説明

密閉型絶縁装置およびその運転方法

【課題】金属容器の内側表面の異物の挙動を制御することにより、金属容器のコンパクト化と絶縁信頼性を向上させた密閉型絶縁装置を提供する。
【解決手段】密閉型絶縁装置は、軸方向に延びて軸方向に少なくとも2つに分割可能な高電圧導体1と、端部フランジ3aによって少なくとも2つに分割可能で、当該高電圧導体1との間に空隙を保ちながら当該高電圧導体1を覆い、この空隙に絶縁ガスが充填された金属容器3と、外周側で当該端部フランジ3aに挟み込まれるように固定されて内周側で当該高電圧導体1を支持する絶縁部材4aを備えたスペーサ4を有する。当該金属容器3の内側表面には、当該金属容器3の内側表面に作用する電界が所定値以下のときには電気抵抗が高く、所定値よりも高いときには電気抵抗が低くなるように形成された非線形抵抗膜13が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガス封入形開閉器などの密閉型絶縁装置およびその運転方法に関する。
【背景技術】
【0002】
絶縁物で支持した高電圧導体が絶縁性ガスを封入した容器内部に密閉された、例えばガス封入形開閉器などの密閉型絶縁装置においては、コスト低減や環境負荷低減のために絶縁設計合理化や三相一括化などによる一層の縮小化が課題となっている。
【0003】
密閉型絶縁装置の金属容器の大きさは、絶縁および熱的設計等によって決められている。絶縁設計のポイントの1つは、金属容器の内側表面に異物が存在(付着)した場合の絶縁性能への影響度を検討することである。
【0004】
高電圧導体を絶縁物で支持して絶縁ガスを封入した密閉金属容器の内部に異物が存在すると、異物に対して金属容器等から供給された電荷と運転電圧との相互作用によって生じる力によって、異物が金属容器の内部を動き回る可能性がある。
【0005】
密閉型絶縁装置を縮小化すると、その金属容器の内側表面の電界が高くなり、金属容器の内部に存在する異物の動きが活発になりやすい。異物が金属容器の内部で過度に動くと、絶縁性能に影響を及ぼす可能性がある。また、異物形状が長尺であるほど、異物の動きが大きくなり絶縁性能への影響が大きくなる可能性が高い。
【0006】
運転電圧が印加された状態での異物の動きを抑制させるために、金属容器の内部に長尺の異物が混入しないように、製造工程で、例えば異物管理工程等において異物除去を行い、異物管理を強化している。さらに、管理しきれない小さな異物が、設計上考慮した高さ以上に浮上して動きまわらないように運転電圧印加時の金属容器の内側表面の電界強度を設計する必要がある。ここで、高さとは、金属容器の内側表面と異物との距離を意味している。
【0007】
金属容器の内側表面の電界強度は、高電圧導体と金属容器の内側表面との距離に依存するため、異物の浮上高さを小さく抑えるためには金属容器を大きくする必要がある。これは、密閉型絶縁装置の縮小化の制約要因となっていた。
【0008】
この異物による設計への制約条件を緩和させる方法として、異物の動きを抑制することによる絶縁性能への影響の無力化技術が知られている。例えば、特許文献1〜3に開示されているように、絶縁材をコーティングして得られる絶縁膜によって異物挙動の不活性化する技術(絶縁コーティング技術)が知られている。
【0009】
絶縁コーティング技術は、密閉型絶縁装置の金属容器の内側表面に絶縁性の高いエポキシ系レジン等でコーティングを行うことによって、金属容器の内側表面から異物に電荷が供給されるのを抑制して動きにくくしている。異物が動きにくくなると、金属容器の内側表面の電界を高くすることができ、密閉容器をコンパクトにすることができる。
【0010】
絶縁性が高く剥離しにくい絶縁膜を形成することが重要でありこれを実現するための方法が提案されている。
【特許文献1】特開昭58−111203号公報
【特許文献2】特開平2−79711号公報
