説明

宿主細胞中の組換えタンパク質の発現を増進するための組換え発現ベクター要素(rEVE)

組換えタンパク質の発現レベルを増進するための組換え発現ベクター要素(rEVE)を含む組成物および方法が記載されている。組換えタンパク質の発現を低下させる、実質的に抑制するまたは本質的にサイレンシングさせる他の組成物および方法も記載されている。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
多種多様な真核性または原核性の宿主細胞中で組換えタンパク質を発現させるために核酸ベクター分子を使用する様々な系の利用が可能である。どのベクター/宿主細胞の組合せを使用するかの決定は一般に、どの系が目的の用途に最適な形態の望ましい組換え遺伝子産物を最大収率で提供するかに依存する。たとえば、所望の組換えタンパク質の必要条件(たとえば、抗原性、活性、コンホメーションなどの条件)にグリコシル化のような翻訳後修飾が不可欠である場合、原核細胞は特徴的に翻訳後グリコシル化活性がないので真核細胞系が望ましい。ベクター/宿主細胞の組合せが発現遺伝子産物を所望の形態で産生するだけでなく、所望の発現遺伝子産物の分子がそれらを産生する細胞から容易に単離できることも重要である。
【0002】
ヒト治療用の組換えタンパク質の開発に要する費用は増加しつつあるので、特に真核性宿主細胞を使用する系におけるこのような組換えタンパク質の発現レベルを増進する努力が続けられている。所望の組換え遺伝子産物の発現効率および/または総収率を改善し得るヌクレオチド配列(DNAまたはRNA)を有している様々なシス−およびトランス−作用性調節要素が特性決定された。このような調節要素は非限定的に、高効率プロモーター、転写エンハンサー配列(参照:たとえばDillon and Grosveld,Trends Genet.,9:134(1993)による考察)、遺伝子座コントロール領域(LCR;参照:たとえばGrosveldら,Cell,51:975(1987))、マトリックスまたはスカフォールド付着領域(MAR、SAR;参照:たとえば米国特許第7,129,062号明細書;Bodeら,Int.Rev.Cytol.,162A:389−454(1995);Bodeら,Crit.Rev.Eukaryotic Gene Expression,6:115−138(1996));絶縁要素(参照:たとえばKellumら,Cell,64:941(1991);および内部リボソーム侵入部位(IRES;参照:たとえばMcBratneyら,Curr.Opin.Cell Biol,5:961(1993)による考察)を含む。このような要素の核酸配列のいくつかは発現を左右できる特異的サブ配列を有していることが後になって知見された。
【0003】
様々な種類の宿主細胞中の組換えタンパク質の発現を左右できる様々な配列およびその他の因子の解明は前進したとは言えるが、特にこのような組換えタンパク質が治療または他の専門用途に予定される場合、組換えタンパク質の収率の改善が依然として要望されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第7,129,062号明細書
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Dillon and Grosveld,Trends Genet.,9:134(1993)
【非特許文献2】Grosveldら,Cell,51:975(1987)
【非特許文献3】Bodeら,Int.Rev.Cytol.,162A:389−454(1995)
【非特許文献4】Bodeら,Crit.Rev.Eukaryotic Gene Expression,6:115−138(1996)
【非特許文献5】Kellumら,Cell,64:941(1991)
【非特許文献6】McBratneyら,Curr.Opin.Cell Biol,5:961(1993)
【発明の概要】
【0006】
本発明は組換えタンパク質の発現を増進するヌクレオチド塩基配列を含む単離核酸分子(ポリヌクレオチド分子)を提供する。この文中ではこのような核酸分子を組換え発現ベクター要素(rEVE)と表す。発現ベクター上のrEVEの存在は、発現ベクター上に内在する1つ以上の機能遺伝子によってコードされた1つ以上の組換えタンパク質の発現レベルをrEVEの非存在下の発現レベルに比較して増進する。組換えタンパク質の発現レベルのこのようなrEVE媒介性増進は、rEVEが(1つ以上の)目的の組換えタンパク質をコードする遺伝子に対して5’側、3’側または5’側および3’側の双方のいずれに局在(たとえば、フランキング)するかにかかわりなく可能である。発現ベクター上に存在するrEVEは、発現ベクター上に存在する個別の対応遺伝子にコードされているかまたは単一のポリシストロン性遺伝子にコードされているかにかかわりなく1つ以上の組換えタンパク質の発現を増進し得る。rEVEは、安定発現系および一過性発現系の双方を使用する組換えタンパク質発現のレベル増進に使用され得る。
【0007】
1つの実施態様において本発明は、配列1の塩基配列(“ARM1”)、配列2の塩基配列(“ARM2”)および上記配列のいずれかの発現増進性部分から成るグループから選択されたヌクレオチド塩基配列を含む単離rEVEポリヌクレオチド分子を提供する。この分子中では、目的の組換えタンパク質をコードする組換え遺伝子と同じ発現ベクター上にrEVEポリヌクレオチドが存在するとき、組換えタンパク質の発現レベルがrEVE非存在下の発現レベルに比較して増進されるであろう。
【0008】
本発明の好ましいrEVE分子は、配列1のヌクレオチド塩基配列を有している2329塩基対(bp)のrEVE核酸分子および配列2のヌクレオチド塩基配列を有している2422bpのrEVE核酸分子を含む。
【0009】
配列2の配列の3’末端領域は、タンパク質発現のrEVE媒介性増進に欠かせない配列を含有している。配列2のこのような好ましい3’末端領域配列は、配列2の塩基配列462−2422および配列2の塩基配列1087−2422の配列を含む。
【0010】
この文中に記載のヌクレオチド塩基配列の1つ以上を含む単離rEVE核酸分子は、直鎖状核酸分子、プラスミド、真核性ウイルス分子、原核性ウイルス(バクテリオファージ)分子、人工染色体および組換え染色体を非限定的に含む様々な形態のいずれかを有し得る。
【0011】
好ましい実施態様において本発明は、この文中に記載のrEVEを少なくとも1つ含んでいる発現ベクターを提供する。このようなrEVE含有発現ベクターは、適正な宿主細胞中で、発現ベクターにコードされた少なくとも1つの組換えタンパク質の発現レベルをrEVEの欠如した同じ発現ベクターを担持する宿主細胞中の発現レベルに比較して増進する(向上させる)。本発明に有用な発現ベクターは、適正な(相同)宿主細胞中で1つ以上の組換えタンパク質をコードし発現するように操作できる核酸ベクター分子を含む。このような発現ベクターは非限定的に、真核性プラスミドベクター、真核性ウイルスベクター、原核性プラスミド、バクテリオファージベクター、シャトルベクター(たとえば、真核細胞および原核細胞中で複製できるベクター)、ミニ染色体および様々な人工染色体を含む。好ましくは、発現ベクターがプラスミド発現ベクターであり、より好ましくは真核性宿主細胞ゲノムに安定に組込まれるプラスミド発現ベクターであり、いっそう好ましくは非相同的組換えによって宿主細胞ゲノムに安定に組込まれるプラスミド発現ベクターである。
【0012】
別の実施態様において本発明は、この文中に記載のrEVEと宿主細胞中で少なくとも1つの組換えタンパク質の発現を指令する組換え遺伝子とを含む発現ベクターを含有する宿主細胞を提供する。宿主細胞は真核性宿主細胞でもよくまたは原核性宿主細胞でもよい。本発明に使用するための好ましい真核性宿主細胞は非限定的に、哺乳類宿主細胞、植物宿主細胞、真菌類宿主細胞、真核性藻類宿主細胞、原生動物宿主細胞、昆虫類宿主細胞および魚類宿主細胞を含む。より好ましくは、本発明に有用な宿主細胞は、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、COS細胞、Vero細胞、SP2/0細胞、NS/0骨髄腫細胞、ヒト胚性腎(HEK293)細胞、幼若ハムスター腎(BHK)細胞、HeLa細胞、ヒトB細胞、CV−1/EBNA細胞、L細胞、3T3細胞、HEPG2細胞、PerC6細胞およびMDCK細胞を非限定的に含む哺乳類宿主細胞である。宿主細胞に挿入された発現ベクター上の組換え遺伝子のコピー数を増幅するために標準メトトレキセート処理プロトコルで処理できるCHO細胞が特に好ましい。本発明において宿主細胞として使用し得る真菌類細胞は非限定的に、Aspergillus、NeurosporaのようなAscomycete細胞、および、酵母細胞、特にSaccharomyces、Pichia、Hansenula、Schizosaccharomyces、Kluyveromyces、YarrowiaおよびCandidaから成るグループから選択される属の酵母を含む。本発明による組換えタンパク質の発現用宿主細胞として使用し得る好ましい酵母種は非限定的に、Saccharomyces cerevisiae、Hansenula polymorpha、Kluyveromyces lactis、Pichia pastoris、Schizosaccharomyces pombeおよびYarrowia lipolyticaを含む。本発明による組換えタンパク質を発現させるために使用し得る原核性宿主細胞は非限定的に、Escherichia coli、種々の血清型のSalmonella enterica、Shigella種、Wollinella succinogenes、Proteus vulgaris、Proteus mirabilis、Edwardsiella tarda、Citrobacter freundii、Pasteurella種、Haemophilus種、Pseudomonas種、Bacillus種、Staphyloccocus種およびStreptococcus種を含む。本発明による組換えタンパク質を発現させるために宿主細胞として使用し得る他の細胞は、トリパノゾマチド宿主Leishmania tarentolaeのような原生動物細胞、および、線虫Caenorhaditis elegansの細胞を含む。
【0013】
この文中に記載のrEVEポリヌクレオチド、この文中に記載の1つ以上のrEVEを含むベクター、および、この文中に記載の1つ以上のrEVEを含むこのようなベクターを含む宿主細胞は、目的の組換えタンパク質の発現に関する様々な方法に使用され得る。
【0014】
1つの実施態様において本発明は、この文中に記載のrEVEと宿主細胞中で目的の組換えタンパク質の合成をコードおよび指令する組換え遺伝子とを含む組換え発現ベクターを宿主細胞に挿入する段階と、組換えタンパク質の発現を推進する条件下で宿主細胞を培養する段階とを含む、宿主細胞中で目的の組換えタンパク質の発現を増進させる方法を提供する。
【0015】
別の実施態様において本発明は、メトトレキセート(“MTX”)の非存在下で,すなわち、メトトレキセートの存在によって提供される組換えタンパク質の高発現選択圧力の非存在下で、組換えタンパク質を安定に(一過性の逆)高レベルで発現するメトトレキセート耐性宿主細胞の製造方法を提供する。このような方法は、目的の組換えタンパク質をコードする組換え遺伝子と、この文中に記載のrEVEと、ジヒドロ葉酸レダクターゼ(“DHFR”)をコードする遺伝子とを含む発現ベクターを宿主細胞に挿入する段階と、目的の組換えタンパク質を発現するメトトレキセート耐性宿主細胞を選択するためにメトトレキセートの存在下で宿主細胞を増殖させる段階と、メトトレキセート耐性宿主細胞を単離する段階とを含み、メトトレキセート耐性宿主細胞がメトトレキセート感受性宿主細胞よりも高いレベルで目的の組換えタンパク質を発現すること、および、メトトレキセートの存在下またはメトトレキセートの非存在下で増殖させたときにメトトレキセート耐性宿主細胞が目的の組換えタンパク質を高レベルで安定に発現することを特徴とする。特に好ましい実施態様において、この方法に使用されるrEVEは、配列2の配列、または、目的の組換えタンパク質をコードする遺伝子と同じ発現ベクター上に存在するときに宿主細胞中の組換えタンパク質の発現レベルを増進するその発現増進性部分を含む。
