説明

容量性EL素子駆動回路

【課題】ELサイズや劣化に伴う静電容量変化に対応する高効率で小型のEL駆動回路を提供する。
【解決手段】整流回路と、整流回路から供給されるEL駆動用直流電圧を複数のスイッチング素子で構成されるブリッジ回路によって交流電源周波数よりも高い周波数の交流に変換するインバータ回路と、スイッチング素子に制御信号を供給するEL駆動発振回路と、インバータ回路の出力側に接続されたチョークコイルと、EL駆動発振回路の発振周波数を可変にする抵抗・コンデンサから成る共振回路と、を備えてなる容量性EL素子駆動回路において、チョークコイルの他端に接続される容量性EL素子とアースの間に電流検出用抵抗を設け、電流検出用抵抗の両端の電圧が低いとき共振回路の抵抗値を小さくしてEL駆動発振回路の発信周波数を増加させるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は容量性EL素子駆動回路に関する。
【背景技術】
【0002】
容量性EL素子の駆動回路はこれまでにもいろいろ提案されてきた(特許文献1参照)。
EL駆動用のインバータの多くはELサイズ(面積)が大きくなるにつれて、インバータの変換効率の向上と電源のコンパクト化が強く求められるようになって来た。
しかしながら、従来の自励式ブロッキング発振方式では、ELの大面積化に伴いトランス容量が大きくなり、小型化・高効率化が出来なかった。
一方、直列共振他動インバータ方式ではインダクタンスが大きくならないこととインバータの変換効率が高くとれる等の特徴が一般的に認められている。ところが、ELのサイズや劣化による容量低下に対し駆動周波数が変化し輝度調整が出来ず、輝度は成行きになってしまった。
【特許文献1】特開2003−333849号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明はこれらの課題を解決するためになされたもので、ELサイズや劣化に伴う静電容量変化に対応する高効率で小型のEL駆動回路を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記の目的を達成するため、請求項1記載の発明は、容量性EL素子駆動回路に係り、交流電源を直流に変換する整流回路と、前記整流回路から供給されるEL駆動用直流電圧を複数のスイッチング素子で構成されるブリッジ回路によって前記交流電源周波数よりも高い周波数の交流に変換するインバータ回路と、前記スイッチング素子に制御信号を供給するEL駆動発振回路と、前記インバータ回路の出力側に接続されたチョークコイルと、前記EL駆動発振回路の発振周波数を可変にする抵抗・コンデンサから成る共振回路と、を備えてなる容量性EL素子駆動回路において、前記チョークコイルの他端に接続される容量性EL素子とアースの間に電流検出用抵抗を設け、前記電流検出用抵抗の両端の電圧が低いとき、前記共振回路の抵抗値を小さくして、前記EL駆動発振回路の発信周波数を増加させる機能のフィードバック制御回路を設けたことを特徴としている。
また、請求項2記載の発明は、請求項1記載の容量性EL素子駆動回路において、前記フィードバック制御回路が、前記電流検出用抵抗の両端の電圧を基準電圧と比較する差動アンプと、前記差動アンプの出力をカソード側に前記発振回路の出力をアノード側に接続された発光ダイオードおよび前記発光ダイオードの発光量に応じて抵抗値の変化する可変抵抗とから成る抵抗可変フォトカプラとから成り、前記可変抵抗を前記共振回路の抵抗としたことを特徴としている。
また、請求項3記載の発明は、請求項1又は2記載の容量性EL素子の駆動回路において、前記交流電力を直流電力に変換する前記整流回路の前段に可変トランスを設けて、EL駆動用直流電圧を任意に設定できるようにしたことを特徴としている。
さらに、請求項4記載の発明は、請求項1〜3のいずれか1項記載の容量性EL素子駆動回路において、前記インバータ回路の出力周波数fの変化量をΔfとし、前記容量性EL素子に加わるEL駆動電圧E1の変化量をΔE1とするとき、その比Δf/ΔE1が、0.08〜0.12になるように前記チョークコイルのインダクタンス値L〔mH〕を定めたことを特徴としている。