【特許文献3】特許第3028975号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、従来上記の絶縁膜に用いる絶縁材(コーティング材)は、以下のような課題を有している。
【0012】
従来提案されているコーティング材では、異物、絶縁ガス、およびコーティング材により構成される部位に電界集中を生じやすい。この電界集中が大きくなると異物周辺で部分放電が生じて異物に電荷を供給する可能性がある。
【0013】
部分放電が生じると、この異物は突然広範囲に動きまわり絶縁性能に影響を与えてしまう。雷サージ等の過電圧が侵入して金属容器の内側表面の電界が大きくなると電界集中部の電界がさらに大きくなる可能性は否定しきれず、確率は非常に低いものの異物が突然大きく動き回る可能性が生じる。この突然に広範囲に動きをまわることを抑制するためには、コーティング材および異物の間の電界集中を緩和して部分放電や電界放射の発生を抑制する必要がある。
【0014】
また、従来実用化されているコーティング材では、上記の課題に関連して以下のような課題も有している。従来のコーティング材では、コーティング材の絶縁性が常に高いために、通常の運転電圧において製造上管理される長さより短い異物の動きを抑制する他に、製造上管理されるべき長さ以上の異物に対しても電界による動きを抑制してしまう。
【0015】
一般に密閉型絶縁装置においては、組立後に運転電圧よりも高い電圧を印加する試験、すなわち健全性確認試験が行われている。その目的には、万一製造上管理すべき長さより長い異物が、異物管理工程で見逃されて金属容器の内部に残存する場合、運転電圧よりも高い電界によって、この異物を見つけて除去できるようにしている。この健全性確認試験によって、異物管理は徹底されている。
【0016】
上述のように、長尺の異物、特に管理長さを越える長さを有する異物は、電界の作用によって動きやすい特性を有している。健全性確認試験のときに運転電圧よりも高い電圧を印加することは、運転電圧で動き回る可能性のある長尺の異物を、確実に動かして見つけるのを促す効果を有している。容器内を動き回る異物は、金属容器の内部に衝撃振動を与えたり、部分放電を発生したりするので、これらを検出することにより見つけて除去することができる。
【0017】
しかしながら、絶縁材によりコーティングして形成された絶縁膜の場合には、異物が動きにくくなり、上記の衝撃振動や部分放電が発生しにくくなる。したがって、金属容器の内部に万一異物が存在しても、この異物を見つけることが困難になる場合が生じる。
【0018】
一方、絶縁膜の表層にあって電荷を供給されにくく運転電圧では動きにくい異物であっても、開閉機器の操作などに伴う機械的衝撃振動などによって、異物が動きだす可能性は否定しきれない。また雷インパルスのようなより高い電圧によって部分放電を生じて動きだす可能性も否定しきれない。
【0019】
仮に、管理長さを超える長尺の異物が一旦動きだすと、異物の周辺で部分放電や電界放射が発生して、この異物に電荷が供給され一層異物の動きが活発になる可能性も考えられる。したがって、健全性確認試験時には、製造上管理すべき長さより大きい異物が存在する場合には、この異物を確実に動かして見つけることが望ましい。
【0020】
しかし、従来実用化されている絶縁膜は、絶縁性が安定して高い絶縁材により形成されていることが多く、異物は動きにくい状態を保持し、健全性確認試験時に電界印加だけで異物を見つけるのを困難にしている。このため、健全性確認試験時に、製造上管理すべき長さより大きい異物を確実に見つけるためには、金属容器に振動を加える等の追加作業を必要とし、密閉型絶縁装置のコンパクト化によるコスト低減を進める上での制約条件となっている。
【0021】
この制約を緩和するためには、健全性確認試験時の高い電界に対しては、異物が動きやすく、万一存在する管理長さよりも大きい異物を見つけて除去しやすくする必要がある。一方、運転電圧に対しては、異物が動きにくく、開閉機器の絶縁性能を向上させる技術の開発が課題となっていた。
