富化された中枢神経系の幹細胞および始原細胞の集団、ならびにこのような集団を同定、単離、および富化するための方法
【課題】ヒトの非造血性の始原細胞および幹細胞、そして特に、中枢神経系(CNS)の神経幹細胞および始原細胞を単離および特徴付けること。
【解決手段】富化された神経幹細胞および始原細胞の集団、ならびに細胞表面マーカーに結合する試薬を使用する、神経幹細胞を同定、単離、および富化するための方法が、提供される。詳細には、ニューロスフェア(NS−IC)を開始し得るヒトの中枢神経系の幹細胞(CNS−SC)について高度に富化された集団を産生するための方法を提供し、この方法は、神経細胞または神経に由来する細胞を含有している集団を、モノクローナル抗体AC133またはモノクローナル抗体5E12によって認識される細胞表面マーカー上の決定基を認識する試薬と接触させる工程を包含する。
【解決手段】富化された神経幹細胞および始原細胞の集団、ならびに細胞表面マーカーに結合する試薬を使用する、神経幹細胞を同定、単離、および富化するための方法が、提供される。詳細には、ニューロスフェア(NS−IC)を開始し得るヒトの中枢神経系の幹細胞(CNS−SC)について高度に富化された集団を産生するための方法を提供し、この方法は、神経細胞または神経に由来する細胞を含有している集団を、モノクローナル抗体AC133またはモノクローナル抗体5E12によって認識される細胞表面マーカー上の決定基を認識する試薬と接触させる工程を包含する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(優先権の請求)
本発明は、1999年2月12日に出願された米国特許仮出願第60/119,725号に対して;1999年10月21日に出願された米国特許出願第09/422,844号に対して;および1999年12月1日に出願された米国特許仮出願第60/168,407号に対して、優先権を請求する。
【0002】
(技術分野)
本発明は、一般的には、富化された神経幹細胞および始原細胞の集団、ならびに神経幹細胞および始原細胞(詳細には、中枢神経系の神経幹細胞および始原細胞)について同定、単離、および富化するための方法に関し、そして最も詳細には、ニューロスフェアを開始する細胞(neurosphere initiating cell)(NS−IC)の富化された集団に関する。
【背景技術】
【0003】
(発明の背景)
幹細胞の集団は、細胞の総数の低い割合のみを構成するが、それらの体に再配置する能力に起因してすばらしい目的である。幹細胞の寿命および幹細胞の子孫の散布(dissemination)は所望される特徴である。これらの方法においては、有意な商業的な目的が存在する。なぜなら、幹細胞は多数の臨床的な用途を有するからである。遺伝子治療のためのビヒクルとしての幹細胞の使用においては、医学的な目的もまた存在する。
【0004】
幹細胞および始原細胞の集団上に見出されるタンパク質および他の細胞表面マーカーは、これらの集団の分離および単離のための試薬を調製することにおいて有用である。細胞表面のマーカーもまた、これらの重要な細胞のさらなる特徴付けにおいて有用である。
【0005】
本明細書中で参考として援用されるYinらの米国特許第5,843,633号は、AC133と呼ばれるモノクローナル抗体を記載している。この抗体は、造血幹細胞および始原細胞上の表面マーカーの糖タンパク質に結合する。AC133抗原は、117kDaの分子量を有する5−膜貫通細胞表面抗原である。この抗原の発現は、高度に組織特異的であり、そしてヒトの骨髄、胎児の骨髄および肝臓、臍帯血、ならびに成体の末梢血に由来する、造血系の始原細胞のサブセット上で検出されている。AC133抗体によって認識される細胞のサブセットは、CD34brightであり、そしてCD34+集団中に存在するCFU−GM活性の実質的に全てを含み、これによってAC133を、ヒトの造血性の始原細胞および幹細胞の単離および特徴付けのための試薬として有用にする。
【0006】
しかし、非造血性の幹細胞および始原細胞、ならびに特に、中枢神経系の神経幹細胞および始原細胞に特異的な表面マーカーは、同定されていない。さらに、AC133抗体は、非造血性の幹細胞または始原細胞、特に、中枢神経系(CNS)の神経幹細胞および始原細胞について、同定、単離、または富化するための方法においては、使用されていない。ヒトの非造血性の始原細胞および幹細胞、そして特に、中枢神経系(CNS)の神経幹細胞および始原細胞を単離および特徴付けることにおいて有用であるモノクローナル抗体のような、ツールについての必要性が残されている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
(発明の要旨)
本発明は、ヒトの非造血性の始原細胞および幹細胞、そして特に、ニューロスフェア(NS−IC)を開始し得る中枢神経系(CNS)の神経幹細胞、および始原細胞を、同定、単離、および富化するための方法を提供する。本発明はまた、ニューロスフェアを開始し得るCNSの神経幹細胞、および始原細胞を含有している富化された集団を提供する。「ニューロスフェア開始細胞(NS−IC)」は、長期間のニューロスフェア培養を開始し得る細胞である。次に、「ニューロスフェア」は、細胞の凝集物またはクラスターであり、これは、神経幹細胞および初期始原細胞を含む。ニューロスフェアの同定、培養、増殖、および使用は、Weissら、米国特許第5,750,376号、およびWeissら、米国特許第5,851,832号(両方とも、本明細書中で参考として援用される)に開示されている。用語「NS−IC」は、ニューロスフェアを形成するその細胞の能力または機能によって定義されるが、これらの細胞は、付着性の培養地において適切に増殖され得(例えば、Johe、米国特許第5,753,506号(本明細書中で参考として援用される)を参照のこと)、そして本明細書中に記載されている方法および集団が、NS−ICの懸濁培養物に限定されないことが留意されるはずである。NS−ICは、ネスチン+であり、そしてニューロン、星状細胞、および稀突起神経膠細胞への適切な分化条件下で分化する能力を有する。
本発明は、例えば以下の項目を提供する。
(項目1) ニューロスフェア(NS−IC)を開始し得るヒトの中枢神経系の幹細胞(CNS−SC)について高度に富化された集団を産生するための、方法であって、以下:
(a)神経細胞または神経に由来する細胞を含有している集団を、モノクローナル抗体AC133またはモノクローナル抗体5E12によって認識される細胞表面マーカー上の決定基を認識する試薬と接触させる工程;および
(b)該試薬と工程(a)の細胞の表面上の該決定基との間で接触している細胞について選択して、CNS−SCについて高度に富化された集団を産生する工程、
包含する、方法。
(項目2) 前記試薬が、モノクローナル抗体AC133によって認識される前記細胞表面マーカー上の決定基を認識する抗体である、項目1に記載の方法。
(項目3) 前記試薬が、AC133モノクローナル抗体またはポリクローナル抗体である、項目2に記載の方法。
(項目4) 前記試薬が、AC133抗体または5E12抗体によって認識される前記細胞表面マーカーに対して結合するリガンドまたは低分子である、項目2に記載の方法。
(項目5) 前記試薬が、5E12モノクローナル抗体によって認識される前記細胞表面マーカー上の決定基を認識する抗体である、項目1に記載の方法。
(項目6) 前記試薬が、5E12モノクローナル抗体またはポリクリローナル抗体である、項目5に記載の方法。
(項目7) 前記試薬が蛍光色素を結合されている、項目1に記載の方法。
(項目8) 前記試薬が磁気粒子に対して結合されている、項目1に記載の方法。
(項目9) 前記選択工程がフローサイトメトリーによる、項目1に記載の方法。
(項目10) 前記選択工程が、蛍光活性化細胞選別または高勾配磁気選択による、項目1に記載の方法。
(項目11) 前記選択工程が、物理的陽性選択デバイスによる、項目1に記載の方法。
(項目12) 前記神経細胞または神経に由来する細胞を含有している集団が、神経組織を生じる任意の組織から得られる、項目1に記載の方法。
(項目13) 前記神経細胞または神経に由来する細胞を含有している集団が、神経組織から解離されている、項目1に記載の方法。
(項目14) 前記神経細胞または神経に由来する細胞を含有している集団が、胎児の脳、成体の脳、胎児の脊髄、または成体の脊髄に由来する、項目1に記載の方法。
(項目15) 前記神経細胞または神経に由来する細胞を含有している集団が、神経細胞培養物から得られる、項目1に記載の方法。
(項目16) 前記神経細胞または神経に由来する細胞を含有している集団が、ニューロスフェア培養物または付着性の単層から得られる、項目1に記載の方法。
(項目17) 項目1に記載の方法であって、
(c)前記神経細胞または神経に由来する細胞を含有している集団を、CD45抗原に結合する試薬と接触させる工程;および
(d)該細胞と、前記モノクローナル抗体AC133によってまたはモノクローナル抗体5E12によって認識される細胞表面マーカー上の決定基を認識する試薬との間で接触している細胞について選択し、そして該細胞と該CD45抗原に結合する試薬との間での減少した接触について選択する工程であって、その結果、AC133+CD45−である細胞、または5E12+CD45−である細胞、またはAC133+5E12+CD45−である細胞が選択される、工程、
をさらに包含する、方法。
(項目18) 項目1に記載の方法であって、以下:
(c)前記神経細胞または神経に由来する細胞を含有している集団を、CD45抗原に結合する試薬と接触させる工程;
(d)該神経細胞または神経に由来する細胞を含有している集団を、CD34抗原に結合する試薬と接触させる工程;および
(e)該細胞と、前記モノクローナル抗体AC133によってまたはモノクローナル抗体5E12によって認識される細胞表面マーカー上の決定基を認識する試薬との間で接触している細胞について、ならびに該細胞と該CD45抗原に結合する試薬との間、および該細胞と該CD34抗原に結合する試薬との間での減少した接触について選択する工程であって、その結果、AC133+CD45−CD34−である細胞、または5E12+CD45−CD34−である細胞、またはAC133+5E12+CD45−CD34−である細胞が選択される、工程、
をさらに包含する、方法。
(項目19) 項目1に記載の方法であって、以下:
(c)前記神経細胞または神経に由来する細胞を含有している集団を、モノクローナル抗体8G1によって認識される細胞表面マーカー上の決定基を認識する試薬と接触させる工程;
(b)該細胞と、前記モノクローナル抗体AC133によってまたはモノクローナル抗体5E12によって認識される細胞表面マーカー上の決定基を認識する試薬との間で接触している細胞について、ならびに該細胞と該モノクローナル抗体8G1によって認識される細胞表面マーカー上の決定基を認識する試薬との間での減少した接触について選択する工程であって、その結果、AC133+8G1−/loである細胞、または5E12+8G1−/loである細胞、またはAC133+5E12+8G1−/loである細胞が選択される、工程、
をさらに包含する、方法。
(項目20) 集団のニューロスフェアを開始する幹細胞(NS−IC)の画分について神経細胞の集団を富化するための方法であって、以下:
(a)NS−ICの画分を含む、神経細胞または神経に由来する細胞を含有する集団を、モノクローナル抗体AC133またはモノクローナル抗体5E12によって認識される細胞表面マーカー上の決定基を認識する試薬と混合する工程;および
(b)AC133+および/または5E12+細胞について選択する工程であって、ここで、AC133+または5E12+細胞は、該神経細胞の集団と比較した場合に、該NS−ICの画分が富化されている、工程、
を包含する、方法。
(項目21) ニューロスフェアを開始する幹細胞(NS−IC)を同定するための方法であって、
(a)神経細胞または神経に由来する細胞を含有している集団を、モノクローナル抗体AC133によってまたはモノクローナル抗体5E12によって認識される細胞表面マーカー上の決定基を認識する試薬と接触させる工程;および
(b)該神経細胞または神経に由来する細胞を含有している集団の細胞と、該モノクローナル抗体AC133によってまたはモノクローナル抗体5E12によって認識される細胞表面マーカー上の決定基を認識する試薬との間での接触を検出する工程であって、ここで、AC133+または5E12+であるとの細胞の同定により、NS−ICとして細胞を同定する、工程、
を包含する、方法。
(項目22) ニューロスフェアを開始する幹細胞(NS−IC)を単離するための方法であって、以下:
(a)NS−ICの画分を含む、神経細胞または神経に由来する細胞を含有する集団を、モノクローナル抗体AC133によってまたはモノクローナル抗体5E12によって認識される細胞表面マーカー上の決定基を認識する試薬と混合する工程;
(b)AC133+または5E12+細胞を選択する工程であって、ここで、該選択されたAC133+細胞または5E12+細胞は、該神経細胞の集団と比較した場合に、該NS−ICの画分において富化される、工程;
(c)NS−ICの増殖を支持し得る培養培地に、少なくとも1つのAC133+細胞または5E12+細胞を導入する工程;および
(d)該培養培地中で該AC133細胞+または該5E12+細胞を増殖させる工程、
を包含する、方法。
(項目23) 項目22に記載の方法によって産生された、細胞の集団。
(項目24) 前記NS−ICの増殖を支持し得る培養培地が、多能性の神経幹細胞の増殖を誘導しそして/または可能にするために有効な、1つ以上の予め決定された増殖因子を含有する無血清培地を含む、項目22に記載の方法。
(項目25) 前記NS−ICの増殖を支持し得る培養培地が、さらに、白血球阻害因子(LIF)、上皮増殖因子(EGF)、塩基性線維芽細胞増殖因子(FGF−2)、およびそれらの組合せからなる群より選択される増殖因子を含む、項目24に記載の方法。
(項目26) 前記NS−ICの増殖を支持し得る培養培地が、神経生存因子(NSF)をさらに含む、項目25に記載の方法。
(項目27) 以下を含有する、インビトロでの細胞培養組成物:
(a)AC133+CD45−細胞、または5E12+CD45−細胞において富化された集団;および
(b)該細胞の増殖を支持し得る培地。
(項目28) 以下を含有する、インビトロでの細胞培養組成物:
(a)AC133+CD45−CD34−細胞、または5E12+CD45−CD34−細胞において富化された集団;および
(b)該細胞の増殖を支持し得る培地。
(項目29) 以下を含有する、インビトロでの細胞培養組成物:
(a)AC133+8G1−/lo細胞、または5E12+8G1−/lo細胞において富化された集団;および
(b)該細胞の増殖を支持し得る培地。
(項目30) 以下を含有する、インビトロでの細胞培養組成物:
(a)AC133+8G1hi細胞、または5E12+8G1hi細胞において富化された集団;および
(b)該細胞の増殖を支持し得る培地。
(項目31) 以下を含有する、インビトロでの細胞培養組成物:
(a)ネスチンについてポジティブに染色し、そして分化を誘導する条件の存在下で、ニューロン、星状細胞、および稀突起膠細胞に分化する子孫細胞を産生する、少なくとも50%のAC133+、または5E12+ニューロスフェア開始細胞(NS−IC)を含有する集団;ならびに
(b)NS−ICの増殖を支持し得る培地。
(項目32) NS−ICが付着される固体支持体をさらに含有する、項目31に記載の組成物。
(項目33) 前記細胞の集団が、少なくとも70%のAC133+細胞または5E12+細胞を有する、項目31に記載の組成物。
(項目34) 前記細胞の集団が、少なくとも90%のAC133+細胞または5E12+細胞を有する、項目31に記載の組成物。
(項目35) 前記AC133+細胞または5E12―細胞の集団が、実質的に純粋な集団である、項目31に記載の組成物。
(項目36) 前記培地が、多能性の神経幹細胞の増殖を誘導するために有効な、1つ以上の予め決定された増殖因子を含有する無血清培地を含む、項目31に記載の組成物。
(項目37) 前記培地が、さらに、白血球阻害因子(LIF)、上皮増殖因子(EGF)、塩基性線維芽細胞増殖因子(FGF−2)、およびそれらの組合せからなる群より選択される増殖因子を含む、項目31に記載の組成物。
(項目38) 前記培地が、さらに、神経生存因子を含む、項目31に記載の組成物。
(項目39) 前記NS−ICがヒトNS−ICである、項目31に記載の組成物。
(項目40) ニューロスフェアを開始する幹細胞(NS−IC)を特徴付けるための方法であって、以下:
(a)単離されたAC133+細胞または5E12+細胞を、NS−ICの増殖を支持し得る培養培地に対して導入する工程;
(b)該培養培地中で該AC133+細胞または5E12+細胞を増殖させる工程;
(c)該単離されたAC133+細胞または5E12+細胞がニューロン、星状細胞、および稀突起膠細胞に分化する条件下で、該単離されたAC133+細胞または5E12+細胞の子孫を培養する工程;ならびに
(d)ニューロン、星状細胞、および稀突起膠細胞の存在を検出する工程であって、ここで、ニューロン、星状細胞、および稀突起膠細胞の存在は、該単離されたAC133+細胞または5E12+細胞をNS−ICとして特徴付ける、工程、
を包含する、方法。
(項目41) 前記単離されたAC133+細胞または5E12+細胞の子孫がニューロン、星状細胞、および稀突起膠細胞に分化する前記条件が、ウシ胎児血清(FBS)を含有し、そして有糸分裂促進性の増殖因子を含有しない培養培地中、ラミニンでコーティングされた表面上で、該単離されたAC133+または5E12+細胞の子孫を培養することを含む、項目40に記載の方法。
(項目42) ニューロスフェアを開始する幹細胞(NS−IC)の増殖に影響を与える増殖因子の存在を同定するための方法であって、該方法は、以下:
(a)NS−ICの増殖に影響を与える少なくとも1つの増殖因子を含有すると予想される組成物を、NS−ICを含有している組成物と混合する工程であって、ここで、該NS−ICは、AC133+または5E12+、ネスチン+として特徴付けられ、そしてニューロン、星状細胞、および稀突起膠細胞系統に分化し得る、工程;ならびに
(b)該組成物中の少なくとも1つの増殖因子の存在の関数として、該NS−ICの増殖を決定する工程であって、ここで、NS−ICの増殖に影響を与える少なくとも1つの増殖因子を含有していると予想される組成物と接触させていないNS−ICの増殖と比較した場合に、変化したNS−ICの増殖は、NS−ICの増殖に影響を与える増殖因子の組成物中の存在を示す、工程、
を包含する、方法。
(項目43) 前記増殖因子が神経生存因子である、項目42に記載の方法。
(項目44) 哺乳動物への移植のための、ニューロスフェアを開始し得る(NS−IC)ヒトの中枢神経系の幹細胞(CNS−SC)について高度に富化された集団の、使用。
(項目45) 前記集団が、培養培地中で増殖させられた、項目43に記載の使用。
(項目46) 前記集団が、フローサイトメトリーによって選択された、項目43に記載の使用。
(項目47) 前記集団が、単離されたNS−ICを含む、項目43に記載の使用。
(項目48) 前記移植が、中枢神経系に対してである、項目43に記載の使用。
(項目49) 前記移植が、哺乳動物の中枢神経系の外側の領域に対してである、項目43に記載の使用。
(項目50) 中枢神経系の障害のための医薬品の製造における、ニューロスフェアを開始し得る(NS−IC)ヒトの中枢神経系の幹細胞(CNS−SC)について高度に富化された集団の、使用。
(項目51) 造血性障害のための医薬品の製造における、ニューロスフェアを開始し得る(NS−IC)ヒトの中枢神経系の幹細胞(CNS−SC)について高度に富化された集団の、使用。
【0008】
本発明の1つの実施形態に従って、非造血性の幹細胞および始原細胞(好ましくは、NS−ICを含有しているCNSの神経幹細胞、および始原細胞)の富化された集団、およびこのような細胞を同定、単離、または富化するための方法は、少なくとも1つの幹細胞もしくはNS−IC、または始原細胞を含有している細胞の集団を、AC133抗体によって認識される表面マーカーの糖タンパク質抗原(「AC133抗原」)に結合する試薬と接触させることによって達成される。好ましい実施形態においては、試薬は、AC133抗体である(AC133抗体は、あるいは、「5F3」と本明細書中で呼ばれる)。次いで、免疫選択(例えば、FACS)のような細胞の選別のための伝統的な技術の使用によって、試薬とAC133抗原との間での接触が検出される細胞の、同定、単離、および/または富化が可能になる。
【0009】
別の実施形態においては、本発明は、本明細書中で5E12と呼ばれる、新規の抗体を提供する。この抗体は、非造血性の幹細胞および始原細胞(好ましくは、ニューロスフェアを開始し得る、CNSの神経幹細胞および始原細胞)の富化された集団を提供するために使用され得、そして少なくとも1つの幹細胞NS−IC、または始原細胞を含有している細胞の集団をAC133抗原以外の表面マーカーの糖タンパク質抗原に結合する5E12抗体と接触させることによってこのような細胞について同定、単離、または富化する方法において使用され得る。
【0010】
好ましい実施形態においては、本発明の細胞(好ましくは、CNSの神経幹細胞)は、CD45およびCD34についての細胞表面マーカーを欠失しているとしてさらに特徴付けられる。
さらなる実施形態においては、本発明は、本明細書中で8G1と呼ばれる、新規の抗体を提供する。この抗体は、CNSの神経幹細胞の集団(8G1−/loとして特徴付けられる)とCNSの始原細胞の集団(8G1+として特徴付けられる)との間での部分選択を可能にするCD24を認識すると考えられている。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、NS−ICの増殖および分化を説明する図である。
【図2】図2は、ニューロスフェアの培養が、単一の細胞に選別された5F3+細胞から開始され得ることを示す一連の写真である。
【図3】図3は、モノクローナル抗体5E12を使用する細胞表面マーカーを使用する、ヒトのCNS神経幹細胞の単離を示す、蛍光活性化細胞選別(FACS)データのドットプロットである。x軸は、CD34およびCD45に対する抗体についての細胞の染色を示す。y軸は、5E12抗体での細胞の染色を示す。
【図4】図4は、細胞表面マーカーによるヒトの神経幹細胞の単離を示す、FACS選別データの2つのパネルのドットプロットである。ヒトの胎児の脳の細胞を、記載されているように酵素的に解離した。パネルAは、5F3+細胞が、5E12抗体についての抗原を同時発現することを示す。パネルBは、5F3+細胞が、代表的には、8G1(CD24)抗体についての抗原を発現しないことを示す。
【図5】図5は、妊娠週数の関数としての、胎児の脳中の5F3+細胞の分布を示すチャートである。
【図6】図6は、NOD SCIDマウスへのヒトの神経細胞の移植の結果を示す、一連の写真である。
【図7】図7は、げっ歯類モデルに移植された場合に、5F3+に選別された細胞の子孫が吻方の移動性の流れ(RMS)を通じて移動することを示す、一連の写真である。
【図8】図8は、げっ歯類モデルに移植された場合に、5F3+に選別された細胞の子孫が嗅球中に(RMS)を通じて移動することを示す、一連の写真である。
【図9】図9は、AC133+細胞の特徴を示す。図9Aは、AC133の発現に基づく新しい胎児の脳細胞のフローサイトメトリーによる分離である。ヒトの胎児の脳細胞を、酵素的に解離した。細胞を、CD34、CD45、およびAC133に対するmAbで染色し、そしてAC133−画分およびAC133+画分に分離した。残りの造血性の細胞および内皮細胞を、CD45−およびCD34−をそれぞれ通過させることによって、排除した。選別されたAC133−(図9B)およびAC133+(図9C)のサブセットを、血清を含有していない培地中で培養し、そしてこれらの選別された細胞の増殖を、15日間モニターした。
【図10】図10は、限界稀釈および単一の細胞の選別による、NS−IC活性の定量的な分析を示す。図10Aは、細胞選別後の限界稀釈分析による、NS−IC活性の定量的な分析である。選別された細胞を、FACS−ACDUによって96ウェルプレート中に一連の限界細胞容量で配置した。図10Bは、神経幹細胞/始原細胞のクローンの拡大を示す。ニューロスフェアは、胎児の脳から直接単離された単一の選別されたAC133+細胞に、または選別され/拡大された培養されたニューロスフェアに由来する単一のAC133+細胞に由来し得る。図10Cは、クローンに由来するニューロスフェア細胞の分化能力を示す。単一の細胞に由来するニューロスフェアの子孫は、ニューロン(−チューブリン、緑)、および星状細胞(GFAP、赤)に分化され得る。
【図11】図11は、非神経形成性部位中のヒトの神経細胞の検出を示す。いくつかの場合においては、NOD−SCIDマウスの新生児の脳に注入されたヒトの神経細胞が、脳梁、大脳皮質、および小脳において検出された。
【図12】図12は、NOD−SCIDマウスのSVZ中に移植されたヒトのニューロスフェア細胞の子孫の、インビボでの長期間の増殖を示す。AC133+に選別され/拡大されたヒトのニューロスフェア細胞は、新生児のNOD−SCIDマウスの側方の脳室に移植された。ヒトの細胞の移植片を、移植から7ヶ月後に分析した。図12Aは、成体のマウスの脳の模式図である。ヒトの細胞の移植片が評価された部位を、図に示す。SVZ、脳室下の領域;RMS(吻方の移動性の流れ)。図12Bは、SVZ中でのヒトの神経細胞の検出を示す。移植されたマウスの脳の矢状方向の切片を、抗ヒト核抗原(FITC、緑)およびGFAP(Cy−5、青)で染色した。図12Cは、SVZ中での増殖しつつあるヒトの神経細胞の検出を示す。移植されたマウスの脳の矢状方向の切片を、抗ヒト核抗原(FITC、緑)、Ki67(Cy−3、赤)、およびGFAP(Cy−5、青)で染色した。SVZ中のヒト核抗原ポジティブ細胞のほとんどはまた、増殖マーカーであるKi67を同時発現した。
【図13】図13は、RMSおよび嗅球に移植されたヒトのニューロスフェア細胞の、インビボでの移動および分化を示す。AC133+に選別され/拡大されたヒトのニューロスフェア細胞を、新生児のNOD−SCIDの側方の脳室に移植した。ヒトの細胞の移植片を、移植から7ヶ月後に分析した。図13Aは、AC133+選別され/拡大されたニューロスフェア細胞の子孫がRMSを通じて移動することを示す。RMSにおいては、ヒト核抗原+細胞の整列もまた、Hoechst33234カウンター染色でポジティブ(ピンク)であった(i)。RMS中のヒトの核抗原ポジティブ細胞(Cy−3、赤)は、β−チューブリンの発現(Alexia 488、緑)と共局在化された(ii)。これらの細胞のいくつかは、明らかに二重ポジティブであった(ii、矢印)。別の切片においては、RMS中の細胞を、ヒト特異的N−CAM(FITC、緑)およびGFAP(Cy−5、青)で染色した(iii)。図13Bは、嗅球へのヒトの神経細胞の移動および分化を示す。嗅球においては、ヒト核抗原ポジティブ細胞は、嗅球の糸球体層中に分布された(iおよびii)。いくつかの場合においては、ヒトのN−CAM+ニューロン細胞を検出した(iii)。