そして、請求項5記載の発明は、請求項1記載の容量性EL素子駆動回路において、前記スイッチング素子がパワートランジスタであり、そのスイッチング立上り時間τ〔nsec〕がτ<400であることを特徴としている。
【発明の効果】
【0005】
以上のような構成により、容量性EL素子とアースの間に電流検出用抵抗を設け、電流検出用抵抗の両端の電圧が低いとき、共振回路の抵抗値を小さくして、EL駆動発振回路の発信周波数を増加させる機能をするフィードバック制御回路を設けたので、ELサイズが変わっても簡単に調節することができ、また、劣化に伴う静電容量変化に対してもフィードバック制御回路により最終的に周波数を上げて電流を増加させるので、輝度が回復することとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
以下に、本発明の実施形態について図1に基づいて詳細に説明する。
図1は直列共振他動インバータ方式の基づく本発明に係る容量性EL素子駆動回路の回路構成図である。
図において、太線で表した部分が主回路であり、その他が制御回路である。
まず、容量性EL素子駆動回路の主回路構成について説明する。
交流電源1(100V)から昇圧・整流回路4で高圧にした後、整流して、直流高圧線Ekと直流低圧線Epにそれぞれ直流高圧と直流低圧を供給する。
【0007】
直流高圧線Ekには4個のスイッチング素子Q1〜Q4で構成されるインバータ(ブリッジ)回路の1入力端I1が接続されており、インバータ回路の他の入力端I2は電流検出用抵抗R1を介してアースに接続されている。
【0008】
インバータ回路の1出力端I3にチョークコイルLを介して負荷である容量性EL素子3が接続され、インバータ回路の他の出力端I4に容量性EL素子3の他端が接続されている。各スイッチング素子Q1〜Q4はその制御端子(トランジスタであればベース、サイリスタであればゲート端子)に所定の制御電圧が与えられると導通となる。
その制御電圧は前記直流低圧線Epの直流低圧線に接続された発光ダイオードとこの発光ダイオードP1〜P4の光を受光する受光素子(図示しないが、スイッチング素子Q1〜Q4との間に介在している)から成るフォトカプラを介して電気絶縁して与えられる。発光ダイオードP1〜P4の発光はEL駆動発振回路5が制御する。
以上が、容量性EL素子駆動回路の主回路構成である。
【0009】
一方、容量性EL素子駆動回路の制御回路は次のような構成になる。
電流検出用抵抗R1に流れる電流が多いと差動アンプ7の1入力端子には抵抗R2を介して高い電圧が入り、電流検出用抵抗R1に流れる電流が少ないと電流検出用抵抗R1での電圧降下が小さいので差動アンプ7の1入力端子には低い電圧が入ることとなる。一方、差動アンプ7の他の入力端子には、抵抗R4と可変抵抗R5とで決まる分圧値が基準電圧として加えられている。
【0010】
そして、差動アンプ7の出力端子はフォトカプラ回路8のカソード端子へ接続されている。また、フォトカプラ回路8のアノードへは周波数を電圧に変換するF/Vコンバータ6からの出力電圧が印加されている。
【0011】
差動アンプ7は電流検出用抵抗R1の電圧と基準電圧とを比較して、電流検出用抵抗R1の電圧が高い(すなわち、負荷電流が多い)ときは、フォトカプラ回路8のカソード端子へ高い電圧を出力する。
【0012】
フォトカプラ回路8は、順方向に流れる電流の大きさで発光量が変化する発光ダイオードP5とこの発光ダイオードからの光を受光しその光の強さで抵抗値が変化する(強い光なら低抵抗)可変抵抗R0とで対をなしている。そして、可変抵抗R0の値とコンデンサC0の値とで決まる時定数でEL駆動発振回路5の発振周波数が決まるようにしている。
また、EL駆動発振回路5の出力はF/Vコンバータ6の1入力端子に接続されており、F/Vコンバータ6の他の入力端子にはEL駆動発振回路5の出力が帰還している。
【0013】
以上のように、フイードバック系9が本発明によって設けられた回路である。
そこで、今、容量性EL素子の輝度が少ないということは、容量性EL素子3を流れる電流が少ないということであり、そうすると電流検出用抵抗R1での電圧降下が小さいので、差動アンプ7の1入力端子には低い電圧が入ることとなり、基準電圧との差が少ないため、フォトカプラ回路8のカソード端子は低い電圧となり、F/Vコンバータ6側から多くの電流が流れ込み、発光ダイオードP5は強く光るようになり、可変抵抗R0の抵抗値は小さくなり、R0とC0で決まる時定数が小さくなるので、EL駆動発振回路5の発振周波数が高くなり、駆動電流が増えて、容量性EL素子の輝度が増す。
