説明

家畜用無線タグ装置

【課題】放牧などで飼育されている家畜の管理に、無線タグ装置を利用するにあたり、電池を内蔵することなく、通信距離の増大を図ることを目的とする。
【解決手段】一方の面に受熱部が形成され、他方の面に放熱部が形成され、受熱部ならびに放熱部間に熱電変換素子が積層された発電部と、この発電部と電気的に接続された無線タグ部と、発電部ならびに無線タグ部を環状に連結する装着ベルトとを具備し、発電部の受熱部が家畜の身体に密着する如く装着ベルトによって発熱部ならびに無線タグ部を家畜の身体に装着することを特徴とする家畜用無線タグ装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線タグを家畜の個体管理に利用する家畜用無線タグ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、RFIDシステムに用いられるICカードや無線タグは、物流の合理化やセキュリティの向上のため、例えば、空港における荷物の自動仕分けシステム(バゲージハンドリングシステム)や倉庫内の荷物の自動種別判別システムなどのように、物品に非接触で読み取りや書き込み可能なタグを取り付け、所定の場所にこのタグ用の読み取り装置を設けることにより、物品の内容や行き先を識別し、仕分けたり、料金の支払い状況などを確認するために用いられている。
【0003】
具体的に、この無線タグは、通常、物品への取り付けの容易さなどの理由から平板状でかつ可撓性を有するように形成され、内部に設けられた導電性を有するコイルにより、電磁誘導の原理で外部からエネルギを受けたり物品の情報を外部へ伝えたりすることができるようになっている。
【0004】
図6は、一般的な無線タグ読み取りシステムの一例を示すブロック図で、無線タグ50と読取装置53で構成されている。無線タグ50は、機能的には電磁コイル52と通信データを処理する電子回路部51とで構成されている。読取装置53は、同様に、電力搬送用電磁コイル54、受信コイル55および電子回路部56とで構成されている。
【0005】
ここで、無線タグ50において、電磁コイル52(電磁誘導コイル)が読取装置53との通信可能な領域に入ったときに、電子回路部51が動作するうえで必要な電力を無線(電磁波)により読取装置53から得て、電子回路部51に予め記録されたデータを無線により読取装置53へ出力するためのもので、データ通信時のアンテナとして機能を果たしている。
【0006】
また、電子回路部51は、通信すべきデータの記憶、伝送、処理など、読取装置53とのデータ通信時に必要な各種の処理を制御するためのものである。一方、読取装置53において電力搬送用電磁コイル54は、無線タグ50の電子回路部51を動作させるための電力を電磁波により無線タグ50へ供給するためのものであり、受信コイル55は、無線タグ50から送信されてくるデータを受信するためのものである。なお、電力搬送用電磁コイル54と受信コイル55は、共通化されている場合もある。
【0007】
また、読取装置53の電子回路部56は、上記の各コイルの動作を制御して無線タグ50とのデータ通信を統括的に制御するためのもので、無線タグ50用の電力の送信、無線タグ50から受信したデータの解析などの各種処理が行われるようになっている。このような構成により、従来の無線タグ読取システムでは、無線タグ50の取り付けられた物品や荷物などが読取装置53の通信可能領域に入ると、無線タグ50の電子回路部51に電力が供給され、この電子回路部51に予め記録されている物品や荷物についてのデータが、無線タグ50から読取装置53へ送信される。
【0008】
読取装置53は、この無線タグ50からのデータを受信コイル55で受信し、電子回路部56で受信データの解析処理などを行うことにより、物品や荷物の内容を認識(識別)したり、その物品や荷物に対する料金の支払い状況のチェックなどを行うことにより、効率的に物品や荷物の仕分けなどに必要な情報を得ることができる。
【0009】
この無線タグを利用した技術は、家畜管理支援システムとして家畜の個体管理用にも応用され始めている。例えば、犬や猫の首輪に無線タグを装着して、迷子などに対応できる家畜用電子名札も知られている。これは首輪の装着袋の中に無線タグを収納し、保健所などで犬や猫が保護された場合、読み取り器を用いてデータを読み取ることを可能としたもので、無線タグには、犬や猫の飼い主の住所、氏名、連絡先などのデータが格納されている(特許文献1を参照)。
