説明

完全オーディオ信号のための位相レイヤリング装置および方法

本発明は、オーディオ信号に含まれる通常であれば閉じられて隠されている情報を回復するための装置および方法に関する。本発明は、サウンドを実際の挙動のとおりに表わし、無指向性の音響信号をもたらすレイヤへとオーディオ信号の内容を展開または開放する目的のために主基準信号、ならびに大きさおよび位相以外に関して主基準信号とすべての点で実質的に同一である複数の冗長複製信号の両方を含む。オーディオ再生システムは、独立した複数の混合チャンネルを駆動するために、実質的に完全なオーディオ信号の形成を可能にする目的で、ディスクリートなオーディオ信号からオープンで実質的に完全なサウンドを生成するために、または既存の不完全なオーディオ信号を実質的に完全なオーディオ信号へ変換するために同位相回路および別の位相レイヤリング技術回路を使用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、実質的に完全なオーディオ信号を確立するための方法および装置に関し、特にディスクリートなオーディオ信号からの情報を回復して、実質的に全体であり、かつ実質的に無指向性のサウンド事象を再現または生成するための方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
サウンドは、空気などの媒体に圧力および速度として存在する。サウンドは、声、扉をしめること、バイオリンの弦を横切る弓などといった物理的な外乱によって始まる。音源の振動が、波動の形成またはパターンを生じさせる。波動は、例えば3次元的に、無指向性で、球状に、あらゆる方向へと広がる。これらの移動する波動が、サウンドとして聞こえる。
【0003】
基準が利用可能であるとき、音圧について一般的に測定される3つの成分、すなわち周波数、振幅、および位相が存在する。
【0004】
電子オーディオ信号の誕生以来、目標は、元のサウンド事象の正確な複製を、複製とオリジナルとの間の相違を聴取者が見分けることができないようなやり方で、取込み、保存、および再生することである。
【0005】
電子オーディオ信号は、変動する電気量であり、その変化が、すべてのサウンド情報をコードとして表わしている。我々は、周波数および振幅の情報部分のほとんどを高い忠実度で信号コードから取り出し、今日において享受されている広い帯域幅および広いダイナミックレンジを可能にするやり方を知っている。位相が、サウンドの空間的および時間的な情報要素の結合を基本的にすべて表現すること含むサウンドの1つの主要な成分であるが、従来からの手段では充分な忠実度では再現されていない。結果として、従来からのやり方で再生されるオーディオ信号は、この点で不完全である。
【0006】
理想的な完全オーディオ信号は、周波数、振幅、および位相を含むすべてのサウンド成分が、等しい忠実度で完全にオープンにされ、伝達され、再生される信号であると考えられる。また、そのような信号は、元のサウンド事象と見分けがつかず、既存の不完全な信号と異なり、例えばすべての方向に、3次元的に、無指向性で、球状に広がると考えられる。
【0007】
既存の不完全なオーディオ信号は、サウンドの一部の成分(周波数および振幅)についてのみ高い忠実度の複製をもたらすことができるにとどまり、したがってサウンドの再生が2次元の観点に限られている。ステレオ、バイノーラル、および種々のサラウンドサウンド技術、などの従来技術の方法は、本来であれば当然に生じている空間的および時間的情報を人工的に補償するように設計された信号処理の改善の方法および装置を提供している。これらの限界ゆえに、元のサウンド事象の内容要素が、信号コードにしまい込まれたままになり、すなわち失われ、隠され、埋め込まれ、閉じ込められ、折り畳まれているが、依然として信号の中に含まれている。本発明は、実質的に完全なオーディオ信号を、人工的な要素の導入によってではなく、これまではオーディオ信号の中に隠されていた情報をオープンにし、または展開することによって生成するための方法および装置である。
【0008】
用語「位相」について、複数の使用が存在する。オーディオにおける用語「位相」の一般的な使用は、たいていは、スピーカの適切な「位相整合」という概念またはメーカの製品を説明するための用語「絶対位相」に限られている。位相の重要な他の態様は、典型的には遅延したサウンドが、一方または両方の耳に同時に加えられるモノラル位相である。従来技術は、一方の耳から他方の耳への経路長の相違に起因する時間遅延を指すバイノーラル位相の領域での大規模な取組みを示している。しかしながら、サウンドの特徴を規定するものとしての位相の概念は、一般的には検討されていない。通常は、測定も行われていない。位相は、本明細書においては、建設的プロセスとしての聞き取りの規則に関する。すなわち、脳が耳から到着するデータを受け取り、規則および関数を適用し、サウンドの表現を作り出す。これらの規則は、信じられないほど微妙かつ複雑である込み入った機械的、生物学的、および神経学的プロセスを含んでいる。
【0009】
位相は、本発明に適用されるとき、元の取込み、伝達、または記録されたサウンドと同様のやり方でサウンドを放射し、元の音響事象との見分けが実質的にできないやり方で、信号によって耳に与えられることを可能にする。受け取った音波を耳から脳へ伝達することで、聞き取りのプロセスが完了する。位相が、聞き取り体験を高い精度で再現する能力において、「欠けたリンク」であると考えられる。本発明は、元の事象との見分けが実質的に不可能であるように聞こえる聞き取り体験を聴取者に提供するために、位相を使用する。
【0010】
位相は、或る1つの信号の基準信号に対する相対指標でもある。音響の事象において、相対位相は、時間および空間の両方によって左右される。これは、通常の聞き取り体験において、単一(すなわち、モノラル)の信号が記録されても、またはステレオなどの複数の信号が記録されても、記録された信号は、マイクロホンの位置において記録された信号についての情報に相対的な位相を表わすために、重要である。複数のマイクロホンが使用される場合、記録された各々の信号についての位相相対情報は、音源に対するマイクロホンの位置ならびに記録が行われた空間の音響に特有である。したがって、複数のマイクロホンを使用し、それらの出力を加算することによってモノラル信号を生成することができ、あるいはステレオまたはサラウンドのサウンド用としてディスクリートな信号を記録することができる。一般に、記録から選択された電子機器を通過し、最終的に聞き取り環境への信号の経路は、各々の信号について一意的に異なる。別の空間であると錯覚させる人工的な残響を生成するための頭部伝達関数ならびにデジタル信号処理を含め、聞き取り環境に合わせて記録された信号を改善するための多大な努力が費やされているが、聴取者をサウンドの聞き取りが行われる空間の音響から分離することは、実質的に不可能である。しかしながら、部屋に複数のスピーカを配置することによって物理的な空間において緩やかなクロスオーバを達成できるために、複数のマイクロホンで信号を記録できるのと同じやり方で、元の信号を使用して記録プロセスに含まれた情報を抽出し、記録された信号に段階的なクロスオーバを導入し、これらの信号を物理的な空間における重ね合わせとほとんど同じやり方で重ね合わせ、より実際に近い動的な信号を伝えることも可能である。
