説明

封止材用樹脂組成物

【目的】優れた密着性を有し、溶融・加工等の処理を行う際に、加工性や耐熱性、耐光性に優れた透明な封止材用樹脂組成物を提供すること。
【解決手段】(A)ポリオレフィン系樹脂、及び、(B)水素化率80%以上のC9系芳香族炭化水素樹脂の水素化物を含む透明な封止材用樹脂組成物を用いる。好ましくは、(B)水素化率80%以上のC9系芳香族炭化水素樹脂の水素化物の軟化点が70〜150℃、重量平均分子量が800〜3000であり、非フェノール系フリーデルクラフツ型触媒を用いて重合されたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はガラスや金属などの幅広い部材との密着性に優れ、かつ透明性、耐候性に優れるポリオレフィン系の封止材用樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエチレンをはじめとするポリオレフィン樹脂は安価で加工性に優れ、かつ、透明性、耐候性、耐熱性、耐薬品性などの諸物性に優れるために、光学用途の封止材に用いることが期待されている。
しかしながら、ポリオレフィン樹脂は分子構造が無極性であり、且つ結晶性であるために、それら単独では各種部材との接着性が乏しい欠点があった。そのために、各種粘着付与樹脂等を添加し、密着性を向上させることが考えられる。しかし、光学用途では着色した粘着付与樹脂を用いることはできない。無色透明の粘着付与樹脂であれば使用することはできるが、粘着付与樹脂は、高温下にさらされたり、長期間紫外線に曝されると着色したり、変質したりするという問題があった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、優れた密着性を有し、溶融・加工等の処理を行う際に、加工性や耐熱性、耐光性に優れた透明な封止材用樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者は、封止材用樹脂組成物について種々検討したところ、ポリオレフィン樹脂に特定のC9系芳香族炭化水素樹脂の水素化物を添加することで、各種基材との密着性に優れ、かつ透明性が高く、耐光性や耐熱性に優れる組成物が得られることを見出し、上記課題を解決することができることに想到し、本発明に到達した。
【0005】
すなわち、本発明は、(A)ポリオレフィン系樹脂、及び、(B)水素化率80%以上のC9系芳香族炭化水素樹脂の水素化物を含む透明な封止材用樹脂組成物である。
【発明の効果】
【0006】
本発明の封止材用樹脂組成物は、透明であり、溶融・加工等の処理を行う際に、加工性に優れ、高い透明性を維持しつつ、耐光性および耐熱性に優れ、極めて高い安定性を有するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明の封止材用樹脂組成物は、(A)ポリオレフィン系樹脂(以下、(A)成分ともいう。)及び(B)水素化率80%以上のC9系芳香族炭化水素樹脂の水素化物(以下、(B)成分ともいう。)を含有する組成物を溶融・加工等の処理を行うことにより得られる。
【0008】
上記(A)成分としては、オレフィン系樹脂であれば特に限定されず、
例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリペンテン、ポリヘキセン、ポリオクテン等が挙げられる。これらのオレフィン系樹脂は、1種又は2種以上の混合物であっても良い。また、例えばエチレンに少量のオクテンを混合するなど2種類以上の炭素−炭素二重結合を有するモノマーを共重合させたポリオレフィンであっても良い。上記(A)成分は、種々のオレフィン系樹脂から選択される少なくとも1種類のものである。
【0009】
上記(B)成分は、C9系重合性モノマーの重合物を水素化することによって得られるものであって、水素化率が80%以上のものである。(B)成分は、従来からこの分野で慣用されているものであればいずれも使用できる。
【0010】
上記C9系重合性モノマーは、ナフサをクラッキングして得られる分解油留分のうち、常圧での沸点が140〜280℃程度であるC9留分であり、具体的には、スチレン、α−メチルスチレン、β−メチルスチレン、ビニルトルエン、インデン、アルキルインデン、ジシクロペンタジエン、エチルベンゼン、トリメチルベンゼン、ナフタリン等が主としてあげられる。通常、C9留分中のC9系重合性モノマーは、ビニルトルエン、インデンをそれぞれ40重量%程度含有し、残り20重量%程度がスチレン等からなる。本発明では、こうしたC9留分を蒸留することにより、C9留分のインデン類や高沸点の化合物等を除去し、C9系重合性モノマーの重合物中のビニルトルエン含有量が50重量%以上で、インデンの含有量が20重量%以下(ビニルトルエン含有量/インデン含有量=2.5以上)となるように調製したものを用いることが好ましい。C9系重合性モノマーの重合物中のビニルトルエン含有量は、55重量%以上、さらには60重量%以上とすることがより好ましく、多い程よい。インデンの含有量は、15重量%以下、さらには10重量%以下とすることがより好ましく、少ない程よい。
