説明

対策工効果評価システム

【課題】
点検対象物における危険度や対策工の必要度の評価さらには必要とされる対策工の定量評価を実施することができる対策工効果評価システムを提供する。
【解決手段】
入力部1と、演算部2と、格納部13,16,18,22,24,29と、出力部11を有し、点検対象物における健全性劣化の要因に係るn次元の要因データと点検対象物に対する要因データ毎に構成されるn次元の点検データ14と要因データ毎に構成されるn次元の学習データ17を用いて得られる災害発生の可能性の有無を分離する分離面を基準として、ある点検対象物における危険度を算出して対策工効果の定量評価を実施するための対策工効果評価システムである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、土木構造物や災害危険箇所等の点検対象物における健全性劣化に関する点検データから得られる補修(対策工)の必要性の有無あるいは災害発生の可能性の有無を分離する分離面に基づいて、点検対象物における危険度や補修の必要度の評価さらには必要とされる補修の定量評価を実施することができる対策工効果評価システムに関する。
【背景技術】
【0002】
日本は国土の約7割が山地・丘陵地であり,その斜面の多くは複雑な地形と脆弱な地質からなり,かつ台風や集中豪雨や豪雪といった過酷な自然条件にさらされている.このため毎年各地で様々な土砂災害が発生している。
このような土砂災害をはじめ、他の災害も含めて発生する可能性のある点検対象物に対しては、災害防止や維持管理のために日常的に点検が行われるが、その数は膨大であり、点検対象物毎に適切な対応を行うことが困難であると同時に、その対応の程度も不明であることが多く、過分な対策工を施したり、補修工事が実施されることもある一方、必要な対策工が施されないということもあった。
そこで、本願発明者らはこれまでも、土木構造物や災害危険箇所に関する評価については鋭意研究を重ねており、土木構造物の他にも、例えば土砂災害や陥没災害などの自然災害においても未然防止の観点から急峻な斜面に対して補強工事や排水溝などの対策工を施すなどする際に、その危険度を評価するために必要であり、本願発明者らは既に自然災害の未然防止の観点から様々な検討を実施している。
【0003】
例えば、防災事業計画の立案支援などのために実際の災害発生あるいは非発生に関するデータをコンピュータ処理することで精度の高い情報を得る研究に関しては、本発明者らが既に、がけ崩れの発生予測に用いられる発生降雨、非発生降雨の判別境界線であるがけ崩れの発生限界線や、避難基準線、警戒基準線を設定する方法について非特許文献1に示されるように発表している。
非特許文献1では、複雑な自然現象を直線近似せず、高精度の発生限界線等を設定することを目的として、非線形判別に優れた放射状基底関数ネットワーク(以後、RBFNと略す場合がある。)を用い、地域毎の非線形がけ崩れ発生限界雨量線を設定する方法を提案している。本非特許文献1に開示される技術では、RBFNを用いて、その学習機能を利用して最適な中間層と出力層の重みを決定することによって非線形がけ崩れ発生限界雨量線を設定している。
その結果、例えば非特許文献1では、横軸に実効雨量、縦軸に時間雨量をとった判別境界面が曲線の集合として描かれる。
この曲線は、いわば等高線を示したもので、これが非線形のがけ崩れ発生限界線を示している。判別境界面は、災害の発生、非発生の実効雨量と時間雨量をプロットしながら、その高さ方向として災害の発生の場合には教師値を「−1」とし、非発生の場合には教師値を「+1」とした放射状基底関数を考え、その重ね合わせによって演算されたものである。従って、これらの等高線は、原点に近い方が高いもので、原点の存在する左下の角から対角方向に向かってなだらかに低いものとなっている。
このような災害の発生限界線や避難基準線、警戒基準線(以下、これらを総称してCLという。)を定量的、客観的に描くことによって精度の高い防災事業の立案の判断が可能であり、また、コンピュータ処理によって膨大なデータを短時間に処理できることから、CLの陳腐化を防止して精度の高い情報を提供できるのである。
【0004】
また、特許文献1においては、「災害対策支援システム」として、災害発生時に実行すべき災害対策を自動的に選択して表示し、その進捗状況を併せて示す手段を備えたシステムが開示されている。
本特許文献1に開示される災害対策支援システムは、基本的にはif−then形式で、予め発生する事象とそれに対応する対策を関連付けて格納された対策リストを読みだして、対応するものである。災害時に精神的、時間的、人的に余裕のない状況で、的確な判断を可能とすべくなされたものである。また、標準的な作業時間と実働時に要した作業時間及び対策可能な残り時間を表示することで、対策進捗状況をリアルタイムに把握することが可能であると同時に、重要度の高い対策と低い対策を取捨選択するためにも用いることができる。
【0005】
さらに、特許文献2においては、非特許文献1に開示される技術を警戒避難システムに応用した発明が開示されている。本特許文献2に開示された発明では、災害に影響を及ぼす地形要因、地質・土質要因、環境要因及び地震要因を踏まえた上で、短期降雨指標として、例えば発生時刻から3時間以内の最大時間雨量(以下、一定時間内の代表的な雨量を「時間雨量」と略すことがある。)を、また、長期降雨指標として、例えばその時刻における半減期を72時間とした実効雨量を用いて、CLを演算するものである。
このようにして得られたCLを用いることで、信頼性の高い警戒避難支援システムを提供することが可能である。
【非特許文献1】倉本和正 他5名:RBFネットワークを用いた非線形がけ崩れ発生限界雨量線の設定に関する研究、土木学会論文集のNo.672/VI−50,pp.117−132,2001.3
【特許文献1】特開2002−230235号公報
