説明

室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物

【課題】接着耐久性が良好であり、低コスト化した室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物を提供する。
【解決手段】式(1)〜(4)で示されるオルガノポリシロキサンの少なくとも1種と、チタンキレート触媒及び/又は式(5)で示されるオルガノキシチタンと式(6)の分岐状オルガノポリシロキサンを予め混合し、熟成を施した硬化触媒を用いる室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車エンジン等に使用される機械油(マシン油、切削油、タービン油、エンジンオイル、ギヤオイル)に対し優れた接着耐久性を示す室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物、特には鉄など機械油によって腐食等が起こり得る基材においても良好に接着性を保持できる室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物であり、自動車用FIPG材料として有用とされる室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車用のエンジン周辺のシールについては、従来コルク、有機ゴム、アスベストなどで作られた耐油性のガスケット、パッキング材が使用されているが、これらには在庫管理及び作業工程が煩雑であるという不利があり、更にはそのシール性能にも信頼性がないという欠点がある。そのため、この種の用途には室温硬化型オルガノポリシロキサン組成物を利用したFIPG方式(Formed In Place Gaskets)が採用されるようになり、作業性、密閉性、耐熱性の面で高い評価が得られている。
【0003】
しかし、従来公知の室温硬化型オルガノポリシロキサン組成物は、機械油(マシン油、切削油、タービン油、エンジンオイル、ギヤオイル)によって腐食等が起こり得る基材、特に鉄などに対して使用するが、高温において機械油浸漬すると接着性が低下してしまうという問題があった。この現象は、機械油の漏洩が起こる危険性を示唆しているため、現在大変問題視されている。接着性が低下する原因としては、機械油中に含まれる亜鉛、リン、モリブテン、硫黄等の添加剤により基材が酸化され、基材自体が化学変化することによるものと考えられる。この化学変化を抑制するため金属粉等を添加し、基材の腐食を遅延させることで接着性を維持する方法(特開2003−096301号公報、特開2005−272703号公報:特許文献1,2)が現在までに報告されている。上記方法においては、確かに接着性はある程度まで維持させることが可能であるが、添加した金属粉がすべて腐食されると接着性の維持が不可能になることや、添加する金属粉の高騰などによりコスト高になるという不具合があった。
【0004】
【特許文献1】特開2003−096301号公報
【特許文献2】特開2005−272703号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、接着耐久性が良好であり、低コスト化した室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討を行った結果、下記一般式(1)〜(4)で示されるオルガノポリシロキサンの少なくとも1種と、チタンキレート触媒及び/又は下記一般式(5)で示されるオルガノキシチタンと下記一般式(6)で示される分岐状オルガノポリシロキサンを予め混合し、熟成を施した硬化触媒を用いることで、接着耐久性を維持し、かつ低コスト化した室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物が得られることを見出し、本発明をなすに至った。
【0007】
従って、本発明は、下記の室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物を提供する。
〔請求項1〕
(A)下記一般式(1)〜(4)のいずれかで示されるオルガノポリシロキサン:
100質量部、
【化1】

〔式中、Rはメチル基又はエチル基であり、R1は炭素原子数1〜10の置換もしくは非置換の一価炭化水素基であり、Xは10以上の整数である。Yは酸素原子及び/又は炭素原子数1〜5のアルキレン基であり、Nは独立に0又は1の整数である。Vは炭素原子数2〜5のアルケニル基であり、Zは0以上の整数であり、R2は下記式
【化2】

