説明

寝台と組み合わされる航空機の客室用医療ブロックを有する客室

【課題】飛行中に乗客に高品質の医療を提供する。
【解決手段】この医療ブロックは、横になった患者を収容する寝台(2)と組み合わされるものであり、水の供給手段と、電気の供給手段と、少なくとも1つのワゴン(12)の収納領域と、この収納領域の中に配置されていて、医療器材が中に入った複数の引き出しを具備する少なくとも1つのワゴン(12)と、それぞれのワゴン(12)に対応するアクセス用扉であって、カギを掛ける手段を装備していて、前記ワゴンの引き出しにアクセスすることのできるアクセス用扉とを具備するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、飛行機または他の航空機の客室内に設けられていて飛行中に乗客に高品質の医療を提供することのできる医療ブロックに関する。
【背景技術】
【0002】
商業飛行では、より長時間にわたってより多くの乗客を輸送できるようになっている。ますます多くの老齢者が飛行機に乗るようになってきている。したがって飛行中に気分が悪くなったり負傷をしたりする乗客が出る頻度もますます増えている。重大な病気の場合、その乗客が生き延びられる可能性は、初期処置が迅速になされるほど大きくなる。したがって飛行機そのものに、患者に初期救命処置を施すことのできる手段を具備することが好ましい。
【0003】
米国特許第6,691,952号により、乗客に初期救命処置を施すことのできる装置が公知となっている。米国特許第6,691,952号のこの装置は、使用していないときは、飛行機の客室内に横断方向に配置された仕切りの中に設置された収納庫となって1つの座席列の前に存在している。したがってこの装置は、望ましいことに客室内でかなり小さなスペースしか占めない。収納庫には、折り畳んだ寝台と、診断および医療のためのさまざまな付属物を収容したコンパートメントが収められている。寝台を設置するには、収納庫を開け、背もたれが折り畳まれた状態の2つの座席列の上に広げる。すると寝台は、収納庫の中に設けられた支持体の上と、専用の脚の上に載る。この脚は寝台に枢着接続されていて、最初から収納庫の中に収容されている。
【0004】
米国特許第6,691,952号の装置には欠点がいくつかある。第1に、患者にも、この装置に収容されている医療器材の少なくとも一部にも非常にアクセスしにくいレイアウトにしかなっていない。したがって、例えば患者の頭部の側から患者に接することは不可能である。さらに、そのとき提供できる医療が非常に限られている。実際、この文献に記載されている寝台の上にいる患者に複雑な医療を行なうことは困難である。それどころか不可能でさえある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第6,691,952号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、一時的に気分が悪くなって静かな環境で横になっている必要があるだけの病人だけでなく、深刻な発作に襲われて生命が危険になった病人も利用できる医療ブロックを提供することを目的とする。一般に、救護所での医療能力にはいくつかのレベルがある。第1のレベルでは、「応急手当」タイプの処置が許される。第2のレベルでは、医療全般に関する診断と治療が想定されている。最後の第3のレベルは、救急医療に関する診断と治療である。本発明の医療ブロックは、これらの各レベルの医療能力に合った状態にできることが好ましい。
【0007】
本発明の医療ブロックは、乗客が飛行中に病気になった場合に利用されるが、好ましくは衛生上の退避にも利用できねばならない。したがってこの医療ブロックは、医学的に非常に安全であることが望ましく、患者を隔離できることが好ましい。
【0008】
しかしここでは航空会社の営利上の制約を尊重する必要がある。そこで医療ブロックが占められるスペースは、使用していないときにはできるだけ狭い必要がある。この医療ブロックは、設置されることになる航空機のさまざまな領域に合わせられることが好ましい。
【0009】
本発明の医療ブロックは、新しい技術に合わせられるよう、好ましくは進化していくものでもなければならない。
【課題を解決するための手段】
【0010】
そこで本発明は、航空機の客室用の医療ブロックとして、横たわった患者を収容する寝台に付属した医療ブロックを提案する。
【0011】
本発明によれば、この医療ブロックは、
水の供給手段と、
電気の供給手段と、
少なくとも1つのワゴンの収納領域と、
