説明

家庭環境における信号の伝送のためのシステム

【課題】家庭環境を対象とする信号のための無線伝送システムを提供する。
【解決手段】中央端末1は、n>m>1として、第1の信号S1を伝送するm個の伝送チャネル11と、n個の指向性伝送アンテナ12と、制御手段14によって選択された切り替えスキーマに従ってn個のアンテナからの1つのアンテナを各信号伝送チャネルに関連付ける切り替え手段13を備える。クライアント端末2は、中央端末1とあらかじめ定められた周波数帯域を有する伝送チャネルで通信し、第1の信号を受信するための受信アンテナを備える。推定デバイス3、4は、クライアント端末に関連付けられているあらかじめ定められた地理的ゾーンZ1の少なくとも1つの地点において第1の信号の受信品質を表す情報の項目を生成し、少なくとも1つの情報の項目を帰路チャネル5により中央端末の制御手段に伝送する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に家庭環境を対象とする信号のための無線伝送システムに関する。
【背景技術】
【0002】
住居におけるデジタルマルチメディアデバイスの数の増加は、高品位(HD:High Definition)ビデオデータストリーム、オーディオデータストリーム、またはインターネットデータストリームなどのデータストリームの同時配信および高ビットレートを保証する家庭内ネットワークの出現につながっており、こうしたデータは住居のすべて、またはほぼすべての地点で使用可能になっている。そのようなネットワークは、設置される建物(アパートメント、平屋または二階のある家など)内の部屋の配置に構造が依存しており、ケーブル、電力線搬送(PLC: Power Line Carrier)、光ファイバ、または802.11a/b/gまたは11nの規格に準拠するWiFiタイプの無線デバイスのようなさまざまな技術を使用して導入することができる。この後者の規格(802.11a/b/gまたは11n)は、干渉に支配される環境においてビットレートおよび堅牢性の観点から伝送効率を高めることができるマルチアンテナ技法であるMIMO(Multiple Input Multiple Output)技術の使用を認可する。
【0003】
しかし、802.11n規格およびMIMO技術に基づくこれらの新しい解決策は、それぞれ使用されるMIMO技法に従って独自の特異性を備えている。これ以降は、MIMO技術の基本原理の注意喚起である。
【0004】
MIMOシステムの原理は、独立した信号を取得して、信号のうちの少なくとも1つがフェーディングの影響を全く受けないか、またはわずかしか受けない可能性を高めるために、複数の伝送チャネルを介して信号を送信および/または受信することである。MIMOトポロジは、以下の2つの主要カテゴリに分解することができる。
【0005】
− オープンループシステムと呼ばれるシステムで、伝搬チャネルの予備知識なしで伝送が実施されるもの。こうしたシステムでは空間多重化(MIMO Matrix Bとも呼ばれる)技法または時空間ブロック符号化(MIMO Matrix Aとも呼ばれる)を使用する。
【0006】
− クローズドループシステムと呼ばれるシステムで、ビームフォーミング技法を使用し、伝送チャネルに関連する情報を送信機に伝送するための帰路チャネルを備える。
【0007】
要約すると、空間多重化(MIMO Matrix B)は、伝送されるデータのストリームを複数の基本ストリームに分割し、それらの基本ストリームを各々無線チャネルおよび特定のアンテナで伝送することにある。屋内環境におけるような、複数パスが存在する場合には、異なる基本ストリームが異なる空間シグニチャを持つ受信機に達するので、容易に区別できるようになっている。理想的な環境において、短い距離にわたり、この技法は物理ビットレートを増大させ、その結果システムの全体的な伝送容量も増大させる。より距離を隔てる場合、またはさらに厳しい伝送の条件下においては(低い信号対雑音比)、ビットレートは急速に低下する。この低下は本来、送信機に伝送チャネルの状態に関する情報が何もないことに起因する。したがって、伝送は、チャネルの状態に従って適応させることができない。
【0008】