【図14】図14は、海馬の歯状回中に移植されたヒトのニューロスフェア細胞の子孫の、インビボでの長期間の増殖および分化を示す。AC133+によって選別され/拡大されたヒトのニューロスフェア細胞を、新生児のNOD−SCIDマウスの側方の脳室に移植した。AC133+に選別され/拡大されたヒトのニューロスフェア細胞の新生児のNOD−SCIDマウスの側方の脳室への移植の7ヶ月後に、増殖しているヒトの細胞が、海馬において見出され得る。図14Aは、歯状回の顆粒状の領域の下での増殖しているヒトの神経細胞の検出を示す。移植されたマウスの脳の矢状方向の切片を、抗ヒト核(FITC、緑)、Ki67(Cy−3、赤)、およびGFAP(Cy−5、青)で染色した。いくつかのヒト核抗原+細胞を、Ki67で同時に染色した(矢印)。図14Bは、歯状回でのヒトのニューロンの検出を示す。移植されたマウスの脳の矢状方向の切片を、抗ヒト核抗原(Cy−3、赤)、および抗チューブリン(Alexia488、緑)で染色した。2つのヒト核抗原ポジティブ細胞の1つもまた、抗チューブリンについてポジティブであった(矢印)。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(発明の詳細な説明)
細胞の集団は、成体の中枢神経系(CNS)中に存在する。これは、成体のCNSの分化した成熟細胞の表現形を自己更新し、そしてそれを生じるそれらの能力において、幹細胞の特性を示す。これらの幹細胞は、CNSを通じて見出され、そして特に、脳室下の領域、および海馬の歯状回において見出される。
【0013】
増殖因子応答性の幹細胞は、中枢神経軸の多くの領域から、そしてマウス、げっ歯類、およびヒトのCNS組織の発達の異なる段階で、単離され得る。これらの細胞は、EGF、塩基性のFGF(bFGF、FGF−2)、および形質転換増殖因子α(TGFα)のような増殖因子に対するそれらの応答において変化し、そして長期間、分化していない状態で培養物中で維持され、そして拡大され得る。成体および胚性のマウスの始原細胞の両方が、EGFに対して応答し、そして未分化の細胞のスフェアとして増殖した。これらの細胞は、それらが多能性である点で幹細胞の特徴を示し、そして血清を含有している条件下では、ニューロン、星状細胞、および稀突起神経膠細胞に分化し得、EGFの投与下では未分化のままでありそして増殖し続ける部分集団を維持する。マウスのEGF応答性の始原細胞は、インビトロでEGFレセプターについてのmRNAを発現する。ヒトのCNSの神経幹細胞培養物はもまた、同定された。ヒトを含む哺乳動物の神経幹細胞培養物(懸濁培養物または付着培養物のいずれかとして)の同定、培養、増殖、および使用は、Weissら、米国特許第5,750,376号およびWeissら、米国特許第5,851,832号(両方とも、本明細書中で参考として援用される)に開示されている。同様に、Johe、米国特許第5,753,506号(本明細書中で参考として援用されている)は、付着CNS神経幹細胞培養物について言及している。懸濁物中で培養された場合には、CNSの神経幹細胞培養物は、代表的には、ニューロスフェアを形成する。
【0014】
図1は、NS−ICがニューロスフェアに発達し、そして続いてニューロンおよびグリアの表現形への分化、ならびにNS−ICの子孫の生成に発達するような、NS−ICの増殖を示す。1つ以上の増殖を誘導する増殖因子の存在下では、NS−ICは分裂し、そしてさらなる幹細胞および始原細胞から構成される未分化の細胞のスフェア(「ニューロスフェア」)を生じる。クローンに由来するニューロスフェアが解離させられ、そして単一の細胞として、1つ以上の増殖を誘導する増殖因子の存在下に置かれる場合には、それぞれのNS−ICが新規のニューロスフェアを生じ得る。単一のニューロスフェアの細胞は、天然においてはクローンである。なぜなら、これらは、単一の神経幹細胞の子孫であるからである。EGFなどのような増殖を誘導する増殖因子の持続的な存在下では、ニューロスフェア中の前駆細胞は分裂し続け、それによって、ニューロスフェアの大きさの増大を生じ、そして多数の未分化の神経細胞を生じる。ニューロスフェアは、グリア筋原線維の酸性タンパク質(GFAP;星状細胞についてのマーカー)、神経フィラメント(NF;ニューロンについてのマーカー)、ニューロン特異的エノラーゼ(NSE;ニューロンについてのマーカー)、またはミエリン塩基性タンパク質(MBP;稀突起神経膠細胞についてのマーカー)に対しては免疫反応性ではない。しかし、ニューロスフェア中の細胞は、未分化のCNS細胞の多くの型において見出される中間体フィラメントタンパク質であるネスチンについて免疫反応性である(Lehndahlら、60、Cell 585−595(1990)、本明細書中で参考として援用される)。Rat401と呼ばれるラットの抗体を含む抗体が、ネスチンを同定するために利用可能である。ニューロスフェアが、分化を可能にする条件下で培養される場合には、始原細胞は、ニューロン、星状細胞、および稀突起神経膠細胞に分化する。神経幹細胞の子孫に由来し得る分化した細胞型に関連する成熟表現形は、ネスチンの表現形については圧倒的にネガティブである。
【0015】
未分化の、多能性の、自己更新する神経細胞に使用される専門用語は、これらの細胞が、「神経幹細胞」と本明細書中で呼ばれるように、展開される。神経幹細胞は、分裂することが可能であるクローン原性の多能性の幹細胞であり、そして適切な条件下では、NS−ICについて自己更新する能力を有し、そして最終的にニューロン、星状細胞、および稀突起神経膠細胞に分化し得るその子孫の娘細胞を含み得る。従って、神経幹細胞は、幹細胞の子孫が多数の分化の経路を有するので、「多能性」である。神経幹細胞は、自己維持することが可能であり、このことは、それぞれの細胞の分裂を伴って、1つの娘細胞もまた幹細胞に平均されることを意味する。
【0016】
神経幹細胞の非幹細胞の子孫は、代表的には、「始原」細胞と呼ばれる。これは、1つ以上の系統において種々の細胞型を生じ得る。用語「神経の始原細胞」は、神経幹細胞に由来する未分化の細胞をいい、そして幹細胞自体ではない。いくつかの始原細胞は、1つより多くの細胞型に分化し得る子孫を生じ得る。例えば、O−2A細胞は、グリア始原細胞である。これは、稀突起神経膠細胞およびII型星状細胞を生じ、従って、「二官能性の」始原細胞と呼ばれ得る。始原細胞の識別特性は、幹細胞とは異なり、それが自己維持を示さないこと、そして代表的には、分化の特定の経路を約束されていないと考えられ、そして最終的には、適切な条件下で、グリアまたはニューロンに分化する。
【0017】
用語「前駆細胞」は、神経幹細胞の子孫をいい、従って、始原細胞および娘神経幹細胞の両方を含む。
【0018】
(細胞マーカー)本発明は、ニューロスフェアを形成し得る(NS−IC)神経幹細胞の、同定、単離、富化、および培養を提供する。NS−ICは、NS−ICの表面上に見出される抗原の、細胞表面抗原を特異的に結合する試薬への結合を通じて同定されるか、または選択される。
【0019】
これらの抗原の1つは、AC133モノクローナル抗体に結合する抗原である。AC133抗体(本明細書中では、5F3抗体と呼ばれる)は、プロミニンと呼ばれるヒトの細胞マーカーを認識する試薬の抗体の実施形態の例である。プロミニンは、種々の上皮細胞中で発現される多局所性(polytopic)膜タンパク質である(Weigmannら、94(23)Proc.Natl.Acad.Sci.USA.12425−30(1997);Corbeilら、112(Pt7)J.Cell.Sci.1023−33(1999);Corbeilら、91(7)Blood 2625−6(1998);Mirigliaら、91(11)Blood 4390−1(1998))。種々のAC133抗体が、本明細書中で参考として援用される、米国特許第5,843,333号に記載されている。マウスのハイブリドーマ細胞株AC133の寄託は、American Type Tissue Collection、12301 Parklawn Drive,Rockville Md.20852に、1997年4月24日に行われ、そしてATCC寄託番号HB12346が与えられた。これらのAC133抗体は、本発明の目的のヒト細胞のサブセットについて免疫選択され得る。好ましいAC133モノクローナル抗体は、Miltenyi Biotec Inc.(Auburn CA)から商業的に得られ得る。これには、AC133/1−PE抗体(Cat#808−01)およびAC133/2−PE抗体(Cat#809−01)が含まれる。MACS分離については、モノクローナル抗体の50:50混合物が好ましい。AC133発現の高い組織特異性は、高度に精製されたNS−IC集団についての富化の間に特に有利である。
【0020】
5E12は、酵素的に解離させられたヒトの胎児の脳細胞に対して生成された新規のモノクローナル抗体である。5E12モノクローナル抗体は、Yin、米国特許第5,843,633号(本明細書中で参考として援用される)に記載されている対側性の(contralateral)免疫化方法に実質的に従って生成された。5E12が結合する抗原は、推定のMW125kDを有し、そしてプロミニンに由来する別の抗原であると、現在考えられている。
【0021】
CD45は、T200/白血球共通抗原である。CD45に対する抗体は、市販されている。好ましい実施形態においては、本発明の細胞およびそれらを含有している培養物は、CD45のような細胞表面マーカーを欠失しているとして(プロミンポジティブであることに加えて)さらに特徴付けられる。
【0022】
CD34もまた、gp105−120として公知である。CD34に対するモノクローナル抗体は市販されており、そしてCD34モノクローナル抗体は、研究のため、および臨床的な骨髄移植のために、リンパ造血性幹細胞/始原細胞を定量および精製するために使用されている。
【0023】
モノクローナル抗体8G1は、CD24を認識する(CD24に対する抗体は市販されている)と考えられ、そして、515キロダルトン(細胞型の制限されたスペクトルにおいて発現されるヒトのLRP/A2MRの鎖)と特異的に反応する。強力な免疫組織化学的反応が、肝細胞、組織マクロファージ、中枢神経系におけるニューロンおよび星状細胞のサブセット、繊維芽細胞、平滑筋細胞、ならびに動脈壁中のアテローム性動脈硬化症の病変中の単球に由来する泡沫細胞において見られる。抗体はまた、慢性および球性の白血病(CD91)の骨髄単球性サブタイプのサブセットの特徴付けに使用され得る。CD91に対する抗体は市販されている。
【0024】
(細胞の蓄積)5E12.5および8G1.7被検培養物は、特許および登録商標の特許庁長官によって決定されたものに対して、米国特許法施行規則§1.14および米国特許法§122のもとでそれに対して権利を与えられた、それらを開示する特許出願の系属中に、利用可能である培養物に入手することを確実にする条件下で、寄託される。寄託物は、本出願の相当部分、またはその子孫が提出された国の外国の特許法によって必要とされる場合は、入手可能である。しかし、寄託物の利用可能性は、政府による指令によって特許権を与えられた特例において、本発明の実施のための特許使用権は構成しない。
【0025】
さらに、5E12.5および8G1.7の本発明の培養寄託物は、微生物の寄託についてのブダペスト条約の規則に従って、公に保存され、そして利用可能にされる。すなわち、これらは、寄託の日から少なくとも30年間、またはこの培養物を開示している発行し得る任意の特許の施行可能期間および寄託物のサンプルについての最新の請求後5年間の間、それらを生存可能かつ未混入の状態で維持するために必要な全ての注意を伴って保存される。寄託者は、寄託物を後継する義務を認識し、寄託機関は、寄託物の状態に起因して、請求された場合にサンプルを提供することが可能でないべきである。本発明の培養寄託物の公に対する入手可能性の全ての制限は、これらを開示する特許の認可に際して確定的に排除される。
【0026】
(細胞の単離、富化、および選択)NS−ICが単離される細胞の集団は、神経組織であり得、細胞の集団は、神経組織または細胞培養物中の細胞の集団(例えば、ニューロスフェア培養物中の細胞、または接着性神経幹細胞培養物中の細胞)から解離される。
【0027】
本発明は、NS−ICの単離および同定を提供する。ニューロスフェアを開始する幹細胞(NS−IC)の同定は、神経細胞の集団(または神経細胞もしくは神経に由来する細胞を含有している集団)にAC133抗原に結合する試薬を接触させる工程、およびAC133抗原に結合する試薬と細胞表面上のAC133抗原との間の接触を検出する工程を包含する。試薬が結合するこれらの細胞は、NS−ICとして同定される。これらの細胞の同定は、これら細胞が実際に、ニューロスフェアの開始、自己再生および多能性が可能であるNS−ICであることを実証するアッセイによって確認され得る。
【0028】
本発明の方法はまた、AC133抗体を使用して、AC133―細胞からAC133+細胞を単離するために使用され得る。これは、NS−ICの画分を含有する神経細胞の集団を、AC133抗原に特異的に結合する試薬と混合し、次いで、AC133+細胞についてAC133+NS−ICにおいて富化された選択された集団を生じる。選択することにより、それによって、選択前の神経細胞の集団と比較した場合に、
従って、本発明はさらに、神経組織または神経幹細胞培養物(例えば、ニューロスフェア懸濁培養物または神経幹細胞接着性培養物)由来のNS−ICの富化を提供する。従って、本発明は、幹細胞および始原細胞が低頻度で生じるか、あるいは枯渇され得る神経組織(例えば、後期胚、若年性組織、および成体組織)に由来するNS−ICの富化に有用である。当業者は、NS−ICの画分を含有している神経細胞の集団をAC133抗原に特異的に結合する試薬と混合し;そしてAC133+細胞を選択し得る。この方法において、選択されたAC133+細胞は、神経細胞の集団と比較した場合に、そのNS−ICの画分において富化される。
【0029】
細胞の選択は、フローサイトメトリー(例えば、蛍光色素結合体化AC133抗体を使用する蛍光活性化細胞選別による)を含む、当該分野で公知の任意の適切な手段により得る。選択はまた、磁性粒子に結合体化されたAC133抗体を使用する、高勾配磁気的選択により得る。固相への接着および固相からの脱接着を含む任意の他の適切な方法もまた、本発明の範囲内で意図される。
【0030】
当業者は、AC133抗体を使用する免疫選択によって細胞の集団を誘導し得る。細胞の集団は、少なくとも30%のAC133+NS−IC、好ましくは、少なくとも50〜70%のAC133+NS−IC、そしてより好ましくは、90%以上のAC133+NS−ICを含むはずである。最も好ましくは、AC133+NS−ICの実質的に純粋な集団であり、これは、少なくとも95%のAC133+NS−ICを含む。得られ、そして実際に使用される富化の程度は、選択の方法、増殖の方法、およびニューロスフェアの開始のために培養物中に配置される細胞の細胞用量を含む、多数の因子に依存する。
【0031】
細胞の集団は、後期胚、若年性または成体の哺乳動物中枢神経系(CNS)組織から誘導され得るか、あるいは、Weiss、米国特許第5,750,376号またはJohe、米国特許第5,753,506号に記載されているような、神経幹細胞の既存の培養物から誘導され得る。最も好ましい実施形態においては、NS−ICはヒトである。いくつかの実施形態においては、集団中のAC133+細胞は、内皮細胞に複合体化され得る。
【0032】
富化されたAC133+NSICの集団を含有している本明細書中で記載されるインビトロでの細胞培養物は、一般的には、ネスチン(nestin)についてポジティブであり、そして分化を誘導する条件の存在下で、ニューロン、星状細胞、および稀突起神経膠細胞に分化する始原細胞を生じる点で、特徴付けられる。
【0033】
当業者は、単離されたAC133+細胞を培養培地に導入し得、培養物中で単離されたAC133+細胞を;特に、ニューロスフェアとして増殖させ得;単離されたAC133+細胞がニューロン、星状細胞、および稀突起神経膠細胞に分化する条件下でこの単離されたAC133+細胞の子孫を培養し得;次いで、ニューロン、星状細胞、および稀突起神経膠細胞の存在を検出し得る。ニューロン、星状細胞、および稀突起神経膠細胞の存在は、単離されたAC133+細胞をNS−ICとして特徴付ける。
【0034】
代表的には、AC133+NS−ICは、ニューロスフェアの成長および増殖を可能にする培地中で培養される。単離されたAC133+細胞が増殖する培養物は、多能性の神経幹細胞の増殖を誘導するために有効な1つ以上の予め決定された増殖因子を含有する無血清培地であり得る。培養培地は、白血球阻害因子(LIF)、上皮増殖因子(EGF)、塩基性繊維芽細胞増殖因子(FGF−2;bFGF)、またはそれらの組合せから選択される増殖因子で補充され得る。培養培地は、神経生存因子(NSF)(Clonetics、CA)でさらに補充され得る。AC133+細胞がニューロン、星状細胞、および稀突起神経膠細胞に分化する条件は、EGF、FGF−2またはLIFを含有しないウシ胎児血清(FBS)を含有する培養培地中で、ラミニンでコーティングされた表面上でAC133+細胞の子孫を培養し得る。
【0035】
本発明はまた、NS−ICの増殖に影響を与える増殖因子の存在を同定するための方法を提供する。当業者は、NS−ICを含有する組成物と、NS−ICの増殖をもたらす少なくとも1つの増殖因子を含有することが予想される組成物を混合し、次いで、NS−ICの増殖を決定組成物の存在の関数として決定する。変更された(増大した、減少したなど)NS−ICの増殖は、NS−ICの増殖をもたらす増殖因子の組成物中の存在を示す。次いで、当業者はさらに、増殖因子を同定し得る。
【0036】
(AC133に対する抗体)AC133に対する抗体は、米国特許第5,843,633号(本明細書中で参考として援用されている)において議論されているように、入手され得るかまたは調製され得る。AC133抗原は、種々のAC133モノクローナル抗体(これは、AC133抗原に対して特異性を有する)のような抗体と接触させられ得る。AC133抗体は、還元性のSDS−PAGEゲルによるウェスタンブロット条件下でAC133タンパク質に結合することによって特徴付けられる。AC133抗原は、市販のスタンダードに基づいて、約117kDaの範囲の分子量を有する。AC133抗原は、ヒト骨髄、胎児骨髄および肝臓、臍帯血、ならびに生体の末梢血に由来する始原細胞のサブセット上で発現される。
【0037】
AC133抗原に対する抗体は、異種免疫応答性を有する哺乳動物宿主(マウス、げっ歯類、ウサギ目、ヒツジ、ブタ、ウシなどを含む)を、ヒト始原細胞で免疫することによって得られ得る。特定の宿主の選択は、主に簡便なものであり得る。免疫化のために適切な始原細胞の集団は、サイトカインが動員された末梢血、骨髄、胎児臓肝臓などからCD34+細胞を単離することによって得られ得る。免疫化のために適切な始原細胞の集団は、CNS神経幹細胞または他のNS−ICから得られ得る。免疫化は、細胞が、皮下、筋肉内、腹膜内、脈管内などで注射され得る、従来技術に従って行われる。通常は、約106から108個までの細胞が、使用される。これは、1回以上の注射に分けられ得、通常は、約8回以下の注射に分けられ、約1から3週間までの期間にわたる。注射は、例えば、アジュバント(完全または不完全フロイトアジュバント、スペコール(specol)、ミョウバンなど)を伴って、または伴わずに行われ得る。
【0038】
免疫化スケジュールの完了後、抗血清は、始原細胞の表面膜タンパク質(AC133抗原を含む)に特異的な多角形(polygonal)の抗血清を提供するための従来の方法に従って、回収され得る。リンパ球は、適切なリンパ系組織(例えば、脾臓、流入領域リンパ節(draining lymph node)など)から回収され、そして適切な融合パートナー(通常は、骨髄腫株)と融合され、それによって特異的なモノクローナル抗体を分泌するハイブリドーマを産生する。目的の抗原特異性についてのハイブリドーマのクローンのスクリーニングは、従来の方法に従って行われる。
【0039】
AC133抗体は、通常の多量体構造の代わりに、単鎖として産生され得る。単鎖抗体は、Jostら、269 J.Biol.Chem.26267−73(1994)(本明細書中で参考として援用されている)などに記載されている。重鎖の可変領域および軽鎖の可変領域をコードするDNA配列は、グリシンまたはセリンを含む、少なくとも約4個のアミノ酸の小さい中性のアミノ酸をコードするスペーサーに対して連結される。この融合体によってコードされるタンパク質は、元々の抗体の特異性および親和性を保持する機能的な可変領域のアセンブリを可能にする。
【0040】
AC133抗体は、キメラ免疫グロブリン遺伝子の構築のためのIg cDNAの使用によって産生され得る(Liuら、84 Proc.Natl.Acad.Sci.3439(1987)および139 J.Immunol.3521(1987)(本明細書中に参考として援用されている))。mRNAは、抗体を産生するハイブリドーマまたは他の細胞から単離され、そしてcDNAを産生するために使用される。目的のcDNAは、特異的プライマーを使用してポリメラーゼ連鎖反応によって増幅され得る(米国特許第4,683,195号および同第4,683,202号)。あるいは、ライブラリーを作製し、そして目的の配列を単離するためにスクリーニングする。次いで、この抗体の可変領域をコードするDNA配列が、ヒトの定常領域配列に対して融合される。ヒトの定常領域遺伝子の配列は、Kabatら、Sequence of Proteins
of Immunological Interest、N.I.H.publication No.91−3242(1991)に見出され得る。ヒトC領域遺伝子は、公知のクローンから容易に入手可能である。次いで、キメラのヒト化抗体が、従来の方法によって発現される。
【0041】
AC133抗体は、Fv、F(ab’)2、およびFabのような抗体フラグメントとして産生され得る。抗体フラグメントは、インタクトなタンパク質の切断によって(例えば、プロテアーゼによるか、または化学的な切断による)調製され得る。あるいは、短縮型の遺伝子が設計される。例えば、F(ab’)2フラグメントの一部をコードするキメラ遺伝子は、H鎖のCH1ドメインおよびヒンジ領域をコードするDNA配列、それに続く翻訳終止コドンを含み、短縮の分子を生じる。
【0042】
(免疫染色)生物学的サンプルは、対象の抗体によって結合された表面分子を発現する細胞の存在についての任意の従来のイムノアッセイ方法によって、AC133+細胞の存在についてアッセイされる。アッセイは、細胞の溶解物、インタクトな細胞、凍結切片などについて行われ得る。Miltenyi Biotec Inc.(Auburn CA)から入手可能な抗体は、細胞の直接的な免疫蛍光染色に適切である。
【0043】
(細胞の選別)NS−IC細胞に対する細胞表面抗原の使用は、始原細胞集団のポジティブな免疫選択ならびにフローサイトメトリーを使用する始原細胞集団の表現型分析のための手段を提供する。AC133抗原の発現について選択された細胞は、さらに、他の幹細胞および始原細胞マーカーについての選択によって精製され得る。
【0044】
実質的に純粋な始原細胞および幹細胞の調製のために、始原細胞のサブセットが、AC133結合に基づいて他の細胞から分離される。始原細胞および幹細胞は、当該分野で公知の他の表面マーカーに結合させることによって、さらに分離され得る。
【0045】
分離のための手順は、磁気的分離(抗体でコーティングされた磁性ビーズを使用する)、アフィニティークロマトグラフィー、および固体マトリクス(例えば、プレート)に結合された抗体での「パニング」、または他の従来技術を含み得る。正確な分離を提供する技術として、蛍光活性化細胞選別機が挙げられる。これは、複数の色のチャネル、鋭角および鈍角の光の散乱を検出するチャネル、インピーダンスチャネルなどのような、種々の程度の精巧性を有し得る。死細胞は、死細胞に関連する色素(ヨウ化プロピジウム[PI]、LDS)での選択によって排除され得る。選択された細胞の生存性について過度に有害でない任意の技術が、使用され得る。
【0046】
簡便には、抗体は、特定の細胞型の分離を容易にすることを可能にするための標識(例えば、磁性ビーズ;ビオチン(これは、アビジンまたはストレプトアビインに対して高い親和性を有して結合する);蛍光色素(これは、蛍光活性化細胞選別機とともに使用され得る);ハプテンなど)と結合体化され得る。多色分析は、FACSとともに、または免疫磁気的分離とフローサイトメトリーとの組合せにおいて使用され得る。多色分析は、複数の表面抗原(例えば、AC133+CD45−、AC133ーCD34+など)に基づく細胞の分離のために関心深い。多色分析における使用を見出されている蛍光色素として、フィコビリンタンパク質(例えば、フィコエリトリンおよびアロフィコシアニン);フルオレセイン、およびテキサスレッドが挙げられる。ネガティブな指示は、染色のレベルが、アイソタイプ適合ネガティブコントロールの明るさ以下であることを示す。かすかな指示は、染色のレベルが、ネガティブの株のレベルに近く得るが、またアイソタイプ適合コントロールよりも明るくあり得ることを示す。
【0047】
1つの実施形態においては、AC133抗体は、磁性試薬(例えば、超常磁性微粒子(微小粒子)に対して直接的または間接的に結合体化される。磁性粒子への直接的な結合体化は、当該分野で公知の種々の化学連結基の使用によって達成される。抗体は、側鎖のアミノ基またはスルフヒドリル基、ならびにヘテロ官能性の交差連結試薬を介して、微粒子にカップリングされ得る。多数のヘテロ官能性の化合物が、実体への連結のために利用可能である。好ましい連結基は、抗体上の反応性スルフヒドリル基および磁性粒子上の反応性アミノ基を用いる、3−(2−ピリジジチオ)プロピオン酸N−ヒドロキシスクシンイミドエステル(SPDP)または4−(N−マレイミドメチル)−シクロヘキサン−1−カルボン酸N−ヒドロキシスクシンイミドエステル(SMCC)である。
【0048】
あるいは、AC133抗体は、磁性粒子に対して間接的にカップリングされる。この抗体は、ハプテンに対して直接的に結合体化され、そしてハプテン特異的な第2段階の抗体が、粒子に結合体化される。適切なハプテンとして、ジゴキシン、ジゴキシゲニン、FITC、ジニトロフェニル、ニトロフェニル、アビジン、ビオチンなどが挙げられる。タンパク質へのハプテンの結合体化のための方法(すなわち、当該分野で公知である)、およびこのような結合のためのキットは、商業的に入手可能である。
【0049】
この方法を実行するために、AC133抗体が細胞のサンプルに対して添加される。特定の細胞のサブセットに対して結合するために必要なAC133 Abの量は、試験分離および分析を実行することによって経験的に決定される。細胞およびAC133抗体は、複合体が形成させるために十分な時間(通常は少なくとも5分間、より通常は少なくとも10分間、そして通常は1時間以下、より通常は約30分以下)でインキュベートされる。
【0050】
さらに、細胞は、始原細胞または幹細胞上に存在するかまたは存在しないことが公知である細胞表面マーカーに対して特異的な抗体または結合分子とともにインキュベートされる。
【0051】
標識された細胞は、特異的な抗体の調製に従って分離される。蛍光色素で標識された抗体は、FACS分離、免疫磁気的選択(特に、高勾配の磁気的選択(HGMS))のための磁性粒子などに有用である。例示的な磁気的分離デバイスは、WO90/07380、PCT/US96/00953、およびEP438,520に記載されている。AC133 Cell Isolation Kit(Miltenyi Biotec Inc.,Auburn CA)は、AC133+細胞のポジティブ選択のために使用され得る。このキットは、AC133+細胞の単一の工程での単離のためのツールを提供する。AC133 Cell Isolation Kitは、FcRブロック試薬(FcR Blocking Reagent)およびモノクローナルマウス抗ヒトAC133抗体に結合体化されたMACSコロイド状マイクロビーズ(MACS colloidal MicroBeads)を含む。
【0052】