前記収納領域の中に配置されていて、医療器材が中に入った複数の引き出しを具備する少なくとも1つのワゴンと、
それぞれのワゴンに対応するアクセス用扉であって、カギを掛ける手段を装備していて、前記ワゴンの引き出しにアクセスすることのできるアクセス用扉とを備えている。
【0012】
このような医療ブロックは、非常にコンパクトにできるという利点を有する。この医療ブロックは、収容する1つ(または複数)のワゴンよりもほんのわずかしか大きくないものにすることができる。この医療ブロックを使用していないときにはそれぞれの扉が閉じられているため、許可されていない人は、この医療ブロックの中にある医療器材に近づくことができない。したがって、この医療ブロックのまわりのスペースを、通常は、乗客を収容するのに使用できる。ある乗客が健康上の問題を訴えたとき、資格が与えられた人がワゴンを取り出し、その人のかたわらに行く。その資格者によって、初期処置に必要な器材をワゴンに用意されている。必要な場合には、その乗客を運んで医療ブロックに付属する寝台の上に寝かせる。そのときこの寝台は、通常は一般乗客を収容するスペースに置かれる。一般乗客がこのスペースを占めている場合には、これら乗客を空いた座席に移らせる。したがって医療ブロック専用のスペースは非常に狭いが、処置を行なうのに必要なスペースは通常は乗客を受け入れている場所に必要に応じて設けられるため、患者に必要な処置を与えるのに十分である。少なくとも1つのワゴンを用意していることは、医療ブロックの一部を移動可能にしていることになる。
【0013】
本発明の一実施態様では、それぞれのアクセス用扉を通じ、例えば乗客を収容する領域から対応するワゴンの引き出しにアクセスできる。もちろんこの領域は、医療ブロックと組み合わされる寝台の上に載った患者を収容する領域であることが好ましい。この実施態様では、ワゴンが乗客を収容する領域に向かって転がっていくことができないよう、本発明の医療ブロックは、ワゴンが乗客を収容する領域近傍へと移動するのを妨げる保持手段を備えていることが望ましい。この保持手段は、例えば、下部帯状部と上部帯状部を備えていて、その両者の間に対応するアクセス用扉が存在している。
【0014】
本発明の好ましい一実施態様によれば、本発明の医療ブロックによって占められるスペースは最適化されており、この医療ブロックは、航空機の客室内を横断方向(transversalement)に延びる2つの壁部と、縦方向(longitudinale)の壁部および客室の壁部とによって区画されていることと、それぞれのアクセス用扉は横断方向の壁部に設けられていることが好ましい。
【0015】
ワゴンの操作を簡単にするため、医療ブロックは、アクセス用扉とは異なるアクセス用ドアも備えていて、収納領域からワゴンの出し入れが可能であることが望ましい。このアクセス用ドアは、例えば縦方向の壁部に設けられている。
【0016】
良好な衛生状態で利用できるようにするため、本発明の医療ブロックは、洗面台などの水場を具備することが望ましい。医療ブロックは、この医療ブロックを収容する領域からはみ出した医療器材を置くことのできる作業台を具備することもできる。医療ブロック内のスペースを最適化するため、この作業台は、ワゴンを留めておく領域の上方にあることが望ましい。
【0017】
本発明の医療ブロックは、酸素の供給手段も具備することが好ましい。酸素は、航空機のいろいろなシステムから供給すること、または酸素ボンベから供給することができる。
【0018】
航空機内で患者を迎えに行くため、医療ブロックはさらに担架を具備することが好ましい。担架は、そのまま患者を収容する寝台として利用すること、または知られている方法で患者を担架から寝台に移すことができる。
【0019】
担架が備えつけてある場合には、少なくとも2つのワゴンも用意してあることが好ましい。そしてワゴンと担架が固定手段を備えていて、担架の両端をそれぞれ1つのワゴンに固定できるようになっていることが望ましい。
【0020】
医療器材の収容能力を大きくするため、医療ブロックは、医療装置を収容する整理棚をさらに備えていることが望ましい。医療ブロックは、例えば、少なくとも1つの無影灯や、少なくとも1つの引き出し可能なテーブルや、地上の医師とコンタクトを取って遠隔治療を可能にする電話などの装置を具備することもできる。
【0021】
本発明は、上記のような医療ブロックを具備することを特徴とする航空機の客室にも関する。
【0022】
好ましい一実施態様では、航空機のこのような客室は、航空機の客室モジュールとして、
