説明

容量結合通信およびエネルギー取り込みを有する医療装置

【課題】パーソナルエリアネットワーク(PAN)を介してホストコントローラまたは他の外部装置と通信することができる、装着型の自給式薬物注入または医療装置を提供すること。
【解決手段】この医療装置は、容量結合を介してユーザの身体を通じて電流を伝播させることにより、PANトランシーバを利用して生理センサまたはホストコントローラなどのユーザの身体と接触する他の装置と通信する。医療装置の装着性質およびPAN通信システムの低所要電力は、医療装置が代替的エネルギー採取技術を利用して装置に電力供給することを可能にする。医療装置は、好ましくは、熱的、運動、および他のエネルギー採取技術を利用して、医療装置の通常の使用中、エネルギーをユーザおよび環境からキャプチャする。システム電力分配ユニットは、採取されたエネルギーを管理し、システム作動中に医療装置に電力を選択的に供給するのに提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に、装置の装着性質を利用することにより、無線通信スキームに比べて所要電力がより低くかつ安全性の高い低コストの電力コンポーネントおよび通信コンポーネント構成要素を提供する、装着型の自給式薬剤注入装置に関する。
【背景技術】
【0002】
糖尿病は、インスリン生成、インスリン機能、またはその両方の欠陥による高濃度の血中グルコースを特徴とする疾患群である。米国では、2360万人、すなわち人口の約8%の人が糖尿病を有している。糖尿病の総有病率は、2005年〜2007年の期間以降13.5%上昇している。糖尿病は、深刻な合併症および早死につながることがあるが、この病気を制御して合併症のリスクを低減させるのを助けるための、糖尿病患者が入手可能な良く知られた製品が存在している。
【0003】
糖尿病患者の治療の選択肢には、特有の食事療法、経口薬剤、および/またはインスリン療法が含まれる。糖尿病治療の主な目的は、合併症の無い生活の可能性を高めるために患者の血中グルコース(糖)レベルを制御することである。しかし、他の生活上の必要性および状況のバランスをとりながら、良好な糖尿病管理を達成することは必ずしも容易ではない。
【0004】
現在、日常的なインスリン療法の2つの基本モードが存在している。第1のモードは、典型的には1日に3、4回の注入ごとに針の突き刺しが必要となるが、使用が簡単で比較的低コストである、注射器およびインスリンペン(insulin pen)を含む。糖尿病を管理するための治療の別の広く適合された効果的な方法は、従来のインスリンポンプ(insulin pump)の使用である。インスリンポンプは、インスリンの連続注入により、ユーザが自身の血中グルコースレベルをユーザの個々の必要性に基づいて目標範囲内に保つことを助けることができる。インスリンポンプを使用することにより、ユーザは、自身の生活スタイルを、例えばインスリン注入が自身にとってどのように働くかに合致させるのではなく、ユーザのインスリン療法を自身の生活スタイルに合致させることができる。
【0005】
従来のインスリンポンプは、皮膚の下に置かれたカテーテルを通して1日24時間、急速または短時間で機能するインスリンを送達することができる。インスリン投与は、典型的に基礎比率(basal rate)でかつボーラス投与(bolus dose)で行われる。基礎インスリンは、24時間かけて連続的に送られて、食事間および一晩中、血中グルコースレベルを一定の範囲内に保とうとする。一部のインスリンポンプは、インスリンの基礎比率を、昼および夜の異なる時間に応じて変わるようにプログラミングすることができる。ボーラス投与は、典型的にユーザが食事をとる際に投与され、通常は摂取した炭水化物とバランスをとるために単回の追加のインスリン注入を行う。一部の従来のインスリンポンプは、ユーザが、摂取した食事のサイズまたはタイプに応じてボーラス投与の量をプログラムすることを可能にする。従来のインスリンポンプは、ユーザが、自身の血中グルコースレベルを自身の目標範囲内へとより良好に制御するために、インスリンの補正ボーラス(correctional bolus)または補助ボーラス(supplemental bolus)を体内に取り込むことも可能にする。
【0006】
従来のインスリンポンプには、糖尿病治療の他の方法に比べて多くの利点が存在する。インスリンポンプは、単回注入ではなく経時的にインスリンを送り、したがって典型的に、患者の血中グルコースレベルの大きな変動が少なくなる。従来のインスリンポンプは、患者が耐えなければならない針の突き刺し回数を減らし、糖尿病の管理をユーザにとってより容易かつより効果的なものにし、したがってユーザの生活の質をかなり向上させる。しかしながら、インスリンポンプは、使用が煩雑なことがあり、典型的に治療の他の方法に比べてより高価である。生活スタイルの観点から見れば、従来のポンプ、チューブ類、および注入セットは、ユーザにとっては不便で厄介なものである。
【0007】
インスリン療法における新しい進歩により、従来のインスリンポンプよりも低コストで使用するのがより便利で快適である「装着型(wearable)」薬剤注入装置が提供されている。これらの装置の一部は、部分的または全体的に使い捨てであることが意図されており、論理的には、従来のインスリンポンプの高い初期コストおよび不便性を必要とせずに、従来のインスリンポンプの利点の多くを提供する。
【0008】
従来のインスリンポンプと同様の機能を実行することができる装着型医療装置は、ますます普及してきているが、依然としてコストが高い。そのような医療装置は、典型的に最大3日の作動後に廃棄される。そのような医療装置に対する使用期間を引き起こす要因としては、長期にわたる注入部位の持続性(viability)と、その期間にわたって必要な電力を供給する際の電力供給の限界が挙げられる。一般的な装着型医療装置は、典型的にそのような短期間で使用されるため、各医療装置のユニットコストを手ごろな低価格にする必要がある。ユーザのインスリン比率に対する精確な制御を実現するために、典型的な装着型装置は、血中グルコースモニタ(Blood Glucose Monitor)またはパーソナル糖尿病モニタ(Personal Diabetes Monitor)などのホスト装置と通信する必要がある。利用可能な装着型装置は、典型的にBluetooth(登録商標)またはZigBee(登録商標)などの周知の無線技術を使用してホスト装置と通信する。無線通信技術は、装着型装置とホスト装置の間に効果的な通信を提供する。しかしながら、これらの技術を実現するのに必要な構成要素は、特に使い捨ての医療装置を使用する用途においては、比較的高価なものである。無線通信技術の構成要素は、装置を提供するためのコストを引き上げるだけでなく、医療装置の寿命を短縮するほどの電力も消費し、それによってさらにコストが引き上げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国特許第6,589,229号明細書