【0011】
本発明を説明する目的のために、位相レイヤリング、位相レイヤード回路、またはPLCなどといった種々の用語、ならびに段階的クロスオーバなどの用語が、本明細書において使用される。
【0012】
いずれかのサウンド成分が元の形態から歪んでいる場合、すべてのサウンド成分が影響を被る可能性がある。したがって、位相、振幅、または周波数に影響を及ぼすものが、すべてに影響を及ぼす可能性がある。
【0013】
ステレオサウンドは「効果」であり、実際は存在しない。ステレオ効果は、あたかもサウンドが、実際には何も存在しない2つのステレオスピーカの間の中心のどこかから到来しているかのように感じられる「仮想の音像」を生成する。それは「錯覚」である。ステレオシステムにおける品質を定める基準は、仮想の音像がどのように上手く写実的な「音場」を生成できるかである。音場は、「スイートスポット」と一般に呼ばれる場所において生じる。まさにその場所において、ステレオシステムによって生成される音場が、聴取者が「そこにいる」ような仮想現実感を体験するような説得力のある仮想の音像を生み出す。音場は、聴取者が仮想の音像が生じている場所から離れて過度に左方または右方へとスイートスポットの外へ移動すると消え失せる。ひとたびスイートスポットの外へでると、錯覚は消失する。今日において使用されている大部分の民生用のオーディオ機器は、ステレオサウンドの規格に基づいている。
【0014】
オーディオ電子機器において使用されるいくつかの種類の信号プロセッサが存在する。1つの種類は、グラフィックイコライザなど、環境に関する問題を解決するように設計され、オーディオシステムの再生時に部屋がサウンドに対して加算的または減算的でないように、部屋を平坦な周波数応答に調節するように設計されている。他の種類の信号プロセッサは、リバーブシステムなど、信号を調節し、スタジオサウンドにおいて行われた人工の録音をあたかも生で録音されたかのようにするように設計されている。オーディオ技術者は、自身の専門的職業において、これらのツールおよび他のツールを使用する。
【0015】
他の種類の信号プロセッサは、耳から到来する情報を脳がどのように解釈するかについての研究に基づく音響心理的な技法を使用する。これらの種類の音響心理的信号プロセッサの多くは、主としてステレオサウンドに関する特定の問題の解決を助けるために使用されており、場合によっては、モノラルおよびディスクリートな信号の用途においても同様に、しかし多くの場合に二次的な利点として、使用することも可能である。
【0016】
ステレオサウンドは、仮想の音像が含まれるスイートスポット領域などの制限を有している。例えばコンサートにおいて味わうことができるサウンドなど、多数の聴衆を一度に共有することができる生のサウンドと異なり、ステレオサウンドにおいては、聴衆が仮想の音場を体感するために集まらなければならない領域が、2つのスピーカの間の限られた領域である。ステレオサウンドにおけるこの欠点が、音場のサイズの限界を克服し、スイートスポットを広げるか、またはホームシアターおよびサラウンドサウンドの基礎である映画館のサウンドの場合にように、別の技術によってスイートスポットを完全になくしてしまうやり方を見出すように意図されたさまざまな発展につながっている。したがって、特定の種類の信号プロセッサを開発する動機の1つが、ステレオ体験を向上させることである。本発明は、スイートスポットに限定されず、あらゆる場所で、いつでも、任意の聴取り状況のもとで体験することができる。さらに、本発明は、いずれも本発明までは隠され、あるいは埋め込まれたままであった情報を含んでいるため、モノラル、ステレオ、合成多チャンネル、およびディスクリート多チャンネルの被記録および被再生サウンドならびに被伝達サウンドなど、すべての信号および信号経路において機能する。
【0017】
高忠実度の規則の1つは、元のサウンド事象に対して忠実なままであることにあり、すなわち「変質のない信号を聞く」ことにある。したがって、真剣な音楽の聴取のための設計の目的は、当技術水準が可能にするのと同程度の信号の完全性をオーディオ経路の全体において維持することである。したがって、良好なオーディオは、実際には良好な科学であり、良好なオーディオをすべてのオーディオ信号に適用できないという理由およびすべてのオーディオ信号に適用すべきではないという理由は存在しない。オーディオ信号があらゆる音響、機械、または電気装置を通過すると、そのたびに歪みが生じる。オーディオ設計者は、最も損なわれていない信号が最高の忠実度になるように、歪みの量を抑え、忠実な再生または忠実度を維持するために取り組む。本発明の実質的に完全なオーディオ信号は、すでに信号に存在するもの以外の何かを大きく加えることなく、または何かを大きく取り去ることなく、従来技術と比べて元のサウンド事象の情報のかなり多くを伝えるように設計されている。
【0018】
以下の米国特許が、主としてステレオ用途においてオーディオ音場を向上させるために使用される技法を示している。頭部伝達関数(HRTF)の適用、聴取環境以外の音場を模擬すべく反響または空間的効果を生成するためのデジタル信号処理の使用、および空間的効果を加えるためのステレオ信号の使用など、3つの手法が過去において一般的に使用されている。本発明は、使用される方法によって先行技術から相違し、そのような方法は、モノラル、ステレオ、または他の多信号の形式に適用可能である。本発明は、ステレオ信号の使用に依存せず、スピーチの明瞭度、およびあらゆる信号形式の多数の他の態様を改善することができる。
【0019】
Coatsらの米国特許第7,203,320号明細書が、低調波発生器およびステレオ拡張プロセッサを教示している。方法および装置が、第1の範囲の中からの周波数を含んでいる入力信号を受信すること、入力信号をフィルタ処理し、第2の範囲の中からの周波数を含んでいる第1の中間信号を生成すること、第1の中間信号から第2の周波数範囲よりも約1オクターブ低い第3の範囲の中からの周波数を含んでいる低調波信号を生成すること、入力信号の左チャンネル信号から第4の周波数範囲の中から少なくとも一部の周波数のエネルギーを取り消して、左チャンネル出力信号の少なくとも一部を生成すること、および入力信号の右チャンネル信号から第5の周波数範囲の中からのも一部の周波数のエネルギーを取り消して、右チャンネル出力信号の少なくとも一部を生成すること、のうちの1つまたは複数を提供することができる。
【0020】
Arthurの米国特許第7,003,119号明細書が、ステレオ入力信号から出力を生成するためのいくつかのサブシステムを使用するマトリクス・サラウンド・デコーダ/バーチャライザに関する。第1のサブシステムが、モノラルの中央音像を聴取者の前方で左側および右側のスピーカの間に配置する仮想の中央出力を合成する。第2のサブシステムが、サウンド音像を聴取者の側方に配置する仮想のサラウンド(または、後法)出力信号を合成する。第3のサブシステムが、左および右のステレオ出力を合成し、左および右のサウンド音像の位置を広げる。
