説明

密封容器詰レトルト軟飯

【課題】塩分が1.0%以下の軟飯において、密封容器から出し易い密封容器詰レトルト軟飯を提供する。
【解決手段】塩分を1.0%以下の軟飯において、還元澱粉糖化物(固形分換算)を0.5〜4.5%、炭酸水素ナトリウムを0.001〜0.1%含有することを特徴とする密封容器詰レトルト軟飯。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塩分が1.0%以下の軟飯において、還元澱粉糖化物を0.5〜4.5%、炭酸水素ナトリウムを0.001〜0.1%含有することで、密封容器から出し易くした密封容器詰レトルト軟飯に関する。
【背景技術】
【0002】
軟飯とは、炊飯米より水分を多めにして軟らかく炊き上げたものであり、その状態は炊飯米とお粥の中間的状態を示し、病人食、介護食、ベビーフード用の米飯として一般的に利用されている。特に、咀嚼・嚥下機能が低下した高齢者は通常の炊飯米の場合、十分に咀嚼することが出来ず、一方お粥の場合は、水っぽいために誤嚥を起こす事があり、いずれにせよ喫食することが難しいため、軟飯を利用する必要がある。また、高齢者が自ら軟飯を調理することは手間がかかり、長時間の火の使用には危険が伴うため、お湯やレンジで温めるだけで喫食可能な密封容器詰レトルト軟飯の需要は高まっている。
【0003】
本出願人は、食感の優れた軟飯として、還元澱粉糖化物を配合した軟飯を特許出願している(特許文献1)。当該軟飯は全体の食感に優れたものであったが、軟飯を密封容器から出し難いという問題が発生する場合があった。
【0004】
また、本出願人は、軟飯ではないが、レトルト加工米を上記密封容器から出し難い問題を解決する方法として、還元澱粉糖化物5%以上、塩分1.2%以上及び水分52〜62%含有し、ヘッドスペースが製品100g当たり10ml以下となるように耐熱性パウチに充填した雑炊用レトルト加工米を特許出願している(特許文献2)。前記加工米は、密封容器から取り出し、水を加えて加熱し調製する雑炊用加工米であるため、塩分が1.2%以上であっても何ら問題がなかった。一方、お湯やレンジで温めるだけで喫食可能な密封容器詰レトルト軟飯の好適な塩分は1.0%以下であり、塩分を1.0%以下に調節した密封容器詰レトルト軟飯は、密封容器から出し難いという問題を解決できなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3643060号
【特許文献2】特開2004−275185号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明の目的は、お湯やレンジで温めるだけで喫食可能な塩分が1.0%以下である軟飯において、密封容器から出し易い密封容器詰レトルト軟飯を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記目的を達成すべく、密封容器詰レトルト軟飯に用いる種々の原料について鋭意研究を重ねた結果、塩分が1.0%以下の軟飯において、密封容器詰レトルト軟飯に、還元澱粉糖化物を0.5〜4.5%と炭酸水素ナトリウムを0.001〜0.1%含有するならば、意外にもレトルト軟飯を密封容器から出し易くなることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、
(1)塩分が1.0%以下の軟飯において、還元澱粉糖化物を0.5〜4.5%、炭酸水素ナトリウムを0.001〜0.1%含有する密封容器詰レトルト軟飯、
(2)全体の固さが800〜10,000N/mである(1)の密封容器詰レトルト軟飯、
(3)還元澱粉糖化物の平均分子量が750以上である(1)又は(2)の密封容器詰レトルト軟飯、
である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、お湯やレンジで温めるだけで喫食可能な塩分が1.0%以下の軟飯において、密封容器から出し易い密封容器詰レトルト軟飯を提供でき、食品市場におけるレトルト米飯食品の更なる拡大が期待できる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。なお、本発明において「%」は「質量%」、「部」は「質量部」を意味する。