(ここで、R、R1、Y、Nは上記の通りである。)
で示される加水分解性基を含む分岐鎖である。〕
(B)チタンキレート触媒及び/又は下記一般式(5)
【化3】

(式中、R3は炭素原子数2〜10の非置換又はアルコキシ基置換一価炭化水素基である。)
で示されるオルガノキシチタンと、下記一般式(6)
abD’cdT’ef(O1/2H)g (6)
〔式中、Mは(R452SiO1/2)、Dは(SiR52O)、D’は(SiR56O)、Tは(SiR53/2)、T’は(SiR63/2)、Qは(SiO2)(式中のR4は炭素原子数1〜10の一価の炭化水素基であり、R5は炭素原子数1〜10の置換もしくは非置換の一価の飽和炭化水素基であり、R6は炭素原子数2〜6の置換もしくは非置換の一価の脂肪族不飽和炭化水素基である。)で示される構造単位であり、式中の酸素原子は隣接する構造単位と共有されてシロキサン結合を形成するものとする。また、a、f、gが1以上の整数であり、b、c、d、eは0以上の整数である。〕
で示される分岐状オルガノポリシロキサンを予め混合し、熟成を施した硬化触媒:
5〜50質量部、
(C)少なくとも1種の充填剤 10〜200質量部
を必須成分としてなることを特徴とする室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物。
〔請求項2〕
更に、(D)下記一般式(7)
【化4】

で示されるシランカップリング剤を0.5〜10質量部含有することを特徴とする請求項1記載の室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物。
〔請求項3〕
更に、(E)ケイ素原子に結合した加水分解性基を1分子中に平均2個以上有するアルコキシシラン化合物、その部分加水分解物又はこれらの混合物を含有することを特徴とする請求項1又は2記載の室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物。
【発明の効果】
【0008】
本発明の室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物は、自動車エンジン等に使用される機械油(マシン油、切削油、タービン油、エンジンオイル、ギヤオイル)に対し優れた接着耐久性を示し、特には鉄など機械油によって腐食等が起こり得る基材においても良好に接着性を保持でき、自動車用FIPG材料として有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明に使用される(A)成分は、本組成物のベースポリマーとなるものであり、保存安定性を得るために、下記一般式(1)〜(4)で示されるオルガノポリシロキサンから選ばれるものであることが必要である。
【0010】
【化5】

(式中、Rはメチル基又はエチル基であり、R1は炭素原子数1〜10の置換もしくは非置換の一価炭化水素基であり、Xは10以上の整数である。Yは酸素原子及び/又は炭素原子数1〜5のアルキレン基であり、Nは独立に0又は1の整数である。)
【0011】
【化6】

(式中、R、R1、X、Nは上記の通りである。Vは炭素原子数2〜5のアルケニル基である。)
【0012】
【化7】

〔式中、R、R1、X、Y、Nは上記の通りである。また、Zは0以上の整数であり、R2は下記一般式
【化8】

(ここで、R、R1、Y、Nは上記の通りである。)
で示される加水分解性基を含む分岐鎖である。〕
【0013】
【化9】

(式中、R、R1、V、X、Y、Z、N、R2は上記の通りである。)
【0014】
上記一般式(1)〜(4)中、Rはメチル基又はエチル基であり、メチル基が好ましい。R1は炭素原子数1〜10、特に1〜6の置換又は非置換の一価の炭化水素基であり、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、ノニル基、デシル基などのアルキル基、シクロヘキシル基などのシクロアルキル基、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基等のアリール基、ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基等のアラルキル基、ビニル基、アリル基、プロペニル基、イソプロペニル基、ブテニル基、ヘキセニル基、シクロヘキセニル基、オクテニル基等のアルケニル基や、これらの基の水素結合が部分的にフッ素、臭素、塩素等のハロゲン原子などで置換された基、例えば3,3,3−トリフルオロプロピル基等が挙げられ、メチル基、エチル基、ビニル基、フェニル基、3,3,3−トリフルオロプロピル基が好ましく、メチル基が特に好ましい。上記一般式(1)〜(4)中の複数のR1は同一の基であっても異種の基であってもよい。
【0015】
また、Yは酸素原子及び/又は炭素原子数1〜5のアルキレン基であり、アルキレン基としては、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基等が挙げられ、エチレン基が好ましい。Vは炭素原子数2〜5のアルケニル基であり、アルケニル基としてはビニル基、アリル基、ブテニル基、ペンテニル基等が挙げられ、その中でもビニル基が好ましい。
【0016】
Xは10以上の整数であり、好ましくは20〜10,000の整数である。Zは0以上の整数であり、好ましくは0〜10の整数である。
【0017】
(A)成分の好ましい粘度は、25℃の条件下において50〜100,000mPa・sである。これは50mPa・sより小さいと硬化後のエラストマーに優れた物理的性質、特に柔軟性・耐衝撃性を与えることができないおそれがあるためであり、また、100,000mPa・sより大きいと組成物の粘度が高くなり、流動性が著しく低下するおそれがあるためである。そのため、より好ましくは100〜20,000mPa・sである。なお、本発明において、粘度は回転粘度計による測定値である。
【0018】
本発明に使用される(B)成分の硬化触媒は、チタンキレート触媒及び/又は下記一般式(5)で示されるオルガノキシチタンと、下記一般式(6)で示される分岐状オルガノポリシロキサンを予め混合し、熟成を施したものである。この硬化触媒は、本発明に良好な接着耐久性を付与するための必須成分である。
【0019】
【化10】