【0021】
音色の補償および能動的マトリクス化によるステレオ空間拡張回路が、Hooverの米国特許第6,947,564号明細書に示されている。ステレオ拡張回路において、(L+R)の和信号が、(L−R)の差分信号における中音域の周波数の増強を補償するために、低音および高音の周波数を中音域に比べて強めることによってスペクトル的に変更される。ステレオ拡張効果および信号パラメータの操作は、能動的マトリクス化増幅器によって生成される。
【0022】
Morrisの米国特許第6,711,265号明細書が、空間的に広がったステレオ・オーディオ音像を中央に位置させることに関する。ステレオシステムが、広げられた空間イメージングを有する和および差の信号を有している。中央のオーディオマテリアルをより中央に向かって配置することが、(L+R)和信号の等化によって達成される。等化は、和信号の低音応答を減少させつつ、高音応答を強めることを含んでおり、所望の低音の減少が、インダクタンスを経済的に合成するジャイレータの使用によって達成されている。さらに、低音周波数の信号の減少および高音周波数の信号の増加のための(L+R)和信号における等化が、単独または組み合わせにおいて、オンおよび「オフ」モードの間で切り換え可能である。
【0023】
Choiの米国特許第6,587,565号明細書に、ステレオチャンネルの信号から3次元音像サウンド信号を生成するときにステレオサウンドまたはエンコードされたサウンドの空間効果を改善するためのシステムが提示されている。これは、サウンドの空間効果および指向性を向上させるための信号が生成される空間効果強調部と、低周波数範囲のステレオチャンネル信号の信号成分を強調し、中間周波数範囲の信号成分を維持するための信号が生成される帯域強調部と、空間効果強調部の出力信号、帯域強調部の出力信号、およびステレオチャンネル信号をマトリクスのやり方で算出するマトリクス部とを備えており、サウンドの空間効果が、左側および右側のチャンネル信号の間の差成分を使用して改善される。この特許によれば、サウンドの空間効果を、複雑な回路の構成を使用することなく改善することができ、信号対雑音比の悪化が防止され、サウンドの空間効果を実現するための費用性能比が改善される。
【0024】
Schwartzの米国特許第6,448,846号明細書が、制御された位相打消し回路およびシステムに関する。この特許は、プロセッサの効果について制御された強調または増強を実現できるよう、特定の(1つまたは複数の)周波数範囲においてプロセッサの出力またはプロセッサの出力の一部分とあらかじめ処理された信号の位相との間の位相関係を制御することを記載している。一形態においては、これが、プロセッサの出力との加算に先立って、入力信号を受け取って選択的に増幅する利得制御回路を設けることによって達成されている。
【0025】
Klaymanのオーストラリア特許第708,727号明細書が、ステレオ増強システムを教示している。
【0026】
Schottの米国特許第5,761,313号明細書が、ステレオ信号のステレオ音像セパレーションを改善するための回路に関する。ステレオ信号の差分チャンネルにおいて特別な周波数応答の操作を使用することによって、ステレオ音像が、スピーカの実際の配置を超えて広がるように感じられる。これは、音源が仮想の位置へ物理的に移動した場合に被ると考えられる応答を模擬するように、差分チャンネル応答を成形することによって達成される。回路は、左および右のステレオ信号が加えられる加算回路および高周波等化回路と、やはり左および右のステレオ信号が加えられる差分形成回路ならびに人間の耳の等化回路とを含んでいる。これらの回路からの出力がたすきがけされ、左および右チャンネルの出力が形成される。
【0027】
Hawksの米国特許第5,692,050号明細書が、ステレオおよびモノラル信号を空間的に強調するための方法および装置に関する。モノラル受信器との互換性を犠牲にすることなくステレオ信号を空間的に強調する方法および装置が開示されている。一実施形態によれば、ステレオ強調システムが、わずかに2つの演算増幅器および2つのコンデンサを使用して実現されており、空間強調モードとバイパスモードとの間で切り換えることが可能である。他の実施形態においては、簡略化されたステレオ強調システムが、出力チャンネルのうちの1つを他方の出力チャンネルおよび入力チャンネルの和として構成することによって実現されている。他の実施形態においては、疑似ステレオ信号が、ステレオスピーカのクロストークの打消しの原理に従って合成され、空間的に強調されている。さらに別の実施形態においては、モノラル信号およびステレオ信号のそれぞれの空間的強調が、両方の強調効果を連続的なやり方で混合することができる単一のシステムへと一体的に組み合わせられている。
【0028】
Kennedyらの米国特許第4,959,859号明細書が、FMチャンネル分離調節システムに関する。
【0029】
逆位相信号の慣例の定義は、米国特許第6,477,255号明細書に要約されているように、反転された位相(180度)を有する信号である。
【0030】
Klaymanの米国特許第4,866,774号明細書が、ステレオ強調および指向性サーボである。ステレオ音像強調のために処理される和および差分信号を有するステレオシステムにおいて、ステレオシステムの見掛けの指向性が、左および右の処理済みの差分信号(L−R)p、(R−L)pについてサーボシステムを使用することによって高められる。左および右の各々のサーボが、左または右のそれぞれのステレオ入力信号(L−in、R−in)に応答し、左または右のそれぞれの処理済みの差分信号の増加を増幅する。指向性の強調のためにもたらされる処理済みの差分信号の増幅の量を制御するために、増幅の量は、増幅または指向性が強調された差分信号(L−R)pe、(R−L)peをフィードバックし、最初に指向性の強調前の処理済みの差分信号(L−R)p、(R−L)pと比較し、次いであらかじめ選択された比で入力信号(Lin、Rin)と組み合わせることによって制御される。
【0031】
Hibinoの米国特許第4,815,133号明細書が、右および左の入力信号の間の差分信号を抽出することによって間接音成分を抽出するための間接音抽出回路を有するスピーカシステムにオーディオ信号を供給するための、ステレオ音源に接続された音場生成装置を教示している。差分信号の位相が反転させられ、反転差分信号が得られる。2つの混合回路の各々が、右の入力信号、左の入力信号、左および右の差分信号、ならびに反転差分信号を受け取り、左および右の出力を生成する。
【0032】
Carverの米国特許第4,218,585号明細書が、ステレオシステムのための広がりのあるサウンド生成装置および方法に関する。右信号が、右スピーカの駆動に加えて、反転および遅延させられて左スピーカへ伝えられている。左信号が、左スピーカの駆動に加えて、反転および遅延させられて右スピーカへ伝えられている。
