説明

富貴蘭様香料組成物

【課題】富貴蘭の自然な香りを有する香料組成物を提供する。
【解決手段】L体の比率が67%以上になるようにリナロールを配合する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、香料組成物、特に富貴蘭様の優れた香りを有する富貴蘭様香料組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
富貴蘭(フウランNeofinetia falcata)は、ラン科フウラン属の常緑多年草であり、濃厚な甘い香りを漂わせ、観賞用植物として多くの人々に愛されている。特に近年、他の蘭科の植物とまた一味違った富貴蘭の濃厚かつ甘美な香りが注目され、富貴蘭様の香りを人工的に調合した富貴蘭の香りの芳香剤、フレグランスまたは香水などが商品化されている。
【0003】
しかしながら、従来のそのような富貴蘭の香りを模した調合香料は、多少メタリックな匂いがして、実際に花が咲いているときに感じられる自然なやわらかさをもつ富貴蘭の香りに至っていないのが実情であった。
【0004】
非特許文献1には、Linalool(リナロール)が富貴蘭の主要香料成分の1つであることが記載されている。リナロールは多くの植物の精油成分であることが分っており、種々の植物から異なる光学純度の光学活性リナロールが得られ、また化学合成による光学活性リナロールの製造方法も報告されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9−278号明細書
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】J. Essent. Oil Res., 12, 197-200 (2000)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記のような事情に鑑み、富貴蘭の花が咲いているときのような自然なやわらかさのある香りを有する富貴蘭様香料組成物を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、富貴蘭の自然な香りをより忠実に再現すべく鋭意検討を行った結果、配合するリナロールのL体の比率を67%以上にすることにより、従来の富貴蘭様香料組成物におけるメタリックな匂いが改善され、より自然な富貴蘭の香りを再現できることを見出し、本発明を完成するに至った。従来の富貴蘭様香料組成物ではリナロールのラセミ体(L体とD体の等量混合物)が配合されており、リナロールの光学異性体の比率が富貴蘭の香りに影響し得ることは全く知られていなかった。
【0009】
本発明の富貴蘭様香料組成物は、L体の比率が67%以上であるリナロールを含有することを特徴とする。L体が67%以上になるようにリナロールを配合することにより、メタリックな匂いを改善でき、富貴蘭の自然なやわらかさを有する香料組成物を提供することができる。より好ましくはL体の比率は75%以上である。
【0010】
本発明の富貴蘭様香料組成物は通常、富貴蘭様ベース香料として、チグリン酸シス−3−ヘキセニル、ジャスミンラクトンおよびインドール等を含有し、より好ましくは、メチルベンゾエート、安息香酸シス−3−ヘキセニルおよびδ-デカラクトンよりなる群から選択される1以上の成分をさらに含有する。
【0011】
本発明の富貴蘭様香料組成物において、リナロール全体の配合量は、香料組成物全量に対して0.01〜40質量%であることが好ましい。
【0012】
また、本発明の富貴蘭様香料組成物の製造方法は、チグリン酸シス−3−ヘキセニル、ジャスミンラクトンおよびインドールを含む富貴蘭様ベース香料に、L体の比率が67%以上になるようにリナロールを添加することを特徴とする。富貴蘭様ベース香料は、より好ましくは、メチルベンゾエート、安息香酸シス−3−ヘキセニルおよびδ-デカラクトンよりなる群から選択される1以上の成分をさらに含む。また、リナロールのL体の比率を75%以上にすることがより好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明の富貴蘭様香料組成物は、L体の比率が67%以上になるようにリナロールを配合することにより、従来の富貴蘭様香料組成物のメタリックな匂いを改善でき、より生花に近い自然な富貴蘭の香りを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】富貴蘭様香料組成物の香気に対するリナロールのL体の比率の影響を検討した香気評価試験の結果を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0015】
リナロールのL体((R)リナロール)およびD体((S)リナロール)の構造式を以下に示す。
【化1】

