説明

害虫駆除をともなった植物の栽培方法

【課題】植物の栽培に際して、人体および植物に有害な化学薬品を使用せず、土壌中の多種類の害虫を一度に多面積にわたり確実に駆除できる方法を確立する。
【解決手段】波長が250〜400nmの紫外光と波長が800nm〜10μmの赤外光とを同時に播種された土壌に連続的あるいは断続的に照射することと、該土壌に電極を差し込んで、電流を連続的あるいは断続的に流すことを同時に行うことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は害虫駆除をともなった植物の栽培方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
植物を成育させるに際し、もっとも大きな課題は成育中の害虫の駆除である。成育中の害虫の駆除のもっとも一般的な方法はクロールピクリン、クノヒューム、バスアミド等の化学薬品を土壌に直接散布する方法である。この方法は簡単ではあるが、薬品が人体に影響を与え、またオゾン層の破壊など環境へも悪影響を与えるという大きな欠点がある。樹木の害虫駆除法として特許文献1がある。これは樹木の害虫発生箇所に2本の電極を突き刺し、これに電流を流して害虫を殺す方法であるが個々の樹木ごとに電極を差し込む必要があるために人件費と時間がかさみ効率的でない。特許文献2ではペットに付着した害虫をそのペットの被毛を水で濡らしたうえ、微小電流を流して害虫を感電駆除する方法も提案されているが植物の生育時の駆除方法ではない。さらに特許文献3では水中での土壌を消毒するために高電圧化された電流を陽極棒と陰極棒の間でショートさせ、それによって水中の害虫を駆除するという機械の提案があるが、この方法では水中土壌に広範囲に分布している害虫を効率良く死滅させることが出来ず、かつ土壌面積に応じてコストかかってしまう。
【特許文献1】特開平08-214756号公報
【特許文献2】特開平09-009847号公報
【特許文献3】特開平06-090650号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は植物の栽培に際して、人体および植物に有害な化学薬品を使用せず、土壌中の種々の害虫を土壌表面近くに集めることにより、一度に多面積にわたり短時間で確実に駆除でき、かつ合理的な費用で年中行うことが出来る害虫駆除をともなった植物の栽培方法に関するものである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、植物の栽培において、波長が250〜400nmの紫外光と波長が800nm〜10μmの赤外光とを同時に播種された土壌に連続的あるいは断続的に照射することと、該土壌に電極を差し込んで、電流を連続的あるいは断続的に流すこととを同時に行うことにより上記課題を解決したものである。
【発明の効果】
【0005】
本発明によれば、植物栽培時に害虫駆除のため有毒な化学薬品を使用する必要がなく、簡単な設備で一度に多面積にわたる種々の害虫を確実に駆除できる。この方法はハウス温室栽培などの土壌消毒には特に適している。またこの方法を使用すると、照射光により植物の成育が加速され特に実のなる野菜などの生育では熟した実を早く成長できるという大きな副次的効果もある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本発明は先ず植物を植えつけた土壌の表面から、波長が250〜400nmの紫外光と波長が800nm〜2μmの赤外光を連続的または断続的に照射する。土中の種々の害虫は紫外光と赤外光に刺激されて土壌の表面近くへ出てくるものが多いことが実験結果より明白になった。また連続光よりもパルス光を照射するほうが表面へ早く集まることも実証された。これらの光を表面より照射して害虫を土壌表面近くに集める。一方軽く散水をした土壌表面に適当な間隔で2本の電極を差し込んでおき電極間に電流を流す。電流は散水された土壌の表面近くを流れるために表面近くに集まった害虫はこれにより死滅する。害虫によっては紫外光に感じやすい虫と赤外光に感じやすい虫があり、この両方の光の照射により殆どの害虫は土壌表面近くに集まってくる。
【0007】
本発明の方法によれば、害虫駆除が出来るだけでなく、表面近くに根をはっている雑草やその種子も同時に消滅させることが可能となる。
【0008】
さらに副次的な効果として植物は一般に紫外光と赤外光とを同時に照射することによりその成長が早められることも実験結果より明らかになった。これは特に実のなる野菜などにおいて効果が顕著である。
【0009】
以下実施例をあげて本発明の特徴を詳しく説明する。
【実施例1】
【0010】
以下本発明の第1実施例を図1および図2を用いて説明する。
【0011】