【特許文献2】特開2003−184098号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、非特許文献1及び特許文献2に開示された発明では、災害の発生限界線や、避難基準線、警戒基準線を設定することに主眼を置いており、ある特定の地域あるいは一定の条件毎にまとめられた地域グループにおいて、短期降雨指標や長期降雨指標がどの程度に至れば災害の発生の危険性があるのかを客観的に評価することに留まっていた。極端に言えば、同一地点において、蓄積された短期及び長期の降雨指標のデータを入力して、その地点で蓄積された降雨データに基づいて、どの程度の降雨で災害が生じることになるかという判断を行っていたのである。
これでは、客観的、定量的な評価であっても、地域毎あるいはグループ毎に個別具体的な評価を行なうことはできるものの、特定の地域ではなく、地域全般に共通の一般的、普遍的な評価を行なうことが困難であるという課題があった。すなわち、データとしては、広範な地域のデータを一緒に用いて、それらに含まれる様々な要因を把握し、それらの要因の中から変数として選択して組合わせることによって得られる総合的な潜在危険度を評価することが困難であるという課題があった。
【0007】
また、特許文献1に開示された発明では、基本的に複雑ではあるけれども予め定められたあるいは既知の条件とその対策をリスト状のデータ構造を備えたものを用いて、対策の具体的な実施手順を示すものである。確かに対策リストは補正、更新が可能であるものの基本的には入力されたデータを基に判断がなされ、コンピュータは、事象と対策を結合させるという処理を行うに過ぎないものであるという課題があった。
また、本特許文献1に開示された発明では、事象が発生した後の防護策を示すものであって、事前の予防策について教示するものではないので、この発明を本願発明のような構造物補修工事の計画支援に用いたとしても、例えば構造物の経年劣化による潜在的な危険度と、加えて補修工を施した後の危険度から補修工の効果を定量的に把握することは困難であるという課題もある。
【0008】
本発明は、かかる従来の事情に対処してなされたものであり、土木構造物や災害危険箇所等の点検対象物における健全性劣化に関する点検データから得られる補修(対策工)の必要性の有無あるいは災害発生の可能性の有無を分離する分離面に基づいて、点検対象物における危険度や補修(対策工)の必要度の評価さらには必要とされる補修(対策工)の定量評価を実施することができる対策工効果評価システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、請求項1記載の発明である対策工効果評価システムは、入力部と、演算部と、格納部と、出力部を有し、点検対象物における健全性劣化の要因(要因数をnとする。n≧2)に係るn次元の要因データと前記点検対象物に対する前記要因データ毎に構成されるn次元の点検データと前記要因データ毎に構成されるn次元の学習データを用いて得られる災害発生の可能性の有無を分離する分離面を基準として、ある点検対象物における危険度を算出して対策工の要否と対策工効果の定量評価を実施するための対策工効果評価システムであって、前記入力部は、前記点検対象物における前記健全性劣化の要因に係るn次元の要因データと、前記要因データ毎のn次元の点検データと、前記要因データ毎のn次元の学習データと、を前記格納部に入力可能な手段であって、前記格納部は、前記健全性劣化の要因に係るn次元の要因データと、前記要因データ毎のn次元の点検データと、前記要因データ毎のn次元の学習データと、を格納可能な手段であって、前記点検対象物に対する前記要因データ毎に構成されるn次元の学習データは、前記点検対象物に対する対策工の有無データを含む学習データであり、前記演算部は、前記点検対象物における前記健全性劣化の要因に係るn次元の要因データと、前記要因データ毎のn次元の学習データとを用いてn次元以上の座標空間(以下、多次元座標空間という。)中に分離面を演算する分離面演算部と、前記n次元の点検データを前記入力部又は前記格納部から読み出して、この点検データが示す前記多次元座標空間中での座標から、前記多次元座標空間中に形成される分離面までの距離を前記点検対象物の危険度として演算する危険度演算部と、前記n次元の学習データのうち、前記対策工の無データを備える学習データを前記入力部又は前記格納部から読み出して前記分離面演算部に第1の分離面を演算させ、前記n次元の学習データのうち、前記対策工の有データを備える学習データを前記入力部又は前記格納部から読み出して前記分離面演算部に第2の分離面を演算させ、前記n次元の点検データを前記入力部又は前記格納部から読み出して、前記危険度演算部に前記点検データが示す前記多次元座標空間中での座標から、前記多次元座標空間中に形成される第1の分離面と第2の分離面までの距離をそれぞれ前記点検対象物の潜在危険度と修正危険度して演算させ、この潜在危険度と修正危険度の差を前記対策工の効果度として演算する対策工効果度演算部と、を備え、前記出力部は、前記学習データ、前記分離面の座標データ、前記点検データ、前記危険度、前記対策工の効果度のうち少なくとも1の情報を出力可能な手段であるものである。
【0010】
なお、本願発明においては、「危険度」という語を用いているが、これは、裏を返せば「安全度」となり、この概念をも含むものであり、決して排除するものではない。本願全体においても同様である。
【0011】
また、請求項2に記載される対策工効果評価システムは、請求項1記載の発明において、前記点検対象物に対する前記要因データ毎に構成されるn次元の点検データは、前記点検対象物に対する対策工の有無データの他、対策工の数及び種類を含む点検データであり、前記対策工効果度演算部は、前記対策工の数毎及び/又は種類毎に前記学習データを前記入力部又は前記格納部から読み出して前記分離面演算部に第2の分離面を演算させ、前記n次元の点検データを前記入力部又は前記格納部から読み出して、前記危険度演算部に前記点検データが示す前記多次元座標空間中での座標から、前記多次元座標空間中に形成される前記第1の分離面と前記第2の分離面までの距離をそれぞれ前記点検対象物の潜在危険度と修正危険度して演算させ、この潜在危険度と修正危険度の差を前記対策工の数毎及び/又は種類毎の効果度として演算する対策工効果度演算部であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、土砂災害発生の危険度や構造物の損壊や崩落の危険度を客観的かる定量的に評価可能であると同時に、補修(対策工)の効果も定量的に評価して、土砂災害防止や構造物維持のために必要な補修(対策工)の選択や評価を行うことが可能である。
