説明

容器兼用注射器

【課題】セーフティーデバイスを注射針を覆う位置に容易かつ確実に移動させて、安全性を確保することができる容器兼用注射器を提供する。
【解決手段】外筒20の外周に摺動可能に装着される円筒形状をなし、前方に移動した際に注射針37を覆うセーフティーデバイス50を備えた容器兼用注射器1において、セーフティーデバイス50を注射針37から外れた第1位置に係脱可能に係止する第1保持手段と、セーフティーデバイス50を注射針37を覆う第2位置に係止する外れ防止ストッパー53及び戻り防止ストッパー54からなる第2係止手段と、セーフティーデバイス50を第1位置から第2位置方向に向かって付勢するコイルスプリング70と、第1保持手段による係止を解除する係止解除手段としてのスライド部材80とを設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、注射終了後等に注射針を覆い安全性を確保するために用いられるセーフティーデバイスを備えた容器兼用注射器に関する。
【背景技術】
【0002】
容器兼用注射器は、予め薬液が充填されているため、医療機関において煩雑な操作をすることなく、包装から取り出して直ぐに使用できるので、利便性に優れ、医師や看護師等の医療業務に携わる者の作業の軽減に大変に役立ち、このため、多くの病医院で採用されている。
【0003】
ところで、従来から医療業務に携わるものが注射器を使用した際に、穿刺後の注射針を誤って自らに刺してしまうことがあり、その穿刺を原因としたウイルス感染が懸念されている。そのため、患者に注射した後の注射針を安全に処理することを目的として、注射後の注射針を円筒状のカバーで覆って注射針の不用意な接触を防止するセーフティーデバイスを備えた注射器が考案されている。
例えば特許文献1に記載の注射器によれば、シリンダの外周に係止された可撓性のセーフティーデバイスに圧力を加えて撓ませることで係止状態を解除し、該セーフティーデバイスを挟持した状態で注射針を上方に向けることによって、注射器本体が自重により下方に移動して、注射針がセーフティーデバイスによって覆われるように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−29334号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述した従来のセーフティーデバイスを備えた注射器においては、セーフティーデバイスを注射針を覆う位置に移動させる手段は注射器本体の自重のみであるため、セーフティーデバイスを相対移動させる力は弱く、場合によっては、注射針をセーフティーデバイスで覆う途中で注射器本体に引っかかることもあり、注射針を確実に覆うことができず安全性を保てないという問題があった。
なお、セーフティーデバイスを手動でもって移動させることも考えられるが、この場合、一方の手で容器兼用注射器自体を支えた状態で他方の手でもってセーフティーデバイスを持って移動させる必要があるため、両手での操作が必要となり、作業が煩雑になるという問題があった。
【0006】
さらに、上述した従来のセーフティーデバイスを備えた注射器においては、セーフティーデバイスは係合部との摩擦によって簡易に取り付けられているに過ぎないため、セーフティーデバイスが強固に固定されず安定しないばかりか、場合によってはセーフティーデバイスが注射器から外れてしまい、注射針が医療業務に携わる者の手や指に誤って刺さってしまうという問題があった。また、セーフティーデバイスは、既存の注射器に容易に装着することができる構造であることが望ましい。
【0007】
この発明は上記課題に鑑みてなされたものであって、セーフティーデバイスを注射針を覆う位置に容易かつ確実に移動させて、安全性を確保することができる容器兼用注射器を提供することを目的とする。
また、注射器に容易に装着することができるとともに、注射終了後の注射針を覆った状態で確実に固定することができるセーフティーデバイスを備えた容器兼用注射器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するため、この発明は以下の手段を提案している。
即ち、本発明に係る容器兼用注射器は、軸線に沿った円筒状をなし薬液が充填される外筒の前端側に、先端に注射針を装着した筒先が取り付けられるとともに、前記外筒の後端側に、フィンガーグリップが取り付けられた容器兼用注射器本体と、前記外筒の外周に摺動可能に装着される円筒形状をなし、前方に移動した際に前記注射針を覆うセーフティーデバイスとを備えた容器兼用注射器において、前記セーフティーデバイスを前記注射針から外れた第1位置に係脱可能に係止する第1保持手段と、前記セーフティーデバイスを前記注射針を覆う第2位置に係止する第2保持手段と、前記セーフティーデバイスを前記第1位置から前記第2位置に向かって付勢する付勢手段と、前記第1保持手段による係止を解除する係止解除手段とが設けられたことを特徴としている。
【0009】
このような特徴の容器兼用注射器によれば、係止解除手段によって第1保持手段によるセーフティーデバイスの第1位置での係止を解除すると、セーフティーデバイスは付勢手段の付勢力によって第2位置方向に移動し、第2位置において第2保持手段によって係止される。したがって、係止解除手段を操作することのみをもって、セーフティーデバイスを確実に注射針を覆う位置に移動させることができる。
【0010】
本発明に係る容器兼用注射器においては、前記フィンガーグリップは、円筒状をなし前記外筒の後端部に嵌着される嵌着部と、前記嵌着部の後端部から前記容器兼用注射器本体の径方向外側に張り出して後方側を向くフランジ面とを備え、前記第1保持手段が、前記セーフティーデバイスの後端部に設けられた係合部と、前記嵌着部の外周面に設けられ前記係合部を係止する係止部とからなり、 前記係止解除手段が、前記フランジ面上を前記容器兼用注射器本体の径方向に沿ってスライド可能に設けられ、前記容器兼用注射器本体の径方向外側に位置する待機位置から前記容器兼用注射器本体の径方向内側に位置する解除位置にスライド移動する際に、前記係止部による係合部の係止を解除するスライド部材であることを特徴としている。
【0011】
このような特徴の容器兼用注射器においては、フィンガーグリップのフランジ面上に配置されたスライド部材を待機位置から解除位置に移動させることによって、該スライド部材がフィンガーグリップの嵌着部の係止部とセーフティーデバイスの後端部の係合部との係合を解除する。これによって、セーフティーデバイスは付勢手段の付勢力によって第2位置方向に移動し、第2位置において第2保持手段によって係止される。即ち、スライド部材をスライドさせる操作のみをもってセーフティーデバイスが第2位置に移動するため、容易かつ確実に注射針を覆って安全性を確保することが可能となる。
【0012】
本発明に係る容器兼用注射器においては、前記係合部が、前記セーフティーデバイスの後端から前記軸線に平行に延出するとともに前記容器兼用注射器本体の径方向に沿って弾性変形可能とされ、前記スライド部材が、前記待機位置側から前記解除位置側に向かうに従って前記容器兼用注射器本体の径方向内側に向かって傾斜し、前記係止部の内側面と当接可能な傾斜側面を備え、前記スライド部材が前記解除位置に移動する際に、該傾斜側面が前記係合部を押し上げて前記容器兼用注射器本体の径方向外側に弾性変形させることを特徴としている。
【0013】
このような特徴の容器兼用注射器によれば、スライド部材を待機位置から解除位置に移動する際に、スライド部材の傾斜側面が、嵌着部の係止部と係合しているセーフティーデバイスの係合部を容器兼用注射器本体の径方向外側に向かって押し上げることにより、該係合部が係止部から離間する。これにより、係止部と係合部との係合を解除することができため、スライド部材をスライドさせる動作をもって確実にセーフティーデバイスを第2位置に移動させることが可能となる。
【0014】
本発明に係る容器兼用注射器においては、前記軸線に沿って延びる棒状をなし、前記外筒の後端側から該外筒内に挿入されて、注射時に前方に向かって押し込まれるプランジャロッドを備え、前記スライド部材に、前記待機位置に位置する前記スライド部材を前記軸線に沿って貫通する大径孔と、前記待機位置に位置する前記スライド部材を前記軸線に沿って貫通するとともに前記スライド移動の方向に沿って延びて前記大径孔に連なる小径スリットとからなる貫通部が形成され、前記プランジャロッドが、前記大径孔に挿通可能とされ、かつ、前記小径スリットに挿通不能とされた径を有する大径ロッド部と、該大径ロッド部の後端側に位置し、前記大径孔と前記小径スリットとに挿通可能とされた径を有する小径ロッド部とを備え、前記プランジャロッドが最も後方に位置する注射前及び前記プランジャロッドを前方に向かって押し込む注射動作時に、前記大径ロッド部が貫通部に挿通状態とされ、前記プランジャロッドを前方側に押し切った注射完了時に、前記小径ロッド部が前記貫通部に挿通状態とされることを特徴としている。
【0015】
このような特徴の容器兼用注射器によれば、注射前及び注射動作時には、プランジャロッドの大径ロッドは貫通孔のうち大径孔に挿通状態とされている。この状態においては、上記大径ロッドが小径スリットに挿通不能な径を有しているため、該大径ロッドが小径スリットを挿通することはできない。したがって、スライド部材を待機位置から解除位置にスライド移動させようとしても、大径ロッド部の存在によって当該スライド移動をさせることができない。
一方、注射完了時においては、該プランジャロッドの小径ロッドが貫通部の大径孔に挿通状態となる。この状態において、スライド部材を待機位置から解除位置に移動させようとすると、小径ロッドは大径孔から小径スリットに入り込むようにして該小径スリットに挿通した状態となる。したがって、スライド部材をスライド移動させても、小径スリットが当該スライド移動の妨げとなることはない。