【0016】
別の実施態様において本発明は、組換えタンパク質発現を増幅するためのDHFR−メトトレキセート手順におけるメトトレキセートの存在に対する適応が強化または改善された宿主細胞集団の製造方法を提供する。方法は、目的の組換えタンパク質をコードする遺伝子とこの文中に記載のrEVEとDHFR遺伝子とを含む発現ベクターを宿主細胞に挿入する段階を含み、発現ベクターを含有する宿主細胞集団が、rEVE配列の欠如した発現ベクターを担持する宿主細胞集団に比較してより高度にメトトレキセートの存在に適応している、すなわちメトトレキセートの存在下でより高い生存率および/またはより高い増殖速度を有していることを特徴とする。
【0017】
また別の実施態様において本発明は、DHFR−メトトレキセート手順を使用して得られた宿主細胞中の組換えタンパク質の発現の増幅(向上)を増進する方法を提供する。方法は、目的の組換えタンパク質をコードする組換え遺伝子とこの文中に記載のrEVEとDHFR遺伝子とを含む発現ベクターを宿主細胞に挿入する段階と、目的の組換えタンパク質を発現するメトトレキセート耐性宿主細胞を選択するためにメトトレキセートの存在下で宿主細胞を増殖させる段階と、メトトレキセート耐性宿主細胞を単離する段階とを含み、単離されたメトトレキセート耐性宿主細胞がメトトレキセートの存在下でrEVEの欠如した同じ発現ベクターを含有するメトトレキセート耐性宿主細胞よりも高いレベルで目的の組換えタンパク質を発現することを特徴とする。
【0018】
この文中に記載の方法においてメトトレキセートは20nMから500nMの範囲で使用されるのが好都合であるが、目的の組換えタンパク質の増幅発現を選択するためのこのような方法では5nMから10μMのようなもっと低いおよびもっと高い濃度で使用しても成功結果が得られるであろう。
【0019】
さらに別の実施態様において本発明は、発現ベクターからの組換えタンパク質の発現を低下させる、実質的に抑制する、または、本質的にサイレンシングさせる方法を提供する。このような方法は、配列1または配列2の配列を含むrEVEを使用して提供される発現レベルよりも低いレベルで特定の組換え遺伝子産物を発現するrEVEの1つ以上のフラグメントを含む発現ベクターを使用する。このようなフラグメントは配列2の塩基1−1086または配列2の塩基1−461のヌクレオチド塩基配列を含む配列2の特別な末端欠失変異体である。配列2の塩基1−461から成る末端欠失ARM2配列を有している核酸分子は、宿主細胞中のベクター分子による組換えタンパク質の発現を抑制または実質的にサイレンシングさせるために特に有用である。これらの知見はまた、組換えタンパク質の発現のrEVE媒介性増進を最大にするために配列2のヌクレオチド塩基462−2422の配列および配列2のヌクレオチド塩基1087−2422の配列がもっとも好ましいことを示唆する。
【0020】
その発現がこの文中に記載の1つ以上のrEVE分子によって増進され得る組換えタンパク質は、(1つ以上の)機能遺伝子が適正な宿主細胞中で発現するように核酸ベクター分子に組込み操作できるいかなるタンパク質(ペプチド、ポリペプチドおよびオリゴマータンパク質を含む)でもよい。このようなタンパク質は非限定的に、可溶性タンパク質、膜タンパク質、構造タンパク質(すなわち、細胞、組織または器官の構造または支持を提供するタンパク質)、リボソームタンパク質、酵素、チモーゲン、抗体分子、細胞表面受容体タンパク質、転写調節タンパク質、翻訳調節タンパク質、クロマチンタンパク質(たとえば、ヒストン)、ホルモン、細胞周期調節タンパク質、Gタンパク質、神経作動性ペプチド、免疫調節タンパク質(たとえば、インターロイキン、サイトカイン)、血液成分タンパク質、イオンゲートタンパク質、熱ショックタンパク質、ジヒドロ葉酸レダクターゼ、抗生物質耐性タンパク質、それらの機能フラグメント、それらのエピトープ含有フラグメント、および、それらの組合せを含む。
【0021】
この文中に記載のrEVEまたはその一部分の配列を含有する核酸分子はまた、核酸ハイブリダイゼーションによって他の核酸分子中のrEVE配列の存在を同定するため、または、たとえばこの文中に記載のrEVE配列を操作、同定、産生または増幅するために使用されるような様々なポリメラーゼ連鎖反応(PCR)手順で使用するプライマーのソースとして使用し得る。
【0022】
ARM1(配列1)およびARM2(配列2)のrEVE配列のようなrEVE配列は1つ以上のマトリックス付着領域(MAR)配列を含み得る。MAR配列は、rEVE配列の5’および/または3’末端領域にクラスターとして存在するものも含めてrEVE配列内部にクラスターとして存在し得る。この文中に記載のrEVEポリヌクレオチドはMAR配列の有用なソースである。従って本発明は、1つ以上のMAR配列を含有するこの文中に記載のrEVEまたはこの文中に記載のrEVEの一部分を核酸分子に挿入する段階を含む、核酸分子中のMAR配列を増加させるために有用な組成物および方法を提供する。
【0023】
この文中に記載のヌクレオチド塩基配列はまた、その相補配列の提供にも役立つ。この文中に記載のDNA分子およびヌクレオチド塩基配列はまた、チミン(T)がウラシル(U)で置換された対応するRNA分子および塩基配列ならびにそれらに相補的な核酸配列を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞の安定なトランスフェクタント中で能動ヒト抗−TNF−α IgG分子(“アダリムマブ”)を形成する免疫グロブリンH鎖およびカッパL鎖を発現するために使用されるプラスミド発現ベクターpA205の概略を示す図。略号:“ENHANCER“はサイトメガロウイルス(CMV)の中間初期遺伝子エンハンサーを表す。“ADENO PROMOTER”はアデノウイルスの主要後期プロモーターを表す。“ADALIMUMAB HEAVY CHAIN”は、アダリムマブのIgG1 H鎖のコーディング領域を表す。“SV40 Poly A”はサルウイルス40のポリアデニル化部位を表す。“GASTRIN TERMINATOR”はヒトガストリン遺伝子の転写終結シグナルを表す。“SV40 PROMOTER”はサルウイルス40のプロモーターである。“DHFR”はマウスのジヒドロ葉酸レダクターゼ遺伝子を表す。“TK Poly A”は単純ヘルペスウイルスのチミジンキナーゼ遺伝子のポリアデニル化部位を表す。“ADALIMUMAB LIGHT CHAIN”はアダリムマブのカッパL鎖のコーディング領域を表す。“ORI”はEscherichia coli中で機能するプラスミドColE1の原核性複製起点を表す。“P(BLA)”はβ−ラクタマーゼ遺伝子(アンピシリン耐性遺伝子)の原核性プロモーターを表し、小矢印は転写方向を示す。“APr”(“アンピシリン耐性”)はβ−ラクタマーゼのコーディング領域を表す。矢印は転写方向(5’から3’)を示す。
【図2】配列1のヌクレオチド塩基配列を有しているARM1(“A1”)核酸がアデノウイルス主要後期遺伝子およびアダリムマブIgG1のH鎖コーディング領域の上流で発現ベクターpA205(図1)に挿入され、配列2のヌクレオチド塩基配列を有しているARM2(“A2”)核酸がアダリムマブのカッパL鎖コーディング領域の下流に挿入されたプラスミド発現ベクターpA205Genomicの概略を示す図。その他の略号に関しては上の図1の記述を参照されたい。
【図3】配列1の配列を有しているARM1(“A1”)核酸がアデノプロモーターおよびアダリムマブIgG1のH鎖コーディング領域の上流で発現ベクターpA205(図1)に挿入されたプラスミド発現ベクターpA205A1の概略を示す図。他の略号に関しては上の図1の記述を参照されたい。
【図4】配列2のヌクレオチド塩基配列を有しているARM2(“A2”)核酸がアダリムマブのカッパL鎖コーディング領域の下流に挿入されたプラスミド発現ベクターpA205Aの概略を示す図。他の略号に関しては上の図1の記述を参照されたい。
【図5】チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞の安定なトランスフェクタント中で能動ヒト抗−EL−セレクチンIgG1分子を形成する免疫グロブリンのH鎖およびカッパL鎖を発現するために使用されたプラスミド発現ベクターpCHOEL246GGhumの概略を示す図。“ANTI−EL−SELECTIN HEAVY CHAIN”はヒト抗−EL−セレクチンIgG1抗体のH鎖のコーディング領域を表す。“ANTI−EL−SELECTIN LIGHT CHAIN”はヒト抗−EL−セレクチンIgG1抗体のカッパL鎖のコーディング領域を表す。他の略号に関しては上の図1の記述を参照されたい。
【図6】配列1のヌクレオチド塩基配列を有しているARM1(“A1”)核酸が、抗−EL−セレクチンIgG1のH鎖のコーディング領域の上流で発現ベクターpCHOEL246GGhum(図5)に挿入され、配列2のヌクレオチド塩基配列を有しているARM2(“A2”)核酸が抗−EL−セレクチンIgG1のカッパL鎖のコーディング領域の下流に挿入されたプラスミド発現ベクターpA−Gen−EL−Selectinの概略を示す図。他の略号に関しては上の図1の記述を参照されたい。
【図7】CHO細胞の安定なトランスフェクタント中で増強緑色蛍光タンパク質(eGFP)を発現させるために使用されたプラスミド発現ベクターpA205−eGFPの概略を示す図。eGFPコーディング領域(“EGFP”)がアデノウイルスの主要後期プロモーター(“ADENO PROMOTER”)の下流で、L鎖コーディング領域、近位プロモーター、近位エンハンサーおよびH鎖コーディング領域が欠失したpA205(Figure1)に挿入されている。他の略号に関しては上の図1の記述を参照されたい。
【図8】配列1のヌクレオチド塩基配列を有しているARM1(“A1”)核酸がeGFPコーディング領域(“EGFP”)の上流で発現ベクターpA205−eGFP(図7)に挿入され、配列2のヌクレオチド塩基配列を有しているARM2(“A2”)核酸がeGFPコーディング配列の下流に挿入されたプラスミド発現ベクターpA205G−eGFPの概略を示す図。他の略号に関しては上の図1の記述を参照されたい。
【図9】制限エンドヌクレアーゼSpeIによるARM2核酸消化の結果として配列2の塩基1−1086のヌクレオチド塩基配列を有している欠失ARM2変異体“A2(bp1−1086)”によってARM2(配列2)が置換されている以外は図4に示した発現ベクターpA205A2に本質的に等しいプラスミド発現ベクターpA205A2−Spe−truncの概略を示す図。他の略号に関しては上の図1の記述を参照されたい。
【図10】制限エンドヌクレアーゼSwaIによるARM2核酸消化の結果として配列2の塩基1−461のヌクレオチド塩基配列を有している欠失ARM2変異体“A2(bp1−1086)”によってARM2(配列2)が置換されている以外は図4に示した発現ベクターpA205A2に本質的に等しいプラスミド発現ベクターpA205A2−Swa−truncの概略を示す図。他の略号に関しては上の図1の記述を参照されたい。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明は、配列1のヌクレオチド配列:
【0026】
【化1】