【0013】
さらに、特に請求項2に記載された発明によれば、補修(対策工)として必要なものの数あるいはその種類についても評価することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態に係る対策工効果評価システムについて図1乃至図3を参照しながら説明する。
図1は、本実施の形態に係る対策工効果評価システムの構成図である。
図1において、構造物補修施工計画支援システムは、入力部1と演算部2と出力部11と複数のデータベース13,16,18,22,24,29から構成される。
入力部1は、これらのデータベースに格納されるデータ12aを予め入力したり、あるいは演算部2の作動時に直接データ12aや解析条件12bを入力するために使用されるものである。具体的には、例えば、キーボード、マウス、ペンタブレット、あるいは、コンピュータ等の解析装置や計測機器等から通信回線を介してデータを受信する受信装置など複数種類の装置からなり目的に応じた使い分け可能な装置が考えられる。
【0015】
演算部2は、標準化解析部3、解析条件設定部4、分離面演算部5、危険度演算部6及び対策工効果度演算部7から構成されるものである。
演算部2は、データベースから読み出されたり、入力部1から入力される点検に関するデータ12a、分離面に関するデータ12aや点検対象物に対する対策工の実績に関するデータ12a、及び解析条件12bを用いて、対策工の必要度や対策工による効果の解析、点検対象物の土砂災害や崩落などの危険度の解析を行なうセクションにより構成されている。これらのセクション同士は、互いに演算結果をデータとして入出力することが可能となっている。演算部2として具体的には、ワークステーションやパーソナルコンピュータ等のコンピュータが考えられる。
また、データベースとしては、点検対象物に対する過去の点検データ14が格納される点検データベース13、点検対象物に対する学習データ17が格納される学習データベース16、点検対象物の危険度や対策工の必要度を解析するための分離面データ19、潜在分離面データ20及び修正分離面データ21を格納する分離面データベース18、種々の解析のための解析条件データ25、パラメータデータ26、分離面関数データ27及び危険度関数データ28を格納する解析データベース24、対策工データ23を格納する対策工データベース22、さらには、演算部2を用いて解析された結果得られた危険度データ30、潜在危険度データ31、修正危険度データ32及び対策工効果度データ33を格納する評価情報データベース29がある。
ハードウェアとしてのデータベースは具体的には、磁気ディスクや光ディスク等のコンピュータ用の記憶装置にデータを格納したものが考えられ、出力部11としては、CRT、液晶、プラズマあるいは有機ELなどによるディスプレイ装置、あるいはプリンタ装置などの表示装置、さらには外部装置への伝送を行なうためのトランスミッタなどの発信装置などが考えられる。
【0016】
主として以上のような構成要素を備える本実施の形態に係る対策工効果評価システムの作用について説明する。
入力部1によるデータ入力処理では、先ず、データを入力する処理を行うが、その入力データとしては、例えば、点検データベース13に格納される点検データ14や学習データベース16に格納される学習データ17、対策工データベース22に格納される対策工データ23、さらには、分離面データベース18に格納される分離面データ19や潜在分離面データ20、修正分離面データ21も入力しておいてもよい。
点検データベース13に格納される点検データ14にはそれぞれの点検対象物における健全性劣化の要因(要因数をnとする。n≧2)に係るn次元の要因データも含まれるものであり、それぞれの要因データ毎に点検結果に関するデータが含まれている。
このような点検データは、数値による連続的なデータの場合には実測データを用いるが、他の計算への利用などを考えるような場合にはデータ数に大きなばらつきが出ないように一定の間隔を与えた離散化したデータを用いてもよい。例えば、傾斜度の場合は21度,36度などの実測データを用いもよいし、10度ごとに、そのレベルを1,2,3など離散化データとしてもよい。
また、遷急線を判断する場合に3段階のレベルで表現した場合には、そのレベル1,2,3なども定量的な点検データとする。すなわち、物理量として数値で表現できるようなデータのほか、非物理量で定性的にしか表現できないようなデータについても、その状態をなんらかの数値レベルをもって表現することで、定量的な点検データとするものである。
これらのデータについては、最初にデータ入力処理を実施するようにしてもよいし、解析の工程に合わせて適宜データを入力するようにしてもよい。
さらに、特に、分離面データ19、潜在分離面データ20及び修正分離面データ21であるが、これらは図1に示されるとおり、分離面演算部5によって演算されるようにしておくとよい。もちろん、外部で分離面演算部5に相当する構成要素にて演算し、先に説明したとおり入力部1から分離面データベース18に入力するようにしてもよい。
また、入力部1では、前述のとおり各データをそれぞれのデータベースに格納するが、これらのデータはデータベースに格納されることなく、直接演算部2に送信される場合もある。
【0017】
演算部2の標準化解析部3では、点検データ14、学習データ17や分離面データ19、潜在分離面データ20あるいは修正分離面データ21が標準化されていない場合であって、対策工の必要度、対策工効果あるいは危険度等を標準化した評価として得る場合に、これらのデータを標準化するものである。点検データ14や学習データ17には、要因データが含まれており、標準化されていない場合に、これらを標準化した方が望ましい場合には標準化解析部3を用いて標準化処理を行う。同様に、分離面データ19や潜在分離面データ20あるいは修正分離面データ21についても要因データに係る部分については標準化処理を行う。
