ではなく、上記試験によって拘束度が低い状態で得られた最大加速度振幅値と、拘束度が高い状態で得られた最大加速度振幅値を用いた演算により、閾値Tを算出する形態としてもよいことは言うまでもない。
【0089】
次に、本実施の形態に係る安定状態評価システム10の作用を説明する。なお、ここでは、安定状態評価システム10により評価対象とする構造物が、コンクリート・ブロック積み擁壁(以下、「評価対象擁壁」という。)における複数のコンクリート・ブロック(以下、「評価対象ブロック」という。)である場合について説明する。
【0090】
まず、複数の評価対象ブロックにおける加速度応答情報を取得する際の安定状態評価システム10の作用を説明する。
【0091】
このとき、作業員は、複数の評価対象ブロックのうちの何れか1つに対して加速度計14の受感部を接触させた状態(接着しない状態)とした後、インパルス・ハンマー16により評価対象ブロックに対して打撃力を与える。
【0092】
この打撃力の付与に応じて加速度計14から加速度の計測結果を示す加速度情報が出力される一方、インパルス・ハンマー16からは上記打撃力を示す打撃力情報が出力される。
【0093】
この加速度情報及び打撃力情報は動ひずみアンプ18によって所定のレベル範囲にまで増幅された後、データ・レコーダ20により記録される。このとき、加速度情報については、インパルス・ハンマー16により打撃力が与えられた直後から時系列に順次リアルタイムで加速度計14から出力されるため、これを加速度応答情報としてデータ・レコーダ20に記録する。
【0094】
作業員は、インパルス・ハンマー16による評価対象ブロックに対する打撃を、予め定められた順に実施する。これにより、上記予め定められた順に、打撃力情報及び加速度応答情報がデータ・レコーダ20に記録されるので、PC12は、データ・レコーダ20に記録された順に応じて、対応する構造物番号に関連付けた状態で打撃力情報及び加速度応答情報を計測情報データベースDB2に登録する。
【0095】
以上の処理により、一例として図6に示される計測情報データベースDB2が構築されることになる。
【0096】
次に、図7を参照して、以上の手順により構築された計測情報データベースDB2を用いて評価対象ブロックの安定状態を評価する際の本実施の形態に係る安定状態評価システム10の作用を説明する。なお、図7は、ユーザにより、PC12に設けられているキーボード等の入力装置(図示省略。)を介して安定状態の評価の実行指示が入力された際にPC12のCPU12Aによって実行される安定状態評価処理プログラムの処理の流れを示すフローチャートであり、当該プログラムは二次記憶部12Dのプログラム領域PGに予め記憶されている。また、ここでは、錯綜を回避するために、構造体情報データベースDB1及び計測情報データベースDB2が予め構築されている場合について説明する。
【0097】
同図のステップ100では、二次記憶部12Dから閾値Tを読み出し、次のステップ102では、計測情報データベースDB2から何れか1つの評価対象ブロックに対応する打撃力情報及び加速度応答情報を読み出す。
【0098】
次のステップ104では、読み出した加速度応答情報から最大加速度振幅値Kを導出し、次のステップ106にて、導出した最大加速度振幅値Kが上記ステップ100の処理によって読み出した閾値T以上であるか否かを判定し、肯定判定となった場合はステップ108に移行して、このとき処理対象としている評価対象ブロックの構造物番号に関連付けて、当該評価対象ブロックの拘束度が相対的に低いことを示す情報(以下、「拘束度不良情報」という。)を二次記憶部12Dの所定領域に記憶し、その後にステップ110に移行する。なお、上記ステップ106において否定判定となった場合には、上記ステップ108の処理を実行することなく、ステップ110に移行する。
【0099】
ステップ110では、全ての評価対象ブロックについて上記ステップ102〜ステップ108の処理が終了したか否かを判定し、否定判定となった場合は上記ステップ102へ戻る一方、肯定判定となった時点でステップ112に移行する。なお、上記ステップ102〜ステップ110の処理を繰り返し実行する際には、それまでに処理対象としなかった評価対象ブロックを処理対象とするようにする。
【0100】
ステップ112では、以上の処理によって記憶された全ての拘束度不良情報を二次記憶部12Dから読み出すと共に、構造体情報データベースDB1から評価対象擁壁に関する全ての構造物番号情報及び位置情報を読み出し、読み出した情報に基づいて予め定められたフォーマットとされた評価結果を示す結果画面を示す情報を構成し、次のステップ114にて、構成した情報に基づいて上記結果画面をディスプレイ12Fによって表示させ、その後に本安定状態評価処理プログラムを終了する。
【0101】
図8には、本安定状態評価処理プログラムのステップ114の処理によってディスプレイ12Fにより表示された結果画面の表示状態例が示されている。同図に示されるように、本実施の形態に係る安定状態評価処理プログラムでは、拘束度不良情報が記憶されている評価対象ブロックを示す矩形領域を、他のブロックの矩形領域とは異なる状態として表示している。従って、安定状態評価システム10の利用者は、当該結果画面を参照することにより、どの評価対象ブロックが、他のブロックに比較して安定状態が相対的に劣っているのかを視覚的に、容易に把握することができる。
【0102】
以上詳細に説明したように、本実施の形態では、複数の構造物が積み重ねられて構成された構造体における安定状態の評価対象とする評価対象構造物に対し、打撃力を与えたときの加速度応答を示す加速度応答情報を取得し、取得した加速度応答情報から加速度振幅の最大値である最大加速度振幅値を導出し、導出した前記最大加速度振幅値と予め定められた閾値との比較を行い、この比較の結果に基づいて前記評価対象構造物の安定状態を判定し、判定結果を示す情報を表示しているので、前記複数の構造物の安定状態を、簡易かつ高精度に評価することができる。
【0103】
また、本実施の形態では、前記構造物と同一種類の材料により構成された構造物を、当該構造物が安定しているものと見なすことのできる第1拘束度と、当該構造物が安定していないものと見なすことのできる第2拘束度の2つの拘束度を含む複数の拘束度を有するように設置することにより構成された試験モデルを用いた試験によって得られた閾値を用いて安定状態の評価を行っているので、より高精度に前記複数の構造物の安定状態を評価することができる。
【0104】
特に、本実施の形態では、前記複数の拘束度が、前記第1拘束度と前記第2拘束度との間の拘束度である第3拘束度を更に含むものとしているので、より高精度に前記複数の構造物の安定状態を評価することができる。
【0105】