または配列2のヌクレオチド配列:
【0027】
【化2】


を含む1つ以上の単離核酸分子(ポリヌクレオチド分子)を発現ベクター分子に組込み操作することによって、発現ベクター分子に存在する1つ以上の遺伝子からの1つ以上の組換えタンパク質の発現を増進できるという知見に基づく。
【0028】
配列1または配列2のヌクレオチド配列を含む単離ポリヌクレオチド分子をこの文中で組換え発現ベクター要素(rEVE)と表す。本発明のrEVEはまた非限定的に、配列1(“ARM1”)に示す配列の発現増進性部分または配列2(“ARM2”)に示す配列の発現増進性部分を含むポリヌクレオチド分子を含む。配列2の塩基462−2422または配列2の塩基1087−2422の配列を有するような配列2のARM2の3’末端領域からの配列は目的の組換えタンパク質の増進発現を提供するために特に有用である。この文中に記載のrEVEは、宿主細胞中で組換えタンパク質を増産するために現用されている他のコントロール配列、調節要素および手順と併用できる。
【0029】
本発明をより明らかに説明するために以下の用語を定義する。
【0030】
この文中に使用した “抗体”または“抗体分子”という用語はこの文中の理解では、4つのポリペプチド鎖すなわち2つの重(H)鎖と2つの軽(L)鎖とから成る免疫グロブリン(Ig)分子、または、Ig分子の本質的なエピトープ結合性構造を保持しているその機能フラグメント、突然変異体、変異体もしくは誘導体を表す。抗体のこのような突然変異体、変異体または誘導体は当業界で公知であり、以下に検討するような非限定実施態様を含む。
【0031】
全長抗体中で、H鎖のおのおのはH鎖可変領域(VH)とH鎖定常領域とから成る。H鎖定常領域は3つのドメインCH1、CH2およびCH3から成る。L鎖のおのおのはL鎖可変領域(VL)とL鎖定常領域とから成る。L鎖定常領域は1つのドメイン(CL)から成る。VH領域およびVL領域はさらに、枠組み構造領域(FR)と呼ばれる高保存性の領域とモザイク状に配置された相補性決定部位(CDR)と呼ばれる超可変領域に細分できる。VHおよびVLのおのおのは3つのCDRと4つのFRとから成り、これらはアミノ末端からカルボキシル末端に向かって以下の順序で配列されている:FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4。免疫グロブリン分子はいかなるタイプ(たとえば、IgG、IgE、IgM、IgD、IgAおよびIgY)、クラス(たとえば、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1およびIgA2)またはサブクラスでもよい。
【0032】
“抗体”および“抗体分子”という用語はまた、抗原に特異的に結合する能力を保持している抗体の1つ以上のフラグメントを包含する。抗体の抗原結合性機能が全長抗体のフラグメントによって実現できることが判明した。このような抗体の実施態様はまた、2つ以上の異なる抗原に特異的に結合する二重特異性、二元特異性または多重特異性のフォーマットでもよい。“抗体”という用語に包含される結合性フラグメントの例は、FabフラグメントすなわちVL、VH、CLおよびCH1ドメインから成る一価(1つの結合性部位)のフラグメント;F(ab’)フラグメントすなわちヒンジ領域でジスルフィド架橋によって連結された2つのFabフラグメントを含む二価(2つの結合性部位)のフラグメント;VHドメインおよびCH1ドメインから成るFdフラグメント;抗体の単一アームのVLドメインおよびVHドメインから成るFvフラグメント;単一可変ドメインを含む単一ドメイン抗体(dAb)(Wardら,Nature,341:544−546(1989);Winterら,国際公開WO 90/05144 A1、これらは参照によってここに組込まれるものとする);二元可変ドメイン(DVD)抗体(参照:たとえば国際公開WO 2007/024715);および単離された相補性決定部位(CDR)を含む。さらに、Fvフラグメントの2つのドメインVLおよびVHは別々の遺伝子によってコードされているが、組換え方法を使用し合成リンカーによってそれらを接合し、一対のVL領域およびVH領域が一価の分子を形成する一本鎖タンパク質を作製できる、(一本鎖Fv(scFv)として知られる、参照:Birdら,Science,242:423−426(1988);Hustonら,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,85:5879−5883(1988))。このような一本鎖抗体は、“抗体”および“抗体分子”という用語に包含される。ジアボディも“抗体”および“抗体分子”という用語に包含される。ジアボディは、VHドメインおよびVLドメインが単一のポリペプチド鎖上で発現されるが2つのドメインが同一鎖上で対合するためには短すぎるリンカーが使用されるのでドメインを別の鎖の相補的ドメインに強制的に対合させて2つの抗原結合性部位を形成する二価の二重特異的抗体である(参照:たとえばHolligerら,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,90:6444−6448(1993);Poljakら,Structure,2:1121−1123(1994))。“抗体”および“抗体分子”という用語はまた、DVD−IGTM(Abbott Laboratories)二元可変ドメイン免疫グロブリン分子のような二元可変ドメイン免疫グロブリン分子を包含する(参照:たとえば国際公開WO 2007/024715)。
【0033】
この文中に使用した“ベクター”という用語は、宿主細胞中で外来ポリヌクレオチドの遺伝子導入、発現または複製を行うビヒクルとして機能できる遺伝要素を表す。たとえばベクターは人工染色体またはプラスミドであり、宿主細胞のゲノムに安定に組込まれるかまたは独立の遺伝要素(たとえばエピソーム、プラスミド)として存在し得る。ベクターは単一のポリヌクレオチドまたは2つ以上の個々のポリヌクレオチドとして存在し得る。ベクターは宿主細胞中に存在するときに単一コピーベクターでもよくまたはマルチコピーベクターでもよい。本発明に使用するための好ましいベクターは、ベクター分子が適正な(相同)宿主細胞中に内在するときに1つ以上のタンパク質の発現を指令するように、発現ベクター分子中に内在する発現コントロール要素に近接して1つ以上の機能遺伝子を適正な配向でベクター分子に挿入できる発現ベクター分子である。
【0034】
発現ベクターは非限定的に、真核性プラスミドペクター、真核性ウイルスベクター、原核性プラスミド、バクテリオファージベクター、シャトルベクター(たとえば真核細胞および原核細胞中で複製できるベクター)、ミニ染色体および様々な人工染色体(たとえば細菌性人工染色体(BAC)、酵母人工染色体(YAC))を含む。好ましくは、本発明に使用される発現ベクターがプラスミド、より好ましくは宿主細胞ゲノムに安定に組込まれるプラスミド発現ベクター、いっそう好ましくは非相同的組換えによって宿主細胞ゲノムに安定に組込まれるプラスミド発現ベクターである。“シャトルベクター”(または二価性ベクター)は生物の2つ以上の種において複製できるベクターを意味する。たとえば、Escherichia coli(E.coli)およびSaccharomyces cerevisiae(S.cerevisiae)の双方において複製できるシャトルベクターは、E.coliプラスミド由来の配列を酵母2μプラスミド由来の配列に連結することによって構築できる。
【0035】
発現系は、発現ベクターと発現ベクターにコードされた(1種以上の)組換えタンパク質を発現する適正な(相同)宿主細胞とを含む。発現系は安定発現系または一過性発現系であろう。安定発現系においては、発現ベクターが宿主細胞ゲノムに安定に組込まれるかまたは連続的に複製されて双方の娘細胞に忠実に移行し、宿主細胞が適正条件下で培養されたときに(1種以上の)組換えタンパク質の発現を継続できる。一過性発現系においては、発現ベクター分子が双方の娘細胞に保持されず、増殖する細胞培養物中で最終的には喪失するかまたは極めて減少するので培養物からの(1つ以上の)組換えタンパク質の発現が最終的に停止するかまたはたいていの生産目的に役立たないほど減少するであろう。後出の実施例に使用した発現ベクターは、E.coli細胞に挿入(たとえば形質転換によって)されたときに比較的高いコピー数に複製でき、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞中に挿入(たとえば形質転換によって)され安定に維持されてそれらにコードされた(1つ以上の)目的の遺伝子産物を安定に発現するか(Kaufmanら,Molec.Cell.Biol.,5:1750−1759(1980))、または、HEK293細胞中に一過性に維持され得る(Durocherら,Nucleic Acids Res.,30:E9)タイプのシャトルベクターである。従って、この文中に記載のrEVEポリヌクレオチド分子は、安定な発現系および一過性発現系の双方において(1つ以上の)目的の組換えタンパク質の発現を増進するために使用し得る。
【0036】
本発明に使用し得る代表的な真核性ベクターは非限定的にウイルスベクターおよび非ウイルスベクターを含む。ウイルスベクターは非限定的に、レトロウイルスベクター(レンチウイルスベクターを含む)、その複製受容形態、複製欠損形態および実質喪失(gutless)形態を含むアデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター、サルウイルス40(SV−40)ベクター、ウシパピローマウイルスベクター、エプスタイン・バールウイルスベクター、ヘルペスウイルスベクター、ワクシニアウイルスベクター、モロニーマウス白血病ウイルスベクター、ハーベイマウス肉腫ウイルスベクター、マウス乳腫瘍ウイルスベクターおよびラウス肉腫ウイルスベクターを含む。バキュロウイルスベクターは公知であり昆虫細胞中の発現に適している。
【0037】
真核細胞または原核細胞中の発現に適した様々なベクターが当業界で公知であり、多くは市販されている。商品供給業者は非限定的に、Stratagene(La Jolla,California)、Invitrogen(Carlsbad,California)、Promega(Madison,Wisconsin)およびSigma−Aldrich(St.Louis,Missouri)を含む。多くのベクター配列がGenBankから入手でき、ベクターに関する追加情報はRiken BioSource Centerからインターネットで入手できる。
【0038】
ベクター分子は典型的には少なくとも1つの複製起点を有しており、また、宿主細胞に挿入されたときにベクターを同定または選択できる“マーカー”または“選択可能マーカー”を含み得る。このような有用なマーカーは非限定的に、抗生物質耐性を与えるか、マーカーの欠如した細胞に比べて有利な選択的増殖機能を与えるか、または、ベクターを有している細胞を容易に同定する手段(たとえば発色系)を提供する。このようなマーカーは当業界で公知であり、ベクター分子中に使用される適切な(1つ以上の)マーカー分子の選択は、宿主細胞の用途およびベクター含有宿主細胞に望まれる特性に依存する。
【0039】
“機能遺伝子構築物”、“機能遺伝子”および“遺伝子”という用語は、プロモーター配列に作動可能に連結された1種以上のタンパク質のコーディング配列および場合によりメッセンジャーRNA(mRNA)へのコーディング配列の適正な転写を指令する他の転写調節配列、また、所期の宿主細胞中でmRNAから所望のタンパク質への適正な翻訳を指令するために必要であるかまたは望まれる様々な翻訳調節配列のいずれかを含むポリヌクレオチドを意味する。原核細胞および真核細胞中で翻訳が開始されるためには、mRNA中に典型的には翻訳開始コドン(たとえばATG)およびリボソーム結合性部位が必要である。宿主細胞次第で使用される他の翻訳調節配列は非限定的に、RNAスプライス部位およびポリアデニル化部位を含む。
【0040】
この文中の“組換え体”という用語は、変更もしくは操作された核酸、それらが天然に存在する環境から単離された核酸、外因性核酸を含有するようにトランスフェクトもしくは他の操作が加えられた宿主細胞、または、単離DNAの操作および宿主細胞の形質転換によって非天然的に発現されたタンパク質を表す。より詳細には“組換え体”は、遺伝子操作技術を使用してインビトロ構築されたDNA分子を含意する用語であり、分子、構築物、ベクター、細胞、タンパク質、ポリペプチドまたはポリヌクレオチドを記述する形容詞としての“組換え”という用語の使用は、天然に存在するこのような分子、構築物、ベクター、細胞、タンパク質、ポリペプチドまたはポリヌクレオチドを明らかに排除する。特に、本発明の目的である“組換えタンパク質”は、タンパク質の発現に先立って宿主細胞中に天然には存在しない少なくとも1つの遺伝要素を組込むことによって操作された宿主細胞によって発現されるタンパク質である。たとえば、タンパク質のコーディング配列を含む発現ベクターを宿主細胞にトランスフェクトして宿主細胞がタンパク質を発現できるようにしたとき、そのコーディング領域が人為的に組込まれたタンパク質は、宿主細胞によって発現された“組換えタンパク質”である。
【0041】
“宿主細胞”は、ベクター分子を挿入できる細胞すなわち真核細胞または原核細胞を表す。本発明によれば好ましい宿主細胞は、動物細胞(たとえば哺乳類、鳥類および魚類宿主細胞)、植物細胞(真核性藻類細胞を含む)、真菌類細胞、細菌類細胞および原生動物細胞を非限定的に含む真核細胞または原核細胞である。本発明に有用な宿主細胞はいかなる遺伝構築物でもよいが、好ましくは単相体細胞または二倍体細胞である。本発明に有用な好ましい哺乳類宿主細胞は非限定的に、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、COS細胞、Vero細胞、SP2/0細胞、NS/0骨髄腫細胞、ヒト胚性腎(HEK293)細胞および幼若ハムスター腎(BHK)細胞、HeLa細胞、ヒトB細胞、CV−1/EBNA細胞、L細胞、3T3細胞、HEPG2細胞、PerC6細胞およびMDCK細胞を含む。好ましい昆虫細胞はSf9である。本発明において宿主細胞として役立つ真菌類細胞は非限定的に、Aspergillus、NeurosporaのようなAscomycete細胞、および、酵母細胞、特にSaccharomyces、Pichia、Hansenula、Schizosaccharomyces、Kluyveromyces、YarrowiaおよびCandida属の酵母を含む。組換えタンパク質を発現するための宿主細胞として役立つ特に好ましい酵母真菌類細胞は、Saccharomyces cerevisiae、Hansenula polymorpha、Kluyveromyces lactis、Pichia pastoris、Schizosaccharomyces pombeおよびYarrowia lipolyticaである。本発明において宿主細胞として役立つ好ましい原核細胞は非限定的に、Escherichia coli、様々な血清型のSalmonella enterica、Shigella種、Wollinella succinogenes、Proteus vulgaris、Proteus mirabilis、Edwardsiella tarda、Citrobacter freundii、Pasteurella種、Haemophilus種、Pseudomonas種、Bacillus種、Staphyloccocus種およびStreptococcus種を含む。本発明による組換えタンパク質を発現するために有用な他の細胞は、トリパノゾマチド宿主Leishmania tarentolaeのような原生動物および線虫Caenorhaditis elegansの細胞を含む。様々な発現ベクターが上記細胞中で有効に使用され得る。