よって、注射完了時のみに、スライド部材を待機位置から解除位置にスライドさせることができるため、注射前や注射動作時にセーフティーデバイスが誤作動してしまうことを確実に防止することが可能となる。
【0016】
本発明に係る容器兼用注射器においては、前記第2保持手段が、前記筒先の一部が拡径して形成され、その前方側を向く端面が前部係合面とされるとともに、後方側を向く端面が後部係合面とされたデバイス係合部と、前記セーフティーデバイスの内周面に突設され、前記セーフティーデバイスが前記注射針の全域を覆う位置で前記前部係合面と係合し、前記セーフティーデバイスの後端方向への移動を阻止する戻り防止ストッパーと、前記セーフティーデバイスの内周面における前記戻り防止ストッパーよりも後方側に突設され、前記セーフティーデバイスが前記注射針の全域を覆う位置で前記後部係合面と係合し、前記セーフティーデバイスの先端方向への移動を阻止する外れ防止ストッパーとからなることを特徴としている。
【0017】
このような特徴の容器兼用注射器によれば、セーフティーデバイスが第2位置に位置している状態においては、戻り防止ストッパーがデバイス係合部の前部係合面と係合し、セーフティーデバイスの後方側への移動が阻止される。また、外れ防止ストッパーがデバイス係合部の後部係合面と係合し、セーフティーデバイスの前方側への移動が阻止される。即ち、第2位置におけるセーフティーデバイスの軸線方向への移動が固定されるため、セーフティーデバイスが容器兼用注射器から外れたり、後端方向に移動して注射針が露出したりすることを防止することができる。
【0018】
本発明に係る容器兼用注射器においては、前記戻り防止ストッパーが、後方側に向かうにしたがって前記容器兼用注射器本体の径方向内側に傾斜するように形成されているとともに、前記外れ防止ストッパーが、前方側に向かうにしたがって前記容器兼用注射器本体の径方向内側に傾斜するように形成されており、前記戻り防止ストッパーの前記セーフティーデバイスの内周面からの高さが、前記外れ防止ストッパーの前記セーフティーデバイスの内周面からの高さよりも低く形成されていることを特徴としている。
【0019】
このような特徴の容器兼用注射器によれば、セーフティーデバイスを外筒の外周に容易に装着でき、かつ、セーフティーデバイスを注射針を覆った位置で確実に固定することができる。
即ち、セーフティーデバイスを外筒の前方側から装着する際には、外れ防止ストッパーの傾斜がデバイス係合部の前部係合面に当接し、外れ防止ストッパーの内周面が撓んでデバイス係合部が通過可能な内径まで拡径させられる。これにより、デバイス係合部が外れ防止ストッパーを乗り越えて通過する。
また、外れ防止ストッパーの内周面の撓みは、戻り防止ストッパーの内周面にも影響を与え、該戻り防止ストッパーの内周面も拡径することになる。この際、戻り防止ストッパーは外れ防止ストッパーから離間した位置にあるため、戻り防止ストッパーの内周面の拡径量は外れ防止ストッパーの周囲の内周面の拡径量よりも小さなものとなる。ここで、戻り防止ストッパーの高さが外れ防止ストッパーの高さよりも低く形成されているため、外れ防止ストッパーの拡径量が戻り防止ストッパーの拡径量よりも小さくても、デバイス係合部が戻り防止ストッパーを乗り越えて通過することができる。
したがって、外れ防止ストッパーをデバイス係合部が通過可能な径に拡径させることによって、同時に戻り防止ストッパーもデバイス係合部が通過可能な径に拡径するため、外れ防止ストッパーと戻り防止ストッパーとがセーフティーデバイスの装着の妨げとなることなく、該セーフティーデバイスを容易に外筒の外周に装着することが可能となる。
【0020】
また、セーフティーデバイスを第1位置から第2位置まで移動させて注射針を覆う際には、まず、戻り防止ストッパーの傾斜がデバイス係合部の後部係合面に当接し、戻り防止ストッパーの内周面が撓んでデバイス係合部が通過可能な内径まで拡径させられる。これにより、デバイス係合部が戻り防止ストッパーを乗り越えて通過する。
また、戻り防止ストッパーの内周面の撓みは、戻り防止ストッパーの内周面にも影響を与え、該戻り防止ストッパーの内周面も拡径することになる。この際、外れ防止ストッパーは戻り防止ストッパーから離間した位置にあるため、外れ防止ストッパーの内周面の拡径量は戻り防止ストッパーの周囲の内周面の拡径量よりも小さなものとなる。しかしながら、外れ防止ストッパーの高さが戻り防止ストッパーの高さよりも高く形成されているため、外れ防止ストッパーをデバイス係合部が通過するためには、該外れ防止ストッパーの拡径量が戻り防止ストッパーの拡径量に比べて大きくなければならない。よって、外れ防止ストッパーの内径がデバイス係合部を通過させる程の径まで拡径することはないため、外れ防止ストッパーがデバイス係合部の後部係合面に係合し、セーフティーデバイスの後方への移動が阻止される。また、デバイス係合部が戻り防止ストッパーを乗り越えて通過した後には、戻り防止ストッパーが復元し、セーフティーデバイスの前方への移動が阻止される。これにより、セーフティーデバイスを容易に第1位置から第2位置に移動させつつも該第2位置に確実に固定することが可能となる。
【0021】
また、本発明に係る容器兼用注射器においては、前記戻り防止ストッパーの周方向位置から前記外れ防止ストッパーの周方向位置にかけて、前記軸線に平行に延びるスリットが形成されたことを特徴としている。
【0022】
これにより、外れ防止ストッパー及び戻り防止ストッパーがそれぞれ拡径し易くなるため、セーフティーデバイスを外筒の外周により容易に装着することができる。
【0023】
本発明に係る容器兼用注射器においては、前記外れ防止ストッパーが、前方側に向かうにしたがって前記容器兼用注射器本体の径方向内側に傾斜するように形成されており、前記戻り防止ストッパーが前記容器兼用注射器本体の径方向に弾性変形可能とされ、前記セーフティーデバイスの外周面に押圧リングが摺動可能に設けられ、該押圧リングを前記戻り防止ストッパーの位置に摺動させることによって、該戻り防止ストッパーを前記容器兼用注射器本体の径方向内側に向かって押圧して前記セーフティーデバイスの内周面から突出させることを特徴としている。
【0024】
このような特徴の容器兼用注射器によれば、セーフティーデバイスを前方から外筒の外周に装着する際に、外れ防止ストッパーの傾斜面が前部係合面に当接し、セーフティーデバイスの内周を容易に撓ませることによって、外れ防止ストッパーが係合部を速やかに乗り越えることができる。
また、通常はセーフティーデバイスの内側に突出していない戻り防止ストッパーが、押圧リングによって径方向外側から押圧されたときのみ内側に突出する構成とされている。従って、セーフティーデバイスを前方から外筒の外周に装着する際に、戻り防止ストッパーを内側に突出していない状態にしておくことによって、該戻り防止ストッパーが係合部に当接するのを回避できるため、その移動が阻止されることはなく、容易に装着することが可能となる。
【0025】
本発明に係る容器兼用注射器においては、前記付勢手段は前記軸線を中心としたコイルスプリングであって、前記セーフティーデバイスが前記外筒の外周に固定された前記第1位置に位置している状態において、該コイルスプリングが、前記セーフティーデバイスの後端側の内周壁面に形成されたバネ受け部と前記フィンガーグリップとの間に圧縮状態で装着されていることを特徴としている。
【0026】
このような特徴の容器兼用注射器によれば、セーフティーデバイスの後端側の内周壁面に形成されたバネ受け部と、注射器本体の後端側に固定されているフィンガーグリップとの間に圧縮された状態で設けられているコイルスプリングとが、第1保持手段によるセーフティーデバイスの第1位置での係止が解除された際に、フィンガーグリップに対して前方側に伸張して、これに伴ってセーフティーデバイスが前方に移動する。これにより、セーフティーデバイスを注射針を覆う第2位置に確実に移動させることができる。
【0027】
本発明に係る容器兼用注射器は、軸線に沿った円筒状をなし薬液が充填される外筒の前端側に、先端に注射針を装着した筒先が取り付けられるとともに、前記外筒の後端側に、フィンガーグリップが取り付けられた容器兼用注射器本体と、前記外筒の外周に摺動可能に装着される円筒形状をなし、先端方向に移動した際に前記注射針を覆うセーフティーデバイスを備えた容器兼用注射器において、前記筒先の一部が拡径して形成され、その前方側を向く端面が前部係合面とされるとともに、後方側を向く端面が後部係合面とされたデバイス係合部と、前記セーフティーデバイスの内周面に突設され、前記セーフティーデバイスが前記注射針の全域を覆う位置で前記前部係合面と係合し、前記セーフティーデバイスの後端方向への移動を阻止する戻り防止ストッパーと、前記セーフティーデバイスの内周面における前記戻り防止ストッパーよりも後方側に突設され、前記セーフティーデバイスが前記注射針の全域を覆う位置で前記後部係合面と係合し、前記セーフティーデバイスの先端方向への移動を阻止する外れ防止ストッパーとを備え、前記戻り防止ストッパーが、後方側に向かうにしたがって前記容器兼用注射器本体の径方向内側に傾斜するように形成されているとともに、前記外れ防止ストッパーが、前方側に向かうにしたがって前記容器兼用注射器本体の径方向内側に傾斜するように形成されており、前記戻り防止ストッパーの前記セーフティーデバイスの内周面からの高さが、前記外れ防止ストッパーの前記セーフティーデバイスの内周面からの高さよりも低く形成されていることを特徴としている。
【0028】