また、本実施の形態では、前記試験モデルにおける、前記第1拘束度となる前記構造物の設置状態が、隣接する構造物間で介在物が存在しない状態であり、前記第2拘束度となる前記構造物の設置状態が、隣接する構造物間にエアシートを介在させた状態であり、前記第3拘束度となる前記構造物の設置状態が、隣接する構造物間に砂袋を介在させた状態であるものとしているので、より簡易に前記複数の構造物の安定状態を評価することができる。
【0106】
また、本実施の形態では、前記最大加速度振幅値が当該閾値以上である場合に前記評価対象構造物が不安定であるものと判定しているので、より簡易かつ高精度に前記複数の構造物の安定状態を評価することができる。
【0107】
また、本実施の形態では、前記構造物がコンクリート・ブロックであるものとしているので、コンクリート・ブロックの安定状態を評価することができる。
【0108】
また、本実施の形態では、前記打撃力が、インパルス・ハンマーにより与えられるものとしているので、より簡易に前記複数の構造物の安定状態を評価することができる。
【0109】
更に、本実施の形態では、加速度計を前記評価対象構造物に接触させ、かつ接着させない状態で前記加速度応答情報を取得しているので、構造物に損傷を与えることなく当該構造物の安定状態を評価することができる。
【0110】
[第2の実施の形態]
本第2の実施の形態では、平均振動数を用いて構造物の安定状態を評価する場合の形態例について説明する。なお、本第2の実施の形態に係る安定状態評価システム10の構成、及び各データベースDB1,DB2のデータ構造は、上記第1の実施の形態に係るもの(図1〜図6参照。)と同一であるので、ここでの説明は省略する。
【0111】
本第2の実施の形態に係る安定状態評価システム10では、複数の構造物が積み重ねられて構成された構造体(図示省略。)における当該複数の構造物のうちの安定状態の評価対象とする評価対象構造物50に対し、インパルス・ハンマー16により打撃力を与えたときの加速度応答を示す加速度応答情報を加速度計14によって取得し、取得した加速度応答情報により示される加速度応答の1秒当たりの振動数の平均値である平均振動数を導出し、導出した平均振動数と予め定められた閾値との比較を行い、この比較の結果に基づいて評価対象構造物50の安定状態を判定するものとされている。
【0112】
このため、本第2の実施の形態に係る安定状態評価システム10では、予め評価対象構造物50と同一種類の材料により構成された構造物を用いて図20及び図21に示した試験モデルを作製し、同図を参照して前述した手順で当該試験モデルを用いた試験を実施する。そして、当該試験によって得られた打撃力及び平均振動数を用いて、一例として図23に示したものと同様の打撃力と平均振動数の関係を示すグラフを作成し、拘束度が低い状態(エアシートを介在させた状態)で得られた平均振動数と、拘束度が高い状態(介在物がない状態)で得られた平均振動数との間の値を閾値T’として、二次記憶部12Dの所定領域に予め記憶している。
【0113】
なお、本第2の実施の形態に係る安定状態評価システム10では、上記試験を複数の構造物に対して行っているが、これに限らず、1つの構造物のみに対して上記試験を行うものとしてもよい。
【0114】
また、本第2の実施の形態に係る安定状態評価システム10では、上記閾値T’として、拘束度が低い状態で得られた平均振動数の最大値と、拘束度が高い状態で得られた平均振動数の最小値の中央の値を適用しているが、これに限らず、例えば、拘束度が低い状態で得られた平均振動数の最大値を適用したり、拘束度が低い状態で得られた平均振動数の最大値と、拘束度が高い状態で得られた平均振動数の最小値との差分に対して0超1未満の値を乗算して得られた値を、拘束度が低い状態で得られた平均振動数の最大値に加算した値を適用する形態等、拘束度が低い状態で得られた平均振動数の最大値と、拘束度が高い状態で得られた平均振動数の最小値の中間の値であれば、如何なる値も適用することができる。
【0115】
更に、上記グラフは必ずしも必要ではなく、上記試験によって拘束度が低い状態で得られた平均振動数と、拘束度が高い状態で得られた平均振動数を用いた演算により、閾値T’を算出する形態としてもよいことは言うまでもない。
【0116】
次に、本第2の実施の形態に係る安定状態評価システム10の作用を説明する。なお、ここでは、安定状態評価システム10により評価対象とする構造物が、コンクリート・ブロック積み擁壁(評価対象擁壁)における複数のコンクリート・ブロック(評価対象ブロック)である場合について説明する。また、本第2の実施の形態に係る安定状態評価システム10における、複数の評価対象ブロックにおける加速度応答情報を取得する際の作用は、上記第1の実施の形態に係る安定状態評価システム10と同様であるので、ここでの説明は省略する。
【0117】
以下、図9を参照して、評価対象ブロックの安定状態を評価する際の本第2の実施の形態に係る安定状態評価システム10の作用を説明する。なお、図9の図7と同一の処理を行うステップについては図7と同一のステップ番号を付して、その説明を省略する。
【0118】
同図のステップ100’では、二次記憶部12Dから閾値T’を読み出し、ステップ104’では、上記ステップ102の処理によって読み出した加速度応答情報から平均振動数Sを導出し、次のステップ106’にて、導出した平均振動数Sが上記ステップ100’の処理によって読み出した閾値T’以下であるか否かを判定し、肯定判定となった場合はステップ108に移行する一方、否定判定となった場合には、上記ステップ108の処理を実行することなく、ステップ110に移行する。
【0119】
以上詳細に説明したように、本第2の実施の形態では、複数の構造物が積み重ねられて構成された構造体における安定状態の評価対象とする評価対象構造物に対し、打撃力を与えたときの加速度応答を示す加速度応答情報を取得し、取得した加速度応答情報から加速度応答の1秒当たりの振動数の平均値である平均振動数を導出し、導出した前記平均振動数と予め定められた閾値との比較を行い、この比較の結果に基づいて前記評価対象構造物の安定状態を判定し、判定結果を示す情報を表示しているので、前記複数の構造物の安定状態を、簡易かつ高精度に評価することができる。
【0120】
また、本第2の実施の形態では、前記構造物と同一種類の材料により構成された構造物を、当該構造物が安定しているものと見なすことのできる第1拘束度と、当該構造物が安定していないものと見なすことのできる第2拘束度の2つの拘束度を含む複数の拘束度を有するように設置することにより構成された試験モデルを用いた試験によって得られた閾値を用いて安定状態の評価を行っているので、より高精度に前記複数の構造物の安定状態を評価することができる。
【0121】