【特許文献2】米国特許公開第2006/0281435号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記で示したように、一般的な装着型医療装置の1つの主な制約は、効果的で十分機能的な医療装置を実現するのに必要な構成要素に電力供給するための確実な電力供給を提供するコストが高いことである。さらに、十分機能的な手ごろな医療装置を実現することと、ユーザにとって便利かつ快適で配慮されたパッケージで医療装置を提供することとのバランスをとる必要もある。典型的な医療装置は、医療装置に電力供給するためのバッテリまたはバッテリアレイを使用する。しかしながら、そのような標準的な構成は、各医療装置のコストを不必要に引き上げ、大きくて比較的重いものになり得る。さらに、標準的なバッテリまたはバッテリアレイは、通常、使用済みの装着型医療装置の廃棄と同時に廃棄され、したがって不必要な廃棄物の原因になる。そのような医療装置のコストが大幅に低減されるまでは、装着型医療装置は多くのユーザにとって実行可能な選択肢とはならない。
【0011】
したがって、当技術分野では、よりコスト効率のよい装着型医療装置を提供し、それによりさらに多くの糖尿病患者が、これらの装置が提供する利点から恩恵を得ることができるようにすることが必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の例示的実施形態は、少なくとも上記の問題および/または欠点に対処し、少なくとも以下で説明する利点を提供する。したがって、本発明の例示的実施形態の目的は、より低コストであって装着型医療装置の向上された機能性と延長された寿命を提供することができる医療装置に電力供給するための、より低電力のシステム構成要素および代替的エネルギー源を提供することである。本発明の例示的実施形態の他の目的は、無線トランシーバに関連する追加の構成要素コストと電力放出のないホストコントローラおよび/または生体センサとの通信を可能にしつつ、無線トランシーバよりも良好なセキュリティを提供することも可能にする装置を提供することである。
【0013】
本発明の一態様によれば、ユーザの身体と接触し、薬物療法をユーザに施すための装着型医療装置が提供され、この医療装置は、ポンプ機構に電気的に結合されたマイクロコントローラと、トランシーバと、電力供給システムとを備える。マイクロコントローラは、薬物をユーザに投与するようにポンプ機構に命令する。トランシーバは、ユーザの身体を通じてデータを送信するパーソナルエリアネットワーク(PAN)を介してユーザの身体上またはその近くのホスト装置と通信し、前記ホスト装置は医療装置を監視または制御する。電力供給システムは、ユーザの身体からエネルギーを採取するエネルギー採取コンポーネントから供給された電力を、マイクロコントローラ、ポンプ機構およびトランシーバに選択的に提供する。パーソナルエリアネットワークトランシーバは、ユーザの身体上の医療装置の接触部位にあるユーザの皮膚上で生成された電場を介してホスト装置と通信する。エネルギー採取コンポーネントは、医療装置がユーザの身体に接触するときにユーザの身体と外部環境との間の温度差によって実現されたエネルギーを蓄積する。エネルギー採取コンポーネントは、医療装置がユーザの身体上に配置されたときにユーザの動きによって生成されたエネルギーも蓄積することができる。エネルギー採取コンポーネントは、医療装置の所要エネルギーの少なくとも一部を提供する。医療装置は、アクティブモードでユーザに薬物を積極的に投与するときに電力の少なくとも一部をポンプ機構に提供するための追加の電源をさらに備えることができ、前記エネルギー採取コンポーネントは、待機モードなどのより低電力状態のときに医療装置に電力供給する。トランシーバは、さらに、パーソナルエリアネットワークを介して、ユーザの身体内に埋め込み可能な、または別の形でユーザの身体と連続接触するセンサと通信する。一実施形態はまた、超低電力マイクロコントローラであるマイクロコントローラに電気的に結合されたセンサも備える。
【0014】
本発明の別の態様によれば、ユーザの身体と接触し、薬物療法をユーザに施すための医療装置が提供される。医療装置は、ユーザの身体と接触するハウジングを備える。ハウジングはさらに、ポンプ機構を制御して薬物をユーザの身体上の接触部位に送達するマイクロコントローラを含む。ユーザの身体からエネルギーを採取するためのエネルギー採取コンポーネントを備える電力供給システムも提供される。採取エネルギーストレージユニットは、採取されたエネルギーを蓄積し、電力分配ユニットが、蓄積されたエネルギーをマイクロコントローラおよびポンプ機構に選択的に提供する。電力分配ユニットは、好ましくは、アクティブモードの際に第1の電力をマイクロコントローラに提供し、医療装置の待機モードにおいて第2のより低い電力をマイクロコントローラに供給する。採取エネルギーストレージユニットは、第2の電力の少なくとも一部を提供し、電力供給システムは、第1の電力の少なくとも一部を供給するためにバッテリをさらに備える。ハウジングは、データをユーザの身体に通じて送信するパーソナルエリアネットワークを介して、ホストモニタリング装置およびユーザの身体と接触するセンサと通信する、トランシーバをさらに含むことができる。
【0015】
本発明の第3の態様は、薬物療法をユーザに提供するための装着型医療装置システムを提供する。システムは、ユーザの皮膚と接触するように設けられた装着型医療装置を備え、前記医療装置は、処方量の液状薬物をユーザに投与するためのポンプ機構を備える。生身体機能センサが、ユーザの身体と連続接触し、さらに装着型医療装置と通信するように設けられる。装着型医療装置は、さらに、センサから受信した生理データにしたがって薬物の処方量を制御するためにマイクロコントローラを備え、装着型パッチポンプおよびセンサは、ユーザの身体から採取されたエネルギーによって少なくとも部分的に電力供給される。センサは、装着型パッチポンプ内に収容されてよく、またはユーザの身体内に埋め込まれたと、センサは、ユーザの身体を伝送媒体として使用して生理データを送信するパーソナルエリアネットワークを介して装着型パッチポンプと通信する。
【0016】
本発明の別の例示的実施形態の目的は、ユーザの身体と接触する装着型医療装置を通してユーザに薬物療法を施すための方法を提供することである。本方法は、ポンプ機構に電気的に結合されたマイクロコントローラと、トランシーバと、電力供給システムとを提供する。本方法は、薬物をユーザに投与するようポンプ機構に命令するようにマイクロコントローラを構成し、エネルギーをユーザの身体から採取する。本方法は、採取されたエネルギーをマイクロコントローラ、ポンプ機構、およびトランシーバに選択的に提供するように電力供給システムを構成し、ユーザの身体に通じてトランシーバを介してデータを送信するパーソナルエリアネットワークを介して、ユーザの身体上またはその近くのホスト装置と通信し、前記ホスト装置は、医療装置を監視または制御し、薬物のユーザへの投与を少なくとも制御するためのデータを送信する。さらに、本方法は、医療装置において、パーソナルエリアネットワークを介してホスト装置から送信されたデータを受信し、薬物をユーザに投与するようにポンプ機構を制御する。
【0017】
当業者には、本発明の目的、利点、および顕著な特徴が、添付の図面ともに本発明の例示的実施形態を開示する以下の詳細な説明から明らかになるであろう。
【0018】
