説明

対象識別装置

【課題】小型化が可能で、光のエネルギー強度により対象を識別する対象識別装置を提供する。
【解決手段】同一の半導体基板21にそれぞれ形成され、対象から放射される複数の波長の光をそれぞれ検出する複数の検出部2を有する検出器1と、複数の波長における各エネルギー強度を記憶する記憶部5と、複数の検出部2によりそれぞれ検出された光のエネルギー強度と、記憶部5に記憶されたエネルギー強度とを比較することにより、対象を識別する処理部4とを備えることを特徴とする対象識別装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光のエネルギー強度により対象を識別する対象識別装置に関する。
【背景技術】
【0002】
サーモパイル等の熱電変換素子に、特定の波長の電磁波を透過させる光学フィルタを適用した検出器を用いて、対象の光のエネルギー強度を検知することにより、対象の組成を計測する装置が提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2001−506164号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の構成では、検出器の光学フィルタが多層薄膜からなる、検出器の構造が複雑である等の理由から、装置の小型化が困難であった。
本発明は、上記問題点を鑑み、小型化が可能で、光のエネルギー強度により対象を識別する対象識別装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、本発明の態様は、同一の半導体基板にそれぞれ形成され、対象から放射される複数の波長の光をそれぞれ検出する複数の検出部を有する検出器と、前記複数の波長における各エネルギー強度を記憶する記憶部と、前記複数の検出部によりそれぞれ検出された光のエネルギー強度と、前記記憶部に記憶されたエネルギー強度とを比較することにより、前記対象を識別する処理部とを備える対象識別装置であることを要旨とする。
【0006】
また、本発明の態様に係る対象識別装置においては、前記記憶部は、前記複数の波長における各エネルギー強度を、複数の温度毎に記憶することができる。
【0007】
また、本発明の態様に係る対象識別装置においては、前記複数の検出部は、それぞれ前記複数の波長に対応した複数のフィルタをそれぞれ備え、前記複数のフィルタは、それぞれ単層膜からなることができる。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、小型化が可能で、光のエネルギー強度により対象を識別する対象識別装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の実施の形態に係る対象識別装置の基本的な構成を説明する模式的なブロック図である。
【図2】(a)は、本発明の実施の形態に係る対象識別装置の検出部を説明する模式的な平面図である。(b)は、本発明の実施の形態に係る対象識別装置の検出部を説明する模式的な断面図である。
【図3】本発明の実施の形態に係る対象識別装置の動作を説明する図である。説明する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
次に、図面を参照して、本発明の実施の形態を説明する。以下の図面の記載において、同一又は類似の部分には同一又は類似の符号を付している。但し、図面は模式的なものであり、断面図と平面寸法の関係、各層の厚みの比率等は、現実のものとは異なることに留意すべきである。したがって、具体的な厚みや寸法は以下の説明を参酌して判断すべきものである。また、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれていることは勿論である。
【0011】
また、以下に示す実施の形態は、本発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、本発明の技術的思想は、構成部品の材質、形状、構造、配置等を下記のものに特定するものでない。本発明の技術的思想は、特許請求の範囲に記載された技術的範囲内において、種々の変更を加えることができる。
【0012】
本発明の実施の形態に係る対象識別装置は、図1に示すように、複数の検出部2a,2b,2c,2dを有する検出器1と、検出器1が検出した信号を処理する信号処理部3と、処理部4と、記憶部5とを備える。
【0013】
複数の検出部2a,2b,2c,2dは、同一の半導体基板21にそれぞれ形成され、対象から放射され、互いに異なる複数の波長の光をそれぞれ検出する。検出部2a〜2dは、それぞれ、フィルタ11a〜11dと、熱電変換素子12a〜12dとを備える。
【0014】
フィルタ11a〜11dは、単層の薄膜であり、例えばアルミニウム(Al)を含む金属等から構成可能である。フィルタ11a〜11dは、それぞれ互いに異なる波長の光を選択的に受信できるように、それぞれ形状が調整されている。
【0015】
熱電変換素子12a〜12dは、例えば、サーモパイル、ボロメータ、焦電型素子等の熱電変換素子からなる。熱電変換素子12a〜12dは、フィルタ11a〜11dがそれぞれ受信する波長の光のエネルギーに応じた電気信号を出力する。熱電変換素子12a〜12dの両端からは、それぞれ電極部13a〜13dが引き出されている。熱電変換素子12a〜12dの出力信号は、それぞれ検出器1が備える検出部2a〜2dの出力信号として、電極部13a〜13dを介して信号処理部3に出力される。