【0033】
Iidaの米国特許第3,725,586号明細書が、2つの音源から4つのサウンド信号を導出するためのマルチサウンド再生装置に関する。2つの入力回路に加えられる左および右のサウンド信号のそれぞれの位相が、位相シフタによってずらされ、次いで別の出力回路へ供給される。さらに、左のサウンド信号は、低域通過フィルタを通って送られ、位相がずらされた右サウンド信号と組み合わせられ、組み合わせ後の信号が別の出力回路へ供給される。同様に、右のサウンド信号が、低域通過フィルタを通って送られ、位相がずらされた左サウンド信号と組み合わせられ、組み合わせ後の信号が別の出力回路へ供給される。
【0034】
本発明の方法および装置は、元の音源に対して改善された忠実度および完全性を有するオーディオ信号コードに含まれるサウンド情報の大部分を利用する実質的に完全なオーディオ信号を再生する。
【0035】
信号の取込み、伝送、または保存から再生までのオーディオ連鎖のあらゆるリンクにおいて実質的に完全なオーディオ信号をもたらすことに加えて、本発明は、さらに既存の(不完全な)オーディオ信号に含まれるコードから実質的に完全なオーディオ信号を再現するやり方を提供する。本発明の原理は、電話、ラジオ放送、生の拡声などによって生で伝えられるサウンド、あるいはCDまたはMP3再生機、蓄音機、DVDまたはブルーレイ再生機などからの録音からの再生サウンドからの既知のオーディオ信号用途におけるステレオ信号などの単一、モノラル、またはディスクリート、あるいは複数の信号を問わず、任意の既知の信号種に適用可能である。
【0036】
さらに、本発明は、スピーチおよび会話の明瞭度を改善することができ、電気通信、映画に加えて、軍事、警察、医療、および他の緊急サウンドなど、その他の用途において特に有利である。また、完全なオーディオ信号で元のサウンド要素を全面的に開放して提示することで、明瞭度の改善、より高い分解能、より良好なダイナミクス、より正確な音色、広範囲に及ぶ大きな幅広い音響空間、より正確なダイナミクス、より自然なスペクトルバランス、およびより細かなディテールも、副産物の一部として自然に得られる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0037】
したがって、本発明は、関連技術の制限および欠点に起因する問題のうちの1つまたは複数を実質的に未然に取り除くオーディオ再生システムのための方法および装置に関する。
【課題を解決するための手段】
【0038】
オーディオ再生装置および方法が、単一、または左および右、あるいはより多くの入力を有するディスクリートなオーディオ信号源を使用し、1つまたは複数のトランスデューサの複数のトランスデューサボイスコイルにより、あるいは信号ミキサの複数のチャンネルへのディスクリートまたは他の信号源から、無指向性のサウンドを有する完全なオーディオ信号を生成する。第1の回路が、信号源に接続され、また、トランスデューサボイスコイルのうちの1つまたは複数、あるいはミキサのチャンネルに結合された同位相の出力を有している。第2の回路が、信号源に接続され、また、ディスクリートな信号源を1つまたは複数のトランスデューサあるいはミキサのチャンネルを通じて再生するために、前記複数のボイスコイルのうちの1つまたは複数、あるいはミキサのチャンネルに結合された逆位相の出力を生成する。装置は、ディスクリートな信号源に結合された同位相基準信号のための基準信号回路と、信号源に結合された逆位相の信号出力を生成するための逆位相回路とを有することができる。さらに、高音信号回路がディスクリートな信号源に結合され、信号源から位相レイヤード高音信号出力を生成する一方で、低音信号回路が、信号源から位相レイヤード低音信号を生成する。出力回路が、基準信号回路、および逆位相信号回路、ならびに高音信号回路、および低音信号回路からの出力を混合し、複合出力信号を形成する。高音回路および低音回路は、ディスクリートな信号源の混合された左および右、2つのモノラル、または多数の信号成分を使用することができる。逆位相回路が、信号源の左および右、2つのモノラル、または多数の信号成分を混合し、信号を反転させる並列の回路経路を有しており、次いで並列の経路の信号を混合して逆位相の出力を生成する。オーディオ再生プロセスが、ディスクリートな信号源を選択するステップと、この信号を使用して同位相基準信号、および逆位相信号、ならびに回路位相レイヤード高音信号、および位相レイヤード低音信号を生成するステップとを含んでいる。次いで、複数のトランスデューサボイスコイルを駆動するための複合出力またはミキサのチャンネルを形成するために、基準信号が逆位相信号ならびに高音信号および低音信号と混合される。これらのモジュールから、実質的に完全な複合オーディオ信号が形成される。
【0039】
本発明に関するこれまでの一般的な説明および以下に示す詳細な説明は、いずれも例示および解説であって、本発明のさらなる説明は請求項に記載のとおり提供することを意図したものであることを理解されたい。
【0040】
本発明に関するこれまでの一般的な説明および以下に示す詳細な説明は、いずれも例示および解説であって、本発明のさらなる説明は請求項に記載のとおり提供することを意図したものであることを理解されたい。
【0041】
本発明のさらなる理解をもたらすために用意され、本明細書に取り入れられて本明細書の一部を構成する添付の図面が、本発明の実施形態を示しており、本明細書の説明とともに本発明の原理を説明する役割を果たす。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明によるサウンドシステムの受動的な実施形態のブロック図である。
【図2】本発明によるサウンドシステムの能動的な実施形態のブロック図である。
【図3】図2の発明のブロック概略図である。
【図4A】図3の発明の拡大されたブロック概略図である。
【図4B】図3の発明の拡大されたブロック概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0043】
次に、添付の図面に示されている本発明の例示的な実施形態を詳しく参照する。
【0044】
本発明の原理に従って実質的に完全なオーディオ信号を達成するための2つの例示的な実施形態が、本明細書において説明および開示される。一の例示的な実施形態が、受動的な信号を示す一方で、第2の実施形態は、能動的な信号を示す。当業者であれば理解されるように、パラメータは、いかなる特定の周波数の設定またはフィルタの種類にも固定されない。フィルタも、6dB、12dB、18dB、または24dBなどの角度または程度に限定されない。さらに、低域通過についての100Hzまたは高域通過についての16kHzなどの周波数の設定も、あくまでも説明の目的のための例として使用されるにすぎない。
【0045】