本発明の特定の例示的実施形態の上記および他の例示的特徴および利点は、添付の図面とともに説明される以下の特定の例示的実施形態の説明からより明白になるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の一実施形態による医療装置の利用を示す図である。
【図2】本発明の一実施形態における医療装置を示す図である。
【図3】本発明の一実施形態における医療装置の主な構成要素を示すブロック図である。
【図4】パーソナルエリアネットワークの動作を示す図である。
【図5】図4に示されるパーソナルエリアネットワークの電気回路モデルである。
【図6】本発明の一実施形態における電力システムの主な構成要素を示すブロック図である。
【図7】本発明の一実施形態による電力システムの追加の実施形態を示すブロック図である。
【図8】本発明の一実施形態によるセンサユニットの主な構成要素を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
同じ参照番号は、図面を通じて同じ要素、特徴、および構造を示すものと理解されよう。
【0021】
本説明で例示される内容は、本発明の例示的実施形態の包括的な理解を助けるために提供され、添付図面を参照する。したがって、当業者には、本明細書で説明される例示的実施形態の様々変更および修正を、特許請求される本発明の趣旨および精神から逸脱することなく行うことができることが認識されよう。また、周知の機能および構造についての説明は、明確かつ簡潔にするために省略されている。
【0022】
本発明にしたがって構築された装着型医療装置100の一般的な実施形態が、図1および図2に図示されている。医療装置100は、患者の皮膚内へまたは皮膚を通した連続注入による薬剤の送達、必ずしもそうである必要はないが好ましくはインスリンの送達に使用することができる。薬剤は、液体、ゲル、または一部の実施形態では固体の形態でも提供することができる。装置100は、ユーザによって皮膚の表面に装着されることが意図されており、このとき、カニューレ(中空針(hollow needle))は、ユーザの皮膚内に貫通しているか、または経皮的に(transcutaneously)ユーザの皮膚を通って皮下組織内に貫通している。装置100は、皮内、筋肉内、および静脈内の薬物注入も提供することができる。その設計は、好ましくは、液体薬剤の流量プロファイル(flow rate profile)が完全にプログラム可能であり、着用者によって1日の流れの中で変更することができるように設計される。代替的には、装置100は、予めプログラムすることもでき、ユーザが必要とする制御を少なくするために基本的な機能性を備えることができる。本発明による装着型医療装置の他の特有の機能、特徴、および特性は、Robert I Connellyらによる特許文献1で見出すことができる。
【0023】
図1に示されるように、本発明の例示的実施形態は、好ましくは医療装置100と通信するホスト装置200を含む。ホスト装置200を、血中グルコースモニタ(BGM: Blood Glucose Monitor)、パーソナル糖尿病モニタ(PDM:Personal Diabetes Monitor)、PDA、スマートフォン、または任意の他のハンドヘルドもしくは装着型の軽量なコンピュータ装置として具現化することができる。代替的に、ホスト装置200は、医療装置100と通信することができるノートブックコンピュータまたは任意の他のコンピューティング装置を備える。さらに、ホスト装置200および医療装置100は、好ましくは、追加のネットワークを介して、例えば患者データまたは他の記録をヘルスケア提供者に送信するための他の外部装置と通信するように構成される。この通信方法は、ホスト装置200と医療装置100間の通信に使用される方法と同じである必要はない。ホスト装置200は、医療装置100のためのシステムインテリジェンス(system intelligence)を提供することができる。ホスト装置200は、医療装置100から受信したデータを処理し、ユーザの基礎比率を調整するかボーラス投与を変更することによってユーザの注入速度(infusion rate)を調整する必要があるかに関する指示を、医療装置100に伝えるように構成することができる。ホスト装置200は、好ましくは、ユーザにとって最適な治療の便益を提供するためにボーラスの注射/注入速度およびボーラス注射/注入の期間を決定して制御することができる。さらに、ホスト装置200は、ユーザのインスリンレベルが上限または下限のインスリン閾値に近づいたか、または閾値を超えたこと、あるいはユーザの血中グルコースレベルの傾向(trend)に反したときをユーザに警告するために警報を提供することができる。さらに、ホスト装置200は、ユーザの注入速度およびスケジュール履歴に関連するデータを記憶することができ、ユーザにとってより精確な注入速度を実現するために有用な傾向または統計を提供するために、そのようなデータを分析するように構成されることがある。ホスト装置200は、医療装置100からシステム診断情報を受信し、医療装置100が適切に動作していない場合にユーザに警告するように構成されることもある。
【0024】
図1に示される医療装置100は、ホスト装置200に関して上記で説明した機能のすべてを組み込むことができるように十分に機能的なものに構成されてもよいことを当業者は理解するであろう。例えば、医療装置100は、さらに、パーソナルエリアネットワークまたはユーザの都合の良い他の通信技術を介して、任意選択のホスト装置200または任意の他の外部装置において更新されるユーザの注入速度およびスケジュール情報を記憶するためのストレージコンポーネントを含むことができる。医療装置100は、任意選択で、患者の血中グルコースレベルを測定またはセンサし、ユーザ注入速度に対して必要な調整を加え、異常なインスリンレベルまたはシステム診断情報を含む警報または警告をユーザに提供するために必要なコンポーネントを備えることもできる。
【0025】
本発明による医療装置100の第1の例示的実施形態が、図3に図示されている。医療装置100は、少なくともポンプ機構102と、マイクロコントローラユニット104と、トランシーバシステム106と、電力供給システム108とを備える。ポンプ機構102は、薬剤または薬物をユーザの皮膚内にまたは皮膚を通して与えるための任意の公知の機構とすることができる。ポンプ機構102は、少なくとも液状の薬剤を収容するための蓄積部(reservoir)または他のユニットと、薬剤をユーザに注入するためのカニューレと、カニューレを通して液状の薬剤を活性化させるためのポンプとを最低限提供する。本発明の使用に適したポンプ機構102の例示的実施形態は、Robert I Connellyらによる特許文献1に見られる。ここで開示される実施形態は、例示的なものであり、限定を意図するものではない。当業者には、液状薬剤/薬物をユーザに投薬するための装着型医療装置に適した任意の公知のポンプ機構を実装することが妥当であることがわかるであろう。ポンプ機構102は、小型かつ軽量で正確なものであり、効果的な動作に必要な電力が低電力であることが好ましい。
【0026】