特に、本第2の実施の形態では、前記複数の拘束度が、前記第1拘束度と前記第2拘束度との間の拘束度である第3拘束度を更に含むものとしているので、より高精度に前記複数の構造物の安定状態を評価することができる。
【0122】
また、本第2の実施の形態では、前記試験モデルにおける、前記第1拘束度となる前記構造物の設置状態が、隣接する構造物間で介在物が存在しない状態であり、前記第2拘束度となる前記構造物の設置状態が、隣接する構造物間にエアシートを介在させた状態であり、前記第3拘束度となる前記構造物の設置状態が、隣接する構造物間に砂袋を介在させた状態であるものとしているので、より簡易に前記複数の構造物の安定状態を評価することができる。
【0123】
また、本第2の実施の形態では、前記平均振動数が当該閾値以下である場合に前記評価対象構造物が不安定であるものと判定しているので、より簡易かつ高精度に前記複数の構造物の安定状態を評価することができる。
【0124】
また、本第2の実施の形態では、前記構造物がコンクリート・ブロックであるものとしているので、コンクリート・ブロックの安定状態を評価することができる。
【0125】
また、本第2の実施の形態では、前記打撃力が、インパルス・ハンマーにより与えられるものとしているので、より簡易に前記複数の構造物の安定状態を評価することができる。
【0126】
更に、本第2の実施の形態では、加速度計を前記評価対象構造物に接触させ、かつ接着させない状態で前記加速度応答情報を取得しているので、構造物に損傷を与えることなく当該構造物の安定状態を評価することができる。
【0127】
[第3の実施の形態]
本第3の実施の形態では、最大加速度振幅値及び平均振動数の双方を用いて構造物の安定状態を評価する場合の形態例について説明する。なお、本第3の実施の形態に係る安定状態評価システム10の構成、及び各データベースDB1,DB2のデータ構造は、上記第1の実施の形態に係るもの(図1〜図6参照。)と同一であるので、ここでの説明は省略する。
【0128】
本第3の実施の形態に係る安定状態評価システム10では、複数の構造物が積み重ねられて構成された構造体(図示省略。)における当該複数の構造物のうちの安定状態の評価対象とする評価対象構造物50に対し、インパルス・ハンマー16により打撃力を与えたときの加速度応答を示す加速度応答情報を加速度計14によって取得し、取得した加速度応答情報により示される加速度振幅の最大値である最大加速度振幅値、及び当該加速度応答情報により示される加速度応答の1秒当たりの振動数の平均値である平均振動数を導出し、導出した最大加速度振幅値及び平均振動数に基づく値と予め定められた閾値との比較を行い、この比較の結果に基づいて評価対象構造物50の安定状態を判定するものとされている。
【0129】
特に、本第3の実施の形態に係る安定状態評価システム10では、最大加速度振幅値については値が大きくなるほど大きな値となるように正規化し、平均振動数については値が大きくなるほど小さな値となるように正規化して、各々の正規化された値の合算値が予め定められた閾値TU以上である場合に評価対象構造物50が不安定であるものと判定し、上記合算値が閾値TUより小さな値である閾値TL以下である場合に評価対象構造物50が安定しているものと判定し、上記合算値が閾値TLと閾値TUの間の範囲である閾値TM1以上で、かつ閾値TM2以下である場合に評価対象構造物50の安定度が中程度であるものと判定する。
【0130】
このため、本第3の実施の形態に係る安定状態評価システム10では、予め評価対象構造物50と同一種類の材料により構成された構造物を用いて図20及び図21に示した試験モデルを作製し、同図を参照して前述した手順で当該試験モデルを用いた試験を実施する。そして、当該試験によって得られた打撃力、最大加速度振幅値、平均振動数を用いて、一例として図24に示したものと同様の打撃力と上記合算値との関係を示すグラフを作成し、当該グラフに基づいて閾値TL,閾値TM1,閾値TM2,閾値TUの各閾値を導出して、二次記憶部12Dの所定領域に予め記憶している。
【0131】
また、本第3の実施の形態に係る安定状態評価システム10では、上記閾値TUとして、拘束度が低い状態(エアシートを介在させた状態)で得られた上記合算値のうち、拘束度が中程度の状態(砂袋を介在させた状態)で得られた上記合算値の最大値より大きな最小値を適用し、上記閾値TLとして、拘束度が高い状態(介在物がない状態)で得られた上記合算値のうち、拘束度が中程度の状態で得られた上記合算値の最小値より小さな最大値を適用し、上記閾値TM1及び閾値TM2として、拘束度が中程度の状態で得られた上記合算値のみが存在する最大範囲を規定する閾値を適用している。
【0132】
しかしながら、上記各閾値はこれに限らず、上記閾値TM1及び閾値TM2として、上記最大範囲より狭い範囲を規定する閾値を適用する形態、上記閾値TUとして、拘束度が低い状態で得られた上記合算値のうち、拘束度が中程度の状態で得られた上記合算値の最大値より大きな最小値より所定値だけ大きな値を適用する形態、上記閾値TLとして、拘束度が高い状態で得られた上記合算値のうち、拘束度が中程度の状態で得られた上記合算値の最小値より小さな最大値より所定値だけ小さな値を適用する形態等、一例として図24に示されるグラフにおいて、拘束度が低い状態で得られた上記合算値と、拘束度が中程度の状態で得られた上記合算値と、拘束度が高い状態で得られた上記合算値との各合算値の間を、他の合算値が含まないように区分することができる閾値であれば、如何なる閾値も適用することができる。
【0133】
更に、上記グラフは必ずしも必要ではなく、上記試験によって拘束度が低い状態で得られた上記合算値と、拘束度が中程度の状態で得られた上記合算値と、拘束度が高い状態で得られた上記合算値を用いた演算により、各閾値を算出する形態としてもよいことは言うまでもない。
【0134】
次に、本第3の実施の形態に係る安定状態評価システム10の作用を説明する。なお、ここでは、安定状態評価システム10により評価対象とする構造物が、コンクリート・ブロック積み擁壁(評価対象擁壁)における複数のコンクリート・ブロック(評価対象ブロック)である場合について説明する。また、本第3の実施の形態に係る安定状態評価システム10における、複数の評価対象ブロックにおける加速度応答情報を取得する際の作用は、上記第1の実施の形態に係る安定状態評価システム10と同様であるので、ここでの説明は省略する。
【0135】
以下、図10を参照して、評価対象ブロックの安定状態を評価する際の本第3の実施の形態に係る安定状態評価システム10の作用を説明する。なお、図10は、ユーザにより、PC12に設けられているキーボード等の入力装置(図示省略。)を介して安定状態の評価の実行指示が入力された際にPC12のCPU12Aによって実行される安定状態評価処理プログラムの処理の流れを示すフローチャートであり、当該プログラムは二次記憶部12Dのプログラム領域PGに予め記憶されている。また、ここでは、錯綜を回避するために、構造体情報データベースDB1及び計測情報データベースDB2が予め構築されている場合について説明する。