このような特徴の容器兼用注射器においては、上述したように、外れ防止ストッパーと戻り防止ストッパーとがセーフティーデバイスの装着の妨げとなることなく、該セーフティーデバイスを容易に外筒の外周に装着することが可能となる。また、セーフティーデバイスを容易に第1位置から第2位置に移動させつつも該第2位置に確実に固定することが可能となる。
【発明の効果】
【0029】
本発明の容器兼用注射器によれば、係止解除手段の操作することのみをもってセーフティーデバイスを確実に注射針を覆う位置に移動させることができるため、セーフティーデバイスを注射針を覆う位置に容易かつ確実に移動させて、安全性を確保することが可能となる。
また、本発明の容器兼用注射器によれば、外れ防止ストッパーの高さを戻り防止ストッパーよりも高く形成することで、セーフティーデバイスを注射器に容易に装着することができ、さらに、注射終了後の注射針を覆った状態で確実に固定することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】第1実施形態に係る容器兼用注射器の一部を断面とした側面図である。
【図2】第1実施形態に係る容器兼用注射器本体の一部を断面とした側面図である。
【図3】フィンガーグリップの側断面図である。
【図4】図5のA方向矢視図である。
【図5】図5のB方向矢視図である。
【図6】戻り防止ストッパーを突出状態とした第1実施形態のセーフティーデバイスの側面図である。
【図7】戻り防止ストッパーを後退状態とした第1実施形態のセーフティーデバイスの側面図である。
【図8】スライド部材の側断面図である。
【図9】図8のA方向矢視図である。
【図10】図8のB方向矢視図である。
【図11】スライド部材をフィンガーグリップに取り付けた状態において、スライド部材が待機位置に位置している状態の図である。
【図12】スライド部材をフィンガーグリップに取り付けた状態において、スライド部材が解除位置に位置している状態の図である。
【図13】プランジャロッドの側面図である。
【図14】図13のA−A断面図である。
【図15】図1のB−B断面図である。
【図16】注射前又は注射動作時において容器兼用注射器を後方側から見た図である。
【図17】注射完了時において容器兼用注射器を後方側から見た図である。
【図18】スライド部材を待機位置から解除位置に移動させた際に容器兼用注射器を後方側から見た図である。
【図19】セーフティーデバイスが注射針を覆った状態における第1実施形態に係る容器兼用注射器の一部を断面とした側面図である。
【図20】第2実施形態に係る容器兼用注射器の一部を断面とした側面図である。
【図21】第2実施形態のセーフティーデバイスの側面図である。
【図22】第2実施形態のセーフティーデバイスを後方側から見た図である。
【図23】第2実施形態の容器兼用注射器において、セーフティーデバイスを注射器本体に装着する際の戻り防止ストッパー及び外れ防止ストッパーの作用を説明する図である。
【図24】第2実施形態の容器兼用注射器において、セーフティーデバイスを第1位置から第2位置に移動させる際の戻り防止ストッパー及び外れ防止ストッパーの作用を説明する図である。
【図25】セーフティーデバイスが注射針を覆った状態における第2実施形態に係る容器兼用注射器の一部を断面とした側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明に係る容器兼用注射器の第1の実施形態について、図面を参照して説明する。
図1に示すように、第1実施形態における容器兼用注射器1は、軸線Oに沿って延びる容器兼用注射器本体10にセーフティーデバイス50が装着されて構成されており、セーフティーデバイス50を注射針から外れた第1位置に係脱可能に係止する第1保持手段と、セーフティーデバイス50を容器兼用注射器本体10の注射針37を覆う第2位置に係止する第2保持手段と、セーフティーデバイス50を第1位置から第2位置方向に向かって付勢するコイルスプリング(付勢手段)70と、第1保持手段による係止を解除するスライド部材(係止解除手段)80とを備えている。
なお、以下では、容器兼用注射器本体10の径方向を単に径方向と、先端側を前方と、後端側を後方と称することとする。
【0032】
図2に示すように、容器兼用注射器本体10は、外筒20と、該外筒20の前端側(図2における左側)に取り付けられ、先端に注射針37が装着されたハブルアーロック(筒先)30と、外筒20の後端側(図2における)に取り付けられたフィンガーグリップ40とから構成されている。
【0033】
外筒20は、例えばガラスや合成樹脂等の透明部材からなり、軸線Oに沿って伸びる円筒形状をなしている。この外筒20の内部には薬液(図示省略)が充填されており、該薬液の後方側が、外筒20内に液密に設けられたストッパー(図示省略)によって封止されている。
【0034】
ハブルアーロック30は、適度な剛性を備えた透明な合成樹脂からなる軸線Oを中心とした外形多段円柱状をなしており、円筒形状をなして基端側に位置するデバイス係合部31と、該デバイス係合部31の先端側に一段縮径するように結合された円筒部32と、該円筒部32よりも小径に形成されて該円筒部32の先端側に結合されるとともに、軸線Oに沿って先端側に向かって延びるルアー先33と、該ルアー先33の径方向外側に間隔を空けて円筒部32の先端側に結合され、軸線Oを中心とした円筒状をなすルアーロック部34とを備えている。
【0035】
上記デバイス係合部31の内側には、後方側に開口して上記外筒20前端外周が嵌り込む嵌合孔35が形成されており、これによりハブルアーロック30が外筒20前端に強固に一体化されるようになっている。また、該デバイス係合部31の前方側を向く端面、即ち、デバイス係合部31と円筒部32との段差部は前部係合面31aとされ、後方側を向く端面が後部係合面31bとされている。これら前部係合面31a及び後部係合面31bは、それぞれデバイス係合部31における軸線Oを中心とした円筒面状をなす外周面31cに対して直交している。
【0036】
上記デバイス係合部31の嵌合孔35の前方側、即ち、円筒部32の内側には、有底穴状をなすバイパスチャンバー36が形成されている。このバイパスチャンバー36は、その内径が嵌合孔35よりも一段小径とされた有底穴であって、その内周壁には、軸線Oと平行に延びる複数のバイパス溝36aが周方向に等間隔に形成されている。これらバイパス溝36aはそれぞれバイパスチャンバー36の底部36b中央まで延びている。また、このバイパス溝36aの後端は、バイパスチャンバー36と嵌合孔35との境界に軸線Oを中心として形成された環状溝36cによって連結されている。
【0037】
また、上記ルアー先33はその外周面が前方側に向かうに従って縮径するテーパ外周面33aとされており、またその内部には、ルアー先33内を軸線Oに沿って前後に貫通してバイパスチャンバー36の底部36bの中央に連通する連通孔33bが穿設されている。
さらに、上記ルアーロック部34の内周面には、注射針37の針基を係止するためのロックネジ34aが形成されている。
【0038】
注射針37は、軸線Oに沿って前方側に向かって延びる注射針本体38と、該注射針本体38の基端側に位置する針基39とから構成されている。針基39は、その後端部に前方側に向かうに従って軸線Oを中心として漸次縮径するテーパ穴39aを備えており、さらに、後端部外周側に向かって突出する螺合突起39bを備えている。この針基39のテーパ穴39aがルアー先33のテーパ外周面33aに嵌合するとともに、螺合突起39bがルアーロック部34のロックネジ34aに螺合することで、注射針37がハブルアーロック前端に強固に固定一体化されている。
【0039】
フィンガーグリップ40は、詳しくは図3及び図4に示すように、円筒形状をなす嵌着部41と、該嵌着部41の後端部から径方向外側に向かって張り出すフランジ部45とを備えている。
嵌着部41は、その内周側が上記外筒20の後端部が嵌め込まれる嵌着孔42とされており、該嵌着部41の後端側には後方に向かって開口し嵌着部よりも小径をなす挿通孔43が形成されている。
また、該嵌着部41の後端外周部には、周方向に180°の間隔を空けて、かつ、軸線O方向の同一位置に、径方向外側に向かって略円柱状に突出する一対の係止凸部(係止部)44,44が形成されている。
さらに、この係合凸部44,44の直ぐ前方側の嵌着部41の外周面には、軸線Oを中心とした環状をなして前方側を向くスプリング当接段部41aが形成されている、このスプリング当接段部41aには、コイルスプリング70の後端部が当接する。
【0040】
フランジ部45は、後方視において、上記係止凸部44,44を通る直線k1に沿った方向が短手方向とされ、直線k1及び軸線Oに直交する直線k2に沿った方向が長手方向とされた略矩形状をなしている。また、該フランジ部45の後方側を向く面は平坦状をなすフランジ面46とされており、該フランジ面46の中央に上記挿通孔43が円形をなして開口している。
【0041】
図4に示すように、フランジ部45の直線k1を境界とした一方側(図3及び図4における直線k1を境界とした上側)のフランジ面46上には、直線k2を中心として両側に所定間隔離間した位置に一対の第1ガイド部47,47が設けられている。この第1ガイド部47,47は、フランジ面46から垂直に立設されるとともに直線k2と平行に延在する側方ガイド47a,47aと、これら側方ガイド47a,47aの上縁における直線k1寄り、即ち後方視における上記係止凸部44,44寄りの部分からそれぞれ互いに近接する方向、即ち直線k2に向かう方向に延在する上方ガイド47b,47bとから構成されている。
さらに、この一方側のフランジ面46の直線k2上、かつ、直線k1側の反対側寄り、即ち、径方向外側寄りの位置には、球面状に窪む係止凹部46aが形成されている。