(式中、R3は炭素原子数2〜10の非置換又はアルコキシ基置換一価炭化水素基である。)
【0020】
abD’cdT’ef(O1/2H)g (6)
〔式中、Mは下記一般式(8)、Dは下記一般式(9)、D’は下記一般式(10)、Tは下記一般式(11)、T’は下記一般式(12)、Qは下記一般式(13)で示される構造単位であり、式中の酸素原子は隣接する構造単位と共有されてシロキサン結合を形成するものとする。また、a、f、gが1以上の整数であり、b、c、d、eは0以上の整数である。
(R452SiO1/2) (8)
(SiR52O) (9)
(SiR56O) (10)
(SiR53/2) (11)
(SiR63/2) (12)
(SiO2) (13)
(式中のR4は炭素原子数1〜10の一価の炭化水素基であり、また、R5は炭素原子数1〜10の置換もしくは非置換の一価の飽和炭化水素基であり、R6は炭素原子数2〜6、特に2〜5の置換もしくは非置換の一価の脂肪族不飽和炭化水素基である。)〕
【0021】
チタンキレート触媒としては、チタンジイソプロポキシビス(エチルアセトアセテート)、チタンジイソプロポキシビス(アセチルアセトネート)、チタンジオクチロキシビス(オクチレングリコレート)、チタンテトラアセチルアセトネート、チタンジイソプロポキシビス(トリエタノールアミネート)、チタンラクテートアンモニウム塩、チタンラクテートなどが例示される。
【0022】
上記式(5)で示されるオルガノキシチタンにおいて、R3は炭素原子数2〜10の非置換又はアルコキシ基置換一価炭化水素基であり、具体的には、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、ノニル基、デシル基などのアルキル基、メトキシエチル基、エトキシエチル基、プロポキシエチル基、メトキシプロピル基、エトキシプロピル基などのアルコキシアルキル基等が挙げられ、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、ネオペンチル基が特に好ましい。
【0023】
上記式(6)の分岐状オルガノポリシロキサンにおいて、式(8)のR4は炭素原子数1〜10、特に1〜3の一価の炭化水素基であり、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、オクチル基、ノニル基、デシル基などのアルキル基;フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基等のアリール基;ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基等のアラルキル基;ビニル基、アリル基、プロペニル基、イソプロペニル基、ブテニル基、ヘキセニル基、シクロヘキセニル基、オクテニル基等のアルケニル基等が挙げられる。また、式(8)〜(11)のR5は炭素原子数1〜10、特に1〜6の置換又は非置換の一価の飽和炭化水素基であり、例えばメチル基、エチル基、プロピル基などのアルキル基;シクロヘキシル基などのシクロアルキル基;及びこれらの基の水素原子が部分的にハロゲン原子などで置換された基、例えば3,3,3−トリフルオロプロピル基等である。また、式(10)、(12)のR6は炭素原子数2〜6、特に2〜5の置換もしくは非置換の一価の脂肪族不飽和炭化水素基であり、例えばビニル基、アリル基等のアルケニル基である。入手の容易さ、生産性、コストの面からR5がメチル基、R6がビニル基であることが好適である。ここで、一般式(6)中の複数のR5、R6は同一の基であっても異種の基であってもよい。
【0024】
また上記式(6)中のa、f、gは1以上の整数であり、b、c、d、eは0以上の整数、より明確に好ましくはa、fが1〜100、gが1〜10、bが0〜500、c、d、eが0〜200の範囲である分岐状オルガノポリシロキサンが良く、このオルガノポリシロキサンの25℃における粘度については特に限定しないが、上記条件下でより低い粘度、好ましくは25〜50,000mPa・sの範囲となる数である。上記粘度より高粘度となった場合、溶剤等により溶解し、低粘度下して添加しても良い。上記式(6)中のM/Qの比率は0.8〜1.1が好ましく、より好ましくは0.85〜1.00の範囲である。
【0025】
チタンキレート触媒及び/又は一般式(5)で示されるオルガノキシチタンと、一般式(6)で示される分岐状オルガノポリシロキサンは、予め混合し、熟成させることが必須である。これは、チタン触媒のアルコキシ基の一部と分岐状オルガノポリシロキサンの水酸基の一部を反応させ、安定化させることが目的である。また、空気中等に含まれる水分によりシランカップリング剤の一部をチタン触媒にて加水分解させ、オリゴマー化させることによっても接着性及び接着耐久性が良好になる効果も含まれている。
【0026】
チタンキレート触媒及び/又は一般式(5)で示されるオルガノキシチタン(I)と、一般式(6)で示される分岐状オルガノポリシロキサン(II)との混合割合は、(I):(II)=2:1〜1:20、特に1:1〜1:10とすることが好ましい。(I)成分が多すぎると接着耐久性・機械的特性が悪くなる他、価格的にも不利となる場合があり、少なすぎると組成物の硬化が遅くなったり、未硬化となる他、逆にカートリッジ内でゲル化したり、硬化するおそれがある。
【0027】
ここで、チタン触媒と分岐状オルガノポリシロキサンを熟成させる条件であるが、熱による熟成が好ましい。熱による熟成温度は40〜100℃の範囲内で1〜1,000時間行うことが好ましく、50〜80℃の範囲内で5〜100時間熟成させることがより好ましい。40℃より低い温度の場合、熟成が平衡に達しないため、十分な接着耐久性が得られなくなるおそれがあり、また100℃より高い温度の場合では(B)成分中に含まれるチタン触媒の触媒能力が低下してしまうおそれがある。また、熱による処理時間が短すぎると十分な接着性が得られない可能性がある。逆に、熱による処理時間が長すぎる場合、(B)成分の供給安定性の問題が生じてしまう。また、熱による処理が極端に長すぎる場合、例えば、10,000時間以上になると(B)成分が自己硬化したり、触媒としての活性が低下してしまう可能性がある。
【0028】
(B)成分の配合量は、(A)成分100質量部に対して5〜50質量部の範囲、好ましくは7〜25質量部の範囲である。5質量部未満では十分な接着耐久性が得られないため目的とする組成物が得難く、50質量部を超えると得られる硬化物は機械特性が低下する。
【0029】
(C)成分である少なくとも1種の充填剤は、本組成物にゴム物性を付与するための補強性、非補強性充填剤である。本充填剤としては、表面処理、無処理の煙霧質シリカ、沈降性シリカ、湿式シリカ、カーボン粉、タルク、ベントナイト、表面処理、無処理の炭酸カルシウム、炭酸亜鉛、炭酸マグネシウム、表面処理、無処理の酸化カルシウム、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム等が例示され、より好ましくは充填剤の表面が処理され、かつ水分量の少ない充填剤である。
【0030】
(C)成分の配合量は、(A)成分100質量部に対して10〜200質量部の範囲、好ましくは20〜150質量部の範囲である。10質量部未満では十分なゴム強度が得られないため、使用用途に適さないという問題が生じ、200質量部を超えるとカートリッジからの吐出性が悪化し、並びに保存安定性が低下するほか、得られるゴム物性の機械特性も低下してしまう。
【0031】
本発明の組成物には、更に(D)成分として、下記一般式(7)で示されるシランカップリング剤を配合することが好ましい。
【化11】