もう1つのオープンループシステムである時空間ブロック符号化(MIMO Matrix B)もまた、伝送チャネルの状態に関する情報を持たないので、堅牢性を優先し、ダイバーシティは前述の空間多重化とは著しく異なっている。伝送されるデータのストリームは、符号化の後に、複製され、複数の無線チャネルおよび関連するアンテナを介して伝送される。それらのストリームは各々、既知の時空間符号化アルゴリズムを介してエンコードされる。この技法は、システムの通信可能ゾーンを増大させるために使用されることが多い。空間多重化に関しては、この技法は、伝送チャネルに関する情報を受信するための帰路チャネルを提供しない。したがって、伝送は、チャネルの状態に従って適応させることができない。
【0009】
最後に、ビームフォーミング技法は、伝送アンテナの方向および放射パターンのフォームを制御するため、ひいては選択された伝送方向への電力を増大させるために採用される。この技法は、選択された方向への伝送、ならびに干渉および雑音への抵抗を向上させる。システムの伝送容量は、このようにして増大させることができる。伝送のビームフォーミングは、複数アンテナシステムを介して伝送するための理論上は最適な手段である。チャネル情報が提供されるこの技法は、2つのアンテナについて6dB(または4つのアンテナについて12dB)のゲインをもたらす。加えて、この技法は、空間多重化のような他の技法と組み合わせることができるので、非常に高い伝送容量につながる。
【0010】
市場で現在最も一般的な802.11n規格による構成は、2×2:2タイプ(2つの伝送チャネル、2つの受信チャネル、および2つの空間ストリーム)、2×3:2または3×3:2のものである。それらのシステムの大多数は、ビームフォーミング技法の実施に必要とされる帰路チャネルを備えてはいない。受信時に、伝送チャネルの状態を決定するため、およびその状態に従って受信されるシンボルを復調するために、CSI(チャネル状態情報:Channel State Information)と呼ばれる情報項目を使用することが知られている。CSI情報は一般に、有用なシンボルと共に伝送されるトレーニングシンボルを用いて取得される。伝送時には、伝送される信号を伝送条件に適合させるために、CSIT(送信機におけるチャネル状態情報:Channel State Information at Transmitter)情報の項目を送信機に伝送するための帰路チャネルが必要となる。しかし、この帰路チャネルの実施態様が複雑であることから、この帰路チャネルは、MIMO技術においては実施されない。
【0011】
したがって、現在、一部のシステムは、802.11n規格で定義された「黙示ビームフォーミング」と呼ばれる技術を実施している。この技術によれば、伝送チャネルは相互的であると考えられる。たとえば、クライアント端末と通信している中央端末を備えるシステムが検討される場合、中央端末は、クライアント端末からの情報を追加することなくビームの方向マトリクスを計算する。中央端末は、たとえば受信した信号のプリアンブルを解析するなど、アップリンクチャネル(クライアント端末から中央サーバ)を推定することによりこの計算を行なう。次いで、中央端末は、ダウンリンクチャネルが相互的である(すなわち、アップリンクチャネルと同一またはほぼ同一である)とみなして、信号をクライアント端末に送信する。この相互的であるという前提は、干渉に支配され、家庭環境に付随する複数パスが豊富にある環境においては有効ではない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
伝送時におけるビームフォーミングタイプの解決策は、そのような環境により適しているであろう。しかし、前述のように、その解決策を実施することで、MIMOアンテナとそれに関連する無線チャネルの数が膨大になるので、送信機における信号の処理部分に重大な増加をもたらすことになる。そのような解決策は、実施するには複雑であり、エネルギーを消費して、コストがかさむことになろう。
【0013】
本発明の1つの目的は、前述の欠点を克服することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