【0011】
上記C9系重合性モノマーの重合物は、C9系重合性モノマーを公知の方法でカチオン重合により重合することにより得られる。このようなC9系重合性モノマーの重合物は、公知のものを使用できる。通常、その軟化点(JIS K2207に従う環球法による測定。)は、70〜150℃程度、好ましくは80〜150℃であり、重量平均分子量(ゲルパーメーションクロマトグラフィーによるポリスチレン換算値)は300〜2000程度、好ましくは500〜1500程度のものを使用する。
【0012】
C9系重合性モノマーの重合は、非フェノール系フリーデルクラフツ型触媒を用いて重合することが好ましい。非フェノール系フリーデルクラフツ型触媒とは、触媒を用いて重合を行って得られるC9系芳香族炭化水素樹脂から実質的にフェノール類が検出されない触媒をいう。検出方法としては、たとえば、塩化鉄(III)を使用する呈色法(船久保英一著、「有機化合物確認法I」、養賢堂、(1967年)、第1章 第9〜12頁)等があげられる。対象となるフェノール類としては、フェノールまたはクレゾール、キシレノール、p−tert―ブチルフェノール、p−オクチルフェノール、ノニルフェノール等のアルキル置換フェノール類等の分子中に−OH基を有する通常炭素数6〜20のものがあげられる。
【0013】
非フェノール系フリーデルクラフツ型触媒としては、例えば、三フッ化ホウ素ガスまたは三フッ化ホウ素エーテル錯体等が挙げられる。このような触媒を用いた場合は、C9系芳香族炭化水素樹脂の水素化物を加熱しても着色し難い傾向にある。そのため、本発明におけるC9系芳香族炭化水素樹脂の重合においては、三フッ化ホウ素フェノール錯体等のフェノール類を含有するフリーデルクラフツ型触媒を用いない方が好ましい。
【0014】
上記(B)成分の水素化率は、80%以上であることを要する。特に水素化率が90%以上の(B)成分は、オレフィン系樹脂と相溶性が非常に高いことから、透明性が極めて高い封止材用樹脂組成物を得ることが可能となる。また、得られる封止材用樹脂組成物の耐光性の観点より、上記(B)成分の水素化率はより高い方が好ましい。
【0015】
水素化率は、NMR測定法により求められ、C9系芳香族炭化水素樹脂及び得られたC9系芳香族炭化水素樹脂の水素化物のH−NMRの7ppm付近に現れる芳香環のH−スペクトル面積から以下の(1)式に基づいて計算する。
水素化率={1−(C9系芳香族炭化水素樹脂の水素化物のスペクトル面積/未水素化C9系芳香族炭化水素樹脂のスペクトル面積)}×100(%) (1)
【0016】
水素化反応は、前記C9系石油樹脂の水素化率が目標レベルとなるように、水素化触媒の存在下に、条件を適宜に調整して行う。
【0017】
上記水素化は、通常C9系重合性モノマーの重合物を、水素化触媒の存在下で反応を行う。水素化圧力、反応温度は、使用する触媒によって適宜決定されればよいが、通常、0.98〜29.4MPa程度、好ましくは、1.0〜24.5MPa程度、150〜400℃程度、好ましくは、200〜350℃程度である。水素化圧力が0.98MPaに満たない場合又は反応温度が150℃に満たない場合には、水素化反応が進行し難い。逆に水素化圧力が29.4MPaを越える場合には、経済性、安全性の点から好ましくなく、又、反応温度が400℃を越える場合には、樹脂の水素化分解反応が著しくなり、いずれの場合も好ましくない。但し、水素化圧力0.98MPa以下の圧力で反応を起こしうる触媒を用いれば、記載の圧力条件は限定されるものではない。反応形式としては、回分式、流通式(固定床式、流動床式等)等を採用することができる。
【0018】