【0022】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、密閉型絶縁装置の金属容器内の異物の挙動を制御して、密閉型絶縁装置をよりコンパクト化して且つその絶縁信頼性を向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0023】
上記目的を達成するための本発明に係る密閉型絶縁装置は、軸方向に延びて、軸方向に少なくとも2つに分割可能な高電圧導体と、端部フランジによって少なくとも2つに分割可能で、前記高電圧導体との間に空隙を保ちながら前記高電圧導体を覆って、この空隙に絶縁ガスが充填された金属容器と、外周側で前記端部フランジに挟み込まれるように固定されて内周側で前記高電圧導体を支持し絶縁部材を備えたスペーサと、前記金属容器の内側表面に形成されて、前記金属容器の内側表面に作用する電界が所定値以下のときには電気抵抗が高く、前記所定値よりも高いときには前記電気抵抗が低くなるように形成された非線形抵抗膜と、を有することを特徴とする。
【0024】
また、本発明に係る密閉型絶縁装置の運転方法は、軸方向に延びて軸方向に少なくとも2つに分割可能な高電圧導体と、端部フランジによって少なくとも2つに分割可能で前記高電圧導体との間に空隙を保ちながら前記高電圧導体を覆ってこの空隙に絶縁ガスが充填された金属容器と、外周側で前記端部フランジに挟み込まれるように固定されて内周側で前記高電圧導体を支持し絶縁部材を備えたスペーサと、前記金属容器の内側表面に形成されて、前記金属容器の内側表面に作用する電界が所定値以下のときには電気抵抗が高く、前記所定値よりも高いときには前記電気抵抗が低くなるように形成された非線形抵抗膜と、を有する密閉型絶縁装置の運転方法において、前記電界が前記所定値よりも高くなるように前記高電圧導体に電圧を印加させる健全性確認工程と、前記電界が前記所定値以下となるように前記高電圧導体に電圧を印加させる通常運転工程と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、密閉型絶縁装置の金属容器内の異物の挙動を制御して、密閉型絶縁装置をよりコンパクト化して且つその絶縁信頼性を向上させることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明に係る密閉型絶縁装置の実施形態について、図面を参照して説明する。
【0027】
[第1の実施形態]
本発明の密閉型絶縁装置に係る第1の実施形態について、図1〜図9を用いて説明する。先ず、本実施形態の密閉型絶縁装置の構成について説明する。図1は、本実施形態の密閉型絶縁装置の一部を示す部分切欠概略縦断面図である。
【0028】
本実施形態の密閉型絶縁装置は、軸方向に複数に分割可能な金属容器3、高電圧導体1、およびスペーサ4を有する。
【0029】
金属容器3は、略円筒形であって、この円筒の中心軸に垂直な断面で、複数個に分割および接続できるように形成されている。図1に示す金属容器3は、第1金属容器31の両端それぞれに第2金属容器32および第3金属容器33が直列に接続された状態の例であって、これらの第1〜第3金属容器31、32、33は分割可能である。
【0030】
複数に分割可能な金属容器3、すなわち第1金属容器31、第2金属容器32、および第3金属容器33それぞれの連結部の外周には、端部フランジ3aが形成されている。第1〜第3金属容器31、32、33を連結するときには、これらの端部フランジ3a同士が、例えば締結ボルト等の締結手段によって締結されている。
【0031】
金属容器3のほぼ中心部には、円筒部の中心軸方向に沿って高電圧導体1が挿入されている。さらに、この高電圧導体1の外側で金属容器3内側には、例えばSFガス等の絶縁ガス2が封入されている。
【0032】
スペーサ4は、絶縁部材4aを有し、金属容器3内部を円筒の中心軸に垂直な方向に分割するように配置されている。