提案される解決策は、中央端末と、少なくとも1つのクライアント端末とを備える(帰路チャネルのない)MIMOタイプの標準的な伝送システムの関連にあり、一方には送信時の扇形タイプの指向性アンテナのネットワーク、およびもう一方には、各々のクライアント端末から中央端末への環境に関する情報を回復するためのMIMO伝送システムの外部の疑似帰路チャネルを持つ。制御手段は、回復した情報を確実に処理するので、中央端末の指向性アンテナの選択マトリクスを制御する。
【0015】
加えて、本発明の目的は、信号の伝送システムであって、
− n>m>1として、第1の信号を伝送することを目的とする少なくともm個の伝送チャネルと、n個の伝送アンテナと、制御手段により選択された切り替えスキーマに従ってn個のアンテナからの1つのアンテナを各信号伝送チャネルに関連付けるための切り替え手段とを備える中央端末と、
− あらかじめ定められた周波数帯域を有する伝送チャネルで通信することができる中央端末を介して伝送される第1の信号を受信するために受信アンテナに接続された少なくとも1つの受信チャネルを備える少なくとも1つのクライアント端末と、を含み、
伝送アンテナは指向性アンテナであり、各伝送アンテナは、あらかじめ定められた角度セクタで第1の信号を伝送することができ、
システムはまた、クライアント端末に関連付けられているあらかじめ定められた地理的ゾーンの少なくとも1つの地点において中央端末によって伝送された第1の信号の受信品質に関する少なくとも1つの情報の項目を生成することができる推定デバイスと、前記少なくとも1つの情報の項目を中央端末の制御手段に伝送するための帰路チャネルであって、前記制御手段は、前記少なくとも1つの情報の項目に従って切り替えスキーマを選択する、帰路チャネルと、を含む。
【0016】
したがって、本発明によれば、クライアント端末のゾーンの少なくとも1つの地点における受信品質に関する情報を中央端末に伝送し、前記情報に従って中央端末が受信を最適化する切り替えスキーマを選択するようにするための帰路チャネルを含む。この帰路チャネルは、中央端末およびクライアント端末で形成されるMIMOサブシステムから独立している。
【0017】
有利な特徴によれば、推定デバイスは、
− 中央端末の近くにあり、前記クライアント端末に対して選択された指向性アンテナのうちの少なくとも1つを介して、中央端末とクライアント端末の間の伝送チャネルのあらかじめ定められた周波数帯域に近い、または、これと同一の周波数帯域で、呼掛け信号と呼ばれる第2の信号を伝送することができる伝送回路と、
− クライアント端末に関連付けられている地理的ゾーンにあり、前記ゾーン内の呼掛け信号の電力を測定することができる測定回路であって、前記測定は前記ゾーン内の第1の信号の受信の品質を表す、測定回路と、を含む。
【0018】
クライアント端末に関連付けられている地理的ゾーンは、たとえば、前記クライアント端末が存在する住居の部屋である。
【0019】
したがって、呼掛け信号は、中央端末を介して伝送された第1の信号の周波数に近い、または、これと等しい周波数で伝送され、それらの後者と等しい変動が生じる。ゆえに、クライアント端末の地理的ゾーンに配置された測定回路を介して受信される呼掛け信号を測定することで、伝送チャネルの変動を、中央端末と、中央端末に関連付けられているゾーンの地点との間で決定することができるようになる。
【0020】
特定の実施形態によれば、測定回路は、RFID(Radio Frequency Identification)リーダに関連付けられている少なくとも1つのRFIDセンサを備え、前記少なくとも1つのRFIDセンサは、呼掛け信号を受信し、RFIDセンサの識別子に関連する符号化パラメータに従って呼掛け信号を符号化して、符号化された信号を前記RFIDリーダに送信することができ、前記RFIDリーダは、前記符号化された信号から、クライアント端末に関連付けられている地理的ゾーンにおける第1の信号の受信品質を表す情報の項目を生成することができる。
【0021】
有利なことに、測定回路は、中央端末とクライアント端末の間の伝送チャネルの変動を正確に決定するためにクライアント端末に配置されたRFIDセンサを備える。
【0022】
特定の実施形態によれば、測定回路は、ゾーンの複数地点における伝送チャネルの状態を取得して、クライアント端末のレベルで伝送チャネルの変化を有利に予測できるようにするため、クライアント端末に関連付けられているゾーンの複数の固定された地点にわたり分散された複数のRFIDセンサを備える。センサの数は、クライアント端末に関連付けられている地理的ゾーンの大きさ、およびゾーンにわたる伝送チャネルの推定に所望される精度に応じて異なる。