2つの小さな壁部によって接続された2つの大きな壁部と、
この客室モジュールを通路と隔てる壁部に設けられた開口部に取り付けられたドアと、
航空機の移動方向に対して(par rapport au sens de deplacement de l'aeronef)、縦方向(longitudinalement、横切る方向とは直角方向、即ち移動方向)を向いた少なくとも1つの配置を持つ少なくとも1つの座席と、
少なくとも一人の乗客が横になる面を形成することのできる部材と
を有する細長い長方形の形態になった客室モジュールも備えていることが好ましい。
【0023】
医療ブロックと航空機の客室モジュールは共通の壁部を有することが望ましく、医療ブロックのアクセス用扉を通じ、客室モジュールの中から対応するワゴンの引き出しにアクセスできる。
【0024】
航空機のこのような客室では、医療ブロックは、客室モジュールの中から常にアクセスできる例えば洗面台および/または作業台を具備することができる。場合によっては存在している作業台の上方には、覆うことのできるガラスを配置できる。このガラスは、飛行の全期間を通じて覆われており、離着陸のときに透明にされる。そのため乗務員は、規則に従い、離着陸の間は乗客を見ることができる。
【0025】
最後に、本発明は、上記のような医療ブロックおよび/または航空機の客室を具備することを特徴とする航空機にも関する。
【0026】
本発明の詳細な点と利点は、添付の概略図を参照した以下の説明によりよく現われるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の好ましい一実施態様の平面図である。
【図2】本発明の医療ブロックを備えているが、その医療ブロックが使用されていないときの航空機の客室の前部の平面図である。
【図3】医療ブロックが使用されているときの図2に対応する。
【図4】本発明による医療ブロックの一実施態様に関する図2に対応する図である。
【図5】本発明による医療ブロックの一実施態様に関する図3に対応する図である。
【図6】本発明による1つの客室モジュールの斜視図である。
【図7】本発明による1つの客室モジュールの斜視図である。
【図8】本発明による医療ブロックの好ましい一実施態様の正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
どの図面も、本発明による医療ブロックの実施態様を示している。航空会社の必要に応えるさまざまな実施態様が考えられる。冒頭で指摘したように、患者に対する処置には一般に3つの異なるレベルがある。第1のレベルでは、患者に対して応急手当タイプの処置がなされる。この場合には患者の生命に危険はない。患者は、例えば一時的に気分が悪くなったりしている(めまいなど)。別のレベルの処置では、患者はより深刻であり、総合的な医療処置が必要とされる。それは例えば迷走神経麻痺(malaise vagal)に苦しんでいる患者の場合である。最後のレベルでは、患者の生命が危険にさらされており、かなり重大な処置を迅速に行なうことが考えられる。それは例えば心臓発作の患者の場合である。
【0029】
航空会社は、望むのであれば、第1のレベルだけに介入すること、または第2のレベルに介入すること、または第3のレベルに介入することを選択できる。
【0030】
図1は、航空機の中に配置できて、患者に対して上記の3つのレベルの処置を行なう医療モジュールの立面図である。この図で、まず最初に寝台2が目に留まる。寝台2で患者の頭を載せる側には、さまざまな器材のための収納部が設けられている。収納部の第1のスペース4は例えば固定された複数の整理棚で構成されており、例えば携帯可能な医療器材(例えば診断(血圧測定、脈拍測定、心電図検査などの)装置)と治療装置(酸素マスク、電気式注入器など)がこのスペースに収容される。収納具4のこの第1のスペースにある電源により、これらの器具を作動させることができる。図1には、動かすことのできる直接的照明装置も示してある。それは例えば、関節接続式のアーム8に取り付けられた無影灯6である。アーム8は折り畳まれ、収納部の第1のスペース4の1つの整理棚の中に無影灯6とともに収容されることが好ましい。
【0031】
良好な衛生状態で患者に対して処置を行なうため、水場を設ける必要がある。図1には、収納部の第1のスペース4の横に洗面台10も示してある。この洗面台の横には、キットになった使い捨て医療器材を収容する2つの整理スペースがある。それは、ここでは2つのワゴン12である。これらワゴンは、一般に航空機の中で特に食事と飲み物を提供するのに使用されていて「トロリー」の名称で知られているワゴンと外形およびサイズが同じある。これらワゴン12は移動可能であり、複数の引き出しを備えていて、その中に医療器材が整理されている。