【0042】
また、フランジ部45の直線k1を境界とした他方側(図3及び図4における直線k1を境界とした下側)のフランジ面46上には、直線k2を中心として両側に所定間隔離間した位置に一対の第2ガイド部48,48が設けられている。この第2ガイド部48,48は、図3〜図5に示すように、フランジ面46から垂直に立設されるとともに直線k2と平行に延在する側方ガイド48a,48aと、これら側方ガイド48a,48aの上縁からからそれぞれ互いに近接する方向、即ち直線k2に向かう方向に延在する上方ガイド48b,48bとから構成された略L字状をなしている。なお、これら一対の第2ガイド部48,48の離間距離は、上記一対の第1ガイド部47,47の離間距離よりも一段小さなものとされている。
【0043】
このような部材から構成される容器兼用注射器本体10の外周には、セーフティーデバイス50が装着される。このセーフティーデバイス50は図1、図6及び図7に示すように、セーフティーデバイス本体51と押圧リング60とから構成されている。
【0044】
セーフティーデバイス本体51は、例えばポリプロピレン等の透明で適度な可撓性を有する材質によって強度が維持できる範囲で薄く成形され、図6及び図7に示すように軸線Oを中心とした略円筒形状をなしている。なお、このセーフティーデバイス本体51の内径は、上記デバイス係合部31の外周面31cの外径と略同一に形成されている。
セーフティーデバイス本体51の後端側部分は他の部分に比べて一段拡径しており、このように拡径することによりその内周面に形成された後方を望む段差部が、コイルスプリング70の先端側が当接するバネ受け部52とされている。
【0045】
このバネ受け部52のすぐ前方側には、径方向内側に向かって突出し、前方側に向かうに従って径方向内側に傾斜する傾斜面53aを有する外れ防止ストッパー53が、周方向に等間隔を空けて複数形成されている。
【0046】
さらに、外れ防止ストッパー53の前方側には、押圧リング60により径方向内側に押圧されることによって、内周面から径方向内側に突出する戻り防止ストッパー54が、周方向に等間隔を空けて複数設けられている。なお、本実施形態においては、外れ防止ストッパー53と戻り防止ストッパー54とが周方向の位置が一致した状態で配置されているが、互いに周方向の位置が異なるように配置されていてもよい。
【0047】
この戻り防止ストッパー54は、図7に示すように、押圧リング60に押圧されていない非押圧状態においては、その後方側及び周方向両側の三方向を囲むようにコの字スリット55が形成されており、これによって径方向に沿って板バネ状に撓むように構成されている。また、非押圧状態において、戻り防止ストッパー54の外周側を向く面は、後方に向かうに従って径方向外側に向かって漸次傾斜する被押圧面54aとされている。この被押圧面54aが押圧リング60によって径方向内側に押圧されることで、戻り防止ストッパー54の内周側を向く面が、後方側に向かって径方向内側に傾斜する傾斜面54bとされる。
【0048】
上記外れ防止ストッパー53と戻り防止ストッパー54とによって、セーフティーデバイス50が前方側に移動して注射針37を覆った第2位置において該セーフティーデバイス50を係止する第2保持手段が構成されている。
【0049】
また、上記戻り防止ストッパー54の前方側及びコの字スリット55を介しての後方側には、
該戻り防止ストッパー54を軸線O方向両側から挟むようにして、一対のリング二次停止突起56a,56bが設けられている。
この一対のリング二次停止突起56a,56bのうち、前方側に位置するリング二次停止突起56aは、後方側に向かうに従って漸次径方向外側に拡径するように傾斜しており、後方側に位置するリング二次停止突起56bは、前方側に向かうに従って漸次径方向外側に拡径するように傾斜している。
また、前方側のリング二次停止突起56aのさらに前方側には、径方向外側に向かって突出したリング一次停止突起57が周方向に一定間隔空けて複数形成されている。
【0050】
上記セーフティーデバイス本体51に装着される押圧リング60は、図6及び図7に示すように、軸線O方向の長さがセーフティーデバイス本体51よりも十分に短い円筒形状を有しており、例えばポリプロピレン等の透明で適度な可撓性を有する材質によって強度が維持できる範囲に薄く成形されている。また、この押圧リング60の内径はセーフティーデバイス本体51の外周面の外径と略同一に形成されており、これによって、セーフティーデバイス本体51の外周面を軸線O方向に沿って摺動することができるようになっている。
【0051】
このような押圧リング60は、戻り防止ストッパー54の非押圧状態においては、図7に示すように、リング一次停止突起57の直ぐ後方側に位置しており、該リング一次停止突起57によって、それ以上前方側に移動しないように固定されている。また、この状態において、押圧リング60の後端は前方側のリング二次停止突起56aの傾斜に当接しており、これによって、押圧リング60が不用意に後方側に移動することがないよう係止されている。
【0052】
この押圧リング60によって戻り防止ストッパー54を押圧状態にするには、押圧リング60をセーフティーデバイス本体51に対して後方側に相対移動させる。この際、この相対移動させる力がある程度大きいと、押圧リング60の内周面が前方側のリング二次停止突起56aの傾斜を乗り上げるようにして後方側への移動が可能となる。
そして、このようにしてリング二次停止突起56aを乗り越えた押圧リング60は、その内周面でもって戻り防止ストッパー54の被押圧面を押圧し、これによって、図7に示すように、戻り防止ストッパー54が径方向内側に向かって突出する。なお、この際、押圧リング60は、前方側及び後方側がリング二次停止突起56a,56bに当接し、該押圧リング60の軸線O方向の移動が固定される。
【0053】
そして、このようなセーフティーデバイス50におけるセーフティーデバイス本体51には、その外周面の後端から後方に向かって軸線Oに平行に矩形板状に延出する係合板(係合部)58が、互いに平行に対向するようにして周方向に180°間隔を空けて一対形成されている。この係合板58は、セーフティーデバイス本体51の外周面との接続部58aを支点として径方向に向かって弾性変形可能とされており、その厚み方向(径方向)に貫通して形成された円形の係合孔58bを備えている。この係合孔58bの内径は、容器兼用注射器本体10におけるフィンガーグリップ40の嵌着部41に形成された係止凸部44の外径と略同一に形成されており、係合孔58b内に係止凸部44が嵌め込まれることで、係止凸部44が係合板58を係止するようになっている。なお、これら係合板58と係止凸部44との係止を解除するには、係合板58を接続部58aを支点として径方向外側に弾性変形させて係止凸部44が係合孔58bから外れるようにすればよい。
【0054】
以上のような構成のセーフティーデバイス50は、図1に示すように、容器兼用注射器本体10に外嵌される。なお、この状態のセーフティーデバイス50においては押圧リング60が戻り防止ストッパー54を押圧した状態にあり、これにより戻り防止ストッパー54が径方向内側に向かって突出している。
この際、セーフティーデバイス50の後端側の拡径部分にはフィンガーグリップ40の嵌着部41に対して径方向に隙間を空けて外嵌され、この隙間部分に軸線O方向に伸縮可能とされた円筒状をなすコイルスプリング70が、その前端側をセーフティーデバイス本体51の内周側に形成されたバネ受け部52に、その後端側をフィンガーグリップ40の嵌着部41のスプリング当接段部41aにそれぞれ当接するようにして圧縮状態にて収納される。
また、セーフティーデバイス50の一対の係合板58,58の係合孔58b、58bにフィンガーグリップ40の係止凸部44,44がそれぞれ嵌め込まれ、係合板58,58と係止凸部44,44とが係止状態となる。これによって、フィンガーグリップ40に対してセーフティーデバイス50が固定されるため、上記コイルスプリング70を圧縮状態で収納することが可能となり、さらに、セーフティーデバイス50自体のコイルスプリング70の付勢力による移動が阻止される。
【0055】
このように、セーフティーデバイス50の係合板58とフィンガーグリップ40の係止凸部44とが係止状態にある際には、セーフティーデバイス50は、容器兼用注射器本体10の外筒20及びハブルアーロック30の外周側を覆っており、この状態のセーフティーデバイス50の位置が、該セーフティーデバイス50が注射針37から外れて該注射針37を露呈させた第1位置とされている。また、係合板58と係止凸部44とで、セーフティーデバイス50を第1位置に係止する第1保持手段が構成されている。
【0056】
なお、セーフティーデバイス50が第1位置に位置している際には、該セーフティーデバイス50の係合板58の端部は、フィンガーグリップ40のフランジ面46よりも後方側に突出するように延びている。
【0057】
次に、上記第1保持手段による係止を解除するスライド部材(係止解除手段)80について説明する。このスライド部材80は、上記フィンガーグリップ40のフランジ面46上をスライド可能に配置されるものであって、略矩形板状をなすスライド板81と、該スライド板81の表板面(容器兼用注射器1の後方側を向く面)81aから垂直に延出する操作板87とを備えている。また、このスライド部材80は、容器兼用注射器1の後方視において、図9に示すように、直線m1を中心とした対称形状をなしている。
【0058】
