説明

対震蝶番

【課題】上下長さを従来型の蝶番と同程度に抑えることで、従来型の蝶番に対して容易に交換可能な対震蝶番を提供する。
【解決手段】本発明の対震蝶番1は、扉枠又は扉の一方に固定される第1羽根部材4と、扉枠又は扉の他方に固定される第2羽根部材5と、第1羽根部材4に第2羽根部材5を水平方向回転可能且つ上下動可能に連結する軸部材6と、弾発力によって第1羽根部材4と第2羽根部材5の間に上下方向に隙間Xを形成するバネ部材7と、を備え、軸部材6にバネ部材7が収納されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、扉枠に扉を取り付けるための蝶番に関し、特に、地震等の災害時に扉を円滑に開閉させるための対震蝶番に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、扉枠に扉を取り付けるための蝶番として、扉枠又は扉の一方に固定される第1羽根部材と、扉枠又は扉の他方に固定される第2羽根部材と、第1羽根部材に対して第2羽根部材を水平方向回転可能に連結する軸部材と、を備えたものが存在する。
【0003】
また、特許文献1には、上記各構成に加えて、弾発力によって第1羽根部材と第2羽根部材の間に上下方向に隙間を形成するバネ部材(「ばね20」参照)を備えた所謂「対震蝶番」が開示されている。この従来技術においては、地震等によって第2羽根部材を第1羽根部材に接近させる方向の外力(圧縮力)が対震蝶番に作用した場合に、バネ部材が収縮することで上記した外力を吸収し、各羽根部材の変形を防止して扉の円滑な開閉を維持できるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4028478号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の対震蝶番においては、軸部材(「軸26」参照)の上方にバネ部材が同軸上に配置されており、軸部材の長さにバネ部材の長さを加えた長さよりも対震蝶番全体の上下長さを短くすることは、構造上不可能である。そのため、バネ部材を有しない従来型の蝶番よりも上下長さが必然的に長くなってしまう。その結果、例えば、従来型の蝶番が扉の上端や下端に取り付けられているような場合に、この蝶番を対震蝶番に交換しようとしても、対震蝶番の取付に必要な上下長さを確保することができず、対震蝶番への交換ができないといった不都合を生じる。
【0006】
そこで、本発明は上記の事情を考慮し、上下長さを従来型の蝶番と同程度に抑えることで、従来型の蝶番に対して容易に交換可能な対震蝶番を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る対震蝶番は、扉枠又は扉の一方に固定される第1羽根部材と、扉枠又は扉の他方に固定される第2羽根部材と、前記第1羽根部材に前記第2羽根部材を水平方向回転可能且つ上下動可能に連結する軸部材と、弾発力によって前記第1羽根部材と前記第2羽根部材の間に上下方向に隙間を形成するバネ部材と、を備え、前記軸部材に前記バネ部材が収納されていることを特徴とする。
【0008】
このような構成を採用することにより、軸部材の上方又は下方にバネ部材を同軸上に配置する構成と比較して、対震蝶番全体の上下長さを短くすることができ、対震蝶番全体の上下長さを、バネ部材を有しない従来型の蝶番と同程度に抑えることが可能となる。そのため、たとえ従来型の蝶番が扉の上端や下端に取り付けられているような場合でも、この蝶番を対震蝶番に容易に交換することが可能となる。
【0009】
また、本発明に係る対震蝶番は、前記軸部材は、前記第1羽根部材に固定される筒状の主軸と、該主軸内に挿入される挿入部と、前記主軸から突出して前記第2羽根部材に当接する突出部と、を有し、前記主軸に上下動可能に装着される可動軸と、を備え、前記バネ部材は、前記主軸に収納され、前記第1羽根部材と前記可動軸の前記挿入部との間に介装されても良い。
【0010】