【0011】
本発明の密封容器詰レトルト軟飯は、塩分が1.0%以下の軟飯において、還元澱粉糖化物を0.5〜4.5%と炭酸水素ナトリウムを0.001〜0.1%含有することを特徴としており、これにより、レトルト軟飯を密封容器から出し易くできる。
【0012】
本発明の軟飯とは、上述したとおり炊飯米より水を多めにして軟らかくなるように製したもので、その状態が炊飯米とお粥の中間的状態を示すものを言う。本発明の軟飯の固さは、特に限定するものではないが、本発明の効果を発揮し易い観点から、全体の固さが800〜10,000N/mの範囲が好適であり、1,000〜5,000N/mの範囲が、より好適である。なお、前記固さの値は、軟飯を直径40mmの円柱容器に高さ15mmとなるように充填し、これを直径20mmの円柱状のプランジャーを設置したクリープメーター(RE‐3305(株)山電製)を用いて、圧縮速度が10mm/sec、クリアランスが5mm、かつ品温が20±2℃の測定条件で、直線運動による物質の圧縮応力を測定した値である。
【0013】
本発明の密封容器詰レトルト軟飯は、米と清水を主原料とし、これらの原料を耐熱性密封容器、例えば、缶、レトルトパウチ、好ましくはアルミニウム箔、有機樹脂塗工ポリエチレンテレフタレート(呉羽化学工業(株)製、商品名「ベセーラ」)等によるガスバリア層を有したアルミパウチ等のガスバリア層含有耐熱性パウチ、あるいは自立性を有したスタンディングパウチ等に充填密封し、炊飯と殺菌を兼ねて食品の中心部の品温を120℃で4分間相当加熱する又はこれと同等以上の効力を有する条件で処理するいわゆるレトルト処理したレトルト軟飯である。
【0014】
本発明で用いる米は、その種類や加工方法を特に限定するものではないが、例えば、種類としては、ジャポニカ米、インディカ米、ジャバニカ米等を用いるとよい。また、加工方法の異なる米としては、玄米、発芽玄米、胚芽米、分搗き米、精白米、無洗米等を用いるとよい。
【0015】
本発明で用いる清水は、その種類を特に限定するものではないが、例えば、水道水、イオン交換水、蒸留水、ミネラルウォーター、ナチュラルミネラルウォーター、海洋深層水、あるいは、これらの清水から酸素を除去した脱気水、窒素等の不活性ガスを含気させた含気水等を用いるとよい。
【0016】
本発明で用いる米と清水との割合は、炊飯米とお粥の中間的状態の固さとなるように調節すれば、特に限定するものではないが、本発明の効果を発揮し易い観点から、米と清水との総和を100部とした場合、米8〜25部に対し清水92〜75部とすることが、好適であり、米10〜15部に対し清水90〜85部とすることがより好適である。
【0017】
本発明における塩分は、ナトリウム含有量に2.54を乗じて算出した食塩相当量をいう。なお、ナトリウム含有量は、希酸抽出法で試料調製を行い、原子吸光法により測定した値である。
【0018】
本発明における塩分の調節は、ナトリウムを含有する調味料を用いて調節すればよいが、例えば、食塩、醤油、コンソメ、昆布だし、カツオだし、味噌等を用いて調節すればよい。
【0019】
本発明で用いる塩分の含有量は、お湯やレンジで温めるだけで喫食可能な軟飯を調製する観点から1.0%以下であり、塩分が少ないと通常レトルト軟飯を密封容器から出し難くなるが、本発明によれば効果的に密封容器から出し易くすることができるため、0.8%以下が好適である。また、塩分の含有量の下限値は特に規定していないが、軟飯の味を考慮して、塩分の含有量を調節すればよい。
【0020】
本発明の還元澱粉糖化物は、澱粉を酵素等で加水分解して得られた糖化物に水素を添加して糖化物中のカルボニル基を水酸基に還元したものであり、様々な重合度のグルコースを骨格とする糖アルコールの混合糖質である。本発明で用いる還元澱粉糖化物の形態としては、市販されているものであれば、特に限定するものではないが、液体状、粉末状のもの等を用いることができる。
【0021】
本発明で用いる還元澱粉糖化物の含有量は、0.5〜4.5%であり、1〜4.5%が好ましい。還元澱粉糖化物の含有量が前記範囲より少ないと、たとえ後述する特定量の炭酸水素ナトリウムを含有してもレトルト軟飯を密封容器から出し難い場合があり、前記範囲より多いと、含有量に応じた効果が期待し難く経済的でない為である。なお、還元澱粉糖化物の含有量は、固形分換算した量である。