【0032】
このシランカップリング剤は、初期状態において本発明に良好な接着性を付与するための接着成分である。この(D)成分を未添加、もしくは他のシランカップリング剤を添加した組成物は、機械油浸漬後の接着性については効果が確認されるものの、初期状態での接着性は格段に悪化してしまう場合がある。(D)成分は、3−[(2−アミノエチル)アミノ]プロピルトリメトキシシランと3−クロロプロピルトリメトキシシランとの脱塩化水素反応を行うことで製造される。その際、未反応物及び副生成物も得られてしまうが、(D)成分が50%以上の純度であれば接着性には悪影響を及ぼすことはない。
【0033】
(D)成分の配合量は、(A)成分100質量部に対して0.5〜10質量部の範囲が好ましく、より好ましくは1〜5質量部の範囲である。0.5質量部未満では十分な接着性が得られないため目的とする組成物が得られない場合があり、10質量部を超えると得られる硬化物は機械特性が低下してしまう場合があるほか、価格的にも不利になる。
【0034】
更に、(E)成分であるケイ素原子に結合した加水分解性基を1分子中に平均2個以上有するアルコキシシラン化合物、あるいはこれらのシランの部分加水分解縮合物を配合することが好ましい。この(E)成分は、(B)成分に予め混合し、熟成を施すと更に接着耐久性が向上する。その理由は、分岐状オルガノポリシロキサンの水酸基がアルコキシシラン化合物と反応しアルコキシ化されるため、これを添加した組成物の粘度安定性が高まるためである。
【0035】
この場合、(E)成分と(B)成分の熟成は、熱による熟成が好ましい。熱による熟成は、上述したチタン触媒と分岐状オルガノポリシロキサンを熟成させる条件と同じでよく、熟成温度は40〜100℃の範囲内で1〜1,000時間行うことが好ましく、50〜80℃の範囲内で5〜100時間熟成させることがより好ましい。
【0036】
なお、この操作を必要としない場合、チタンキレート触媒及び/又はオルガノキシチタンと分岐状オルガノポリシロキサンによる熟成触媒とは別に添加しても良い。
【0037】
(E)成分であるケイ素原子に結合した加水分解性基を1分子中に平均2個以上有するアルコキシシラン化合物の具体例としては、メチルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシランなどのアルコキシシラン類、並びにこれらのシランの部分加水分解縮合物が挙げられる。
【0038】
(E)成分の配合量は、(A)成分100質量部に対して0.1〜100質量部の範囲が好ましく、より好ましくは1〜10質量部の範囲である。配合量が少なすぎると経時でゲル化又はカートリッジ内で硬化する場合があり、多すぎると組成物の硬化が遅くなったり、機械的特性が悪くなる場合がある。
なお、(B)成分と予め混合、熟成する場合、(E)成分の全量を混合、熟成することが好ましい。
【0039】
本発明においては、更に(F)非反応性シリコーンオイルや(G)分子内に2個以上の水酸基を有する有機多価アルコールを配合することができる。なお、本発明における(F)及び(G)成分は任意成分であり、組成物中に必ず添加する必要はない。
【0040】
(F)成分である非反応性のシリコーンオイルとしては、両末端がトリメチルシリル基で封鎖されたポリジメチルシロキサンを配合することが好ましい。この成分を配合することにより、流動性、硬化後のゴム物性を調整することができる。
【0041】
この粘度(25℃)は5〜50,000mPa・s、特に50〜5,000mPa・sであることが好ましい。粘度が低すぎると組成物の粘度が低下してしまうため、作業性が悪くなる場合があり、高すぎると組成物の混練性の悪化や硬化物からのオイルブリード等が起こる場合がある。なお、この粘度は回転粘度計による測定値である。
【0042】
(F)成分の配合量は、(A)成分100質量部に対して0〜50質量部、特に0〜10質量部であることが好ましい。なお、配合する場合、(A)成分100質量部に対して5質量部以上配合することが好ましい。(F)成分の配合量が多すぎると組成物の粘度が低下するため作業性が悪くなる他、カートリッジ内でのオイルブリードが起こる場合がある。
【0043】