【0042】
ベクター分子を細胞に挿入するために、形質転換、トランスフェクション、細胞もしくはプロトプラスト融合、化学処理の使用(たとえばプロトプラストのポリエチレングリコール処理、カルシウム処理、Invitrogen(Carlsbad,California)から入手できるLIPOFECTIN(R)およびLIPOFECTAMINE(R)トランスフェクション試薬のようなトランスフェクト補助剤)、様々な種類のリポソームの使用、機械的デバイスの使用(たとえば核酸コートしたマイクロビーズ)、電荷の使用(たとえば電気穿孔)およびそれらの組合せを非限定的に含む様々な手段およびプロトコルが存在する。この文中に記載した特定のベクター分子を所望の宿主細胞に挿入するために使用する特定のプロトコルおよび/または手段を決定することは当業者の技量の範囲内である。
【0043】
本発明においては一方のベクターまたは別の核酸分子から他方に“核酸配列情報を伝達する”方法は限定されない。当業界で公知の様々な遺伝子操作または組換え核酸技術のいずれかが包含される。特に好ましい伝達技術は非限定的に、制限消化および結合技術、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)プロトコル(特異的またはランダム配列のプライマー使用)、相同的組換え技術(ポリヌクレオチド相同領域の利用)および非相同的組換え(たとえばランダム挿入)技術を含む。また、たとえば全自動核酸シンセサイザーを使用して特定配列を含有している核酸分子を合成し、得られた核酸生成物を上記方法のいずれかによって別の核酸分子に組込んでもよい。
【0044】
遺伝子操作技術の使用には、細胞および当業者が望む特定の細胞状態が必要とする条件によって決定される様々な特定条件下で組換え宿主細胞(たとえばトランスフェクタント、形質転換体)を増殖させることがどうしても必要である。たとえば、宿主細胞は(その遺伝素因によって決定された)いくつかの栄養要件または物理的(たとえば温度)および/または化学的(たとえば抗生物質)条件に対する固有の耐性もしくは感受性を有しているであろう。さらに、所望の遺伝子の発現調節(たとえば誘導プロモーターの使用)または特定の細胞状態の開始(たとえば酵母細胞の交配または胞子形成)には特別な培養条件が必要であろう。これらの様々な条件およびこのような条件を満たす要件は当業者に理解および認識されるであろう。
【0045】
標準ジヒドロ葉酸レダクターゼ(DHFR)−メトトレキセート(MTX)増幅手順を使用して宿主細胞中の組換えタンパク質発現を増幅する(向上させる)という文脈において、“安定性”および“安定発現”という用語は、メトトレキセートの非存在下、すなわち増幅手順に使用したメトトレキセートの存在によって提供される高発現選択圧力の非存在下で増殖されたときに組換えタンパク質を増幅(高)レベルで発現し続ける細胞培養物の能力を表す。したがって、いったん単離されると、安定なトランスフェクタント宿主細胞はメトトレキセートの存在下でも非存在下でも目的の組換えタンパク質を発現できる。
【0046】
標準ジヒドロ葉酸レダクターゼ(DHFR)−メトトレキセート(MTX)増幅手順を使用して宿主細胞中での組換えタンパク質発現を増幅するという文脈において、メトトレキセートの存在に対する“適応強化”または“適応改善”は、この文中に記載のrEVEを含む発現ベクターを担持している宿主細胞培養物のメトトレキセート存在下の生存率および/または増殖速度が、rEVEの欠如した発現ベクターを担持している宿主細胞培養物のメトトレキセート存在下の生存率および/または増殖速度に比較して向上していることを表す。宿主細胞集団の“生存率”は、選択圧力(たとえばメトトレキセート)の存在下の宿主細胞集団の増殖および複製能力を表す。
【0047】
“配列相同”は当業者が熟知している概念である。2つのアミノ酸配列または2つの核酸のパーセント相同を決定するために、比較目的に最適になるように配列を位置合せする(たとえば第二の比較アミノ酸または核酸配列に最適に位置合せするように第一のアミノ酸配列または核酸配列にギャップを導入する)。次に、対応するアミノ酸位置またはヌクレオチド位置のアミノ酸残基またはヌクレオチドを比較する。第一配列の1つの位置が第二配列の対応位置と同じアミノ酸残基またはヌクレオチドで占められているとき、分子はこの位置で相同である(すなわち、この文中に使用したアミノ酸または核酸の“相同”はアミノ酸または核酸の“一致”に等価である)。核酸配列相同は2つの配列間の一致の程度として決定できる。相同はGCGプログラムパッケージとして提供されているGAPソフトウェアのような当業界で公知のコンピュータープログラムを使用して決定し得る。参照:Needleman and Wunsch,J.Mol.Biol.,48:443−453(1970)。
【0048】
言及した1つ以上の要素または段階を“含む”とこの文中に記載した組成物または方法は、言及した要素または段階が必須であるが組成物または方法の範囲内で他の要素または段階を追加できるという開放型意味である。また、冗漫な表現を避けるために、言及した1つ以上の要素または段階を“含んでいる”または“含む”と記載された組成物または方法が、同じ言及された要素または段階“から本質的に構成されている”(または“から本質的に構成される”)というもっと限定された対応組成物または方法を記述し、組成物または方法が言及された必須の要素または段階を含みさらに組成物または方法の基本的で新規な(1つ以上の)特徴に実質的に影響を与えない追加の要素または段階も含むことを意味することは理解されよう。また、言及された1つ以上の要素または段階“を含んでいる”または“から本質的に構成されている”とこの文中に記載された組成物または方法が、言及されない他の要素または段階を排除して、言及された要素または段階“から構成されている”(または“から構成される”)というもっと限定された対応組成物または方法を記述する閉鎖型表現にもなり得ることも理解されよう。この文中に開示されたいずれかの組成物または方法においては、言及された必須要素または段階に等価の公知または公表の要素または段階が当該要素または段階に置換され得る。
【0049】
また、“から成るグループから選択された”要素または段階が、その後に列挙された要素または段階の1つ以上、ならびに、列挙された要素または段階の2つ以上の組合せを表すことも理解されよう。
【0050】
他の指示がない限り、他の用語の意味は文脈から明らかであるかまたは当業者が理解し使用する意味と同じであることは理解されよう。
【0051】
当業者はまた、この文中に記載された核酸配列(ヌクレオチド塩基配列)がDNA、RNAおよびそれらの相補配列を提供することを理解している。
【0052】
本発明の組換え発現ベクター要素(rEVE)は、発現ベクター上に存在する遺伝子から格別に高いレベルの抗−IL−12抗体を発現していたトランスフェクトDUXB11 CHO細胞系の細胞中に存在する発現ベクターの組込み部位の両側に隣接するゲノムDNAの領域から初めて単離された。DUXB11 CHOゲノムDNAのこれらのフランキング領域のクローニングおよび配列決定から、配列1および配列2の配列が解明された。配列1の2329塩基の配列をこの文中で“ARM1”と呼び、配列2の2422塩基の配列を“ARM2”と呼ぶ。フランキングARM1 DNA配列は、組込まれた発現ベクターのH鎖遺伝子の転写方向の上流に局在し、フランキングARM2 DNA配列は組込まれた発現ベクターのL鎖遺伝子の転写方向の下流に局在することが判明した(後出の実施例の項参照)。
【0053】
それらの存在が発現ベクター含有宿主細胞中の様々な組換えタンパク質の発現レベルを左右できるか否かを判断するために、ARM1−およびARM2−含有DNA分子を単独でおよび組合せて発現ベクターに挿入した。宿主細胞中でARM1およびARM2の双方を含有するDNAはこれらの配列の非存在下で得られた産生レベルに比較して増進したレベルで組換えタンパク質を発現する(後出の実施例の項参照)。従って、ARM1およびARM2を含有する核酸分子は組換え発現ベクター要素(rEVE)の例である。典型的には、ARM1ポリヌクレオチドによって得られた増進産生レベルはARM2ポリヌクレオチドによってまたはARM1ポリヌクレオチドとARM2ポリヌクレオチドとの組合せによって得られた産生レベルよりもいくらか低い。
【0054】
本発明によれば、目的の組換えタンパク質を産生する発現ベクターの構築にARM1およびARM2のいずれか一方を使用したかまたは双方を使用したかにかかわりなくすべての場合にARM1および/またはARM2発現エンハンサー要素を使用するとタンパク質の発現レベルが向上した。組換えタンパク質産物の発現レベルはARMエンハンサー非含有の対照発現系に比較して2倍、3倍、4倍、5倍、6倍、9倍、10倍、13倍、16倍および18倍を上回る増加を示した(後出の実施例の項参照)。さらに、ARM1またはARM2またはARM1およびARM2の双方を担持する発現ベクターを使用して得られた高発現レベルはトランスフェクト宿主細胞中で経時的に安定に維持されていた。
【0055】
ARM1およびARM2配列はマトリックス/スカフォールド付着領域配列が比較的豊富な領域を有している。(MAR/SAR;参照:たとえばMichalowskiら,Biochemistry,38:12795−12804(1999);Tikhonovら,The Plant Cell,12:2490−264(2000)米国特許No.7,129,062;Bodeら,Int.Rev.Cytol.,162A:389−454(1995);Bodeら,Crit.Rev.Eukaryotic Gene Expression,6:115−138(1996))。ARM1の場合にはMAR配列モチーフが特に配列の3’末端領域に集中しており、ARM2の場合にはMARモチーフのクラスターが配列の5’および3’末端領域の双方に出現し、配列の中間領域に存在するMARモチーフは少ない。欠失解析は、ARM2核酸の約1260塩基対の3’末端領域がARM2増進タンパク質発現活性に不可欠な配列を含有することを示す(後出の実施例6参照)。
【0056】
本発明のrEVE分子は、ARM1およびARM2配列の発現増進性部分またはフラグメントを含む核酸分子を含む。ARM1およびARM2配列のこのような発現増進性部分は、目的の組換えタンパク質をコードする遺伝子と同じ発現ベクターに存在するとき、発現ベクターを含有する宿主細胞中の組換えタンパク質の発現レベルを、ARM1またはARM2配列のこのような部分またはフラグメントの非存在下で得られた発現レベルに比較して増進する。
【0057】
この文中に記載のrEVE部分は単独で使用されてもよくまたは宿主細胞中の(1種以上の)所望の組換えタンパク質の産生レベルを向上させる他のいずれかの調節要素または発現増進系と併用されてもよい。このような他の配列または系は非限定的に、(1つ以上の)目的組換えタンパク質をコードする(1つ以上の)遺伝子の転写をコントロールまたは最適化する調節プロモーターの使用、宿主細胞による(1つ以上の)組換えタンパク質の分泌を指令するシグナル配列の使用、および、ジヒドロ葉酸レダクターゼ(DHFR)−メトトレキセート(MTX)増幅プロトコルまたはグルタミンシンテターゼプロトコルのような遺伝子増幅方法の使用を含む。DHFR−MTX増幅手順においては、DHFR遺伝子を含む発現ベクターを担持している宿主細胞をメトトレキセートに対する濃度増加耐性に基づいて選択する(参照:たとえばKaufman,RJ.,In Genetic Engineering:Principles and methods(ed.J.K.Setlow),volume 9,page 155(Plenum Publishing,New York,1987))。典型的には、メトトレキセート耐性レベルの上昇に伴って(1つ以上の)組換え遺伝子のコピー数の増幅が生じ、これに対応して(1つ以上の)このような増幅遺伝子による組換えタンパク質の発現レベルが増幅(向上)する。
【0058】
配列1および配列2の核酸配列はDUXB11 CHO細胞系から得られたDNA分子から同定された。配列1、配列2のヌクレオチド配列またはこれらの配列のいずれかの部分を含む核酸分子を作製するために様々な方法のいずれかを使用し得る。このような方法は非限定的に、DUXB11 CHO細胞のゲノムDNA由来のこのような配列を含む1つ以上のrEVE DNA分子のクローニング、このような配列を含むポリヌクレオチドを産生する固相核酸合成プロトコル、組換え核酸技術、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)プロトコル、全自動核酸シンセサイザーおよびそれらの組合せを含む。この文中に記載のrEVEポリヌクレオチド分子はまた、注文設計の核酸分子商品の供給業者から購入できる。rEVEの産生または合成方法に制限はなく、当業者はどの方法またはどの組合せがこの文中に記載の特定rEVEの作製に最適であるかを判断できる。
【0059】
この文中に記載のrEVEは、宿主細胞中の発現ベクターからの様々なタンパク質(ペプチド、ポリペプチドおよびオリゴマータンパク質を含む)のいずれかの発現を増進するために発現ベクターに挿入され得る。核酸(DNAまたはRNA)分子上で(1つ以上の)ヌクレオチドコーディング配列が既知であるかまたは入手可能であるならば、当業界で利用できる様々な方法のいずれかを使用して目的タンパク質の(1つ以上の)コーディング配列または全機能遺伝子を発現ベクターに挿入し得る。コーディング配列は発現が望まれる宿主細胞型の細胞中で機能するプロモーターに作動可能に連結されている。宿主細胞中で所望の(1つ以上の)タンパク質の適正発現を得るために追加の転写配列および翻訳配列もベクターに組込み操作できる。
【0060】