【0014】
図2は駆動電圧や周波数対照度等の特性を示す線図で、(a)は駆動電圧対照度特性、(b)は周波数対照度特性、(c)は周波数対駆動電圧特性、(d)は駆動電圧対駆動電流特性である。
図(a)において、横軸は駆動電圧、縦軸は照度である。
駆動周波数1100(Hz)に固定し、EL駆動電圧E1を任意に変化させて照度(Lxc)を測定した。照度(すなわち、輝度)はEL駆動電圧E1が高くなるに従って照度も直線的に増加することが判る。
次に、駆動周波数を1200(Hz)にして、同じ測定をしたところ、照度は同じEL駆動電圧E1で周波数1100(Hz)の時よりも増加しており、かつEL駆動電圧E1が高くなるに従って照度も直線的に増加するが、傾きは同じである(変化率は大きくない)ことが判る。
【0015】
図(b)において、横軸は駆動周波数、縦軸は照度である。
駆動電圧E1を固定し、駆動周波数fを任意に変化させて照度(Lxc)を測定した。照度(すなわち、輝度)は駆動周波数fが高くなるに従って照度も直線的に増加することが判るが、その傾きはそれほど大きくない。
【0016】
図(c)において、横軸は駆動周波数、縦軸は駆動電圧である。
高圧直流電圧Ekを100(V)に固定し、駆動周波数fを任意に変化させて、そのときの駆動電圧E1を測定した。駆動周波数fが高くなるに従って駆動電圧E1も直線的に増加することが判る。
次に、容量性EL素子3と直列に接続されているチョークコイルLの値を変化させたところ、チョークコイルLの値を増やすと傾きが大きくなることが判る。
【0017】
図(d)において、横軸は駆動電圧、縦軸は駆動電流である。
駆動周波数を1300(Hz)に固定し、駆動電圧E1を任意に変化させて、そのときの駆動電流を測定した。駆動電圧E1が高くなるに従って駆動電流も直線的に増加することが判る。
【0018】
容量性EL素子が劣化すると内部抵抗が徐々に大きくなり、したがって電流が下がるので、輝度も下がる。そこで容量性EL素子が劣化して輝度が下がると、本発明により周波数を上げることで、改善をすることができる。
【0019】
さらに、チョークコイルLを挿入していることの副次的効果として、周波数が上がると、チョークコイルLのキックバック電圧が増え、その電圧が容量性EL素子の端子に端子電圧を上げる方向に加わるようになり、容量性EL素子の端子間電圧が上がり、輝度が上がる効果が得られることも判明した。
【0020】
さらに、この現象を定量的に把握するために、実験を繰り返したところ、インバータ回路の出力周波数fの変化量をΔfとし、容量性EL素子に加わるEL駆動電圧E1の変化量をΔE1とするとき、
その比Δf/ΔE1が、0.08〜0.12になるようにチョークコイルのインダクタンス値L〔mH〕を定めると、この昇圧効果が生じることが、実験的に判明し、この範囲の下限を切ると昇圧効果が小さくなり、上限を超えるとEL端子の端子間電圧が上がりすぎて好ましくなかった。
【0021】
スイッチング素子としてはパワートランジスタを用いるのがよく、そのスイッチング立上り時間τ〔nsec〕がτ<400の素子が効果的であった。この範囲を外れると、立上りが遅くなり、容量性EL素子のインバータ回路としては不向きであった。
【0022】
以上のように、本発明によれば、交流電源を直流に変換する整流回路と、前記整流回路から供給されるEL駆動用直流電圧を複数のスイッチング素子で構成されるブリッジ回路によって前記交流電源周波数よりも高い周波数の交流に変換するインバータ回路と、前記スイッチング素子に制御信号を供給するEL駆動発振回路と、前記インバータ回路の出力側に接続されたチョークコイルと、前記EL駆動発振回路の発振周波数を可変にする抵抗・コンデンサから成る共振回路と、を備えてなる容量性EL素子駆動回路において、前記チョークコイルの他端に接続される容量性EL素子とアースの間に電流検出用抵抗を設け、前記電流検出用抵抗の両端の電圧が低いとき、前記共振回路の抵抗値を小さくして、前記EL駆動発振回路の発信周波数を増加させる機能をするフィードバック制御回路を設けたので、ELサイズが変わった場合は可変抵抗R5で簡単に基準電圧を調節することができ、また、劣化に伴う静電容量変化に対しては負荷電流が変わることに着目してR1がこれを検出してフィードバック制御回路9により、最終的に周波数を上げて電流を増加させるので、輝度が回復することとなる。