このような構成を採用することにより、軸部材にバネ部材を収納する構成を採用しつつ、地震等によって対震蝶番に外力が作用した場合に、バネ部材を確実に作動させて上記した外力を吸収することが可能となる。そのため、各羽根部材の変形を防止し、扉の円滑な開閉を維持することが可能となる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、上下長さを従来型の蝶番と同程度に抑えることで、従来型の蝶番に対して容易に交換可能な対震蝶番を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一実施形態に係る対震蝶番によって扉枠に取り付けられた扉の正面図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る対震蝶番において、通常使用時の状態を示す断面図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る対震蝶番において、地震等の非常時に外力が加わった状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面に基づき、本発明に係る対震蝶番1の好適な実施形態について説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る対震蝶番によって扉枠に取り付けられた扉の正面図である。図2は、本発明の一実施形態に係る対震蝶番において、通常使用時の状態を示す断面図である。図3は、本発明の一実施形態に係る対震蝶番において、地震等の非常時に外力が加わった状態を示す断面図である。
【0014】
図1に示されるように、対震蝶番1は、矩形枠状の扉枠2とこの扉枠2内に設置される矩形状の扉3の間に設置されている。本実施形態では、扉3の上端と下端に計2個の対震蝶番1が設けられている。
【0015】
図2に示されるように、対震蝶番1は、その下部に位置する第1羽根部材4と、第1羽根部材4の上方に配置される第2羽根部材5と、第1羽根部材4及び第2羽根部材5の一側(図面上は左側)に配置される軸部材6と、軸部材6に収納されるバネ部材7と、を備えている。
【0016】
第1羽根部材4は、平板状の第1固定部8と、この第1固定部8の一側(図面上は左側)に一体形成される円筒状の第1筒部10と、第1筒部10の下端に固定される第1ギボシ11と、を備えている。
【0017】
第1固定部8には、複数の取付孔12が水平方向に穿設されている。そして、この取付孔12に挿通されたネジ(図示せず)を扉枠2に締結することにより、第1羽根部材4が扉枠2に固定されている。第1筒部10には、第1挿入孔13が上下方向に設けられている。
【0018】
第1ギボシ11は、第1筒部10に溶接されて一体化されている。第1ギボシ11は、円柱状の小径部14と、この小径部14の下方に一体形成される円柱状の大径部15と、この大径部15の更に下方に一体形成される円盤状のフランジ部16と、を備えている。
【0019】
第1ギボシ11の小径部14の外径は、第1筒部10の第1挿入孔13の内径よりも小さく設定されている。小径部14の上端部は、上方に向かってテーパ状に縮径し、円錐台形状を成している。以下、小径部14の上面17を、第1ギボシ11の上面17と称する。
【0020】
第1ギボシ11の大径部15の外径は、第1筒部10の第1挿入孔13の内径と略同一に設定されている。大径部15は、小径部14と共に第1挿入孔13に挿入されており、これにより、第1挿入孔13の下端が閉止されて第1筒部10が有底状を成している。
【0021】
第1ギボシ11のフランジ部16の外径は、第1挿入孔13の内径よりも大きく設定されている。フランジ部16の上面は、第1筒部10の下面に当接している。
【0022】
第2羽根部材5は、平板状の第2固定部18と、この第2固定部18の一側(図面上は左側)に一体形成される円筒状の第2筒部20と、第2筒部20の上端に固定される第2ギボシ21と、を備えている。
【0023】
第2固定部18には、複数の取付孔22が水平方向に穿設されている。そして、この取付孔22に挿通されたネジ(図示せず)を扉3に締結することにより、第2羽根部材5が扉3に固定されている。
【0024】