【0136】
同図のステップ200では、二次記憶部12Dから閾値TL、閾値TM1、閾値TM2、及び閾値TUを読み出し、次のステップ202では、計測情報データベースDB2から全ての評価対象ブロックに対応する打撃力情報及び加速度応答情報を読み出す。
【0137】
次のステップ204では、読み出した加速度応答情報から全ての評価対象ブロックの最大加速度振幅値K及び平均振動数Sを導出し、次のステップ206にて、導出した各評価対象ブロックの最大加速度振幅値K及び平均振動数Sを正規化する。なお、本第3の実施の形態に係る安定状態評価処理プログラムでは、上記正規化として、図24を参照して説明した正規化と同様に、最大加速度振幅値Kについては、次の(2)式によって最大値が1となり、最小値が0となる正規化を適用し、平均振動数Sについては、次の(3)式によって最大値が0となり、最小値が1となる正規化を適用している。なお、(2)式において、MaxKは全ての評価対象ブロックにおける最大加速度振幅値Kの最大値を、MinKは全ての評価対象ブロックにおける最大加速度振幅値Kの最小値を、K’は正規化後の最大加速度振幅値を、各々表す。また、(3)式において、MaxSは全ての評価対象ブロックにおける平均振動数Sの最大値を、MinSは全ての評価対象ブロックにおける平均振動数Sの最小値を、S’は正規化後の平均振動数を、各々表す。
【0138】
【数1】

そして、次のステップ208では、次の(4)式により、評価対象ブロック毎に正規化後の最大加速度振幅値K’及び平均振動数S’の合算値Gを算出する。
【0139】
【数2】

次のステップ210では、上記ステップ208の処理によって得られた何れか1つの評価対象ブロック(以下、「判定対象ブロック」という。)に対応する合算値Gが上記ステップ200の処理によって読み出した閾値TL以下であるか否かを判定し、肯定判定となった場合はステップ212に移行して、判定対象ブロックの構造物番号に関連付けて、当該判定対象ブロックの拘束度が相対的に高いことを示す情報(以下、「拘束度良好情報」という。)を二次記憶部12Dの所定領域に記憶し、その後にステップ224に移行する。
【0140】
一方、上記ステップ210において否定判定となった場合はステップ214に移行し、判定対象ブロックに対応する合算値Gが上記ステップ200の処理によって読み出した閾値TM1以上で、かつ閾値TM2以下であるか否かを判定し、肯定判定となった場合はステップ216に移行して、判定対象ブロックの構造物番号に関連付けて、当該判定対象ブロックの拘束度が相対的に中程度であることを示す情報(以下、「拘束度中間情報」という。)を二次記憶部12Dの所定領域に記憶し、その後にステップ224に移行する。
【0141】
一方、上記ステップ214において否定判定となった場合はステップ218に移行し、判定対象ブロックに対応する合算値Gが上記ステップ200の処理によって読み出した閾値TU以上であるか否かを判定し、肯定判定となった場合はステップ220に移行して、判定対象ブロックの構造物番号に関連付けて、当該判定対象ブロックの拘束度が相対的に低いことを示す情報(以下、「拘束度不良情報」という。)を二次記憶部12Dの所定領域に記憶し、その後にステップ224に移行する。
【0142】
一方、上記ステップ218において否定判定となった場合はステップ222に移行して、判定対象ブロックの構造物番号に関連付けて、当該判定対象ブロックの拘束度が不定であることを示す情報(以下、「拘束度不定情報」という。)を二次記憶部12Dの所定領域に記憶し、その後にステップ224に移行する。
【0143】
ステップ224では、全ての評価対象ブロックについて上記ステップ210〜ステップ222の処理が終了したか否かを判定し、否定判定となった場合は上記ステップ210へ戻る一方、肯定判定となった時点でステップ226に移行する。なお、上記ステップ210〜ステップ224の処理を繰り返し実行する際には、それまでに処理対象としなかった評価対象ブロックを判定対象ブロックとするようにする。
【0144】
ステップ226では、以上の処理によって記憶された全ての拘束度良好情報、拘束度中間情報、拘束度不良情報、及び拘束度不定情報を二次記憶部12Dから読み出すと共に、構造体情報データベースDB1から評価対象擁壁に関する全ての構造物番号情報及び位置情報を読み出し、読み出した情報に基づいて予め定められたフォーマットとされた評価結果を示す結果画面を示す情報を構成し、次のステップ228にて、構成した情報に基づいて上記結果画面をディスプレイ12Fによって表示させ、その後に本安定状態評価処理プログラムを終了する。
【0145】
図11には、本安定状態評価処理プログラムのステップ228の処理によってディスプレイ12Fにより表示された結果画面の表示状態例が示されている。同図に示されるように、本実施の形態に係る安定状態評価処理プログラムでは、拘束度良好情報が記憶されている評価対象ブロックを示す矩形枠と、拘束度中間情報が記憶されている評価対象ブロックを示す矩形枠と、拘束度不良情報が記憶されている評価対象ブロックを示す矩形枠と、拘束度不定情報が記憶されている評価対象ブロックを示す矩形領域とを、互いに異なる状態として表示している。従って、安定状態評価システム10の利用者は、当該結果画面を参照することにより、どの評価対象ブロックが、相対的にどの程度の安定状態であるのかを視覚的に、容易に把握することができる。
【0146】
以上詳細に説明したように、本実施の形態では、複数の構造物が積み重ねられて構成された構造体における安定状態の評価対象とする評価対象構造物に対し、打撃力を与えたときの加速度応答を示す加速度応答情報を取得し、取得した加速度応答情報からの加速度振幅の最大値である最大加速度振幅値の導出、及び当該加速度応答情報からの加速度応答の1秒当たりの振動数の平均値である平均振動数の導出を行い、導出した前記最大加速度振幅値及び前記平均振動数と予め定められた閾値との比較を行い、この比較の結果に基づいて前記評価対象構造物の安定状態を判定し、判定結果を示す情報を表示しているので、前記複数の構造物の安定状態を、簡易かつ高精度に評価することができる。
【0147】
また、本実施の形態では、前記構造物と同一種類の材料により構成された構造物を、当該構造物が安定しているものと見なすことのできる第1拘束度と、当該構造物が安定していないものと見なすことのできる第2拘束度の2つの拘束度を含む複数の拘束度を有するように設置することにより構成された試験モデルを用いた試験によって得られた閾値を用いて安定状態の評価を行っているので、より高精度に前記複数の構造物の安定状態を評価することができる。