【0016】
リナロールは、多くの植物の精油成分であり、様々なフレーバーやフレグランスの香料原料として市販されている。また、種々の植物から抽出により、異なる光学純度の光学活性リナロールを得ることができ、あるいは、特開平9−278号明細書に記載されているように、L体およびD体をそれぞれ化学合成により製造することが可能である。L−リナロールはFluka社からおよびリナロールのラセミ体はBASF社から市販されており、例えば、それらを適切な割合で配合することにより、所望の比率でL体を含むリナロールを調製できる。
【0017】
本発明の香料組成物において、リナロール中のL体の比率は67%以上であり、より好ましくは、75%以上であり、さらに好ましくは90%以上である。リナロールのL体の比率を67%以上にすることにより、メタリックな匂いを改善でき、富貴蘭の自然なやわらかさを有する香料組成物を提供することができる。特に、L体の比率を75%以上にすることにより、自然な富貴蘭の香りをより忠実に再現でき、さらには、L体の比率を90%以上にすることにより、その香りの再現性のみならず保香性にも優れた富貴蘭様香料組成物を提供できる。
【0018】
本発明において、リナロール全体の配合量は、香料組成物全量に対して、0.01〜40質量%であることが好ましく、より好ましくは0.05〜30質量%であり、さらに好ましくは1.0〜30質量%である。リナロールの配合量が0.01質量%未満では富貴蘭の香りを充分醸し出すことができない場合があり、また40質量%より高くなると、香気のバランスが悪くなり、富貴蘭の持つ甘くやわらかな香りを再現できない場合がある。
【0019】
本発明の富貴蘭様香料組成物は、公知の富貴蘭様香料組成物におけるリナロールを、L体を67%以上含むリナロールで置き換えることにより調製することができる。すなわち、リナロールを除く富貴蘭様ベース香料に、L体の比率が67%以上になるようにリナロールを添加することにより、本発明の富貴蘭様香料組成物を調製できる。そのような富貴蘭様ベース香料として公知のものを用いることができるが、少なくともチグリン酸シス−3−ヘキセニル、ジャスミンラクトンおよびインドールを含むことが好ましく、より好ましくはメチルベンゾエート、安息香酸シス−3−ヘキセニル、δ-デカラクトン等をさらに含む。
【0020】
尚、本発明の香料組成物には、そのナチュラルな富貴蘭様香気を阻害しない限り、ポリオキシエチレンラウリル硫酸エーテルなどの界面活性剤、ジプロピレングリコール、ジエチルフタレートなどの溶剤、ダマスコン、ヘキシルシンナミックアルデヒド、レモンオイル、ローズオイルなどの香料物質などを配合可能である。
【0021】
本発明の富貴蘭様香料組成物は、限定はされないが、入浴剤、香水、オーデコロン、芳香剤の他、軟膏、クリーム、乳液、ローション、パック、ファンデーション、頬紅、おしろい、アイシャドー、口紅、あぶら取り紙、紙おしろい、シャンプー、リンス、ヘアスプレー、制汗スプレー、ボディパウダー、ベビーパウダー等の化粧料;ティッシュペーパーやペーパータオル、ナプキン、ノート、メモ帳等の紙用品;雑巾、歯磨き粉、マスク、医療用ガーゼ、柔軟仕上げ剤、衣料用洗浄剤、台所用洗浄剤、芳香剤、アロマオイル等の日用雑貨類や、食品等に応用可能である。化粧料に配合する場合、その配合量は特に限定されるものではないが、一般的な濃度範囲、例えば化粧料全量に対し0.00001〜30質量%とすることができ、雑貨等に含める場合は、0.00001〜100質量%とすることができる。
【実施例】
【0022】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。配合例は特記しない限り、その成分が配合される系に対する質量%で示す。
【0023】
(1)富貴蘭様ベース香料
以下の試験例では、下記組成の富貴蘭様ベース香料を用いた:

(2)香料組成物の調製
上記の富貴蘭様ベース香料に、下記表1に示すように、リナロールのラセミ体(L体とD体の等量混合物)とL−リナロールとを異なる比率で添加して、50〜100%の間の様々な比率でL体を含む香料組成物(試験例1〜8)を調製した。
【0024】
(3)香気評価試験
専門パネラー7名により、各香料組成物の塗布直後の香気、ならびに塗布2時間後の香気(保香性)について、以下の評価基準により評価した:
5:非常に優れた富貴蘭様の自然な香気を有する
4:優れた富貴蘭様の自然な香気を有する
3:富貴蘭様の自然な香気を有する
2:富貴蘭様の香気を有する
1:富貴蘭様の香気はほとんどしない。
【0025】
結果を平均値として下記表1、ならびに図1に示す。
【表1】