スライド板81は、上記直線m1の延在方向を長手方向と、該長手方向に直交する方向を短手方向とした略矩形板状をなしている。また、表板面81aの厚み方向に対向する面は、裏板面81bとされており、該裏板面81bがフランジ面46と接触することでフランジ面46上をスライド可能とされている。また、裏板面81bにおける長手方向の一方側寄り(図9における上側)かつ、短手方向中央部、即ち、直線m1上の位置には、凸曲面状に突出するスライド板係止部81cが形成されている。該スライド板係止部81cは上記フィンガーグリップ40のフランジ面46の係止凹部46aと係止可能とされている。
【0059】
また、スライド板81の長手方向に沿った一対の側面82,82同士の間隔は、上記一方側よりも他方側(図9における下方側)の方が狭いものとなっており、即ち、側面82,82は、それぞれ、一方側寄りに位置し互いに所定の間隔で離間する第1側面82a,82aと、他方側寄りに位置し第1側面82a,82a同士の間隔よりも小さい間隔で互いに離間する第2側面82b,82bを備えている。そして、それぞれの側面82、82において、上記第1側面82a,82aと第2側面82b,82bとの境界部が、一方側から他方側に向かうに従って、互いに近接する方向、即ち、フランジ面46に配置された状態における径方向に向かって漸次傾斜する傾斜側面82c,82cとされている。
【0060】
また、図9に示すように、スライド板81の短手方向の中央部、即ち、直線m1上には、該スライド板81を厚み方向に貫通する貫通孔83が形成されている。
この貫通孔83は、他方側寄りに配置され、所定の内径D1を有する大径孔84と、該大径孔84から上記一方側に向かって所定の内径D2を維持したまま連続的に延びる小径スリット85とから構成されている。なお、小径スリット85の内径D2は、大径孔84の内径D1よりも小さなものとされている。
【0061】
そして、上記のようなスライド板81の貫通孔83よりもさらに一方側には、表板面81aから垂直に立設されるとともに、短手方向に延在する板状をなす操作板87が設けられている。
【0062】
このようなスライド部材80をフィンガーグリップ40に取り付けた状態を図11に示す。スライド部材80は、その裏板面81bをフランジ部45のフランジ面46に面接触させて、該フランジ面46の一方側(図11における上側)寄りに配置される。この際、スライド部材80の一対の第1側面82a,82aが、フランジ部45の第1ガイド部47,47の側方ガイド47a,47aにそれぞれ接触し、スライド部材80の一対の第2側面82b,82bが第2ガイド部48,48の側方ガイド48a,48aに接触する。また、スライド部材80の第1側面82a,82aが、上記第1位置にあるセーフティーデバイス50の係合板58,58の内側面にそれぞれ接触している。さらに、スライド部材80の貫通孔83のうち、大径孔84の中心が軸線Oに一致し、これにより、大径孔84とフィンガーグリップ40の後端の挿通孔43(図11において図示省略)とが連通状態となる。
【0063】
このように、第2側面82b,82bが係合板58,58に接触し、かつ、大径孔84の中心が軸線Oに一致した状態が、スライド部材80が容器兼用注射器1の径方向外側寄りに位置された待機位置とされている。この待機位置においては、スライド部材80はスライド板係止部81cをフランジ面46の係止凹部46aに嵌め込むことによって、フランジ面46上に係止されている。
【0064】
また、図13に示すように、スライド部材80が容器兼用注射器1の径方向内側に向かって、即ち、スライド方向に向かってスライドし、該スライド部材80の第1側面82a,82aが係合板58,58に接触し、小径スリット85内に軸線Oが存在する位置が、スライド部材80が容器兼用注射器1の径方向内側寄りに位置された解除位置とされている。なお、この際、軸線Oと小径スリット85の最も一方側に位置する端部との距離は、少なくとも小径スリット85の内径D2の半分以上の長さとされている。
【0065】
このような容器兼用注射器1には、外筒20内を後方側から液密に密封するストッパー(図示省略)を前方側に向かって押し込むプランジャロッド90が、その後方側からスライド部材80の貫通孔83及びフィンガーグリップ40の挿通孔43を貫通して外筒20に挿入されている。
このプランジャロッド90は、図13に示すように、軸線Oに沿って延びるロッド部91を備えており、該ロッド部91の前端側に、ストッパーにねじ込まれて該ストッパーに連結されるねじ込み部94が設けられ、その後端側に、ストッパーを押し込む際に圧力をかける押し込み部95が設けられている。
また、上記ロッド部91は、互いに外径の異なる大径ロッド部92と小径ロッド部93とを有している。
【0066】
大径ロッド部92は、図14に示すように、軸線Oに直交する断面形状が、略円形に対してその一方側及び該一方側と対向する他方側から、それぞれ2つのスリット92aを刻んだ形状をなしている。
また、この大径ロッド部92の外径d1は、上記スライド部材80の大径孔84の内径D1と等しいか僅かに小さく、かつ小径スリット85の内径D2よりも大きく形成されている。これにより、大径ロッド部92は、貫通孔83に対して、大径孔84に挿通可能かつ小径スリット85に挿通不能とされている。
小径ロッド部93は、図15に示すように、軸線Oに直交する断面形状が、略円形に対して、周方向等間隔の4箇所をL字状に切り欠いて形成された略十字状をなしている。
また、この小径ロッド部93の外径d2は、上記スライド部材80の小径孔85aの内径D2と同一か僅かに小さく形成されている。これにより、小径ロッド部93は、貫通孔83に対して、大径孔84と小径孔85aとの両方に挿通可能とされている。
そして、ロッド部91においては、図13に示すように、上記大径ロッド部92が大部分を占めるように軸線O方向に延びており、第大径ロッド部92の後端側に絞り込まれるようにして小径ロッド部93が形成されている。
【0067】
このようなプランジャロッド90は、該プランジャロッド90が最も後方に引かれてストッパーを前方に移動させる前である注射前、及び、プランジャロッド90を前方側に向かって押し込んでストッパを前方に移動させる注射動作時においては、ロッド部91のうち大径ロッド部92がスライド部材80の貫通孔83、即ち大径孔84を挿通した状態となる。
一方、プランジャロッド90が最も前方に押し込まれてストッパが最前方に移動した注射完了時には、ロッド部91のうち小径ロッド部93がスライド部材80の貫通孔83を挿通した状態となる。
【0068】
以上のような構成の容器兼用注射器1は、注射完了後にスライド部材80をスライドさせることにより、セーフティーデバイス50によって注射針37を覆うことができる。以下、その手順について説明する。
図16は注射前におけるフィンガーグリップ40及びスライド部材80を後方側から見た図である。この状態においては、スライド部材80が待機位置に配置されており、プランジャロッド90の大径ロッド部92がスライド部材80の貫通孔83の大径孔84を挿通している。この際、フィンガーグリップ40を持った状態でスライド部材80の操作板87を例えば親指で押すことによりスライド部材80を待機位置から解除位置側にスライドさせようとしても、プランジャロッド90の大径ロッド部92の外径d1が小径スリット85の内径D2よりも大きいために、大径ロッド部92を小径スリット85に挿通状態とすることができず、スライド部材80のスライド移動が妨げられる。したがって、この状態において、スライド部材80を解除位置にスライドさせることはできない。
【0069】
また、プランジャロッド90を押し込んで患者に対して注射行為を行う注射動作時においても、スライド部材80の貫通孔83にプランジャロッド90の大径ロッド部92が挿通された状態にあるため、上記注射前と同様にスライド部材80を解除位置にスライドさせることはできない。
【0070】
そして、プランジャロッド90を前方まで完全に押し込み、患者に対して注射行為を終えた注射完了時においては、図17に示すように、プランジャロッド90の小径ロッド部93がスライド部材80の貫通孔83内に挿通状態となる。この際、小径ロッド部93の外径d2が小径スリット85の内径D2よりも小さいことから、スライド部材80をスライド方向にスライドさせると、小径ロッド部93が大径孔84から小径スリット85に入り込むようにして、小径スリット85を挿通した状態になる。これによって、小径ロッド部93がスライド移動の妨げとなることはなく、スライド部材80を解除位置にスライドさせることができる。
【0071】
そして、スライド部材80の待機位置から解除位置への移動の際には、図16に示すように待機位置においてスライド部材80の第2側面82b,82bと当接状態にあった係合板58,58が、スライド移動に伴って傾斜側面82c,82cを乗り上げて、図17に示すように、スライド部材80の第1側面82a,82aに当接状態となる。即ち、傾斜側面82c,82cを乗り上げる際に、一対の係合板58,58がセーフティーデバイス本体51の外周面との接続部58aを支点として径方向外側に向かって互いに離間するようにそれぞれ弾性変形するのである。
これによって、係合板58の係合孔58bからフィンガーグリップ40の係止凸部44が外れ、これら係合板58と係止凸部44との係止状態、即ち、第1保持手段による係止状態が解除される。
【0072】
このように第1保持手段によるセーフティーデバイス50の係止状態が解除されると、コイルスプリング70の付勢力によって該セーフティーデバイス50は容器兼用注射器本体10の前方側へ移動する。このとき、戻り防止ストッパー54の傾斜面54bがデバイス係合部31の後部係合面31bに当接するが、当該後部係合面31bが傾斜面54bを乗り上げるようにしてセーフティーデバイス50の内周が拡径し、戻り防止ストッパー54がデバイス係合部31を乗り越える。
【0073】
