説明

容器入りコーヒー飲料

【課題】容器入りコーヒー飲料であっても、煎りたてのコーヒーが有するコーヒー本来の美味成分が充分に残っている商業的に無菌の容器入りコーヒー飲料を提供する。
【解決手段】商業的に無菌である容器入りコーヒー飲料であって、25℃の保存条件で1週間のpH低下量が0.07以上であることを特徴とする密封容器入りコーヒー飲料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、商業的に無菌のコーヒー飲料に関し、特にコーヒー豆を焙煎した後、抽出によりコーヒー飲料液を得て、プラスチックボトル、プラスチックカップ、金属缶等の容器に充填密封した品質が高く、コーヒー本来の旨み成分や風味を有するコーヒー飲料に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の容器入りコーヒーは、その製造工程においてレトルト処理(120〜125℃、30〜40分)により加熱殺菌を行うため、加熱によってコーヒーのフレーバー等の品質劣化を生じ、また、pHが減少することにより、コーヒーの旨み成分が著しく減少し、酸味が増加してコーヒーの風味を悪くするという欠点がある。
【0003】
このような加熱殺菌によるpH低下を抑制するために、例えば特許文献1に開示されているように、コーヒー飲料製造の過程においてpH調整剤を添加してpH低下を防止する技術が一般に採用されている。しかし、コーヒー飲料にpH調整剤を加えた結果、コーヒー飲料に独特のアルカリ味がつき、コーヒー本来のおいしさや風味が損なわれていた。
【0004】
また、本出願人は、特許文献2、3に開示されているように、無菌雰囲気下、或いは無菌及び無酸素状態とする無菌不活性ガス雰囲気下を採用することより、上述した問題を解決し、品質の良い容器入りコーヒー飲料を製造する方法を提案した。
【0005】
しかしながら、容器入りコーヒー飲料とする際に、その製造過程、或いは一般消費者が飲用するまでの流通過程において、コーヒー本来の旨み成分が損なわれるといった新たな問題が提起された。
【特許文献1】特開平10−215771号公報
【特許文献2】特開2002−65165号公報
【特許文献3】特開2003−2197488号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記従来の容器入りコーヒー飲料の欠点に鑑みなされたものであって、容器入りコーヒー飲料であっても、煎りたてのコーヒーが有するコーヒー本来の旨み成分が充分に残っている商業的に無菌の容器入りコーヒー飲料を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
コーヒーの構成成分としては2000種類以上の成分が知られているが、その中のどの成分が旨み成分として寄与するかは不明である。したがって容器入りコーヒー飲料においてコーヒーの旨み成分をなるべく残すために保存すべきコーヒー成分の種類を特定することは不可能である。本発明者らは、上記本発明の目的を達成するために研究と実験を重ねた結果、商業的に無菌である容器入りコーヒー飲料においては、一定期間中に飲料のpHが低下する速度はコーヒー飲料によって異なり、pHが低下する速度が速いほどコーヒー飲料中の旨み成分の量が多いことを発見し、本発明に到達した。
【0008】
すなわち、本発明の密封容器入りコーヒー飲料は、商業的に無菌である容器入りコーヒー飲料であって、25℃の保存条件で1週間のpH低下量が0.07以上であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、容器入りコーヒー飲料であっても、従来の容器入りコーヒー飲料に比べて煎りたてのコーヒーが有するコーヒー本来の旨み成分が充分に残っている、商業的に無菌の容器入りコーヒー飲料が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明は、コーヒー豆を焙煎し、焙煎後の原料から飲料液を抽出し、ポリエステル樹脂等から成るプラスチックボトル、プラスチックカップ、ブリキ、アルミニウム、ティンフリースチール等の金属板から成る金属缶等の容器に充填密封する型のコーヒー飲料に適用される。コーヒー飲料としては、ブラックコーヒー飲料のほかミルク入りコーヒー飲料および加糖コーヒー飲料にも本発明を適用することができる。