【0032】
上記の医療モジュールは、図1に示してあるように、例えばほぼ長方形の形状である。この医療モジュールは、例えば一方の側が、医療器材が整理して配置されるとともに洗面台10があるスペースになっている。この整理領域とは反対側には、横断方向の壁部14が存在している。図1の例では、寝台2は、横断方向の壁部14と縦方向の壁部に接して配置されている。縦方向の壁部は、客室の壁部16でもよい。客室の壁部16とは反対側には、医療モジュールを通路と隔てる縦方向の壁部18が存在している。
【0033】
医療器材の整理領域は、横断方向の2つの面によって区画されている。横断方向の第1の面、すなわち横断方向の外面20は、例えば中がほぼ詰まった状態である。この面は、水と電気が供給されるユーティリティ・スペース(例えばトイレ)と分離する壁部であることが好ましい。空気(と、好ましくは酸素)の供給手段も用意されている。これらのさまざまな供給手段が横断方向の外面20を貫通し、上記の医療モジュールに供給を行なっている。酸素の供給は、医療ブロック内の横断方向の2つの面20と22の間に配置したボンベから実現することができる。
【0034】
整理スペースは、横断方向の内面22も備えている。この面は多数の開口部を有するため、医療モジュールから整理スペースにストックされているさまざまな器材にアクセスすることができる。これらの器材へのアクセスはすべて、カギを掛けることのできるドアや扉などを通じてなされる。それに対して洗面台10に関しては、横断方向の内面22に開口部を設けてこの洗面台10にアクセスできるようにする。
【0035】
寝台2には例えば通路からアクセスすることができる。それを矢印24で示してある。このアクセスは、例えば縦方向の壁部18に設けられたドア(図示せず)を通じて行なう。別のドア(図示せず)を通じ、通路からワゴン12にアクセスすることができる。このアクセスは、第3の矢印26で示してある。
【0036】
したがって図1の医療モジュールにより、寝台2の上に横たわっている患者に処置を施すことができる。この患者に処置を行なう人は、寝台2の周囲にある通行領域28を利用するとともに、整理スペースに整理されたあらゆる器材にアクセスすることができる。これまで説明しなかったさまざまな付属設備も具備することができる。例えば図1に示してあるように、引き出した位置と引っ込んだ位置の間を移動するテーブル30を整理スペースの中に設けることができる。
【0037】
図2と図3は、航空機の客室に本発明の医療ブロックを実現した第1の実施態様を示している。この第1の実施態様は、応急手当タイプの初期処置だけを保証する医療ブロックである。
【0038】
これらの図面には、コックピット32と、乗務員のための居室およびトイレと、客室の一部が示してある。この客室には、入口の側に、トイレ34と、乗客を収容する複数のモジュール36がある。モジュール36は、通路38の両側に配置されている。それぞれのモジュールにはソファー40と寝台42がある。寝台42は、折り畳んだ後、各モジュール36の中にあってそのモジュールの壁部に沿って設けられた箱44の中に入れることができる。
【0039】
モジュール36は、トイレ34の横に配置されている。分離用壁部46がこのモジュール36とトイレ34を隔てている。モジュール36の外部でコンパートメント48がこの分離用壁部46に接している。このコンパートメント48は、例えば航空機の客室の天井まで延びている。このコンパートメント48は、下部、すなわち客室の地面側にワゴン(例えば図1のワゴン12)を収容できるようになっている。それは、航空機に乗っているときにサービスするのに利用されるワゴンと同じサイズのワゴンである。このワゴンは、そのサイズのため、「ハーフ・トロリー」と呼ばれるワゴンである。このワゴンは、通路38からコンパートメント48の中に入れることができる。コンパートメント48の中に収容されたこのワゴンは、複数の引き出しの中に整理された医療器材を備えている。コンパートメント48の中に配置されたワゴンの引き出しにアクセスできるようにするため、カギを掛けることのできる扉(図2と図3には図示せず)が分離用壁部46に設けられている。もちろんこのワゴンは、コンパートメント48の中に十分な余裕を持って収容されている。
【0040】