本発明の第1の実施形態におけるマイクロコントローラ104は、少なくともポンプ機構102を制御するために提供される。マイクロコントローラ104は、好ましくは、ポンプ機構102による薬物送達を制御して任意選択のセンサ300を監視し、およびホスト装置200と通信するための任意の通信条件を制御するために必要な処理電力と周辺機器セットを組み合わせた、理想的には3.6Vまでの範囲内で動作する超低電力(ULP:ultra low-power)のプログラム可能なコントローラである。本発明の第1の例示的実施形態は、トランシーバシステム106を介してホスト装置200と通信することができる「スマート」医療装置を提供する。マイクロコントローラ104は、好ましくは、ユーザの基礎注入速度および必要なボーラス注射を精確に制御するように、ホスト装置によって完全にプログラム可能である。さらに、ホスト装置200は、ポンプ機構102を活性化させ、システム診断を実行し、医療装置100のシステムパラメータを監視し、医療装置100から通信された注入データおよび他の情報を記録するように、マイクロコントローラ104を制御することができる。第1の実施形態におけるマイクロコントローラ104は、好ましくは、トランシーバシステム106の回路を含む「システムオンアチップ(Soc:system on a chip)」で具現化される。SoC設計は、通常、少ない電力しか消費せず、これらと置換されるマルチチップシステムよりも低コストで信頼性が高い。単一のチップシステムを提供することにより、組立コストも同様に低減させることができる。
【0027】
本発明の第1の実施形態における医療装置100内に提供されたトランシーバシステム106は、各装置と通信するために、ホスト装置200のトランシーバ、および任意選択の生体機能センサ300などの任意の他の周辺機器ユニットと互換性を有する。上記で論じたように、第1の実施形態の「スマート」医療装置では、トランシーバシステム106は、少なくともシステム診断データ、注入速度、または注入スケジュール情報をホスト装置200または何らかの他の外部装置に通信するために提供される。さらに、トランシーバシステム106は、マイクロコントローラ104のプログラミングおよび医療装置100の他のシステム機能の制御を可能にするコマンドおよびデータをホスト装置200から受信する。診断データは、例えばカニューレがブロックされている、または別の形で使用不能であるか否か、利用可能な液状薬剤の残存量、および医療装置100を制御するのに利用可能な残存電力など、医療装置およびそのシステムコンポーネントの機能性に関する任意の情報を示すことができる。
【0028】
従来の「スマート」医療装置は、現在、Bluetooth(登録商標)、Zigbee(登録商標)、802.11または他の従来のソリューションなどの無線周波数(RF)の無線通信を使用している。一部の医療装置はさらに、赤外線(IR)技術を用いて見通し線(line of sight)を介してホスト装置と通信する。無線通信システムは、見通し線を必要としないため、IR技術よりも好ましい。しかし、従来の無線技術は、その各々の技術を使用する医療装置の非常に高いコストの引き上げの原因である。従来の無線システムは、動作するのにRFトランシーバとアンテナを必要とする。本発明の例示的実施形態は、有利には、アンテナを使用することなく、容量結合された(capacitively coupled)パーソナルエリアネットワーク(PAN:personal area network)を使用して、ユーザの皮膚を通して医療装置100とホスト装置200の間でデータを送受信する。例示的実施形態におけるパーソナルエリアネットワークは、シンプルで低コストのマイクロコントローラおよびアナログコンポーネントを用いて作成することができ、動作するのにRFシステムよりも少ない電力しか必要とせず、少なくともRFシステムと同じくらいにセキュアである。例示的実施形態におけるパーソナルエリアネットワークの使用は、コンポーネントのコストを低減させて所要電力をより低くすることにより、装置/ホスト通信の全体のコストを低減させ、使用期間を延長することを可能にする。上記で論じたように、例示的なPANトランシーバシステム106は、好ましくは、医療装置100の全体のコストをさらに最小にするために、マイクロコントローラ104を有するSoC設計にパッケージ化される。
【0029】
PANトランシーバ106は、好ましくは、人体を伝送媒体として使用してデータを送信するパーソナルエリアネットワークを確立し、「近接場(near field)」の電場を介してホスト装置200と通信する。医療装置100およびホスト装置200はそれぞれ、身体を介して相互に通信するために、PANトランシーバ106および206をそれぞれ必要とする。図4および図5に図示されるような例示的なパーソナルエリアネットワークでは、トランシーバ106において身体と接する送信機電極402とユーザの皮膚が、コンデンサAとして機能する。同じようにして、トランシーバ206におけるユーザの皮膚と受信機電極404が、コンデンサBとして機能する。図5に示されるように、送信機として機能するPANトランシーバ106は、受信機として機能するPANトランシーバ206に容量結合される。図5に示される実施形態は例にすぎない。別の実施形態では、PANトランシーバ206は、送信機として機能することができ、このときPANトランシーバ106は受信機である。人体は、身体を介して電流をトランシーバ106からトランシーバ206に運ぶことができる導体として機能する。「接地(earth ground)」は、ユーザの身体に近接近する環境内の任意の導体および誘電体を含み、帰還路(return path)として機能する。トランシーバ106の電極406および「接地」は、コンデンサCとして機能し、トランシーバ206の電極408および「接地」は、コンデンサDとして機能する。さらに、「接地」は、通信回路のショートを防止するために人体から電気的に絶縁される必要があり、したがってコンデンサGとして効果的に機能する。図5は、本発明の例示的実施形態におけるパーソナルエリアネットワークの電気回路モデルを図示している。電極402は、電極406よりユーザの体に対して低いインピーダンスを有するため、送信機は、電極406上に振動電位を提供することが可能になる。振動電位により、実在し、人体に転送される変位電流が生じる。トランシーバ106は、変位電流を効果的に変調し、人体を通じてデータを受信機に送信することができる。例示的な実施形態では、トランシーバ106は、マイクロコントローラ102から受信したデータを符号化するための符号器/復号器と、そのデータを変調された変位電流に変換するための回路とを備えることができる。トランシーバ206は、受け取った変位電流を増幅させる増幅器と、電流をデータに変換するアナログデジタル変換器と、そのデータをホスト装置200によって処理されるビット情報に復号化するための復号器とを備えることができる。ユーザの身体を通じて送信された変位電流は非常に少量であり、したがって電力の消費が低減されるだけでなく、そのような少量の電流により、送信された信号がユーザの身体から発されないことが保証され、したがって無線通信技術とは異なるセキュリティの利点を提供することができる。
【0030】
