説明

室内空間用抗菌シート

【課題】本発明は気密性が向上した住宅における室内の菌類の増殖を抑制できる室内空間用抗菌シートを提供することを目的とするものである。
【解決手段】ヨウ素及びホウ酸を含有したビニルアルコール系樹脂シートからなる室内空間用抗菌シート。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は室内空間用抗菌シートに関するものであり、詳しくは、例えば、住宅における壁紙などとして使用可能な室内空間用抗菌シートに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、住宅のエネルギー効率を高めるための工法として、例えば、外断熱工法が普及しているが、この工法によれば、室内の密閉性が高まり、夏場及び冬場における冷暖房効率が向上する利点がある。
【0003】
しかし、その一方で、室内における通気性が低下するため、室内における各種菌、カビ、ダニ、ウイルス(以下、総称して菌類という)の発生増殖がしやすい傾向となり、これら菌類の増加により、アトピーや喘息など人体への影響が心配される。
また、これらの菌類が壁材内部まで侵入し強固に固着した場合は、布による拭き取りや薬剤による洗浄でも除去できないため、壁材そのものを取り替えるしか手段が無い。
【0004】
そこで、菌類の発生、増殖を抑制するため、常にエアコン又は除湿機を作動させ室内湿度を低減させることが望ましいが、現実問題として、各家庭において常時エアコン又は除湿機を入れて除湿しておくことは難しく、また省エネルギーの観点から望ましくない。
【0005】
また、抗菌性の組成物として、例えば特開平9−67216号公報に記載されているように、エチレンとビニルアルコールとの共重合体にヨウ素を含有させた組成物が挙げられている。しかしながら、かかる組成物では樹脂シートとしての強度が不充分であり、更に抗菌性の点でもまだまだ満足のいくものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平9−67216号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明は気密性が向上した住宅における室内の菌類の増殖を抑制できる抗菌シートを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は上記実情に鑑み、室内の菌類の増殖を簡単に抑制でき、しかも強度的に問題がなく施工も容易な被覆材を得るべく種々検討を重ねた結果、ある特定の樹脂にヨウ素だけでなくホウ酸をも含有させることによって本発明の目的が達成されることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明の要旨は、ヨウ素及びホウ酸を含有したビニルアルコール系樹脂シートからなる室内空間用抗菌シートに存する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の抗菌シートによれば、ビルアルコール系樹脂基材とヨウ素及びホウ酸との相互作用により長期間、抗菌効果が持続できる上、室内の湿度調整も可能である。すなわち、ビニルアルコール系樹脂は吸湿性の高い樹脂であるため、室内の湿度が高い場合には室内の水分を吸収し、一方、室内が乾燥している場合には水分を放出するので、特に気密性の高い高機能住宅における湿度調整にも役立つものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の構成につき詳細に説明するが、これらは望ましい実施態様の一例を示すものである。なお、本発明においては、各種菌、カビ、ダニ、ウイルス等を、総称して菌類という。
【0012】
本発明の室内空間用抗菌シートは、ビニルアルコール系樹脂シートを基材とするものであるが、このシートの厚さとしては、通常、5〜200μm、好ましくは10〜100μmである。このシートは無延伸であっても、延伸したものであってもよく、延伸品の場合は1軸延伸品でも2軸延伸品でもよいが、通常、強度面から延伸品が好ましい。なお、このシートの引張強度は、通常、100〜500MPaである。
【0013】
本発明で用いられるビニルアルコール系樹脂は、通常ポリビニルアルコール系樹脂であることが好ましく、ポリビニルアルコール系樹脂は、通常、酢酸ビニルを重合することにより得た酢酸ビニル重合体をケン化して得られる樹脂である。この樹脂の重合度は、通常、1000〜6000、好ましくは1500〜5000であり、また、ケン化度は、通常、70〜99.9モル%、好ましくは95〜99.9モル%である。これらの樹脂としては通常の市販品を用いることができる。
【0014】