【0033】
スペーサ4は、両面側から端部フランジ3aによって挟み込まれるように固定されている。このとき、金属容器3の気密性を保持するように締結されている。スペーサ4の中心側は、金属容器3の内部に挿入された高電圧導体1を支持するように形成されている。
【0034】
この金属容器3の内側表面には、非線形な電気抵抗特性を有する非線形抵抗膜13が形成されている。
【0035】
図2は、図1のII部の拡大断面モデル図である。この非線形抵抗膜13は、例えばZnO等の非線形な電気抵抗特性を有する粉末14が充填された樹脂18が、金属容器3の内側表面に膜状に塗布されることによって形成されている。
【0036】
この樹脂18に充填された1種類または複数種類の非線形抵抗材の粉末14は、樹脂18内部で粉末14同士が互いに電気的に直列または並列に接続されている。すなわち、この粉末14同士が接続されて、樹脂18の内部には漏れ電流の主経路15が形成されて、非線形な電気抵抗特性を有する直列および並列の電気回路が形成される。これらの電気回路が形成されることによって、所望の非線形な電気抵抗特性を有する樹脂18が得られる。この粉末14の充填量などの製造条件を調整することによって、この樹脂18は所望の電気抵抗特性を得ることできる。
【0037】
上記のように調整された樹脂18を金属容器3の内側表面に膜状に塗布することによって、非線形抵抗膜13が形成される。
【0038】
図3(a)は、図1のIII-III矢視横断面図に漂遊静電容量Cgを示した図である。図3(b)は、図2の非線形抵抗膜13を流れる電流の電流成分を示す等価回路図である。
【0039】
密閉型絶縁装置の例えば高電圧回路(図示せず)に、例えば交流電圧を印加すると、非線形抵抗膜13には、この非線形抵抗膜13と高電圧導体1との漂遊静電容量Cgによってほぼ決まる交流電圧が作用する。これらにより非線形抵抗膜13に流れ込んだ電流、すなわち漂遊容量を通して流れる電流Jは、非線形抵抗膜13の静電容量成分Czと非線形抵抗成分Rzとに分流される。このとき、絶縁ガス2の空隙に作用している電圧をVg、非線形抵抗膜13に作用する電圧をVzとしている。
【0040】
予め、この非線形抵抗成分Rzに流れ込む電流密度に応じて、非線形抵抗膜13の電気抵抗特性を上記調整方法などによって調整しておくとよい。
【0041】
図4は、従来の絶縁膜13aの表層の異物5周辺に発生した電界集中部10を示すモデル図である。図5は、非線形抵抗膜13の表層の異物5の周辺の電界を示すモデル図である。
【0042】
図4に示すように、一般には、密閉された金属容器3の内側表面に形成された膜、例えば従来の絶縁膜13aの表層に異物5が存在すると、異物5の周辺には電界の集中する部分、すなわち等電位線16の間隔が密になる電界集中部10が現れる。この電界集中部10の電界が、例えば絶縁ガス2の電離電界を越えると、部分放電が発生する。異物5の周辺部で部分放電が発生すると、異物5に電荷が供給されて、異物5が金属容器3内を動きやすくなる。なお、この絶縁膜13aの電気抵抗は、無限大として捉えている。
【0043】
異物5が動きやすい状況は、絶縁性能を低下させる可能性がある。さらに、異物5の材質によっては、電界集中部10の電界の大きさが、異物5の材質の電子放射電界の大きさを越えて異物5が帯電して、さらに動きやすくなる場合もある。
【0044】
金属容器3の内面の膜、例えば絶縁膜13aと異物5との間には、主に異物5とこの絶縁膜13aとの電位差、絶縁ガス2の誘電率、および例えば商用周波数を有する印加電圧(交流電圧)などによって決まる密度の電流が流れる。この絶縁膜13aに流れ込んだ電流は、非線形抵抗膜13の容量成分と抵抗成分とに分かれて膜中を流れる。
【0045】