上記のPAN通信システムは確実に、ユーザと直接接触している人物だけがそのユーザの身体を通じて伝播する信号を検知することができるようにする。代替的には、従来の無線技術では、送信された信号は、無線技術のそれぞれの範囲内において受信機を有する全ての人によって検出されうる。Bluetooth(登録商標)を用いる送信機および受信機は、30フィート(9.14m)から100フィート(30.48m)の範囲で信号を送受信することができる。したがって、PAN通信技術は本質的に、より安全である。しかし、ユーザ個人の医療情報が、ユーザと接触する全ての人によって検出または解読されることがないように、送信された電流を符号化および暗号化するためのさらなる技術が望ましい。PAN装置間のクロストーク(cross-talk)を防止するための符号化技術が望ましく、それにより、PAN装置を使用する夫および妻、または他の知人が、いずれのユーザのパーソナルエリアネットワークのデータ通信に影響を及ぼすことなく、手を繋ぐことや握手することができるようになる。さらに、ユーザの身体を通じて送信された信号をさらに暗号化することができ、それにより、身体的接触によって送信された全ての情報は、権限のない受信者には理解不能なものとなる。符号化および暗号化の特有の技術および方法は、本発明に特有のものではない。TCP/IPなど、単一のチャネルネットワークプロトコルの標準的なマルチユーザの高信頼性/低エラーのものの全てを、本発明の例示的な実施形態に効果的に実装することができる。例えば、本発明の例示的実施形態における使用に適したハンドシェーキング技術/プロトコルおよび暗号化キー管理およびアルゴリズムは、Bluetooth(登録商標)およびWi−Fiネットワークで現在使用されているものと同様のものとすることができる。本発明の例示的実施形態において実装され、一方では上記で論じた技術のものと類似する特定の符号化および暗号化技術を、より軽い、より単純なプロトコルで提供できることを当業者は理解するであろう。
【0031】
上記で論じた例示的なパーソナルエリアネットワークの機能性を実現するための必要なトランシーバコンポーネントは、広く利用可能であり、比較的低コストである。さらに、トランシーバ106および206は、単一の集積回路内で実現することができ、あるいは製造がさらにより安価であり、その上電力の消費も少ない、上記で論じたSoC設計内に含めることができる。
【0032】
従来の医療装置の分析は、RF通信を実行する間、15mAまでの典型的な定常状態の電流使用を示した。本発明の例示的なパーソナルエリアネットワークは、ユーザの皮膚上に伝播する超低電流信号を使用してデータを送信するので、データ転送を30nAの電流で無理無く達成することができる。受信した電気信号からデータを増幅し、デジタルで取得するのに必要とされる関連回路は、1mAまでの追加の電流を必要とし、したがって通信の電力消費における10分の1の低減を依然として達成している。医療装置100およびホスト装置200における例示的なPAN通信システムの実装は、装置の電力消費における大幅な減少を効果的に実現しており、したがってその結果、システムの作動に必要な電力を供給するための電力コンポーネントがより安価になり、より少なくなり、またはより小さくなる。所要電力の低減により、医療装置100のコストの全体的な低減が達成され、電力コンポーネントの数またはサイズが低減され、したがって廃棄物も低減される。さらに、PAN通信システムの低所要電力ならびに医療装置100の装着可能な性質により、医療装置100は、装置への電力供給に代替的エネルギー源を利用することができるようになる。
【0033】
図6は、必要な電力をポンプ機構102、マイクロ制御器104、およびPANトランシーバシステム106に供給するための電力システム108の例示的実施形態を図示している。電力システム108は、エネルギー採取ユニット(energy harvesting unit)112と、ストレージユニット(storage unit)114と、電力分配ユニット(power distribution unit)116とを備える。本明細書では、用語「採取(harvesting)」は、「スカベンジング(scavenging)」などの類似の用語の同意語として考えられるべきであり、任意の局所的に利用可能なエネルギー源の使用を示す。エネルギー採取ユニット112は、好ましくは、運動エネルギー(kinetic energy)またはゼーベック効果(Seebeck effect)(熱)を使用して、医療装置100のシステムコンポーネントによって使用するために電圧を帯電および作成する、エネルギー採取回路を備える。ユーザの皮膚と接触する装着型パッチポンプとしての医療装置100の例示的実施形態は、ユーザの身体からの効率的かつ最適なエネルギーキャプチャの機会に役立つ。運動および熱エネルギーの採取技術は良く知られており、したがってこの周知の態様の詳細な説明は、明確かつ簡潔にするために省略される。運動エネルギー採取技術は、医療装置100に使用可能な電荷(charge)に変換することができる装置のユーザの自然な動きからの微量の知覚できない量のエネルギーを回収することによって、エネルギーをキャプチャする。利用することができる運動エネルギーの例には、振動エネルギーおよび四肢の減速(limb deceleration)が含まれる。これらの実施形態は、医療装置100がユーザの腕に装着されるときに特に好ましくなり得る。熱エネルギーの採取技術は、ゼーベック効果を利用して、周囲環境と医療装置100が固着される患者の皮膚との間の温度差を使用可能な電圧に転換する。可動性の高エネルギー担体(mobile high-energy carrier)は高濃度領域から低濃度領域に拡散するため、導電性材料の両側のセグメント間の温度差は、熱流(heat flow)となり、結果的には電荷の流れ(電流)を生じさせる。1つの技術は、高温度接合部(junction)においてn−タイプおよびp−タイプの材料からなる熱電対列を電気的に結合させ、それにより、熱流が各材料の優性電荷担体(dominant charge carrier)を低温度端部に運ぶことが可能になり、プロセスにおける熱電対列のベース電極上に電圧差を確立する。
【0034】
電力システム108の例示的実施形態は、一時的なストレージ回路または装置を利用して、採取された電荷を、PANトランシーバ106などの医療装置100のシステムコンポーネントに電力供給するために該電荷が供給されるまで蓄える。本発明の例示的実施形態は、ウルトラコンデンサをストレージユニット114として利用して、採取されたエネルギーを蓄える。ウルトラコンデンサは、その高エネルギー密度およびすばやい充電時間のために有利であり、したがって例示的な医療装置100のシステムに電力供給するための適切な選択肢を提供する。ストレージユニット114は、任意の一時的なストレージコンポーネント、回路、または当技術分野で公知の技術を備えることができ、ウルトラコンデンサに特定して限定されるものではないことを当業者は理解されたい。電力分配ユニット116は、電力管理回路または必要な所要電力を電力ストレージユニット114から各システム装置に提供するための他の公知のコンポーネントを備えることができる。
【0035】