(G)成分である分子内に2個以上の水酸基を有する有機多価アルコールは、本組成物の保存安定性及び粘度安定性を付与するための成分である。具体的な例としては、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、ソルビトール、グリセリン、ジアセチン、トリアセチン、ショ糖等が挙げられる。
【0044】
(G)成分の配合量は、(A)成分100質量部に対して0〜5質量部、特に0〜2質量部であることが好ましい。なお、配合する場合、(A)成分100質量部に対して0.1質量部以上配合することが好ましい。(G)成分の配合量が多すぎると組成物の硬化が遅延する他、接着性に悪影響を及ぼす場合がある。
【0045】
本発明の室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物には、有機溶剤、防カビ剤、難燃剤、耐熱剤、可塑剤、接着促進剤、硬化促進剤、顔料などを添加することができる。
【0046】
本発明の室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物は、(A)〜(C)成分及び必要に応じて(D)〜(G)成分や各種添加剤を、湿気を遮断した状態で混合することにより得られる。得られた組成物は密閉容器中でそのまま保存し、使用時に空気中の水分に晒すことによりゴム状弾性体に硬化する、いわゆる1包装型室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物として用いることができる。
【実施例】
【0047】
以下、合成例及び実施例と比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。なお、下記の例において、部は質量部を示し、Meはメチル基を示し、粘度は25℃での回転粘度計による測定法の測定値を示したものである。
【0048】
[合成例1]
内容積1リットルの密閉式容器に、Me3SiO1/2単位及びSiO4/2単位からなり、SiO4/2単位に対するMe3SiO1/2単位のモル比が0.90であって、ヒドロキシシリル基を0.03モル/100g含有する分岐状オルガノポリシロキサンのオクタメチルシクロテトラシロキサン溶液(純度;50%)200gとジイソプロポキシビス(アセト酢酸エチル)チタン60gを混合し、密閉条件下で70℃にて24時間熟成し、淡黄色透明液体を得た。得られた熟成触媒をGPC(ゲル・パーミエーション・クロマトグラフ)測定したところ、反応前の分岐状オルガノポリシロキサンの溶出時間より高分子量側にシフトしていることが確認され、加水分解反応が熟成により起きたことを確認した。この熟成触媒を熟成触媒Aとした。
【0049】
[合成例2]
内容積1リットルの密閉式容器に、Me3SiO1/2単位及びSiO4/2単位からなり、SiO4/2単位に対するMe3SiO1/2単位のモル比が0.90であって、ヒドロキシシリル基を0.03モル/100g含有する分岐状オルガノポリシロキサンのオクタメチルシクロテトラシロキサン溶液(純度;50%)200gとテトラ−tert−ブトキシチタン60gを混合し、密閉条件下で70℃にて24時間熟成し、淡黄色透明液体を得た。得られた熟成触媒をGPC(ゲル・パーミエーション・クロマトグラフ)測定したところ、反応前の分岐状オルガノポリシロキサンの溶出時間より高分子量側にシフトしていることが確認され、加水分解反応が熟成により起きたことを確認した。この熟成触媒を熟成触媒Bとした。
【0050】
[実施例1]
(A)分子鎖両末端がトリメトキシ基で封鎖された、粘度50,000mPa・sのジメチルポリシロキサン100質量部に、(C)表面が両末端メチル基封鎖ポリジメチルシロキサンで処理された酸化亜鉛40質量部、表面がパラフィン系で処理された重質炭酸カルシウム(商品名;MCコートP−20,丸尾カルシウム(株)製)40質量部及びアセチレンブラック粉末(商品名;デンカブラック粉状、電気化学工業(株)製)12質量部を均一になるまで分散混合したのち、(B)熟成触媒A13質量部、(E)メチルトリメトキシシラン8質量部、(D)下記式で示されるシランカップリング剤1.5質量部を加え、減圧下で完全に混合し組成物1を得た。
【化12】

