説明

害虫忌避性塗料およびそれを用いた工業製品

害虫忌避性塗料は、イチヤクソウ科(Pyrolaceae)に属する植物全草の抽出物、ノウゼンハレン科(Tropaae−olaceae)に属する植物全草の抽出物、フトモモ科(Myrtaceae)に属する植物枝葉の抽出物およびサクラソウ科(Primulaceae)に属する植物全草の抽出物からなる群から選ばれる少なくとも1つの抽出物と、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂およびポリエステル樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1つの塗料樹脂と、塗料溶媒とを含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、害虫忌避性塗料およびそれを用いた工業製品に関する。詳しくは、生活環境中に生息する衛生害虫、家屋害虫、不快害虫などの営巣を防止する害虫忌避性塗料に関する。また、害虫営巣に起因する衛生問題の改善、生活環境の居住性の向上あるいは建築資材の劣化防止、害虫死骸に起因する居住者のアレルギー防止などに有効な害虫忌避性塗料に関する。さらに、本発明の害虫忌避性塗料が印刷あるいは塗工された工業製品に関する。
【背景技術】
生活環境中で使用される機器、調度品、建築資材など身の回りの材料にゴキブリなどの害虫が営巣することが多く、これに起因して衛生性の低下や不快感が生じる。また、害虫の排泄する糞による衛生性の低下、電気回路の信頼性低下を招く。さらに、糞はアレルギー源となり、居住者の健康も損ないかねないので、かかる被害に対処する方法が望まれている。
従来、ゴキブリ等の害虫を忌避するために、農薬に類する合成化学物質が多用されてきた。例えば、特開平7−118112号公報には、ピレスロイド系殺虫剤を添加した塗料を用いて、ゴキブリを忌避する方法が開示されている。
しかし、特開平7−118112号公報に開示されたピレスロイド系殺虫剤は、人体に対しても有害であり、安全性の点で問題がある。近年の消費者の天然物志向により、自然界に産し、古くから多用されてきた素材を用いることが要望されている。
【発明の開示】
本発明は、生活環境中に多く生息する衛生害虫や不快害虫類に効果的で、かつ人体への影響が少ない、言い換えれば安全性の高い害虫忌避性塗料の提供を目的とする。また、本発明は、かかる害虫忌避性塗料が印刷あるいは塗工された工業製品の提供を目的とする。
本発明では、イチヤクソウ科(Pyrolaceae)に属する植物全草の抽出物、ノウゼンハレン科(Tropaaeolaceae)に属する植物全草の抽出物、フトモモ科(Myrtaceae)に属する植物枝葉の抽出物およびサクラソウ科(Primulaceae)に属する植物全草の抽出物からなる群(以下、抽出物群ともいう)から選ばれる少なくとも1つの抽出物(以下、本抽出物ともいう)を用いる。
本発明の開発途上において、本発明者は、本抽出物を溶融樹脂中に分散させ、樹脂を成型することを想到した。しかしながら、汎用樹脂の溶融温度まで温度を上昇させると本抽出物中の有効成分の活性が低下すること、すなわち本抽出物中の有効成分は耐熱温度が低いことを見いだした。そこで、本発明者は、本抽出物を塗料中に分散させることに着眼した。
一方、本発明者は、ゴキブリ類やアリ類などの匍匐する昆虫に対する、いわゆる接触忌避が、工業製品への適用において効果的であることに着目した。具体的には、蒸気やガスを用いた忌避、例えば忌避成分を揮散させて害虫の気門から忌避成分を吸収させる忌避では、長期の効果持続性が望めない。また、蒸気やガスによる周囲環境汚染が課題となる。これらの課題に対し、接触忌避が工業製品への適用を容易にすることに着目した。この忌避メカニズムを利用して、昆虫の触角や前脚に接触しやすい構成とそれに適した材料を開発する必要があった。
本発明者は、水性塗料の分散媒である水の中に、本抽出物を分散させることにより、塗膜形成後の塗膜面に本抽出物の被膜が形成され、かつその被膜は水性樹脂の固形分により強固に基材に接着されることを見いだした。水性塗料の塗料バインダとしては、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、シリコン樹脂、フッ素樹脂などの多くの合成ポリマーが開発されている((株)シーエムシー発行「水溶性高分子の最新技術」184頁参照)。本発明者は、これらの樹脂の中でも、親水性の大きい樹脂(塗料バインダ)として、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂を用いることで、良好な忌避性能を発揮できることを見出した。一方、アクリル樹脂、シリコン樹脂、フッ素樹脂では良好な忌避性能を得ることはできなかった。
本発明者は、さらに鋭意研究を行った結果、自然界に産し、古くから多用されてきた素材を用いて、生活環境中に多く営巣するゴキブリ類やアリ類に効果的で、かつ人体への影響が殆どない、すなわち安全性の高い天然の抽出物を含有する害虫忌避性塗料の開発に成功した。また、かかる害虫忌避性塗料が印刷あるいは塗工された工業製品の開発にも成功した。
本発明の第1の局面による害虫忌避性塗料は、イチヤクソウ科(Pyrolaceae)に属する植物全草の抽出物、ノウゼンハレン科(Tropaaeolaceae)に属する植物全草の抽出物、フトモモ科(Myrtaceae)に属する植物枝葉の抽出物およびサクラソウ科(Primulaceae)に属する植物全草の抽出物からなる群から選ばれる少なくとも1つの抽出物と、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂およびポリエステル樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1つの塗料樹脂と、塗料溶媒とを含有する。
イチヤクソウ科(Pyrolaceae)に属する植物としては、イチヤクソウ属(Pyrol)、ギンリョウソウ属(Monotropastrum)、イチゲイチヤクソウ属(Moneses)、ウメガサソウ属(Chimaphila)、シャクジョウソウ属(Monotropa)、コイチヤクソウ属(Orthilia)などに属する植物が挙げられる。具体的には、チョウセンイチヤクソウ(Pyrola rotundifolia)、イチヤクソウ(Pyrola japonica)、ベニバナイチヤクソウ(Pyrola incarnata)、ジンヨウイチヤクソウ(Pyrola renifolica)、イチゲイチヤクソウ(Moneses uniflora)、ウメガサソウ(Chimaphila japonica)、ギンリョウソウ(Monotropastrum humile)、シャクジョウソウ(onotropa hypopithys)、アキノギンリョウソウ(Monotropa uniflora)、ギンリョウソウモドキ(Monotropa uniflora)、マルバノイチヤクソウ(Pyrola nephrophylla)、コバノイチヤクソウ(Pyrola alpina)、コイチヤクソウ(Orthiliasecunda)、カラフトイチヤクソウ(Pyrola faurieana)、エゾイチヤクソウ(Pyrola minor)などが挙げられる。チョウセンイチヤクソウは、ツツジ目イチヤクソウ科の植物であり、良く効く漢方として知られる「一薬草」が名前の由来である。アメリカ、イギリス、コーカサスから東部ヒマラヤにかけて自生する野草Winter greenとしても知られている。避妊、脚気、止血作用、下痢止め、消炎、抗炎症に効果のある漢方薬原料として、古来より用いられてきた(例えば、特開平11−310534号公報参照)。
ノウゼンハレン科(Tropaaeolaceae)に属する植物としては、ノウゼンハレン(ropaeolum majus)、タマノウゼンハレン(Tropaeolum tuberosum)などが挙げられる。ノウゼンハレンは、中国各地で栽培されている漢方薬原料で、眼の結膜炎などに用いられてきた。外用として新鮮なものを搗き潰して塗布する処方も知られている。
フトモモ科に属する植物としては、ユーカリ属(Eucalyptus)、フトモモ属(yzygium)、フェイジョア属(Feijyoa)、カリステモン属(Callistemon)、カメラウキウム属(Chumelaucium)、ネズモドキ属(Leptospermum)、ムニンフトモモ属(Meterosideros)、バンジロウ属(Psidium)、ブラシノキ属(Callistemon)、カユプテ属(Melaleuca)、テンニンカ属(Rhodomyrtus)などに属する植物が挙げられる。具体的には、ユウカリノキ(Eucalyptus globulus)、マウンテンアッシュ(Eucalyptus regnans)、ヤナギユーカリ(Eucalyptus leucoxylon)、アカゴムノキ(Eucalyptus sideroxylon)、カリー(Eucalyptus diversicolor)、フトモモ(Syzygium jambos)、ヒメフトモモ(Syzygium chleyeraefolium)、チョウジ(Syzygium aromaticum)、アデク(Syzygium buxifolius)、ムニンフトモモ(Meterosideros boninensis)、バンジロウ(Psidium guajava)、グァバ(sidium guajava)、ブラシノキ(Callistemon speciosus)、ネズモドキ(Leptospermum ambiguum)、カユプテ(Melaleuca leucadendron)、テンニンカ(Rhodomyrtus tomentosa)、フェイジョア(Feijoa sellowiana)などが挙げられる。ユウカリノキは、中国産のものが主に用いられ、外用薬として神経痛に用いたり、蒸気の吸入による気管支炎の治療に用いたりされてきた。