また、無線タグの通信距離の増大のために種々の技術が知られているが、その一つとして、通常の電池内蔵タイプに代えて圧電素子を利用することも提案されている。これは、圧電セラミックス素子のたわみ振動により発電する圧電発電装置を用いる方式である。すなわち、対向する圧電セラミックス素子間に鋼球を配置し、この鋼球を圧電セラミックス素子に衝突させることにより発生する振動を利用して発電を行う方式である。このような構成とすることによって、通常の電池より大きい電力を得ようとするものである(特許文献2を参照)。
【0010】
同様に無線タグに通常の電池を内蔵することなく、起電力を得る方式に熱電素子を用いる方式も知られている。すなわち、無線タグ内にペルチェ素子を利用し温度差で発電する熱電素子を装着したICカードである。このICカードの一方の放熱側の面には放熱フィンが取り付けられていて、他方の面を高温源に設置して発電する。そして、このような構成のICカードは、高温源の温度監視に利用することが示されていて、高温源の温度上昇に伴い一定レベルの起電力を超えた場合に警告音を発生させる、温度監視センサとして利用できることが示されている(特許文献3を参照)。
【特許文献1】特開平11−75600号公報
【特許文献2】特開2004−94488号公報
【特許文献3】特開2003−132312号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
一般的に無線タグを利用した通信にあたっては、通信距離の増加を図るためには装置内部に電池を格納しなければならないが、装置の増大化とともに電池交換などのメインテナンスを必要とする。
【0012】
このため、上述の特許文献1に示された無線タグを家畜の個体管理に応用しようとすると、無線による電力供給は電波法などの制約もあり、通信距離が非常に短いため通信に必要な電力を得ることが困難となる。特許文献1においては、ペットなどの家畜に装着した無線タグとの通信は、保健所などで係員が所持する読み取り器を直接無線タグに近づけてデータ読み取りを行わなければならず、その利用範囲は限定的である。
【0013】
また、特許文献2に示されている圧電発電装置を利用した方式にあっては、圧電セラミックス素子間に鋼球を移動させて発電することが必要であって、振動エネルギを得るために識別個体が動いていなければ発電できない問題があった。さらに、この鋼球を移動させる構成によれば、構造が複雑となるばかりでなく、可動部分を有することから点検・修理などの多くのメインテナンスが必要となる。
【0014】
特許文献3には、高温源の温度上昇監視を目的に、ICカード内にペルチェ素子を利用した熱電変換装置を格納する構成が示されているが、他の用途・利用分野に関する開示は認められない。
【0015】
本発明に係る家畜用無線タグ装置は、無線タグの電源として無線や電池ではなく、熱電変換素子を用いて、無線タグを装着する家畜の体温と周囲温度との温度差で発電を行い、通信に必要な電力を容易に得ることができ、通信距離を従来の電池式と同等に拡大することを可能とした家畜用無線タグ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の請求項1に係る家畜用無線タグ装置は、一方の面に受熱部が形成され、他方の面に放熱部が形成され、前記受熱部ならびに放熱部間に熱電変換素子が積層された発電部と、この発電部と電気的に接続された無線タグ部と、前記発電部ならびに無線タグ部を環状に連結する装着ベルトとを具備し、前記発電部の受熱部が家畜の身体に密着する如く前記装着ベルトによって前記発熱部ならびに無線タグ部を家畜の身体に装着することを特徴とする。
【0017】
本発明の請求項2に係る家畜用無線タグ装置は、前記受熱部が、家畜の身体と密着性がよく、熱伝導性のよい弾性体で構成されていることを特徴とする。
【0018】
本発明の請求項3に係る家畜用無線タグ装置は、前記放熱部に、フィンが形成されていることを特徴とする。
【0019】
本発明の請求項4に係る家畜用無線タグ装置は、前記発電部ならびに無線タグ部間が屈曲性を有する接続端子で接続されていることを特徴とする。
【0020】
本発明の請求項5に係る家畜用無線タグ装置は、前記発電部が複数の発電部から構成されており、前記複数の発電部間は屈曲性を有する接続端子によって電気的に接続されていることを特徴とする。
【0021】
本発明の請求項6に係る家畜用無線タグ装置は、前記無線タグ部が複数の無線タグ部から構成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
家畜用無線タグ装置を管理対象の家畜の首や胴回りに取り付けることにより、家畜の体温と雰囲気温度との温度差で発電した電力で無線タグ部を動作させることを可能とした。このことにより、無線式電源供給システムでは不可能であった発電量を容易に得ることができ、通信距離を従来の電池式と同等に拡大することができる無線タグ装置を提供することを可能とした。