適正宿主細胞中の発現ベクターからの広範な種類のタンパク質(ペプチド、ポリペプチドおよびオリゴマータンパク質を含む)のいずれかの発現は、可溶性タンパク質、膜タンパク質、構造タンパク質(すなわち、細胞、組織または器官に構造または支持を与えるタンパク質)、リボソームタンパク質、酵素、チモーゲン、様々な抗体分子(非限定的に、アダリムマブのようなTNF−αに対する抗体;セレクチンに対する抗体;IL−13に対する抗体のような免疫調節タンパク質に対する抗体;DVD−IGTM二元性可変ドメイン免疫グロブリン分子のような二元性可変ドメイン免疫グロブリン分子に対する抗体;細胞表面受容体に対する抗体を含む)、細胞表面受容体タンパク質、転写調節タンパク質、翻訳調節タンパク質、クロマチンタンパク質、ホルモン、細胞周期調節タンパク質、Gタンパク質、神経作動性ペプチド、免疫調節タンパク質(たとえば、インターロイキン、サイトカイン、リンホカイン)、血液成分タンパク質、イオンゲートタンパク質、熱ショックタンパク質、ジヒドロ葉酸レダクターゼ、抗生物質耐性タンパク質、上記タンパク質のいずれかの機能フラグメント、上記タンパク質のいずれかのエピトープ含有フラグメントおよびそれらの組合せを非限定的に含むこの文中に記載の1つ以上のrEVEによって増進され得る。
【0061】
目的の組換えタンパク質は、組換えタンパク質をコードしておりこの文中に記載の発現ベクター分子上に存在している1つ以上の遺伝子を転写し翻訳することによって産生され得る。この文中に記載した遺伝子を含む発現ベクター上の1つ以上の遺伝子のこのような転写および翻訳は無細胞転写/翻訳系を使用することによってまたは発現ベクター分子を含有し発現ベクター分子上に存在する1つ以上の遺伝子から目的の組換えタンパク質を産生するために必要な適正な細胞性転写および翻訳機構を有している適正な宿主細胞を使用することによって行う。
【0062】
スカフォールド付着領域(SAR)とも呼ばれるマトリックス付着領域(MAR)は、真核細胞の核内のスカフォールドまたはマトリックスを形成すると考えられる核タンパク質の調製物に結合する染色体DNAのフラグメントとして初めて同定された。MARは核マトリックスに付着するクロマチンのループ中に存在しクロマチンの個々の構造単位の形状を規定するかまたは境界を画定すると考えられている。MARはいくつかのエンハンサー配列に連合しているか、および/または、転写、トランスジーン発現、トランスジーン再編成、組換え、複製およびトランスフェクションの安定化のようなクロマチン中で生じる多くのプロセスに関連している(参照:たとえばMichalowskiら,Biochemistry,38:12795−12804(1999);Zhongら,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,96(21):11970−11975(1999);Tikhonovら,The Plant Cell,12:249−264(2000);Zhouら,Gene,277:139−144(2001);Sumerら,Genome Research,13:1737−1743(2003);米国特許No.7,129,062;Bodeら,Int.Rev.Cytol.,162A:389−454(1995);Bodeら,Crit.Rev.Eukaryotic Gene Expression,6:115−138(1996))。ARM1(配列1)およびARM2(配列2)は様々なMAR要素を有しており、これらは、3’および/または5’末端領域に主としてクラスターとして局在すると考えられる。ARM1は3’末端領域にMAR要素のクラスターを含有している。ARM2の場合にはMAR要素がrEVE配列の全長にわたって見出され、MARモチーフのクラスターが5’および3’の双方の末端領域に局在している。明らかに、ARM1およびARM2の配列を担持しているベクターおよび他の核酸分子はMAR要素およびMAR要素クラスターの好都合なソースである。従って、ARM1、ARM2およびそれらのMAR含有部分は、組換えを行うためまたは核酸分子に核酸配列情報を他の経路で伝達するために当業界で利用できる様々な方法のいずれかを使用して目的の核酸分子中のMAR要素の数を増加させるために使用し得る。
【0063】
この文中に記載のrEVEの配列またはその一部分を含む核酸分子はまた、他の核酸分子中のrEVE配列を操作、同定、産生または増幅するための当業界で公知の様々な手順において使用し得る。このような手順は非限定的に、rEVEまたはその一部分を当業界で公知の様々な核酸ハイブリダイゼーション法のいずれかでプローブとしてまたは当業界で公知の様々なポリメラーゼ連鎖反応(PCR)手順のいずれかでプライマーとして使用する手順を含む。
【0064】
この文中に記載のrEVEポリヌクレオチド分子は目的の組換えタンパク質を産生する方法に使用し得る。好ましくは、目的の組換えタンパク質を産生するこのような方法は、目的の組換えタンパク質をコードする1つ以上の組換え遺伝子と少なくとも1つのこの文中に記載のrEVEポリヌクレオチド分子とを含むこの文中に記載の組換え発現ベクターを含んでおり、組換え発現ベクター上に存在する1つ以上の組換え遺伝子を転写および翻訳して目的の組換えタンパク質を産生する段階を含む。発現ベクターによる1つ以上の組換え遺伝子の転写および翻訳は好ましくは、発現ベクターを含みかつ目的の組換えタンパク質の発現を推進する条件下で培養される宿主細胞中で行われる。rEVEポリヌクレオチド分子は宿主細胞中の発現ベクターによる1つ以上の目的の組換えタンパク質の発現レベルを、一過性発現(たとえばトランスフェクトCOSまたはHEK293宿主細胞中)であるかまたは安定発現(たとえばトランスフェクトCHO宿主細胞中)であるかにかかわりなく、増進するために使用され得る。この文中に記載のrEVEを担持する発現ベクターからの1つ以上の組換え遺伝子の転写および翻訳はまた、当業界で利用できるインビトロ無細胞転写/翻訳系を使用して行うこともできる。
【0065】
この文中に記載のrEVEポリヌクレオチド分子は、DHFR−メトトレキセート増幅手順を使用して発現レベルが増幅(向上)したときに組換えタンパク質を高レベルで安定(一過性の逆)に発現する宿主細胞を調製するために使用し得る。このような宿主細胞は、メトトレキセートの存在下で増殖するときだけでなくメトトレキセートの非存在下で増殖するときすなわちメトトレキセートの存在によって与えられる高発現選択圧力の非存在下で増殖するときにも組換えタンパク質の高レベル発現を継続するメトトレキセート耐性(MTX耐性)細胞である。好ましい実施態様において、このようなメトトレキセート耐性宿主細胞の製造方法は、
目的の組換えタンパク質をコードする組換え遺伝子と、
rEVEまたはその発現増進性部分と、
ジヒドロ葉酸レダクターゼ(DHFR)遺伝子と、
を含む発現ベクターを宿主細胞に挿入する段階と、
目的の組換えタンパク質を発現するメトトレキセート耐性宿主細胞を選択するためにメトトレキセートの存在下で宿主細胞を増殖させる段階と、
メトトレキセート耐性宿主細胞を単離する段階と、
を含み、単離されたメトトレキセート耐性宿主細胞がメトトレキセート感受性宿主細胞よりも高いレベルで目的の組換えタンパク質を発現すること、および、該メトトレキセート耐性宿主細胞がメトトレキセートの存在下または非存在下で増殖したときに組換えタンパク質を高レベルで安定に発現することを特徴とする。好ましくはrEVEが配列1、配列2またはそれらの発現増進性部分を含む。より好ましくはrEVEが配列2を含む。
【0066】
この文中に記載のrEVEポリヌクレオチド分子はまた、組換えタンパク質を発現する宿主細胞集団がメトトレキセートの存在下の増殖に適応する能力を改善する方法に使用し得る。好ましい実施態様においてこのような方法は、
目的のタンパク質をコードする組換え遺伝子と、
配列1、配列2、配列1の一部分、配列2の一部分およびそれらの組合せから成るグループから選択された配列を含む組換え発現ベクター要素(rEVE)ポリヌクレオチド分子と、
ジヒドロ葉酸レダクターゼ(DHFR)遺伝子と、
を含む発現ベクターを宿主細胞に挿入する段階を含み、メトトレキセートの存在下で増殖させたときに、発現ベクターを含有している宿主細胞集団が該rEVEポリヌクレオチド分子の欠如した発現ベクターを担持している宿主細胞集団に比較してより高い生存率および/またはより高い増殖速度を有していることを特徴とする。
【0067】
この文中に記載のrEVEポリヌクレオチド分子はまた、DHFR−メトトレキセート増幅手順を使用する宿主細胞中の組換えタンパク質の発現の増幅(向上)を増進するために使用し得る。好ましい実施態様においてこのような方法は、
目的の組換えタンパク質をコードする組換え遺伝子と、
配列1、配列2、配列1の一部分、配列2の一部分およびそれらの組合せから成るグループから選択された配列を含むrEVEポリヌクレオチド分子と、
ジヒドロ葉酸レダクターゼ(DHFR)遺伝子と、
を含む発現ベクターを宿主細胞に挿入する段階と、
目的の組換えタンパク質を発現するメトトレキセート耐性宿主細胞を選択するために宿主細胞をメトトレキセートの存在下で増殖させる段階と、
メトトレキセート耐性宿主細胞を単離する段階と、
を含み、単離されたメトトレキセート耐性宿主細胞がメトトレキセートの存在下で該rEVEポリヌクレオチド分子の欠如した発現ベクターを含有するメトトレキセート耐性宿主細胞よりも高いレベルで目的の組換えタンパク質を発現することを特徴とする。
【0068】
(1種以上の)所望の組換えタンパク質の増幅発現にメトトレキセート選択を使用するこの文中に記載の方法において、メトトレキセートは20nMから500nMの範囲で使用し得る。しかしながら、5nMから10μMのようなもっと低いおよびもっと高いメトトレキセート濃度が発現を増幅するためのメトトレキセート選択に使用されて成功結果を与えるという利点も当業者は認識している(参照:たとえばKaufman,R.J.,Methods in Enzvmology,Vol.185:537−566(1990))。
【0069】
本発明はまた、発現ベクターによる組換えタンパク質の発現を低下、実質的に抑制または本質的にサイレンシングさせる方法を提供する。このような方法は、全長rEVE配列を使用したときよりも低いレベルで特定の組換え遺伝子産物を発現する、この文中に記載のrEVE配列の1つ以上のフラグメントを含む発現ベクターを使用し得る。このような発現低下性または発現抑制性のrEVE由来配列は、配列2の塩基1−1086または配列2の塩基1−461の塩基配列を有しているARM2配列の欠失変異体を含む。これらの2つの変異体から欠失した3’末端配列領域の存在が組換えタンパク質のrEVE媒介性増幅発現に極めて望ましいことは明白である。配列2の塩基1−461のARM2欠失配列を有している核酸分子は、宿主細胞中の発現ベクター分子からの組換えタンパク質の発現を抑制するかまたは実質的にサイレンシングさせるために特に有用である。このような方法は、組換えタンパク質の発現が宿主細胞に有毒である懸念が存在する場合、または、ある種の発現レベルが所望のタンパク質の精製もしくは単離に対してタンパク質凝集のような問題を生じる場合を非制限的に含むいくつかの状況に用途を見出す。
【0070】
すなわち、配列2の塩基462−2422の配列および配列2の塩基1087−2422の配列は組換えタンパク質発現のARM2 rEVE媒介性増進を最大にするために最も好ましい。したがって、組換えタンパク質の発現を増進するために特に有用なrEVEポリヌクレオチドは、配列2の塩基462−2422の配列および配列2の塩基1087−2422の配列を含む。
【0071】
本発明のその他の実施態様および特徴は以下の非限定実施例から明らかであろう。
【実施例1】
【0072】
ARM1およびARM2組換え発現ベクター要素(rEVE)のクローニングおよび配列解析
宿主CHO細胞にトランスフェクトした発現ベクターにコードされている組換え抗−IL−12抗体の極めて高い発現レベルの根拠を確かめるために、安定に組込まれた発現ベクターを担持するDUXB11 CHO細胞系を試験した。この試験では、組込まれた発現ベクターに隣接するゲノムDNAの領域をクローニングし配列決定した。簡単に説明すると、宿主細胞から得られたゲノムDNAをXbaIで消化し、基本的にReynaudら(J.Mol.Biol.,140:481−504(1980))によって記載された方法でBioGel A−50カラムを使用して平均サイズ約5キロ塩基(kb)のフラグメントを精製した。精製したゲノムフラグメントのライブラリーはフラグメントをラムダ(λ)DASH(R)クローニングベクター(Stratagene,La Jolla,California)にクローニングすることによって調製した。ライブラリーを増幅し、GIGAPACK(R)パッケージングエキストラクト(Stratagene)を使用してパッケージし、製造業者のプロトコルに従ってXL1−Blue MRAまたはXL1−Blue MRA(P2) Escherichia coli細胞に形質導入した。次にStratageneプロトコルに従って抗−IL−12抗体のH鎖可変領域(V)のコーディング配列に対するプローブでライブラリーをスクリーニングした。λDASHクローン#21中の14.5kbのXbaIフラグメントは抗体発現ベクター挿入部位をフラクキングゲノム配列と共に含有していた。これらのフランキングゲノム領域をARM1およびARM2と命名した。AMR1領域およびARM2領域の配列はそれぞれ配列1および配列2の配列であることが判定された。CHO細胞ゲノム中の抗体発現ベクター挿入部位に関しては、ARM1は挿入部位の上流で抗体H鎖ベクター遺伝子の転写方向に対して5’側に局在し、ARM2は挿入部位の下流で抗体L鎖ベクター遺伝子の転写方向に対して3’側に局在する。
【0073】
CHO発現配列タグ(EST)データベースに対する配列1および配列2のBLAST解析は、何らかの近縁コーディング配列を示すことができなかった。これは、ARM1およびARM2 rEVE配列がCHOコーディング配列を含有しないことを示唆する。マウスゲノムに対してもrEVE配列のBLAST解析を行った。ARM1配列に相同のマウスゲノム配列は同定されなかった。しかしながら、ARM2配列は未知のコーディング配列を含有するマスウ染色体14上の高度に保存された領域に近縁であると考えられる。
【0074】
また、Vector NTI配列解析プログラム(Invitrogen)を使用し、ARM1(配列1)およびARM2(配列2)の配列をマトリックス付着領域(MAR)要素に対する様々な代表的(すなわち全部でない)ヌクレオチド配列モチーフのサンプリングの存在に基づいてスクリーニングした(参照:たとえばMichalowskiら,Biochemistry,38:12795−12804(1999))。コンピュータープログラムによってスクリーニングされた特異的MAR DNA配列モチーフを表1に示す(相補鎖配列は表示しない)。
【0075】
【表1】

