説明

害虫捕獲器

【課題】 ハウス栽培において粘着剤によって害虫を捕獲しようとすると、受粉作業に使用する蜜蜂などの大きな益虫も同時に捕獲してしまう。
【解決手段】 内面に粘着剤層7を形成した捕獲容器9の開口4を、網体10で覆う。この網体10の網目の大きさによって、小さな害虫はこの網体10を通過して粘着剤層7に付着して捕獲される。これより大きな蜂類などの益虫は、この網体10を通過することができず、上記粘着剤層7に近づくことができないので、捕獲されることがない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大きな益虫を捕獲することなく、小さな害虫を効果的に捕獲することができる害虫捕獲器に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、野菜、果実、花卉などのハウス栽培において、農薬の使用量を減少させると共に、害虫を効果的に捕獲する為に、粘着剤によって害虫を捕獲することが試みられている。(特許文献1)
また、こうしたハウス栽培において、受粉を人手によらず効率的に行う為に、蜜蜂などの蜂類も使用されるようになってきた。
【特許文献1】特開平11−32647号公報
【0003】
ところが、上記した粘着剤を使用した害虫の捕獲器をハウス内に設置した状態で、受粉の為に蜂類を放ったところ、害虫を捕獲することができるものの、同時に益虫である蜂類も粘着剤に付着してしまい、充分な受粉を行うことができないことが判った。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、ハウス内において、小さな害虫は粘着剤によって確実に捕獲することが出来るが、蜂類などの大きな益虫はこの粘着剤によっては捕獲されないようにしようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、内面に粘着剤層を形成した捕獲容器の開口を、網体で覆うことによって、小さな害虫はこの網体を通過して粘着剤で捕獲されるが、蜂類などの大きな益虫は、この網体を通過することができず、上記粘着剤に近づくことができないようにしたものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、小さな害虫は粘着剤によって効果的に捕獲することができると共に、大きな蜂類などの益虫は上記粘着剤に近づくことができず、粘着剤によって捕獲されることなく、受粉などを効果的に行うことができる。
また、この捕獲器は構造が簡単で、ハウス内や屋外で誰でもが容易に使用することができ、また、経済的に得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
プラスチック、板紙、木、金属その他の丈夫な材料によって両面1、2に開口3、4を有する枠体5を形成する。この枠体5の一面1を、基材6に粘着剤層7を形成した粘着シート8で、その粘着剤層7を内面側にして覆い、捕獲容器9を形成する。
図1〜図5に示すものは、枠体5を長方形状に形成し、基材6に粘着剤層7を形成した粘着シート8の粘着剤層7を枠体5の一面1に貼付している。この枠体5の一面1は、表面を剥離処理した粘着テープ16を貼付するなどによって適度の剥離処理を施しておくと、虫が付着した粘着シート8を新しいものに貼りかえる場合に便利である(図4)。
この枠体5は、上記長方形でなく、場合に応じて円形、楕円形、多角形その他の適宜の形状に形成することができる。
【0008】
上記枠体5の他面2の開口4は、網体10によって覆われている。この網体10は、使用される益虫の大きさによって異なるが、通常、約(3〜15mm)×(3〜15mm)程度の網目を有するものが使用される。
現在、受粉作業には、蜜蜂、マルハナバチ、ツツハナバチなどが多く用いられており、特にイチゴには蜜蜂やマルハナバチが、トマトやナスにはマルハナバチが用いられているが、こうした蜂類の場合には、約(4〜5mm)×(4〜5mm)程度の網目を有する網体10を使用するとよい。
【0009】
上記網目の網体10を使用した場合、野菜、果実、花卉などのハウス栽培において多く見られる害虫であるオンシツコナジラミ、マメハモグリバエ、タバココナジラミ、アブラムシ類、ミナミキイロアザミウマ、ミカンキイロアザミウマなどは、上記網体10の網目を自由に通過することができる。
【0010】
この網体10は、各種繊維、プラスチック、金属その他の材料によって、網目を格子状、金網状等に形成することができる。また、プラスチックフイルムを丸形、三角形、菱形、方形その他の形状の網目に打抜いて網体を形成したり、その他の適宜の方法で形成することもできる。
【0011】