ワゴンはコンパートメント48の全体を占めているのではなく、その下部だけを占めている。コンパートメント48の上部には、医療器材を収容するための複数の整理棚が設けられている。これら整理棚には、モジュール36の中から、やはりカギを掛けることのできる扉を通じてアクセスすることができる。
【0041】
分離用壁部46は、トイレ34の洗面台10にアクセスすることのできる開口部も備えている。
【0042】
コンパートメント48の中に置かれたワゴンにアクセスし、次いでこの同じコンパートメントの整理棚にアクセスし、次いで洗面台10にアクセスするという操作を別々に行なわなくても済むよう、分離用壁部46に沿って滑り戸を設けることができる。この滑り戸は、医療器材と洗面台に自由にアクセスできる位置と、滑り戸にカギが掛けられていて医療器材にまったくアクセスできない位置の間を移動する。
【0043】
コンパートメント48にはトイレ34からも電気が供給される。
【0044】
図2は、通常の利用状態にある航空機の客室を示している。乗客は、モジュール36のトイレ34側に配置されたソファ40に座る。図3では、トイレ34の横に位置するモジュール36が、患者を収容することのできる医療モジュールに変更されている。したがって図2と比べると、モジュール36のベッドが広げられて寝台2を形成していることがわかる。コンパートメント48にはモジュール36の中からアクセスすることができる。寝台2は、モジュール36の中で手当てする可能性のある患者を収容することができる。すると患者は他の乗客と隔離されて静かな状態になり、初期処置を良好な状況で行なうことができる。
【0045】
図2と図3に示したこの実施態様では、コンパートメント48の容積が限られていることがわかる。そのため持ち込める医療器材は限られるため、実現する医療モジュールは、特に応急処置タイプの手当てを必要とする患者を収容するためのものである。
【0046】
しかしモジュール36の設備は追加することもできる。そこで寝台を設置したとき、その寝台を収容する収納具44の中に医療器材を収容することができる。収納具44の中に収容された器材が何であるかに応じ、実現する医療モジュールは、総合的な医療および/または救急医療(レベル2および/またはレベル3)に関する治療を提供できるように変えることもできる。
【0047】
図4と図5は、本発明による医療ブロックの第2の実施態様を示している。これらの図面では、同様の要素に関しては、図1から図3で使用したのと同じ参照番号を利用する。
【0048】
これらの図面では、航空機のコックピット32と、通路38に面したモジュール36を確認することができる。少し変わった構成のモジュールがあることに気づく。なぜならこのモジュールにはベンチ50(図4)が存在しているからである。このモジュールは、ここでは、必要に応じて医療モジュールとして利用される。このモジュールは、ファースト・クラスの客室として乗客を輸送するのに用いることができる。乗客は、この客室の内部でソファ40とベンチ50を利用できる。ベンチ50は、ベッドに変換することができる。このモジュールは飛行機の前方に配置されていて、コンパートメント48に接している。このコンパートメントは、ここでは、医療器材と医療装置が整理して中に入れられている2つのハーフ・トロリーと、洗面台とを収容できるサイズである。このコンパートメント48には、水と、電気と、酸素が供給される。図6と図7は、コンパートメント48と、対応するモジュール36の斜視図である。図6は図4の構成に対応し、図7は図5の構成に対応している。
【0049】
図6と図7から、コンパートメント48に収容されたワゴン12は、これらワゴンが付属するモジュール36の内部を向いていることがわかる。これらワゴンは、激しい衝撃を受けた場合でさえ、コンパートメント48の中に保持しておく必要がある。これらワゴン12を保持しておくため、モジュール36の側に下部帯状部52と上部帯状部54が設けられている。これら帯状部は、激しい衝撃を受けた場合でさえワゴン12をコンパートメント48の中に保持しておくために補強されている。下部帯状部52と上部帯状部54の間には、対応するモジュール36の中からワゴン12にアクセスできなくする2つの扉56がある。図6と図7では、扉が開いた状態を示してある。したがって扉には、ワゴン12の引き出しにアクセスすることのできる開口部58ができる。扉56は、閉じた状態から開いた状態にするため、鉛直軸のまわりを90°回転した後、滑ってコンパートメント48内の対応するワゴン12の横に来る。
【0050】