【0023】
この実施形態において、各RFIDセンサは、呼掛け信号を受信し、次いで呼掛け信号を識別子と共に符号化し、符号化された信号をRFIDリーダに伝送する。RFIDリーダは、クライアント端末に関連付けられているゾーンの固定された地点に位置する。
【0024】
特定の実施形態によれば、各RFIDリーダは、ゾーンのRFIDセンサによって伝送された符号化された信号の受信電力を測定するための手段と、受信信号を復号化し、受信した各信号について前記信号を伝送したセンサの識別子を決定し、かつ、受信した符号された信号ごとに、受信電力および識別子を備える信号を生成するための処理回路と、を備える。
【0025】
特定の実施形態によれば、伝送回路は、特定の時間間隔中に、認識可能なように呼掛け信号をゾーンの測定回路に定期的に伝送する。この間隔の間、中央端末は、第1の信号を伝送しない。
【0026】
特定の実施形態によれば、システムは、各々が地理的ゾーンに関連する複数のクライアント端末を備える。各々の地理的ゾーンにおいて、測定回路は、少なくとも1つのRFIDセンサと、関連するRFIDリーダを備える。この実施形態において、伝送回路は、特定の時間間隔中に、地理的ゾーンの各々について、呼掛け信号を地理的ゾーンのRFIDセンサ(複数可)に伝送する。
【0027】
したがって、各々の地理的ゾーンには、異なる時間間隔中に別個に呼掛けが行なわれる。
【0028】
有利な実施形態によれば、RFIDセンサは、表面弾性波受動センサである。RFIDセンサは、たとえば、好ましくは接着性の、ラベルの形態をとる。
【0029】
呼掛け信号は、パルス列である。
【0030】
特定の実施形態によれば、制御手段は、前記帰路チャネルを介して伝送された前記少なくとも1つの情報項目に従って切り替えマトリクスの複数のあらかじめ定められた切り替えスキーマから1つの切り替えスキーマを選択する。
【0031】
好ましい実施形態によれば、帰路チャネルは、たとえば「ZigBee」または「Zwave」規格に従って動作する無線伝送チャネルである。
【0032】
変形において、帰路チャネルは、たとえば電力線搬送(PLC)タイプの有線チャネルである。
【図面の簡単な説明】
【0033】
本発明は、添付の図面を参照する後段の詳細な説明を通じて、より深く理解され、その他の目的、詳細、特徴、および利点はより明確になるであろう。
【0034】
【図1】本発明による地理的ゾーンZ1に配置されたクライアント端末と通信する中央端末を備えるシステムを示す概略図である。
【図2】メッシュネットワークによるゾーンZ1に位置するRFIDセンサのセットを示す概略図である。
【図3】RFIDセンサを示す概略図である。
【図4】本発明による2つの地理的ゾーンZ1およびZ2に配置された2つのクライアント端末と通信する中央端末を備えるシステムを示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
図1を参照すると、信号伝送システムは、たとえば無線通信規格802.11nに準拠する信号S1を少なくとも1つのクライアント端末2に伝送するための複数の伝送チャネル11および複数の指向性伝送アンテナ12が装備された中央端末またはアクセスポイント1を備える。
【0036】
アクセスポイント1は、たとえば、インターネットネットワークアクセスの付近に位置し、たとえばコンピュータ、テレビジョン、3G電話、またはインターネットネットワークコネクタのようなマルチメディア端末であるクライアント端末2と通信する。
【0037】
アクセスポイント1は、m個の伝送チャネル11、およびn個の伝送アンテナ12を備え、n>m>1である。アクセスポイント1はまた、制御手段14により選択された切り替えスキーマに従ってn個のアンテナからの1つのアンテナをm個の信号伝送チャネルの各々と関連付けるための切り替え手段13を備える。特定の実施形態によれば、切り替えスキーマは、切り替え手段13に格納されている切り替えマトリクスの複数のあらかじめ定められた切り替えスキーマから選択される。
【0038】
図1の例において、アクセスポイントは、2つの伝送チャネル11、および4つの指向性アンテナ12を備える。802.11nの規格に準拠する信号をクライアント端末に伝送するため、切り替え手段13は、2つの伝送チャネルが、4つの指向性アンテナのうちの2つに接続されるようにする。