その後、図19に示すように、注射針37の周囲がセーフティーデバイス50によって完全に覆われる位置である第2位置に移動すると、外れ防止ストッパー53とデバイス係合部31の後部係合面31bとが係合し、セーフティーデバイス50のそれ以上の前方への移動が阻止される。さらに、この状態でセーフティーデバイス50を後端方向へ移動させようとしても、戻り防止ストッパー54とデバイス係合部31の前部係合面31aとが係合するため、その移動は阻止される。即ち、外れ防止ストッパー53と戻り防止ストッパー54とからなる第2保持手段によって、セーフティーデバイスが第2位置に係止される。
【0074】
以上のような容器兼用注射器1によれば、係止解除手段としてのスライド部材80を待機位置から解除位置にスライド移動させる動作をもって、第1保持手段(係合板58と係止凸部44)によるセーフティーデバイス50の第1位置での係止を解除することができる。これによって、セーフティーデバイス50が注射針を覆う第2位置に移動するため、容易かつ確実に注射針を覆って取扱い性及び安全性を向上させることが可能となる。
【0075】
また、スライド部材80のスライド移動は、フィンガーグリップ40を片手で持った状態で該フィンガーグリップ40を持った手の親指で容易に行うことができるため、片手のみの作業でもってセーフティーデバイス50を前方側に移動させることができる。従って、取扱い性に優れた容器兼用注射器1を提供することが可能となる。
【0076】
さらに、本実施形態の容器兼用注射器1においては、スライド部材80を待機位置から解除位置にスライド移動させる際に、スライド部材80の傾斜側面82cがセーフティーデバイス50の係合板58を径方向外側に向かって押し上げることにより、該係合板58と係止凸部44とからなる第1保持手段による係止を容易かつ確実に解除することができる。
【0077】
また、注射前及び注射動作時には、プランジャロッド90の大径ロッド部92の存在によってスライド部材80のスライド移動が妨げられ、注射完了時には、スライド部材80の貫通孔83をプランジャロッド90の小径ロッド部93が挿通した状態となることによりスライド部材80のスライド移動が許容される。
したがって、注射完了時のみに、スライド部材80を待機位置から解除位置にスライドさせることができるため、注射前や動作時にセーフティーデバイス50が誤作動してしまうことを確実に防止することが可能となる
【0078】
さらに、一旦セーフティーデバイス50によって注射針37が覆われれば、デバイス係合部31が外れ防止ストッパー53と戻り防止ストッパー54とによって軸線O方向両側から固定される。即ち、外れ防止ストッパー53と戻り防止ストッパー54とからなる第2保持手段によって、セーフティーデバイス50を第2位置に確実に係止することができる。したがって、セーフティーデバイス50が前端方向に進み過ぎて容器兼用注射器本体10から外れたり、後端方向に移動して注射針37が露出したりすることはない。
【0079】
さらにまた、セーフティーデバイス50の戻り防止ストッパー54は、押圧リング60によって押圧した場合のみ径方向内側に突出する構成とされているため、セーフティーデバイス50を容器兼用注射器本体10に容易に装着しつつも、セーフティーデバイス50を注射針を覆った位置で確実に固定することが可能となる。
即ち、セーフティーデバイス50を前方から容器兼用注射器本体10の外周に装着する際に、外れ防止ストッパー53の傾斜面53aが前部係合面31aに当接し、セーフティーデバイス50の内周を容易に撓ませることによって、外れ防止ストッパー53がデバイス係合部31を速やかに乗り越えることができる。また、この装着の際に、戻り防止ストッパー54を径方向内側に突出していない状態にしておくことができるため、該戻り防止ストッパー54がデバイス係合部31に当接することはない。よって、外れ防止ストッパー53及び戻り防止ストッパー54を備えようとも、セーフティーデバイスの装着を容易に行うことが可能となる。
【0080】
次に、本発明に係る容器兼用注射器の第2の実施形態について説明する。第2実施形態の容器兼用注射器2は、ハブルアーロック30の形状について第1の実施形態とは相違する。さらに、第2実施形態の容器兼用注射器2は、セーフティーデバイス50において、より詳しくはセーフティーデバイス50を注射針37を覆う第2位置に固定する第2保持手段において、第1の実施形態の容器兼用注射器1とは相違する。
第2実施形態の容器兼用注射器2は、上記ハブルアーロック30及びセーフティーデバイス50以外の構成要素については第1の実施形態と同様とされている。したがって、図20〜25において、第1の実施形態と同様の構成要素には、同一の符号を付して詳細な説明を省略する。また、第1の実施形態ど同様に、容器兼用注射器本体10の径方向を単に径方向と、先端側を前方と、後端側を後方と称することとする。
【0081】
図20に示すように、第2実施形態のハブルアーロック100は、適度な剛性を備えた透明な合成樹脂からなる軸線Oを中心とした外形多段円柱状をなしており、円筒形状をなして基端側に位置する基端部101と、基端部101の前端側に一段縮径するように結合された円筒部102と、該円筒部102よりも小径に形成されて該円筒部102の先端側に結合されるとともに、軸線Oに沿って先端側に向かって延びるルアー先103と、該ルアー先103の径方向外側に間隔を空けて円筒部102の先端側に結合され、軸線Oを中心とした円筒状をなすルアーロック部104とを備えている。
【0082】
上記基端部101の内側には、後方側に開口して外筒20前端外周が嵌り込む嵌合孔105が形成されており、これによりハブルアーロック100が外筒20前端に強固に一体化されるようになっている。
【0083】
上記基端部101の該嵌合孔105の前方側、即ち、円筒部102の内側には、有底穴状をなすバイパスチャンバー106が形成されている。このバイパスチャンバー106は、その内径が嵌合孔105よりも一段小径とされた有底穴であって、その内周壁には、軸線Oと平行に延びる複数のバイパス溝106aが周方向に等間隔に形成されている。これらバイパス106aはそれぞれバイパスチャンバー106の底部106b中央まで延びている。また、このバイパス溝106aの後端は、バイパスチャンバー106と嵌合孔105との境界に軸線Oを中心として形成された環状溝106cによって連結されている。
【0084】
また、上記ルアー先103はその外周面が前方側に向かうに従って縮径するテーパ外周面103aとされており、またその内部には、ルアー先103内を軸線Oに沿って前後に貫通してバイパスチャンバー106の底部106bの中央に連通する連通孔103bが穿設されている。
さらに、上記ルアーロック部104の内周面には、注射針37の針基を係止するためのロックネジ104aが形成されている。
【0085】
そして、このようなハブルアーロック100の後端部、即ち、基端部101の後端部には、径方向外側に向かって環状をなすように張り出すデバイス係合部110が一体に形成されている。このデバイス係合部110は、その径方向外側を向く円筒面が外周面110cとされている。
また、デバイス係合部110の前方側を向く端面、即ち、デバイス係合部110と円筒基端部101との段差部は前部係合面110aとされ、後方側を向く端面が後部係合面110bとされている。これら前部係合面110a及び後部係合面110bは、外周面110cに対して直交している。
【0086】
第2実施形態のセーフティーデバイス120は、例えばポリプロピレン等の透明で適度な可撓性を有する材質によって強度が維持できる範囲で薄く成形され、図21及び図22に示すように軸線Oを中心とした略円筒形状をなしている。なお、このセーフティーデバイス120の内周面120aの内径は、上記デバイス係合部110の外周面110cの外径と略同一か僅かに大きい程度に形成されている。
【0087】
このセーフティーデバイス120の後端側部分は他の部分に比べて一段拡径しており、このように拡径することによりその内周面に形成された後方を望む段差部が、コイルスプリング70の先端側が当接するバネ受け部122とされている。
【0088】
このバネ受け部122のすぐ前方側には、径方向内側に向かって突出し、前方側に向かうに従って径方向内側に傾斜する傾斜面123aを有する外れ防止ストッパー123が、周方向に等間隔を空けて複数(本実施形態では4つ)形成されている。
【0089】
さらに、外れ防止ストッパー123の前方側、より詳細には、上記デバイス係合部の軸線O方向の長さ分だけ前方側には、径方向内側に向かって突出し、後方側に向かうに従って径方向内側に傾斜する傾斜面124aを有する戻り防止ストッパー124が、周方向に等間隔を空けて複数(本実施形態では4つ)形成されている。
【0090】
なお、本実施形態においては、外れ防止ストッパー123と戻り防止ストッパー124とが、セーフティーデバイス120の周方向の異なる箇所にそれぞれ形成されているが、これら外れ防止ストッパー123と戻り防止ストッパー124とが、周方向が一致する箇所に形成されていてもよい。
【0091】
上記のような外れ防止ストッパー123と戻り防止ストッパー124とは、セーフティーデバイス120の内周面120aからの高さ、即ち、該内周面120aからの径方向内側方向への高さは、互いに異なるものとされている。
より詳細には、本実施形態においては、戻り防止ストッパー124の内周面120aからの高さが、外れ防止ストッパー123の内周面120aからの高さよりも低く形成されている。なお、複数の外れ防止ストッパー123の内周面120aからの高さはそれぞれ同一とされ、また、複数の戻り防止ストッパー124の内周面120aからの高さもそれぞれ同一とされている。
【0092】