その際の基準となる値などの標準化解析に用いられる条件については、解析データベース24に解析条件データ25として格納されている。基準値を例えば標準となる構造物における要因データの最大値としつつ解析条件データ25として格納しておき、標準化解析部3は、解析データベース24から解析条件データ25を読み出して、これと点検データベース13から読み出した点検データ14や学習データ17、あるいは分離面データベース18から読み出した分離面データ19、潜在分離面データ20又は修正分離面データ21を用いて標準化処理を実施する。基準値は要因データの最大値に限定するものではなく、所望の基準値を解析条件データ25として予め解析データベース24に格納しておくとよい。
なお、この標準化解析部3における処理については選択的でもある。
【0018】
但し、本実施の形態においては、この標準化解析部3において分離面データベース18に格納される分離面データ19、潜在分離面データ20あるいは修正分離面データ21を解析可能としている。これらのデータは特に演算部2の分離面演算部5で必ずしも解析される必要はなく、前述のとおり分離面データベース18に対して入力処理される場合もある。図1においては、解析条件設定後に、いずれかの点検データ14及び学習データ17を選択した後に解析を実施することができる。これら分離面データ19、潜在分離面データ20及び修正分離面データ21のデータの取得は、非特許文献1などに開示されるRBFNを用いたり、サポートベクターマシンを用いた解析を行なうことで得られるが、これらの手法は既に知られた技術であるので詳細な説明は省略する。
【0019】
次に、演算部2の解析条件設定部4では、解析を行なう対象やパラメータなどを設定するものである。具体的には、点検データベース13から点検データ14や学習データベース16から学習データ17のうちいずれの点検対象物のいずれの要因データの組合せを抽出し、それに対応するいずれの分離面データ19、潜在分離面データ20あるいは修正分離面データ21を抽出するかを設定するものである。
ここで解析条件設定部4は、入力部1を介して、どのような条件で解析を行なうかについて入力を促し、入力された条件をキーとして、点検データベース13、学習データベース16及び分離面データベース18にアクセスして該当する点検データ14と学習データベース16を読み出す。入力を促すために表示される点検データベース13及学習データベース16に格納されているデータ内容あるいはデータ構造を示すパラメータデータ26は、解析データベース24に格納されているため、解析条件設定部4はまず、この解析データベース24にアクセスして、パラメータデータ26を読み出して、そのパラメータデータ26を出力部11を利用して表示などさせるとよい。
この表示を受けて本対策工効果評価システムのユーザーは点検データ14や学習データ17のデータの選択を行なうことができる。
【0020】
その選択を受けて、解析条件設定部4は点検データ14や学習データ17に含まれる要因データの組合せに対応して形成される分離面データ19、潜在分離面データ20あるいは修正分離面データ21を演算すべく、解析条件を設定する。
【0021】
分離面演算部5では、学習データ17をそれぞれのデータベースから読み出して、それぞれの解析条件にて解析を実行し、得られた分離面に関するデータを分離面データベース18に格納する。
学習データ17の内容によって、それぞれ解析される分離面が異なる。例えば、対策工の実績がない点検対象物の学習データ17を集めた場合には、演算された分離面は潜在分離面となり、得られるデータは潜在分離面データ20となり、対策工の実績がある点検対象物の学習データ17を集めた場合には、演算された分離面は修正分離面として、得られるデータは修正分離面データ21となる。また、混在する場合には、単に分離面と呼び、そのデータは分離面データ19となる。
いずれの学習データ17を選択するかについては、解析条件設定部4において設定されることになる。
危険度演算部6では、分離面演算部5によって演算された分離面データ19、潜在分離面データ20あるいは修正分離面データ21が表す分離面から評価対象となる点検対象物の点検データ14の座標までの距離を演算する。点検データ14には、対策工が施された点検対象物に対するデータが使用され、点検データ14の座標は、点検データの要因データ毎に付されるものである。
演算された距離は、それぞれ危険度データ30、潜在危険度データ31あるいは修正危険度データ32となり、危険度演算部6によって評価情報データベース29に格納されるかあるいは出力部11に直接出力される
対策工効果度演算部7では、危険度演算部6によって演算された潜在危険度と修正危険度の差、あるいは修正危険度間の差として対策工効果度を演算する。具体的には、対策工効果度演算部7は、評価情報データベース29から潜在危険度データ31及び修正危険度データ32を読み出し、これらの差を演算する。これによって、対策工の有無の差を演算することが可能であり、対策工の必要度や対策工の有無の差による効果度の相違について定量的に評価することが可能である。あるいは、評価情報データベース29から対策工の施工状況の相違、すなわち、異なる対策工の数や種類を施した点検対象物の学習データ17を用いて演算された修正危険度データ32を読み出して、その差を対策工効果度として演算することで、異なる対策工間の定量評価を実施することも可能である。
これら演算された対策工効果度は、対策工効果度データ33として、対策工効果度演算部7によって評価情報データベース29に対して読み出し可能に格納される。
【0022】
次に、実際のデータを用いながら、本発明に係る対策工効果評価システムの実施例について説明する。
山口県の急傾斜地崩壊危険箇所斜面カルテから資料の収集が可能であった、下関、防府、錦町の点検データを用いた。この3地区ごとの対策工の有無を集計した結果を表1に示す。
【0023】
【表1】