【0148】
特に、本実施の形態では、前記複数の拘束度が、前記第1拘束度と前記第2拘束度との間の拘束度である第3拘束度を更に含むものとしているので、より高精度に前記複数の構造物の安定状態を評価することができる。
【0149】
また、本実施の形態では、前記試験モデルにおける、前記第1拘束度となる前記構造物の設置状態が、隣接する構造物間で介在物が存在しない状態であり、前記第2拘束度となる前記構造物の設置状態が、隣接する構造物間にエアシートを介在させた状態であり、前記第3拘束度となる前記構造物の設置状態が、隣接する構造物間に砂袋を介在させた状態であるものとしているので、より簡易に前記複数の構造物の安定状態を評価することができる。
【0150】
また、本実施の形態では、前記最大加速度振幅値については値が大きくなるほど大きな値となるように正規化し、前記平均振動数については値が大きくなるほど小さな値となるように正規化して、各々の正規化された値の合算値が予め定められた第1閾値(ここでは、閾値TU)以上である場合に前記評価対象構造物が不安定であるものと判定し、前記合算値が前記第1閾値より小さな値である第2閾値(ここでは、閾値TL)以下である場合に前記評価対象構造物が安定しているものと判定しているので、より高精度に前記複数の構造物の安定状態を評価することができる。
【0151】
また、本実施の形態では、前記構造物がコンクリート・ブロックであるものとしているので、コンクリート・ブロックの安定状態を評価することができる。
【0152】
また、本実施の形態では、前記打撃力が、インパルス・ハンマーにより与えられるものとしているので、より簡易に前記複数の構造物の安定状態を評価することができる。
【0153】
更に、本実施の形態では、加速度計を前記評価対象構造物に接触させ、かつ接着させない状態で前記加速度応答情報を取得しているので、構造物に損傷を与えることなく当該構造物の安定状態を評価することができる。
【0154】
なお、本第3の実施の形態では、合算値Gを区分する領域として、拘束度が良好である領域、拘束度が中程度である領域、及び拘束度が不良である領域の3つの領域に加えて、拘束度が不定である領域を設けた場合について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば、当該不定である領域を設けることなく、上記3つの領域に区分する形態とすることもできる。この場合、拘束度が良好である領域と中程度である領域の境界を示す閾値として、拘束度が高い状態で得られた合算値の最大値と、拘束度が中程度の状態で得られた合算値の最小値との平均値を適用し、拘束度が不良である領域と中程度である領域の境界位置を示す閾値として、拘束度が低い状態で得られた合算値の最小値と、拘束度が中程度の状態で得られた合算値の最大値との平均値を適用する形態を例示することができる。
【0155】
また、この場合、合算値Gの区分領域数も3つに限らず、閾値の数を増加させることにより、区分領域数を4つ以上とすることもできる。
【0156】
これらの場合も、本実施の形態と同様の効果を奏することができる。
【0157】
[第4の実施の形態]
本第4の実施の形態では、最大加速度振幅値を、最大値を1とする値に換算し、当該値を用いて構造物の安定状態を評価する場合の形態例について説明する。なお、本第4の実施の形態に係る安定状態評価システム10の構成、及び各データベースDB1,DB2のデータ構造は、上記第1の実施の形態に係るもの(図1〜図6参照。)と同一であるので、ここでの説明は省略する。
【0158】
本実施の形態に係る安定状態評価システム10では、複数の構造物が積み重ねられて構成された構造体(図示省略。)における当該複数の構造物のうちの安定状態の評価対象とする評価対象構造物50に対し、インパルス・ハンマー16により打撃力を与えたときの加速度応答を示す加速度応答情報を加速度計14によって取得し、取得した加速度応答情報により示される加速度振幅の最大値である最大加速度振幅値を導出し、導出した最大加速度振幅値を、最大値を1とする値に換算し、当該値(以下、「換算値」という。)と予め定められた閾値との比較を行い、この比較の結果に基づいて評価対象構造物50の安定状態を判定するものとされている。
【0159】
このため、安定状態評価システム10では、予め評価対象構造物50と同一種類の材料により構成された構造物を用いて図20に示した試験モデルを作製し、同図を参照して前述した手順で、エアシートが下部に挿入された複数のブロックを対象として当該試験モデルを用いた試験を実施する。そして、当該試験によって得られた最大加速度振幅値の最大値を基準値Mとして、二次記憶部12Dの所定領域に予め記憶している。
【0160】
このように、本第4の実施の形態に係る安定状態評価システム10では、基準値Mとして、エアシートが下部に挿入されたブロックを対象として得られた最大加速度振幅値を適用しているが、これに限るものではなく、基準値Mは、最大加速度振幅値の取り得る最大値であれば如何なる値も適用することができる。但し、基準値Mが大きくなるほど、これを用いて得られる換算値が小さな値となってしまうため、基準値Mを適正値とするために、試験対象とするブロックを極力拘束しない条件で試験を行い、これによって得られた最大加速度振幅値を基準値Mとして適用することが好ましい。また、本第4の実施の形態に係る安定状態評価システム10では、上記試験を複数の構造物に対して行っているが、これに限らず、1つの構造物のみに対して上記試験を行うものとしてもよい。
【0161】
一方、本第4の実施の形態に係る安定状態評価システム10では、換算値の取り得る範囲を、複数の段階に区分し、各区分範囲別に安定状態を規定している。なお、本第4の実施の形態に係る安定状態評価システム10では、換算値の取り得る範囲を4段階に区分するものとされており、このため、各段階間を区分するための閾値として、閾値T1,閾値T2,及び閾値T3の3つの閾値を二次記憶部12Dの所定領域に予め記憶している。本第4の実施の形態に係る安定状態評価システム10では換算値が最大で1となる一方、各区分範囲を均等な範囲とするため、閾値T1として0.25が、閾値T2として0.50が、閾値T3として0.75が、各々記憶されている。
【0162】
なお、上記段階数は4段階に限らず、他の段階数としてもよく、閾値T1〜T3も上記の値には限らず、他の値としてもよいことは言うまでもない。
【0163】