また、本発明では、ビニルアルコール系樹脂として必ずしも、ポリビニルアルコールそのものを用いなくても、基本的にポリビニルアルコールの特性を有し本発明の効果が得られる物であれば良く、例えば共重合可能なモノマーによって共重合された変性ポリビニルアルコール、更にポリビニルアルコールの一部が後変性されたものでもよい。変性ポリビニルアルコールとしては、例えば、0.1〜8モル%の少量エチレンによって共重合したもの、0.5〜20モル%、好ましくは1〜10モル%のジオール基含有エチレン性モノマーを共重合した樹脂などが挙げられる。また、ビニルアルコール系樹脂として15〜60モル%、好ましくは20〜45モル%のエチレンを共重合した、所謂、エチレン−ビニルアルコール樹脂(EVOH樹脂)を用いることもできる。
【0015】
本発明で含有するヨウ素について、ヨウ素源としては、通常、ヨウ化カリウム、ヨウ化リチウム、ヨウ化ナトリウムなどが挙げられ、なかでもヨウ化カリウムが好ましい。一方、ホウ酸については、ホウ酸源としては、通常、オルトホウ酸、メタホウ酸、ホウ砂などが挙げられる。
【0016】
本発明の抗菌シートはヨウ素とホウ酸を含有したものであるが、ヨウ素の含有量としては、通常、ビニルアルコール系樹脂シートに対してヨウ素として0.1〜2重量%、好ましくは0.2〜1重量%であり、また、ホウ酸の含有量としては、通常、ビニルアルコール系樹脂シートに対してホウ素として0.1〜10重量%、好ましくは1〜5重量%である。この含有量があまり少ないと十分な菌類の増殖抑制効果が発揮されない傾向があり、あまり多過ぎても著しい効果の向上もない。本発明では、ベースとなるビニルアルコール系樹脂と共に、このヨウ素とホウ酸との作用が組み合わさり優れた抗菌効果が長期間、安定して発揮されるものである。
【0017】
ビニルアルコール系樹脂シートへのヨウ素及びホウ酸の含有手法としては、最終的に両成分が含有されればよく、代表的には、常法によって製膜されたビニルアルコール系樹脂シートをヨウ素源の水溶液及びホウ酸源の水溶液と接触させる方法が挙げられる。この場合の接触は同時に行っても、別々に行ってもよく、また必要に応じて多段で行ってもよい。このヨウ素及びホウ酸を含有するビニルアルコール系樹脂シートの製造法は従来、公知のビニルアルコール系フィルムを基板とする偏光膜と基材の厚さなどが異なるものの、その製造方法や条件は基本的に同様なものである。
【0018】
ヨウ素及び/又はホウ酸との接触は、代表的には、配合すべきヨウ素及び/又はホウ酸の水溶液中に樹脂シートを浸漬させることによって行うことができる。この際の水溶液濃度としては、通常、ヨウ化カリウムが1〜70重量%、好ましくは5〜30重量%であり、ホウ酸が10〜90重量%、好ましくは30〜70重量%である。その接触条件は、例えば、5〜70℃の温度で、1〜20分程度である。
【0019】
このヨウ素及び/ホウ酸水溶液との接触を終えた樹脂シートは、必要に応じて水洗浄した後、乾燥処理することにより、本発明の樹脂シートを得ることができる。なお、樹脂シートの含水率は、通常、3〜15重量%、好ましくは5〜12重量%である。
【0020】
また、ヨウ素、ホウ酸との接触処理を行うのに先立ち、ビニルアルコール系樹脂シートを水と接触し膨潤させておくと、両成分の吸収が良好に行われるので望ましい。
【0021】
更に、本発明では、ヨウ素及びホウ酸を原料ポリマーに配合した混合物を製膜することにより前記成分が含有された樹脂シートを製造することも可能である。例えば、原料ポリマーとヨウ素及びホウ酸を溶解した水溶液を常法によって流延成形によって製膜する方法、又は、原料ポリマーにヨウ素とホウ酸を配合した混合物を常法に従って溶融成形する方法などが挙げられる。
【0022】
本発明の樹脂シートは、無延伸のものでも延伸したものでもよいが、樹脂シートとしての強度面から少なくとも縦方向に延伸したもの、特には、縦方向、横方向に2軸延伸されたものが強度面から好ましい。樹脂シートの延伸処理は、通常、常法に従い、製膜された樹脂シートのヨウ素及びホウ酸の配合前又は配合後で行われるが、場合によっては、上記ヨウ素及びホウ酸水溶液との接触処理時に同時に行うこともできる。延伸を行う場合の延伸倍率は、縦横それぞれ、通常、2〜10倍程度である。
【0023】
本発明の樹脂シートにおいては、更に、必要に応じて各種の添加剤を配合しても差し支えない。これら添加剤としては、例えば、ホウ素やヨウ素以外の抗菌剤、抗ウイルス剤、抗アレルゲン剤、紫外線吸収剤、着色染料、着色顔料、消泡剤、レベリング剤、チクソトロピー性付与剤、界面活性剤、可塑剤、ブロッキング防止剤、酸化防止剤、赤外線吸収剤、難燃剤、増粘剤、各種フィラーなどが挙げられる。
【0024】
本発明の室内用抗菌シートは、例えば、個人住宅、集合住宅、商業建造物などの室内空間における抗菌効果のための被覆材として用いるものであるが、通常、壁紙、カーテン、間仕切り、暖簾、タペストリー、敷物、テーブルクロス、断熱材、その他インテリアなど様々な形態で用いることができ、特に、壁紙などの建築構造物の被覆材として用いるのが効果的である。
【0025】
本発明の抗菌シートの設置場所は抗菌効果を期待する場所であれば任意の場所で構わない。また、その効果の大きさは設置場所の環境によって変化するものの、本発明の抗菌シートの設置による相対的効果は確実に得られるものである。しかし、その絶対効果は本発明の抗菌被覆材の使用面積が大きいほど向上するので、そのサイズによって決定される。