【0039】
信号S1は、2.4GHzのWiFi周波数帯域、すなわち帯域[2.4GHz〜2.483GHz]の伝送チャネルで伝送される。
【0040】
本発明によれば、アンテナ12は指向性アンテナであるため、各々が固有の角度セクタで信号を伝送する。たとえば建物の部屋に対応する地理的ゾーンZ1に位置するクライアント端末2は、1つまたは複数のアンテナを介して信号S1を受信する。
【0041】
本発明の重要な特徴によれば、システムはまた、クライアント端末2による信号S1の受信の品質を表す情報を生成するための推定デバイスと、その情報をアクセスポイントの制御手段14に伝送するための帰路チャネル5とを備える。次いで、制御手段14は、帰路チャネルを介して受信された情報に従って切り替えスキーマを選択する。
【0042】
推定デバイスは、基本的に、アクセスポイントのレベルにおいて、クライアント端末2に関連付けられているゾーンZ1内で、RFIDリーダ4に関連付けられている少なくとも1つのRFIDセンサ3に、WiFi帯域またはこれに近い周波数帯域の呼掛け信号S2を規則的または定期的に伝送するための伝送回路15を備える。図1の例において、推定デバイスは、ゾーンZ1内に複数のRFIDセンサ3を備える。RFIDセンサ3およびRFIDリーダ4は、ゾーンZ1の複数の地点において呼掛け信号S2の電力を測定することができる測定回路を形成する。
【0043】
アクセスポイントは、TDMA(Time Division Multiple Access)モードに従って、クライアント端末およびRFIDセンサと通信する。アクセスポイントは、期間T1にわたり信号S1を、および期間T2にわたり信号S2を伝送する、ただしT2<<T1であり、時間T1とT2は非重複である。
【0044】
各RFIDセンサ3は、呼掛け信号S2を受信し、それをRFIDセンサ識別子に関連する符号化パラメータで符号化し、符号化された信号S’2をRFIDリーダ4に伝送することを目的としている。RFIDリーダ4は、RFIDセンサを介して伝送された信号を受信し、この信号から、センサが位置するゾーンZ1の地点における信号の受信の品質を表す情報項目を生成する。
【0045】
RFIDリーダ3は、ゾーンZ1の固定された地点に配置される。センサはまた、有利なことに、この後者(地点)が固定される場合にクライアント端末に直接配置することもできる。RFIDセンサは、有利なことに、クライアント端末、またはクライアント端末が配置される部屋の要素に貼り付けられる接着ラベルの形態をとる。センサは、好ましくは、表面弾性波受動センサである。これらの後者の要素(表面弾性波受動センサ)は、強い線形性を備えるデバイスであり、これは強い信号がセンサに受信される場合に応答信号が同等に強くなり、弱い信号が受信される場合に応答信号も弱くなるということである。したがって、RFIDリーダによって受信される信号の電力は、RFIDセンサによって受信される信号の電力に顕著に比例する。センサについては、図3を参照して後段で説明する。
【0046】
RFIDリーダ4はまた、ゾーンZ1の固定された地点またはクライアント端末に位置する。RFIDリーダは、ゾーンZ1のRFIDセンサよって伝送された信号の受信電力を測定するための手段と、受信信号を復号化し、受信した各信号について前記信号を伝送したセンサの識別子を決定し、受信し符号化された信号ごとに、受信電力および識別子を備える信号を生成するための処理回路とを備える。次いで、RFIDリーダによって生成された信号は、帰路チャネル5を介して制御手段14に伝送される。
【0047】
帰路チャネル5は、たとえば「ZigBee」または「Zwave」規格に従って動作する無線伝送チャネル、またはたとえば電力線搬送(PLC)を介する有線チャネルである。この目的のため、帰路チャネルは、クライアント端末2のレベルにおいて送信機51を、アクセスポイント1のレベルにおいて受信機52を備える。受信機52は、制御手段14に接続される。
【0048】
制御手段14は、帰路チャネルを介して伝送された情報を解析して、この情報に従って切り替えスキーマを選択する。受信品質が十分ではない場合、制御手段14は、信号S1の伝送に他のアンテナ12を選択する方法で切り替えスキーマを変更する。