【0024】
また本願明細書では3地区のうち、優先して対策すべき箇所である急傾斜地崩壊危険箇所ランクIに属するものを点検データとして用いた。急傾斜地崩壊危険箇所ランクIとは災害が起こった際に被害が及ぶと予想される人家が5戸以上存在するか、官公庁、学校、病院、駅、旅館、老人ホーム、発電所等の重要施設が存在する箇所のことをいう。
表2に土砂災害の危険箇所ランクごとの箇所数の一覧を示す。また、斜面カルテから得られる点検データは、急傾斜地毎に現地調査で得られた、延長、地形要因8要因、土質・地質要因6要因、環境要因12要因の計27要因から構成される要因データを備えており、加えて、急傾斜地の斜面状況及び保全対象人家を経年的に把握し、がけ崩れの災害に対し迅速に対応できるように作成されている。要因データの詳細を表3に示す。
【0025】
【表2】

【0026】
【表3】

【0027】
本実施例に係る対策工効果評価システムによって、対策工による効果を含めて危険度を評価可能であるか否かについて解析するため、使用数別のデータに分けて分析を行った。ここで、使用数は1種類、2種類、3種類以上の3分割にした。対策工使用数に応じた危険箇所数を表4に示す。平成11年に報告された斜面カルテより入手した3地区の対策を行っている339箇所の点検データを対象とした。
また同様に、対策工種別にも点検データを分けて分析を行った。対策工の工種は斜面カルテより調べたものを用いた。工種別に見ていくと対策工は、擁壁工、法枠工、モルタル吹付工、ストンガード、アンカー工、排水工に分類された。このうち、ストンガードや排水工は擁壁工との組み合わせで施工されており、またアンカー工は法枠工を補強するために施工され、それ自身では対策工としては機能していないため、解析データとしては扱わないことにした。よって本願明細書では、対策工1種類のみでも機能する、擁壁工、法枠工、吹付工を解析データとして扱った。これらの対策工の工種ごとの箇所数を整理したものを表5に示す。
このような各点検地点における対策工の工類別の施工情報は、斜面カルテに含まれるが、これは対策工データ23として対策工データベース22に格納されている。
【0028】
【表4】

【0029】
【表5】

【0030】
SVM解析において学習データ17に対策工無データ、点検データ14に対策工有データを用いることにより、点検データ14から対策工無のデータで構築された潜在分離面までの距離が算出できる。まず、この手順について説明する。演算部2の解析条件設定部4は、学習データベース16から学習データ17として対策工無データを選択して読み出し、分離面演算部5が、解析データベース24から分離面関数データ27を読み出して、先に解析条件設定部4が読み出した学習データ17を用いて、潜在分離面を演算する。既に、この潜在分離面に関する潜在分離面データ20が、分離面データベース18に格納されている場合には、分離面演算部5は、潜在分離面を演算することなく直接分離面データベース18から潜在分離面データ20を読み出してもよい。
分離面演算部5は、学習データ17を分離面関数データ27から構築される分離面関数に代入することで潜在分離面を演算する。この分離面の演算については、従来技術で十分実施されているのでその演算の具体的な内容は省略する。
分離面演算部5は、得られた潜在分離面に関する潜在分離面データ20を分離面データベース18に読み出し可能に格納する。
【0031】
次に、演算部2の危険度演算部6は、点検データベース13から点検データ14として対策工有データを読み出して、先の潜在分離面までの距離を演算する。この距離を本願明細書では、潜在危険度といい、そのデータを潜在危険度データ31という。すなわち、本願では、学習データ17として対策工無のデータを用いて演算した分離面を潜在分離面といい、対策工有の点検データ14からその潜在分離面までの距離を潜在危険度という。潜在危険度データ31は、危険度演算部6によって、評価情報データベース29に読み出し可能に格納される。
つまり、対策工が施工されている斜面に対して、対策工が施工されていないときの状態の距離が算出できる。これより、各斜面の持つ潜在危険度が算出可能となる。また教師値は、山口県土砂災害危険箇所データベースに記載されたH12以降の災害履歴を用い、本願明細書ではこれら抽出した地形・地質要因の要因値を利用して、SVM解析によるパターン分類を行い、急傾斜地毎の分離面からの距離f(x)を潜在危険度として扱うこととした
本願明細書では、誤判別を許容するパラメータCを5,10,50,100,200,300,400,500の8種類、1つのデータが及ぼす影響を表すrを0.1,0.5,1,2,3,4,5,6,7,8,9,10,20の13種類の中からそれぞれ1つずつ組み合わせ、全ての組み合わせ104通りのパラメータで分離面を構築し、得られた104の分離面の中から最適な分離面を選ぶという検討を行った。その結果、最も発生的中率の高かったC=200,r=9を最適パラメータとして採用した。これらの最適パラメータは、解析条件データ25として、解析データベース24に予め格納しておき、解析条件設定部4によって、解析毎に読み出すようにする。
【0032】
次に、対策工使用数別の修正危険度f(x)IIを算出する。用いる学習データ・点検データを表6に示すパターンの組合せでSVM解析を行う。具体的には、まず、分離面演算部5が、解析データベース24から分離面関数データ27を読み出して、分離面関数を構築し、これに表6に示される学習データ17を代入してSVM解析を行い、修正分離面を演算する。ここで、表6に示されるように、対策工有のデータを学習データ17として用いて演算した分離面を修正分離面という。但し、潜在分離面と同様に、既に、この修正分離面に関する修正分離面データ21が、分離面データベース18に格納されている場合には、分離面演算部5は、修正分離面を演算することなく直接分離面データベース18から修正分離面データ21を読み出してもよい。
分離面演算部5は、得られた潜在分離面に関する修正分離面データ21を分離面データベース18に読み出し可能に格納する。
【0033】
次に、演算部2の危険度演算部6は、点検データベース13から点検データ14として表6に示される対策工有データを読み出して、先の修正分離面までの距離を演算する。この距離を本願明細書では、修正危険度といい、そのデータを修正危険度データ32という。この修正危険度データ32は、危険度演算部6によって評価情報データベース29に読み出し可能に格納される。
パターン1,4,6は、学習データ・点検データと同じデータを用いることにより、現状の斜面が持つ修正危険度が算出される。
またパターン2,3,5は、学習データより構築された分離面に点検データを投入し,点検データから学習データより構築される分離面までの距離f(x)IIが求められ、現状の対策工(点検データ)より対策工を増やした場合(学習データ)の斜面が持つ修正危険度が算出される。
【0034】
【表6】