【0076】
以下の表2に示すように、ARM1 DNA配列(配列1)またはその相補鎖配列中の少なくとも41のMAR要素配列が同定され、ARM2 DNA配列(配列2)またはその相補鎖配列中の少なくとも114のMAR要素配列が同定された。
【0077】
【表2】


【0078】
表2のARM1およびARM2のMAR配列解析(相補鎖解析を含んでいた)の結果は、様々なMARが主としてARM1(配列1)の3’末端部分およびARM2(配列2)の5’部分および3’部分の双方においてクラスター化していることを示す。ARM1が有しているこれらのMARS部位の数はARM2よりも少ない。さらに、ARM1中のMAR配列の大半は配列の3’領域に存在するが、ARM2の5’および3’の双方の領域にMAR配列集団が存在する。
【実施例2】
【0079】
組換えタンパク質の発現レベルに対するARM1およびARM2 rEVEの影響を試験するための一般的プロトコル
発現試験用細胞
DUXB11 CHO細胞系は、ジヒドロ葉酸レダクターゼの発現が欠失している(DHFR)CHO細胞系である(参照:Urlaub,G.and Chasin,L.A.,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.,77:4216−4220(1980))。この細胞系のDHFR表現型は、これらの細胞にトランスフェクトされた発現ベクターのコピー数を増幅するために標準ジヒドロ葉酸レダクターゼ−メトトレキセート系(DHFR−MTX)プロトコルを使用できる(参照:たとえばKaufman,R.J., In Genetic Engineering:Principles and Methods(ed.J.K.Setlow),volume 9,page 155(Plenum Publishing,New York,1987))。
【0080】
ARM1およびARM2 rEVE配列を含有する発現ベクター
図1は、プラスミド発現ベクターpA205の概略図を提示する。図2は、ARM1配列がアダリムマブのH鎖の遺伝子の上流に局在しARM2配列がアダリムマブのL鎖の遺伝子の下流に局在するようにARM1およびARM2配列がアダリムマブのH鎖およびL鎖をコードする遺伝子に隣接しているプラスミド発現ベクターpA205Genomicの概略図を提示する。図3は、ARM1配列がアダリムマブのH鎖の上流に局在するプラスミド発現ベクターpA205A1の概略図を提示する。図4は、ARM2配列がアダリムマブのL鎖の遺伝子の下流に局在するプラスミド発現ベクターpA205A2の概略図を提示する。
【0081】
図5は、ヒト抗−EL−セレクチン抗体のH鎖およびL鎖の遺伝子を含有するプラスミド発現ベクターpCHOEL246GGhumの概略図を提示する。図6は、ARM1配列が抗体H鎖遺伝子の上流に局在しARM2配列が抗体L鎖遺伝子の下流に局在するようにARM1およびARM2配列が抗−EL−セレクチン抗体のH鎖およびL鎖をコードする遺伝子に隣接しているプラスミド発現ベクターpA−Gen−EL−Selectinの概略図を提示する。
【0082】
図7は、増強緑色蛍光タンパク質(eGFP)の遺伝子を含有するプラスミド発現ベクターpA205−eGFPの概略図を提示する。図8は、ARM1配列がeGFP遺伝子の上流に局在しARM2配列がeGFP遺伝子の下流に局在するようにARM1およびARM2配列が増強緑色蛍光タンパク質をコードする遺伝子に隣接しているプラスミド発現ベクターpA205G−eGFPの概略図を提示する。
【0083】
図9は、制限エンドヌクレアーゼSpeIによるARM2 DNA消化の結果として配列1の塩基1−1086の核酸塩基配列を有している欠失ARM2変異体“A2(bp1−1086)”によってAMR2配列が置換されている以外は図4に示した発現ベクターpA205A2に本質的に等しいプラスミド発現ベクターpA205A2−Spe−truncの概略図を提示する。図10は、制限エンドヌクレアーゼSwaIによるARM2 DNA消化の結果として配列2の塩基1−461の核酸塩基配列を有している欠失ARM2変異体“A2(bp1−461)”によってAMR2配列が置換されている以外は図4に示した発現ベクターpA205A2に本質的に等しいプラスミド発現ベクターpA205A2−Swa−truncの概略図を提示する。
【0084】
培養培地
αMEMは最小必須培地、α培地(GIBCO(R),Invitrogen,Carlsbad,California)である。
【0085】
細胞の増殖およびトランスフェクション
トランスフェクションあたり3つの10cm組織培養プレートのおのおのに5%の透析FBSおよびH/T(GIBCO)を補充した10mlのαMEM中の1×10のB3.2親DUXB11 CHO細胞を播種した。以下に示すいくつかの変更を加えたCurrent Protocols in Molecular Biology(Ausubel,F.V.,Brent,R.,Moore,D.M.,Kingston,R.E.,Seidman,J.G.,Smith, .A.およびK.Struhl編),(Wiley Interscience,New York,1990))に記載のリン酸カルシウムトランスフェクションプロトコルに従って、これらの細胞をその後18時間トランスフェクトした。増殖培地を吸引によって培養プレートから除去し、9mlのHam F12倍地(Invitrogen)を各プレートに加えた。トランスフェクションの前にプレートを37℃で2時間インキュベートした。
【0086】
リン酸カルシウムトランスフェクションプロトコル
50ml容の円錐管で75マイクログラム(75μg)のDNAを1.35mlの水に溶解した。150マイクロリットル(150μl)の2.5MのCaClを添加し、このDNA−カルシウム混合物を、50ml容の円錐管に入れた1.5mlの2×HeBES(HEPES緩衝生理食塩水)に滴下した。HeBESをピペットで吹込みながらDNA−カルシウム混合物をパスツールピペットで添加した。混合物を5秒間渦流混合し、室温で20分間インキュベートした。1ミリリットル(1ml)のDNA−カルシウム混合物を付着細胞の培養皿のおのおのに均等に分配し、増殖させ、上述のようなF12培地中のトランスフェクション用に調製し、次いで培養物を37℃で4時間インキュベートした。インキュベーション後、プレートを吸引し、10%ジメチルスルホキシド(DMSO)を含む2mlのF12倍地を各プレートに添加した(DMSOショック処理)。DMSOショックを1分間続けた後、5mlのPBS(リン酸塩緩衝生理食塩水)を各プレートに加えてDMSOを希釈した。プレートを吸引し、PBSでさらに2回洗浄した。10mlのαMEM/5%のFBS/HTを添加し、プレートを37℃で一夜インキュベートした。
【0087】
96−ウェルプレートへのトランスフェクト細胞の播種およびメトトレキセート(MTX)増幅
翌日、以下の手順で細胞を96−ウェルプレートに播種した。全部の10cmプレートからトリプシン消化によって細胞を採取し、2000細胞/mlの密度でαMEM/5%FBSに再浮遊させた。96個の96−ウェルプレートに10ml/プレート、100μl/ウェルで播種した。1週後、2週後、およびそれから5週後に96−ウェルプレートの培地を交換した。使用した培地αMEM/5%FBSはDHFR発現細胞選択的であった。
【0088】
最終培地交換の2日後、培養上清を1:40に希釈し、アダリムマブまたは抗−EL−セレクチン抗体の発現を検出するためにヒトIgGガンマ鎖に特異的なELISAで試験した。最も高いELISAシグナルを与えたクローンを96−ウェルプレートから2.0ml/ウェルのαMEM/5%FBS中の12−ウェルプレートに移した。集密単層状態に達すると(約2から5日後)これらを再びアッセイにかけ、20nMのMTXを加えた同じ培地にクローンを分割して増幅した。最初に細胞を12−ウェル組織培養プレート中のαMEM/5%FBSおよび20nMのMTXで選択した。このMTXレベルの初期選択後のこれらの細胞を、20nMのMTXを含有する増殖培地中、18日の平均期間で最少でもさらに2回以上継代した。次に細胞系を100nM MTXに増幅した。この培養期間中、培養物のアダリムマブ(ヒト抗−TNF−α抗体)または抗−EL−セレクチン産生率は増加した。100nM MTXレベルで選択後、系を100nMのMTXを含有する増殖培地中、18日の平均期間で最少でもさらに2回以上継代した。指示がある場合には細胞系をさらに500nM MTXに増幅した。500nM MTXレベルで選択後、系を500nMのMTXを含有する増殖培地中、18日の平均期間で最少でもさらに2回以上継代した。
【0089】
ARM1核酸配列(配列1)、ARM2核酸配列(配列2)またはARM1配列とARM2配列との組合せを含む発現ベクターを担持しているトランスフェクトCHO細胞の培養物は、このようなrEVE配列の欠如した同じ発現ベクターでトランスフェクトしたCHO細胞に比較してメトトレキセートの存在によく適応した。すなわちより高い生存率および/またはより高い増殖速度を示した。
【実施例3】
【0090】
トランスフェクトCHO細胞中の抗−TNF−αの発現レベルに対するARM1およびARM2配列の効果
この試験では、安定にトランスフェクトされたCHO細胞中の抗−TNF−α抗体(アダリムマブ)の発現に対するARM1およびARM2配列の効果を試験した。発現ベクターpA205(ARM配列非含有)、pA205Genomic(ARM1およびARM2配列の双方を含有)、pA205A1(ARM1含有)またはpA205A2(ARM2含有)で安定にトランスフェクトされたCHO細胞中のアダリムマブの発現レベルを比較した。表3は、指示された増幅レベルの各ベクタートランスフェクションから得られた上位3つの生産性クローンの付着培養物中のアダリムマブの平均産生レベルを示す(メトトレキセート濃度、“MTX”)。
【0091】
【表3】