サクラソウ科に属する植物としては、オカトラノオ属(Lysimachia)、サクラソウ属(Primula)、シクラメン属(Cyclamen)、ウミミドリ属(Glaux)、ツマトリソウ属(Trientalis)、トチナイソウ属(Androsace)、サクラソウモドキ属(ortusa)、ハイハマボッス属(Samolus)、ホザキザクラ属(Stimpsonia)、ルリハコベ属(Anagallis)などに属する植物が挙げられる。具体的には、モロコシソウ(Lysimachia sikokiana)、オカトラノオ(Lysimachia clethroides)、サクラソウ(Primula sieboldii)、ヒナザクラ(Primula nipponica)、シクラメン(Cyclamen persicum)、ツタバシクラメン(Cyclamen repandum)、ウミミドリ(Glaux maritima)、シオマツバ(Glaux maritima)、ツマトリソウ(Trientalis europaea)、トチナイソウ(Androsace Chamaejasme subsp.lehamanniana)、サクラソウモドキ(Cortusa matthioli)、ハイハマボッス(Samolus parviflorus)、ホザキザクラ(Stimpsonia chamaedryoides)、ルリハコベ(Anagallis arvensis)などが挙げられる。モロコシソウは、沖縄の各地で生育する多年草であり、柑橘系の香りのする芳香剤として、乾燥させて窓辺に吊すなどの方法で利用されている。
これらの植物は、日干しまたは陰干しにより十分乾燥させたものを用いるのが好ましいが、水分含有率の比較的高いものを用いることもできる。
抽出に用いる溶媒は、少なくとも一種類の有機溶媒を含む溶媒である。例えば一種類の有機溶媒、複数種類の有機溶媒が混合された混合有機溶媒、水と有機溶媒との混合溶媒が挙げられる。有機溶媒としては、エチルアルコール、メチルアルコール、アセトン、クロロホルム、ベンゼン、塩化メチレンなどが例示され、これらの有機溶媒から選ばれる一種または複数種の有機溶媒が好適に用いられる。水と有機溶媒との混合溶媒としては、例えば水とアセトンとの混合溶媒や水とエチルアルコールとの混合溶媒が挙げられる。水と有機溶媒との混合重量比は、水5〜95重量部:有機溶媒95〜5重量部、好ましくは水15〜85重量部:有機溶媒85〜15重量部、より好ましくは水25〜75重量部:有機溶媒75〜25重量部である。
抽出方法としては、一般に用いられる方法でよく、例えば抽出溶媒中に原料植物部位を長時間浸漬する方法、抽出溶媒の沸点以下の温度で加温、撹拌しながら抽出を行い、濾過して抽出物を得る方法などがある。抽出液は、エバポレータやスプレードライ法を用いて濃縮して、抽出物を調製するのが望ましい。
本発明の第1の局面による害虫忌避性塗料は、水溶性樹脂塗料や合成樹脂エマルション塗料などの水性塗料であることが好ましい。水溶性樹脂塗料は、水溶性コロイドを形成する水溶性樹脂、例えばカルボキシメチルセルロースやポリビニルアルコールを塗料樹脂(以下、塗料バインダともいう)として用いた塗料である。合成樹脂エマルション塗料は、乳化重合などにより得た合成樹脂エマルションを塗料バインダとして水に分散させた塗料である。合成樹脂として、一般には、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、シリコン樹脂、フッ素樹脂、フェノール樹脂、アルキッド樹脂、アミノアルキッド樹脂、尿素樹脂、不飽和樹脂、ビニル樹脂などが用いられる。本発明においては、塗料樹脂として親水性の高い樹脂が用いられる。具体的には、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂およびポリエステル樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1つの塗料樹脂が用いられる。
塗料樹脂は、固形分換算で、70重量部以上99重量部以下の本抽出物に対して、1重量部以上30重量部以下、好ましくは80重量部以上99重量部以下の本抽出物に対して、1重量部以上20重量部以下を塗料中に含んでいることが好ましい。
塗料溶媒は、水、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコールおよびアセトンからなる群から選ばれる少なくとも1つの溶媒が好ましい。
本発明の害虫忌避性塗料は、抽出物群から選ばれる少なくとも1つの抽出物が分散された分散液と、塗料樹脂および塗料溶媒を含有する塗料とを混合して調製することができる。あるいは、塗料樹脂および塗料溶媒を含有する塗料に、抽出物群から選ばれる少なくとも1つの抽出物を分散させて、本発明の害虫忌避性塗料を調製しても良い。
抽出物を分散させるための溶媒は、抽出物の溶解性や塗料樹脂との相性から選択される。具体的には、抽出物を分散させるための溶媒として、水、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコールおよびアセトンからなる群から選ばれる一種類の溶媒または複数種類の溶媒を組み合わせた混合溶媒を好適に用いることができる。
抽出物を分散させるための溶媒と、塗料に含まれる溶媒とは、典型的には、同じ種類の溶媒であるが、両溶媒が異なる種類の溶媒であっても良い。例えば、抽出物を分散させるための溶媒が水であり、塗料に含まれる溶媒が水とエチルアルコールとの混合溶媒であっても良い。
本発明の第2の局面による害虫忌避性塗料は、抽出物群から選ばれる少なくとも1つの抽出物が無機担体に担持された害虫忌避粒子と、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂およびポリエステル樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1つの塗料樹脂と、塗料溶媒とを含有する。この害虫忌避性塗料は、合成樹脂エマルション塗料であっても良い。
本発明の第2の局面による害虫忌避性塗料は、基材に塗布することによって、前記害虫忌避粒子と前記基材とを接着させる塗料であっても良い。
本発明の第2の局面による害虫忌避性塗料において、前記無機担体は、シリカゲルなどの多孔質な無機酸化物から主として構成されていることが好ましい。また、前記無機担体は、300m/g以上、好ましくは500m/g以上の比表面積を有し、表面にシラノール基を有する粒度50μm以下、好ましくは1μm以上30μm以下の粒子状粉体であっても良い。
なお、比表面積は、“The journal of the American Chemical Society”,Vol.60,page 309,February 1938に記載されたブルナウアー・エメット・テーラー(BET)法やガス吸着の測定に基づくBET法に従って測定することができる。また、粒子状粉体の粒度は、光学顕微鏡、走査型電子顕微鏡または沈降法を用いて測定することができる。
前記無機担体は、層間化合物からなる粒子状粉体であっても良い。層間化合物としては、ハイドロタルサイト類化合物やスメクタイト類化合物が挙げられる。ハイドロタルサイト類化合物は、下記の一般式で表される。
〔M2+1−x3+x(OH)x+〔An−x/n・yHO〕x−(式中、M2+はマグネシウム、ニッケル、コバルト、マンガン、亜鉛などの2価金属イオン、M3+はアルミニウム、鉄、マンガン、クロムなどの3価金属イオン、An−は水酸基、塩素、硝酸基、炭酸基、硫酸基などのn価の陰イオンである)
ハイドロタルサイト類化合物は、一般式A(CO)(OH)16・4HO〔但し、A=Mg,Ni;B=Al,Cr3+,Fe3+,Mn2+,Co3+〕で表わせる三方晶系の炭酸塩鉱物を含む。この炭酸塩鉱物としては、例えば、MgAl(CO)(OH)16・4HOで表されるハイドロタルサイトが挙げられる。その他にもcomblainite、desautelsite、iowaite、pyroaurite、reevesite、stichtite、takoviteなどが挙げられる。