このとき例えば、図5に示すように、非線形抵抗膜13を金属容器3の内側表面に形成する。この非線形抵抗膜13は、上記のような調整よって、電気抵抗値を、絶縁ガス2の臨界電界もしくは電子放射電界と誘電率とで決まる電流密度の内の電気抵抗成分よりも、低くなるように形成されている。すなわち、この非線形抵抗膜13における運転電圧を印加したときの電気抵抗は、絶縁膜13aの電気抵抗よりも低くなるように調整されている。
【0046】
このときは、異物5の周辺の電界集中を緩和して異物5の周辺で電界緩和部17が形成される。この電界緩和部17によって部分放電の発生を抑制することが可能である。すなわち、電界が集中する異物5の周辺部分の非線形抵抗膜13の抵抗を低下させることによって周辺の膜の電位を異物5の電位に近づけて、異物5の周辺の等電位線16の間隔を広げて電界を緩和して、部分放電や電子放射の発生を抑制している。
【0047】
密閉型絶縁装置が運転状態であるときに、異物5の周辺での部分放電の発生を抑制することによって、非線形抵抗膜13の表層に存在する異物5の動きを抑制することが可能となる。このため、従来の絶縁膜13aを用いた場合に比べて金属容器3の設計電界を大きくすることが可能となり、金属容器3をよりコンパクトにすることができる。
【0048】
図6は、本実施形態の非線形抵抗膜13の特性であって、電流密度と印加電圧との関係を示したグラフである。
【0049】
一般に、非線形抵抗材の粉末14が充填された非線形の抵抗特性を有する樹脂は、印加電圧と流れる電流密度との間には、図6に示すような非直線的な非線形の関係を有している。この粉末14が充填された樹脂の特性は、上記調整を行うことによって、図6中の特性A、B、およびCのように、高抵抗領域と低抵抗領域との境界となる電圧値を、それぞれ異なる値に調整することが可能となる。図6に示す電圧aは、特性Aにおいて電気抵抗特性が高抵抗領域から低抵抗領域に変わる境界電圧を示している。同様に、電圧bおよび電圧cは、特性Bおよび特性Cそれぞれにおける境界電圧を示している。
【0050】
本実施形態の非線形抵抗膜13は、図6に示す特性Bのように、運転電圧V1では高抵抗で健全性試験時電圧V2では低抵抗となる非線形な抵抗特性を有するように調整されている。なお、上述の通り、高抵抗であっても、従来の絶縁膜13aの電気抵抗よりは低く形成されている。
【0051】
一般に、金属容器3の製造工程において、所定の基準長さ(管理長さ)より大きい異物5を除去する異物管理工程を有している。しかし、従来の絶縁膜13aを金属容器3の内側表面に形成した場合では、健全性確認試験のときに、管理長さより大きい異物5、すなわち本来は異物管理工程で発見し除去されるべき大きさの異物5を、発見することが困難になる場合があった。
【0052】
これに対して、特性Bのような非線形抵抗膜13の表層に異物5が存在する場合には、上記の説明の通り、異物5の周辺の電界集中が緩和されて、非線形抵抗膜13に作用する電界は平均化される。この平均化された電界は、異物5が存在しない場合の金属容器3の内側表面の電界に近い値となる。
【0053】
したがって、運転電圧V1に対してこの異物5は動きにくい状態が保持されため、運転時の金属容器3の内側表面の設計電界を高くすることが可能となる。
【0054】
逆に、健全性確認試験時電圧V2においては非線形抵抗膜13の抵抗は小さくなり、このときの異物5は金属容器3の内側の金属表面に直接付着されているのとほぼ同じ状態となって、電荷を供給されやすくなり動きやすくなる。
【0055】
すなわち、健全性確認試験時電圧V2に対応した金属容器3の内側表面の設計電界を、管理長さより大きい異物5が動く電界に設定しておくことによって、健全性確認試験時には、管理長さより大きい異物5が動きやすくすることが可能となる。これにより当該異物5を発見して除去することが容易になる。
【0056】
図7は、印加電圧が交流電圧である場合における非線形抵抗膜13の材料時定数の特性であって、当該材料の時定数と印加電圧との関係を示したグラフである。
【0057】