【0035】
対策工種別の修正危険度f(x)IIを算出する場合も、学習データ・点検データを表7に示すパターンに組合せSVM解析を行う。
まず、パターン1,5,9は、学習データ・点検データと同じデータを用いることにより、現状の対策工が施工されている斜面の修正危険度を算出する。次にそれ以外のパターンは、学習データ・点検データと違うデータを用いることより、仮に現在施工している対策工(点検データ)以外の対策工(学習データ)を施工した場合の斜面が持つ修正危険度を演算する。
【0036】
【表7】

【0037】
次に、演算部2の対策工効果度演算部7が、対策工効果度を演算する。対策工効果度は、客観的な評価手法により算出することができる。基本的な考え方を図2に示す。まず、対策工の設置されている斜面のデータのみで分離面IIを構築する。本願明細書においては対策工を使用数や工種に絞り、それぞれの分離面を構築し、斜面の修正危険度f(x)IIを算出する。
ここに、前述の対策工がない場合のデータのみで構築された分離面Iに対策工のあるデータを投入することで、自然状態と仮定した場合の対策工斜面の潜在危険度f(x)Iが算出される。この2つの値を用いて、対策工の効果度を(1)式に示すように、危険度の差として算出する。
具体的には、対策工効果度演算部7が評価情報データベース29に格納される潜在危険度データ31及び修正危険度データ32を読み出して、その危険度の差を対策工効果度として演算する。そして、この対策工効果度に関するデータを対策工効果度データ33という。対策工効果度データ33は、対策工効果度演算部7によって、評価情報データベース29に読み出し可能に格納される。
本願明細書では、対策工のある斜面について対策工使用数と工種に着目し、それぞれの対策工効果度(以下、単に効果度ということもある。また、この効果度をEで表す。)を算出した。
【0038】
対策工使用数別の効果度Eは表8に示すように、対策工を1種類、2種類、3種類以上使用している箇所のうち、効果度E1,E4,E6については学習とテストデータに同じものを使用しており、各使用数における修正危険度を表していることから、それぞれの修正危険度f(x)IIと潜在危険度f(x)Iの差より効果度を算出した。
なお、本実施例では、修正危険度f(x)II及び潜在危険度f(x)Iのいずれも分離面から点検対象物の座標点までの距離として演算するため負値を取り、その絶対値は、図2から明らかなように潜在危険度f(x)Iの方が修正危険度f(x)IIよりも大きい。従って、式(1)の効果度Eは正値となる。
【0039】
【数1】

【0040】
【表8】

【0041】
また、現在の対策工使用数を増やした場合の効果度については、一般的に対策工の数を多くすればするほど効果が高くなる。そのため、各種類ごとの差(分離面間の差)を明確にすることで、各使用数ごとの効果度を把握するために、対策工を2種類使用した場合は、1種類使用した場合の修正危険度との差で表し、対策工を3種類以上使用した場合は、2種類使用した場合の修正危険度との差で効果度を表す。
【0042】
【数2】

【0043】
なお、対策工使用数については、2種類や3種類のものを1種類にするなど、現在設置されている対策工を減らすような仮定は考えないものとする。同様の考え方で、現在対策工を2種類、3種類以上使用しているものについてもその使用数以下の学習データで構築される分離面への投入は行わない。
【0044】
ここで、対策工使用数が2種類と3種類以上については図3に示すように、3種類以上使用した場合は、3種類以上対策する必要があるほど危険な斜面だと考えられるため危険領域が広い、つまり安全領域が狭いため効果度の差が小さい。逆に、対策工を2種類使用した場合は、対策が2種類で済む程度の比較的安定した斜面だと考えられるため、安全領域が広い、つまり危険領域が狭いため効果度の差が大きい。この考え方をもとに効果度の差を計算した一例を表9に示す。表9の箇所番号201−I−0105に示されるように、対策工がない状態に対し、対策工1種類が2.80で最も高く、2種類が1.29と2番目に高く、3種類以上が0.54で3番目となり使用数を多くすればするほど総計としての効果度が上がるが、その上昇率は小さくなるという結果を得た。表9に示すほかの箇所も同じく、対策工1,2,3種類の順に効果度が小さくなる。同様に表10に示す対策工2種類のデータについても使用数を多くするほど、その上昇率は小さくなり、表9と同様の傾向を示した。使用数の3種類については表11に示す。
【0045】
【表9】

【0046】
【表10】

【0047】
【表11】

【0048】
対策工種別の効果度Eについても、修正危険度f(x)IIと潜在危険度f(x)Iの差より効果度を算出する。すなわち、対策工が何もされていないと考えた場合との差で効果度を求める
【0049】
【数3】

【0050】
表12には工種ごとの効果度の算出式を示しているが、効果度E1,E5,E9については、学習データ・点検データが同じであるため、擁壁工、法枠工、吹付工といった対策工種そのものの効果度を表す。その他の効果度は、現在施工されている対策工を他の対策工に変更した場合の効果度を表す。例えば、表13に示すように対策工を1種類使用している箇所番号201−I−0105では、現在なされている擁壁工の効果度が2.07で最も高く、現在の擁壁工を法枠工に置き換えた場合の効果度が0.51と2番目に高く、現在の擁壁工を吹付工に置き換えた場合の効果度が0.41で3番目になった。表13に示す対策工のほかの斜面についても同様であった。例に挙げた4斜面はいずれも擁壁工の効果、つまり現状の効果が最も高く、次いで法枠工、吹付工の順であった。
【0051】
【表12】