使用する水素化触媒としては、公知のものを用いることができる。具体的には、ニッケル、パラジウム、白金、コバルト、ロジウム、ルテニウム、モリブデン、オスミウム、イリジウム、レニウム、銅、鉄等の金属又はこれらの酸化物、硫化物等の金属化合物等各種のものを使用できる。これら水素化触媒は、一種若しくは二種以上混合して使用してもよい。更に、かかる水素化触媒は、多孔質で表面積の大きい、各種公知の担体、例えば、アルミナ、シリカ(ケイソウ土)、活性炭、チタニア、シリカアルミナ等の担体に担持して使用してもよい。担持量としては、担体1gあたり、0.0001g〜1g、好ましくは、0.005g〜0.7gがよい。これらの触媒の中でも、芳香環の水素化効率や費用の面から、ニッケル/ケイソウ土触媒が好ましい。この場合、ニッケルの担持量としては、20〜150重量%が好ましい。尚、本発明においては、担持量X%というのは、担体100重量部に対して、ニッケルX重量部担持させた量をいう。上記触媒は、公知のものを用いても良いし、公知の触媒調製法を組み合わせて独自に調製しても良い。触媒の形態としては、粒状、紛状、俵状、円柱状、押出成形型等が挙げられるが、特に限定されない。
【0019】
回分式の場合、触媒の使用量は、(B)成分又は下記に述べるその減圧処理物に対して、通常0.01〜10重量%程度、好ましくは0.1〜3.0重量%程度である。0.01重量%に満たない場合には、水素化反応が進行し難く、10重量%を越える場合には、経済的でない。また、水素化の反応時間は、通常1〜7時間程度、好ましくは2〜7時間程度である。
【0020】
上記水素化反応は、C9系重合性モノマーの重合物を溶融した状態、又は溶媒に溶解した状態で行う。溶媒としては、反応に不活性で原料や生成物が融解しやすい溶媒であれば足り、具体的には、炭化水素類が例示される。炭化水素類としては、シクロヘキサン、n−ヘキサン、n−ヘプタン、デカリン等が挙げられ、好ましくはシクロヘキサンがよい。
【0021】
上記溶媒は、1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。溶媒の適当な使用量は、(B)成分又は下記に述べるその減圧処理物に対して、固形分が10〜80重量%の範囲となるような量が好ましいが、特に限定されるものではない。
【0022】
上記水素化後は、減圧蒸留、濾過などの常法により、溶媒、触媒等を除去する。
【0023】
上記減圧蒸留は、特に限定されるものではないが、通常、減圧処理は、6.7KPa程度以下、200℃程度以上の条件で、10時間程度以内の範囲で行う。減圧処理条件が6.7KPa以下、200℃以上とすることで、低沸成分を充分に除去できる。好ましくは、減圧処理条件は、5.2KPa以下、より好ましくは2.6KPa以下の減圧下で、210〜280℃程度の温度条件で行うのがよい。
【0024】
上記(B)成分の軟化点は70〜150℃程度が好ましい。この場合、溶融・加工等の処理を行う際に、加工性に優れ、また接着性、透明性、耐久性に優れた封止材用樹脂組成物を得ることができる。70℃未満の場合は、得られるシートの耐熱性という点で不十分であり、150℃を超えると、溶融した際の粘度が高く、加工性が悪くなるという点で問題がある。より好ましくは、90〜140℃である。
【0025】
上記(B)成分の重量平均分子量は800〜3000程度であることが好ましい。この場合、溶融・加工等の処理を行う際に、加工性に優れ、また接着性、透明性、耐久性に優れた封止材用樹脂組成物を得ることができる。重量平均分子量が800未満であると、得られるシートの耐熱性という点で問題があり、3000を超えると溶融した際の粘度が高く、加工性が悪くなる。より好ましくは、900〜2500である。
【0026】
上記(B)成分の配合量は、(A)成分100重量部に対して、1〜200重量部、好ましくは1〜50重量部である。
【0027】
本発明の封止材用樹脂組成物は、優れた透明性や耐光性、耐熱性などの特徴を利用して、電子材料、例えば、液晶、有機EL、プラズマディスプレー、太陽電池等のモジュールをガラスや金属等の間に封止する用途で使用することができる。
【実施例】
【0028】
以下に本発明を実施例により更に具体的に説明する。ただし、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。また実施例中、「部」は特に断りのない限り「重量部」を意味する。
【0029】
実施例1
エチレン−オクテン共重合体(ダウ・ケミカル(株)製 商品名 エンゲージ8200)80部とC9系芳香族炭化水素樹脂の水素化物(荒川化学工業(株)製 商品名アルコンP100、水素化率90%、ビニルトルエン/インデン比=1.1)20部を約200℃で加熱溶融して混合させた。この溶融混合物を約50mm×20mm×1mmのガラス板およびアルミ板基材上に滴下・圧着させた後、室温まで冷却して凝固させた。基材より突出した余剰部分をカッターで除去して約50mm×20mm×1mmのシートを作製した。
【0030】
実施例2、3
使用するC9系芳香族炭化水素樹脂の水素化物の種類を表1に記載のとおりに代えた他は、実施例1と同様にしてシートを作成した。
【0031】
比較例1