また、外れ防止ストッパー123の周方向から戻り防止ストッパー124の周方向にかけては、軸線Oに平行に延びるスリット125が周方向に間隔を空けて複数形成されている。
【0093】
そして、このようなセーフティーデバイス120には、その外周面の後端から後方に向かって軸線Oに平行に矩形板状に延出する係合板(係合部)128が、周方向に180°間隔を空けて一対形成されている。この係合板128は、セーフティーデバイス120の外周面との接続部128aを支点として径方向に沿って弾性変形可能とされており、その厚み方向、即ち径方向に貫通して形成された円形の係合孔128bを備えている。この係合孔128bの内径は、容器兼用注射器本体10におけるフィンガーグリップ40の嵌着部41に形成された係止凸部44の外径と略同一に形成されており、これにより、係合孔128b内に係止凸部44が嵌め込まれて、係合板128と係止凸部44とが互いに係止するようになっている。なお、これら係合板58と係止凸部44との係止を解除するには、係合板128を接続部128aを支点として径方向外側に弾性変形させて係止凸部44が係合孔128bから外れるようにすればよい。即ち、この係合板128は、第1実施形態の係合板58と同一の構成、機能を有している。
【0094】
以上のような構成のセーフティーデバイス120は、図20に示すように、容器兼用注射器本体10に外嵌される。
この際、該セーフティーデバイス120の後端側の拡径部分はフィンガーグリップ40の嵌着部41が径方向に隙間を空けて外嵌され、この隙間部分に、軸線O方向に伸縮可能とされた円筒状をなすコイルスプリング70が、圧縮された状態で、その前端側をセーフティーデバイス120の内周側に形成されたバネ受け部122に、その後端側をフィンガーグリップ40の嵌着部41のスプリング当接段部41aにそれぞれ当接するように収納される。
また、セーフティーデバイス120の一対の係合板128,128の係合孔128b、128bにフィンガーグリップ40の係止凸部44,44がそれぞれ嵌め込まれ、係合板128,128と係止凸部44,44とが係止状態となる。これによって、フィンガーグリップ40に対してセーフティーデバイス120が固定されるため、上記コイルスプリング70を圧縮状態で収納することが可能となり、さらに、セーフティーデバイス120自体がコイルスプリング70の付勢力によって移動することはない。
【0095】
なお、このように、セーフティーデバイス120の係合板128とフィンガーグリップ40の係止凸部44とが係止状態にある際には、セーフティーデバイス120は、容器兼用注射器本体10の外筒20及びハブルアーロック100の外周側を覆っており、この状態のセーフティーデバイス120の位置が、該セーフティーデバイス120が注射針37から外れて該注射針37を露呈させた第1位置とされている。また、係合板128と係止凸部44とで、セーフティーデバイス120を第1位置に係止する第1保持手段が構成されている。この点は、第1実施形態と同様である。
なお、セーフティーデバイス120が第1位置に位置している際には、該セーフティーデバイス120の係合板128の端部は、フィンガーグリップ40のフランジ面46よりも後方側に突出するように延びている。
【0096】
以上のような容器兼用注射器2によれば、第1実施形態と同様に、係止解除手段としてのスライド部材80を待機位置から解除位置にスライド移動させる動作をもって、第1保持手段(係合板128と係止凸部44)によるセーフティーデバイス120の第1位置での係止を解除されセーフティーデバイス120が注射針37を覆う第2位置に移動するため、容易かつ確実に注射針を覆って取扱い性及び安全性を向上させることが可能となる。
また、スライド部材80のスライド移動は、フィンガーグリップ40を片手で持った状態で該フィンガーグリップ40を持った手の親指で容易に行うことができるため、片手のみの作業でもってセーフティーデバイス120を前方側に移動させることができる。従って、取扱い性に優れたセーフティーデバイス120を備えた容器兼用注射器2を提供することが可能となる。
【0097】
また、第2実施形態の容器兼用注射器2によれば、簡易な構成でもって、セーフティーデバイス120を外筒20の外周に容易に装着でき、かつ、セーフティーデバイス120を注射針を覆った位置で確実に固定することができる。以下この点について図23及び図24を用いて説明する。
【0098】
図23に、セーフティーデバイス120を容器兼用注射器本体10の前方側から装着する際のセーフティーデバイス120及びデバイス係合部110の模式図を示す。この図23においては、説明を簡単にするために、外れ防止ストッパー123と戻り防止ストッパー124との周方向の位置を同一にしている。
図23(a)に示すように、上記装着の際には、容器兼用注射器本体10のハブルアーロック100のデバイス係合部110がセーフティーデバイス120の内側を後方から前方に向かって相対移動する。
【0099】
そして、図23(b)に示すように、外れ防止ストッパー123の傾斜面123aがデバイス係合部110の前部係合面110aに当接し、該デバイス係合部110が傾斜面123aを乗り上げることで、外れ防止ストッパー123の位置におけるセーフイティーデバイス120内周面120aが撓む。これにより、該内周面120aはデバイス係合部110が通過可能な内径まで拡径させられ、デバイス係合部110が外れ防止ストッパーを乗り越えて前方側へ通過することが可能となる。
【0100】
また、外れ防止ストッパー123の位置における内周面120aの撓みは、戻り防止ストッパー124の位置における内周面120aにも影響を与え、該戻り防止ストッパー124の内周面120aも拡径することになる。なお、スリット125が形成されていることにより、外れ防止ストッパー123及び戻り防止ストッパー124はそれぞれ拡径し易くなっている。
この際、戻り防止ストッパー124は外れ防止ストッパー123から離間した位置にあるため、戻り防止ストッパー124の内周面の拡径量は外れ防止ストッパー123の周囲の内周面の拡径量よりも小さなものとなる。
ここで、戻り防止ストッパー124の高さが外れ防止ストッパー123の高さよりも低く形成されていることから、外れ防止ストッパー123の拡径量が戻り防止ストッパー124の拡径量よりも小さくても、図23(c)に示すように、デバイス係合部110が戻り防止ストッパー124を乗り越えて通過することができる。
【0101】
図24に、セーフティーデバイス120によって注射針37を覆うべく、該セーフティーデバイス120を第1位置から第2位置まで移動させる際のセーフティーデバイス120とデバイス係合部110との模式図を示す。
図24(a)に示すように、セーフティーデバイス120を第1位置から第2位置に移動させる際には、容器兼用注射器本体10のハブルアーロック100のデバイス係合部110がセーフティーデバイス120の内側を前方から後方に向かって相対移動する。
【0102】
そして、図24(b)に示すように、戻り防止ストッパー124の傾斜面124aがデバイス係合部110の後部係合面110bに当接し、戻り防止ストッパー124の位置におけるセーフティーデバイス120の内周面120aが撓んでデバイス係合部110が通過可能な内径まで拡径させられる。これにより、デバイス係合部110が戻り防止ストッパー124を乗り越えて通過する。
また、戻り防止ストッパー124の位置における内周面120aの撓みは、戻り防止ストッパー124の位置における内周面120aにも影響を与え、該戻り防止ストッパー124の位置における内周面120aも拡径することになる。この際、外れ防止ストッパー123は戻り防止ストッパー124から離間した位置にあるため、外れ防止ストッパー123の位置における内周面120aの拡径量は戻り防止ストッパー124の位置における内周面120aの拡径量よりも小さなものとなる。
ここで、外れ防止ストッパー123の高さが戻り防止ストッパー124の高さよりも高く形成されているため、外れ防止ストッパー123をデバイス係合部110が通過するためには、該外れ防止ストッパー123の拡径量が戻り防止ストッパー124の拡径量に比べて大きくなければならない。
ところが、上述のように外れ防止ストッパー123の拡径量は戻り防止ストッパー124に比べて小さいため、外れ防止ストッパー123の位置における内周面120aがデバイス係合部110を通過させる程の径まで拡径することはなく、図24(c)に示すように、外れ防止ストッパー123がデバイス係合部110の後部係合面110bに係合し、デバイス係合部110の後方への相対移動、即ち、セーフティーデバイス120の前方への移動が阻止される。また、デバイス係合部110が戻り防止ストッパー124を乗り越えて通過した後には、戻り防止ストッパー124が復元し、デバイス係合部110の前方への相対移動、即ち、セーフティーデバイスの後方への移動が阻止される。したがって、セーフティーデバイス120が前端方向に進み過ぎて容器兼用注射器本体10から外れたり、後端方向に移動して注射針37が露出したりすることはない。
【0103】
以上のようにして、第2実施形態の容器兼用注射器2においては、戻り防止ストッパー124の内周面120aからの高さを、外れ防止ストッパー123の内周面120aからの高さよりも低く形成するといった簡易な構成でもって、セーフティーデバイス120の装着を容易に行うことができ、また、セーフティーデバイス120を注射針を覆った位置で確実に固定することが可能となる。
【0104】
以上、本発明である容器兼用注射器1,2の実施形態について詳細に説明したが、本発明の技術的思想を逸脱しない限り、これらに限定されることはなく、多少の設計変更等も可能である。例えば、第1及び第2実施形態においては本発明を一室式容器兼用注射器に適用した例を示したが、本発明はこれに限らず、二室式容器兼用注射器にも適用することも可能である。