スメクタイト類化合物は、一般式X0.32−310(OH)・nHO〔但し、X(交換性イオン)=Ca/2,Li,Na;Y=Al,Cr3+,Cu2+,Fe2+,Fe3+,Li,Mg,Ni,Zn;Z=Al,Si〕で表せる単斜晶系の珪酸塩鉱物である。この珪酸塩鉱物として、例えば、(Na,Ca)0.3(Al,Mg)2Si10(OH)・nHOで表されるモンモリロナイトが挙げられる。その他にも、aliettite、beidellite、hectorite、nontronite、saponite、sauconite、stevensite、swinefordite、volkonskoite、yakhontoviteなどが挙げられる。
前記無機担体の粒度は、塗料を塗布し、乾燥させた後の塗膜の膜厚よりも大きいことが好ましい。具体的には、無機担体の粒度は、1μm以上2000μm以下、さらには10μm以上1000μm以下が好ましい。
本発明の第2の局面による害虫忌避性塗料を塗装した後の塗料固形分(すなわち、塗布して形成される塗膜)は、1重量部以上30重量部以下の塗料バインダの樹脂固形分(塗料樹脂)と、10重量部以上50重量部以下の無機担体と、49重量部以上89重量部以下の本抽出物とを含んでいることが好ましい。
塗料に含まれる溶媒は、水、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコールおよびアセトンからなる群から選ばれる少なくとも一種類の溶媒が好ましい。
本発明の第1および第2の局面による害虫忌避性塗料は、界面活性剤をさらに含有していても良い。界面活性剤としては、陰イオン系界面活性剤、陽イオン系界面活性剤、非イオン系界面活性剤、両性イオン系界面活性剤が挙げられ、好ましくは非イオン系界面活性剤である。非イオン系界面活性剤としては、脂肪酸系、高級アルコール系、アルキルフェノール系の各種非イオン系界面活性剤が挙げられる。例えば、しょ糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、脂肪酸アルカノールアミド、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、アルキルグルコシド、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、アルキルアミンオキシドなどが挙げられる。
界面活性剤は、本抽出物100重量部に対して、1重量部以上500重量部以下を塗料中に含んでいることが好ましい。
本発明の第1の局面による工業製品は、本発明の第1または第2の局面による害虫忌避性塗料が表面に印刷あるいは塗工されたシートを備える。害虫忌避性塗料は、シート表面に種々のパターンにて印刷あるいは塗工することができる。例えば、ドット状、ストライプ状、マトリクス状などに印刷あるいは塗工することができる。害虫忌避性塗料が印刷あるいは塗工された表面積は、シートの表面積の50%以上、好ましくは90%以上である。印刷あるいは塗工方法としては、スプレー塗装、スクリーン印刷、ロールコーター法、グラビア印刷、凸版印刷、どぶ漬け法などが例示される。
シートは、典型的には、紙製、布製、金属製または合成樹脂製であり、単層または多層構造を有する。シートは、工業製品の所定箇所に設けられる。例えば、工業製品が流し台や洗面台の場合、蹴込み板に、シートを装着するためのガイドを設け、このガイドにシートを装着する。あるいは蹴込み板の下方(床面近傍)に、床面に沿ったガイドを設け、このガイドにシートを装着しても良い。
本発明の第2の局面による工業製品は、本発明の第1または第2の局面による害虫忌避性塗料が片面または両面に印刷あるいは塗工された回路基板を備える。害虫忌避性塗料は、回路基板の片面または両面に種々のパターンにて印刷あるいは塗工することができる。例えば、ドット状、ストライプ状、マトリクス状、その他の特定パターン状などに印刷あるいは塗工することができる。害虫忌避性塗料が印刷あるいは塗工された表面積は、シートの表面積の50%以上、好ましくは90%以上である。害虫忌避性塗料の印刷または塗工は、回路基板を工業製品内に実装する前または実装した後に行うことができる。
回路基板は、典型的には、プリント配線基板である。工業製品は、典型的には、電気機器である。電気機器としては、調理電化機器、家庭電化機器、セキュリティ機器、通信機器、事務機器、トイレタリー機器などが例示される。具体的には、冷蔵庫、ワインセラ、冷凍庫、レンジ、ジャーポット、ミキサ、ジューサ、フードプロセッサ、ホットプレート、グリル鍋、フィッシュロースタ、クッキングヒータ、もちつき機、冷・温水ボトル、電気温水器、アルカリイオン整水器、ジャー炊飯器、コーヒーメーカ、コーヒーミル、ホームベーカリ、浄水器、ミネラル整水器、システムキッチン、食器洗い乾燥機、食器乾燥器、生ごみ処理機、洗濯機、衣類乾燥機、掃除機、イオン洗浄水メーカ、ふとん乾燥機、ポリッシャ、風呂ブザー、電気バケツ、シュレッダ、除湿機、除湿乾燥機、空気清浄機、温水洗浄便座、冷暖房エアコン、石油ストーブ、電気ストーブ、扇風機、加湿機、電気毛布、温水ルームヒータ、石油遠赤ヒータ、電気温風器、オイルヒータ、石油ファンヒータ、石油温風機、ふく射ヒータ、ガス給湯機、電気温水器、換気扇、床下乾燥機、ヒートポンプ給湯機、シェーバ、脱毛・除毛器具、ドライヤ、電動ハブラシ、マッサージ椅子、照明器具、配線器具、通報端末装置、炎検知装置、煙検知装置、鉛筆削り、デスククリーナ、テレビ、ビデオ、ビデオカメラ、オーディオ、DVD(Digital Versatile Disc)プレーヤ、パソコン、パソコン周辺機器、ファックス、電話機、携帯電話などが例示される。
本発明の第3の局面による工業製品は、本発明の第1または第2の局面による害虫忌避性塗料が含浸または塗工された部材を備える。部材は、典型的には、紙製、金属製または合成樹脂製の基材である。部材の形状は、部材が備えられる工業製品に適した形状であれば、特に限定されない。例えば、シート状やチューブ状であっても良い。工業製品は、各種の部材や機器を包含する。例えば、建材、家庭園芸資材、事務機器、インテリア部材、エクステリア部材、自動販売機、自動車部品、交通関連機器、家具、調理機器、医療福祉設備を含む。建材としては、壁紙、床下シートなどが例示される。家庭園芸資材としては、マルチフィルム、寒冷紗、ビニールハウスフィルム、果実覆袋、誘引紐、支持柱などが例示される。事務機器としては、書類庫、備品保管庫、ロッカーなどが例示される。インテリア部材としては、食器棚、床下収納庫、動物檻、カーテン、ブラインドなどが例示される。エクステリア部材としては、防水シート、フェンス、網戸などが例示される。自動車部品としては、シート部材、カーエアコン、車載冷蔵庫、車載AV(視聴覚)機器などが例示される。交通関連機器としては、道路照明器具、道路交通情報端末、交通信号制御端末、ETC(自動料金収受システム)制御装置、列車制御装置、列車通信装置などが例示される。家具としては、食器棚、ベッドなどが例示される。調理機器としては、炊飯器、ミキサ、冷蔵庫、ワインセラ、配膳盆、米櫃、調味料サーバなどが例示される。医療福祉設備としては、介護ベッド、寝具類、配膳車などが例示される。
本発明の第1または第2の局面による害虫忌避性塗料は、他の忌避剤、効力増強剤、防虫剤、誘引剤、殺菌剤、消臭剤、紫外線防止剤(紫外線吸収剤や紫外線による劣化防止剤を含む)、酸化防止剤、増粘剤、安定剤、光沢剤、顔料、染料、フィラーなどを含有していても良い。
植物抽出物を含有する害虫忌避性塗料は、忌避有効成分以外の植物抽出物も含む。忌避有効成分およびそれ以外の植物抽出物は、ともに微生物資化性が大きいと考えられるので、腐敗が進行するおそれがある。本抽出物の腐敗は、単に忌避有効成分の低下のみならず、腐敗による生成物が塗膜表面を覆うことによって、害虫の触角や前脚と塗膜表面との接触面積の減少をもたらすので、本抽出物の接触忌避性能の低下をもたらす。さらに、腐敗物となって、忌避性能がなくなった場合には、害虫の餌となり、かえって害虫の誘引の元となる。
そこで、本抽出物の腐敗による接触忌避性能の劣化を防止するために、本発明の害虫忌避性塗料は、銀系抗菌剤および/または天然系抗菌剤を含んでいることが望ましい。銀系抗菌剤は、銀錯体または銀イオンが担持された担体を含んでいても良い。銀錯体が担持された担体としては、チオスルファト銀錯体が担持されたシリカゲル(商品名:アメニトップ、松下電器産業株式会社製)が挙げられる。銀イオンが担持された担体としては、銀イオン担持ゼオライト、銀イオン担持リン酸塩、銀イオン担持ガラスなどが挙げられる。これら担体に、上記抽出物群のうちの少なくとも1つの抽出物が吸着担持されていても良い。
天然系抗菌剤としては、カテキン、ワサビ(アブラナ科Eutrema japonica)抽出物、孟宗竹(イネ科Phyllostachys pubescens)抽出物などを用いることができる。また、天然系抗菌剤に含まれる有効成分の合成品を用いても良い。例えば、ワサビ抽出物に含まれるアリルイソチオシアネートの合成品を用いても良い。
銀系抗菌剤または天然系抗菌剤の添加量は、全固形分100重量部に対して、0.1重量部以上50重量部以下が好ましい。