【0022】
本発明で用いる還元澱粉糖化物の平均分子量は、市販されている平均分子量200〜9000程度の還元澱粉糖化物であればよいが、本発明の効果を発揮し易い観点から、平均分子量750以上が好ましく、平均分子量1500以上がより好ましい。還元糖化物の平均分子量が前記平均分子量より小さいと、レトルト軟飯を密封容器から出し難い場合があり、好ましくない為である。
【0023】
なお、還元澱粉糖化物の平均分子量は、高速液体クロマトグラフィー(カラム:CK02AS三菱化成(株)製、温度:80℃、溶離液:蒸留水、流速:1.0ml/min、検出器:示差屈折計)に供し、1〜20糖類に相当する成分を分離し、分離できない20糖相当以上の高分子成分は便宜上20糖類に含めてその組成から計算で求めた値である。但し、20糖以上の割合が60%以上のものについては、分子量10000分画のウルトラフィルター(UFP−1TGC24ミルポア製)でろ過し、ろ過によって通過しない成分は分子量を便宜上10000(62糖類)と見なして、ろ過前の組成を補正して求めた値である。
【0024】
本発明の炭酸水素ナトリウムは、常温で白い粉末状であり、水に溶かすと弱アルカリ性を示すナトリウムの炭酸水素塩である。
【0025】
本発明で用いる炭酸水素ナトリウムの含有量は、0.001〜0.1%であり、0.005〜0.08%が好ましい。炭酸水素ナトリウムの含有量が前記範囲より少ないと、レトルト軟飯を密封容器から出し難い場合があり、前記範囲より多いと含有量に応じた効果が期待し難く経済的でない為である。
【0026】
本発明の密封容器詰レトルト軟飯には、上記した米、清水、塩分を調節する調味料、還元澱粉糖化物、炭酸水素ナトリウム以外に本発明の効果を損なわない範囲で当該食品に一般的に使用されている各種原料を適宜選択し配合させることができる。例えば、具材としては、小豆、グリーンピース、枝豆、そら豆等の豆類、蟹、鮭、ウニ、ホタテ等の魚介類、わかめ、ひじき、昆布等の海藻類、鶏肉等の肉類、ごぼう、大根、ニンジン、しめじ、しいたけ等の野菜類等を挙げられる。また、調味液としては、前述したナトリウムを含有する調味料の他に、酢、砂糖等の調味料、コショウ、唐辛子等の香辛料、ホタテエキス、チキンエキス、酵母エキス等のエキス類、ガム類、澱粉等の粘度調整剤、その他種々の添加剤等が挙げられる。
【0027】
本発明の密封容器詰レトルト軟飯の製造方法は、洗浄した米又は無洗米と、清水、食塩、還元澱粉糖化物、炭酸水素ナトリウムを密封容器に充填密封し、常法に則り製造すればよい。例えば、無洗米、清水、食塩、還元澱粉糖化物、炭酸水素ナトリウム、必要に応じて調味料及び具材を、耐熱性を有する密封容器のレトルトパウチに充填・密封する。続いて、レトルト処理(100〜130℃、4〜90分程度)を施し、本発明の密封容器詰レトルト軟飯を製造する方法等が挙げられる。
【実施例】
【0028】
以下、本発明について、実施例、試験例に基づき具体的に説明する。なお、本発明は、これらに限定するものではない。
【0029】
[実施例1]
下記の配合表に従って、無洗米、還元澱粉糖化物(PO−10(粉末状)、平均分子量3100、東和化成工業(株)製)、食塩、炭酸水素ナトリウム、清水を、耐熱性を有する150ml容の密封容器(レトルトパウチ)に充填・密封した。続いて、レトルト処理(120℃、20分)を施し、品温が30℃以下となるまで冷却し、密封容器詰レトルト軟飯を製した。なお、得られた密封容器詰レトルト軟飯は、塩分を0.3%、還元澱粉糖化物を3%、炭酸水素ナトリウムを0.03%含有し、固さが3,000N/mであった。
【0030】
[配合表]
無洗米 13%
還元澱粉糖化物(PO−10) 3%
食塩 0.3%
炭酸水素ナトリウム 0.03%
清水 残余
―――――――――――――――――――――
合計 100%
【0031】
得られた密封容器詰レトルト軟飯を沸騰したお湯で4分間温め、密封容器から取り出したところ、密封容器の切り口から容易に流し出すことができた。
【0032】
[実施例2]
実施例1において、無洗米の配合量を17%に変更し、塩分が0.04%になるように食塩の配合量を変更した以外は、実施例1の方法に準じて、密封容器詰レトルト軟飯を製した。なお、得られた密封容器詰レトルト軟飯は、還元澱粉糖化物を3%、炭酸水素ナトリウムを0.03%含有し、固さが7,000N/mであった。