【0052】
【表13】

【0053】
次に対策工を2種類使用している場合の効果度を表14に示す。表14の中で、現状(テストデータ)が擁壁工の斜面の効果度をE1からE3に示す。また、現状(テストデータ)が法枠工の効果度をE4からE6に示す。テストデータに擁壁工を用いた場合では箇所番号201−I−0400においては、現状の擁壁工の効果度が1.29で最も高く、吹付工に置き換えた場合が1.16と2番目に高く、法枠工に置き換えた場合が0.92で3番目になった。表14に示すほかの斜面についても同様な傾向であった。
また、対策工2種類において現状が法枠工(テストデータ)の場合でも、すべての斜面において擁壁工に置き換えたときの効果度(E4)が最も高く、2番目が吹付工に置き換えたとき(E6)、3番目が現状の法枠工(E5)の順になった。
【0054】
【表14】

【0055】
最後に対策工を3種類使用している場合の効果度を表15に示す。表15においては、現状が擁壁工の場合の効果度をE1,E2,E3に示し、同様に現状が法枠工の場合の効果度をE5,E6,E7に示し、現状が吹付工の場合の効果度をE7,E8,E9に示す。対策工を3種類以上使用している箇所番号201−I−0006では、現状設置されている擁壁工では、法枠工に置き換える場合(E2)の効果度が0.81と最も高くなる。また、現状の擁壁工の効果度(E1)が0.25と2番目であり、吹付工に置き換えた場合(E3)が0.02と3番目になった。また現状が法枠工の斜面に対しては、現状のまま(E1)が0.81と最も高く、2番目が擁壁工に置き換えた場合(E4)で効果度が0.25,3番目が吹付工に置き換えた場合(E6)で効果度が0.02となっている。
現状が吹付工の対策工については、現状においても(E9)、ほかの対策工に置き換えても(E7,E8)、効果度が0.25と変化していない。箇所番号201−I−0006についていえば全体として法枠工に置き換えた場合(E2,E5)が効果が高いと言える。表15に示すほかの斜面においても同様な結果となった。
【0056】
【表15】

【0057】
次に、算出した対策工種別の効果度より、効果的な対策工種の順位付けを行った。表13から表15の中で代表的なものについて使用数と工種別の効果度をまとめ、順位付けしたものを表16に示す。箇所番号201−I−0105では、解析結果より最も効果的な組み合わせは、使用数は1種類、2種類、3種類以上の順になり、工種は、擁壁工・法枠工・吹付工の順番となった。現状において使用数は1種類であり、工種は擁壁工が施工されているため、解析結果の効果の高い対策工と一致しており、現状の施設が十分に機能していると判断される。同様に箇所番号201−I−0006において使用数は3種類以上、工種は法枠工、擁壁工、吹付工の順番になった。現状において使用数は3種類、工種は擁壁工と法枠工と吹付工を施工しているため解析結果と一致し、現状のままで十分機能しているといえる。また、箇所番号201−I−0415は使用数は2種類、工種は擁壁工・吹付工・法枠工の順番なり、現状での使用数は満足できているものの、工種は現状において擁壁工と法枠工を使用しており、2つ目の工種として法枠工よりも吹付工を施工したほうが、効果が高くなるという結果を得た。また、表16に示す以外の箇所についても対策工による効果度の傾向が同じであることから、表16に示されている効果的な対策方法としては、どの斜面も同様な結果となる
【0058】
【表16】

【0059】
以上より、学習データにより作成した分離面に、工種や使用数の異なる点検データを投入することで算出した効果度から、表16に示すように効果的な対策工を決定することができた。また、解析結果と現状の対策工使用数、工種を比較することにより、全箇所について順位付けを行い対策工の機能を評価した。全箇所について集計した結果を表17に示す
【0060】
【表17】

【0061】
詳細は、現状のままの使用数で十分な効果が表れている箇所は、114箇所(対策工1種類使用35箇所、2種類使用31箇所、3種類使用48箇所)であった。現状に加えて新たに対策工を増やすことが望ましい箇所は、114箇所(1種類使用しているものを仮に2種類使用することが望ましい箇所が20箇所、仮に3種類以上使用することが望ましい箇所28箇所、現状で対策工2種類使用しているものを、仮に3種類以上使用することが望ましい箇所が45箇所、現状で対策工3種類以上使用しているものに、新たに対策工を増やすことが望ましい箇所が21箇所)となった。また、1つは現状、1つは置き換えることが望ましい箇所が31箇所となった。
これらを合計した259箇所は、現状のままで十分な効果を得ている箇所だといえ、全体の約75%にあてはまる。これらの箇所は、表18に示すようにH12以降の災害履歴より災害が発生していないため、妥当な結果だといえる。また、残り25%は施工している対策工の効果が得られていない箇所で、対策工を置き換えたほうが効果がより高かったものと考えられる。さらにこれらの箇所では、H12以降の災害履歴からみても災害が発生している箇所(18/80箇所)が存在する。このように、本実施例に係る対策工効果評価システムを用いて演算された効果度から、現在施工されている対策工の状況を判断することで、膨大な斜面データの中から点検で重視すべき箇所を特定できる可能性を示すことができたと考えられる。
【0062】
【表18】