図8(a)は、非線形抵抗膜13周辺のモデル図で、絶縁ガス2が封入された金属容器3の内側表面に非線形抵抗膜13が形成されて、この非線形抵抗膜13の表層に異物5が存在した状態を示している。図8(b)は、図8(a)の等価回路図である。図9は、健全性確認試験時の印加交流電圧(健全性確認試験時電圧V2)を時系列の波形によって示したグラフである。境界電圧V3または境界電圧−V3それぞれの絶対値を超えた電圧では、電気抵抗が高抵抗領域から低抵抗領域に変わる。
【0058】
一般に、非線形抵抗材の粉末14が充填された非線形の抵抗特性を有する樹脂18は、例えば図6に示すように、印加電圧に伴って抵抗が低下する特性を有している。よって、非線形抵抗膜13を形成する材料の誘電率および体積抵抗率の積によって決まる時定数τと、印加電圧との関係は、例えば図7に示すように反比例のような関係を示す。図7中のS、すなわちこのτが印加交流電圧の周波数、例えば商用周波数の周期Tの1/2よりも短く、印加電圧が抵抗特性の境界電圧V3よりも高い領域では、異物5へ電荷が供給されやすい。
【0059】
非線形抵抗膜13の電気抵抗の特性は上記の説明の通り調整可能で、さらにアルミナ等の誘電率の異なる粉末状の材料を充填することによって、非線形抵抗膜13の誘電率も調整することが可能となる。
【0060】
運転電圧V1や健全性確認試験時電圧V2が交流電圧である場合には、非線形抵抗膜13は、その誘電率および体積抵抗率から定まる時定数τが、健全性確認試験で作用させる過電圧(健全性確認試験時電圧V2)の印加時には、この交流電圧の周波数(商用周波数)の周期Tの1/2よりも短くなり、運転時においては、この周期Tよりも長くなるように調整されている。
【0061】
図8に示すように、この非線形抵抗膜13の表層に異物5が存在する場合、異物5に電荷が供給されるためには、この異物5と非線形抵抗膜13との間の静電容量Czおよび非線形抵抗膜13の抵抗Rzによって決まる時間を必要とする。この時間は、上記の非線形抵抗膜13を形成する材料の時定数τと同じ時間となる。
【0062】
図9に示すように、印加電圧が交流電圧である場合、その周期Tの1/2の時間で印加電圧の極性が変わるため、非線形抵抗膜13の抵抗が低くなって材料の時定数が小さくなる時間Tは交流電圧の周期Tの1/2よりも小さくなる。異物5への電荷供給はこの時間T内に行われる。すなわち、図7のSに示すように、時定数τが商用周波数の周期Tの1/2よりも短く、印加電圧が抵抗特性の境界電圧V3よりも高い領域Sでは、異物5へ電荷が供給されやすい。
【0063】
したがって、健全性確認試験時電圧V2を作用させた場合には、異物5に電荷を効率的に供給するために材料の時定数τは、少なくとも交流電圧の周期Tの1/2よりも小さくする必要があり、さらに、時間Tよりも短いことが望ましい。一方、運転電圧V1
の印加時には、非線形抵抗膜13の抵抗が高抵抗領域であるため時定数τが長くなり異物5への電荷の供給を効率的に行うことができない。
【0064】
上記のような特性を有する非線形抵抗膜13の表層に異物5が存在した場合、運転電圧V1に対応する電界に対してこの異物5は動きにくい状態が保持される。よって、運転時の金属容器3の内側表面の設計電界を高くすることが可能となる。
【0065】
逆に、健全性確認試験時電圧V2に対しては非線形抵抗膜13の時定数小さくなって異物5に電荷が供給されやすくなり異物5は動きやすくなる。よって、健全性確認試験時には、この異物5は動きやすくなる。したがって、健全性確認試験時には異物5の発見および除去が容易になる。
【0066】
以上の説明から明らかなように、本実施形態の密閉型絶縁装置は、よりコンパクト化されて且つ絶縁信頼性を向上させることが可能となる。
【0067】
[第2の実施形態]
本発明に係る密閉型絶縁装置の第2の実施形態について、図10および図11を用いて説明する。
【0068】
図10は、本実施形態の密閉型絶縁装置の金属容器3の内側表面の形成された非線形抵抗膜13の圧力特性であって、電流密度と印加電圧との関係を示したグラフである。図10中の特性P1に比べて、特性P2は非線形抵抗膜13に作用する圧力が高くなった状態を示している。