【0011】
本発明における容器入りコーヒー飲料の製造工程は、コーヒー豆を焙煎後、冷却し、殺菌状態で冷却工程から粉砕機へ焙煎コーヒー豆を移送し、窒素ガス置換を行いながら殺菌された粉砕機でコーヒー豆を粉末に粉砕する。
【0012】
次いで、前記焙煎コーヒー粉末を用いて、窒素ガス置換を行いながら殺菌済み抽出機を用いて無菌水で抽出してコーヒー液を得た後、あるいは無菌無酸素下でコーヒー液を濾過除菌した後、このコーヒー液を滅菌済みの容器に窒素雰囲気下で無菌的に充填、密封する。
【0013】
尚、上述した焙煎工程では、窒素ガス雰囲気下で焙煎を行うと、空気中の焙煎とは異質な味と香りに変化するため窒素ガス置換は行わない。
【0014】
そして、本発明の25℃の保存条件で1週間のpH低下量が0.07以上の容器入りコーヒー飲料を製造するためには、その製造工程において、コーヒー豆の焙煎後の工程が無菌雰囲気、無菌及び無酸素状態とする無菌不活性ガス雰囲気であることが必須であり、それに加えて、コーヒー豆の焙煎条件、コーヒー豆の粉砕後の粉末の粒径、コーヒー粉末からコーヒー液として抽出する抽出条件などを選択する必要がある。
【0015】
一例を挙げれば、コーヒー豆の原料や用いる機器の種類によっても相違するが、
1.コーヒー豆の焙煎条件は、当初190℃前後の焙煎機にコーヒー豆を供給し(一旦、焙煎機の温度は、一旦100乃至110℃位に下がる)、約135℃前後で約10分間加熱してコーヒー豆の水分を蒸発させ、徐々に焙煎機の温度を上げて焙煎を進めると共に、約180℃前後で1回目のコーヒー豆の爆ぜを生じさせ、温度を200乃至210℃に上昇させて2回目のコーヒー豆の爆ぜを生じさせ、23乃至30分間の焙煎を行う。
この時、1回目の爆ぜたコーヒー豆を選択すると、L値が30乃至19位となって浅いコーヒー飲料、2回目の爆ぜたコーヒー豆を選択すると、L値が18乃至14となって深い味わいのコーヒー飲料となる。
【0016】
2.次いで、焙煎後のコーヒー豆を粉砕し、粉砕後の粉末の粒径を300μm乃至1.5mmとする。
【0017】
3.抽出条件は温水(無菌水も含む)の温度85乃至90℃、流量100乃至120L/hで30乃至40分とする。
また、本発明の容器入りコーヒー飲料は、飲用に際してその旨み成分を充分に堪能するためには、商業的に流通期間は常温流通下で一週間乃至二週間程度、チルド流通下で1ヶ月程度が好ましい。
実施例
【0018】
[pH低下量の測定]
得られた容器入りコーヒー飲料50本を温度25℃の条件下で保存し、充填密封直後、及び1乃至4週間後に各10本を取り出し、pH測定器[東亜電波工業(株)製]を用いてpH測定を行い、各10本の平均値をpH値とした。
次いで、上記pH値から、充填密封直後から1週間後、1〜2週間後、2〜3週間後、3〜4週間後の1週間区毎におけるpH低下量を求めた。
その結果を表1に示す。
【0019】
[パネル評価]
上述したpH測定時に、同時に各容器入りコーヒー飲料の官能評価をパネリスト10名により行った。官能評価は、香り、味、それらの総合評価の3項目とし、5点を最高得点として評価し、パネリスト10名の平均点を用いた。
その結果を表2に示す。
【実施例1】
【0020】
中米産ガテマラコーヒー豆2.95kg及びインドネシア産マンデリンコーヒー豆2.95kgを、190℃の焙煎機[淀川エンジニアリング(株)製5kg石焼き焙煎機]に供給し、135℃、10分間加熱して水分を蒸発させ、次いで、焙煎機の温度を203℃まで上昇させそれぞれ焙煎した後、28℃の冷却器内[同淀川エンジニアリング(株)製]でブレンドした。この時の焙煎時間は23分であり、コーヒー豆のL値は17であった。
【0021】
ブレンド後、蒸気殺菌済みのスクリューコンベアで冷却器から、蒸気殺菌済み粉砕機へ焙煎コーヒー豆を供給し、窒素ガス置換を行いながら粉砕機でコーヒー豆を300μm〜1.5mmの粉末となるように粉砕した。