図面の図1が、他には能動回路を持たないオーディオ増幅器に接続されたスピーカによって機能することができる受動的な構成のブロック図を示している。モノラルまたはディスクリートな信号源10が、ディスクリートな音源信号を第1のオーディオ増幅器11および第2のオーディオ増幅器12に加える。増幅器11の出力が、第1の回路区間を形成するためのボイスコイルをそれぞれ有している1対のスピーカ13および14に接続されている。増幅器12の出力が、第2の回路区間を形成するためのボイスコイルをそれぞれ有している1対のスピーカ15および16に接続されている。回路の各区間を、2つのボイスコイルを有する1つのスピーカとして構成することも可能である。スピーカは、所望の任意のインピーダンス負荷を有することができるが、この実施例では、各々のスピーカが8オームであり、各々の回路区間が4オームである。1つの単一の増幅器を4つのボイスコイルを有する特別に設計された単一のスピーカと組み合わせて使用してもよいことに留意されたい。
【0046】
第1の回路区間は、同位相に接続された並列回路である、すなわち増幅器11の正の接続部が、両方のスピーカ13および14の正の接続部に接続され、増幅器11の負の接続部が、両方のスピーカ13および14の負の接続部に接続されている。第2の回路区間は、逆位相に接続された並列回路であり、スピーカ15の負がスピーカ16の正に接続され、スピーカ15の正が増幅器12の正の端子に接続されている。スピーカ16の負が、増幅器12の負に接続されている。回路を、四重のボイスコイルのスピーカまたはトランスデューサに接続された単一の増幅器を使用するなど、第1および第2の回路区間を他のやり方で組み合わせることによって構成することも可能である。図1に示されている構成は、各々の回路区間の利得を制御し、各々の回路区間のインピーダンスを簡単なやり方で整合させる能力を有している。図1の各区間が、聴取者に業界のコンプライアンスに従い、すなわち同位相に聞こえるようなオーディオ信号の設計のやり方の特徴に一致する第1の回路区間のサウンド特徴を個別にもたらす。図1の第1および第2の区間が個別に、聴取者が第2の回路区間だけを聴取し、同時に第1の回路区間を聞き取ることがない場合に、聴取者が、サウンドが遠く、より大きな空間的高さ、幅、および深さを有しているが遠く離れていると思うような、オーディオ信号の部分的な再現をもたらす。2つの回路区間を同時に組み合わせることで、実質的に完全なオーディオ信号が再現される。音声、音楽、または他のオーディオの元の音響事象、録音、または再生された伝達のサウンドが、実質的に元の事象のように聞き取られる。第1および第2の回路区間は、実質的に完全な信号が形成されるために、等しい振幅に実質的に整合させられなければならない。いずれかの振幅が大きく異なると、より強い信号強度を有する一方が他方を圧倒し、全体としての信号が最適にバランスしなくなる。したがって、結果として得られる信号が、例えば複合回路または実質的に完全なオーディオ信号よりもむしろ処理されて振幅および位相の加算または減算に基づくという効果を有する信号などの実質的に完全な信号から遠くなる。したがって、この実施形態においては、完全なオーディオ信号が物理的な空気の中で生成されており、したがって元の音響事象と同様の様相で振る舞うよう、各々のスピーカはフルレンジのスピーカであり、回路は増幅器の後にあると仮定される。したがって、高域通過および低域通過のクロスオーバは、この実施形態においては不要である。
【0047】
他方で、複数のラウドスピーカを通常有している既存のオーディ機器を使用する場合、ラウドスピーカの各々が2ウェイまたは3ウェイ(あるいは、それ以上)のスピーカシステムを有する場合があり、これらのラウドスピーカは、通常は位相情報をさらに歪ませる追加のクロスオーバを有しており、各々が限られた放射パターンを有しており、高低の経路が、信号に含まれる音響情報の物理的な特徴をより良好に規定する可能性がある。したがって、種々の高域および低域通過ならびに位相制御によって、増幅器およびスピーカへの実質的に完全または事実上球状の信号を生成するために、能動回路を使用することができる。
【0048】
図2が、高域通過および低域通過のクロスオーバを含む実質的に完全なオーディオ信号を生成するための能動回路の基本的なブロック図を示している。「能動」は、動作に電力を必要とする回路であって、信号が増幅器に達する前に直列に接続された回路を意味する。能動回路を、信号源そのものに接続することができ、あるいは増幅器の前または内部のどこかに接続することができる。
【0049】
図2において、信号源20は、音楽を聴くためのラジオ、CD再生機、mp3再生機などであってもよく、あるいは携帯電話機、電話機、マイクロホン、または放送装置などへ人が話しかける、生の音声または生の再生信号であってもよい。信号源20からの信号が、スプリッタまたは他の手段を使用し、あるいはスプリッタの能力を有するミキサにおける繰り返しの複製を通じて、信号の複製物に分割される。
【0050】
元の信号または基準信号21が、信号源20から到来するときに同位相であると仮定される。同位相であるとは、元の信号を基準信号として規定する相対的な用語である。この基準信号は、同位相または調和した基準信号に対して逆位相または逆極性であることによって打ち消されるという理由によって、元の信号の中に折り畳められた潜在的なまたは隠された情報を抽出するための方法をもたらさない点で、不完全でもある。基準信号の1つの複製物が、位相レイヤード信号22を生成するために使用される。
【0051】
位相レイヤリングは、従来の同位相および逆位相の手法を使用して通常であれば打ち消されると考えられる実質的に完全な信号を確立するために、反転位相(180E)と、より小さな部分的位相シフト(例えば、45E、90E)などとの組み合わせを使用する。結果は、元のサウンド事象と同様の特性を有する全面的に開放された無指向性であり、多次元の実質的に完全なオーディオ信号である。基本的に、このような無数の技法を任意の数または組み合わせて適用することで、有用な位相レイヤード信号が生み出される。要約すると、位相レイヤリングは、同位相の信号を打ち消すことなく実質的に完全な信号をもたらす方法である。位相レイヤード信号の使用は、基準信号と等しく重ねられるモジュール成分として、位相関連情報または他の隠された情報の連続性をもたらすことになる。
【0052】
基準信号21および位相レイヤード信号22が、信号ミキサ23へ送られる。第3の信号または高域通過信号24が、約1kcpsを上回る周波数の任意の点を表わしている。極性スイッチが、信号をミキサ23へ送る前に極性または位相を0E〜180Eから切り換える。第4の信号または低域通過信号26が、約1kcpsを下回る周波数を有することができ、やはりミキサ23へ送信するに先立って0E〜180Eの位相シフト制御27を有する。高域および低域通過信号の目的は、通常であれば多数のクロスオーバを使用する典型的な増幅器−スピーカによって平坦化されると考えられるものに対して、球面角度または位相レイヤを適用することにある。約45Eのこれらの角度を適用することによって、位相のレイヤが、事実上球状の音響信号をもたらす最終の実質的に完全なオーディオ信号混合物に形成される。結果として得られた再生信号を、既存のあらゆるすべてのオーディオシステムによって再生された場合に、改善されたサウンドであると認識することができる。この新たな実質的に完全なオーディオ信号が、外部の信号入力が実際に同位相であるか、または逆位相であるかを明らかにする複合基準を含んでいるため、グローバルな位相制御をもたらすことができる。標準的なオーディオシステムは、位相差を割り出すための基準を有していない。本発明は、位相差の検出を可能にし、相対的位相の特定のための測定ツールを可能にする。