【0069】
図11は、非線形抵抗膜13に圧力が作用する前後の状態を示した拡大断面モデル図である。なお図11では、金属容器3の図示を省略している。図11(a)は圧力を作用させる前、すなわち加圧前の状態で、図11(b)は加圧後の状態を示している。圧力を作用させた後の樹脂厚d2は、圧力作用前の樹脂厚d1よりも薄くなった例を示している。
【0070】
なお、本実施形態の金属容器3の構成は、図1に示した第1の実施形態の金属容器3と同様であり、その内側表面には、非線形抵抗膜13が形成されている。
【0071】
この非線形抵抗膜13は、金属容器3に封入する絶縁ガス2の圧力で歪量を変化できる弾性特性を有し、非線形抵抗膜13の非線形な抵抗特性を絶縁ガス2の圧力によって変化できるように調整されている。例えば、非直線抵抗材料の粉末14が充填される樹脂を、エラストマーなどの弾性特性を備えたものを用いている。
【0072】
図11に示すように、金属容器3内の絶縁ガス2のガス圧、例えばガス封入圧力などを高めることによって、加圧後の樹脂厚d2はガス圧を作用させる前の樹脂厚d1よりも薄くなり、非線形抵抗材の粉末14などにより形成される電気的直列の接続数および並列の接続数などを増加させることが可能となる。その結果、同じ印加電圧に対する電流密度が増加して抵抗が小さくなり、非線形抵抗膜13を形成する材料の時定数τが減少する。
【0073】
密閉型絶縁装置は、通常、絶縁ガス2のガス圧を最大で0.7MPa程度にまで変化させることができる。エラストマーなどの樹脂材の弾性特性は、添加剤や硬化条件等の製造条件によって調整されている。健全性確認試験時電圧V2(交流電圧)に対しては、低抵抗領域での材料の時定数τが小さいほど、非線形抵抗膜13の表層の異物5には電荷が供給されやすくなり、この異物5は動きやすくなり発見されやすくなる。
【0074】
以上の説明から明らかなように、健全性確認試験時に異物5を発見および除去が容易になり、且つ運転時には異物5を動きにくくすることができるため、運転時の金属容器3の内側表面の設計電界を高くすることが可能となる。これにより、密閉型絶縁装置は、よりコンパクト化されて且つ絶縁信頼性を向上させることが可能となる。
【0075】
[その他の実施形態]
上記実施形態の説明は、本発明を説明するための例示であって、特許請求の範囲に記載の発明を限定するものではない。また、本発明の各部構成は上記実施形態に限らず、特許請求の範囲に記載の技術的範囲内で種々の変形が可能である。
【0076】
例えば、第1および第2の実施形態では、粉末14はZnOを用いた例を説明したが、これに限らない。印加電圧を高くしたときに、電気抵抗が低下する特性を得られるものであれば、適用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】本発明に係る第1の実施形態の密閉型絶縁装置の一部を示す部分切欠概略縦断面図である。
【図2】図1のII部の拡大断面モデル図である。
【図3】(a)は図1のIII-III矢視横断面図に漂遊静電容量を示した図、(b)は図2の非線形抵抗膜を流れる電流の電流成分を示す等価回路図である。
【図4】従来の絶縁膜の表層の異物周辺に電界集中の状態を示すモデル図である。
【図5】非線形抵抗膜の表層の異物周辺の電界の状態を示すモデル図である。
【図6】本発明に係る第2の実施形態の密閉型絶縁装置の金属容器の内側表面の形成された非線形抵抗膜の特性であって、電流密度と印加電圧との関係を示したグラフである。
【図7】図1の実施形態の非線形抵抗膜の材料時定数の特性であって、材料の時定数と印加電圧との関係を示したグラフである。
【図8】(a)は図1の実施形態の非線形抵抗膜周辺のモデル図、(b)は(a)の等価回路図である。
【図9】図1の実施形態の非線形抵抗膜における印加電圧の時系列の波形を示したグラフである。