【0023】
また、複数の発電部を連結することで、発電量を増大することを可能とし、管理領域の違いや管理対象の家畜の違いに応じて連結する発電部の数を調整することを可能とし、最適な発電量を確保するようにした。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下に本願発明の実施形態を図を参照して説明する。図1は本願発明の原理的な構成を示すブロック図である。すなわちこの構成は、熱電変換素子10を内蔵する発電部11と、電子回路12と通信コイル13とを内蔵する無線タグ部14から構成される家畜用無線タグ装置9と、電子回路15と通信コイル16とを内蔵する読取/書込部17からなる。
【0025】
発電部11では、内蔵されている熱電変換素子10が、家畜の体温と周囲の雰囲気温度との温度差で発電し、無線タグ部14に電力を供給する。無線タグ部14では、発電部11から供給された電力で電子回路12を駆動し、通信コイル13を経由して読取/書込部17との通信により送受信データ処理を行う。読取/書込部17では、通信コイル16を経由して無線タグ部14と通信された送受信データを電子回路12で処理し、図示しないコンピュータ(ホスト機器)等の外部機器と別の手段で通信し、管理データを蓄積する。
【0026】
さて、図2は、本発明の家畜用無線タグ装置9を牛8に装着した例を模式的に示した図である。家畜用無線タグ装置9は、発電部11と無線タグ部14が電気的に接続されていて、これらは装着ベルト7によって牛8の首に巻きつけるように装着される。その際、発電部11は牛8の身体と密着するようになされていて、牛8の体温が発電部11に伝達されるように構成されている。このようにして発電部11は牛8の体温によって起電力を発電し、この起電力を無線タグ部14へ供給して外部機器との通信を行うことができる。なお、図2の例では牛の首に家畜用無線タグ装置9を装着したが、首に限らず胴体などの他の部位に装着することも可能である。
【0027】
図3は、図2に示した家畜用無線タグ装置9に組み込まれている発電部11の構造を説明する図で、図3(a)は平面図、図3(b)は図3(a)のA−A線断面図である。発電部11は、長方形で板状の熱電変換素子10の一方の面に受熱部18が熱的結合を保って接合され、他方の面には放熱部19が同様に熱的結合を保って接合された積層構造となっている。放熱部19には、大気との接触面積を広くするためにフィン20が形成されている。
【0028】
このような構成の発電部11の受熱部18は、家畜の身体に接する面に密着性がよく、熱伝導性のよい弾性体で構成される。このように受熱部18を弾性体としたことによって、密着性の向上が図れるが、さらに家畜の身体に傷をつけたりすることを予防することにもなる。また、放熱部19にフィン20を設けたことによって、放熱効果の向上を図るとともに、家畜の体温による放熱効果の低下を防止することが可能となる。
【0029】
このようにして、放熱部19は雰囲気温度(環境温度)に冷却されるため、受熱部18と放熱部19に挟まれる熱電変換素子10は、家畜の体温と雰囲気温度との温度差で発電がなされる。また、発電部11の接続用端面には、無線タグ部14へ電力を供給する接続端子21が設けられている。なお、図3の例では、接続端子21を発電部11の両端に形成したが、図2に示したように無線タグ部14に1個の発電部11を接続する構成においては、接続端子21は1箇所のみでよい。接続端子21を発電部11の両端に設ける場合は、後述するように、起電力を増大させるために複数の発電部11を連結する際に利用するものである。また、接続端子21は、屈曲性を有し発電部11と無線タグ部14間が家畜の身体に合わせて屈曲可能とされている。
【0030】
図4は、無全タグ部14の構造を示す平面図である。無線タグ部14は、電子回路を構成するICチップ22とこのICチップ22を取り囲む通信コイル13で構成されており、無線タグ部14の端面には発電部11からの電力供給を得るための接続端子23が設けられている。なお、接続端子23は、図4では無線タグ部14の両端に設けてあるが、図2の例のように単一の発電部11を利用する場合には、両端には設けずに一端のみでもよい。
【0031】
次に本発明の他の実施形態を図5(a)(b)を参照して説明する。上述した本発明の実施形態では、単一の無線タブ部14に1個の発電部11を連結した例を説明したが、次に示す実施形態においては、1個の無線タグ部14に複数の発電部11a、11b、11c、11d、…を連結した構成である。
【0032】