精製された細胞の集団は、任意の適切な培地中に回収され得る。ダルベッコ改変イーグル培地(dMEM)、ハンクス塩基性塩溶液(HBSS)、ダルベッコリン酸緩衝化生理食塩水(dPBS)、RPMI、Iscove’s改変ダルベッコ培地(IMDM)、5mM EDTA含有リン酸緩衝化生理食塩水(PBS)などを含む、種々の培地が商業的に入手可能であり、そして使用され得る。これらはしばしば、ウシ胎児血清(FCS)、ウシ血清アルブミン(BSA)、ヒト血清アルブミン(HSA)などで補充される。
【0053】
ヒトの始原細胞または幹細胞について高度に富化された集団は、この様式において達成される。所望される細胞は、30%以上の細胞の組成物であり、好ましくは、50%以上の細胞集団、より好ましくは、90%以上の細胞集団であり、そして最も好ましくは、95%以上(実質的に純粋な)の細胞集団である。
【0054】
(精製された幹細胞/始原細胞の使用)AC133+幹細胞/始原細胞が、種々の方法において有用である。AC133+細胞は、その細胞が疾患または損傷によって失われた宿主を再構成するために使用され得る。細胞に関連する遺伝的な疾患は、遺伝的な欠損を修正するか、または疾患に対して防御するように処置するために、自己幹細胞または同種異系幹細胞の遺伝的改変によって処置され得る。あるいは、正常な同種異系の始原細胞が移植され得る。ホルモン、酵素、増殖因子などの特定の分泌された生成物の欠損に関連する、細胞に関連する疾患以外の疾患もまた、処置され得る。CNS障害は、神経変性性の疾患(例えば、アルツハイマー病およびパーキンソン病)、急性脳損傷(例えば、発作、頭部の損傷、脳性麻痺)、および多数のCNS不全(例えば、うつ病、てんかん、および精神分裂病)のような多数の苦痛を含む。最近の数年間においては、神経変性性の疾患は、これらの障害についてのもっとも大きな危険性を有する高齢者の集団が増大しつつあることに起因して、重要な関心となっている。アルツハイマー病、多発性硬化症(MS)、ハンチントン病、筋萎縮性側索硬化症、およびパーキンソン病を含むこれらの疾患は、CNSの特定の位置における神経細胞の変性に関連しており、これによって、これらの細胞または脳領域が、それらの意図される機能を実行することを不可能にする。特異的な異なる増殖因子による1つ以上の選択された系統への成熟、増殖、および分化を提供することによって、始原細胞は、約束された細胞の供給源として使用され得る。ニューロスフェアはまた、種々の血液細胞型(骨髄性細胞およびリンパ系細胞、ならびに初期の造血細胞を含む)を産生するためにも使用され得る(Bjornsonら、283、Science 534(1999)(本明細書中で参考として援用されている)を参照のこと)。
【0055】
AC133+細胞もまた、細胞の分化および成熟に関連する因子の単離および評価において使用され得る。従って、細胞は、培地(例えば、馴化培地)の活性を決定するためのアッセイ、増殖因子活性、系統の専門性(dedication)との関係などについて、体液を評価するためのアッセイなどにおいて使用され得る。
【0056】
AC133+細胞は、液体窒素温度で凍結させられ得、そして長期間貯蔵され得、融解され得、そして再度使用され得る。細胞は、通常は、5%のDMSOおよび95%のウシ胎児血清中で保存される。一旦融解されると、細胞は、幹細胞の増殖および分化に関連する増殖因子または間質細胞の使用によって、拡大され得る。
【0057】
以下の実施例は、本発明の好ましい実施形態をより完全に説明するために示される。これらの実施例は、添付の特許請求の範囲によって定義されるような、本発明の範囲を限定するようには決して解釈されないべきである。
【実施例】
【0058】
(実施例1)
(AC133磁気的細胞選別(MACS)でポジティブ選択された胎児脳細胞は、ニューロスフェア惹起細胞(NS−IC)活性を含む)
AC133+細胞は、以下の方法によって調製される:ヒト胎児脳(FBR10〜20妊娠週数[「g.w.」])を、インフォームドコンセントを得た後で、Advanced Bioscience Resource,INC(Oakland、CA)から得た。ヒト胎児脳組織をメスを使用して1〜3mmの立方体の切片に切断し、50mLの遠心分離チューブ中に移し、そして0.02%のEDTA/PBS溶液で1回洗浄した。組織を、コラゲナーゼおよびヒアルロニダーゼの存在下で37℃で1時間酵素的に解離させた。細片および凝集物を、70ミクロンのフィルターカップを通して細胞懸濁物を濾過することによって除去した。
【0059】
AC133+のヒト胎児脳細胞を、常磁性抗体マイクロビーズ、AC133/1 Cell Isolation Kit(Cat.#508−01、Miltenyi Biotec,Auburn,CA)を使用することによって分離した。MACS分離を、キットに添付されている説明書に基づいて行った。代表的なAC133+の単離物からの代表的なフローサイトメトリー性MACS分離において、約44%の細胞がAC133+CD45−であり、一方、約2%がCD34+であった(これらのCD34+細胞は、精製されたNS−ICに複合体化された内皮細胞であった)。
【0060】
上記の方法(18g.w.の脳を使用する)によって得られたAC133+選択細胞は、なお異種であった。この細胞は、内皮細胞と複合体を形成する傾向にあった。内皮細胞を、CD34+またはCD105+として同定した。AC133
MACS分離はまた、AC133+細胞に関連するCD34+内皮細胞を富化する(継代後、NS−ICは複合体化した内皮細胞から分離し、そして精製されたNS−ICが得られ得る)。
【0061】
AC133+のMACS分離された細胞を、上記のように、EGF、FGF−2、およびLIFを含有している培地の存在下で培養した。一般的には、初期の妊娠期間の胎児脳(5〜12g.w.)に由来する細胞を、NS−ICについて富化し、そして富化は、ニューロスフェア培養物を開始するためには必要ではなかった。一方、より高週齢の胎児脳サンプル(16〜20g.w.)に由来する細胞は、はるかに低いNS−IC活性を含み、そしてニューロスフェア培養物を開始するために富化を必要とした。換言すると、AC133+は、より妊娠期間の長いヒト脳組織からのNS−ICの富化に有用である。胎児脳(18g.w.)に由来するAC133+のMACS分離された細胞は、NS−IC活性について富化されたが、一方、AC133+のMACS分離を伴わない全ヒト胎児脳細胞(18g.w.)は、ニューロスフェア培養物を開始しなかった。
【0062】
AC133 MACS細胞から樹立されたニューロスフェア細胞は、培養物中で約7日目以後に試験し、そしてウサギ抗ヒトネスチンポリクローナル抗体によって検出されたように、ネスチンを発現した。例えば、Cyto Therapeutics(Sunnyvale,CA)から入手可能であるニューロスフェア細胞の中でも、FBR 1069(18g.w.)、およびFBR 1070(20g.w.)がネスチンを発現した。分化が誘導された場合は、AC133+MACS由来ニューロスフェア細胞は、ニューロンについてのβ−チューブリン染色および星状細胞についてのGFAP染色によって検出されるように、ニューロンおよび星状細胞に分化し得る。この特定の分化アッセイにおいて、ニューロスフェア細胞を、1%のFBSの存在下で、そしてEGF、FGF−2、およびLIFを含まない、ラミニンコーティングした表面上で培養した。
【0063】
他の分化アッセイが、ニューロン、星状細胞、および稀突起神経膠細胞へのNS−ICの分化を誘導するために使用され得る。
【0064】
(実施例2)
(AC133は長期間のニューロスフェア(neurosphere)培養によって細胞上に発現される重要な細胞表面マーカーである)
長期間のニューロスフェア細胞の培養物である、8.5 FBRを、Cyto
Therapeutics Inc.(Providence,RI)から入手した。8.5 FBRニューロスフェア細胞は、比較的均質にAC133を発現する。これらの8.5FBR細胞はまた、Thy−1+、CD166+、およびHLA−DR+でもある。基本的な培地としてEx Vivo 15を使用した場合は、高い割合のニューロスフェア培養が、18g.w.に由来する初代の脳組織から開始された。従って、発達しつつあるニューロスフェア培養物中の細胞のAC133+画分を評価することが可能である。AC133+細胞の割合は、ニューロスフェアの発達に伴って増大した。一旦、ニューロスフェア細胞が十分に確立されると、ニューロスフェアを形成する実質的に全ての細胞がAC133を発現した。
【0065】
(実施例3)
(ニューロスフェアを開始する細胞はモノクローナル抗体AC133、フローサイトメトリーによる細胞選別(FACS)アプローチを使用して分離され得る)
この実施例の目的は、AC133+細胞が多能性のNSC活性を有する脳中の唯一の細胞であるかどうかを試験することである。ヒトのCD45に対するmAbを、胎児の組織中の血液細胞の混入物を除くために使用した。いくつかの場合においては、ヒトのCD34に対する抗体を、内皮細胞および内皮性の神経先祖複合体(endothelial−neural progenitor complex)を排除するために使用した。従って、胎児の脳細胞を、CD45−CD34−と定義した。神経幹細胞および最初の先祖(progenitor)活性を測定するために、NS−ICアッセイを、所定の集団中のNS−ICの頻度を決定するために確立した。NS−ICが稀であり、そしてAC133抗原を均一に発現する場合には、NS−ICを、AC133+選択によって富化し得、そして他の画分においては同様に枯渇し得た。
【0066】
(モノクローナル抗体の供給源)AC133抗原を、2つのmAb(AC133/1およびAC133/2)によって定義した。これらの両方ともが、フィコエリトリンと結合している。これらはMiltenyi Biotec(Auburn,CA)を通じて入手可能である。抗ヒトCD45−FITCおよびグリコフィリン(Glycophrin)A−FITCを、CALTAG(Burlingame,CA)およびCoulter(Miami,FL)からそれぞれ入手した。抗ヒトアロフィコシアニン結合CD34を、BDIS(San Jose,CA)から入手した。
【0067】
(細胞調製物)FBRを、コラゲナーゼおよびヒアルロニダーゼによって解離させ、そしてこれらはなお内皮性の先祖複合体を含んだ。これは、単一の細胞懸濁物中の候補のNSCの単離を妨げた(内皮細胞はCD45+である)。この内皮細胞−NS−IC複合体を解離させるために、上記のように処理したFBR細胞をさらに、10〜15分間、トリプシンで処理した。AC133抗原、CD45抗原、およびCD34抗原は、トリプシン処理について耐性であったが、一方グリコフィリンAは感受性であった。
【0068】
トリプシン消化後、細胞を洗浄し、そしてCD45、グリコフィリンA、AC133、およびCD34に対するmAbで染色した。免疫磁気性のビーズでの選択は使用しなかった。細胞を、氷上で20〜60分間インキュベートした。最後の洗浄後に、細胞を、1μg/mLのよう化プロピジウム(PI)を含有しているHBSS溶液中に再懸濁した。標識した細胞を分析し、そして二重レーザーFACS(Beckton Dickinson,San Jose)で選別した。死亡した細胞を、それらのPI染色特性によって分析から排除した。選別した後、選別した細胞の集団の純度を、FACS再分析によってチェックした。AC133+CD45−細胞(NS−IC、約5%の出発細胞)およびAC133−CD45−細胞(約87%の出発細胞)の、選別の前および選別の後での代表的なFACSプロフィールを行った。
【0069】
(NS−IC活性はAC133+サブセットにおいては高度に富化されるが、AC133−サブセットにおいては高度には富化されない)FBR細胞(代表的には、16〜20g.w.)を、代表的には、CD45−CD34−AC133−およびCD45−CD34−AC133+画分に選別した。有意なNS−IC活性は、FBR中のCD45+またはCD45−CD34+の集団中には残っていなかった。
【0070】
選別した細胞を、上記のニューロスフェア培地中で培養した。代表的には、Ex Vivo 15またはEx Vivo 15、D−MEM、F−12培地の組合せを、基本的な培地として使用した。ニューロスフェアの発達を最大にするために、選別した細胞を、代表的には、LIF、FGF−2、EGF、および神経生存因子NSF(Cat.CC−4323,Clonetics,San Diego,CA)の存在下で培養した。
【0071】
単一の細胞懸濁物を、細胞の選別後に得た。インビトロでの培養の4〜5日後に、AC133+細胞は増殖を開始し、そして小さいニューロスフェアが培養の開始後8〜10日で観察された。細胞は、NSFを伴わないLIF、FGF−2、EGFの存在下で培養した場合に、ニューロスフェアを開始し得た。ニューロスフェア培養物は、AC133+CD45−またはAC133+CD45―CD34−に選別された4つのFBR組織(18−20g.w.)のうちの4つから開始した。
【0072】
対照的に、AC133−CD45−FBR細胞を、LIF、FGF−2、およびEGFの存在下で培養物中に配置した場合には、ごくわずかなニューロスフェアの形成が見られ、そして新しいフラスコに継代することはできなかった。さらにNSFを増殖培地に添加した場合には、いくつかのニューロスフェアの開始が観察された。従って、AC133−CD45−FBR細胞を、NS−ICの有意な量で枯渇させた。
【0073】
(実施例4)
(NS−IC細胞について富化させるためのAC133+細胞の分離)
AC133+細胞の分離は、組織に由来するNS−IC細胞を富化させるために有効に使用され得る。さらに、AC133+細胞の分離は、確立された調製物に由来するNS−ICについてさらに富化し得る。1つの試験においては、解離させられたニューロスフェア(Cyto Therapeutics,Providence,RI)のAC133+細胞の選別は、大きく富化されたNS−IC培養物を提供し、そして増大したニューロスフェアの確立を示す。この培養物を使用すると、それぞれのウェル中でニューロスフェアを開始するために必要とされる細胞用量(すなわち、100%ポジティブ)は、3,000〜10,000個の細胞から約30個の細胞にまで減少させることができる(以下の表1を参照のこと)。
【0074】
【表1】
表1に示すように、本明細書中で使用した(g.w.20)富化していない新しい脳組織(「FBR」)は、全てのウェル中でニューロスフェアを開始するための、3,000から10,000個の間の細胞用量を必要とするそのような数で、NS−ICを含み得る。本発明の方法を使用することによって、富化された集団を得ることができ、その結果、1,000個またはそれ未満の細胞およびより好ましくは富化された集団の用量が必要とされ、その結果、100個の細胞未満である細胞用量が必要とされる。表1に示すように、本明細書中では富化は、わずか約30個の細胞の細胞用量がそれぞれのウェル中でのニューロスフェア培養物を確立するために1つのウェル当たりに必要とされるように、達成されている。表1はまた、集団をAC133+細胞中で枯渇させる場合(FBR 1104 AC133neg.に選択された細胞)には、これらの集団からのニューロスフェア培養物の確立が明らかに減少することを示す。
【0075】
(定量的なNS−ICアッセイ)NS−ICの存在についてアッセイするために、多能性のNS−ICを含有していると予想される細胞の集団を、クローンの発達に供する。細胞を、ニューロスフェアを形成するように増殖培地中で増殖させ、次いで、ニューロン、星状細胞、およびオリゴ樹状細胞を形成するように分化を誘導する。ニューロン、星状細胞、およびオリゴ樹状細胞の存在は、免疫染色によって示され得る。例えば、β−チューブリンの存在についてのニューロンの染色;GFAPの存在についての星状細胞の染色;およびO4の存在についてのオリゴ樹状細胞の染色。
【0076】
定量的なNS−ICアッセイを、精製していない組織細胞に対して、AC133+に選別した細胞に対して、そしてクローンのニューロスフェア細胞株に対して行い得る。
【0077】
(実施例5)
(NS−ICの増殖および継代のための細胞培養培地)
Weissら、米国特許第5,750,376号およびWeissら、米国特許第5,851,832号は、「多能性の神経幹細胞の増殖を誘導するのに有効な1つ以上の予め決定された増殖因子を含有している培養培地」、および「分化を誘導する条件」を開示している。しかし、以下を含むが、これらに限定されない、異なる基本的な培地を使用し得る:
D−MEM/F12(Gibco BRL,Gaithersburg,MD);
Ex Vivo 15(Bio Whittaker,Walkersville,MD);
神経先祖基本培地(Clonetics.San Diego,CA);または、
上記の基本培地の組合せ。
【0078】
ヒトのニューロスフェア細胞を培養するための代表的な培地処方物を、表2に提供する。
【0079】
【表2】
EGFを、培地を濾過した後に、ヒトのニューロスフェアについての100mlの基本培地に添加する。EGFは、培地中では比較的安定である、FGF−2およびLIFを、使用するために培地を準備するときに添加する。補充試薬の最終濃度は以下のとおりである:
5mg/ml インシュリン
100g/ml ヒトのトランスフェリン
6.3ng/ml プロゲステロン
16.1ng/ml プトラシン(Putrascine)
5.2ng/ml セレナイト
20ng/ml EGF
20ng/ml FGF−2
10ng/ml LIF
2g/ml ヘパリン
2mM L−グルタミン
6mg/ml グルコース
培地処方物の最適化は、確立される初代の脳組織から開始される高い割合のニューロスフェアを可能にする。本発明者らは、Ex Vivo 15培地を好む。培地処方物の最適化もまた、より一定のニューロスフェアの増殖可能にする。ニューロスフェアの発達を最大にするためには、NS−ICを、代表的には、LIF、bFGF、EGF、および神経生存因子NSF(Cat.CC−4323,Clonetics,San Diego,CA)の存在下で培養する。1つの試験においては、トリプシン処理したFBR 1101神経細胞およびトリプシン処理したFBR 1104神経細胞(Cyto Therapeutics,Sunnyvale,CA)の両方が、LIF,bFGF、EGF、およびNSFを有するEx Vivo 15培地中で培養した場合に、増大した増殖を示す。
【0080】
(実施例6)
(細胞の選別による胎児の脳に由来するヒトの神経幹細胞の直接的な単離)
広範囲のニューロンを再生し得る高度に定義された移植可能なヒト細胞の大量の供給源は、神経退行性の障害の処置のための有効な治療用産物であり得る。ヒトの神経幹細胞(NSC)の富化のための再現性のある方法を定義するために、本発明者らは、蛍光活性化細胞選別(FACS)によってNSCを同定しそして精製するための、ヒトの神経細胞の表面マーカーに対して指向されたモノクローナル抗体(mAb)を開発し、そして使用した。FACSおよび免疫組織化学的分析に基づいて、2つのmAb(5F3および5E12)を同定した。これらは、胎児の脳細胞の小さなサブセットを定義し、そしてCNS幹細胞を含有することが公知の部位である、脊髄(12g.w.)の底板および上衣層中の細胞に対して特異的な反応性を提示した。これらのmAbは、FBR細胞の5%未満を染色し、そして長期間のニューロスフェアの培養物に由来する95%以上の細胞がポジティブであった。
【0081】
一例として、2つの細胞の集団(5F3+CD34−CD45−(5F3+)および5F3−CD34−CD45−(5F3−))を選別し、そしてニューロスフェアの培養を開始するそれらの能力について試験した。5F3+サブセットは、ニューロスフェアを開始する細胞活性について高度に富化された;これらは、培養物中で8〜10日までに小さいニューロスフェアを形成するように増殖した。対照的に、選別された5F3−細胞は、単細胞懸濁物のままであり、ニューロスフェアを開始できず、そして最終的に死亡した。拡大した5F3+に選別されたニューロスフェア細胞は、ネスチンの発現についてポジティブであり、そして分化条件への曝露後に、ニューロンおよびグリアに分化した。NOD SCIDマウスを使用するインビボでの研究は、移植後8週間で、5F3+ニューロスフェア細胞が植え付けられ得、そして移動し得ることを示す。これらの研究は、本発明者らが、細胞表面マーカーおよびフローサイトメトリーに基づいて人のNSCを同定しそれを富化したこと、ならびにインビトロおよびインビボでのアッセイを使用してそれらの活性を実証したを示す。
【0082】
さらなる試験においては、本発明者らは、種々の在胎齢にわたって脳および脊髄組織を試験した。初期(5〜12wkの妊娠期間)の在胎齢は、後期の在胎齢(16〜20wkの妊娠期間)よりも高い頻度のニューロスフェアを開始する細胞(NS−IC)を有する。例えば、図5を参照のこと。これらの組織に由来する細胞の直接の培養は、ニューロスフェアの開始を導く。
【0083】
本発明者らのデータ(以下の表3に示す)は、5F3+細胞について富化された神経細胞の細胞の集団が、NS−IC活性について23倍も富化されることを実証する。
【0084】
【表3】
さらに、図2に示すように、ニューロスフェアを、単一の細胞に選別した5F3+細胞にから誘導し得る。本発明者らはまた、5F3+に選別した細胞から誘導されたニューロスフェア細胞の自己更新が、単一の細胞に由来するニューロスフェアの再開始によって達成され得ることを実証した(データは示さない)。逆に、本発明者らのデータは、5F3+細胞を除去された細胞の集団もまた、NS−IC活性について枯渇されることを示す。
【0085】
(実施例7)
(異なるマーカーによるNS−ICの単離)
第2の実施例として、本発明者らは、本明細書中に記載する新規のモノクローナル抗体5E12を使用して細胞の集団を選別した。5E12+サブセットを、以下の表4に示すように、ニューロスフェアを開始する細胞活性について富化した。図3をもまた参照のこと。本発明者らのデータは、5E12抗体に対する抗原が、5F3+細胞上のAC133抗原と同時に発現されることを示唆する。
【0086】
本発明者らはまた、以下の表4に示すように、神経幹細胞についてのサブセレクターとして8G1モノクローナル抗体を評価した。5F3+および8G1−/loである細胞は、より幹細胞様の特性を提示し、一方、5F3+および8G1med/hiである細胞は、より始原細胞様の特性を示した。
【0087】
【表4】
(実施例9)
(NS−ICのインビボでの研究)
本発明者らは、従来技術を使用して、新生児の免疫不全マウスの側脳室に、5F3+−に選別したNS−IC(上記のように得た)を移植した。ヒトのニューロスフェア細胞の植え付けおよび移動を、ヒト特異的Thy−1抗体を使用して、注射後の4〜8週間の間に検出した(図6を参照のこと)。図7に示すように、ヒトβ−チューブリン(ニューロンのマーカー)およびヒト核抗原(ヒト細胞の局在について)での染色は、嘴側の移動性の流れ(RMS)を通じるヒトのニューロスフェア細胞の移動を明らかにした。さらに、図8に示すように、ヒト核抗原を使用する局在化は、ヒトのニューロスフェア細胞が、RMSを通じて嗅球に移動したことを実証した。
【0088】
(実施例10)
(ヒトの中枢神経系の幹細胞の直接的な単離および移植)
(序章および要約)自己更新特性および多重系列の分化特性を有する、幹細胞、クローン原性細胞は、損傷した組織を置換するかまたは修復するための能力を有する。この実施例においては、本発明者らは、クローン原性のヒトの脳の幹細胞(CNS−SC)を単離した。これは、ニューロスフェアの培養を開始し、そして自己更新、ならびにニューロンおよびグリアへの分化の両方を示す。これらの遺伝的に改変されていないヒトのCNS−SCは、表面マーカーについてのモノクローナル抗体によってマークされる。細胞は、5F3(AC133)+、5E12+、CD34−CD45−、およびCD24−/loである。単一のAC133+CD34−CD45−選別された細胞は、ニューロスフェアの培養を開始し、そして多重系列の分化を提示した。一旦、免疫不全新生児マウスの脳に移植されると、選別されそして拡大されたCNS−SCは、強力な植え付け、増殖、移動、および分化を、部位特異的な様式で示す。
【0089】
この実施例においては、本発明者らは、mAb 5F3および新規のmAbである5E12が、ヒトの胎児の脳(FBr)細胞の異なるサブセットを検出することを示す。混入している血液および内皮細胞をマークするmAb(CD34およびCD45)と組合せてこれらのmAbを使用する蛍光活性化細胞選別は、ヒトのFBr細胞の、AC133+CD34−CD45−のサブセットを生じる。細胞の選別後、選別された細胞は、単細胞のレベルで、ニューロスフェアを開始し得、自己更新し得、そして多重系列の分化をし得る、本発明者がヒトのCNS−SCと指名する細胞であり得る。これらの候補のヒトのCNS−SCは、自己更新し、そしてニューロスフェア培養物中で有意に拡大し、そしてインビトロでニューロンおよびグリアに分化した。選別されそして拡大された候補のCNS−SCは、新生児のNOD−SCIDマウスの脳の側脳室に移植され得る。ここではこれらは、明らかに適切な部位特異的植え付け、持続的な自己更新、移動、および分化を、少なくとも7ヶ月間受ける。
【0090】
(CNS神経幹細胞のマーカーについての検索;ストラテジー)本発明者らは、候補のCNS−SCマーカーが、FBr細胞の主要ではないサブセットのみにおいて発現されるはずであるという仮説をたてた。ニューロスフェア培養物が幹/始原細胞の富化された集団を含むという証拠が存在するので、本発明者らは、候補の神経幹細胞マーカーが、これらの細胞上でより豊富に発現されるはずであるという仮説をたてた。従って、本発明者らは、ヒトの造血幹細胞(HSC)を定義するために以前に使用したmAbを通じてスクリーニングした。
【0091】
選別した集団を、それらがニューロスフェアを開始する細胞(NS−IC)について富化されたかどうかを決定するために試験した。2つの画分(1つの画分は確立されたニューロスフェア培養物であり、そして1つはそうではない)に清潔にFBrを分離する任意のmAbを、NS−ICを同定することを助けるための候補のmAbと考えた。最初のスクリーニングにおいては、mAbを、FBrのポジティブに染色された小さな画分、および長期間培養されたニューロスフェア細胞の大きな画分と考え、そして他のmAb(ネガティブ選択のための)を、ほとんどのFBr細胞を染色するが、ニューロスフェア細胞の小さな画分は染色しないと考えた。酵素によって解離させられたFBrおよび長期間培養されたニューロスフェア細胞を、50個以上の既知のmAbで染色した。
【0092】
長期間のニューロスフェア培養物である、8.5FBrが、以前に記載されている(Carpenterら、158 Exp.Neurol.265−78(1999))。これらの細胞を、以下の標準的なヒトのニューロスフェア培地中で培養した:FGF−2(20ng/mL)、EGF(20ng/mL)、およびLIF(10ng/mL)の存在下で、N−2補充(Gibco)、3%のグルコース、0.2Mのグルタミン、および0.2mg/mlのヘパリンを有する、D−MEM/F12基本培地。培養した細胞を回収し、そしてコラゲナーゼの存在下で、継代のために5〜10分間酵素的に解離させるか、またはmAbの染色のための単一の細胞懸濁物を得るためにトリプシン処理した。
【0093】
ニューロスフェア細胞は、血管および造血性のマーカーであるCD34またはCD45を発現しなかった。対照的に、マウスおよびヒトのHSCの両方を同定した重要な細胞表面マーカーであるThy−1は、実質的に全てのFBr細胞およびニューロスフェア細胞上で高レベルで発現され、そして従って、有用ではなかった。興味深いことに、最初の抗体スクリーニングは、別のHSCマーカーであるAC133が、16〜20の妊娠週数(g.w.)の組織に由来するFBr細胞のわずかに1〜5%において、そして培養されたニューロスフェア細胞の約90%において発現されたことを明らかにした。
【0094】