第2筒部20には、第2挿入孔23が上下方向に設けられている。第2筒部20の第2挿入孔23の内径は、第1筒部10の第1挿入孔13の内径と略同一である。第2挿入孔23の上端部には、断面略横向きV字状の環状溝24が設けられている。第2筒部20の下端には円筒状のカバー25の上端が固定され、カバー25の下端は、第1羽根部材4の第1筒部10まで延びている。なお、カバー25と第1羽根部材4の第1筒部10は固定されていない。
【0025】
第2ギボシ21は、円柱状の固定片26と、この固定片26の上方に一体形成される円盤状のフランジ部27と、を備えている。
【0026】
第2ギボシ21の固定片26の外径は、第2筒部20の第2挿入孔23の内径と略同一に設定されている。固定片26の外周面の下部には、断面略横向きV字状の環状突起28が設けられている。そして、固定片26を第2挿入孔23に挿入し、固定片26の環状突起28を第2挿入孔23の環状溝24に嵌合させることで、第2ギボシ21が第2筒部20に固定されると共に、第2挿入孔23の上端が閉止されて第2筒部20が有蓋状を成している。以下、第2ギボシ21の固定片26の下面30を、第2ギボシ21の下面30と称する。
【0027】
第2ギボシ21のフランジ部27の外径は、第2筒部20の第2挿入孔23の内径よりも大きく設定されている。フランジ部27の下面は、第2筒部20の上面に当接している。
【0028】
軸部材6は、円筒状の主軸31と、この主軸31の上部に上下動可能に装着される円柱状の可動軸32と、によって構成されている。
【0029】
主軸31の下部は、第1筒部10の第1挿入孔13に挿入された状態で、第1筒部10に溶接されている。これにより、第1羽根部材4に主軸31が固定されている。
【0030】
主軸31の上部は、第2筒部20の第2挿入孔23に挿入されている。換言すると、主軸31には、第2筒部20が装着されている。主軸31と第2筒部20は互いに固定されていないため、第2羽根部材5が第1羽根部材4に対して水平方向回転可能且つ上下動可能となっている。主軸31の上端部は、上方に向かってテーパ状に縮径している。
【0031】
主軸31には、貫通孔33が上下方向に設けられている。貫通孔33の下端部の内径は、第1ギボシ11の小径部14の外径と略同一になっている。貫通孔33の下端部には第1ギボシ11の小径部14が挿入されており、これにより、貫通孔33の下端部が閉止されて主軸31が有底状を成している。主軸31の下面は、第1ギボシ11の大径部15の上面に当接している。
【0032】
主軸31の貫通孔33の下部には、第1ギボシ11の上面17よりも僅かに高い位置に、上方に向かってテーパ状に縮径する第1縮径部34が設けられ、この第1縮径部34よりも上側の部分の内径は第1縮径部34よりも下側の部分の内径よりも小さくなっている。主軸31の貫通孔33の下部には、第1縮径部34よりも僅かに高い位置に、上方に向かってテーパ状に縮径する第2縮径部35が設けられており、この第2縮径部35よりも上側の部分の内径は第2縮径部35よりも下側の部分の内径よりも小さくなっている。主軸31の貫通孔33の上部には段差部36が設けられ、この段差部36よりも上側の部分の内径は段差部36よりも下側の部分の内径よりも小さくなっている。
【0033】
可動軸32は、主軸31の貫通孔33の上部に挿入される挿入部37と、挿入部37の上方に設けられて主軸31から上方に突出する突出部38と、を有している。
【0034】
挿入部37の外径は、段差部36よりも上側の部分における貫通孔33の内径と略同一となっている。挿入部37の下端には、円盤状の鍔部40が設けられている。鍔部40の外径は、段差部36よりも下側の部分における貫通孔33の内径と略同一となっている。鍔部40の上面は段差部36に当接しており、これにより、可動軸32の上昇が規制されている。突出部38の上端は、半球状に湾曲して第2ギボシ21の下面30に当接している。
【0035】
バネ部材7は、例えばコイルスプリングによって構成される。バネ部材7の下端は、第1ギボシ11の上面17に当接している。バネ部材7の上端は、可動軸32の挿入部37に設けられた鍔部40の下面に当接している。バネ部材7は、その弾発力によって、第1羽根部材4及び主軸31に対して第2羽根部材5及び可動軸32を持ち上げており、第1羽根部材4と第2羽根部材5の間には、バネ部材7の弾発力に応じた隙間Xが上下方向に形成されている。