こうした害虫捕獲器11を、ハウス内に吊り下げたり、圃上においたりすれば、上記の如き小さな害虫は自由に上記網体10を通過し、捕獲容器9の粘着剤層7に接触すれば自由が拘束されて捕獲されるが、上記蜂類は、網体10に近づいても網体の網目を通過することができず、粘着剤層7によって捕獲されることはなく、受粉作業を続けることができる。
【0012】
上記枠体5の深さは、枠体の大きさとの兼ね合いもあって、適当な深さにすればよいが、通例、約5mm〜50cm程度にするとよい。
図6に示すように、特に枠体5が深くなった場合には、更に枠体5の側面にも開口14を設けて、そこも網体10で覆うようにすれば、害虫の捕獲をさらに効果的に行うことができる。
【0013】
上記した捕獲容器9の内面の一部又は全部を、害虫に対する誘引色にすれば、害虫の捕獲を更に効率的に行うことができる。害虫に対する誘引色は、黄色又は青色が好適であり、特に黄色が好ましいと言われている。こうした誘引色の着色は、例えば,上記粘着シート8の基材6面や粘着剤層7を着色することによって、又枠体5の内面を着色することによって行うことができる。
また、こうした捕獲容器9の開口を覆っている網体10も同様に害虫誘引色に着色することができる。
【0014】
更に、上記捕獲容器9や網体10は、適宜、蛍光性を有するものとすることができる。こうした蛍光性は、表面に蛍光剤を塗布したりすればよいが、網体10の場合には材料中に練り込むようにしてもよい。こうした蛍光性は、害虫を更に誘引し易くする。
【0015】
図7に示すものは、捕獲容器11の中に誘引灯12を配置したものである。この誘引灯12は、虫を誘引することができる波長の光を発するもので、蛍光ランプ、LEDランプ、冷陰極蛍光ランプ(CCFL)などを使用するとよい。この場合、特に消費電力の少ないものを使用すれば、蓄電池や、太陽光発電と蓄電池を組合せて効率的に害虫を誘引することができる。図示のものでは、誘引灯12を枠体5の内側に固定しているが、固定しなくても誘引灯12が捕獲容器9の中に位置するようにしておけば足りる。
【0016】
上記捕獲容器9を上記枠体5で形成した場合、枠体の深さは、通例上記の如く約5mm〜50cm程度にされる。この場合、上記誘引色に着色して誘引する場合には枠体5の深さを約10〜20mm程度にするのが好ましく、化学的な誘引剤で誘引する場合には枠体5の深さを約20〜50mm程度にするとよく、誘引灯12で誘引する場合には枠体5の深さを約50〜300mm程度にすると好ましいことが多い。
【0017】
図8に示すものは、略扇形の基材6の内面に粘着剤層7を形成した粘着シート8を朝顔形に丸めるようにして捕獲容器9を形成し、その開口4を網体10によって覆うようにしたものである。こうした捕獲容器9は、ハウスの支柱に吊り下げるようにして設置したり、係止具13に引っ掛けるようにして設置したりすることができる。この図8のものは、捕獲容器9の中に配置されている誘引灯12が、係止具13によって支えられている。また、この捕獲容器9の上には、虫を集め易くする反射板15を更に設けている。この捕獲容器9は、害虫を捕獲した後で係止具13から取り外し、新しい捕獲容器と容易に取り替えることができる。
【実施例】
【0018】
後記するテストを行うために、下記の実施例、比較例の害虫捕獲器を作った。
(実施例1)
図1〜図4に示すような、縦34cm×横20cm×高さ1cmで、枠の幅1cmの木製の枠体5を用意した。また、図5に示すような、縦35cm×横20cmで、厚さ360μのケント紙の表面を黄色に着色し、その上にポリエチレンをラミネートし、縦方向の両側に各々1.5cm幅のスペースを置いて、縦中央の32cmの部分に粘着剤層7を設けた粘着シート8を形成した。
上記枠体5の一面1の縦枠表面に、片面にシリコーン系の剥離処理をした粘着テープ16を貼付し(図4)、その上に、上記粘着シート8をその粘着剤層7によって貼り合わせた。上記枠体5は、粘着シート8の粘着剤層7と、縦方向は貼付されているが、横方向は貼付されていない状態になっている(図3、図4)。
こうした捕獲容器9の他面2の枠表面に、網目が4mm×4mmの網体10(マルハナネット:新日石プラスト(株)製)を両面テープ(図示略)で貼付して害虫捕獲器11を得た。
(比較例1)
実施例1の網体10が無い他は、実施例1と同じにした。
【0019】
(比較試験1)
上記実施例1と比較例1を使用し、5m×30mの広さ、高さ3mで、蜜蜂を放って使用中のビニルハウス中の高さ1.2mの位置に、14日間、吊るして、蜜蜂と害虫の捕獲数を比較した。捕獲数の計測は目視によった。
結果は表1に示すとおり、実施例1においては蜜蜂の捕獲数は0であった。
【0020】
【表1】