(モノクローナル抗体AC133は、ヒトのCNS−SCについて富化する)ヒトのFBr組織を、NIHのガイドラインに従って、Advanced Bioscience Resources,Inc.から16〜20の妊娠週(g.w.)の胎児の残りから得た。FBr組織を、1〜3mmの切片に、小刀を使用して切断し、50mLの遠心分離チューブに移し、そして0.02%のEDTA/PBS溶液で1回洗浄した。組織を、0.1%のコラゲナーゼ(Roche,Indianapolis,IN)および0.1%のヒアルロニダーゼ(Sigma、St Louis,MO)の存在下で、0.1%のBSA、10mMのHEPES,およびDNaseを補充したHBSS中で37℃にて1時間、酵素的に解離した。単一の細胞の懸濁物を得るために、解離させたFBr細胞をさらに、0.05%のトリプシン、53mMのEDTA(Gibco,Grand Island,NY)を用いて10〜15分間処理した。破片および凝集物を、70ミクロンのフィルターユニットに通して細胞懸濁物を濾過することによって除去した。
【0095】
単一の細胞懸濁物を、コラゲナーゼ/ヒアルロニダーゼ処理、続くトリプシン処理後に得た。従って、スクリーニングによって、トリプシン耐性の細胞表面エピトープに限定した。
【0096】
FBrに由来する選別したCD45+またはCD34+細胞の塊の培養物は、ニューロスフェアの培養を開始することができなかった。従って、CD34およびCD45の両方が、ヒトのCNS−SCについてのネガティブセレクターとして使用され得た。
【0097】
CNS−SCが、AC133の発現に基づいて単離され得るかどうかを試験するために、ヒトのFBr細胞を、CD34、CD45,およびAC133に対する抗体を用いて染色した。AC133抗原を、両方ともフィコエリスリン(PE)に結合させた、2つのmAb(AC133/1およびAC133/2)によって規定した。これらは、Milteny Biotec(Auburn,CA)を通じて入手可能である。抗ヒトCD45−FITC、アロフィコシアニン(allophycocyannin)(APC)と結合させた抗ヒトCD34を、CALTAG(Burlingame,CA)およびBDIS(San Jose,CA)からそれぞれ得た。解離させたFBR細胞を、CD45−FITC、AC133/1 AC133/2−PE、およびCD34−APCに対するmAbとともに、氷上で20〜60分間インキュベートした。最後の洗浄後、細胞を、0.5g/mLのヨー化プロピジウム(propidium iodine)(PI)を含むHBSS溶液中に再懸濁した。標識された細胞を分析し、そして二重レーザーのVantage SE(BDIS,San Jose)を用いて選別した。死細胞を、それらのPI染色特性によって分析から排除した。混入している血液細胞および内皮細胞を、CD45+細胞CD34+細胞をそれぞれゲートで制御することによって排除した。選別した後、選別した細胞集団の純度をチェックした。
【0098】
2つの細胞の集団(AC133−CD34−CD45−(AC133−)およびAC133+CD34−CD45−(AC133+))を選別し、そしてNS−IC活性について培養した。AC133の発現は、連続的出ることが最初に明らかになったが(図9A)、AC133+細胞のFACSでの予備富化、続く2回目の細胞の選別は、別のAC133+集団を明らかにした(図9A)。全ての続く試験において、AC133−およびAC133+サブセットの両方を2回選別し、それによって高純度で、AC133−およびAC133+FBr細胞の画分を得た(図9A)。
【0099】
ニューロスフェアの条件下で培養したAC133+の単一の細胞懸濁物は、芽細胞様(blast−like)になり、プラスチックプレート上に接着し、そして細胞分裂を開始し始めた。培養物中での4〜5日後、AC133+細胞の大きな画分は増殖を開始し、そして数個の細胞のクラスターとして浮遊し始めた。小さなニューロスフェアは、培養の開始後7〜10日のような初期に観察された(図9C)。対照的に、選別されたAC133−細胞は、単一の細胞懸濁物のようなままであり、ニューロスフェアを開始することはできず、そして最終的には死亡した(図9B)。従って、NS−IC活性は、CD45−CD34−FBr細胞の、AC133+のサブセット中では見出されるが、AC133−のサブセット中では見出されなかった。
【0100】
(AC133+のヒトFBr細胞のみがNS−IC活性を含む)定量的なNS−ICアッセイが、AC133−およびAC133+サブセット間での増殖において衝撃的な差異を示したので、本発明者らは、分画していない(すなわち、細胞の処理後)、および種々の分化したFBr細胞懸濁物中のNS−ICの頻度を決定することを望んだ。分画していないFBr細胞を、FACS自動細胞沈着ユニット(automated cell−deposition unit)(ACDU)を使用して96ウェルプレート中に限界稀釈(100〜10,000細胞/ウェル)によってプレートした。これらのプレートを6〜8週間培養し、そしてニューロスフェアを含むウェルをポジティブとして記録した。
【0101】
選別したFBr細胞を、FGF−1(20ng/mL)、EGF(20ng/mL)、LIF(10ng/mL)、神経生存因子−1(Clonetics,San Diego,CA)、および60g/mLのN−アセチルシスチン(Sigma)の存在下で、N2サプリメント(Gibco)を含むEx Vivo
15(Bio Whittaker,Walkersvile,MD)培地(ニューロスフェア開始培地)中のニューロスフェア培養物中で培養した。培地処方物を、FBr細胞の限界稀釈の頻度分析に基づいて最適化した。培養物に、毎週栄養を補給し、そしてニューロスフェアが大きくなった場合、継代した。いくつかの場合には、選別したFBr細胞を、ニューロスフェアの培養を開始する前駆体の頻度を評価するために、自動化された細胞蓄積ユニット(ACDU)によって96ウェルプレート中に再度選別した。これらの96ウェルプレートを、毎週栄養を補給し、そしてウェル中のニューロスフェアの存在を、培養の開始後6〜8週間で記録した。それぞれの細胞濃度でのネガティブなウェルの割合の直線状の退行の分析を、NS−ICの頻度を決定するために使用した。
【0102】
多数のニューロスフェアを、高い細胞用量(すなわち、1ウェルあたり10,000細胞)でプレートしたウェル中で検出した。それにもかかわらず、低い細胞用量(すなわち、300〜1000細胞/ウェル)でプレートしたウェルにおいては、ポジティブなウェルは、わずかに1つのニューロスフェアを含んだ。1ウェルあたり100〜300個の細胞では、極まれなウェルが、単一のニューロスフェアを含んだ。ネガティブなウェルの対数を、1ウェル当たりにプレートした細胞の数に対してプロットした場合には、直線状の関数が見出された;37%のネガティブなウェルで、NS−ICについて単一のヒットを決定した(図10A)。図10Aに示される代表的な組織においては、コントロールの処理された脳細胞は、880個の細胞中1個の頻度でNS−IC活性を含んだ。AC133−のサブセットにおいては、4860個の細胞中1個のNS−ICの頻度が減少した。対照的に、NS−IC活性は、32個の細胞中1個の頻度で、AC133+のサブセットにおいて高度に富化された(図10A)。8つの異なるFBr組織(16〜20の妊娠週)に由来するNS−ICの頻度を、図10Bおよび表5にまとめるように評価した。
【0103】
【表5】
*全ての選別された集団がまた、CD34−CD45−についてゲート(gate)され、これは98〜99%のFBrを示す。
**実際に算出されたNS−IC頻度のような1回の試験を除外したデータは、括弧中に示した。ほとんどのウェルがネガティブであったことに起因した。
【0104】
分画していない胎児の脳細胞においては、730個の細胞中の約1個が、NS−IC活性を含む。>95%のFBrを示すAC133−のサブセットは、NS−ICを有する4300個の細胞中に<1個を含み、そして従って、約6倍減少された。対照的に、NS−IC活性は、ニューロスフェアを開始し得る新しいFBr細胞の約1/31(1/6から1/72の範囲)で、平均で、AC133+サブセットにおいて23倍富化された。AC133+細胞は、約4.6%のFBrを示した(すなわち、22個の細胞のうちの1個)ので、NS−IC活性の富化は実質的には、FBr中のAC133+細胞の頻度に相当した。従って、AC133+細胞は、16〜20の妊娠週のFBr細胞懸濁物中の全ての検出可能なNS−IC活性を含んだ。
【0105】
(単一のAC133+に選別された細胞からの、クローンのニューロスフェアの拡大、自己更新および分化)ニューロスフェアのクローナリティー(clonality)を確認するために、単一のFBrに由来するAC133―に選別された細胞を、ACDUによって96ウェルプレートのウェル中に直接プレートした。8週間後、いくつかのウェルは、単一のニューロスフェアを含み、これらが単一のAC133+に選別された細胞に由来することを確認した(図10C)。
【0106】
AC133+に由来するニューロスフェアの自己更新活性を、ニューロスフェアの培養を再度開始する能力について試験した。例えば、AC133+に選別されたFBr細胞によって開始された最初のニューロスフェア培養物を解離させ、そして1ウェル当たり1つの細胞として再度プレートした。9個の96ウェルが、単一のニューロスフェアの発達を示した。1つの試験においては、ニューロスフェアは、AC133+に選別されたニューロスフェア細胞から約10%の播種効率を伴って、クローン的に(clonally)誘導された。結果として、AC133−になるニューロスフェア細胞は、二次的なニューロスフェア培養を再度開始することはできなかった。従って、これらの定量的な結果は、NS−IC活性が、FBr細胞のAC133+のサブセットにおいては高度に富化され、そしてFBr細胞のAC133−のサブセットにおいては除去されることを実証した。
【0107】
クローン的に誘導されたニューロスフェア細胞の分化能力を試験するために、単一のニューロスフェアを回収し、プレートし、そして神経栄養因子であるBDNFおよびGDNFの存在下で分化を誘導した。ニューロスフェア細胞を回収し、そしてコラゲナーゼを用いて解離させ、そしてポリオルニチンでコーティングしたチャンバースライド上に置いた。これらを、ニューロスフェア開始培地中で、それらがプレート上に播種されるまで1日間培養した。培養物を、Ex Vivo−15,N2、NAC、BDNF(10ng/mL)、GDNF(10ng/mL)およびラミニン(1g/mL)から構成される分化培地に再度プレートした。1〜2週間後、チャンバースライドをPBS中の4%のパラホルムアルデヒドで固定し、そしてニューロンおよび星状細胞への分化を検出するために、チューブリンおよびグリア菌原繊維(glial fibrillary)酸性タンパク質(GFAP)に対するmAbで染色した。
【0108】
これらの条件下では、AC133+に由来するニューロスフェアは、ニューロンおよび星状細胞に分化した(図10D)。まとめると、データは、mAB AC133がNS−ICについてのマーカーであり、そしてヒトCNS−SCについて富化するために使用され得ることを示唆する。これらのAC133+に由来するニューロスフェア培養物は、連続的に継代されている(凍結前に>P15)。大まかな推定においては、AC133+細胞の絶対数は、5回の継代によって少なくとも1000倍に増大し(表6)、そしてこれらは、ニューロスフェアを再現的に再度開始し得る。従って、AC133は、インビトロで連続的に拡大し、そして自己更新する神経細胞の集団を規定する。
【0109】
【表6】
(NS−ICもまた、5E12+および8G1−/lo細胞において富化される;新規のmAbの生成)利用可能なmAbの有用性のスクリーニングと同時に、本発明者らは、ヒトの神経細胞上の新規の細胞表面マーカーを同定しようとした。FBr細胞を、コラゲナーゼおよびヒアルロニダーゼの組合せを用いて解離させ、そして、組織特異的mAbを惹起するためのおとりの(decoy)ストラテジーを用いて、BALB/cマウスを免疫化するために使用した。約1900個のウェルの増殖しつつあるハイブリドーマ細胞をスクリーニングし、そしてハイブリドーマを選択し、拡大し、そしてヒトの脳に対する特異的反応性についてさらに試験した。ヒトの神経細胞に対するモノクローナル抗体を、Yinら、90 Blood 5002−12(1997)によって以前に記載されたおとりの免疫化ストラテジーを使用して産生した。簡潔には、BALB/cマウスを、おとりのヒトの白血球を富化させた末梢血で1回のフットパッド(one footpad)において免疫し、そして酵素で解離させたヒトの胎児の脳細胞で反対側にフットパッドした。ヒトFBr細胞免疫を排出させたドナーのリンパ節の細胞を回収し、細胞懸濁物について処理し、そしてマウスの骨髄腫細胞株と融合させた。マウスの骨髄腫株に対するこの融合は、1900個のウェルの増殖しつつあるハイブリドーマ細胞を生じた。約180個のハイブリドーマを選択し、拡大し、そしてヒトの脳細胞に対する特異的反応性についてさらに試験した。
【0110】
上記のように、CNS−SCを、AC133+サブセットにおいて高度に富化した。CNS−SCの表現型をさらに特徴付けるために、本発明者らは、AC133+細胞が表現型的には不均質であるかどうかを試験した。従って、AC133+細胞を、新規のmAbのパネルに由来する他のマーカーの同時発現についてスクリーニングした。2つの新規のmAbである5E12および8G1を、同定した。Mab 5E12は、AC133+細胞および長期間のニューロスフェア細胞を同時染色する。5E12+FBr細胞を富化し、そして5E12−細胞をNS−IC活性において除去する(表5)。
【0111】
胎児の脳の発達においては、FBr細胞の大部分(>90%)が、高レベルの8G1マーカーを発現した(図4)。AC133+細胞は、8G1の発現において不均質であった;ほとんどの8G1−/lo、いくつかの8G1mid、および数個の8G1hi細胞(図12)。興味深いことに、長期間培養したヒトのニューロスフェア細胞上での8G1の発現もまた、不均質であった。免疫沈降およびブロッキングの研究によって、8G1が抗CD24 mAbであることを決定した。組織学的には、CD24は、熱安定性の抗原(HSA)として公知であり、そして血液のリンパ球産生においてマーカーとして広範に使用される(Altermanら、20 Eur J Immunol 1597−602(1990))。HSAは、マウスのHSC上で低レベルで発現され(ShihおよびOgawa、81 Blood 1155−60(1993));SpangrudeおよびScollay、18 Exp.Hematol.920−6(1990))、そしてプロB細胞およびプレB細胞、ならびに胸腺細胞上で高レベルで発現され、そしてこれらの細胞が成熟リンパ球になる場合、完全に下方調節される(Altermanら、20 Eur. J.Immuno.1597−602(1990))。表5に示すように、NS−ICの頻度は、AC133+CD24mid/hiのサブセットと比較して、AC133+CD24−/lo画分においてより高い。
【0112】
(AC133+に由来するヒトのニューロスフェア細胞の強力な植え付け能力)ヒトの選別され/拡大されたCNS−SCの、インビボでの移植、移動、および分化の能力を試験するために、105個または106個のニューロスフェア細胞(AC133+に選別されたFBr細胞から開始された)を、新生児のNOD−SCIDマウスの脳の側方の脳室に注射した。
【0113】
6〜10の継代で拡大したAC133+に選別されたニューロスフェア細胞を回収し、そして細胞の小さなクラスターを得るためにコラゲナーゼで穏やかに乖離させた。細胞を、0.25×105または2.5×105/Lの等量で再懸濁した。新生児のマウス(<生後24時間)を、氷を使用して低温麻酔した;一旦麻酔がかかると、定位的なデバイス上に新生児を置いた。小さな穴を針で軟骨にドリルで穴をあけ、そして細胞懸濁物を、両方の側方の脳室のスペースにHamilitonシリンジによって導入した。新生児のマウスを、105〜106個の細胞/注射の範囲の細胞の21個を用いて注射した。新生児を、外科手術の回復についてモニターするために暖めることによって観察し、次いで、母親に返した。注射したマウスを、ヒトの細胞の植え付け(engraftment)を試験する前に7ヶ月間維持した。
【0114】
新生児のNOD−SCIDマウスを、神経学的な系に注射される細胞の参加を最大にするためのレシピエントとして選択した。なぜなら、細胞の形成が、新生児のマウスの脳のいくつかの部分における進行において、なお活性であるからである。さらに、免疫不全マウスは、ヒトの組織を拒絶せず、そしてSCIDおよびNOD−SCIDマウスは、ヒトの血球形成および組織の植え付けのインビボでの研究のための宿主として使用されている(McCuneら、241 Science 1632−9(1988);Kamel−ReidおよびDick、242 Science 1706−9(1988);Larochelleら、2 Nat.Med.1329−37(1996))。移植の7ヶ月後、動物を屠殺し、そして矢状方向の切片を、N−CAMおよびThy−1、ならびにヒト核抗原に対するヒト特異的mAbで染色した。
【0115】
移植の7ヶ月後に、NOD−SCIDマウスを、Avertinで深く麻酔し、そしてPBSで灌流し、続いてリン酸緩衝液中の4%のパラホルムアルデヒドで灌流した。その後、脳を、一晩固定し、30%のスクロース溶液中に置き、そしてOCT化合物中で凍結させた。脳を、さらなる免疫組織化学のために5μmの厚みに矢状方向に切断した。移植されたマウスの脳中のヒト細胞を検出するために、切片を、ヒトThy−1に対するマウスのモノクローナル抗体(Phaemingen,San Diego,CA)、N−CAMに対するモノクローナル抗体、チューブリンに対するモノクローナル抗体(Sigma)、または核抗原に対するモノクローナル抗体(Chemicon)で、続いて、Alexa 488に結合させたヤギ抗マウスIG(Molecular Probe,Eugene,OR)で染色した。
【0116】
マウスの脳のコントロールに対するこれらのmAbの染色は、交差反応性を示さなかった。GFAPおよびβ−チューブリンに対するMabは、ヒトおよびマウスの細胞の両方を染色し、そして抗ヒト核抗体でのこのような二重の標識を、ヒトの系統特異的細胞の集団を実証するために使用した。詳細な分析は、特に、活性な神経形成の部位であることが以前に示されている脳の2つの部位(側方の脳室の脳室下の領域(SVZ)、および海馬の歯状回)に集中した(図12A)。
【0117】
ヒトの細胞は、マウスの脳全体にわたって見出され、そして注射の7ヶ月後に、SVZにおいて豊富であった(図12)。例えば、1つの領域においては、ヒトの核+である多くの細胞を、GFAP+細胞によって取り囲んだ(図12B)。コンフォーカルな顕微鏡試験は、ヒトの細胞のほとんどが、GFAP−であるが、時折、ヒトのGFAP+細胞もまた検出されたことを示した(図12B、矢印)。
【0118】
移植されたマウスの脳を、ミクロトーム上で40マイクロメートルの厚みの切片にし、そしてmAbで染色し、そしてSuhonenら、383 Nature 624−7(1996)によって以前に記載されているように、Bio−Radコンフォーカル散乱光顕微鏡を使用して分析した。
【0119】
SVZ中の幹細胞/始原細胞が持続的な増殖を示しているので、本発明者らは、移植されたヒトのAC133+に選別され/拡大されたニューロスフェア細胞の子孫がなお増殖しているかどうかを、インサイチュで試験した。移植された脳の1つの切片を、細胞増殖に関連するマーカーであるKi67で染色した。著しく、GFAP+細胞中に入れ子(nest)にされたSVZ中のヒトの細胞のクラスターは、Ki−67を同時発現し、このことは、SVZ中のヒトの細胞が、それらのマウスの対応する部分と同様に、SVZ中での移植後7ヶ月間増殖し続けることを示した(図12C)。
【0120】
げっ歯類の嗅覚の系においては、SVZ中で増殖した幹細胞/始原細胞の子孫は、吻方の移動性の流れ(rostral migratory stream)(RMS)に入り、そして嗅球に移動する(LoisおよびAlvarez−Buylla、264 Science 1145−8(1994))。RMS中の内因性のげっ歯類の先祖の「神経芽細胞の鎖」は、β−チューブリンおよびN−CAMを発現する(Frickerら、19 J.Neurosci.5990−6005(1999);GageおよびCristen、Isolation、characterization and utilization of CNS stem cells(Springer,Heidelberg,1997))。RMSを含有している矢状方向の切片を、ヒトの神経細胞の存在について試験した。AC133+に選別されたニューロスフェア細胞を移植したマウスにおいては、多数のヒト細胞が検出され、これはSVZで開始し、そしてRMS全体に拡大している(図13A)。これらのクラスターを形成するヒト細胞の多くは、β−チューブリンと同時に局在するがこのようなクラスター中で二重ポジティブの細胞を同定することは困難であった。数個のヒト細胞を含有している組織の注意深い試験によって、β−チューブリンおよびヒト核抗原の両方について二重ポジティブである複数の細胞が明らかになった(図13B、矢印)。さらに、RMS中のこれらの細胞の多くは、ヒト特異的マーカーであるN−CAMを発現した(図13C)。
【0121】
RMSを通じる移動の後、幹/始原細胞の子孫は、嗅球に侵入し、そして嗅覚の糸球体に向かって嗅球のペリ糸球体(periglomelular)層にまで拡大すると予期される(LoisおよびAlverez−Buylla、264 Science 1145−8(1994))。図13Dに示すように、移植されたヒト細胞の子孫は、糸球体ならびにペリ糸球体層に分布した。これらの細胞のいくつかは、ヒトのN−CAMを発現し、このことは、これらの細胞が神経系統に拘束されていたことを示す。従って、移植された、選別され/拡大されたヒトのCNS−SCの子孫は、RMSに移動し、分布し、そして嗅球中の神経系統に分化する。いくつかの例においては、チロシンヒドロキシラーゼポジティブであるヒト細胞が観察された。
【0122】
神経形成が成体の生活において起こる別の部位は、海馬の歯状回である(Gageら、92 Proc.Natl.Acad.Sci.USA 11879−83(1995))。この実施例においては、本発明者らは、海馬の歯状回において多数のヒト核細胞を見出した。やや顆粒状の細胞(subgranular
cell)帯中のヒトの細胞でいくつかは、Ki−67を同時発現し、このことは、これらの細胞が移植の7ヶ月後に増殖することがなお可能であることを示す(図14A)。異なる分析においては、いくつかの他のヒト細胞は、海馬の門に向かって拡大するそれらのプロセスを有する、顆粒状のニューロンを発達させることが予期されるような、β−チューブリンであった(図14B)。これらの結果は、これらの選別され/拡大されたヒトのCNS−SC移植片が、移動し、増殖しつづけ、そして分化するだけではなく、それらの挙動および細胞の運命もまた、部位特異的様式において宿主の合図によって調節することを示す。注射された細胞は、腫瘍を形成しない。
【0123】
(考察)この実施例の目的は、候補のヒトCNS−SCの予想される単離を可能にする、ヒトの脳細胞上の表面マーカーを見出すことであった。本発明者らは、ヒトのニューロスフェア培養物が、CNS−SCからクローン的に開始され得ると仮定し、そして新しいヒトのFBr細胞懸濁物からNS−ICを単離にすることに着手した。本発明者らは、16〜20g.w.のヒトのFBr細胞がまれにクローン原性のAC133+、5E12+、8G1−/loCD34−CD45−細胞のサブセットを含むことを実証した。このサブセットは、ニューロスフェアの培養を開始し得、これらの培養物中で広範囲にわたって自己更新し得、そしてニューロンおよびグリアにインビトロで分化し得る。免疫不全の新生児のマウスの側方の脳室への移植の際には、これらの細胞は、少なくとも7ヶ月間植え付け(engraft)、そして分化し、移動し、そしてそのいくつかは増殖し続ける、子孫を生じる(すなわち、SVZおよび歯状回中でのKi−67+のヒトの神経細胞の存在)。植え付けされたヒトの細胞は、それらが、同じ事象を受けた内因性のマウスの神経細胞に対応する部位中に見出される。
【0124】
図10および表5中のデータは、ヒトの胎児の脳中にAC133+サブセットの外側には他の検出可能なNS−IC細胞が存在しないことを実証する。
【0125】
AC133染色パターンの分析の間には、本発明者らは、約0.2%のFBr細胞がCD34を発現し、そしてAC133+CD34−である細胞に接着したままであることに注目した。これらのCD34+細胞は、既知の内皮細胞マーカーであるCD105およびCD31を同時に発現し、そしてトリプシン処理後にも、塊の培養物中に高密度で配置された場合に、いくつかのニューロスフェアから非効率的に形成され得る細胞の複合体として残っていた。本発明者らは、CD34を発現する細胞についてのポジティブな選択の後、同様に複合体を観察した。従って、AC133+CNS−SCおよび天然に存在するCD34+内皮細胞の頻繁な連合が存在する。AC133+CNS−SCが血管周囲にあるという知見は、神経形成が、血管形成と同時に進行するという仮説に一致する。
【0126】
候補のヒト胎児のCNS−SCが、新生児のマウスの側方の脳室中への注射後に植え付けし、そしてマウスの脳全体にわたって拡大することは、驚くべきことである。これはマウスの持続的な神経形成の段階であるが、これらの細胞が分布する程度は、当業者が予期したよりも大きい。詳細には、ヒトの細胞は、脳室の空間に隣接して、海馬中、大脳皮質中、脳梁中、ならびに脳の小脳の領域に見出された(図11)。さらに、細胞は、SVZ(自己更新しそして複製する領域)においておよびRMS(分化および移動の領域)沿っての両方で、ならびに嗅球内および嗅覚の糸球体周辺に直接、見出される。従って、注射されたヒトCNS−SCは、これらの部位で神経形成のプロセスを継続している。
【0127】
Synderらは、v−mycで固定したマウスおよびヒトの神経細胞株を使用して、細胞のこの広範な(「全体的な」)分布を実証した(Yandavaら、96 Proc Natl Acad Sci USA 7029−34(1999))。本明細書中では、本発明者らは、これが、マウス起源のmyc固定された細胞の特性だけではなく、非遺伝的に改変されたヒトのCNS−SCの特性でもあることを示す。
【0128】
奇形癌細胞の移植とは対照的に(Trojanowskiら、122 Exp
Neurol 283−94(1993))、CNS−SC細胞は、完全に許容性の微環境中での注射の7ヶ月後に試験した場合でさえも、腫瘍性凝集物または増殖性凝集物を形成しない。従って、CNS−SC細胞は、腫瘍遺伝子の機能によって改変されていないヒトの神経系、またはすでに腫瘍性に形質転換された細胞株において本来備わっている発生的経路および機能的経路を明らかにし得る。CNS−SCの単離は、以下の科学的な発見のためのいくつかの機会を提供する:(i)特定の段階または分化の細胞に由来する系統を直接描写すること;(ii)CNS−SCの遺伝子発現プロフィールおよびインビトロまたはインビボでそれらのすぐ下流の子孫を得ること;(iii)細胞の特異的な遺伝子の改変がそれらの植え付け、移動、分化、および/または機能的な組込みを可能にするかどうかを試験すること。ヒトのCNS幹細胞の単離は、それらの移植可能性、分化能力、および腫瘍形成の欠失についての前臨床試験としての、ヒトの疾患のマウスのアナログにおいてこれらの細胞の移植を可能にする。
【0129】
上記の記載は、説明の目的のためのみに示されており、そして、開示される正確な形態に本発明を限定するようには意図されないが、本明細書中に添付される特許請求の範囲によって限定されるように意図される。
【技術分野】
【0001】