【0036】
上記の如く構成されたものにおいて、例えば地震等によって扉枠2が平行四辺形状に変形した場合には、第1羽根部材4と第2羽根部材5を接近させる方向の外力(圧縮力)が対震蝶番1に作用する。この外力により、第2羽根部材5が第1羽根部材4に対して下降し、第2羽根部材5の第2ギボシ21の下面30が可動軸32の突出部38の上端を押圧する。これに伴って、図3に示されるように、可動軸32が主軸31に対して下降し、第1羽根部材4と可動軸32が接近して、バネ部材7が収縮する。このバネ部材7の収縮によって上記した外力が吸収され、第1羽根部材4及び第2羽根部材5の変形が防止されて扉3の円滑な開閉が維持される。
【0037】
本実施形態では、軸部材6の主軸31にバネ部材7が収納されているため、軸部材6の上方又は下方にバネ部材7を同軸上に配置する構成と比較して、対震蝶番1の全体の上下長さを短くすることができ、対震蝶番1の全体の上下長さを、バネ部材7を有しない従来型の蝶番と同程度に抑えることが可能となる。そのため、たとえ従来型の蝶番が扉の上端や下端に取り付けられているような場合でも、この蝶番を対震蝶番1に容易に交換することが可能となる。
【0038】
また、主軸31とこの主軸31に対して上下動可能な可動軸32によって軸部材6を構成している。そのため、軸部材6にバネ部材7を収納する構成を採用しつつ、地震等によって対震蝶番1に外力が作用した場合に、バネ部材7を確実に作動させて上記した外力を吸収することが可能となる。
【0039】
本実施形態では、外力によって第2羽根部材5が第1羽根部材4に対して下降する場合を例に説明を行ったが、外力によって第1羽根部材4が第2羽根部材5に対して上昇する場合や、外力によって第1羽根部材4の上昇と第2羽根部材5の下降とが同時に発生する場合についても、バネ部材7の収縮によって外力が吸収される。
【0040】
本実施形態では、扉枠2と扉3の間に計2個の対震蝶番1が設けられる場合について説明したが、他の異なる実施形態では、対震蝶番1の数は、1個又は3個以上の複数個であっても良い。
【0041】
本実施形態では、第1羽根部材4が扉枠2に固定され、第2羽根部材5が扉3に固定される場合について説明したが、他の異なる実施形態では、第1羽根部材4が扉3に固定され、第2羽根部材5が扉枠2に固定されても良い。
【符号の説明】
【0042】
1 対震蝶番
2 扉枠
3 扉
4 第1羽根部材
5 第2羽根部材
6 軸部材
7 バネ部材
31 主軸
32 可動軸
37 挿入部
38 突出部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
扉枠又は扉の一方に固定される第1羽根部材と、
扉枠又は扉の他方に固定される第2羽根部材と、
前記第1羽根部材に前記第2羽根部材を水平方向回転可能且つ上下動可能に連結する軸部材と、
弾発力によって前記第1羽根部材と前記第2羽根部材の間に上下方向に隙間を形成するバネ部材と、を備え、
前記軸部材に前記バネ部材が収納されていることを特徴とする対震蝶番。
【請求項2】
前記軸部材は、
前記第1羽根部材に固定される筒状の主軸と、
該主軸内に挿入される挿入部と、前記主軸から突出して前記第2羽根部材に当接する突出部と、を有し、前記主軸に上下動可能に装着される可動軸と、を備え、
前記バネ部材は、前記主軸に収納され、前記第1羽根部材と前記可動軸の前記挿入部との間に介装されることを特徴とする請求項1に記載の対震蝶番。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−104201(P2013−104201A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−247729(P2011−247729)
【出願日】平成23年11月11日(2011.11.11)
【出願人】(390037028)美和ロック株式会社 (868)
【Fターム(参考)】