次に、本第4の実施の形態に係る安定状態評価システム10の作用を説明する。なお、ここでは、安定状態評価システム10により評価対象とする構造物が、コンクリート・ブロック積み擁壁(評価対象擁壁)における複数のコンクリート・ブロック(評価対象ブロック)である場合について説明する。また、本第4の実施の形態に係る安定状態評価システム10における、複数の評価対象ブロックにおける加速度応答情報を取得する際の作用は、上記第1の実施の形態に係る安定状態評価システム10と同様であるので、ここでの説明は省略する。
【0164】
以下、図12を参照して、評価対象ブロックの安定状態を評価する際の本第4の実施の形態に係る安定状態評価システム10の作用を説明する。なお、図12は、ユーザにより、PC12に設けられているキーボード等の入力装置(図示省略。)を介して安定状態の評価の実行指示が入力された際にPC12のCPU12Aによって実行される安定状態評価処理プログラムの処理の流れを示すフローチャートであり、当該プログラムは二次記憶部12Dのプログラム領域PGに予め記憶されている。また、ここでは、錯綜を回避するために、構造体情報データベースDB1及び計測情報データベースDB2が予め構築されている場合について説明する。
【0165】
同図のステップ300では、二次記憶部12Dから基準値Mと、閾値T1〜T3を読み出し、次のステップ302では、計測情報データベースDB2から何れか1つの評価対象ブロックに対応する打撃力情報及び加速度応答情報を読み出す。
【0166】
次のステップ304では、読み出した加速度応答情報から最大加速度振幅値Kを導出し、次のステップ306にて、算出した最大加速度振幅値K及び読み出した基準値Mを次の(5)式に代入することによって換算値K’を算出する。
【0167】
【数3】

なお、基準値Mを導出する際の測定誤差等に起因して、(5)式によって算出された換算値K’が1を越える可能性もあるが、この場合は、換算値K’を強制的に1とする。
【0168】
次のステップ308では、上記ステップ306の処理によって得られた換算値K’が上記ステップ300の処理によって読み出した閾値T1以下であるか否かを判定し、肯定判定となった場合はステップ310に移行して、処理対象とする評価対象ブロックの構造物番号に関連付けて、当該評価対象ブロックの拘束度が最も高いことを示す情報(以下、「拘束度優良情報」という。)を二次記憶部12Dの所定領域に記憶し、その後にステップ322に移行する。
【0169】
一方、上記ステップ308において否定判定となった場合はステップ312に移行し、換算値K’が上記ステップ300の処理によって読み出した閾値T2以下であるか否かを判定し、肯定判定となった場合はステップ314に移行して、処理対象とする評価対象ブロックの構造物番号に関連付けて、当該評価対象ブロックの拘束度が2番目に高いことを示す情報(以下、「拘束度良好情報」という。)を二次記憶部12Dの所定領域に記憶し、その後にステップ322に移行する。
【0170】
一方、上記ステップ312において否定判定となった場合はステップ316に移行し、換算値K’が上記ステップ300の処理によって読み出した閾値T3以下であるか否かを判定し、肯定判定となった場合はステップ318に移行して、処理対象とする評価対象ブロックの構造物番号に関連付けて、当該評価対象ブロックの拘束度が3番目に高いことを示す情報(以下、「拘束度中間情報」という。)を二次記憶部12Dの所定領域に記憶し、その後にステップ322に移行する。
【0171】
一方、上記ステップ316において否定判定となった場合はステップ320に移行して、処理対象とする評価対象ブロックの構造物番号に関連付けて、当該評価対象ブロックの拘束度が最も低いことを示す情報(以下、「拘束度不良情報」という。)を二次記憶部12Dの所定領域に記憶し、その後にステップ322に移行する。
【0172】
ステップ322では、全ての評価対象ブロックについて上記ステップ302〜ステップ320の処理が終了したか否かを判定し、否定判定となった場合は上記ステップ302へ戻る一方、肯定判定となった時点でステップ324に移行する。なお、上記ステップ302〜ステップ322の処理を繰り返し実行する際には、それまでに処理対象としなかった評価対象ブロックを処理対象とするようにする。
【0173】
ステップ324では、以上の処理によって記憶された全ての拘束度優良情報、拘束度良好情報、拘束度中間情報、及び拘束度不良情報を二次記憶部12Dから読み出すと共に、構造体情報データベースDB1から評価対象擁壁に関する全ての構造物番号情報及び位置情報を読み出し、読み出した情報に基づいて予め定められたフォーマットとされた評価結果を示す結果画面を示す情報を構成し、次のステップ326にて、構成した情報に基づいて上記結果画面をディスプレイ12Fによって表示させ、その後に本安定状態評価処理プログラムを終了する。
【0174】
図13には、本安定状態評価処理プログラムのステップ326の処理によってディスプレイ12Fにより表示された結果画面の表示状態例が示されている。同図に示されるように、本実施の形態に係る安定状態評価処理プログラムでは、拘束度優良情報が記憶されている評価対象ブロックを示す矩形枠と、拘束度良好情報が記憶されている評価対象ブロックを示す矩形枠と、拘束度中間情報が記憶されている評価対象ブロックを示す矩形枠と、拘束度不良情報が記憶されている評価対象ブロックを示す矩形枠とを、互いに異なる状態として表示している。従って、安定状態評価システム10の利用者は、当該結果画面を参照することにより、どの評価対象ブロックが、どの程度の安定状態であるのかを視覚的に、容易に把握することができる。
【0175】
以上詳細に説明したように、本実施の形態では、複数の構造物が積み重ねられて構成された構造体における安定状態の評価対象とする評価対象構造物に対し、打撃力を与えたときの加速度応答を示す加速度応答情報を取得し、取得した加速度応答情報から加速度振幅の最大値である最大加速度振幅値を導出し、導出した前記最大加速度振幅値と予め定められた閾値との比較を行い、この比較の結果に基づいて前記評価対象構造物の安定状態を判定し、判定結果を示す情報を表示しているので、前記複数の構造物の安定状態を、簡易かつ高精度に評価することができる。
【0176】
特に、本実施の形態では、最大加速度振幅値の取り得る最大値を予め記憶し、導出された最大加速度振幅値を上記最大値で除算して得られた値に換算し、当該換算によって得られた値が1に近づくほど悪化しているものと評価対象構造物の安定状態を判定しているので、複数の構造物の安定状態を定量的に評価することができる。
【0177】
また、本実施の形態では、前記構造物がコンクリート・ブロックであるものとしているので、コンクリート・ブロックの安定状態を評価することができる。
【0178】
また、本実施の形態では、前記打撃力が、インパルス・ハンマーにより与えられるものとしているので、より簡易に前記複数の構造物の安定状態を評価することができる。
【0179】