【0063】
以上説明したとおり、本実施の形態に係る対策工効果評価システムにおいては、土木構造物や災害危険箇所等の点検対象物における健全性劣化に関する点検データから得られる補修(対策工)の必要性の有無あるいは災害発生の可能性の有無を分離する分離面に基づいて、分離面演算部5及び危険度演算部6を用いて潜在危険度を演算することで点検対象物における危険度を測ることが可能であり、また、対策工効果度演算部7を用いて修正危険度と潜在危険度の差を対策工効果度として演算することで補修(対策工)の必要度の評価を行うことができ、さらには特に対策工の施工状況が異なる場合の修正危険度同士の差を対策工効果度として演算する場合は、必要とされる補修(対策工)の定量評価を実施することができる。
従って、自治体や土木建設に係わるコンサルティング会社や建設会社によれば、容易に補修工事の計画を立案することができ、しかもいずれの点検箇所を優先すべきかという判断を行うための客観的な定量評価資料を得ることができ、独立性や公平性の高い施策や工事を実施することができる。
【産業上の利用可能性】
【0064】
自治体をはじめとして高速道路、トンネル、ダム、高層ビルなどを管理する管理団体、検査団体あるいはコンサルティング会社、建設会社、設計会社など建築構造物、土木構造物に関係するあらゆる団体、企業において、構造物の建設から補修計画の立案、補修工事の施工後の管理まで幅広い用途がある。
また、教育機関などにおいて構造物における事故や災害の未然防止や避難訓練用の教材としても活用が見込まれる。さらに、建設・土木事業を営む企業においては、補修工事事業のニーズ掘り起こしや事業提案のためのツール、あるいは公的機関との連携を図るための共有ツールとして活用が可能であり、企業の補修工事技術に関する研究開発や設計事業などの用途にも適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本実施の形態に係る対策工効果評価システムの構成図である。
【図2】本実施の形態に係る対策工効果評価システムによって演算される対策工効果度の基本的な考え方を説明するための概念図である。
【図3】本実施の形態に係る対策工効果評価システムによって演算される対策工効果度の基本的な考え方を説明するための概念図である。
【符号の説明】
【0066】
1…入力部 2…演算部 3…標準化解析部 4…解析条件設定部 5…分離面演算部 6…危険度演算部 7…対策工効果度演算部7 11…出力部 12a…データ 12b…解析条件 13…点検データベース 14…点検データ 16…学習データベース 17…学習データ 18…分離面データベース 19…分離面データ 20…潜在分離面データ 21…修正分離面データ 22…対策工データベース 23…対策工データ 24…解析データベース 25…解析条件データ 26…パラメータデータ 27…分離面関数データ 28…危険度関数データ 29…評価情報データベース 30…危険度データ 31…潜在危険度データ 32…修正危険度データ 33…対策工効果度データ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力部と、演算部と、格納部と、出力部を有し、点検対象物における健全性劣化の要因(要因数をnとする。n≧2)に係るn次元の要因データと前記点検対象物に対する前記要因データ毎に構成されるn次元の点検データと前記要因データ毎に構成されるn次元の学習データを用いて得られる災害発生の可能性の有無を分離する分離面を基準として、ある点検対象物における危険度を算出して対策工の要否と対策工効果の定量評価を実施するための対策工効果評価システムであって、
前記入力部は、前記点検対象物における前記健全性劣化の要因に係るn次元の要因データと、前記要因データ毎のn次元の点検データと、前記要因データ毎のn次元の学習データと、を前記格納部に入力可能な手段であって、
前記格納部は、前記健全性劣化の要因に係るn次元の要因データと、前記要因データ毎のn次元の点検データと、前記要因データ毎のn次元の学習データと、を格納可能な手段であって、
前記点検対象物に対する前記要因データ毎に構成されるn次元の学習データは、前記点検対象物に対する対策工の有無データを含む学習データであり、
前記演算部は、前記点検対象物における前記健全性劣化の要因に係るn次元の要因データと、前記要因データ毎のn次元の学習データとを用いてn次元以上の座標空間(以下、多次元座標空間という。)中に分離面を演算する分離面演算部と、
前記n次元の点検データを前記入力部又は前記格納部から読み出して、この点検データが示す前記多次元座標空間中での座標から、前記多次元座標空間中に形成される分離面までの距離を前記点検対象物の危険度として演算する危険度演算部と、
前記n次元の学習データのうち、前記対策工の無データを備える学習データを前記入力部又は前記格納部から読み出して前記分離面演算部に第1の分離面を演算させ、前記n次元の学習データのうち、前記対策工の有データを備える学習データを前記入力部又は前記格納部から読み出して前記分離面演算部に第2の分離面を演算させ、前記n次元の点検データを前記入力部又は前記格納部から読み出して、前記危険度演算部に前記点検データが示す前記多次元座標空間中での座標から、前記多次元座標空間中に形成される第1の分離面と第2の分離面までの距離をそれぞれ前記点検対象物の潜在危険度と修正危険度して演算させ、この潜在危険度と修正危険度の差を前記対策工の効果度として演算する対策工効果度演算部と、を備え、
前記出力部は、前記学習データ、前記分離面の座標データ、前記点検データ、前記危険度、前記対策工の効果度のうち少なくとも1の情報を出力可能な手段であることを特徴とする対策工効果評価システム。
【請求項2】
前記点検対象物に対する前記要因データ毎に構成されるn次元の点検データは、前記点検対象物に対する対策工の有無データの他、対策工の数及び種類を含む点検データであり、
前記対策工効果度演算部は、前記対策工の数毎及び/又は種類毎に前記学習データを前記入力部又は前記格納部から読み出して前記分離面演算部に第2の分離面を演算させ、前記n次元の点検データを前記入力部又は前記格納部から読み出して、前記危険度演算部に前記点検データが示す前記多次元座標空間中での座標から、前記多次元座標空間中に形成される前記第1の分離面と前記第2の分離面までの距離をそれぞれ前記点検対象物の潜在危険度と修正危険度して演算させ、この潜在危険度と修正危険度の差を前記対策工の数毎及び/又は種類毎の効果度として演算する対策工効果度演算部であることを特徴とする請求項1記載の対策工効果評価システム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2009−276896(P2009−276896A)
【公開日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−125871(P2008−125871)
【出願日】平成20年5月13日(2008.5.13)
【出願人】(304020177)国立大学法人山口大学 (579)
【出願人】(594162308)西日本技術開発株式会社 (16)
【出願人】(591260672)中電技術コンサルタント株式会社 (58)
【出願人】(598154947)株式会社 エイト日本技術開発 (16)
【出願人】(592000886)八千代エンジニヤリング株式会社 (16)
【出願人】(592250698)株式会社四電技術コンサルタント (15)
【出願人】(508142734)株式会社北海道技術コンサルタント (5)