【0049】
RFIDリーダ3は、たとえば図2に示されるレギュラーネットワークに従って、たとえばゾーンZ1の正確な地点に配置される。この図において、センサ3は、メッシュネットワークのノードに位置する。すべてのセンサは、ゾーンZ1の異なる地点で受信された電力の変化が解析されるようにする。それらのセンサは、圧電効果に基づいており、弾性波表面センサの場合、いかなる外部エネルギーも必要としない。センサは、誤作動を生じることなく金属物体または表面に配置することができ、アクセスポイントおよびクライアント端末によって形成されるMIMOまたはMISOシステムと同じ周波数帯域で、帯域ISM2.45GHzで動作する。その結果は、MIMOまたはMISOシステムと推定デバイスとの間の伝送チャネルの振る舞いにおいて類似している。
【0050】
各表面弾性波受動センサは、呼掛け信号S2のリフレクタのように動作し、呼掛け信号でわずか10mW程度の無線周波数パルスしか必要としない。
【0051】
表面波成分において、電気信号と音波との間の変換は、インターデジタル金属導体ネットワーク、または圧電基板の表面に配置されたインターデジタル変換器を介して行なわれる。そのような表面弾性波センサは、図3に示される。表面弾性波センサは基板30を備え、基板30には、アンテナ31、アンテナに接続されたインターデジタル変換器32、および基板上の非常に正確な位置に配置された複数のリフレクタ33が取り付けられている。
【0052】
アクセスポイント1は、たとえば2.45GHzのパルス列である呼掛け信号S2を伝送する。パルスは、アンテナ31によって取り込まれ、そのパルスをアンテナ31が変換器32に伝送する。この後者は、マイクロ波信号を電気音響波に変換する。このように、生成された音響パルスは、圧電基板で伝搬し、リフレクタ33によって部分的に反射される。変換器32に反射された波は、リフレクタの位置に基づいてコードを搬送する。この符号化は、リフレクタ33によってもたらされた反射パルスの遅延時間に基づいている。したがって、信号に取り込まれるコードは、センサに固有の識別子に対応する。反射パルス列は、変換器に戻り、変換器によって電気信号S’2に再変換され、この電気信号がアンテナ31によってRFIDリーダ4に再伝送される。この位置符号化は、膨大数の可能なコード、および同様にRFIDセンサの膨大数の識別子をもたらすが、この数は、リフレクタの数およびリフレクタ間の可能なスペーシングに応じて異なる。したがって、本発明によれば、各センサは一意の識別子を有する。
【0053】
RFIDセンサによって符号化された信号は、RFIDリーダ4に伝送される。RFIDリーダの手段は、RFIDリーダによって受信された信号の電力のレベルを測定する。次いで、受信信号は、RFIDリーダ4の処理回路を介して解析される。処理回路は、受信した信号で符号化された識別子を決定して、受信した信号ごとにペア(受信電力−識別子)を備える信号を生成する。次いで、RFIDリーダ4は、この信号を、帰路チャネル5を介して制御手段14に伝送する。
【0054】
上記で示すように、帰路チャネル5は、たとえば「ZigBee」タイプの無線伝送チャネルである。有利なことに、帰路チャネル5はビーコンモードで動作する、つまり、RFIDリーダからアクセスポイントの制御手段に情報を定期的に伝送する。呼掛け信号S’2の伝送は、帰路チャネルのビーコンモードで同期化される。ゾーンZ1のRFIDセンサへの呼掛け信号S2の伝送を周期的にトリガするのは、この後者である。
【0055】
呼掛け信号S2の伝送に対して、切り替え手段13は、呼掛け信号の伝送回路15をWiFiリンクに使用されるアンテナのうちの少なくとも1つに接続するための追加の入力を備える。
【0056】