更に、本実施の形態では、加速度計を前記評価対象構造物に接触させ、かつ接着させない状態で前記加速度応答情報を取得しているので、構造物に損傷を与えることなく当該構造物の安定状態を評価することができる。
【0180】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されない。本発明の要旨を逸脱しない範囲で上記実施の形態に多様な変更または改良を加えることができ、そのような変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれる。
【0181】
また、上記の実施の形態は、クレーム(請求項)にかかる発明を限定するものではなく、また実施の形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。上記の実施の形態には種々の段階の発明が含まれており、開示される複数の構成要件における適宜の組み合わせにより種々の発明を抽出できる。上記の実施の形態に示される全構成要件から幾つかの構成要件が削除されても、効果が得られる限りにおいて、この幾つかの構成要件が削除された構成が発明として抽出され得る。
【0182】
例えば、上記第4の実施の形態では、評価対象とするパラメータとして最大加速度振幅値を適用した場合について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば、評価対象とするパラメータとして平均振動数を適用する形態とすることもできる。この場合も、上記第4の実施の形態と同様の効果を奏することができる。
【0183】
また、上記各実施の形態では、評価対象とするブロックと同一種の材料により構成された構造物を用いて試験モデルを作製し、当該試験モデルを用いた試験を実施することにより各閾値や基準値を導出する場合について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば、評価対象とするブロックと同一の構造物を用いて試験モデルを作製し、当該試験モデルを用いた試験を実施することにより各閾値や基準値を導出する形態とすることもできる。この場合、上記各実施の形態に比較して、より高精度に構造物の安定状態を評価することができる。
【0184】
また、上記各実施の形態では、本発明の構造物としてコンクリート・ブロックを適用した場合について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば、モルタル・ブロックや、石材を適用する形態とすることもできる。この場合も、上記各実施の形態と同様の効果を奏することができる。
【0185】
その他、上記各実施の形態で説明した安定状態評価システム10の構成(図1〜図3参照。)は一例であり、本発明の主旨を逸脱しない範囲内において、不要な部分を削除したり、新たな部分を追加したりすることができることは言うまでもない。
【0186】
また、上記各実施の形態で示した各データベースのデータ構造(図4,図6参照。)も一例であり、本発明の主旨を逸脱しない範囲内において、不要な情報を削除したり、新たな情報を追加したりすることができることは言うまでもない。
【0187】
また、上記各実施の形態で示した安定状態評価処理プログラムの処理の流れ(図7,図9,図10,図12参照。)も一例であり、本発明の主旨を逸脱しない範囲内において、不要なステップを削除したり、新たなステップを追加したり、処理順序を入れ替えたりすることができることは言うまでもない。
【0188】
更に、上記各実施の形態で示した結果画面の構成(図8,図11,図13参照。)も一例であり、本発明の主旨を逸脱しない範囲内において変更することができることは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0189】
【図1】実施の形態に係る安定状態評価システムの構成を示すブロック図である。
【図2】実施の形態に係るPCの電気系の要部構成を示すブロック図である。
【図3】実施の形態に係るPCに備えられた二次記憶部の主な記憶内容を示す模式図である。
【図4】実施の形態に係る構造体情報データベースのデータ構造を示す模式図である。
【図5】実施の形態に係る構造体情報データベースの説明に供する図であり、構造物番号情報及び位置情報の具体例を示す構造体の正面図である。
【図6】実施の形態に係る計測情報データベースのデータ構造を示す模式図である。
【図7】第1の実施の形態に係る安定状態評価処理プログラムの処理の流れを示すフローチャートである。
【図8】第1,第2の実施の形態に係る結果画面の表示状態例を示す概略図である。
【図9】第2の実施の形態に係る安定状態評価処理プログラムの処理の流れを示すフローチャートである。
【図10】第3の実施の形態に係る安定状態評価処理プログラムの処理の流れを示すフローチャートである。
【図11】第3の実施の形態に係る結果画面の表示状態例を示す概略図である。
【図12】第4の実施の形態に係る安定状態評価処理プログラムの処理の流れを示すフローチャートである。
【図13】第4の実施の形態に係る結果画面の表示状態例を示す概略図である。
【図14】本発明の原理の説明に供する図であり、コンクリート・ブロックや石材が、拘束度が高い状態で積み重ねられている状態を再現した実験を行うために作製したモルタル・ブロックを用いたモデルを示す斜視図及び側面図である。
【図15】本発明の原理の説明に供する図であり、図14のモデルを用いた実験結果を示す図である。
【図16】本発明の原理の説明に供する図であり、図14のモデルを用いた実験結果を示す図である。
【図17】本発明の原理の説明に供する図であり、コンクリート・ブロックや石材が、拘束度が低い状態で積み重ねられている状態を再現した実験を行うために作製したモルタル・ブロックを用いたモデルを示す斜視図及び側面図である。
【図18】本発明の原理の説明に供する図であり、図17のモデルを用いた実験結果を示す図である。
【図19】本発明の原理の説明に供する図であり、図17のモデルを用いた実験結果を示す図である。
【図20】本発明の原理の説明に供する図であり、本発明の発明者らによって作製された試験モデルを示す模式図である。
【図21】本発明の原理の説明に供する図であり、発明の発明者らによって作製された試験モデルを示す模式図である。
【図22】本発明の原理の説明に供する図であり、図20及び図21の2種類の試験モデルによる試験により得られた打撃力と最大加速度振幅値の関係を示すグラフである。
【図23】本発明の原理の説明に供する図であり、図20及び図21の2種類の試験モデルによる試験により得られた打撃力と平均振動数の関係を示すグラフである。
【図24】本発明の原理の説明に供する図であり、図22及び図23に示した最大加速度振幅値及び平均振動数を正規化し、合算したものを縦軸にプロットしたグラフである。