さらに、抗黴性能を発揮させるため、合成系の抗黴剤を用いることで、害虫忌避性塗料の真菌に対する抗分解性を向上させることができる。
一般に、ゴキブリ類やアリ類などの知覚神経を有する害虫は、触角や脚などの表面がクチクラ構造からなり、皮膚構造が人間と異なる。ゴキブリ類やアリ類などの知覚神経を有する害虫にのみ有効な刺激を与える神経伝達系薬剤を害虫の営巣領域あるいはその侵入経路に配置することにより、ゴキブリ類やアリ類などの害虫を忌避することができる。神経伝達系薬剤は、嗅覚刺激薬剤と異なり、薬剤の蒸気圧を高める必要がない。したがって、使用薬剤の無駄な揮発蒸散を抑制し、長期間の持続性能を得ることができる。また、この忌避作用を数回くり返すと、ゴキブリ類やアリ類などの害虫の学習効果により、営巣させない効果が期待できる。
本発明の害虫忌避性塗料は、神経伝達系薬剤として抽出物群のうちの少なくとも1つの本抽出物を含む。したがって、本発明の害虫忌避性塗料は、ゴキブリ類やアリ類などの知覚神経を有する害虫に対し害虫忌避性能を有しており、ゴキブリ類用またはアリ類用の害虫忌避性塗料として用いることができる。
ゴキブリ類としては、網翅目(ゴキブリ目)(Blattaria)に属するゴキブリ科(Periplaneta)、チャバネゴキブリ科(Blattella)、オオゴキブリ科(Panesthia)の害虫が挙げられる。例えば、チャバネゴキブリ(Blattella germanica)、キョウトゴキブリ(Asiablatta kyotensis)、モリチャバネゴキブリ(Blattella nipponica)、クロゴキブリ(Periplaneta fuliginosa)、ヤマトゴキブリ(Periplaneta japonica)、トビイロゴキブリ(Periplaneta brunnea)、コワモンゴキブリ(Periplaneta australasiae)、ワモンゴキブリ(Periplaneta americana)、その他すべてのゴキブリ類が挙げられる。
アリ類としては、クロヤマアリ(Formica japonica)、ヤマトアシナガアリ(phaenogaster japonica)、アミメアリ(Pristomyrmex pungens)、トビイロケアリ(Lasius japonicus)、ルリアリ(Ochetellus itoi)、クロオオアリ(Camponotus japonicus)、イエヒメアリ(Monomorium pharaonis)、トビイロシワアリ(Tetramorium tsushimae)、オオズアリ(Pheidole noda)、アメイロアリ(aratrechina flavipes)、ミカドオオアリ(Camponotus kiusiuensis)、その他すべてのアリ類が挙げられる。
【図面の簡単な説明】
図1は、チョウセンイチヤクソウの混合溶媒抽出物の評価結果を示すグラフである。
図2は、チョウセンイチヤクソウの水抽出物の評価結果を示すグラフである。
図3は、ノウゼンハレンの混合溶媒抽出物の評価結果を示すグラフである。
【発明を実施するための最良の形態】
以下、本発明の実施形態について説明する。本発明の害虫忌避性塗料の有効成分は、イチヤクソウ科(Pyrolaceae)に属する植物全草の抽出物、ノウゼンハレン科(Tropaaeolaceae)に属する植物全草の抽出物、フトモモ科(Myrtaceae)に属する植物枝葉の抽出物およびサクラソウ科(Primulaceae)に属する植物全草の抽出物からなる群から選ばれる少なくとも1つの抽出物である。以下の実施形態では、これらの代表例として、イチヤクソウ科チョウセンイチヤクソウ(Pyrolaceae Pyrola rotundifolia)植物全草の混合溶媒抽出物、ノウゼンハレン科ノウゼンハレン(Tropaaeolaceae Tropaeolum majus)植物全草の混合溶媒抽出物、中国産フトモモ科植物のユウカリノキ(Myrtaceae Eucalyptus globulus)枝葉の混合溶媒抽出物、サクラソウ科モロコシソウ(Primulaceae Lysimachia sikokiana)植物全草の混合溶媒抽出物を用いる。
原料となるイチヤクソウ科チョウセンイチヤクソウおよびノウゼンハレン科ノウゼンハレンは、日本には自生しない。しかし、例えば中国雲南省などに産するイチヤクソウ科チョウセンイチヤクソウおよびノウゼンハレン科ノウゼンハレンの植物全草を使用することができる。イチヤクソウ科チョウセンイチヤクソウは、高さ20〜30cmの多年生の常緑草本であり、開花期は5〜6月、結実期は9〜10月である。山林の樹下や日陰の湿った場所に生える。上記草本は、普通、チベット、雲南、貴州で栽培されている。全草を根ごと掘り出し、泥を落として、葉が縮んで柔らかくなるまで日干しにする。積み上げて発熱させ葉の両面が紫紅色または紫褐色になったら、再度日干しにする。以降の実施形態では、チョウセンイチヤクソウ植物全草として、この原料を使用した。
ノウゼンハレン科ノウゼンハレンも、全草を根ごと掘り出し、泥砂を洗い落とした後、全草を天日に晒し乾燥させる。以降の実施形態では、ノウゼンハレン植物全草として、この原料を使用した。
中国産フトモモ科ユウカリノキは、植物枝葉を摘み取り、陰干しする。以降の実施形態では、ユウカリノキ枝葉として、この原料を使用した。
サクラソウ科モロコシソウは、植物の葉腋に丸い実が熟した初夏の頃に、根株ごと採取し、蒸した後、陰干しで充分乾燥させる。以降の実施形態では、モロコシソウ植物全草として、この原料を使用した。
以下の実施形態では、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂およびポリエステル樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1つの塗料樹脂を用いた。エマルションを形成させるなどの手段により、塗料樹脂を水に分散させた、いわゆる水溶性塗料バインダを調製した。この水溶性塗料バインダの中に本抽出物を分散させた害虫忌避性塗料について詳細に説明する。
(実施形態1)
本実施形態では、イチヤクソウ科チョウセンイチヤクソウ全草の抽出物を用いて、害虫忌避性塗料を調製する場合について説明する。イチヤクソウ科チョウセンイチヤクソウ植物全草をまず充分乾燥させた後、抽出に供した。イチヤクソウ科チョウセンイチヤクソウ植物全草をアセトンと水との混合溶媒(アセトン:水=70重量部:30重量部)中に48時間浸漬させた。ロータリーエバポレータを用いて、アセトンと水との混合溶媒に可溶な物質の成分濃度を濃縮した。得られた抽出物は、黒褐色高粘度粘凋物質である。
抽出方法としては、一般に用いられる方法でよく、例えば混合溶媒中に原料植物部位を長時間浸漬する方法、混合溶媒の沸点以下の温度で加温、撹拌しながら抽出を行い、濾過して抽出物を得る方法などがある。本実施形態では、アセトンと水との混合溶媒による抽出を実施することで、害虫忌避性能の高い抽出物が得られる。
以下に示すように、本抽出物を溶媒中に分散させた後、塗料樹脂を含有する溶媒中にこの分散液を混合して、害虫忌避性塗料を得る。ここで用いる溶媒は、塗料樹脂の性質に影響を与えない溶媒である。溶媒としては、水、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコールおよびアセトンからなる群から選ばれる一種類の溶媒または複数種類の溶媒を組み合わせた混合溶媒が適している。本実施形態では、約40℃の温水を用いた。
塗料樹脂は、一般的な水性塗料で用いられる樹脂であれば何でも良い。本実施形態では、ウレタン系塗料樹脂を用いた。このウレタン系塗料樹脂をエマルション化して、水に分散させたウレタン系塗料樹脂(以下、水溶性ウレタン樹脂とも称する)塗料を調製した。塗装しやすい粘度になるように、塗料溶媒(水)で水溶性ウレタン樹脂塗料を希釈して用いた。
本実施形態では、固形分量換算で、0.5重量部以上40重量部以下の水溶性ウレタン樹脂と、60重量部以上99.5重量部以下の本抽出物とを混合し、分散させた。塗料をフィルム表面に塗工し、その塗膜の忌避性能を評価した。以下に、評価試験方法を示すとともに、本抽出物の忌避性能の測定結果を示す。
評価試験法:
1.10cm角(100cm)、厚み125μmのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム表面に、上記塗料を塗装した。塗布量は、本抽出物乾燥重量換算で、100mg/100cmとした。塗装方法は、スプレー塗装、スクリーン印刷など既知の方法で良いが、本実施形態ではロールコーター法で塗装した。塗装後、充分乾燥するまで、埃のかからない場所で、換気を充分しながら乾燥させた。塗装されたPETフィルムを以下では「本抽出物」ともいう。
また、本抽出物を含まない水溶性ウレタン樹脂塗料を上記と同様の方法で調製した。この塗料が上記と同様に塗装されたPETフィルムを以下では「ブランク」ともいう。
それぞれのサンプルについて塗装前後の重量を測定して、塗装物の正味重量を算出した。