【0092】
表3のデータは、ARM1およびARM2配列が単独でもまたは組合せても、ARM配列の欠如したベクター(pA205)でトランスフェクトされた細胞で見られたレベルに比較してアダリムマブの発現レベルを増進させたことを示す。総合的には、ARM2単独(p205A2)はすべての他のトランスフェクタントに比べて最大の増進発現レベルを提供したが、ARM1単独(p205A1)は最も低い増進発現レベルを提供した。データは、ARM1配列(配列1)またはARM2配列(配列2)を有している単離核酸分子が代表的な組換え発現ベクター要素(rEVE)であり、これらは発現ベクターに挿入されたときに、発現ベクターによってコードされ発現ベクターから発現される組換えタンパク質の発現を増進できることを示す。
【0093】
またメトトレキセート増幅の非存在下の懸濁培養物中で上記のベクタートランスフェクションの個々のクローンによるアダリムマブの発現レベルを1週後および4週後に比較した。結果を表4に示す。
【0094】
【表4】

【0095】
表4のデータは、ARM1を伴わずにpA205にARM2が組込まれると(pA205A2)、アダリムマブの増進発現レベルの安定性が経時的に増加することを示す。特に、ARM1およびARM2の双方が存在(pA205Genomic)またはARM1単独が存在(pA205A1)する場合、培養物中のアダリムマブの増進発現レベルが最初は観察されたが、このレベルは数週間のうちにはるかに低いレベルに急速に低下した(表4参照)。対照的に、ARM2単独(pA205A2)の存在下でアダリムマブを発現する細胞培養物中ではアダリムマブの増進発現レベルが4つの培養物中の3つにおいて4週という期間後も安定に維持された。したがって、ARM2はトランスフェクトCHO細胞の懸濁培養物中のアダリムマブの発現レベルの有意な向上を維持している。
【実施例4】
【0096】
トランスフェクトCHO細胞中の抗−EL−セレクチン抗体の発現レベルに対するARM1およびARM2配列の効果
この試験では、安定にトランスフェクトされたCHO細胞中のヒト−EL−セレクチン抗体(E−およびL−セレクチンに結合する)の発現に対するARM1およびARM2配列の効果を試験した。この抗−セレクチン抗体の発現レベルを、発現ベクターpCHOEL246GGhum(ARM配列非含有)または発現ベクターpA−Gen−EL−セレクチン(ARM1およびARM2の双方を含有)で安定にトランスフェクトされたCHO細胞中で比較した。表5は、指示された増幅レベルの各ベクタートランスフェクションから得られた上位3つの生産性クローンの付着培養物中の抗−セレクチン抗体の平均産生レベルを示す(メトトレキセート濃度、“MTX”)。
【0097】
【表5】

【0098】
表5のデータは、安定にトランスフェクトされたCHO細胞のメトトレキセート増幅培養物中の抗−EL−セレクチン抗体の発現レベルの向上にARM1およびARM2配列(pAGen−EL−セレクチン)が有効であったことを示す。
【実施例5】
【0099】
トランスフェクトCHO細胞中の増強緑色蛍光タンパク質(eGFP)の発現レベルに対するARM1およびARM2配列の効果
安定なトランスフェクタントの選択可能マーカーすなわちヒグロマイシン耐性を与えるpcDNA3.1−hygroと細胞とをコトランスフェクトした以外は上記と同様にして、増強緑色蛍光タンパク質(eGFP)をコードする遺伝子を含有する構築物をCHO細胞にトランスフェクトした。発現ベクターpeGFPは、CMVプロモーターの転写コントロール下のeGFPの発現の陽性対照を提供する。プラスミドpA205−eGFPはARM1またはARM2配列のないpA205発現ベクター上にeGFP遺伝子を含有している(図7)。プラスミドpA205Gen−eGFP(図8)は、eGFPをコードする遺伝子に隣接するARM1およびARM2の双方を含有している。これらのプラスミドのいずれにもDHFR選択遺伝子は存在しない。従って、DHFR−メトトレキセート増幅段階は行わなかった。400μg/mlの濃度のヒグロマイシンでトランスフェクタントを2週間選択し、必要ならば分割し、次にFACSによって選別して発現レベルを決定した。最初に細胞を各種ベクター用プールに選別し、発現性の細胞をさらに2週間増殖させ、次いで再度選別した。
【0100】
【表6】

【0101】
表6のデータは、ARM1およびARM2配列は、ARM配列の欠如した同じeGFP発現ベクター(pA205−eGFP)でトランスフェクトされた細胞中の発現レベルに比較して、トランスフェクトCHO細胞中のeGFPの発現レベルを有意に増進するために有効であったことを示す。
【実施例6】
【0102】
トランスフェクトCHO細胞中のアダリムマブの発現レベルに対するARM2欠失突然変異体の効果
pA205A2ベクター中のARM2配列(配列2)の3’末端領域をSpeI開裂部位(配列2の塩基1086)またはSwaI開裂部位(配列2の塩基461)まで欠失させてそれぞれpA205A2−Spe−trunc(配列2の塩基1−1086含有)およびpA205A2−Swa−trunc(配列2の塩基1−461含有)を作製した。得られたプラスミドを上述のようにCHO細胞にトランスフェクトし、20nM MTXに増幅した。表7は各増幅レベルで各トランスフェクションから得られた上位3つの生産性クローンの付着培養物中の平均発現レベルを示す。
【0103】
【表7】

【0104】
表7のデータは、ARM2 DNAの5’末端の1086塩基対を含有する発現ベクターpA205A2−Spe−truncが、pA205 A2ベクターでトランスフェクトされたCHO細胞に比較して低い増進発現レベルでアダリムマブを産生したことを示す。意外にも、ARM2 DNAの5’末端の461塩基対を含有する発現ベクターpA205A2−Swa−truncでトランスフェクトされた細胞は、ARM配列を全く含有しないpA205でトランスフェクトされた細胞よりもさらに低い発現レベルでアダリムマブを産生した。表7のデータは、ARM2 DNAの3’末端からの欠失領域が宿主細胞中の組換えタンパク質の増進発現に特別に重要であることを示す。さらに、ARM2 DNAの比較的短いすなわち461塩基対の5’末端フラグメントの存在は単独でトランスフェクト宿主細胞中の組換え遺伝子産物の発現を現実に減少させると考えられ、組換え遺伝子産物の発現を実質的に低下させるかまたはサイレンシングさせるために特に有用であろう。たとえばいくつかの培養条件下で遺伝子産物の発現が宿主細胞に有毒であるかまたは宿主細胞に望ましくないときにはこれらの利用が望ましい。
【実施例7】
【0105】
先行試験の個々のトランスフェクタントの発現レベル
以下に示す表は上述の試験で生成された個々のトランスフェクトクローンによって産生された組換えタンパク質の発現レベルを示す。
【0106】
【表8】



【0107】
【表9】



【0108】
【表10】

【0109】
【表11】


【0110】
【表12】


【0111】
【表13】


【0112】
【表14】

【0113】
【表15】


【実施例8】
【0114】
抗−IL−13抗体の発現増進
この試験は、安定にトランスフェクトされた哺乳類の培養細胞中のヒト化抗−IL−13抗体のrEVE媒介性発現増進をrEVEの欠如した発現ベクターでトランスフェクトされた細胞に比較して示す。
【0115】
ヒトIgGγアイソタイプを有しているヒト化抗−IL−13モノクローナル抗体のH鎖およびL鎖をコードするDNA分子(参照、米国出願No.11/899,819、参照によってここに組込まれるものとする)を、DHFR−MTX増幅可能発現プラスミドである発現ベクタープラスミドpBJに標準方法を用いて挿入し、発現プラスミドpBJ−13C5.5(親発現プラスミド)を作製した。次に、ARM2配列(配列2)を含むrEVEポリヌクレオチドをプラスミドpBJ−13C5.5に挿入して、rEVE含有発現プラスミドpA2−13C5.5(ARM2 rEVE発現プラスミド)を作製した。
【0116】
先行実施例に記載した一般トランスフェクションプロトコルに従って、CHO細胞に親発現プラスミドpBJ−13C5.5またはARM2−含有rEVE発現プラスミドpA2−13C5.5をトランスフェクトし、安定なトランスフェクタントCHO細胞を取得した。トランスフェクションの24時間後、各トランスフェクションで得られた細胞を48の96−ウェル培養プレートに播種した(200細胞/ウェル)。個々のウェルの培養培地をヒトIgG発現に基づいてELISAによってスクリーニングした。ARM2 rEVE発現プラスミドをトランスフェクトした細胞培養物(ウェル)の光学密度は親発現プラスミドをトランスフェクトした細胞よりもやや高い値であった。細胞に親プラスミドpBJ−13C5.5をトランスフェクトしたときはプレートあたり平均68のコロニーであったのに比べて細胞にARM2 rEVEプラスミドpA2−13C5.5をトランスフェクトしたときは培養プレートあたり平均74のコロニーが選択プロセスで生存した。各トランスフェクションで得られた平均15の安定にトランスフェクトされたクローンを次にDHFR−メトトレキセート(MTX)増幅処理した。
【0117】
増幅の前に、ARM2 rEVEプラスミドトランスフェクタントクローンから得られた抗−IL−13抗体の平均発現レベルは、親プラスミドトランスフェクタントクローンから得られた平均発現レベルの2倍であった。次に2つのプロトコルの双方によって抗体発現を増幅した。上記の実施例2に記載したような基本的DHFR−MTX増幅プロトコルを使用しクローンを先ず20nMのMTX濃度で選択し、次いで100nMのMTX濃度でさらに選択した。他方の増幅プロトコルでは、中間MTX濃度の選択を介在させずに直接に100nMのMTXでクローンを選択した。以下の表16は、表示した増幅レベル(メトトレキセート濃度、“MTX”)を含有する培地中の2回の継代後に各トランスフェクションから得られた上位3つの生産性クローンの培養物中の抗−IL−13抗体の平均産生レベルを示す。
【0118】
【表16】

【0119】
表16のデータは、ARM2 rEVE DNAの欠如した親発現プラスミドを担持するトランスフェクタントから得られた発現レベルに比較してARM2 rEVEがヒト化抗−IL−13抗体の発現レベルを約3倍から5倍に増進することを明らかに示す。さらに、ARM2 rEVE発現プラスミドトランスフェクタントの1つのサブクローンは100nM MTXの増幅レベルで増殖させたときにヒト化抗−IL−13抗体を95μg/mlという高レベルおよび比産生率21.74pg/細胞/日で発現した。
【0120】
ARM2 rEVE発現プラスミドをトランスフェクトしたクローンによる抗IL−13抗体の増幅発現レベルはMTX選択下で増殖させたときに少なくとも3週間は容易に維持された。
【実施例9】
【0121】
一過性発現系中のアダリムマブの発現に対するARM1およびARM2 rEVEポリヌクレオチド分子の効果
この試験は、rEVEポリヌクレオチド分子が一過性発現系中で組換えタンパク質の発現レベルを増進するか否かを判定するように設計した。
【0122】
HEK293細胞に発現プラスミドベクターpA205、pA205Genomic、pA205A1、pA205A2、pA205A2−Spec−truncおよびpA205A2−Swa−truncをトランスフェクトした。Freestyle 293 Expression Medium(GIBCO(R), nvitrogen,Carlsbad,CA)中で培養したHEK293細胞を、公表された条件(Durocherら,Nucleic Acids Res.,30:E9)に従ってポリエチレンイミンに複合したプラスミドDNAでトランスフェクトした。ベクター組込みの選択はしなかった。トランスフェクション後の細胞を7日間培養し、培養上清のアリコートのアダリムマブ濃度を上述のように試験した。3つのトランスフェクションの結果を表17に示す。第三のトランスフェクションについては発現レベルを三重複で試験した。
【0123】
【表17】