【0016】
検出部2a〜2d(以下、総称する場合において単に「検出部2」のようにいう。)が形成される半導体基板21は、図2に示すように、第1シリコン層211と、第2シリコン層212とを含んで構成される。第1シリコン層211及び第2シリコン層212と熱電変換素子12との間、第1シリコン層211とフィルタ11との間等には、図示を省略した絶縁層が形成されている。
【0017】
半導体基板21の下部には、平面パターン上、フィルタ11及び熱電変換素子12が設けられている領域を囲むように、第2シリコン層212下面が矩形にエッチングされ、キャビティ部20が形成されている。検出部2のキャビティ部20に対応する概略として矩形の領域には、半導体基板21の上面からキャビティ部20に貫通するスリット10が形成されている。スリット10は、温度変化が周囲の領域に伝達するのを防ぎ、検出部2の温度環境を安定させる。
【0018】
信号処理部3は、検出部2a〜2dから出力された信号を処理し、フィルタ11a〜11dにより検出部2a〜2dがそれぞれ検出する波長における各エネルギー強度を算出する。
【0019】
処理部4は、複数の検出部2a〜2dによりそれぞれ検出された光のエネルギー強度と、記憶部5に記憶されたエネルギー強度とを比較することにより、対象を識別する。
【0020】
記憶部5は、少なくとも複数の検出部2a〜2dがそれぞれ検出する複数の波長における各エネルギー強度を、複数の温度毎のスペクトルとして記憶する。記憶部5は、例えば、図3に示すように、対象の温度A,B,C,D,Eに応じた複数のスペクトルを記憶する。図3に示すスペクトルは、放射エネルギー密度のピークが高い順に、温度A,B,C,D,Eの場合のものである。温度Aは5800K、温度Bは3000K、温度Cは2000K、温度Dは1000K、温度Eは300Kである。例えば、5800Kのスペクトルは太陽、300Kのスペクトルは人間のものと考えることができる。図3に示す波長a,b,c,dは、それぞれ検出部2a,2b,2c,2dにより検出する光の波長を示している。
【0021】
例えば、検出部2a〜2dが検出した光の放射エネルギー密度が、図3に示すスペクトルのうち、300Kのスペクトルの波長a〜dにおけるスペクトルとそれぞれ近い場合、処理部4は、対象の温度が300Kと判定し、対象が人間であると識別する。
【0022】
本発明の実施の形態に係る対象識別装置によれば、互いに異なる波長のエネルギー強度を複数の検出部2a〜2dにより検出することにより対象のスペクトルを検出し、記憶部5に記憶されたスペクトルと比較することで対象を識別できる。また、複数の検出部2a〜2dが同一の半導体基板21に形成されることで、検出器1が微小電気機械システム(MEMS)技術により微小に製造され、対象識別装置を小型化できる。
【0023】
上記のように、本発明は上記の実施の形態によって記載したが、この開示の一部をなす論述及び図面は本発明を限定するものであると理解すべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施の形態、実施例及び運用技術が明らかとなろう。
【0024】
例えば、検出器1が備える検出部2a〜2dの数は、4に限るものでなく5以上であっても構わない。検出部2の数に応じた波長を受信できるフィルタ11を検出部2に適用することで、上述のように対象のスペクトルを得ることができる。
【0025】
このように、本発明はここでは記載していない様々な実施の形態等を含むことは勿論である。したがって、本発明の技術的範囲は上記の説明から妥当な特許請求の範囲に係る発明特定事項によってのみ定められるものである。
【符号の説明】
【0026】
1…検出器
2…検出部
3…信号処理部
4…処理部
5…記憶部
10…スリット
11…フィルタ
12…熱電変換素子
20…キャビティ部
21…半導体基板
211…第1シリコン層
212…第2シリコン層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
同一の半導体基板にそれぞれ形成され、対象から放射される複数の波長の光をそれぞれ検出する複数の検出部を有する検出器と、
前記複数の波長における各エネルギー強度を記憶する記憶部と、
前記複数の検出部によりそれぞれ検出された光のエネルギー強度と、前記記憶部に記憶されたエネルギー強度とを比較することにより、前記対象を識別する処理部と
を備えることを特徴とする対象識別装置。
【請求項2】
前記記憶部は、前記複数の波長における各エネルギー強度を、複数の温度毎に記憶することを特徴とする請求項1に記載の対象識別装置。
【請求項3】
前記複数の検出部は、それぞれ前記複数の波長に対応した複数のフィルタをそれぞれ備え、前記複数のフィルタは、それぞれ単層膜からなることを特徴とする請求項1又は2に記載の対象識別装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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