【符号の説明】
【0105】
1 容器兼用注射器
2 容器兼用注射器
10 容器兼用注射器本体
20 外筒
30 ハブルアーロック
31 デバイス係合部
31a 前部係合面
31b 後部係合面
31c 外周面
37 注射針
40 フィンガーグリップ
41 嵌着部
41a スプリング当接段部
42 嵌着孔
44 係止凸部(係止部)
45 フランジ部
46 フランジ面
47 第1ガイド部
48 第2ガイド部
50 セーフティーデバイス
51 セーフティーデバイス本体
52 バネ受け部
53 外れ防止ストッパー
53a 傾斜面
54 戻り防止ストッパー
54a 被押圧面
54b 傾斜面
58 係合板(係合部)
58b 係合孔
60 押圧リング
70 コイルスプリング(付勢手段)
80 スライド部材(係止解除手段)
81 スライド板
82 側面
82a 第1側面
82b 第2側面
82c 傾斜側面
83 貫通孔
84 大径孔
85 小径スリット
85a 小径孔
87 操作板
90 プランジャロッド
91 ロッド部
92 大径ロッド部
93 小径ロッド部
100 ハブルアーロック
101 基端部
110 デバイス係合部
110a 前部係合面
110b 後部係合面
110c 外周面
120 セーフティーデバイス
122 バネ受け部
123 外れ防止ストッパー
123a 傾斜面
124 戻り防止ストッパー
124a 傾斜面
125 スリット
128 係合板(係合部)
128a 接続部
128b 係合孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸線に沿った円筒状をなし薬液が充填される外筒の前端側に、先端に注射針を装着した筒先が取り付けられるとともに、前記外筒の後端側に、フィンガーグリップが取り付けられた容器兼用注射器本体と、
前記外筒の外周に摺動可能に装着される円筒形状をなし、前方に移動した際に前記注射針を覆うセーフティーデバイスとを備えた容器兼用注射器において、
前記セーフティーデバイスを前記注射針から外れた第1位置に係脱可能に係止する第1保持手段と、
前記セーフティーデバイスを前記注射針を覆う第2位置に係止する第2保持手段と、
前記セーフティーデバイスを前記第1位置から前記第2位置に向かって付勢する付勢手段と、
前記第1保持手段による係止を解除する係止解除手段とが設けられたことを特徴とする容器兼用注射器。
【請求項2】
前記フィンガーグリップは、円筒状をなし前記外筒の後端部に嵌着される嵌着部と、前記嵌着部の後端部から前記容器兼用注射器本体の径方向外側に張り出して後方側を向くフランジ面とを備え、
前記第1保持手段が、前記セーフティーデバイスの後端部に設けられた係合部と、前記嵌着部の外周面に設けられ前記係合部を係止する係止部とからなり、
前記係止解除手段が、前記フランジ面上を前記容器兼用注射器本体の径方向に沿ってスライド可能に設けられ、前記容器兼用注射器本体の径方向外側に位置する待機位置から前記容器兼用注射器本体の径方向内側に位置する解除位置にスライド移動する際に、前記係止部による係合部の係止を解除するスライド部材であることを特徴とする請求項1に記載の容器兼用注射器。
【請求項3】
前記係合部が、前記セーフティーデバイスの後端から前記軸線に平行に延出するとともに前記容器兼用注射器本体の径方向に沿って弾性変形可能とされ、
前記スライド部材が、前記待機位置側から前記解除位置側に向かうに従って前記容器兼用注射器本体の径方向内側に向かって傾斜し、前記係止部の内側面と当接可能な傾斜側面を備え、
前記スライド部材が前記解除位置に移動する際に、該傾斜側面が前記係合部を押し上げて前記容器兼用注射器本体の径方向外側に弾性変形させることを特徴とする請求項2に記載の容器兼用注射器。
【請求項4】
前記軸線に沿って延びる棒状をなし、前記外筒の後端側から該外筒内に挿入されて、注射時に前方に向かって押し込まれるプランジャロッドを備え、
前記スライド部材に、
前記待機位置に位置する前記スライド部材を前記軸線に沿って貫通する大径孔と、
前記待機位置に位置する前記スライド部材を前記軸線に沿って貫通するとともに前記スライド移動の方向に沿って延びて前記大径孔に連なる小径スリットとからなる貫通部が形成され、
前記プランジャロッドが、
前記大径孔に挿通可能とされ、かつ、前記小径スリットに挿通不能とされた径を有する大径ロッド部と、
該大径ロッド部の後端側に位置し、前記大径孔と前記小径スリットとに挿通可能とされた径を有する小径ロッド部とを備え、
前記プランジャロッドが最も後方に位置する注射前及び前記プランジャロッドを前方に向かって押し込む注射動作時に、前記大径ロッド部が貫通部に挿通状態とされ、
前記プランジャロッドを前方側に押し切った注射完了時に、前記小径ロッド部が前記貫通部に挿通状態とされることを特徴とする請求項2又は3に記載の容器兼用注射器。
【請求項5】
前記第2保持手段が、
前記筒先の一部が拡径して形成され、その前方側を向く端面が前部係合面とされるとともに、後方側を向く端面が後部係合面とされたデバイス係合部と、
前記セーフティーデバイスの内周面に突設され、前記セーフティーデバイスが前記注射針の全域を覆う位置で前記前部係合面と係合し、前記セーフティーデバイスの後端方向への移動を阻止する戻り防止ストッパーと、
前記セーフティーデバイスの内周面における前記戻り防止ストッパーよりも後方側に突設され、前記セーフティーデバイスが前記注射針の全域を覆う位置で前記後部係合面と係合し、前記セーフティーデバイスの先端方向への移動を阻止する外れ防止ストッパーとからなることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の容器兼用注射器。
【請求項6】
前記戻り防止ストッパーが、後方側に向かうにしたがって前記容器兼用注射器本体の径方向内側に傾斜するように形成されているとともに、前記外れ防止ストッパーが、前方側に向かうにしたがって前記容器兼用注射器本体の径方向内側に傾斜するように形成されており、
前記戻り防止ストッパーの前記セーフティーデバイスの内周面からの高さが、前記外れ防止ストッパーの前記セーフティーデバイスの内周面からの高さよりも低く形成されていることを特徴とする請求項5に記載の容器兼用注射器。
【請求項7】
前記戻り防止ストッパーの周方向位置から前記外れ防止ストッパーの周方向位置にかけて、
前記軸線に平行に延びるスリットが形成されたことを特徴とする請求項6に記載の容器兼用注射器。
【請求項8】
前記外れ防止ストッパーが、前方側に向かうにしたがって前記容器兼用注射器本体の径方向内側に傾斜するように形成されており、
前記戻り防止ストッパーが前記容器兼用注射器本体の径方向に弾性変形可能とされ、
前記セーフティーデバイスの外周面に押圧リングが摺動可能に設けられ、
該押圧リングを前記戻り防止ストッパーの位置に摺動させることによって、該戻り防止ストッパーを前記容器兼用注射器本体の径方向内側に向かって押圧して前記セーフティーデバイスの内周面から突出させることを特徴とする請求項5に記載の容器兼用注射器。
【請求項9】
前記付勢手段は前記軸線を中心としたコイルスプリングであって、
前記セーフティーデバイスが前記外筒の外周に固定された前記第1位置に位置している状態において、該コイルスプリングが、前記セーフティーデバイスの後端側の内周壁面に形成されたバネ受け部と前記フィンガーグリップとの間に圧縮状態で装着されていることを特徴とする請求項1から8のいずれか一項に記載の容器兼用注射器。
【請求項10】
軸線に沿った円筒状をなし薬液が充填される外筒の前端側に、先端に注射針を装着した筒先が取り付けられるとともに、前記外筒の後端側に、フィンガーグリップが取り付けられた容器兼用注射器本体と、
前記外筒の外周に摺動可能に装着される円筒形状をなし、先端方向に移動した際に前記注射針を覆うセーフティーデバイスを備えた容器兼用注射器において、
前記筒先の一部が拡径して形成され、その前方側を向く端面が前部係合面とされるとともに、後方側を向く端面が後部係合面とされたデバイス係合部と、
前記セーフティーデバイスの内周面に突設され、前記セーフティーデバイスが前記注射針の全域を覆う位置で前記前部係合面と係合し、前記セーフティーデバイスの後端方向への移動を阻止する戻り防止ストッパーと、
前記セーフティーデバイスの内周面における前記戻り防止ストッパーよりも後方側に突設され、前記セーフティーデバイスが前記注射針の全域を覆う位置で前記後部係合面と係合し、前記セーフティーデバイスの先端方向への移動を阻止する外れ防止ストッパーとを備え、
前記戻り防止ストッパーが、後方側に向かうにしたがって前記容器兼用注射器本体の径方向内側に傾斜するように形成されているとともに、前記外れ防止ストッパーが、前方側に向かうにしたがって前記容器兼用注射器本体の径方向内側に傾斜するように形成されており、
前記戻り防止ストッパーの前記セーフティーデバイスの内周面からの高さが、前記外れ防止ストッパーの前記セーフティーデバイスの内周面からの高さよりも低く形成されていることを特徴とする容器兼用注射器。






【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【公開番号】特開2010−172618(P2010−172618A)
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−20858(P2009−20858)
【出願日】平成21年1月30日(2009.1.30)
【特許番号】特許第4361962号(P4361962)
【特許公報発行日】平成21年11月11日(2009.11.11)
【出願人】(000122184)株式会社アルテ (28)
【Fターム(参考)】