【0026】
本発明の抗菌シートの形状及び大きさは、上記の使用目的により適宜の形状、サイズに切断し使用することができる。また、構造としても樹脂シートをそのままの状態で用いることもできるが、場合によって、表側に例えば、紙、不織布又は小孔を有する樹脂フィルムなどの通気性薄膜シートを積層してもよい。また、裏側には、紙、不織布、木板又は樹脂シートなどの支持部材を設置してもよい。
【実施例】
【0027】
次に、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り以下の実施例の記載内容に制限されるものではない。
尚、例中「部」、「%」とあるのは、断りのない限り重量基準を意味する。
【0028】
以下の通り各評価を行った。
(1)抗菌性
製造1日後と2ヶ月後のシートに関して、JIS Z 2801に準拠して試験を行い、Staphylococcus aureus(黄色ブドウ球菌)、及びEscherichia coli(大腸菌)に関して、以下の通り評価した。なお、リファレンスとなる無加工フィルムとしては、比較例1で作製したヨウ素、ホウ素、抗菌剤、抗黴剤のいずれも含有しないシートを用いた。
○・・・いずれの菌にも抗菌活性値2以上
×・・・いずれかの菌、もしくはいずれの菌にも抗菌活性値2未満
【0029】
(2)抗黴性
Aspergillus niger、Penicillium citrinum、Aureobasidium pullulans、Phoma sp.、及びCladosporium cladosporioidesの5種類の黴をそれぞれポテトデキストロース(PDA)に接種し、25℃で10日間培養後、非イオン界面活性剤であるポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート(tween80)を0.05重量%添加した減菌水を用いて、5種類の黴の胞子数がそれぞれ1.0×10cfu/mlである混合胞子液を作製した。この混合胞子液を、製造1日後と2ヶ月後のシートの表面に噴霧し、29℃、90%RHで4週間培養して、黴の発育を肉眼で観察することにより、以下の通り抗黴性を評価した。
○・・・黴の菌糸の発育は認められない。
×・・・黴の菌糸の発育が認められる。
【0030】
実施例1
市販の厚さ25μmの2軸延伸ポリビニルアルコールシート(重合度1500、ケン化度99.5モル%、日本合成化学工業株式会社製 商品名:ボブロン)を5cm×5cmに切断したものを、15%ヨウ化カリウム水溶液及び50%ホウ酸水溶液に順次、浸漬し、それぞれ30℃で5分間、接触処理した後、これを温風乾燥することにより本発明の抗菌シートを製造した。
なお、得られた抗菌シートの含水率は5%であり、ヨウ素含量は0.3%、ホウ酸含量は3%であった。
得られた抗菌シートの抗菌性及び抗黴性の評価を行った。評価結果は、表1に示される通りである。
【0031】
比較例1
実施例1において、ヨウ化カリウム及びホウ酸処理を施さないポリビニルアルコールシート(重合度1500、ケン化度99.5モル%)を用いて、その抗菌性及び抗黴性の評価を行った。評価結果は表1に示される通りである。
【0032】
【表1】

【0033】
上記結果からも分かるように、ヨウ素及びホウ酸を含有する実施例1のシートにおいては製造後のみならず長期において抗菌性、抗黴性に優れるのに対して、それらを含有しない比較例のシートでは抗菌性及び抗黴性の効果は得られないものであった。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明の室内用抗菌シートは、抗菌性及び抗黴性に優れるため、例えば、個人住宅、集合住宅、商業建造物などの室内空間における抗菌効果のための被覆材として用いることができ、通常、壁紙、カーテン、間仕切り、暖簾、タペストリー、敷物、テーブルクロス、断熱材、その他インテリアなど様々な形態で用いることができ、特に、壁紙などの建築構造物の被覆材として用いるのが効果的である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヨウ素及びホウ酸を含有したビニルアルコール系樹脂シートからなることを特徴とする室内空間用抗菌シート。
【請求項2】
樹脂シートに対しヨウ素を0.1〜2重量%含有してなることを特徴とする請求項1記載の室内空間用抗菌シート。
【請求項3】
樹脂シートに対しホウ酸を0.1〜10重量%含有してなることを特徴とする請求項1又は2記載の室内空間用抗菌シート。

【公開番号】特開2010−112159(P2010−112159A)
【公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−229228(P2009−229228)
【出願日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【出願人】(000004101)日本合成化学工業株式会社 (572)
【Fターム(参考)】