(優先権の請求)
本発明は、1999年2月12日に出願された米国特許仮出願第60/119,725号に対して;1999年10月21日に出願された米国特許出願第09/422,844号に対して;および1999年12月1日に出願された米国特許仮出願第60/168,407号に対して、優先権を請求する。
【0002】
(技術分野)
本発明は、一般的には、富化された神経幹細胞および始原細胞の集団、ならびに神経幹細胞および始原細胞(詳細には、中枢神経系の神経幹細胞および始原細胞)について同定、単離、および富化するための方法に関し、そして最も詳細には、ニューロスフェアを開始する細胞(neurosphere initiating cell)(NS−IC)の富化された集団に関する。
【背景技術】
【0003】
(発明の背景)
幹細胞の集団は、細胞の総数の低い割合のみを構成するが、それらの体に再配置する能力に起因してすばらしい目的である。幹細胞の寿命および幹細胞の子孫の散布(dissemination)は所望される特徴である。これらの方法においては、有意な商業的な目的が存在する。なぜなら、幹細胞は多数の臨床的な用途を有するからである。遺伝子治療のためのビヒクルとしての幹細胞の使用においては、医学的な目的もまた存在する。
【0004】
幹細胞および始原細胞の集団上に見出されるタンパク質および他の細胞表面マーカーは、これらの集団の分離および単離のための試薬を調製することにおいて有用である。細胞表面のマーカーもまた、これらの重要な細胞のさらなる特徴付けにおいて有用である。
【0005】
本明細書中で参考として援用されるYinらの米国特許第5,843,633号は、AC133と呼ばれるモノクローナル抗体を記載している。この抗体は、造血幹細胞および始原細胞上の表面マーカーの糖タンパク質に結合する。AC133抗原は、117kDaの分子量を有する5−膜貫通細胞表面抗原である。この抗原の発現は、高度に組織特異的であり、そしてヒトの骨髄、胎児の骨髄および肝臓、臍帯血、ならびに成体の末梢血に由来する、造血系の始原細胞のサブセット上で検出されている。AC133抗体によって認識される細胞のサブセットは、CD34brightであり、そしてCD34+集団中に存在するCFU−GM活性の実質的に全てを含み、これによってAC133を、ヒトの造血性の始原細胞および幹細胞の単離および特徴付けのための試薬として有用にする。
【0006】
しかし、非造血性の幹細胞および始原細胞、ならびに特に、中枢神経系の神経幹細胞および始原細胞に特異的な表面マーカーは、同定されていない。さらに、AC133抗体は、非造血性の幹細胞または始原細胞、特に、中枢神経系(CNS)の神経幹細胞および始原細胞について、同定、単離、または富化するための方法においては、使用されていない。ヒトの非造血性の始原細胞および幹細胞、そして特に、中枢神経系(CNS)の神経幹細胞および始原細胞を単離および特徴付けることにおいて有用であるモノクローナル抗体のような、ツールについての必要性が残されている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
(発明の要旨)
本発明は、ヒトの非造血性の始原細胞および幹細胞、そして特に、ニューロスフェア(NS−IC)を開始し得る中枢神経系(CNS)の神経幹細胞、および始原細胞を、同定、単離、および富化するための方法を提供する。本発明はまた、ニューロスフェアを開始し得るCNSの神経幹細胞、および始原細胞を含有している富化された集団を提供する。「ニューロスフェア開始細胞(NS−IC)」は、長期間のニューロスフェア培養を開始し得る細胞である。次に、「ニューロスフェア」は、細胞の凝集物またはクラスターであり、これは、神経幹細胞および初期始原細胞を含む。ニューロスフェアの同定、培養、増殖、および使用は、Weissら、米国特許第5,750,376号、およびWeissら、米国特許第5,851,832号(両方とも、本明細書中で参考として援用される)に開示されている。用語「NS−IC」は、ニューロスフェアを形成するその細胞の能力または機能によって定義されるが、これらの細胞は、付着性の培養地において適切に増殖され得(例えば、Johe、米国特許第5,753,506号(本明細書中で参考として援用される)を参照のこと)、そして本明細書中に記載されている方法および集団が、NS−ICの懸濁培養物に限定されないことが留意されるはずである。NS−ICは、ネスチン+であり、そしてニューロン、星状細胞、および稀突起神経膠細胞への適切な分化条件下で分化する能力を有する。
本発明は、例えば以下の項目を提供する。
(項目1) ニューロスフェア(NS−IC)を開始し得るヒトの中枢神経系の幹細胞(CNS−SC)について高度に富化された集団を産生するための、方法であって、以下:
(a)神経細胞または神経に由来する細胞を含有している集団を、モノクローナル抗体AC133またはモノクローナル抗体5E12によって認識される細胞表面マーカー上の決定基を認識する試薬と接触させる工程;および
(b)該試薬と工程(a)の細胞の表面上の該決定基との間で接触している細胞について選択して、CNS−SCについて高度に富化された集団を産生する工程、
包含する、方法。
(項目2) 前記試薬が、モノクローナル抗体AC133によって認識される前記細胞表面マーカー上の決定基を認識する抗体である、項目1に記載の方法。
(項目3) 前記試薬が、AC133モノクローナル抗体またはポリクローナル抗体である、項目2に記載の方法。
(項目4) 前記試薬が、AC133抗体または5E12抗体によって認識される前記細胞表面マーカーに対して結合するリガンドまたは低分子である、項目2に記載の方法。
(項目5) 前記試薬が、5E12モノクローナル抗体によって認識される前記細胞表面マーカー上の決定基を認識する抗体である、項目1に記載の方法。
(項目6) 前記試薬が、5E12モノクローナル抗体またはポリクリローナル抗体である、項目5に記載の方法。
(項目7) 前記試薬が蛍光色素を結合されている、項目1に記載の方法。
(項目8) 前記試薬が磁気粒子に対して結合されている、項目1に記載の方法。
(項目9) 前記選択工程がフローサイトメトリーによる、項目1に記載の方法。
(項目10) 前記選択工程が、蛍光活性化細胞選別または高勾配磁気選択による、項目1に記載の方法。
(項目11) 前記選択工程が、物理的陽性選択デバイスによる、項目1に記載の方法。
(項目12) 前記神経細胞または神経に由来する細胞を含有している集団が、神経組織を生じる任意の組織から得られる、項目1に記載の方法。
(項目13) 前記神経細胞または神経に由来する細胞を含有している集団が、神経組織から解離されている、項目1に記載の方法。
(項目14) 前記神経細胞または神経に由来する細胞を含有している集団が、胎児の脳、成体の脳、胎児の脊髄、または成体の脊髄に由来する、項目1に記載の方法。
(項目15) 前記神経細胞または神経に由来する細胞を含有している集団が、神経細胞培養物から得られる、項目1に記載の方法。
(項目16) 前記神経細胞または神経に由来する細胞を含有している集団が、ニューロスフェア培養物または付着性の単層から得られる、項目1に記載の方法。
(項目17) 項目1に記載の方法であって、
(c)前記神経細胞または神経に由来する細胞を含有している集団を、CD45抗原に結合する試薬と接触させる工程;および
(d)該細胞と、前記モノクローナル抗体AC133によってまたはモノクローナル抗体5E12によって認識される細胞表面マーカー上の決定基を認識する試薬との間で接触している細胞について選択し、そして該細胞と該CD45抗原に結合する試薬との間での減少した接触について選択する工程であって、その結果、AC133+CD45−である細胞、または5E12+CD45−である細胞、またはAC133+5E12+CD45−である細胞が選択される、工程、
をさらに包含する、方法。
(項目18) 項目1に記載の方法であって、以下:
(c)前記神経細胞または神経に由来する細胞を含有している集団を、CD45抗原に結合する試薬と接触させる工程;
(d)該神経細胞または神経に由来する細胞を含有している集団を、CD34抗原に結合する試薬と接触させる工程;および
(e)該細胞と、前記モノクローナル抗体AC133によってまたはモノクローナル抗体5E12によって認識される細胞表面マーカー上の決定基を認識する試薬との間で接触している細胞について、ならびに該細胞と該CD45抗原に結合する試薬との間、および該細胞と該CD34抗原に結合する試薬との間での減少した接触について選択する工程であって、その結果、AC133+CD45−CD34−である細胞、または5E12+CD45−CD34−である細胞、またはAC133+5E12+CD45−CD34−である細胞が選択される、工程、
をさらに包含する、方法。
(項目19) 項目1に記載の方法であって、以下:
(c)前記神経細胞または神経に由来する細胞を含有している集団を、モノクローナル抗体8G1によって認識される細胞表面マーカー上の決定基を認識する試薬と接触させる工程;
(b)該細胞と、前記モノクローナル抗体AC133によってまたはモノクローナル抗体5E12によって認識される細胞表面マーカー上の決定基を認識する試薬との間で接触している細胞について、ならびに該細胞と該モノクローナル抗体8G1によって認識される細胞表面マーカー上の決定基を認識する試薬との間での減少した接触について選択する工程であって、その結果、AC133+8G1−/loである細胞、または5E12+8G1−/loである細胞、またはAC133+5E12+8G1−/loである細胞が選択される、工程、
をさらに包含する、方法。
(項目20) 集団のニューロスフェアを開始する幹細胞(NS−IC)の画分について神経細胞の集団を富化するための方法であって、以下:
(a)NS−ICの画分を含む、神経細胞または神経に由来する細胞を含有する集団を、モノクローナル抗体AC133またはモノクローナル抗体5E12によって認識される細胞表面マーカー上の決定基を認識する試薬と混合する工程;および
(b)AC133+および/または5E12+細胞について選択する工程であって、ここで、AC133+または5E12+細胞は、該神経細胞の集団と比較した場合に、該NS−ICの画分が富化されている、工程、
を包含する、方法。
(項目21) ニューロスフェアを開始する幹細胞(NS−IC)を同定するための方法であって、
(a)神経細胞または神経に由来する細胞を含有している集団を、モノクローナル抗体AC133によってまたはモノクローナル抗体5E12によって認識される細胞表面マーカー上の決定基を認識する試薬と接触させる工程;および
(b)該神経細胞または神経に由来する細胞を含有している集団の細胞と、該モノクローナル抗体AC133によってまたはモノクローナル抗体5E12によって認識される細胞表面マーカー上の決定基を認識する試薬との間での接触を検出する工程であって、ここで、AC133+または5E12+であるとの細胞の同定により、NS−ICとして細胞を同定する、工程、
を包含する、方法。
(項目22) ニューロスフェアを開始する幹細胞(NS−IC)を単離するための方法であって、以下:
(a)NS−ICの画分を含む、神経細胞または神経に由来する細胞を含有する集団を、モノクローナル抗体AC133によってまたはモノクローナル抗体5E12によって認識される細胞表面マーカー上の決定基を認識する試薬と混合する工程;
(b)AC133+または5E12+細胞を選択する工程であって、ここで、該選択されたAC133+細胞または5E12+細胞は、該神経細胞の集団と比較した場合に、該NS−ICの画分において富化される、工程;
(c)NS−ICの増殖を支持し得る培養培地に、少なくとも1つのAC133+細胞または5E12+細胞を導入する工程;および
(d)該培養培地中で該AC133細胞+または該5E12+細胞を増殖させる工程、
を包含する、方法。
(項目23) 項目22に記載の方法によって産生された、細胞の集団。
(項目24) 前記NS−ICの増殖を支持し得る培養培地が、多能性の神経幹細胞の増殖を誘導しそして/または可能にするために有効な、1つ以上の予め決定された増殖因子を含有する無血清培地を含む、項目22に記載の方法。
(項目25) 前記NS−ICの増殖を支持し得る培養培地が、さらに、白血球阻害因子(LIF)、上皮増殖因子(EGF)、塩基性線維芽細胞増殖因子(FGF−2)、およびそれらの組合せからなる群より選択される増殖因子を含む、項目24に記載の方法。
(項目26) 前記NS−ICの増殖を支持し得る培養培地が、神経生存因子(NSF)をさらに含む、項目25に記載の方法。
(項目27) 以下を含有する、インビトロでの細胞培養組成物:
(a)AC133+CD45−細胞、または5E12+CD45−細胞において富化された集団;および
(b)該細胞の増殖を支持し得る培地。
(項目28) 以下を含有する、インビトロでの細胞培養組成物:
(a)AC133+CD45−CD34−細胞、または5E12+CD45−CD34−細胞において富化された集団;および
(b)該細胞の増殖を支持し得る培地。
(項目29) 以下を含有する、インビトロでの細胞培養組成物:
(a)AC133+8G1−/lo細胞、または5E12+8G1−/lo細胞において富化された集団;および
(b)該細胞の増殖を支持し得る培地。
(項目30) 以下を含有する、インビトロでの細胞培養組成物:
(a)AC133+8G1hi細胞、または5E12+8G1hi細胞において富化された集団;および
(b)該細胞の増殖を支持し得る培地。
(項目31) 以下を含有する、インビトロでの細胞培養組成物:
(a)ネスチンについてポジティブに染色し、そして分化を誘導する条件の存在下で、ニューロン、星状細胞、および稀突起膠細胞に分化する子孫細胞を産生する、少なくとも50%のAC133+、または5E12+ニューロスフェア開始細胞(NS−IC)を含有する集団;ならびに
(b)NS−ICの増殖を支持し得る培地。
(項目32) NS−ICが付着される固体支持体をさらに含有する、項目31に記載の組成物。
(項目33) 前記細胞の集団が、少なくとも70%のAC133+細胞または5E12+細胞を有する、項目31に記載の組成物。
(項目34) 前記細胞の集団が、少なくとも90%のAC133+細胞または5E12+細胞を有する、項目31に記載の組成物。
(項目35) 前記AC133+細胞または5E12―細胞の集団が、実質的に純粋な集団である、項目31に記載の組成物。
(項目36) 前記培地が、多能性の神経幹細胞の増殖を誘導するために有効な、1つ以上の予め決定された増殖因子を含有する無血清培地を含む、項目31に記載の組成物。
(項目37) 前記培地が、さらに、白血球阻害因子(LIF)、上皮増殖因子(EGF)、塩基性線維芽細胞増殖因子(FGF−2)、およびそれらの組合せからなる群より選択される増殖因子を含む、項目31に記載の組成物。
(項目38) 前記培地が、さらに、神経生存因子を含む、項目31に記載の組成物。
(項目39) 前記NS−ICがヒトNS−ICである、項目31に記載の組成物。
(項目40) ニューロスフェアを開始する幹細胞(NS−IC)を特徴付けるための方法であって、以下:
(a)単離されたAC133+細胞または5E12+細胞を、NS−ICの増殖を支持し得る培養培地に対して導入する工程;
(b)該培養培地中で該AC133+細胞または5E12+細胞を増殖させる工程;
(c)該単離されたAC133+細胞または5E12+細胞がニューロン、星状細胞、および稀突起膠細胞に分化する条件下で、該単離されたAC133+細胞または5E12+細胞の子孫を培養する工程;ならびに
(d)ニューロン、星状細胞、および稀突起膠細胞の存在を検出する工程であって、ここで、ニューロン、星状細胞、および稀突起膠細胞の存在は、該単離されたAC133+細胞または5E12+細胞をNS−ICとして特徴付ける、工程、
を包含する、方法。
(項目41) 前記単離されたAC133+細胞または5E12+細胞の子孫がニューロン、星状細胞、および稀突起膠細胞に分化する前記条件が、ウシ胎児血清(FBS)を含有し、そして有糸分裂促進性の増殖因子を含有しない培養培地中、ラミニンでコーティングされた表面上で、該単離されたAC133+または5E12+細胞の子孫を培養することを含む、項目40に記載の方法。
(項目42) ニューロスフェアを開始する幹細胞(NS−IC)の増殖に影響を与える増殖因子の存在を同定するための方法であって、該方法は、以下:
(a)NS−ICの増殖に影響を与える少なくとも1つの増殖因子を含有すると予想される組成物を、NS−ICを含有している組成物と混合する工程であって、ここで、該NS−ICは、AC133+または5E12+、ネスチン+として特徴付けられ、そしてニューロン、星状細胞、および稀突起膠細胞系統に分化し得る、工程;ならびに
(b)該組成物中の少なくとも1つの増殖因子の存在の関数として、該NS−ICの増殖を決定する工程であって、ここで、NS−ICの増殖に影響を与える少なくとも1つの増殖因子を含有していると予想される組成物と接触させていないNS−ICの増殖と比較した場合に、変化したNS−ICの増殖は、NS−ICの増殖に影響を与える増殖因子の組成物中の存在を示す、工程、
を包含する、方法。
(項目43) 前記増殖因子が神経生存因子である、項目42に記載の方法。
(項目44) 哺乳動物への移植のための、ニューロスフェアを開始し得る(NS−IC)ヒトの中枢神経系の幹細胞(CNS−SC)について高度に富化された集団の、使用。
(項目45) 前記集団が、培養培地中で増殖させられた、項目43に記載の使用。
(項目46) 前記集団が、フローサイトメトリーによって選択された、項目43に記載の使用。
(項目47) 前記集団が、単離されたNS−ICを含む、項目43に記載の使用。
(項目48) 前記移植が、中枢神経系に対してである、項目43に記載の使用。
(項目49) 前記移植が、哺乳動物の中枢神経系の外側の領域に対してである、項目43に記載の使用。
(項目50) 中枢神経系の障害のための医薬品の製造における、ニューロスフェアを開始し得る(NS−IC)ヒトの中枢神経系の幹細胞(CNS−SC)について高度に富化された集団の、使用。
(項目51) 造血性障害のための医薬品の製造における、ニューロスフェアを開始し得る(NS−IC)ヒトの中枢神経系の幹細胞(CNS−SC)について高度に富化された集団の、使用。
【0008】
本発明の1つの実施形態に従って、非造血性の幹細胞および始原細胞(好ましくは、NS−ICを含有しているCNSの神経幹細胞、および始原細胞)の富化された集団、およびこのような細胞を同定、単離、または富化するための方法は、少なくとも1つの幹細胞もしくはNS−IC、または始原細胞を含有している細胞の集団を、AC133抗体によって認識される表面マーカーの糖タンパク質抗原(「AC133抗原」)に結合する試薬と接触させることによって達成される。好ましい実施形態においては、試薬は、AC133抗体である(AC133抗体は、あるいは、「5F3」と本明細書中で呼ばれる)。次いで、免疫選択(例えば、FACS)のような細胞の選別のための伝統的な技術の使用によって、試薬とAC133抗原との間での接触が検出される細胞の、同定、単離、および/または富化が可能になる。
【0009】
別の実施形態においては、本発明は、本明細書中で5E12と呼ばれる、新規の抗体を提供する。この抗体は、非造血性の幹細胞および始原細胞(好ましくは、ニューロスフェアを開始し得る、CNSの神経幹細胞および始原細胞)の富化された集団を提供するために使用され得、そして少なくとも1つの幹細胞NS−IC、または始原細胞を含有している細胞の集団をAC133抗原以外の表面マーカーの糖タンパク質抗原に結合する5E12抗体と接触させることによってこのような細胞について同定、単離、または富化する方法において使用され得る。
【0010】
好ましい実施形態においては、本発明の細胞(好ましくは、CNSの神経幹細胞)は、CD45およびCD34についての細胞表面マーカーを欠失しているとしてさらに特徴付けられる。
さらなる実施形態においては、本発明は、本明細書中で8G1と呼ばれる、新規の抗体を提供する。この抗体は、CNSの神経幹細胞の集団(8G1−/loとして特徴付けられる)とCNSの始原細胞の集団(8G1+として特徴付けられる)との間での部分選択を可能にするCD24を認識すると考えられている。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、NS−ICの増殖および分化を説明する図である。
【図2】図2は、ニューロスフェアの培養が、単一の細胞に選別された5F3+細胞から開始され得ることを示す一連の写真である。
【図3】図3は、モノクローナル抗体5E12を使用する細胞表面マーカーを使用する、ヒトのCNS神経幹細胞の単離を示す、蛍光活性化細胞選別(FACS)データのドットプロットである。x軸は、CD34およびCD45に対する抗体についての細胞の染色を示す。y軸は、5E12抗体での細胞の染色を示す。
【図4】図4は、細胞表面マーカーによるヒトの神経幹細胞の単離を示す、FACS選別データの2つのパネルのドットプロットである。ヒトの胎児の脳の細胞を、記載されているように酵素的に解離した。パネルAは、5F3+細胞が、5E12抗体についての抗原を同時発現することを示す。パネルBは、5F3+細胞が、代表的には、8G1(CD24)抗体についての抗原を発現しないことを示す。
【図5】図5は、妊娠週数の関数としての、胎児の脳中の5F3+細胞の分布を示すチャートである。
【図6】図6は、NOD SCIDマウスへのヒトの神経細胞の移植の結果を示す、一連の写真である。
【図7】図7は、げっ歯類モデルに移植された場合に、5F3+に選別された細胞の子孫が吻方の移動性の流れ(RMS)を通じて移動することを示す、一連の写真である。
【図8】図8は、げっ歯類モデルに移植された場合に、5F3+に選別された細胞の子孫が嗅球中に(RMS)を通じて移動することを示す、一連の写真である。
【図9】図9は、AC133+細胞の特徴を示す。図9Aは、AC133の発現に基づく新しい胎児の脳細胞のフローサイトメトリーによる分離である。ヒトの胎児の脳細胞を、酵素的に解離した。細胞を、CD34、CD45、およびAC133に対するmAbで染色し、そしてAC133−画分およびAC133+画分に分離した。残りの造血性の細胞および内皮細胞を、CD45−およびCD34−をそれぞれ通過させることによって、排除した。選別されたAC133−(図9B)およびAC133+(図9C)のサブセットを、血清を含有していない培地中で培養し、そしてこれらの選別された細胞の増殖を、15日間モニターした。
【図10】図10は、限界稀釈および単一の細胞の選別による、NS−IC活性の定量的な分析を示す。図10Aは、細胞選別後の限界稀釈分析による、NS−IC活性の定量的な分析である。選別された細胞を、FACS−ACDUによって96ウェルプレート中に一連の限界細胞容量で配置した。図10Bは、神経幹細胞/始原細胞のクローンの拡大を示す。ニューロスフェアは、胎児の脳から直接単離された単一の選別されたAC133+細胞に、または選別され/拡大された培養されたニューロスフェアに由来する単一のAC133+細胞に由来し得る。図10Cは、クローンに由来するニューロスフェア細胞の分化能力を示す。単一の細胞に由来するニューロスフェアの子孫は、ニューロン(−チューブリン、緑)、および星状細胞(GFAP、赤)に分化され得る。
【図11】図11は、非神経形成性部位中のヒトの神経細胞の検出を示す。いくつかの場合においては、NOD−SCIDマウスの新生児の脳に注入されたヒトの神経細胞が、脳梁、大脳皮質、および小脳において検出された。
【図12】図12は、NOD−SCIDマウスのSVZ中に移植されたヒトのニューロスフェア細胞の子孫の、インビボでの長期間の増殖を示す。AC133+に選別され/拡大されたヒトのニューロスフェア細胞は、新生児のNOD−SCIDマウスの側方の脳室に移植された。ヒトの細胞の移植片を、移植から7ヶ月後に分析した。図12Aは、成体のマウスの脳の模式図である。ヒトの細胞の移植片が評価された部位を、図に示す。SVZ、脳室下の領域;RMS(吻方の移動性の流れ)。図12Bは、SVZ中でのヒトの神経細胞の検出を示す。移植されたマウスの脳の矢状方向の切片を、抗ヒト核抗原(FITC、緑)およびGFAP(Cy−5、青)で染色した。図12Cは、SVZ中での増殖しつつあるヒトの神経細胞の検出を示す。移植されたマウスの脳の矢状方向の切片を、抗ヒト核抗原(FITC、緑)、Ki67(Cy−3、赤)、およびGFAP(Cy−5、青)で染色した。SVZ中のヒト核抗原ポジティブ細胞のほとんどはまた、増殖マーカーであるKi67を同時発現した。
【図13】図13は、RMSおよび嗅球に移植されたヒトのニューロスフェア細胞の、インビボでの移動および分化を示す。AC133+に選別され/拡大されたヒトのニューロスフェア細胞を、新生児のNOD−SCIDの側方の脳室に移植した。ヒトの細胞の移植片を、移植から7ヶ月後に分析した。図13Aは、AC133+選別され/拡大されたニューロスフェア細胞の子孫がRMSを通じて移動することを示す。RMSにおいては、ヒト核抗原+細胞の整列もまた、Hoechst33234カウンター染色でポジティブ(ピンク)であった(i)。RMS中のヒトの核抗原ポジティブ細胞(Cy−3、赤)は、β−チューブリンの発現(Alexia 488、緑)と共局在化された(ii)。これらの細胞のいくつかは、明らかに二重ポジティブであった(ii、矢印)。別の切片においては、RMS中の細胞を、ヒト特異的N−CAM(FITC、緑)およびGFAP(Cy−5、青)で染色した(iii)。図13Bは、嗅球へのヒトの神経細胞の移動および分化を示す。嗅球においては、ヒト核抗原ポジティブ細胞は、嗅球の糸球体層中に分布された(iおよびii)。いくつかの場合においては、ヒトのN−CAM+ニューロン細胞を検出した(iii)。
【図14】図14は、海馬の歯状回中に移植されたヒトのニューロスフェア細胞の子孫の、インビボでの長期間の増殖および分化を示す。AC133+によって選別され/拡大されたヒトのニューロスフェア細胞を、新生児のNOD−SCIDマウスの側方の脳室に移植した。AC133+に選別され/拡大されたヒトのニューロスフェア細胞の新生児のNOD−SCIDマウスの側方の脳室への移植の7ヶ月後に、増殖しているヒトの細胞が、海馬において見出され得る。図14Aは、歯状回の顆粒状の領域の下での増殖しているヒトの神経細胞の検出を示す。移植されたマウスの脳の矢状方向の切片を、抗ヒト核(FITC、緑)、Ki67(Cy−3、赤)、およびGFAP(Cy−5、青)で染色した。いくつかのヒト核抗原+細胞を、Ki67で同時に染色した(矢印)。図14Bは、歯状回でのヒトのニューロンの検出を示す。移植されたマウスの脳の矢状方向の切片を、抗ヒト核抗原(Cy−3、赤)、および抗チューブリン(Alexia488、緑)で染色した。2つのヒト核抗原ポジティブ細胞の1つもまた、抗チューブリンについてポジティブであった(矢印)。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(発明の詳細な説明)
細胞の集団は、成体の中枢神経系(CNS)中に存在する。これは、成体のCNSの分化した成熟細胞の表現形を自己更新し、そしてそれを生じるそれらの能力において、幹細胞の特性を示す。これらの幹細胞は、CNSを通じて見出され、そして特に、脳室下の領域、および海馬の歯状回において見出される。
【0013】