【0021】
(実施例2)
図8に示すような、上部開口4が幅30cm×奥行き20cmで、高さ11cmの略朝顔形の捕獲容器9の下方部に害虫誘引剤を配置し、更に上部開口を網目4mm×4mmの網体10(からすよけネット「噂のからすよけ」:森下(株)販売)で覆った。なお、図8に示されている誘引灯12及び反射板15は設けていない。
(比較例2)
実施例2の網体10が無い他は、実施例2と同じにした。
【0022】
(比較試験2)
上記実施例2と比較例2を使用し、比較試験1と同様にして蜜蜂と害虫の捕獲数を比較した。計測は同じく目視によった。
結果は表2に示すとおり、実施例2においても蜜蜂の捕獲数は0であった。
【0023】
【表2】

【0024】
(実施例3)
上記実施例2に記載の害虫捕獲器11を使用し、屋外の雑草の生えている場所に、高さ30cmの位置に、14日間、吊るして虫を捕獲した。
(比較例3)
上記比較例2に記載の害虫捕獲器を使用し、他は実施例3と同じにした。
【0025】
(比較試験3)
上記実施例3と比較例3により、4mm以上の虫と、それより小さな虫の捕獲数を比較した。捕獲数の計測は同じく目視によった。
結果は表3に示すとおり、実施例3においても4mm以上の虫の捕獲数は0であった。
【0026】
【表3】

【0027】
(実施例4)
上記実施例2に記載の害虫捕獲器11を使用し、屋外の雑草の生えている場所に、高さ1.5mの位置に、14日間、吊るして、虫を捕獲した。
(比較例4)
上記比較例2に記載の害虫捕獲器を使用し、他は実施例4と同じにした。
【0028】
(比較試験4)
上記実施例4と比較例4をにより、4mm以上の虫と、それより小さな虫の捕獲数を比較した。捕獲数の計測は同じく目視によった。
結果は表4に示すとおり、実施例4においても4mm以上の虫の捕獲数は0であった。
【0029】
【表4】

【0030】
(考察)
各実施例のものでは、網体によって蜂類などの大きな益虫などを捕獲することなく、それよりも小さな害虫などの虫を確実に捕獲しており、網体の網目の大きさを変えることによって捕獲する虫、捕獲しない虫を分けて捕獲することができることが判った。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の実施例を示す斜視図である。
【図2】図1のものの断面図である。
【図3】図2の一部を拡大して示す断面図である。
【図4】図1のものの他の一部を拡大して示す断面図である。
【図5】図1のものの粘着シートの平面図である。
【図6】本発明の他の例の一部省略拡大斜視図である。
【図7】本発明の更に他の例の断面図である。
【図8】本発明の他例の断面図である。
【符号の説明】
【0032】
1,2 枠体の面
3,4,14 枠体の開口
5 枠体
6 基材
7 粘着剤層
8 粘着シート
9 捕獲容器
10 網体
11 害虫捕獲器
12 誘引灯
13 係止具
15 反射板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内面に粘着剤層を形成した捕獲容器の開口を、小さな害虫は通過して粘着剤層で捕獲できるが大きな益虫は通過できず粘着剤層に近づけないように網体で覆った害虫捕獲器。
【請求項2】
上記捕獲容器の内面の一部または全部が黄色、青色その他の害虫誘引色に着色されている請求項1記載の害虫捕獲器。
【請求項3】
上記網体が、黄色、青色その他の害虫誘引色に着色されている請求項1または2記載の害虫捕獲器。
【請求項4】
上記捕獲容器内に害虫の誘引灯を配置した請求項1〜3のいずれかに記載の害虫捕獲器。
【請求項5】
上記捕獲容器、粘着剤層、網体の少なくとも1つが蛍光性である請求項1〜4のいずれかに記載の害虫捕獲器。
【請求項6】
上記捕獲容器は、両面に開口を有する枠体の一面を基材に形成した粘着剤層を内側にした粘着シートで覆って形成され、上記枠体の他面を上記網体で覆った請求項1〜5のいずれかに記載の害虫捕獲器。
【請求項7】
上記粘着シートはその粘着剤層によって上記枠体の一面側に貼付されており、該枠体の貼付面が剥離処理されている請求項6記載の害虫捕獲器。
【請求項8】
上記捕獲容器は、内面に粘着剤層を形成した粘着シートを朝顔状に丸めるようにして形成し、その開口部を上記網体で覆った請求項1〜5のいずれかに記載の害虫捕獲器。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2006−86(P2006−86A)
【公開日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−182574(P2004−182574)
【出願日】平成16年6月21日(2004.6.21)
【出願人】(000004020)ニチバン株式会社 (80)
【Fターム(参考)】