【0053】
ミキサ23からの混合信号が、位相反転スイッチ28を介して増幅器30へと適用され、スピーカ31を駆動する。本発明の原理による回路を、ハードウェアに組み込むことができ、またはスタンドアロンの集積回路にて具現化でき、数学的に再公式化されてもよく、実質的に完全な信号を生成するためのソフトウェアの構築を可能にすることができる。この能動オープン信号を、最も一般的な例としてCD再生機、またはその対極にある例として衛星へのテレポート送信ステーションなどの信号源の出力の間に配置することができる。この信号を、携帯電話機または他のどこかの回路として働くように適用することができる。この現在の方法を、信号源の出力と増幅器またはスプリッタなどの入力との間への適用など、Aチェーン、すなわち信号処理のフロントエンドにおいて能動的に採用することができる。
【0054】
図3が、オーディオ信号に含まれる、隠されて埋め込まれた空間的、スペクトル的、ダイナミック的、および他の音響情報を明らかにし、回復し、現すためのステレオ信号のための図2の能動回路のブロック概略図である。図4Aおよび4Bは全体として、モノラル半球回路を追加する、図3の回路のさらに詳細なブロック概略図を示している。
【0055】
図3を参照すると、入力段が、正および負の極性を有する少なくとも1つのオーディオ信号を受け取る。ここでは、実施例としてステレオ信号が示されており、左のステレオ信号の入力35が、増幅器36に接続される一方で、右のステレオ入力37が、増幅器38に接続されている。左の信号の増幅器36の出力が、左のミキサ40に加えられる一方で、右の増幅器38の出力が、右のミキサ41に接続されている。増幅器36および38からの左右の出力が、ミキサ42に加えられ、ミキサ42において加算された信号が、低音および高音回路に加えられる。加算された信号が、低域通過フィルタ43(100Hzなど)を有する低音回路を通って送られ、低音回路において、極性が増幅器44において反転させられ、チューニングのために使用することができる利得調節が可能な増幅器45に加えられる。
【0056】
また、ミキサ42からの加算された信号は、低音回路の経路に並列な高音回路の経路にも加えられ、高音回路の経路において、加算された信号が高域通過フィルタ46(1000Hzなど)に加えられ、高音回路の経路は、極性調節増幅器47およびチューニングに利用することができる調節可能な利得の増幅器48を有している。高音経路の出力位相は、種々の設定を有することができるが、図示のように、左のミキサ40および右のミキサ41の両方に加えられる1つの位相レイヤをもたらすために基準位相を90度だけ進める。低音回路の出力位相は、種々の設定を有することができるが、図示のように、別の位相レイヤをもたらすために基準位相を90度だけ遅らせる。低音回路の出力が、1対の利得増幅器50および51を介して左のミキサ40および右のミキサ41に接続されている。ステレオ半球回路に、緩衝増幅器52を介して左の入力35の信号が加えられ、緩衝増幅器53を介して右の入力37の信号が加えられる。左のステレオ信号が、ミキサ54において別の経路で右のステレオ信号から減算され、反転増幅器55に通され(信号L−R)、フィルタ回路56において低域通過フィルタ処理(〜16kHz)され、リンクされた電圧制御増幅器59およびミキサ61へ送られる。増幅器52からの出力も、ミキサ61に接続される。
【0057】
緩衝増幅器53からの右の入力37の信号が、ミキサ57において左のステレオ信号から減算され、左の信号に並列の経路にて反転増幅器58を通過し(信号R−L)、フィルタ回路60において低域通過フィルタ処理(〜16kHz)され、リンクされた電圧制御増幅器59およびミキサ62へと送られる。さらに、緩衝増幅器53からの出力がミキサ62に直接接続される。
【0058】
これら2つのフィルタ処理された差分信号(信号L−Rおよび信号R−L)の利得を、並行して調節することができ、信号L−Rが、ミキサ61において左のステレオ信号から減算され(信号Rmixとして定義される)、並列の経路の信号R−Lが、ミキサ62において右のステレオ信号から減算される(信号Lmixと定義される)。Rmixのミキサ61の出力が、右のミキサ41に加算され、Lmixのミキサ62の出力が、ミキサ40に加算される。左のステレオ信号が、ミキサ40において高音回路の信号、低音回路の信号、およびLmixの出力と加算され、位相レイヤード左チャンネル出力信号が生成される。右のステレオ信号が、ミキサ41において高音回路の信号、低音回路の信号、およびRmixの出力と加算され、位相レイヤード右チャンネル出力信号が生成される。
【0059】
図面の図4に目を向けると、この図は本発明の原理に従って能動ステレオ回路およびモノラル回路を組み合わせた、より詳細なブロック概略図になっている。
【0060】
入力回路65が、極性スイッチ66へと接続された左および右の入力35および37を有しており、極性スイッチ66が、利得増幅器36および38に接続され、スイッチ66の位置に基づいて入力信号の極性の切り換えをもたらすように設定されている。スイッチ66は、オーディオ信号の「絶対位相」を設定するために実質的に同時に両方のチャンネルの極性を反転させるように接続されている。
【0061】
入力回路からの出力が、高音回路67および低音回路68の両方に加えられる。左および右の信号が、ミキサ42において加算される。高音回路67において、ミキサ42からの加算された信号が、1000Hzに−3dBの点を有する2極フィルタ46によってフィルタ処理される。極性スイッチ47が、必要であれば信号を反転させる。+0dBから+6dBまでの低音における混合のための制御増幅器が存在する。低音回路68において、ミキサ42からの加算された信号が、100Hzに−3dBの点を有する2極フィルタによってフィルタ処理される。必要であれば信号を反転させるための極性スイッチ44が存在し、+0dBから+6dBまでの低音における混合のためのレベル制御部45が存在する。
【0062】
ステレオ半球回路70が、緩衝増幅器52および53を介して入力回路65からの右および左の信号を使用する。
【0063】