【0022】
次いで、前記焙煎コーヒー粉末4.7kgを、窒素ガス置換を行いながら蒸気殺菌済み抽出機を用いて、90℃の無菌水で流量110L/h、54分の条件で抽出し、約100L(Brix0.85%)のコーヒー液を得た。
【0023】
このブラックコーヒー液を、EOG(エチレンオキサイドガス)滅菌済みの内容量300mlのポリエステル樹脂から成るプラスチックボトルとポリプロピレンから成るプラスチックキャップを用いて窒素ガス雰囲気下で無菌的に充填、密封して、50本の容器入りコーヒー飲料を製造し、pH低下量の測定及びパネル評価を行った。
【実施例2】
【0024】
焙煎コーヒー粉末を90℃の熱水(水道水)で抽出してコーヒー液とし、これを無菌窒素ガス雰囲気下で孔経0.45μmのフィルターで濾過除菌した後、EOG(エチレンオキサイドガス)滅菌済みの内容量300mlのポリエステル樹脂から成るプラスチックカップと、アルミニウム箔とポリエステル樹脂から成るシール材を用いた以外は、実施例1と同様に充填、密封し、pH低下量の測定及びパネル評価を行った。
【比較例1】
【0025】
コーヒー豆の焙煎条件を、焙煎機予熱210℃とし、135℃においての水分蒸発行工程を省き、焙煎機温度を最終的に220℃まで上昇させ、焙煎時間19分で焙煎を行った。このときのコーヒー豆のL値は16.6であったが、豆の表面は焦げ、中心は生焼け、という状態であった。
冷却以降の行程はすべて実施例1と同様に行い、pH低下量の測定及びパネル評価を行った。
【比較例2】
【0026】
コーヒー豆のブレンド後から焙煎コーヒー粉末の抽出工程時における各蒸気殺菌、窒素ガス置換を行わず、また、前記抽出時に90℃の温水(水道水)を用いた以外は、実施例1同様にコーヒー液を得た。
このブラックコーヒー液を、熱交換機を用いて135℃、60秒の加熱殺菌を行い、直ちに充填密封した以外は、実施例1と同様に充填、密封し、pH低下量の測定及びパネル評価を行った。
【比較例3】
【0027】
コーヒー豆のブレンド後から焙煎コーヒー粉末の抽出工程時における各蒸気殺菌、窒素ガス置換を行わず、また、前記抽出後のコーヒー液の無菌窒素ガス雰囲気下でのフィルターによる濾過除菌を行わなかった以外は、実施例2と同様にコーヒー液を得た。
このブラックコーヒー液を、熱交換機を用いて135℃、60秒の加熱殺菌を行い、直ちに充填密封した以外は、実施例2と同様に充填、密封し、pH低下量の測定及びパネル評価を行った。
【比較例4】
【0028】
比較例3において、抽出後のブラックコーヒー液を、内容量200ccの内面ポリエステル樹脂被覆のティンフリースチール金属板から成るシームレス缶とアルミニウム金属板から成る蓋材用いて充填密封後、125℃、30分のレトルト殺菌を行い、比較例1と同様にpH低下量の測定及びパネル評価を行った。
【0029】
【表1】

【表2】

【0030】
表1の結果から、実施例のpHは充填一週間後では0.3以上低下し、また一週間後から二週間後、二週間後から三週間後も約0.1低下している。しかし比較例のpHはほとんど低下していない。これは、実施例のコーヒーの方が旨み成分が多く残っているため、pHの低下量が多い事を示すものである。
さらに表2の結果より、香り、味双方について、明らかに実施例の品質が優れていることがわかる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
商業的に無菌である容器入りコーヒー飲料であって、25℃の保存条件で1週間のpH低下量が0.07以上であることを特徴とする密封容器入りコーヒー飲料。


【公開番号】特開2006−6116(P2006−6116A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−183488(P2004−183488)
【出願日】平成16年6月22日(2004.6.22)
【出願人】(000003768)東洋製罐株式会社 (1,150)
【Fターム(参考)】