増殖因子応答性の幹細胞は、中枢神経軸の多くの領域から、そしてマウス、げっ歯類、およびヒトのCNS組織の発達の異なる段階で、単離され得る。これらの細胞は、EGF、塩基性のFGF(bFGF、FGF−2)、および形質転換増殖因子α(TGFα)のような増殖因子に対するそれらの応答において変化し、そして長期間、分化していない状態で培養物中で維持され、そして拡大され得る。成体および胚性のマウスの始原細胞の両方が、EGFに対して応答し、そして未分化の細胞のスフェアとして増殖した。これらの細胞は、それらが多能性である点で幹細胞の特徴を示し、そして血清を含有している条件下では、ニューロン、星状細胞、および稀突起神経膠細胞に分化し得、EGFの投与下では未分化のままでありそして増殖し続ける部分集団を維持する。マウスのEGF応答性の始原細胞は、インビトロでEGFレセプターについてのmRNAを発現する。ヒトのCNSの神経幹細胞培養物はもまた、同定された。ヒトを含む哺乳動物の神経幹細胞培養物(懸濁培養物または付着培養物のいずれかとして)の同定、培養、増殖、および使用は、Weissら、米国特許第5,750,376号およびWeissら、米国特許第5,851,832号(両方とも、本明細書中で参考として援用される)に開示されている。同様に、Johe、米国特許第5,753,506号(本明細書中で参考として援用されている)は、付着CNS神経幹細胞培養物について言及している。懸濁物中で培養された場合には、CNSの神経幹細胞培養物は、代表的には、ニューロスフェアを形成する。
【0014】
図1は、NS−ICがニューロスフェアに発達し、そして続いてニューロンおよびグリアの表現形への分化、ならびにNS−ICの子孫の生成に発達するような、NS−ICの増殖を示す。1つ以上の増殖を誘導する増殖因子の存在下では、NS−ICは分裂し、そしてさらなる幹細胞および始原細胞から構成される未分化の細胞のスフェア(「ニューロスフェア」)を生じる。クローンに由来するニューロスフェアが解離させられ、そして単一の細胞として、1つ以上の増殖を誘導する増殖因子の存在下に置かれる場合には、それぞれのNS−ICが新規のニューロスフェアを生じ得る。単一のニューロスフェアの細胞は、天然においてはクローンである。なぜなら、これらは、単一の神経幹細胞の子孫であるからである。EGFなどのような増殖を誘導する増殖因子の持続的な存在下では、ニューロスフェア中の前駆細胞は分裂し続け、それによって、ニューロスフェアの大きさの増大を生じ、そして多数の未分化の神経細胞を生じる。ニューロスフェアは、グリア筋原線維の酸性タンパク質(GFAP;星状細胞についてのマーカー)、神経フィラメント(NF;ニューロンについてのマーカー)、ニューロン特異的エノラーゼ(NSE;ニューロンについてのマーカー)、またはミエリン塩基性タンパク質(MBP;稀突起神経膠細胞についてのマーカー)に対しては免疫反応性ではない。しかし、ニューロスフェア中の細胞は、未分化のCNS細胞の多くの型において見出される中間体フィラメントタンパク質であるネスチンについて免疫反応性である(Lehndahlら、60、Cell 585−595(1990)、本明細書中で参考として援用される)。Rat401と呼ばれるラットの抗体を含む抗体が、ネスチンを同定するために利用可能である。ニューロスフェアが、分化を可能にする条件下で培養される場合には、始原細胞は、ニューロン、星状細胞、および稀突起神経膠細胞に分化する。神経幹細胞の子孫に由来し得る分化した細胞型に関連する成熟表現形は、ネスチンの表現形については圧倒的にネガティブである。
【0015】
未分化の、多能性の、自己更新する神経細胞に使用される専門用語は、これらの細胞が、「神経幹細胞」と本明細書中で呼ばれるように、展開される。神経幹細胞は、分裂することが可能であるクローン原性の多能性の幹細胞であり、そして適切な条件下では、NS−ICについて自己更新する能力を有し、そして最終的にニューロン、星状細胞、および稀突起神経膠細胞に分化し得るその子孫の娘細胞を含み得る。従って、神経幹細胞は、幹細胞の子孫が多数の分化の経路を有するので、「多能性」である。神経幹細胞は、自己維持することが可能であり、このことは、それぞれの細胞の分裂を伴って、1つの娘細胞もまた幹細胞に平均されることを意味する。
【0016】
神経幹細胞の非幹細胞の子孫は、代表的には、「始原」細胞と呼ばれる。これは、1つ以上の系統において種々の細胞型を生じ得る。用語「神経の始原細胞」は、神経幹細胞に由来する未分化の細胞をいい、そして幹細胞自体ではない。いくつかの始原細胞は、1つより多くの細胞型に分化し得る子孫を生じ得る。例えば、O−2A細胞は、グリア始原細胞である。これは、稀突起神経膠細胞およびII型星状細胞を生じ、従って、「二官能性の」始原細胞と呼ばれ得る。始原細胞の識別特性は、幹細胞とは異なり、それが自己維持を示さないこと、そして代表的には、分化の特定の経路を約束されていないと考えられ、そして最終的には、適切な条件下で、グリアまたはニューロンに分化する。
【0017】
用語「前駆細胞」は、神経幹細胞の子孫をいい、従って、始原細胞および娘神経幹細胞の両方を含む。
【0018】
(細胞マーカー)本発明は、ニューロスフェアを形成し得る(NS−IC)神経幹細胞の、同定、単離、富化、および培養を提供する。NS−ICは、NS−ICの表面上に見出される抗原の、細胞表面抗原を特異的に結合する試薬への結合を通じて同定されるか、または選択される。
【0019】
これらの抗原の1つは、AC133モノクローナル抗体に結合する抗原である。AC133抗体(本明細書中では、5F3抗体と呼ばれる)は、プロミニンと呼ばれるヒトの細胞マーカーを認識する試薬の抗体の実施形態の例である。プロミニンは、種々の上皮細胞中で発現される多局所性(polytopic)膜タンパク質である(Weigmannら、94(23)Proc.Natl.Acad.Sci.USA.12425−30(1997);Corbeilら、112(Pt7)J.Cell.Sci.1023−33(1999);Corbeilら、91(7)Blood 2625−6(1998);Mirigliaら、91(11)Blood 4390−1(1998))。種々のAC133抗体が、本明細書中で参考として援用される、米国特許第5,843,333号に記載されている。マウスのハイブリドーマ細胞株AC133の寄託は、American Type Tissue Collection、12301 Parklawn Drive,Rockville Md.20852に、1997年4月24日に行われ、そしてATCC寄託番号HB12346が与えられた。これらのAC133抗体は、本発明の目的のヒト細胞のサブセットについて免疫選択され得る。好ましいAC133モノクローナル抗体は、Miltenyi Biotec Inc.(Auburn CA)から商業的に得られ得る。これには、AC133/1−PE抗体(Cat#808−01)およびAC133/2−PE抗体(Cat#809−01)が含まれる。MACS分離については、モノクローナル抗体の50:50混合物が好ましい。AC133発現の高い組織特異性は、高度に精製されたNS−IC集団についての富化の間に特に有利である。
【0020】
5E12は、酵素的に解離させられたヒトの胎児の脳細胞に対して生成された新規のモノクローナル抗体である。5E12モノクローナル抗体は、Yin、米国特許第5,843,633号(本明細書中で参考として援用される)に記載されている対側性の(contralateral)免疫化方法に実質的に従って生成された。5E12が結合する抗原は、推定のMW125kDを有し、そしてプロミニンに由来する別の抗原であると、現在考えられている。
【0021】
CD45は、T200/白血球共通抗原である。CD45に対する抗体は、市販されている。好ましい実施形態においては、本発明の細胞およびそれらを含有している培養物は、CD45のような細胞表面マーカーを欠失しているとして(プロミンポジティブであることに加えて)さらに特徴付けられる。
【0022】
CD34もまた、gp105−120として公知である。CD34に対するモノクローナル抗体は市販されており、そしてCD34モノクローナル抗体は、研究のため、および臨床的な骨髄移植のために、リンパ造血性幹細胞/始原細胞を定量および精製するために使用されている。
【0023】
モノクローナル抗体8G1は、CD24を認識する(CD24に対する抗体は市販されている)と考えられ、そして、515キロダルトン(細胞型の制限されたスペクトルにおいて発現されるヒトのLRP/A2MRの鎖)と特異的に反応する。強力な免疫組織化学的反応が、肝細胞、組織マクロファージ、中枢神経系におけるニューロンおよび星状細胞のサブセット、繊維芽細胞、平滑筋細胞、ならびに動脈壁中のアテローム性動脈硬化症の病変中の単球に由来する泡沫細胞において見られる。抗体はまた、慢性および球性の白血病(CD91)の骨髄単球性サブタイプのサブセットの特徴付けに使用され得る。CD91に対する抗体は市販されている。
【0024】
(細胞の蓄積)5E12.5および8G1.7被検培養物は、特許および登録商標の特許庁長官によって決定されたものに対して、米国特許法施行規則§1.14および米国特許法§122のもとでそれに対して権利を与えられた、それらを開示する特許出願の系属中に、利用可能である培養物に入手することを確実にする条件下で、寄託される。寄託物は、本出願の相当部分、またはその子孫が提出された国の外国の特許法によって必要とされる場合は、入手可能である。しかし、寄託物の利用可能性は、政府による指令によって特許権を与えられた特例において、本発明の実施のための特許使用権は構成しない。
【0025】
さらに、5E12.5および8G1.7の本発明の培養寄託物は、微生物の寄託についてのブダペスト条約の規則に従って、公に保存され、そして利用可能にされる。すなわち、これらは、寄託の日から少なくとも30年間、またはこの培養物を開示している発行し得る任意の特許の施行可能期間および寄託物のサンプルについての最新の請求後5年間の間、それらを生存可能かつ未混入の状態で維持するために必要な全ての注意を伴って保存される。寄託者は、寄託物を後継する義務を認識し、寄託機関は、寄託物の状態に起因して、請求された場合にサンプルを提供することが可能でないべきである。本発明の培養寄託物の公に対する入手可能性の全ての制限は、これらを開示する特許の認可に際して確定的に排除される。
【0026】
(細胞の単離、富化、および選択)NS−ICが単離される細胞の集団は、神経組織であり得、細胞の集団は、神経組織または細胞培養物中の細胞の集団(例えば、ニューロスフェア培養物中の細胞、または接着性神経幹細胞培養物中の細胞)から解離される。
【0027】
本発明は、NS−ICの単離および同定を提供する。ニューロスフェアを開始する幹細胞(NS−IC)の同定は、神経細胞の集団(または神経細胞もしくは神経に由来する細胞を含有している集団)にAC133抗原に結合する試薬を接触させる工程、およびAC133抗原に結合する試薬と細胞表面上のAC133抗原との間の接触を検出する工程を包含する。試薬が結合するこれらの細胞は、NS−ICとして同定される。これらの細胞の同定は、これら細胞が実際に、ニューロスフェアの開始、自己再生および多能性が可能であるNS−ICであることを実証するアッセイによって確認され得る。
【0028】
本発明の方法はまた、AC133抗体を使用して、AC133―細胞からAC133+細胞を単離するために使用され得る。これは、NS−ICの画分を含有する神経細胞の集団を、AC133抗原に特異的に結合する試薬と混合し、次いで、AC133+細胞についてAC133+NS−ICにおいて富化された選択された集団を生じる。選択することにより、それによって、選択前の神経細胞の集団と比較した場合に、
従って、本発明はさらに、神経組織または神経幹細胞培養物(例えば、ニューロスフェア懸濁培養物または神経幹細胞接着性培養物)由来のNS−ICの富化を提供する。従って、本発明は、幹細胞および始原細胞が低頻度で生じるか、あるいは枯渇され得る神経組織(例えば、後期胚、若年性組織、および成体組織)に由来するNS−ICの富化に有用である。当業者は、NS−ICの画分を含有している神経細胞の集団をAC133抗原に特異的に結合する試薬と混合し;そしてAC133+細胞を選択し得る。この方法において、選択されたAC133+細胞は、神経細胞の集団と比較した場合に、そのNS−ICの画分において富化される。
【0029】
細胞の選択は、フローサイトメトリー(例えば、蛍光色素結合体化AC133抗体を使用する蛍光活性化細胞選別による)を含む、当該分野で公知の任意の適切な手段により得る。選択はまた、磁性粒子に結合体化されたAC133抗体を使用する、高勾配磁気的選択により得る。固相への接着および固相からの脱接着を含む任意の他の適切な方法もまた、本発明の範囲内で意図される。
【0030】
当業者は、AC133抗体を使用する免疫選択によって細胞の集団を誘導し得る。細胞の集団は、少なくとも30%のAC133+NS−IC、好ましくは、少なくとも50〜70%のAC133+NS−IC、そしてより好ましくは、90%以上のAC133+NS−ICを含むはずである。最も好ましくは、AC133+NS−ICの実質的に純粋な集団であり、これは、少なくとも95%のAC133+NS−ICを含む。得られ、そして実際に使用される富化の程度は、選択の方法、増殖の方法、およびニューロスフェアの開始のために培養物中に配置される細胞の細胞用量を含む、多数の因子に依存する。
【0031】
細胞の集団は、後期胚、若年性または成体の哺乳動物中枢神経系(CNS)組織から誘導され得るか、あるいは、Weiss、米国特許第5,750,376号またはJohe、米国特許第5,753,506号に記載されているような、神経幹細胞の既存の培養物から誘導され得る。最も好ましい実施形態においては、NS−ICはヒトである。いくつかの実施形態においては、集団中のAC133+細胞は、内皮細胞に複合体化され得る。
【0032】
富化されたAC133+NSICの集団を含有している本明細書中で記載されるインビトロでの細胞培養物は、一般的には、ネスチン(nestin)についてポジティブであり、そして分化を誘導する条件の存在下で、ニューロン、星状細胞、および稀突起神経膠細胞に分化する始原細胞を生じる点で、特徴付けられる。
【0033】
当業者は、単離されたAC133+細胞を培養培地に導入し得、培養物中で単離されたAC133+細胞を;特に、ニューロスフェアとして増殖させ得;単離されたAC133+細胞がニューロン、星状細胞、および稀突起神経膠細胞に分化する条件下でこの単離されたAC133+細胞の子孫を培養し得;次いで、ニューロン、星状細胞、および稀突起神経膠細胞の存在を検出し得る。ニューロン、星状細胞、および稀突起神経膠細胞の存在は、単離されたAC133+細胞をNS−ICとして特徴付ける。
【0034】
代表的には、AC133+NS−ICは、ニューロスフェアの成長および増殖を可能にする培地中で培養される。単離されたAC133+細胞が増殖する培養物は、多能性の神経幹細胞の増殖を誘導するために有効な1つ以上の予め決定された増殖因子を含有する無血清培地であり得る。培養培地は、白血球阻害因子(LIF)、上皮増殖因子(EGF)、塩基性繊維芽細胞増殖因子(FGF−2;bFGF)、またはそれらの組合せから選択される増殖因子で補充され得る。培養培地は、神経生存因子(NSF)(Clonetics、CA)でさらに補充され得る。AC133+細胞がニューロン、星状細胞、および稀突起神経膠細胞に分化する条件は、EGF、FGF−2またはLIFを含有しないウシ胎児血清(FBS)を含有する培養培地中で、ラミニンでコーティングされた表面上でAC133+細胞の子孫を培養し得る。
【0035】
本発明はまた、NS−ICの増殖に影響を与える増殖因子の存在を同定するための方法を提供する。当業者は、NS−ICを含有する組成物と、NS−ICの増殖をもたらす少なくとも1つの増殖因子を含有することが予想される組成物を混合し、次いで、NS−ICの増殖を決定組成物の存在の関数として決定する。変更された(増大した、減少したなど)NS−ICの増殖は、NS−ICの増殖をもたらす増殖因子の組成物中の存在を示す。次いで、当業者はさらに、増殖因子を同定し得る。
【0036】
(AC133に対する抗体)AC133に対する抗体は、米国特許第5,843,633号(本明細書中で参考として援用されている)において議論されているように、入手され得るかまたは調製され得る。AC133抗原は、種々のAC133モノクローナル抗体(これは、AC133抗原に対して特異性を有する)のような抗体と接触させられ得る。AC133抗体は、還元性のSDS−PAGEゲルによるウェスタンブロット条件下でAC133タンパク質に結合することによって特徴付けられる。AC133抗原は、市販のスタンダードに基づいて、約117kDaの範囲の分子量を有する。AC133抗原は、ヒト骨髄、胎児骨髄および肝臓、臍帯血、ならびに生体の末梢血に由来する始原細胞のサブセット上で発現される。
【0037】
AC133抗原に対する抗体は、異種免疫応答性を有する哺乳動物宿主(マウス、げっ歯類、ウサギ目、ヒツジ、ブタ、ウシなどを含む)を、ヒト始原細胞で免疫することによって得られ得る。特定の宿主の選択は、主に簡便なものであり得る。免疫化のために適切な始原細胞の集団は、サイトカインが動員された末梢血、骨髄、胎児臓肝臓などからCD34+細胞を単離することによって得られ得る。免疫化のために適切な始原細胞の集団は、CNS神経幹細胞または他のNS−ICから得られ得る。免疫化は、細胞が、皮下、筋肉内、腹膜内、脈管内などで注射され得る、従来技術に従って行われる。通常は、約106から108個までの細胞が、使用される。これは、1回以上の注射に分けられ得、通常は、約8回以下の注射に分けられ、約1から3週間までの期間にわたる。注射は、例えば、アジュバント(完全または不完全フロイトアジュバント、スペコール(specol)、ミョウバンなど)を伴って、または伴わずに行われ得る。
【0038】
免疫化スケジュールの完了後、抗血清は、始原細胞の表面膜タンパク質(AC133抗原を含む)に特異的な多角形(polygonal)の抗血清を提供するための従来の方法に従って、回収され得る。リンパ球は、適切なリンパ系組織(例えば、脾臓、流入領域リンパ節(draining lymph node)など)から回収され、そして適切な融合パートナー(通常は、骨髄腫株)と融合され、それによって特異的なモノクローナル抗体を分泌するハイブリドーマを産生する。目的の抗原特異性についてのハイブリドーマのクローンのスクリーニングは、従来の方法に従って行われる。
【0039】
AC133抗体は、通常の多量体構造の代わりに、単鎖として産生され得る。単鎖抗体は、Jostら、269 J.Biol.Chem.26267−73(1994)(本明細書中で参考として援用されている)などに記載されている。重鎖の可変領域および軽鎖の可変領域をコードするDNA配列は、グリシンまたはセリンを含む、少なくとも約4個のアミノ酸の小さい中性のアミノ酸をコードするスペーサーに対して連結される。この融合体によってコードされるタンパク質は、元々の抗体の特異性および親和性を保持する機能的な可変領域のアセンブリを可能にする。
【0040】
AC133抗体は、キメラ免疫グロブリン遺伝子の構築のためのIg cDNAの使用によって産生され得る(Liuら、84 Proc.Natl.Acad.Sci.3439(1987)および139 J.Immunol.3521(1987)(本明細書中に参考として援用されている))。mRNAは、抗体を産生するハイブリドーマまたは他の細胞から単離され、そしてcDNAを産生するために使用される。目的のcDNAは、特異的プライマーを使用してポリメラーゼ連鎖反応によって増幅され得る(米国特許第4,683,195号および同第4,683,202号)。あるいは、ライブラリーを作製し、そして目的の配列を単離するためにスクリーニングする。次いで、この抗体の可変領域をコードするDNA配列が、ヒトの定常領域配列に対して融合される。ヒトの定常領域遺伝子の配列は、Kabatら、Sequence of Proteins
of Immunological Interest、N.I.H.publication No.91−3242(1991)に見出され得る。ヒトC領域遺伝子は、公知のクローンから容易に入手可能である。次いで、キメラのヒト化抗体が、従来の方法によって発現される。
【0041】
AC133抗体は、Fv、F(ab’)2、およびFabのような抗体フラグメントとして産生され得る。抗体フラグメントは、インタクトなタンパク質の切断によって(例えば、プロテアーゼによるか、または化学的な切断による)調製され得る。あるいは、短縮型の遺伝子が設計される。例えば、F(ab’)2フラグメントの一部をコードするキメラ遺伝子は、H鎖のCH1ドメインおよびヒンジ領域をコードするDNA配列、それに続く翻訳終止コドンを含み、短縮の分子を生じる。
【0042】
(免疫染色)生物学的サンプルは、対象の抗体によって結合された表面分子を発現する細胞の存在についての任意の従来のイムノアッセイ方法によって、AC133+細胞の存在についてアッセイされる。アッセイは、細胞の溶解物、インタクトな細胞、凍結切片などについて行われ得る。Miltenyi Biotec Inc.(Auburn CA)から入手可能な抗体は、細胞の直接的な免疫蛍光染色に適切である。
【0043】
(細胞の選別)NS−IC細胞に対する細胞表面抗原の使用は、始原細胞集団のポジティブな免疫選択ならびにフローサイトメトリーを使用する始原細胞集団の表現型分析のための手段を提供する。AC133抗原の発現について選択された細胞は、さらに、他の幹細胞および始原細胞マーカーについての選択によって精製され得る。
【0044】
実質的に純粋な始原細胞および幹細胞の調製のために、始原細胞のサブセットが、AC133結合に基づいて他の細胞から分離される。始原細胞および幹細胞は、当該分野で公知の他の表面マーカーに結合させることによって、さらに分離され得る。
【0045】
分離のための手順は、磁気的分離(抗体でコーティングされた磁性ビーズを使用する)、アフィニティークロマトグラフィー、および固体マトリクス(例えば、プレート)に結合された抗体での「パニング」、または他の従来技術を含み得る。正確な分離を提供する技術として、蛍光活性化細胞選別機が挙げられる。これは、複数の色のチャネル、鋭角および鈍角の光の散乱を検出するチャネル、インピーダンスチャネルなどのような、種々の程度の精巧性を有し得る。死細胞は、死細胞に関連する色素(ヨウ化プロピジウム[PI]、LDS)での選択によって排除され得る。選択された細胞の生存性について過度に有害でない任意の技術が、使用され得る。
【0046】
簡便には、抗体は、特定の細胞型の分離を容易にすることを可能にするための標識(例えば、磁性ビーズ;ビオチン(これは、アビジンまたはストレプトアビインに対して高い親和性を有して結合する);蛍光色素(これは、蛍光活性化細胞選別機とともに使用され得る);ハプテンなど)と結合体化され得る。多色分析は、FACSとともに、または免疫磁気的分離とフローサイトメトリーとの組合せにおいて使用され得る。多色分析は、複数の表面抗原(例えば、AC133+CD45−、AC133ーCD34+など)に基づく細胞の分離のために関心深い。多色分析における使用を見出されている蛍光色素として、フィコビリンタンパク質(例えば、フィコエリトリンおよびアロフィコシアニン);フルオレセイン、およびテキサスレッドが挙げられる。ネガティブな指示は、染色のレベルが、アイソタイプ適合ネガティブコントロールの明るさ以下であることを示す。かすかな指示は、染色のレベルが、ネガティブの株のレベルに近く得るが、またアイソタイプ適合コントロールよりも明るくあり得ることを示す。
【0047】
1つの実施形態においては、AC133抗体は、磁性試薬(例えば、超常磁性微粒子(微小粒子)に対して直接的または間接的に結合体化される。磁性粒子への直接的な結合体化は、当該分野で公知の種々の化学連結基の使用によって達成される。抗体は、側鎖のアミノ基またはスルフヒドリル基、ならびにヘテロ官能性の交差連結試薬を介して、微粒子にカップリングされ得る。多数のヘテロ官能性の化合物が、実体への連結のために利用可能である。好ましい連結基は、抗体上の反応性スルフヒドリル基および磁性粒子上の反応性アミノ基を用いる、3−(2−ピリジジチオ)プロピオン酸N−ヒドロキシスクシンイミドエステル(SPDP)または4−(N−マレイミドメチル)−シクロヘキサン−1−カルボン酸N−ヒドロキシスクシンイミドエステル(SMCC)である。
【0048】
あるいは、AC133抗体は、磁性粒子に対して間接的にカップリングされる。この抗体は、ハプテンに対して直接的に結合体化され、そしてハプテン特異的な第2段階の抗体が、粒子に結合体化される。適切なハプテンとして、ジゴキシン、ジゴキシゲニン、FITC、ジニトロフェニル、ニトロフェニル、アビジン、ビオチンなどが挙げられる。タンパク質へのハプテンの結合体化のための方法(すなわち、当該分野で公知である)、およびこのような結合のためのキットは、商業的に入手可能である。
【0049】
この方法を実行するために、AC133抗体が細胞のサンプルに対して添加される。特定の細胞のサブセットに対して結合するために必要なAC133 Abの量は、試験分離および分析を実行することによって経験的に決定される。細胞およびAC133抗体は、複合体が形成させるために十分な時間(通常は少なくとも5分間、より通常は少なくとも10分間、そして通常は1時間以下、より通常は約30分以下)でインキュベートされる。
【0050】
さらに、細胞は、始原細胞または幹細胞上に存在するかまたは存在しないことが公知である細胞表面マーカーに対して特異的な抗体または結合分子とともにインキュベートされる。
【0051】
標識された細胞は、特異的な抗体の調製に従って分離される。蛍光色素で標識された抗体は、FACS分離、免疫磁気的選択(特に、高勾配の磁気的選択(HGMS))のための磁性粒子などに有用である。例示的な磁気的分離デバイスは、WO90/07380、PCT/US96/00953、およびEP438,520に記載されている。AC133 Cell Isolation Kit(Miltenyi Biotec Inc.,Auburn CA)は、AC133+細胞のポジティブ選択のために使用され得る。このキットは、AC133+細胞の単一の工程での単離のためのツールを提供する。AC133 Cell Isolation Kitは、FcRブロック試薬(FcR Blocking Reagent)およびモノクローナルマウス抗ヒトAC133抗体に結合体化されたMACSコロイド状マイクロビーズ(MACS colloidal MicroBeads)を含む。
【0052】
精製された細胞の集団は、任意の適切な培地中に回収され得る。ダルベッコ改変イーグル培地(dMEM)、ハンクス塩基性塩溶液(HBSS)、ダルベッコリン酸緩衝化生理食塩水(dPBS)、RPMI、Iscove’s改変ダルベッコ培地(IMDM)、5mM EDTA含有リン酸緩衝化生理食塩水(PBS)などを含む、種々の培地が商業的に入手可能であり、そして使用され得る。これらはしばしば、ウシ胎児血清(FCS)、ウシ血清アルブミン(BSA)、ヒト血清アルブミン(HSA)などで補充される。
【0053】
ヒトの始原細胞または幹細胞について高度に富化された集団は、この様式において達成される。所望される細胞は、30%以上の細胞の組成物であり、好ましくは、50%以上の細胞集団、より好ましくは、90%以上の細胞集団であり、そして最も好ましくは、95%以上(実質的に純粋な)の細胞集団である。
【0054】
(精製された幹細胞/始原細胞の使用)AC133+幹細胞/始原細胞が、種々の方法において有用である。AC133+細胞は、その細胞が疾患または損傷によって失われた宿主を再構成するために使用され得る。細胞に関連する遺伝的な疾患は、遺伝的な欠損を修正するか、または疾患に対して防御するように処置するために、自己幹細胞または同種異系幹細胞の遺伝的改変によって処置され得る。あるいは、正常な同種異系の始原細胞が移植され得る。ホルモン、酵素、増殖因子などの特定の分泌された生成物の欠損に関連する、細胞に関連する疾患以外の疾患もまた、処置され得る。CNS障害は、神経変性性の疾患(例えば、アルツハイマー病およびパーキンソン病)、急性脳損傷(例えば、発作、頭部の損傷、脳性麻痺)、および多数のCNS不全(例えば、うつ病、てんかん、および精神分裂病)のような多数の苦痛を含む。最近の数年間においては、神経変性性の疾患は、これらの障害についてのもっとも大きな危険性を有する高齢者の集団が増大しつつあることに起因して、重要な関心となっている。アルツハイマー病、多発性硬化症(MS)、ハンチントン病、筋萎縮性側索硬化症、およびパーキンソン病を含むこれらの疾患は、CNSの特定の位置における神経細胞の変性に関連しており、これによって、これらの細胞または脳領域が、それらの意図される機能を実行することを不可能にする。特異的な異なる増殖因子による1つ以上の選択された系統への成熟、増殖、および分化を提供することによって、始原細胞は、約束された細胞の供給源として使用され得る。ニューロスフェアはまた、種々の血液細胞型(骨髄性細胞およびリンパ系細胞、ならびに初期の造血細胞を含む)を産生するためにも使用され得る(Bjornsonら、283、Science 534(1999)(本明細書中で参考として援用されている)を参照のこと)。