医療装置100内の電力システム108の例示的実施形態は、好ましくは、例えばユーザの身体およびユーザの自然な動きから熱的エネルギーまたは運動エネルギーをキャプチャするエネルギー採取コンポーネント112などの単一の電力源を備える。超低電力マイクロコントローラ104および超低電力PANトランシーバシステム106を備える本発明の例示的実施形態では、単一のエネルギー採取源は、医療装置100の全所要電力を提供するのに十分なものであり得る。さらに、単一のエネルギー採取源は、予めプログラムされたマイクロコントローラ104を使用する実施形態では、医療装置100に十分な電力を必ず提供し得るが、通信トランシーバシステムには提供しない。医療装置に供給された電力は、アクティブモードおよび待機モードにおける医療装置の作動を可能するのに十分なものであるべきである。待機モードでは、マイクロコントローラは、好ましくは約10マイクロアンペア、ただし20マイクロアンペア以下の電流しか消費しない。アクティブモードでは、マイクロコントローラは、好ましくは約10ミリアンペア、ただし20ミリアンペア以下しか消費しない。
【0036】
一部の実施形態では、電力システム108はさらに、バッテリ118を備えることができる。バッテリ118は、周知の電力ストレージユニットのうちの任意のもの、またはこれらに限定されないが、標準的なアルカリ電池、充電式電池、およびウルトラコンデンサを含め当技術分野で知られているそのようなユニットのアレイを備えることができる。上記実施形態では、電力分配ユニット116は、医療装置100のパフォーマンスを向上させ、その寿命を延長させるために、バッテリ118およびエネルギー採取ストレージユニット114からの電力の分配を最適に管理することができる。医療装置100の一実施形態は、バッテリ118を、電力の長期蓄積もしくは「オフ」モードの間、およびポンプ機構102が薬物をユーザに投薬する高放電時間の間などのアクティブモードで使用する。採取エネルギーストレージユニット114は、次いで、好ましくは、一部のシステムではシステムに対して最高の全体電力を放出するように示される、医療装置100のアイドリング/待機モードを補うために使用される。エネルギー採取を医療装置100の例示的実施形態のための単一のまたは部分的電力源として利用することにより、装置の寿命を延長させること、または所要バッテリを低減することができ、それによって既存のパッチポンプに比べてパフォーマンスが向上し、コストが低減される。
【0037】
本発明の例示的実施形に使用される電力システム108の別の実施形態が、図7に図示されている。この実施形態では、電力システム108は、複数のエネルギー採取ユニット112a、112bおよび112cを備える。エネルギー採取ユニット112a〜cは、運動採取ユニット、熱採取ユニット、および上記で論じたようにバッテリなどの標準的な電力源の任意の組合せを含むことができる。さらに、医療装置100の特定の実施形態がトランシーバシステム106を備える場合、エネルギー採取ユニット112a〜cのいずれか1つを、トランシーバでホスト装置200から受信した通信からエネルギーを取り込むために提供することができる。図7は、3つのエネルギー採取ユニットを単に例として示している。電力システム108は、特定の医療装置に適した任意の数および組み合わせのエネルギー採取ユニットを備えることができることを当業者には理解されよう。さらに、エネルギー採取ユニット112a〜cは、運動エネルギー、熱的エネルギーまたはホスト装置との通信によるエネルギーを利用することに限定されない。RFエネルギーなどの電磁エネルギーから、または医療装置100に電力供給するために実行可能である任意の他のソースからのエネルギーを利用するための追加のシステムを使用することもできる。RFエネルギーは、外部環境に広がるものであり、医療装置100によってキャプチャされて、装置に直接的に電力供給するか、医療装置100のための補助電力源を提供することができる。本発明における使用に適したRFエネルギーを利用するための例示的技術は、参照によって本明細書に明示的に組み込まれる、John G.Shearerらにようる特許文献2で見出すことができる。
【0038】
図7に図示される実施形態では、入力管理ユニット113は、エネルギー採取装置112a〜cから断続的にキャプチャされたエネルギーを、ストレージユニット114a〜cのいずれかに蓄積するために使用可能な電圧に変換するための、簡単な電圧整流器(voltage rectifier)および電荷ポンプを備えることができる。ストレージユニット114a〜cは、さまざまなタイプの充電式バッテリ、ウルトラコンデンサまたは当技術分野で認識される他の一時的ストレージ装置を備えることができる。ストレージユニット114a〜cの1つは、任意選択で、図6で同様に説明した一回の使用、すなわち使い捨てのバッテリまたはバッテリアレイを備えることができる。システム電力分配ユニット116は、好ましくは、さまざまなタイプの電力を必要とする医療装置100内のシステムにおいて、ストレージユニット114a〜cからの利用可能なエネルギーを管理および分割するために提供される。例えば、システム電力分配ユニット116は必要な電力を、適切なストレージユニットから、薬物をユーザに注射するために安定電圧のより高い電流を短時間で大量に必要とするポンプ機構102に選択的に供給するが、マイクロコントローラ104および例示的なPANトランシーバシステム106は、最適な機能性のためにそれより少ない電流しか必要としない。さらに、システム電力分配ユニット116は、医療装置100が使用される前、装置の長期的な保管の間の「オフ」モードにおいて医療装置100に電力供給するためにさらに低い電力を最適に指定する。図7に図示される電力システムは、好ましくは、医療装置100のための最適な機能性および寿命の延長をもたらす、エネルギー採取ユニットおよびバッテリなどの標準的な電力供給ユニットの最適な組合せを最小限のコストで実現する。
【0039】
図8は、医療装置100の例示的実施形態とともに使用するための図3に示される任意意選択の生体機能センサ300の例示的実施形態を図示している。糖尿病ケアに特有の医療産業は、インスリン注入に関して閉ループシステム(closed loop system)の方向に移行している。典型的に「人工膵臓」と称される理想的なシステムは、精確なインスリン注入制御のための「リアルタイム(real time)」または「ほぼリアルタイム(near real time)」のフィードバックを提供する。生体機能センサ300は、経皮的な検体センサまたは生物センサとすることができ、好ましくは医療装置100の一部として提供されるか、またはユーザの別個の部位に挿入され得、ユーザに外科的に埋め込むこともできる血中グルコースセンサである。センサ300を、一時的または使い捨ての単回使用のセンサとして提供することができ、あるいは代替的に、延長された期間にわたる繰返しまたは一貫した使用のために実装することができる。医療装置100内にセンサ300を含む実施形態では、センサ300は、電力システム108から電力を最適に受け取り、ホスト装置200と通信するためにトランシーバ106にデータを提供する。ホスト装置200は、好ましくは、上記で説明した例示的なパーソナルエリアネットワークを通して受信したあらゆるデータを処理し、必要であればユーザの注入速度を変更する。