同一ゾーン内で、RFIDリーダと各々のRFIDセンサとの間の距離は比較的短い(ほぼ数メートル程度)であることに留意されたい。加えて、RFIDセンサは一般に、遮蔽されずにRFIDリーダと直線で結ばれる位置にある。さらに、表面弾性波RDIDセンサは強い線形性を持つデバイスであるので、RFIDリーダによって受信される電力は、RFIDセンサによって受信される電力に顕著に比例する。有利なことに、RFIDセンサとRFIDリーダとの間の距離は、RFIDリーダによって受信される電力のレベルが、RFIDセンサによって受信される電力のレベルを可能な限り表すように訂正するため、RFIDリーダの処理回路に考慮される。距離パラメータは、たとえば、調整段階中に決定される。ゾーンの各RFIDセンサは、たとえば、所与の電力の信号の伝送の形態でRFIDリーダによって呼掛けが行なわれる。RFIDセンサは、RFIDセンサとRFIDリーダとの間の距離を決定するために、RFIDリーダによって処理される応答信号を再伝送する。この距離パラメータは、RFIDリーダに記憶され、受信された電力のレベルの訂正に役立つ。この調整段階は、周期的に繰り返されてもよい。これは、RFIDセンサが、たとえばポータブルコンピュータ、IPhoneまたはWiFiタブレットなどのモバイルクライアント端末に搭載される場合に非常に有用となりうる。
【0057】
本発明のシステムはまた、複数の地理的ゾーンに位置する複数のクライアント端末を備えることもできる。図4は、アクセスポイント1、および2つの異なるゾーンZ1およびZ2に配置された2つのクライアント端末を備えるシステムの事例を示している。各ゾーンは、複数のRFIDセンサ3および1つのRFIDリーダ4を備える。伝送回路15は、TDMAモードに従って、ゾーンZ1のRFIDセンサを対象とする呼掛け信号S2と、ゾーンZ2のRFIDセンサを対象とする呼掛け信号S3とを伝送する。ゾーンZ1のRFIDセンサは符号化信号S’2をゾーンZ1のRFIDリーダに、ゾーンZ2のRFIDセンサは符号化信号S’3をゾーンZ2のRFIDリーダに再伝送する。RFIDリーダは、受信した信号を解析し、ゾーンZ1およびZ2における受信の品質を表す情報を、帰路チャネル5を介して制御手段14に伝送する。
【0058】
「ZigBee」ネットワークのような帰路チャネルは、本発明のシステムが照明および建物の温度のような建物制御機能を管理するために設置されている建物に既に存在する場合もあることに留意されたい。
【0059】
本発明はさまざまな特定の実施形態において説明されてきたが、限定的なものではなく、組み合わせと共に説明された手段の技術的等価物が本発明の範囲に含まれる場合、すべてのそれらの技術的等価物を備えることは明らかである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
信号の伝送のためのシステムであって、
n>m>1として、第1の信号(S1)を伝送することを目的とする少なくともm個の伝送チャネル(11)と、n個の伝送アンテナ(12)と、制御手段(14)によって選択された切り替えスキーマに従って前記n個のアンテナからの1つのアンテナを各信号伝送チャネルに関連付けるための切り替え手段(13)と、を備える中央端末(1)と、
前記中央端末を介して伝送される第1の信号を受信するために受信アンテナに接続された少なくとも1つの受信チャネルを備える少なくとも1つのクライアント端末(2)であって、前記中央端末および前記クライアント端末は、あらかじめ定められた周波数帯域を有する伝送チャネルで通信することができる、少なくとも1つのクライアント端末と、を含み、
前記伝送アンテナ(12)は、指向性アンテナであり、各伝送アンテナは、あらかじめ定められた角度セクタで第1の信号を伝送することができ、
システムはまた、前記クライアント端末に関連付けられているあらかじめ定められた地理的ゾーン(Z1、Z2)の少なくとも1つの地点において、前記中央端末によって伝送された第1の信号の前記受信品質に関する少なくとも1つの情報の項目を生成することができる推定デバイス(15、3、4)と、前記中央端末の前記制御手段に伝送するための帰路チャネル(5)であって、前記制御手段は、前記少なくとも1つの情報の項目に従って切り替えスキーマを選択する、帰路チャネルと、
を含む、前記システム。
【請求項2】
前記推定デバイスは、
前記中央端末(1)の近くにあり、前記クライアント端末に対して選択された前記指向性アンテナのうちの少なくとも1つを介して、前記中央端末と前記クライアント端末との間の前記伝送チャネルのあらかじめ定められた周波数帯域に近い、または、これと同一の周波数帯域で、呼掛け信号と呼ばれる第2の信号(S2、S3)を伝送することができる伝送回路(15)と、