【0055】
AC133+細胞もまた、細胞の分化および成熟に関連する因子の単離および評価において使用され得る。従って、細胞は、培地(例えば、馴化培地)の活性を決定するためのアッセイ、増殖因子活性、系統の専門性(dedication)との関係などについて、体液を評価するためのアッセイなどにおいて使用され得る。
【0056】
AC133+細胞は、液体窒素温度で凍結させられ得、そして長期間貯蔵され得、融解され得、そして再度使用され得る。細胞は、通常は、5%のDMSOおよび95%のウシ胎児血清中で保存される。一旦融解されると、細胞は、幹細胞の増殖および分化に関連する増殖因子または間質細胞の使用によって、拡大され得る。
【0057】
以下の実施例は、本発明の好ましい実施形態をより完全に説明するために示される。これらの実施例は、添付の特許請求の範囲によって定義されるような、本発明の範囲を限定するようには決して解釈されないべきである。
【実施例】
【0058】
(実施例1)
(AC133磁気的細胞選別(MACS)でポジティブ選択された胎児脳細胞は、ニューロスフェア惹起細胞(NS−IC)活性を含む)
AC133+細胞は、以下の方法によって調製される:ヒト胎児脳(FBR10〜20妊娠週数[「g.w.」])を、インフォームドコンセントを得た後で、Advanced Bioscience Resource,INC(Oakland、CA)から得た。ヒト胎児脳組織をメスを使用して1〜3mmの立方体の切片に切断し、50mLの遠心分離チューブ中に移し、そして0.02%のEDTA/PBS溶液で1回洗浄した。組織を、コラゲナーゼおよびヒアルロニダーゼの存在下で37℃で1時間酵素的に解離させた。細片および凝集物を、70ミクロンのフィルターカップを通して細胞懸濁物を濾過することによって除去した。
【0059】
AC133+のヒト胎児脳細胞を、常磁性抗体マイクロビーズ、AC133/1 Cell Isolation Kit(Cat.#508−01、Miltenyi Biotec,Auburn,CA)を使用することによって分離した。MACS分離を、キットに添付されている説明書に基づいて行った。代表的なAC133+の単離物からの代表的なフローサイトメトリー性MACS分離において、約44%の細胞がAC133+CD45−であり、一方、約2%がCD34+であった(これらのCD34+細胞は、精製されたNS−ICに複合体化された内皮細胞であった)。
【0060】
上記の方法(18g.w.の脳を使用する)によって得られたAC133+選択細胞は、なお異種であった。この細胞は、内皮細胞と複合体を形成する傾向にあった。内皮細胞を、CD34+またはCD105+として同定した。AC133
MACS分離はまた、AC133+細胞に関連するCD34+内皮細胞を富化する(継代後、NS−ICは複合体化した内皮細胞から分離し、そして精製されたNS−ICが得られ得る)。
【0061】
AC133+のMACS分離された細胞を、上記のように、EGF、FGF−2、およびLIFを含有している培地の存在下で培養した。一般的には、初期の妊娠期間の胎児脳(5〜12g.w.)に由来する細胞を、NS−ICについて富化し、そして富化は、ニューロスフェア培養物を開始するためには必要ではなかった。一方、より高週齢の胎児脳サンプル(16〜20g.w.)に由来する細胞は、はるかに低いNS−IC活性を含み、そしてニューロスフェア培養物を開始するために富化を必要とした。換言すると、AC133+は、より妊娠期間の長いヒト脳組織からのNS−ICの富化に有用である。胎児脳(18g.w.)に由来するAC133+のMACS分離された細胞は、NS−IC活性について富化されたが、一方、AC133+のMACS分離を伴わない全ヒト胎児脳細胞(18g.w.)は、ニューロスフェア培養物を開始しなかった。
【0062】
AC133 MACS細胞から樹立されたニューロスフェア細胞は、培養物中で約7日目以後に試験し、そしてウサギ抗ヒトネスチンポリクローナル抗体によって検出されたように、ネスチンを発現した。例えば、Cyto Therapeutics(Sunnyvale,CA)から入手可能であるニューロスフェア細胞の中でも、FBR 1069(18g.w.)、およびFBR 1070(20g.w.)がネスチンを発現した。分化が誘導された場合は、AC133+MACS由来ニューロスフェア細胞は、ニューロンについてのβ−チューブリン染色および星状細胞についてのGFAP染色によって検出されるように、ニューロンおよび星状細胞に分化し得る。この特定の分化アッセイにおいて、ニューロスフェア細胞を、1%のFBSの存在下で、そしてEGF、FGF−2、およびLIFを含まない、ラミニンコーティングした表面上で培養した。
【0063】
他の分化アッセイが、ニューロン、星状細胞、および稀突起神経膠細胞へのNS−ICの分化を誘導するために使用され得る。
【0064】
(実施例2)
(AC133は長期間のニューロスフェア(neurosphere)培養によって細胞上に発現される重要な細胞表面マーカーである)
長期間のニューロスフェア細胞の培養物である、8.5 FBRを、Cyto
Therapeutics Inc.(Providence,RI)から入手した。8.5 FBRニューロスフェア細胞は、比較的均質にAC133を発現する。これらの8.5FBR細胞はまた、Thy−1+、CD166+、およびHLA−DR+でもある。基本的な培地としてEx Vivo 15を使用した場合は、高い割合のニューロスフェア培養が、18g.w.に由来する初代の脳組織から開始された。従って、発達しつつあるニューロスフェア培養物中の細胞のAC133+画分を評価することが可能である。AC133+細胞の割合は、ニューロスフェアの発達に伴って増大した。一旦、ニューロスフェア細胞が十分に確立されると、ニューロスフェアを形成する実質的に全ての細胞がAC133を発現した。
【0065】
(実施例3)
(ニューロスフェアを開始する細胞はモノクローナル抗体AC133、フローサイトメトリーによる細胞選別(FACS)アプローチを使用して分離され得る)
この実施例の目的は、AC133+細胞が多能性のNSC活性を有する脳中の唯一の細胞であるかどうかを試験することである。ヒトのCD45に対するmAbを、胎児の組織中の血液細胞の混入物を除くために使用した。いくつかの場合においては、ヒトのCD34に対する抗体を、内皮細胞および内皮性の神経先祖複合体(endothelial−neural progenitor complex)を排除するために使用した。従って、胎児の脳細胞を、CD45−CD34−と定義した。神経幹細胞および最初の先祖(progenitor)活性を測定するために、NS−ICアッセイを、所定の集団中のNS−ICの頻度を決定するために確立した。NS−ICが稀であり、そしてAC133抗原を均一に発現する場合には、NS−ICを、AC133+選択によって富化し得、そして他の画分においては同様に枯渇し得た。
【0066】
(モノクローナル抗体の供給源)AC133抗原を、2つのmAb(AC133/1およびAC133/2)によって定義した。これらの両方ともが、フィコエリトリンと結合している。これらはMiltenyi Biotec(Auburn,CA)を通じて入手可能である。抗ヒトCD45−FITCおよびグリコフィリン(Glycophrin)A−FITCを、CALTAG(Burlingame,CA)およびCoulter(Miami,FL)からそれぞれ入手した。抗ヒトアロフィコシアニン結合CD34を、BDIS(San Jose,CA)から入手した。
【0067】
(細胞調製物)FBRを、コラゲナーゼおよびヒアルロニダーゼによって解離させ、そしてこれらはなお内皮性の先祖複合体を含んだ。これは、単一の細胞懸濁物中の候補のNSCの単離を妨げた(内皮細胞はCD45+である)。この内皮細胞−NS−IC複合体を解離させるために、上記のように処理したFBR細胞をさらに、10〜15分間、トリプシンで処理した。AC133抗原、CD45抗原、およびCD34抗原は、トリプシン処理について耐性であったが、一方グリコフィリンAは感受性であった。
【0068】
トリプシン消化後、細胞を洗浄し、そしてCD45、グリコフィリンA、AC133、およびCD34に対するmAbで染色した。免疫磁気性のビーズでの選択は使用しなかった。細胞を、氷上で20〜60分間インキュベートした。最後の洗浄後に、細胞を、1μg/mLのよう化プロピジウム(PI)を含有しているHBSS溶液中に再懸濁した。標識した細胞を分析し、そして二重レーザーFACS(Beckton Dickinson,San Jose)で選別した。死亡した細胞を、それらのPI染色特性によって分析から排除した。選別した後、選別した細胞の集団の純度を、FACS再分析によってチェックした。AC133+CD45−細胞(NS−IC、約5%の出発細胞)およびAC133−CD45−細胞(約87%の出発細胞)の、選別の前および選別の後での代表的なFACSプロフィールを行った。
【0069】
(NS−IC活性はAC133+サブセットにおいては高度に富化されるが、AC133−サブセットにおいては高度には富化されない)FBR細胞(代表的には、16〜20g.w.)を、代表的には、CD45−CD34−AC133−およびCD45−CD34−AC133+画分に選別した。有意なNS−IC活性は、FBR中のCD45+またはCD45−CD34+の集団中には残っていなかった。
【0070】
選別した細胞を、上記のニューロスフェア培地中で培養した。代表的には、Ex Vivo 15またはEx Vivo 15、D−MEM、F−12培地の組合せを、基本的な培地として使用した。ニューロスフェアの発達を最大にするために、選別した細胞を、代表的には、LIF、FGF−2、EGF、および神経生存因子NSF(Cat.CC−4323,Clonetics,San Diego,CA)の存在下で培養した。
【0071】
単一の細胞懸濁物を、細胞の選別後に得た。インビトロでの培養の4〜5日後に、AC133+細胞は増殖を開始し、そして小さいニューロスフェアが培養の開始後8〜10日で観察された。細胞は、NSFを伴わないLIF、FGF−2、EGFの存在下で培養した場合に、ニューロスフェアを開始し得た。ニューロスフェア培養物は、AC133+CD45−またはAC133+CD45―CD34−に選別された4つのFBR組織(18−20g.w.)のうちの4つから開始した。
【0072】
対照的に、AC133−CD45−FBR細胞を、LIF、FGF−2、およびEGFの存在下で培養物中に配置した場合には、ごくわずかなニューロスフェアの形成が見られ、そして新しいフラスコに継代することはできなかった。さらにNSFを増殖培地に添加した場合には、いくつかのニューロスフェアの開始が観察された。従って、AC133−CD45−FBR細胞を、NS−ICの有意な量で枯渇させた。
【0073】
(実施例4)
(NS−IC細胞について富化させるためのAC133+細胞の分離)
AC133+細胞の分離は、組織に由来するNS−IC細胞を富化させるために有効に使用され得る。さらに、AC133+細胞の分離は、確立された調製物に由来するNS−ICについてさらに富化し得る。1つの試験においては、解離させられたニューロスフェア(Cyto Therapeutics,Providence,RI)のAC133+細胞の選別は、大きく富化されたNS−IC培養物を提供し、そして増大したニューロスフェアの確立を示す。この培養物を使用すると、それぞれのウェル中でニューロスフェアを開始するために必要とされる細胞用量(すなわち、100%ポジティブ)は、3,000〜10,000個の細胞から約30個の細胞にまで減少させることができる(以下の表1を参照のこと)。
【0074】
【表1】
表1に示すように、本明細書中で使用した(g.w.20)富化していない新しい脳組織(「FBR」)は、全てのウェル中でニューロスフェアを開始するための、3,000から10,000個の間の細胞用量を必要とするそのような数で、NS−ICを含み得る。本発明の方法を使用することによって、富化された集団を得ることができ、その結果、1,000個またはそれ未満の細胞およびより好ましくは富化された集団の用量が必要とされ、その結果、100個の細胞未満である細胞用量が必要とされる。表1に示すように、本明細書中では富化は、わずか約30個の細胞の細胞用量がそれぞれのウェル中でのニューロスフェア培養物を確立するために1つのウェル当たりに必要とされるように、達成されている。表1はまた、集団をAC133+細胞中で枯渇させる場合(FBR 1104 AC133neg.に選択された細胞)には、これらの集団からのニューロスフェア培養物の確立が明らかに減少することを示す。
【0075】
(定量的なNS−ICアッセイ)NS−ICの存在についてアッセイするために、多能性のNS−ICを含有していると予想される細胞の集団を、クローンの発達に供する。細胞を、ニューロスフェアを形成するように増殖培地中で増殖させ、次いで、ニューロン、星状細胞、およびオリゴ樹状細胞を形成するように分化を誘導する。ニューロン、星状細胞、およびオリゴ樹状細胞の存在は、免疫染色によって示され得る。例えば、β−チューブリンの存在についてのニューロンの染色;GFAPの存在についての星状細胞の染色;およびO4の存在についてのオリゴ樹状細胞の染色。
【0076】
定量的なNS−ICアッセイを、精製していない組織細胞に対して、AC133+に選別した細胞に対して、そしてクローンのニューロスフェア細胞株に対して行い得る。
【0077】
(実施例5)
(NS−ICの増殖および継代のための細胞培養培地)
Weissら、米国特許第5,750,376号およびWeissら、米国特許第5,851,832号は、「多能性の神経幹細胞の増殖を誘導するのに有効な1つ以上の予め決定された増殖因子を含有している培養培地」、および「分化を誘導する条件」を開示している。しかし、以下を含むが、これらに限定されない、異なる基本的な培地を使用し得る:
D−MEM/F12(Gibco BRL,Gaithersburg,MD);
Ex Vivo 15(Bio Whittaker,Walkersville,MD);
神経先祖基本培地(Clonetics.San Diego,CA);または、
上記の基本培地の組合せ。
【0078】
ヒトのニューロスフェア細胞を培養するための代表的な培地処方物を、表2に提供する。
【0079】
【表2】
EGFを、培地を濾過した後に、ヒトのニューロスフェアについての100mlの基本培地に添加する。EGFは、培地中では比較的安定である、FGF−2およびLIFを、使用するために培地を準備するときに添加する。補充試薬の最終濃度は以下のとおりである:
5mg/ml インシュリン
100g/ml ヒトのトランスフェリン
6.3ng/ml プロゲステロン
16.1ng/ml プトラシン(Putrascine)
5.2ng/ml セレナイト
20ng/ml EGF
20ng/ml FGF−2
10ng/ml LIF
2g/ml ヘパリン
2mM L−グルタミン
6mg/ml グルコース
培地処方物の最適化は、確立される初代の脳組織から開始される高い割合のニューロスフェアを可能にする。本発明者らは、Ex Vivo 15培地を好む。培地処方物の最適化もまた、より一定のニューロスフェアの増殖可能にする。ニューロスフェアの発達を最大にするためには、NS−ICを、代表的には、LIF、bFGF、EGF、および神経生存因子NSF(Cat.CC−4323,Clonetics,San Diego,CA)の存在下で培養する。1つの試験においては、トリプシン処理したFBR 1101神経細胞およびトリプシン処理したFBR 1104神経細胞(Cyto Therapeutics,Sunnyvale,CA)の両方が、LIF,bFGF、EGF、およびNSFを有するEx Vivo 15培地中で培養した場合に、増大した増殖を示す。
【0080】
(実施例6)
(細胞の選別による胎児の脳に由来するヒトの神経幹細胞の直接的な単離)
広範囲のニューロンを再生し得る高度に定義された移植可能なヒト細胞の大量の供給源は、神経退行性の障害の処置のための有効な治療用産物であり得る。ヒトの神経幹細胞(NSC)の富化のための再現性のある方法を定義するために、本発明者らは、蛍光活性化細胞選別(FACS)によってNSCを同定しそして精製するための、ヒトの神経細胞の表面マーカーに対して指向されたモノクローナル抗体(mAb)を開発し、そして使用した。FACSおよび免疫組織化学的分析に基づいて、2つのmAb(5F3および5E12)を同定した。これらは、胎児の脳細胞の小さなサブセットを定義し、そしてCNS幹細胞を含有することが公知の部位である、脊髄(12g.w.)の底板および上衣層中の細胞に対して特異的な反応性を提示した。これらのmAbは、FBR細胞の5%未満を染色し、そして長期間のニューロスフェアの培養物に由来する95%以上の細胞がポジティブであった。
【0081】
一例として、2つの細胞の集団(5F3+CD34−CD45−(5F3+)および5F3−CD34−CD45−(5F3−))を選別し、そしてニューロスフェアの培養を開始するそれらの能力について試験した。5F3+サブセットは、ニューロスフェアを開始する細胞活性について高度に富化された;これらは、培養物中で8〜10日までに小さいニューロスフェアを形成するように増殖した。対照的に、選別された5F3−細胞は、単細胞懸濁物のままであり、ニューロスフェアを開始できず、そして最終的に死亡した。拡大した5F3+に選別されたニューロスフェア細胞は、ネスチンの発現についてポジティブであり、そして分化条件への曝露後に、ニューロンおよびグリアに分化した。NOD SCIDマウスを使用するインビボでの研究は、移植後8週間で、5F3+ニューロスフェア細胞が植え付けられ得、そして移動し得ることを示す。これらの研究は、本発明者らが、細胞表面マーカーおよびフローサイトメトリーに基づいて人のNSCを同定しそれを富化したこと、ならびにインビトロおよびインビボでのアッセイを使用してそれらの活性を実証したを示す。
【0082】
さらなる試験においては、本発明者らは、種々の在胎齢にわたって脳および脊髄組織を試験した。初期(5〜12wkの妊娠期間)の在胎齢は、後期の在胎齢(16〜20wkの妊娠期間)よりも高い頻度のニューロスフェアを開始する細胞(NS−IC)を有する。例えば、図5を参照のこと。これらの組織に由来する細胞の直接の培養は、ニューロスフェアの開始を導く。
【0083】
本発明者らのデータ(以下の表3に示す)は、5F3+細胞について富化された神経細胞の細胞の集団が、NS−IC活性について23倍も富化されることを実証する。
【0084】
【表3】
さらに、図2に示すように、ニューロスフェアを、単一の細胞に選別した5F3+細胞にから誘導し得る。本発明者らはまた、5F3+に選別した細胞から誘導されたニューロスフェア細胞の自己更新が、単一の細胞に由来するニューロスフェアの再開始によって達成され得ることを実証した(データは示さない)。逆に、本発明者らのデータは、5F3+細胞を除去された細胞の集団もまた、NS−IC活性について枯渇されることを示す。
【0085】
(実施例7)
(異なるマーカーによるNS−ICの単離)
第2の実施例として、本発明者らは、本明細書中に記載する新規のモノクローナル抗体5E12を使用して細胞の集団を選別した。5E12+サブセットを、以下の表4に示すように、ニューロスフェアを開始する細胞活性について富化した。図3をもまた参照のこと。本発明者らのデータは、5E12抗体に対する抗原が、5F3+細胞上のAC133抗原と同時に発現されることを示唆する。
【0086】
本発明者らはまた、以下の表4に示すように、神経幹細胞についてのサブセレクターとして8G1モノクローナル抗体を評価した。5F3+および8G1−/loである細胞は、より幹細胞様の特性を提示し、一方、5F3+および8G1med/hiである細胞は、より始原細胞様の特性を示した。
【0087】
【表4】
(実施例9)
(NS−ICのインビボでの研究)
本発明者らは、従来技術を使用して、新生児の免疫不全マウスの側脳室に、5F3+−に選別したNS−IC(上記のように得た)を移植した。ヒトのニューロスフェア細胞の植え付けおよび移動を、ヒト特異的Thy−1抗体を使用して、注射後の4〜8週間の間に検出した(図6を参照のこと)。図7に示すように、ヒトβ−チューブリン(ニューロンのマーカー)およびヒト核抗原(ヒト細胞の局在について)での染色は、嘴側の移動性の流れ(RMS)を通じるヒトのニューロスフェア細胞の移動を明らかにした。さらに、図8に示すように、ヒト核抗原を使用する局在化は、ヒトのニューロスフェア細胞が、RMSを通じて嗅球に移動したことを実証した。
【0088】
(実施例10)
(ヒトの中枢神経系の幹細胞の直接的な単離および移植)
(序章および要約)自己更新特性および多重系列の分化特性を有する、幹細胞、クローン原性細胞は、損傷した組織を置換するかまたは修復するための能力を有する。この実施例においては、本発明者らは、クローン原性のヒトの脳の幹細胞(CNS−SC)を単離した。これは、ニューロスフェアの培養を開始し、そして自己更新、ならびにニューロンおよびグリアへの分化の両方を示す。これらの遺伝的に改変されていないヒトのCNS−SCは、表面マーカーについてのモノクローナル抗体によってマークされる。細胞は、5F3(AC133)+、5E12+、CD34−CD45−、およびCD24−/loである。単一のAC133+CD34−CD45−選別された細胞は、ニューロスフェアの培養を開始し、そして多重系列の分化を提示した。一旦、免疫不全新生児マウスの脳に移植されると、選別されそして拡大されたCNS−SCは、強力な植え付け、増殖、移動、および分化を、部位特異的な様式で示す。
【0089】
この実施例においては、本発明者らは、mAb 5F3および新規のmAbである5E12が、ヒトの胎児の脳(FBr)細胞の異なるサブセットを検出することを示す。混入している血液および内皮細胞をマークするmAb(CD34およびCD45)と組合せてこれらのmAbを使用する蛍光活性化細胞選別は、ヒトのFBr細胞の、AC133+CD34−CD45−のサブセットを生じる。細胞の選別後、選別された細胞は、単細胞のレベルで、ニューロスフェアを開始し得、自己更新し得、そして多重系列の分化をし得る、本発明者がヒトのCNS−SCと指名する細胞であり得る。これらの候補のヒトのCNS−SCは、自己更新し、そしてニューロスフェア培養物中で有意に拡大し、そしてインビトロでニューロンおよびグリアに分化した。選別されそして拡大された候補のCNS−SCは、新生児のNOD−SCIDマウスの脳の側脳室に移植され得る。ここではこれらは、明らかに適切な部位特異的植え付け、持続的な自己更新、移動、および分化を、少なくとも7ヶ月間受ける。
【0090】
(CNS神経幹細胞のマーカーについての検索;ストラテジー)本発明者らは、候補のCNS−SCマーカーが、FBr細胞の主要ではないサブセットのみにおいて発現されるはずであるという仮説をたてた。ニューロスフェア培養物が幹/始原細胞の富化された集団を含むという証拠が存在するので、本発明者らは、候補の神経幹細胞マーカーが、これらの細胞上でより豊富に発現されるはずであるという仮説をたてた。従って、本発明者らは、ヒトの造血幹細胞(HSC)を定義するために以前に使用したmAbを通じてスクリーニングした。
【0091】
選別した集団を、それらがニューロスフェアを開始する細胞(NS−IC)について富化されたかどうかを決定するために試験した。2つの画分(1つの画分は確立されたニューロスフェア培養物であり、そして1つはそうではない)に清潔にFBrを分離する任意のmAbを、NS−ICを同定することを助けるための候補のmAbと考えた。最初のスクリーニングにおいては、mAbを、FBrのポジティブに染色された小さな画分、および長期間培養されたニューロスフェア細胞の大きな画分と考え、そして他のmAb(ネガティブ選択のための)を、ほとんどのFBr細胞を染色するが、ニューロスフェア細胞の小さな画分は染色しないと考えた。酵素によって解離させられたFBrおよび長期間培養されたニューロスフェア細胞を、50個以上の既知のmAbで染色した。
【0092】
長期間のニューロスフェア培養物である、8.5FBrが、以前に記載されている(Carpenterら、158 Exp.Neurol.265−78(1999))。これらの細胞を、以下の標準的なヒトのニューロスフェア培地中で培養した:FGF−2(20ng/mL)、EGF(20ng/mL)、およびLIF(10ng/mL)の存在下で、N−2補充(Gibco)、3%のグルコース、0.2Mのグルタミン、および0.2mg/mlのヘパリンを有する、D−MEM/F12基本培地。培養した細胞を回収し、そしてコラゲナーゼの存在下で、継代のために5〜10分間酵素的に解離させるか、またはmAbの染色のための単一の細胞懸濁物を得るためにトリプシン処理した。
【0093】
ニューロスフェア細胞は、血管および造血性のマーカーであるCD34またはCD45を発現しなかった。対照的に、マウスおよびヒトのHSCの両方を同定した重要な細胞表面マーカーであるThy−1は、実質的に全てのFBr細胞およびニューロスフェア細胞上で高レベルで発現され、そして従って、有用ではなかった。興味深いことに、最初の抗体スクリーニングは、別のHSCマーカーであるAC133が、16〜20の妊娠週数(g.w.)の組織に由来するFBr細胞のわずかに1〜5%において、そして培養されたニューロスフェア細胞の約90%において発現されたことを明らかにした。
【0094】
(モノクローナル抗体AC133は、ヒトのCNS−SCについて富化する)ヒトのFBr組織を、NIHのガイドラインに従って、Advanced Bioscience Resources,Inc.から16〜20の妊娠週(g.w.)の胎児の残りから得た。FBr組織を、1〜3mmの切片に、小刀を使用して切断し、50mLの遠心分離チューブに移し、そして0.02%のEDTA/PBS溶液で1回洗浄した。組織を、0.1%のコラゲナーゼ(Roche,Indianapolis,IN)および0.1%のヒアルロニダーゼ(Sigma、St Louis,MO)の存在下で、0.1%のBSA、10mMのHEPES,およびDNaseを補充したHBSS中で37℃にて1時間、酵素的に解離した。単一の細胞の懸濁物を得るために、解離させたFBr細胞をさらに、0.05%のトリプシン、53mMのEDTA(Gibco,Grand Island,NY)を用いて10〜15分間処理した。破片および凝集物を、70ミクロンのフィルターユニットに通して細胞懸濁物を濾過することによって除去した。
【0095】
単一の細胞懸濁物を、コラゲナーゼ/ヒアルロニダーゼ処理、続くトリプシン処理後に得た。従って、スクリーニングによって、トリプシン耐性の細胞表面エピトープに限定した。
【0096】
FBrに由来する選別したCD45+またはCD34+細胞の塊の培養物は、ニューロスフェアの培養を開始することができなかった。従って、CD34およびCD45の両方が、ヒトのCNS−SCについてのネガティブセレクターとして使用され得た。
【0097】