【0033】
得られた密封容器詰レトルト軟飯を実施例1と同様の方法で温めた後に、密封容器から取り出したところ、少し力を加えるだけで密封容器の切り口から流し出すことができた。
【0034】
[実施例3]
実施例1において、無洗米の配合量を22%に変更した以外は、実施例1の方法に準じて、密封容器詰レトルト軟飯を製した。なお、得られた密封容器詰レトルト軟飯は、塩分を0.3%、還元澱粉糖化物を3%、炭酸水素ナトリウムを0.03%含有し、固さが12,000N/mであった。
【0035】
得られた密封容器詰レトルト軟飯を実施例1と同様の方法で温めた後に、密封容器から取り出したところ、密封容器の切り口からやや流し出し難かったが、問題のない程度であった。
【0036】
[試験例1]
還元澱粉糖化物と炭酸水素ナトリウムの含有量の違いによる、密封容器詰レトルト軟飯の密封容器からの出し易さへの影響を調べた。具体的には、実施例1において、還元澱粉糖化物と炭酸水素ナトリウムの含有量を表1に示す割合に変更した以外は、実施例1と同様の方法で密封容器詰レトルト軟飯を製した。続いて、得られた密封容器詰レトルト軟飯を実施例1と同様の方法で温めた後に、密封容器からの出し易さを下記評価基準で評価した。なお、No.1〜4の軟飯の固さは1,000〜5,000N/mであった。
【0037】
「密封容器からの出し易さ」の評価
ランク:基準
◎:密封容器の切り口から容易に流し出すことができた。
○:少し力を加えるだけで、密封容器の切り口から流し出すことができた。
△:密封容器の切り口からやや流し出し難かったが、問題のない程度であった。
×:密封容器の切り口から大変流し出し難かった。
【0038】
【表1】

【0039】
表1により、還元澱粉糖化物と炭酸水素ナトリウムの含有量が、それぞれ0.5〜4.5%、0.001〜0.1%である密封容器詰レトルト軟飯は、密封容器からの出し易さに優れており、特に、還元澱粉糖化物と炭酸水素ナトリウムの含有量が、それぞれ1〜4.5%、0.005〜0.08%である密封容器詰レトルト軟飯は、密封容器からの出し易さにより優れていることが理解される。
【0040】
[試験例2]
澱粉糖化物の種類による、密封容器からの出し易さへの影響を調べた。具体的には、実施例1において還元澱粉糖化物(PO−10(粉末状)、平均分子量約3100、東和化成工業(株)製)を、表2のNo.1〜4に示す種々の平均分子量を有する還元澱粉糖化物又は非還元型澱粉糖化物に置き換えた以外は、実施例1の方法に準じて密封容器詰レトルト軟飯を製した。
続いて、得られた密封容器詰レトルト軟飯と実施例1で製した密封容器詰レトルト軟飯を実施例1と同様の方法で温めた後に、密封容器からの出し易さを評価した。なお、評価基準は試験例1と同様とする。
用いた還元澱粉糖化物はいずれも東和化成工業(株)製であり、平均分子量3100のものは「PO−10(粉末状)」、平均分子量800のものは「PO−20(粉末状)」、平均分子量600のものは「PO−30(粉末状)」、平均分子量400のものは「PO−40(粉末状)」を用いた。また、非還元澱粉糖化物は、松谷化学工業(株)製の平均分子量8500の「パインデックス#100(粉末状)」を用いた。
【0041】
【表2】

【0042】
表2により、平均分子量750以上の還元澱粉糖化物を含有するレトルト軟飯は、密封容器からの出し易さに優れており、特に、平均分子量1500以上の還元澱粉糖化物を含有する密封容器詰レトルト軟飯は、密封容器からの出し易さにより優れていることが理解される。一方、非還元澱粉糖化物を含有する密封容器詰レトルト軟飯は、密封容器から大変出し難いものであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩分が1.0%以下の軟飯において、還元澱粉糖化物(固形分換算)を0.5〜4.5%と炭酸水素ナトリウムを0.001〜0.1%含有することを特徴とする密封容器詰レトルト軟飯。
【請求項2】
全体の固さが800〜10,000N/mである請求項1記載の密封容器詰レトルト軟飯。
【請求項3】
還元澱粉糖化物の平均分子量が750以上である請求項1又は2記載の密封容器詰レトルト軟飯。