【図25】本発明の原理の説明に供する模式図である。
【図26】本発明の原理の説明に供する図であり、寸法(質量)が1倍及び2倍のモルタル・ブロックをほぼ同一の力で打撃した場合の最大加速度振幅値及び平均振動数の計測を行ったモデルを示す斜視図である。
【図27】試験モデルの変形例を示す外観図である。
【符号の説明】
【0190】
10 安定状態評価システム
12 パーソナル・コンピュータ
12A CPU(導出手段,判定手段,換算手段)
12B RAM
12C ROM
12D 二次記憶部(記憶手段,第2記憶手段)
12E キーボード
12F ディスプレイ(表示手段)
12G 入出力インタフェース
14 加速度計(取得手段)
16 インパルス・ハンマー
18 動ひずみアンプ
20 データ・レコーダ
22 記録・出力装置
50 構造物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の構造物が積み重ねられて構成された構造体における安定状態の評価対象とする評価対象構造物に対し、打撃力を与えたときの加速度応答を示す加速度応答情報を取得する取得手段と、
前記取得手段によって取得された加速度応答情報からの加速度振幅の最大値である最大加速度振幅値の導出、及び当該加速度応答情報からの加速度応答の1秒当たりの振動数の平均値である平均振動数の導出の少なくとも一方を行う導出手段と、
前記導出手段によって導出された前記最大加速度振幅値及び前記平均振動数の少なくとも一方と予め定められた閾値との比較を行い、この比較の結果に基づいて前記評価対象構造物の安定状態を判定する判定手段と、
前記判定手段による判定結果を示す情報を表示する表示手段と、
を備えた安定状態評価装置。
【請求項2】
前記構造物、又は当該構造物と同一種類の材料により構成された構造物を、当該構造物が安定しているものと見なすことのできる第1拘束度と、当該構造物が安定していないものと見なすことのできる第2拘束度の2つの拘束度を含む複数の拘束度を有するように設置することにより構成された試験モデルを用いた試験によって得られた前記閾値を予め記憶した記憶手段を更に備え、
前記判定手段は、前記閾値を前記記憶手段から読み出して前記比較を行う
請求項1記載の安定状態評価装置。
【請求項3】
前記複数の拘束度は、前記第1拘束度と前記第2拘束度との間の拘束度である第3拘束度を更に含む
請求項2記載の安定状態評価装置。
【請求項4】
前記試験モデルにおける、前記第1拘束度となる前記構造物の設置状態は、隣接する構造物間で介在物が存在しない状態であり、前記第2拘束度となる前記構造物の設置状態は、隣接する構造物間にエアシートを介在させた状態であり、前記第3拘束度となる前記構造物の設置状態は、隣接する構造物間に砂袋を介在させた状態である
請求項3記載の安定状態評価装置。
【請求項5】
前記判定手段は、前記最大加速度振幅値と前記閾値との比較を行う場合、当該最大加速度振幅値が当該閾値以上である場合に前記評価対象構造物が不安定であるものと判定し、前記平均振動数と前記閾値との比較を行う場合、当該平均振動数が当該閾値以下である場合に前記評価対象構造物が不安定であるものと判定する
請求項1〜請求項4の何れか1項記載の安定状態評価装置。
【請求項6】
前記判定手段は、前記最大加速度振幅値及び前記平均振動数の双方と前記閾値との比較を行う場合、前記最大加速度振幅値については値が大きくなるほど大きな値となるように正規化し、前記平均振動数については値が大きくなるほど小さな値となるように正規化して、各々の正規化された値の合算値が予め定められた第1閾値以上である場合に前記評価対象構造物が不安定であるものと判定し、前記合算値が前記第1閾値より小さな値である第2閾値以下である場合に前記評価対象構造物が安定しているものと判定する
請求項1〜請求項4の何れか1項記載の安定状態評価装置。
【請求項7】
前記導出手段によって前記最大加速度振幅値が導出される場合は当該最大加速度振幅値の取り得る最大値を予め記憶し、前記導出手段によって前記平均振動数が導出される場合は当該平均振動数の取り得る最小値を予め記憶した第2記憶手段と、
前記導出手段によって導出された前記最大加速度振幅値及び前記平均振動数の少なくとも一方を、前記第2記憶手段により記憶されている対応する前記最大値又は前記最小値で除算して得られた値に換算する換算手段を更に備え、
前記判定手段は、前記換算手段によって換算されて得られた値が1に近づくほど悪化しているものと前記評価対象構造物の安定状態を判定する
請求項1〜請求項6の何れか1項記載の安定状態評価装置。
【請求項8】
前記平均振動数は、前記加速度応答情報により示される加速度スペクトルの積算値を均等に2分割したときの境界となる振動数である
請求項1〜請求項7の何れか1項記載の安定状態評価装置。
【請求項9】
前記取得手段は、加速度計を前記評価対象構造物に接触させ、かつ接着させない状態で前記加速度応答情報を取得する
請求項1〜請求項8の何れか1項記載の安定状態評価装置。
【請求項10】
複数の構造物が積み重ねられて構成された構造体における当該複数の構造物のうちの安定状態の評価対象とする評価対象構造物に対し、打撃力を与えたときの加速度応答を示す加速度応答情報を取得し、
取得した加速度応答情報からの加速度振幅の最大値である最大加速度振幅値の導出、及び当該加速度応答情報からの加速度応答の1秒当たりの振動数の平均値である平均振動数の導出の少なくとも一方を行い、
導出した前記最大加速度振幅値及び前記平均振動数の少なくとも一方と予め定められた閾値との比較を行い、この比較の結果に基づいて前記評価対象構造物の安定状態を判定し、
判定結果を示す情報を表示手段により表示する
安定状態評価方法。
【請求項11】
複数の構造物が積み重ねられて構成された構造体における当該複数の構造物のうちの安定状態の評価対象とする評価対象構造物に対し、打撃力を与えたときの加速度応答を示す加速度応答情報を取得する取得ステップと、
前記取得ステップによって取得された加速度応答情報からの加速度振幅の最大値である最大加速度振幅値の導出、及び当該加速度応答情報からの加速度応答の1秒当たりの振動数の平均値である平均振動数の導出の少なくとも一方を行う導出ステップと、
前記導出ステップによって導出された前記最大加速度振幅値及び前記平均振動数の少なくとも一方と予め定められた閾値との比較を行い、この比較の結果に基づいて前記評価対象構造物の安定状態を判定する判定ステップと、
前記判定ステップによる判定結果を示す情報を表示手段により表示する表示ステップと、
をコンピュータに実行させる安定状態評価プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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