CNS−SCが、AC133の発現に基づいて単離され得るかどうかを試験するために、ヒトのFBr細胞を、CD34、CD45,およびAC133に対する抗体を用いて染色した。AC133抗原を、両方ともフィコエリスリン(PE)に結合させた、2つのmAb(AC133/1およびAC133/2)によって規定した。これらは、Milteny Biotec(Auburn,CA)を通じて入手可能である。抗ヒトCD45−FITC、アロフィコシアニン(allophycocyannin)(APC)と結合させた抗ヒトCD34を、CALTAG(Burlingame,CA)およびBDIS(San Jose,CA)からそれぞれ得た。解離させたFBR細胞を、CD45−FITC、AC133/1 AC133/2−PE、およびCD34−APCに対するmAbとともに、氷上で20〜60分間インキュベートした。最後の洗浄後、細胞を、0.5g/mLのヨー化プロピジウム(propidium iodine)(PI)を含むHBSS溶液中に再懸濁した。標識された細胞を分析し、そして二重レーザーのVantage SE(BDIS,San Jose)を用いて選別した。死細胞を、それらのPI染色特性によって分析から排除した。混入している血液細胞および内皮細胞を、CD45+細胞CD34+細胞をそれぞれゲートで制御することによって排除した。選別した後、選別した細胞集団の純度をチェックした。
【0098】
2つの細胞の集団(AC133−CD34−CD45−(AC133−)およびAC133+CD34−CD45−(AC133+))を選別し、そしてNS−IC活性について培養した。AC133の発現は、連続的出ることが最初に明らかになったが(図9A)、AC133+細胞のFACSでの予備富化、続く2回目の細胞の選別は、別のAC133+集団を明らかにした(図9A)。全ての続く試験において、AC133−およびAC133+サブセットの両方を2回選別し、それによって高純度で、AC133−およびAC133+FBr細胞の画分を得た(図9A)。
【0099】
ニューロスフェアの条件下で培養したAC133+の単一の細胞懸濁物は、芽細胞様(blast−like)になり、プラスチックプレート上に接着し、そして細胞分裂を開始し始めた。培養物中での4〜5日後、AC133+細胞の大きな画分は増殖を開始し、そして数個の細胞のクラスターとして浮遊し始めた。小さなニューロスフェアは、培養の開始後7〜10日のような初期に観察された(図9C)。対照的に、選別されたAC133−細胞は、単一の細胞懸濁物のようなままであり、ニューロスフェアを開始することはできず、そして最終的には死亡した(図9B)。従って、NS−IC活性は、CD45−CD34−FBr細胞の、AC133+のサブセット中では見出されるが、AC133−のサブセット中では見出されなかった。
【0100】
(AC133+のヒトFBr細胞のみがNS−IC活性を含む)定量的なNS−ICアッセイが、AC133−およびAC133+サブセット間での増殖において衝撃的な差異を示したので、本発明者らは、分画していない(すなわち、細胞の処理後)、および種々の分化したFBr細胞懸濁物中のNS−ICの頻度を決定することを望んだ。分画していないFBr細胞を、FACS自動細胞沈着ユニット(automated cell−deposition unit)(ACDU)を使用して96ウェルプレート中に限界稀釈(100〜10,000細胞/ウェル)によってプレートした。これらのプレートを6〜8週間培養し、そしてニューロスフェアを含むウェルをポジティブとして記録した。
【0101】
選別したFBr細胞を、FGF−1(20ng/mL)、EGF(20ng/mL)、LIF(10ng/mL)、神経生存因子−1(Clonetics,San Diego,CA)、および60g/mLのN−アセチルシスチン(Sigma)の存在下で、N2サプリメント(Gibco)を含むEx Vivo
15(Bio Whittaker,Walkersvile,MD)培地(ニューロスフェア開始培地)中のニューロスフェア培養物中で培養した。培地処方物を、FBr細胞の限界稀釈の頻度分析に基づいて最適化した。培養物に、毎週栄養を補給し、そしてニューロスフェアが大きくなった場合、継代した。いくつかの場合には、選別したFBr細胞を、ニューロスフェアの培養を開始する前駆体の頻度を評価するために、自動化された細胞蓄積ユニット(ACDU)によって96ウェルプレート中に再度選別した。これらの96ウェルプレートを、毎週栄養を補給し、そしてウェル中のニューロスフェアの存在を、培養の開始後6〜8週間で記録した。それぞれの細胞濃度でのネガティブなウェルの割合の直線状の退行の分析を、NS−ICの頻度を決定するために使用した。
【0102】
多数のニューロスフェアを、高い細胞用量(すなわち、1ウェルあたり10,000細胞)でプレートしたウェル中で検出した。それにもかかわらず、低い細胞用量(すなわち、300〜1000細胞/ウェル)でプレートしたウェルにおいては、ポジティブなウェルは、わずかに1つのニューロスフェアを含んだ。1ウェルあたり100〜300個の細胞では、極まれなウェルが、単一のニューロスフェアを含んだ。ネガティブなウェルの対数を、1ウェル当たりにプレートした細胞の数に対してプロットした場合には、直線状の関数が見出された;37%のネガティブなウェルで、NS−ICについて単一のヒットを決定した(図10A)。図10Aに示される代表的な組織においては、コントロールの処理された脳細胞は、880個の細胞中1個の頻度でNS−IC活性を含んだ。AC133−のサブセットにおいては、4860個の細胞中1個のNS−ICの頻度が減少した。対照的に、NS−IC活性は、32個の細胞中1個の頻度で、AC133+のサブセットにおいて高度に富化された(図10A)。8つの異なるFBr組織(16〜20の妊娠週)に由来するNS−ICの頻度を、図10Bおよび表5にまとめるように評価した。
【0103】
【表5】
*全ての選別された集団がまた、CD34−CD45−についてゲート(gate)され、これは98〜99%のFBrを示す。
**実際に算出されたNS−IC頻度のような1回の試験を除外したデータは、括弧中に示した。ほとんどのウェルがネガティブであったことに起因した。
【0104】
分画していない胎児の脳細胞においては、730個の細胞中の約1個が、NS−IC活性を含む。>95%のFBrを示すAC133−のサブセットは、NS−ICを有する4300個の細胞中に<1個を含み、そして従って、約6倍減少された。対照的に、NS−IC活性は、ニューロスフェアを開始し得る新しいFBr細胞の約1/31(1/6から1/72の範囲)で、平均で、AC133+サブセットにおいて23倍富化された。AC133+細胞は、約4.6%のFBrを示した(すなわち、22個の細胞のうちの1個)ので、NS−IC活性の富化は実質的には、FBr中のAC133+細胞の頻度に相当した。従って、AC133+細胞は、16〜20の妊娠週のFBr細胞懸濁物中の全ての検出可能なNS−IC活性を含んだ。
【0105】
(単一のAC133+に選別された細胞からの、クローンのニューロスフェアの拡大、自己更新および分化)ニューロスフェアのクローナリティー(clonality)を確認するために、単一のFBrに由来するAC133―に選別された細胞を、ACDUによって96ウェルプレートのウェル中に直接プレートした。8週間後、いくつかのウェルは、単一のニューロスフェアを含み、これらが単一のAC133+に選別された細胞に由来することを確認した(図10C)。
【0106】
AC133+に由来するニューロスフェアの自己更新活性を、ニューロスフェアの培養を再度開始する能力について試験した。例えば、AC133+に選別されたFBr細胞によって開始された最初のニューロスフェア培養物を解離させ、そして1ウェル当たり1つの細胞として再度プレートした。9個の96ウェルが、単一のニューロスフェアの発達を示した。1つの試験においては、ニューロスフェアは、AC133+に選別されたニューロスフェア細胞から約10%の播種効率を伴って、クローン的に(clonally)誘導された。結果として、AC133−になるニューロスフェア細胞は、二次的なニューロスフェア培養を再度開始することはできなかった。従って、これらの定量的な結果は、NS−IC活性が、FBr細胞のAC133+のサブセットにおいては高度に富化され、そしてFBr細胞のAC133−のサブセットにおいては除去されることを実証した。
【0107】
クローン的に誘導されたニューロスフェア細胞の分化能力を試験するために、単一のニューロスフェアを回収し、プレートし、そして神経栄養因子であるBDNFおよびGDNFの存在下で分化を誘導した。ニューロスフェア細胞を回収し、そしてコラゲナーゼを用いて解離させ、そしてポリオルニチンでコーティングしたチャンバースライド上に置いた。これらを、ニューロスフェア開始培地中で、それらがプレート上に播種されるまで1日間培養した。培養物を、Ex Vivo−15,N2、NAC、BDNF(10ng/mL)、GDNF(10ng/mL)およびラミニン(1g/mL)から構成される分化培地に再度プレートした。1〜2週間後、チャンバースライドをPBS中の4%のパラホルムアルデヒドで固定し、そしてニューロンおよび星状細胞への分化を検出するために、チューブリンおよびグリア菌原繊維(glial fibrillary)酸性タンパク質(GFAP)に対するmAbで染色した。
【0108】
これらの条件下では、AC133+に由来するニューロスフェアは、ニューロンおよび星状細胞に分化した(図10D)。まとめると、データは、mAB AC133がNS−ICについてのマーカーであり、そしてヒトCNS−SCについて富化するために使用され得ることを示唆する。これらのAC133+に由来するニューロスフェア培養物は、連続的に継代されている(凍結前に>P15)。大まかな推定においては、AC133+細胞の絶対数は、5回の継代によって少なくとも1000倍に増大し(表6)、そしてこれらは、ニューロスフェアを再現的に再度開始し得る。従って、AC133は、インビトロで連続的に拡大し、そして自己更新する神経細胞の集団を規定する。
【0109】
【表6】
(NS−ICもまた、5E12+および8G1−/lo細胞において富化される;新規のmAbの生成)利用可能なmAbの有用性のスクリーニングと同時に、本発明者らは、ヒトの神経細胞上の新規の細胞表面マーカーを同定しようとした。FBr細胞を、コラゲナーゼおよびヒアルロニダーゼの組合せを用いて解離させ、そして、組織特異的mAbを惹起するためのおとりの(decoy)ストラテジーを用いて、BALB/cマウスを免疫化するために使用した。約1900個のウェルの増殖しつつあるハイブリドーマ細胞をスクリーニングし、そしてハイブリドーマを選択し、拡大し、そしてヒトの脳に対する特異的反応性についてさらに試験した。ヒトの神経細胞に対するモノクローナル抗体を、Yinら、90 Blood 5002−12(1997)によって以前に記載されたおとりの免疫化ストラテジーを使用して産生した。簡潔には、BALB/cマウスを、おとりのヒトの白血球を富化させた末梢血で1回のフットパッド(one footpad)において免疫し、そして酵素で解離させたヒトの胎児の脳細胞で反対側にフットパッドした。ヒトFBr細胞免疫を排出させたドナーのリンパ節の細胞を回収し、細胞懸濁物について処理し、そしてマウスの骨髄腫細胞株と融合させた。マウスの骨髄腫株に対するこの融合は、1900個のウェルの増殖しつつあるハイブリドーマ細胞を生じた。約180個のハイブリドーマを選択し、拡大し、そしてヒトの脳細胞に対する特異的反応性についてさらに試験した。
【0110】
上記のように、CNS−SCを、AC133+サブセットにおいて高度に富化した。CNS−SCの表現型をさらに特徴付けるために、本発明者らは、AC133+細胞が表現型的には不均質であるかどうかを試験した。従って、AC133+細胞を、新規のmAbのパネルに由来する他のマーカーの同時発現についてスクリーニングした。2つの新規のmAbである5E12および8G1を、同定した。Mab 5E12は、AC133+細胞および長期間のニューロスフェア細胞を同時染色する。5E12+FBr細胞を富化し、そして5E12−細胞をNS−IC活性において除去する(表5)。
【0111】
胎児の脳の発達においては、FBr細胞の大部分(>90%)が、高レベルの8G1マーカーを発現した(図4)。AC133+細胞は、8G1の発現において不均質であった;ほとんどの8G1−/lo、いくつかの8G1mid、および数個の8G1hi細胞(図12)。興味深いことに、長期間培養したヒトのニューロスフェア細胞上での8G1の発現もまた、不均質であった。免疫沈降およびブロッキングの研究によって、8G1が抗CD24 mAbであることを決定した。組織学的には、CD24は、熱安定性の抗原(HSA)として公知であり、そして血液のリンパ球産生においてマーカーとして広範に使用される(Altermanら、20 Eur J Immunol 1597−602(1990))。HSAは、マウスのHSC上で低レベルで発現され(ShihおよびOgawa、81 Blood 1155−60(1993));SpangrudeおよびScollay、18 Exp.Hematol.920−6(1990))、そしてプロB細胞およびプレB細胞、ならびに胸腺細胞上で高レベルで発現され、そしてこれらの細胞が成熟リンパ球になる場合、完全に下方調節される(Altermanら、20 Eur. J.Immuno.1597−602(1990))。表5に示すように、NS−ICの頻度は、AC133+CD24mid/hiのサブセットと比較して、AC133+CD24−/lo画分においてより高い。
【0112】
(AC133+に由来するヒトのニューロスフェア細胞の強力な植え付け能力)ヒトの選別され/拡大されたCNS−SCの、インビボでの移植、移動、および分化の能力を試験するために、105個または106個のニューロスフェア細胞(AC133+に選別されたFBr細胞から開始された)を、新生児のNOD−SCIDマウスの脳の側方の脳室に注射した。
【0113】
6〜10の継代で拡大したAC133+に選別されたニューロスフェア細胞を回収し、そして細胞の小さなクラスターを得るためにコラゲナーゼで穏やかに乖離させた。細胞を、0.25×105または2.5×105/Lの等量で再懸濁した。新生児のマウス(<生後24時間)を、氷を使用して低温麻酔した;一旦麻酔がかかると、定位的なデバイス上に新生児を置いた。小さな穴を針で軟骨にドリルで穴をあけ、そして細胞懸濁物を、両方の側方の脳室のスペースにHamilitonシリンジによって導入した。新生児のマウスを、105〜106個の細胞/注射の範囲の細胞の21個を用いて注射した。新生児を、外科手術の回復についてモニターするために暖めることによって観察し、次いで、母親に返した。注射したマウスを、ヒトの細胞の植え付け(engraftment)を試験する前に7ヶ月間維持した。
【0114】
新生児のNOD−SCIDマウスを、神経学的な系に注射される細胞の参加を最大にするためのレシピエントとして選択した。なぜなら、細胞の形成が、新生児のマウスの脳のいくつかの部分における進行において、なお活性であるからである。さらに、免疫不全マウスは、ヒトの組織を拒絶せず、そしてSCIDおよびNOD−SCIDマウスは、ヒトの血球形成および組織の植え付けのインビボでの研究のための宿主として使用されている(McCuneら、241 Science 1632−9(1988);Kamel−ReidおよびDick、242 Science 1706−9(1988);Larochelleら、2 Nat.Med.1329−37(1996))。移植の7ヶ月後、動物を屠殺し、そして矢状方向の切片を、N−CAMおよびThy−1、ならびにヒト核抗原に対するヒト特異的mAbで染色した。
【0115】
移植の7ヶ月後に、NOD−SCIDマウスを、Avertinで深く麻酔し、そしてPBSで灌流し、続いてリン酸緩衝液中の4%のパラホルムアルデヒドで灌流した。その後、脳を、一晩固定し、30%のスクロース溶液中に置き、そしてOCT化合物中で凍結させた。脳を、さらなる免疫組織化学のために5μmの厚みに矢状方向に切断した。移植されたマウスの脳中のヒト細胞を検出するために、切片を、ヒトThy−1に対するマウスのモノクローナル抗体(Phaemingen,San Diego,CA)、N−CAMに対するモノクローナル抗体、チューブリンに対するモノクローナル抗体(Sigma)、または核抗原に対するモノクローナル抗体(Chemicon)で、続いて、Alexa 488に結合させたヤギ抗マウスIG(Molecular Probe,Eugene,OR)で染色した。
【0116】
マウスの脳のコントロールに対するこれらのmAbの染色は、交差反応性を示さなかった。GFAPおよびβ−チューブリンに対するMabは、ヒトおよびマウスの細胞の両方を染色し、そして抗ヒト核抗体でのこのような二重の標識を、ヒトの系統特異的細胞の集団を実証するために使用した。詳細な分析は、特に、活性な神経形成の部位であることが以前に示されている脳の2つの部位(側方の脳室の脳室下の領域(SVZ)、および海馬の歯状回)に集中した(図12A)。
【0117】
ヒトの細胞は、マウスの脳全体にわたって見出され、そして注射の7ヶ月後に、SVZにおいて豊富であった(図12)。例えば、1つの領域においては、ヒトの核+である多くの細胞を、GFAP+細胞によって取り囲んだ(図12B)。コンフォーカルな顕微鏡試験は、ヒトの細胞のほとんどが、GFAP−であるが、時折、ヒトのGFAP+細胞もまた検出されたことを示した(図12B、矢印)。
【0118】
移植されたマウスの脳を、ミクロトーム上で40マイクロメートルの厚みの切片にし、そしてmAbで染色し、そしてSuhonenら、383 Nature 624−7(1996)によって以前に記載されているように、Bio−Radコンフォーカル散乱光顕微鏡を使用して分析した。
【0119】
SVZ中の幹細胞/始原細胞が持続的な増殖を示しているので、本発明者らは、移植されたヒトのAC133+に選別され/拡大されたニューロスフェア細胞の子孫がなお増殖しているかどうかを、インサイチュで試験した。移植された脳の1つの切片を、細胞増殖に関連するマーカーであるKi67で染色した。著しく、GFAP+細胞中に入れ子(nest)にされたSVZ中のヒトの細胞のクラスターは、Ki−67を同時発現し、このことは、SVZ中のヒトの細胞が、それらのマウスの対応する部分と同様に、SVZ中での移植後7ヶ月間増殖し続けることを示した(図12C)。
【0120】
げっ歯類の嗅覚の系においては、SVZ中で増殖した幹細胞/始原細胞の子孫は、吻方の移動性の流れ(rostral migratory stream)(RMS)に入り、そして嗅球に移動する(LoisおよびAlvarez−Buylla、264 Science 1145−8(1994))。RMS中の内因性のげっ歯類の先祖の「神経芽細胞の鎖」は、β−チューブリンおよびN−CAMを発現する(Frickerら、19 J.Neurosci.5990−6005(1999);GageおよびCristen、Isolation、characterization and utilization of CNS stem cells(Springer,Heidelberg,1997))。RMSを含有している矢状方向の切片を、ヒトの神経細胞の存在について試験した。AC133+に選別されたニューロスフェア細胞を移植したマウスにおいては、多数のヒト細胞が検出され、これはSVZで開始し、そしてRMS全体に拡大している(図13A)。これらのクラスターを形成するヒト細胞の多くは、β−チューブリンと同時に局在するがこのようなクラスター中で二重ポジティブの細胞を同定することは困難であった。数個のヒト細胞を含有している組織の注意深い試験によって、β−チューブリンおよびヒト核抗原の両方について二重ポジティブである複数の細胞が明らかになった(図13B、矢印)。さらに、RMS中のこれらの細胞の多くは、ヒト特異的マーカーであるN−CAMを発現した(図13C)。
【0121】
RMSを通じる移動の後、幹/始原細胞の子孫は、嗅球に侵入し、そして嗅覚の糸球体に向かって嗅球のペリ糸球体(periglomelular)層にまで拡大すると予期される(LoisおよびAlverez−Buylla、264 Science 1145−8(1994))。図13Dに示すように、移植されたヒト細胞の子孫は、糸球体ならびにペリ糸球体層に分布した。これらの細胞のいくつかは、ヒトのN−CAMを発現し、このことは、これらの細胞が神経系統に拘束されていたことを示す。従って、移植された、選別され/拡大されたヒトのCNS−SCの子孫は、RMSに移動し、分布し、そして嗅球中の神経系統に分化する。いくつかの例においては、チロシンヒドロキシラーゼポジティブであるヒト細胞が観察された。
【0122】
神経形成が成体の生活において起こる別の部位は、海馬の歯状回である(Gageら、92 Proc.Natl.Acad.Sci.USA 11879−83(1995))。この実施例においては、本発明者らは、海馬の歯状回において多数のヒト核細胞を見出した。やや顆粒状の細胞(subgranular
cell)帯中のヒトの細胞でいくつかは、Ki−67を同時発現し、このことは、これらの細胞が移植の7ヶ月後に増殖することがなお可能であることを示す(図14A)。異なる分析においては、いくつかの他のヒト細胞は、海馬の門に向かって拡大するそれらのプロセスを有する、顆粒状のニューロンを発達させることが予期されるような、β−チューブリンであった(図14B)。これらの結果は、これらの選別され/拡大されたヒトのCNS−SC移植片が、移動し、増殖しつづけ、そして分化するだけではなく、それらの挙動および細胞の運命もまた、部位特異的様式において宿主の合図によって調節することを示す。注射された細胞は、腫瘍を形成しない。
【0123】
(考察)この実施例の目的は、候補のヒトCNS−SCの予想される単離を可能にする、ヒトの脳細胞上の表面マーカーを見出すことであった。本発明者らは、ヒトのニューロスフェア培養物が、CNS−SCからクローン的に開始され得ると仮定し、そして新しいヒトのFBr細胞懸濁物からNS−ICを単離にすることに着手した。本発明者らは、16〜20g.w.のヒトのFBr細胞がまれにクローン原性のAC133+、5E12+、8G1−/loCD34−CD45−細胞のサブセットを含むことを実証した。このサブセットは、ニューロスフェアの培養を開始し得、これらの培養物中で広範囲にわたって自己更新し得、そしてニューロンおよびグリアにインビトロで分化し得る。免疫不全の新生児のマウスの側方の脳室への移植の際には、これらの細胞は、少なくとも7ヶ月間植え付け(engraft)、そして分化し、移動し、そしてそのいくつかは増殖し続ける、子孫を生じる(すなわち、SVZおよび歯状回中でのKi−67+のヒトの神経細胞の存在)。植え付けされたヒトの細胞は、それらが、同じ事象を受けた内因性のマウスの神経細胞に対応する部位中に見出される。
【0124】
図10および表5中のデータは、ヒトの胎児の脳中にAC133+サブセットの外側には他の検出可能なNS−IC細胞が存在しないことを実証する。
【0125】
AC133染色パターンの分析の間には、本発明者らは、約0.2%のFBr細胞がCD34を発現し、そしてAC133+CD34−である細胞に接着したままであることに注目した。これらのCD34+細胞は、既知の内皮細胞マーカーであるCD105およびCD31を同時に発現し、そしてトリプシン処理後にも、塊の培養物中に高密度で配置された場合に、いくつかのニューロスフェアから非効率的に形成され得る細胞の複合体として残っていた。本発明者らは、CD34を発現する細胞についてのポジティブな選択の後、同様に複合体を観察した。従って、AC133+CNS−SCおよび天然に存在するCD34+内皮細胞の頻繁な連合が存在する。AC133+CNS−SCが血管周囲にあるという知見は、神経形成が、血管形成と同時に進行するという仮説に一致する。
【0126】
候補のヒト胎児のCNS−SCが、新生児のマウスの側方の脳室中への注射後に植え付けし、そしてマウスの脳全体にわたって拡大することは、驚くべきことである。これはマウスの持続的な神経形成の段階であるが、これらの細胞が分布する程度は、当業者が予期したよりも大きい。詳細には、ヒトの細胞は、脳室の空間に隣接して、海馬中、大脳皮質中、脳梁中、ならびに脳の小脳の領域に見出された(図11)。さらに、細胞は、SVZ(自己更新しそして複製する領域)においておよびRMS(分化および移動の領域)沿っての両方で、ならびに嗅球内および嗅覚の糸球体周辺に直接、見出される。従って、注射されたヒトCNS−SCは、これらの部位で神経形成のプロセスを継続している。
【0127】
Synderらは、v−mycで固定したマウスおよびヒトの神経細胞株を使用して、細胞のこの広範な(「全体的な」)分布を実証した(Yandavaら、96 Proc Natl Acad Sci USA 7029−34(1999))。本明細書中では、本発明者らは、これが、マウス起源のmyc固定された細胞の特性だけではなく、非遺伝的に改変されたヒトのCNS−SCの特性でもあることを示す。
【0128】
奇形癌細胞の移植とは対照的に(Trojanowskiら、122 Exp
Neurol 283−94(1993))、CNS−SC細胞は、完全に許容性の微環境中での注射の7ヶ月後に試験した場合でさえも、腫瘍性凝集物または増殖性凝集物を形成しない。従って、CNS−SC細胞は、腫瘍遺伝子の機能によって改変されていないヒトの神経系、またはすでに腫瘍性に形質転換された細胞株において本来備わっている発生的経路および機能的経路を明らかにし得る。CNS−SCの単離は、以下の科学的な発見のためのいくつかの機会を提供する:(i)特定の段階または分化の細胞に由来する系統を直接描写すること;(ii)CNS−SCの遺伝子発現プロフィールおよびインビトロまたはインビボでそれらのすぐ下流の子孫を得ること;(iii)細胞の特異的な遺伝子の改変がそれらの植え付け、移動、分化、および/または機能的な組込みを可能にするかどうかを試験すること。ヒトのCNS幹細胞の単離は、それらの移植可能性、分化能力、および腫瘍形成の欠失についての前臨床試験としての、ヒトの疾患のマウスのアナログにおいてこれらの細胞の移植を可能にする。
【0129】
上記の記載は、説明の目的のためのみに示されており、そして、開示される正確な形態に本発明を限定するようには意図されないが、本明細書中に添付される特許請求の範囲によって限定されるように意図される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
明細書に記載の発明。
【請求項1】
明細書に記載の発明。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
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【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2010−252808(P2010−252808A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−173169(P2010−173169)
【出願日】平成22年7月30日(2010.7.30)
【分割の表示】特願2000−598656(P2000−598656)の分割
【原出願日】平成12年2月11日(2000.2.11)
【出願人】(501318453)ステム セルズ, インコーポレイテッド (1)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年7月30日(2010.7.30)
【分割の表示】特願2000−598656(P2000−598656)の分割
【原出願日】平成12年2月11日(2000.2.11)
【出願人】(501318453)ステム セルズ, インコーポレイテッド (1)
【Fターム(参考)】
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