また、高周波インバータとチョークコイルLを用いているので高効率で小型のEL駆動回路となり、さらにチョークコイルLのインダクタンス値が高周波インバータの周波数の下で容量性EL素子にキックバック電圧として加わるように作用するので、容量性EL素子の端子間電圧が上がり、輝度が上がる効果が得られた。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明に係る容量性EL素子駆動回路の回路構成図である。
【図2】駆動電圧・周波数対照度等の関係を示す線図である。
【符号の説明】
【0024】
1 交流電源
2 容量性EL素子駆動回路
3 容量性EL素子
4 昇圧・整流回路
5 EL駆動発振回路
6 F/Vコンバータ
7 差動アンプ
8 フォトカプラ回路
9 本発明に係るフイードバックシステム
Ek 直流高圧線
Ep 直流低圧線
P1〜P4 発光ダイオード
P5 発光ダイオード
Q1〜Q 4スイッチング素子
R1 電流検出用抵抗
R2、R4 抵抗
R5 可変抵抗
R0 可変抵抗
C0 コンデンサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
交流電源を直流に変換する整流回路と、前記整流回路から供給されるEL駆動用直流電圧を複数のスイッチング素子で構成されるブリッジ回路によって前記交流電源周波数よりも高い周波数の交流に変換するインバータ回路と、前記スイッチング素子に制御信号を供給するEL駆動発振回路と、前記インバータ回路の出力側に接続されたチョークコイルと、前記EL駆動発振回路の発振周波数を可変にする抵抗・コンデンサから成る共振回路と、を備えてなる容量性EL素子駆動回路において、
前記チョークコイルの他端に接続される容量性EL素子とアースの間に電流検出用抵抗を設け、前記電流検出用抵抗の両端の電圧が低いとき、前記共振回路の抵抗値を小さくして、前記EL駆動発振回路の発信周波数を増加させる機能のフィードバック制御回路を設けたことを特徴とする容量性EL素子駆動回路。
【請求項2】
前記フィードバック制御回路は、前記電流検出用抵抗の両端の電圧を基準電圧と比較する差動アンプと、前記差動アンプの出力をカソード側に前記発振回路の出力をアノード側に接続された発光ダイオードおよび前記発光ダイオードの発光量に応じて抵抗値の変化する可変抵抗とから成る抵抗可変フォトカプラとから成り、前記可変抵抗を前記共振回路の抵抗としたことを特徴とする請求項1記載の容量性EL素子駆動回路。
【請求項3】
前記交流電力を直流電力に変換する前記整流回路の前段に可変トランスを設けて、EL駆動用直流電圧を任意に設定できるようにしたことを特徴とする請求項1又は2記載の容量性EL素子の駆動回路。
【請求項4】
前記インバータ回路の出力周波数fの変化量をΔfとし、前記容量性EL素子に加わるEL駆動電圧E1の変化量をΔE1とするとき、
その比Δf/ΔE1が、0.08〜0.12になるように前記チョークコイルのインダクタンス値L〔mH〕を定めたことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載の容量性EL素子駆動回路。
【請求項5】
前記スイッチング素子がパワートランジスタであり、そのスイッチング立上り時間τ〔nsec〕がτ<400であることを特徴とする請求項1記載の容量性EL素子駆動回路。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−87815(P2007−87815A)
【公開日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−276314(P2005−276314)
【出願日】平成17年9月22日(2005.9.22)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】