ホスト装置は、さらに、上記の例示的実施形態において説明した機能の任意のものを実行することができる。図8は、埋め込み可能な装置として、または別の形で医療装置100とは別個の部位でユーザ内に挿入されたセンサ300を図示している。この例示的な実施形態では、センサ300は、さらに、センサユニット302と、エネルギー採取ユニット308と、PANトランシーバシステム306とを備える。エネルギー採取ユニット308は、上記で説明したエネルギー採取ユニットの任意のものを備えることができ、好ましくは、センサ300のための唯一の電力源を提供する。PANトランシーバ306は、上記で論じたように、センサユニット302から受信したセンサデータを送信するように動作する。PANトランシーバ106および206は、上記で説明した例示的なパーソナルエリアネットワークを通してPANトランシーバ306から送信された全てのデータを受信することができる。本発明にかかるセンサ300の例示的実施形態は、エネルギー採取システム308およびPANトランシーバ306の利点を組み合わせて、医療装置100を使用するユーザのための精確なインスリン注入制御を提供することにおいて、最小限のコストおよび最大限の機能性を実現する。
【0040】
上記の例示的実施形態の特徴は、多くの用途において同様に提供されてよく、上記の開示に限定されないことを当業者は理解されよう。他の皮膚表面、装着型、埋め込み型、および携帯型のいずれの装置もすべて、上記の特徴および技術を利用して、最小限のコストで複雑な低電力装置の身体ベースのパーソナルエリアネットワークを提供することができる。本明細書で開示したインスリンパッチポンプ装置に加えて、必要性が変化する患者に合わせた他の非ポンプ式インスリン注入装置を、インスリン吸収パッチまたは電気感光性ゲルパッチと組み合わせたプログラム可能なインスリンペン装置または制御器などの上記で説明した特徴とともに実装することができる。さらに、収縮期圧、心拍数および他の測定基準などの他の生理情報もすべて、例示的なパーソナルエリアネットワークを用いてそれぞれの装置を介して監視し、キャプチャすることができる。同様に、埋め込み型除細動器および他の装置をすべて単一のマスター/ホスト装置から制御することができる。例示的なパーソナルエリアネットワークは、論理的に2または3つの装置だけではなくそれ以上多くをサポートすることができる。そのようなネットワークを使用して、ユーザが固定装置と物理的接触を行うときにそれらすべての装置と通信することもできる。一実施形態は、互換性のあるPANトランシーバが取り付けられたコンピュータに触れると、携帯型または装着型装置内に記憶された患者の記録を追加するなどの自動データ送信を提供することができる。別の実施形態は、皮膚と皮膚の接触を行って各個人上の互換性のある装置間に通信リンクを確立するだけで、患者の生理的機能に関する即値データを救急隊員に提供することができる。上記で論じたように、これらの実施形態の各々は、ユーザのプライバシーおよび慎重に扱うべき医療情報のセキュリティを確保するために、セキュアなPANにおいて実装することができる。
【0041】
本発明を特定の例示的な実施形態を参照して示し、説明してきたが、これは、例示的実施形態に制限されるのではなく、添付の特許請求の範囲およびそれらの等価物によってのみ制限されるものである。本発明の範囲および趣旨から逸脱することなく、当業者が例示的実施形態を変更または改変できることを理解されたい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
薬物療法をユーザに施すための前記ユーザの身体と接触する装着型医療装置であって、
ポンプ機構、トランシーバ、および電力供給システムに電気的に結合されたマイクロコントローラを備え、
前記マイクロコントローラは、薬物を前記ユーザに投与するように前記ポンプ機構に命令し、
前記トランシーバは、前記ユーザの身体を通じてデータを送信するパーソナルエリアネットワークを介して、前記ユーザの身体上またはその近くのホスト装置と通信し、前記ホスト装置は、前記医療装置を監視または制御し、
前記電力供給システムは、前記ユーザの身体からエネルギーを採取するエネルギー採取コンポーネントから供給された電力を、前記マイクロコントローラ、前記ポンプ機構、および前記トランシーバに選択的に提供することを特徴とする医療装置。
【請求項2】
前記パーソナルエリアネットワークのトランシーバは、前記ユーザの身体上の前記医療装置の接触部位にある前記ユーザの皮膚上に生成された電場を介して前記ホスト装置と通信することを特徴とする請求項1に記載の医療装置。
【請求項3】
前記エネルギー採取コンポーネントは、前記医療装置が前記ユーザの身体に接触するときに前記ユーザの身体と外部環境の間の温度差によって実現されたエネルギーを蓄積することを特徴とする請求項1に記載の医療装置。
【請求項4】
前記エネルギー採取コンポーネントは、前記医療装置が前記ユーザの身体上に配置されたときに前記ユーザの動きによって生成されたエネルギーを蓄積することを特徴とする請求項1に記載の医療装置。
【請求項5】
前記医療装置は、前記ユーザに経皮的にインスリンを投与するためのパッチポンプを含むことを特徴とする請求項1に記載の医療装置。
【請求項6】
前記エネルギー採取コンポーネントは、前記医療装置の所要エネルギーの少なくとも一部を提供することを特徴とする請求項1に記載の医療装置。
【請求項7】
薬物を前記ユーザに積極的に投与するときに電力の少なくとも一部を前記ポンプ機構に提供するための追加の電力源をさらに備え、前記エネルギー採取コンポーネントは、低電力状態のときに前記医療装置に電力供給することを特徴とする請求項6に記載の医療装置。
【請求項8】
前記トランシーバはさらに、前記ユーザの体内に埋め込み可能な少なくとも1つのセンサ、または前記ユーザの身体と連続的に接触する少なくとも1つのセンサと、前記パーソナルエリアネットワーを介して通信することを特徴とする請求項1に記載の医療装置。
【請求項9】
前記トランシーバはさらに、一時的または使い捨ての単回使用のセンサと、前記パーソナルエリアネットワークを介して通信することを特徴とする請求項1に記載の医療装置。
【請求項10】
前記トランシーバはさらに、複数のセンサと前記パーソナルエリアネットワークを介して通信することを特徴とする請求項1に記載の医療装置。
【請求項11】
前記マイクロコントローラに電気的に結合されたセンサをさらに備えることを特徴とする請求項1に記載の医療装置。
【請求項12】
前記マイクロコントローラは、超低電力マイクロコントローラを備えることを特徴とする請求項1に記載の医療装置。
【請求項13】
前記超低電力マイクロコントローラは、3.6Vまでの範囲内で作動することを特徴とする請求項12に記載の医療装置。
【請求項14】
前記超低電力マイクロコントローラはさらに、待機モードでは20マイクロアンペア以下の電流を消費し、およびアクティブモードでは20ミリアンペア以下の電流を消費することを特徴とする請求項13に記載の医療装置。
【請求項15】
ユーザに薬物療法を施すための前記ユーザの身体と接触する医療装置であって、
ユーザの身体と接触するハウジングを備え、前記ハウジングは、