2.1m角のプラスチック実験槽内底面の四隅近くに、「本抽出物」および「ブランク」の各々2枚を相対するように、それぞれ設置した。槽内底面の中央付近には、ゴキブリの住処となるシェルタと水を含ませたガーゼとを設置した。二対のサンプル(4枚)それぞれの中央付近に、その初期重量を測定した角砂糖を設置した。
3.27℃に雰囲気温度を制御した上記実験槽内に、雌雄各50匹計100匹のチャバネゴキブリ成虫を放した。実験開始4日目に当たる通算72時間後に角砂糖の重量を測定し、角砂糖摂取量(角砂糖消費量)を算出した。
4.忌避率は以下の式より算出した。
忌避率(%)=(1−(「本抽出物」上の角砂糖消費量の平均)/(「ブランク」上の角砂糖消費量の平均))×100
本抽出物と塗料樹脂との混合比を種々変更した場合の忌避率および塗膜特性を表1にまとめた。

なお、表1中の「樹脂混合比」は、害虫忌避性塗料の固形物重量に占める樹脂固形分の割合を表している。また、「◎」は忌避率が90%以上、「○」は忌避率が80%以上90%未満、「△」は忌避率が60%以上80%未満であることを表している。
上記結果から、70重量部以上99重量部以下の本抽出物と、1重量部以上30重量部以下の水溶性ウレタン樹脂とを混合した害虫忌避性塗料は、実用的な塗膜性能と忌避性能を有することが確認された。
次に、本抽出物の塗装濃度に対する忌避性能の測定結果を示す。この評価試験では、固形分量換算で、5重量部の水溶性ウレタン樹脂と、95重量部の本抽出物とを混合し、分散させた害虫忌避性塗料を用いた。
図1は、本抽出物の正味重量を横軸に、上記評価結果の忌避率を縦軸に、それぞれ示したグラフである。図1に示すように、本抽出物は、100mg/100cm以上の塗布量で、生活環境中に多く存在するチャバネゴキブリに対して害虫忌避性能を示す。また、害虫忌避性能の強さは実用的レベル以上である。害虫忌避試験終了後の死亡個体も認められなかったので、害虫忌避性塗料の安全性は高いことがうかがえる。
本実施形態では、抽出物を分散させるための溶媒として水を用いた場合について説明した。しかし、水、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、アセトンからなる群から選ばれる一種類の溶媒または複数種類の溶媒を組み合わせた混合溶媒を好適に用いることができる。例えば、水30重量部とエチルアルコール70重畳部との混合溶媒を抽出物の分散のために用いても、良好な分散と忌避性能を確認することができた。
また、塗料樹脂をポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、エポキシ樹脂またはポリエステル樹脂に変更した場合についても、ウレタン系塗料樹脂を用いた場合と同様の効果があった。
さらに、上記最適濃度のサンプルに対し、クロゴキブリなどの他のゴキブリ類の昆虫に対し害虫忌避性能を評価したところ、チャバネゴキブリの場合と同様に、実用的な忌避性能を有することが実証された。
(比較例1)
水溶性ウレタン樹脂をアクリル樹脂に変更した以外は、実施形態1と同様にして害虫忌避性塗料を調製した。実施形態1と同様に、塗料をフィルム表面に塗工し、良好な製膜が得られたものについて、その塗膜の忌避性能を評価した。その結果、いずれの樹脂混合比においても、忌避率は60%未満であり、実用的な忌避性能の発揮が認められなかった。
(比較例2)
実施形態1で示した抽出法と、抽出法として一般的な水抽出法とを比較するために、それぞれの抽出物によるゴキブリ忌避性能を比較した。その評価結果を以下に説明する。実施形態1で示した植物を水抽出法により抽出して、イチヤクソウ科チョウセンイチヤクソウ植物全草の水抽出物を得た。この水抽出物の害虫忌避性能を評価した。評価方法は、実施形態1で示した評価方法を用いた。
図2は、水抽出物の正味重量を横軸に、上記評価結果の忌避率を縦軸に、それぞれ示したグラフである。図2に示すように、水抽出物の忌避性能は存在するが、乏しいものであることが確認された。例えば、実施形態1で効果の認められた100mg/100cm以上の塗布量でも、生活環境中に多く存在するチャバネゴキブリに対して害虫忌避性能を示さないことを確認した。
図1および図2に示される結果から、水抽出では有効成分の溶出が極めて少ないのに対して、水と有機溶媒との混合溶媒では、有効成分の溶出が多いと考えられる。これは、抽出方法の相違により、忌避有効成分の抽出率が異なることを示唆する。
(実施形態2)
本実施形態では、ノウゼンハレン科ノウゼンハレン植物全草の抽出物を用いて、害虫忌避性塗料を調製する場合について説明する。ノウゼンハレン科ノウゼンハレン植物全草をまず充分乾燥させた後、抽出に供した。ノウゼンハレン科ノウゼンハレン植物全草をアセトンと水との混合溶媒(アセトン:水=70重量部:30重量部)中に48時間浸漬させた。スプレードライ法を用いて、アセトンと水との混合溶媒に可溶な物質の含有成分を濃縮した。得られた抽出物は、濃茶褐色高粘度粘凋物質である。
抽出方法としては、一般に用いられる方法でよく、例えば混合溶媒中に原料植物部位を長時間浸漬する方法、混合溶媒の沸点以下の温度で加温、撹拌しながら抽出を行い、濾過して抽出物を得る方法などがある。本実施形態では、アセトンと水との混合溶媒による抽出を実施することで、害虫忌避性能の高い抽出物が得られる。
実施形態1と同様にして、害虫忌避性塗料を調製し、本抽出物の塗装濃度に対する忌避性能を測定した。その結果を図3に示す。
図3は、本抽出物の正味重量を横軸に、上記評価結果の忌避率を縦軸に、それぞれ示したグラフである。図3に示すように、本抽出物は、100mg/100cm以上の塗布量で、生活環境中に多く存在するチャバネゴキブリに対して害虫忌避性能を示す。また、害虫忌避性能の強さは実用的レベル以上である。害虫忌避試験終了後の死亡個体数は0であり、本抽出物の安全性が確認された。
本実施形態では、抽出物を分散させるための溶媒として水を用いた場合について説明した。しかし、水、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、アセトンからなる群から選ばれる一種類の溶媒または複数種類の溶媒を組み合わせた混合溶媒を好適に用いることができる。例えば、水30重量部とエチルアルコール70重畳部との混合溶媒を抽出物の分散のために用いても、良好な分散と忌避性能を確認することができた。
また、塗料樹脂をポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、エポキシ樹脂またはポリエステル樹脂に変更した場合についても、ウレタン系塗料樹脂を用いた場合と同様の効果があった。
さらに、上記最適濃度のサンプルに対し、クロゴキブリなどの他のゴキブリ類の昆虫に対し害虫忌避性能を評価したところ、チャバネゴキブリの場合と同様に、実用的な忌避性能を有することが実証された。
(比較例3)
実施形態2で示した抽出法と、抽出法として一般的な水抽出法とを比較するために、それぞれの抽出物によるゴキブリ忌避性能を比較した。その評価結果を以下に説明する。実施形態2で示した植物を水抽出法により抽出して、ノウゼンハレン科ノウゼンハレン植物全草の水抽出物を得た。この水抽出物の害虫忌避性能を評価した。評価方法は、実施形態1で示した評価方法を用いた。
その結果、水抽出物の忌避性能は殆どないことが確認された。例えば、実施形態2で効果の認められた100mg/100cm以上の塗布量でも、生活環境中に多く存在するチャバネゴキブリに対して害虫忌避性能を示さないことを確認した。
この結果から、水抽出では有効成分の溶出が殆どないのに対して、水と有機溶媒との混合溶媒では、有効成分の溶出が効果的に行われたと考えられる。これは、抽出方法の相違により、忌避有効成分の抽出率が異なることを示唆する。
(実施形態3)
本実施形態では、フトモモ科ユウカリノキ植物枝葉の抽出物を用いて、害虫忌避性塗料を調製する場合について説明する。フトモモ科ユウカリノキ植物枝葉をまず充分乾燥させた後、抽出に供した。フトモモ科ユウカリノキ植物枝葉をアセトンと水との混合溶媒(アセトン:水=70重量部:30重量部)中に48時間浸漬させた。スプレードライ法を用いて、アセトンと水との混合溶媒に可溶な物質の含有成分を濃縮した。得られた抽出物は、アイボリー色の粉末物質である。
実施形態1と同様にして、害虫忌避性塗料を調製し、本抽出物の塗装濃度に対する忌避性能を測定した。その結果、本抽出物は、100mg/100cm以上の塗布量で、生活環境中に多く存在するチャバネゴキブリに対して害虫忌避性能を示す。また、害虫忌避性能の強さは実用的レベル以上である。害虫忌避試験終了後の死亡個体数は0であり、本抽出物の安全性が確認された。
本実施形態では、抽出物を分散させるための溶媒として水を用いた場合について説明した。しかし、水、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、アセトンからなる群から選ばれる一種類の溶媒または複数種類の溶媒を組み合わせた混合溶媒を好適に用いることができる。例えば、水30重量部とエチルアルコール70重畳部との混合溶媒を抽出物の分散のために用いても、良好な分散と忌避性能を確認することができた。