無線タグ部14と各発電部11との連結ならびに発電部11同士の連結は、いずれも屈曲性のある接続端子21によって鎖状に連結され、あわせて電気的に接続されるように構成されている。また、連結端の発電部11a、11d間は装着ベルト7で帯状に接続されるように構成されており、装着ベルト7は図示していないが、端部においてベルトのバックルのような部材によって環状に構成される。
【0033】
このように構成された家畜用無線タグ装置9は、牛などの家畜の首など身体に巻き付けられて装着される。この際、連結された複数の発電部11a〜11dは、家畜の身体に密着して家畜の体温によって発電され、生成された電力を無線タグ部14に供給する。1個の無線タグ部14の動作のために複数の発電部を連結したことによって、起電力を増大することを可能とし、送信距離の増大を図ることを可能とした。
【0034】
さらに、複数の発電部を連結したことによって、家畜の身体が複雑な形状であったり、行動中に形状が常時変化した場合であっても、連結された発電部が各々家畜の身体の変化に応じて密着して発電を継続することを可能とした。
【0035】
また、発電部を複数連結することによって、家畜の管理領域に広さや環境の違いに応じたり、管理対象の家畜の種類の違いによって、発電部の連結個数を調整し、最適な発電量を確保することを可能とした。
【0036】
さらに、上述した本発明の実施形態においては、1個の無線タグ部を組み込んだ例を説明したが、2個以上の無線タグ部を組み込むことによって、一方の無線タグ部に家畜の長期データ(経歴、病歴等)を管理データとして格納し、他方の無線タグ部に家畜の短期データ(体温変化等)を格納して分類して管理するように構成してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の原理的な構成を示すブロック図。
【図2】本発明の一実施形態を家畜に装着した例を示す図。
【図3】本発明の一実施形態に組み込まれる発電部を拡大して示す図。
【図4】本発明の一実施形態に組み込まれた無線タグ部を拡大して示す図。
【図5】本発明の他の実施形態を説明するための図。
【図6】一般的な無線タグ読取システムを示すブロック図。
【符号の説明】
【0038】
7…装着ベルト、8…牛、9…家畜用無線タグ装置、10…熱電変換素子、11…発電部、12、15…電子回路、13、16…通信コイル、14…無線タグ部、17…読取/書込部、18…受熱部、19…放熱部、20…フィン、21、23…接続端子、22…ICチップ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方の面に受熱部が形成され、他方の面に放熱部が形成され、前記受熱部ならびに放熱部間に熱電変換素子が積層された発電部と、この発電部と電気的に接続された無線タグ部と、前記発電部ならびに無線タグ部を環状に連結する装着ベルトとを具備し、前記発電部の受熱部が家畜の身体に密着する如く前記装着ベルトによって前記発熱部ならびに無線タグ部を家畜の身体に装着することを特徴とする家畜用無線タグ装置。
【請求項2】
前記受熱部は、家畜の身体と密着性がよく、熱伝導性のよい弾性体で構成されていることを特徴とする請求項1記載の家畜用無線タグ装置。
【請求項3】
前記放熱部には、フィンが形成されていることを特徴とする請求項1または2のいずれか1項記載の家畜用無線タグ装置。
【請求項4】
前記発電部ならびに無線タグ部間は屈曲性を有する接続端子で接続されていることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項記載の家畜用無線タグ装置。
【請求項5】
前記発電部は複数の発電部から構成されており、前記複数の発電部間は屈曲性を有する接続端子によって電気的に接続されていることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項記載の家畜用無線タグ装置。
【請求項6】
前記無線タグ部は複数の無線タグ部から構成されていることを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1項記載の家畜用無線タグ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−159927(P2009−159927A)
【公開日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−3285(P2008−3285)
【出願日】平成20年1月10日(2008.1.10)
【出願人】(390014568)東芝プラントシステム株式会社 (273)
【Fターム(参考)】