【0051】
[実施例2]
(A)分子鎖両末端がトリメトキシ基で封鎖された、粘度50,000mPa・sのジメチルポリシロキサン100質量部に、(C)表面が両末端メチル基封鎖ポリジメチルシロキサンで処理された酸化亜鉛40質量部、表面がパラフィン系で処理された重質炭酸カルシウム(商品名;MCコートP−20,丸尾カルシウム(株)製)40質量部及びアセチレンブラック粉末(商品名;デンカブラック粉状、電気化学工業(株)製)12質量部を均一になるまで分散混合したのち、(B)熟成触媒B13質量部、(E)メチルトリメトキシシラン8質量部、(D)上記式で示されるシランカップリング剤1.5質量部を加え、減圧下で完全に混合し組成物2を得た。
【0052】
[比較例1]
実施例1において、(B)熟成触媒Aの代わりに、70℃/24時間の熟成を行わず、分岐状オルガノポリシロキサン((CH33SiO1/210(SiO211(O1/2H)2のオクタメチルシクロテトラシロキサン溶液(純度;50%)とジイソプロポキシビス(アセト酢酸エチル)チタン60gを添加した以外は実施例1と同様の手法で組成物を調製した。
【0053】
[比較例2]
実施例2において、(B)熟成触媒Bの代わりに、70℃/24時間の熟成を行わず、分岐状オルガノポリシロキサン((CH33SiO1/210(SiO211(O1/2H)2のオクタメチルシクロテトラシロキサン溶液(純度;50%)とテトラ−tert−ブトキシチタン60gを添加した以外は実施例2と同様の手法で組成物を調製した。
【0054】
得られたシリコーンゴム組成物を2mmの型枠に流し込み、23℃,50%RHで7日間養生して2mm厚のゴムシートを得た。JIS K6249に準じて2mm厚シートよりゴム物性(タックフリータイム、スランプ性、硬さ、切断時伸び、引張強さ)を測定した。また、これらのシリコーンゴム組成物により、幅25mm、長さ100mmの被着体を用いて接着面積2.5mm2、接着厚さ1mmの剪断接着試験体を作製し、JIS K6249に準じて剪断接着力及び凝集破壊率を測定した。
更に、得られたゴムシートは、耐薬品性能を確認するためエンジンオイルに120℃にて10日間浸漬し、同様にゴム物性(硬さ、切断時伸び、引張強さ)、剪断接着力及び凝集破壊率を測定した。これらの結果を表1に示す。
【0055】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)下記一般式(1)〜(4)のいずれかで示されるオルガノポリシロキサン:
100質量部、
【化1】