また、塗料樹脂をポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、エポキシ樹脂またはポリエステル樹脂に変更した場合についても、ウレタン系塗料樹脂を用いた場合と同様の効果があった。
さらに、上記最適濃度のサンプルに対し、クロゴキブリなどの他のゴキブリ類の昆虫に対し害虫忌避性能を評価したところ、チャバネゴキブリの場合と同様に、実用的な忌避性能を有することが実証された。
(実施形態4)
本実施形態では、サクラソウ科モロコシソウ植物全草の抽出物を用いて、害虫忌避性塗料を調製する場合について説明する。サクラソウ科モロコシソウ植物全草をまず充分乾燥させた後、抽出に供した。サクラソウ科モロコシソウ植物全草をエチルアルコールと水との混合溶媒(エチルアルコール:水=70重量部:30重量部)中に48時間浸漬させた。スプレードライ法を用いて、エチルアルコールと水との混合溶媒に可溶な物質の含有成分を濃縮した。
実施形態1と同様にして、害虫忌避性塗料を調製し、本抽出物の塗装濃度に対する忌避性能を測定した。その結果、本抽出物は、100mg/100cm以上の塗布量で、生活環境中に多く存在するチャバネゴキブリに対して害虫忌避性能を示す。また、害虫忌避性能の強さは実用的レベル以上である。害虫忌避試験終了後の死亡個体数は0であり、本抽出物の安全性が確認された。
本実施形態では、抽出物を分散させるための溶媒として水を用いた場合について説明した。しかし、水、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、アセトンからなる群から選ばれる一種類の溶媒または複数種類の溶媒を組み合わせた混合溶媒を好適に用いることができる。例えば、水30重量部とエチルアルコール70重畳部との混合溶媒を抽出物の分散のために用いても、良好な分散と忌避性能を確認することができた。
また、塗料樹脂をポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、エポキシ樹脂またはポリエステル樹脂に変更した場合についても、ウレタン系塗料樹脂を用いた場合と同様の効果があった。
さらに、上記最適濃度のサンプルに対し、クロゴキブリなどの他のゴキブリ類の昆虫に対し害虫忌避性能を評価したところ、チャバネゴキブリの場合と同様に、実用的な忌避性能を有することが実証された。
(実施形態5)
本実施形態では、天然系抗菌剤を含有する害虫忌避性塗料について説明する。本実施形態の害虫忌避性塗料は、天然系抗菌剤としてカテキンを含有する点が、実施形態1の害虫忌避性塗料と異なる。具体的には、本実施形態の害虫忌避性塗料は、実施形態1と同様にして得られたイチヤクソウ科チョウセンイチヤクソウ植物全草の抽出物94部と、茶抽出物としてのカテキン(三井農林(株)製)1部と、乾燥固形分重量換算5部の水溶性ウレタン樹脂とを含有する水性塗料である。抽出物およびカテキンは、塗料の溶媒である水中に分散させた。水の混合割合は、塗装状態の最も良くなる粘度になるように調整した。実施形態1と同様に、調製した害虫忌避性塗料をPETフィルム上に塗装し、昆虫(ゴキブリ類)を用いて、このフィルムの忌避性能を評価した。
その結果、初期塗膜性能および忌避性能が共に良好な塗膜を得た。この塗膜を微生物が増殖し易い37℃の環境空間に半年間放置した。放置後の塗膜性能を観察した結果、抗菌成分を添加していない害虫忌避性塗料に比較し、微生物汚染、いわゆる腐敗が認められなかった。すなわち、忌避塗膜の微生物汚染を防止することができた。
この理由としては、次のことが考えられる。植物抽出物を含有する害虫忌避性塗料は、忌避有効成分以外の植物抽出物も含む。忌避有効成分およびそれ以外の植物抽出物は、ともに微生物資化性が大きいと考えられるので、腐敗が進行するおそれがある。本抽出物の腐敗は、単に忌避有効成分の低下のみならず、腐敗による生成物が塗膜表面を覆うことによって、害虫の触角や前脚と塗膜表面との接触面積の減少をもたらすので、本抽出物の接触忌避性能の低下をもたらす。さらに、腐敗物となって、忌避性能がなくなった場合には、害虫の餌となり、かえって害虫の誘引の元となる。
本実施形態によれば、本抽出物およびそれ以外の植物抽出物の腐敗による劣化を防止することができる。したがって、忌避性能の維持を確保することができる。
天然系抗菌剤は、上記カテキンに限らず、ワサビ抽出物、孟宗竹抽出物でも同様の効果が得られる。また天然系抗菌剤の代わりに、アリルイソチオシアネートなどの天然系抗菌剤に含まれる有効成分の合成品を用いても同様の効果が得られることは云うまでもない。
さらに、抗黴性能を発揮させるため、合成系の抗黴剤を用いることで、害虫忌避性塗料の真菌に対する抗分解性を向上させることができる。
(実施形態6)
本実施形態では、銀系抗菌剤を含有する害虫忌避性塗料について説明する。本実施形態の害虫忌避性塗料は、銀系抗菌剤として銀錯体系抗菌剤を含有する点が、実施形態1の害虫忌避性塗料と異なる。具体的な調製法について述べる。チオスルファト銀錯体をシリカゲルに吸着担持させ、その表面をテトラエトキシシラン加水分解物で被覆した銀錯体系抗菌剤(商品名:アメニトップ、松下電器産業株式会社製)1重量部と、イチヤクソウ科チョウセンイチヤクソウ植物全草の抽出物1重量部とを、溶媒としての20重量部の水に分散させた後、撹拌しながら水分を乾燥させた。これにより、銀錯体抗菌剤表面に本抽出物が固着した害虫忌避粒子が調製された。塗装性能が出る程度に、水性塗料樹脂2重量部を水溶媒に予め分散させた。この塗料バインダ中に、上記害虫忌避粒子98重量部を分散させて、害虫忌避性塗料を調製した。
実施形態5と同様の方法で、この害虫忌避性塗料をPETフィルム上に塗装し、忌避性能および抗微生物分解性を評価した。その結果、実用的な忌避性能と抗微生物分解性が確認できた。
(実施形態7)
実施形態2と同様にして、ノウゼンハレン科ノウゼンハレン植物全草の濃縮抽出物を得た。この抽出物は、茶褐色高粘度粘凋物質である。
無機担体として、ハイドロタルサイト類化合物を準備した。この化合物は、層状化合物であり、層間に本抽出物を保持させることができる。この層状化合物は、層の横方向(厚み方向に対して略直交する方向)の長さが0.3μm、厚みが0.06μm、比表面積が14m/gの粉体(戸田工業(株)製)である。この粉体および本抽出物を、70%エチルアルコールと30%水の混合溶媒に分散させた。充分分散させた後、撹拌させながら溶媒を蒸発させると、無機担体に本抽出物が担持された害虫忌避粒子が得られた。ポリビニルアルコールを水に溶解した水性塗料中に、この害虫忌避粒子を分散させて、害虫忌避性塗料を調製した。
この害虫忌避性塗料について、実施形態1で記載した評価方法を用いて、同様に忌避性能を評価した。その評価結果を表2に示す。

なお、表2中の「樹脂混合比」は、害虫忌避性塗料の固形物重量に占める樹脂固形分の割合、「無機担体混合比」は、害虫忌避性塗料の固形物重量に占める粉体の割合、「本抽出物混合比」は、上記「樹脂混合比」および「無機担体混合比」の総計を1から差し引いた割合を表している。また、「◎」は忌避率が90%以上、「△」は忌避率が60%以上80%未満であることを表している。
上記結果から、49重量部以上89重量部以下の本抽出物と、10重量部以上50重量部以下の無機担体としてハイドロタルサイト類化合物と、1重量部以上30重量部以下の塗料樹脂としてポリビニルアルコールとを混合した害虫忌避性塗料は、実用的な塗膜性能と忌避性能を有することが確認された。
ポリビニルアルコール(塗料樹脂)を含有する塗料中に害虫忌避粒子を分散させることによって、塗料を塗布したPETフィルム(基材)上に害虫忌避粒子が接着する。また、高濃度の本抽出物を担体に担持させることで、塗膜表面における本抽出物の濃度分布を不均一にさせることができる。言い換えれば、本抽出物を塗膜中に点在させることができる。これにより、さらに強い刺激を虫の感覚器官に与えることができる。この効果は、塩分濃度が同じ食物であっても、塩の濃度分布が均一か不均一かによって、人の舌が感じる塩辛さに違いが生じる作用に類似している。例えば、塩粒を分散させた食品は、そうでない食品よりも塩辛く感じる。したがって、忌避作用をより強める効果がある。
塗料樹脂をカルボキシメチルセルロース、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂またはポリエステル樹脂に変更した場合についても、ポリビニルアルコールを用いた場合と同様の効果があった。
以上の実施形態から、イチヤクソウ科(Pyrolaceae)に属する植物全草の抽出物またはノウゼンハレン科(Tropaaeolaceae)に属する植物全草の抽出物のいずれかを、塗料樹脂を含有する塗料溶媒中に分散させた害虫忌避性塗料は、少なくともチャバネゴキブリやクロゴキブリなどのゴキブリ類の昆虫に対して、害虫忌避性能を有することが実証された。