図6と図7から、ベンチ50がある構造体を備えており、その上に座部60とクッション62が載っていることがわかる。クッション62は、このベンチ50の肘掛けと背もたれを形成する。ベンチ50の座部60は、担架として利用できる。航空機の中にいる患者を迎えに行くため、座部60をベンチ50から外し、コンパートメント48の中に収容してある2つのワゴン12の上に配置できることが好ましい。すると座部60によって形成される担架の頭部に1つのワゴンがあり、この担架の他端の下に別のワゴン12がある状態になる。固定手段(図示せず)によって担架をこれらワゴン12に固定することができる。したがって患者を非常に安全な状態で運ぶことができる。さらに、苦しんでいる患者を運ぶ前に、医療器材(ワゴン12の中にある医療器材)をその場で初期処置のために利用することができる。
【0051】
ワゴン12と座席の高さ、ならびに航空機の客室内に存在する他の障害物の高さに応じて介在部品を各ワゴン12と担架の間に挿入し、担架をより高くすることができる。すると担架を用いて航空機の中を移動することが容易になる。
【0052】
図8は、モジュール36(例えば図4から図7のモジュール)の方から見た医療ブロックの正面図である。ここには、(図8では隠れている)ワゴン12にアクセスすることのできる扉56と、ワゴンがコンパートメントから出ていくのを阻止する下部帯状部52および上部帯状部54と、他のさまざまな設備(例えば洗面台10)が確認できる。図8の右側には客室の壁部16があり、左側にはこのモジュールに通路からアクセスすることを可能にするドア64がある。
【0053】
洗面台10の横には、作業台66がある。したがって作業台は、コンパートメント48の中にあるワゴンの上方に位置している。洗面台10の下にはゴミ箱が用意されている。作業台の背後にはガラス68が取り付けられている。このガラスは隠すことができる。このガラスがあるため、例えば離着陸の際に乗務員がモジュールの内部で何が起こっているかを見ることができる。実際には、規則により、乗務員は、離着陸の際に乗客の少なくとも50%が見えなければならない。特に、乗客の安全のため、離着陸の際に乗客が立っていないよう監視する必要がある。
【0054】
利用可能なあらゆるスペースは、ドアや扉などを通じてアクセス可能な収容部を実現できるようになっていることがわかる。狭いドア70によって閉じられる狭いスペースには、例えばブラインド(図示せず)が収容される。コンパートメント48の中に収容されるあらゆる電気装置は、もちろん電気を供給されて作動する。電線による接続をできるだけなくす。さまざまな設備(例えばブラインド)は、ブルートゥースという名称で知られる技術によって対応する装置と接続されることが好ましい。
【0055】
医療ブロックには、地上との通信、より詳細には遠隔治療に特化した医療センターとの通信を可能にする電話装置も備えられている。
【0056】
コンパートメント48は、あらゆる種類の医療装置を具備することができる。そのすべてを列挙したリストをここに挙げる必要はなかろう。ここには、診断と治療のためのあらゆるタイプの装置を見いだすことができる。それは、特に救急輸送手段(救急車、ヘリコプターなど)で見られる装置であり、治療室に見られる装置さえある。
【0057】
上記の説明には、本発明の医療ブロックを、乗客を収容するモジュールと組み合わせて利用する本発明の好ましい実施態様を示してある。このようなモジュールは一般にファースト・クラスで利用される。しかし本発明は、ビジネス・クラスまたはエコノミー・クラスで旅行する乗客を収容する客室区画でも実現できる。その場合には、1つまたは2つ(またはそれ以上)のワゴン12を収容するコンパートメント48と、医療装置と医療器材を収容する収納部を設けるとよい。このコンパートメントには少なくとも水と電気を供給し、酸素および/または空気も供給することが好ましい。患者の手当てが必要なとき、患者は、本発明の医療ブロックの近くで寝台の上に横になる。ビジネス・クラスでは、座席をベッドに変換できる場合がある。すると1つの座席を利用してその患者を収容することができる。エコノミー・クラスでは、一列の座席の上に担架または寝台を置くことがすでに知られている。ここではこのタイプの従来のいろいろな装置を使用することができる。ここでは、例として、ヨーロッパ特許第0 965 319号に記載されているような患者のための寝台を挙げることができる。そのとき患者を隔離できるようにするため、客室の天井に取り付けたカーテンとレールを本発明の医療ブロックと組み合わせて患者受け入れ領域を取り囲むことができる。
【0058】