半球回路70は、並行な区間を有しており、緩衝増幅器52からの入力信号が増幅器63において反転させられ、ミキサ54において増幅器53からの信号と加算されて、L−R信号が得られる。緩衝増幅器53からの入力信号が、増幅器64において反転させられ、ミキサ57において増幅器52からの信号と加算されて、R−L信号が得られる。増幅器55からの反転させられた信号が、低域通過フィルタ56によってフィルタ処理され、リンクされた電圧制御増幅器(VCA)59によって調節可能である。増幅器58からの反転させられた信号が、低域通過フィルタ60によってフィルタ処理され、リンクされたVCA59によって調節可能である。VCA59の出力が、増幅器71および72によって反転させられ、増幅器71からの信号が、ミキサ61において増幅器52からの信号と加算される。増幅器72からの出力は、ミキサ62において緩衝増幅器53からの出力と加算される。ミキサ61からの信号が、スイッチ73へと送られ、ミキサ62からの信号が、スイッチ74へ送られる。ミキサ61からのステレオ信号が、出力回路75のミキサ40およびモノラル半球回路80へ送られる。ミキサ62からの出力が、出力回路75のミキサ41およびモノラル半球回路80へ送られる。ミキサ40の出力が、可変の出力76に接続され、ミキサ41の出力が、可変の出力77に接続されている。
【0064】
増幅器36からの左のステレオ信号の入力が、ミキサ40において高音および低音回路の出力信号ならびに増幅器61からの混合信号と加算され、位相レイヤード左チャンネル出力信号が生成される。
【0065】
増幅器38からの右のステレオ信号の入力が、高音および低音回路の出力信号ならびに増幅器62からの混合信号と加算され、位相レイヤード右チャンネル出力信号が生成される。
【0066】
スイッチ73および74がモノラルモードに置かれる場合、半球ステレオミキサ73の出力が反転増幅器81において反転させられ、半球ミキサ62の出力が反転増幅器82において反転させられる。インバータ81からの信号が、反転増幅器83において再び反転させられ、また、インバータ82からの反転信号が、インバータ84において再び反転させられる。増幅器83からの反転信号が、ミキサ85へと送られ、インバータ82からの信号と混合され、また、反転増幅器84からの出力が、ミキサ86へ送られ、インバータ81からの反転信号と混合される。ミキサ86からの混合信号が、増幅器88において反転させられ、また、ミキサ85の出力が、増幅器87において反転させられる。増幅器88からの反転信号が、低域通過フィルタ90を通過し、リンクされた電圧制御増幅器91へ送られる。増幅器87からの反転信号が、低域通過フィルタ92を通過し、リンクされた電圧制御増幅器93へ送られる。VCA91の出力が、増幅器95において反転させられ、ミキサ94へと送られてインバータ81からの信号と混合される。次いで、信号が増幅器98において反転させられ、スイッチ73へと加えられ、したがってミキサ40および41に加えられる。VCA93の出力が、増幅器96において反転させられ、ミキサ97へ送られてインバータ82からの信号と混合される。次いで、信号が増幅器100において反転させられ、スイッチ74へと加えられ、したがってミキサ40および41に加えられる。
【0067】
出力回路75が、以下のような左および右の入力についての比で信号を混合する。すなわち、左および右の入力=1、高音回路の出力=1、低音回路の出力=2、ならびにステレオまたはモノラルの半球出力=1である。
【0068】
図4Aを参照すると、本発明のプロセスは、ディスクリートな信号源(35および37)を選択すること、および入力回路65から同位相の基準信号を生成することを含んでいる。基準信号との逆位相信号を生成するために、ステレオ半球回路70において基準信号から反転させられた位相信号が生成される。位相レイヤード信号が、基準信号を90度だけ進める位相を有することができる高音回路67において基準信号から生成される。また、位相レイヤード信号が、基準信号を90度だけ遅らせる位相を有することができる低音回路68において基準信号から生成される。これらの位相レイヤード信号は、基準信号を90度もしくは45度だけ進め、または遅らせることができ、あるいは基準信号を0〜180度の間で進め、または遅らせる任意の位相に設定することが可能である。
【0069】
この時点で、オーディオ信号源から事実上無指向性かつオープンなサウンドをもたらし、通常の標準的な不完全オーディオ信号を実質的に完全なオーディオ信号へ変換できるようにするオーディオ再現システムが生成されていることが明らかであろう。しかしながら、本発明を、上述の形態に限られるものとして解釈すべきではなく、上述の形態は、本発明を限定するものとしてではなく、本発明の例示として考えられるべきである。
【0070】
本発明の思想および範囲から逸脱することなく、本発明において種々の修正および改変が可能であることは、当業者にとって明らかであろう。したがって、本発明は、本発明の修正実施形態および変形実施形態が添付の特許請求の範囲およびその均等物の技術的範囲に含まれる限り、これらの修正実施形態および変形実施形態を網羅することを意図したものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ディスクリートな信号源を選択するステップと、
前記選択したディスクリートな信号源から基準信号を生成して、同位相基準信号の出力を生成するステップと、
前記選択したディスクリートな信号源から逆位相信号を生成して、逆位相信号の出力を生成するステップと、
前記ディスクリートな信号源から位相レイヤード信号を生成するステップと、
前記基準信号および前記逆位相信号、ならびに前記位相レイヤード信号を混合して、サウンドの再生のための複合出力信号を形成するステップと
を含むオーディオ再生プロセス。
【請求項2】
位相レイヤード信号を生成するステップが、位相レイヤード高音および低音信号を生成するための、位相レイヤード高音信号および位相レイヤード低音信号を生成するステップを含む請求項1に記載のオーディオ再生プロセス。
【請求項3】
前記選択したディスクリート信号の左および右の入力を混合して、前記位相レイヤード高音信号および前記位相レイヤード低音信号を生成するステップを含む請求項2に記載のオーディオ再生プロセス。
【請求項4】
前記生成される逆位相信号が、並列の回路において生成され、各々の回路がディスクリート信号の左および右の入力を合成する請求項3に記載のオーディオ再生プロセス。
【請求項5】
前記逆位相信号を生成するステップが、逆位相信号のために左信号から右信号を差し引いた信号、および右信号から左信号を差し引いた信号を生成し、合成するステップを含む請求項4に記載のオーディオ再生プロセス。
【請求項6】
前記並列の逆位相信号の各々が、リンクされた電圧制御増幅器に結合される請求項5に記載のオーディオ再生プロセス。
【請求項7】
ディスクリートな信号源と、
前記ディスクリートな信号源に結合され、同位相基準信号を生成する基準信号回路と、
前記ディスクリートな信号源に結合され、前記ディスクリートな信号源から逆位相信号を生成する位相反転信号回路と、
前記ディスクリートな信号源に結合され、前記ディスクリートな信号源から位相レイヤード高音信号を生成する位相レイヤード高音信号回路と、
前記ディスクリートな信号源に結合され、前記ディスクリートな信号源から位相レイヤード低音信号を生成する位相レイヤード低音信号回路と、