実験に使用した昆虫に、寿命全う以外の理由で、その後の死亡などの兆候が認められない。このことから、害虫忌避メカニズムが、従来の忌避剤に多くみられる摂食による忌避と異なると考えられる。具体的には、触角や前脚を薬剤に接触させることによる神経伝達系刺激、すなわち接触忌避によるものであると考えられる。さらに、試験期間中の供試昆虫の動きから、昆虫の学習効果も伴って、本抽出物の塗工した領域内に侵入し難い状況ができているとも考察できる。
(実施形態8)
実施形態3と同様にして、フトモモ科ユウカリノキ植物枝葉の濃縮抽出物を得た。この抽出物は、アイボリー色の粉末物質である。
本抽出物を、70%エチルアルコールと30%水との混合溶媒に分散させた。この分散液の中に、無機担体として約30μmの粒度を有する層間化合物を分散させた。その後、分散液の溶媒を蒸発させ、無機担体中および担体表面に本抽出物を担持させた害虫忌避粒子を得た。ここで、層間化合物としてスメクタイト類化合物、具体的にはモンモリロナイトを使用した。本抽出物と層間化合物との混合比は、本抽出物2重量部に対して、層間化合物1重量部とした。また、分散液の蒸発工程では、温度を約40℃に管理した。
上記製法で得られた害虫忌避粒子を粉砕して粒度をそろえた。10cm角(100cm)、厚み125μmのPETフィルム表面に、カルボキシメチルセルロースを含有する水分散塗料を薄く塗工した。この未硬化塗膜の上に、粉砕された害虫忌避性塗料を散布することで、害虫忌避粒子を基材表面に接着させた塗膜を形成した。
この塗膜について、実施形態1と同様の評価方法を用いて、忌避性能を評価した。その結果、本抽出物は、100mg/100cm以上の塗布量で、生活環境中に多く存在するチャバネゴキブリに対して害虫忌避性能を示す。また、害虫忌避性能の強さは実用的レベル以上、具体的には70%以上である。害虫忌避試験終了後の死亡個体数は0であり、害虫忌避性塗料の安全性が確認された。
一方、本実施形態で示した塗膜形成において、本抽出物を使用しないこと以外は同様の工程を経て、塗膜を形成した。その塗膜について、実施形態1と同様の評価方法を用いて、忌避性能を評価した結果、忌避性能を認めなかった。このことから、本実施形態による忌避性能は、塗膜表面の凹凸でなく、本抽出物に起因することが明らかになった。
抽出物をイチヤクソウ科チョウセンイチヤクソウ植物全草の抽出物、ノウゼンハレン科ノウゼンハレン植物全草の抽出物、サクラソウ科モロコシソウ植物全草の抽出物に変更した場合についても、フトモモ科ユウカリノキ植物枝葉の抽出物を用いた場合と同様の効果があった。
(実施形態9)
サクラソウ科モロコシソウ植物全草をまず充分乾燥させた後、抽出に供した。サクラソウ科モロコシソウ植物全草をエチルアルコールと水との混合溶媒(エチルアルコール:水=70重量部:30重量部)中に48時間浸漬させた。スプレードライ法を用いて、エチルアルコールと水との混合溶媒に可溶な物質の含有成分を濃縮した。
本抽出物を、70%エチルアルコールと30%水との混合溶媒に分散させた。この分散液の中に、無機担体として約30μmの粒度を有する層間化合物を分散させた。その後、分散液の溶媒を蒸発させ、無機担体中および担体表面に本抽出物を担持させた害虫忌避粒子を得た。ここで、層間化合物としてハイドロタルサイト類化合物を使用した。本抽出物と層間化合物との混合比は、本抽出物2重量部に対して、層間化合物1重量部とした。また、分散液の蒸発工程では、温度を約40℃に管理した。
上記製法で得られた害虫忌避粒子を粉砕して、粒度を約30μmにそろえた。ポリエステル樹脂をエマルション化した水性ポリエステル樹脂塗料中に、粉砕された害虫忌避粒子を分散させて、害虫忌避性塗料を調製した。
10cm角(100cm)、厚み125μmのPETフィルム表面に、樹脂部分の厚みとして約5μmになるよう害虫忌避性塗料を薄く塗工し、約60℃の温度で乾燥および硬化させることで、塗膜を形成した。
この塗膜についても、実施形態1と同様の評価方法を用いて、忌避性能を評価した。その結果、本抽出は、100mg/100cm以上の塗布量で、生活環境中に多く存在するチャバネゴキブリに対して害虫忌避性能を示す。また、害虫忌避性能の強さは実用的レベル以上である。害虫忌避試験終了後の死亡個体数は0であり、本抽出物の安全性が確認された。
本実施形態では、害虫忌避粒子の粒度が約30μmであるのに対して、乾燥後の塗膜の膜厚が約5μmである。すなわち、害虫忌避粒子の粒度が乾燥後の塗膜の膜厚よりも大きい。これにより、本抽出物を担持させた害虫忌避粒子は塗膜表面に凸状に表れる。昆虫が塗膜表面を匍匐するとき、本抽出物と昆虫との接触面積が拡がるので、忌避有効成分を効果的に昆虫に吸収させることができる。
塗料樹脂をポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、エポキシ樹脂またはウレタン樹脂に変更した場合についても、ポリエステル樹脂を用いた場合と同様の効果があった。
(実施形態10)
無機担体として、多孔質な無機酸化物から主として構成され、300m/g以上の比表面積を有し、表面にシラノール基を有する粒度50μm以下の粒子状粉体を用いた以外は、実施形態7と同様にして、害虫忌避性塗料を調製した。具体的には、表面を疎水処理した粒度1μmのシリカゲル微粒子(商品名:サイロホービック200、富士シリシア化学(株)製)を用いて、実施形態7と同様の工程を経て、害虫忌避粒子を調製した。さらに、ポリビニルアルコールを水に溶解した水性塗料中に、この害虫忌避粒子を分散させて、害虫忌避性塗料を調製した。
この害虫忌避性塗料について、実施形態1で記載した評価方法を用いて、同様に忌避性能を評価した。その結果、ハイドロタルサイト類化合物などの層間化合物を無機担体として用いた場合と同様に、49重量部以上89重量部以下の本抽出物と、10重量部以上50重量部以下のシリカゲル微粒子と、1重量部以上30重量部以下のポリビニルアルコールとを混合した害虫忌避性塗料は、実用的な塗膜性能と忌避性能を有することが確認された。
塗料樹脂をカルボキシメチルセルロース、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂またはポリエステル樹脂に変更した場合についても、ポリビニルアルコールを用いた場合と同様の効果があった。
(実施形態11)
実施形態7において、無機担体(ハイドロタルサイト類化合物)を混合溶媒に分散させる際に界面活性剤を用いる以外は、実施形態7と同様の工程を経て、害虫忌避粒子を調製した。界面活性剤は、本抽出物100重量部に対して、1重量部以上500重量部以下(本実施形態では10重量部)を混合溶媒に添加することができる。本実施形態では、50gの本抽出物と、50gの無機担体と、5gのソルビタントリステアレート(ソルビタン脂肪酸エステル系の非イオン系界面活性剤)とを1000mlの混合溶媒(70%エチルアルコール+30%水)に分散させた。
充分分散させた後、撹拌させながら溶媒を蒸発させると、無機担体に本抽出物が担持された害虫忌避粒子が得られた。ポリビニルアルコールを水に溶解した水性塗料中に、この害虫忌避粒子を分散させて、害虫忌避性塗料を調製した。
この害虫忌避性塗料について、実施形態1で記載した評価方法を用いて、同様に忌避性能を評価した。
その結果、本抽出物および無機担体(ハイドロタルサイト類化合物)のみを用いた実施形態7の場合(界面活性剤非添加)と同様に、本実施形態の害虫忌避性塗料は、実用的な塗膜性能と忌避性能を有することが確認された。また、本実施形態の害虫忌避性塗料は、効果の持続性に向上が認められた。効果の持続性が向上するメカニズムは、以下のように考えられる。界面活性剤を本抽出物と併用することで、虫皮膚を経由した本抽出物の吸収効率を高める効果が生じる。これにより、本抽出物を有効に利用できるので、本抽出物の消費が最小量に抑えられ、忌避効果の持続性が向上する。
塗料樹脂をカルボキシメチルセルロース、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂またはポリエステル樹脂に変更した場合についても、ポリビニルアルコールを用いた場合と同様の効果があった。
(実施形態12)
本抽出物と水溶性ウレタン樹脂とを含有する水溶性ウレタン樹脂塗料を基材に塗工して忌避部材を製造した。具体的には、コロナ放電により表面の密着性を向上させた125μm厚のポリエステルフィルムに、ドット状に水溶性ウレタン樹脂塗料を印刷した。ドットは、1点が直径1mmの円で、縦方向および横方向に3mm間隔で方眼状に配置させた。
この忌避部材を用いて、蹴込み板の下方(床面近傍)に、床面に沿ってガイドが設けられた流し台のゴキブリ営巣性を調べた。具体的には、忌避部材の塗工面が上方を臨み、他面が床面と接するように、流し台のガイドにシート(忌避部材)を装着した。忌避部材の設置有無で、この流し台のゴキブリ営巣性を比較したところ、顕著な優位性が見いだされた。
このことから、忌避部材を害虫進入経路の一部に設置することで、流し台を使用する際の衛生性が向上することを確認した。
(実施形態13)
本抽出物とエポキシ樹脂とを含有する樹脂塗料を電子回路基板に塗工した。具体的には、ガラス繊維強化エポキシ樹脂製の電子回路基板に電子部品を実装した後、電子回路基板の裏面および表面に、それぞれ樹脂塗料を塗工した。