【0124】
表17の結果は、ARM1およびARM2配列が発現プラスミドベクター上に個別に(pA205A1,pA205A2)存在するときまたは組合せて(pA205Genomic)存在するとき、HEK293細胞中のアダリムマブの発現レベルが増進されることを示す。このHEK293一過性発現系中でARM1はARM2よりも高いアダリムマブ発現増進レベルを与えた。これに対してARM2はCHO安定発現系中でARM1よりも高いアダリムマブ発現増進レベルを与えた(上記の実施例3参照)。またCHO安定発現系で見られたように(上記の実例6)、ARM2の増進効果は、SpeI−またはSwaI−欠失ARM2配列を担持する発現プラスミドベクターでトランスフェクトされたHEK293細胞中では明らかに減少し、pA205対照(ARM配列非含有)プラスミド発現ベクターでトランスフェクトされた細胞中で見られる発現よりも低下していた。
【0125】
上記明細書に引用したすべての特許、出願および公開は参照によって本発明に組込まれるものとする。
【0126】
この文中に記載した本発明の他の変更形態および実施態様はいまや当業者に明らかであろう。本発明のこのような変更形態および代替的実施態様は上記の明細書および以下の特許請求の範囲内に包含されることとする。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列1のヌクレオチド塩基配列、配列2のヌクレオチド塩基配列、前記配列のいずれかに相補的な配列、前記配列のいずれかの発現増進性部分およびそれらの組合せから成るグループから選択されたヌクレオチド塩基配列を含む単離された組換え発現ベクター要素(rEVE)ポリヌクレオチド分子。
【請求項2】
rEVEポリヌクレオチド分子が、配列2の塩基462−2422の配列および配列2の塩基1087−2422の配列から成るグループから選択された配列2の配列の発現増進性部分を含む請求項1に記載の単離されたrEVEポリヌクレオチド分子。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のrEVEポリヌクレオチド分子を含む組換えベクター。
【請求項4】
組換えベクターが組換え発現ベクターである請求項3に記載の組換えベクター。
【請求項5】
組換えプラスミド発現ベクター、組換え真核性ウイルス発現ベクター、組換えバクテリオファージ発現ベクター、組換え酵母ミニ染色体発現ベクター、組換え細菌性人工染色体発現ベクターおよび組換え酵母発現プラスミドベクターから成るグループから選択される請求項4に記載の組換え発現ベクター。
【請求項6】
組換え発現ベクターが1つ以上の組換えタンパク質をコードする1つ以上の機能性組換え遺伝子を含む請求項4に記載の組換え発現ベクター。
【請求項7】
前記1つ以上の組換えタンパク質が、可溶性タンパク質、膜タンパク質、構造タンパク質、リボソームタンパク質、酵素、チモーゲン、抗体分子、細胞表面受容体タンパク質、転写調節タンパク質、翻訳調節タンパク質、クロマチンタンパク質、ホルモン、細胞周期調節タンパク質、Gタンパク質、神経作動性ペプチド、免疫調節タンパク質、血液成分タンパク質、イオンゲートタンパク質、熱ショックタンパク質、ジヒドロ葉酸レダクターゼ(DHFR)、抗生物質耐性タンパク質、上記タンパク質のいずれかの機能フラグメント、上記タンパク質のいずれか一項のエピトープ含有フラグメントおよびそれらの組合せから成るグループから選択される請求項6に記載の組換え発現ベクター。
【請求項8】
抗体分子が、抗−TNF−α抗体、抗−EL−セレクチン抗体、抗−IL−13抗体および二元可変ドメイン免疫グロブリン分子から成るグループから選択される請求項7に記載の組換え発現ベクター。
【請求項9】
抗−TNF−α抗体がアダリムマブである請求項8に記載の組換え発現ベクター。
【請求項10】
前記組換え発現ベクターがジヒドロ葉酸レダクターゼをコードする遺伝子の少なくとも1つのコピーを含む請求項4から9のいずれか一項に記載の組換え発現ベクター。
【請求項11】
請求項3から10のいずれか一項に記載のベクターを含む宿主細胞。
【請求項12】
宿主細胞が真核性宿主細胞または原核性宿主細胞である請求項11に記載の宿主細胞。
【請求項13】
宿主細胞が、哺乳類宿主細胞、昆虫類宿主細胞、植物宿主細胞、真菌類宿主細胞、真核性藻類宿主細胞、線虫類宿主細胞、原生動物宿主細胞および魚類宿主細胞から成るグループから選択された真核性宿主細胞である請求項12に記載の宿主細胞。
【請求項14】
真核性宿主細胞が哺乳類宿主細胞である請求項13に記載の真核性宿主細胞。
【請求項15】
哺乳類宿主細胞がチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、COS細胞、Vero細胞、SP2/0細胞、NS/0骨髄腫細胞、ヒト胚性腎(HEK293)細胞、幼若ハムスター腎(BHK)細胞、HeLa細胞、ヒトB細胞、CV−1/EBNA細胞、L細胞、3T3細胞、HEPG2細胞、PerC6細胞およびMDCK細胞から成るグループから選択される請求項14に記載の哺乳類宿主細胞。
【請求項16】
哺乳類宿主細胞がCHO細胞である請求項15に記載の哺乳類宿主細胞。
【請求項17】
真核性宿主細胞が真菌類宿主細胞である請求項13に記載の真核性宿主細胞。
【請求項18】
真菌類宿主細胞が、Aspergillus、Neurospora、Saccharomyces、Pichia、Hansenula、Schizosaccharomyces、Kluyveromyces、YarrowiaおよびCandidaから成るグループから選択される請求項17に記載の真菌類宿主細胞。
【請求項19】
S.cerevisiae宿主細胞である請求項18に記載のSaccharomyces宿主細胞。
【請求項20】
真核性宿主細胞が原生動物宿主細胞である請求項13に記載の真核性宿主細胞。
【請求項21】
原生動物宿主細胞がLeishmania tarentolae宿主細胞である請求項20に記載の原生動物宿主細胞。
【請求項22】
請求項4から10のいずれか一項に記載の組換え発現ベクター上に存在する目的の組換えタンパク質をコードする1つ以上の遺伝子の転写および翻訳を含む目的の組換えタンパク質の産生方法。
【請求項23】
前記転写および翻訳が無細胞転写/翻訳系または宿主細胞中で生じる請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記転写および翻訳が宿主細胞中で生じる請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記宿主細胞がCHO宿主細胞である請求項24に記載の方法。
【請求項26】
請求項10に記載の組換え発現ベクターを宿主細胞に挿入する段階と、
目的の組換えタンパク質を発現するメトトレキセート耐性宿主細胞を選択するためにメトトレキセートの存在下で前記宿主細胞を増殖させる段階と、
前記メトトレキセート耐性宿主細胞を単離する段階と、
を含み、前記単離されたメトトレキセート耐性宿主細胞がメトトレキセート感受性宿主細胞よりも高いレベルで目的の組換えタンパク質を発現すること、および、前記メトトレキセート耐性宿主細胞がメトトレキセートの存在下または非存在下で増殖したときに組換えタンパク質を高レベルで安定に発現することを特徴とする、目的の組換えタンパク質を高レベルで安定に発現する宿主細胞の製造方法。
【請求項27】
前記メトトレキセートが5nMから10μMの範囲の濃度で存在する請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記宿主細胞がCHO宿主細胞である請求項26に記載の方法。
【請求項29】
宿主細胞中の組換え発現ベクターにコードされた目的の組換えタンパク質の発現を増幅するためのジヒドロ葉酸レダクターゼ(DHFR)−メトトレキセート方法において、前記組換え発現ベクターが目的の組換えタンパク質をコードする遺伝子とDHFRをコードする遺伝子とを含んでおり、改良が、前記組換え発現ベクターがさらに請求項1または請求項2に記載のrEVEポリヌクレオチド分子を含み、メトトレキセート存在下の発現ベクター含有宿主細胞の増殖は、メトトレキセートの存在下または非存在下で増殖したときに目的の組換えタンパク質を増幅レベルで安定に発現するメトトレキセート耐性宿主細胞を選択し産生することを特徴とする改良方法。
【請求項30】
前記メトトレキセートが5nMから10μMの範囲の濃度で存在する請求項29に記載の方法。
【請求項31】
前記宿主細胞がCHO宿主細胞である請求項29に記載の方法。
【請求項32】
組換えタンパク質を発現する宿主細胞集団のメトトレキセート存在下の増殖適応能力を改善または増進する方法であって、
目的の組換えタンパク質をコードする組換え遺伝子と、
配列1、配列2、配列1の一部分、配列2の一部分およびそれらの組合せから成るグループから選択された配列を含む組換え発現ベクター要素(rEVE)ポリヌクレオチド分子と、
ジヒドロ葉酸レダクターゼ(DHFR)遺伝子と、
を含む組換え発現ベクターを宿主細胞に挿入する段階を含み、
メトトレキセートの存在下で増殖したときに、組換え発現ベクターを含有している宿主細胞集団がrEVEポリヌクレオチド分子の欠如した同じ組換え発現ベクターを担持している宿主細胞集団に比較して、より高い生存率および/またはより高い増殖速度を有していることを特徴とする方法。
【請求項33】
前記メトトレキセートが5nMから10μMの範囲の濃度で存在する請求項32に記載の方法。
【請求項34】
前記宿主細胞がCHO宿主細胞である請求項32に記載の方法。
【請求項35】
目的の組換えタンパク質をコードする組換え遺伝子と、
配列1、配列2、配列1の一部分、配列2の一部分およびそれらの組合せから成るグループから選択された配列を含む組換え発現ベクター要素(rEVE)ポリヌクレオチド分子と、
ジヒドロ葉酸レダクターゼ(DHFR)遺伝子と、
を含む組換え発現ベクターを宿主細胞に挿入する段階と、
目的の組換えタンパク質を発現するメトトレキセート耐性宿主細胞を選択するために宿主細胞をメトトレキセートの存在下で増殖させる段階と、
前記メトトレキセート耐性宿主細胞を単離する段階と、
を含み、前記単離されたメトトレキセート耐性宿主細胞はメトトレキセートの存在下で目的の組換えタンパク質をrEVE配列の欠如した発現ベクターを含有するメトトレキセート耐性宿主細胞よりも高いレベルで発現することを特徴とする、組換えタンパク質を高レベルで発現するメトトレキセート耐性宿主細胞の製造方法。
【請求項36】
前記メトトレキセートが5nMから10μMの範囲の濃度で存在する請求項35に記載の方法。
【請求項37】
前記宿主細胞がCHO宿主細胞である請求項35に記載の方法。
【請求項38】
第一核酸分子に存在するマトリックス付着領域(MAR)配列の数を増加させる方法であって、前記第一核酸分子に第二核酸分子を挿入する段階を含み、前記第二核酸分子が、配列1、少なくとも1つのMAR配列を含む配列1の一部分、配列2、少なくとも1つのMAR配列を含む配列2の一部分およびそれらの組合せから成るグループから選択されたヌクレオチド配列を含む方法。
【請求項39】
前記第一核酸分子が、ベクター分子、真核細胞染色体、真核性ウイルスゲノム、原核細胞染色体、原核性ウイルスゲノム、酵母人工染色体および細菌人工染色体から成るグループから選択される請求項38に記載の方法。
【請求項40】
前記第一核酸がベクター分子である請求項39に記載の方法。
【請求項41】
前記ベクター分子が組換え発現ベクター分子である請求項40に記載の方法。
【請求項42】
前記組換え発現ベクターが1つ以上の機能遺伝子を含む請求項41に記載の方法。
【請求項43】
前記1つ以上の機能遺伝子が、可溶性タンパク質、膜タンパク質、構造タンパク質、リボソームタンパク質、酵素、チモーゲン、抗体分子、細胞表面受容体タンパク質、転写調節タンパク質、翻訳調節タンパク質、クロマチンタンパク質、ホルモン、細胞周期調節タンパク質、Gタンパク質、神経作動性ペプチド、免疫調節タンパク質、血液成分タンパク質、イオンゲートタンパク質、熱ショックタンパク質、ジヒドロ葉酸レダクターゼ(DHFR)、抗生物質耐性タンパク質、上記タンパク質のいずれかの機能フラグメント、上記タンパク質のいずれかのエピトープ含有フラグメントおよびそれらの組合せから成るグループから選択された1つ以上のタンパク質をコードする請求項42に記載の方法。
【請求項44】
前記抗体分子が、抗−TNF−α抗体、抗−EL−セレクチン抗体、抗−IL−13抗体および二元可変ドメイン免疫グロブリン分子から成るグループから選択される請求項43に記載の方法。
【請求項45】
抗−TNF−α抗体がアダリムマブである請求項44に記載の方法。
【請求項46】
1つ以上の組換えタンパク質をコードする1つ以上の組換え遺伝子を含む発現ベクターに、配列2の塩基1−461または配列2の塩基1−1086のヌクレオチド塩基配列を含む核酸分子を挿入する段階を含む、発現ベクターからの組換えタンパク質の発現を低下させる、発現を実質的に抑制する、または、発現を実質的にサイレンシングさせる方法。
【請求項47】
前記発現ベクターを宿主細胞に挿入する段階をさらに含む請求項46に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公表番号】特表2010−523082(P2010−523082A)
【公表日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−501006(P2010−501006)
【出願日】平成20年3月28日(2008.3.28)
【国際出願番号】PCT/US2008/004063
【国際公開番号】WO2008/121324
【国際公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【出願人】(391008788)アボット・ラボラトリーズ (650)
【氏名又は名称原語表記】ABBOTT LABORATORIES
【Fターム(参考)】