エチレン−オクテン共重合体(ダウ・ケミカル(株)製 商品名 エンゲージ8200)80部とC9系芳香族炭化水素樹脂の水素化物(荒川化学工業(株)製 商品名アルコンM100、水素化率70%、ビニルトルエン/インデン比=1.1)20部を約200℃で加熱溶融して混合させた。この溶融混合物を約50mm×20mm×1mmのガラス板およびアルミ板基材上に圧着させた後、室温まで冷却して凝固させた。基材より突出した余剰部分をカッターで除去して約50mm×20mm×1mmのシートを作製した。
【0032】
比較例2
エチレン−オクテン共重合体(ダウ・ケミカル(株)製 商品名 エンゲージ8200)100部を約200℃で加熱溶融させた。この溶融混合物を約50mm×20mm×1mmのガラス板およびアルミ板基材上に圧着させた後、室温まで冷却して凝固させた。基材より突出した余剰部分をカッターで除去して約50mm×20mm×1mmのシートを作製した。
【0033】
(密着性の評価)
ガラス板およびアルミ上に圧着・作製した膜厚が約1mmのシートの基材との表面密着性を評価した。結果を表1に示す。表1中、「密着性」の項目における「◎」はシートが基材に完全に密着し、指で容易に剥がすことができないことを示し、「×」はシートが基材から指で容易に剥がれることを示す。
【0034】
(透明性の評価)
本発明におけるシートの透明性は目視判定した。判定基準は以下の通りである。結果を表1に示す。
○:透明
△:少し白濁しているが透明
×:かなり白濁
【0035】
(耐熱性の評価)
本発明におけるシートの耐熱性は、180℃にて4時間熱した時の着色性を目視判定した。判定基準は以下の通りである。結果を表1に示す。
○着色なし。△やや着色がみられる。×着色が著しい。
【0036】
(耐光性の評価)
本発明におけるシートの耐光性は、耐光性試験機(キセノンランプ照射、HERAEUS社製、SUNTEST耐光性試験機)に入れ、72時間光照射した。その後試験片の着色程度を目視判定した。判定基準は以下の通りである。○着色無し。△やや着色が見られる。×着色が著しい。結果を表1に示す。
【0037】
【表1】

【0038】
表1中の用語は以下を意味する。
ポリオレフィン:エチレン−オクテン共重合体(ダウ・ケミカル(株)製 商品名 エンゲージ8200)
P100:C9系芳香族炭化水素樹脂の水素化物(荒川化学工業(株)製 商品名アルコンP100 水素化率=90%)
樹脂a:ビニルトルエン58%、インデン9%を含有する重合性C9留分を、三フッ化ホウ素ガスを触媒としてカチオン重合したC9系芳香族炭化水素樹脂の水素化物(荒川化学工業(株)製 水素化率=94%)
樹脂b:ビニルトルエン58%、インデン9%を含有する重合性C9留分を、三フッ化ホウ素ガスを触媒としてカチオン重合したC9系芳香族炭化水素樹脂の水素化物(荒川化学工業(株)製 水素化率=99%)
M100:C9系芳香族炭化水素樹脂の水素化物(荒川化学工業(株)製 商品名アルコンM100 水素化率=70%)


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ポリオレフィン系樹脂、及び、(B)水素化率80%以上のC9系芳香族炭化水素樹脂の水素化物を含む透明な封止材用樹脂組成物。
【請求項2】
前記(B)C9系芳香族炭化水素樹脂の水素化物の軟化点が70〜150℃である請求項1に記載の透明な封止材用樹脂組成物。
【請求項3】
前記(B)C9系芳香族炭化水素樹脂の水素化物の重量平均分子量が800〜3000である請求項1または2に記載の透明な封止材用樹脂組成物。
【請求項4】
前記(B)C9系芳香族炭化水素樹脂の水素化物が、非フェノール系フリーデルクラフツ型触媒を用いて重合されたものを水素化したものである請求項1〜3のいずれかに記載の透明な封止材用樹脂組成物。
【請求項5】
前記(B)C9系芳香族炭化水素樹脂の水素化物が、ビニルトルエンを50重量%以上、インデンを20重量%以下の割合で含有するC9系重合性モノマーの重合物を水素化したものである請求項1〜4のいずれかに記載の透明な封止材用樹脂組成物。
【請求項6】
前記(A)ポリオレフィン系樹脂100重量部に対して、(B)C9系芳香族炭化水素樹脂の水素化物が1〜50重量部である請求項1〜5のいずれかに記載の透明な封止材用樹脂組成物。


【公開番号】特開2012−180465(P2012−180465A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−44708(P2011−44708)
【出願日】平成23年3月2日(2011.3.2)
【出願人】(000168414)荒川化学工業株式会社 (301)
【Fターム(参考)】