この電子回路基板を用いて、炊飯器など台所に設置される電化機器、常時待機電力を使用するテレビやビデオなどの家庭電気製品、セキュリティ機器、通信機器、事務機器、トイレタリー機器などの工業製品を作成した。これらの工業製品は、害虫の侵入営巣に起因する電子回路の誤動作、異常発熱などを防止する効果があることを確認した。
以上のように、害虫が営巣する可能性のある工業製品に本発明の害虫忌避性塗料を応用することで、実用上充分な忌避性能を発揮し、品質の維持を向上できることを確認した。
(実施形態14)
本抽出物と、水溶性ウレタン樹脂と、無機酸化物担体とを含有する害虫忌避性塗料を調製した。合成樹脂シート、合成樹脂フィルム、紙等の基材の表面に、この害虫忌避性塗料を含浸させ、あるいは塗工して、忌避部材を調製した。また、この忌避部材を各種の機器に組み込んだ。このようにして、壁紙や床下シートなどの建材、家庭園芸資材、事務機器、インテリア部材、エクステリア部材、自動販売機、自動車部品、交通関連機器、家具、調理機器、医療福祉設備などの工業製品を作成した。
これらの工業製品は、クロヤマアリに対して良好な忌避性能を有することをフィールド試験で確認した。これらの部材や機器は、生活空間内に設置される場合だけでなく、軒下など屋外にて使用または設置される可能性がある。その場合、チャバネゴキブリ、クロゴキブリなどのゴキブリ類は云うに及ばず、クロヤマアリ、ヤマトアシナガアリなどのアリ類によって、被害を受けるおそれがある。クロヤマアリに対する忌避効果を確認することで、ヤマトアシナガアリに対する忌避効果も同様に期待でき、さらにこれらのアリ類以外の不快害虫に対しても忌避効果を期待できる。
また、ゴキブリ類に対する忌避性能について、家庭モニタによるフィールド試験を同様に行った。その結果、チャバネゴキブリやクロゴキブリに対しても実用上大きな忌避効果を確認できた。
これらの部材や機器は、害虫の侵入営巣に起因する衛生性の低下の防止、使用消費者の不快性の軽減などを演出する効果があることを確認した。
以上のように、害虫が営巣する可能性のある工業製品に本発明の害虫忌避性塗料を応用することで、実用上充分な忌避性能を発揮し、品質が維持向上できることを確認した。
以上の実施形態から、イチヤクソウ科(Pyrolaceae)に属する植物全草の抽出物、ノウゼンハレン科(Tropaaeolaceae)に属する植物全草の抽出物、フトモモ科(yrtaceae)に属する植物枝葉の抽出物およびサクラソウ科(Primulaceae)に属する植物全草の抽出物のいずれも、生活環境中に多く生息するゴキブリ類やアリ類に対して強い害虫忌避性能を発揮する。これらの植物は、漢方薬として用いられてきた実績から、生活環境中に放置しても人の健康に影響を及ぼさないという安全性が確保されている。また、これらの植物は、医薬品として、言い換えれば重大かつ緊急の場合にのみ限定使用される漢方薬としての用い方と異なる方法により利用される。すなわち、これらの植物から得られる忌避成分は、服用をせずに、生活環境中に常在させる化学物質として利用される。
さらに、害虫の営巣を抑止することによって、害虫の徘徊を防止することができる。したがって、害虫の徘徊によって生じる微生物の拡散、あるいは塵埃または黴の飛散に伴うアレルギーを未然に防止できるなどの効果を発揮するので、本発明の工業的効果は大きい。
また、1)本抽出物を担体に担持する、2)界面活性剤を併用することで、昆虫への忌避成分の吸収効率を向上させる、3)抗菌剤を併用することで、忌避成分自体の微生物資化性を防止し、忌避性能の維持を図る、などの手段を講じることによって、忌避性能を維持あるいは向上させることができる。
本発明の害虫忌避性塗料を各種工業製品に応用することで、生活環境中に生息する衛生害虫、家屋害虫、不快害虫などの害虫の営巣を防止することができる。したがって、害虫営巣に起因する衛生問題の改善、生活環境の居住性の向上あるいは建築資材の劣化防止、害虫死骸に起因する居住者のアレルギー防止などに有用であるので、本発明の工業的価値は大である。
本発明によれば、生活環境中に多く生息する衛生害虫や不快害虫類に効果的で、かつ人体への影響が少ない、言い換えれば安全性の高い害虫忌避性塗料が提供される。また、本発明によれば、かかる害虫忌避性塗料が印刷あるいは塗工された工業製品が提供される。 以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施形態に記載の範囲に限定されない。上記実施形態は例示であり、それらの各構成要素を種々変更した変更例が可能なこと、またそうした変更例も本発明の技術的範囲に属することは当業者に理解されるところである。
なお、2003年3月31日出願の特願2003−96776の明細書、図面および特許請求の範囲に開示された内容は、参照によりそのすべてが本願明細書に組み込まれる。
【産業上の利用可能性】
本発明の害虫忌避性塗料は、流し台、洗面台、電気機器、建材、家庭園芸資材、事務機器、インテリア部材、エクステリア部材、自動販売機、自動車部品、交通関連機器、家具、調理機器、医療福祉設備などの工業製品に利用することができる。
【図1】

【図2】

【図3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
イチヤクソウ科に属する植物全草の抽出物、ノウゼンハレン科に属する植物全草の抽出物、フトモモ科に属する植物枝葉の抽出物およびサクラソウ科に属する植物全草の抽出物からなる群から選ばれる少なくとも1つの抽出物と、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂およびポリエステル樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1つの塗料樹脂と、塗料溶媒とを含有する害虫忌避性塗料。
【請求項2】
前記抽出物は、少なくとも有機溶媒を含む溶媒による抽出物である請求の範囲第1項に記載の害虫忌避性塗料。
【請求項3】
知覚神経を有する害虫に対し害虫に対し害虫忌避性能を有する請求の範囲第1項に記載の害虫忌避性塗料。
【請求項4】
水性塗料である請求の範囲第1項に記載の害虫忌避性塗料。
【請求項5】
前記塗料樹脂は、固形分換算で、70重量部以上99重量部以下の前記少なくとも1つの抽出物に対して、1重量部以上30重量部以下を含む請求の範囲第1項に記載の害虫忌避性塗料。
【請求項6】
イチヤクソウ科に属する植物全草の抽出物、ノウゼンハレン科に属する植物全草の抽出物、フトモモ科に属する植物枝葉の抽出物およびサクラソウ科に属する植物全草の抽出物からなる群から選ばれる少なくとも1つの抽出物が無機担体に担持された害虫忌避粒子と、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂およびポリエステル樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1つの塗料樹脂と、塗料溶媒とを含有する害虫忌避性塗料。
【請求項7】
基材に塗布することによって、前記害虫忌避粒子と前記基材とを接着させる塗料である請求の範囲第6項に記載の害虫忌避性塗料。
【請求項8】
前記無機担体は、多孔質な無機酸化物から主として構成され、300m/g以上の比表面積を有し、表面にシラノール基を有する粒度50μm以下の粒子状粉体である請求の範囲第6項に記載の害虫忌避性塗料。
【請求項9】
前記無機担体は層間化合物からなる粒子状粉体である請求の範囲第6項に記載の害虫忌避性塗料。
【請求項10】
前記無機担体の粒度は塗布乾燥後の塗膜の膜厚よりも大きい請求の範囲第6項に記載の害虫忌避性塗料。
【請求項11】
塗料固形分は、1重量部以上30重量部以下の前記塗料樹脂と、10重量部以上50重量部以下の前記無機担体と、49重量部以上89重量部以下の前記少なくとも1つの抽出物とを含む請求の範囲第6項に記載の害虫忌避性塗料。
【請求項12】
界面活性剤をさらに含有する請求の範囲第1項または第6項に記載の害虫忌避性塗料。
【請求項13】
前記界面活性剤は非イオン系界面活性剤を含む請求の範囲第12項に記載の害虫忌避性塗料。
【請求項14】
請求の範囲第1項または第6項に記載の害虫忌避性塗料が表面に印刷あるいは塗工されたシートを備える工業製品。
【請求項15】
請求の範囲第1項または第6項に記載の害虫忌避性塗料が片面または両面に印刷あるいは塗工された回路基板を備える工業製品。
【請求項16】
請求の範囲第1項または第6項に記載の害虫忌避性塗料が含浸または塗工された部材を備える工業製品。

【国際公開番号】WO2004/087820
【国際公開日】平成16年10月14日(2004.10.14)
【発行日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−504290(P2005−504290)
【国際出願番号】PCT/JP2004/004725
【国際出願日】平成16年3月31日(2004.3.31)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】