前記クライアント端末に関連付けられている地理的ゾーンにおいて、前記ゾーン内の前記呼掛け信号の電力を測定することができる測定回路(3、4)であって、前記測定は前記ゾーン内の第1の信号の受信の品質を表す、測定回路と、を備える、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記測定回路は、RFIDリーダ(4)に関連付けられている少なくとも1つのRFIDセンサ(3)を備え、
前記少なくとも1つのRFIDセンサ(3)は、前記呼掛け信号を受信し、それを前記RFIDセンサの識別子に関連する符号化に従って符号化し、かつ、前記符号化された信号を前記RFIDリーダに伝送することができ、
前記RFIDリーダ(4)は、前記符号化された信号から、前記クライアント端末に関連付けられている地理的ゾーンにおける第1の信号の受信の品質を表す情報の項目を生成することができる、請求項2に記載のシステム。
【請求項4】
前記測定回路は、前記クライアント端末に配置されたRFIDセンサ(3)を含む、請求項3に記載のシステム。
【請求項5】
前記測定回路は、前記クライアント端末に関連付けられているゾーンの複数の固定された地点にわたって分散された複数のRFIDセンサ(3)を含む、請求項3または4に記載のシステム。
【請求項6】
前記RFIDリーダ(4)は、前記クライアント端末に関連付けられているゾーンの固定された地点に位置する、請求項5に記載のシステム。
【請求項7】
各RFIDリーダ(4)は、前記ゾーンの前記RFIDセンサによって伝送された符号化された信号の受信電力を測定するための手段と、前記受信信号を復号化し、受信した各信号について前記信号を伝送した前記センサの識別子を決定し、かつ、受信した符号された信号ごとに、前記受信電力および前記識別子を含む信号を生成するための処理回路と、を含む、請求項6に記載のシステム。
【請求項8】
前記伝送回路(15)は、特定の時間間隔中に、認識可能に、呼掛け信号を前記ゾーンの前記測定回路に定期的に伝送する、請求項2から7のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項9】
各々が地理的ゾーン(Z1、Z2)に関連付けられている複数のクライアント端末(2)を含み、前記測定回路は、各々の前記地理的ゾーンにおいて少なくとも1つのRFIDセンサおよび関連するRFIDリーダを含み、前記伝送回路(15)は、特定の時間間隔中に前記地理的ゾーンの各々について、呼掛け信号を前記地理的ゾーンのRFIDセンサに伝送する、請求項2から8のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項10】
各RFIDセンサ(3)は、表面弾性波受動センサである、請求項3から9のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項11】
前記呼掛け信号(S2、S3)は、パルス列である、請求項2から10のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項12】
前記制御手段(14)は、前記帰路チャネル(5)を介して伝送された前記少なくとも1つの情報の項目に従って、切り替えマトリクスの複数のあらかじめ定められた切り替えスキーマのなかから、1つの切り替えスキーマを選択する、請求項1から11のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項13】
前記帰路チャネル(5)は、たとえば「ZigBee」または「Zwave」規格に従って動作する無線伝送チャネルである、請求項1から12のいずれか一項に記載のシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−191601(P2012−191601A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2012−457(P2012−457)
【出願日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.ZIGBEE
【出願人】(501263810)トムソン ライセンシング (2,848)
【氏名又は名称原語表記】Thomson Licensing 
【住所又は居所原語表記】1−5, rue Jeanne d’Arc, 92130 ISSY LES MOULINEAUX, France
【Fターム(参考)】