前記基準信号回路、前記位相反転信号回路、前記位相レイヤード高音信号回路、および前記位相レイヤード低音信号回路からの出力に結合されて、複合出力信号を形成する出力回路と
を備えるオーディオ再生システム。
【請求項8】
前記出力回路が、前記基準信号、前記位相反転信号、前記位相レイヤード高音信号、および前記位相レイヤード低音信号を混合して、複合出力信号を形成するミキサを含む請求項7に記載のオーディオ再生システム。
【請求項9】
前記位相反転信号回路が、インバータ回路を含む請求項8に記載のオーディオ再生システム。
【請求項10】
前記位相レイヤード高音信号回路および前記位相レイヤード低音信号回路の各々が、インバータ回路を含む請求項9に記載のオーディオ再生システム。
【請求項11】
前記ディスクリートな信号源が、左および右の信号入力を含む請求項10に記載のオーディオ再生システム。
【請求項12】
前記ディスクリートな信号源の左および右の信号入力がミキサに結合されて、前記位相レイヤード高音回路および前記位相レイヤード低音回路に結合された合成信号を生成する請求項11に記載のオーディオ再生システム。
【請求項13】
前記位相反転信号回路が、1対の並列な回路を有し、各々がディスクリートな信号源の左および右の信号を合成させる請求項12に記載のオーディオ再生システム。
【請求項14】
前記位相反転信号回路の並列な回路の一方が左−右フィルタを有し、他方が右−左フィルタを有する請求項13に記載のオーディオ再生システム。
【請求項15】
前記位相レイヤード並列回路の各々が、電圧制御増幅器に接続されている請求項14に記載のオーディオ再生システム。
【請求項16】
ディスクリートな信号源と、
少なくとも1つのトランスデューサの一部を形成する複数のトランスデューサボイスコイルと、
前記信号源に接続され、前記複数のトランスデューサボイスコイルのうちの1つに結合された同位相出力部を有する第1の回路と、
前記信号源に接続され、前記複数のトランスデューサボイスコイルのうちの第2のボイスコイルに接続された逆位相出力部を有する第2の回路と
を備え、これによって、
前記ディスクリートな信号源を少なくとも1つのオーディオトランスデューサを通じて再生するオーディオ再生システム。
【請求項17】
前記第2の回路が、インバータ回路を含む請求項16に記載のオーディオ再生システム。
【請求項18】
前記第1および第2の回路の各々が、増幅器を含む請求項17に記載のオーディオ再生システム。
【請求項19】
複数のオーディオトランスデューサを有し、各々が前記複数のボイスコイルのうちの少なくとも1つを有する請求項18に記載のオーディオ再生システム。
【請求項20】
前記トランスデューサの各々が、2つのボイスコイルを有する請求項19に記載のオーディオ再生システム。
【請求項21】
前記トランスデューサが、4つのボイスコイルを有する請求項16に記載のオーディオ再生システム。
【請求項22】
前記ディスクリートなオーディオ信号が、モノラル信号である請求項16に記載のオーディオ再生システム。
【請求項23】
前記ディスクリートなオーディオ信号が、ステレオ信号である請求項16に記載のオーディオ再生システム。
【請求項24】
前記第1および第2の回路の各々が、ミキサを含む請求項16に記載のオーディオ再生システム。
【請求項25】
前記信号源に接続され、前記信号源から位相レイヤード高音出力を生成する高域通過フィルタを有する第3の回路を含む請求項24に記載のオーディオ再生システム。
【請求項26】
前記信号源に接続され、前記信号源から位相レイヤード低音出力を生成する低域通過フィルタを有する第4の回路を含む請求項25に記載のオーディオ再生システム。
【請求項27】
前記第1、第2、第3、および第4の回路の出力を混合するミキサを有して、複合信号出力を生成する出力回路を含む請求項26に記載のオーディオ再生システム。
【請求項28】
ディスクリートな信号源と、
入力および出力を有し、前記入力が前記ディスクリートな信号源に接続されている第1の増幅器と、
入力および出力を有し、該入力が前記ディスクリートな信号源に接続されている第2の増幅器と、
少なくとも1つのトランスデューサの一部を形成する複数のトランスデューサボイスコイルと
を備え、
前記複数のボイスコイルのうちの2つが前記第1の増幅器の出力に同位相で接続され、
前記複数のボイスコイルのうちの2つが前記第2の増幅器に逆位相で接続され、
これによって、1つのディスクリートなオーディオ信号が、2つの増幅器によって駆動される複数のトランスデューサボイスコイルによって同時に同位相および逆位相の両方で再生されるオーディオ再生システム。
【請求項29】
2つのトランスデューサを有し、各々が前記複数のボイスコイルのうちの2つを有し、前記トランスデューサの一方が、前記第1の増幅器に接続され、他方のトランスデューサが、前記第1の増幅器に接続され、他方のトランスデューサが、前記第2の増幅器に接続されている請求項28に記載のオーディオ再生システム。
【請求項30】
4つのボイスコイルを有する1つのトランスデューサを有する請求項29に記載のオーディオ再生システム。
【請求項31】
前記ディスクリートなオーディオ信号が、同じ信号を各増幅器に加えるスプリッタを有するモノラル信号である請求項30に記載のオーディオ再生システム。
【請求項32】
ディスクリートな信号源を選択するステップと、
前記選択したディスクリートな信号源を分割するステップと、
前記選択したディスクリートな信号源を、同位相の信号出力を有する第1の回路に加えるステップと、
前記選択したディスクリートな信号源を、逆位相の信号出力を有する第2の回路に加えるステップと、
前記選択したディスクリートな信号源を、位相レイヤリング信号出力を有する第3の回路に加えるステップと、
前記第1、第2、および第3の回路からの信号出力を合成して、トランスデューサを駆動するためのオーディオ出力信号を生成するステップと
を含み、これによって、
位相レイヤード成分を有するオーディオサウンドを生成するオーディオ再生プロセス。
【請求項33】
前記選択したディスクリートな信号を第3の回路に加えるステップが、前記信号を位相レイヤード高音回路および位相レイヤード低音回路に加えるステップを含む請求項32に記載のオーディオ再生プロセス。
【請求項34】
前記位相レイヤード高音回路および位相レイヤード低音回路の出力信号の位相を調節するステップを含む請求項33に記載のオーディオ再生プロセス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【公表番号】特表2013−504837(P2013−504837A)
【公表日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−528922(P2012−528922)
【出願日】平成22年9月10日(2010.9.10)
【国際出願番号】PCT/US2010/048406
【国際公開番号】WO2011/031953
【国際公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【出願人】(512061607)
【Fターム(参考)】