上記のような医療ブロックは航空機の中で非常に狭いスペースしか占めない。このようなブロックによって占められる場所は、1つのトイレの1/4の容積と1/2の容積の間である。したがってこの医療ブロックは、横断方向の厚い壁部として存在する。この厚さは50cm未満にすることができる。したがってこのような医療ブロックは、座席数を減らす必要なくほとんどの航空機に設けることができる。
【0059】
もちろん航空機の中に複数の医療ブロックを設けることもできる。このような医療ブロックは、航空機の中で水と電気が供給される場所を占めていることが好ましい。したがってこのような医療ブロックは、トイレやキッチンの横にあることが好ましい。
【0060】
航空機の中に医療器材を収容する専用の領域を設け、患者を収容する場所を、乗客を収容するのに利用するというのが元々の考え方であるため、占められる場所を最小にすることができる。航空機内の誰も手当てを必要としていないのであれば、乗客は、「診療室」の中で旅行していることに気づかない。飛行中に誰かが病気になると、患者が横になれるように乗客がその患者の席および/または空いた他の席に移動する。
【0061】
図面に示した実施態様では、医療モジュールは、傷病者の送還にも利用できる。したがってこのモジュールに十分な設備が備わっていると、傷病者輸送機をチャーターするのではなく、定期路線便を利用して傷病者を送還することが可能になる。このようにすると、傷病者の送還を行なわねばならない保険会社の費用が節約でき、それと並行して航空会社は、自社の航空機に搭載された設備から利益を得ることができる。
【0062】
本発明の医療ブロックを使用していないときには、許可されていない人がこの医療ブロックにアクセスできないようにすることが重要である。実際、この医療ブロックには、カギを掛けて保管せねばならない薬が収容されている。さらに、誰かが医療器材を傷つけるようなことがあってはならない。するとその医療器材が使用できなくなってしまうであろう。しかし上記の説明からわかるように、医療ブロックの洗面台、作業台、その他の付属設備は、常にアクセス可能である。そのことで、医療ブロックの近くで旅行する乗客の快適さを増すことができる。
【0063】
本発明の医療ブロックでは、故障した装置または古くなった装置を交換するのが容易であり、大きな費用はかからない。したがって本発明の医療ブロックは、常に性能のよい器材を具備することができる。したがって航空機の中で高品質の医療サービスを提供することができる。この航空機に乗っているときになされる治療は、遠隔治療手段のおかげで地上の専門的な医療センターの管理下で行なうことができる。
【0064】
航空会社の望みに応じ、医療ブロックの装置は、ある程度完成されたものにすることや、多少改良することができる。どのような選択をするにせよ、ここに提案する医療ブロックは、航空機の元々の構造を変えることなく、その航空機に合わせることができる。
【0065】
本発明が例として上に説明した実施態様に限定されることはない。本発明は、ここに示した実施態様のあらゆる変形例と、添付の請求項の範囲で当業者が実現できる他のあらゆる変形例に関連している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
横になった状態で患者を収容する寝台(2)と組み合わされる、航空機の客室のための医療ブロックであって、
水の供給手段と、
電気の供給手段と、
少なくとも1つのワゴン(12)の収納領域と、
前記収納領域の中に配置されていて、医療器材が中に入った複数の引き出しを具備する少なくとも1つのワゴン(12)と、
それぞれのワゴン(12)に対応するアクセス用扉(56)であって、カギを掛ける手段を装備していて、前記ワゴンの引き出しにアクセスすることのできるアクセス用扉(56)を具備する医療ブロック。
【請求項2】
それぞれのアクセス用扉(56)を通じ、乗客を収容する領域から、前記対応するワゴン(12)の引き出しにアクセスできることを特徴とする、請求項1に記載の医療ブロック。
【請求項3】
ワゴン(12)が、乗客を収容する領域近傍へと移動するのを妨げる保持手段(52、54)を具備することを特徴とする、請求項2に記載の医療ブロック。
【請求項4】
ワゴン(12)を保持する上記保持手段が下部帯状部(52)と上部帯状部(54)を備えていて、その両者の間に対応するアクセス用扉(56)が存在することを特徴とする、請求項3に記載の医療ブロック。
【請求項5】