まず、土壌に電極を差し込んで、電流をパルス状に流してLEDを照射した場合と単にLED照射をした場合との土壌中の害虫(主としてヨトウムシ)の死滅度合いを比較した。その電極配置を図1に示す。すなわち2本の電極2、3を約1m離して各々深さ10cm埋め込み、その電極間にキャベツの種子4を播種した。各電極面積は約100cmである。パルス発振回路から電流パルスを発生させる。パルス波長は250nm、デューティ比は10%に固定してパルス電流ピーク値を10から50Aまで変化させて、照射1時間後の害虫の、深さ10cmまでの1m当りの害虫の死滅数を数えた。その結果を図2に示す。なお図2には比較のため光を照射せずパルス電流のみを流した場合の結果も示してある。この結果より単に光を当てた場合では50Aという大電流を流しても害虫はほとんど駆除されないが、電極を差し込んでパルス状の電流を流した場合は10Aの電流でも大きな害虫の死滅数が得られ、電流のピーク値を増加するに従ってこの死滅数が増大することが分かる。これは単にパルス電流だけでは害虫が広範囲に分散したままなので深さ10cm以内での死滅数が少ないことを意味している。以上より害虫駆除には埋め込み電極の電流注入と発光素子からの光の照射との相乗作用が非常に効果的であることが分かる。以下の実験結果は全て埋め込み電極への電流注入を行ったという条件で実験を行っており、単に光の照射だけではこの図2の実験結果と同様ほとんど害虫駆除が出来ないという結果が出ている。
【実施例2】
【0012】
次に、短波長光で害虫がどの程度除去されるかを波長250nmから450nmの範囲で調べてみた。その結果を図3および図4に示す。
【0013】
発光素子としては各々の波長に対応するLEDを連続発光して調べた。各々のLEDを土の表面から10cm離して10μmol/m2sの光を照射した。時間としては1時間おきに5時間まで調べた。各々の時間において表面から10cmまでの深さの害虫数を調べた結果が図3である。この際の死滅した害虫は主としてヨトウムシであった。この結果より波長が250nmから400nmの範囲においては害虫駆除の効果が非常に顕著であることが分かる。なお250nm以下の波長に関しては適当な発光素子がないので実験結果は得られてない。波長450nmから750nmの光に対しては害虫駆除の効果はほとんど得られなかった。
【0014】
次に長波長光で害虫がどの程度除去されるかを波長を750 nmより長波長で上記と同じ条件で調べてみた。但し、この場合のLED出力は1W/m2となるようにした。その結果が図4である。これより波長が800nmから10μmの範囲においては害虫駆除の効果が非常に顕著であることが分かる。この際の害虫は主としてネキリムシであった。尚、10μm以上の波長に関しては適当な発光素子がないので実験結果は得られてない。
【0015】
これらの結果より害虫の種類により光に感じて集まりやすい波長が異なることが分かり、250nmから400nmの短波長発光と800nmから10μmの長波長発光とを同時に照射することにより花卉や野菜の栽培に影響を及ぼす害虫を総合的に駆除できることが分かる。
【実施例3】
【0016】
次に、光のパルスと連続発光での害虫の死滅数の差を調べてみた。パルス電流のピーク値は10Aである。その結果を図5に示す。この図から分かるように連続発光に比べてデューティ比が10%の光では害虫駆除効果が特に大きくなっていることが分かる。これは連続的な光を当てるより適当なデューティ比でパルス的に光を与えた方が、害虫が光に感じ易くなり、土壌の表面へ集まり易くなるためと考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】埋め込み電極の配置図
【図2】光照射の条件で土中埋め込み電極に電流を流した場合と流さなかった場合との注入電流による害虫の死滅数の比較及び光無照射で電極に電流を流した場合の害虫の死滅数を示す実験結果図
【図3】波長が250nmから450nmの光の連続照射による土壌中の害虫(主としてヨトウムシ)の死滅数を示す実験結果図
【図4】波長が750nmから10μmの光の連続照射による土壌中の害虫(主としてネキリムシ)の死滅数を示す実験結果図
【図5】パルス照射光と連続照射光の照射時間による害虫の死滅数を示す実験結果図
【符号の説明】
【0018】
1・・・パルス発生回路
2・・・埋め込み正電極
3・・・埋め込み負電極
4・・・キャベツ種子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物を成育するに際して、波長が250〜400nmの紫外光と波長が800nm〜10μmの赤外光とを同時に播種された土壌に連続的あるいは断続的に照射することと、該土壌に電極を差し込んで、電流を連続的あるいは断続的に流すこととを同時に行うことを特徴とする植物の栽培方法。
【請求項2】
上記請求項1の光源として発光ダイオードを用いることを特徴とする植物の栽培方法。
【請求項3】
上記請求項1の照射光をその断続的繰り返しのデューティ比が10%以下であることを特徴とする植物の栽培方法。
【請求項4】
上記請求項1の断続光の照射時には必ず、土壌電流が流れていることを特徴とする植物の栽培方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−304681(P2006−304681A)
【公開日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−131188(P2005−131188)
【出願日】平成17年4月28日(2005.4.28)
【出願人】(504237050)独立行政法人国立高等専門学校機構 (656)
【出願人】(305007975)
【Fターム(参考)】