〔式中、Rはメチル基又はエチル基であり、R1は炭素原子数1〜10の置換もしくは非置換の一価炭化水素基であり、Xは10以上の整数である。Yは酸素原子及び/又は炭素原子数1〜5のアルキレン基であり、Nは独立に0又は1の整数である。Vは炭素原子数2〜5のアルケニル基であり、Zは0以上の整数であり、R2は下記式
【化2】

(ここで、R、R1、Y、Nは上記の通りである。)
で示される加水分解性基を含む分岐鎖である。〕
(B)チタンキレート触媒及び/又は下記一般式(5)
【化3】

(式中、R3は炭素原子数2〜10の非置換又はアルコキシ基置換一価炭化水素基である。)
で示されるオルガノキシチタンと、下記一般式(6)
abD’cdT’ef(O1/2H)g (6)
〔式中、Mは(R452SiO1/2)、Dは(SiR52O)、D’は(SiR56O)、Tは(SiR53/2)、T’は(SiR63/2)、Qは(SiO2)(式中のR4は炭素原子数1〜10の一価の炭化水素基であり、R5は炭素原子数1〜10の置換もしくは非置換の一価の飽和炭化水素基であり、R6は炭素原子数2〜6の置換もしくは非置換の一価の脂肪族不飽和炭化水素基である。)で示される構造単位であり、式中の酸素原子は隣接する構造単位と共有されてシロキサン結合を形成するものとする。また、a、f、gが1以上の整数であり、b、c、d、eは0以上の整数である。〕
で示される分岐状オルガノポリシロキサンを予め混合し、熟成を施した硬化触媒:
5〜50質量部、
(C)少なくとも1種の充填剤 10〜200質量部
を必須成分としてなることを特徴とする室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物。
【請求項2】
更に、(D)下記一般式(7)
【化4】

で示されるシランカップリング剤を0.5〜10質量部含有することを特徴とする請求項1記載の室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物。
【請求項3】
更に、(E)ケイ素原子に結合した加水分解性基を1分子中に平均2個以上有するアルコキシシラン化合物、その部分加水分解物又はこれらの混合物を含有することを特徴とする請求項1又は2記載の室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物。

【公開番号】特開2009−179683(P2009−179683A)
【公開日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−18869(P2008−18869)
【出願日】平成20年1月30日(2008.1.30)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】