前記ユーザの身体上の接触部位に薬物を送達するようにポンプ機構を制御するマイクロコントローラと、
前記ユーザの身体からエネルギーを採取するエネルギー採取コンポーネント、前記採取されたエネルギーを蓄積する採取エネルギーストレージユニット、ならびに前記蓄積されたエネルギーを前記マイクロコントローラおよび前記ポンプ機構に選択的に提供する電力分配ユニットを備える、電力供給システムと
を備えたことを特徴とする医療装置。
【請求項16】
前記電力分配ユニットは、アクティブモードのときに第1の電力を前記マイクロコントローラに提供し、前記医療装置の待機モードのときに、より低い第2の電力を前記マイクロコントローラに供給することを特徴とする請求項15に記載の医療装置。
【請求項17】
前記採取エネルギーストレージユニットは、前記第2の電力の少なくとも一部を提供し、前記電力供給システムは、前記第1の電力の少なくとも一部を供給するバッテリをさらに備えることを特徴とする請求項16に記載の医療装置。
【請求項18】
前記電力分配ユニットは、前記医療装置のオフモードにおいて前記第2の電力より低い第3の電力を提供することを特徴とする請求項16に記載の医療装置。
【請求項19】
前記ハウジングは、前記ユーザの身体を通じてデータを送信するパーソナルエリアネットワークを介して、ホストモニタリング装置および前記ユーザの身体と接触する少なくとも1つのセンサと通信するためのトランシーバをさらに含むことを特徴とする請求項15に記載の医療装置。
【請求項20】
前記トランシーバは、前記パーソナルエリアネットワークを介して複数のセンサと通信することを特徴とする請求項19に記載の医療装置。
【請求項21】
前記ハウジングは、前記ユーザの皮膚に取り付けられることを特徴とする請求項15に記載の医療装置。
【請求項22】
薬物療法をユーザに提供するための装着型医療装置システムであって、
前記ユーザの皮膚と接触するように設けられ、処方量の液状薬物を前記ユーザに投与するためのポンプ機構を備える装着型医療装置と、
前記ユーザの身体と連続的に接触するように設けられ、さらに前記装着型医療装置と通信する少なくとも1つの生体機能センサと
を備え、
前記装着型医療装置は、前記センサから受信した生理データに従って前記薬物の前記処方量を制御するためのマイクロコントローラをさらに備え、装着型パッチポンプおよび前記センサは、前記ユーザの身体から採取されたエネルギーによって少なくとも部分的に電力供給されることを特徴とするシステム。
【請求項23】
前記センサは、前記装着型パッチポンプ内に収容されることを特徴とする請求項22に記載の医療装置システム。
【請求項24】
前記センサは、前記ユーザの身体内に埋め込まれ、前記センサは、前記ユーザの身体を伝送媒体として使用して前記生理データを送信するパーソナルエリアネットワークを介して、前記装着型パッチポンプと通信することを特徴とする請求項22に記載の医療装置システム。
【請求項25】
ユーザの身体と接触する装着型医療装置を通してユーザに薬物療法を施す方法であって、
ポンプ機構、トランシーバ、および電力供給システムに電気的に結合されたマイクロコントローラを提供するステップと、
薬物をユーザに投与するよう前記ポンプ機構に命令するように、前記マイクロコントローラを構成するステップと、
前記ユーザの身体からエネルギーを採取するステップと、
前記採取されたエネルギーを前記マイクロコントローラ、前記ポンプ機構、および前記トランシーバに選択的に与えるように、前記電力供給システムを構成するステップと、
データを前記ユーザの身体を通じて前記トランシーバを介して送信するパーソナルエリアネットワークを介して、前記ユーザの身体上またはその近くのホスト装置と通信するステップであって、前記ホスト装置は、前記医療装置を監視または制御し、前記薬物の前記ユーザへの投与を少なくとも制御するためのデータを送信する、ステップと、
前記医療装置において、前記パーソナルエリアネットワークを介して前記ホスト装置から送信された前記データを受信し、前記薬物を前記ユーザに投与するように前記ポンプ機構を制御するステップと
を含むことを特徴とする方法。
【請求項26】
薬物療法をユーザに施すための前記ユーザの身体と接触する、装着型医療装置であって、
ポンプ機構およびトランシーバに電気的に結合されたマイクロコントローラを備え、
前記マイクロコントローラは、薬物を前記ユーザに投与するように前記ポンプ機構に命令し、
前記トランシーバは、前記ユーザの身体を通じてデータを送信するパーソナルエリアネットワークを介して、前記ユーザの身体上またはその近くのホスト装置と通信し、前記ホスト装置は、前記医療装置を監視または制御することを特徴とする医療装置。
【請求項27】
前記パーソナルエリアネットワークのトランシーバは、前記ユーザの身体上の前記医療装置の接触部位にある前記ユーザの皮膚上に生成された電場を介して、前記ホスト装置と通信することを特徴とする請求項26に記載の医療装置。
【請求項28】
前記医療装置は、前記ユーザに経皮的にインスリンを投与するためのパッチポンプを含むことを特徴とする請求項26に記載の医療装置。
【請求項29】
前記トランシーバはさらに、前記パーソナルエリアネットワーを介して、前記ユーザの身体内に埋め込み可能な少なくとも1つのセンサ、または前記ユーザの身体と連続接触する少なくとも1つのセンサと通信することを特徴とする請求項26に記載の医療装置。
【請求項30】
前記トランシーバはさらに、前記パーソナルエリアネットワークを介して、一時的または使い捨ての単回使用のセンサと通信することを特徴とする請求項26に記載の医療装置。
【請求項31】
前記マイクロコントローラに電気的に結合された少なくとも1つのセンサをさらに備えることを特徴とする請求項26に記載の医療装置。
【請求項32】
前記トランシーバはさらに、前記パーソナルエリアネットワークを介して複数のセンサと通信することを特徴とする請求項26に記載の医療装置。
【請求項33】
前記マイクロコントローラは、超低電力マイクロコントローラを備えることを特徴とする請求項26に記載の医療装置。
【請求項34】
前記超低電力マイクロコントローラは、3.6Vまでの範囲内で作動することを特徴とする請求項33に記載の医療装置。
【請求項35】
前記超低電力マイクロコントローラはさらに、待機モードで20マイクロアンペア以下の電流を消費し、およびアクティブモードで20ミリアンペア以下の電流を消費することを特徴とする請求項34に記載の医療装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−25038(P2011−25038A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2010−166064(P2010−166064)
【出願日】平成22年7月23日(2010.7.23)
【出願人】(595117091)ベクトン・ディキンソン・アンド・カンパニー (539)
【氏名又は名称原語表記】BECTON, DICKINSON AND COMPANY
【住所又は居所原語表記】1 BECTON DRIVE, FRANKLIN LAKES, NEW JERSEY 07417−1880, UNITED STATES OF AMERICA
【Fターム(参考)】