【図10】本発明に係る第2の実施形態の密閉型絶縁装置の金属容器の内側表面の形成された非線形抵抗膜の圧力特性であって、電流密度と印加電圧との関係を示したグラフである。
【図11】図10の実施形態における非線形抵抗膜に圧力が作用する前後の状態を示した拡大断面モデル図である。
【符号の説明】
【0078】
1…高電圧導体、2…絶縁ガス、3…金属容器、3a…端部フランジ、4…スペーサ、4a…絶縁部材、5…異物、10…電界集中部、13…非線形抵抗膜、14…粉末、15…漏れ電流の主経路、16…等電位線、17…電界緩和部、18…樹脂、31…第1金属容器、32…第2金属容器、33…第3金属容器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸方向に延びて、軸方向に少なくとも2つに分割可能な高電圧導体と、
端部フランジによって少なくとも2つに分割可能で、前記高電圧導体との間に空隙を保ちながら前記高電圧導体を覆って、この空隙に絶縁ガスが充填された金属容器と、
外周側で前記端部フランジに挟み込まれるように固定されて内周側で前記高電圧導体を支持し絶縁部材を備えたスペーサと、
前記金属容器の内側表面に形成されて、前記金属容器の内側表面に作用する電界が所定値以下のときには電気抵抗が高く、前記所定値よりも高いときには前記電気抵抗が低くなるように形成された非線形抵抗膜と、
を有することを特徴とする密閉型絶縁装置。
【請求項2】
前記非線形抵抗膜の内部には、電気抵抗が非線形な特性を有する粉末が充填されて、この粉末が互いに電気的に直列および並列に接続されていることを特徴とする請求項1に記載の密閉型絶縁装置。
【請求項3】
前記高電圧導体は交流電圧が印加されるものであって、前記非線形抵抗膜は、その体積抵抗率および誘電率の積により定まる時定数が、前記電界が前記所定値のときには前記交流電圧の周期よりも長く、前記電界が前記所定値よりも高いときには少なくとも前記周期の1/2よりも短くなるように形成されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の密閉型絶縁装置。
【請求項4】
前記非線形抵抗膜は弾性を有し、前記絶縁ガスの圧力の作用により前記非線形抵抗膜の厚みが薄くなるにしたがい、前記電気抵抗が低くなるように形成されていることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載の密閉型絶縁装置。
【請求項5】
軸方向に延びて軸方向に少なくとも2つに分割可能な高電圧導体と、端部フランジによって少なくとも2つに分割可能で前記高電圧導体との間に空隙を保ちながら前記高電圧導体を覆ってこの空隙に絶縁ガスが充填された金属容器と、外周側で前記端部フランジに挟み込まれるように固定されて内周側で前記高電圧導体を支持し絶縁部材を備えたスペーサと、前記金属容器の内側表面に形成されて、前記金属容器の内側表面に作用する電界が所定値以下のときには電気抵抗が高く、前記所定値よりも高いときには前記電気抵抗が低くなるように形成された非線形抵抗膜と、を有する密閉型絶縁装置の運転方法において、
前記電界が前記所定値よりも高くなるように前記高電圧導体に電圧を印加させる健全性確認工程と、
前記電界が前記所定値以下となるように前記高電圧導体に電圧を印加させる通常運転工程と、
を有することを特徴とする密閉型絶縁装置の運転方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2009−284651(P2009−284651A)
【公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−134111(P2008−134111)
【出願日】平成20年5月22日(2008.5.22)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】