航空機の客室内を横断方向に延びる2つの壁部(20、22)と、縦方向の壁部(18)および客室の壁部(16)とによって区画されていることと、それぞれのアクセス用扉(56)が横断方向の壁部(22、46)に設けられていることを特徴とする、請求項1から4のいずれか1項に記載の医療ブロック。
【請求項6】
上記アクセス用扉(56)とは異なるアクセス用ドア(26)も備えていて、前記収納領域からのワゴンの出し入れが可能であることを特徴とする、請求項1から5のいずれか1項に記載の医療ブロック。
【請求項7】
上記アクセス用ドア(26)が縦方向の壁部(18)に設けられていることを特徴とする、請求項5または6に記載の医療ブロック。
【請求項8】
洗面台(10)などの水場を具備することを特徴とする、請求項1から7のいずれか1項に記載の医療ブロック。
【請求項9】
作業台(66)を具備することを特徴とする、請求項1から8のいずれか1項に記載の医療ブロック。
【請求項10】
上記作業台(66)が上記ワゴン(12)の収納領域の上方にあることを特徴とする、請求項9に記載の医療ブロック。
【請求項11】
酸素の供給手段も具備することを特徴とする、請求項1から10のいずれか1項に記載の医療ブロック。
【請求項12】
担架(60)をさらに具備することを特徴とする、請求項1から11のいずれか1項に記載の医療ブロック。
【請求項13】
少なくとも2つのワゴン(12)を具備することと、その2つのワゴン(12)と上記担架(60)が固定手段を備えていて、担架(60)の両端をそれぞれ1つのワゴン(12)に固定できることを特徴とする、請求項12に記載の医療ブロック。
【請求項14】
医療装置を収容する整理棚(4)をさらに具備することを特徴とする、請求項1から13のいずれか1項に記載の医療ブロック。
【請求項15】
少なくとも1つの無影灯(6)を具備することを特徴とする、請求項1から14のいずれか1項に記載の医療ブロック。
【請求項16】
少なくとも1つの引き出し可能なテーブル(30)を具備することを特徴とする、請求項1から15のいずれか1項に記載の医療ブロック。
【請求項17】
地上の医師とコンタクトを取って遠隔治療を可能にする電話などの装置を具備することを特徴とする、請求項1から16のいずれか1項に記載の医療ブロック。
【請求項18】
請求項1から17のいずれか1項に記載の医療ブロック(48)を具備することを特徴とする航空機の客室。
【請求項19】
航空機の客室モジュール(36)として、
2つの小さな壁部によって接続された2つの大きな壁部と、
この客室モジュールを通路(38)と隔てる壁部(18)に設けられた開口部に取り付けられたドアと、
航空機の移動方向に対して縦方向を向いた少なくとも1つの配置を持つ少なくとも1つの座席(40)と、
少なくとも一人の乗客が横になる面を形成することのできる部材(2)と
を有する細長い長方形の形態になった客室モジュールをさらに具備することと、
上記医療ブロック(48)と航空機のこの客室モジュール(36)が共通の壁部(46)を有することと、
上記医療ブロック(48)のアクセス用扉(56)を通じ、この客室モジュール(36)の中から対応するワゴン(12)の引き出しにアクセスできることを特徴とする、請求項18に記載の航空機の客室。
【請求項20】
上記医療ブロック(48)が洗面台(10)を備えていて、上記客室モジュール(36)の中から常にこの洗面台(10)にアクセスできることを特徴とする、請求項19に記載の航空機の客室。
【請求項21】
上記医療ブロック(48)が作業台(66)を備えていて、上記客室モジュール(36)の中から常にこの作業台(66)にアクセスできることを特徴とする、請求項19または20に記載の航空機の客室。
【請求項22】
上記医療ブロック(48)が、隠すことのできるガラス(68)を上記作業台(66)の上方に具備することを特徴とする、請求項21に記載の航空機の客室。
【請求項23】
請求項1から17のいずれか1項に記載の医療ブロックを具備することを特徴とする航空機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−214225(P2012−214225A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−143227(P2012−143227)
【出願日】平成24年6月26日(2012.6.26)
【分割の表示】特願2008−516370(P2008−516370)の分割
【原出願日】平成18年6月9日(2006.6.9)
【出願人】(503172666)エアバス (43)
【Fターム(参考)】