【0026】
配合したリナロール中のL体の比率が67%〜100%の試験例3〜8において、塗布直後の香気の評価で、従来技術のL体の比率が50%の試験例1よりも有意に高い評価が得られた。特に、リナロールのL体の比率を75%以上にすることにより、3.0以上の高い平均評価点が得られ、自然な富貴蘭の香りをより忠実に再現した香料組成物を調製できることが示された。さらには、L体の比率が90%以上になると塗布2時間後の評価点も有意に高く、保香性にも優れていることが示された。
【0027】
本発明の富貴蘭様香料組成物(実施例1および2)、ならびに比較組成物(比較例1)を下記の処方で調製した。
【0028】
実施例1:
リナロール(L体の比率90%) 30.0
チグリン酸シス−3−ヘキセニル 30.0
酪酸シス−3−ヘキセニル 0.2
ジャスミンラクトン 1.0
インドール 0.5
メチルベンゾエート 10.0
安息香酸シス−3−ヘキセニル 5.0
δ−デカラクトン 3.0
バニリン 0.5
アブソリュート ジャスミン 1% 5.0
ジプロピレングリコール 14.8

本香料は自然な富貴蘭の香気を有していた。
【0029】
比較例1:
リナロール(L体の比率50%) 30.0
チグリン酸シス−3−ヘキセニル 30.0
酪酸シス−3−ヘキセニル 0.2
ジャスミンラクトン 1.0
インドール 0.5
メチルベンゾエート 10.0
安息香酸シス−3−ヘキセニル 5.0
δ−デカラクトン 3.0
バニリン 0.5
アブソリュート ジャスミン 1% 5.0
ジプロピレングリコール 14.8

本香料は平凡な富貴蘭の香気であった。
【0030】
実施例2:
リナロール(L体の比率100%) 1.0
チグリン酸シス−3−ヘキセニル 30.0
ヘキサン酸シス−3−ヘキセニル 0.1
ブチルベンゾエート 0.1
ヘキシルベンゾエート 0.1
ジャスミンラクトン 1.0
インドール 0.5
メチルベンゾエート 10.0
安息香酸シス−3−ヘキセニル 5.0
δ−デカラクトン 3.0
バニリン 0.5
ジプロピレングリコール 48.7

本香料は自然な富貴蘭の香気を有していた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
L体の比率が67%以上であるリナロールを含有する、富貴蘭様香料組成物。
【請求項2】
チグリン酸シス−3−ヘキセニル、ジャスミンラクトンおよびインドールを含有する請求項1記載の富貴蘭様香料組成物。
【請求項3】
リナロール全体の配合量が香料組成物全量に対して0.01〜40質量%であることを特徴とする請求項1または2記載の富貴蘭様香料組成物。
【請求項4】
メチルベンゾエート、安息香酸シス−3−ヘキセニルおよびδ−デカラクトンよりなる群から選択される1以上の成分をさらに含有する請求項1から3いずれか1項記載の富貴蘭様香料組成物。
【請求項5】
前記L体の比率が75%以上である請求項1から4いずれか1項記載の富貴蘭様香料組成物。
【請求項6】
チグリン酸シス−3−ヘキセニル、ジャスミンラクトンおよびインドールを含む富貴蘭様ベース香料に、L体の比率が67%以上になるようにリナロールを添加することを含む、富貴蘭様香料組成物の製造方法。
【請求項7】
前記富貴蘭様ベース香料が、メチルベンゾエート、安息香酸シス−3−ヘキセニルおよびδ−デカラクトンよりなる群から選択される1以上の成分をさらに含むことを特徴とする請求項6記載の方法。
【請求項8】
L体の比率が75%以上になるようにリナロールを添加する請求項6または7記載の方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−111885(P2012−111885A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−263176(P2010−263176)
【出願日】平成22年11月26日(2010.11.26)
【出願人】(000001959)株式会社 資生堂 (1,748)
【復代理人】
【識別番号】100116540
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 香
【Fターム(参考)】